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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ポリカーボネート共重合体及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/18 20060101AFI20231017BHJP
   C08G 64/00 20060101ALI20231017BHJP
   C08G 77/04 20060101ALI20231017BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C08G64/18
C08G64/00
C08G77/04
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019235229
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102739
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 昂志
(72)【発明者】
【氏名】渡部 拓海
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008140(JP,A)
【文献】特開2012-082403(JP,A)
【文献】特開2008-291054(JP,A)
【文献】特開2006-265243(JP,A)
【文献】特開2019-218543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00-64/42
C08G 77/00-77/62
C08J 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と、
水酸基を有する分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位と、を有するポリカーボネート共重合体であって、
上記分岐オルガノポリシロキサンが、ポリシロキサン骨格と、該ポリシロキサン骨格のシロキサン結合に結合した、反応性官能基及び相溶性基を含有する有機基を有し、該有機基が上記反応性官能基として少なくとも上記水酸基を有し、
上記相溶性基が、芳香族基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子のうちいずれか1個又は複数を有する極性を有する基である、ポリカーボネート共重合体。
【化1】
【請求項2】
上記相溶性基がアルコキシ基又はアルキレングリコール基である、請求項1に記載のポリカーボネート共重合体
【請求項3】
上記有機基の上記相溶性基が1つ以上のエーテル結合を有する、請求項1又は2に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項4】
上記分岐オルガノポリシロキサンが下記式(2)で表される重合体である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
(R123SiO1/2)a(R45SiO2/2)b(R6SiO3/2)c(SiO4/2)d(O1/27)e(O1/2H)f ・・・(2)
(R1、R2、R3、R4、R5、R6は、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基、反応性官能基、相溶性基、又は水素原子であり、R7は、炭素数1~7の有機基であり、a~fは、a+b+c+d=1、0<c+d≦1、0≦e+f<4を満足する0以上の数字である。)
【請求項5】
上記式(2)中、c+dの値が0.15≦c+d≦0.9を満足する、請求項4に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項6】
上記式(2)中、aの値が0.1≦a≦0.8を満足する、請求項4または5に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項7】
上記式(2)中、bの値が0≦b≦0.8を満足する、請求項4~6のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項8】
上記分岐オルガノポリシロキサンの分子量1000当たりの上記反応性官能基と上記相溶性基の合計含有量が1.5個以上12個以下である、請求項2~のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項9】
上記ポリカーボネート共重合体において、上記分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位の含有割合が0.5質量%以上6.0質量%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項10】
上記ポリカーボネート共重合体は、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物とは異なるジヒドロキシ化合物(ただし、上記分岐オルガノポリシロキサンを除く)に由来する構成単位を有し、上記ポリカーボネート共重合体において上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の含有割合が5質量%以上90質量%以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体を含む、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位とを有するポリカーボネート共重合体、及びポリカーボネート共重合体を含む成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮より植物由来の原料であるイソソルビドに代表されるエーテル基含有ジオールを用いたポリカーボネート樹脂が開発されている(特許文献1及び2参照)。イソソルビドを用いたポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐候性や耐衝撃性に優れることが知られており、自動車内外装部品等への適用も知られている(特許文献3参照)。
【0003】
一方、イソソルビドに由来する構造単位を含有するポリカーボネート樹脂とシリコーン化合物を含有する樹脂組成物が知られている(特許文献4参照)。特許文献4には、シリコーン化合物を含有することにより、耐擦傷性が向上することが記載されている。更に、特許文献5では、イソソルビドに由来する構造単位を含有するポリカーボネート樹脂とジオルガノシロキサン構造や特定のオルガノシロセスキオキサン構造を有するシリコーン化合物を含有することにより、耐擦傷性が向上し、成形品としたときの透明性が良好であり、初期外観、機械物性等に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2004/111106号
【文献】国際公開WO2007/063823号
【文献】特開2013-209585号公報
【文献】特開2015-199954号公報
【文献】特開2017-008140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、イソソルビド由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂の成形品を、例えば、自動車等の車両用の内外装部品に使用することが検討されている。そして、ポリカーボネート樹脂には、樹脂自体の透明性により成形品に美観を生じさせるという要求や、例えばティッシュで成形品の表面を擦ったときに生じうる擦り傷の発生を防止するという要求がある。つまり、ポリカーボネート樹脂、その成形品には、優れた透明性、耐擦傷性が望まれている。
【0006】
しかしながら、特許文献4及び特許文献5等に記載の従来のポリカーボネート樹脂組成物の成形品には、透明性を高く保ったまま、耐擦傷性を高めるという点において未だ改良の余地がある。
【0007】
本発明は、かかる課題を鑑みてなされてものであり、透明性及び耐擦傷性に優れた成形品を得ることができるポリカーボネート共重合体、及びその成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と、
水酸基を有する分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位と、を有するポリカーボネート共重合体であって、
上記分岐オルガノポリシロキサンが、ポリシロキサン骨格と、該ポリシロキサン骨格のシロキサン結合に結合した、反応性官能基及び相溶性基を含有する有機基を有し、該有機基が上記反応性官能基として少なくとも上記水酸基を有し、
上記相溶性基が、芳香族基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子のうちいずれか1個又は複数を有する極性を有する基である下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と、
水酸基を有する分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位と、を有する、ポリカーボネート共重合体にある。
【0009】
【化1】
【0010】
本発明の他の態様は、上記ポリカーボネート共重合体を含む、成形品にある。
【発明の効果】
【0011】
上記ポリカーボネート共重合体によれば、優れた透明性及び耐擦傷性を兼ね備えた成形品が得られる。つまり、ポリカーボネート共重合体を含む成形品は、透明性に優れると共に、例えばティッシュで成形品を拭いた場合における擦れ傷の発生を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成などの説明は、本発明の実施態様の例であり、本発明は、その要旨を超えない限り以下の内容に限定されない。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0013】
[ポリカーボネート共重合体]
ポリカーボネート共重合体は、少なくとも、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位とを有するポリカーボネート樹脂である。分岐オルガノポリシロキサンは、水酸基を有する。ポリカーボネート共重合体は、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と分岐オルガノポリシロキサンとを重合させてなるポリマーであり、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と分岐オルガノポリシロキサンとの共重合体である。ポリカーボネート共重合体は、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物及び分岐オルガノポリシロキサン以外の他のモノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。以降の説明では、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位のことを、適宜「構成単位(a1)」といい、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位のことを、適宜「構成単位(a2)」という。ポリカーボネート共重合体を構成する、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物及び分岐オルガノポリシロキサン以外のモノマーに由来する構成単位のことを、適宜「構成単位(a3)」という。なお、構成単位は、ポリマーを構成する単位のことであり、ポリマー鎖中で繰り返し構造を形成している単位、ポリマー鎖の末端に結合している単位を含む概念である。したがって、ポリカーボネート共重合体は、構成単位(a1)と、構成単位(a2)と、選択的成分である構成単位(a3)とを、繰り返し構造の単位とする重合体、構成単位(a1)と、選択的成分である構成単位(a3)とを、繰り返し構造の単位とし、ポリマー鎖の末端に構成単位(a2)を有する重合体、構成単位(a1)を繰り返し構造の単位とし、ポリマー鎖の末端に構成単位(a2)及び選択成分である構成単位(a3)を有する重合体などを含む概念である。
【0014】
【化2】
【0015】
