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特許7367440高電子移動度トランジスタの製造方法及び高電子移動度トランジスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】高電子移動度トランジスタの製造方法及び高電子移動度トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20231017BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20231017BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20231017BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20231017BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/318 B
H01L21/316 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019183876
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021061298
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】山村 拓嗣
(72)【発明者】
【氏名】西口 賢弥
(72)【発明者】
【氏名】住吉 和英
【審査官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-189213(JP,A)
【文献】特開2010-232452(JP,A)
【文献】特開2015-032628(JP,A)
【文献】特開2014-187084(JP,A)
【文献】特開昭64-089371(JP,A)
【文献】特開2001-168092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/316
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体によって構成されバリア層を含む半導体積層の表面上に、第1SiN膜を、成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第1の温度に設定した状態で減圧CVD法により形成する第1工程と、
前記成膜炉内を真空引きして炉内圧力を1Pa以下とし、且つ前記成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第2の温度に設定した状態で前記成膜炉内の水分および酸素により前記第1SiN膜上に界面酸化層を1nm以下の厚さに形成する第2工程と、
第2SiN膜を、前記成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第3の温度に設定した状態で減圧CVD法により前記界面酸化層上に形成する第3工程と、
を含む、高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、前記成膜炉内を真空引きして炉内圧力を1Pa以下とし、且つ前記成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第2の温度に設定した状態で、少なくとも30秒間継続される、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程及び前記第工程では、シリコン原料としてのジクロロシランガスの流量と、窒素原料としてのアンモニアガスの流量との比率を1:1に設定する、請求項1または請求項2に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記第2の温度及び前記第3の温度を前記第1の温度と等しくする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項5】
窒化物半導体によって構成されバリア層を含む半導体積層と、
前記半導体積層の表面上に設けられた第1SiN膜、及び前記第1SiN膜上に設けられた第2SiN膜を含む表面保護膜とを備え、
前記表面保護膜は、前記第1SiN膜と前記第2SiN膜との間に界面酸化層を更に含み、前記界面酸化層は、5×1021cm-3を超える酸素原子、及び1×1020cm-3を超える塩素原子を含み、1nm以下の厚さを有する、高電子移動度トランジスタ。
【請求項6】
前記第1SiN膜及び前記第2SiN膜は1×1020cm-3を超える塩素原子を含む、請求項5に記載の高電子移動度トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高電子移動度トランジスタの製造方法及び高電子移動度トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置に関する技術が開示されている。この半導体装置は、第1のGaN系半導体層、第2のGaN系半導体層、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、及びパッシベーション膜を備える。第2のGaN系半導体層は、第1のGaN系半導体層上に設けられ、第1のGaN系半導体層より大きいバンドギャップを有する。ソース電極及びドレイン電極は、第2のGaN系半導体層に電気的に接続される。ゲート電極は、ソース電極とドレイン電極の間に設けられる。パッシベーション膜は、ソース電極及びドレイン電極とゲート電極との間の第2のGaN系半導体層上に設けられる。パッシベーション膜は、膜厚が0.2nm以上2nm未満の窒素を含む第1の絶縁膜と、第1の絶縁膜上に設けられ、酸素を含む第2の絶縁膜とを有する。
