(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】光通信装置及び補正方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/54 20130101AFI20231017BHJP
H03H 17/06 20060101ALI20231017BHJP
H04B 10/69 20130101ALI20231017BHJP
【FI】
H04B10/54
H03H17/06 635B
H04B10/69
(21)【出願番号】P 2020028851
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊雄
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-122910(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0366375(US,A1)
【文献】特表2019-537333(JP,A)
【文献】特開2018-22949(JP,A)
【文献】国際公開第2017/216841(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0305851(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0104544(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/54
H04B 10/69
H03H 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多値振幅変調方式の入力信号から多値レベルの変化を識別するレベル情報を検出する検出部と、
複数の乗算器のタップ係数に応じて前記入力信号の信号帯域を補償するFIRフィルタと、
前記検出部にて検出された前記レベル情報に基づき、前記FIRフィルタ内の各乗算器のタップ係数を補正する補正部と
を有することを特徴とする光通信装置。
【請求項2】
前記FIRフィルタの出力信号をアナログ変換するアナログ変換部と、
前記アナログ変換後の前記出力信号に応じて駆動信号を出力する駆動部と、
前記駆動部の駆動信号に応じて前記出力信号を光変換する光変調部と
を有し、
前記補正部は、
前記アナログ変換部、前記駆動部及び前記光変調部の非線形の静特性を補償するように、前記FIRフィルタ内の各乗算器のタップ係数を補正することを特徴とする請求項1に記載の光通信装置。
【請求項3】
前記光変調部はEML(Electro-absorption Modulation Laser)とし、
前記補正部は、
前記EMLのバイアス電圧対チャープ特性で発生する伝送歪を補償するように、前記FIRフィルタの各乗算器のタップ係数を補正することを特徴とする請求項2に記載の光通信装置。
【請求項4】
前記光変調部はDML(Directly Modulated Laser)とし、
前記補正部は、
前記DMLの入力電流対遅延特性で発生するレベル間スキューを補償するように、前記FIRフィルタの各乗算器のタップ係数を補正することを特徴とする請求項2に記載の光通信装置。
【請求項5】
前記検出部は、
前記入力信号の多値レベルの変化推移を示す信号論理を識別する前記レベル情報を検出することを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光通信装置。
【請求項6】
前記検出部は、
前記入力信号の多値レベルの変化で到達したレベルを識別する前記レベル情報を検出することを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の光通信装置。
【請求項7】
前記多値振幅変調方式の入力信号を光電変換する光復調部と、
前記光復調部で電気変換後の入力信号をデジタル変換するデジタル変換部と
を有し、
前記補正部は、
前記光復調部及び前記デジタル変換部の非線形の静特性を補償するように、前記デジタル変換部からの前記デジタル変換後の前記入力信号の信号帯域を補償する前記FIRフィルタ内の各乗算器のタップ係数を補正することを特徴とする請求項1に記載の光通信装置。
【請求項8】
光通信装置が、
多値振幅変調方式の入力信号から多値レベルの変化を識別するレベル情報を検出し、
FIRフィルタ内の複数の乗算器のタップ係数に応じて前記入力信号の信号帯域を補償し、
検出された前記レベル情報に基づき、前記FIRフィルタ内の各乗算器のタップ係数を補正する
処理を実行することを特徴とする補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信装置及び補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信装置では、入力信号の信号帯域を補償するために、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ等のデジタルフィルタを広く採用している。また、近年、光通信装置では、同一の通信速度で大容量のデータを伝送するために、多値化した、例えば、PAM4(4値パルス振幅変調)の信号方式を採用している。
【0003】
図26は、比較例1の送信回路100の一例を示すブロック図である。
図26に示す比較例1の送信回路100は、DSP(Digital Signal Processor)110と、DRV(Driver)104と、光変調部105と、光ファイバ106と、タップ係数記憶部107とを有する。DSP110は、CD(Coder)101と、EQL(Equalizer)102と、DAC(Digital Analogue Convertor)103とを有する。CD101は、例えば、NRZ(Non-Return-to-Zero)の電気信号をPAM4の電気信号に変換する。EQL102は、FIRフィルタ102Aを用いてPAM4の電気信号の信号帯域を補償する。DAC103は、帯域補償後のPAM4の電気信号をアナログ変換する。DRV104は、アナログ変換後のPAM4の電気信号に応じて駆動信号を光変調部105に出力する。光変調部105は、駆動信号に応じてPAM4の電気信号を光変調し、光変調後のPAM4の光信号を光ファイバ106に出力する。
【0004】
タップ係数記憶部107は、EQL102内のFIRフィルタ102Aの各乗算器のタップ係数を記憶している。EQL102は、起動時に、タップ係数記憶部107に記憶中の乗算器毎のタップ係数をFIRフィルタ102A内の各乗算器に設定する。FIRフィルタ102Aは、各乗算器のタップ係数を変更することで信号帯域のエンファシス比を調整できる。
【0005】
図27は、送信回路100内の部位毎の出力特性の一例を示す説明図である。EQL102の出力特性は、入力信号の周波数毎の利得、例えば、エンファシス比を調整して入力信号の信号帯域を補償する特性を有する。例えば、DAC103、DRV104及び光変調部105等の送信デバイスの出力特性は、入力信号と出力信号とが比例する静特性と、入力信号の周波数毎の利得が変動する周波数帯域特性とを有する。
