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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】物体検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/526 20060101AFI20231017BHJP
   G01S 15/931 20200101ALI20231017BHJP
【FI】
G01S7/526 J
G01S15/931
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020061269
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162346
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々 浩一
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197710(JP,A)
【文献】特許第5908193(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0275259(US,A1)
【文献】特開2010-197351(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10336964(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 7/52 - G01S 7/64
G01S 13/00 - G01S 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を送信する送信部と、
物体により反射されて戻ってきた前記送信波としての受信波を受信する受信部と、
前記受信波に応じた処理対象信号をサンプリングし、ある検出タイミングで受信された前記受信波に応じた少なくとも1サンプル分の前記処理対象信号の値と、前記検出タイミングの前後に存在する所定の時間長の第1の期間および第2の期間のうち少なくとも一方において受信された前記受信波に応じた複数サンプル分の前記処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づく差分信号を取得する信号処理部と、
前記差分信号の値に基づいて、前記検出タイミングにおける前記物体までの距離を、時間の経過に応じて複数回検出する検出処理部と、
前記物体までの距離と、当該物体までの距離が検出された前記検出タイミングにおける前記処理対象信号の値と、の前記時間の経過に応じた遷移に基づいて、前記物体を識別する識別処理部と、
を備え
前記送信部および前記受信部は、車両に搭載されており、
前記識別処理部は、前記遷移が、前記物体までの距離が所定以下に小さいほど前記処理対象信号の値が大きいという第1の傾向を示すか、または、前記物体までの距離が前記所定以下に小さいほど前記処理対象信号の値が小さいという第2の傾向を示すかに応じて、前記車両の進行方向に対する前記物体の位置を識別する、
物体検出システム。
【請求項2】
前記識別処理部は、前記遷移と、前記物体までの距離と前記処理対象信号の値との対応関係に関して予め決められた閾値と、の比較結果に基づいて、前記遷移が前記第1の傾向を示すか前記第2の傾向を示すかを判定する、
請求項に記載の物体検出システム。
【請求項3】
前記識別処理部は、前記遷移と前記閾値との複数回の比較結果に基づいて、前記遷移が前記第1の傾向を示すか前記第2の傾向を示すかを判定する、
請求項に記載の物体検出システム。
【請求項4】
記識別処理部は、前記遷移が前記第1の傾向を示すかまたは前記第2の傾向を示すかに応じて、前記車両の進行方向正面に設けられた前記物体の高さを識別する、
請求項のうちいずれか1項に記載の物体検出システム。
【請求項5】
記識別処理部による識別結果に応じて前記車両の走行状態を制御する走行制御処理部をさらに備える、
請求項1~のうちいずれか1項に記載の物体検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダを用いた波動の送受信に基づいて物体までの距離を検出するにあたり、検出対象ではない物体による反射に起因して発生するクラッタと呼ばれるノイズを低減するための処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理が知られている。CFAR処理とは、概略的に説明すると、受信波に応じた処理対象信号の値(信号レベル)と、当該処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づく差分信号を取得する処理である。CFAR処理では、差分信号の値に基づいて、検出対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波が精度よく検出され、その結果、物体までの距離が精度よく検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-292597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、物体までの距離の検出結果は、たとえば車両の走行状態の制御などのような様々な制御に利用されうる。この場合、物体までの距離の検出結果とともに、当該物体がどのような物体であるかの識別結果が得られれば、様々な制御をより効果的に実行することができ、有益である。