式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、相互に立体異性体の関係にある、イソソルビド(即ち、ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。ポリカーボネート共重合体は、構成単位(a1)として、ISB、イソマンニド、及びイソイデットからなる群から選択される少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を含むことができる。これらの中でもISBが、入手及び製造のし易さ、耐候性、光学特性、成形性、耐熱性及びカーボンニュートラルの面から最も好ましい。ISBは、植物由来の資源として豊富に存在すると共に容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる。なお、構成単位(a1)は、具体的には式(3)で表される。式(3)で表される構造を「イソソルビド骨格」というが、イソソルビド骨格は、ISBだけでなく、イソマンニド、イソイデットに由来の構成単位を含む概念である。
【0016】
【化3】
【0017】
式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすい。従って、保管中又は製造時の取扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。例えば、イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート共重合体の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート共重合体の着色を招く虞がある。更に、物性を著しく劣化させる虞があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もある。
【0018】
ポリカーボネート共重合体は、構成単位(a3)として、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、及び式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる1種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a3-1)を含むことが好ましい。この場合には、ポリカーボネート共重合体の耐衝撃性が向上する。つまり、ポリカーボネート共重合体は、構成単位(a1)と構成単位(a2)と構成単位(a3-1)とを含むことが好ましい。この場合には、ポリカーボネート共重合体の耐衝撃性を向上させることができる。なお、以降の説明では、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物のことを、適宜「第1ジヒドロキシ化合物」といい、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物のことを、適宜「第2ジヒドロキシ化合物」という。第2ジヒドロキシ化合物としては、1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
【0019】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物であっても、分岐鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物であってもよく、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールが挙げられる。
【0020】
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノールが挙げられる。
【0021】
式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量150~2000)、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0022】
ポリカーボネート共重合体の耐衝撃性を高めるという観点から、第2ジヒドロキシ化合物としては、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物が好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物がより好ましい。耐衝撃性、耐熱性をより高めるという観点から、脂環式ジヒドロキシ化合物の中でも、シクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0023】
ポリカーボネート共重合体において、構成単位(a3-1)等の構成単位(a3)の含有率は、5質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。また、55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。構成単位(a3-1)等の構成単位(a3)の含有率が上記下限以上であると、十分な機械物性が得られる。また構成単位(a3-1)等の構成単位(a3)の含有率が上記上限以下であると、十分な耐熱性が得られる。
【0024】
ポリカーボネート共重合体において、構成単位(a1)の含有率は、5質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。また、90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下が更に好ましい。構成単位(a1)の含有率が上記下限以上であると、十分な機械物性、耐熱性が得られる。また構成単位(a1)が上記上限以下であると、ポリカーボネート共重合体の溶融加工性が良好となる。
【0025】
ポリカーボネート共重合体において、構成単位(a2)の含有率は、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上が更に好ましい。また、6質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。構成単位(a2)の含有率が上記下限以上であると、耐擦傷性がより向上する。また構成単位(a2)の含有率が上記上限以下であると、十分な耐熱性が得られる。構成単位(a2)はポリカーボネート共重合体の鎖中および末端に存在しても良い。
【0026】
分岐オルガノポリシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とした重合体であり、ポリシロキサン骨格に分岐構造を有し、シロキサン結合に有機基が結合したものをいう。具体的には、分岐構造を有するポリシロキサン骨格と、ポリシロキサン骨格のシロキサン結合に置換基(つまり、有機基)が結合した重合体である。分岐オルガノポリシロキサンは、有機基を1つ以上有することができる。好ましくは、有機基を複数有することがよい。
【0027】
ポリカーボネート共重合体が、少なくとも、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)と、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)とを有することにより、優れた透明性と耐擦傷性とを兼ね備える。
【0028】
分岐オルガノポリシロキサンは、水酸基を有し、分岐構造を有するオルガノポリシロキサンであれば特段限定されない。分岐オルガノポリシロキサンは、ポリシロキサン骨格と、このポリシロキサン骨格のシロキサン結合に結合した有機基とを有する。ポリシロキサン骨格に結合した有機基は、特に限定されず、炭化水素基、エーテル結合を有する炭化水素基、少なくとも1種以上の官能基で置換された炭化水素基などである。
【0029】
分岐オルガノポリシロキサンは、ポリシロキサン骨格のシロキサン結合に結合した有機基が、反応性官能基、相溶性基、又は反応性官能基と相溶性基との両方を有することが好ましい。つまり、有機基が、反応性官能基及び/又は相溶性基を有することが好ましい。この場合には、透明性、耐擦傷性がより向上する。有機基は、その末端及び/又は内部に、反応性官能基、相溶性基を有することができる。重合時の反応性を向上させるという観点、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との接触を促進するという観点から、有機基は、少なくともその末端に反応性官能基、相溶性基を有することが好ましい。
【0030】
分岐オルガノポリシロキサンは、上記のごとく水酸基を有する。水酸基は、シロキサン結合に結合していてよいし、有機基に結合してもよい。水酸基が有機基に結合している場合には、この有機基が反応性官能基及び/又は相溶性基となりうる。分岐オルガノポリシロキサンは、水酸基を1つ有していてもよいが、2つ以上有していてもよい。分岐オルガノポリシロキサンが水酸基を1つ有する場合には、分岐オルガノポリシロキサンは、ポリカーボネート共重合体のポリマー鎖の末端を構成する単位となりうる。分岐オルガノポリシロキサンが水酸基を2つ以上有する場合には、分岐オルガノポリシロキサンは、ポリカーボネート共重合体を構成する繰り返し構造の単位となりうる。
【0031】
反応性官能基とは、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、ハロゲンの中から選択される1種又は複数種の原子で構成され、大気中又は溶媒中で、通常使用又は成形する温度範囲内で、別種の官能基との接触又は加熱により、その化学構造に変化を生じ得る基のことをいう。具体的には、反応性官能基は、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、ハロゲン、又は炭素-水素間の多重結合(つまり、二重結合、三重結合のような不飽和結合)を有する官能基である。また、反応性官能基は上記に定義した反応性だけでなく、相溶性も同時に有する場合がある。
【0032】
相溶性基とは、ポリカーボネート共重合体の全体又は一部の構成単位に対してイオン間相互作用、水素結合、双極子相互作用等による相互作用を示し、ポリカーボネート共重合体と分岐オルガノポリシロキサンの相溶性を向上させる基である。具体的には、相溶性基は、例えば、アルコール性水酸基、エーテル結合を有する基である。
【0033】
分岐オルガノポリシロキサンは、有機基として、反応性官能基と相溶性基との両方を有していてもよく、複数種の反応性官能基及び/又は複数種の相溶性基を有していてもよい。反応性官能基及び相溶性基の合計含有量は、特段限定されないが、好ましくは分岐オルガノポリシロキサンの分子量1000当たり1個以上であり、より好ましくは、分岐オルガノポリシロキサンの分子量1000当たり1.5個以上であり、さらに好ましくは分岐オルガノポリシロキサンの分子量1000当たり1.8個以上である。また、反応性官能基及び相溶性基の合計含有量は、好ましくは分岐オルガノポリシロキサンの分子量1000当たり12個以下であり、より好ましくは分岐オルガノポリシロキサンの分子量1000当たり9個以下であり、分岐オルガノポリシロキサンの分子量1000当たり6個以下である。反応性官能基及び相溶性基の合計含有量を上記下限値以上とすることによって、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)と、ポリカーボネート共重合体の分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)との相溶性が向上し、ポリカーボネート共重合体の透明性がより向上したり、分岐オルガノポリシロキサンが共有結合的にポリカーボネート共重合体構造に組み込まれることにより、分岐オルガノポリシロキサン由来の構成単位(a2)がポリカーボネート共重合体の表面に固定化され、ポリカーボネート共重合体の傷付きに対する耐久性(具体的には、耐擦傷性)がより向上する。また、反応性官能基及び相溶性基の合計含有量を上記上限値以下とすることで、構成単位(a2)が、ポリカーボネート共重合体の表面付近に偏析しやすくなり、耐擦傷性がより向上する。尚、分子量1000当たりの反応性官能基及び相溶性基の個数は、後述する実施例に記載した方法により測定することができる。
【0034】
反応性官能基は特段限定されないが、反応性が高いという観点から、例えば二重結合のような炭素-炭素間の多重結合を有する官能基、及び/又は酸素原子を含む官能基であることが好ましく、アルケニル基、エステル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、環状エーテル基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であることがより好ましい。より反応性が高いという観点から、反応性官能基は、アルコール性水酸基であることがさらに好ましい。なお、炭素-炭素間の多重結合を有する官能基の炭素数は、2~20であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。
【0035】
