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  • 特許-フェライト焼結磁石 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】フェライト焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/10 20060101AFI20231017BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20231017BHJP
   C04B 35/26 20060101ALI20231017BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01F1/10
H01F1/11
C04B35/26
C01G51/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020051876
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021150619
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 真規
(72)【発明者】
【氏名】森田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】村川 喜堂
(72)【発明者】
【氏名】室屋 尚吾
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-213575(JP,A)
【文献】特開2009-001476(JP,A)
【文献】特開2019-172507(JP,A)
【文献】特開2001-068319(JP,A)
【文献】特開2005-032745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/10
H01F 1/11
C04B 35/26
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶構造を有するフェライト粒子を含み、
磁化容易軸に平行な断面において、
前記フェライト粒子の円形度の平均値をWとして、
0.56≦W≦0.68を満たし、
Ca 1-w-x w x Fe z Co m (原子数比)として、Ca、R、A、FeおよびCoを含み、
Rは希土類元素から選択される1種以上であり、Rとして少なくともLaを含み、
AはBaおよびSrから選択される1種以上であり、
0.364≦w≦0.495、
0.038≦x≦0.136、
8.280≦z≦10.45、
0.257≦m≦0.338を満たすフェライト焼結磁石。
【請求項2】
前記断面において、前記フェライト粒子のHeywood径の平均値が1.00μm以上1.23μm以下である請求項1に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項3】
MgO換算で0.010質量%以上0.090質量%以下のMgを含む請求項1または2に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項4】
Ca、R、A、FeおよびCoを含み、
Rは希土類元素から選択される1種以上であり、Rとして少なくともLaを含み、
AはBaおよびSrから選択される1種以上であり、
CaをCaO換算で2.505質量%以上2.951質量%以下、
RをR23換算で8.028質量%以上8.239質量%以下、
AをAO換算で0.666質量%以上1.666質量%以下、
FeをFe23換算で84.564質量%以上84.937質量%以下、
CoをCoO換算で2.341質量%以上2.521質量%以下、含む請求項1~のいずれかに記載のフェライト焼結磁石。
【請求項5】
23換算で0.005質量%以上0.058質量%以下のBを含む請求項1~のいずれかに記載のフェライト焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、Feの一部をMgで置換するなどの構成により、磁気特性を改善したフェライト焼結磁石が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5521622号公報
【文献】特許第4543849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い保磁力(Hcj)を維持したまま残留磁束密度(Br)をさらに向上させたフェライト焼結磁石を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト焼結磁石は、