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、物体までの距離の検出結果とともに当該物体の識別結果を得ることが可能な物体検出システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例としての物体検出システムは、送信波を送信する送信部と、物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波を受信する受信部と、受信波に応じた処理対象信号をサンプリングし、ある検出タイミングで受信された受信波に応じた少なくとも1サンプル分の処理対象信号の値と、検出タイミングの前後に存在する所定の時間長の第1の期間および第2の期間のうち少なくとも一方において受信された受信波に応じた複数サンプル分の処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づく差分信号を取得する信号処理部と、差分信号の値に基づいて、検出タイミングにおける物体までの距離を、時間の経過に応じて複数回検出する検出処理部と、物体までの距離と、当該物体までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、の時間の経過に応じた遷移に基づいて、物体を識別する識別処理部と、を備える。
【0007】
上述した物体検出システムによれば、差分信号の値に基づいて物体までの距離を検出することができるとともに、当該距離と処理対象信号の値との遷移に基づいて、物体を識別することができる。したがって、物体までの距離の検出結果とともに当該物体の識別結果を得ることができる。
【0008】
上述した物体検出システムにおいて、識別処理部は、遷移が、物体までの距離が所定以下に小さいほど処理対象信号の値が大きいという第1の傾向を示すか、または、物体までの距離が所定以下に小さいほど処理対象信号の値が小さいという第2の傾向を示すかに応じて、物体を識別する。このような構成によれば、遷移の傾向に基づいて、物体の識別を的確に実行することができる。
【0009】
また、上述した物体検出システムにおいて、識別処理部は、遷移と、物体までの距離と処理対象信号の値との対応関係に関して予め決められた閾値と、の比較結果に基づいて、遷移が第1の傾向を示すか第2の傾向を示すかを判定する。このような構成によれば、遷移の傾向に基づく物体の識別を、閾値を用いて簡単に実行することができる。
【0010】
また、上述した物体検出システムにおいて、識別処理部は、遷移と閾値との複数回の比較結果に基づいて、遷移が第1の傾向を示すか第2の傾向を示すかを判定する。このような構成によれば、たとえば遷移と閾値との複数回の1回の比較結果だけを考慮する場合に比べて、複数回の比較結果を考慮することで、物体の識別をより精度よく実行することができる。
【0011】
また、上述した物体検出システムにおいて、送信部および受信部は、車両に搭載されており、識別処理部は、遷移が第1の傾向を示すかまたは第2の傾向を示すかに応じて、車両の進行方向正面に設けられた物体の高さを識別する。このような構成によれば、検出された物体がたとえば壁であるか縁石であるかの識別のような、車両の走行に関わる情報の識別を容易に実行することができる。
【0012】
また、上述した物体検出システムにおいて、送信部および受信部は、車両に搭載されており、識別処理部は、遷移が第1の傾向を示すかまたは第2の傾向を示すかに応じて、車両の進行方向に対する物体の位置を識別する。このような構成によれば、検出された物体がたとえば車両の進行方向の正面に存在しているか車両の進行方向からずれた位置に存在しているかの識別のような、車両の走行に関わる情報の識別を容易に実行することができる。
【0013】
また、上述した物体検出システムにおいて、送信部および受信部は、車両に搭載されており、物体検出システムは、識別処理部による識別結果に応じて車両の走行状態を制御する走行制御処理部をさらに備える。このような構成によれば、物体までの距離の検出結果とともに当該物体の識別結果を利用して、車両の走行状態を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
図2図2は、実施形態にかかる物体検出システムのECU(Electronic Control Unit)および距離検出装置の概略的なハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図3図3は、実施形態にかかる距離検出装置が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
図4図4は、実施形態にかかる距離検出装置の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図5図5は、実施形態において実行されうるCFAR(Constant False Alarm Rate)処理の例を説明するための例示的かつ模式的な図である。
図6図6は、実施形態にかかるCFAR処理の前後の信号の波形の例を示した例示的かつ模式的な図である。
図7図7は、実施形態にかかるECUの機能を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図8図8は、実施形態において検出対象の物体の高さが高い状況を示した例示的かつ模式的な図である。
図9図9は、実施形態において検出対象の物体の高さが低い状況を示した例示的かつ模式的な図である。
図10図10は、実施形態にかかる物体の識別に用いる閾値の例を示した例示的かつ模式的な図である。
図11図11は、実施形態にかかる物体検出システムが実行する処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