【0003】
特許文献2には、半導体装置に関する技術が開示されている。この半導体装置は、結晶構造を有する主半導体領域と、主半導体領域に接続された複数の電極と、表面安定化半導体層とを備える。表面安定化半導体層は、主半導体領域と異なる材料から成り、主半導体領域の表面における複数の電極間の少なくとも一部上に配置され、主半導体領域の表面の帯電荷を相殺する機能を有する。表面安定化半導体層は、p型金属酸化物半導体層又はn型金属酸化物半導体層である。
【0004】
特許文献3には、電界効果トランジスタに関する技術が開示されている。この電界効果トランジスタは、半導体基板、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、及び有機半導体膜を備える。半導体基板は、第1の半導体層と、2次元電子ガスを生成するために第1の半導体層に隣接配置された第2の半導体層とを含む。ソース電極及びドレイン電極は、半導体基板の一方の主面上に形成されている。ゲート電極は、半導体基板の一方の主面におけるソース電極とドレイン電極との間に配置されている。有機半導体膜は、p型の導電型を有し、半導体基板の一方の主面のソース電極とドレイン電極との間の少なくとも一部の上に配置されている。
【0005】
特許文献4には、電界効果トランジスタに関する技術が開示されている。この電界効果トランジスタは、ヘテロ接合を含むIII族窒化物半導体層構造と、該半導体層構造上に離間して形成されたソース電極およびドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極の間に配置されたゲート電極とを備える。ゲート電極とドレイン電極との間の領域において、III族窒化物半導体層構造の上部に絶縁膜を介して電界制御電極が形成されている。絶縁膜は、シリコンおよび窒素を構成元素として含む第1の絶縁膜と、第1の絶縁膜よりも低い比誘電率を有する第2の絶縁膜とを含む。
【0006】
非特許文献1には、GaN系半導体を主材料とする高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)に関する技術が開示されている。この文献には、半導体層の表面にSiON膜を設けることにより、表面ポテンシャルを制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-143843号公報
【文献】特開2008-034438号公報
【文献】特開2007-027284号公報
【文献】特開2004-214471号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Shih-Chien Liu et al., “Effective Passivation With High-DensityPositive Fixed Charges for GaN MIS-HEMTs”, Journal of the Electron DevicesSociety, IEEE, Volume 5, No. 3, May 2017
【文献】K. Zhang et al., “Observation of threshold voltage instabilities in AlGaN/GaN MISHEMTs”,Semiconductor Science and Technology, Vol. 29 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
窒化物系半導体を主な構成材料とするHEMTにおいては、高電圧を印加するとドレイン電流が減少する(オン抵抗が大きくなる)という、いわゆる電流コラプスを低減することが課題となっている。すなわち、2次元電子ガス層の電子が高電圧により加速されると、電子がバリア層の界面準位に捕獲され、半導体表面ポテンシャルが上昇する。これにより、2次元電子ガス層の電子が減少する。
【0010】
窒化物半導体層の表面には、保護膜としてSi化合物膜が堆積される。このSi化合物膜に界面準位密度と同等以上の密度の固定正電荷が存在すれば、半導体表面ポテンシャルの上昇は抑制される。例えば、非特許文献2には、SiN/GaNの界面準位密度が1.0×1012cm-2~1.0×1013cm-2程度であることが記載されている。非特許文献1には、2.7×1013cm-2の固定正電荷を膜中に有するSiON膜を表面保護膜として用いることにより、半導体表面ポテンシャルの上昇を抑制し、電流コラプスを低減できることが記載されている。
【0011】
しかしながら、SiON膜やSiO2膜といったSi酸化膜を窒化物半導体層の表面保護膜として用いる場合、次の問題が生じる。通常、表面保護膜には、ゲート電極と窒化物半導体層とを接触させるための開口(ゲート開口)が設けられる。表面保護膜としてSi化合物膜を用いる場合、ゲート開口をドライエッチングにより形成する際のエッチングガスとして、窒化物半導体に対するエッチング選択比が大きいフッ素系ガスが用いられる。しかし、表面保護膜がSiON膜やSiO2膜といったSi酸化膜である場合、SiN膜と比較してエッチングレートが遅い。故に、エッチング時間の長時間化によるコスト増大を招く。更に、オーバーエッチング時間も長くなるので、半導体表面へのダメージが増大する。
【0012】
なお、特許文献2,3に記載されているように、半導体表面ポテンシャルを低減するためにp型半導体層等を追加することも考えられる。或いは、特許文献4に記載されているように、ゲート電極とドレイン電極との間に電界制御電極を追加することも考えられる。しかし、これらの構成では、半導体層及び電極形成のための材料コストが増大する。