六方晶構造を有するフェライト粒子を含み、
磁化容易軸に平行な断面において、前記フェライト粒子の円形度の平均値をWとして、
0.56≦W≦0.68を満たす。
【0006】
本発明に係るフェライト焼結磁石は、上記の特徴を有することにより、高いHcjを維持したままBrを向上させたフェライト焼結磁石となる。
【0007】
前記断面において、前記フェライト粒子のHeywood径の平均値が1.00μm以上1.23μm以下であってもよい。
【0008】
MgO換算で0.010質量%以上0.090質量%以下のMgを含んでもよい。
【0009】
Ca1-w-xFeCo(原子数比)として、Ca、R、A、FeおよびCoを含んでもよく、
Rは希土類元素から選択される1種以上であり、Rとして少なくともLaを含んでもよく、
AはBaおよびSrから選択される1種以上であり、
0.364≦w≦0.495、
0.038≦x≦0.136、
8.280≦z≦10.45、
0.257≦m≦0.338を満たしてもよい。
【0010】
Ca、R、A、FeおよびCoを含んでもよく、
Rは希土類元素から選択される1種以上であり、Rとして少なくともLaを含んでもよく、
AはBaおよびSrから選択される1種以上であり、
CaをCaO換算で2.505質量%以上2.951質量%以下、
RをR換算で8.028質量%以上8.239質量%以下、
AをAO換算で0.666質量%以上1.666質量%以下、
FeをFe換算で84.564質量%以上84.937質量%以下、
CoをCoO換算で2.341質量%以上2.521質量%以下、含んでもよい。
【0011】
換算で0.005質量%以上0.058質量%以下のBを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】実施例3のSEM画像である。
図1B図1Aから得られる解析用画像である。
図2A】比較例1のSEM画像である。
図2B図2Aから得られる解析用画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、実施形態に基づき説明する。
【0014】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石はフェライト粒子を含む。フェライト粒子は、六方晶構造を有する結晶粒子である。結晶粒子は、マグネトプランバイト型の結晶構造を有してもよい。フェライト焼結磁石はフェライト粒子と粒界とからなる。
【0015】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は磁化容易軸に平行な断面において、フェライト粒子の円形度の平均値をWとして、0.56≦W≦0.68を満たす。フェライト粒子の円形度が小さいほどフェライト粒子の偏平度合が高く、フェライト粒子は板状に近づく。その結果、フェライト粒子が一定方向に配向しやすくなり、磁化の向きが一定方向を向く。そして、磁場配向度が大きくなりBrが向上する。しかし、Wが小さすぎるとフェライト粒子がさらに偏平する。フェライト粒子が偏平するほど、フェライト粒子が大きくなりやすくなる。そして、偏平した大きなフェライト粒子が多磁区粒子になりやすくなる。多磁区粒子とは一つの粒子内に複数の磁区をもつ粒子のことである。フェライト粒子に占める多磁区粒子の割合が多くなることで磁場配向度が小さくなり、Brが低下する。さらに、逆磁界が大きくなり、Hcjも低下する。したがって、Wが上記の範囲内であることにより、高いHcjを維持したままBrを向上させることができる。また、0.58≦W≦0.67を満たしてもよく、0.60≦W≦0.66を満たしてもよい。
【0016】
以下、円形度の平均値の算出方法について説明する。
【0017】
本実施形態では、磁化容易軸に平行な断面におけるフェライト粒子の面積をS、フェライト粒子の周囲長をLとして、4πS/Lをフェライト粒子の円形度とする。なお、円形度は、円である場合に最大値である1となり、偏平になるほど0に近づく。そして、各フェライト粒子の円形度を算出し、平均することで円形度の平均値を算出する。
【0018】
具体的には、まず、磁化容易軸に平行な断面において、図1A図2Aに示すようなSEM画像を撮影する。SEM画像の大きさに特に限定はないが、少なくとも100個のフェライト粒子が含まれる大きさとする。複数枚のSEM画像を観察し、各SEM画像に含まれるフェライト粒子の合計が少なくとも100個であってもよい。SEM画像の倍率に特に限定はなく、各フェライト粒子の円形度が測定できる倍率であればよい。
【0019】
