(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】人工肺装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20231017BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20231017BHJP
A61M 1/36 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61M1/18 510
A61M1/18 525
A61M1/16 120
A61M1/36 111
(21)【出願番号】P 2020009673
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019013110
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】安村 直朗
(72)【発明者】
【氏名】簑原 瑠威
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-200884(JP,A)
【文献】特開2015-144857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
A61M 1/16
A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液流入ポート及び血液流出ポートを有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、血液が前記血液流入ポートから前記血液流出ポートへ流れる途中で、当該血液に対してガス交換を行うガス交換器と、
前記ガス交換器の表面に対向して配置されて前記表面との間にスペースを形成する対向壁と、を備え、
前記ガス交換器の表面と前記対向壁とは、前記ガス交換器を通過してきた気体を再び前記ガス交換器へ向かわせる気体誘導部を成し、
前記ガス交換器の表面と前記対向壁との間の離隔寸法は、鉛直上方へ向かうに従って、または、前記スペースにおける血液の通流方向の下流側へ向かうに従って、ゼロに向かうよう漸減している、
人工肺装置。
【請求項2】
前記ガス交換器を通過してきた血液が前記血液流出ポートへ向かう流路を横断するようにして、前記血液中の異物を除去するフィルタが、そのフィルタ面の一部が前記ガス交換器の表面と接するように設けられており、前記フィルタが前記対向壁を成している、
請求項1に記載の人工肺装置。
【請求項3】
前記ガス交換器は、その表面の一部が前記ハウジングの内壁面と接するようにして設けられており、前記ハウジングの内壁面が前記対向壁を成している、
請求項1に記載の人工肺装置。
【請求項4】
前記ハウジング内に配置され、前記血液流入ポートから流入した血液を温調すると共に温調後の血液を前記ガス交換器へ送り出す熱交換器を更に備え、
前記ガス交換器は前記熱交換器を取り囲む筒状を成し、前記熱交換器と前記ガス交換器との間には両者を隔てる筒状壁が設けられており、
前記ガス交換器の内周面と前記筒状壁において前記ガス交換器の内周面に対向する部分とで、前記気体誘導部が形成されている、
請求項1に記載の人工肺装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液に含まれる二酸化炭素を除去して酸素を付加する人工肺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓外科手術のように、患者の心臓の動きを止めてから行われる手術では、止められた心臓及び肺の機能を代替させるべく人工心肺回路が用いられる。この人工心肺回路において、肺の役割を果たしているのが人工肺装置であり、人工肺装置としては例えば特許文献1のようなものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の人工肺装置は、ハウジング及びガス交換器を備えている。ハウジングは円筒状を成し、その両端部がヘッダによって塞がれている。また、ハウジングは、各ヘッダが上下に位置するように立てて配置され、その中にガス交換器が収容されている。ガス交換器は、バンドル及び筒状コアから成り、バンドルを筒状コアに巻き付けることによって構成されている。このような人工肺装置では、ハウジングと筒状コアとの間に円環状の血液通路が形成されている。
【0004】
また、筒状コアの上端部には拡散部が形成されており、その拡散部によって筒状コア内に導かれる血液が血液通路へと拡散される。血液通路には筒状コアに巻かれたバンドルが介在している。バンドルは、複数の中空糸を帯状に並べて構成されており、隣接する中空糸の間には隙間が形成され、拡散された血液はその隙間を通って排出口へと進んでいく。また、中空糸は、その中に酸素が流れており、中空糸に触れた血液から二酸化炭素を除去し酸素を付加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1を含む従来の人工肺装置は、ガス交換器を成すバンドル内の隙間の血液通路を血液が流れるが、この血液と一緒に気泡が運ばれてくることがある。このような気泡は、基本的にはバンドルの中空糸に触れた際に吸収され、その大半が除去される。しかし、血液と共に大量の気泡が運ばれてくる場合は、血液がガス交換器を通過する期間内では、中空糸に十分吸収されないことがある。そして、中空糸に吸収されなかった気泡が過剰に溜まると、血液の流れによって排出口の方へと運ばれることがある。
【0007】
そこで本発明は、血液によって運ばれてくる気泡が過剰に溜まるのを抑制することができる人工肺装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る人工肺装置は、血液流入ポート及び血液流出ポートを有するハウジングと、前記ハウジング内に配置され、血液が前記血液流入ポートから前記血液流出ポートへ流れる途中で、当該血液に対してガス交換を行うガス交換器と、前記ガス交換器の表面に対向して配置されて前記表面との間にスペースを形成する対向壁と、を備え、前記ガス交換器の表面と前記対向壁とは、前記ガス交換器を通過してきた気体を再び前記ガス交換器へ向かわせる気体誘導部を成し、前記ガス交換器の表面と前記対向壁との間の離隔寸法は、鉛直上方へ向かうに従って、または、前記スペースにおける血液の通流方向の下流側へ向かうに従って、ゼロに向かうよう漸減している。
【0009】
このような構成により、人工肺装置内においてガス交換器を経ても吸収されなかった気体は、再びガス交換器へ向かうことになるため、より多くの気泡をガス交換器にて吸収させることができる。しかも、気体誘導部を構成するガス交換器の表面と対向壁とは、鉛直上方または下流側で接している(離隔寸法がゼロになる)か、あるいは、接するに至らなくとも漸近している(離隔寸法がゼロに近づく)。従って、気体誘導部に至った気体を、再びガス交換器へと、より確実に向かわせることができ、ハウジング内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0010】
また、上記人工肺装置において、前記ガス交換器を通過してきた血液が前記血液流出ポートへ向かう流路を横断するようにして、前記血液中の異物を除去するフィルタが、そのフィルタ面の一部が前記ガス交換器の表面と接するように設けられており、前記フィルタが前記対向壁を成していてもよい。
【0011】
このような構成により、専用の対向壁を設けることなく、血液中の異物を除去するフィルタによって対向壁の機能を兼用させることができる。また、当該フィルタは血液の流れにおいてガス交換器よりも下流側に位置するため、ガス交換器を経ても残存する気体を確実に集め、ガス交換器へ再び向かわせることができる。
【0012】
また、上記人工肺装置において、前記ガス交換器は、その表面の一部が前記ハウジングの内壁面と接するようにして設けられており、前記ハウジングの内壁面が前記対向壁を成していてもよい。
【0013】
このような構成により、専用の対向壁を設けることなく、元々備えられているハウジングによって対向壁の機能を兼用させることができる。
【0014】
また、上記人工肺装置において、前記ハウジング内に配置され、前記血液流入ポートから流入した血液を温調すると共に温調後の血液を前記ガス交換器へ送り出す熱交換器を更に備え、前記ガス交換器は前記熱交換器を取り囲む筒状を成し、前記熱交換器と前記ガス交換器との間には両者を隔てる筒状壁が設けられており、前記ガス交換器の内周面と前記筒状壁において前記ガス交換器の内周面に対向する部分とで、前記気体誘導部が形成されていてもよい。
【0015】
