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特許7367478血圧計、血圧測定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】血圧計、血圧測定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20231017BHJP
   A61B 5/0225 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61B5/022 300F
A61B5/022 400E
A61B5/022 500M
A61B5/0225 G
A61B5/022 ZDM
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019206318
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021078552
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【弁理士】
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 新吾
(72)【発明者】
【氏名】江副 美佳
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168797(WO,A1)
【文献】特開2011-152307(JP,A)
【文献】国際公開第2012/018029(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111779(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168799(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血圧測定用カフによって被測定部位としての手首を一時的に圧迫して、上記カフ内の圧力を検出する圧力センサを用いてオシロメトリック法により血圧測定を行う血圧計であって、
入力された血圧測定指示に応じて血圧測定を行う通常の血圧測定モードと、予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードとの間で、モードを切り替えるためのモード指示を入力するモード操作部と、
上記モード指示が入力されて上記夜間血圧測定モードへ移行したのに伴って、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、上記カフの巻き付け状態を判定する第1判定部と、
上記通常の血圧測定モードで、上記血圧測定指示が入力されて血圧測定が行われる前に、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、予め上記カフの巻き付け状態の程度を定めた通常判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定する第2判定部とを備えており、
上記第1判定部は、上記夜間血圧測定モードで、上記通常判定基準に比して上記カフの巻き付け状態の程度がきつくなる向きにシフトした厳格判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定し、
上記血圧計は、
上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って、上記判定されたカフの巻き付け状態を報知する報知部
備えたことを特徴とする血圧計。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧計において、
上記第1判定部は、上記厳格判定基準に従って、上記判定されたカフの巻き付け状態に応じて上記カフの巻き付け状態の適否を判定し、
上記第2判定部は、上記通常判定基準に従って、上記判定されたカフの巻き付け状態に応じて上記カフの巻き付け状態の適否を判定し、
上記報知部は、上記カフの巻き付け状態の適否を報知する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血圧計において、
上記夜間血圧測定モードで、上記スケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する際に、上記第1判定部および上記報知部を非作動とする制御部を備えた
ことを特徴とする血圧計。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の血圧計において、
上記被測定部位は手首であることを特徴とする血圧計。
【請求項5】
請求項4に記載の血圧計において、
上記血圧測定用カフと一体に設けられた本体を備え、
上記本体は、上記血圧測定用カフによって上記手首を一時的に圧迫して、上記カフ内の圧力を検出する圧力センサを用いてオシロメトリック法により血圧測定を行う血圧測定部、上記モード操作部、上記第1判定部、および、上記報知部を搭載している
ことを特徴とする血圧計。
【請求項6】
血圧測定用カフによって被験者の被測定部位を一時的に圧迫して、上記カフ内の圧力を検出する圧力センサを用いてオシロメトリック法により血圧測定を行う血圧計のための血圧測定方法であって、
上記血圧計は、入力された血圧測定指示に応じて血圧測定を行う通常の血圧測定モードと、予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードとの間で、モードを切り替えるためのモード指示を入力するモード操作部を備え、
上記血圧測定方法は、
上記モード指示が入力されて上記夜間血圧測定モードへ移行したのに伴って、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、上記カフの巻き付け状態を判定する第1判定方法と、
上記通常の血圧測定モードで、上記血圧測定指示が入力されて血圧測定が行われる前に、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、予め上記カフの巻き付け状態の程度を定めた通常判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定する第2判定方法とを備えており、
上記第1判定方法は、上記夜間血圧測定モードで、上記通常判定基準に比して上記カフの巻き付け状態の程度がきつくなる向きにシフトした厳格判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定し、
上記血圧測定方法は、
上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って、上記判定されたカフの巻き付け状態を報知する
