(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】苗木生育方法及び苗木生育システム
(51)【国際特許分類】
A01G 22/00 20180101AFI20231017BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20231017BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A01G22/00
A01G7/00 601Z
A01G7/00 601A
A01G7/00 603
A01G7/02
(21)【出願番号】P 2019207956
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】下山 真人
(72)【発明者】
【氏名】溝田 陽子
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-020222(JP,A)
【文献】特開2008-048664(JP,A)
【文献】特開2013-172698(JP,A)
【文献】特開2016-086672(JP,A)
【文献】特開2001-061342(JP,A)
【文献】特開2005-237371(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119330(WO,A1)
【文献】特開2015-112082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/00-22/67
A01G 7/00
A01G 2/00- 2/38
A01G 17/00-17/18
A01G 31/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の苗木の生育方法において、
環境条件を調整可能な苗木生育施設内の環境条件を、前記苗木の種類の発芽用の環境条件に調整して、播種処理を行ない、
前記苗木生育施設を前記苗木の生育用の環境条件に調整して育成処理を行ない、
前記苗木生育施設を、前記育成処理の環境条件から前記苗木の出荷時の外の環境条件に慣らすための環境条件に変更した馴化処理を連続的に行なった後、出荷処理を行
い、
前記播種処理、前記育成処理、前記馴化処理及び前記出荷処理は、前記苗木の休眠期を設けずに行われ、
前記生育用の環境条件として、日長時間を1日あたり16時間以上に調整することを特徴とする苗木生育方法。
【請求項2】
前記苗木の出荷時期から逆算した開始時期から前記播種処理、前記育成処理、前記馴化処理及び前記出荷処理
を行なうことを特徴とする請求項1に記載の苗木生育方法。
【請求項3】
前記育成処理において、前記苗木の葉の状態に関する情報を取得し、前記葉の状態に基づいて照射する人工光の条件を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の苗木生育方法。
【請求項4】
前記育成処理において、測定された前記苗木の光合成量と、前記苗木の状態及び前記苗木が植えられた培地の状態の少なくとも1つとに応じて、前記苗木に供給する液体の量を調整することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の苗木生育方法。
【請求項5】
環境条件を調整可能な苗木生育施設内で樹木の苗木を生育するシステムにおいて、
前記苗木生育施設の環境条件を制御する制御部は、
播種期間において、前記苗木生育施設内の環境条件を前記苗木の種類の発芽用の環境条件に調整し、
育成期間において、前記苗木生育施設内の環境条件を前記苗木の生育用の環境条件に調整し、
前記育成期間から連続的に設定される馴化期間において、前記苗木生育施設内の環境条件を前記
生育用の環境条件から前記苗木の出荷時の外の環境条件に慣らすための環境条件に変更し、
前記馴化期間の後に、前記苗木が出荷され、
前記播種期間、前記育成期間、前記馴化期間、及び、前記出荷までの間には、前記苗木の休眠期が設けられておらず、
前記生育用の環境条件として、日長時間を1日あたり16時間以上に調整することを特徴とする苗木生育システム。
【請求項6】