【0006】
図28は、送信回路100内の送信デバイスの静特性が線形の場合の部位毎の出力信号の一例を示す説明図である。PAM4信号は、例えば、信号レベル0~3までの4段階の信号レベルを有する多値振幅変調方式の信号である。
図28は、EQL102の出力信号、DAC103、DRV104及び光変調部105等の送信デバイスの静特性の出力信号、送信デバイスの周波数帯域特性の出力信号である。
【0007】
EQL102は、送信デバイスの静特性が線形の場合、FIRフィルタ102Aを使用してPAM4の電気信号の信号帯域を補償することで、DAC103、DRV104及び光変調部105等の送信デバイスの出力信号の信号帯域を十分に補償できる。
【0008】
比較例1の送信回路100のFIRフィルタ102Aは、起動時にタップ係数記憶部107に記憶中のタップ係数をFIRフィルタ102Aの各乗算器に設定する。しかしながら、FIRフィルタ102Aは、入力されるPAM4の電気信号の信号レベルに依存することなく、
図29に示すように、一定のエンファシス比で各信号レベルの信号帯域を補償する。尚、エンファシス比は、例えば、電気信号の信号振幅とエンファシスピーキングとの比である。一定のエンファシス比とは、PAM4の電気信号の信号レベル毎のエンファシス比が同一比率であることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図30は、送信回路100内の送信デバイスの静特性が非線形の場合の部位毎の出力信号の一例を示す説明図である。送信回路100では、送信デバイスの静特性が非線形の場合、FIRフィルタ102Aを使用して一定のエンファシス比で信号帯域を補償したとしても、非線形特性に応じて送信デバイスの静特性及び周波数帯域特性の信号レベルが変動する。つまり、送信デバイスの静特性は、例えば、信号レベル0及び3の信号が小さく、送信デバイスの周波数特性は、例えば、信号レベル0及び3の信号の補償が不十分な状態となる。
【0011】
しかしながら、送信回路100では、信号レベル毎の信号のエンファシス比が一定であるため、非線形特性に応じて信号レベル毎の信号のエンファシス比を変更できない。従って、送信回路100では、信号レベル毎の最適な信号補償が確保できないため、信号レベル毎の最適なアイ開口を確保できない。従って、信号レベル毎の最適なアイ開口を確保するためには、信号レベルの変化に応じて信号のエンファシス比を変更できるFIRフィルタが求められている。
【0012】
一つの側面では、信号レベルの変化に応じて信号のエンファシス比を変更できる光通信装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一つの態様の光通信装置は、検出部と、FIRフィルタと、補正部とを有する。検出部は、多値振幅変調方式の入力信号から多値レベルの変化を識別するレベル情報を検出する。FIRフィルタは、複数の乗算器のタップ係数に応じて前記入力信号の信号帯域を補償する。補正部は、前記検出部にて検出された前記レベル情報に基づき、前記FIRフィルタ内の各乗算器のタップ係数を補正する。
【発明の効果】
【0014】
一つの側面によれば、信号レベルの変化に応じて乗算器のタップ係数を変更することで、信号のエンファシス比を最適化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施例の光通信装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施例1の送信回路の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施例1の第1のFIRフィルタの一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、送信回路内の部位毎の出力特性の一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、送信回路内の送信デバイスの静特性が非線形の場合の比較例1と実施例1との部位毎の出力信号の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、第1のFIRフィルタ内の乗算器の変形例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、第1のFIRフィルタ内の乗算器の変形例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施例2の送信回路の一例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、実施例2の第2のFIRフィルタの一例を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、実施例3の第3のFIRフィルタの一例を示す説明図である。
【
図11】
図11は、実施例3の第1の閾値REF1及び第2の閾値REF2の一例を示す説明図である。
【
図12】
図12は、実施例3の第3のFIRフィルタのOR回路及びAND回路の真理値表の一例を示す説明図である。
【
図13】
図13は、実施例4の受信回路の一例を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、実施例5の受信回路の一例を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、識別器の識別処理の一例を示す説明図である。
【
図16】
図16は、比較例2の送信回路の一例を示すブロック図である。
【
図17】
図17は、比較例2の周波数チャープ、最適エンファシス及び信号レベルの関係の一例を示す説明図である。
【
図18】
図18は、比較例2のEMLの伝送波形劣化の一例を示す説明図である。
【
図19】
図19は、実施例6の送信回路の一例を示すブロック図である。
【
図20】
図20は、比較例2と実施例6との送信回路の出力信号の一例を示す説明図である。
【
図21】
図21は、比較例3の送信回路の一例を示すブロック図である。
【
図22】
図22は、比較例3のDML入力信号及びDML出力信号の一例を示す説明図である。
【
図23】
図23は、実施例7の送信回路の一例を示すブロック図である。
【
図24】
図24は、比較例3のEQLの出力信号と実施例7の第1のEQLの出力信号との補償の一例を示す説明図である。
【
図25】
図25は、比較例3と実施例7とのDML入力信号及びDML出力信号の一例を示す説明図である。
【
図26】
図26は、比較例1の送信回路の一例を示すブロック図である。
【
図27】
図27は、送信回路内の部位毎の出力特性の一例を示す説明図である。
【
図28】