このような構成により、ガス交換器が熱交換器を取り囲む筒状を成す場合には、ガス交換器の内周面側に気体誘導部を設けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、血液によって運ばれてくる気泡が過剰に溜まるのを抑制することができる人工肺装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る人工肺装置の正面断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の人工肺装置をII-II線で切断した側面断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態2に係る人工肺装置の側面断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態3に係る人工肺装置の正面断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態4に係る人工肺装置の正面断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態5に係る人工肺装置の正面断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態6に係る人工肺装置の正面断面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態7に係る人工肺装置の正面断面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態8に係る人工肺装置の正面断面図である。
【
図10】
図10は、変形例1に係る人工肺装置の正面図である。
【
図11】
図11は、変形例2に係る人工肺装置の正面図である。
【
図12】
図12は、参考例1に係る人工肺装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る人工肺装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する人工肺装置は、本発明の一実施形態にすぎず、本発明はこの実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1の人工肺装置1Aの構成を示す正面断面図であり、
図2は、
図1の人工肺装置1をII-II線で切断した側面断面図である。
図1及び
図2に示す人工肺装置1Aは、患者の心臓の動きを止めて行われる手術にて、患者の肺の機能を代替するために用いられるものである。そのために人工肺装置1Aは、患者の血液に含まれる二酸化炭素を除去して酸素を付加するガス交換機能を有し、また、血液の温度を調整する熱交換機能を有している。本実施の形態1で例示する人工肺装置1Aは、いわゆる横置きタイプの構成となっており、ハウジング2及び内筒3を備えている。
【0020】
ハウジング2は、両端部が塞がれた大略円筒状に形成されており、その中に内筒3を収容すべく内部空間2aを有している。また、ハウジング2は、ハウジング本体10と、吊下げ部11と、2つのキャップ部12,13とを有している。
【0021】
ハウジング本体10は大略円筒状に形成されており、その上部外周面に吊下げ部11が設けられている。吊下げ部11は、ハウジング本体10の軸線10a方向のほぼ中央部分に配置されており、ハウジング本体10の上部外周面から径方向の外側に延在している。吊下げ部11は、例えば大略柱状に形成されており、その先端側部分が外部の吊下げ装置(不図示)に取り付けて吊下げられるようになっている。従って、ハウジング本体10は吊下げ部11を介して吊下げることができ、吊下げられたハウジング本体10はその軸線10aが水平方向に延在するように構成されている。
【0022】
ハウジング本体10は、軸線10a方向の両側に開口端部を有する。このうち、一方側(
図1では左側)の開口端部はキャップ部12により塞がれ、他方側(
図1では右側)の開口端部はキャップ部13によって塞がれている。これらのキャップ部12,13は、大略円板状に形成されている。なお、以下では説明の便宜上、ハウジング本体10の軸線10a方向においてキャップ部12が位置する側を左側とし、キャップ部13が位置する側を右側とする。
【0023】
図1に示すように、キャップ部12にはガス供給ポート14が形成されている。ガス供給ポート14は大略円筒状に形成されており、キャップ部12の外周縁付近から軸線10a方向の左側へ突出している。ガス供給ポート14は、外部のガス供給装置(不図示)との間でガス供給チューブを介して接続されており、ガス供給装置から供給される酸素を含むガスがガス供給ポート14からハウジング2内に導かれる。
【0024】
一方、キャップ部13にはガス排出ポート15が形成されている。ガス排出ポート15は大略円筒状に形成されており、キャップ部13の外周縁付近から軸線10a方向の右側へ突出している。このガス排出ポート15は、外部のガス供給装置との間でガス排出チューブを介して接続されており、ガス供給ポート14からハウジング2内に供給されたガスを排出してガス供給装置に戻すようになっている。
【0025】
キャップ部12の中心軸(ハウジング本体10の軸線10aとほぼ一致する軸)付近には、血液流入ポート16が形成されている。血液流入ポート16は、大略円筒状に形成されており、キャップ部12の中心軸の下側から左斜め下方に突出している。血液流入ポート16には、不図示の静脈血チューブが接続され、静脈血が静脈血チューブおよび血液流入ポート16を介してハウジング本体10内に導かれる。
【0026】
一方、ハウジング本体10の外周面の下部(吊下げ部13の反対側部分)であって、且つ、人工肺装置1Aの軸線10a方向の中心よりも左側の位置には、血液流出ポート17が形成されている。より詳細には、血液流出ポート17は、ポート取付部17aとポート本体部17bとを備えている。このうちポート取付部17aは大略円筒状に形成され、ハウジング本体11の外周面の下部に設けられ、下方に突出している。ポート本体部17bはポート取付部17aに下方から挿入されている。ポート本体部17bは大略円筒状に形成されており、ポート取付部17aの下端から下方に突出し、その先で斜め下方に屈曲している。ポート本体部17bは、ポート取付部17aに対して当該ポート取付部17aの軸心回りに回転可能であり、ポート本体部17bの流出口を様々な方向に向けることができる。血液流出ポート17(ポート本体部17b)には不図示の動脈血チューブが接続され、人工肺装置1Aにて生成される動脈血は動脈血チューブを介して外部へ送り出される。
【0027】
キャップ部13には、不図示の媒体流入ポート及び媒体流出ポートが設けられている。媒体流入ポート及び媒体流出ポートは、キャップ部13の中心軸を挟んで互いに離間させて配置されている。このうち媒体流入ポートは、不図示の媒体供給チューブに接続され、媒体供給チューブからの温水又は冷水等の熱媒体をハウジング2内に導く。媒体流出ポートは不図示の媒体排出チューブに接続され、ハウジング2内の熱媒体は媒体排出チューブを介してハウジング2外に排出される。
【0028】
上述したハウジング2の内部空間2aには、内筒3がハウジング本体10とほぼ同軸心状に収容されており、この内筒3によってハウジング2の内部空間2aが熱交換室20及びガス交換室21などに区分けされている。具体的には、内筒3の内部空間が熱交換室20を成している。また、内筒3とハウジング本体11との間の環状空間は、後述する筒状のフィルタ30によって更に小径の環状空間と大径の環状空間とに区分けされ、小径の環状空間がガス交換室21を成し、大径の環状空間は血液流出空間22を成している。このガス交換室21には、中空糸体(ガス交換器)40が設けられている。
【0029】
中空糸体40は大略円筒状(あるいは、内部空間を有する柱状)に形成されており、複数の中空糸によって構成されている。詳細には、中空糸体40は、複数の中空糸を互いに交差させて積層して構成されるマット状の中空糸膜(バンドル)を、内筒3の外周面に巻き付けることによって構成されている。なお、バンドルを内筒3の外周面に直接巻き付けるのではなく、内筒3に外嵌する円筒状のコア部材を別途用意し、このコア部材にバンドルを巻き付けた上で、コア部材と共にバンドルを内筒3に外嵌させるように組み付けてもよい。
【0030】
ガス交換室21及び血液流出空間22の左側の領域には、円環状のシール部材50が、中空糸体40の左端部に外嵌して設けられている。シール部材50は、キャップ部12の内周面及び中空糸体40の左端面と共にガス流入空間52を形成し、このガス流入空間52にはガス供給ポート14が連通している。また、ガス交換室21及び血液流出空間22の右側の領域には、円環状のシール部材51が、中空糸体40の右端部に外嵌して設けられている。シール部材51は、キャップ部13の内周面及び中空糸体40の右端面と共にガス流出空間53を形成し、このガス流出空間53にはガス排出ポート15が連通している。
【0031】
中空糸体40は、上記のガス流入空間52とガス流出空間53との間に架け渡されるようにして設けられている。そして、シール部材50は、血液流出空間22の左側において、中空糸体40とハウジング2との間を全周方向に亘りシールし、シール部材51は、血液流出空間22の右側において、中空糸体40とハウジング2との間を全周方向に亘りシールしている。このような構成により、ガス供給ポート14に連通するガス流入空間52と、ガス排出ポート15に連通するガス流出空間53とは、互いに中空糸体40を構成する複数の中空糸の内孔を介して連通している。