前記苗木生育施設は、前記制御部の指示に応じて、温度、湿度、気流、二酸化炭素の濃度、前記苗木に供給する液体の温度、前記液体の供給量、人工光の光強度、前記人工光のスペクトル中のRGB比率、前記人工光の日長時間の少なくとも1つを調整可能な空間であることを特徴とする請求項5に記載の苗木生育システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植林用の苗木を生育する苗木生育方法及び苗木生育システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、苗木を、圃場に播種して発芽させた後、数年間育成して、林地に植林する。しかし、圃場での播種の発芽率は、天候等の影響を受けて不安定であり、露地の圃場での播種の発芽率は、30%以下である。また、育成時においても、気象条件や病虫害、ネズミなどの食害の影響を受けため、苗木の生産は不安定である。そこで、屋内の施設を用いて、苗木を生育することが行なわれている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1には、親木から採穂された穂木を挿し付けて発芽させる自動潅水設備を備えた屋内育苗施設と、苗木を屋内環境にて養生する屋内置場と、屋内置場にて養生された苗木を屋外環境にて更に養生する屋外置場とを備える。また、特許文献2の植物栽培施設では、日長時間、気温や培養液の設定温度等を変更して、休眠導入後、すぐに休眠打破を行なって、成長期間を長くして樹木を育成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-75534号公報
【文献】特開2019-68768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹木は、日長が8時間~12時間程度になると、休眠して2~4週間で冬芽を形成して成長しなくなる。そして、7℃以下の低温に1500時間~2000時間、晒されることにより休眠打破して、再び成長する。このような成長周期のため、樹木の苗木を林地に植林するに適した大きさにするのに数年の期間を必要としていた。また、露地での生育においては、霜害等の気象による影響や害虫による影響を受け、生産が不安定である。特許文献1に示したように、ビニールハウスを使用する方法では、霜害等の影響は少ないが、夏季の高温対策などの環境の影響を受ける。従って、苗木の歩留まりが低く、また、出荷するまで長期間を必要として、生産性向上が難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する苗木生育方法は、環境条件を調整可能な苗木生育施設内の環境条件を、前記苗木の種類の発芽用の環境条件に調整して、播種処理を行ない、前記苗木生育施設を前記苗木の生育用の環境条件に調整して育成処理を行ない、前記苗木生育施設を、前記育成処理の環境条件から前記苗木の出荷時の外の環境条件に慣らすための環境条件に変更した馴化処理を連続的に行なった後、出荷処理を行なう。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、苗木の歩留まりを向上させて、短期間で出荷することができ、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の苗木生育システムの概略構成図。
【
図2】本実施形態における苗木生育処理のタイムスケジュールを説明する説明図であって、(a)は本実施形態で生育した苗木、(b)は裸苗の苗木、(c)は露地のコンテナ苗の苗木、(d)はビニールハウスを用いて栽培したコンテナ苗の苗木を示す。
【
図3】本実施形態の各期間における制御内容を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図3を用いて、苗木生育方法及び苗木生育システムを具体化した一実施形態について説明する。本実施形態では、林地に植林される苗木を生育する場合を想定する。
【0010】
まず、
図1を用いて、苗木を生育するための苗木生育システムとしての植物栽培施設10について説明する。植物栽培施設10は、通常状態で、外界に隔離された閉空間である。なお、植物栽培施設10にはドアが設けられており、人の出入りの場合のみ開放される。これにより、実質的に閉空間を維持する。
【0011】