図28は、送信回路内の送信デバイスの静特性が線形の場合の部位毎の出力信号の一例を示す説明図である。
【
図29】
図29は、信号レベル毎のエンファシス比が同一比率である場合の一例を示す説明図である。
【
図30】
図30は、送信回路内の送信デバイスの静特性が非線形の場合の部位毎の出力信号の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本願の開示する光通信装置等の実施例を詳細に説明する。尚、各実施例により、開示技術が限定されるものではない。また、以下に示す各実施例は、矛盾を起こさない範囲で適宜組み合わせても良い。
【実施例1】
【0017】
図1は、本実施例の光通信装置1の一例を示すブロック図である。
図1に示す光通信装置1は、光送信部2と、光受信部3とを有する。光送信部2は、4個の入力インタフェース2Aと、4個の送信回路2Bと、1個の光合波部2Cとを有する。入力インタフェース2Aは、2個の第1のADC(Analogue Digital Convertor)11と、2個の第1のDEC(Decoder)12と、1個のMUX(Multiplexer)13とを有する。第1のADC11は、入力したPAM4の電気信号をデジタル変換し、デジタル変換後のPAM4の電気信号を第1のDEC12に出力する。第1のDEC12は、PAM4の電気信号をNRZ(Non-Return-to-Zero)の電気信号に変換し、NRZの電気信号をMUX13に出力する。MUX13は、各第1のDEC12のNRZの電気信号を多重し、多重後のNRZの電気信号を送信回路2Bに出力する。
【0018】
図2は、実施例1の送信回路2Bの一例を示すブロック図である。
図2に示す送信回路2Bは、DSP(Digital Signal Processor)210と、第1のDRV(Driver)24と、光変調部25と、光ファイバ26とを有する。DSP210は、NRZの電気信号をPAM4の電気信号に変換する。第1のDRV24は、PAM4の電気信号に応じて駆動信号を光変調部25に出力する。光変調部25は、図示せぬLD(Laser Diode)及び変調部を有する。光変調部25は、駆動信号に応じてPAM4の電気信号を光変調し、光変調後のPAM4の光信号を光合波部2Cに出力する。光合波部2Cは、4個の送信回路2B内の光変調部25からのPAM4の光信号を合波し、合波後のPAM4の光信号を伝送ファイバ5に出力する。
【0019】
DSP210は、第1のCD(Coder)21と、第1のEQL(Equalizer)22と、第1のDAC(Digital Analogue Convertor)23と、第1の補正部72A(72)と、タップ係数記憶部27Aとを有する。第1のCD21は、NRZの電気信号をPAM4の電気信号に変換する。第1のCD21は、第1の検出部71A(71)を有する。第1の検出部71Aは、PAM4の電気信号から多値レベルである信号レベルの変化遷移を示す信号論理を検出する。信号論理は、例えば、PAM4のレベル変化、例えば、信号レベル0→1、0→2,0→3、3→0,3→1,3→2等のレベル変化遷移を示すレベル情報である。第1のEQL22は、PAM4の電気信号を帯域補償する、例えば、第1のFIR(Finite Impulse Response)フィルタ50を有する。第1のDAC23は、第1のFIRフィルタ50で帯域補償後のPAM4の電気信号をアナログ変換し、アナログ変換後のPAM4の電気信号を第1のDRV24に出力する。
【0020】
また、光受信部3は、1個の光分波部3Aと、4個の受信回路3Bと、4個の出力インタフェース3Cとを有する。光分波部3Aは、PAM4の光信号を4個の受信回路3Bに分波する。各受信回路3Bは、光ファイバ31と、光復調部32と、第2のADC(Analogue Digital Convertor)33と、第2のEQL34と、第2のDEC35とを有する。光復調部32は、図示せぬPD(Photo Diode)及びプリアンプを有する。PDは、光分波部3AからのPAM4の光信号を電気変換(復調)し、電気変換後のPAM4の電気信号をプリアンプに出力する。プリアンプは、PAM4の電気信号を増幅し、増幅後のPAM4の電気信号を第2のADC33に出力する。第2のADC33は、増幅後のPAM4の電気信号をデジタル変換し、デジタル変換後のPAM4の電気信号を第2のEQL34に出力する。第2のEQL34は、FIRフィルタで構成し、PAM4の電気信号を帯域補償し、帯域補償後のPAM4の電気信号を第2のDEC35に出力する。第2のDEC35は、帯域補償後のPAM4の電気信号をNRZの電気信号に変換し、NRZの電気信号を出力インタフェース3Cに出力する。
【0021】
出力インタフェース3Cは、1個のDEMUX41と、2個の第2のCD42と、2個の第2のDAC43とを有する。DEMUX41は、第2のDEC35からのNRZの電気信号を分離し、分離後のNRZの電気信号を各第2のCD42に出力する。第2のCD42は、DEMUX41からのNRZの電気信号をPAM4の電気信号に変換し、変換後のPAM4の電気信号を第2のDAC43に出力する。第2のDAC43は、変換後のPAM4の電気信号をアナログ変換し、アナログ変換後のPAM4の電気信号を出力する。
【0022】
次に送信回路2B内の第1のEQL22内の第1のFIRフィルタ50について説明する。
図3は、実施例1の第1のFIRフィルタ50の一例を示すブロック図である。
図3に示す第1のFIRフィルタ50は、Xタップの乗算器51と、(X-1)個の遅延器52と、X個の乗算器51の乗算結果の和を求める加算器53とを有する。Xタップの乗算器51は、メインの1個の乗算器51Cと、メインの乗算器51Cを中心にM個の乗算器51Aと、メインの乗算器51Cを中心にN個の乗算器51Bとが並列に配置されている。(X-1)個の遅延器52は、直接に接続され、入力信号を時間τで遅延する。(X-1)個の遅延器52の出力は、夫々、Xタップの乗算器51のうちのM番目からN番目までの乗算器51の入力に接続されている。加算器53は、各乗算器51の乗算結果の和を求めることで帯域補償後のPAM4の電気信号を生成する。乗算器51は、設定中のタップ係数(利得)に基づき、PAM4の電気信号を乗算する。タップ係数記憶部27Aは、第1のFIRフィルタ50内の乗算器51毎のタップ係数を事前に記憶している。尚、第1の補正部72Aは、送信回路2Bの起動時にタップ係数記憶部27Aに記憶中のタップ係数を各乗算器51に設定する。第1の補正部72Aは、第1の検出部71Aで検出したPAM4の電気信号の信号論理に応じて、送信デバイスの非線形の静特性を補償するように各乗算器51のタップ係数を補正する。尚、送信デバイスは、第1のDAC23、第1のDRV24及び光変調部25を含む。
【0023】