【0032】
中空糸体40において、これを構成する複数の中空糸の各々の間には隙間が設けられており、ガス交換室21では、この隙間を血液が流れるようになっている。詳細には、ガス交換室21に導かれた血液は、中空糸体40内の隙間を通り、中空糸に触れながら軸線10aを中心とする径方向外側へ向かって流れていく。各中空糸の内孔には、ガス供給ポート14及びガス流入空間52を介し、外部のガス供給装置から酸素リッチなガスが通される。従って、二酸化炭素濃度の高い血液が中空糸に触れると、血液と中空糸内のガスとの間でガス交換が行われる。これにより、血液から二酸化炭素が除去されると共に血液に酸素が付加される。このように、血液はガス交換が行われながら、ガス交換室21内を径方向外側へ流れていく。一方、中空糸の内孔を通るガスは、ガス交換が行われながら右側へ流れ、ガス流出空間53及びガス排出ポート15を経て外部のガス供給装置へ戻っていく。
【0033】
一方、内筒3の内部空間は、上述したように熱交換室20を成している。熱交換室20には、不図示の媒体管路が配設されており、この媒体管路の一端には媒体流入ポートが接続され、他端には媒体流出ポートが接続されている。この媒体管路は、ステンレス鋼等の熱伝導率の高い材料により構成される長尺状且つ小径の管部材である。また、内筒3の壁部には内外を貫通する複数の貫通孔3aが全周囲にわたって設けられており、血液流入ポート16から流入した血液は、媒体管路の隙間を通り、更に内筒3の貫通孔3aを通ってガス交換室21へ至る。このように、熱交換室20からガス交換室21へは、血液は放射状の流れとなって流れる。また、血液が熱交換室20を流れる間、媒体管路には媒体流入ポートから温調用の媒体が流されているため、この管路に触れた血液は適温に温調される。なお、熱交換室20に設けられる熱交換器は、媒体管路に限定されるものではなく、血液流入ポート16から入った血液が熱交換器を通って熱交換され、続く中空糸膜でガス交換されるように設けられていればよい。
【0034】
このような人工肺装置1Aでは、静脈から取り出された静脈血が、血液流入ポート16からハウジング2内に入り、内筒3内の熱交換室20、内筒3の貫通孔3a、内筒3外のガス交換室21、フィルタ30、及び血液流出空間22を順に経て、血液流出ポート17から外部へ送り出される。
【0035】
この間、血液は、上述したように熱交換室20において媒体管路内を流れる熱媒体と熱交換して適温に調温される。また、ガス交換室21では、中空糸体40の隙間を流れる血液と、各中空糸の内孔を通る酸素リッチなガスとの間で、ガス交換が行われる。このようにして、人工肺装置1Aに流入した血液は、所定温度に調温され、且つ、二酸化炭素が低減され酸素が付加されることで、動脈血として血液流出ポート17から流出する。
【0036】
ここで、人工肺装置1Aには、血液と共に流れてくる気泡等の気体を中空糸にてより多く吸収させるための構成として、気体誘導部90が備えられている。つまり、人工肺装置1Aは、中空糸体40の表面41に対向して配置されてこの表面41との間にスペース(気体貯留部)91を形成する対向壁を備え、中空糸体40の表面41と対向壁との間の離隔寸法D1は、鉛直上方へ向かうに従ってゼロに至るよう漸減している。そして、このように離隔寸法D1がゼロへ漸減する中空糸体40の表面41と対向壁とが、中空糸体40を通過してきた気体を再び中空糸体40へ向かわせる気体誘導部90を成している。また、人工肺装置1Aでは、フィルタ30が上記の対向壁を成している。以下、詳述する。
【0037】
人工肺装置1Aのフィルタ30は、血液中の異物を除去する機能を有しており、
図1及び
図2に示すように、中空糸体40を通過してきた血液が血液流出ポート17へ向かう流路を横断するようにして設けられている。より具体的には、フィルタ30は円筒形状を成しており、その内径寸法R1は、円筒状の中空糸体40の外径寸法R2よりも大きい。そして、フィルタ30は、同様に円筒状を成す中空糸体40に対して偏心して配置されている。従って、フィルタ30の内周面31のうちフィルタ30の上部に対応する部分は、中空糸体40の外周面41のうち中空糸体40の上部に対応する部分と接している。
【0038】
その結果、中空糸体40の外周面41と、これに対向する対向壁を成すフィルタ30の内周面31との間にスペース91が形成される。そして、中空糸体40の外周面41とフィルタ30の内周面31との間の離隔寸法D1は、
図2に示すように、鉛直上方へ向かうに従って漸減し、両者の接触箇所90aにてゼロに至っている。本実施の形態1の人工肺装置1Aでは、このように離隔寸法D1がゼロへ漸減する中空糸体40の外周面41とフィルタ30の内周面31とで、気体誘導部90が構成されている。
【0039】
人工肺装置1Aは、このような構成により、中空糸体40を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部90にてフィルタ30の内周面31あるいは中空糸体40の外周面41に沿って浮力により上昇する。そして、気体誘導部90が有するスペース91は、上方へ向かうに従って次第に幅狭になるため、上昇する気体は次第に中空糸体40に対して強く押し付けられていく。従って、より多くの気泡を中空糸体40にて吸収させることができ、ハウジング2内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0040】
なお、フィルタ30の断面形状は
図2に示したような円形に限られない。例えば、楕円形、長円形、しずく形状などであってもよい。更に言えば、上述したように中空糸体40の外周面41とフィルタ30の内周面31との離隔距離D1が鉛直上方へ向かうに従ってゼロへ向かって漸減する構成(気体誘導部90)を備えていれば、フィルタ30の残余の部分の構成は特に限定されない。
【0041】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2に係る人工肺装置1Bの側面断面図である。以下、この人工肺装置1Bにおいて、上述した人工肺装置1Aと異なる部分を中心に説明する。なお、
図3では、人工肺装置1Bの構成のうち人工肺装置1Aの構成に少なくとも機能面で対応するものには、人工肺装置1Aの説明で用いた符号に100を加算した符号を付している。
【0042】
図3に示すように、人工肺装置1Bはいわゆる横置きタイプであって、ハウジング102及び内筒103を備えている。ハウジング102は、大略円筒状のハウジング本体110と、ハウジング本体110の上部に接続された吊り下げ部111と、ハウジング本体110の両端開口を塞ぐ2つのキャップ部(不図示)とを有している。
【0043】
ハウジング102の内部空間102aには、内筒103が、ハウジング本体110の軸心に対して偏心して上方に位置するよう収容されている。また、内筒103には円筒状の中空糸体(ガス交換器)140が同軸状を成すように外嵌して設けられており、中空糸体140の表面141のうち中空糸体140の上部に対応する部分は、ハウジング本体110の内壁面110bのうちハウジング本体110の上部に対応する部分に接している。
【0044】
その結果、中空糸体140の外周面141と、これに対向する対向壁を成すハウジング本体110の内壁面110bとの間にスペース(気体貯留部)191が形成される。そして、中空糸体140の外周面141とハウジング本体110の内壁面110bとの間の離隔寸法D2は、
図3に示すように、鉛直上方へ向かうに従って漸減し、両者の接触箇所190aにてゼロに至っている。本実施の形態2の人工肺装置1Bでは、このように離隔寸法D2がゼロへ漸減する中空糸体140の外周面141とハウジング本体110の内壁面110bとで、気体誘導部190が構成されている。
【0045】
一方、ハウジング102の内部空間102aにはフィルタ130が収容されている。フィルタ130は平面視では矩形板状を成し、且つ、側面視では前後方向の中央部分132が下方へ突出するように湾曲した形状となっている。フィルタ130は、その中央部分132の上面が中空糸体140の下部の表面141に当接し、前端133は、ハウジング本体110の前側の内壁面110bにおいて上下方向の中央付近に当接し、後端134は、後側の内壁面110bにおいて上下方向の中央付近に当接している。なお、フィルタ130の構成は上述したものに限られず、中空糸体140を通過してきた血液が血液流出ポートへ向かう流路を横断するように設ければ他の構成を採用してもよい。
【0046】
このような人工肺装置1Bでは、静脈から取り出された静脈血が、血液流入ポート(不図示)からハウジング102内に入り、内筒103内の熱交換室120、内筒103の貫通孔103a、内筒103外のガス交換室121、フィルタ130、及び血液流出空間122を順に経て、血液流出ポート(不図示)から動脈血として外部へ送り出される。また、この間、人工肺装置1Aと同様に、血液は熱交換室120にて調温され、ガス交換室121では二酸化炭素の除去及び酸素の付加が施される。
【0047】