植物栽培施設10には、栽培床11が配置されている。栽培床11は、循環される液体としての培養液が滞留する滞留部12を備える。この滞留部12には、培養液を循環させる循環路が接続されている。滞留部12の上方には、空気層をおいて、複数の人工培地15が設けられる。人工培地15は、水平方向に離間して配置され、例えば、滅菌されたウレタン等の多孔質体で構成される。各人工培地15には、苗木P1が植えられる。この苗木P1の根は、滞留部12内において流れる培養液に浸漬される。
【0012】
栽培床11の上方には、複数の光源16,17が配置されている。光源16,17は、苗木P1に、日照として人工光を照射する人工光照明装置である。ここでは、苗木P1が成長した場合に、光源16が苗木P1の上部を、光源17が苗木P1の下部を照らす。光源16,17は、光強度(光合成光量子束密度)と、人工光に含まれる波長(スペクトル中のRGB比率)とを調整可能な光源である。本実施形態では、光源16,17として、蛍光灯型LED(発光ダイオード)を用いる。
【0013】
植物栽培施設10には、気温検出部21及び空調装置22が設けられている。気温検出部21は、植物栽培施設10内の温度を検出し、この温度情報を、後述する制御ユニット50に供給する。空調装置22は、制御ユニット50からの指示に応じて、植物栽培施設10内を温度、湿度及び気流の調整を行なう。
【0014】
更に、植物栽培施設10には、CO2濃度検出部23が設けられている。このCO2濃度検出部23は、植物栽培施設10内の二酸化炭素(CO2)濃度を検出し、この濃度情報を制御ユニット50に供給する。
【0015】
植物栽培施設10には、オフィス(図示せず)の排気を室内に供給する炭酸ガス供給部25が接続されている。この炭酸ガス供給部25は、気体供給ポンプ27及び気体供給バルブ28が取り付けられている気体供給管26を備えている。気体供給ポンプ27は、オフィスの排気(炭酸ガス)を植物栽培施設10の空間に圧送する。この排気には、比較的濃い濃度のCO2が含まれている。気体供給バルブ28は、オフィスからの排気の供給量を調整する。そして、制御ユニット50からの指示に基づいて、気体供給ポンプ27が稼働されると、オフィスからの排気が植物栽培施設10に供給される。
【0016】
また、植物栽培施設10の滞留部12には、貯蔵部30の培養液が供給管31を介して供給される。この供給管31には、培養液を滞留部12に供給するための供給ポンプ33が設けられている。更に、滞留部12は、排出管32を介して貯蔵部30に接続されている。排出管32には、滞留部12から貯蔵部30に培養液を還流させるための排出ポンプ34が設けられている。
【0017】
貯蔵部30は、滞留部12から還流された培養液を蓄積し、液温調整部30a、養分調整部30b及び液供給調整部30cを備える。液温調整部30aは、液温検出部及び熱交換器を備える。液温検出部は、培養液の温度を検出する。熱交換器は、培養液を加熱又は冷却する。養分調整部30bは、養分検出部及び濃度調整部を備える。養分検出部は、養分濃度(肥料濃度)を検出し、養分濃度情報を制御ユニット50に供給する。濃度調整部は、制御ユニット50からの指示に応じて必要な養分を、培養液に追加する。液供給調整部30cは、人工培地15の含水率に基づいて、貯蔵部30から供給する培養液の量を調整する。
【0018】
更に、植物栽培施設10内には、撮像装置としての複数のカメラ41が設けられている。このカメラ41は、苗木P1の全体、苗木P1の葉、苗木P1が植えられた人工培地15をカラーで撮影し、撮影画像を制御ユニット50に供給する。この撮影画像は、苗木P1の葉や苗木P1が植えられた培地の状態の判定に用いられる。そして、この判定結果に応じて、光強度や潅水量(培養液の供給量)を調整する。
【0019】
また、植物栽培施設10内には、光合成量測定装置42が設けられている。この光合成量測定装置42は、苗木P1の葉における光合成量を測定し、この測定データを制御ユニット50に供給される。測定された光合成量は、潅水量を特定するために用いられる。
【0020】
(制御ユニット50の構成)
植物栽培施設10内の環境条件は、制御ユニット50によって制御される。
制御ユニット50は、CPU、RAM及びROM等のメモリ等を備えた制御手段である。制御ユニット50は、スケジュール管理部51、室温制御部52、気流制御部53、CO2制御部54、培養液管理部55、状態特定部56、光源制御部57を備える。制御ユニット50は、内蔵するシステムタイマのカレンダーを用いて現在の月日(現在日)を特定する。また、制御ユニット50は、管理者端末(図示せず)に接続され、管理者端末から、生育する苗木P1の種類、出荷時期の情報、各種の設定情報等を取得する。
