(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
H02P 21/36 20160101AFI20231017BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20231017BHJP
H02P 21/26 20160101ALI20231017BHJP
H02P 3/22 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H02P21/36
F04D19/04 H
H02P21/26
H02P3/22
(21)【出願番号】P 2019220420
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】平田 伸幸
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145555(JP,A)
【文献】特開2013-085321(JP,A)
【文献】特開平6-153569(JP,A)
【文献】特開2018-127956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/36
F04D 19/04
H02P 21/26
H02P 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプロータと、
前記ポンプロータを回転駆動するモータと、
前記モータを制御するモータ制御部と、
前記モータのブレーキ動作時に発生する回生電力を消費するブレーキ抵抗と、を備え、
前記モータ制御部は、
回生制御において、ブレーキ動作時の電圧指令ベクトルを、前記電圧指令ベクトルのd軸成分とq軸成分との比が一定となるように設定する、真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記モータ制御部は、前記電圧指令ベクトルのd軸成分をブレーキ動作時に、Vd=D×(r×Iq+Ke×ω)に設定する、真空ポンプ。ここで、Keは逆起電力定数、rはモータ線全体の巻線抵抗、ωはモータの角周波数、Dは定数である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空ポンプにおいて、
前記モータ制御部は、前記電圧指令ベクトルのd軸成分をブレーキ動作時にはゼロに設定する、真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記モータ制御部は、前記電圧指令ベクトルのq軸成分をブレーキ動作時にVq=r×Iq+Ke×ωに設定する、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプなどの軸流式真空ポンプは、真空排気するためにポンプロータを高速回転させる。このとき、稀薄ガスに対して圧縮仕事を行いながら排気するので、ポンプロータは一方向のみの回転となる。したがって、ポンプロータは、通常は、静止状態と正回転領域との間で加速・減速や、定常回転が行われる。
【0003】
ポンプロータを回転駆動するモータとしては、例えば、回転子に永久磁石を備えた同期モータが用いられる。一般に真空ポンプでは、同期モータをベクトル制御により制御する際に励磁電流ベクトル成分IdをId=0とする制御が適用される。加速時にはIq>0に設定され、減速時にはIq<0に設定される。Iq<0の減速時には、コントローラはモータから電力をもらい発電をすることになる。この発電した電力をコントローラに設けられたブレーキ抵抗で消費することで、モータのブレーキ動作を行うようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、ブレーキ動作時には発電によりインバータ電圧が上昇するので、インバータ電圧をモニタしながらインバータ電圧が電子部品の定格電圧を越えないようにq軸電流Iqを制御している。しかしながら、ブレーキ動作時のIq制御においてインバータ電圧が不安定になる場合があり、不安定現象に起因するインバータ電圧急上昇にIq制御が対応できずに、インバータ電圧が定格電圧を越えてしまうおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様による真空ポンプは、ポンプロータと、前記ポンプロータを回転駆動するモータと、前記モータを制御するモータ制御部と、前記モータのブレーキ動作時に発生する回生電力を消費するブレーキ抵抗と、を備え、前記モータ制御部は、ブレーキ動作時の電圧指令ベクトルを、前記電圧指令ベクトルのd軸成分とq軸成分との比が一定となるように設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