図12図12は、変形例にかかる物体の識別を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態および変形例を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0016】
<実施形態>
図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両1を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【0017】
以下に説明するように、実施形態にかかる物体検出システムは、音波(超音波)の送受信を行い、当該送受信の時間差などを取得することで、周囲に存在する人間を含む物体(たとえば後述する図2に示される障害物O)に関する情報を検知する車載センサシステムである。
【0018】
より具体的に、図1に示されるように、実施形態にかかる物体検出システムは、車載制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100と、車載ソナーとしての距離検出装置201~204と、を備えている。ECU100は、一対の前輪3Fと一対の後輪3Rとを含んだ四輪の車両1の内部に搭載されており、距離検出装置201~204は、車両1の外装に搭載されている。
【0019】
図1に示される例では、一例として、距離検出装置201~204が、車両1の外装としての車体2の後端部(リヤバンパ)において、互いに異なる位置に設置されているが、距離検出装置201~204の設置位置は、図1に示される例に制限されるものではない。たとえば、距離検出装置201~204は、車体2の前端部(フロントバンパ)に設置されてもよいし、車体2の側面部に設置されてもよいし、後端部、前端部、および側面部のうち2つ以上に設置されてもよい。
【0020】
なお、実施形態において、距離検出装置201~204が有するハードウェア構成および機能は、それぞれ同一である。したがって、以下では、簡単化のため、距離検出装置201~204を総称して距離検出装置200と記載することがある。また、実施形態において、距離検出装置200の個数は、図1に示されるような4つに制限されるものではない。
【0021】
図2は、実施形態にかかるECU100および距離検出装置200のハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0022】
図2に示されるように、ECU100は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、ECU100は、入出力装置110と、記憶装置120と、プロセッサ130と、を備えている。
【0023】
入出力装置110は、ECU100と外部(図1に示される例では距離検出装置200)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0024】
記憶装置120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などといった主記憶装置、および/または、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などといった補助記憶装置を含んでいる。
【0025】
プロセッサ130は、ECU100において実行される各種の処理を司る。プロセッサ130は、たとえばCPU(Central Processing Unit)などといった演算装置を含んでいる。プロセッサ130は、記憶装置120に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、たとえば自動駐車などといった各種の機能を実現する。
【0026】
一方、図2に示されるように、距離検出装置200は、送受波器210と、制御部220と、を備えている。送受波器210は、「送受信部」の一例である。
【0027】
送受波器210は、圧電素子などにより構成された振動子211を有しており、当該振動子211により、超音波の送受信を実行する。
【0028】
より具体的に、送受波器210は、振動子211の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波として送信された超音波が外部に存在する物体で反射されて戻ってくることでもたらされる振動子211の振動を受信波として受信する。図2に示される例では、送受波器210からの超音波を反射する物体として、路面RS上に設置された障害物Oが例示されている。
【0029】
なお、図2に示される例では、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の振動子211を有した単一の送受波器210により実現される構成が例示されている。しかしながら、実施形態の技術は、たとえば、送信波の送信用の第1の振動子と受信波の受信用の第2の振動子とが別々に設けられた構成のような、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも適用可能である。
【0030】
制御部220は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、制御部220は、入出力装置221と、記憶装置222と、プロセッサ223と、を備えている。
【0031】
入出力装置221は、制御部220と外部(図1に示される例ではECU100および送受波器210)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0032】
