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特許7367450仮想陰極発振管及び該仮想陰極発振管を用いた電磁波発生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】仮想陰極発振管及び該仮想陰極発振管を用いた電磁波発生方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 25/68 20060101AFI20231017BHJP
   H01J 23/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01J25/68
H01J23/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019189439
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021064573
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】服部 渉
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0084606(US,A1)
【文献】特表2005-505112(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00666681(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/00-25/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波管の周縁部にて互いに向き合うように配置された複数の陰極と、
前記導波管内の陰極の間にて該陰極と間隔をおいて対向配置された複数の陽極端子を有する陽極と、
前記陽極の陽極端子と電気的に接続されたリフレクタと、を具備しており、
前記リフレクタは、前記陽極端子の間に設置されたことを特徴とする仮想陰極発振管。
【請求項2】
前記陰極は、前記導波管が円筒状である場合に、該導波管の周縁部にて半径方向に沿う方向で互いに向き合うように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の仮想陰極発振管。
【請求項3】
前記陽極と反対側に位置する前記導波管の端部のいずれかには、発生した電磁波を外部に出力するための出力窓が形成されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の仮想陰極発振管。
【請求項4】
前記陽極の陽極端子及び前記リフレクタを略等長に接続していることを特徴とする請求項1に記載の仮想陰極発振管。
【請求項5】
前記陽極の陽極端子と、該陽極の陽極端子と電気的に接続されたリフレクタとは、分岐部を介して2のN乗(Nは整数)となる数の階層構造に設けられることを特徴とする請求項4に記載の仮想陰極発振管。
【請求項6】
前記陽極及びリフレクタはメッシュ構造に形成されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の仮想陰極発振管。
【請求項7】
前記陽極とリフレクタを構成する導体は、鉄より原子番号の小さい元素の導電材料からなることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の仮想陰極発振管。
【請求項8】
前記陽極とリフレクタを構成する導体の構成元素の原子番号は4、5、6又はそれら原子番号の元素を含む材料からなることを特徴とする請求項7に記載の仮想陰極発振管。
【請求項9】
真空状態が維持された導波管の周縁部に複数の陰極を互いに向き合うように配置した上で、該導波管内の陰極の間にて、該陰極と間隔をおいて複数の陽極端子と該陽極端子に導通されたリフレクタとを対向配置した仮想陰極発振管を用い、この状態で、前記陽極端子及びリフレクタ間に位置する間隙部に、当該間隙部の長さ方向に沿うように仮想陰極を形成することを特徴とする電磁波発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波の出力効率を高めることが可能な仮想陰極発振管及び該仮想陰極発振管を用いた電磁波発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波を出力する発振装置として、マグネトロンの他、仮想陰極発振管と呼ばれる電子管が知られている。