ブレーキ動作時におけるインバータ電圧の過電圧を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、真空ポンプの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、モータ駆動制御系を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、ブレーキ動作時のインバータ電圧の従来例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態におけるブレーキ動作時のインバータ電圧の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、真空ポンプ1の概略構成を示すブロック図である。真空ポンプ1は磁気軸受式のターボ分子ポンプであり、ポンプロータ10が設けられたポンプ本体1Aと、ポンプ本体1Aを駆動制御するコントローラ1Bを備えている。
【0010】
ポンプロータ10は回転軸11に締結されている。回転軸11は磁気軸受(MB)12により磁気浮上支持され、モータ(M)13によって回転駆動される。非通電時には、回転軸11はメカニカルベアリング等の保護ベアリング14によって支持される。図示は省略したが、ポンプ本体1Aには、ポンプロータ10に対してポンプステータが設けられている。
【0011】
コントローラ1Bには、商用電源2からの交流電力が供給される。入力された交流電力は、AC/DCコンバータ20により直流電力に電力変換される。AC/DCコンバータ20の出力側の直流ラインには、3相インバータ21が接続されている。3相インバータ21は、AC/DCコンバータ20から供給された直流電力を交流電力に変換して、モータ13を駆動する。3相インバータ21は、モータ13の回転に必要な周波数の交流電力が出力されるように、制御部22に設けられたモータ制御部221によって制御される。なお、モータ13はセンサレスの永久磁石同期モータであって、モータロータには永久磁石が設けられている。
【0012】
DC/DCコンバータ23は、直流ラインからの直流電力の電圧を降圧して制御部22に供給する。制御部22は磁気軸受12およびモータ13の制御を行うデジタル演算器であり、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース( I/O インタフェース)を備えたマイクロコンピュータやFPGA(Field Programmable Gate Array)等で構成される。
【0013】
制御部22に設けられた軸受制御部222は、ポンプ本体1Aに設けられた磁気軸受12に駆動制御する。磁気軸受12には、回転軸11の変位を検出する変位センサ(不図示)が設けられている。軸受制御部222は、回転軸11が所望の位置に非接触支持されるように、変位センサの検出情報に基づいて磁気軸受12の駆動電力を制御する。
【0014】
ポンプロータ10の回転を停止する際には、3相インバータ21を回生制御し、回生ブレーキにより回転減速を行わせる。そのため、直流ラインには、ブレーキ抵抗24とスイッチ素子(トランジスタ等)25との直列回路が3相インバータ21に対して並列に設けられている。スイッチ素子25のオンオフは、モータ制御部221によって制御される。回生ブレーキ時にはスイッチ素子25がオンされ、回生電力がブレーキ抵抗24によって消費される。直流ラインには回生電力逆流防止用のダイオード26が設けられている。
【0015】
また、停電等によって商用電源2からの電力供給が停止した場合には、回生電力がDC/DCコンバータ23に入力される。その結果、モータ制御部221および軸受制御部222は回生電力によって動作し、回生電力によって回転軸11の磁気浮上が維持される。なお、回生電力をモータ制御部221および軸受制御部222に供給する際には、スイッチ素子25はオフされる。
【0016】
図2は、モータ13に関するモータ駆動制御系を示す図である。モータ駆動制御系には、制御部22に設けられたモータ制御部221、
図1では図示していない電流検知器50および電圧検知器51等を含む。図示しないが、3相インバータ21は、複数のスイッチング素子と、それらをオンオフ駆動するためのゲートドライブ回路とを備えている。モータ13のU,V,W相コイルに流れる電流は電流検知器50によってそれぞれ検出され、検出結果としての電流検知信号はローパスフィルタ409を介してモータ制御部221の回転速度・磁極位置推定部407に入力される。また、U,V,W相コイルの各端子および中性点の電圧は電圧検知器51によって検出され、検出結果としての電圧検知信号はローパスフィルタ410を介してモータ制御部221の回転速度・磁極位置推定部407に入力される。
