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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】流体分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/02 20060101AFI20231017BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20231017BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231017BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20231017BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
B01D67/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019511796
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006148
(87)【国際公開番号】W WO2019176474
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018047502
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大
(72)【発明者】
【氏名】竹内 康作
(72)【発明者】
【氏名】三原 崇晃
(72)【発明者】
【氏名】堀口 智之
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-527340(JP,A)
【文献】特開2017-131881(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105668846(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0126707(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密層からなる分離層を有する流体分離膜であって、16℃大気圧において液体または固体である単環式または二環式の芳香族化合物が合計25~10,000ppm、水が4,100~30,000ppm吸着されてなり、前記芳香族化合物が、トルエン及びベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であり、トルエンが25~310ppmおよび/またはベンゼンが22~30ppm吸着されてなり、前記緻密層が無機材料からなり、前記無機材料が炭素であ二酸化炭素とメタンガスの分離用流体分離膜。
【請求項2】
ベンゼンの吸着量(ppm)に対するトルエンの吸着量(ppm)の比が2以上200以下である、請求項に記載の流体分離膜。
【請求項3】
前記芳香族化合物の吸着量(ppm)に対する水の吸着量(ppm)の比が0.5以上である、請求項1または2に記載の流体分離膜。
【請求項4】
加熱発生ガス分析法にて、室温から300℃まで10℃/分で昇温しながら前記芳香族化合物の発生量をオンライン測定した際、温度変化に対する発生量をプロットした曲線が、同一の芳香族化合物において2つ以上のピークを有する、請求項1~のいずれかに記載の流体分離膜。
【請求項5】
加熱発生ガス分析法にて、室温から300℃まで10℃/分で昇温しながら水の発生量をオンライン測定した際、温度変化に対する発生量をプロットした曲線が2つ以上のピークを有する、請求項1~のいずれかに記載の流体分離膜。
【請求項6】
多孔構造を有する支持体の表面に前記緻密層が形成されてなる、請求項1~のいずれかに記載の流体分離膜。
【請求項7】
前記多孔構造が三次元網目構造である、請求項に記載の流体分離膜。
【請求項8】
前記三次元網目構造が共連続多孔構造である、請求項に記載の流体分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種混合ガスや混合液体から特定の成分を選択的に分離・精製する手法として、膜分離が利用されている。膜分離法は蒸留等の他の流体分離法と比較して省エネルギーな手法であるため、注目されている。
【0003】
例えば天然ガスの精製プラントでは、主成分であるメタンガスに含まれる不純物の二酸化炭素を分離し、除去する必要がある。ここに膜分離を適用する場合、数MPa以上の高いガス噴出圧に曝された環境下において、長期に渡り高い分離性能を保持することが求められている。
【0004】
また、化学工業においてアルコールや酢酸中に含まれる不純物の水を分離する工程において膜分離法が使われ始めている。こうした用途においても、生産性及び品質安定性の観点から、高い分離性能及び長期安定性のある流体分離膜が求められている。
【0005】
上記のような用途への適用を目指し、炭素からなる流体分離膜(例えば、特許文献1)や高分子からなる流体分離膜(例えば、特許文献2)等が検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-63081号公報
【文献】特開2012-210608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または2に記載されているような流体分離膜は工業的に要求される分離性能を実現できなかったり、運転初期は高い分離性能を発揮するものの、長期の使用において分離性能が低下したりすることが課題となっていた。
