(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】車両用フード
(51)【国際特許分類】
B62D 25/10 20060101AFI20231017BHJP
B60R 21/34 20110101ALI20231017BHJP
【FI】
B62D25/10 E
B60R21/34
(21)【出願番号】P 2020028072
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(72)【発明者】
【氏名】堀内 正直
(72)【発明者】
【氏名】川野 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢治
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-15369(JP,A)
【文献】特開2009-234380(JP,A)
【文献】特開2011-136597(JP,A)
【文献】特開2017-81396(JP,A)
【文献】特開2019-177814(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0261221(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017011549(DE,A1)
【文献】特開2006-306237(JP,A)
【文献】特開2016-10995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10- 25/13
B62D 17/00- 25/08
B62D 25/14- 29/04
F16F 7/00- 7/14
B60R 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外表面をなすアウターパネルと、前記アウターパネルの周囲の端部に接合され、前記アウターパネルの下方に位置するインナーパネルと、を具備する車両用フードであって、
板材が屈曲形成され、後端部に前記インナーパネルの上面との固定点を有するとともに前端部に前記アウターパネルの下面との取付点を有する吸収部材を備え、
前記吸収部材は、前記後端部から車両前方に向かって上り傾斜して前記前端部に繋がる中間部と、前記中間部の前記固定点と前記取付点との間を前後方向に亘って延設されたスリットと、を有し、
前記中間部は、前記スリットを挟んだ左右一方の部分が上に凸となる湾曲形状であり、前記スリットを挟んだ左右他方の部分が下に凸となる湾曲形状である
ことを特徴とする、車両用フード。
【請求項2】
前記左右一方の部分には、下に凸となる第一ビードが設けられ、
前記左右他方の部分には、上に凸となる第二ビードが設けられている
ことを特徴とする、請求項1記載の車両用フード。
【請求項3】
前記第一ビード及び前記第二ビードは、前記中間部における前記前端部寄りの位置に設けられている
ことを特徴とする、請求項2記載の車両用フード。
【請求項4】
前記吸収部材は、前記後端部と前記中間部とで形成される折れ部に突設された補助ビードを有する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用フード。
【請求項5】
前記車両には、前記車両用フードとカウルとの間にデッキガーニッシュが設けられ、
前記インナーパネルは、前記中間部の鉛直下方の位置で左右方向に延びる貫通長孔を有する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用フード。
【請求項6】
前記吸収部材は、前記後端部の左右方向寸法が前記前端部の左右方向寸法よりも小さくなるように前記後端部の左右両縁部がそれぞれ切り欠かれている