また、人工肺装置1Bは上述したように気体誘導部190を備えている。従って、中空糸体140を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部190にてハウジング本体110の内壁面110bあるいは中空糸体140の外周面141に沿って浮力により上昇する。そして、気体誘導部190が有するスペース191は、上方へ向かうに従って次第に幅狭になるため、上昇する気体は次第に中空糸体140に対して強く押し付けられていく。従って、より多くの気泡を中空糸体140にて吸収させることができ、ハウジング102内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0048】
(実施の形態3)
図4は、実施の形態3に係る人工肺装置1Cの正面断面図である。以下、この人工肺装置1Cにおいて、上述した人工肺装置1Aと異なる部分を中心に説明する。なお、
図4では、人工肺装置1Cの構成のうち人工肺装置1Aの構成に少なくとも機能面で対応するものには、人工肺装置1Aの説明で用いた符号に200を加算した符号を付している。
【0049】
図4に示すように、人工肺装置1Cはいわゆる横置きタイプであって、ハウジング202、内筒203、及び中筒204を備えている。このうち中筒204は、ハウジング202よりも小径であり、且つ、内筒203よりも大径である。そして、内筒203及び中筒204は互いにほぼ同軸状に配置された状態で、ハウジング202の内部空間202aに収容されている。
【0050】
内筒203内は熱交換室220を成し、この熱交換室220には管群260がその軸線方向と内筒3の軸線方向とが一致するように配置されている。管群260は複数の熱交換パイプの集合体であり、各パイプはステンレス鋼等の熱伝導率の高い材料により構成され、血液流入ポート216からの血液が左側の開口から流れ込むようになっている。
【0051】
内筒203と中筒204との間には円環状の熱媒体室261が形成されている。熱媒体室261は、下側の第1熱媒体室262と上側の第2熱媒体室263とに更に仕切られて分室されており、第1熱媒体室262には媒体流入ポート218が連通し、第2熱媒体室263には媒体流出ポート219が連通している。また、内筒203の上部と下部とにはそれぞれ複数の貫通孔264が形成されている。更に、内筒203内の管群260は、各熱交換パイプが互いに隙間を有するようにして支持されている。
【0052】
従って、媒体流入ポート218から流入した媒体は、第1熱媒体室262を経て、内筒203の下部の貫通孔264を通って内筒203内に至る。そして、管群260を構成する複数の熱交換パイプの隙間を通り、内筒203の上部の貫通孔264を通って第2熱媒体室263へ至り、そこから媒体流出ポート219を介して外部へ流出する。一方、血液流入ポート216から入った血液は、管群260の各熱交換パイプの内孔を通るため、この間、血液と媒体との間で熱交換が行われて血液は適温に調温される。なお、貫通孔264は内筒203の上部及び下部に設けられた構成に限定されない。例えば、貫通孔264は、内筒203の側部の対向位置に設けられ、媒体が紙面手前方向から紙面奥方向または紙面奥方向から紙面手前方向に流れるように設けられていてもよい。
【0053】
熱交換室220で調温された血液は、管群260の右側の開口から流出し、内筒203の右端付近で径方向外側へ向かい、更に、中筒204の外周囲に形成されたガス交換室221へ至る。より具体的には、ガス交換室221は中筒204とハウジング本体210との間に形成され、このガス交換室221には筒状の中空糸体(ガス交換器)240が外嵌して設けられている。
【0054】
中空糸体240は複数の中空糸を有し、各中空糸の内孔の左側の開口はガス供給ポート214に連通し、右側の開口はガス排出ポート215に連通している。また、各中空糸の間には隙間が設けられており、この隙間を血液が通流する。つまり、熱交換室220から出た血液は、ガス交換室221の右側から入り、各中空糸の隙間を通って左側へ向かって流れる。この間、各中空糸の内孔には酸素リッチなガスが通流し、血液とこのガスとの間でガス交換が行われる。その結果、血液から二酸化炭素が除去され、酸素が付加される。
【0055】
ハウジング本体210の内周面のうち左側の部分は、その他の部分よりも拡径した凹部265が形成されている。この凹部265は中空糸体240の左側部分を周回するように位置しており、凹部265と中空糸体240との間に、円環状かつ切頭円錐状のフィルタ230が配設されている。このフィルタ230は、中空糸体240を通過してきた血液が血液流出ポート217へ向かう流路を横断して配置されている。よって、凹部265と中空糸体240とにより画定される空間はフィルタ230によって二分され、このうち血液流出ポート217と連通する空間は血液流出空間222を成している。
【0056】
従って、上述したようにガス交換室221にてガス交換された血液は、フィルタ230を通過する際に、更に血液中の異物が除去される。そして、このようにして動脈血となった血液は、血液流出空間222を経て血液流出ポート217から外部へ流出する。
【0057】
ところで、この人工肺装置1Cでは、中筒204と中空糸体240とによって気体誘導部290が構成されている。詳述すると、
図4に示すように、中筒204の左右方向の中央部分には、他の部分よりも小径となるように縮径された縮径部266が形成されている。縮径部266は中筒204の中央部分を周回するようにして設けられ、この縮径部266と中空糸体240との間で血液は、中空糸体240内の血液と同様に左側へ向かって流れる。また、縮径部266における左側部分は、左側へ向かうに従って拡径するよう断面の輪郭がテーパ状となるテーパ部267を成し、右側部分は、右側へ向かうに従って拡径するよう断面の輪郭がテーパ状となるテーパ部268を成している。
【0058】
上述した中筒204のうち縮径部266の左側のテーパ部267と中空糸体240とにより、気体誘導部290が構成されている。つまり、左側のテーパ部267は本発明に係る対向壁を成し、中空糸体240の内表面241に対向して位置すると共に、中空糸体240の内表面241との間にスペース(気体貯留部)291を形成する。更に、テーパ部267の外表面267aと中空糸体240の内表面241との間の離隔寸法D3は、スペース291における血液の通流方向下流側(つまり、左側)へ向かうに従って、ゼロに至るように漸減している。人工肺装置1Cでは、このような気体誘導部290が、中筒204を周回するように形成されている。
【0059】
このような構成により、中空糸体240を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部290にてテーパ部267の外周面267a又は中空糸体240の内周面241に沿って、血液の通流方向に沿って下流側へ移動する。気体誘導部290が有するスペース291は、下流側へ向かうに従って次第に幅狭になるため、下流側へ移動する気体は次第に中空糸体240に対して強く押し付けられていく。従って、より多くの気泡を中空糸体240にて吸収させることができ、ハウジング202内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0060】
なお、
図4では縮径部266を断面台形状とした構成を例示したが、このような構成に限られない。例えば、血液の通流方向下流側へ向かうに従って拡径する斜辺を有する三角形状の断面としてもよいし、円弧状の断面としてもよい。
【0061】
(実施の形態4)
図5は、実施の形態4に係る人工肺装置1Dの正面断面図である。以下、この人工肺装置1Dにおいて、上述した人工肺装置1Aと異なる部分を中心に説明する。なお、
図5では、人工肺装置1Dの構成のうち人工肺装置1Aの構成に少なくとも機能面で対応するものには、人工肺装置1Aの説明で用いた符号に300を加算した符号を付している。
【0062】
図5に示すように、人工肺装置1Dは、箱状のハウジング302を備えている。このハウジング302は、左右に開口を有する矩形筒状のハウジング本体310と、ハウジング本体310の上部に接続された吊り下げ部311と、ハウジング本体310の左右の開口を塞ぐ2つのキャップ部312,313とを有している。この人工肺装置1Dは、ハウジング302の内部空間302aにおいて左右方向に血液が流れ、前後方向に熱媒体が流れ、上下方向にガスが流れる構成となっている。以下、これらの構成について詳述する。
【0063】
人工肺装置1Dは、静脈血が流入する血液流入ポート316と、当該人工肺装置1Dにて調温及びガス交換された血液が動脈血として流出する血液流出ポート317とを有している。このうち血液流入ポート316は、右側のキャップ部313において上下方向の中央より下方位置に設けられている。また、血液流出ポート317は、左側のキャップ部314において上下方向の中央より下方位置に設けられている。なお、
図5では、血液流入ポート316と血液流出ポート317とは上下方向の位置が一致する構成を例示しているが、これに限らず両者の上下方向位置や前後方向位置を異ならせてもよい。