例えば、仮想陰極発振管に関する技術として特許文献1~3に示される技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に示されるマイクロ波発生装置では、負電位をもつ内部導体を内部に有する高電圧大電流パルス発生装置、同パルス発生装置の先端の開口部に設けられた薄膜金属陽極、及び該開口部に接続された導波管等を備えた構成が採用されている。
パルス発生装置の内部導体の先端には、導波管内に入射しかつ導波管内部での集積により仮想陰極を形成するための電子ビームを発生させる球状陰極が設けられている。また、薄膜金属陽極面には導波管内部より球状陰極に向けて電子が戻ることを阻止するための反射防止板が設けられている。
【0004】
特許文献2に示される仮想陰極マイクロ波発生器では、マイクロ波出力回路内に電子を生成する能力を持った複数の陰極を有する放射器が設けられている。そして、この放射器の陰極の各々から放射された電子ビームは、チャンバー内に仮想陰極を形成するための十分な電子密度を有しており、当該仮想陰極にて電子の運動エネルギーを共振モードでマイクロ波エネルギーに変換する。
【0005】
特許文献3に示されるマイクロ波発生装置では、真空に保たれた導波管内に空間電荷制限電流を越える電子ビームを入射するための陰極が設けられている。そして、陰極から放射された電子ビームは、導波管の端内に設置された薄厚の陽極と、該導波管内にて陽極と間隔をおいて設置された複数のリフレクタとの間に、マイクロ波となる電磁波を発生させる仮想陰極発振器を複数形成する。
そして、このような特許文献3に示されるリフレクタ型のマイクロ波発生装置では、仮想陰極の形成される領域で捕捉されなかった電子を、さらにリフレクタで加速しかつ該リフレクタのメッシュを透過させて、次の仮想陰極を形成する。そして、このようなマイクロ波発生装置では、リフレクタでの加速、及び加速後の仮想陰極形成を繰り返すことによって、電子を有効に利用して、電磁波の出力効率を上げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平05-266810号公報
【文献】特表2005-505112号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0032922号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Walterx, J. Dickens, M. Kristiansen, “An “energy efficient” vircator-based HPM system,” Proceedings of 2011 IEEE Pulsed Power Conference (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した電磁波を出力する発振装置では、特許文献1~3に示されるような仮想陰極発振管に関する研究が進められているが、マグネトロン等の電子管の効率(電子管に入力した電力に対する出力電磁波の電力の比)として一般的に言及されている、40~70%には達しておらず、さらなる高効率化が望まれていた。
また、非特許文献1には反射三極管型の仮想陰極発振管の効率について記載されているが、未だ十分な水準に達していない。
【0009】
一方、特許文献3に示されるリフレクタ型のマイクロ波発生装置では、リフレクタでの加速、及び加速後の仮想陰極形成を繰り返すことで、電子を有効に利用し、電磁波の出力効率を上げているものの、その効率が十分に上がったとは言えず、この点で改良されることが期待されていた。
【0010】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、電磁波の出力効率をより高めることが可能な仮想陰極発振管及び該仮想陰極発振管を用いた電磁波発生方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の仮想陰極発振管では、主として、真空状態が維持された導波管の周縁部にて互いに向き合うように配置されかつ該導波管内に複数の陰極と、前記導波管内の陰極の間にて該陰極と間隔をおいて対向配置された複数の陽極端子を有する陽極と、前記陽極の陽極端子と電気的に接続され、陽極端子の間に設置されたリフレクタと、を具備していることを特徴とする。
【0012】
本発明では、陰極、陽極電極及びリフレクタ間に形成された複数の仮想陰極にて、滞留及び閉じ込めた電子ビームの相乗作用により、高出力の電磁波を効率良く発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の仮想陰極発振管の概略構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態の仮想陰極発振管を示す概略構成図である。
図3】基本形となる仮想陰極発振管を示す概略構成図である。
図4】反射三極管型の仮想陰極発振管を示す概略構成図である。