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の車両用フード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとその周端部に接合されるインナーパネルとを備えた車両用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のコンパートメント(エンジンルームやモータールームなど)の上面を覆う車両用フード(以下、単に「フード」ともいう)において、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材を挿入した構造が知られている。例えば、インナーパネルにアーチ状のブラケットを固定し、ブラケットの板面をアウターパネルの裏面に沿って展開させた構造が提案されている(特許文献1参照)。また、アウターパネルの裏面に板状の補強部材を取り付けて剛性を高めた構造も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-306237号公報
【文献】特開2016-010995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フードに外力(荷重)が作用したときのエネルギーは、アウターパネルやインナーパネル等の部材の変形によって吸収される。しかしながら、フードの外周部(例えばフロントガラスの直前方)の下方には、デッキガーニッシュやカウル、フェンダーといった構造物が存在するため、例えば、フードの後端部に歩行者頭部が衝突した場合には、これらの構造物に底付いてしまい、十分なエネルギー吸収性能を確保できないおそれがある。また、歩行者保護の観点からは、歩行者頭部がフードのどの位置に衝突しても同様のエネルギー吸収性能を発揮できることが望ましい。
【0005】
本件の車両用フードは、このような課題に鑑み案出されたもので、荷重が加わった位置によらず同様のエネルギー吸収性能を発揮することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する車両用フードは、車両の外表面をなすアウターパネルと、前記アウターパネルの周囲の端部に接合され、前記アウターパネルの下方に位置するインナーパネルと、を具備する車両用フードであって、板材が屈曲形成され、後端部に前記インナーパネルの上面との固定点を有するとともに前端部に前記アウターパネルの下面との取付点を有する吸収部材を備える。前記吸収部材は、前記後端部から車両前方に向かって上り傾斜して前記前端部に繋がる中間部と、前記中間部の前記固定点と前記取付点との間を前後方向に亘って延設されたスリットと、を有する。前記中間部は、前記スリットを挟んだ左右一方の部分が上に凸となる湾曲形状であり、前記スリットを挟んだ左右他方の部分が下に凸となる湾曲形状である。
【0007】
(2)前記左右一方の部分には、下に凸となる第一ビードが設けられ、前記左右他方の部分には、上に凸となる第二ビードが設けられていることが好ましい。
(3)前記第一ビード及び前記第二ビードは、前記中間部における前記前端部寄りの位置に設けられていることが好ましい。
【0008】
(4)前記吸収部材は、前記後端部と前記中間部とで形成される折れ部に突設された補助ビードを有することが好ましい。
(5)前記車両には、前記車両用フードとカウルとの間にデッキガーニッシュが設けられていることが好ましい。この場合、前記インナーパネルは、前記中間部の鉛直下方の位置で左右方向に延びる貫通長孔を有することが好ましい。
(6)前記吸収部材は、前記後端部の左右方向寸法が前記前端部の左右方向寸法よりも小さくなるように前記後端部の左右両縁部がそれぞれ切り欠かれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
開示した車両用フードによれば、吸収部材の中間部に、上に凸となる部分と下に凸となる部分とが設けられているため、荷重が入力されたときの折れ方(折れ方向)が車幅方向において等しくならない。このため、荷重が加わった位置によらず、同様のエネルギー吸収性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る車両用フードを示す分解斜視図である。
【
図2】
図1に示す車両用フードのインナーパネルに吸収部材が固定された状態を示す斜視図である。
【
図3】
図2のインナーパネル及び吸収部材の上面図である。
【
図4】
図3中のA部(右側の吸収部材周辺)を拡大して示す斜視図である。
【
図5】
図4の吸収部材を車幅方向外側(右側)から見た斜視図である。
【
図7】
図1の車両用フードを備えた車両の要部断面図であり、車両用フードに物体が衝突する前の状態を示す。
【
図8】