【0013】
そこで、本開示は、表面保護膜のエッチングレートの低下を抑制し、材料コストを増大することなく電流コラプスを低減できるHEMTの製造方法及びHEMTを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態に係るHEMTの製造方法は、窒化物半導体によって構成されバリア層を含む半導体積層の表面上に、第1SiN膜を、成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第1の温度に設定した状態で減圧CVD法により形成する第1工程と、成膜炉内を真空引きして炉内圧力を1Pa以下とし、且つ成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第2の温度に設定した状態で成膜炉内の水分および酸素により第1SiN膜上に界面酸化層を形成する第2工程と、第2SiN膜を、成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第3の温度に設定した状態で減圧CVD法により界面酸化層上に形成する第3工程とを含む。
【0015】
一実施形態に係るHEMTは、窒化物半導体によって構成されバリア層を含む半導体積層と、半導体積層の表面上に設けられた第1SiN膜、及び第1SiN膜上に設けられた第2SiN膜を含む表面保護膜とを備え、表面保護膜は、第1SiN膜と第2SiN膜との間に界面酸化層を更に含み、界面酸化層は、5×1021cm-3を超える酸素原子、及び1×1020cm-3を超える塩素原子を含み、1nm以下の厚さを有する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、表面保護膜のエッチングレートの低下を抑制し、材料コストを増大することなく電流コラプスを低減できるHEMTの製造方法及びHEMTを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態に係る製造方法によって製造されるトランジスタ1の一例を示す断面図である。
図2図2の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1の製造方法を説明する図である。
図3図3の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1の製造方法を説明する図である。
図4図4の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1の製造方法を説明する図である。
図5図5は、一実施形態の製造方法により作成されたトランジスタ1の表面付近における、SIMSによる分析結果を示すグラフである。
図6図6は、一実施形態の製造方法により作製されたトランジスタ1のCV特性を測定した結果を示すグラフである。
図7図7は、界面酸化層13を備えないトランジスタのCV特性を測定した結果を示すグラフである。
図8図8の(a)は、一実施形態のトランジスタ1のバンド図である。図8の(b)は、一実施形態においてSiN膜11とAlGaNバリア層5との界面準位に電子が捕獲された場合のバンド図である。
図9図9の(a)は、比較例として、界面酸化層13を備えないトランジスタのバンド図である。図9の(b)は、比較例においてSiN膜11とAlGaNバリア層5との界面準位に電子が捕獲された場合のバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を列記して説明する。一実施形態に係るHEMTの製造方法は、窒化物半導体によって構成されバリア層を含む半導体積層の表面上に、第1SiN膜を、成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第1の温度に設定した状態で減圧CVD法により形成する第1工程と、成膜炉内を真空引きして炉内圧力を1Pa以下とし、且つ成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第2の温度に設定した状態で成膜炉内の水分および酸素により第1SiN膜上に界面酸化層を形成する第2工程と、第2SiN膜を、成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第3の温度に設定した状態で減圧CVD法により界面酸化層上に形成する第3工程とを含む。
【0019】
この製造方法は、半導体積層の表面上に減圧CVD法により第1SiN膜を形成したのち、第2SiN膜を形成する前に、界面酸化層を形成する工程を含む。この工程では、炉内圧力を1Pa以下とし、且つ炉内温度をSiNの成膜温度範囲内に保ちつつ、成膜炉内の水分および酸素により第1SiN膜上に界面酸化層を形成する。なお、このとき形成される界面酸化層は、例えば厚さ1nm以下といった極めて薄い層である。このように、第1SiN膜と第2SiN膜との間に、極めて薄い界面酸化層が設けられる。この界面酸化層は固定正電荷を有し、界面準位を形成する。その結果、半導体表面ポテンシャルを抑制して電流コラプスを低減することができる。また、界面酸化層は極めて薄いので、SiN膜よりもエッチングレートが遅いという欠点は殆ど問題とならない。故に、表面保護膜がSiON膜やSiO2膜といったSi酸化膜である場合と比較して、表面保護膜のエッチングレートの低下を抑制することができる。また、SiN膜の成膜工程を中断するだけで界面酸化層を形成することができるので、材料コストが増大することもない。
【0020】