【0021】
スケジュール管理部51は、苗木P1の播種から出荷までの生育スケジュールを記憶し、この生育スケジュールに応じて、植物栽培施設10内の環境条件を管理する。本実施形態では、苗木P1は、播種期間T1、育成期間T2、馴化期間T3を経て、出荷される。播種期間T1は、苗木P1の種を蒔いてから本葉が生えるまで栽培する播種処理を行なう期間である。育成期間T2は、本葉が生えた苗木P1を、出荷可能な大きさとなるまで育成する育成処理を行なう期間である。馴化期間T3は、出荷可能な大きさまで育成した苗木P1を、出荷時の環境に慣らす馴化処理を行なう期間である。この馴化により、出荷後に枯死や衰弱を抑制する。
【0022】
本実施形態では、スケジュール管理部51は、生育スケジュールとして、播種期間T1として3週間、育成期間T2として2か月、馴化期間T3として3週間を記憶している。なお、スケジュール管理部51は、管理者端末からの指示に応じて、育成期間T2及び馴化期間T3を延長し、延長した期間を用いることができる。
【0023】
更に、スケジュール管理部51は、各期間(T1,T2,T3)に対応して環境条件を記憶している。
スケジュール管理部51は、播種期間T1に関連付けて、苗木P1の種類に応じた環境条件を記憶している。例えば、カラマツの場合は、湿潤した培地に播種した種子を、2週間前後、低温処理した(10℃の気温に置いた)後、15℃、20℃、25℃というように段階的に温度を上げる環境条件を用いて発芽させる。発芽後では、温度を23℃に下げて、照明を連続して点灯という環境条件を用いて育成させる。また、コウヨウザンでは、25℃の気温で播種させて、発芽後は、23℃~25℃で照明を連続して点灯という環境条件を用いて育成させる。
【0024】
スケジュール管理部51は、育成期間T2において、日長時間を16時間、気温の設定温度を25℃、培養液の設定温度を15℃~20℃、CO2濃度の設定濃度を1000ppmとする環境条件を用いる。
【0025】
また、スケジュール管理部51は、馴化期間T3に関連付けて、日長時間及び温度に関する環境条件を記憶している。ここでは、日長時間として12時間~16時間を用いる。更に、温度として、出荷直前の一定期間(例えば1週間)は、出荷時期の平均外気温を用いる。そして、出荷直前の一定期間の前までは、育成期間T2の設定温度から出荷時期の平均外気温に段階的に温度を昇降させる環境条件を用いる。
【0026】
このため、スケジュール管理部51は、出荷時期に応じた平均外気温を記憶している。そして、スケジュール管理部51は、管理者端末から出荷時期を取得して、この出荷時期に応じた平均外気温を特定し、所定期間内に段階的に平均外気温になるように算出された「馴化期間T3における各日の温度」記憶する。例えば、出荷時期が春先(4月頃)の場合には、出荷時期の外気温は16℃程度であるため、育成期間T2の設定温度(25℃)から16℃に設定温度を段階的に低く変更した後、一定期間、16℃に設定される。
【0027】
室温制御部52は、気温検出部21が検出した植物栽培施設10の気温に基づいて、植物栽培施設10内の気温が設定温度になるように空調装置22を制御する。
気流制御部53は、空調装置22を制御して、植物栽培施設10の気流を制御する。本実施形態では、気流制御部53は、育成期間T2及び馴化期間T3中、植物栽培施設10内において、空気の淀みを抑制させるために、気流を生じさせる。
【0028】
CO2制御部54は、植物栽培施設10内の二酸化炭素濃度が、予め設定された濃度となるように、炭酸ガス供給部25を制御する。このため、CO2制御部54は、CO2濃度検出部23が検出した植物栽培施設10のCO2濃度に基づいて、オフィス排気の供給量を制御する。本実施形態では、育成期間T2及び馴化期間T3中は、1000ppmのCO2濃度を用いる。
【0029】
培養液管理部55は、貯蔵部30において貯蔵された培養液の温度、養分濃度及び供給量を管理する。培養液管理部55は、液温調整部30aから取得した液温情報に基づいて、培養液が所定の設定温度になるように、液温調整部30aの熱交換器を制御する。本実施形態においては、液温調整部30aにおける設定温度として、20℃~22℃を用いる。また、培養液管理部55は、培養液の養分濃度が所定値になるように、養分調整部30bから取得した養分濃度情報に応じて、濃度調整部を制御する。