図5】リフレクタ型の仮想陰極発振管を示す概略構成図である。
図6】本発明の第2実施形態の仮想陰極発振管を示す概略構成図である。
図7】本発明の第3実施形態の仮想陰極発振管を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る仮想陰極発振管Aの基本構成について、図1を参照して説明する。この仮想陰極発振管Aは、導波管1、陰極2、陽極3及びリフレクタ4を主な構成要素とする。
【0015】
導波管1は発振管の筐体(例えば、円筒状)であって、内部が真空に維持されている。
陰極2は真空状態が維持された導波管1の周縁部にて互いに向き合うように複数配置されたものであり(本例では2つの陰極を配置)、導波管1の陽極3内に電子ビームを入射する。
陽極3は導波管1内の陰極2の間にて該陰極2と間隔をおいて対向配置された複数の陽極端子3A(本例では2つの陽極端子に分岐)を有している。
リフレクタ4は陽極端子3A間にて該陽極端子3Aと平行に位置し、かつ該陽極端子3Aと電気的に接続されたものであって、導波管1内に入射された電子を加速する役割がある。
【0016】
複数の陽極3の陽極端子3A及びリフレクタ4の各間で、かつ間隙の長さ方向に沿う空間には、複数の陰極2から入射された電子を導波管1内に滞留させて電子を振動させ、この電子振動により電磁波Eを発生させる複数の仮想陰極Vが形成される。また、仮想陰極Vで発生した電磁波Eは導波管1に設けられた出力窓5から外部に出力される。
【0017】
そして、以上のように構成された仮想陰極発振管Aによれば、導波管1の周縁部にて互いに向き合うように配置された複数の陰極2の間に、陽極3の陽極端子3Aと電気的に接続されたリフレクタ4を対向配置した。
さらに、これら陽極3の陽極端子3A及びリフレクタ4の各間にて、陰極2から導波管1内に入射された電子を滞留して該電子を振動させ、この電子振動により電磁波Eを発生させる複数の仮想陰極Vを形成するようにした。
これにより、本発明の仮想陰極発振管Aでは、陽極3の陽極端子3A及びリフレクタ4の各間の複数の仮想陰極Vにて滞留及び閉じ込めた電子ビームの相乗作用により、高出力の電磁波Eを効率良く発生させることが可能となる。
【0018】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態に係る仮想陰極発振管100(図2参照)について説明する。
まず、本発明に到るまでの関連技術の検討として、仮想陰極発振管10(図3参照)、反射三極管型の仮想陰極発振管20(図4参照)、リフレクタ型の仮想陰極発振管30(図5参照)について、図3図5を参照して順次説明する。
【0019】
図3に示される基本形の仮想陰極発振管10では、真空状態が維持されかつ接地された筐体11の内部空間11Aに、筐体11の図中左端に配置された陰極12と、電子が透過できる導体、典型的には金属材料からなるメッシュ又は薄い金属膜で形成された陽極13とが対向設置される。
本図では、メッシュで形成された陽極13(以下、メッシュ陽極13という)を一例として記載した。このようなメッシュ陽極13では、形成するメッシュの開口率は強度等との兼ね合いもあり、典型的に60%程度の開口値とすることが多い。その対向したメッシュ陽極13の図中右側には仮想陰極発振管10で発生した電磁波を取り出すための出力窓14が設けられる。
【0020】
図3の構成を有する基本形の仮想陰極発振管10の動作について説明する。
高電圧パルス電源(不図示)から負の高電圧パルスを陰極12に印加すると、接地されている筐体11と電気的に接続されたメッシュ陽極13に向けて、陰極12から電子ビームが照射され、メッシュ陽極13に向かって加速される。この電子ビームの一部はメッシュ陽極13を形成するメッシュに衝突することなく、メッシュ陽極13を透過する。
このメッシュ陽極13を透過した電子ビームはメッシュ陽極13に向かう静電力を受けるため、減速し、ついには反転して再度メッシュ陽極13に向かって加速される。この反転を伴う挙動の際に、電子ビームを形成する電子の速度が0となり、電子が滞留する領域が現れる。この領域に形成される電子の滞留は仮想陰極VAと呼ばれ、あたかも陰極12がそこに存在するかのように、電子ビームの供給源として動作する。
【0021】
このようにして、電子ビームは陰極12と仮想陰極VAとの間をメッシュ陽極13によって加速されながら往復運動、すなわち振動することとなる。電子は負の電荷をもった荷電粒子であるため、振動する加速度運動をすると、電磁波を放出する。そして、仮想陰極発振管10ではこの電磁波を出力窓14から取り出すことにより、電磁波を発生することになる。なお、その他の電磁波発生の要因として、仮想陰極自身の振動も挙げられるが、本発明には直接関係しないため、説明を省略する。