【0008】
本発明は、上記従来の実状を鑑みてなされたものであって、長期間高い分離性能を維持することができる流体分離膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、緻密層からなる分離層を有する流体分離膜であって、16℃大気圧において液体または固体である単環式または二環式の芳香族化合物が2~10,000ppm、水が10~250,000ppm吸着されてなる流体分離膜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、長期間分離性能を維持することができる流体分離膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<流体分離膜>
本発明における流体分離膜(以下、単に「分離膜」という場合がある)は、緻密層を有し、当該緻密層が実質的な流体の分離層として機能する分離膜である。
【0012】
緻密層の素材は特に限定されず、一般的な無機材料、高分子材料が適用可能であるが、本発明の流体分離膜の吸着成分である芳香族化合物に対する可塑化や膨潤、寸法変化を抑制する観点から、無機材料が好ましい。無機材料は特に限定されないが、シリカ、ゼオライト等のセラミックや炭素が好ましく用いられる。その中で、本発明の流体分離膜の吸着成分である水に対する耐性が高いことから、炭素が好ましく用いられる。
【0013】
緻密層が炭素である場合、炭素成分の比率は、60~95重量%が好ましい。60重量%以上であると流体分離膜の耐熱性および耐薬品性が向上する傾向にある。緻密層の炭素成分は、65重量%以上がより好ましい。また、緻密層の炭素成分の比率が95重量%以下であると、柔軟性が生じ、曲げ半径が小さくなって取り扱い性が向上する。緻密層の炭素成分は、85重量%以下がより好ましい。
【0014】
ここで、炭素成分比率は、有機元素分析法によって測定した炭素、水素および窒素成分の合計を100%としたときの炭素成分の重量分率である。なお、分離膜において緻密層と、後述するその他の支持体等がともに炭素からなり、その境界が明確でなく一様の炭素材料から形成されていると判断されるものの場合、分離膜全体について定量した値であってもよい。
【0015】
流体分離膜の緻密層以外の部分は、緻密層と同素材から形成されていてもよく、異素材から形成されていてもよいが、同素材である方が、剥離や割れを抑制でき、品質安定性が向上する観点で好ましい。
【0016】
本発明の流体分離膜の好ましい形態としては、耐圧性、強度の観点から、多孔構造を有する支持体の表面に緻密層が形成された形態が挙げられる。支持体の素材は特に限定されず、無機材料、高分子材料等特に限定されないが、本発明の流体分離膜の吸着成分である芳香族化合物、水に対して構造変化、寸法変化を抑制する観点から、炭素が好ましく用いられる。
【0017】
また、流体透過性の観点から、支持体の多孔構造は三次元網目構造であることが好ましい。三次元網目構造とは、それぞれ三次元的に連続する枝部と細孔部(空隙部)からなる構造であり、液体窒素中で充分に冷却した試料をピンセット等により割断した断面を走査型電子顕微鏡で表面観察した際に、枝部と空隙部がそれぞれ連続していることにより確認できる構造である。三次元網目構造を有することで枝部が構造体全体を支えあう効果が生じて応力を全体に分散させるため、圧縮や曲げなどの外力に対して大きな耐性を有し、圧縮強度および圧縮比強度を向上させることができる。また、空隙が三次元的に連通しているため、ガスや液体などの流体を供給または排出させるための流路としての役割を有する。
【0018】
三次元網目構造の中でも、骨格の枝部と細孔部(空隙部)がそれぞれ連続しつつ三次元的に規則的に絡み合った共連続多孔構造であることは特に好ましい。共連続多孔構造を有することは、上記同様に割断した断面を走査型電子顕微鏡で表面観察した際に、骨格の枝部と空隙部がそれぞれ連続しつつ絡み合っていることにより確認できる。例えば、膜の表側から裏側へ直管(シリンダー状)の穴が空いている構造は、三次元網目構造であるが、枝部と空隙部が絡み合っていないので、共連続多孔構造には含まれない。
【0019】
支持体の多孔構造の細孔の平均直径は、30nm以上であると圧力損失が低減され流体の透過性が向上するため好ましく、100nm以上がより好ましい。また、平均直径が5,000nm以下であると、細孔以外の部分が多孔構造全体を支えあう効果が向上して圧縮強度が増大するため好ましく、2,500nm以下がより好ましい。ここで、多孔構造の平均直径とは、水銀圧入法による流体分離膜の細孔径分布測定による測定値である。水銀圧入法においては、多孔構造の細孔に圧力を加えて水銀を浸入させ、圧力と圧入された水銀量から細孔容積と比表面積を求める。そして、細孔を円筒と仮定したときに細孔容積と比表面積の関係から得た細孔直径を算出するものであり、水銀圧入法では5nm~500μmの細孔直径分布曲線を取得できる。なお、緻密層は実質的に細孔を有しないため、分離膜全体をサンプルとして測定した細孔の平均直径は、実質的に多孔構造の細孔の平均直径と同視できる。
【0020】
支持体の多孔構造は構造周期を有していることが好ましく、構造周期は10~10,000nmであることが好ましい。多孔構造が構造周期を有することは多孔構造の均一性が高いことを示し、骨格の太さや細孔サイズが均一であることを意味し、高い圧縮強度が得られやすいことを意味する。構造周期が10,000nm以下であると、骨格と細孔が微細な構造となって圧縮強度が向上する。多孔構造の構造周期は5,000nm以下がより好ましく、3,000nm以下がさらに好ましい。一方、構造周期が10nm以上であると、細孔部に流体を流す際の圧力損失が減少して流体の透過速度が向上し、より省エネルギーで流体分離を行うことができる。多孔構造の構造周期は100nm以上がより好ましく、300nm以上がさらに好ましい。
