(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20231017BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20231017BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20231017BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01F37/00 A
H01F37/00 M
H01F27/24 K
H01F27/255
H02M3/155 Y
(21)【出願番号】P 2020059196
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】村下 将也
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 和宏
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩平
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-020049(JP,U)
【文献】国際公開第2019/193802(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/24
H01F 27/255
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一巻回部を有するコイルと、
磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記磁性コアは、
前記第一巻回部の内部に配置されるミドルコアと、
前記第一巻回部の第一の端面に臨む第一エンドコアと、
前記第一巻回部の第二の端面に臨む第二エンドコアと、
前記第一巻回部の第一の側面の外側に配置され、前記第一エンドコアと前記第二エンドコアとを繋ぐ第一サイドコアと、
前記第一巻回部の第二の側面の外側に配置され、前記第一エンドコアと前記第二エンドコアとを繋ぐ第二サイドコアと、を備え、
前記ミドルコアの軸方向に沿った方向をX方向、前記ミドルコアと前記第一サイドコアと前記第二サイドコアとが並列される方向をY方向、前記X方向と前記Y方向とに直交する方向をZ方向としたとき、
前記第一サイドコア及び前記第二サイドコアの少なくとも一方は、前記Y方向における前記第一巻回部に面する内方面に設けられる内方凹部を備え、
前記磁性コアを前記Z方向から平面視したとき
、
前記内方凹部の少なくとも一部は、前記第一巻回部における前記X方向の長さの範囲に重複
し、
前記内方凹部における前記X方向の幅は、前記ミドルコアにおける前記X方向の長さの43%以上54%以下であり、
前記内方凹部における前記Y方向の深さは、前記内方凹部を有するサイドコアにおける前記Y方向の長さの27%以上36%以下である、
リアクトル。
【請求項2】
前記第一サイドコア及び前記第二サイドコアがそれぞれ、前記内方凹部を備える請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記磁性コアを前記Z方向から平面視したとき、前記内方凹部は、前記第一巻回部における前記X方向の長さの範囲内に収まる請求項1又は請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記内方凹部は、前記Z方向に沿って伸びる溝状である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記内方凹部における前記Z方向に直交する断面形状は、矩形である請求項4に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記第一サイドコアと前記第二サイドコアは、樹脂中に軟磁性粉末が分散した複合材料の成形体である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載のリアクトルを備える、
コンバータ。
【請求項8】
請求項
7に記載のコンバータを備える、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車などに備わるコンバータの構成部品にリアクトルがある。リアクトルは、巻線を螺旋状に巻回してなる巻回部を有するコイルと、コイルに組付けられる磁性コアとを備える。例えば、特許文献1の
図5~
図8には、巻回部の数が一つであるリアクトルが開示されている。このリアクトルの磁性コアは、巻回部の内部に配置されるミドルコアと、巻回部の外周面の外側に配置されるサイドコアと、巻回部の端面に配置されるエンドコアとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド自動車などの発達に伴い、リアクトルの軽量化が求められている。しかし、リアクトルの軽量化を達成するために、磁性コアを小型化すると、リアクトルの磁気特性が悪化する。
【0005】
そこで、本開示は、軽量かつ磁気特性に優れるリアクトルを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、軽量かつ磁気特性に優れるリアクトルを備えるコンバータ、及び電力変換装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のリアクトルは、
第一巻回部を有するコイルと、
磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記磁性コアは、
前記第一巻回部の内部に配置されるミドルコアと、
前記第一巻回部の第一の端面に臨む第一エンドコアと、
前記第一巻回部の第二の端面に臨む第二エンドコアと、
前記第一巻回部の第一の側面の外側に配置され、前記第一エンドコアと前記第二エンドコアとを繋ぐ第一サイドコアと、
前記第一巻回部の第二の側面の外側に配置され、前記第一エンドコアと前記第二エンドコアとを繋ぐ第二サイドコアと、を備え、
前記ミドルコアの軸方向に沿った方向をX方向、前記ミドルコアと前記第一サイドコアと前記第二サイドコアとが並列される方向をY方向、前記X方向と前記Y方向とに直交する方向をZ方向としたとき、
前記第一サイドコア及び前記第二サイドコアの少なくとも一方は、前記Y方向における前記第一巻回部に面する内方面に設けられる内方凹部を備え、