図4は、送信回路2B内の部位毎の出力特性の一例を示す説明図である。第1のEQL22の出力特性は、入力信号の周波数毎の利得(エンファシス)を調整して入力信号の信号帯域を補償する特性を有する。送信デバイスの出力特性は、入力信号と出力信号とが比例する静特性と、入力信号の周波数毎に利得が変動する周波数帯域特性とを有する。尚、送信デバイスの出力信号の電圧は、信号レベル0~3との間が線形で、信号レベル0相当の電圧未満の部分と、信号レベル3相当の電圧を超えた部分とが飽和領域としている。つまり、信号レベル0未満の電圧と信号レベル3を超える電圧は、送信デバイスの静特性の線形性が飽和する電圧と言える。
【0024】
第1の補正部72Aは、第1の検出部71Aにて検出された信号論理に応じて第1のFIRフィルタ50内の乗算器51毎のタップ係数を補正し、補正後のタップ係数を各乗算器51に設定する。第1のFIRフィルタ50は、補正後のタップ係数でPAM4の電気信号を乗算し、各乗算器51の乗算結果の和で信号レベル毎に異なるエンファシス比でPAM4の各信号レベルの信号帯域を補償できる。
【0025】
図5は、送信回路2B内の送信デバイスの静特性が非線形の場合の比較例1と実施例1との部位毎の出力信号の一例を示す説明図である。比較例1の送信回路100のEQL102の出力信号は、FIRフィルタ102A内の各乗算器のタップ係数が固定であるため、信号レベル毎のエンファシス比が同一となるので、信号レベル1又は2の出力に比較して信号レベル0又は3の出力が小さくなる。従って、EQL102の出力信号は、特に信号レベル0及び3の信号の帯域補償が不十分となる。その結果、比較例1の送信デバイスの出力信号は、信号レベル0及び3の信号帯域が小さくなるため、受信側でPAM4の信号レベル0~3を識別できない状態となる。
【0026】
これに対して、実施例1の送信回路2Bでは、送信デバイスの静特性が非線形の場合でも、信号論理に応じて、送信デバイスの非線形の静特性を補償するように、第1のFIRフィルタ50内の乗算器51毎のタップ係数を補正する。第1のFIRフィルタ50は、信号レベル毎に異なるエンファシス比で各信号レベルの信号帯域を補償する。その結果、実施例1の送信デバイスの出力信号は、送信デバイスの静特性が非線形の場合でも、第1のFIRフィルタ50を用いて非線形の静特性が補償されるため、受信側でPAM4の信号レベル0~3が識別可能な状態となる。
【0027】
実施例1の送信回路2Bは、PAM4の信号論理に応じて、送信デバイスの非線形の静特性を補償するように、信号論理に応じたエンファシス比対応のタップ係数を第1のFIRフィルタ50内の各乗算器51に設定した。つまり、信号レベルの変化に応じて最適なエンファシス比を適用できる。その結果、信号レベル毎の信号帯域を補償できる。
【0028】
送信回路2Bは、信号レベルの変化に応じて最適なエンファシス比を適用できるため、送信デバイスの非線形領域を使用することが可能になり、例えば、消光比、OMA(Optical Modulated Amplitude)改善及び符号間干渉最適化の両立が可能となる。
【0029】
図6は、第1のFIRフィルタ50内の乗算器51の変形例を示す説明図である。
図6に示す乗算器51Aは、第1の乗算器61Aと、第2の乗算器61Bと、切替部62とを有する。第1の乗算器61Aは、第1のタップ係数でPAM4の電気信号を乗算する。第2の乗算器61Bは、第1のタップ係数と異なる第2のタップ係数でPAM4の電気信号を乗算する。切替部62は、切替制御信号に応じて第1の乗算器61A又は第2の乗算器61Bを切替出力できる。第1の補正部72Aは、信号論理に応じて切替部62を制御する切替制御信号を出力する。尚、説明の便宜上、2種類のタップ係数の乗算器61A、61Bを切替える場合を例示したが、2種類のタップ係数の乗算器に限定されるものではなく、3種類以上のタップ係数の乗算器を切替可能にしても良く、適宜変更可能である。
【0030】
その結果、第1のFIRフィルタ50は、信号論理に対応する切替制御信号に応じて異なるタップ係数の乗算器を切替えることで、信号論理に応じてエンファシス比を変更できる。
【0031】
図7は、第1のFIRフィルタ50内の乗算器51の変形例を示す説明図である。
図7に示す乗算器51Bは、オペアンプ63と、第1の抵抗64Aと、第2の抵抗64Bと、切替部65とを有する。切替部65は、第1の抵抗64A又は第2の抵抗64Bとオペアンプ63とを切替接続する。第1の補正部72Aは、信号論理に応じて、第1の抵抗64A又は第2の抵抗64Bをオペアンプ63に切替接続する切替制御信号を切替部65に出力する。オペアンプ63は、切替部65を通じて第1の抵抗64Aと接続することで第1のタップ係数の乗算器として機能すると共に、切替部65を通じて第2の抵抗64Bと接続することで第2のタップ係数の乗算器として機能する。尚、説明の便宜上、2種類のタップ係数を切替える場合を例示したが、2種類のタップ係数に限定されるものではなく、3種類以上のタップ係数を切替可能にしても良く、適宜変更可能である。
【0032】
その結果、第1のFIRフィルタ50は、信号論理に対応する切替制御信号に応じて異なるタップ係数を切替えることで、信号論理に応じてエンファシス比を変更できる。
【0033】
尚、実施例1の送信回路2B内の第1の補正部72Aでは、第1の検出部71Aで検出したレベル変化(信号論理)に応じて、第1のFIRフィルタ50内の各乗算器51のタップ係数を補正する場合を例示した。しかしながら、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、信号レベル0~3の内、各信号レベルへの到達を検出した場合に、補正部72が第1のFIRフィルタ50内の各乗算器51のタップ係数を補正しても良く、その実施の形態につき、実施例2として以下に説明する。尚、実施例1の送信回路2Bと同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
【実施例2】
【0034】
図8は、実施例2の送信回路2B1の一例を示すブロック図、
図9は、実施例2の第2のFIRフィルタ50Aの一例を示すブロック図である。尚、実施例1の送信回路2Bと同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。実施例2の送信回路2B1は、PAM4の電気信号の信号レベルの内、各信号レベルへの到達を検出する第2の検出部71Bを第1のEQL22内に配置している。第2の検出部71Bは、
図9に示す第2のFIRフィルタ50A内のメインの乗算器51Cの入力段のPAM4の電気信号から各信号レベルへの到達を検出する。
【0035】
第2の補正部72Bは、第2の検出部71Bにて信号レベルへの到達を検出した場合、例えば、第1のDAC23、送信デバイスの非線形の静特性を補償するように、第2のFIRフィルタ50A内の各乗算器51のタップ係数を補正する。尚、送信デバイスは、第1のDRV24及び光変調部25等を有する。
【0036】