上記の製造方法において、第2工程は、成膜炉内を真空引きして炉内圧力を1Pa以下とし、且つ成膜炉の炉内温度を700℃以上900℃以下の第2の温度に設定した状態で、少なくとも30秒間継続されてもよい。この場合、界面酸化層を容易に形成することができる。
【0021】
上記の製造方法において、第1工程及び第2工程では、シリコン原料としてのジクロロシランガスの流量と、窒素原料としてのアンモニアガスの流量との比率を1:1に設定してもよい。この場合、良質のSiN膜を形成することができる。
【0022】
上記の製造方法において、第2の温度及び第3の温度を第1の温度と等しくしてもよい。この場合、温度変化に要する時間を省き、第2SiN膜を効率よく形成することができる。
【0023】
一実施形態に係るHEMTは、窒化物半導体によって構成されバリア層を含む半導体積層と、半導体積層の表面上に設けられた第1SiN膜、及び第1SiN膜上に設けられた第2SiN膜を含む表面保護膜とを備え、表面保護膜は、第1SiN膜と第2SiN膜との間に界面酸化層を更に含み、界面酸化層は、5×1021cm-3を超える酸素原子、及び1×1020cm-3を超える塩素原子を含み、1nm以下の厚さを有する。
【0024】
このHEMTは、1nm以下の厚さを有する極めて薄い界面酸化層を第1SiN膜と第2SiN膜との間に備えている。この界面酸化層は固定正電荷を有し、界面準位を形成する。その結果、半導体表面ポテンシャルを抑制して電流コラプスを低減することができる。また、界面酸化層は極めて薄いので、SiN膜よりもエッチングレートが遅いという欠点は殆ど問題とならない。故に、表面保護膜がSiON膜やSiO2膜といったSi酸化膜である場合と比較して、表面保護膜のエッチングレートの低下を抑制することができる。また、SiN膜の成膜工程を中断するだけで界面酸化層を形成することができるので、材料コストが増大することもない。
【0025】
上記のHEMTにおいて、第1SiN膜及び第2SiN膜は1×1020cm-3を超える塩素原子を含んでもよい。減圧CVD法によって第1SiN膜及び第2SiN膜を成膜すると、第1SiN膜及び第2SiN膜は、このような高濃度の塩素原子を含むこととなる。
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のHEMTの製造方法及びHEMTの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
図1は、一実施形態に係る製造方法によって製造されるトランジスタ1の一例を示す断面図である。図1に示されるように、トランジスタ1は、基板3、半導体積層7、表面保護膜10、ソース電極21、ドレイン電極22、及びゲート電極23を備える。半導体積層7は、基板3側から順に、チャネル層4及びバリア層5を含む。トランジスタ1はHEMTであり、チャネル層4とバリア層5との界面に2次元電子ガス(2 Dimensional Electron Gas:2DEG)が生じることにより、チャネル層4内にチャネル領域が形成される。
【0028】
基板3は、結晶成長用の基板である。基板3として、例えばSiC基板、GaN基板、又はサファイア(Al)基板が挙げられる。本実施形態では、基板3はSiC基板である。チャネル層4は、基板3上にエピタキシャル成長した層であり、上述した2次元電子ガスが生じ、ドレイン電流が流れるチャネル領域を有する。チャネル層4は、窒化物半導体で構成され、例えばGaN層である。チャネル層4の厚さは、例えば400nm以上2000nm以下である。
【0029】
バリア層5は、チャネル層4上にエピタキシャル成長した層である。バリア層5は、チャネル層4よりも電子親和力が大きい窒化物半導体で構成され、例えばAlGaN層、InAlN層、およびInAlGaN層を含む。バリア層5には不純物が含まれてもよい。本実施形態では、バリア層5は、n型のAlGaN層である。バリア層5の厚さは、例えば5nm以上30nm以下である。
【0030】
なお、基板3とチャネル層4との間に、図示しないバッファ層が設けられてもよい。バッファ層は、チャネル層4及びバリア層5を異種基板である基板3上にエピタキシャル成長するための緩衝層である。バッファ層は、窒化物半導体で構成され、例えばAlN層である。バッファ層の厚さは、例えば10nm以上100nm以下である。また、図示しないキャップ層がバリア層5上に設けられてもよい。キャップ層は、バリア層5上にエピタキシャル成長した層である。キャップ層は、窒化物半導体で構成され、例えばGaN層である。キャップ層も不純物を含んでもよい。本実施形態では、キャップ層は、n型GaN層からなる。キャップ層の厚さの下限値は、例えば1.5nmである。キャップ層の厚さの上限値は、例えば5.0nmである。
【0031】
表面保護膜10は、半導体積層7の表面上(本実施形態ではバリア層5上)に設けられた絶縁性の膜である。表面保護膜10は、SiN膜11(第1SiN膜)、SiN膜12(第2SiN膜)、及び界面酸化層13を含む。SiN膜11は、半導体積層7の表面上に設けられた窒化シリコン(SiN)からなる膜であり、半導体積層7の表面に接している。後述するように、SiN膜11は減圧CVD(Low Pressure ChemicalVapor Deposition;LPCVD)法によって形成される。減圧CVD法では成膜温度が高温のため、例えばプラズマCVD法により形成される場合と比較して、SiN膜11の膜質は緻密である。SiN膜11の厚さの下限値は例えば10nmであり、上限値は例えば100nmである。なお、LPCVD法によって形成されるSiN膜11は、1×1020cm-3を超える塩素原子を含む。
【0032】