前記磁性コアを前記Z方向から平面視したとき、前記内方凹部の少なくとも一部は、前記第一巻回部における前記X方向の長さの範囲に重複する。
【0007】
本開示のコンバータは、
本開示のリアクトルを備える。
【0008】
本開示の電力変換装置は、
本開示のコンバータを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示のリアクトルは、軽量かつ磁気特性に優れる。また、本開示のコンバータ及び電力変換装置は、軽量かつ変換効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1のリアクトルの概略斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態2に示すリアクトルの上面図である。
【
図4】
図4は、実施形態3に示すリアクトルの上面図である。
【
図5】
図5は、ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す構成図である。
【
図6】
図6は、コンバータを備える電力変換装置の一例の概略を示す回路図である。
【
図7】
図7は、試験例1における内方凹部の幅と磁気特性との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、試験例1における内方凹部の深さと磁気特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
<1>実施形態に係るリアクトルは、
第一巻回部を有するコイルと、
磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記磁性コアは、
前記第一巻回部の内部に配置されるミドルコアと、
前記第一巻回部の第一の端面に臨む第一エンドコアと、
前記第一巻回部の第二の端面に臨む第二エンドコアと、
前記第一巻回部の第一の側面の外側に配置され、前記第一エンドコアと前記第二エンドコアとを繋ぐ第一サイドコアと、
前記第一巻回部の第二の側面の外側に配置され、前記第一エンドコアと前記第二エンドコアとを繋ぐ第二サイドコアと、を備え、
前記ミドルコアの軸方向に沿った方向をX方向、前記ミドルコアと前記第一サイドコアと前記第二サイドコアとが並列される方向をY方向、前記X方向と前記Y方向とに直交する方向をZ方向としたとき、
前記第一サイドコア及び前記第二サイドコアの少なくとも一方は、前記Y方向における前記第一巻回部に面する内方面に設けられる内方凹部を備え、
前記磁性コアを前記Z方向から平面視したとき、前記内方凹部の少なくとも一部は、前記第一巻回部における前記X方向の長さの範囲に重複する。
【0013】
ここで、第一サイドコアに設けられる内方凹部は単数でも良いし複数でも良い。同様に、第二サイドコアに設けられる内方凹部も単数でも良いし複数でも良い。
【0014】
第一サイドコア及び第二サイドコアの少なくとも一方に内方凹部が設けられることで、両サイドコアの実体部分が減るので、磁性コアの重量、即ちリアクトルの重量が低減される。
【0015】
両サイドコアにおける第一巻回部に面する内方面に内方凹部が設けられていれば、両サイドコアを流れる磁束が第一巻回部から離れる方向に蛇行する。内方凹部によって両サイドコアの磁路断面積が減少するが、両サイドコアからコイルへの漏れ磁束が低減される。そのため、コイルにおいて発生するコイル損失が低減されるので、内方凹部によって両サイドコアの磁路断面積が減少しても、リアクトルの磁気特性の低下が抑制される。
【0016】
両サイドコアに内方凹部が設けられていれば、両サイドコアが第一巻回部に近接する位置に配置されていても、コイル損失が増加し難い。従って、両サイドコアを第一巻回部に近接する位置に配置することで、リアクトルのY方向の寸法が小さくなる。この実施形態のリアクトルに対して、内方凹部を有さない従来のリアクトルにおいてコイル損失を低減するために両サイドコアが第一巻回部から遠い位置に配置されれば、リアクトルがY方向に大型化する。
【0017】
<2>実施形態に係るリアクトルの一形態として、
前記第一サイドコア及び前記第二サイドコアがそれぞれ、前記内方凹部を備える形態が挙げられる。
【0018】
第一サイドコア及び第二サイドコアが共に内方凹部を備えることで、磁性コアの重量が大幅に低減される。
【0019】
<3>実施形態に係るリアクトルの一形態として、
前記磁性コアを前記Z方向から平面視したとき、前記内方凹部は、前記第一巻回部における前記X方向の長さの範囲内に収まる形態が挙げられる。
【0020】
内方凹部の位置で第一巻回部への漏れ磁束が減少するため、内方凹部の一部が第一巻回部の長さの範囲外にある場合、その範囲外の部分はコイル損失の低減に寄与し難い。一方、上記構成に示されるように、内方凹部の幅が第一巻回部の長さの範囲内に収まることで、内方凹部を設けたことによるコイル損失の低減効果が得られ易い。
【0021】
<4>実施形態に係るリアクトルの一形態として、
前記内方凹部は、前記Z方向に沿って延びる溝状である形態が挙げられる。
【0022】
内方凹部がZ方向に延びる溝状であれば、内方凹部のZ方向の長さを長くすることで内方凹部によるサイドコアの削減量が大きくなる。内方凹部のZ方向の長さが長くなるほど、内方凹部が第一巻回部に面する領域が大きくなる。そのため、両サイドコアから第一巻回部への漏れ磁束が低減され、リアクトルのコイル損失が低減され易い。
【0023】
<5>上記<4>のリアクトルの一形態として、
前記内方凹部における前記Z方向に直交する断面形状は、矩形である形態が挙げられる。
【0024】
断面形状が矩形又は台形である内方凹部の形成は容易である。また、断面形状が矩形又は台形である内方凹部は、断面形状が半円形状などの内方凹部に比べて、両サイドコアの体積を大きく削減できる。両サイドコアの体積削減量が大きいと、磁性コアの重量が低減され易い。
【0025】
<6>実施形態に係るリアクトルの一形態として、
前記第一サイドコアと前記第二サイドコアは、樹脂中に軟磁性粉末が分散した複合材料の成形体である形態が挙げられる。
【0026】
内方凹部を有する両サイドコアが複合材料の成形体であれば、両サイドコアが圧粉成形体である場合に比べて、磁性コアの磁気特性の低下が抑制され易い。この点は、後述する試験例2の結果によって裏付けられている。
