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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】制震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20231017BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20231017BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231017BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04B1/24 F
F16F15/02 E
F16F7/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019191110
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021067012
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】富田 和磨
(72)【発明者】
【氏名】山口 温弘
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-288923(JP,A)
【文献】特開2007-120170(JP,A)
【文献】特開平11-256869(JP,A)
【文献】特開2014-231897(JP,A)
【文献】特開平10-169245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/24
F16F 15/02
F16F 7/08
E04B 1/18
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に互いに間隔を隔てて配置された2本の構造縦材と、
前記2本の構造縦材の間に設けられている複数階層に亘って貫通する貫通空間のうちの上下方向に繋がる所定数の階層に亘る複数の連続空間に各々配置され、前記左右方向の外力を制震する制震部材と、を有し、
互いに異なる前記連続空間が共有する空間においては、前記互いに異なる連続空間配置されている前記制震部材同士は、前記2本の構造縦材が並ぶ前記左右方向と交差する奥行き方向において互いに異なる位置に配置されており、
前記貫通空間は、前記奥行き方向に間隔を隔てて設けられている2本の横材の間に設けられていることを特徴とする制震構造。
【請求項2】
請求項1に記載の制震構造であって、
前記構造縦材の前記奥行き方向の幅は、前記貫通空間の前記奥行き方向の幅よりも広いことを特徴とする制震構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の制震構造であって、
前記制震部材は、前記連続空間の対角線上に配置されていることを特徴とする制震構造。
【請求項4】
請求項3に記載の制震構造であって、
前記制震部材は、前記連続空間の対角線上に配置されて前記2本の構造縦材間に掛け渡されるブレースが上下に分割された上ブレース部及び下ブレース部と、
前記上ブレース部と前記下ブレース部との間に介在された減衰部と、
を有することを特徴とする制震構造。
【請求項5】
請求項4に記載の制震構造であって、
前記上ブレース部及び前記下ブレース部は板状をなしており、
前記互いに異なる連続空間が共有する空間においては、下側に位置する前記制震部材の前記上ブレース部と上側に位置する前記制震部材の前記下ブレース部とが前記奥行き方向に重なっていることを特徴とする制震構造。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の制震構造であって、
前記減衰部は、前記連続空間の中央に配置されていることを特徴とする制震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震部材を複数有する制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、制震部材を複数有する制震構造として、例えば、建築物の外壁に沿って設けられた2本の鉛直構造部材と、2本の鉛直構造部材間にほぼ水平に架設された複数本の水平構造部材と、水平構造部材間に配置された複数の制震機構(制震部材)とからなり、建築物の外側にて新たな構面を構成している制震架構は知られている(例えば、特許文献1参照)。この制震架構の制震部材は、V形ブレースとダンパーとを有しており、V形ブレースの上端部が上側の水平構造部材に両端部側で固定されており、V形ブレースの下端部は左右の両側に設けられたダンパーにより下側の水平構造部材と繋がっている。
【0003】