SiN膜12は、SiN膜11上に設けられたSiNからなる膜である。SiN膜11と同様、SiN膜12もまたLPCVD法によって形成される。従って、SiN膜12の膜質もまた、SiN膜11と同様に緻密である。SiN膜12の厚さの下限値は例えば10nmであり、上限値は例えば100nmである。一例では、SiN膜12は、SiN膜11の膜厚と同じ大きさの膜厚を有する。なお、LPCVD法によって形成されるSiN膜12は、1×1020cm-3を超える塩素原子を含む。
【0033】
界面酸化層13は、SiN膜11とSiN膜12との間に位置する、極めて薄い層である。界面酸化層13は、5×1021cm-3を超える酸素原子、及び1×1020cm-3を超える塩素原子を含む。界面酸化層13は、原子数個分の厚さしかない、例えば1nm以下の厚さの層である。後述するように、界面酸化層13は、SiN膜11の成膜が完了したのちSiN膜12の成膜を開始するまでの間に、真空引きを行うことによって成膜炉内に放出されたデガスに含まれる水分及び酸素がSiN膜11の表面を酸化させることによって形成される。すなわち、界面酸化層13はSiONを含む。
【0034】
なお、本実施形態において、酸素原子及び塩素原子の密度の測定方法は、二次イオン質量分析法である。
【0035】
表面保護膜10は、ゲート開口10a、ソース開口10b、及びドレイン開口10cを有する。ゲート開口10aは、ソース開口10bとドレイン開口10cとの間に位置する。ゲート開口10a、ソース開口10b、及びドレイン開口10c内では、半導体積層7の表面が露出している。
【0036】
ソース電極21は、ソース開口10bを塞ぎ、かつ、半導体積層7上にも設けられ、ソース開口10bを介してバリア層5と接している。ドレイン電極22は、ドレイン開口10cを塞ぎ、かつ、半導体積層7上にも設けられ、ドレイン開口10cを介してバリア層5と接している。ソース電極21及びドレイン電極22は、オーミック電極であり、例えばチタン(Ti)層とアルミニウム(Al)層との積層構造を合金化して形成されたものである。ソース電極21及びドレイン電極22は、Al層の上に他のTi層をさらに積層化した上で合金化されてもよい。
【0037】
ゲート電極23は、ソース電極21とドレイン電極22との間の半導体積層7上の領域に設けられ、SiN膜12の表面に接し、またゲート開口10aを介して半導体積層7のキャップ層(またはバリア層5)に接している。具体的には、ゲート電極23は、ゲート開口10aを埋め込んでおり、ゲート開口10a内の半導体積層7と、ゲート開口10aの側壁とに接している。ゲート電極23は半導体積層7とショットキ接触する材料を含み、例えばニッケル(Ni)層と金(Au)層との積層構造を有する。この場合、Ni層が半導体積層7にショットキ接触する。なお、半導体積層7とショットキ接触できる材料としては、Niの他にPt(白金)等が挙げられる。Ni層の厚さは例えば200nmであり、Au層の厚さは例えば700nmである。
【0038】
ここで、図2図4を参照しながら本実施形態に係るトランジスタ1の製造方法を説明する。図2図4それぞれの(a)及び(b)は、本実施形態に係るトランジスタ1の製造方法を説明する図である。
【0039】
まず、図2の(a)に示されるように、チャネル層4及びバリア層5を含む半導体積層7を基板3上に形成する。例えば、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)を用いて、チャネル層4として機能するGaN層、及びバリア層5として機能するAlGaN層を、SiC基板上に順に成長する。なお、チャネル層4を成長する前に、バッファ層として機能するAlN層を成長してもよい。また、バリア層5を成長した後に、キャップ層として機能するGaN層を更に成長してもよい。
【0040】
次に、SiN膜11,12を成膜するための成膜炉の炉内温度を所定温度に昇温する。この所定温度は、SiN膜11,12を成膜する温度よりも低く、例えば500℃以下である。500℃以下とすることにより、減圧時にGaNの平衡蒸気圧を下回ることを防ぎ、GaNの分解を抑制できる。そして、半導体積層7が形成された基板3を搬送装置にセットし、図2の(b)に示されるように、当該基板3を大気雰囲気中にて成膜炉D内に搬送する。
【0041】
続いて、成膜炉Dのリークチェックを行う。具体的には、成膜炉Dの炉内温度を、SiN膜11を成膜する際の炉内設定温度(第1の温度)よりも低い温度に設定する。その状態で、炉内圧力が1Pa以下となるように成膜炉D内の真空引きを行う。そして、排気を停止し、成膜炉D内の気密状態を維持する。その状態で、所定時間のリークチェックを実施する。成膜炉D内の気密状態を維持すると、成膜炉D内に生じるデガスによって、炉内圧力が僅かに上昇する。このリークチェックでは、成膜炉Dの炉内において例えば0.1sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)以上のデガス流量に相当する圧力上昇を確認する。なお、炉内圧力の上昇度合いは、成膜炉Dの容積によって変化する。デガス流量は、例えば時間当たりの炉内圧力の上昇と成膜炉Dの容積とに基づいて見積もることができる。リークチェック時間は、例えば30秒以上300秒以下であり、一例では90秒である。リークチェック後、成膜炉D内を再び真空引きして炉内圧力を1Pa以下とし、その後、成膜炉D内に窒素ガスを供給して炉内圧力を例えば100kPaとする。
【0042】