ことを特徴とする血圧測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の血圧測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧計に関し、より詳しくは、夜間(睡眠時)血圧測定モードを有する血圧計に関する。また、この発明は、そのような血圧計によって血圧を測定する血圧測定方法に関する。また、この発明は、そのような血圧測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定部位をカフで圧迫しながら血圧を測定するオシロメトリック法による血圧測定では、正確な測定を行うためには、被測定部位(上腕又は手首)にカフをぴったり巻き付けることが必要である。例えば、カフの巻き付けがゆるいと、カフの圧力が動脈に正しく伝わらず、正確な血圧測定ができない。そこで、特許文献1には、血圧測定開始スイッチがオンされると、測定部位に対するカフの巻き付け強度を検出することにより、カフが測定部位にきつく巻かれているか(「キツ巻き」)、「ぴったり」と巻かれているか(「ピッタリ巻き」)、又はゆるく巻かれているか(「ユル巻き」)を判定し、その判定結果を被験者に報知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5408142号
【0004】
この特許文献1の技術では、血圧測定開始スイッチがオンされた後、血圧測定が開始される直前に巻き付け判定が行われ、カフが被測定部位に適正に(ぴったりと)巻き付けられていなければカフの巻き直しが被験者に通知され、カフが被測定部位に適正に(ぴったりと)巻き付けられていれば血圧測定が開始される。したがって、この技術によれば、カフが適正に巻き付けられている状態で血圧測定が行われ、得られた測定結果は信頼性の高いものとなる。
【0005】
しかし、特許文献1の巻き付け判定は、通常の血圧測定(換言すれば、非就寝中の血圧測定)には適用できるが、被験者の就寝中に血圧を測定するいわゆる夜間の血圧測定にはそのまま適用できない。その理由は、夜間の血圧測定では、被験者は就寝しているので、血圧測定時に巻き付け判定の結果を被験者に報知しても、就寝中の被験者はカフを巻き直すことができない、からである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題点を解消するためになされたもので、被験者の就寝中に血圧測定を行う場合に、正確な血圧測定を行うことができる血圧計および血圧測定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような血圧測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、この開示の血圧計は、
血圧測定用カフによって被測定部位としての手首を一時的に圧迫して、上記カフ内の圧力を検出する圧力センサを用いてオシロメトリック法により血圧測定を行う血圧計であって、
入力された血圧測定指示に応じて血圧測定を行う通常の血圧測定モードと、予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードとの間で、モードを切り替えるためのモード指示を入力するモード操作部と、
上記モード指示が入力されて上記夜間血圧測定モードへ移行したのに伴って、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、上記カフの巻き付け状態を判定する第1判定部と、
上記通常の血圧測定モードで、上記血圧測定指示が入力されて血圧測定が行われる前に、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、予め上記カフの巻き付け状態の程度を定めた通常判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定する第2判定部とを備えており、
上記第1判定部は、上記夜間血圧測定モードで、上記通常判定基準に比して上記カフの巻き付け状態の程度がきつくなる向きにシフトした厳格判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定し、
上記血圧計は、
上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って、上記判定されたカフの巻き付け状態を報知する報知部
備えたことを特徴とする。
【0008】
本明細書で、「モード操作部」は、例えば、上記血圧計の本体に設けられたスイッチであって、ユーザによるスイッチオンを指示として受け付けるものでもよいし、または、上記血圧計の外部に存在するスマートフォン等から無線通信を介して指示を受け付ける通信部によって構成されてもよい。
【0009】
「夜間血圧測定モードへ移行したのに伴って」とは、典型的には、上記夜間血圧測定モードへ移行した時点を指すが、例えば、その時点から5分間以内のように、被験者が未だ入眠していないと期待される時間内でもよい。同様に、「上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って」とは、典型的には、上記カフの巻き付け状態が判定された時点を指すが、例えば、その時点から5分間以内のように、被験者が未だ入眠していないと期待される時間内でもよい。
【0010】
「カフの巻き付け状態」とは、被測定部位に対するカフの巻き付けの適否を表す状態を指す。例えば、特許文献1に示されているように、カフが測定部位にきつく巻かれているか(「キツ巻き」)、「ぴったり」と巻かれているか(「ピッタリ巻き」)、ゆるく巻かれているか(「ユル巻き」)のうち、いずれの状態にあるかを指す。また、「カフの巻き付け状態の程度」とは、被測定部位に対してカフが、緩く巻き付けられている状態から、きつく巻き付けられている状態までの程度を指す。
【0011】
この開示の血圧計では、上記通常の血圧測定モードで、上記血圧測定指示が入力されて血圧測定が行われる前に、第2判定部は、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、予め上記カフの巻き付け状態の程度を定めた通常判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定する。上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って、報知部は、上記判定されたカフの巻き付け状態を報知する。この報知により、被験者は、上記通常判定基準に従って、被測定部位に対するカフの巻き付けの適否を認識できる。したがって、被験者は、例えば、カフの巻き付け状態が上記通常判定基準では不適切で、カフがゆるく巻かれている状態(「ユル巻き」)であれば、「ぴったり」と巻かれている状態(「ピッタリ巻き」)に直すことができる。従来例のように、上記カフの巻き付け状態が「ピッタリ巻き」である場合に限り上記血圧測定を行うことによって、上記通常の血圧測定モードで得られた測定結果は信頼性の高いものとなる。