【0021】
多孔構造の構造周期は、多孔構造にX線を入射し、小角で散乱して得られた散乱強度のピークトップの位置における散乱角度2θより、下式で算出されるものである。
【0022】
【数1】
【0023】
L:構造周期、λ:入射X線の波長
ただし、構造周期が大きくて小角散乱が観測できない場合がある。その場合はX線コンピュータ断層撮影(X線CT)によって構造周期を得る。具体的には、X線CTによって撮影した三次元画像をフーリエ変換した後に、その二次元スペクトルの円環平均を取り、一次元スペクトルを得る。その一次元スペクトルにおけるピークトップの位置に対応する特性波長を求め、その逆数として構造周期を算出する。
【0024】
さらに、多孔構造は均一な構造であるほど、構造全体に応力を分散させる効果が得られるため、圧縮強度が高くなる。多孔構造の均一性は、X線の散乱強度の強度ピークの半値幅により決定できる。具体的には、支持体の多孔構造にX線を入射し、得られた散乱強度ピークの半値幅が小さいほど均一性が高いと判断する。ピークの半値幅は5°以下が好ましく、1°以下がより好ましく、0.1°以下がさらに好ましい。なお、本発明におけるピークの半値幅とは、ピークの頂点を点Aとし、点Aからグラフの縦軸に平行な直線を引き、該直線とスペクトルのベースラインとの交点を点Bとしたとき、点Aと点Bを結ぶ線分の中点Cにおけるピークの幅である。また、ここでのピークの幅とは、ベースラインに平行で、かつ点Cを通る直線と散乱曲線との交点間の長さのことである。
【0025】
分離膜の比表面積は10~1,500m/g以上であることが好ましい。比表面積が10m/g以上であることにより、芳香族化合物や水の吸着に作用できる面積が大きくなり、より高い耐久性を得ることができるため好ましく、20m/g以上であることがより好ましく、50m/g以上であることがさらに好ましい。比表面積が1,500m/g以下であることにより、膜強度が向上し、取扱い性に優れるため好ましく、1,000m/g以下であることがより好ましく、500m/g以下であることがさらに好ましい。なお、本発明における比表面積は、JISR 1626(1996)に準じ、流体分離膜に窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータをBET式に基づいて算出することができる。
【0026】
本発明の流体分離膜の形状は、繊維形状、フィルム形状等特に限定されないが、充填効率が高く体積当たりの分離効率が高い点や、取扱い性に優れる点から、繊維形状がより好ましい。ここで、繊維形状とは、直径Dに対する長さLの比(アスペクト比L/D)が100以上のものを指す。以下、繊維形状の分離膜について説明する。
【0027】
繊維断面の形状は制限されず、中空断面、丸断面、多角形断面、多葉断面、扁平断面など任意の形状とすることが可能であるが、繊維断面の形状が中空断面すなわち中空糸形状であると膜内の圧力損失が低減され、流体分離膜として高い流体透過性が得られるため好ましい。中空糸の中空部は流体の流路としての役割を有する。中空糸が中空部を有することで、外圧式、内圧式のいずれの方式で流体を透過させる場合においても流体が特に繊維軸方向に流れる場合に圧力損失が顕著に減少する効果が得られ、流体の透過性が向上する。特に、内圧式の場合、圧力損失が低下するため、流体の透過速度がより向上する。
【0028】
繊維形状の場合、緻密層が繊維の表面に形成されており、当該繊維の緻密層以外の部分が前述した多孔構造を有する支持体となっている形態が好ましい。中空糸状の場合は、緻密層は内表面および外表面の一方または両方に形成することができる。
【0029】
また、流体分離膜の平均直径が小さいと、曲げ性、圧縮強度が向上するため、平均直径は500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。流体分離膜の平均直径が小さいほど単位容積あたりに充填可能な繊維本数が増加するため、単位容積あたりの膜面積を増加し、単位容積あたりの透過流量を増加させることができる。流体分離膜の平均直径の下限値はとくに限定されず、任意に決定することができるが、流体分離膜モジュールを製造する際の取扱い性を向上する観点から、10μm以上が好ましい。
【0030】
繊維の平均長さは任意に決定することができ、モジュール化する際の取扱い性向上や流体の透過性能向上の観点から、10mm以上が好ましい。
【0031】
〔吸着成分〕
本発明の流体分離膜は、16℃大気圧において液体または固体である単環式または二環式の芳香族化合物(以下、単に「芳香族化合物」という場合がある)が合計2~10,000ppm吸着し、かつ水が10~250,000ppm吸着していることを特徴とする。
【0032】
理由は明確ではないが、本発明者が検討した結果、本発明者は、流体分離膜が上記吸着成分を有することで分離性能を長期間維持できることを見出した。なお、上記した芳香族化合物の吸着量は、複数種の芳香族化合物が吸着されている場合には、その合計値である。なお、吸着量が1ppm以下の各芳香族化合物に関しては、吸着していないものと扱う。
【0033】
このような効果を発揮するため、芳香族化合物の吸着量は2ppm以上であればよいが、10ppm以上であるとより好ましく、100ppm以上であるとさらに好ましい。また、十分な流体の透過性を確保する観点から、芳香族化合物の吸着量は10,000ppm以下であればよいが、5,000ppm以下であるとより好ましく、1,000ppm以下であるとさらに好ましい。