【0027】
<7>実施形態に係るリアクトルの一形態として、
前記磁性コアを前記Z方向から平面視したとき、
前記内方凹部における前記X方向の幅は、前記第一巻回部の軸方向長さの5%以上70%以下である形態が挙げられる。
【0028】
ここで、各サイドコアに設けられる内方凹部が複数である場合、各サイドコアにおける複数の内方凹部の合計幅が、第一巻回部の軸方向の長さの5%以上70%以下である。
【0029】
内方凹部におけるX方向の幅が、第一巻回部の軸方向の長さの5%以上70%以下であれば、リアクトルの磁気特性が大きく低下することなく、磁性コアの重量が大きく削減される。この点は、後述する試験例1の結果によって裏付けられている。
【0030】
<8>実施形態に係るリアクトルの一形態として、
前記磁性コアを前記Z方向から平面視したとき、
前記内方凹部における前記Y方向の深さは、前記内方凹部を有するサイドコアにおける前記Y方向の長さの5%以上50%以下である形態が挙げられる。
【0031】
各サイドコアにおける内方凹部のY方向の深さが、各サイドコアのY方向の長さの5%以上50%以下であれば、サイドコアの磁路断面積が小さくなり過ぎることが抑制される。そのため、リアクトルの磁気特性が低下し難い。
【0032】
<9>実施形態に係るコンバータは、
上記<1>から<8>のいずれかのリアクトルを備える。
【0033】
上記コンバータは、軽量で磁気特性に優れる実施形態のリアクトルを備える。従って、上記コンバータは、軽量かつ変換効率に優れる。
【0034】
<10>実施形態に係る電力変換装置は、
上記<9>のコンバータを備える。
【0035】
上記電力変換装置は、軽量でかつ変換効率に優れるコンバータを備える。従って、上記電力変換装置は、軽量でかつ変換効率に優れる。
【0036】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示のリアクトルの実施形態を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明は実施形態に示される構成に限定されるわけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0037】
<実施形態1>
実施形態1では、
図1,2に基づいてリアクトル1の構成を説明する。
図1に示すリアクトル1は、コイル2と磁性コア3とを組み合わせて構成される。このリアクトル1の特徴の一つとして、磁性コア3の一部に内方凹部4が設けられていることが挙げられる。以下、リアクトル1に備わる各構成を詳細に説明する。
【0038】
≪コイル≫
コイルは、一つの第一巻回部21を有する(
図1,
図2)。第一巻回部21は、接合部の無い1本の巻線を螺旋状に巻回して構成される。巻線は、公知の巻線を利用できる。本形態の巻線は、被覆平角線を用いている。被覆平角線の導体線は、銅製の平角線で構成されている。被覆平角線の絶縁被覆は、エナメルからなる。第一巻回部21は、被覆平角線をエッジワイズ巻きしたエッジワイズコイルで構成されている。
【0039】
第一巻回部21の形状は、矩形筒状である。矩形には、正方形が含まれる。即ち、第一巻回部21の端面形状は、矩形枠状としている。第一巻回部21の形状が矩形筒状であることで、巻回部が同じ断面積の円筒状である場合に比較して、第一巻回部21と設置対象との接触面積を大きくし易い。そのため、リアクトル1は、第一巻回部21を介して設置対象に放熱し易い。その上、第一巻回部21を設置対象に安定して設置し易い。巻回部21の角部は丸められている。
【0040】
第一巻回部21の端部2a及び端部2bはそれぞれ、第一巻回部21の軸方向の一端側及び他端側において、第一巻回部21の外周側へ引き伸ばされている。第一巻回部21の端部2a及び端部2bでは絶縁被覆が剥がされて導体線が露出している。露出した導体線には、図示しない端子部材が接続される。コイル2にはこの端子部材を介して外部装置が接続される。外部装置の図示は省略する。外部装置は、コイル2に電力供給を行なう電源などが挙げられる。
【0041】
≪磁性コア≫
磁性コア3は、
図2に示すように、ミドルコア30と、第一エンドコア31と、第二エンドコア32と、第一サイドコア33と、第二サイドコア34とを備える。
図2では各コア30~34の境界が二点鎖線で示されている。ミドルコア30は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の内部に配置される部分を有する部位である。第一エンドコア31は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第一の端面211に臨む部分である。第二エンドコア32は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第二の端面212に臨む部分である。第一サイドコア33は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第一の側面213の外側に配置される部分である。第二サイドコア34は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第二の側面214の外側に配置される部分である。
【0042】
この磁性コア3では、ミドルコア30、第一エンドコア31、第一サイドコア33、及び第二エンドコア32に、太破線で示される環状の閉磁路が形成される。また、ミドルコア30、第一エンドコア31、第二サイドコア34、及び第二エンドコア32に、太破線で示される環状の閉磁路が形成される。
【0043】
ここで、磁性コア3を基準にしてリアクトル1における方向を規定する。まず、ミドルコア30の軸方向に沿った方向がX方向である。そのX方向に直交し、ミドルコア30と第一サイドコア33と第二サイドコア34とが並列される方向がY方向である。そして、X方向とY方向の両方に交差する方向がZ方向(
図1)である。
【0044】
[ミドルコア]
ミドルコア30は、磁性コア3のうち、コイル2の第一巻回部21の内部に配置される部分である。従って、ミドルコア30は、第一巻回部21の軸方向に沿って延びる。本例では、磁性コア3のうち、第一巻回部21の軸方向に沿った部分の両端部が第一巻回部21の端面から突出している。その突出する部分もミドルコア30の一部である。
【0045】