アルケニル基は分岐構造や環状構造を含んでいてもよい。好ましくは炭素数2~20のアルケニル基であり、より好ましくは炭素数2~6のアルケニル基であり、更に好ましくはビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基であり、特に好ましくはビニル基である。アルケニル基の炭素数が少なくなることにより非極性部位が小さくなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより高まる。また、アルケニル基としては、内部オレフィン構造を有するもの、末端オレフィン構造を有するものが挙げられるが、反応性が高いという観点から末端オレフィン構造を有するものが好ましい。
【0036】
エステル基は、式(4)又は式(5)で表される基であることが好ましい。
【0037】
【化4】
【0038】
【化5】
【0039】
式(4)中、g=1であり、式(5)中、h=0又は1である。式(4)及び式(5)中のR8は一価の基であり、分岐構造や環状構造を含んでいてもよい。ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性やジヒドロキシ化合物との反応性の観点から、R8は、好ましくは炭素数1~20の炭化水素基などの有機基であり、より好ましくは炭素数1~6の炭化水素基などの有機基である。立体障害が小さく、エステル基の反応が阻害されにくいという観点、非極性部位が小さくなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性が高まるという観点からは、炭素数が少ないことがより好ましい。
【0040】
一方、耐擦傷性の向上を優先する場合には炭素数が多いことが優位に働くことがある。したがって、耐擦傷性の向上の観点からは、R8は、炭素数6~30の炭化水素基が好ましく、炭素数10~30の炭化水素基がより好ましい。炭素数が多い場合には、炭化水素基がポリカーボネート共重合体の表面付近で結晶化に近い構造を形成するため、成形品表面の耐擦傷性がより向上する。
【0041】
式(4)及び式(5)中のR9は、二価の連結基であり、エステル基とポリシロキサン骨格とを結合させる基である。R9は、二価の連結基であれば特段限定されず、分岐構造や環状構造を含んでいてもよく、炭素原子、水素原子以外の原子を含んでいてもよいが、ケイ素原子に直接結合する原子は酸素原子以外の原子である。R9は、炭素数1~20の有機基であることが好ましく、炭素数1~10の有機基であることがより好ましい。R9の炭素数が上記範囲内で少ない場合には、非極性部位が小さくなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性が高まる。これにより、ポリカーボネート共重合体の透明性がより向上する。
【0042】
メタクリロイル基、アクリロイル基の構造は、特段限定されないが、反応性及び相溶性が高いという観点から、メタクリロイロキシ基、アクリロイロキシ基であることが好ましい。また、メタクリロイロキシ基又はアクリロイロキシ基と、ポリシロキサン骨格とは二価の連結基で結合していることが好ましい。二価の連結基としては、式(4)及び式(5)中のR9と同様の有機基を使用することができる。メタクリロイル基、アクリロイル基、メタクリロイロキシ基、アクリロイロキシ基での連結基は、炭素数が1~20の有機基であることが好ましく、炭素数が1~10の有機基であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内で少ない場合には、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより高まる。
【0043】
環状エーテル基は、環状エーテル構造を有する基であれば特段限定されないが、好ましくは式(6)又は式(7)で表される基である。
【化6】
【化7】
【0044】
式(6)中、i=0又は1であり、式(6)中、j=0又は1である。k、mは、それぞれ独立に、0~8の整数である。式(6)及び式(7)中のR10は二価の連結基であり、環状エーテル基とポリシロキサン骨格とを結合させる基である。R10は二価の連結基であれば特段限定されず、分岐構造や環状構造を含んでいてもよく、炭素原子、水素原子以外の原子を含んでいてもよいが、ケイ素原子に直接結合する原子は酸素原子以外の原子である。R10は、炭素数1~20の有機基であることが好ましく、炭素数1~10の有機基であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内で少ない場合には、非極性部位が小さくなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより高まる。
【0045】
環状エーテル基は、更に好ましくは、式(8)、式(9)、式(10)で表される基である。
【0046】
【化8】
【0047】
【化9】
【0048】
【化10】
【0049】
オルガノポリシロキサンが、式(8)、式(9)、式(10)で表される環状エーテル基を含有する場合には、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより高まる。これは、式(8)、式(9)、式(10)で表される環状エーテルは、反応性が高く、極性も高いためである。
【0050】
オルガノポリシロキサンの有機基は、式(11)~(18)で表される基のように、環状エーテル基とエステル基とを有することが好ましい。
【0051】
【化11】
【0052】
【化12】
【0053】
【化13】
【0054】
【化14】
【0055】
【化15】
【0056】
【化16】
【0057】
【化17】
【0058】
【化18】
【0059】
オルガノポリシロキサンの有機基が環状エーテル基とエステル基とを有する場合には、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性の更なる向上が期待できる。これは、反応性及び極性の高い環状エーテル基に加えて、極性の高いエステル基を有しているためである。
【0060】
アルコール性水酸基は、炭素原子に結合した水酸基を有する構造であれば特段限定されず、1つの有機基に1個又は2個以上の水酸基を有していてもよい。水酸基は、有機基の少なくとも末端に結合していることが好ましい。また、フェノール性水酸基は、アリール基に結合した水酸基を有する構造であれば特段限定されず、アリール基に1個又は2個以上の水酸基を有していてもよい。より好ましくは、式(19)で表されるアルコール性水酸基がよい。分岐ポリオルガノシロキサンは、有機基を複数有し、各有機基がアルコール性水酸基を有することが好ましい。この場合には、重合時の反応性が向上したり、ポリカーボネート共重合体を構成する分子内及び/又は分子同士の相溶性が向上する。
【0061】
【化19】
【0062】
式(19)中のR11は二価の連結基であり、アルコール性水酸基とポリシロキサン骨格とを結合させる基である。R11は二価の連結基であれば特段限定されず、分岐構造や環状構造を含んでいてもよく、炭素原子、水素原子以外の原子を含んでいてもよいが、ケイ素原子に直接結合する原子は酸素原子以外の原子である。R11は、炭素数1~20の有機基であることが好ましく、炭素数1~10の有機基であることがより好ましい。R11の炭素数が上記範囲内で少ない場合には、非極性部位が小さくなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより高まる。また、R11中に酸素原子、硫黄原子、窒素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含むことがより好ましく、少なくとも酸素原子を含むことがさらに好ましい。この場合には、アルコール性水酸基の極性がより高くなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がさらに高まる。アルコール性水酸基を有する有機基としては、例えば、式(20)で表される基がより好ましく、式(21)で表される基が更に好ましい。
【0063】
【化20】
【0064】
式(20)中、R12は二価の有機基であるが、ケイ素原子に直接結合する原子は酸素原子以外の原子である。R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に、炭素数1~10の一価の有機基又は水素原子である。nは、1~100整数である。
【0065】
【化21】
式(20)及び式(21)で表される有機基は、極性が高い。そのため、分岐オルガノポリシロキサンが式(20)、式(21)で表される有機基を有する場合には、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより向上する。特に、式(21)で表される有機基は、立体障害が小さいことから、反応性にも優れる。
【0066】
相溶性基は、ポリカーボネート共重合体全体又は一部の構成単位に対してイオン間相互作用、水素結合、双極子相互作用等の相互作用を示し、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性を向上させる基であれば特段限定されない。相溶性基は、相溶性に加えて反応性を有する基であってもよい。
【0067】
ポリカーボネート共重合体が極性樹脂であることを考慮すると、相溶性基は、極性を有する基、即ち、芳香族基、酸素原子、硫黄原子、窒素原子のうちいずれか1個又は複数を有する基であることが好ましい。芳香族基を有する基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基が好ましい。酸素原子を有する基としては、アルコール性水酸基、ポリアルキレングリコール基、環状エーテル基、エステル基が好ましい。硫黄原子を有する基としては、メルカプト基、チイラン基、ポリエチレンスルフィド基が好ましい。窒素原子を有する基としては、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アジリジン基、アゼチジン基、ピロリジン基、ピペリジン基であることが好ましい。ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより向上するという観点から、相溶性基として、ポリアルキレングリコール基及び/又はエステル基を有することがより好ましい。
【0068】
ポリアルキレングリコール基は、ポリアルキレン構造を有する基であれば特段限定されないが、好ましくは式(22)で表される基である。
【0069】
【化22】
【0070】
式(22)中、X=1であり、式(22)中、Y=1~100の整数である。Yは2以上の整数が好ましく、3以上の整数がより好ましい。Yは25以下の整数が好ましく、20以下の整数がより好ましく、15以下の整数が更に好ましい。Yは上記下限値以上だと分岐オルガノポリシロキサンの極性が向上し、ポリカーボネート共重合体のヒドキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性が高くなる。また、Yが上記上限以下だとオルガノポリシロキサンの粘度を扱いやすい範囲に保つことが容易になる。
【0071】
式(22)中のR18は2価の連結基であり、ポリアルキレングリコール基とポリシロキサン骨格とを結合させる基である。R18は2価の連結基であれば特段限定されず、分岐構造や環状構造を含んでいてもよく、炭素原子、水素原子以外の原子を含んでいてもよいが、ケイ素原子に直接結合する原子は酸素原子以外の原子である。式(22)中のR17は、炭素数1~10の有機基であることが好ましく、炭素数1~5の有機基であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内で少ない場合には、非極性部位が小さくなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより高まる。
【0072】
分岐オルガノポリシロキサンの有機基は、例えば式(23)~(26)で表される基のようにポリアルキレングリコール基とエステル基とを有することが好ましい。この場合には、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性の更なる向上が期待できる。これは、有機基が極性の高いポリアルキレングリコール基に加えて、極性の高いエステル基を有しているためである。
【0073】
【化23】
【0074】
【化24】
【0075】
【化25】
【0076】
【化26】
【0077】