【0030】
更に、培養液管理部55は、潅水量調整部55aを備える。潅水量調整部55aは、供給ポンプ33及び排出ポンプ34の駆動を制御して、潅水量を調整する。この潅水量調整部55aは、状態特定部56から、苗木P1の大きさ、葉の開閉状態、培地の乾燥状態に関する乾燥状態データを取得する。更に、潅水量調整部55aは、光合成量測定装置42から光合成量測定データを取得する。そして、潅水量調整部55aは、取得した乾燥状態データ及び光合成量測定データに応じて潅水量を特定する潅水量テーブルを有する。
【0031】
潅水量調整部55aは、通常は、供給ポンプ33及び排出ポンプ34を駆動させて、一定の流速(例えば20cm/s程度)で、滞留部12において培養液を流す。一方、培養液の供給量を少なくする場合には、供給ポンプ33を停止し、排出ポンプ34を駆動して、滞留部12から培養液を排出する。また、培養液の供給量を多くする場合には、供給ポンプ33を駆動し、排出ポンプ34を停止する。
【0032】
状態特定部56は、カメラ41からの撮影画像の画像認識や色解析により、苗木P1の大きさ(高さや幹の太さ)、苗木P1の葉の色、葉の開閉状態、培地の乾燥状態を特定する。そして、状態特定部56は、特定した各状態に関する情報を培養液管理部55及び光源制御部57に供給する。
【0033】
光源制御部57は、日長時間制御部57a、光強度制御部57b,スペクトル制御部57cを備える。
日長時間制御部57aは、光源16,17の照明機構部のスイッチのオンオフ制御により日長時間を制御する。日長時間とは、1日における明期の時間であり、照明が点灯する時間である。日長時間制御部57aは、日長時間を、育成期間T2には16時間、馴化期間T3には12時間~16時間に制御する。
【0034】
光強度制御部57bは、光源16,17の光量子量の可変制御を行なう。光強度制御部57bは、光源16,17の光強度の制御を行なう日照制御データが記憶されている。この日照制御データには、日長時間に応じた日中の太陽光の光強度のパターンと同じになるように、1日の日長時間に応じた人工光の光強度(光量子量)に関する日照制御パターンが含まれている。
【0035】
更に、光強度制御部57bは、状態特定部56から取得した苗木P1の大きさに応じた成長度合いに応じて光強度を段々と高く調整する。更に、光強度制御部57bは、画像認識により葉の開閉状態に応じて葉が丸まっていると判定した場合には、光強度を一定量や一定割合で低くする調整を行なう。
【0036】
スペクトル制御部57cは、色解析による苗木P1の葉の色に応じて、光源16,17が照射する人工光のスペクトルを制御する。樹木は、葉の色を調整することにより成長に必要なスペクトルを受光し易くしているので、樹木の葉は、不要なスペクトルの波長を反射するため、不要なスペクトルの波長に応じた色になる。このため、スペクトル制御部57cは、色に対応するスペクトルのRGB比率を特定する調整テーブルを記憶する。スペクトル制御部57cは、色解析により特定した葉の色に応じたスペクトルのRGB比率を、調整テーブルを用いて特定する。そして、スペクトル制御部57cは、特定したRGB比率の人工光を光源16,17が照射するように、光源16,17のスペクトルをそれぞれ調整する。
【0037】
<栽培スケジュール>
次に、
図2及び
図3を用いて、上述した植物栽培施設10を用いて、苗木P1を生育する栽培スケジュールについて説明する。
【0038】
図2(a)に示すように、本実施形態では、1年間で3回、苗木P1を育成できる。苗木P1は、一般的に、春先~梅雨頃、秋~初冬に出荷される。本実施形態では、植物栽培施設10の制御ユニット50は、管理者端末から、植物栽培施設10内において苗木P1の種が蒔かれた年月日、苗木P1の種類、出荷時期を取得する。これにより、制御ユニット50のスケジュール管理部51は、記憶している生育スケジュールを用いて、種が蒔かれた年月日と出荷時期から、育成期間T2及び馴化期間T3の開始日を算出する。例えば、12月に種が蒔かれて、出荷時期が4月初旬の場合には、1月に育成期間T2を開始し、3月に馴化期間T3を開始する。
【0039】