また、この開示の血圧計では、例えば、被験者が、モード操作部によって、予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードへ、モードを切り替えるためのモード指示を入力する。これにより、この血圧計は、上記夜間血圧測定モードへ移行する。上記夜間血圧測定モードでは、この血圧計が上記スケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する際に、睡眠中の被験者がカフの巻き付け状態を直すことは期待され得ない。ここで、上記モード指示が入力されてこの血圧計が上記夜間血圧測定モードへ移行したのに伴って、第1判定部は、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、上記通常判定基準に比して上記カフの巻き付け状態の程度がきつくなる向きにシフトした厳格判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定する。上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って、報知部は、上記判定されたカフの巻き付け状態を報知する。この報知により、被験者は、上記厳格判定基準に従って、被測定部位に対するカフの巻き付けの適否を認識できる。したがって、被験者は、例えば、カフの巻き付け状態が上記厳格判定基準では不適切で、カフがゆるく巻かれている状態(「ユル巻き」)であれば、「ぴったり」と巻かれている状態(「ピッタリ巻き」)に直すことができる。この後、この血圧計は、上記夜間血圧測定モードで、予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する。この結果、上記夜間血圧測定モードでは、カフの巻き付け状態が上記厳格判定基準に従って適切な状態で、オシロメトリック法による血圧測定が行われる。したがって、この血圧計によれば、被験者の就寝中に血圧測定を行う場合に、正確な血圧測定を行うことができる。
【0012】
一実施形態の血圧計では、
上記第1判定部は、上記厳格判定基準に従って、上記判定されたカフの巻き付け状態に応じて上記カフの巻き付け状態の適否を判定し、
上記第2判定部は、上記通常判定基準に従って、上記判定されたカフの巻き付け状態に応じて上記カフの巻き付け状態の適否を判定し、
上記報知部は、上記カフの巻き付け状態の適否を報知する
ことを特徴とする。
【0013】
この一実施形態の血圧計では、上記通常の血圧測定モードで、上記血圧測定指示が入力されて血圧測定が行われる前に、第2判定部は、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、上記通常判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態の適否を判定する。したがって、従来例のように、上記カフの巻き付け状態が「適切」である場合に限り上記血圧測定を行うことによって、上記通常の血圧測定モードで得られた測定結果は信頼性の高いものとなる。
【0014】
一方この一実施形態の血圧計では、上記第1判定部は、上記夜間血圧測定モードで、上記厳格判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態の適否を判定する。上述のように、上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って、報知部は、上記判定されたカフの巻き付け状態の適否を報知する。この報知により、被験者は、被測定部位に対するカフの巻き付けの適否を認識できる。したがって、被験者は、上記カフの巻き付け状態が上記厳格判定基準に従って「適切」であると判定される程度に、上記カフの巻き付け状態を直すことができる。したがって、この血圧計が上記夜間血圧測定モードで上記スケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する際に上記通常判定基準から見れば上記カフの巻き付け状態が「適切」に維持されることが期待される。したがって、この血圧計によれば、上記夜間血圧測定モードで正確な血圧測定を行うことができる。
【0015】
一実施形態の血圧計では、
上記夜間血圧測定モードで、上記スケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する際に、上記第1判定部および上記報知部を非作動とする制御部を備えた
ことを特徴とする。
【0016】
上記夜間血圧測定モードへ移行して、血圧測定のスケジュール待ちをしている段階では、被験者は、睡眠状態にあることが期待される。睡眠状態にある被験者は、仮に、上記報知部による報知が試みられたとしても、それに気づかないと思われる。そこで、この一実施形態の血圧計では、上記夜間血圧測定モードで、上記スケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する際に、制御部によって、上記第1判定部および上記報知部は非作動とされる。したがって、上記スケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する際に、上記カフの巻き付け状態の判定、上記判定されたカフの巻き付け状態の報知は、いずれも行われない。これにより、上記第1判定部が無駄な判定を行い、上記報知部が無駄な報知を試みるのが防止される。したがって、省電力に寄与することができる。
【0017】
一実施形態の血圧計では、上記被測定部位は手首であることを特徴とする。
【0018】
この一実施形態の血圧計は、被測定部位としての手首を圧迫するタイプであるから、上腕を圧迫するタイプに比して、被験者の睡眠を妨げる程度が少ないことが期待される(Imai et al., “Development and evaluation of a home nocturnal blood pressure monitoring system using a wrist-cuff device”, Blood Pressure Monitoring 2018, 23,P318-326)。したがって、この血圧計は、夜間(睡眠時)血圧測定に適する。
【0019】
一実施形態の血圧計では、
上記血圧測定用カフと一体に設けられた本体を備え、
上記本体は、上記血圧測定用カフによって上記手首を一時的に圧迫して、上記カフ内の圧力を検出する圧力センサを用いてオシロメトリック法により血圧測定を行う血圧測定部、上記モード操作部、上記第1判定部、および、上記報知部を搭載している
ことを特徴とする。
【0020】
ここで、「血圧測定部」は、例えば、上記血圧測定用カフに加圧用の流体を供給するポンプ、上記血圧測定用カフから流体を排気させる弁、これらのポンプ・弁などを駆動・制御する要素を含む。
【0021】
この一実施形態の血圧計は、一体かつコンパクトに構成され得る。したがって、ユーザによる取り扱いが便利になる。
【0022】
別の局面では、この開示の血圧測定方法は、
血圧測定用カフによって被験者の被測定部位を一時的に圧迫して、上記カフ内の圧力を検出する圧力センサを用いてオシロメトリック法により血圧測定を行う血圧計のための血圧測定方法であって、
上記血圧計は、入力された血圧測定指示に応じて血圧測定を行う通常の血圧測定モードと、予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードとの間で、モードを切り替えるためのモード指示を入力するモード操作部を備え、
上記血圧測定方法は、
上記モード指示が入力されて上記夜間血圧測定モードへ移行したのに伴って、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、上記カフの巻き付け状態を判定する第1判定方法と
上記通常の血圧測定モードで、上記血圧測定指示が入力されて血圧測定が行われる前に、上記血圧測定に用いられるカフ圧よりも低い圧力に上記カフを一時的に加圧し、上記圧力センサの出力に基づいて、予め上記カフの巻き付け状態の程度を定めた通常判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定する第2判定方法とを備えており、