実施例2の送信回路2Bでは、信号レベルへの到達を検出した場合、到達の信号レベルに応じて、送信デバイスの非線形の静特性を補償するように各乗算器51のタップ係数を補正した。すなわち、第2のFIRフィルタ50Aは、到達の信号レベルに応じたエンファシス比で各信号レベルの信号帯域を補償する。その結果、実施例2の送信デバイスの出力信号は、送信デバイスが非線形の静特性の場合でも、第2のFIRフィルタ50Aを用いて非線形の静特性が補償されるため、受信側でPAM4の信号レベル0~3が識別可能な状態となる。
【0037】
送信回路2B1は、到達の信号レベルに応じて、送信デバイスの非線形の静特性を補償するように、エンファシス比対応のタップ係数を第2のFIRフィルタ50A内の各乗算器51に設定した。その結果、信号レベルの変化に応じて最適なエンファシス比を適用できる。
【0038】
送信回路2B1は、信号レベルの変化に応じて最適なエンファシス比を適用できるため、送信デバイスの非線形領域を使用することが可能になり、例えば、消光比、OMA(Optical Modulated Amplitude)改善及び符号間干渉最適化の両立が可能となる。
【0039】
尚、上記実施例2の送信回路2B1では、信号レベルへの到達を検出した場合に到達の信号レベルに対応するタップ係数を各乗算器51に設定する場合を例示した。しかしながら、信号レベル0~3の内、任意の信号レベル、例えば、送信デバイスの静特性の線形性が飽和する信号レベル0又は3への到達を検出した場合に信号レベル0又は3に対応したタップ係数を各乗算器51に設定しても良い。その実施の形態につき、実施例3として以下に説明する。
【実施例3】
【0040】
図10は、実施例3の第3のFIRフィルタ50Cの一例を示す説明図である。尚、実施例2の送信回路2B1と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。実施例3の送信回路2B1は、第1のFIRフィルタ50の代わりに
図10に示す第3のFIRフィルタ50Cを配置している。更に、第3のFIRフィルタ50Cは、第2の補正部72Bの代わりに第4の補正部72Dを配置している。
【0041】
図10に示す第3のFIRフィルタ50Cは、Xタップの乗算器セット510と、(X-1)個の遅延器52と、(X-1)個の加算器531とを有する。乗算器セット510は、第1のタップ係数の第1の乗算器511Aと、第1のタップ係数と異なる第2のタップ係数の第2の乗算器511Bと、出力部513と、第1のスイッチ512Aと、第2のスイッチ512Bとを有する。第1のスイッチ512Aは、第1の乗算器511Aと出力部513との間の接続をON/OFFする。第2のスイッチ512Bは、第2の乗算器511Bと出力部513との間の接続をON/OFFする。Xタップの乗算器セット510は、メインの1個の乗算器セット510Cと、メインの乗算器セット510Cを中心にM個の乗算器セット510Aと、メインの乗算器セット510Cを中心にN個の乗算器セット510Bとが並列に配置されている。
【0042】
(X-1)個の遅延器52は、直接に接続され、入力信号を時間τで遅延する。(X-1)個の遅延器52の出力は、夫々、Xタップの乗算器セット510のうちのM番目からN番目までの乗算器セット510の入力に接続されている。(X-1)個の加算器531は、直列に接続されている。X個の乗算器セット510は、(X-1)個の加算器531で合成する。
【0043】
第4の補正部72Dは、第1の識別器541Aと、第2の識別器541Bと、OR回路542と、NOR回路543とを有する。第1の識別器541Aは、メインの乗算器セット510Cの入力段と接続し、PAM4の電気信号の信号レベルが第1の閾値REF1以上であるか否かを判定する。第2の識別器541Bは、PAM4の電気信号の信号レベルが第2の閾値REF2以下であるか否かを判定する。
【0044】
図11は、実施例3の第1の閾値REF1及び第2の閾値REF2の一例を示す説明図である。第1の識別器541Aは、例えば、送信デバイスの静特性の線形性が飽和する信号レベル3に到達した場合、PAM4の信号レベルが第1の閾値REF1以上と判定する。第2の識別器541Bは、例えば、送信デバイスの静特性の線形性が飽和する信号レベル0に到達した場合、PAM4の信号レベルが第2の閾値REF2以下と判定する。
【0045】
第1の識別器541Aは、現在の信号レベルが第1の閾値REF1以上の場合、ハイレベル信号Hを出力すると共に、現在の信号レベルが第1の閾値REF以上でない場合、ローレベル信号Lを出力する。第2の識別器541Bは、現在の信号レベルが第2の閾値REF2以下の場合、ハイレベル信号Hを出力すると共に、現在の信号レベルが第2の閾値REF2以下でない場合、ローレベル信号Lを出力する。
【0046】
図12は、実施例3の第3のFIRフィルタ50CのOR回路542及びNOR回路543の真理値表の一例を示す説明図である。OR回路542は、第1の識別器541A及び第2の識別器541Bの出力結果に応じてハイレベル信号H又はローレベル信号Lを出力する。NOR回路543は、第1の識別器541A及び第2の識別器541Bの出力結果に応じてハイレベル信号H又はローレベル信号Lを出力する。
【0047】
例えば、現在の信号レベルが信号レベル1又は2に到達した場合、第2の識別器541Bの出力がローレベル信号L、第1の識別器541Aの出力がローレベル信号Lとなる。OR回路542の出力がローレベル信号L、NOR回路543の出力がハイレベル信号Hとなるため、第1のスイッチ512AをOFF、第2のスイッチ512BをONにする。その結果、現在の信号レベルが信号レベル1又は2に到達した場合、第3のFIRフィルタ50Cは、第2のタップ係数の第2の乗算器511Bの出力を使用する。
【0048】
例えば、現在の信号レベルが信号レベル3に到達した場合、第2の識別器541Bの出力がローレベル信号L、第1の識別器541Aの出力がハイレベル信号Hとなる。OR回路542の出力がハイレベル信号H、NOR回路543の出力がローレベル信号Lとなるため、第1のスイッチ512AをON、第2のスイッチ512BをOFFにする。その結果、現在の信号レベルが信号レベル3に到達した場合、第3のFIRフィルタ50Cは、第1のタップ係数の第1の乗算器511Aの出力を使用する。
【0049】
例えば、現在の信号レベルが信号レベル0に到達した場合、第2の識別器541Bの出力がハイレベル信号H、第1の識別器541Aの出力がローレベル信号Lとなる。OR回路542の出力がハイレベル信号H、NOR回路543の出力がローレベル信号Lとなるため、第1のスイッチ512AをON、第2のスイッチ512BをOFFにする。その結果、現在の信号レベルが信号レベル0に到達した場合、第3のFIRフィルタ50Cは、第1のタップ係数の第1の乗算器511Aの出力を使用する。
【0050】
例えば、現在の信号レベルが信号レベル0又は3に到達した場合、第2の識別器541Bの出力がハイレベル信号H、第1の識別器541Aの出力がハイレベル信号Hとなる。OR回路542の出力がハイレベル信号H、NOR回路543の出力がローレベル信号Lとなるため、第1のスイッチ512AをON、第2のスイッチ512BをOFFにする。その結果、現在の信号レベルが信号レベル0又は3に到達した場合、第3のFIRフィルタ50Cは、第1のタップ係数の第1の乗算器511Aの出力を使用する。