【0064】
また、人工肺装置1Dは、血液とガス交換するための酸素豊富なガスが流入するガス供給ポート314と、ガス交換後のガスが流出するガス排出ポート315とを有している。このうちガス供給ポート314は、左側のキャップ部312の上部に設けられ、ガス排出ポート315は、ハウジング本体310の底壁の中央付近に設けられている。そして、ハウジング302の内部空間302aの上部は、ガス供給ポート314と連通するガス流入空間352を成し、内部空間302aの下部は、ガス排出ポート315が連通するガス流出空間353を成している。これらガス流入空間352及びガス流出空間353は上下に偏平な空間形状を成し、両者間には熱交換室320、ガス交換室321、及び血液流出空間322が形成されている。
【0065】
ガス流入空間352とガス流出空間353との間には、直方体形状の中空糸体(ガス交換器)340が配設されている。中空糸体340は、前後方向寸法がハウジング本体310の前後方向の内寸と同一であり、左右方向寸法はキャップ部312,313の互いの内面間距離より小さく構成されている。従って、中空糸体340は、その前面及び後面はハウジング本体310の前後の内面と接している。一方、左右方向に関しては、キャップ部312,313のいずれからも離隔するように左右方向の中央付近に配設されている。
【0066】
そして、中空糸体340の上端部とキャップ部312,313の内面との間を接続するシール部材350が設けられ、中空糸体340の下端部とキャップ部312,313の内面との間を接続するシール部材351が設けられている。従って、上述したガス流入空間352の下部は、中空糸体340及びシール部材351の各上端部分で画定され、ガス流出空間3534の上部は、中空糸体340及びシール部材352の各下端部分で画定される。
【0067】
また、中空糸体340を構成する複数の中空糸は、何れも概ね上下方向に向けられており、その上端部はガス流入空間352にて開口し、下端部はガス流出空間353にて開口している。よって、ガス供給ポート314から流入したガスは、ガス流入空間352から中空糸体340の各中空糸の内孔へと上端開口から入り、下端開口からガス流出空間353へ至り、そしてガス排出ポート315から外部へ排出される。また、各中空糸の間には隙間が存在し、この隙間を血液が流れる。そして、この隙間を流れる血液と中空糸の内孔を通るガスとの間でガス交換が行われる。従って、このような中空糸体340が設けられた空間がガス交換室321を成している。
【0068】
一方、中空糸体340の右側の空間、即ち、中空糸体340の右側面と、右側のキャップ部313の内面と、シール部材350の下面と、シール部材351の上面とで画定される空間には、熱交換室320が形成されている。
【0069】
この熱交換室320には、複数の熱交換パイプの集合体から成る管群360が、各パイプの軸線を前後方向に向けて配置されている。この管群360は、血液流入ポート316と中空糸体340との間を遮るようにして設けられている。また、ハウジング本体310の前壁及び後壁のうち一方には、媒体流入ポート(不図示)が設けられて管群360の一端側の開口と連通し、他方には、媒体流出ポート(不図示)が設けられて管群360の他端側の開口と連通している。
【0070】
よって、媒体流入ポートから流入した熱媒体は、管群360の一端側の開口から入って各パイプ内を流れ、他端側の開口から出て媒体流出ポートから外部へ流出する。また、各熱交換パイプの間には隙間が設けられており、この隙間を血液が流れる。そして、この隙間を流れる血液と各パイプ内を通る媒体との間で熱交換が行われる。従って、このような管群360が設けられた空間が熱交換室320を成している。
【0071】
更に、中空糸体340の左側の空間、即ち、中空糸体340の左側面と、左側のキャップ部312の内面と、シール部材350の下面と、シール部材351の上面とで画定される空間には、フィルタ330が配設され、かつ、血液流出空間322が設けられている。
【0072】
即ち、中空糸体340の左側面に沿うようにして矩形シート状のフィルタ330が設けられている。ただし、フィルタ330は、その上部において左側へ突出するように屈曲されている。換言すれば、フィルタ330は、その上端331は中空糸体340の上部の左側面に当接し、下端332は中空糸体340の下部の左側面に当接し、且つ、上下方向における中央よりも上方の所定位置に屈曲箇所333が設けられ、この屈曲箇所333は中空糸体340の左側面から左側へ離隔して位置している。よって、
図5に示すように、中空糸体340とフィルタ330とで画定される空間は、フィルタ330の上端331と下端332と屈曲箇所333とをそれぞれ頂点とする三角形状となっている。なお、フィルタ330の形状は三角形状に限定されたものではなく、左側へ円弧状に突出するドーム形状であってもよい。また、フィルタ330の下部は、
図5に示すように中空糸体340の左側面に近づくように設けられていてもよいが、これに限られず、中空糸体340の左側面に接触せず下方向へ延びる形状や、中空糸体340の左側面から離れるように左側へ広がる形状であってもよい。
【0073】
また、中空糸体34の左側の空間のうち、フィルタ330よりも左側の空間は血液流出空間322を成し、この血液流出空間322は血液流出ポート317と連通している。従って、ガス交換室321を経た血液は、フィルタ330にて血液中の異物が除去された後、血液流出空間322を経て血液流出ポート317から外部へ流出する。
【0074】
ところで、この人工肺装置1Dでは、フィルタ330と中空糸体340とによって気体誘導部390が構成されている。詳述すると、
図5に示すように、フィルタ330は、その上端331と屈曲部333とを結ぶ部分に傾斜面334を有している。この傾斜面334が本発明に係る対向壁を成している。つまり、傾斜面334は、中空糸体340の左側面341に対向して位置すると共に、中空糸体340の左側面341との間にスペース(気体貯留部)391を形成する。更に、傾斜面334の右側面334aと中空糸体340の左側面341との間の離隔寸法D4は、鉛直上方へ向かうに従って、ゼロに至るように漸減している。
【0075】
このような構成により、中空糸体340を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部390にてフィルタ330の傾斜面334の右側面334a又は中空糸体340の左側面341に沿って、自身の浮力によって上昇する。気体誘導部390が有するスペース391は、上方へ向かうに従って次第に幅狭になるため、上昇する気体は次第に中空糸体340に対して近づいていく。従って、より多くの気泡を中空糸体340にて吸収させることができ、ハウジング302内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0076】
(実施の形態5)
図6は、実施の形態5に係る人工肺装置1Eの正面断面図である。以下、この人工肺装置1Eにおいて、上述した人工肺装置1Dと異なる部分を中心に説明する。なお、
図6では、人工肺装置1Eの構成のうち人工肺装置1Dの構成に少なくとも機能面で対応するものには、人工肺装置1Dの説明で用いた符号のうち、3桁目の数字(アルファベットの添え字を除く)を3から4に置換した符号を付している。
【0077】
図6に示すように、人工肺装置1Eは、箱状のハウジング402を備えている。このハウジング402は、左右に開口を有する矩形筒状のハウジング本体410と、ハウジング本体410の上部に接続された吊り下げ部411と、ハウジング本体410の左右の開口を塞ぐ2つのキャップ部412,413とを有している。
【0078】
この人工肺装置1Eは、人工肺装置1Dと同様に、ハウジング402の内部空間402aにおいて左右方向に血液が流れ、前後方向に熱媒体が流れ、上下方向にガスが流れる構成となっている。即ち、血液は、右側のキャップ部413に接続された血液流入ポート416から流入すると左方向へ向かい、熱交換室420、ガス交換室421、フィルタ430、血液流出空間422を順に通って、左側のキャップ部412に接続された血液流出ポート417から外部へ流出する。熱媒体は、媒体流入ポート(不図示)から管群460の一端側の開口へ入り、各パイプ内を前後方向に流れ、他端側の開口から出て媒体流出ポート(不図示)から外部へ流出する。ガス交換用のガスは、上側のガス供給ポート414からガス流入空間452に流入し、中空糸体440の各中空糸の内孔へと上端開口から入り、下端開口からガス流出空間453へ至り、そしてガス排出ポート415から外部へ排出される。
【0079】
なお、血液は、熱交換室420では管群460の各パイプの隙間を通り、その間に調温され、ガス交換室421では中空糸体440の各中空糸の隙間を通り、その間にガス交換される。また、中空糸体440を通過した血液は、中空糸体440の左側(血液の通流方向の下流側)に配置されたフィルタ430を更に通過し、血液流出空間422を経て血液流出ポート417へ至る。
【0080】