記憶装置222は、ROMおよびRAMなどといった主記憶装置、およびHDDまたはSSDなどといった補助記憶装置を含んでいる。
【0033】
プロセッサ223は、制御部220において実行される各種の処理を司る。プロセッサ223は、たとえばCPUなどといった演算装置を含んでいる。プロセッサ223は、記憶装置333に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、各種の機能を実現する。
【0034】
ここで、実施形態にかかる距離検出装置200は、いわゆるTOF(Time Of Flight)法と呼ばれる技術により、物体までの距離を検出する。以下に詳述するように、TOF法とは、送信波が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、受信波が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差を考慮して、物体までの距離を算出する技術である。
【0035】
図3は、実施形態にかかる距離検出装置200が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0036】
より具体的に、図3は、実施形態にかかる距離検出装置200が送受信する超音波の信号レベル(たとえば振幅)の時間変化をグラフ形式で例示的かつ模式的に示した図である。図3に示されるグラフにおいて、横軸は、時間に対応し、縦軸は、距離検出装置200が送受波器210(振動子211)を介して送受信する信号の信号レベルに対応する。
【0037】
図3に示されるグラフにおいて、実線L11は、距離検出装置200が送受信する信号の信号レベル、つまり振動子211の振動の度合の時間変化を表す包絡線の一例を表している。この実線L11からは、振動子211がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間は、慣性による振動子211の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。したがって、図3に示されるグラフにおいては、時間Tbが、いわゆる残響時間に対応する。
【0038】
実線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子211の振動の度合が、一点鎖線L21で表される所定の閾値Th1を超える(または以上になる)ピークを迎える。この閾値Th1は、振動子211の振動が、検知対象の物体(たとえば図2に示される障害物O)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、または、検体対象外の物体(たとえば図2に示される路面RS)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、を識別するために予め設定された値である。
【0039】
なお、図3には、閾値Th1が時間経過によらず変化しない一定値として設定された例が示されているが、実施形態において、閾値Th1は、時間経過とともに変化する値として設定されてもよい。
【0040】
ここで、閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを有する振動は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。一方、閾値Th1以下の(または未満の)ピークを有する振動は、検知対象外の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。
【0041】
したがって、実線L11からは、タイミングt4における振動子211の振動が、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものである、ということが読み取れる。
【0042】
なお、実線L11においては、タイミングt4以降で、振動子211の振動が減衰している。したがって、タイミングt4は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。
【0043】
また、実線L11においては、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。したがって、実線L11においては、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTが、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0044】
上記を踏まえて、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と、受信波が受信され始めたタイミングt3と、の間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4と、の差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0045】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、距離検出装置200が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定などによって予め決められている。したがって、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、結局のところ、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4を特定することが重要となる。そして、当該タイミングt4を特定するためには、送信波と、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波と、の対応関係を精度良く検出することが重要となる。