次に、Deep Neural Network(DNN)を用いてSEM画像を解析し、フェライト粒子と粒界とに2値化した解析用画像を作成する。図1AのSEM画像から得られる解析用画像が図1B図2AのSEM画像から得られる解析用画像が図2Bである。そして、Open Source Computer Vision Library(OpenCV)を用いて画像処理を行うことで、解析用画像に完全に含まれる各フェライト粒子について円形度を算出する。そして、各フェライト粒子について算出した円形度を平均することで円形度の平均値を算出する。
【0020】
フェライト粒子の粒径に特に限定はないが、上記の円形度を算出したフェライト粒子のHeywood径の平均値が0.87μm以上1.60μm以下であってよく、1.00μm以上1.23μm以下であってもよい。
【0021】
一般的に、フェライト粒子の粒径が小さくなるほどフェライト焼結磁石の磁気特性が向上しやすくなる。しかし、フェライト粒子の粒径が小さいフェライト焼結磁石の製造は困難であるため、製造コストを削減する観点からはフェライト粒子の粒径が大きいほど好ましい。本実施形態のフェライト焼結磁石はフェライト粒子のHeywood径の平均値が上記の範囲内であることにより、製造コストを低減しつつBrおよびHcjをより向上させやすくなる。
【0022】
なお、Heywood径とは、投影面積円相当径のことである。本実施形態におけるフェライト粒子のHeywood径は(4S/π)1/2である。
【0023】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石の密度(df)に特に限定はない。例えば、アルキメデス法により測定されるdfが5.0600g/cm以上5.1500g/cm以下であってもよい。dfが上記の範囲内、特に5.0600g/cm以上であることにより、Brが良好になりやすい。
【0024】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石の組成に特に限定はない。フェライト焼結磁石全体を100質量%として、マグネシウム(Mg)を酸化マグネシウム(MgO)換算で0.010質量%以上0.090質量%以下、含んでよく、0.020質量%以上0.070質量%以下、含んでもよく、0.034質量%以上0.052質量%以下含んでもよい。Mgを上記の範囲内で含むことにより、フェライト粒子の円形度の平均値Wを好適に制御しやすくなり、高いHcjを維持したままBrを向上させやすくなる。また、Mgは非磁性である。そのため、Mgの含有量が多くなりすぎると磁気特性が低下しやすくなる。
【0025】
Mg以外の組成についても特に限定はなく、六方晶構造を有するフェライト粒子が得られる組成であればよい。
Ca1-w-xFeCo(原子数比)として、カルシウム(Ca)、R、A、鉄(Fe)およびコバルト(Co)を含んでよい。
Rは希土類元素から選択される1種以上であり、Rとして少なくともランタン(La)を含んでよい。
Aはバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)から選択される1種以上である。
上記組成式のw、x、z、mは、次の範囲を満たす組成であってよい。
0.364≦w≦0.495、
0.038≦x≦0.136、
8.280≦z≦10.45、
0.257≦m≦0.338
【0026】
Rの含有量(w)については、0.415≦w≦0.485を満たしてもよく、0.459≦w≦0.474を満たしてもよい。Aの含有量(x)については、0.046≦x≦0.128を満たしてもよく、0.054≦x≦0.120を満たしてもよい。Feの含有量(z)については、9.100≦z≦10.20を満たしてもよく、9.837≦z≦9.934を満たしてもよい。Coの含有量(m)については、0.278≦m≦0.327を満たしてもよく、0.293≦m≦0.311を満たしてもよい。
【0027】
また、R全体を100at%としてLaを90at%以上、含んでよい。Rに占めるLaの割合が上記の範囲内であることにより、磁気異方性を向上しやすくなる。また、RがLa単独であってもよい。これにより、元素の種類を減らすことができ、製造の作業負荷および製造コストを減らすことができる。
【0028】
また、酸化物換算した質量割合で表現すると、フェライト焼結磁石全体を100質量%として、
Rは希土類元素から選択される1種以上であり、Rとして少なくともLaを含み、
AはBaおよびSrから選択される1種以上であり、
CaをCaO換算で2.505質量%以上2.951質量%以下、
RをR換算で8.028質量%以上8.239質量%以下、
AをAO換算で0.666質量%以上1.666質量%以下、
FeをFe換算で84.564質量%以上84.937質量%以下、