続いて、図3の(a)に示されるように、成膜炉D内において、半導体積層7の表面を覆うSiN膜11を成膜する。この工程では、シリコン原料としてのジクロロシランガス、及び窒素原料としてのアンモニアガスを用いたLPCVD法により、SiN膜11を半導体積層7上に堆積する。具体的には、まず、成膜炉Dの炉内温度を、例えば700℃以上900℃以下の第1の温度に設定する。これは、プラズマCVD法における成膜温度よりも極めて高い温度である。但し、この温度は、半導体積層7の成長温度と同等か、それよりも低い。一例では、10分以上の時間をかけて第1の温度まで昇温させる。一実施例では、第1の温度は800℃である。炉内温度が安定した後、成膜炉D内の真空引きを行って炉内圧力を1Pa以下とする。その後、成膜炉D内にアンモニアを供給して、炉内圧力を所定の圧力にする。所定の圧力は、例えば5Pa以上50Pa以下であり、一実施例では20Paである。その後、ジクロロシランガスの供給を開始して、SiN膜11を成膜する。ジクロロシランガスの流量と、アンモニアガスの流量との比率は、例えば1:1に設定される。SiN膜11の厚さが目標値(例えば10nm)に達した時点でジクロロシラン及びアンモニアの供給を止め、SiN膜11の成膜を停止する。SiN膜11の成膜に要する時間は例えば数分である。
【0043】
続いて、成膜炉D内を真空引きして炉内圧力を1Pa以下とする。また、成膜炉Dの炉内温度を700℃以上900℃以下の第2の温度に設定する。その状態で、少なくとも30秒間、SiN膜11の表面を成膜炉D内に晒す。このとき、成膜炉Dの炉壁Da等に残留している水分及び酸素がデガスとして炉内に放出され、SiN膜11の表面を酸化させる。また、前述したリークチェック時にデガスとして放出された水分及び酸素もまた、SiN膜11の表面を酸化させる。このようにして、成膜炉D内の水分および酸素によりSiN膜11上に界面酸化層13が形成される。なお、このとき形成される界面酸化層13は、例えば厚さ1nm以下といった極めて薄い層である。SiN膜11の表面を成膜炉D内に晒す際の炉内設定温度(第2の温度)は、SiN膜11を成膜する際の炉内設定温度(第1の温度)と等しくてもよく、異なってもよい。
【0044】
成膜炉Dの炉壁Daの表面の構成材料は、SiO2などの無機酸化物を含んでもよい。この場合、上記工程において真空引きした際に、炉壁Daの表面から水分及び酸素がデガスとして放出され易くなる。故に、十分な厚さの界面酸化層13を容易に形成することができる。
【0045】
続いて、図3の(b)に示されるように、成膜炉D内において、SiN膜11上(正確には界面酸化層13上)に、SiN膜12を成膜する。この工程では、SiN膜11と同様、ジクロロシランガス及びアンモニアガスを原料とするLPCVD法により、SiN膜12をSiN膜11上に堆積する。具体的には、まず、成膜炉Dの炉内温度を、例えば700℃以上900℃以下の第3の温度に設定する。これは、プラズマCVD法における成膜温度よりも極めて高い温度である。但し、この温度は、半導体積層7の成長温度と同等か、それよりも低い。一例では、10分以上の時間をかけて第3の温度まで昇温させる。一実施例では、第3の温度は800℃である。SiN膜12を成膜する際の炉内設定温度(第3の温度)は、SiN膜11を成膜する際の炉内設定温度(第1の温度)、及びSiN膜11の表面を成膜炉D内に晒す際の炉内設定温度(第2の温度)の一方または双方と等しくてもよく、何れとも異なってもよい。炉内温度が安定した後、成膜炉D内の真空引きを行って炉内圧力を1Pa以下とする。その後、成膜炉D内にアンモニアを供給して、炉内圧力を所定の圧力にする。所定の圧力は、例えば5Pa以上50Pa以下であり、一実施例では20Paである。その後、ジクロロシランガスの供給を開始して、SiN膜12を成膜する。ジクロロシランガスの流量と、アンモニアガスの流量との比率は、例えば1:1に設定される。SiN膜12の厚さが目標値(例えば10nm)に達した時点でジクロロシラン及びアンモニアの供給を止め、SiN膜12の成膜を停止する。SiN膜12の成膜に要する時間は例えば数分である。SiN膜12の成膜時間は、例えばSiN膜11の成膜時間と等しくてもよい。その場合、SiN膜11の膜厚と、SiN膜12の膜厚とが互いに等しくなる。
【0046】
続いて、成膜炉Dの炉内温度を所定温度(例えば500℃)まで降温する。そして、成膜の際に生じた成膜炉D内の塩素ガスを追い出すため、窒素によるサイクルパージを実施する。塩素ガスを希釈限界(例えば2ppm)まで希釈できたら、基板3を成膜炉Dから取り出す。塩素ガスの濃度は、例えばガス検知器によって測定され得る。
【0047】
続いて、図4の(a)に示されるように、表面保護膜10の一部を選択的にエッチングし、ソース開口10b及びドレイン開口10cを形成する。例えば、レジストマスクを介する選択的なドライエッチングにより、表面保護膜10にソース開口10b及びドレイン開口10cを形成する。その後、図4の(b)に示されるように、ソース開口10b内にソース電極21を形成し、ドレイン開口10c内にドレイン電極22を形成する。この工程では、ソース電極21及びドレイン電極22を、例えば真空蒸着及びリフトオフにより形成する。その後、これらをオーミック電極とするための熱処理による合金化を行う。
【0048】
続いて、表面保護膜10に対し選択的にドライエッチングを施すことにより、表面保護膜10にゲート開口10aを形成して半導体積層7を露出させる。ドライエッチングは、例えば反応性イオンエッチング(ReactiveIon Etching;RIE)である。エッチングガスとしては、例えばフッ素系ガスが用いられる。フッ素系ガスとしては、例えば、SF6,CF4,CHF3,C36,及びC26からなる群から1つ以上が選択される。RIE装置は、誘導結合型(InductiveCoupled Plasma;ICP)のものであってもよい。フッ素系ガス(SF6)を用いる場合のエッチング条件としては、反応圧力を2~3Paの範囲内(一実施例では2Pa)に、RFパワー(ICPパワー)を50~300Wの範囲内(一実施例では100W)に、Biasパワーを5~50Wの範囲内(一実施例では10W)にそれぞれ設定する。