【0034】
16℃大気圧において液体または固体である単環式または二環式の芳香族化合物の具体例としては、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、クメン、フェノール、ベンジルアルコール、アニソール、ベンズアルデヒド、安息香酸、アセトフェノン、ベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼン、アニリン、チオフェノール、ベンゾニトリル、スチレン、キシレン、クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、トルイジンが挙げられる。その中で、流体分離膜が、トルエン、ベンゼン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むと、分離性能の維持効果が大きくなるためより好ましく、トルエンまたはベンゼンの少なくとも一方を含むことがさらに好ましく、トルエンを含むことが最も好ましい。
【0035】
トルエンが単独で2ppm以上吸着されていると、特に分離性能の維持効果が大きくなるため好ましい。トルエンは50ppm以上吸着されているとより好ましい。また、トルエンの吸着量は2,000ppm以下であると、流体分離膜の可塑化が抑制され、高い強度が得られるため好ましく、800ppm以下であるとより好ましい。
【0036】
また、トルエン及びベンゼンの両方が吸着した態様も特に好ましい。トルエン及びベンゼンの両方が吸着した態様においては、ベンゼンの吸着量(ppm)に対するトルエンの吸着量(ppm)の比が2以上であると分離性能の維持効果が大きくなるため好ましく、10以上であると特に好ましい。ベンゼンの吸着量(ppm)に対するトルエンの吸着量(ppm)の比の上限は特に限定されないが、トルエン及びベンゼンの共存の効果を発揮するため、200以下が好ましく、100以下がより好ましい。
【0037】
水の吸着量は、10ppm以上であればよいが、100ppm以上であると、分離性能の維持効果が大きくなるため好ましく、1,000ppm以上であるとより好ましい。また、水の吸着量は250,000ppm以下であればよいが、150,000ppm以下であると、流体分離膜の強度が高くなるため好ましく、50,000ppm以下であるとより好ましい。
【0038】
芳香族化合物の吸着量(ppm)に対する水の吸着量(ppm)の比は、0.5以上であると、分離性能の維持効果が大きくなるため好ましく、3以上であると特に好ましい。
【0039】
なお、芳香族化合物及び水の吸着量は、加熱発生ガス分析法(TPD-MS法)により以下のように定量できる。まず、温度コントローラ付き加熱装置と質量分析装置を直結し、流体分離膜をヘリウム雰囲気中で加熱する。温度プログラムは、まず室温から80℃まで10℃/分で昇温し(ステップ1)、80℃で30分保持し(ステップ2)、さらに180℃まで10℃/分で昇温し(ステップ3)、180℃で30分保持する(ステップ4)。そして、ステップ1~4における気体中の芳香族化合物及び水蒸気の量を測定する。なお、流体分離膜表面上に存在する液膜、液滴の影響を除外するため、流体分離膜が目視で濡れているような場合には、測定は流体分離膜表面をウェス等で拭いてから行うものとする。
【0040】
ステップ1及び2において発生する芳香族化合物気体のみから求められる芳香族化合物の吸着量をAa(ppm)とし、ステップ3及び4で発生する芳香族化合物気体の量のみから求められる芳香族化合物の吸着量をBa(ppm)とすると、Ba/Aaが0.1以上であると分離性能を長期間維持できるため好ましく、0.2以上であるとより好ましく、0.3以上であるとさらに好ましい。
【0041】
また、ステップ1及び2において発生する水蒸気のみから求められる水の吸着量をAw(ppm)とし、ステップ3及び4で発生する水蒸気の量のみから求められる水の吸着量をBw(ppm)とすると、同様に、Bw/Awが0.1以上であると分離性能を長期間維持できるため好ましく、0.2以上であるとより好ましく、0.3以上であるとさらに好ましい。
【0042】
本発明の流体分離膜を、加熱発生ガス分析法(TPD-MS法)にて、室温から300℃まで10℃/分で昇温しながら芳香族化合物(特に好ましい態様においてはトルエン)の発生量をオンライン測定した際、同一の芳香族化合物において、温度変化に対する発生量をプロットした曲線が2つ以上のピークを有することが好ましい。2つ以上のピークを有することは、流体分離膜表面のみならず内部にも芳香族化合物が吸着していることを意味し、分離性能の維持効果が大きくなる。また、同じ条件にて水の発生量をオンライン測定した際、温度変化に対する水の発生量をプロットした曲線が2つ以上のピークを有することは、流体分離膜表面のみならず内部にも水が吸着していることを意味し、分離性能の維持効果が大きくなるため好ましい。さらに、芳香族化合物、水がともに2つ以上のピークを有する態様は特に好ましい。
【0043】
なお、流体分離膜表面上に存在する液膜、液滴の影響を除外するため、流体分離膜が目視で濡れているような場合には、測定は流体分離膜表面をウェス等で拭いてから行うものとする。
【0044】
なお、本発明の流体分離膜は、ガス分離用に用いられるもの、すなわちガス分離膜であることが好ましい。特に、酸性ガスを含む混合ガスから酸性ガスを高濃度化して取り出す分離用途に好ましく用いられる。酸性ガスの例としては、二酸化炭素、硫化水素等が挙げられるが、本発明の流体分離膜が含む水分との親和性の観点から、本発明の流体分離膜は二酸化炭素を含む混合ガス、特に天然ガスの分離用途に好ましく用いられる。