図3に示すように、苗木P1の種が蒔かれた情報を取得した制御ユニット50は、播種期間T1では、苗木P1の種類に応じた発芽に適した環境条件に、植物栽培施設10内を設定する。具体的には、カラマツやコウヨウザンの苗木P1の場合には、制御ユニット50は、室温制御部52を制御して、それぞれの発芽に適した気温で発芽させる。発芽した後は、温度を例えば25℃に設定し、光強度を調整しながら光源16,17を連続して点灯して、苗木P1を生育する。
【0040】
その後、育成期間T2の開始日に到達と判定した場合、制御ユニット50は、温度、湿度、気流、CO2濃度を調整することで苗の育成に必要な環境条件に変更する。この場合、制御ユニット50のスケジュール管理部51は、室温制御部52、気流制御部53、CO2制御部54、培養液管理部55及び光源制御部57を制御する。
【0041】
室温制御部52は、植物栽培施設10の気温を25℃となるように、気流制御部53は、植物栽培施設10内に常に気流が生じるように、空調装置22を制御する。
更に、CO2制御部54は、CO2濃度の設定濃度を1000ppmとなるように炭酸ガス供給部25を制御する。
【0042】
培養液管理部55は、培養液の設定温度を15℃~20℃となるように貯蔵部30の液温調整部30aを制御する。
また、光源制御部57の日長時間制御部57aは、日長時間が16時間となるように光源16,17のオンオフ制御を行ない、光源制御部57の光強度制御部57bは、16時間日長に応じた光強度パターンを用いて光源16,17の光強度を制御する。
【0043】
この育成期間T2において、制御ユニット50の状態特定部56は、カメラ41からの撮影画像を取得し、苗木P1の大きさ、苗木P1の葉の色、葉の開閉状態、培地の乾燥状態等を特定する。そして、特定した情報を、培養液管理部55及び光源制御部57に供給する。
【0044】
光源制御部57は、人工光のスペクトル中のRGB比率及び光強度を調整する。通常、新芽と成熟した葉、上層の葉と下層の葉では、葉の色が変化する。このため、苗木P1において成長段階の葉の色に応じてRGB比率、上層の葉を照らす光源16の人工光のRGB比率、下層の葉を照らす光源17の人工光のRGB比率を調整する。
【0045】
また、培養液管理部55は、撮影画像に基づいた苗木P1の大きさ、葉の開閉状態、培地の乾燥状態等のデータ、光合成量測定装置42からの測定データと、潅水量テーブルとを用いて、潅水量を特定する。そして、培養液管理部55は、特定した潅水量となるように供給ポンプ33及び排出ポンプ34を制御する。
【0046】
その後、馴化期間T3の開始日に到達と判定した場合には、制御ユニット50は、温度及び湿度を上述したように制御する。この場合、制御ユニット50は、気流、CO2濃度、スペクトル中のRGB比率及び潅水量は、育成期間T2と同じ値に制御する。更に、制御ユニット50は、光源16,17の照明機構部のスイッチに対してオンオフを制御することにより、出荷する時期の日長、例えば日長時間が12時間~16時間になるように調整する。
【0047】
図2(b)~(d)には、本実施形態の栽培方法と比較するために、露地に植えた裸苗、露地に植えたコンテナ苗、ビニールハウスで育成して露地で馴化させたコンテナ苗におけるスケジュールを表示する。
露地の裸苗及びコンテナ苗では、例えば、前年の10月に種を蒔いて冬眠させた後、春先の4月頃に発芽させる播種処理を行なう。そして、4月から9月まで育成する。その後、10月の2週間~4週間において休眠導入を行ないながら育成し、11月から休眠して、翌年(2年目)の4月~5月頃まで越冬を行なって、休眠打破を行なって育成を開始する。コンテナ苗は、休眠打破の時期に移植される。そして、2年目の11月頃に出荷される。
【0048】
また、ビニールハウスで育成して露地で馴化させるコンテナ苗では、例えば、前年の10月に種を蒔いて冬眠させた後、外が寒い2月中旬に発芽させる播種処理を行なう。そして、3月から6月ぐらいまでは、苗木P1をビニールハウスにおいて育成させる。その後、梅雨前に露地に出して馴化させた後、露地で10月ぐらいまで育成させる。その後、休眠導入を行ないながら育成し、11月から休眠させて、翌年(2年目)の4月~5月頃まで越冬した後、出荷する。
従って、露地の裸苗及びコンテナ苗は、約2年に1回、出荷され、ビニールハウスで育成して露地で馴化させるコンテナ苗は、約1.5年に1回、出荷される。これに対して、本実施形態の栽培方法で育成した苗木は、年3回、出荷される。