式(23)~(26)中、m=1~100の整数である。mは2以上の整数が好ましく、3以上の整数がより好ましい。mは25以下の整数が好ましく、20以下の整数がより好ましく、15以下の整数が更に好ましい。mは上記下限値以上だと分岐オルガノポリシロキサンの極性が向上し、ポリカーボネート共重合体のヒドキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性が高くなる。また、mが上記上限以下だとオルガノポリシロキサンの粘度を扱いやすい範囲に保つことが容易になる。式(23)~(26)中でも、式(23)及び/又は式(25)で表される基が好ましい。また、分岐オルガノポリシロキサンは、有機基として式(23)と式(25)とを有することがより好ましい。
【0078】
式(17)~(20)中のR17は、炭素数1~10の有機基であることが好ましく、炭素数1~5の有機基であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内で少ない場合には、非極性部位が小さくなり、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより高まる。
【0079】
オルガノポリシロキサンにおいては、一般に、(R123SiO1/2)で表されるシロキシ単位はM単位、(R45SiO2/2)で表されるシロキシ単位はD単位、(R6SiO3/2)で表されるシロキシ単位はT単位、(SiO4/2)で表されるシロキシ単位はQ単位と呼ばれる。また、O1/27はケイ素原子に直接結合するオルガノオキシ基、O1/2Hはケイ素原子に直接結合する水酸基を表している。M単位、D単位、T単位、Q単位の構成比率を変えることにより、オルガノポリシロキサンの性状の違いが現れるため、通常は所望の特性が得られるように上記構成比率を適宜選択し、オルガノポリシロキサンの合成を行う。より具体的には、M単位は末端封止に用いられ、M単位を使用することにより、末端にトリオルガノシロキ基が導入され、分子量の望まない増加を抑制することができる。また、D単位を導入することによってオルガノポリシロキサン中に直鎖成分が導入されるため、分子骨格の柔軟性が増す。また、T単位および/またはQ単位を導入することによってオルガノポリシロキサン中に環状構造および分岐成分が導入され、オルガノポリシロキサン分子の形状が球状に近づく。
【0080】
分岐オルガノポリシロキサンとしては、例えば、以下に示す一般組成式(2)で表されるものを用いることが好ましい。この場合には、透明性及び耐擦傷性がより向上する。
(R123SiO1/2)a(R45SiO2/2)b(R6SiO3/2)c(SiO4/2)d(O1/27)e(O1/2H)f ・・・(2)
【0081】
式(2)におけるR1~R6が反応性官能基又は相溶性基でない場合、これらの構造は特に限定されないが、R1~R6は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~20の一価の炭化水素基である。具体的には、水素原子、炭素数1~20の直鎖アルキル基、炭素数1~20の分岐アルキル基、炭素数1~20の環状構造を含むアルキル基が挙げられる。これらのうち、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましい。
【0082】
式(2)中のM単位の割合を意味するaは、0≦a<1である。aは、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.5以上である。また、aは、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.7以下である。M単位を上記下限値以上とすることにより、分岐オルガノポリシロキサンの合成時において望まない高分子量成分の生成が抑制され、分岐オルガノポリシロキサンの粘度上昇を抑制することができるため、取扱い性が良好になる。また、M単位を上記上限値以下にすることにより、分子量の過度の低下が抑制され、低沸点成分の増加を抑制することができる。
【0083】
分岐オルガノポリシロキサン中のM単位のシロキシ単位の種類は特段限定されないが、分岐オルガノポリシロキサンがM単位としてトリメチルシロキシ基を含有する場合には、全M単位中のトリメチルシロキシ基の量が50モル%以下であることが好ましく、25モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましく、0であることが特に好ましい。全M単位中のトリメチルシロキシ基の量を上記上限値以下又は0にすることにより、ポリカーボネート共重合体の透明性をより高く保つことができる。これは、トリメチルシロキシ基がイソソルビド骨格を有するポリカーボネート共重合体との相溶性を低下させる場合があるためである。
【0084】
式(2)中、D単位の割合を意味するbは0≦b<1である。bは、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.5以下であり、更に好ましくは0.1以下である。D単位を上記上限値以下とすることで、分岐オルガノポリシロキサン分子が直線状から球状に近づく。これにより、分岐オルガノポリシロキサン分子は、ポリシロキサン骨格から、放射状に外側へ向けて反応性官能基及び/又は相溶性基を配置した構造をとり、反応性官能基及び/又は相溶性基がポリカーボネート共重合体と接触しやすくなる。その結果、反応性官能基及び/又は相溶性基がポリカーボネート共重合体中の極性元素に配位しやすくなり、相溶性が向上する。
【0085】
また、式(2)中、T単位の割合を示すc、及びQ単位の割合を表すdは、c+d>0を満足する数字である。c、dは、好ましくはc+d≧0.15を満足し、より好ましくはc+d≧0.25を満足する。c+dを上記下限値以上とすることにより、分岐オルガノポリシロキサン分子が直線状から球状に近づく。その結果、上記のごとく、反応性官能基及び/又は相溶性基がポリカーボネート共重合体中の極性元素に配位しやすくなり、相溶性が向上する。またc、dは、c+d≦1であり、好ましくはc+d≦0.9であり、より好ましくはc+d≦0.7、さらに好ましくはc+d≦0.5である。c+dを上記上限値以下とすることで、分岐オルガノポリシロキサンの粘度を扱いやすい範囲に保つことが容易となる。
【0086】
分岐オルガノポリシロキサンは、シロキシ単位がM単位及びQ単位からなるMQレジンであってもよく、シロキシ単位がM単位及びT単位からなるMTレジンであってもよく、シロキシ単位がD単位及びT単位からなるDTレジンであってもよく、シロキシ単位がD単位及びQ単位からなるDQレジンであってもよく、シロキシ単位がT単位及びQ単位からなるTQレジンであってもよい。また、シロキシ単位が、M単位、D単位及びT単位からなるMDTレジンであってもよく、シロキシ単位が、M単位、D単位及びQ単位からなるMDQレジンであってもよく、シロキシ単位がM単位、T単位及びQ単位からなるMTQレジンであってもよく、シロキシ単位がD単位、T単位及びQ単位からなるDTQレジンであってもよく、シロキシ単位がM単位、D単位、T単位及びQ単位からなるMDTQレジンであってもよい。これらの中でもMTQレジン、MQレジンが好ましい。
【0087】
分岐オルガノポリシロキサン分子が球状の形態をとりやすく、その結果反応性基や相溶性基がポリカーボネート樹脂と接しやすいという観点から、分岐オルガノポリシロキサンは、少なくともM単位とQ単位とを含有することが好ましい。分岐オルガノポリシロキサンがM単位とQ単位を含有する場合、全ケイ素原子に対するM単位の含有量は好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上であり、特に好ましくは50モル%以上である。また、好ましくは80モル%以下であり、より好ましくは70モル%以下である。M単位含有量を上記下限値以上とすることにより、分岐オルガノポリシロキサンの合成時において望まない高分子量成分の生成が抑制され、分岐オルガノポリシロキサンの粘度上昇を抑制することができるため、取扱い性が良好になる。また、M単位を上記上限値以下にすることにより、分子量の過度の低下が抑制され、低沸点成分の増加を抑制することができる。また、分岐オルガノポリシロキサンがM単位とQ単位を含有する場合、全ケイ素原子に対するQ単位の含有量は好ましくは15モル%以上であり、より好ましくは25モル%を満足する。Q単位含有量を上記下限値以上とすることにより、分子が直線状から球状に近づく。その結果、上記のごとく、反応性官能基及び/又は相溶性基がポリカーボネート共重合体中の極性元素に配位しやすくなり、相溶性が向上する。また、Q単位の含有量は、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは70モル%以下であり、さらに好ましくは50モル%以下である。Q単位含有量を上記上限値以下とすることで、分岐オルガノポリシロキサンの粘度を扱いやすい範囲に保つことが容易となる。
【0088】
式(2)中(O1/27)で表される構成単位は分岐オルガノポリシロキサン中のケイ素原子に直接結合したオルガノオキシ基、即ちSi-O-C結合を形成するオルガノオキシ基を意味している。分岐オルガノポリシロキサン全重量に対するケイ素原子に直接結合したオルガノオキシ基の含有率に着目した場合、ケイ素原子に直接結合したオルガノオキシ基の量は特段限定されないが、好ましくは0.07重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは4重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。オルガノオキシ基含有量を上記下限値以上とすることで、オルガノオキシ基による立体反発により、オルガノポリシロキサン分子同士の凝集が抑制される。そのため、分岐オルガノポリシロキサンが固体とならず液体となりやすく、適度な流動性を示すため、ポリカーボネート共重合体の生産性が大きく向上するというメリットが得られる。また、ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基含有量を上記下限値以上とすることにより、オルガノオキシ基がポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)中の極性部位に配位し、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)と、ポリカーボネート共重合体の分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)との相溶性が向上し、ポリカーボネート共重合体の透明性がより向上する。また、オルガノオキシ基含有率を上記上限値以下とすることで、分岐オルガノポリシロキサンの長期の保管による安定性が向上する。また加熱によりオルガノオキシ基が脱離してアルコールが生成する現象が抑制されるため、作業環境を良好にすることができる。
【0089】
7は炭素数1~7の有機基であれば特段限定されないが、メチル基、エチル基、イソプロピル基であることが好ましい。
【0090】
式(2)中(O1/2H)で表される構成単位は分岐オルガノポリシロキサン中のケイ素原子に直接結合した水酸基、即ちSi-O-H結合を形成する水酸基を意味している。分岐オルガノポリシロキサン全重量に対するケイ素原子に直接結合した水酸基の含有量は特段限定されないが、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.03重量%以上であり、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下である。ケイ素原子に直接結合した水酸基含有量を上記下限値以上とすることにより、水酸基がポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)中の極性部位に配位し、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)と、ポリカーボネート共重合体の分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)との相溶性が向上し、ポリカーボネート共重合体の透明性がより向上する。また、ケイ素原子に直接結合した水酸基の含有率を上記上限値以下とすることにより、長期の保管による安定性が向上し、また、例えば取り扱い性が損なわれない程度に、粘度が高くなりすぎることを抑制できる。
【0091】