【0045】
<流体分離膜の製造方法>
本発明の流体分離膜は、一例として、緻密層からなる分離層を有する流体分離膜を準備する工程と、該流体分離膜に芳香族化合物及び水を吸着させる工程を有する製造方法により製造できる。
【0046】
1.緻密層からなる分離層を有する流体分離膜を準備する工程
芳香族化合物および水を吸着する前の流体分離膜は、市販のものを用いてもよいが、一例として下記工程1~3により作製することができる。この例は、緻密層及び支持体が炭素からなる流体分離膜の例である。以下、炭素からなる緻密層を「緻密炭素層」と呼び、炭素からなる支持体を「多孔質炭素支持体」と呼ぶ。ただし、本発明において流体分離膜の製造方法は以下に限定されるものではない。
【0047】
〔工程1:多孔質炭素支持体を得る工程〕
工程1は、多孔質炭素支持体の前駆体となる樹脂(以下、「支持体前駆体樹脂」ということがある)を含む成形体を500℃以上2,400℃以下で炭化することで多孔質炭素支持体を得る工程である。
【0048】
支持体前駆体樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の例としては、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、芳香族ポリエステル、ポリアミック酸、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリエーテルイミドおよびそれらの共重合体が挙げられる。また、熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール樹脂およびそれらの共重合体が挙げられる。これらは単独で用いても、複数で用いてもよい。
【0049】
支持体前駆体樹脂としては、溶液紡糸可能な熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。特に、コスト、生産性の観点からポリアクリロニトリルまたは芳香族ポリイミドを用いることが好ましい。
【0050】
支持体前駆体樹脂を含む成形体には、支持体前駆体樹脂のほか、成形後に消失させることが可能な消失成分を添加しておくことが好ましい。例えば、炭化時等の事後的な加熱により消失する樹脂との樹脂混合物としておくことや、炭化時等の事後的な加熱や炭化後等の洗浄により消失する粒子を分散させておくことによって、多孔構造を形成することができるとともに、多孔構造を形成する細孔の平均直径を制御できる。
【0051】
最終的に多孔構造を得る手段の一例として、まず、炭化後に消失する樹脂(消失樹脂)を添加する例を記載する。まず、支持体前駆体樹脂と消失樹脂を混合させて樹脂混合物を得る。混合比は、支持体前駆体樹脂10~90重量%に対し、消失樹脂10~90重量%とすることが好ましい。ここで消失樹脂は、炭化可能樹脂と相溶する樹脂を選択することが好ましい。相溶方法は、樹脂同士のみの混合でもよく、溶媒を加えてもよい。このような炭化可能樹脂と消失樹脂の組み合わせは限定されないが、ポリアクリロニトリル/ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルフェノール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル/ポリ乳酸などが挙げられる。得られた相溶状態にある樹脂混合物は、成形する過程で相分離させることが好ましい。このようにすることで、共連続様の相分離構造を現出することができる。相分離させる方法は限定されず、熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法が挙げられる。
【0052】
また、最終的に多孔構造を得る手段の他の例として、炭化時等の事後的な加熱や炭化後の洗浄により消失する粒子を添加する方法が挙げられる。粒子の例としては、金属酸化物、タルク、シリカ等が挙げられ、金属酸化物の例としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの粒子は成形前に支持体前駆体樹脂と混合しておき、成形後に除去することが好ましい。除去方法については製造条件や、使用する粒子の性質に応じて適宜選定できる。例えば、支持体前駆体樹脂を炭化すると同時に分解除去してもよく、または、炭化前または炭化後に洗浄してもよい。洗浄液は水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、有機溶剤等から使用する粒子の性質に応じて適宜選定できる。
【0053】
以下、最終的に多孔構造を得る手段として支持体前駆体樹脂と消失樹脂を混合させて樹脂混合物を得る方法を採用した場合について、その後の製造工程について述べる。
【0054】
繊維状の分離膜を作製する場合、溶液紡糸により多孔質炭素支持体の前駆体を成形することができる。溶液紡糸とは、樹脂を各種溶媒に溶解させて紡糸原液を調製し、樹脂の貧溶媒となる溶媒からなる浴中を通過させて樹脂を凝固して繊維を得る方法である。溶液紡糸としては、乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸が挙げられる。
【0055】
また紡糸条件を適切に制御することにより、多孔質炭素支持体の表面を開孔させることができる。例えば非溶媒誘起相分離法を利用して紡糸する場合、紡糸原液や凝固浴の組成や温度を適切に制御したり、または内管から紡糸溶液を吐出し、外管から紡糸溶液と同一の溶媒や消失樹脂を溶解した溶液などを同時に吐出したりする手法が挙げられる。