制震部材は、2階層分の間隔を隔てて上下に隣接する各水平構造部材間にそれぞれ設けられるとともに、2本の鉛直構造部材が並ぶ方向と直交する直交方向に並べて2列に配置されている。また、2列に並べられている制震部材は、互いに1階層ずつずらして配置されている。そして、制震部材を、2階層分の間隔を隔てた水平構造部材間に設けることにより、V形ブレースの固定点からダンパーの作用点までの長さをより長くして建築物の水平震動に対するV形ブレースの応答変位量を増大させ、建築物の水平震動に伴う水平構造部材の変位量が小さい場合でもダンパーの減衰性能を十分に発揮させることができるように構成されている。また、2列に配置し互い1階層ずつずらして配置することにより、より多くの制震部材を設けると共に、各階にて制振性能が発揮されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-288923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の制震構造において、各V形ブレースが固定されている部位は、水平構造部材なので、高い剛性及び強度が必要であり大きな断面が必要となる。また、更に高い制震性能を備えるために、更に多くのV形ブレースを直交方向に並べて配置することが考えられる。しかしながら、従来の制震構造のようにV形ブレースを直交方向に複数並べて配置するためには、2本の鉛直構造部材の間に、大きな断面を有する水平構造部材を直交方向に2本以上並べて配置可能な広さの空間が必要である。このため、上記従来の制震構造を備えるためには、より大きな空間が必要であり、建築物の内部に上記のような制震構造を備える場合には、その空間を確保することが難しいという課題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、より優れた制震性能を備えより狭い空間に配置可能な制震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の制震構造は、
左右方向に互いに間隔を隔てて配置された2本の構造縦材と、
前記2本の構造縦材の間に設けられている複数階層に亘って貫通する貫通空間のうちの上下方向に繋がる所定数の階層に亘る複数の連続空間に各々配置され、前記左右方向の外力を制震する制震部材と、を有し、
互いに異なる前記連続空間が共有する空間においては、前記互いに異なる連続空間配置されている前記制震部材同士は、前記2本の構造縦材が並ぶ前記左右方向と交差する奥行き方向において互いに異なる位置に配置されており、
前記貫通空間は、前記奥行き方向に間隔を隔てて設けられている2本の横材の間に設けられていることを特徴とする。
【0008】
このような制震構造によれば、上下方向に繋がる所定数の階層に亘る連続空間に、左右方向の外力を制震する制震部材が配置されているので、階層毎に配置される制震部材よりも水平震動に対する応答変位量が増大されるため、変位量が小さい場合であっても減衰性能を十分に発揮させることが可能である。このため、より高い制震性能を発揮させることが可能である。
【0009】
また、制震部材は、互いに異なる連続空間にそれぞれ配置されるので、より高い制震性能を発揮する制震部材をより多く備えることにより、さらに高い制振性能を備えることが可能である。
【0010】
また、互いに異なる連続空間が共有する空間においては、互いに異なる連続空間に配置されている制震部材同士が、左右方向と交差する奥行き方向において互いに異なる位置に配置されているので、複数の階層に亘って配置される制震部材であっても、制震部材同士が互いに干渉することなく配置することが可能である。このとき、奥行き方向において互いに異なる位置に配置される制震部材は、2本の構造縦材の間に設けられている貫通空間内に配置されている。このため、より優れた制震性能を備え、2本の構造縦材の間というより狭い空間に配置可能な制震構造を提供することが可能である。
【0011】
かかる制震構造であって、
前記構造縦材の前記奥行き方向の幅は、前記貫通空間の前記奥行き方向の幅よりも広いことを特徴とする。
このような制震構造によれば、複数の制震部材を2本の構造縦材間に確実に備えることが可能である。
【0012】
かかる制震構造であって、
前記制震部材は、前記連続空間の対角線上に配置されていることを特徴とする。
このような制震構造によれば、制震部材は連続空間の対角線上に配置されているので、ブレースとして機能しつつも、地震動等により左右方向の外力が入力された際には制震することが可能である。
【0013】
かかる制震構造であって、
前記制震部材は、前記連続空間の対角線上に配置されて前記2本の構造縦材間に掛け渡されるブレースが上下に分割された上ブレース部及び下ブレース部と、
前記上ブレース部と前記下ブレース部との間に介在された減衰部と、
を有することを特徴とする。
【0014】