式(2)中(O1/27)で表される構成単位の量を表すeの値、およびO1/2Hで表される構成単位の量を示すfの値は0≦e+f<4であり、この範囲においてe+fの値は特段限定されないが、e+fの値は0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.02以上がさらに好ましい。また、e+fの値は2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.1以下が特に好ましい。e+fの値を上記下限値以上とすることで、ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基や水酸基がポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)中の極性部位に配位し、ポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)と、ポリカーボネート共重合体の分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)との相溶性が向上し、ポリカーボネート共重合体の透明性がより向上する。また、e+fの値を上記上限値以下とすることで、長期の保管による安定性が向上する。
【0092】
分岐オルガノポリシロキサンの数平均分子量(Mn)は特段限定されないが、500以上であることが好ましく、800以上であることがより好ましく、1200以上であることがさらに好ましい。また、100000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましく、3000以下であることが特に好ましい。Mnを上記下限値以上とすることで、揮発成分が少なる。また、Mnを上記上限値以下とすることで、粘度が低くなり、取扱い性が良好になる。
【0093】
分岐オルガノポリシロキサンの重量平均分子量(Mw)は特段限定されないが、700以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1300以上であることがさらに好ましい。また、150000以下であることが好ましく、15000以下であることがより好ましく、10000以下であることがさらに好ましく、7500以下であることが特に好ましい。Mwを上記下限値以上とすることで、揮発成分が少なる。また、Mwを上記上限値以下とすることで、粘度が低くなり、取扱い性が良好になる。
【0094】
上記で述べたMn及びMwは、後述する実施例に記載の方法に従って測定される値である。
【0095】
分岐オルガノポリシロキサン中に含まれる低沸点成分の量は特段限定されないが、低沸点成分の量は少ないことが好ましい。この場合には、引火点が高くなるため、運搬、貯蔵時の安全性を保ちやすくなるほか、ポリカーボネート共重合体との混練、成形中に揮発成分が揮散し製造装置を汚染するといった不具合を起こしにくくなる。分岐オルガノポリシロキサンに含まれる低沸点成分の量は、例えば、圧力0.15torrの減圧下、110℃で2時間加熱した際の重量減少率として表すことができ、この重量減少率は10重量%以下であることが好ましく、8重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
【0096】
分岐オルガノポリシロキサンは分岐構造に加えて、籠型構造を有していてもよく、籠型構造を有していなくてもよい。分岐オルガノポリシロキサンが籠型構造を有する場合、分岐オルガノポリシロキサンは極めて剛直な分子となる。したがって、分岐オルガノポリシロキサンが籠型構造を有する場合には、ポリカーボネート共重合体の弾性率が向上する。一方、分岐オルガノポリシロキサンが籠型構造を有していない場合、籠型構造を有する場合と比較して粘度が低下するため、取扱い性が良好になる。
【0097】
分岐オルガノポリシロキサンが籠型構造を有するか否かに関しては、例えば、赤外吸収スペクトル分析を用いて確認することができる。波数1000~1200cm-1の領域内の赤外吸収スペクトル分析において、籠型構造を有する場合には波数1070~1150cm-1の領域にSi-O伸縮振動の吸収ピークを有する。一方、籠型構造を有さない場合には、波数1030~1060cm-1の領域にSi-O伸縮振動の極大吸収波数を有する。尚、波数1070~1150cm-1の領域には、籠型構造由来のSi-O以外の有機分子由来の特性吸収帯が存在している。例えば、ヒドロキシル基のC-O由来、エステルのC-O-C由来、酸無水物のC-O-C由来、エーテルのC-O-C由来、アミンのC-N由来、スルホン酸やスルホキシドのC-S由来、フッ素化合物のC-F由来、リン化合物のP=O又はP-O由来、無機塩SO4 2-又はClO4 -に起因するものが、吸収強度の高い構造として知られており、これらとSi-O伸縮振動との帰属を取り違えないように注意しなければならない。
【0098】
分岐オルガノポリシロキサンの製造方法は、特段限定されない。例えば、ジシロキサン化合物、その加水分解物、ジシラザン化合物、その加水分解物、アルコキシシラン化合物、その加水分解物、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物からなる群より選択される1種類又は複数種を縮合させる方法がある。また、クロロシラン化合物、その加水分解物、その部分加水分解縮合物を縮合させる方法でもよい。また、環状シロキサン化合物を開環重合させる方法、環状シロキサン化合物のアニオン重合をはじめとする連鎖重合等でもよい。複数の製造方法を組み合わせて分岐オルガノポリシロキサンを製造することもできる。
【0099】
また、反応性官能基、相溶性基の導入方法に関しても特段限定されない。例えば、反応性官能基及び/又は相溶性基を有するアルコキシシラン化合物、ジシロキサン化合物、ジシラザン化合物、これらの加水分解物、これらの部分加水分解縮合物からなる群より選択される1種類又は複数種を縮合させる方法がある。また、オルガノポリシロキサンに導入された別種の基を化学的手法により反応性官能基、相溶性基へ変換する方法であってもよい。また、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0100】
別種の基を化学的手法により反応性官能基及び/又は相溶性基に変換する方法としては、例えば、水素原子がケイ素原子に直結した構造を有するオルガノポリシロキサンに反応性官能基及び/又は相溶性基とアルケニル基を有する化合物を反応させる方法(具体的には、ヒドロシリル化法)や、チオール基を有するオルガノポリシロキサンに反応性官能基及び/又は相溶性基とアルケニル基を有する化合物を反応させる方法、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンに反応性官能基及び/又は相溶性基とチオール基を有する化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0101】
また、反応後に得られた分岐オルガノポリシロキサンに対して、カラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィ(つまり、GPC)、溶媒による抽出、不要成分の留去等を行うことにより、所望のエポキシ当量や分子量を有する分岐オルガノポリシロキサンを分画してもよい。また、分岐オルガノポリシロキサンに対して減圧や加熱等の処理を行うことにより、低沸点成分を除去してもよい。
【0102】
分岐オルガノポリシロキサンを製造する際、溶媒を用いても用いなくてもよい。溶媒を用いる場合には水及び有機溶媒を使用することができるが、特に有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、アセトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、クロロホルム、ジクロロメタンが好ましい。溶解性、除去の容易性、低環境有害性の観点から、テトラヒドロフラン、トルエン、メタノールがより好ましい。また、これらの水、有機溶媒等の溶媒を単独で使用してもよいが、2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、反応の工程によって溶媒種を変更してもよい。また、アルコキシシラン化合物やクロロシラン化合物等を加水分解縮合させることでオルガノポリシロキサン骨格を形成する場合には、水を適量添加して加水分解を促すことができる。
【0103】
分岐オルガノポリシロキサンを製造する際の反応温度は特に限定されず、通常、反応温度は-40~200℃であるが、-20~150℃がより好ましく、0~130℃が更に好ましい。この温度範囲より低い温度では、目的とするオルガノポリシロキサン骨格を形成する反応や、反応性官能基及び/又は相溶性基を導入する反応が進行しにくくなる場合がある。一方、この温度範囲より高い温度では、反応性官能基及び/又は相溶性基の分解等の望まない反応が進行する場合がある。
【0104】
分岐オルガノポリシロキサンを製造する際、反応を実施するための圧力は特に限定されず、通常は0.6~1.4気圧で実施されるが、0.8~1.2気圧で実施されることが好ましく、0.9~1.1気圧で実施されることがより好ましい。この範囲より低い圧力では、溶媒を用いた際に溶媒の沸点が低下し、反応系内を適切な反応温度まで上げることができない場合がある。一方、この範囲より高い圧力では溶媒の沸点が上昇し、反応系の温度を上昇させて反応を加速できる利点があるものの、加圧条件下での反応となるため、装置の破損や爆発のリスクを伴うこととなる。
【0105】
ポリカーボネート共重合体は、1種又は2種以上の分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位を有することができる。また、ポリカーボネート共重合体は、本発明の所望の効果を損ねない範囲において、例えば式(2)で表される分岐オルガノポリシロキサンに由来の構成単位と共に、分岐オルガノポリシロキサン以外のオルガノポリシロキサンに由来の構成単位を有していてもよい。ポリカーボネート共重合体の透明性をより高く保つという観点から、分岐オルガノポリシロキサン100重量部に対する、分岐オルガノポリシロキサン以外のオルガノポリシロキサンの含有量は500重量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましく、50重量部以下であることが更に好ましい。
【0106】
[ポリカーボネート共重合体の製造方法]
ポリカーボネート共重合体は、一般に用いられるポリカーボネート共重合体の製造方法で製造することができる。ポリカーボネート共重合体は、例えば、ホスゲンを用いた溶液重合法、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とを反応させる溶融重合法のいずれの方法でも製造することができる。
【0107】
ポリカーボネート共重合体は、例えば、第1ジヒドロキシ化合物と、分岐オルガノポリシロキサンと、必要に応じて添加される第2ジヒドロキシ化合物とを反応器内で共重合させることにより製造される。さらに、共重合可能なその他のモノマーを反応器に添加して共重合させてもよい。重合にあたって、各モノマー原料を反応器内に一度に添加してもよいし、各モノマー原料を異なるタイミングで添加してもよい。
【0108】
ポリカーボネート共重合体を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として通常100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。
【0109】
押出後の異物混入を防止するという観点から、JIS B9920:2002に定義されるクラス7より清浄度の高いクリーンルーム内でポリカーボネート共重合体の押出を実施することが好ましい。より好ましくは、クラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で押出を実施することがよい。
【0110】
また、押出されたポリカーボネート共重合体を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用することが好ましい。空冷の際には、ヘパフィルター等で事前に異物を取り除いた空気を使用することが好ましい。この場合には、空気中の異物の再付着を防ぐことができる。水冷の際には、イオン交換樹脂等で金属分を取り除き、更にフィルターにて異物を取り除いた水を使用することが好ましい。99%除去の濾過精度を得るという観点から、フィルターの目開きは、0.45~10μmであることが好ましい。
【0111】
ポリカーボネート共重合体の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度が高いほど分子量が大きいことを示す。還元粘度は、0.30dL/g以上が好ましく、0.35dL/g以上がより好ましい。一方、還元粘度は、1.20dL/g以下が好ましく、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。還元粘度を上記範囲内に調整することにより、成形時の流動性を向上させることができ、生産性や成形性をより向上させることができる。従って、複雑な形状の成形品を生産性よく製造することができ、電気・電子機器部品や自動車内外装部品等に好適になる。尚、ポリカーボネート共重合体の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用いてポリカーボネート共重合体の濃度を0.6g/dLに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃の条件下でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0112】