【0056】
このような方法で紡糸した繊維は、凝固浴中で凝固させ、続いて水洗および乾燥させることで多孔質炭素支持体の前駆体を得ることができる。ここで凝固液としては水、エタノール、食塩水、およびそれらと工程1で使用する溶媒との混合溶媒などが挙げられる。なお、乾燥工程の前に凝固浴中や水浴中に浸漬して、溶媒や消失樹脂を溶出させることもできる。
【0057】
多孔質炭素支持体の前駆体は、炭化処理を行う前に不融化処理を行うことができる。不融化処理の方法は限定されず、公知の方法を採用できる。
【0058】
必要に応じ不融化処理を行った多孔質炭素支持体の前駆体は、最終的に炭化されて多孔質炭素支持体となる。炭化は不活性ガス雰囲気で加熱することにより行うことが好ましい。ここで不活性ガスとはヘリウム、窒素、アルゴンなどが挙げられる。不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であればよく、加熱装置の大きさ、原料の供給量、炭化温度などによって適宜最適な値を選択することが好ましい。消失樹脂は炭化時の熱による熱分解で除去してもよい。
【0059】
炭化温度は、500℃以上2,400℃以下で行うことが好ましい。ここで炭化温度は、炭化処理を行う際の最高到達温度である。寸法変化を抑制し、支持体としての機能を向上させる観点から、炭化温度は900℃以上がより好ましい。一方、脆性低減、取扱性向上の観点から、炭化温度は1,500℃以下がより好ましい。
【0060】
〔多孔質炭素支持体の表面処理〕
後述する工程2で多孔質炭素支持体に炭化可能樹脂層を形成する前に、炭化可能樹脂層との接着性を向上させるため、多孔質炭素支持体に表面処理を行ってもよい。このような表面処理としては、酸化処理や薬液コート処理が挙げられる。酸化処理としては、硝酸や硫酸などによる薬液酸化法,電解酸化法,気相酸化法が挙げられる。また、薬液コート処理としては、多孔質炭素支持体へのプライマーやサイジング剤の付与が挙げられる。
【0061】
〔工程2:炭化可能樹脂層を形成する工程〕
工程2は、工程1で準備した多孔質炭素支持体上に、緻密炭素層の前駆体となる炭化可能樹脂層を形成する工程である。多孔質炭素支持体と緻密炭素層をそれぞれ別の工程で作製することにより、緻密炭素層の厚みを任意に設定できる。そのため、例えば、緻密炭素層の厚みを薄くすることによって流体の透過速度を向上させることができる等、分離膜構造の設計が容易になる。
【0062】
炭化可能樹脂としては、炭化後に流体の分離性を示す各種樹脂を採用できる。具体的には、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、酢酸セルロース、ポリフルフリルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、リグニン、木質タール、固有多孔性ポリマー(PIM)などが挙げられる。樹脂層がポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、固有多孔性ポリマー(PIM)だと、流体の透過速度および分離性に優れるため好ましく、ポリアクリロニトリルまたは芳香族ポリイミドがより好ましい。なお、炭化可能樹脂は、前述の支持体前駆体樹脂と同じでもよく、異なってもよい。
【0063】
炭化可能樹脂層の形成方法は限定されず、公知の方法を採用できる。一般的な形成方法は、炭化可能樹脂そのものを多孔質炭素支持体上にコートする方法であるが、当該樹脂の前駆体を多孔質炭素支持体上にコートした後、その前駆体を反応させて炭化可能樹脂層を形成する方法や、多孔質炭素支持体の外部と内部から反応性のガスや溶液を流して反応させる対向拡散法を採用できる。反応の例としては、加熱または触媒による重合、環化、架橋反応が挙げられる。
【0064】
炭化可能樹脂層のコート方法の例としては、ディップコート法、ノズルコート法、スプレー法、蒸着法、キャストコート法が挙げられる。製造方法の容易性から、多孔質炭素支持体が繊維状の場合はディップコート法またはノズルコート法が好ましく、フィルム状であればディップコート法やキャストコート法が好ましい。
【0065】
ディップコート法は、多孔質炭素支持体を、炭化可能樹脂またはその前駆体の溶液を含むコート原液に浸漬した後引き出す方法である。
【0066】
ディップコート法でのコート原液の粘度は、多孔質炭素支持体の表面粗さや引上げ速度、所望の膜厚などの条件によって任意に設定する。コート原液の粘度が高いと均一な樹脂層を形成できる。そのため、せん断速度0.1s-1におけるせん断粘度は、10mPa・s以上が好ましく、50mPa・s以上がより好ましい。一方、コート原液の粘度が低いほど薄膜化して流体の透過速度が向上する。そのため、コート原液の粘度は、1,000mPa・s以下が好ましく、800mPa・s以下がより好ましい。
【0067】
ディップコート法での多孔質炭素支持体の引上げ速度もコート条件によって任意に設定する。引上げ速度が速いと炭化可能樹脂層の厚みが厚くなり、欠陥を抑制できる。そのため、引上げ速度は1mm/分以上が好ましく、10mm/分以上がより好ましい。一方、引上げ速度が速すぎると、炭化可能樹脂層の膜厚が不均一になって欠陥が生じたり、また、膜厚が厚くなって流体の透過速度が低下したりする。そのため、引上げ速度は1,000mm/分以下が好ましく、800mm/分以下がより好ましい。コート原液の温度は20℃以上80℃以下が好ましい。コート原液の温度が高いと表面張力が低下して多孔質炭素支持体への濡れ性が向上し、炭化可能樹脂層の厚みが均一になる。