【0022】
次に、反射三極管型の仮想陰極発振管20について図4を参照して説明する。
反射三極管型の仮想陰極発振管20では、接地されている筐体21の周縁部に陰極22が電気的に接続されるとともに、該筐体21の中心部にメッシュ陽極23Aを有する陽極電極23が配置される。
【0023】
そして、陽極電極23に正の高電圧パルスが印加された場合には、陽極電極23と電気的に接続されたメッシュ陽極23Aにも高電圧パルスが印加される。このメッシュ陽極23Aの高電圧により陰極22から電子ビームが引き出され、メッシュ陽極23Aに向かって加速される。この電子ビームの一部はメッシュ陽極23Aを形成するメッシュに衝突することなく、メッシュ陽極23Aを透過し、仮想陰極VBを形成する。
従って、電子ビームは陰極22と仮想陰極VBとの間にてメッシュ陽極23Aによって加速されながら振動し、出力窓24から発生した電磁波を出力する。
【0024】
なお、図3で示した、基本形の仮想陰極発振管10で印加される高電圧パルスの電力は、陰極12に流す電流と、陰極12とメッシュ陽極13の間に印加する電圧の積で与えられ、この電力で仮想陰極発振管10を駆動する電子ビームが形成される。
一方、本例の反射三極管型の仮想陰極発振管20は、以下のように高効率化される。すなわち、メッシュ陽極23Aを形成するメッシュの開口率は、典型的に60%程度とすることが多いため、最も単純化すると、電子ビームの60%程度が透過すると考えられる。逆にメッシュ陽極23Aに流れる電流は電子ビームの内の40%程度となる。
【0025】
従って、メッシュ陽極23Aに印加される高電圧パルスの電力は、電子ビームを形成する電力の40%程度となる。すなわち、電子ビームは、メッシュ陽極23Aに印加される高電圧パルスの電力の2.5倍程度の電力で形成され、この電力で仮想陰極発振管20を駆動する。
ここで、電子ビームを形成する電力と、仮想陰極発振管20で発生する電磁波の電力が単純に比例すると考えた場合、反射三極管型の仮想陰極発振管20の効率は、基本形の仮想陰極発振管10の2.5倍となる。
実際、非特許文献(J. Walterx, J. Dickens, M. Kristiansen, “An “energy efficient” vircator-based HPM system,” Proceedings of 2011 IEEE Pulsed Power Conference (2011))に記載の効率は、基本形の3倍程度の値となっており、実験的に示された仮想陰極発振管20の効率としては最高の値となっている。
【0026】
さらに、反射三極管型の仮想陰極発振管20は、筐体21の全体が陰極22と同電位になっており、電子ビームの散逸を抑制することができる。一方、基本形の仮想陰極発振管10では、陰極12から出た電子ビームは、メッシュ陽極13のみならず、メッシュ陽極13と同電位の筐体11の壁面にも引き付けられ、電子ビームの一部は筐体11の壁面に向かって散逸する。
一方、反射三極管型の仮想陰極発振管20では、筐体21全体が陰極22と同電位のため、筐体21の壁面が電子ビームと反発することで、電子ビームの散逸を抑制でき、このことも効率の向上に寄与している。
【0027】
次に、リフレクタ型の仮想陰極発振管30について図5を参照して説明する。
リフレクタ型の仮想陰極発振管30では、真空状態が維持されかつ接地された筐体31の内部空間31Aに、陰極32と、電子が透過できる金属メッシュ又は薄い金属膜で形成されたメッシュ陽極33とが対向設置される構成であり、ここまでは基本形の仮想陰極発振管10と同様である。
しかし、本例で示されるリフレクタ型の仮想陰極発振管30では、陰極32と対向するメッシュ陽極33の図中右側に、さらにリフレクタ34と呼ばれる金属メッシュが配置される。メッシュ陽極33を透過した電子は、全てメッシュ陽極33の近傍位置で仮想陰極VCを形成するのではなく、一部がさらに遠くまで飛行する。これは陰極32内の電子のエネルギー分布等に起因する陰極32から放出された際の初速等により説明される。
【0028】
このため、仮想陰極発振管30では、メッシュ陽極33の近傍位置にある仮想陰極VCの領域で捕捉されなかった電子を、さらにリフレクタ34で加速するとともに、該リフレクタ34のメッシュを透過させて、次の領域にて仮想陰極VCを形成する。
これを繰り返すことにより、本例の仮想陰極発振管30では、基本形では散逸していた電子を有効に利用し、出力窓35から放出する電磁波の出力効率を上げることができる。
具体的には、リフレクタ型の仮想陰極発振管30では、基本型の仮想陰極発振管10と比較して7倍程度の効率(21%)を荷電粒子シミュレーションにより示したと論文発表されている。
【0029】