【0049】
続いて、ゲート開口10a内、及びゲート開口10aの周縁部におけるSiN膜12の表面上に、ゲート電極23をリフトオフにより形成する。この工程では、ゲート金属としてニッケル(Ni)、金(Au)の多層膜を、半導体積層7及びSiN膜12上に、例えば抵抗加熱式の真空蒸着法により堆積する。以上の工程を経て、図1に示された本実施形態のトランジスタ1が作製される。
【0050】
以上に説明した本実施形態によるトランジスタ1の製造方法及びトランジスタ1によって得られる効果について説明する。本実施形態の製造方法では、半導体積層7の表面上に減圧CVD法によりSiN膜11を形成したのち、SiN膜12を形成する前に、界面酸化層13を形成する工程(図3の(a))を含む。この工程では、前述した条件下においてSiN膜11の表面を成膜炉D内に晒すことにより、成膜炉Dの炉壁Da等に残留している水分及び酸素がデガスとして炉内に放出され、SiN膜11の表面を酸化させて、極めて薄い界面酸化層13が形成される。このように、SiN膜11とSiN膜12との間に、成膜炉D内の水分および酸素による極めて薄い界面酸化層13が設けられる。この界面酸化層13は固定正電荷を有し、界面準位を形成する。その結果、半導体表面ポテンシャルを抑制して電流コラプスを低減することができる。
【0051】
また、界面酸化層13は極めて薄いので、フッ素系ガスを用いたドライエッチングにおいてSiN膜よりもエッチングレートが遅いという欠点は殆ど問題とならない。例えば、SF6を用いたドライエッチングにおけるSiNとSiO2との選択比は、1:4程度である。SiN膜11,12の総膜厚を20nmとし、界面酸化層13の厚さを0.5nmとすると、界面酸化層13の存在によるエッチング時間増は10%程度である。ドライエッチングではエッチング残渣防止のため、数十%のオーバーエッチング時間を確保することが一般的であり、界面酸化層13の存在によるエッチング時間増は、一般的なオーバーエッチング時間で対応可能な範囲である。このように、本実施形態によれば、表面保護膜がSiON膜やSiO2膜といったSi酸化膜である場合と比較して、表面保護膜のエッチングレートの低下を抑制することができ、ゲート開口10aを形成する際に特別な工夫を不要にすることができる。
【0052】
また、本実施形態の界面酸化層13は、SiN膜の成膜工程を中断するだけで形成することができる。従って、材料コストが増大する懸念もない。
【0053】
ここで、図5は、本実施形態の製造方法により作成されたトランジスタ1の表面付近における、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)による分析結果を示すグラフである。同図において、横軸は深さ方向位置(単位:nm)を表し、左の縦軸は酸素原子(O),塩素原子(Cl)の各濃度(単位:atoms/cc)を表す。また、グラフG11はCl濃度、グラフG12はO濃度をそれぞれ示す。なお、図中の範囲A1は半導体積層7、範囲A2はSiN膜11、範囲A3はSiN膜12にそれぞれ相当する。
【0054】
図5を参照すると、SiN膜11とSiN膜12との界面において、O濃度が有意に上昇し、ピークを形成していることがわかる。Oのピーク濃度は1×1022atom/cm程度である。このことは、SiN膜11とSiN膜12との間に界面酸化層13が形成されていることを意味する。また、このピークの頂部に平坦な部分が存在しないので、界面酸化層13の厚さは1nm以下と推測される。
【0055】
図6は、本実施形態の製造方法により作製されたトランジスタ1の容量-電圧(CV)特性を測定した結果を示すグラフである。同図において、縦軸は容量C(単位:nF/cm)を表し、横軸はゲート電圧VG(単位:V)を表す。なお、この測定では、円形のゲート電極(アノード)の回りに円環状の電極(カソード)を設けてCV特性の評価を行った。半導体積層7、SiN膜11,12の構成は本実施形態と同様である。なお、図中において、グラフG21は、SiN膜11,12中の電荷及び界面準位密度がゼロであると仮定した理想曲線を示す。グラフG22~G26は、それぞれ、印加電圧の周波数を100Hz、1kHz、10kHz、100kHz、及び1MHzとした場合を示す。
【0056】
図6に示されるように、負の大きなゲート電圧の範囲では、ゲート電極側のフェルミ準位EFが十分に上昇し、チャネル内の2DEGを全て吐き出すので容量Cはほぼゼロとなる。ゲート電圧が-12V付近になるとチャネル内に2DEGが順次蓄積し、この電荷が容量Cに寄与する。但し、ゲート電圧が-10Vから+5Vの範囲では、SiN膜11,12を絶縁体とするMIM(金属/絶縁体/金属)構造による容量が支配的となるので、容量Cは殆ど変化せず一定となる。ゲート電圧が+5Vを超える範囲では、寿命の長い(例えば数マイクロ秒以上)SiN膜11,12間の界面準位がフェルミ準位EFよりも上に現れ、この電荷が容量Cに寄与するので、容量Cは周波数依存性を有することとなる。
【0057】
この図6を参照すると、理想曲線(グラフG21)と比較して、本実施形態のトランジスタ1では、閾値電圧Vthが負方向にシフトしていることがわかる。この測定結果におけるシフト量は、1.7×1013cm-2の固定正電荷密度に相当する。故に、電流コラプスを抑制する効果を期待できる。
【0058】
比較例として、図7は、界面酸化層13を備えない(すなわち、SiN膜の成膜中断を行っていない)トランジスタのCV特性を測定した結果を示すグラフである。同図において、縦軸及び横軸の定義は図6と同様である。また、グラフG21は理想曲線であり、グラフG32~G36は、それぞれ、印加電圧の周波数を100Hz、1kHz、10kHz、100kHz、及び1MHzとした場合を示す。図7を参照すると、理想曲線(グラフG21)と比較して、閾値電圧Vthが正方向にシフトしていることがわかる。故に、電流コラプスを抑制する効果は期待できない。