【0046】
ところで、従来、上述した超音波のような波動の送受信に基づいて物体にまでの距離を検出するにあたり、検出対象ではない物体による反射に起因して発生するクラッタと呼ばれるノイズを低減するための処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理が知られている。CFAR処理とは、概略的に説明すると、受信波に応じた処理対象信号の値(信号レベル)と、当該処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づく差分信号を取得する処理である。CFAR処理では、差分信号の値に基づいて、検出対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波が精度よく検出され、その結果、物体までの距離が精度よく検出される。
【0047】
ここで、物体までの距離の検出結果は、たとえば車両の走行状態の制御などのような様々な制御に利用されうる。この場合、物体までの距離の検出結果とともに、当該物体がどのような物体であるかの識別結果が得られれば、様々な制御をより効果的に実行することができ、有益である。
【0048】
そこで、実施形態は、以下に説明するような構成に基づき、物体までの距離の検出結果とともに当該物体の識別結果を得ることを実現する。
【0049】
図4は、実施形態にかかる距離検出装置200の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0050】
なお、図4には、送信側の構成と受信側の構成とが分離された状態で図示されているが、このような図示の態様は、あくまで説明の便宜のためのものである。したがって、実施形態では、前述したように、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の送受波器210により実現される。ただし、前述の繰り返しになるが、実施形態の技術は、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも適用可能である。
【0051】
また、実施形態において、図4に示される構成のうち少なくとも一部は、ハードウェアとソフトウェアとの協働の結果、より具体的には、距離検出装置200のプロセッサ223が記憶装置222からコンピュータプログラムを読み出して実行した結果として実現される。ただし、実施形態では、図4に示される構成のうち少なくとも一部が、専用のハードウェア(回路:circuitry)によって実現されてもよい。
【0052】
まず、距離検出装置200の送信側の構成について簡単に説明する。
【0053】
図4に示されるように、距離検出装置200は、送信側の構成として、送波器411と、符号生成部412と、搬送波出力部413と、乗算器414と、増幅回路415と、を備えている。送波器411は、「送信部」の一例である。
【0054】
送波器411は、前述した振動子211によって構成され、当該振動子211により、増幅回路415から出力される(増幅された)送信信号に応じた送信波を送信する。
【0055】
ここで、実施形態において、送波器411は、以下に説明する構成に基づき、送信波を、所定の符号長の識別情報を含むように符号化した上で送信する。
【0056】
符号生成部412は、たとえば0または1のビットの連続からなるビット列の符号に対応したパルス信号を生成する。なお、ビット列の長さは、送信信号に付与される識別情報の符号長に対応する。符号長は、たとえば図1に示される4つの距離検出装置200の各々から送信される送信波を互いに識別可能な程度の長さに設定される。
【0057】
搬送波出力部413は、識別情報を付与する対象の信号としての搬送波を出力する。たとえば、搬送波出力部413は、搬送波として、所定の周波数の正弦波を出力する。
【0058】
乗算器414は、符号生成部412からの出力と、搬送波出力部413からの出力と、を乗算することで、識別情報を付与するように搬送波を変調する。そして、乗算器414は、識別情報が付与された変調後の搬送波を、送信波のもととなる送信信号として、増幅回路415に出力する。なお、実施形態において、変調方式は、たとえば振幅変調方式や位相変調方式などといった、一般的によく知られた複数の変調方式の単独または2以上の組み合わせが用いられうる。
【0059】
増幅回路415は、乗算器414から出力される送信信号を増幅し、増幅後の送信信号を送波器411に出力する。
【0060】
このような構成により、実施形態において、符号生成部412、搬送波出力部413、乗算器414、および増幅回路415は、送波器411を用いて、所定の識別情報が付与された送信波を送信する。
【0061】
次に、距離検出装置200の受信側の構成について簡単に説明する。
【0062】
図4に示されるように、距離検出装置200は、受信側の構成として、受波器421と、増幅回路422と、フィルタ処理部423と、相関処理部424と、包絡線処理部425と、CFAR処理部426と、閾値処理部427と、検出処理部428と、を備えている。なお、受波器421は、「受信部」の一例であり、CFAR処理部426は、「信号処理部」の一例である。
【0063】
受波器421は、前述した振動子211によって構成され、当該振動子211により、物体により反射された送信波を受信波として受信する。
【0064】
増幅回路422は、受波器421が受信した受信波に応じた信号としての受信信号を増幅する。