以上のような仮想陰極発振管10,20及び30では高効率化の研究が行われているにもかかわらず、マグネトロン等の高効率電子管の効率(典型的に40~70%)には届いておらず、さらなる高効率化が望まれていた。
すなわち、本発明の実施形態に示される仮想陰極発振管100,200及び300は、上述した仮想陰極発振管10,20及び30の効率を上回ることを目的として構築されるものであって、より具体的な構成について以下に詳細に説明する。
【0030】
まず、第1実施形態の仮想陰極発振管100は、図2に示されるように、真空状態が維持されかつ接地された導波管101の内部に、複数の陰極102(本例では3個の陰極102A~102C)が配置された構成を有する。
導波管101は発振管筐体(例えば、円筒状)であって、内部が真空状態に維持されている。
陰極102は、真空状態が維持された導波管101の周縁部にて互いに向き合うように複数配置された第1の陰極102A、第2の陰極102B及び第3の陰極102Cを有し、導波管101の陽極端子106及びリフレクタ107(後述する)内に電子ビームを入射する。
【0031】
第1の陰極102Aは導波管101の上側から下向きに電子を放出し、第2の陰極102Bは上部と下部から各々上下に電子を放出し、第3の陰極102Cは下側から上向きに電子を放出する。
なお、第2の陰極102Bは、紙面に垂直となる方向に導波管101に対する支持構造が伸び、導波管101に固定される構造となっている。第2の陰極102Bの中央の円102bはその支持構造の断面を示している。
また、これら陰極102A~102Cは、導波管101の周縁部にて径方向に沿う方向(導波管101が円筒状である場合には半径方向)で互いに向き合うように配置されている。
【0032】
また、導波管101内には、陽極103が配置されている。
陽極103は、導波管101の中心部にある軸線αに沿うように位置し、かつ正の高電圧パルスの電圧が印加される陽極電極104と、該陽極電極104から分岐された電極分岐部105と、電極分岐部105に片持ちで接続された複数の陽極端子106とからなる。
陽極電極104は電極分岐部105によって上下2段の階層構造を形成し、これら上下2段の各段の電極分岐部105には、4つの陽極端子106(各段で2つ、合計4つ)がそれぞれ配置されている。
すなわち、本例では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107により2段4分岐構造に形成されている。
【0033】
また、陽極103の電極分岐部105であり、かつ各段の2つの陽極端子106間には、導波管101内に入射された電子を加速する2つのリフレクタ107が片持ちでかつ電気的に接続されている。
陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107は、共に、電子が透過できる金属メッシュにより軸線α方向に沿うように形成されており、導波管101の軸線αに沿い互いが平行となり、かつ向かい合う陰極102に対して対向する位置関係に設けられている。
また、陽極103と反対側に位置する導波管101の端部には電磁波を出力する出力窓108が設けられているが、その設置箇所は仮想陰極V1(後述する)の形成箇所に対応して適宜設定可能である。
【0034】
なお、本実施形態では電子が透過できる陽極端子106及びリフレクタ107として、強度、耐熱性等において薄い金属膜より優れた金属メッシュを挙げたが、これに限るものではない。
例えば、陽極端子106及びリフレクタ107として、強度、耐熱性等において問題を生じないのであれば、基本形の仮想陰極発振管10で用いられることのある、電子が透過できるほど薄い金属膜で形成しても良い。
また、金属メッシュの開口率は高いほど高効率化するため、強度、耐熱性等において許される限り、高く設定すると良い。また、平行に並ぶ4つの陽極端子106とリフレクタ107のメッシュ開口は軸線αと直交する方向に対して揃えることが望ましく、これにより陽極端子106への電子ビームの衝突が少なくなり、電子ビームの利用効率が向上する。
【0035】
また、金属メッシュの材料は、ベリリウム(原子番号4)、ボロン(原子番号5)、炭素(原子番号6)といった、例えば鉄より原子番号の小さい元素からなる材料、又はそれら原子番号の元素を含む材料を選択することが望ましい。
これは、陽極端子106やリフレクタ107を構成する原子に加速された電子が衝突することによって生じるX線の中の特性X線について、電子が衝突した原子の原子番号が小さい程、エネルギーが低くなり、導波管101や、導波管101の他端部に位置する出力窓108を通じて導波管101外へ漏洩することを防止できるからである。
【0036】
そして、上記仮想陰極発振管100では、互いに向かい合う複数の陰極102から放出されかつ陽極端子106やリフレクタ107の高電圧で加速された電子ビームの一部が、陽極103の各段に形成された陽極端子106やリフレクタ107に高エネルギーで衝突する。