図7の車両用フードに物体が衝突したときの作用を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施形態としての車両用フードについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0012】
以下の説明では、車両の前進方向を車両前方(単に「前方」という)とし、後進方向を車両後方(単に「後方」という)とし、前方を基準に左右を定める。なお、車両の左右方向を「車幅方向」ともいい、車両前後方向を単に「前後方向」という。また、重力の方向を下方、その逆を上方として上下方向を定める。
【0013】
[1.構成]
本実施形態の車両用フード1の分解斜視図を
図1に示し、この車両用フード1を備えた車両の要部(車両用フード1の後端部周辺)を前後方向に沿って切断した縦断面図を
図7に示す。車両用フード1は、車両の前部に設けられるコンパートメント7(エンジンルームやモータールームなどの車載品収容室、
図7参照)の上面を被覆する部材である。
【0014】
コンパートメント7の後端部近傍には、車体に対して車両用フード1を開閉可能に枢支するヒンジや、車両用フード1を開放方向に付勢するスプリング(何れも図示略)が設けられる。また、コンパートメント7の前端部近傍には、車両用フード1の閉鎖状態を維持するためのフードロック装置や、開放状態を保持させるために用いられるサポートロッド(何れも図示略)が設けられる。
【0015】
車両用フード1は、アウターパネル2とインナーパネル3と吸収部材10,20とを備える。アウターパネル2は車両(車両用フード1)の外表面をなす部材であり、表側の板面には意匠的な塗装や凹凸加工が施される。また、アウターパネル2の前部には、コンパートメント7内に導入される冷却風が通過する開口部(図示略)が形成されたグリル補強部2aが設けられる。グリル補強部2aには、車両のグリル4が取り付けられる。
【0016】
インナーパネル3は、アウターパネル2に対して所定の間隔をあけてその下方に配置され、アウターパネル2の周囲の端部に対して接合される。インナーパネル3の板面には、強度や剛性を高めるための凹凸が設けられる。本実施形態の車両では、
図7に示すように、車両用フード1の後端部とカウル5との間にデッキガーニッシュ6が設けられている。デッキガーニッシュ6の前端部は、カウル5に当接配置される。また、デッキガーニッシュ6の上端部は、インナーパネル3の下面に対して僅かに隙間をあけて近接配置される。
【0017】
図1~
図3に示すように吸収部材10,20は、インナーパネル3の上面(例えば、後端部3aの上面)に固定され、車両用フード1に対して入力される荷重を吸収する機能を持つ。
図1には、車両用フード1の右側に二つの吸収部材10,20が互いに間隔をあけて車幅方向(左右方向)に並設された場合を例示している。二つの吸収部材10,20はいずれも板材が屈曲形成されたものである。車幅方向外側(車両用フード1の端)に位置する吸収部材10の形状と、車幅方向内側(吸収部材10の左側)に位置する吸収部材20の形状とは、互いに異なる。
【0018】
なお、
図1には二つの吸収部材10,20が配置された車両用フード1を例示しているが、吸収部材10,20の個数はこれに限られず、例えば、車両用フード1の左右両端部のそれぞれに吸収部材10を配置してもよいし、複数の吸収部材20を車幅方向に並設してもよい。左右両端部のそれぞれに吸収部材10を配置する場合には、二つの吸収部材10の形状は互いに左右対称とされる。また、複数の吸収部材20を配置する場合には、すべての吸収部材20の形状はほぼ同一とされる。以下、二種類の吸収部材10,20を区別する場合には、後者の吸収部材20を「中間吸収部材20」という。まず、吸収部材10について詳述し、次いで中間吸収部材20について簡単に説明する。
【0019】
図3に示すように、吸収部材10は上面視で、車幅方向に長い矩形状をベースとした形状の、後側の二つの角を含む縁部を切り欠いた外形状に形成される。すなわち、吸収部材10は、その後端部11の左右方向寸法が前端部12の左右方向寸法よりも小さくなるよう、後端部11の左右両縁部がそれぞれ切り欠かれている。なお、吸収部材10の左右方向は、車両の車幅方向と略一致する。
【0020】
図4及び
図5に示すように、吸収部材10は、その後端部11にインナーパネル3の上面との固定点11pを有するとともに、その前端部12にアウターパネル2(