ポリカーボネート共重合体のガラス転移温度は、90℃以上が好ましい。この場合には、耐熱性がより向上する。同様の観点から、ポリカーボネート共重合体のガラス転移温度は、100℃以上がより好ましく、110℃以上が更に好ましい。一方、ポリカーボネート共重合体のガラス転移温度は145℃以下が好ましい。この場合には、成形時の流動性を高め、複雑な形状の成形品であっても成形時に、ポリカーボネート共重合体又はこれを含有する樹脂組成物が成形型の末端まで行き届き易くなり、所望の成形品を得ることができる。また、ウエルド部での強度の低下を抑制できる。これらの効果をより高めるという観点から、ポリカーボネート共重合体のガラス転移温度は、135℃以下がより好ましく、125℃以下が更に好ましい。ポリカーボネート共重合体のガラス転移温度は、後述の方法により測定することができる。
【0113】
ポリカーボネート共重合体の全光線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。また、ポリカーボネート共重合体に対してティッシュ摩耗試験を実施し、試験後のポリカーボネート共重合体の摩耗領域における目認できる傷の本数が、40本以下が好ましく、30本以下がより好ましく、15本以下が更に好ましい。
【0114】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
ポリカーボネート共重合体に、その他の樹脂、エラストマー、添加剤等を配合して、ポリカーボネート樹脂組成物を作製することができる。なお、以降の説明では、ポリカーボネート樹脂組成物のことを、適宜「樹脂組成物」といい、少なくとも構成単位(a1)と構成単位(a2)とを有するポリカーボネート共重合体ことを、適宜「第1ポリカーボネート樹脂」という。樹脂組成物は、構造の異なる複数の第1ポリカーボネート樹脂を含有することができる。また、樹脂組成物は、本発明の所望の効果を損ねない範囲において、第1ポリカーボネートの他に、第1ポリカーボネート樹脂とは異なる第2ポリカーボネート樹脂を含有することができる。また、樹脂組成物は、本発明の所望の効果を損ねない範囲において、ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂、エラストマー、添加剤等を含有することができる。
【0115】
(添加剤)
樹脂組成物には、上述の所望の効果を損ねない範囲内において、更に種々の添加剤を添加することができる。添加剤としては、触媒失活剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、着色剤、中和剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、充填剤等がある。
【0116】
・触媒失活剤
触媒失活剤は、ポリカーボネート共重合体の重合触媒を失活させる性質を有する。ポ
リカーボネート共重合体の色調を良好にしたり、熱安定性を向上させる効果を発揮できる。触媒失活剤としては、例えば、酸性化合物を用いることができる。このような酸性化合物としては、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基を有する化合物、又はそれらのエステル体等を用いることができる。
【0117】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、樹脂に使用される一般的な酸化防止剤を使用できる。酸化安定性、熱安定性、着色による良好な漆黒調等の観点から、ホスファイト系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤としては、1種の化合物を用いてもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0118】
・紫外線吸収剤
樹脂組成物は、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤を含有することができる。紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4‐(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2,2’-p-フェニレンビス(1,3-ベンゾオキサジン-4-オン)が挙げられる。紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート共重合体100質量部に対して0.01~2質量部が好ましく、0.05~1質量部がより好ましい。
【0119】
・光安定剤
樹脂組成物は、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、光安定剤を含有することができる。光安定剤としては、例えば、アミン化合物由来の化合物を用いることができる。好ましくは、第二級アミン構造を有する融点85℃以上の化合物がよい。第二級アミン構造を有する化合物は、第一級アミンよりも塩基性が高い。アミン化合物からなる光安定剤の塩基性が高いほど光に対するポリカーボネートの安定性が向上するとともに、加水分解による劣化が抑制される。
【0120】
成形品の耐光性試験前後の変化率を少なくすることができるという観点から、第二級アミン構造は、窒素が環式構造の一部となっているものが好ましく、ピペリジン構造を有するものがより好ましい。ここで規定するピペリジン構造は、飽和6員環状のアミン構造となっていれば如何なる構造であっても構わず、ピペリジン構造の一部が置換基により置換されているものも含む。ピペリジン構造が有していてもよい置換基としては、炭素数4以下のアルキル基が挙げられ、特にはメチル基が好ましい。
【0121】
第二級アミン構造を有する融点が85℃以上の化合物としては、第二級アミン構造を複数有するものが好ましい。より好ましくは、ピペリジン構造の第二級アミン構造を複数有する化合物がよい。更に好ましくは、複数のピペリジン構造がエステル構造により連結されている化合物がよい。
【0122】
耐ブリードアウト性を向上させるという観点から、ポリカーボネート共重合体とアミン化合物(具体的には、光安定剤)との溶解性パラメータ(つまりSP値)の差の絶対値は、0.0~15.0が好ましい。SP値はHoy法にて算出される。耐ブリードアウト性を更に向上させるという観点から、SP値の差の絶対値は0.0~12.0がより好ましく、0.0~8.0が更に好ましく、0.0~6.0が特に好ましい。
【0123】
光安定剤の融点は、上記のごとく85℃以上であることが好ましい。この場合には、耐光試験後のポリカーボネート共重合体の平滑性、耐ブリードアウト性を向上させることができる。この向上効果をより高めるという観点から、光安定剤の融点は、90~300℃がより好ましく、100~250℃が更に好ましく、110~200℃が特に好ましい。
【0124】
また、少量で耐候性がより向上するという観点から、光安定剤の末端官能基当量は、100~500g/eqが好ましい。より少量で耐候性の向上効果が得られるという観点から、光安定剤の末端官能基当量は、100~350g/eqがより好ましく、100~300g/eqが更に好ましい。
【0125】
成形品の耐候性をより向上させるという観点から、光安定剤の分子量は、5000以下が好ましく、3000以下がより好ましい。耐熱性の低下を抑制し、成形時における金型汚染や表面外観の劣化をより抑制するという観点から、光安定剤の分子量は、300以上が好ましく、400以上がより好ましい。
【0126】
このような光安定剤としては、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β,β-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール及び3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物等が挙げられる。これらのなかでも、融点が高いという観点から、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート(SP値19.2、融点130℃)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール及び3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物(SP値18.5、融点95℃)が好ましい。光安定剤としては、1種類の化合物を単独で用いてもよく、2種以上の化合物を用いてもよい。
【0127】
ポリカーボネート樹脂組成物中の光安定剤の含有量は、ポリカーボネート共重合体100質量部に対して、0.001~5質量部が好ましく、0.005~3質量部がより好ましく、0.01~1質量部が更に好ましい。光安定剤の含有量を上記範囲内に調整することにより、着色を防止できる。また、着色剤を添加した場合に、例えば、深みと清澄感のある漆黒や他の色を得ることができる。更に、耐光性の効果が十分に得られるため、樹脂組成物を成形した際に、例えば、自動車内外装品に好適な成形品が得られる。
【0128】
光安定剤としては、上述のように、例えば、第二級アミン構造を有するアミン化合物が好ましいが、これら好ましい形態とは異なるアミン化合物を更に併用してもよい。併用可能なアミン化合物としては、第三級アミン構造を有するアミン化合物が好ましい。この場合には、光安定性の効果をより長期に亘って発揮できる。この効果をより高めるという観点から、光安定剤としては、ピペリジン構造を有する第二級アミンと、ピペリジン構造を有する第三級アミンとを組み合わせることがより好ましい。
【0129】
・着色剤
着色剤としては、無機顔料、有機顔料及び有機染料等の有機染顔料が挙げられる。着色剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0130】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化物系顔料が挙げられる。酸化物系顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等が挙げられる。
【0131】
有機染顔料としては、例えば、フタロシアニン系染顔料、縮合多環染顔料、染顔料が挙げられる。縮合多環染顔料としては、アゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等がある。染顔料としては、アンスラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、メチン系、キノリン系、複素環系、メチル系等がある。
【0132】
着色剤としては、無機顔料が好ましい。この場合には、成形品を屋外等で使用した場合でも、例えば鮮映性を長期間保持することができる。
【0133】
ポリカーボネート樹脂組成物中の着色剤の含有量は、ポリカーボネート共重合体100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましく、0.1~2質量部が更に好ましい。着色剤の含有量を上記範囲に調整することにより、鮮映性が高い原着成形品を得ることができ、成形品の表面粗さの増大をより防止することができる。
【0134】
樹脂組成物を漆黒調に調色した場合には、明度L*は、0.1~10であることが好ましく、0.1~6であることがより好ましい。また、光沢度は、85%以上が好ましく、88%以上がより好ましい。この場合には、成形品が自動車内外装品に好適になる。
【0135】
・充填剤
樹脂組成物は、意匠性を維持できる範囲において、無機充填剤、有機充填剤等の充填剤を含有することができる。無機充填剤としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウム、カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、これらのウィスカー等が挙げられる。有機充填剤としては、木粉、竹粉、ヤシ澱粉、コルク粉、パルプ粉等の粉末状有機充填剤;架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン・アクリル共重合体、尿素樹脂等のバルン状・球状有機充填剤;炭素繊維、合成繊維、天然繊維等の繊維状有機充填剤が挙げられる。
【0136】
・滑剤