【0065】
フィルタ処理部423は、増幅回路422により増幅された受信信号にフィルタリング処理を施し、ノイズを低減する。なお、実施形態において、フィルタ処理部423は、送信信号の周波数に関する情報を取得し、当該送信信号の周波数と整合をとるような周波数の補正を受信信号に対してさらに施してもよい。
【0066】
相関処理部424は、たとえば送信側の構成から取得される送信信号と、フィルタ処理部423によるフィルタリング処理後の受信信号と、に基づいて、送信波と受信波との識別情報の類似度に対応した相関値を取得する。相関値は、一般的によく知られた相関関数などに基づいて取得することが可能である。
【0067】
包絡線処理部425は、相関処理部424により取得された相関値に基づく信号としての相関値信号の波形の包絡線を求め、処理対象信号としてCFAR処理部426に出力する。
【0068】
CFAR処理部426は、包絡線処理部425から出力される処理対象信号に対してCFAR処理を施すことで、差分信号を取得する。前述したように、CFAR処理とは、概略的に説明すると、処理対象信号に含まれるクラッタを低減するために、処理対象信号の値(信号レベル)と、当該処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づく差分信号を取得する処理である。
【0069】
より具体的に、実施形態にかかるCFAR処理部426は、次の図5に示されるような形で、CFAR処理を実行する。
【0070】
図5は、実施形態において実行されうるCFAR処理の例を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0071】
以下では、CFAR処理の例として、CA-CFAR(Cell Averaging Constant False Alarm Rate)処理について説明する。
【0072】
図5に示されるように、CA-CFAR処理においては、まず、処理対象信号510が所定の時間間隔でサンプリングされる。そして、CFAR処理部426の演算器511は、ある検出タイミングt50の前に存在する第1の期間T51に受信された受信波に応じたNサンプル分の処理対象信号の値の総和を算出する。また、CFAR処理部426の演算器512は、検出タイミングt50の後に存在する第2の期間T52に受信された受信波に応じたNサンプル分の処理対象信号の値の総和を算出する。
【0073】
そして、CFAR処理部426の演算器520は、演算器511および512の演算結果を合算する。そして、CFAR処理部426の演算器530は、演算器520の演算結果を、第1の期間T51における処理対象信号のサンプル数Nと第2の期間T52における処理対象信号のサンプル数Nとの和である2Nで除算し、第1の期間T51および第2の期間T52の両方における処理対象信号の値の平均値を算出する。
【0074】
そして、CFAR処理部426の演算器540は、検出タイミングt50における処理対象信号の値から、演算器530の演算結果としての平均値を減算し、差分信号550を取得する。
【0075】
このように、実施形態にかかるCFAR処理部416は、受信波に応じた処理対象信号をサンプリングし、ある検出タイミングで受信された受信波に応じた(少なくとも)1サンプル分の処理対象信号の値と、検出タイミングの前後に存在する所定の時間長の第1の期間および第2の期間のうち少なくとも一方において受信された受信波に応じた複数サンプル分の処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づく差分信号を取得する。
【0076】
なお、実施形態では、CFAR処理として、上述したCA-CFAR処理の他、GO-CFAR(Greatest Of Constant False Alarm Rate)処理およびSO-CFAR(Smallest Of Constant False Alarm Rate)処理など、性質の異なる複数の処理が考えられる。実施形態にかかるCFAR処理部426は、これら複数の処理のうち1つのみを実行するように構成されていてもよいし、複数の処理を選択的に使い分けて実行するように構成されていてもよい。
【0077】
図6は、実施形態にかかるCFAR処理の前後の信号の波形の例を示した例示的かつ模式的な図である。
【0078】
図6に示される例において、実線L601の波形は、CFAR処理の前の信号、すなわち処理対象信号の値(信号レベル)の時間変化を表す波形であり、破線L602の波形は、CFAR処理の後の信号、すなわち差分信号の値(信号レベル)の時間変化を表す波形である。
【0079】
図6に示されるように、実線L601の波形と破線L602の波形とは、実質的に同じタイミングt600でピークを迎える。したがって、二点鎖線L610のような適切な閾値を設定し、当該閾値を用いて、破線L602の波形がピークを迎えるタイミングt600を検出すれば、実線L601の波形がピークを迎えるタイミングt600も検出することができる。
【0080】
以上を踏まえて、図4に戻り、閾値処理部427は、CFAR処理部426により取得された差分信号の値(信号レベル)と所定の閾値とを比較する。
【0081】
そして、検出処理部428は、閾値処理部427による処理結果に基づいて、差分信号の値が所定の閾値を超えたピークを迎えるタイミングを検出する。
【0082】
ここで、前述した通り、差分信号の値がピークを迎えるタイミングは、反射により戻ってきた送信波としての受信波の信号レベルがピークを迎えるタイミングと実質的に一致する。したがって、差分信号の値がピークを迎えるタイミングを検出することが可能なように予め決められた適切な閾値が閾値処理部427に設定されていれば、検出処理部428は、差分信号の値が所定の閾値を超えたピークを迎えるタイミングを、反射により戻ってきた送信波としての受信波の信号レベルが閾値を超えたピークを迎えるタイミングとして特定し、TOF法により、物体までの距離を検出することができる。