ミドルコア30の形状は、第一巻回部21の内部形状に沿った形状であれば特に限定されない。本例のミドルコア30は、略直方体状である。
【0046】
[第一エンドコア・第二エンドコア]
第一エンドコア31、及び第二エンドコア32は、第一巻回部21のY方向の幅よりも大きい。即ち、第一エンドコア31は、第一巻回部21の第一の端面211よりもY方向の外側に張り出しており、第二エンドコア32は、第一巻回部21の第二の端面212よりもY方向の外側に張り出している。
【0047】
第一エンドコア31と第二エンドコア32の形状は、各エンドコア31,32の内部に十分な磁路が形成される形状であれば特に限定されない。本例の第一エンドコア31及び第二エンドコア32は略直方体状である。Z方向から見た第一エンドコア31及び第二エンドコア32の4つの角部のうち、両サイドコア33,34から遠い位置にある2つの角部は、丸みを有していも良い。上記2つの角部が丸みを有していると、エンドコア31,32の重量が削減される。上記2つの角部は、磁束が通り難い箇所である。従って、上記2つの角部が丸められていても、リアクトル1の磁気特性は低下し難い。
【0048】
[第一サイドコア・第二サイドコア]
第一サイドコア33は、第一巻回部21の第一の側面213の外側において、第一エンドコア31と第二エンドコア32とを繋ぐ。第一サイドコア33の軸方向は、ミドルコア30の軸方向に平行となっている。第一の側面213は、第一巻回部21におけるY方向に向く面である。
【0049】
第二サイドコア34は、第一巻回部21の第二の側面214の外側において、第一エンドコア31と第二エンドコア32とを繋ぐ。第二の側面214は、第一巻回部21におけるY方向に向く面であって、第一の側面213の反対方向に向いた面である。第二サイドコア34の軸方向は、ミドルコア30の軸方向に平行となっている。本例では、ミドルコア30の軸線と、第一サイドコア33の軸線と、第二サイドコア34の軸線とは、XY平面上に配置されている。
【0050】
本例の第一サイドコア33は、その内方面330に設けられる内方凹部4を備える。内方面330は、第一サイドコア33のうち、第一巻回部21の第一の側面213に向いた面である。また、本例の第二サイドコア34は、その内方面340に設けられる内方凹部5を備える。内方面340は、第二サイドコア34のうち、第一巻回部21の第二の側面214に向いた面である。内方凹部4,5によって両サイドコア33,34の重量が低減される。内方凹部4,5の詳細については後述する。
【0051】
[分割形態]
磁性コア3は、コイル2に対して取り付け可能なように、複数のコア片からなる。本例の磁性コア3は、第一コア片3Aと第二コア片3Bの二つのコア片を組み合わせてなる。第一コア片3Aは、第一エンドコア31と、ミドルコア30の一部とで構成されている。Z方向から見た第一コア片3Aの形状は、略T字形状である。一方、第二コア片3Bは、第二エンドコア32と、第一サイドコア33と、第二サイドコア34と、ミドルコア30の一部とで構成されている。Z方向から見た第二コア片3Bの形状は、略E字形状である。ここで、磁性コア3の分割数は、例えば実施形態2に示されるように3つ以上であっても良い。
【0052】
第一コア片3Aにおけるミドルコア30となる部分のX方向の長さと、第二コア片3Bにおけるミドルコア30となる部分のX方向の長さの合計は、第一サイドコア33のX方向の長さ、又は第二サイドコア34のX方向の長さよりも短い。従って、第一巻回部21の内部において、第一コア片3Aと第二コア片3Bとの間にギャップ部3gが形成される。本例のギャップ部3gは、エアギャップである。ギャップ部3gには図示しないギャップ板が挟まれていても構わない。本例とは異なり、第一巻回部21の内部において第一コア片3Aの端面と第二コア片3Bの端面とが当接していても良い。この場合、第一エンドコア31と第一サイドコア33との間、及び第一エンドコア31と第二サイドコア34との間の少なくとも一方にギャップ部があっても良い。
【0053】
[磁気特性・材質など]
磁性コア3の各コア30~34は、軟磁性粉末を含む原料粉末を加圧成形してなる圧粉成形体、又は軟磁性粉末と樹脂との複合材料の成形体であることが好ましい。全てのコア30~34が圧粉成形体であっても良いし、全てのコア30~34が複合材料の成形体であっても良い。また、コア30~34のうち、一部が圧粉成形体で、残りが複合材料の成形体であっても良い。一部が圧粉成形体、残りが複合材料の成形体である磁性コア3は磁気飽和し難い。
【0054】
圧粉成形体の軟磁性粉末は、鉄などの鉄族金属、又はFe(鉄)-Si(シリコン)合金、Fe-Ni(ニッケル)合金などの鉄合金などで構成される軟磁性粒子の集合体である。軟磁性粒子の表面には、リン酸塩などで構成される絶縁被覆が形成されていても良い。原料粉末には潤滑材などが含まれていてもかまわない。
【0055】
複合材料の成形体は、軟磁性粉末と未固化の樹脂との混合物を金型に充填し、樹脂を固化させることで製造できる。複合材料の軟磁性粉末には、圧粉成形体で使用できるものと同じものを使用できる。一方、複合材料に含まれる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、低温硬化性樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6やナイロン66といったポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等が挙げられる。その他、不飽和ポリエステルに炭酸カルシウムやガラス繊維が混合されたBMC(Bulk molding compound)、ミラブル型シリコーンゴム、ミラブル型ウレタンゴム等も利用できる。
【0056】
上述の複合材料は、軟磁性粉末及び樹脂に加えて、アルミナやシリカ等の非磁性かつ非金属粉末(フィラー)を含有すると、放熱性をより高められる。非磁性かつ非金属粉末の含有量は、0.2質量%以上20質量%以下、更に0.3質量%以上15質量%以下、0.5質量%以上10質量%以下が挙げられる。
【0057】