【0059】
図8の(a)は、本実施形態のトランジスタ1のバンド図である。図9の(a)は、比較例として、界面酸化層13を備えない(すなわち、SiN膜の成膜中断を行っていない)トランジスタのバンド図である。図中、範囲A4はチャネル層4、範囲A5はバリア層5、範囲A6は表面保護膜10にそれぞれ相当する。なお、チャネル層4としてGaN層を、バリア層5としてAlGaN層をそれぞれ想定しており、2DEGをハッチングにより示している。これらの図を参照すると、界面酸化層13を備える場合(図8の(a))には、界面酸化層13を備えない場合(図9の(a))と比較して、SiN膜11とAlGaNバリア層5との界面のポテンシャルが低くなる。
【0060】
図8の(b)及び図9の(b)は、本実施形態及び比較例のそれぞれにおいてSiN膜11とAlGaNバリア層5との界面準位に電子が捕獲された場合のバンド図である。なお、これらの図において、電子の捕獲前のバンド図(図8の(a)及び図9の(a))を破線で示している。図9の(b)に示す比較例では、界面準位による電子の捕獲の影響によって、SiN膜11とAlGaNバリア層5との界面のポテンシャルが上昇するとともに(図中のB1)、AlGaNバリア層5とGaNチャネル層4との界面のポテンシャルも上昇する(図中のB2)。これにより、2DEGの電子が減少する。一方、図8の(b)に示す本実施形態では、界面準位による電子の捕獲の影響によってSiN膜11とAlGaNバリア層5との界面のポテンシャルが上昇しても(図中のB3)、固定正電荷によるポテンシャル低下がその影響を緩和する。よって、AlGaNバリア層5とGaNチャネル層4との界面のポテンシャルへの影響は小さくなり(図中のB4)、2DEGの電子の減少が抑制される。
【0061】
本実施形態のように、5×1021cm-3を超える酸素原子を界面酸化層13が含んでもよい。このような濃度の酸素原子が界面酸化層13に存在する場合、8.5×1012cm-2よりも大きい固定正電荷を期待できる。この固定正電荷は、前述した、非特許文献2に記載されたSiN/GaNの界面準位密度(1.0×1012cm-2から1.0×1013cm-2程度)と同等以上なので、コラプス抑制効果を十分に期待できる。
【0062】
本実施形態のように、界面酸化層13を形成する工程は、成膜炉D内を真空引きして炉内圧力を1Pa以下とし、且つ成膜炉Dの炉内温度を700℃以上900℃以下の第2の温度に設定した状態で、少なくとも30秒間継続されてもよい。この場合、界面酸化層13を容易に形成することができる。
【0063】
本実施形態のように、SiN膜11を成膜する工程の前に、成膜炉Dの炉内温度をSiN膜11を成膜する際の炉内設定温度(第1の温度)よりも低い温度に設定した状態で炉内圧力が1Pa以下となるように真空引きした後に、成膜炉D内を気密にし、成膜炉Dの炉内において0.1sccm以上の流量に相当する圧力上昇を確認する工程(リークチェック工程)を行ってもよい。これにより、界面酸化層13を形成する工程においてデガスとしての水分及び酸素をSiN膜11の表面上に十分に供給できることを確認し、歩留まりを高めることができる。
【0064】
本実施形態のように、SiN膜11を成膜する工程、及びSiN膜12を成膜する工程では、シリコン原料としてのジクロロシランガスの流量と、窒素原料としてのアンモニアガスの流量との比率を1:1に設定してもよい。この場合、良質のSiN膜を形成することができる。
【0065】
本実施形態のように、界面酸化層13を形成する際の炉内設定温度(第2の温度)、及びSiN膜12を成膜する際の炉内設定温度(第3の温度)を、SiN膜11を成膜する際の炉内設定温度(第1の温度)と等しくしてもよい。この場合、温度変化に要する時間を省き、SiN膜12を効率よく形成することができる。
【0066】
本実施形態のように、SiN膜11の成膜時間とSiN膜12の成膜時間とを互いに等しくしてもよい。この場合、SiN膜11の厚さとSiN膜12の厚さとを互いに等しくして、表面保護膜10の厚さ方向における中間部分に界面酸化層13を形成することができる。
【0067】
本実施形態のように、SiN膜11,12は1×1020cm-3を超える塩素原子を含んでもよい。減圧CVD法によってSiN膜11,12を成膜すると、SiN膜11,12は、このような高濃度の塩素原子を含むこととなる。減圧CVD法によってSiN膜11,12を成膜することにより、元素組成比の制御が比較的容易となる。
【0068】
本開示によるHEMTの製造方法及びHEMTは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではSiN膜11の成膜時間とSiN膜12の成膜時間とを互いに等しくして、SiN膜11,12を互いに同じ厚さとしているが、SiN膜11,12の厚さは互いに異なってもよい。特に、SiN膜12をSiN膜11よりも厚くすれば、界面酸化層13と半導体積層7との距離を短くしつつ表面保護膜10の表面が半導体積層7から遠ざかるので、固定正電荷による効果をより安定して得ることができる。
【符号の説明】
【0069】
1…トランジスタ、3…基板、4…チャネル層、5…バリア層、7…半導体積層、10…表面保護膜、10a…ゲート開口、10b…ソース開口、10c…ドレイン開口、11,12…SiN膜、13…界面酸化層、21…ソース電極、22…ドレイン電極、23…ゲート電極、D…成膜炉、Da…炉壁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9