ところで、左側のキャップ部412の内面470は、中空糸体440の左側面441に対向するようにして位置している。但し、この内面470のうち、下端から、上下方向の中央より上方の所定位置P1までは概ね鉛直方向に沿った垂直面471を成している。一方、内面470のうち位置P1から上部は、上方へ向かうに従って右側へ向かう傾斜面472となっている。従って、キャップ部412の内面470のうち下側の垂直面471は、中空糸体440との離隔寸法が上下方向の何れの位置でもほぼ一定である。これに対し、位置P1から上側の傾斜面472は、鉛直上方へ向かうに従って、中空糸体440との離隔寸法D5はゼロへ至るように漸減している。そして、傾斜面472と中空糸体440との間にはスペース(気体貯留部)491が形成されている。よって、傾斜面472は、本発明に係る対向壁を成しており、傾斜面472と中空糸体440の左側面441とによって気体誘導部490が構成されている。
【0081】
フィルタ430は矩形の平坦なシート状を成している。そして、フィルタ430は、その上端がキャップ部412の内面470において位置P1に対応する箇所(垂直面471と傾斜面472との接続箇所)に位置し、下端が中空糸体440の下部とシール部材451との接続箇所に位置するように配設されている。即ち、フィルタ430は、中空糸体440を通過してきた血液が血液流出ポート417へ向かう流路を横断するように設けられており、フィルタ430を通過する血液からは血液中の異物が除去される。なお、フィルタ430の形状は
図6に示した態様に限定されるものではなく、左側へ突出する弧状であってもよい。また、フィルタ430の下部は、
図5に示すように中空糸体440の左側面に近づくように設けられていてもよいが、これに限定されず、中空糸体440の左側面に接触せず下方向へ延びる形状であってもよい。
【0082】
このような構成により、中空糸体440を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部490にてキャップ部412の傾斜面462又は中空糸体440の左側面441に沿って、自身の浮力によって上昇する。気体誘導部490が有するスペース491は、上方へ向かうに従って次第に幅狭になるため、上昇する気体は次第に中空糸体440に対して近づいていく。従って、より多くの気泡を中空糸体440にて吸収させることができ、ハウジング402内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0083】
(実施の形態6)
図7は、実施の形態6に係る人工肺装置1Fの正面断面図である。この人工肺装置1Fはいわゆる縦置きタイプの構成となっており、ハウジング502及び内筒503を備えている。なお、
図7では、人工肺装置1Fの構成のうち人工肺装置1Aの構成に少なくとも機能面で対応するものには、人工肺装置1Aの説明で用いた符号に500を加算した符号を付している。
【0084】
図7に示すように、人工肺装置1Fは、ハウジング502内に熱交換室520及びガス交換室521が形成され、ハウジング502内に流入した静脈血を調温すると共に、二酸化炭素を除去して酸素を付加し、動脈血として外部へ流出させる。ハウジング502は、円筒状のハウジング本体510、その上側の開口に設けられる第1ヘッダ512、及び、下側の開口に設けられる第2ヘッダ513を有する。
【0085】
円筒状のハウジング本体510は、その軸線を鉛直方向に向けて配置され、その上側の開口が第1ヘッダ512によって塞がれている。第1ヘッダ512は下方に開口を向けたカップ状を成し、その上部には吊り下げ具511が接続されている。また、第1ヘッダ512の周部には、不図示のガス供給ポートが接続されており、ハウジング502内に酸素リッチのガスを導入する。
【0086】
ハウジング本体510の下側の開口に設けられた第2ヘッダ513は、上方に開口を向けたカップ状を成し、その中央には開口513aが形成されている。また、第2ヘッダ513の周部には、不図示のガス排出ポートが接続されており、ハウジング502内からガスを外部へ排出する。
【0087】
ハウジング502の内部空間502aには、筒状の中空糸体540が筒状コア505に外嵌した状態で収容されている。つまり、中空糸体540は、複数の中空糸から成るシート状の中空糸膜で構成されており、この中空糸膜が筒状コア505の外周囲に巻き付けられた状態で、筒状コア505と共にハウジング502内に収容されている。また、中空糸膜を筒状コア505に直接巻き付ける他、予め円筒状に設けられた中空糸膜束を筒状コア505に被せて、ハウジング502内に収容されていてもよい。筒状コア505はハウジング本体510と同軸状に位置し、筒状コア505とハウジング本体510との間の環状空間はガス交換室521を成し、中空糸体540により満たされている。
【0088】
中空糸体540の上側には円環状の第1シール部材550が配設され、下側には円環状の第2シール部材551が配設されている。この第1シール部材550により、その上側にガス供給ポートと連通するガス流入空間552が形成され、第2シール部材551により、その下側にガス排出ポートと連通するガス流出空間553が形成されている。従って、上部のガス供給ポートから供給されたガスは、ガス流入空間552から中空糸体540の各中空糸の内孔を通って下方へ向かい、ガス流出空間553を経て下部のガス排出ポートから外部へ排出されるようになっている。なお、第2シール部材551は、筒状コア505の下部に外嵌して設けられている。
【0089】
筒状コア505には、円筒状の熱交換器ケース503が、その下部を除いて内嵌するようにして位置している。熱交換器ケース503の下部は、筒状コア505の下部開口から下方へ突出しており、更に、第2ヘッダ513の開口513aから下方へ突出して外部に露出している。この熱交換器ケース503の下端開口は底キャップ570により閉塞され、熱交換器ケース503の下部側面には媒体流入ポート518及び媒体流出ポート519が接続されている。
【0090】
底キャップ570は、上方に開口を向けたカップ状を成し、その周部には血液流入ポート516が接続されている。また、媒体流入ポート518は、熱交換器ケース503の下部側面の所定位置から斜め下方へ向けて延びており、媒体流出ポート519は、熱交換器ケース503の下部側面において媒体流入ポート515の接続位置とは異なる所定位置から、斜め下方へ向けて延びている。
【0091】
熱交換器ケース503内は熱交換室520を成しており、ここには管群560がその軸線方向と熱交換器ケース503の軸線方向とが一致するようにして収容されている。管群560は複数の熱交換パイプの集合体であり、各パイプはステンレス鋼等の熱伝導率の高い材料により構成されている。管群560の上端部の外周は、熱交換媒体と管群560から流出した血液とが混ざらないようにシール部材(図示せず)により封止されている。
【0092】
このような熱交換室520では、下方の血液流入ポート516から血液が流入すると、この血液は管群560の各パイプに下端開口から入って上方へ向かい、上端開口から管群560を出る。一方、媒体流入ポート518から所定温度に保たれた熱媒体が流入し、この熱媒体は管群560の各パイプ間を通り、媒体流出ポート519から流出する。
【0093】
熱交換器ケース503の上方には、円環状の第1シール部材550の開口部分に嵌められるようにして、拡散部571が設けられている。拡散部571は、
図7に示すように、正面視して下面が下方へ円弧状に突出している。従って、管群560の上部から流出した血液は、拡散部571により径方向外側へ方向転換させられ、ガス交換室521に上部から流入する。
【0094】
ハウジング本体510の下部には、全周囲にわたって他の部分よりも拡径された拡径部572が形成されている。拡径部572は、筒状体から成る周面部573と、この周面部573の上端開口を覆う円環状の上面部574と、周面部573の下端開口を覆う円環状の下面部575と、を有している。このうち円環状の上面部574は、内周部分576が外周部分577よりも上方に位置するように傾斜している。換言すれば、上面部574は概ね切頭円錐形状を成している。従って、上面部574の内面(下面)は、上方へ向かうに従って中心に近づくような傾斜面574aを成している。
【0095】
拡径部572の内面と中空糸体540の外周面541との間には空間が形成され、この空間にはフィルタ530が配置されている。フィルタ530は頂部を下に向けた切頭円錐形状を成し、その上端(大径端)は拡径部572における周面部573と上面部574との接続箇所に位置し、下端(小径端)は拡径部572の下面部575と中空糸体540との当接箇所に位置している。また、拡径部572の周面部573の所定位置には、径方向外側へ延びる血液流出ポート517が接続されている。
【0096】
よって、拡径部572の内部は、フィルタ530により、中空糸体540に隣接するスペース591と、血液流出ポート517に連通する血液流出空間522と、に区分けされている。そして、中空糸体540を通過してきた血液は、スペース591からフィルタ530を通過し、血液流出空間522を経て、血液流出ポート517から外部へ流出する。