複合材料中の軟磁性粉末の含有量は、30体積%以上80体積%以下であることが挙げられる。飽和磁束密度や放熱性の向上の観点から、磁性粉末の含有量は更に、50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上とすることができる。製造過程での流動性の向上の観点から、磁性粉末の含有量を75体積%以下とすることが好ましい。複合材料の成形体では、軟磁性粉末の充填率を低く調整すれば、その比透磁率を小さくし易い。複合材料の成形体の比透磁率は、例えば5以上50以下である。複合材料の成形体の比透磁率は、更に10以上45以下、15以上40以下、20以上35以下であっても良い。本例では、内方凹部4,5を含む第二コア片3B全体が複合材料の成形体で構成されている。
【0058】
圧粉成形体は、複合材料の成形体よりも軟磁性粉末の含有量を高め易い。例えば、圧粉成形体における軟磁性粉末の含有量は、80体積%超、更に85体積%以上である。圧粉成形体からなるコア片は、飽和磁束密度、及び比透磁率が高いコア片となり易い。圧粉成形体の比透磁率は、例えば50以上500以下である。圧粉成形体の比透磁率は、80以上、100以上、150以上、180以上であっても良い。本例では、第一コア片3A全体が圧粉成形体で構成されている。
【0059】
[サイズ]
本例のリアクトル1が車載用である場合、磁性コア3のX方向の長さLは、例えば30mm以上150mm以下、磁性コア3のY方向の幅Wは、例えば30mm以上150mm以下、Z方向の高さHは、例えば15mm以上75mm以下である。
【0060】
ミドルコア30のY方向の長さT0は、例えば10mm以上50mm以下である。第一エンドコア31のX方向の長さT1、及び第二エンドコア32のX方向の長さT2は、例えば5mm以上40mm以下である。また、第一サイドコア33のY方向の長さT3、及び第二サイドコア34のY方向の長さT4は例えば、5mm以上40mm以下である。これらの長さは、磁性コア3の磁路断面積の大きさに関わる。ミドルコア30のX方向の長さT12は、磁性コア3の長さLから長さT1及び長さT2を引いた長さであり、例えば10mm以上140mm以下である。
【0061】
≪第一サイドコアにおける内方凹部≫
第一サイドコア33は、その内方面330に内方凹部4を備える。内方凹部4は、図示されるように単数でも良いし、複数でも良い。内方凹部4の少なくとも一部は、磁性コア3をZ方向から平面視したとき、第一巻回部21におけるX方向の長さT12の範囲に重複する。第一サイドコア33における第一巻回部21に面する内方面330に内方凹部4が設けられていれば、第一サイドコア33を流れる磁束が第一巻回部21から離れる方向に蛇行する。内方凹部4によって第一サイドコア33の磁路断面積が減少するが、第一サイドコア33からコイル2への漏れ磁束が低減される。そのため、コイル2において発生するコイル損失が低減されるので、内方凹部4によって第一サイドコア33の磁路断面積が減少しても、リアクトル1の磁気特性の低下が抑制される。
【0062】
ここで、内方凹部4の位置で第一巻回部21への漏れ磁束が減少するため、内方凹部4の一部が第一巻回部21の長さT12の範囲外にある場合、その範囲外の部分はコイル損失の低減に寄与し難い。従って、内方凹部4は、第一巻回部21におけるX方向の長さT12の範囲内に収まることが好ましい。内方凹部4の幅W1が第一巻回部21の長さT12の範囲内に収まることで、内方凹部4を設けたことによるコイル損失の低減効果が得られ易い。
【0063】
内方凹部4は、Z方向に延びる溝状であることが好ましい。本例の内方凹部4は、Z方向における第一サイドコア33の上面から下面に至る長さを有している。このような長さの内方凹部4は、第一サイドコア33の重量の削減効果が高い。本例とは異なり、内方凹部4は、第一サイドコア33の上面又は下面に至らない長さであっても良い。
【0064】
内方凹部4の延伸方向に直交する断面形状は、特に限定されない。本例では、内方凹部4の延伸方向に直交する断面形状は矩形である、断面形状とは、内方凹部4の底面40と、X方向に向かい合う2つの内壁面41,42と、Y方向の外方側の開口部とで囲まれる形状のことである。矩形の角は丸みを有していても良い。内方凹部4の断面形状が矩形であれば、断面形状が半円形や三角形などの内方凹部に比べて、第一サイドコア33の体積を大きく削減できる。本例とは異なり、内方凹部4の断面形状は、その開口部が広くなった台形であっても良い。つまり、断面形状が台形の内方凹部4は、底面40から開口部に向かうに従って内壁面41と内壁面42との距離が長くなる内方凹部4である。台形の角は丸みを有していても良い。断面形状が台形である内方凹部4も、断面形状が半円形状や三角形などの内方凹部に比べて、第一サイドコア33の体積を大きく削減できる。
【0065】
内方凹部4におけるX方向の幅W1は、ミドルコア30におけるX方向の長さT12の5%以上70%以下であることが好ましい。より好ましい幅W1は、長さT12の10%以上55%以下である。第一サイドコア33に設けられる内方凹部4が複数である場合、第一サイドコア33における複数の内方凹部4の合計幅をX方向の幅W1とする。内方凹部4におけるX方向の幅W1が、第一巻回部21のX方向の長さT12の5%以上70%以下であれば、リアクトル1の磁気特性が大きく低下することなく、磁性コア3の重量が大きく削減される。ここで、内方凹部4の幅W1とは、内方凹部4の開口部の幅である。
【0066】
一方、内方凹部4におけるY方向の深さD1は、第一サイドコア33におけるY方向の長さT3の5%以上50%以下であることが好ましい。より好ましい深さD1は、長さT3の10%以上35%以下である。第一サイドコア33における内方凹部4の深さD1が上記範囲にあれば、第一サイドコア33の磁路断面積が小さくなり過ぎることが抑制される。そのため、リアクトル1の磁気特性が低下し難い。ここで、内方凹部4の深さD1とは、内方凹部4の開口部から最深部までの長さである。
【0067】
≪第二サイドコアにおける内方凹部≫
第二サイドコア34に設けられる内方凹部5の構成は、第一サイドコア33に設けられる内方凹部4の構成と同じである。内方凹部4の説明における『内方凹部4』を『内方凹部5』に、『第一サイドコア33』を『第二サイドコア34』に、『長さT3』を『長さT4』に読み替えることで、内方凹部5の説明になる。
【0068】
≪別例≫
リアクトル1の磁性コア3は、第一サイドコア33に設けられる内方凹部4のみを備える構成でも良いし、第二サイドコア34に設けられる内方凹部5のみを備える構成でも良い。
【0069】
≪その他≫