【0068】
ノズルコート法は、炭化可能樹脂またはその前駆体の溶液であるコート原液に満たされたノズル内に多孔質炭素支持体を通過させることにより、多孔質炭素支持体上に樹脂または樹脂前駆体を積層する方法である。コート原液の粘度や温度、ノズル径、多孔質炭素支持体の通過速度は任意に設定できる。
【0069】
〔不融化処理〕
工程2で作製した、炭化可能樹脂層が形成された多孔質炭素支持体(以下、「多孔質炭素支持体/炭化可能樹脂層複合体」という)は、炭化処理(工程3)の前に不融化処理を行ってもよい。不融化処理の方法は限定されず、前述の多孔質炭素支持体の前駆体の不融化処理に準じる。
【0070】
〔工程3:緻密炭素層を形成する工程〕
工程3は、工程2で作製され、必要に応じてさらに不融化処理を行った多孔質炭素支持体/炭化可能樹脂層複合体を加熱して、炭化可能樹脂層を炭化し、緻密炭素層を形成する工程である。
【0071】
本工程では、多孔質炭素支持体/炭化可能樹脂層複合体を不活性ガス雰囲気において加熱することが好ましい。ここで不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴンなどが挙げられる。不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であればよく、加熱装置の大きさ、原料の供給量、炭化温度などによって適宜最適な値を選択することが好ましい。不活性ガスの流量の上限についても限定されないが、経済性や加熱装置内の温度変化を少なくする観点から、温度分布や加熱装置の設計に合わせて適宜設定することが好ましい。
【0072】
また、上述の不活性ガスと活性ガスとの混合ガス雰囲気下で加熱することで、多孔質炭素支持体の表面を化学的にエッチングし、多孔質炭素支持体表面の細孔直径の大小を制御できる。活性ガスとしては酸素、二酸化炭素、水蒸気、空気、燃焼ガスが挙げられる。不活性ガス中の活性ガスの濃度は、0.1ppm以上100ppm以下が好ましい。
【0073】
本工程における炭化温度は流体分離膜の透過速度および分離係数が向上する範囲で任意に設定できるが、工程1における多孔質炭素支持体の前駆体を炭化処理する際の炭化温度よりも低いことが好ましい。それにより、多孔質炭素支持体および流体分離膜の吸湿寸法変化率を小さくして分離モジュール内での流体分離膜の破断を抑制しつつ、流体の透過速度および分離性能を向上させることができる。本工程における炭化温度は500℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましい。また、850℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましい。
【0074】
その他の、炭化の好ましい態様等は前述の多孔質炭素支持体の前駆体の炭化に準じる。
【0075】
2.芳香族化合物及び水を吸着させる工程
次に、このようにして準備した流体分離膜に、芳香族化合物及び水を吸着させる。本工程は連続工程で行っても、バッチ工程で行ってもよい。
【0076】
芳香族化合物の吸着方法は特に限定されず、吸着量や製造効率等の観点で、液体の芳香族化合物中への浸漬や、気体の芳香族化合物への曝露等を適宜選定することができる。その際、適宜加熱や攪拌することが吸着効率向上の観点から好ましい。
【0077】
水の吸着方法についても特に限定されず、吸着量や製造効率等の観点で、水中への浸漬や、水蒸気への曝露等適宜選定することができる。その際、適宜加熱、攪拌する等所望の吸着量となるよう吸着条件を選択することができる。
【0078】
また、芳香族化合物と水を混合して同時に吸着させると、効率の観点、あるいは安全および設備保全の観点から好ましい。芳香族化合物が固体である場合は事前に溶解可能な水や溶剤に溶解させてから、上述した吸着処理を実施することが好ましい。
【実施例
【0079】
以下に本発明の好ましい実施の例を記載するが、これらの記載は本発明を何ら限定するものではない。
【0080】
[評価手法]
(芳香族化合物および水の吸着量の測定)
加熱発生ガス分析法(TPD-MS法)により定量した。具体的手順を以下に示す。まず、流体分離膜表面を軽く布でふき取った。次いで、温度コントローラ付き加熱装置と質量分析装置を直結し、ヘリウム雰囲気中で加熱した際、加熱時に流体分離膜から発生する気体の濃度を分析し、流体分離膜のトルエン、ベンゼン及び水の吸着量を得た。温度プログラムは、まず室温から80℃まで10℃/分で昇温し(ステップ1)、80℃で30分保持し(ステップ2)、さらに180℃まで10℃/分で昇温し(ステップ3)、180℃で30分保持した(ステップ)際の発生量の総量をトルエン、ベンゼン及び水の吸着量とした。また、ステップ1及び2において発生する芳香族化合物気体のみから求められる芳香族化合物の吸着量をAa(ppm)とし、ステップ3及び4で発生する芳香族化合物気体の量のみから求められる芳香族化合物の吸着量をBa(ppm)とし、同様に、ステップ1及び2において発生する水蒸気のみから求められる水の吸着量をAw(ppm)とし、ステップ3及び4で発生する水蒸気の量のみから求められる水の吸着量をBw(ppm)とし、Ba/Aa及びBw/Awを算出した。
【0081】
(芳香族化合物および水の加熱発生量曲線)
本発明の流体分離膜は、加熱発生ガス分析法(TPD-MS法)にて、室温から300℃まで10℃/分で昇温しながらトルエン、ベンゼン、水の発生量をオンライン測定した際、温度変化に対する発生量をプロットした曲線のピーク数を確認した。なお、流体分離膜表面上に存在する液膜、液滴の影響を除外するため、流体分離膜が目視で濡れていた場合には、測定は流体分離膜表面をウェス等で拭いてから行うった。