【0049】
(作用)
播種期間T1において、植物栽培施設10内を、苗木P1が発芽し易い環境条件に調整して苗木P1を発芽させるので、歩留まりを向上させることができる。更に、育成期間T2において、16時間の日長時間で連続して苗木P1を育成する。これにより、休眠させなくても、苗木P1を連続して早期に成長させることができる。また、馴化期間T3において、出荷時期の外気温に応じて苗木P1を慣らすので、苗木P1の枯死や衰弱を抑制することができる。
【0050】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、制御ユニット50は、植物栽培施設10内において、苗木P1の生育に適した環境条件に管理しながら、苗木P1を育成する。これにより、高温等の気象による影響を抑制して、成長し易い環境条件下で苗木P1を育成するので、苗木P1を通常の2倍以上早く育成することができる。そして、本発明者は、苗木P1は、休眠期間を設けなくても連続して生育できるという知見を得た。この知見に基づいて、連続的に育成期間T2、馴化期間T3を設定して、年3回、苗木P1を出荷することができる。
【0051】
(2)本実施形態では、制御ユニット50は、苗木P1の種類に適した発芽条件に、植物栽培施設10内の環境条件を設定する。これにより、苗木P1が発芽し易く、歩留まりを向上させることができる。
【0052】
(3)本実施形態では、制御ユニット50は、カメラ41からの撮影画像に基づいて、葉の色に応じて、光源16,17のスペクトル中のRGB比率を調整する。これにより、苗木P1の葉が必要とするスペクトルを強くした人工光を葉に供給することができるので、苗木P1を早期育成することができる。
【0053】
(4)本実施形態では、植物栽培施設10内において、苗木P1の上方及び下方に、光源16,17を配置する。苗木P1の上方の葉及び下方の葉においては、色が異なることがあるため、高さに応じた葉に適したスペクトルの人工光を供給することができる。
【0054】
(5)本実施形態では、培養液管理部55は、植物栽培施設10内の光合成量測定装置42からの測定データと、状態特定部56が撮影画像に基づいて特定した状態情報とを用いて、潅水量を調整する。これにより、人による作業をなくして、自動的に、水分過多による根系の蒸れや根腐れの抑制及び乾燥による枯れの抑制等を行なうことができる。また、培養液の使用量を削減して、省コスト化を図ることもできる。
【0055】
(6)本実施形態では、制御ユニット50は、馴化期間T3において、出荷時期の平均外気温に応じた気温を用いて、苗木P1を生育する。これにより、出荷時に、植物栽培施設10から屋外に出した際の枯死や衰弱を抑制することができる。特に、出荷時期が夏の暑い時期であっても、その環境に対応できる。また、馴化期間T3における日長時間を、出荷する時期の日長へ変化させるため、環境変化への耐性を作ることができる。
【0056】
(7)本実施形態では、制御ユニット50は、出荷時期から逆算した播種期間T1、育成期間T2、馴化期間T3のスケジュールを特定し、このスケジュールに対応する環境条件に、植物栽培施設10内の環境条件を設定する。これにより、苗木P1の成長段階に応じた環境条件を効率的に実現することができる。
【0057】
(8)本実施形態では、植物栽培施設10内に配置された栽培床11の滅菌した人工培地15に植えた苗木P1の根を、液温及び養分を調整され循環される培養液に浸漬して生育する。これにより、培養液が流れるので、培養土に起因する病害や害虫等の影響を抑制できる。また、苗木P1の根による人工培地15の抱き込みや絡みを抑制できる。従って、植林の際に苗木P1の持ち運びが容易であり、活着率を向上させることができる。
【0058】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態の制御ユニット50は、育成期間T2において、日長時間を16時間として苗木P1を生育した。育成期間T2における日長時間(明期)はこれに限られない。例えば、育成期間T2においては、24時間、連続、日照してもよい。
【0059】
・上記実施形態の制御ユニット50は、馴化期間T3における日長時間を、出荷する時期の日長へ変化させた。馴化期間T3における日長時間は、これに限られず、休眠期に入る前の12時間~16時間未満を用いてもよい。