上記第1判定方法は、上記夜間血圧測定モードで、上記通常判定基準に比して上記カフの巻き付け状態の程度がきつくなる向きにシフトした厳格判定基準に従って、上記カフの巻き付け状態を判定し、
上記血圧測定方法は、
上記カフの巻き付け状態が判定されたのに伴って、上記判定されたカフの巻き付け状態を報知する
ことを特徴とする。
【0023】
この開示の血圧測定方法によれば、被験者の就寝中に血圧測定を行う場合に、正確な血圧測定を行うことができる。
【0024】
さらに別の局面では、この開示のプログラムは、上記血圧測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0025】
この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記血圧測定方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上より明らかなように、本発明の血圧計および血圧測定方法によれば、被験者の就寝中に血圧測定を行う場合に、正確な血圧測定を行うことができる。また、本発明のプログラムによれば、そのような血圧測定方法をコンピュータに実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る手首式血圧計の概略図である。
図2図1に示す手首式血圧計が左手首に巻き付けられた状態を示す概略図である。
図3図1に示す手首式血圧計のブロック図である。
図4】時間に応じて変化するカフの圧力を示すグラフである。
図5】カフの巻き付け状態に応じる、第1の時間と第2の時間の関係を示すグラフである。
図6図1に示す手首式血圧計により実施される通常の血圧測定のフローチャートである。
図7図1に示す手首式血圧計により実施される夜間の血圧測定のフローチャートである。
図8】別の実施形態の手首式血圧計により実施される夜間の血圧測定のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る、手首式血圧計の実施形態を説明する。
【0029】
[手首式血圧計]
図1は、本発明の実施形態に係る手首式血圧計(以下、適宜「血圧計」という。)100の概略構成を示す。この血圧計100は、後述するように、血圧測定スイッチがオンされた直後に血圧測定を開始する通常モードと、予め決められた予約時刻に又は指定時刻から所定時間経過後の予約時刻に血圧測定を開始する夜間モードを有する。
【0030】
[手首式血圧計の構成]
図1に示すように、血圧計100は、被験者の被測定部位に巻き付けられる血圧測定用のカフ10と、カフ10に一体に取り付けられている血圧計本体20を備える。
【0031】
図2に示すように、実施形態の血圧計100は手首式血圧計である。したがって、カフ10は、被験者200の例えば左手首210に巻き付けられるように細長い帯状の形状を有している。カフ10は、左手首210を圧迫するための空気袋12(図3参照)が内包されている。なお、カフ10を常時環状に維持するために、カフ10内に、適度な可撓性を有するカーラ(図示せず)が設けられてもよい。
【0032】
血圧計本体20は、帯状のカフ10の長手方向に関して略中央の部位に一体に取り付けられている。実施形態では、血圧計本体20が取り付けられる部位は、左手首210の掌側面(手の平側の面)210aに対応することが予定されている。
【0033】
血圧計本体20は、カフ10の外周面に沿った扁平な略直方体の形状を有しており、被験者200の睡眠の邪魔にならないように、小型且つ薄く形成されている。血圧計本体20の上面(図1に現れる面)とその周りを囲む側面とを繋ぐ角部は、曲面状の面取りが施されている。
【0034】
図1に示すように、血圧計本体20の外面のうち左手首210から最も遠い側の上面には、表示画面をなす表示部(報知部)30と、被験者200からの指示を入力するための操作部40とが設けられている。
【0035】
実施形態において、表示部30は、LCD(液晶ディスプレイ)を含み、後述のCPU(中央演算処理装置)110からの制御信号に従って所定の情報、例えば最高血圧(単位;mmHg)、最低血圧(単位;mmHg)、脈拍(単位;拍/分)、さらに後述するカフ10の巻き付け判定結果を表示するように構成されている。なお、表示部30は有機ELディスプレイ又はLED(発光ダイオード)のいずれであってもよい。
【0036】
操作部40は、被験者200が操作する複数のボタン又はスイッチを有する。実施形態では、操作部40は、通常モードの血圧測定指示を被験者200が入力するための血圧測定開始スイッチ42Aと、夜間モードの血圧測定指示を被験者200が入力するための夜間測定スイッチ42Bを含む。血圧測定開始スイッチ42Aは、該スイッチが血圧測定中に押されたときは実行中の血圧測定を停止するスイッチとして機能する。
【0037】
以下の説明において、「通常の血圧測定」とは、血圧測定開始スイッチ42Aがオンされた直後に開始される血圧測定をいう。また、以下の説明において、「夜間の血圧測定」とは、夜間測定スイッチ42Bを通じて入力された指示に基づいて、例えば被験者200の睡眠中、予め定められたスケジュールに従って自動的に行われる血圧測定をいう。予め定められたスケジュールに従って行われる血圧測定は、例えば深夜1時、2時、3時などの決められた時刻に行われる血圧測定、または、夜間測定スイッチ42Bが押されてから例えば2時間後及び/または4時間後に行われる血圧測定である。
【0038】
実施形態において、血圧測定スイッチ42Aと夜間測定スイッチ42Bは、いずれもモーメンタリタイプ(自己復帰タイプ)のスイッチであり、押し下げられている間だけオン状態になり、離されるとオフ状態に戻るように構成されている。
【0039】
図3は血圧計100のブロック構成を示す。
【0040】
上述のカフ10に含まれる空気袋12と血圧計本体20に含まれる種々の流体制御機器(以下に説明する)は、エア配管50によって流体流通可能に接続されている。
【0041】
血圧計本体20は、上述の表示部30と操作部40とに加えて、制御部であるCPU110と、記憶部であるメモリ112と、電源部114と、圧力センサ62と、ポンプ72と、弁82を有する。また、血圧計本体20は、圧力センサ62の出力をアナログ信号からデジタル信号へ変換するA/D変換回路64と、ポンプ72を駆動するポンプ駆動回路74と、弁82を駆動する弁駆動回路84を有する。圧力センサ62、ポンプ72、及び弁82は、エア配管50を通して、空気袋12と流体流通可能に接続されている。
【0042】
メモリ112は、血圧計100を制御するためのプログラム、血圧計100を制御するために用いられるデータ、血圧計100の各種機能を設定するための設定データ、および血圧値の測定結果のデータなどを記憶している。メモリ112はまた、プログラム実行中の各種情報を一時的に保存するワークメモリとしても用いられる。特に、実施形態におけるメモリ112は、プログラム記憶部として構成されており、後述するオシロメトリック法による血圧算出のための通常血圧測定プログラムと夜間血圧測定プログラム、通常の血圧測定においてカフ10の巻き付け状態を判定するための通常巻き付け判定プログラム、及び夜間の血圧測定においてカフ10の巻き付け状態を判定するための夜間巻き付け判定プログラムを記憶している。
【0043】