CoをCoO換算で2.341質量%以上2.521質量%以下、含む組成であってよい。
【0029】
AはBaおよびSrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。本実施形態のフェライト焼結磁石はAとしてBaおよびSrの両方を含んでよく、AとしてBaのみ、または、Srのみを含んでもよい。
【0030】
Ca、R、A、FeおよびCoの含有量が上記の範囲内であることにより、高いBrおよびHcjが得やすくなる。
【0031】
さらに、ホウ素(B)を酸化ホウ素(B)換算で0.005質量%以上0.058質量%以下、含んでよく、0.015質量%以上0.048質量%以下、含んでよく、0.022質量%以上0.041質量%以下、含んでよい。Bを上記の範囲内で含むことによりBrおよびHcjが向上しやすくなる。
【0032】
さらに、アルミニウム(Al)を酸化アルミニウム(Al)換算で0.010質量%以上0.160質量%以下、含んでよく、0.035質量%以上0.110質量%以下、含んでよく、0.049質量%以上0.065質量%以下、含んでよい。Alを上記の範囲内で含むことによりBrおよびHcjが向上しやすくなる。
【0033】
さらに、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)換算で0.102質量%以上0.752質量%以下、含んでよく、0.224質量%以上0.603質量%以下、含んでよく、0.315質量%以上0.353質量%以下、含んでよい。Siを上記の範囲内で含むことによりBrおよびHcjが向上しやすくなる。
【0034】
さらに、マンガン(Mn)を酸化マンガン(MnO)換算で0.010質量%以上0.450質量%以下、含んでよく、0.220質量%以上0.439質量%以下、含んでよく、0.288質量%以上0.341質量%以下、含んでよい。Mnを上記の範囲内で含むことによりBrおよびHcjが向上しやすくなる。
【0035】
以下、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法について説明する。
【0036】
以下の実施形態では、フェライト焼結磁石の製造方法の一例を示す。本実施形態では、フェライト焼結磁石は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、成形工程および焼成工程を経て製造することができる。各工程について、以下に説明する。
【0037】
<配合工程>
配合工程では、フェライト焼結磁石の原料を配合して、原料混合物を得る。フェライト焼結磁石の原料としては、これを構成する元素のうちの1種または2種以上を含む化合物(原料化合物)が挙げられる。原料化合物は、例えば粉末状のものが好適である。
【0038】
原料化合物としては、各元素の酸化物、または焼成により酸化物となる化合物(炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等)が挙げられる。例えばCaCO、La、SrCO、BaCO、Fe、Co、MgO、B、Al、SiOおよびMnO等が例示できる。原料化合物の粉末の平均粒径は、0.1μm~2.0μm程度であってよい。
【0039】
配合は、例えば、各原料を、所望とするフェライト磁性材料の組成が得られるように秤量する。その後、湿式アトライタ、ボールミル等を用い、0.1時間~20時間程度、混合、粉砕することができる。なお、この配合工程においては、全ての原料を混合する必要はなく、一部を後述する仮焼後に添加してもよい。
【0040】
<仮焼工程>
仮焼工程では、配合工程で得られた原料混合物を仮焼する。仮焼は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。仮焼の温度は、1100°C~1300°Cの温度範囲とすることができる。仮焼の時間は、1秒~10時間とすることができる。
【0041】
仮焼により得られる仮焼体の一次粒子径は、10μm以下であってよい。
【0042】
<粉砕工程>
粉砕工程では、仮焼工程で顆粒状や塊状となった仮焼体を粉砕し、粉末状にする。これにより、後述する成形工程での成形が容易となる。粉砕工程では、前述したように、配合工程で配合しなかった原料を添加してもよい(原料の後添加)。粉砕工程は、例えば、仮焼体を粗い粉末となるように粉砕(粗粉砕)した後、これをさらに微細に粉砕(微粉砕)する2段階の工程で行ってもよい。
【0043】
粗粉砕は、例えば、振動ミル等を用いて、平均粒径が0.5μm~10.0μmとなるまで行われる。微粉砕では、粗粉砕で得られた粗粉砕材を、さらに湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等によって粉砕する。