【0017】
回転速度・磁極位置推定部407は、電流検知信号および電圧検知信号に基づいて、モータロータの回転速度ωおよび磁極位置(電気角θ)を推定する。なお、モータロータの磁極位置は電気角θで表されるので、以下では、磁極位置のことを磁極電気角θと呼ぶことにする。算出された回転速度ωは速度制御部401,Id・Iq設定部402および等価回路電圧変換部403に入力される。また、算出された磁極電気角θはdq-2相電圧変換部404に入力される。
【0018】
速度制御部401は、入力された目標回転速度ωiと推定された現在の回転速度ωとの差分に基づいて、PI 制御(比例制御および積分制御)あるいはP制御(比例制御)を行い、電流指令Iを出力する。Id・Iq設定部402は、電流指令Iに基づき、回転座標dq系における励磁電流ベクトル成分(以下ではq軸電流と呼ぶ)Iqおよびトルク電流ベクトル成分(以下ではd軸電流と呼ぶ)Idを設定する。回転座標dq系のd軸は、回転しているモータロータのN極を正方向とする座標軸である。q軸はd軸に対してπ/2[rad]進みの直角方向の座標軸で、その向きは正回転時の逆起電圧方向となる。
【0019】
一般に、ターボ分子ポンプにおけるモータ制御においては、d軸電流IdはId=0のように制御される。本実施の形態では、ブレーキ動作時を除く加速時や定常回転時には、等価回路電圧変換部403は、予め記憶されている回転センサレス制御のパラメータKe[V0-pk/(rad/t)]、r[Ω]、L[mH]に基づいて、次式(1),(2)で表される回転座標dq系における電圧指令ベクトル(Vd,Vq)を求め、それをdq-2相電圧変換部404に入力する。
Vd=-ω×L×Iq …(1)
Vq=r×Iq+Ke×ω …(2)
【0020】
dq-2相電圧変換部404は、電圧指令ベクトル(Vd,Vq)と回転速度・磁極位置推定部407から入力された磁極電気角θとに基づいて、回転座標dq系における電圧指令Vd,Vqを固定座標αβ系の電圧指令Vα,Vβに変換する。2相-3相電圧変換部405は、2相の電圧指令Vα,Vβを3相電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する。PWM信号生成部406は、3相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて、3相インバータ21に設けられたスイッチング素子をオンオフ(導通または遮断)するためのPWM制御信号を生成する。3相インバータ21は、PWM信号生成部406から入力されたPWM制御信号に基づいてスイッチング素子をオンオフし、モータ13に駆動電圧を印加する。
【0021】
(ブレーキ動作の説明)
上述したように、加速時や定常回転時における電圧指令Vd,Vqは式(1),(2)により与えられる。一方、回転を停止する際のブレーキ動作時には、本実施の形態では次式(3),(4)に示すような電圧指令Vd,Vqをdq-2相電圧変換部404に入力し、3相インバータ21を回生制御する。ここで、rはモータ線全体の巻き線抵抗、Keは逆起電力定数、ωモータの角周波数である。
Vd=0 …(3)
Vq=r×Iq+Ke×ω …(4)
【0022】
回生制御によりモータ13による発電が行われると、モータ13からインバータ側に電流が戻ってきてインバータ電圧(3相インバータ21の直流ライン側の電圧)が上昇する。そして、インバータ電圧が所定値に上昇するとスイッチ素子25を導通状態とし、ブレーキ抵抗24に電流を流して電力を消費させる。ブレーキ動作時に、インバータ電圧がモータ13の発電により上がり過ぎてコントローラ1Bを構成する電子部品の定格電圧を超過してしまうと、それらを破損してしまうおそれがある。そのため、インバータ電圧が上がり過ぎないように、インバータ電圧をモニタしながらq軸電流Iqを制御するようにしている。
【0023】
本実施の形態では上述したように電圧指令VdをVd=0と設定する点が特徴であるが、従来は、式(1),(2)に従ってq軸電流Iqを制御してブレーキ動作を行うのが一般的である。式(1),(2)におけるパラメータKe,r,Lは実機のモータ13の値に現合調整される。しかしながら、パラメータKe,Lは、モータ13の回転速度ωに応じて変化するという特性を有している。そのため、式(1),(2)では一定値とみなしているパラメータKe,Lの値が実際にはq軸電流Iqの制御に伴って変化し、インバータ電圧が不安定に変化することになる。
【0024】
図3は、式(1),(2)に基づいてブレーキ動作を行った場合のインバータ電圧の一例を示す図である。t=t1においてブレーキ動作を開始する。パラメータKe,Lの値が回転速度ωに応じて変化するために下記(a)~(d)の処理が繰り返されることになり、