リアクトル1は、更にケース、接着層、保持部材、及びモールド樹脂部の少なくとも一つを備えていてもよい。ケースは、コイル2と磁性コア3との組合体を内部に収納する部材である。ケースに収納された組合体は、封止樹脂部により埋設されていてもよい。接着層は、上記組合体を載置面、上記組合体をケースの内底面、上記ケースを載置面などに固定するものである。保持部材は、コイル2と磁性コア3との間に介在され、コイル2と磁性コア3との間の絶縁を確保する部材である。モールド樹脂部は、上記組合体の外周を覆うと共にコイル2と磁性コア3との間に介在されて、コイル2と磁性コア3とを一体化するものである。
【0070】
≪効果≫
内方凹部4,5を有する本例のリアクトル1は、内方凹部4,5を有さない従来のリアクトルに比べて軽量である。
本例のリアクトル1では、第一サイドコア33に内方凹部4が設けられ、第二サイドコア34に内方凹部5が設けられることで、両サイドコア33,34の実体部分が減る。従って、リアクトル1が軽量化される。また、両サイドコア33,34の実体部分が減少するので、コストを含めた磁性コア3の生産性、即ちリアクトル1の生産性が向上する。
【0071】
本例のリアクトル1は、内方凹部4,5を有さないリアクトルと同等程度の磁気特性を有する。
本例のリアクトル1では、第一サイドコア33の内方面330に内方凹部4が設けられ、第二サイドコア34の内方面340に内方凹部5が設けられている。これら内方凹部4,5によって両サイドコア33,34から第一巻回部21への漏れ磁束が低減される。従って、漏れ磁束が第一巻回部21を透過することによって発生するコイル損失が低減されるので、リアクトル1の磁気特性の低下が抑制される。
【0072】
<実施形態2>
実施形態2に係るリアクトル1を
図3に基づいて説明する。実施形態2のリアクトル1と実施形態1のリアクトル1とは、磁性コア3の分割状態が異なる。本例のリアクトル1における磁性コア3の分割状態以外の構成は、実施形態1のリアクトルと同じである。
【0073】
本例のリアクトル1の磁性コア3は、第一コア片3Aと、第二コア片3Bと、第三コア片3Cと、第四コア片3Dとを組み合わせてなる。本例の第一コア片3Aは、第一エンドコア31とミドルコア30の一部とで構成される。本例の第二コア片3Bは、第二エンドコア32とミドルコア30の一部とで構成される。Z方向から見た第一コア片3A及び第二コア片3Bは、概略T字型である。本例の第一コア片3Aと第二コア片3Bとは同じ形状であり、一つの金型によって作製されている。
【0074】
一方、本例の第三コア片3Cは、第一サイドコア33で構成され、本例の第四コア片3Dは、第二サイドコア34で構成される。第一サイドコア33には内方凹部4が設けられ、第二サイドコア34には内方凹部5が設けられている。Z方向から見た第三コア片3Cと第四コア片3Dは、概略I字型である。本例の第三コア片3Cと第四コア片3Dとは同じ形状であり、一つの金型によって作製されている。
【0075】
各コア片3A,3B,3C,3Dは、圧粉成形体又は複合材料の成形体である。例えば、コア片3A,3Bが圧粉成形体であり、コア片3C,3Dが複合材料の成形体である形態が挙げられる。
【0076】
本例のリアクトル1によっても、実施形態1のリアクトル1と同様の効果が得られる。即ち、本例のリアクトル1は、軽量でかつ磁気特性に優れる。
【0077】
<実施形態3>
実施形態3に係るリアクトル1を
図4に基づいて説明する。実施形態3のリアクトル1と実施形態1,2のリアクトル1とは、磁性コア3の分割状態が異なる。本例のリアクトル1における磁性コア3の分割状態以外の構成は、実施形態1,2のリアクトルと同じである。
【0078】
本例のリアクトル1の磁性コア3は、第一コア片3Aと、第二コア片3Bとを組み合わせてなる。本例の第一コア片3Aは、第一エンドコア31と第二エンドコア32と第一サイドコア33と第二サイドコア34とで構成される。第一サイドコア33には内方凹部4が設けられ、第二サイドコア34には内方凹部5が設けられている。Z方向から見た第一コア片3Aは、概略O字型である。一方、本例の第二コア片3Bはミドルコア30で構成される。Z方向から見た第二コア片3Bは、概略I字型である。
【0079】
各コア片3A,3Bは、圧粉成形体又は複合材料の成形体である。例えば、第一コア片3Aが複合材料の成形体であり、第二コア片3Bが圧粉成形体である形態が挙げられる。
【0080】
本例のリアクトル1によっても、実施形態1のリアクトル1と同様の効果が得られる。即ち、本例のリアクトル1は、軽量でかつ磁気特性に優れる。
【0081】
<実施形態4>
≪コンバータ・電力変換装置≫
実施形態1から実施形態3に係るリアクトル1は、以下の通電条件を満たす用途に利用できる。通電条件としては、例えば、最大直流電流が100A以上1000A以下程度であり、平均電圧が100V以上1000V以下程度であり、使用周波数が5kHz以上100kHz以下程度であることが挙げられる。実施形態1から実施形態3に係るリアクトル1は、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを備える電力変換装置の構成部品に利用できる。
【0082】
ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両1200は、
図5に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジン1300を備える。
図5では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態とすることができる。
【0083】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V以上300V以下程度のメインバッテリ1210の入力電圧を400V以上700V以下程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される入力電圧をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。入力電圧は、直流電圧である。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0084】
コンバータ1110は、