【0060】
・上記実施形態においては、制御ユニット50が、出荷時期に応じて、育成期間T2及び馴化期間T3の開始日を算出し、生育スケジュールに応じた環境条件を記憶した。これに代えて、カレンダーに応じて、手作業で育成期間T2や馴化期間T3の開始日を決定してもよい。例えば、晩秋に播種期間T1を開始した場合には、育成期間T2や馴化期間T3を数か月長くして、春先に出荷してもよい。また、育成期間T2や馴化期間T3における温度、湿度、光強度等の光環境について、個別に調整してもよい。この場合、制御ユニット50は、これらの環境条件について、管理端末からの入力指示を受け付け、これに応じて、空調装置22、炭酸ガス供給部25、培養液を供給する供給ポンプ33、排出ポンプ34、光源16,17等を操作して、植物栽培施設10内の環境条件の調整を行なってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、制御ユニット50は、育成期間T2を2か月半とした。育成期間T2は、これに限られず、育成期間T2を更に長くして、より大きな苗木P1に成長させてもよい。この場合、従来必要とされていた休眠期間を設けなくても、苗木P1を連続して育成することができる。
【0062】
・上記実施形態においては、制御ユニット50は、カメラ41からの撮影画像に基づいて特定した乾燥状態データ及び光合成量測定データと、潅水量テーブルとを用いて、潅水量を調整した。そして、制御ユニット50は、葉の色に応じたスペクトルのRGB比率を、調整テーブルを用いて特定し、特定したRGB比率の人工光を照射するように、光源16,17をそれぞれ調整する。これらの調整を、機械学習を用いて行なってもよい。具体的には、苗木P1の撮影画像、葉の撮影画像、培地の撮影画像及び光合成量測定値、潅水量を入力層に用い、育成結果(良好又は不良)を出力層とする教師データを用いて、機械学習により、苗木の大きさ、葉の状態及び培地の状態、潅水量から育成結果を予測する予測モデルを生成する。そして、苗木P1の撮影画像、葉の撮影画像、培地の撮影画像及び光合成量測定値を取得した場合、順次変更した潅水量を、この予測モデルに入力し、育成結果を予測する。そして、良好な育成結果を予測した潅水量を用いる。
【0063】
また、苗木P1の撮影画像、葉の撮影画像、培地の撮影画像及び光合成量測定値を入力層に用い、良好な育成結果となった潅水量を出力層とする教師データを用いて、機械学習により、苗木の大きさ、葉の状態及び培地の状態から、良好な育成のための潅水量を予測する予測モデルを生成してもよい。そして、苗木P1の撮影画像、葉の撮影画像、培地の撮影画像及び光合成量測定値を取得した場合、この予測モデルに入力し、適切な潅水量を予測する。
また、葉の色の撮影画像を入力層、良好な育成結果となったスペクトルのRGB比率を出力層とする教師データを用いて、機械学習により、葉の状態から照射する人工光のスペクトルのRGB比率を予測する予測モデルを生成する。そして、この予測モデルと、取得した撮影画像とを用いて、人工光のスペクトルのRGB比率を予測する。
【0064】
更に、スペクトル制御部57cは、人工光のスペクトルのRGB比率だけでなく、苗木P1の大きさや葉の色に基づいて、遠赤外線領域や紫外線領域の光強度も調整してもよい。遠赤外線領域のスペクトルは、苗木の太さ、葉の厚さの促進に有効であり、紫外線領域スペクトル(UV-A(315~400nm))は、花芽の形成の促進、徒長抑制の働きに有効である。
【符号の説明】
【0065】
P1…苗木、T1…播種期間、T2…育成期間、T3…馴化期間、10…植物栽培施設、11…栽培床、12…滞留部、15…人工培地、16,17…光源、21…気温検出部、22…空調装置、23…CO2濃度検出部、25…炭酸ガス供給部、26…気体供給管、27…気体供給ポンプ、28…気体供給バルブ、30…貯蔵部、30a…液温調整部、30b…養分調整部、30c…液供給調整部、31…供給管、32…排出管、33…供給ポンプ、34…排出ポンプ、41…カメラ、42…光合成量測定装置、50…制御ユニット、51…スケジュール管理部、52…室温制御部、53…気流制御部、54…CO2制御部、55…培養液管理部、55a…潅水量調整部、56…状態特定部、57…光源制御部、57a…日長時間制御部、57b…光強度制御部、57c…スペクトル制御部。