図3に示すような電圧波形となる。
(a)インバータ電圧を上げるためにq軸電流Iq=-|Iq|の値|Iq|を増加させる。|Iq|が小さいと電圧指令Vdも小さく回生効率が悪い(t=t2)。
(b)インバータ電圧を上げるためにさらに|Iq|を増加させると、電圧指令Vdが大きくなり回生効率が良くなる(t=t3)。
(c)インバータ電圧が急上昇するので(領域A)、過電圧を防止するために|Iq|を小さくする。
(d)領域Bに示すようにインバータ電圧が減少する。
【0025】
図3において、インバータ電圧の増加・減少が繰り返される符号Cの区間はブレーキがかかりにくいので、減速時間が延びてしまうことになる。また、インバータ電圧の急上昇に対応しきれない場合、インバータ電圧が電子部品の定格電圧を越えてしまうおそれがあった。
【0026】
一方、本実施の形態のように式(3)、(4)に基づいてブレーキ制御を行った場合には、インバータ電圧は
図4に示すように変化する。t=t1でブレーキ動作が開始され、ほぼt=t11からインバータ電圧が増加し始め、t=12以後はインバータ電圧が安定する。
図3のようなIq制御におけるインバータ電圧の不安定性は、|Iq|を増加させたときのKe、Lの変化に起因して、電圧指令ベクトル(Vd,Vq)の電気角が変動することが原因と考えられる。本実施の形態では、式(3)のようにVd=0と設定することにより、Iq制御時の電圧指令ベクトル(Vd,Vq)の電気角の変動が防止され、
図4に示すような安定したインバータ電圧に制御することが可能となる。その結果、ブレーキ動作時におけるインバータ電圧の過電圧を防止することができると共に、減速時間の短縮を図ることができる。
【0027】
なお、Iq制御における電圧指令ベクトル(Vd,Vq)の電気角の変動を防止する方法としては、より一般的に、(Vd,Vq)のd軸成分Vdとq軸成分Vqとの比を「Vd/Vq=一定」のように設定しても良い。これは、式(3)に代えて、D=定数を使用した次式(5)を用いることを意味する。電圧指令Vd=0の設定は、D=0とした場合に対応する。
Vd=D×(r×Iq+Ke×ω) …(5)
【0028】
上述した例示的な実施の形態および変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0029】
[1]一態様に係る真空ポンプは、ポンプロータと、ポンプロータを回転駆動するモータと、モータを制御するモータ制御部と、モータのブレーキ動作時に発生する回生電力を消費するブレーキ抵抗と、を備える真空ポンプにおいて、モータ制御部は、ブレーキ動作時の電圧指令ベクトルを、前記電圧指令ベクトルのd軸成分とq軸成分との比が一定となるように設定する。電圧指令ベクトルのd軸成分とq軸成分との比を一定に設定することにより、Iq制御時の電圧指令ベクトル(Vd,Vq)の電気角の変動が防止され、安定したインバータ電圧に制御することが可能となる。その結果、ブレーキ動作時におけるインバータ電圧の過電圧を防止することができると共に、減速時間の短縮を図ることができる。
【0030】
[2]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記モータ制御部は、前記電圧指令ベクトルのd軸成分をブレーキ動作時に、Vd=D×(r×Iq+Ke×ω)に設定しても良い。ここで、Keは逆起電力定数、rはモータ線全体の巻線抵抗、ωはモータの角周波数、Dは定数である。ブレーキ動作時のVqはVq=r×Iq+Ke×ωのように制御されるので、Vd=D×(r×Iq+Ke×ω)と設定することで、電圧指令ベクトルのd軸成分とq軸成分との比が一定となる。
【0031】
[3]上記[1]または[2]に記載の真空ポンプにおいて、モータ制御部は、前記電圧指令ベクトルのd軸成分をブレーキ動作時にはゼロに設定する。電圧指令ベクトルのd軸成分Vdとq軸成分Vqとの比を一定に設定する場合には、2つの電圧指令Vd,Vqを「Vd/Vq=一定」を満たすように調整する必要があるが、ここでは電圧指令VdをVd=0としてしまうので、制御がより簡単になる。
【0032】
[4]上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、前記モータ制御部は、前記電圧指令ベクトルのq軸成分をブレーキ動作時にVq=r×Iq+Ke×ωに設定するようにしても良い。
【0033】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1…真空ポンプ、1A…ポンプ本体、1B…コントローラ、10…ポンプロータ、11…回転軸、13…モータ、21…3相インバータ、22…制御部、24…ブレーキ抵抗、25…スイッチング素子、221…モータ制御部、Id…d軸電流、Iq…q軸電流、Vd,Vq…電圧指令