【0044】
微粉砕では、得られた微粉砕粉の平均粒径が、好ましくは0.08μm~1.00μm程度となるように、微粉砕を行う。微粉砕粉の比表面積(例えばBET法により求められる。)は、4m/g~12m/g程度とすることができる。粉砕時間は、粉砕方法によって異なり、例えば湿式アトライタの場合、30分間~20時間程度とすることができ、ボールミルによる湿式粉砕では1時間~50時間程度とすることができる。
【0045】
微粉砕工程では、湿式法の場合、分散媒として水等の水系溶媒の他、トルエン、キシレン等の非水系溶媒を用いることができる。非水系溶媒を用いた方が、後述の湿式成形時において高配向性が得られる傾向がある。一方、水等の水系溶媒を用いる場合、生産性の観点で有利である。
【0046】
また、微粉砕工程では、焼成後に得られる焼結体の配向度を高めるため、例えば公知の多価アルコールや分散剤を添加してもよい。
【0047】
<成形・焼成工程>
成形・焼成工程では、粉砕工程後に得られた粉砕材(好ましくは微粉砕材)を成形して成形体を得た後、この成形体を焼成して焼結体を得る。成形は、乾式成形、湿式成形またはCeramic Injection Molding(CIM)のいずれの方法でも行うことができる。
【0048】
乾式成形法では、例えば、乾燥した磁性粉末を加圧成形しつつ磁場を印加して成形体を形成し、その後に、成形体を焼成する。一般的に、乾式成形法では、乾燥した磁性粉末を金型内で加圧成形するので、成形工程に要する時間が短いという利点がある。
【0049】
湿式成形法では、例えば、磁性粉末を含むスラリーを磁場印加中で加圧成形しながら液体成分を除去して成形体を形成し、その後に、成形体を焼成する。湿式成形法では、成形時の磁場により磁性粉末が配向し易く、焼結磁石の磁気特性が良好であるという利点がある。
【0050】
また、CIMを用いた成形法は乾燥させた磁性粉末をバインダ樹脂と共に加熱混練して、形成したペレットを、磁場が印加された金型内で射出成形して予備成形体を得て、この予備成形体を脱バインダ処理した後、焼成する方法である。
【0051】
以下、湿式成形について詳細に説明する。
【0052】
(湿式成形・焼成)
湿式成形法によってフェライト焼結磁石を得る場合は、上述した微粉砕工程を湿式で行うことでスラリーを得る。このスラリーを所定の濃度に濃縮して湿式成形用スラリーを得る。これを用いて成形を行うことができる。
【0053】
スラリーの濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行うことができる。湿式成形用スラリーにおける微粉砕粉の含有量は、湿式成形用スラリーの全量中、30質量%~80質量%程度とすることができる。
【0054】
スラリーにおいて、微粉砕粉を分散する分散媒としては水を用いることができる。この場合、スラリーには、グルコン酸、グルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤を添加してよい。また、分散媒としては非水系溶媒を使用してよい。非水系溶媒としては、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することができる。
【0055】
なお、湿式成形用スラリーは、微粉砕後の乾燥状態の微粉砕粉に、分散媒等を添加することによって調製してもよい。
【0056】
湿式成形では、次いで、この湿式成形用スラリーに対し、磁場中成形を行う。その場合、成形圧力は、9.8MPa~98MPa(0.1ton/cm~ 1.0ton/cm)程度とすることができる。印加磁場は400kA/m~1600kA/m程度とすることができる。また、成形時の加圧方向と磁場印加方向は、同一方向でも直交方向でもよい。
【0057】
湿式成形により得られた成形体の焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。焼成温度は、1050°C~1270°Cとすることができる。また、焼成時間(焼成温度に保持する時間)は、0.5時間~3時間程度とすることができる。
【0058】
なお、湿式成形で成形体を得る場合、焼成温度まで到達させる前に、室温から100°C程度まで、2.5°C/分程度の昇温速度で加熱することができる。成形体を充分に乾燥させることで、クラックの発生を抑制することができる。
【0059】
さらに、界面活性剤(分散剤)等を添加した場合は、例えば、100°C~500°C程度の温度範囲において、2.0°C/分程度の昇温速度で加熱を行うことで、これらを充分に除去する(脱脂処理)ことができる。なお、これらの処理は、焼成工程の最初に行ってもよく、焼成工程よりも前に別途行ってもよい。