図6に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトル1115とを備え、ON/OFFの繰り返しにより入力電圧の変換を行う。入力電圧の変換とは、ここでは昇降圧を行う。スイッチング素子1111には、電界効果トランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタなどのパワーデバイスが利用される。リアクトル1115は、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。リアクトル1115として、実施形態1から実施形態3のいずれかのリアクトル1を備える。軽量で磁気特性に優れるリアクトル1などを備えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110は、軽量で変換効率に優れる。
【0085】
車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、実施形態1から実施形態3のいずれかのリアクトル1などと同様の構成を備え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用できる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、実施形態1から実施形態3のいずれかのリアクトル1などを利用することもできる。
【0086】
<試験>
≪試験例1≫
試験例1では、
図2に示される内方凹部4,5の幅W1が、リアクトル1のインダクタンスと全損失に及ぼす影響を調べた。具体的には、内方凹部4,5を有さない試料No.1のリアクトルと、内方凹部4,5を有する試料No.2~No.6のリアクトル1の解析を行った。試料No.1のリアクトルと、試料No.2~No.6のリアクトル1との相違点は内方凹部4,5の有無のみである。また、試料No.2~No.6のリアクトルの相違点は、内方凹部4,5の幅W1のみである。各試料の磁性コア3の主要部の寸法は以下の通りである。
【0087】
[試料No.1]
・内方凹部4,5…なし。
・磁性コア3の長さL…70mm
・磁性コア3の幅W=第一エンドコア31及び第二エンドコア32の幅W…75mm
・磁性コア3の高さH…30mm
・ミドルコア30のY方向の長さT0…30mm
・ミドルコア30のX方向の長さT12…46mm
・第一エンドコア31及び第二エンドコア32のX方向の長さT1,T2…12mm
・第一サイドコア33及び第二サイドコア34のY方向の長さT3,T4…11mm
【0088】
[試料No.2]
・内方凹部4の幅W1…5mm
内方凹部4の幅W1は、ミドルコア30のX方向の長さT12の10%である。
・内方凹部4,5の深さD1…2mm
・内方凹部4,5のZ方向の長さ…30mm
【0089】
[試料No.3]
・内方凹部4,5の幅W1…10mm
内方凹部4,5の幅W1は、ミドルコア30のX方向の長さT12の21%である。
【0090】
[試料No.4]
・内方凹部4,5の幅W1…15mm
内方凹部4,5の幅W1は、ミドルコア30のX方向の長さT12の32%である。
【0091】
[試料No.5]
・内方凹部4,5の幅W1…20mm
内方凹部4,5の幅W1は、ミドルコア30のX方向の長さT12の43%である。
【0092】
[試料No.6]
・内方凹部4,5の幅W1…25mm
内方凹部4,5の幅W1は、ミドルコア30のX方向の長さT12の54%である。
【0093】
各試料のインダクタンス及び全損失のシミュレーションには、市販のソフトウェアであるJMAG-Designer18.1(株式会社JSOL製)を用いた。インダクタンスの解析では、電流をコイル2に流したときのインダクタンス(μH)を求めた。電流は0A~300Aの範囲で変化させた。電流値が0A、100A、200A、及び300Aのときのインダクタンスを表1に示す。インダクタンスは、0A時の試料No.1のインダクタンスを100%としたパーセンテージで示される。
【0094】
また、全損失の解析では、直流電流0A、入力電圧200V、出力電圧400V、周波数20kHzで駆動したときの磁束密度分布および電流密度分布に基づいて全損失(W)を求めた。本例の全損失には、磁性コア3の鉄損、及びコイル損失などが含まれる。その結果を表1に示す。全損失及びコイル損失は、試料No.1の全損失を100%としたパーセンテージで示される。
【0095】
表1には、内方凹部4を設けたことによる磁性コア3の体積削減量(mm3)を合わせて示す。
【0096】
【0097】
表1に示すように、ベースモデルである試料No.1のリアクトルに比べて、内方凹部4,5の幅W1が大きく、磁性コア3の体積削減量が大きくなるほど、0A又は100A時におけるリアクトル1のインダクタンスが低下する傾向にあった。しかし、内方凹部4,5の幅W1が大きくなるほど、200A又は300A時におけるリアクトル1のインダクタンスは増加する傾向にあった。
【0098】
一方、内方凹部4,5を設けたことによって、リアクトル1における全損失は低くなることが分かった。特に、内方凹部4,5を設けたことによるコイル損失の低減が顕著であった。
【0099】
更に、内方凹部4,5の幅W1と、リアクトル1におけるコイル損失の変化度合いとの関係を調べるため、以下に示すコイル損失の低減量とコイル損失の低減率を調べた。
【0100】
[コイル損失の低減量]
・(コイル損失の低減量)=(ベースモデルのコイル損失)―(対象モデルのコイル損失)
例えば、試料No.2のコイル損失の低減量は、ベースモデルである試料No.1のコイル損失から、試料No.2のコイル損失を引いたものである。
【0101】
試料No.2~No.6のコイル損失の低減量を
図7に棒グラフで示す。グラフの横軸は試料ナンバーであり、左縦軸はコイル損失の低減量(W)である。
【0102】
[コイル損失の低減率]
・(コイル損失の低減率)=(コイル損失の低減量)/(磁性コアの体積削減量)
【0103】
試料No.2~No.6のコイル損失の低減率を
図7に折れ線グラフで示す。グラフの横軸は試料ナンバーであり、右縦軸はコイル損失の低減率である。縦軸は、生データから求めた数値である。
【0104】
図7の折れ線グラフに示されるように、内方凹部4,5の幅W1が大きくなるほど、コイル損失の低減率は緩やかに低下するものの、棒グラフで示されるコイル損失の低減量が大きくなることが分かった。表1に示されるように、内方凹部4,5の幅W1が大きくなるほど、リアクトル1全体の全損失も小さくなるので、内方凹部4,5の幅W1は、20mm以上25mm以下であることが好ましいことが分かった。