樹脂組成物は、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、滑剤を含有することができる。滑剤は、流動性改質剤とも呼ばれる。滑剤としては、脂肪酸アマイド、パラフィンオイル等の炭化水素化合物からなるオイル、シリコーンオイル、分岐オルガノポリシロキサン、カルボン酸エステル等のエステル系化合物、フッ素系ワックス等が挙げられる。透明性をより高めるという観点、物性維持の観点から、脂肪酸アマイドが好ましい。
【0137】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
樹脂組成物は、上記成分を所定の割合で、同じタイミングで又は任意の順序で、タンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機に添加し、混合して製造される。樹脂組成物の製造には、少なくともポリカーボネート共重合体が用いられ、混合時に、必要に応じて他の樹脂、エラストマー、添加剤等が添加される。
【0138】
[成形品]
成形品は、ポリカーボネート共重合体又は樹脂組成物を成形することにより得られ、少なくともポリカーボネート共重合体を含有する。成形は、任意の成形法により行なうことができる。成形法としては、例えば、熱プレス成形、射出成形、射出圧縮成形、射出プレス成形が好適に用いられる。成形に用いられるランナーとしては、コールドランナー方式、ホットランナー方式のいずれを用いることも可能である。また、インサート成形、インモールドコーティング成形、二色成形、サンドイッチ成形等による成形も可能である。意匠性を高めるという観点から、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形を用いることも可能である。
【0139】
(成形品の用途)
成形品は、例えば、塗装によりコーティングを施さなくとも、耐摩耗性に優れ、ティッシュ等で拭いた場合に発生する擦れ傷が少なくできる。従って、塗装のための工程、コストの削減が可能になる。このような効果を有するため、成形品は様々な部品に適用することができる。しかも、成形品は、平滑性にも優れ、更なる材料の選択等により透明性を高めることも可能であるため、例えば、鮮鋭性等の向上も可能である。更に、光安定剤、紫外線防止剤等を添加することにより、光に曝される環境下においても優れた透明性等の効果を長期に亘って維持することが可能になると考えられる。また、成形品全体としての透明性を維持させることができる。ただし、成形品は、透明なものだけでなく、上述の着色剤に着色されたものを含む。
【0140】
ポリカーボネート共重合体は、上記のように、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)と、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)とを有する。このようなポリカーボネート共重合体を含有する成形品は、例えば、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有し、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位を有さないポリカーボネート樹脂と、分岐オルガノポリシロキサンとの混合物の成形品に比べて、分岐オルガノポリシロキサンが共有結合的にポリマー構造に組み込まれているため、分岐オルガノポリシロキサンのブリードアウトによる成型時の金型汚染を抑制できる利点、成形品をティッシュで繰り返し摩耗させた際や成型品の表面を洗浄した際に起こりうる耐傷つき性能の低下を抑制できる利点がある。
【0141】
以上のような効果を発揮できるため、成形品は、高級感、重厚感のある高品質の部品の提供を可能にする。成形品の適用用途に特に制限はないが、成形品は、住設資材、フィルム部材、建材、インテリア用品、エクステリア用品、自動車等の車両用の内装部品、外装部品に好適である。
【0142】
成形品が適用される自動車用の外装部品としては、例えば、フェンダー、バンパー、フェーシャ、ドアパネル、サイドガーニッシュ、ピラー、ラジエータグリル、サイドプロテクター、サイドモール、リアプロテクター、リアモール、各種スポイラー、ボンネット、ルーフパネル、トランクリッド、デタッチャブルトップ、ウインドリフレクター、ミラーハウジング、アウタードアハンドルが挙げられる。自動車用内装部品としては、例えば、インストルメントパネル、センターコンソールパネル、メーター部品、各種スイッチ類、カーナビケーション部品、カーオーディオビジュアル部品が挙げられる。また、オートモバイルコンピュータ部品等に適用することも可能である。成形品は、上記用途が好適ではあるが、何らこれらの用途に限定されるものではない。
【0143】
[本発明が効果を奏する理由]
本発明が効果を奏する理由は未だ明らかではないが、以下のように推察される。
ポリカーボネート共重合体が式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と共に、分岐オルガノポリシロキサンを共重合成分とすることによって、耐摩耗性が向上して成形品の使用時に発生し得る擦り傷や摩耗傷を防止できる。さらに、ポリカーボネート共重合体が反応性官能基及び/又は相溶性基を導入した分岐オルガノポリシロキサンを共重合成分とする場合には、分岐オルガノポリシロキサンが共有結合的にポリカーボネート共重合体に組み込まれて形成された構成単位(a2)の相溶性基部分及び/反応性官能基部分がポリカーボネート共重合体の極性元素に配位したり、あるいは分子間の相互作用を形成させることにより、分子レベルでオルガノポリシロキサンが分散する。そのため、優れた耐擦傷性を示しながらも高い透明性を維持できる。
【0144】
また、分岐オルガノポリシロキサンのポリシロキサン部分(つまり、ポリシロキサン骨格)は表面自由エネルギーが低いため、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)が成形品表面に偏析する。この偏析によってドメイン又は膜形成がなされ、摩耗時に作用する応力を緩衝する。つまり、応力緩和が起こる。これにより、摩耗傷(具体的には擦傷)の発生を抑制し、摩耗傷が少なくなる。その結果、ポリカーボネート樹脂本来の透明性を高く保ったまま、ティッシュ等で拭いた場合に発生する擦れ傷を少なくすることができると考えられる。したがって、ポリカーボネート共重合体は、美観を高めた高品質の成形品の製造を可能にし、その成形品の高品質を長く保つことができる。
【0145】
これに対し、ポリシロキサン骨格に分岐構造がないオルガノポリシロキサンを用いると、その分子量が低い場合は、応力緩和するための粘性散逸エネルギーが不足し、耐摩耗性が向上しにくいと考えられる。一方で、分岐構造がないオルガノポリシロキサンの分子量が高い場合には、ポリカーボネート共重合体中のオルガノポリシロキサンに由来する構成単位のドメインサイズが大きくなり透明性が損なわれると考えられる。
【0146】
また、分岐オルガノポリシロキサンが、反応性官能基及び/又は相溶性基を有する場合、式(2)で表される場合には、分岐オルガノポリシロキサン由来の構成単位(a2)とポリカーボネート共重合体のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)との相溶性がより向上する。したがって、非相溶な界面等が生じ難く、成形品全体として透明性がより向上すると考えられる。
【実施例
【0147】
以下にポリカーボネート共重合体の実施例を示すが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。尚、以下の記載において、「部」、「%」は、それぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、本明細書において、「質量部」と「重量部」、「質量%」と「重量%」とは、それぞれ実質的に同じ意味である。
【0148】
[評価方法]
以下において、ポリカーボネート共重合体、分岐オルガノポリシロキサンの物性ないし特性の評価は次の方法により行なった。
【0149】
(1)試験片作製方法
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、200Pa以下の減圧下、100℃で8時間乾燥した。次に、乾燥したペレットを小型熱プレス機(アズワン株式会社、AH-2003C AH-1TC)を使用し、熱板温度210℃の条件にてプレス成形シート(幅70mm×長さ70mm×厚さ0.5mm)を成形した。このプレス成形シートを試験片とする。
【0150】
(2)ティッシュ摩耗試験
摩耗試験は、平面摩耗試験機(大栄科学精器製作所、形式:PA-300A)を用いて行った。まず、ティッシュ(日本製紙クレシア社製フラワーボックス)を4回折り畳んで、先端の曲率半径Rが45mmであり、縦20mm×横20mm×高さ50mmの摩耗子に取り付けた。次いで、上記(1)で得られた試験片を試験台に設置して摩耗子を500往復させた。往復運動は、荷重9.8N、ストローク40mm、速度50stroke/minの条件で行った。その後、試験片の摩耗領域内の外観を目視にて観察し、下記基準で耐擦り傷性の判定を行った。
「◎」:摩耗領域内の傷が15本以下であった場合
「〇」:摩耗領域内の傷が15本を超え30本以下であった場合
「×」:摩耗領域内の傷が30本を超えであった場合
【0151】
(3)全光線透過率
上記(1)で得られた試験片を用い、色彩・濁度同時測定器(日本電色工業株式会社、形式:COH-400)を使用し、JIS K7105に準拠して測定した。全光線透過率が90%以上の場合を合格とする。
【0152】
(4)ガラス転移温度
ガラス転移温度は、示差走査熱量計DSC6220(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて測定した。約10mgの樹脂を同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、200℃から測定を開始し、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。昇温時のDSCデータより、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
【0153】
(5)反応性官能基/相溶性基の含有量の測定
各分岐オルガノポリシロキサンを50mg秤量し、内部標準として15mgのトルエンを添加した。更に重クロロホルムを約1g入れて溶解し、400MHz 1H-NMR(日本電子株式会社製AL-400)にてRelaxation Delayを20秒で測定した。各成分のシグナル強度と内部標準のトルエンのシグナル強度との比率、及び、秤量値により、1g当たりの反応性官能基および相溶性基含有量(mmol/g)、即ち、分子量1000当たりの反応性官能基数および相溶性基数を算出した。
【0154】
(6)29Si-NMR測定
装置:日本電子株式会社製JNM-ECS400、TUNABLE(10)、Siフリー、AT10プローブ
測定条件:Relaxation Delay/15秒、SCAN回数/1024回、測定モード/非ゲーテッドデカップルパルス法(NNE)、スピン/なし、測定温度/25℃
試料の調整:重クロロホルムにTris(2,4-pentanedionato)chromiumIIIが0.5%になるよう添加し、29Si-NMR測定用溶媒を得た。測定対象のオルガノポリシロキサンを1.5g秤量し、29Si-NMR測定用溶媒を2.5ml入れて溶解し、10mmΦテフロン(登録商標)製NMR試料管へ入れた。
【0155】
(7)分岐オルガノポリシロキサンの分子量の測定
各オルガノポリシロキサンの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により下記条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として示した。試料は約10%のTHF溶液を用い、測定前に0.45μmのフィルターにて濾過したものを用いた。
装置:TOSOH HLC-8220 GPC(東ソー(株)製)
カラム:KF-G、KF-401HQ、KF-402HQ、KF-402.5HQ(昭和電工(株)製)、カラム温度40℃
溶離液:テトラヒドロフラン、流量0.3mL/分
【0156】
(8)分岐オルガノポリシロキサンの粘度の測定
分岐オルガノポリシロキサンの粘度は下記の条件で測定した。
装置:DV-II+Pro (BROOK FIELD社製)
コーン:CPE-42
測定温度:25℃
測定サンプル量:1g
【0157】
(9)分岐オルガノポリシロキサンの屈折率の測定
分岐オルガノポリシロキサンの屈折率はRX-7000α(ATAGO社製)を用い、20℃で測定した。
【0158】
[分岐オルガノポリシロキサン]