このとき、上記仮想陰極発振管100では、陽極端子106及びリフレクタ107の各間でかつ間隙の長さ方向に沿う空間に、互いに向かい合う複数の陰極102から入射された電子を導波管101内に滞留させて電子を振動させ、この電子振動により電磁波を発生させる複数の仮想陰極V1を形成することができる。
また、仮想陰極Vで発生した電磁波は、導波管1に設けられた出力窓108を通じて外部に出力される。
このとき、上記仮想陰極発振管100では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107の各間の複数の仮想陰極V1にて滞留及び閉じ込めた電子ビームの相乗作用により、高出力の電磁波が発生される。
【0037】
以上詳細に説明した仮想陰極発振管100では、反射三極管型とリフレクタ型の仮想陰極発振管の特徴を併せ持つため、高効率な仮想陰極発振管を提供することができる。
また、上記仮想陰極発振管100では、複数の陰極102が互いに向き合うように配置されるという構成により、対向する陰極102間に電子ビームを閉し込めて該電子ビームの散逸を抑制することができ、単なる反射三極管型とリフレクタ型の組み合わせ以上の高効率化の効果をもたらすことができる。
【0038】
また、上記仮想陰極発振管100では、陰極102から放出され、陽極端子106やリフレクタ107の高電圧で加速された電子ビームの一部が、陽極端子106やリフレクタ107内の原子に高エネルギーで衝突した際に、X線を発生する。
このX線の内、特性X線は、電子が衝突した陽極端子106やリフレクタ107内の原子の原子番号が小さいほどエネルギーが低くなり、真空状態が維持された導波管101の真空容器や出力窓108により、容易に減弱し、導波管101外に漏洩するX線を十分弱くすることができる。
【0039】
従って、上記仮想陰極発振管100では、基準値より低く漏洩X線の線量を抑制できれば、人体への安全性が高まり、管理区域の設定、管理も必要なくなる。
特に陽極端子106やリフレクタ107にて、ベリリウム(原子番号4)、ボロン(原子番号5)、炭素(原子番号6)といった原子番号の小さい元素からなる導電材料を選択することで、エネルギー強度の高いKα線の波長を抑え、導波管101外への漏洩を防止することができる。また、これら材料で構成される陽極端子106やリフレクタ107は耐熱性等にも優れ、電子ビームの衝突等による加熱に対しても強いという利点がある。
【0040】
なお、本実施形態では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107により2段4分岐構造の階層構造を形成したが、階層構造の段数、分岐数は本例に限定されるものではなく、陽極電極104に印加する正の高電圧パルスの電圧や、メッシュ陽極端子106とリフレクタ107の電子透過率等に対応して自由に変更することが可能である。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る仮想陰極発振管200について図6を参照して説明する。
なお、以下において第1実施形態と構成を共通にする箇所に同一符号を付して、重複した説明を省略する。
【0042】
第2実施形態に係る仮想陰極発振管200が、第1実施形態に係る仮想陰極発振管100と構成を異にする点は、陰極102を上下2個とし、かつ陽極103の陽極電極106を1段からなる2つ1組の陽極端子106とした点にある。
【0043】
陰極102は真空状態が維持された導波管101の周縁部にて互いに向き合うように配置された陰極102A及び陰極102Cからなる。
陰極102Aは導波管101内の上側から下向きに電子を放出し、陰極102Cは導波管101内の下側から上向きに電子を放出する。
【0044】
陽極103は電極分岐部105によって1段の階層構造を形成し、該電極分岐部105には、2つの陽極端子106が配置されている。
また、陽極103における2つの陽極端子106間には、導波管101内に入射された電子を加速する複数のリフレクタ107(本例では3つのリフレクタ107)が電気的に接続されている。
陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107は、共に、電子が透過できる金属メッシュにより形成されており、陰極から電子を引き出す機能を持つ部分を陽極端子106、引き出された電子の速度を制御する機能を持つ部分をリフレクタ107と称している。また陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107は、導波管101の軸線αに沿うように互いが平行となる位置関係にあり、かつ陰極102に対して対向するように設けられている。