このような制震構造によれば、制震部材は、連続空間の対角線方向に掛け渡されて、上ブレース部及び下ブレース部との間に減衰部が介在されているので、上ブレース部及び下ブレース部の引張力により減衰部を作用させて振動を減衰させることが可能である。
【0015】
かかる制震構造であって、
前記上ブレース部及び前記下ブレース部は板状をなしており、
前記互いに異なる連続空間が共有する空間においては、下側に位置する前記制震部材の前記上ブレース部と上側に位置する前記制震部材の前記下ブレース部とが前記奥行き方向に重なっていることを特徴とする。
【0016】
このような制震構造によれば、上ブレース部及び下ブレース部は板状をなしているので、制震部材を引張ブレースとして機能させることが可能である。また、互いに異なる連続空間が共有する空間において奥行き方向に重なる、下側の制震部材の上ブレース部と上側の制震部材の下ブレース部とがいずれも板材なので、制震部材同士が奥行き方向に重なって配置されたとしても、奥行き方向の幅をより狭く抑えることが可能である。このため、より狭い空間内に複数の制震部材を備えることが可能である。
【0017】
かかる制震構造であって、
前記減衰部は、前記連続空間の中央に配置されていることを特徴とする。
このような制震構造によれば、互いに異なる制震部材の上下に位置する減衰部同士は、奥行き方向において重ならないので、減衰部によって奥行き方向の幅が広げられることはない。このため、奥行き方向の幅がより狭い空間内に複数の制震部材を備えることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より優れた制震性能を備えより狭い空間に配置可能な制震構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】建物において本実施形態に係る制震構造が組み込まれている貫通空間を示す図である。
図2図1におけるA-A断面を示す模式図である。
図3図1におけるB部の拡大図である。
図4図2におけるC部の拡大図である。
図5図4における1つの制震部材を示す図である。
図6】減衰部を示す図である。
図7図6におけるD-D断面図である。
図8図6におけるE-E断面図である。
図9】減衰部の構成を示す分解斜視図である。
図10図10(a)は、2階層毎に配置された制震部材を示す図であり、図10(b)は、4階層毎に配置された制震部材を示す図であり、図10(c)は、5階層毎に配置された制震部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る制震構造の一例を図を用いて説明する。
本実施形態においては、複数の階層を有する建物1において上下方向に貫通する空間を形成する、例えば図1図2に示すようなエレベータ竪穴区画S1に複数の制震部材2が組み込まれた制震構造を例に挙げて説明する。
【0021】
本実施形態の制震構造は、建物1内のエレベータ竪穴区画S1内にて互いに間隔を隔てた2本の構造縦材としての柱3の間に上下方向に貫通する貫通空間S2が設けられている。
【0022】
以下の説明においては、立設されている柱3に沿う方向を上下方向、2本の柱3が間隔を隔てて並ぶ方向を左右方向、水平面内において左右方向と交差(直交)する方向を奥行き方向として示す。制震構造を構成する各部位であっても、また、制震構造を構成する各部材については単体の状態であっても、制震構造が組み込まれている状態で上下方向、左右方向、奥行き方向等となる方向にて方向を特定して説明する。
【0023】
図3に示すように、2本の柱3間には、当該2本の柱3間を繋ぐ横材1aが、奥行き方向に間隔を隔てて階層毎に設けられている。各横材1aは非構造材であり、奥行き方向の幅は柱3の奥行き方向の幅W1よりも十分狭い。横材1aは、柱3の奥行き方向における両端にてそれぞれ、2本の柱3を繋ぐように各階床の近傍に掛け渡されている。
【0024】
奥行き方向に間隔を隔てて設けられている2本の横材1aの間には、複数の階層に亘って上下方向に貫通する貫通空間S2が設けられており、この貫通空間S2に左右方向の外力を制震する複数の制震部材2が設けられている。すなわち、2本の柱3の奥行き方向の幅W1は、貫通空間S2の奥行き方向の幅W2よりも広く、貫通空間S2内には当該2本の柱3間に掛け渡される横材などの水平構造部材は設けられていない。なお、2本の柱3間には、必ずしも横材1a等は設けられていなくとも構わない。この場合には、2本の柱3の全体が、複数の階層に亘って上下方向に貫通する貫通空間に相当する。
【0025】
本実施形態の制震部材2は、図2図4に示すように、複数階層に亘る貫通空間S2のうちの、上下方向に繋がり3階層に亘る空間でなる各連続空間S3にそれぞれ配置されている。貫通空間S2における複数の制震部材2の配置については後で詳述する。以下の制震部材2の説明においては、図5に示すように、連続空間S3の上下に繋がる3つの階層の各空間を上空間S3a、中空間S3b、下空間S3cとして説明する。尚、図5では説明の便宜上、1つの制震部材2のみを示し、他の制震部材2を省略している。