CPU110は、血圧計100全体の動作を制御するように構成されている。具体的には、CPU110は、メモリ112に記憶された血圧計100を制御するためのプログラムに従って、ポンプ72又は弁82を駆動する圧力制御部、後述する夜間巻き付け判定プログラムにより、圧力センサ62の出力をもとにカフ10の巻き付け状態を判定する第1判定部、後述する通常巻き付け判定プログラムにより、圧力センサ62の出力をもとにカフ10の巻き付け状態を判定する第2判定部、及び後述する通常血圧測定プログラム又は夜間血圧測定プログラムにより、血圧測定を実施する測定実施部として構成されている。CPU110はまた、血圧測定を実施することで得られる血圧値、及びカフ10の巻き付け判定結果を表示部30に表示し、メモリ112に記憶させる。
【0044】
実施形態において、電源部114は、2次電池からなり、CPU110、圧力センサ62、ポンプ72、弁82、表示部30、メモリ112、A/D変換回路64、ポンプ駆動回路74、および弁駆動回路84の各部に電力を供給するように構成されている。電源部114はまた、オン/オフ状態を切り替えることができるように構成されており、オフ状態のとき、血圧測定スイッチ42Aが例えば3秒間以上連続して押されると、オン状態になる。
【0045】
ポンプ72は、カフ10に内蔵された空気袋12内の圧力を上げるために、エア配管50を通して空気袋12に流体としての空気を供給するように構成されている。弁82は、カフ圧を制御するため、開くことによってエア配管50を通して空気袋12の空気を排出する、又は閉じることによってカフ圧を保持するように構成されている。ポンプ駆動回路74は、CPU110から与えられる制御信号に基づいてポンプ72を駆動するように構成されている。弁駆動回路84は、CPU110から与えられる制御信号に基づいて弁82を開閉するように構成されている。
【0046】
圧力センサ62とA/D変換回路64は、カフ圧を検出するように構成されている。実施形態における圧力センサ62は、ピエゾ抵抗式圧力センサであり、空気袋12のカフ圧をピエゾ抵抗効果による電気抵抗として検出し出力する。A/D変換回路64は、圧力センサ62の出力(電気抵抗)をアナログ信号からデジタル信号へ変換してCPU110に出力する。実施形態では、CPU110は、圧力センサ62から出力される電気抵抗に応じて、カフ圧を取得する。
【0047】
[血圧測定プログラム]
血圧測定プログラムは、血圧計本体20を左手首210に取り付けている被験者200の血圧を算出する。血圧測定プログラムは、通常血圧測定プログラムと夜間血圧測定プログラムを含む。通常血圧測定プログラムは、被験者200が椅子などに座り、血圧計本体20が取り付けられている左手首210を被験者200の心臓と同じ高さに保つことを想定している。夜間血圧測定プログラムは、被験者200がベッドなどに横たわり、血圧計本体20が取り付けられている左手首210が被験者200の心臓よりも低い位置に置かれることを想定している。血圧計本体20の高さと被験者200の心臓の高さの関係が異なることで、異なる血圧値が算出されることが分かっている。そのため、通常血圧測定プログラムと夜間血圧測定プログラムは、それぞれが想定する血圧計本体20の高さと被験者200の心臓の高さの関係を考慮して、血圧算出に用いるパラメータが予め調整されている。
【0048】
CPU110は、通常血圧測定プログラム又は夜間血圧測定プログラムを実施するとき、圧力センサ62により得られるカフ圧に含まれる脈波の変動成分から脈波信号を得て、メモリ112に記憶されているそれぞれのプログラムを用いて、血圧値(最高血圧と最低血圧)を算出する。
【0049】
[巻き付け判定プログラム]
実施形態において、巻き付け判定プログラムは、被験者200が自身の左手首210にカフ10を「ピッタリ巻き状態」で巻き付けているかを判定する。本明細書において、ピッタリ巻き状態とは、カフ10が左手首210に巻き付けられているときに形成される円筒周りの長さが左手首210周りの長さとほぼ等しく、左手首210に適切な圧力を与えている状態をいう。また、カフ10がピッタリ巻き状態よりもきつめに左手首210に巻き付けられ、左手首210により大きな圧力を与えている状態を「キツ巻き状態」という。さらに、カフ10がピッタリ巻き状態よりもゆるめに左手首210に巻き付けられ、左手首210により小さな圧力を与えている状態を「ユル巻き状態」という。
【0050】
カフ10のカフ圧は、ポンプ72がカフ10の空気袋12に空気を供給している間、時間に応じて徐々に増加する。この時間とカフ圧の関係は、図4に示すように、カフ10の巻き付け状態に応じて異なる。
【0051】
図4において、ピッタリ巻き状態における時間とカフ圧の関係を実線310,320で示す。キツ巻き状態における時間とカフ圧の関係は破線312,322で示す。ユル巻き状態における時間とカフ圧の関係は一点鎖線314,324で示す。2つの実線310,320のうち図の左側の実線310は小サイズのカフを用い、図の右側の実線320は大サイズのカフを用いたときの時間とカフ圧との関係を示す。同様に、2つの破線312,322のうち図の左側の破線312は小サイズのカフを用い、図の右側の破線322は大サイズのカフを用いたときの時間とカフ圧との関係を示す。また、2つの一点鎖線のうち図の左側の一点鎖線314は小サイズのカフを用い、図の右側の破線324は大サイズのカフを用いたときの時間とカフ圧との関係を示す。図示する時間とカフ圧の関係から、カフ10の巻き付け状態がキツ巻きに近いほど、カフ圧は急激に増加し易いことが分かる。また、時間とカフ圧の関係はカフ10のサイズによって異なり、小サイズのカフ10ほどカフ圧は急激に増加し易い。
【0052】
図4に示すように、上述の時間とカフ圧の関係において、カフ10の巻き付け状態に応じて変化するカフ圧の増加傾向の違いは、早い段階、すなわち圧力が低い段階に現れる。したがって、カフ圧が第1の圧力P1から第2の圧力P2(P1<P2)に上昇するまでの所要時間である第1の時間336が、カフ10の巻き付け状態を反映している。例えば、カフ10の巻き付け状態がキツ巻きに近いほど第1の時間336は小さくなり、カフ10の巻き付け状態がユル巻きに近いほど第1の時間336は大きくなる。
【0053】
また、時間に対するカフ圧の増加傾向はカフ10のサイズに応じて異なり、同じ巻き付け状態であっても、第1の時間336はカフ10のサイズに応じて変化する。図4に示すように、カフ10のサイズの影響はカフ圧が高い段階に現れる。したがって、カフ圧が、第1の圧力P1と第2の圧力P2よりも大きな第3の圧力P3から第4の圧力P4(P3<P4)に上昇するまでの第2の時間346が、カフ10のサイズを反映している。例えば、すなわち、カフ10のサイズが小さいほど第2の時間346は小さくなり、カフ10のサイズが大きいほど第2の時間346は大きくなる。
【0054】
圧力P1,P2,P3,P4は、例えば、10mmHg,15mmHg,25mmHg,35mmHgにそれぞれ設定される。ただし、これらの圧力は限定的ではなく、血圧測定に用いられるカフ圧(測定される最低血圧(拡張期血圧))よりも低い範囲で、実測値に基づいて決定すればよい。
【0055】