【0051】
第4の補正部72Dは、現在の信号レベルが信号レベル0又は3に到達した場合、第1のスイッチ512AをON、第2のスイッチ512BをOFFに設定したので、乗算器セット510内の第1の乗算器511Aを使用する。第3のFIRフィルタ50Cは、到達の信号レベルに応じた異なるエンファシス比で各信号レベルの信号帯域を補償する。その結果、第1のEQL22の出力信号は、送信デバイスの静特性が非線形の場合でも、第3のFIRフィルタ50Cを用いて非線形の静特性が補償されるため、受信側でPAM4の信号レベルが識別可能な状態となる。
【0052】
尚、上記実施例1~3の光通信装置1では、信号論理又は信号レベルに応じて、送信回路2B(2B1)内のFIRフィルタ内の各乗算器51のタップ係数を補正する場合を例示した。しかしながら、送信回路2B(2B1)に限定されるものではなく、受信回路3Bにも適用可能である。従って、その実施の形態につき、実施例4として以下に説明する。
【実施例4】
【0053】
図13は、実施例4の受信回路3B1の一例を示すブロック図である。尚、実施例1の受信回路3Bと同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
図13に示す受信回路3B1内の第2のEQL34は、受信信号のPAM4の電気信号の信号レベルの内、信号レベル0又は3への到達を検出する第3の検出部71Cを有する。第3の検出部71Cは、後述する第4のFIRフィルタ50D内のメインの乗算器51Cの入力段のPAM4の電気信号の信号レベルを監視し、監視結果から信号レベルの信号レベル0又は3への到達を検出する。
【0054】
第2のEQL34は、第4のFIRフィルタ50Dを有する。尚、第4のFIRフィルタ50Dの構成は、
図9に示す第2のFIRフィルタ50Aと同一の構成であるため、同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。受信回路3B1内の第3の補正部72Cは、第3の検出部71Cにて信号レベルのレベル0又は3への到達を検出した場合、信号レベル0又は3に応じて、第2のEQL34内の第4のFIRフィルタ50D内の各乗算器51のタップ係数を補正する。
【0055】
第3の補正部72Cは、第3の検出部71Cで信号レベルの信号レベル0又は3への到達を検出した場合、受信デバイスの非線形の静特性を補償するように、第2のEQL34内の第4のFIRフィルタ50Dの各乗算器51のタップ係数を補正する。尚、受信デバイスは、例えば、光復調部32及び第2のADC33等の接続部品である。その結果、受信デバイスの出力信号は、信号レベル0又は3の出力信号の帯域を補償できる。
【0056】
実施例4の受信回路3B1は、受信デバイスの静特性が非線形の場合でも、受信信号の信号レベル0又は3に応じて、受信デバイスの非線形の静特性を補償するように、第4のFIRフィルタ50D内の各乗算器51のタップ係数を補正した。第4のFIRフィルタ50Dは、信号レベル0又は3に応じたエンファシス比で各信号レベルの信号帯域を補償する。その結果、実施例4の受信デバイスの出力信号は、受信デバイスの静特性が非線形の場合でも、第4のFIRフィルタ50Dを用いて非線形の静特性が補償されるため、PAM4の信号レベル0~3が識別可能な状態となる。
【0057】
受信回路3B1は、受信信号の信号レベル毎に最適なエンファシス比を適用できるため、受信デバイスの非線形領域を使用することが可能になり、例えば、受信感度、最大受信レベルを含む受信誤り率特性を最適とすることが可能となる。
【0058】
尚、実施例4の受信回路3B1内の第4のFIRフィルタ50Dを適合型FIRフィルタにしても良く、その実施の形態につき、実施例5として以下に説明する。
【実施例5】
【0059】
図14は、実施例5の受信回路3B2の一例を示すブロック図である。尚、実施例4の受信回路3B1と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
図14に示す受信回路3B2内のDSP220は、第2のADC33、第2のEQL34及び第2のDEC35の他に、識別器37と、第3の補正部72Cとを有する。
【0060】
図15は、識別器37の識別処理の一例を示す説明図である。識別器37は、LMS(Least Mean Squares)やNLMS(Normalized Least Mean Squares)等のアルゴリズムで第4のFIRフィルタ50D内のタップ係数を最適化する識別処理を実行することで適合型FIRフィルタを構成する。識別器37は、最小化部37Aと、演算部37Bと、更新部37Cとを有する。最小化部37Aは、第4のFIRフィルタ50Dの帯域補償後のPAM4の電気信号の誤差信号を最小化する。演算部37Bは、最小化部37Aの入力段のPAM4の電気信号と最小化部37Aの出力段のPAM4の電気信号との間の誤差を算出する。更新部37Cは、演算部37Bの誤差信号が最小になるように第4のFIRフィルタ50Dの各乗算器51のタップ係数を更新する。
【0061】
演算部37Bは、
図15に示すように、入力段のPAM4の電気信号y(n)と、出力段のPAM4の電気信号d(n)との間の誤差を示す誤差信号e(n)を算出する。更新部37Cは、最小化部37Aで誤差信号が最小になるように第4のFIRフィルタ50D内の各乗算器51のタップ係数を更新する。
【0062】
更に、第3の補正部72Cは、第3の検出部71Cで信号レベル0又は3への到達を検出した場合、信号レベル0又は3に応じて受信信号の信号帯域を補償するように、第4のFIRフィルタ50D内の各乗算器51のタップ係数を補正する。
【0063】
実施例5の受信回路3B2は、受信デバイスの静特性が非線形の場合でも、受信信号の信号レベル0又は3に応じて、受信デバイスの非線形の静特性を補償するように第4のFIRフィルタ50D内の各乗算器51のタップ係数を補正した。第4のFIRフィルタ50Dは、受信信号の信号レベル0又は3に応じたエンファシス比で受信信号の各信号レベル0又は3の信号帯域を補償する。その結果、実施例5の受信デバイスの出力信号は、受信デバイスの静特性が非線形の場合でも、第4のFIRフィルタ50Dを用いて非線形の静特性が補償されるため、PAM4の信号レベル0~3が識別可能な状態となる。
【0064】
尚、実施例1乃至5では、接続部品の非線形の静特性を補償する場合に信号レベルに応じて各乗算器のタップ係数を補正する場合を例示したが、接続部品の非線形の静特性を補償するに限らず、単に信号レベルに応じてエンファシス比を変更する場合も考えられる。そこで、光変調部25の代わりにEML(Electro-absorption Modulation Laser)25Aを使用した送信回路の実施の形態につき、実施例6として以下に説明する。
【実施例6】
【0065】