【0082】
(ガス分離係数の測定)
長さ10cmの流体分離膜を10本束ねて外径φ6mm、肉厚1mmのステンレス製のケーシング内に収容し、束ねた流体分離膜の端をエポキシ樹脂系接着剤でケーシング内面に固定するとともにケーシングの両端を封止して、流体分離膜モジュールを作製し、ガス透過速度を測定した。
【0083】
測定ガスは二酸化炭素およびメタンを用い、JIS K7126-1(2006)の圧力センサ法に準拠して測定温度25℃で外圧式にて二酸化炭素およびメタンの単位時間当たりの透過側の圧力変化を測定した。ここで、供給側と透過側の圧力差を0.11MPa(82.5cmHg)に設定した。
【0084】
続いて、透過したガスの透過速度Qを下記式により算出し、二酸化炭素/メタンの透過速度の比として分離係数αを算出した。なお、STPは標準条件を意味する。また、膜面積は、流体分離膜の外径と、ガス分離に寄与する領域に存在する長さから算出した。
【0085】
透過速度Q=[ガス透過流量(cm・STP)]/[膜面積(cm)×時間(s)×圧力差(cmHg)]
なお、ガス分離係数は開始直後及び100時間経過後にそれぞれ測定した。さらに、後者を前者で除することにより、100時間使用後の分離係数保持率を求めた。
【0086】
[実施例1]
70gのポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(MW15万)と70gのシグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(MW4万)、及び、溶媒として400gの和研薬製ジメチルスルホキシド(DMSO)をセパラブルフラスコに投入し、2.5時間攪拌および還流を行いながら135℃で溶液を調製した。
【0087】
得られた溶液を25℃まで冷却した後、芯鞘型の二重口金の内管からは3.5mL/分で前記溶液を吐出し、外管からはDMSO90重量%水溶液を5.3mL/分で同時に吐出した後、25℃の純水からなる凝固浴へ導き、その後5m/分の速度で引き取り、ローラーに巻き取ることで原糸を得た。このときエアギャップは9mmとし、また、凝固浴中の浸漬長は15cmとした。
【0088】
得られた原糸は半透明であり、相分離を起こしていた。得られた原糸は水洗した後、循環式乾燥機にて25℃で24時間乾燥して原糸を作製した。
【0089】
その後255℃の電気炉中へ乾燥した原糸を通し、酸素雰囲気化で1時間加熱することで不融化処理を行った。
【0090】
続いて、不融化原糸を窒素流量1L/分、昇温速度10℃/分、到達温度1000℃、保持時間1分の条件で炭化処理を行うことで多孔質炭素支持体を作製した。断面を観察したところ、共連続多孔構造が観察された。
【0091】
次いで、50gのポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(MW15万)と400gの和研薬製ジメチルスルホキシド(DMSO)をセパラブルフラスコに投入し、1.5時間攪拌および還流を行いながら135℃で調製した溶液を25℃まで冷却した。これに対し、多孔質炭素支持体を浸漬し、10mm/分の速度で引き上げ、続いて、水中に浸漬して溶媒を除去し、50℃で24時間乾燥することで多孔質炭素支持体にポリアクリロニトリルが積層された流体分離膜を作製した。
【0092】
続いて、窒素流量1L/分、昇温速度10℃/分、到達温度600℃、保持時間1分の条件で炭化処理を行うことで、中空糸形状の流体分離膜を得た。外表面には緻密な炭素層が存在し、内部は炭素からなる共連続構造を有していた。
【0093】
さらに、関東化学社製トルエン250mLと関東化学社製ベンゼン250mLと純水250mLとを混合し、50℃に加熱して、その蒸気に24時間曝露した。
【0094】
次いで、トルエン、ベンゼン及び水の吸着量、加熱発生量曲線のピーク数確認及びガス分離係数の測定を実施した。
【0095】
[実施例2]
実施例1と同様の手法で流体分離膜を得た。さらに、関東化学社製トルエン250mLと純水250mLとを混合し、50℃に加熱して、その蒸気に24時間曝露した。
【0096】
次いで、トルエン、ベンゼン及び水の吸着量、加熱発生量曲線のピーク数確認及びガス分離係数の測定を実施した。
【0097】
[実施例3]
実施例1と同様の手法で流体分離膜を得た。さらに、関東化学社製ベンゼン250mLと純水250mLとを混合し、50℃に加熱して、その蒸気に24時間曝露した。
【0098】
次いで、トルエン、ベンゼン及び水の吸着量、加熱発生量曲線のピーク数確認及びガス分離係数の測定を実施した。
【0099】
[実施例4]
実施例1と同様の手法で流体分離膜を得た。さらに、関東化学社製トルエン250mLと純水250mLとを混合し、50℃に加熱して、その蒸気に4時間曝露した。
【0100】
次いで、トルエン、ベンゼン及び水の吸着量、加熱発生量曲線のピーク数確認及びガス分離係数の測定を実施した。
【0101】
[比較例1]
実施例1と同様の手法で流体分離膜を得た。その後、吸着処理は行わず、トルエン、ベンゼン及び水の吸着量、加熱発生量曲線のピーク数確認及びガス分離係数の測定を実施した。
【0102】
[比較例2]
実施例1と同様の手法で流体分離膜を得た。さらに、水600mLを50℃に加熱し、その蒸気に24時間曝露した。
【0103】
次いで、トルエン、ベンゼン及び水の吸着量、加熱発生量曲線のピーク数確認及びガス分離係数の測定を実施した。
【0104】
各実施例、比較例で作製した流体分離膜の評価結果を表1に示す。
【0105】
【表1】