【0060】
以上、フェライト焼結磁石の好適な製造方法について説明したが、製造方法は上記には限定されず、製造条件等は適宜変更することができる。
【0061】
本発明により得られるフェライト焼結磁石は、本発明のフェライトの組成を有するものである限り、形態は限定されない。例えば、フェライト焼結磁石は、異方性を有するアークセグメント形状、平板状、円柱状、筒状等、種々の形状を有することができる。本発明のフェライト焼結磁石によれば、磁石の形状によらず高いHcjを維持しつつ、高いBrが得られる。

【0062】
本実施形態におけるフェライト焼結磁石は、一般的なモータ、回転機、センサ等に使用することができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
<配合工程>
出発原料として、CaCO、La、SrCO、BaCO、Fe、Co、MgO、B、Al、SiOおよびMnOを準備し、表1、表2に記載の各試料の組成になるように秤量した。なお、表1にはCa1-w-xFeCoの原子数比を記載した。表2には各元素の酸化物換算での含有量を質量%単位で、それぞれ記載した。
【0065】
表2に記載した各成分の含有量の合計が100質量%になっていないのは、不純物由来の成分を割愛しているためである。不純物由来の成分としては、例えばP、SO、Cl、KO、V、Cr、NiO、CuO、ZnO、MoOが挙げられる。
【0066】
前記出発原料を湿式アトライタにて混合、粉砕し、スラリー状の原料混合物を得た。
【0067】
<仮焼工程>
この原料混合物を乾燥後、大気中、1200°Cで2時間保持する仮焼処理を行い、仮焼体を得た。
【0068】
<粉砕工程>
得られた仮焼体をロッドミルにて粗粉砕し、粗粉砕材を得た。次に、湿式ボールミルにて微粉砕を28時間行い、スラリーを得た。得られたスラリーを固形分濃度が70~75質量%となるように調整して湿式成形用スラリーとした。
【0069】
<成形・焼成工程>
次に、湿式磁場成形機を使用して予備成形体を得た。成形圧力は、50MPa、印加磁場は800kA/mとした。また、成形時の加圧方向と磁場印加方向は、同一方向に設定した。湿式成形で得られた予備成形体は円板状であり、直径30mm、高さ15mmであった。
【0070】
予備成形体を大気中、1190°C~1230°Cで1時間保持する焼成を行い、焼結体であるフェライト焼結磁石を得た。
【0071】
各フェライト焼結磁石について、蛍光X線定量分析を行い、各フェライト焼結磁石がそれぞれ表1、表2に示す組成となっていることが確認できた。
【0072】
また、X線回折測定により、表1、表2の各フェライト焼結磁石のフェライト粒子が六方晶構造を有することを確認した。
【0073】
<磁気特性(Br、Hcj)の測定>
実施例1~3、比較例1~3の各フェライト焼結磁石の上下面を加工した後、25°Cの大気雰囲気中にて、最大印加磁場1989kA/mのB-Hトレーサを使用して磁気特性を測定した。結果を表1に示す。なお、Brは450mT以上を良好とし、460mT以上をさらに良好とした。Hcjは320kA/m以上を良好とし、350kA/m以上をさらに良好とした。
【0074】
<密度(df)の測定>
実施例1~3、比較例1~3の各フェライト焼結磁石の密度は、アルキメデス法により測定した。結果を表1に示す。
【0075】
<フェライト粒子の円形度の平均値WおよびHeywood径の平均値>
まず、各フェライト焼結磁石の磁化容易軸に平行な断面において、図1A図2Aに示すようなSEM画像を撮影した。なお、図1Aが実施例3、図2Aが比較例1である。倍率を5000倍とし、26μm×19μmのSEM画像を撮影した。なお、各SEM画像には、少なくとも100個のフェライト粒子が含まれていることを確認した。
【0076】
次に、DNNを用いてSEM画像を解析し、フェライト粒子と粒界とに2値化した解析用画像を作成した。図1AのSEM画像から得られる解析用画像が図1B図2AのSEM画像から得られる解析用画像が図2Bである。そして、OpenCVを用いて画像処理を行うことで、解析用画像に完全に含まれるフェライト粒子について円形度を算出し、平均することで円形度の平均値Wを算出した。結果を表1に示す。
【0077】
さらに、解析用画像に完全に含まれるフェライト粒子についてHeywood径を算出し、平均することでHeywood径の平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1、表2より、円形度の平均値Wが0.56≦W≦0.68を満たす実施例1~3は、Hcjが良好であり、かつ、0.56≦W≦0.68を満たさない比較例1~3と比較してBrが高くなった。
図1A
図1B
図2A
図2B