先ずは、実施例6の送信回路2B2と比較する比較例2の送信回路100Bについて説明する。
図16は、比較例2の送信回路100Bの一例を示すブロック図である。尚、比較例2の送信回路100Bにつき、比較例1の送信回路100と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
図16に示す送信回路100Bは、DSP110、DRV104及び光ファイバ106を有し、光変調部105の代わりにEML105Aを配置している。DSP110は、CD101と、EQL102と、DAC103とを有する。EML105Aは、図示せぬLD及びEA変調部を有する。EA変調部は、電圧をON/OFFすることで、LDからの光信号を透過/吸収してデータ信号を変調する。
【0066】
図17は、比較例2のEML105Aの周波数チャープ、最適エンファシス比及び信号レベルの関係の一例を示す説明図である。最適エンファシス比は、伝送ファイバ108内で正分散したEML105Aの出力信号の信号レベル毎の最適エンファシス比である。EML105Aの周波数チャープ特性αは、信号レベルのHigh方向への変動に応じて基準値0から正方向に変動し、信号レベルのLow方向への変動に応じて基準値0から負方向に変動する。尚、High方向への変動とは信号レベル3方向への変動、Low方向への変動とは信号レベル0方向への変動に相当する。従って、周波数チャープ特性αは、信号レベルの変動に応じて正方向又は負方向に変動する。また、EML105Aの最適エンファシス比は、信号レベルのHigh方向への変動に応じてエンファシス比が正方向に変動し、信号レベルのLow方向への変動に応じてエンファシス比が負方向(デエンファシス方向)に変動する。従って、最適エンファシス比は、信号レベルの変動に応じて0を基準にして正方向又は負方向に変動する。つまり、EML105Aの周波数チャープ特性の変動に応じて信号レベルが変動し、信号レベルの変動に応じて最適エンファシス比も変動することになる。
【0067】
図18は、比較例2のEML105Aの伝送波形劣化の一例を示す説明図である。周波数チャープ特性αが正の場合、EML105Aの正分散伝送時の出力信号の信号レベルがHigh方向になる。この際、立上り及び立下り時の波長変動が生じた場合には、波長変動による到達時間ズレで正分散後の出力信号は、立上り時に到達進み、立下り時に到達遅れが生じ、正分散後に伝送歪が生じる。この際、High方向の信号レベルの信号帯域をエンファシスすることで、正分散後の出力信号の伝送歪を解消できる。
【0068】
また、周波数チャープ特性αが負の場合、EML105Aの正分散伝送時の出力信号の信号レベルがLow方向になる。この際、立上り及び立下り時の波長変動が生じた場合には、波長変動による到達時間ズレで正分散後の出力信号は、立上り時に到達遅れ、立下り時に到達進みが生じ、正分散後に伝送歪が生じる。この際、Low方向の信号レベルの信号帯域をデエンファシスすることで、正分散後の出力信号の伝送歪を解消できる。
【0069】
しかしながら、比較例2の送信回路100Bでは、信号レベルに関係なく、エンファシス比が一定であるため、信号レベルに応じて最適エンファシス比を変動できない。そこで、信号レベルに応じて最適エンファシス比を変動できる実施例6の送信回路2B2について説明する。
【0070】
図19は、実施例6の送信回路2B2の一例を示すブロック図である。尚、実施例1の送信回路2Bと同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
図19に示す送信回路2B2と実施例1の送信回路2Bとが異なるところは、光変調部25の代わりにEML25Aを配置している。
【0071】
第1の補正部72Aは、第1の検出部71Aで検出された信号論理に応じて第1のFIRフィルタ50内の乗算器51毎のタップ係数を補正し、補正後のタップ係数を各乗算器51に設定する。第1のFIRフィルタ50は、補正後のタップ係数でPAM4の電気信号を乗算し、各乗算器51の乗算結果の和で信号レベル毎に異なるエンファシス比でPAM4の各信号レベルの信号帯域を補償できる。
【0072】
図20は、比較例2と実施例6との送信回路の出力信号の一例を示す説明図である。比較例2の送信回路100BのEQL102の出力信号は、信号レベル1又は2の出力に比較して信号レベル0又は3の出力が小さい状態である。FIRフィルタ102Aは、各乗算器のタップ係数が固定であるため、信号レベル毎のエンファシス比が同一となる。従って、EML105Aから伝送ファイバ108を伝送中の出力信号は、EML25Aのバイアス電圧対周波数チャープ特性により発生する伝送歪みによって、特に信号レベル0及び3の出力信号の帯域補償が不十分となる。その結果、比較例2のEML105Aから伝送ファイバ108に伝送中の出力信号は、バイアス電圧対周波数チャープ特性の伝送歪みによって信号レベル3及び0の信号帯域が小さくなるため、受信側でPAM4の信号レベル0又は3を識別できない状態となる。
【0073】
これに対して、実施例6の送信回路2B2では、信号論理に応じて、EML25Aのバイアス電圧対周波数チャープ特性により発生する伝送歪みを補償するように、第1のFIRフィルタ50内の乗算器51毎のタップ係数を補正する。第1のFIRフィルタ50は、信号レベル毎に異なるエンファシス比で各信号レベルの信号帯域を補償する。その結果、EML25Aから伝送ファイバ5の出力信号は、バイアス電圧対周波数チャープ特性で伝送歪みが生じた場合でも、第1のFIRフィルタ50を用いて伝送歪が補償されるため、受信側でPAM4の信号レベル0及び3が識別可能な状態となる。
【0074】
実施例6の送信回路2B2では、伝送歪を補償するように、信号レベル毎に第1のFIRフィルタ50の各乗算器51のタップ数を補正するので、信号レベル毎に最適なエンファシス比を任意に適用できる。送信回路2B2は、信号レベル毎に伝送特性が異なるEML25Aを使用した場合でも、伝送歪を補償することで伝送特性の向上を図ることができる。
【0075】
尚、上記実施例6の送信回路2B2の内、EML25Aの代わりにDML(Directly Modulated Laser)25Bを置き換えても良く、その実施の形態につき、実施例7として以下に説明する。
【実施例7】
【0076】
先ずは、実施例7の送信回路2B3と比較する比較例3の送信回路100Cについて説明する。
図21は、比較例3の送信回路100Cの一例を示すブロック図である。尚、比較例3の送信回路100Cにつき、比較例1の送信回路100と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
図17に示す送信回路100Cは、DSP110と、DRV104と、DML105Bとを有する。DSP110は、CD101と、EQL102と、DAC103とを有する。DML105Bは、入力電流IDLを直接変調して光の出力を変調する。
【0077】
図22は、比較例3のDML入力信号及びDML出力信号の一例を示す説明図である。