図1参照)の下面との取付点12pを有する。つまり、吸収部材10は、
図7に示すように、後端部11が前端部12よりも下方に位置しており、後端部11から前方に向かって上り傾斜して前端部12に繋がる中間部13を有する。
【0021】
図4及び
図5に示すように、後端部11は、固定先であるインナーパネル3の上面に沿う形状とされ、前端部12は、固定先であるアウターパネル2の下面に沿う形状とされる。本実施形態の吸収部材10では、後端部11が全体的に平面状に形成され、前端部12は、取付点12pのある二つの角部が上方に凸状に形成されるとともに略平面状とされる。また、本実施形態の吸収部材10は、インナーパネル3に対してスポット溶接された箇所が固定点11pとして設けられ、アウターパネル2に対して接着剤12aにより接着される箇所が取付点12pとして設けられる。なお、
図5では接着剤12aを省略して取付点12pのみを示す。吸収部材10の接着剤12aが設けられる箇所(取付点12p)は、下方に凹設されている。
【0022】
図4及び
図5に示すように、吸収部材10には、中間部13の固定点11pと取付点12pとの間を前後方向に亘って延びるスリット14が設けられる。スリット14は、吸収部材10を板厚方向に貫通した長孔であり、吸収部材10の左右方向の中間に形成される。本実施形態のスリット14は、吸収部材10の後端部11の一部と前端部12の一部とに跨って形成される。
【0023】
吸収部材10の中間部13は、スリット14を挟んで二つの部位に分けられる。以下、スリット14によって分けられた二つの部位のうち、車幅方向内側の部分を「内側部13A」と呼び、車幅方向外側の部分を「外側部13B」と呼ぶ。車両用フード1の右側に配置される吸収部材10では、中間部13のうち、スリット14よりも左側の部位が内側部13Aであり、スリット14よりも右側の部位が外側部13Bである。なお、車両用フード1の左側にも吸収部材10が配置される場合には、中間部13のうち、スリット14よりも右側の部位が内側部13Aとなり、スリット14よりも左側の部位が外側部13Bとなる。
【0024】
本実施形態の中間部13は、内側部13A(スリット14を挟んだ左右一方の部分)が上に凸となる湾曲形状であり、外側部13B(スリット14を挟んだ左右他方の部分)が下に凸となる湾曲形状である。さらに、上に凸となっている内側部13Aには、下に凸となる第一ビード15aが設けられ、下に凸となっている外側部13Bには、上に凸となる第二ビード15bが設けられる。すなわち、吸収部材10を上から見たときに、第一ビード15aは内側部13Aに凹設され、第二ビード15bは外側部13Bに膨出形成される。
【0025】
図6に、内側部13Aにおける、第一ビード15aとスリット14との間の部分で吸収部材10を前後方向に切断した縦段面図を示す。
図6中の一点鎖線Lは、後端部11及び中間部13で形成される折れ部16と、前端部12及び中間部13で形成される折れ部18とを繋いだ仮想的な直線である。「内側部13Aが上に凸となる湾曲形状」とは、内側部13Aが一点鎖線Lよりも上方に位置するように湾曲した形状であることを意味する。同様に、「外側部13Bが下に凸となる湾曲形状」とは、外側部13Bが一点鎖線Lよりも下方に位置するように湾曲した形状であることを意味する。なお、折れ部16は、後端部11の前縁から上方へ折れ曲がった(湾曲形成された)部分であり、折れ部18は、前端部12の後縁から下方へ折れ曲がった(湾曲形成された)部分である。
【0026】
図4及び
図5に示すように、第一ビード15a及び第二ビード15bは、中間部13における前端部12寄りの位置に設けられている。これら二つのビード15a,15bは、突出方向が上下反対であるが、その位置,大きさ,突出量は互いに等しく形成される。二つのビード15a,15bは、車両用フード1に荷重が加わったときに、吸収部材10の変形を促進する機能を持つ。なお、中間部13の後端部11寄りの位置には、ビード15a,15bが設けられていない平面部が存在する。
【0027】
本実施形態の吸収部材10は、二箇所の折れ部16のそれぞれに突設された補助ビード17を有する。補助ビード17は、折れ部16の剛性を高める機能を持つ。本実施形態の補助ビード17は、後端部11の後縁から内側部13A及び外側部13Bの各下端部まで前後方向に延設される。