すなわち、本例では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107により1段5分岐構造に形成されている。
【0045】
以上のような第2実施形態に係る仮想陰極発振管200では、真空状態とされた導波管101の内部に、電子が透過できる金属メッシュで形成された2つの陽極端子106と、その間に3つのリフレクタ107とを、陰極102の電子放出面の間に平行に並べて設置するようにした。
そして、上記仮想陰極発振管200では、仮想陰極発振管100と同様、陽極端子106及びリフレクタ107の各間でかつ間隙の長さ方向に沿う空間に、互いに向かい合う複数の陰極102から入射された電子を導波管101内に滞留させて電子を振動させ、この電子振動によりパルス状の電磁波を発生させる複数の仮想陰極V1を形成することができる。
その結果、上記仮想陰極発振管200では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107の各間の複数の仮想陰極V1にて滞留及び閉じ込めた電子ビームの相乗作用により、高出力の電磁波を発生させることが可能となる。
【0046】
なお、本実施形態では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107により1段5分岐構造の階層構造を形成したが、階層構造の段数、分岐数は本例に限定されるものではなく、陽極電極104に印加する正の高電圧パルスの電圧や、メッシュ陽極端子106とリフレクタ107の電子透過率等に対応して自由に変更することが可能である。例えば、リフレクタ107の個数は3つではなく、これ以上に設定しても良い。
【0047】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る仮想陰極発振管300について図7を参照して説明する。
【0048】
第3実施形態に係る仮想陰極発振管300が、第1実施形態に係る仮想陰極発振管100と構成を異にする点は、陰極102を上下2個とし、かつ陽極103の陽極電極106及びリフレクタ107を2段2分岐構造として略等長に接続した点にある。
【0049】
陰極102は、真空状態が維持された導波管101の周縁部にて互いに向き合うように複数配置された陰極102Α及び陰極102Cからなる。
陰極102Aは導波管101内の上側から下向きに電子を放出し、陰極102Cは導波管101内の下側から上向きに電子を放出する。
また、導波管101の内部には、電子が透過できる金属メッシュで形成された2分岐の陽極端子106と、その間に配置された2つのリフレクタ107とが陰極102の電子放出面の間に軸線αに沿うように互いに平行に設置されている。
【0050】
また、仮想陰極発振管300では、陽極端子106とリフレクタ107との分岐が2のN乗(Nは整数)となる階層構造に形成されている。
具体的には、本例の仮想陰極発振管300では、合わせて4個(=2個)の陽極端子106とリフレクタ107とが、2分岐部を経由して、略等長の導体を介して電気的に接続される。この構成により、陽極電極104に印加された正の高電圧パルスは2分岐構造を経て合計4個の陽極端子106とリフレクタ107の各々に略同位相で伝達される。
従って、上記仮想陰極発振管300では、対向する陰極102と仮想陰極V1、あるいは対向する仮想陰極V1間を往復運動する際の電子ビームの位相を略揃えることができる。
なお、2分岐構造を採用した理由は、等長配線を容易に実現しやすく、略同位相での高電圧パルスの伝達を容易に実現しやすいためである。したがって、陽極端子とリフレクタに略同位相で高電圧パルスを伝達できれば、その他の構造でもよい。また、陽極端子とリフレクタに略同位相で高電圧パルスを伝達するために、2分岐構造を採用することなく、陽極端子とリフレクタを略等長で配線してもよい。
その結果、上記仮想陰極発振管300では、電子の往復運動に伴って放出される電磁波の位相も略揃えることができるため、電磁波の出力が増加し、高効率な仮想陰極発振管を提供することができる。
【0051】
なお、この2分岐構造においては、2分岐前の構造のインダクタンスと、2分岐後の構造の各インダクタンスの合計は一致させることが望ましく、これにより高電圧パルスを伝送する際、2分岐構造前後のインピーダンス不整合を抑制し、反射を少なくした伝送が可能となる。
また、上記仮想陰極発振管300では、絶縁のため、2分岐構造は真空中で片持ち梁の構造となるため、寄生キャパシタンスがインピーダンスに与える影響は十分小さく、インダクタンスを揃えることでインピーダンス整合を取ることもできる。