図5は、カフ圧が第1の圧力P1から第2の圧力P2まで変化する第1の時間336と、カフ圧が第3の圧力P3から第4の圧力P4まで変化する第2の時間346との関係を示す。丸印はそれぞれ、ピッタリ巻き状態で実測された第1の時間336と第2の時間346との関係を示す。三角印はそれぞれ、ユル巻き状態で実測された第1の時間336と第2の時間346との関係を示す。図示しないが、丸印で示すデータと三角印で示すデータに基づいて特性曲線を描いた場合、丸印で示すピッタリ巻き状態の特性曲線は、ユル巻き状態の特性曲線よりも緩い勾配を示す。また、ピッタリ巻き状態とユル巻き状態の両方において、第2の時間346は第1の時間336に応じて増加する。したがって、ピッタリ巻き状態とユル巻き状態の両方において、第1の時間336と第2の時間346は大凡線形な関係を示す。
【0056】
以上より、実施形態において、通常の血圧測定(被験者200が椅子に座った状態で行われる血圧測定)に対して、図5に示す第1の時間336と第2の時間346の関係に基づいて、実線の1次関数で示される通常ピッタリ巻き閾値350が、カフ10の巻き付け状態を判定するための通常の判定基準(通常判定基準)として設定されている。そして、カフ10を被験者200の左手首210に巻き付けた状態で、血圧測定開始スイッチ42Aがオンされると、カフ10に空気を供給し、そのときのカフ圧の変化に基づいて第1の時間336と第2の時間346が測定され、第1の時間336と第2の時間346の関係を通常ピッタリ巻き閾値350と比較することによって、カフ10がピッタリ巻き状態にあるか否か(又はユル巻き状態にあるか否か)判定される。
【0057】
一方、夜間の血圧測定(被験者200が横臥位の状態で行われる血圧測定)は、上述のように、予め定められたスケジュールに従って複数回行われるため、カフ10は緩み易い傾向がある。したがって、夜間の血圧測定において、カフ10は、容易に緩むことがないように、よりぴったりと巻き付けられている状態が好ましい。そこで、夜間の血圧測定に対して、夜間ピッタリ巻き閾値(第2の基準値)360は、夜間の血圧測定におけるカフ10の巻き付け状態が、通常の血圧測定における判定基準(通常判定基準)に比してカフ10の巻き付け状態の程度がきつくなる向きにシフトした厳格な判定基準(厳格判定基準)となるように、通常ピッタリ巻き閾値350よりも下に設定されている。そして、カフ10を被験者200の左手首210に巻き付けた状態で、夜間測定スイッチ42Bがオンされると、被験者が就寝する前に、カフに空気が供給され、そのときのカフ圧の変化に基づいて第1の時間336と第2の時間346が測定され、第1の時間と第2の時間の関係を夜間ピッタリ巻き閾値と比較することによって、カフがピッタリ巻き状態にあるか否か(又はユル巻き状態にあるか否か)判定される。
【0058】
実施形態において、通常ピッタリ巻き閾値350の一時関数と夜間ピッタリ巻き閾値360の一時関数は、例えば以下の数式1と数式2に設定されている。ただし、これらの関数は単なる一例であって、閾値は他の関数によって定義してもよい。
【0059】
(数1)
(第1の時間)=0.55×(第2の時間)+0.08
(数2)
(第1の時間)=0.55×(第2の時間)-0.05
【0060】
CPU110は、通常巻き付け判定プログラム又は夜間巻き付け判定プログラムを実施する場合、圧力センサ62により得られるカフ圧をもとに第1の時間336と第2の時間346を計算し、これら第1の時間336と第2の時間346から特定される点(図5上に表される点)が、対応する通常ピッタリ巻き閾値(一時関数)350又は夜間ピッタリ巻き閾値(一時関数)360の上の領域(ユル巻き領域)にあるか下の領域(ピッタリ巻き領域)にあるかによって、カフがユル巻き状態にあるかピッタリ巻き状態にあるかを判定する。判定結果は、例えば表示部30に表示される。
【0061】
[通常血圧測定モード]
通常の血圧測定について説明する。この場合、血圧計100のカフ10が被験者200の左手首210に巻き付けられている状態で、血圧計本体20の血圧測定スイッチ42Aが一度押下されると、通常の血圧測定指示(モード指示)がCPU110に出力される。これにより、CPU110はポンプ72と弁82を駆動してカフ10のカフ圧を増加し、左手首210を圧迫する。この状態で、上述の通常巻き付け判定プログラムが実施されて、カフ10がユル巻き状態であれば、「巻き直してください」という文字、又はカフ10がピッタリ巻き状態であれば、「巻き付けは適正です」という文字が表示部30に表示される。また、オシロメトリック法を用いる通常血圧測定プログラムが実施される。血圧測定中(例えば、カフ10の加圧中)、血圧測定スイッチ42Aが再び押下されると、ポンプ72が停止し、弁82が開放されて、血圧測定が停止される。
【0062】
図6は、被験者200が血圧計100により通常の血圧測定を実施するときの動作フローを示す。この通常の血圧測定の間、左手首210に血圧計100を装着した被験者200は、椅子などに座った状態を保つ。
【0063】
この状態で、図6のステップS1に示すように、被験者200が血圧計本体20に設けられている血圧測定スイッチ42Aを押下して通常の血圧測定指示を入力すると、CPU110は、圧力センサ62を初期化する(ステップS2)。具体的には、CPU110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ72を停止し、弁82を開いた状態で、圧力センサ62の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。
【0064】
次に、CPU110は、弁駆動回路84を介して弁82を閉じ(ステップS3)、続いて、ポンプ駆動回路74を介してポンプ72を駆動して、カフ10(空気袋12)の加圧を開始する(ステップS4)。このとき、CPU110は、ポンプ72からエア配管50を通して空気袋12に空気を供給しながら、圧力センサ62の出力に基づいて、空気袋12内の圧力であるカフ圧の加圧速度を制御する。
【0065】
圧力センサ62により出力されるカフ圧が所定の圧力に達していないとき(ステップS5でNOへ分岐するとき)、ステップS4を繰り返す。このとき、CPU110は、圧力センサ62により出力されるカフ圧の変化から、カフ圧が第1の圧力P1から第2の圧力P2になる時間、すなわち第1の時間336と、カフ圧が第3の圧力P3から第4の圧力P4になる時間、すなわち第2の時間346を得る。
【0066】
圧力センサ62により出力されるカフ圧が所定の圧力に達したとき(ステップS5でYESへ分岐するとき)、CPU110は、取得された第1の時間336と第2の時間346に基づいて、メモリ112に記憶されている上述の通常巻き付け判定プログラムを用いてカフ10の巻き付け状態を判定し、カフ10がユル巻き状態であれば、「巻き直してください」という文字、又はカフ10がピッタリ巻き状態であれば、「巻き付けは適正です」という文字を表示部30に出力する(ステップS6)。このように、カフ10の巻き付け状態が「適切」である場合に限り血圧測定を行うことによって、通常血圧測定モードで得られた測定結果は信頼性の高いものとなる。
【0067】
次に、ステップS7において、CPU110は、この時点で取得されている脈波信号に基づいて、メモリ112に記憶されている上述の通常血圧測定プログラムを用いて血圧値(最高血圧と最低血圧)を算出する。
【0068】
この時点で、CPU110は、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合(ステップS8でNOへ分岐する場合)、カフ圧が上限圧力(安全のために、例えば300mmHgというように予め定められている。)に達していない限り、ステップS4~S8の処理を繰り返す。