【0028】
次に、中間吸収部材20について説明する。
図3に示すように、本実施形態の中間吸収部材20は、上面視で、車幅方向に長い矩形状に形成される。中間吸収部材20は、吸収部材10と同様に、その後端部21にインナーパネル3の上面との固定点(図示略)を有するとともに、その前端部22にアウターパネル2(
図1参照)の下面との取付点(図示略)を有する。つまり、中間吸収部材20も、吸収部材10と同様に、後端部21が前端部22よりも下方に位置しており、後端部21から前方に向かって上り傾斜して前端部22に繋がる中間部23を有する。
【0029】
また、中間吸収部材20には、中間部23の固定点と取付点との間を前後方向に亘って延びる、吸収部材10と同様のスリット24が設けられる。中間吸収部材20の中間部23は、スリット24を挟んで二つの部位に分けられるが、どちらの部位も上に凸となる湾曲形状に形成される。なお、上に凸となっている中間部23には、第一ビード15aと同様の、下に凸となるビード25が設けられる。また、
図5に示すように、中間吸収部材20は、吸収部材10と同様に、下側の折れ部26に突設された補助ビード27を有する。
【0030】
また、
図3~
図5及び
図7に示すように、本実施形態のインナーパネル3には、吸収部材10,20の中間部13,23と鉛直方向に重なる位置において左右方向に延びる貫通長孔3hが設けられる。本実施形態のインナーパネル3では、複数の貫通孔部3hが車幅方向に並設されており、後端部11,21よりも前方であって中間部13,23の鉛直下方に配置される。なお、
図7に示すように、本実施形態の車両用フード1は、その後端部近傍において、インナーパネル3がアウターパネル2から離隔する方向(下方)に湾曲形成されており、アウターパネル2とインナーパネル3との間の空間が広がっている。上述した吸収部材10,20は、この広がった空間内に配置される。
【0031】
[2.作用,効果]
次に、
図7及び
図8を用いて、上述した車両用フード1(例えば後端部近傍)に、歩行者頭部を模した物体50が衝突した場合の作用を説明する。
図7中に白抜き矢印で示すように、車両用フード1の後端部近傍に向かって物体50が衝突すると、物体50はアウターパネル2を下方へ押し、その荷重が吸収部材10,20に伝わる。
【0032】
吸収部材10は、
図8に示すように、アウターパネル2の変形に伴い前端部12及び中間部13が変形する。上記の中間部13は、内側部13Aと外側部13Bとで湾曲方向が互いに異なることから、荷重が加わったときの変形の仕方が互いに異なる。このため、物体50の衝突位置によらず、エネルギー吸収性能が一定化される。また、中間吸収部材20も、アウターパネル2の変形に伴い前端部22及び中間部23が変形してエネルギーを吸収する。
【0033】
さらに、
図8中に白抜き矢印で示すように、吸収部材10の後端部11がインナーパネル3を押し、その荷重がインナーパネル3に伝わる。この荷重は、貫通孔部3hによってインナーパネル3の前方に伝わりにくくなり、下方のデッキガーニッシュ6におもに伝達される。これにより、デッキガーニッシュ6が変形することで荷重を吸収する。なお、中間吸収部材20も同様に、後端部21がインナーパネル3を押し、その下方のデッキガーニッシュ6を変形させる。
【0034】
このように、上述した車両用フード1によれば、吸収部材10に、上に凸となる部分(ここでは内側部13A)と下に凸となる部分(ここでは外側部13B)とが設けられているため、吸収部材10のスリット14を挟んで、荷重が入力されたときの折れ方(折れ方向)が車幅方向において等しくならない。このため、折れ方が同一の吸収部材(例えば上記の中間吸収部材20)を用いる場合と比べて、荷重が加わった位置によらず、エネルギー吸収性能を一定化する(均す)ことができる。したがって、極端に性能の高い箇所や性能の低い箇所がなくなり、歩行者頭部が車両用フード1のどの位置に衝突しても同様のエネルギー吸収性能を発揮できることから、歩行者保護性能を高めることができる。
【0035】
また、上記の中間部13では、内側部13Aに第一ビード15aが設けられ、外側部13Bに第二ビード15bが設けられるため、車両用フード1に荷重が加わったときの吸収部材10の変形を促進でき、エネルギー吸収性能を向上させることができる。
【0036】