【0105】
≪試験例2≫
試験例2では、
図2に示される内方凹部4,5の深さD1が、リアクトル1のインダクタンスと全損失に及ぼす影響を調べた。具体的には、内方凹部4,5を有さない試料No.1のリアクトルと、内方凹部4,5を有する試料No.7~No.11のリアクトル1の解析を行った。試料No.1のリアクトルは、試験例1の試料No.1のリアクトルと同じである。試料No.7~No.11のリアクトル1の相違点は、内方凹部4,5の深さD1のみである。各試料の磁性コア3の主要部の寸法は以下の通りである。
【0106】
[試料No.7]
・内方凹部4,5の深さD1…1mm
内方凹部4,5の深さD1は、サイドコア33,34のY方向の長さT3,T4の9%である。
・内方凹部4,5の幅W1…10mm
・内方凹部4,5のZ方向の長さ…30mm
【0107】
[試料No.8]
・内方凹部4の深さD1…2mm
内方凹部4,5の深さD1は、サイドコア33,34のY方向の長さT3,T4の18%である。
【0108】
[試料No.9]
・内方凹部4,5の深さD1…3mm
内方凹部4,5の深さD1は、サイドコア33,34のY方向の長さT3,T4の27%である。
【0109】
[試料No.10]
・内方凹部4,5の深さD1…4mm
内方凹部4,5の深さD1は、サイドコア33,34のY方向の長さT3,T4の36%である。
【0110】
[試料No.11]
・内方凹部4,5の深さD1…5mm
内方凹部4,5の深さD1は、サイドコア33,34のY方向の長さT3,T4の45%である。
【0111】
各試料のインダクタンス及び全損失を試験例1と同様の手法で求めた。その結果を表2に示す
【0112】
【0113】
表2に示すように、ベースモデルである試料No.1のリアクトルに比べて、内方凹部4,5の深さD1が大きくなる、即ち磁性コア3の体積削減量が大きくなるほど、0A又は100A時におけるリアクトル1のインダクタンスが低下する傾向にあった。しかし、内方凹部4,5の深さD1が大きくなるほど、200A又は300A時におけるリアクトル1のインダクタンスは増加する傾向にあった。
【0114】
一方、内方凹部4,5を設けたことによって、リアクトル1における全損失は低くなることが分かった。特に、内方凹部4,5を設けたことによるコイル損失の低減が顕著であった。
【0115】
更に、内方凹部4,5の深さD1と、リアクトル1におけるコイル損失の変化度合いとの関係を調べるため、各試料のコイル損失の低減量と低減率を調べた。コイル損失の低減量と低減率の定義は、試験例1のコイル損失の低減量と低減率の定義と同じである。その結果を
図8に示す。
図8の見方は
図7と同じである。
【0116】
図8の折れ線グラフに示されるように、内方凹部4,5の深さD1が大きくなるほど、コイル全損失の低減率は急激に低下する。また、棒グラフで示されるコイル損失の低減量は、試料No.10をピークに、試料No.11ではむしろ減少した。実際、表2に示されるように、試料No.11におけるリアクトル1の全損失も小さくなっていた。従って、内方凹部4,5の深さD1は、3mm以上4mm以下であることが好ましいことが分かった。
【0117】
≪試験例3≫
試験例3では、磁性コア3が圧粉成形体であるか複合材料であるかによって、内方凹部4,5を設けたことによる磁気特性の低下率に違いがあるかを調べた。各試料の情報は以下の通りである。各試料の磁性コア3の寸法L,W,H,T0,T1,T2,T3,T4は、試験例1の試料No.1と同じである。
【0118】
[試料No.20]
・磁性コア3全体が圧粉成形体である。
・内方凹部4,5を有さない。
【0119】
[試料No.21]
・磁性コア3全体が圧粉成形体である。
・内方凹部4,5を有する。
・内方凹部4,5の幅W1…12mm
・内方凹部4,5の深さD1…4mm
【0120】
[試料No.22]
・磁性コア3全体が複合材料である。
・内方凹部4,5を有さない。
【0121】
[試料No.23]
・磁性コア3全体が複合材料である。
・内方凹部4,5を有する。
・内方凹部4,5の幅W1…12mm
・内方凹部4,5の深さD1…4mm
【0122】
試料No.20~No.23のインダクタンスと全損失を測定した。測定方法は、試験例1と同じである。測定結果を表3に示す。表3のインダクタンスは、0A時の試料No.20のインダクタンスを100%としたパーセンテージで示される。また、表3の全損失は、試料No.20の全損失を100%としたパーセンテージで示される。表3における試料No21及び試料No.23の各欄に示されるカッコ内には、試料No.20及び試料No.22に対する変化率をパーセントで示す。インダクタンスの変化率がプラスであれば、リアクトル1の磁気特性が上昇したと考えて良い。また、全損失の変化率がマイナスであれば、リアクトル1の磁気特性が上昇したと考えて良い。
【0123】
【0124】
表3に示されるように、磁性コア3が複合材料からなる試料No.23の全損失が低下した。一方、磁性コア3が圧紛成形体からなる試料No.21の全損失は上昇した。全損失を低減するという観点からすれば、サイドコア33,34に内方凹部4,5を設ける場合、サイドコア33,34は複合材料であることが好ましい。
【符号の説明】
【0125】
1 リアクトル
2 コイル
21 第一巻回部、2a,2b 端部
211 第一の端面、212 第二の端面
213 第一の側面、214 第二の側面
3 磁性コア
3g ギャップ部
3A 第一コア片、3B 第二コア片、3C 第三コア片、3D 第四コア片
30 ミドルコア、31 第一エンドコア、32 第二エンドコア
33 第一サイドコア、34 第二サイドコア
330,340 内方面
4 内方凹部
40 底面、41,42 内壁面
5 内方凹部
1100 電力変換装置
1110 コンバータ、1111 スイッチング素子、1112 駆動回路
1115 リアクトル、 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ、1160 補機電源用コンバータ
1200 車両
1210 メインバッテリ、1220 モータ、1230 サブバッテリ
1240 補機類、1250 車輪
1300 エンジン
D1 深さ
H 高さ
L,T0,T1,T2,T3,T4,T12 長さ
W,W1 幅