【0069】
血圧値が算出すると(ステップS8でYESへ分岐するとき)、CPU110は、ポンプ72を停止し(ステップS9)、弁82を開いて(ステップS10)、カフ10(空気袋12)内の空気を排気するよう制御する。
【0070】
その後、CPU110は、算出した血圧値を表示部30へ表示し(ステップS11)、血圧値をメモリ112へ保存するように制御する。
【0071】
[夜間血圧測定モード]
夜間の血圧測定について説明する。血圧計100のカフ10が被験者200の左手首210に巻き付けられている状態で、未就寝の被験者200が血圧計本体20の夜間測定スイッチ42Bを一度押下すると、夜間の血圧測定指示(モード指示)がCPU110に出力される。これにより、CPU110はポンプ72と弁82を駆動してカフ10のカフ圧を増加し、左手首210がカフ10により一時的に圧迫される。この状態で、上述の夜間巻き付け判定プログラムが実施されて、カフ10がユル巻き状態であれば、「巻き直してください」という文字、又はカフ10がピッタリ巻き状態であれば、「巻き付けは適正です」という文字が表示部30に表示される。
【0072】
その後、予め定められたスケジュールに従って夜間血圧測定プログラムが実施される。ただし、血圧計100が夜間の就寝中の被験者の血圧測定を実施するまでの時間に(例えば、所定の夜間血圧測定プログラムを実施する時刻までの待機時間内に)、夜間測定スイッチ42Bが再び押し下げられると、夜間血圧測定の停止が指示され、夜間血圧測定プログラムは実行されることがない。
【0073】
実施形態において、夜間血圧測定のスケジュールでは、夜間測定スイッチ42Bが押下されてから所定時間(例えば、4時間)経過した時点、また、必要であれば、この時点から所定時刻(例えば午前7時)まで、一定時間(例えば、2時間)経過ごとに、夜間血圧測定プログラムが実施される。夜間血圧測定の行われる時刻が夜間測定スイッチ42Bを押下した時点を基準に計算される形態において、夜間血圧測定プログラムは測定時刻を決定するプログラム(図示せず)を備えており、この時刻決定プログラムに基づいて測定時刻が決定される。
【0074】
夜間血圧測定の実施スケジュールはこれに限定されるものでなく、予め決められた予約時刻、例えば午前1時、2時、3時に、夜間血圧測定プログラムが実施されるように設定されてもよい。
【0075】
図7は、被験者200が血圧計100により夜間の血圧測定を実施するときの動作フローを示す。この夜間の血圧測定の間、左手首210に血圧計100を装着した被験者200は、ベッドなどに横たわった状態を保つ。
【0076】
この状態で、図7のステップS101に示すように、被験者200が血圧計本体20に設けられている夜間測定スイッチ42Bを押下して夜間の血圧測定指示を入力すると、CPU110は、カフ10の巻き付け状態を判定するプログラムを通常巻き付け判定プログラムから夜間巻き付け判定プログラムに切り替えて設定する(ステップS102)。
【0077】
次に、CPU110は、圧力センサ62を初期化する(ステップS103)。具体的には、CPU110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ72を停止し、弁82を開いた状態で、圧力センサ62の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。
【0078】
次に、CPU110は、弁駆動回路84を介して弁82を閉じ(ステップS104)、続いて、ポンプ駆動回路74を介してポンプ72を駆動して、カフ10(空気袋12)の加圧を開始する(ステップS105)。
【0079】
圧力センサ62により出力されるカフ圧が所定の圧力に達していない場合(ステップS106でNOへ分岐するとき)、CPU110は、ステップS105を繰り返し、圧力センサ62により出力されるカフ圧の変化から、カフ圧が第1の圧力P1から第2の圧力P2になる第1の時間336と、カフ圧が第3の圧力P3から第4の圧力P4になる第2の時間346を得る。
【0080】
圧力センサ62により出力されるカフ圧が所定の圧力(第4の圧力P4)に達すると(ステップS106でYESへ分岐するとき)、CPU110は、取得された第1の時間336と第2の時間346に基づいて、メモリ112に記憶されている上述の夜間巻き付け判定プログラムを用いてカフ10の巻き付け状態を判定し、カフ10がユル巻き状態であれば、「巻き直してください」という文字、又はカフ10がピッタリ巻き状態であれば、「巻き付けは適正です」という文字を表示部30に出力する(ステップS107)。ここで、夜間巻き付け判定プログラムでは、上述の厳格判定基準に従って、カフ10の巻き付け状態の適否を判定する。したがって、被験者は、カフ10の巻き付け状態が上記厳格判定基準に従って「適切」であると判定される程度に、カフ10の巻き付け状態を直すことができる。したがって、この血圧計100が上記夜間血圧測定モードで上記スケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する際に上記通常判定基準から見れば上記カフの巻き付け状態が「適切」に維持されることが期待される。したがって、この血圧計100によれば、上記夜間血圧測定モードで正確な血圧測定を行うことができる。
【0081】
CPU110は、上述の文字を表示した後、ポンプ72を停止し(ステップS108)、弁82を開いて(ステップS109)、カフ10(空気袋12)内の空気を排気するように制御する。
【0082】
次に、CPU110は、所定のスケジュールで定められた測定時刻であるか否かを判断し(ステップS110)、スケジュールで定められた測定時刻でなければ(ステップS110でNOへ分岐するとき)、該測定時刻になるまで待つ。
【0083】
上記測定時刻になるとき(ステップS110でYESへ分岐するとき)、CPU110は、図6のステップS2と同様に、圧力センサ62を初期化する(ステップS111)。
【0084】
次に、CPU110は、図6のステップS3,S4と同様に、弁駆動回路84を介して弁82を閉じ(ステップS112)、続いて、ポンプ駆動回路74を介してポンプ72を駆動して、カフ10(空気袋12)の加圧を開始する(ステップS113)。このとき、CPU110は、ポンプ72からエア配管50を通して空気袋12に空気を供給しながら、圧力センサ62の出力に基づいて、空気袋12内の圧力であるカフ圧の加圧速度を制御する。
【0085】
次に、ステップS114において、CPU110は、図6のステップS7と同様に、この時点で取得されている脈波信号に基づいて、メモリ112に記憶されている上述の夜間血圧測定プログラムを用いて血圧値(最高血圧と最低血圧)を算出する。
【0086】
この時点で、CPU110は、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合(ステップS115でNOへ分岐する場合)、カフ圧が上限圧力(安全のために、例えば300mmHgというように予め定められている。)に達していない限り、ステップS113,S114の処理を繰り返す。
【0087】
血圧値が算出されると(ステップS115でYESへ分岐する場合)、CPU110は、ポンプ72を停止し(ステップS116)、弁82を開いて(ステップS117)、カフ10(空気袋12)内の空気を排気するように制御する。