特に、これらのビード15a,15bが中間部13における前端部12寄りの位置に設けられているため、吸収部材10の後端部11に変形を集中させることができ、車両用フード1内のストローク(アウターパネル2とインナーパネル3との間の空間)を効率よく使ってエネルギーを吸収できる。
【0037】
上記の吸収部材10には、下側の折れ部16に補助ビード17が設けられているため、折れ部16の剛性を確保できる。これにより、吸収部材10からインナーパネル3に対してスムーズに荷重を伝達でき、インナーパネル3及びその下方の構造物(例えばデッキガーニッシュ6)によってエネルギーを吸収できる。
【0038】
上記のインナーパネル3では、吸収部材10の中間部13の鉛直下方、すなわち固定点11pの前方に貫通長孔3hがあるため、吸収部材10で吸収した荷重を分散させずにインナーパネル3を押すことができる。これにより、貫通長孔3hがない構成と比べて、早期にデッキガーニッシュ6に荷重を伝えることができ、エネルギー吸収性能をより向上させることができる。
【0039】
上記の吸収部材10では、後端部11の左右両縁部がそれぞれ切り欠かれているため吸収部材10の中間部13から後端部11にかけて変形しやすい。これにより、吸収部材10によるエネルギー吸収性能をより向上させることができる。また、上記の吸収部材10は、前端部12がアウターパネル2の下面に対し接着剤12aにより取り付けられることから、アウターパネル2の張り剛性の向上に寄与できる。
【0040】
なお、上述した車両用フード1には、中間吸収部材20が設けられていることから、上記の吸収部材10と同様の構成からは同様の効果を得ることができる。例えば、ビード25によるエネルギー吸収性能の向上や、補助ビード27による剛性向上効果は、中間吸収部材20においても得ることができる。
【0041】
[3.その他]
上述した車両用フード1の構成は一例であって、上述したものに限られない。例えば、吸収部材10の後端部11の両縁が切り欠かれていない形状(上面視で矩形状)であってもよいし、左右一方の縁のみが切り欠かれた形状であってもよい。また、補助ビード17の位置や長さは一例であり、三つ以上の補助ビードを設けてもよいし、前後方向に対し傾斜した(斜めの)補助ビードを設けてもよい。なお、補助ビード17は必須ではなく、省略してもよい。
【0042】
吸収部材10は、内側部が下に凸となる湾曲形状であり、外側部が上に凸となる湾曲形状であってもよい。この場合、下に凸となる内側部に上に凸となる第一ビードが設けられ、上に凸となる外側部に下に凸となる第二ビードが設けられることが好ましい。
なお、上述した第一ビード15a及び第二ビード15bの位置や大きさは上述したものに限られず、中間部13の前後方向中間部に設けられてもよい。また、第一ビード15a及び第二ビード15bが、互いに同じ大きさや突出量に形成されていなくてもよい。なお、第一ビード15a及び第二ビード15bは必須ではなく、省略してもよい。
【0043】
吸収部材10のアウターパネル2及びインナーパネル3に対する固定方法は上述した接着及びスポット溶接に限られない。また、インナーパネル3の貫通孔部3hは必須ではなく省略可能である。なお、車両用フード1の後端部の下方に配置される構造物は一例であって、上述したカウル5及びデッキガーニッシュ6に限られない。
【0044】
また、吸収部材10,20が、上記実施形態のように車両用フード1の後端部3aに設けられていれば、後端部3aに荷重が加わった場合に、その車幅方向位置によらず同様のエネルギー吸収性能を発揮することができるが、吸収部材10,20の前後位置は後端部3aに限られない。例えば、フェンダーブラケット等の構造物が車両用フード1の下方に設けられている車両であれば、上記のような吸収部材をフェンダーの近傍(
図3中の二点鎖線で示す枠内)に配置してもよい。このような構成であっても、上述した実施形態と同様の作用効果を発揮する。
【符号の説明】
【0045】
1 車両用フード
2 アウターパネル
3 インナーパネル
3a 後端部
3h 貫通長孔
5 カウル
6 デッキガーニッシュ
10 吸収部材
11 後端部
11p 固定点
12 前端部
12p 取付点
13 中間部
13A 内側部(左右一方の部分)
13B 外側部(左右他方の部分)
14 スリット
15a 第一ビード
15b 第二ビード
16 折れ部
17 補助ビード