また、上記仮想陰極発振管300では、高電圧パルスを構成する周波数成分の高低により、インダクタンスの揃え方は異なる。その際、2分岐構造を構成する金属の表皮厚さが構造の太さより十分大きい場合には、2分岐前の構造の断面積と2分岐後の構造の各断面積の和を揃えるようにすれば良い。
【0052】
一方、2分岐構造を構成する金属の表皮厚さが構造の太さより十分小さい場合には、2分岐前の構造の周囲の長さと2分岐後の構造の各周囲の長さの和を揃えるようにすれば良い。なお、必ずしも周囲の長さではなくとも、2分岐構造の前後が、円柱であれば直径や半径でも、又は四角柱であればその一片の長さを、周囲の長さの代わりに採用することができる。更に望ましくは、電磁界シミュレーション等を事前に行い、反射が少なくなるよう設計することが望ましい。
【0053】
そして、以上のように構成された仮想陰極発振管300では、上述した仮想陰極発振管100,200と同様、陽極端子106及びリフレクタ107の各間でかつ間隙の長さ方向に沿う空間に、互いに向かい合う複数の陰極102から入射された電子を導波管101内に滞留させて電子を振動させ、この電子振動によりパルス状の電磁波を発生させる複数の仮想陰極V1を形成することができる。
その結果、上記仮想陰極発振管200では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107の各間の複数の仮想陰極V1にて滞留及び閉じ込めた電子ビームの相乗作用により、高出力の電磁波を発生させることが可能となる。
【0054】
なお、本実施形態では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107により2段2分岐構造の階層構造(又は2のn乗となる階層構造)を形成したが、階層構造の段数、分岐数は本例に限定されるものではなく、陽極電極104に印加する正の高電圧パルスの電圧や、メッシュ陽極端子106とリフレクタ107の電子透過率等に対応して自由に変更することが可能である。
【0055】
以下に実施形態と本発明の従属請求項に対応した効果を記載する。
本実施形態では、導波管101が円筒状である場合に、該導波管101の周縁部にて半径方向に沿う方向で互いに向き合うように陰極102を配置することで、陰極102の位置決めを容易とすることができる。
また、本実施形態では、陽極103と反対側に位置する導波管101の端部のいずれかに、仮想陰極V1から発生した電磁波Eを外部に出力するための出力窓108が形成されていることで、任意の方向へ電磁波Eを出力させることができる。
また、本実施形態では、陽極103の陽極端子106及びリフレクタ107を略等長に配線することで、陰極102と仮想陰極V1、あるいは互いに向き合う仮想陰極102間を往復運動する電子の位相を略揃え、電子の往復運動に伴って放出される電磁波の位相も略揃えることができる。
また、本実施形態では、陽極103の陽極端子106と、該陽極103の陽極端子106と電気的に接続されたリフレクタ107とを、分岐部を介して2のN乗(Nは整数)となる数の階層構造に設けることで、容易に陽極端子106及びリフレクタ107を略等長に配線でき、同様に電子の往復運動に伴って放出される電磁波の位相も略揃えることができる。
また、本実施形態では、陽極103及びリフレクタ107をメッシュ構造に形成することで、電子ビームの通り抜け及び加速を容易とする。
また、本実施形態では、陽極103とリフレクタ107を構成する導体を、鉄より原子番号の小さい元素の導電材料から形成するようにした。
具体的には、本実施形態では、陽極103とリフレク107タを構成する導体の構成元素の原子番号は4、5、6 又はそれら原子番号の元素を含む材料から形成した。
これにより陽極端子106やリフレクタ107内の原子に衝突することによって生じるX線の中の特性X線について、電子が衝突した原子の原子番号が小さい程、エネルギーが低くなり、真空状態が維持された導波管101や、導波管101の他端部に位置する出力窓108を通じて導波管101外へ漏洩することを防止できる
【0056】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、電磁波の出力効率を高めることが可能な仮想陰極発振管及び仮想陰極を用いた発振方法に関する。
【符号の説明】
【0058】
1 導波管
2 陰極
3 陽極
3A 陽極端子
4 リフレクタ
5 出力窓
100 仮想陰極発振管
101 導波管
102 陰極
102A 陰極
102B 陰極
102C 陰極
103 陽極
104 陽極電極
105 電極分岐部
106 陽極端子
107 リフレクタ
108 出力窓
200 仮想陰極発振管
300 仮想陰極発振管
A 仮想陰極発振管
α 軸線
E 電磁波
V 仮想陰極
V1 仮想陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7