【0026】
各制震部材2は、図5に示すように上空間S3aの上部側及び下空間S3cの下部側において2本の柱3の互いに対向する面3aにガゼットプレート4を介して接合され、連続空間S3の対角線上に配置される4枚の板材5a、5bと、4枚の板材5a、5bに支持されて中空間S3bの中央に配置される減衰部6と、を有している。すなわち、制震部材2は、4枚の板材5a、5bと減衰部6とにより、連続空間S3の3つの階層の空間S3a、S3b、S3cに亘るX字状のブレースをなしている。このX字状のブレースは、対角線上に配置される部材が、座屈に対抗する耐力を備えない小断面の板材5a、5bにより構成されているので引張ブレースとして機能する。以下の説明においては、上空間S3aにて柱3に接合されて引張材をなす板材を上ブレース部5aといい、下空間S3cにて柱3に接合されて引張材をなす板材を下ブレース部5bという。
【0027】
減衰部6は、図6図9に示すように、左右の柱3にそれぞれ接合された2枚の上ブレース部5aと各々上連結板材18を介して面内方向に回動自在に連結される3枚の上制震板材7と、左右の柱3にそれぞれ接合された2枚の下ブレース部5bと各々下連結板材16を介して面内方向に回動自在に連結される2枚の下制震板材8と、を有している。3枚の上制震板材7及び2枚の下制震板材8はいずれも平板状の部材である。
【0028】
3枚の上制震板材7は、奥行き方向に互いに間隔を隔てて対面して配置され、2枚の下制震板材8は、奥行き方向に互いに間隔を隔てて対面して配置されている。3枚の上制震板材7の下側にて対向している部位間に、2枚の下制震板材8の上側の部位が1枚ずつ挿入されている。すなわち、3枚の上制震板材7は下側に、また、2枚の下制震板材8は上側に、それぞれ奥行き方向に重なる重なり部7a、8aを有している。
【0029】
3枚の上制震板材7の重なり部7aには、各下制震板材8側の面に各々摩擦板9が固定されており、2枚の下制震板材8の重なり部8aの両面には、滑り板10が固定されている。ここで、摩擦板9は、例えば、有機系摩擦材や無機系摩擦材であり、滑り板10は、例えばステンレスやチタンなどの耐食性を有する材料によって形成される。
【0030】
3枚の上制震板材7の重なり部7a、及び、摩擦板9には、上下方向に適宜間隔を隔ててボルト11が挿通される円形状のボルト挿通孔7b、9aが形成されており、2枚の下制震板材8、及び、滑り板10には、ボルト挿通孔7b、9aの間隔と同じ間隔で、左右方向に長い長孔8b、10aが設けられている。
【0031】
摩擦板9が固定された3枚の上制震板材7と、滑り板10が固定された2枚の下制震板材8とは、重ねられた状態でボルト挿通孔7b、9a及び長孔8b、10aにボルト11が挿通されている。挿通されたボルト11には、ボルト11の先端側に、重ねられた複数枚の皿ばね12が挿通され、ナット13が締め込まれて減衰部6が構成されている。
【0032】
減衰部の3枚の上制震板材7の上端の左右の角部、及び、2枚の下制震板材8の下端の左右の角部にはピン14が挿通されるピン挿通孔7c、8cが設けられている。
減衰部6の奥行き方向における両面には、左右の端部に沿って上制震板材7から下制震板材8に亘る縦板材15が重ねられている。
【0033】
図8に示すように、対向する下制震板材8間、及び、下制震板材8と縦板材15との間には、下ブレース部5bと減衰部6とを繋ぐための3枚の下連結板材16が介在されて下方に突出されている。2枚の縦板材15及び3枚の下連結板材16には、2枚の下制震板材8と同様にピン挿通孔15a、16aが設けられており、各ピン挿通孔8c、15a、16aにピン14が挿通されている。
【0034】
下制震板材8よりも下方に突出している3枚の下連結板材16の下端部側には、対向する下連結板材16間にそれぞれスプライスプレート17が介在されている。2枚のスプライスプレート17間には、真ん中の下連結板材16と下ブレース部5bの端面同士が対向するように配置され、スプライスプレート17と下連結板材16及び下ブレース部5bがボルト(不図示)により締結されて、下連結板材16と下ブレース部5bとが連結されている。尚、下制震板材8、縦板材15、下連結板材16、スプライスプレート17、下ブレース部5bが、ほぼ平行に重なるようにスペーサーが適宜介在されている。
【0035】
3枚の上制震板材7間には、上ブレース部5aと減衰部6とを繋ぐ2枚の上連結板材18が介在されて上方に突出されている。3枚の上制震板材7と重ねられた2枚の縦板材15及び2枚の上連結板材18には、3枚の上制震板材7と同様にピン挿通孔18aが設けられており、各ピン挿通孔7c、18aにピン14が挿通されている。
【0036】