図22に示すDML105Bの特性は、DML105Bへの入力電流量(ILD)に応じて時定数(遅延時間)が変動する入力電流対遅延特性を有する。DML105Bの入力では信号レベル間の遅延が生じないものの、DML105Bの出力では、信号レベル間の遅延による波形歪み、例えば、入力電流対遅延特性によってレベル間スキューが生じる。そこで、レベル間スキューを補償する送信回路2B3につき、実施例7として説明する。
【0078】
図23は、実施例7の送信回路2B3の一例を示すブロック図である。尚、実施例1の送信回路2Bと同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。
図23に示す送信回路2B3は、光変調部25の代わりにDML25Bを配置している。
【0079】
第1の補正部72Aは、第1の検出部71Aで検出された信号論理に応じて、信号レベル間スキューを補償するように、第1のFIRフィルタ50内の乗算器51毎のタップ係数を補正し、補正後のタップ係数を各乗算器51に設定する。第1のFIRフィルタ50は、補正後のタップ係数でPAM4の電気信号を乗算し、各乗算器51の乗算結果の和で信号レベル毎に異なるエンファシス比でPAM4の信号帯域を補償できる。
【0080】
図24は、比較例3のEQL102の出力信号と実施例7の第1のEQL22の出力信号との補償の一例を示す説明図である。比較例3のEQL102の出力信号は、立上りも立下りもエンファシス比が同一である。これに対して、実施例7の第1のEQL22の出力信号は、立上りのエンファシス比に比較して立下りのエンファシス比を強くし、DML25Bの入力電流量が多い信号レベルに対して入力電流量が少ない信号レベルのエンファシス比が強くなるように補償している。
【0081】
また、比較例3のDML105Bの出力信号は、例えば、立上りの信号レベル3と立上りの信号レベル0とのエンファシス比が同一である。これに対して、実施例7のDML25Bの出力信号は、立上りの信号レベル3の出力が弱い場合、立上りの信号レベル1のエンファシス比が強くなるように補償する。
【0082】
また、比較例3のDML105Bの出力信号は、例えば、立下りの信号レベル0と立下りの信号レベル2とのエンファシス比が同一である。これに対して、実施例7のDML25Bの出力信号は、立下りの信号レベル0の出力が強い場合、立下りの信号レベル2のエンファシス比が弱くなるように補償する。
【0083】
図25は、比較例3と実施例7とのDML入力信号及びDML出力信号の一例を示す説明図である。比較例3のDML105Bの出力信号は、信号レベル間の遅延によってレベル間スキューが生じる。これに対して、実施例7のDML25Bの入力信号は、第1のFIRフィルタ50を用いてHigh側の信号レベルが遅く、Low側の信号レベルが速くなるように信号帯域を補償した状態となる。そして、DML25Bの出力信号は、補償帯域後の入力信号がDML25Bに入力するため、DML25Bの入力信号内の全信号レベルの遅延がなくなる、すなわちレベル間スキューを補償した状態となる。
【0084】
実施例7の送信回路2B3では、信号レベル毎に第1のFIRフィルタ50の各乗算器51のタップ係数を補正するので、信号レベル毎に最適なエンファシス比を任意に適用できるため、DML変調の遅延量の電流依存で生じるレベル間スキューを補正できる。
【0085】
実施例1-7の光通信装置1は、検出部71と、FIRフィルタ50と、補正部72とを有する。検出部71は、多値振幅変調方式(PAM4)の入力信号から多値レベルの変化を識別するレベル情報を検出する。FIRフィルタ50は、複数の乗算器51のタップ係数に応じて入力信号の信号帯域を補償する。補正部72は、検出部71にて検出されたレベル情報に基づき、FIRフィルタ50内の各乗算器51のタップ係数を補正する。その結果、信号レベルの変化に応じて乗算器のタップ係数を変更することで、信号のエンファシス比を最適化できる。
【0086】
尚、説明の便宜上、多値振幅変調方式の信号としてPAM4を例示したが、PAM4に限定されるものではなく、例えば、PAM6、PAM8等にも適用可能であることは言うまでもない。
【0087】
実施例4の受信回路3B1及び実施例5の受信回路3B2では、信号レベルへの到達を検出した場合に、信号レベルに応じて第4のFIRフィルタ50D内の各乗算器51のタップ係数を補正する場合を例示した。信号レベルへの到達を検出する場合に限定されるものではなく、信号論理に応じて第4のFIRフィルタ50D内の各乗算器51のタップ係数を補正しても良く、適宜変更可能である。
【0088】
検出部71は、多値振幅変調方式の入力信号から多値レベルの変化を識別するレベル情報を検出する、例えば、第1の検出部71A、第2の検出部71Bや第3の検出部71Cである。FIRフィルタ50は、複数の乗算器51のタップ係数に応じて入力信号の信号帯域を補償する、例えば、第1のFIRフィルタ50、第2のFIRフィルタ50A、第3のFIRフィルタ50Cや第4のFIRフィルタ等である。補正部72は、検出部71にて検出されたレベル情報(信号レベルや信号論理)に基づき、FIRフィルタ50内の各乗算器51のタップ係数を補正する、例えば、第1の補正部72A、第2の補正部72B、第3の補正部72C及び第4の補正部72Dである。
【0089】
また、図示した各部の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各部の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0090】
更に、各装置で行われる各種処理機能は、CPU(Central Processing Unit)(又はMPU(Micro Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)等のマイクロ・コンピュータ)上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良い。また、各種処理機能は、CPU(又はMPU、MCU等のマイクロ・コンピュータ)で解析実行するプログラム上、又はワイヤードロジックによるハードウェア上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0091】
1 光通信装置
2B、2B1、2B2、2B3 送信回路
3B、3B1,3B2 受信回路
22 第1のEQL
23 第1のDAC
24 第1のDRV
25 光変調部
25A EML
25B DML
32 光復調部
33 第2のADC
34 第2のEQL
50 第1のFIRフィルタ
50A 第2のFIRフィルタ
50C 第3のFIRフィルタ
50D 第4のFIRフィルタ
51 乗算器
71 検出部
71A 第1の検出部
71B 第2の検出部
71C 第3の検出部
72 補正部
72A 第1の補正部
72B 第2の補正部
72C 第3の補正部
72D 第4の補正部