【0097】
このような構成の人工肺装置1Fは、血液流入ポート516から流入した血液が熱交換室520の管群560を通って上方へ向かう過程で、媒体流入ポート518から流入した媒体によって調温される。調温された血液は、熱交換室520の上方で折り返してガス交換室521へ流入し、ここで、中空糸体540の各中空糸間を通る過程でガス交換される。そして、中空糸体540から出てきた血液は、フィルタ530にて血液中の異物が除去され、動脈血として外部へ流出する。
【0098】
ところで、この人工肺装置1Fでは、拡径部572の上面部574と中空糸体530とによって気体誘導部590が構成されている。詳述すると、
図7に示すように、上面部574の内面は上述したように傾斜面574aを成しており、この傾斜面574aが本発明に係る対向壁を成している。つまり、傾斜面574aは、中空糸体540の外周面541に対向して位置すると共に、この外周面541との間にスペース(気体貯留部)591を形成する。更に、傾斜面574aと中空糸体540の外周面541との間の離隔寸法D6は、鉛直上方へ向かうに従って、ゼロに至るように漸減している。
【0099】
このような構成により、中空糸体540を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部590にて拡径部572の傾斜面574a又は中空糸体540の外周面541に沿って、自身の浮力によって上昇する。気体誘導部590が有するスペース591は、上方へ向かうに従って次第に幅狭になるため、上昇する気体は次第に中空糸体540に対して近づいていく。従って、より多くの気泡を中空糸体540にて吸収させることができ、ハウジング502内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0100】
(実施の形態7)
図8は、実施の形態7に係る人工肺装置1Gの正面断面図である。以下、この人工肺装置1Gにおいて、上述した人工肺装置1Fと異なる部分を中心に説明する。なお、
図8では、人工肺装置1Gの構成のうち人工肺装置1Fの構成に少なくとも機能面で対応するものには、人工肺装置1Fの説明で用いた符号のうち、3桁目の数字(アルファベットの添え字を除く)を5から6に置換した符号を付している。
【0101】
図8に示すように、人工肺装置1Gは、ハウジング本体610の下部に拡径部が設けられていない。即ち、ハウジング本体610は上端から下端までほぼ同一径の円筒状となっており、下端部に血液流出ポート617が接続されている。また、筒状コア605の外周囲に巻き付けられた筒状の中空糸体640は、その内周面は筒状コア605の外周面に接しているが、外周面はハウジング本体610の内周面から所定寸法だけ離隔して位置している。よって、ハウジング本体610と中空糸体640との間には、全周にわたる円筒状の空間が形成されており、この空間に、円筒状のフィルタ630が配設されている。
【0102】
フィルタ630は、中空糸体640の外径よりも大きい径を有し、中空糸体640の外周囲を取り囲むようにして設けられている。フィルタ630の上端631は第1シール部材650の下面に当接し、下端632は第2シール部材651の上面に当接している。また、フィルタ630は中空糸体640に対して偏心して配置されている。従って、フィルタ630の内周面のうち周方向の一部は中空糸体640の外周面641から離隔して位置し、他の部分は外周面641に接している。そして、フィルタ630とハウジング本体610とで挟まれた空間は、気体流出ポート617に連通する気体流出空間622を成している。
【0103】
フィルタ630において、中空糸体640の外周面641から離隔している部分の上部所定位置には屈曲部633が設けられ、この屈曲部633と上端631とを結ぶ部分の内面は傾斜面634を成している。人工肺装置1Gでは、この傾斜面634と中空糸体640の外周面641とによって気体誘導部690が構成されている。つまり、傾斜面634は、中空糸体640の外周面641に対向して位置すると共に、中空糸体640の外周面641との間にスペース(気体貯留部)691を形成する。更に、傾斜面634と中空糸体640の外周面641との間の離隔寸法D7は、鉛直上方へ向かうに従って、ゼロに至るように漸減している。
【0104】
このような構成により、中空糸体640を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部690にてフィルタ630の傾斜面634又は中空糸体640の外周面641に沿って、自身の浮力によって上昇する。気体誘導部690が有するスペース691は、上方へ向かうに従って次第に幅狭になるため、上昇する気体は次第に中空糸体640に対して近づいていく。従って、より多くの気泡を中空糸体640にて吸収させることができ、ハウジング602内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0105】
(実施の形態8)
図9は、実施の形態8に係る人工肺装置1Hの正面断面図である。以下、この人工肺装置1Hにおいて、上述した人工肺装置1Gと異なる部分を中心に説明する。なお、
図9では、人工肺装置1Hの構成のうち人工肺装置1Gの構成に少なくとも機能面で対応するものには、人工肺装置1Fの説明で用いた符号のうち、3桁目の数字(アルファベットの添え字を除く)を6から7に置換した符号を付している。
【0106】
図9に示すように、人工肺装置1Hは、筒状コア705に中空糸膜が巻き付けられて筒状の中空糸体740が形成され、更に、この中空糸体740に外嵌するようにして筒状のフィルタ730が備えられている。フィルタ730の内径は、中空糸体740の外径とほぼ同一寸法である。従って、中空糸体740の外周面は、ほぼ全域にわたってフィルタ730の内周面と接している。
【0107】
この人工肺装置1Hでは、筒状コア705と中空糸体740とによって気体誘導部790が構成されている。詳述すると、
図9に示すように、筒状コア705の上下方向の中央外面には、他の部分よりも小径となるように縮径された縮径部766が形成されている。縮径部766は筒状コア705の中央部分を周回するようにして設けられ、この縮径部766と中空糸体740との間で血液は、中空糸体740内の血液と同様に下方へ向かって流れる。また、縮径部766における上側部分は、下方へ向かうに従って縮径するよう断面の輪郭がテーパ状となるテーパ面768を成し、下側部分は、上方へ向かうに従って縮径するよう断面の輪郭がテーパ状となるテーパ面767を成している。なお、本実施形態では、縮径部766は筒状コア705の中央部分を周回するようにして設けられているが、このような態様に限定されたものではなく、例えば複数の縮径部が間隔を空けて設けられていてもよい。また、縮径部766の断面形状は
図9に示した形状に限定されたものではなく、上方へ向かうに従って縮径するような断面、または下方へ向かうに従って縮径するような断面を有していれば、三角形等の形状であってもよい。また、縮径部766は、筒状コア705の全周囲にわたって周回している必要はなく、筒状コア705の周方向において部分的に設けられていてもよい。
【0108】
上述した縮径部766の下側のテーパ面767と中空糸体740とにより、気体誘導部790Aが構成されている。つまり、下側のテーパ面767は本発明に係る対向壁を成し、中空糸体740の内表面741に対向して位置すると共に、中空糸体740の内表面741との間にスペース(気体貯留部)791Aを形成する。更に、テーパ面767と中空糸体740の内表面741との間の離隔寸法D8は、スペース791Aにおける血液の通流方向下流側(つまり、下方)へ向かうに従って、ゼロに至るように漸減している。人工肺装置1Hでは、このような気体誘導部790Aが、筒状コア705を周回するように形成されている。
【0109】
更に、縮径部766の上側のテーパ面768と中空糸体740とによっても、気体誘導部790Bが構成されている。つまり、上側のテーパ面768は本発明に係る対向壁を成し、中空糸体740の内表面741に対向して位置すると共に、中空糸体740の内表面741との間にスペース(気体貯留部)791Bを形成する。更に、テーパ面768と中空糸体740の内表面741との間の離隔寸法D9は、鉛直上方へ向かうに従って、ゼロに至るように漸減している。人工肺装置1Hでは、このような気体誘導部790Bも、筒状コア705を周回するように形成されている。
【0110】
このような構成により、中空糸体740を経ても吸収されなかった気体があった場合であっても、この気体は、気体誘導部790Aにて血液の通流方向に沿って下流側へ移動する。気体誘導部790Aが有するスペース791Aは、下流側へ向かうに従って次第に幅狭になるため、下流側へ移動する気体は次第に中空糸体740に対して近づいていく。従って、より多くの気泡を中空糸体740にて吸収させることができ、ハウジング202内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0111】