上制震板材7よりも上方に突出している2枚の上連結板材18の上端部側には、上ブレース部5aが介在されており、対向する2枚の上連結板材18間に真ん中の上制震板材7と上ブレース部5aとの端面同士が対向するように配置され、上連結板材18と上ブレース部5aがボルト(不図示)により締結されて、上制震板材7と上ブレース部5aとが連結されている。尚、上制震板材7、縦板材15、上連結板材18、上ブレース部5aが、ほぼ平行に重なるようにスペーサーが適宜介在されている。
【0037】
以上の構成により、3階層に亘る連続空間S3に設置され、上下のブレース部5a、5bとともにX字状の引張ブレースを形成する減衰部6は、上制震板材7、下制震板材8、縦板材15が互いに回動自在に連結されて、機構上矩形状の平行リンクとして機能する。すなわち、左右の縦板材15が4つのピン14を関節軸として上制震板材7及び下制震板材8に対して回動することにより、上制震板材7と下制震板材8とが互いに平行な姿勢を保ったまま相対移動するように構成されている。
【0038】
柱3に地震動等が入力されていない状態では、平行リンクをなしている減衰部6の関節軸をなす4本のピン14に対し上ブレース部5a及び下ブレース部5bを介して3階層に亘る連続空間S3の対角線方向に均等に引張力が作用しており、平行リンクをなす減衰部6は長方形状をなしている。
【0039】
そして、柱3に地震動等が入力されて柱3が水平荷重により変形すると、X字状のブレースの2本の対角線のうち一方の対角線上に張られた上ブレース部5a及び下ブレース部5bの張力が他方の対角線上に張られた上ブレース部5a及び下ブレース部5bの張力よりも大きくなるため、平行リンクをなしている減衰部6も柱3に追従して平行四辺形をなすように変形する。このとき減衰部6が変形することにより、上制震板材7と下制震板材8とが互いに平行な姿勢を保ったまま相対移動するため、上制震板材7に固定された摩擦板9と下制震板材8に固定された滑り板10とが皿ばね12により圧縮された状態で摺動し振動を減衰させる引張ダンパーとして機能する。
【0040】
本実施形態の制震部材2は、2本の柱3間の貫通空間S2に複数設けられており、互いに異なる連続空間S3にそれぞれ配置されている。より具体的には、例えば、最下の階層から2つ上の階層までの3階層に亘る連続空間S3、最下の階層の1つ上の2階をなす階層(以下、2階という)から4階をなす階層(以下、4階という)までの3階層に亘る連続空間S3、3階をなす階層(以下、3階という)から5階をなす階層(以下、5階という)までの3階層に亘る連続空間S3、というように、1階層ずつ上側にずれた各3階層に亘る各連続空間S3にそれぞれ制震部材2が配置されている。
【0041】
各連続空間S3は3階層に亘っており、1階層ずつずれているので、貫通空間S2の連続空間S3のうちの最下に位置する連続空間S3の下空間S3cと最上に位置する連続空間S3の上空間S3a以外の空間は、複数の連続空間S3に共有されており、共有されている空間では、制震部材2の一部が奥行き方向に重なっている。例えば、最下の階層を含む連続空間S3は、2階が最下となる連続空間S3及び3階が最下となる連続空間S3に共有する空間を有しており、最下の階層を含む連続空間S3に配置され3階まで至るように配置される制震部材2の一部は、2階が最下となる連続空間S3及び3階が最下となる連続空間S3に配置された制震部材2の一部と、奥行き方向に異なる位置に配置されている。
【0042】
また、4階から6階までの3階層に亘る連続空間S3に配置される制震部材2は、最下の階層を含む連続空間S3に配置された制震部材2の直上に配置され、5階から7階までの3階層に亘る連続空間S3に配置される制震部材2は、2階から4階までの3階層に亘る連続空間S3に配置された制震部材2の直上に配置され、6階から8階までの3階層に亘る連続空間S3に配置される制震部材2は、3階から5階までの3階層に亘る連続空間S3に配置された制震部材2の直上に配置されている。
【0043】
すなわち、複数の制震部材2は、上下方向に連なって列をなすように配置されており、上下方向に連なった制震部材2の列が、奥行き方向に3列並ぶと共に、奥行き方向において隣り合う列の制震部材2同士は、上下方向の位置が1階層ずつずれている。
このため、各連続空間S3に1つずつ配置された制震部材2は、その一部が、1つ上の階を下空間S3cとする連続空間S3に設けられた制震部材2、及び、2つ上の階を下空間S3cとする連続空間S3に設けられた制震部材2と、奥行き方向に重なるように配置されている。すなわち、空間を共有する連続空間S3に配置された制震部材2同士は、それらの一部が奥行き方向に重なっている。
【0044】
このとき、各連続空間S3に配置される制震部材2はいずれも各連続空間S3の中空間S3bの中央に減衰部6が配置されるので、上下に隣り合う制震部材2が備える減衰部6同士は、奥行き方向に重なることはなく、上ブレース部5aまたは下ブレース部5bの一部が重なるように配置される。
【0045】