後述の実施例1~5においては、分岐オルガノポリシロキサンとして以下のシリコーンオイルA~Cをそれぞれ用いた。各シリコーンオイルの原料、製造方法及び特性は下記の通りである。
【0159】
<原料等>
1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(NuSil Technology社製)
ポリテトラメトキシシラン(三菱ケミカル株式会社製 MS-51)
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製 ブレンマーPME-400)
エチレングリコールモノビニルエーテル(東京化成工業株式会社製)
1-ヘキセン(東京化成工業株式会社製)
トルエン(キシダ化学株式会社製)
メタノール(キシダ化学株式会社製)
テトラヒドロフラン(キシダ化学株式会社製)
ヘプタン(キシダ化学株式会社製)
1N塩酸(キシダ化学株式会社製)
白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体キシレン溶液(アルドリッチ社製 白金濃度2%)
【0160】
<シリコーンオイルA>
シリコーンオイルAの前駆体の原料として1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン1040部、ポリテトラメトキシシラン422部、溶媒としてテトラヒドロフラン943部、触媒として1N塩酸115部とメタノール115部の混合物を使用し、40℃で5時間加水分解縮合を行った。ヘプタン938部を添加し、脱塩水による洗浄で塩酸を除去した後、溶媒を留去しシリコーンオイルA前駆体を得た。
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート35.0重量部をトルエン23.9重量部に溶解させ、そこへ上記で得られたシリコーンオイルA前駆体10.0重量部、トルエン11.5重量部、白金濃度2%の白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体キシレン溶液0.05重量部の混合物を加えて、90℃で3.5時間撹拌した。次に、エチレングリコールモノビニルエーテル2.5重量を加え80℃で22.5時間撹拌した。
室温付近まで放冷した溶液に活性炭4.1重量部を加えて8時間撹拌した後、活性炭を濾別して溶媒を留去してシリコーンオイルAを得た。

反応性官能基/相溶性基:
メトキシポリエチレングリコール基 1.6mmol/g
分子量1000あたりのメトキシポリエチレングリコール基の含有量1.6個
2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル基 0.34mmol/g
分子量1000あたりの2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル基の含有量0.34個
反応性官能基/相溶性基以外の基:
メチル基 4.5mmol/g


式(2)中の係数:
a=0.67、b=0.3、c=0、d=0.30
(e+fの値は算出不能であったが、シリコーンオイルA前駆体の段階ではe+f=0.04であり、重合後の段階でのe+fの値は前駆体の段階と同値あるいは少なくなると考えられる。)
メトキシ基量:算出不能であったが、シリコーンオイルA前駆体の段階では1.2重量%であった
Mn:2500
Mw:5600
屈折率:1.461
粘度:420mPa・s
【0161】
<シリコーンオイルB>
エチレングリコールモノビニルエーテル161重量部をトルエン166重量部に溶解させた後、85℃に加温した。白金濃度2%の白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体キシレン溶液0.17重量部を加えた後、85℃でシリコーンオイルA前駆体と同様の方法で合成したシリコーンオイルB前駆体150重量部とトルエン167重量部の混合物を加え、2時間撹拌した。さらに120℃で2時間撹拌した。室温付近まで放冷し、シリカゲル150重量部を加えて30分撹拌撹拌した後、シリカゲルを濾別し、溶媒を留去してシリコーンオイルBを得た。

反応性官能基/相溶性基:
2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル基 4.8mmol/g
分子量1000あたりの2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル基の含有量4.8個
反応性官能基/相溶性基以外の基:
メチル基 12mmol/g

式(2)中の係数:
a=0.67、b=0.02、c=0、d=0.31
(e+fの値は算出不能であったが、シリコーンオイルB前駆体の段階ではe+f=0.04であり、重合後の段階でのe+fの値は前駆体の段階と同値あるいは少なくなると考えられる。)
メトキシ基量:算出不能であったが、シリコーンオイルB前駆体の段階では1.2重量%であった
Mn:1700
Mw:2400
屈折率:1.458
粘度:1000mPa・s
【0162】
<シリコーンオイルC>
シリコーンオイルA前駆体と同様の方法で合成したシリコーンオイルC前駆体20.1重量部をトルエン45.1重量部に溶解させた後、50℃に加温し白金濃度2%の白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体キシレン溶液0.02重量部を加えて撹拌した。そこへ1-ヘキセン12.2重量部を加え、50℃で17時間撹拌した。次に、エチレングリコールモノビニルエーテル5.4重量を加え50℃で8時間撹拌した。
室温付近まで放冷した溶液に活性炭7.3重量部を加えて3時間撹拌した後、活性炭を濾別し、溶媒を留去してシリコーンオイルCを得た。

反応性官能基/相溶性基:
2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル基 1.7mmol/g
分子量1000あたりの2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル基の含有量1.7個
反応性官能基/相溶性基以外の基:
メチル基 11mmol/g
ヘキシル基 3.4mmol/g

式(2)中の係数:
a=0.64、b=0.03、c=0、d=0.33
(e+fの値は算出不能であったが、シリコーンオイルC前駆体の段階ではe+f=0.03であり、重合後の段階でのe+fの値は前駆体の段階と同値あるいは少なくなると考えられる。)
メトキシ基量:算出不能であったが、シリコーンオイルC前駆体の段階では0.7重量%であった
Mn:1600
Mw:1800
屈折率:1.448
粘度:190mPa・s
【0163】
[直鎖オルガノポリシロキサン]
比較例2、3においては、シリコーンオイルD、シリコーンオイルEをそれぞれ用いた。
【0164】
<シリコーンオイルD>
シリコーンオイルD:BY16-201(東レ・ダウコーニング社製、カルビノール末端変性ジメチルシロキサン)
屈折率:1.412
動粘度:45mm2/s(25℃)
【0165】
シリコーンオイルE:X-22-160AS(信越化学株式会社性、カルビノール末端変性ジメチルシロキサン)
反応基当量:470g/mol
粘度:35mm2/s
【0166】
[ポリカーボネート共重合体]
後述の実施例1~5、比較例1~3においては、分岐オルガノポリシロキサン以外のポリカーボネート共重合体の原料として、以下のジヒドロキシ化合物を用いた。
第1ジヒドロキシ化合物:イソソルビド(つまり、ISB):ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB
第2ジヒドロキシ化合物:1,4-シクロヘキサンジメタノール(つまり、CHDM):(シス、トランス混合物、SKケミカル社製)
ジフェニルカーボネート(つまり、DPC):三菱ケミカル(株)製
【0167】
[実施例1]
ISB 59.6g(0.408mol)、CHDM 25.2g(0.175mol)、DPC 124.87g(0.583mol)、シリコーンオイル 1.0g、及び触媒として酢酸カルシウム1水和物 3.08×10-3g(1.75×10-5mol)を反応器に投入し、反応装置内を減圧窒素置換した。窒素雰囲気下、反応器内を150℃で30分間、攪拌しながら原料を溶解させた。反応1段目の工程として210℃まで30分かけて昇温し、30分間常圧にて反応させた。次いで圧力を常圧から13.3kPaまで90分かけて減圧し、13.3kPaで30分間保持し発生するフェノールを反応系外へ抜き出した。次いで反応2段目の工程として熱媒温度を15分かけて220℃まで昇温しながら、圧力を133Pa以下まで20分かけて減圧し、発生するフェノールを反応系外へ抜き出した。所定撹拌動力になった時点で窒素にて復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。ペレットを、熱風乾燥機で100℃にて8時間乾燥した。このようにして得られたポリカーボネート共重合体のペレットを用いて、前述の各種評価を行った。評価結果、配合比を表1に示す。表1に示す各成分の配合比は、成分相互の配合比であり、質量%比で表されている。
【0168】
[実施例2~5]
使用するシリコーンオイルの種類と配合量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体のペレットを得た。次いで、実施例1と同様に評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0169】
[比較例1~3]
使用するシリコーンオイルの種類と配合量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート共重合体のペレットを得た。次いで、実施例1と同様に評価を行なった。その結果を表1に示す。なお、比較例1は、オルガノポリシロキサンを用いずに作製したポリカーボネート樹脂である。比較例2、比較例3は、分岐のない直鎖状のオルガノポリシロキサンを用いて作製したポリカーボネート共重合体である。
【0170】
実施例、比較例においては、シリコーンオイルの配合量が、得られるポリカーボネート共重合体におけるシリコーンオイル由来の構成単位(a2)の重量%に近似できる。
【0171】
【表1】
【0172】
表1に示されるように、比較例1は、オルガノポリシロキサン由来の構成単位を有さないため、ティッシュ摩耗試験の結果が不十分である。つまり、比較例1は、耐擦傷性が不十分である。比較例2、比較例3は、分岐構造を有さない直鎖状のオルガノポリシロキサン由来の構成単位を有するが、全光線透過率が低く、透明性が不十分である。なお、比較例2、比較例3では、透明性が不合格であったため、ティッシュ摩耗試験での評価を省略した。
【0173】
表1に示されるように、実施例1~5は、ISB由来の構成単位と共に、分岐オルガノポリシロキサン由来の構成単位を有する。実施例1~5は、いずれも、透明性に優れ、さらに耐擦傷性にも優れている。また、ガラス転移点が十分高く、耐熱性にも優れる。
【0174】
実施例1では、分岐オルガノポリシロキサン由来の構成単位(a2)が、有機基として、上述の式(23)で表される基(但し、m=8)、式(25)で表される基(但しm=8)、および式(21)で表される基を有している。実施例2、実施例4では、分岐オルガノポリシロキサン由来の構成単位が、有機基として、上述の式(21)で表される基を有している。実施例3、実施例5では、分岐オルガノポリシロキサン由来の構成単位が、有機基として、ヘキシル基と上述の式(21)で表される基とを有している。
【0175】
実施例2、3は、実施例4,5と比べて透明性を維持したまま耐擦傷性がより向上している。これは、ポリカーボネート共重合体に対する分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位が増えたことで、成形品の表面に偏析する分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位が増加したためである。
【0176】
実施例1、2は、実施例3に比べて透明性がさらに向上している。これは、シリコーンオイルA、シリコーンオイルBは、シリコーンオイルCと比較して反応性官能基及び/相溶性基総数が多く存在し、相溶性が向上したためである。
【0177】
このように、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a1)と共に、分岐オルガノポリシロキサンに由来する構成単位(a2)を含むことにより、透明性を高く維持し、成形品の美観を高めつつ、耐摩耗性(具体的には耐擦傷性)を向上させたポリカーボネート共重合体が得られることがわかる。これは、分岐オルガノポリシロキサンが、水酸基を有し、この水酸基が少なくとも反応性官能基として作用し、共有結合的にポリカーボネート共重合体構造に組み込まれているためである。