【0088】
その後、CPU110は、算出した血圧値を表示部30へ表示し(ステップS118)、血圧値をメモリ112へ保存するように制御する。
【0089】
上述のスケジュールで定められた1回の血圧測定が完了すると、CPU110は、上記スケジュールで定められた全ての血圧測定が完了したか否かを判断する(ステップS119)。上述のスケジュールで定められた血圧測定が未だ予定されている場合(ステップS119で「未完」へ分岐するとき)、CPU110は、ステップS110に戻り、上述のスケジュールで定められた次の測定時刻であるか否かを判断し、該測定時刻でなければ(ステップS110でNOへ分岐するとき)、該測定時刻になるまで待つ。
【0090】
上記スケジュールで定められた次の測定時刻になるとき(ステップS110でYESへ分岐するとき)、CPU110は、ステップS111~S118の処理を繰り返し、ステップS119において、再び、上記スケジュールにおいて定められた全ての血圧測定が完了したか否かを判断する。ここで、CPU110は、ステップS111~S118の処理を繰り返す間、不要な巻き付け判定が行われないように、ステップS103~S109までの夜間巻き付け判定プログラムを作動させない。したがって、上記スケジュールに従い2回目以降のステップS111~S118の処理によって血圧測定を自動的に開始する際に、カフ10の巻き付け状態の判定、判定された巻き付け状態の報知は、いずれも行われない。これにより、CPU110が無駄な判定を行い、無駄な報知を試みるのを防止できる。したがって、省電力に寄与することができる。
【0091】
上述のスケジュールで定められた全ての血圧測定が完了すると(ステップS119で「終了」へ分岐するとき)、CPU110は夜間の血圧測定を終了する。
【0092】
上述の通常と夜間の血圧測定において、カフ10がユル巻き状態であれば、「巻き直してください」という文字、又はカフ10がピッタリ巻き状態であれば、「巻き付けは適正です」という文字を表示(ステップS6,S107)することにより、被験者200は、実際に血圧測定が実施される前に、カフ10の巻き付け状態を把握できる。「巻き直してください」という文字が表示されているとき、被験者200は、血圧測定を停止し、カフ10を巻き直すことができる。したがって、カフ10は、被験者200の左手首210にピッタリ巻きの状態で巻き付けられ易くなるため、被験者200が就寝中であっても、被験者200の血圧は正確に測定できる。
【0093】
また、夜間の血圧測定において実施される夜間巻き付け判定プログラムは、通常巻き付け判定プログラムよりも小さな閾値、すなわち厳しい条件でカフ10の巻き付け状態を判定するため、被験者200は、よりぴったりと巻き付けられた状態又は少しきつめに巻き付けられた状態でカフ10を巻き付けることを促される。これにより、夜間の血圧測定において、カフ内で加圧と減圧が繰り返されても、カフ10の巻き付けは緩まず、血圧測定は正しく実施される。
【0094】
このように、この血圧計100によれば、上記夜間血圧測定モードでは、カフの巻き付け状態が適切な状態で、オシロメトリック法による血圧測定が行われる。したがって、この血圧計によれば、被験者の就寝中に血圧測定を行う場合に、正確な血圧測定を行うことができる。
【0095】
血圧計100は、被測定部位としての手首(実施形態では左手首210としたが、右手首でもよい。)を圧迫するタイプであるから、上腕を圧迫するタイプに比べて、被験者200の睡眠を妨げ難いことが期待される(Imai et al., “Development and evaluation of a home nocturnal blood pressure monitoring system using a wrist-cuff device”, Blood Pressure Monitoring 2018, 23,P318-326)。したがって、上記血圧計100は夜間血圧測定に適する。
【0096】
また、血圧計100は、手首式血圧計として一体かつコンパクトに構成されているため、被験者200が扱い易い。
【0097】
[他の実施形態]
上述の実施形態では、CPU110は、夜間の血圧測定におけるステップS102において、厳しい条件でカフ10の巻き付け状態を判定するため、通常巻き付け判定プログラムから夜間巻き付け判定プログラムに切り替えるが、図8に示すように、切り替えずに、夜間の血圧測定においても通常巻き付け判定プログラムを実施してもよい。
【0098】
上述の実施形態では、CPU110は、カフ10(空気袋12)の加圧過程で血圧を算出したが、カフの減圧過程で血圧を算出してもよい。
【0099】
上述の実施形態では、血圧計100は、カフ10がユル巻き状態であれば、「巻き直してください」という文字、又はカフ10がピッタリ巻き状態であれば、「巻き付けは適正です」という文字を表示する表示部30を備えるが、該文字の内容を音声で読み上げることで報知する音声報知部によって巻き付け判定結果を被験者に通知してもよい。
【0100】
上述の実施形態では、血圧計100は、通常の血圧測定指示が入力される血圧測定スイッチ42Aと、夜間の血圧測定指示が入力される夜間測定スイッチ42Bを備えるが、例えば、血圧計の外部に存在するスマートフォン等から無線通信を介して、血圧計の信号受信部が指示(モード指示)を受け付け、この信号受信部が受信する信号を通常の血圧測定スイッチ又は夜間測定スイッチからCPUに出力される信号に代えてもよい。
【0101】
上述の実施形態では、血圧計100は、血圧測定スイッチ42Aが通常の血圧測定指示の信号をCPU110に出力し、夜間測定スイッチ42Bが夜間の血圧測定指示の信号をCPU110に出力するように構成されているが、例えば、血圧測定スイッチを1回押下することにより、通常の血圧測定指示の信号(モード指示)をCPUに出力し、血圧測定スイッチを一定時間内に2回押下することにより、夜間の血圧測定指示の信号(モード指示)をCPUに出力するように構成されてもよい。
【0102】
上述の実施形態では、血圧計本体20は、カフ10に一体に取り付けられているが、カフと別体に設けられ、可撓性のエアチューブを介してカフ10(空気袋12)と流体流通可能に接続されてもよい。
【0103】
上述の実施形態では、通常血圧測定プログラム、夜間血圧測定プログラム、通常巻き付け判定プログラム、夜間巻き付け判定プログラム、及びこれらのフローは、ソフトウェアとしてメモリ112に記憶されているが、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル万能ディスク)、フラッシュメモリなどの非一時的な媒体に記録されてもよい。上述の媒体に記録されたソフトウェアを、パーソナルコンピュータ、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタンツ)、スマートフォンなどの実質的なコンピュータ装置にインストールすることにより、それらのコンピュータ装置に、上述のプログラムとフローを実行させることができる。
【符号の説明】
【0104】
100:血圧計、10:カフ、30:報知部(表示部)、40:モード操作部、62:圧力センサ、110:第1判定部(CPU)、210:手首。
図1
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図8