また、中空糸体740を経ても吸収されなかった気体は、気体誘導部790Bでは、浮力によって鉛直上方へ向かって移動する。気体誘導部790Bが有するスペース791Bは、上方へ向かうに従って次第に幅狭になるため、上昇する気体は次第に中空糸体740に対して強く押し付けられていく。従って、より多くの気泡を中空糸体740にて吸収させることができ、ハウジング202内に気泡が過剰に溜まることを抑制することができる。
【0112】
以上で説明した各実施の形態では、ガス交換器の表面と対向壁との間の離隔寸法が鉛直上方へ向かうに従って、または、通流方向の下流側へ向かうに従って、ゼロに至るよう漸減している態様を示したが、ガス交換器の表面と対向壁との間の離隔寸法がゼロに至らなくてもよい。即ち、ガス交換器の表面と対向壁との間に隙間があってもよい。
【0113】
第1の実施形態における変形例として、ガス交換器の表面と対向壁との間に隙間が設けられる場合、その隙間によって気体貯留部が構成されていてもよい。即ち、血液がガス交換器を通っても、血液中の気泡は完全に中空糸膜内に吸収されるわけではなく、気泡が残存する可能性がある。この場合、隙間(気体貯留部)をハウジングの上部分に設けると、中空糸膜内に吸収されなかった気泡は、この隙間に貯留される。貯留された気体が一定量に達すると、隙間がガス交換器に臨んでいるため、中空糸膜内に吸収される。その結果、気体が患者の体内に入ることを防ぐことができる。
【0114】
(変形例1)
図10は、実施の形態1の変形例1に係る人工肺装置1Jの正面断面図である。この変形例1に係る人工肺装置1Jは、実施の形態1に係る人工肺装置1Aと比べてフィルタ30の構成が異なっており、その他の構成は同じである。従って、
図10では、人工肺装置1Jの構成のうち人工肺装置1Aの構成と同じものには、人工肺装置1Aの説明で用いたものと同じ符号を付している。
【0115】
図10に示すように、人工肺装置1Jは、血液中の異物を除去するフィルタ30Aを備えており、フィルタ30Aは、中空糸体40を通過してきた血液が血液流出ポート17へ向かう流路を横断するようにして設けられている。より具体的には、フィルタ30Aは小径開口端及び大径開口端を有する切頭円錐形状を成し、その軸心をハウジング本体10の軸線10aに沿うようにし、かつ、大径開口端よりも小径開口端の方が血液流出ポート17に近くなるような向きにして、中空糸体40の外周面41を取り囲んで設けられている。
【0116】
その結果、中空糸体40の外周面41と、これに対向する対向壁を成すフィルタ30Aの内周面31Aとの間にスペース91Aが形成される。血液は、このスペース91Aを、フィルタ30Aの大径開口端側から小径開口端側へ向かって流れつつ、フィルタ30Aを通過する。そして、中空糸体40の外周面41とフィルタ30Aの内周面31Aとの間の離隔寸法は、スペース91Aにおける血液の通流方向の下流側へ向かうに従って、ゼロに向かうように漸減している。なお、
図10の例では、フィルタ30Aの小径開口端の周縁部分は中空糸体40の外周面41に接触しているが、外周面41から離隔していてもよい。
【0117】
(変形例2)
図11は、実施の形態1の変形例2に係る人工肺装置1Kの正面断面図である。この変形例2に係る人工肺装置1Kは、実施の形態1に係る人工肺装置1Aと比べてフィルタ30の構成が異なっており、その他の構成は同じである。従って、
図11では、人工肺装置1Kの構成のうち人工肺装置1Aの構成と同じものには、人工肺装置1Aの説明で用いたものと同じ符号を付している。
【0118】
図11に示すように、人工肺装置1Kは、血液中の異物を除去するフィルタ30Bを備えており、フィルタ30Bは、中空糸体40を通過してきた血液が血液流出ポート17へ向かう流路を横断するようにして設けられている。更に、フィルタ30Bは、実施の形態1の人工肺装置1Aのフィルタ30を少しだけ上方へずらして位置させたようにして設けられている。
【0119】
より具体的には、フィルタ30Bは円筒形状を成しており、その内径寸法は中空糸体40の外径寸法よりも大きい。フィルタ30Bは、同様に円筒状を成す中空糸体40に対して下方に偏心しており、換言すれば、フィルタ30Bの軸心は中空糸体40の軸心よりも下方に位置している。更に、フィルタ30Bの内周面31Bが中空糸体40の外周面41から離隔して、配置されている。
【0120】
その結果、中空糸体40の外周面41と、これに対向する対向壁を成すフィルタ30Bの内周面31Bとの間にスペース91Bが形成される。このスペース91Bは、軸線10aに沿って見ると、中空糸体40の外周面41に沿って下部から上部へ向かうに従って狭くなるように漸減している。
【0121】
ここで、スペース91Bの上部の隙間の寸法、すなわち、フィルタ30Bの内周面31Bのうちフィルタ30Bの上部に対応する部分とこれに対向する中空糸体40の外周面41との離隔寸法をD10とする。また、スペース91Bの下部の隙間の寸法、すなわち、フィルタ30Bの内周面31Bのうちフィルタ30Bの下部に対応する部分とこれに対向する中空糸体40の外周面41との離隔寸法をD11とする。すると、D10<D11であり、寸法D10としては、例えば、0ミリメートルより大きく5ミリメートル以下の範囲で選択可能であり、好ましくは0ミリメートルより大きく3ミリメートル以下の範囲で選択可能であり、より好ましくは2ミリメートル以上3ミリメートル以下の範囲で選択可能である。
【0122】
このように、スペース91Bが鉛直上方へ向かうに従ってゼロに向かうように漸減しているため、スペース91B内の気泡を中空糸体40に再吸収させることができる。なお、本変形例2の構成では、上述したようにフィルタ30Bと中空糸体40とが全周にわたって離隔しており、スペース91Bは鉛直上方へ向かって最終的にゼロに至らない。このような構成であっても、スペース91Bの上部の寸法D10が上記の範囲で設定されていれば、特段の支障なく、気泡を中空糸体40に接触させて再吸収させることができる。なお、発生する気泡の大きさに応じて上記D10を設定可能であり、上述した範囲に限定されるものではない。
【0123】
(参考例1)
図12は、参考例1に係る人工肺装置1Lの正面断面図である。この参考例1に係る人工肺装置1Lは、実施の形態1に係る人工肺装置1Aと比べてフィルタ30の構成が異なっており、その他の構成は同じである。従って、
図12では、人工肺装置1Lの構成のうち人工肺装置1Aの構成と同じものには、人工肺装置1Aの説明で用いたものと同じ符号を付している。
【0124】
図12に示すように、人工肺装置1Lは、血液中の異物を除去するフィルタ30Cを備えており、フィルタ30Cは、中空糸体40を通過してきた血液が血液流出ポート17へ向かう流路を横断するようにして設けられている。より具体的には、フィルタ30Cは円筒形状を成しており、その内径寸法は中空糸体40の外径寸法よりも大きい。フィルタ30Cは、同様に円筒状を成す中空糸体40に対して同心状に、外側を取り囲むようにして設けられている。
【0125】
その結果、中空糸体40の外周面41と、これに対向する対向壁を成すフィルタ30Cの内周面31Cとの間にスペース91Cが形成される。このスペース91Cは、軸線10aに沿って見ると、中空糸体40の外周面41に沿う全周にわたって同一寸法D12の隙間を形成している。この寸法D12は、例えば、0ミリメートルより大きく5ミリメートル以下の範囲で選択可能であり、好ましくは0ミリメートルより大きく3ミリメートル以下の範囲で選択可能であり、より好ましくは2ミリメートル以上3ミリメートル以下の範囲で選択可能である。
【0126】
このように、参考例1に係る人工肺装置1Lは、スペース91Cが漸減しない構成であるが、フィルタ30Cの内周面31Cと中空糸体40の外周面41との離隔寸法D12が上記の範囲で設定されていれば、スペース91C内の気泡を中空糸体40に接触させて再吸収させることが可能である。なお、スペース91Cが形成する隙間の寸法D12は、全周にわたって完全同一である必要はなく、上記の数値範囲内であれば部位ごとに異なっていてもよい。なお、発生する気泡の大きさに応じて上記D12を設定可能であり、上述した範囲に限定されるものではない。
【0127】
なお、全実施形態及び変形例において、「ゼロに向かうように漸減する」とは、気泡を中空糸体(ガス交換器)の表面に近づけることができる作用を奏する構成であれば、これに該当する。また、「ゼロに向かうように漸減する」機能を発揮する気体誘導部は、その部分のみ、フィルタ材料ではなく血液及び気泡を通さない(液密かつ気密の)プレート部材で構成してもよい。これにより、仮に血液に高い背圧が作用しても、気泡がフィルタを通過してしまうのを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、血液に含まれる二酸化炭素を除去して酸素を付加する人工肺装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0129】
1A 人工肺装置
2 ハウジング
16 血液流入ポート
17 血液流出ポート
30 フィルタ
31 フィルタの内周面(対向壁)
40 中空糸体(ガス交換器)
41 中空糸体の表面
90 気体誘導部