このため、本実施形態の制震構造のように、3階層に亘る連続空間S3に設置する制震部材2を備える場合には、上下に1階層ずらして奥行き方向に2つの制震部材2の一部が重なるように配置するには、4階層にわたる貫通空間S2が必要であり、上下に1階層ずらして奥行き方向に3つの制震部材2の一部が重なるように配置するには5階層にわたる貫通空間S2が必要である。すなわち、複階層に亘る連続空間S3に設置する制震部材2を備える場合には、1つの制震部材2が配置される連続空間S3の階層数よりも、少なくとも奥行き方向に重ねて配置する制震部材2の数だけ多い階層分の貫通空間S2が必要である。
【0046】
本実施形態の制震構造によれば、上下方向に繋がる3つの階層に亘る連続空間S3に、左右方向の外力を制震する制震部材2は、階層毎に配置される制震部材2よりも水平震動に対する応答変位量が増大されるため、変位量が小さい場合であっても減衰性能を十分に発揮させることが可能である。このため、より高い制震性能を発揮させることが可能である。
【0047】
また、制震部材2は、互いに異なる連続空間S3にそれぞれ配置されているので、より高い制震性能を発揮する制震部材2をより多く備えることにより、さらに高い制振性能を備えることが可能である。
【0048】
また、互いに異なる連続空間S3が共有する空間においては、互いに異なる連続空間S3の各々に配置されている制震部材2同士が、2本の柱3が並ぶ方向と交差する奥行き方向において互いに異なる位置に配置されているので、3つの階層に亘って配置される制震部材2であっても、制震部材2同士が互いに干渉することなく配置することが可能である。このとき、奥行き方向において互いに異なる位置に配置される制震部材2は、2本の柱3の間に設けられている貫通空間S2内に配置されている。このため、より優れた制震性能を備え、2本の柱3の間という狭い空間に配置可能な制震構造を提供することが可能である。
【0049】
また、各柱3の奥行き方向の幅W1は、貫通空間S2の奥行き方向の幅W2よりも広いので、複数の制震部材2を2本の柱3間に確実に備えることが可能である。
また、各制震部材2は連続空間S3の対角線上に配置されているので、引張ブレースとして機能しつつも、地震動等により左右方向の外力が入力された際には制震することが可能である。
【0050】
また、制震部材2は、連続空間S3の対角線方向に掛け渡されて、上ブレース部5a及び下ブレース部5bとの間に減衰部6が介在されているので、上ブレース部5a及び下ブレース部5bの引張力により減衰部6を作用させて振動を減衰させることが可能である。
【0051】
また、制震部材2は引張ブレースとして機能するので、座屈に対抗する耐力を備える必要がないため、上ブレース部5a及び下ブレース部5bに断面積が大きな部材を用いる必要がない。このため、互いに異なる連続空間S3が共有する空間において奥行き方向に重なる上下のブレース部5a、5bを板材にて構成することが可能である。このため、制震部材2同士が奥行き方向に重なって配置されたとしても、奥行き方向の幅をより狭いく抑えることが可能であり、より狭い空間内に複数の制震部材2を備えることが可能である。
【0052】
また、制震部材2において奥行き方向の厚みが他の部位よりも厚い減衰部6は、連続空間S3の中央に配置されているので、上下に位置する減衰部6同士は、奥行き方向において重ならない。このため、減衰部6によって奥行き方向の幅が広げられることはないので、奥行き方向の幅がより狭い空間内に複数の制震部材2を備えることが可能である。
【0053】
上記実施形態においては、連続空間を上下方向に繋がる3つの階層の空間として説明したが。これに限るものではない。例えば、図10(a)に示すように連続空間S3を上下方向に繋がる2つの階層の空間としても、図10(b)に示すように連続空間S3を上下方向に繋がる4つの階層の空間としても、図10(c)に示すように連続空間S3を上下方向に繋がる5つの階層の空間としても、または、それ以上の階層の空間としても構わない。
【0054】
また、上記実施形態においては、減衰部6を摩擦ダンパーとした例について説明したが、これに限らず、柱3の変形によりに左右方向の外力を制震すべく作用する減衰部であれば粘性ダンパー及び粘弾性ダンパー等であっても構わない。
また、上記実施形態においては、貫通空間S2が2本の柱3間に設けられている例について説明したが、貫通空間は2本の柱に限らず2本の構造縦材間に設けられていれば構わない。
【0055】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0056】
2 制震部材
3 柱(構造縦材)
5a 上ブレース部
5b 下ブレース部
6 減衰部
S2 貫通空間
S3 連続空間
W1 柱の奥行き方向の幅
W2 貫通空間の奥行き方向の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10