【0083】
なお、実施形態において、図4に示される各構成は、次の図7に示されるような機能を備えたECU100による制御のもとで動作しうる。
【0084】
図7は、実施形態にかかるECU100の機能を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0085】
図7に示されるように、実施形態にかかるECU100は、送信処理部710と、受信処理部720と、取得処理部730と、識別処理部740と、走行制御処理部750と、を備えている。
【0086】
送信処理部710は、距離検出装置200の送信側の構成を制御する。たとえば、送信処理部710は、符号生成部412によるパルス信号の生成のタイミング、および搬送波出力部413による搬送波の出力のタイミングなどを制御する。
【0087】
また、受信処理部720は、距離検出装置200の受信側の構成を制御する。たとえば、受信処理部720は、相関処理部424による相関値の取得の開始のタイミングなどを制御する。
【0088】
取得処理部730は、距離検出装置200から、CFAR処理の後の差分信号に基づいて検出された物体までの距離と、当該物体までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、を取得する。距離検出装置200は、物体までの距離を時間の経過に応じて複数回検出するので、取得処理部730は、物体までの距離および処理対象信号の値を、複数の検出タイミングに対応した分、それぞれ複数ずつ取得する。
【0089】
そして、識別処理部740は、取得処理部730により取得されたデータに基づいて、物体を識別する。より具体的に、識別処理部740は、物体までの距離と、当該物体までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、の時間の経過に応じた遷移に基づいて、物体を識別する。
【0090】
より詳細に、識別処理部740は、以下に説明するような技術的思想により、車両1の進行方向正面に設けられた物体の高さを識別する。
【0091】
図8は、実施形態において検出対象の物体の高さが高い状況を示した例示的かつ模式的な図である。
【0092】
図8に示される例において、車両1は、所定以上の高さを有する物体としての壁Wに近づくように後退する。このとき、車両1に設けられる距離検出装置200は、矢印A800に沿って、位置P801から位置P802へと移動する。
【0093】
なお、図8に示される例において、ハッチングが付された領域Rは、距離検出装置200により送信される超音波の指向性の範囲を示している。
【0094】
位置P801にある距離検出装置200は、矢印A811方向に超音波を送信し、壁Wでの反射により矢印A812方向に戻ってきた超音波を受信する。また、位置P802にある距離検出装置200は、矢印A821方向に超音波を送信し、壁Wでの反射により矢印A822方向に戻ってきた超音波を受信する。
【0095】
図8に示されるように、矢印A811と矢印A821とは、壁Wに正面から向かう方向として一致し、矢印A812と矢印822とは、当該方向とは反対の方向として一致する。このような一致は、検出対象の物体が、距離検出装置200の設置位置以上の高さを有する壁Wのような物体である場合に発生する。
【0096】
ここで、位置P801での送信時点における超音波の強さと、位置P802での送信時点における超音波の強さとは、同じである。したがって、位置P801から送信されて位置P801に戻ってくる超音波の強さと、位置P802から送信された位置P802に戻ってくる超音波の強さとを比較すると、超音波の飛行距離が短い後者の方が大きい。
【0097】
上記を踏まえると、検出対象の物体が、距離検出装置200の設置位置以上の高さを有する壁Wのような物体である場合、物体までの距離と、当該物体までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、の時間の経過に応じた遷移は、時間の経過に応じて物体までの距離がある程度以下に小さくなるほど処理対象信号の値が大きくなるという第1の傾向を示すと言える。
【0098】
したがって、実施形態において、識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移が上記の第1の傾向を示す場合に、検出対象の物体を、所定以上の高さを有する上記の壁Wのような物体として識別する。
【0099】
一方、図9は、実施形態において検出対象の物体の高さが低い状況を示した例示的かつ模式的な図である。
【0100】
図9に示される例において、車両1は、所定未満の高さを有する物体としての縁石Cに近づくように後退する。このとき、車両1に設けられる距離検出装置200は、矢印A900に沿って、位置P901から位置P902へと移動する。
【0101】
なお、図9に示される例において、ハッチングが付された領域Rは、図8に示される例と同様、距離検出装置200により送信される超音波の指向性の範囲を示している。
【0102】
位置P901にある距離検出装置200は、矢印A911方向に超音波を送信し、縁石Cでの反射により矢印A912方向に戻ってきた超音波を受信する。また、位置P902にある距離検出装置200は、矢印A921方向に超音波を送信し、縁石Cでの反射により矢印A922方向に戻ってきた超音波を受信する。
【0103】
ここで、位置P901で送信されて位置P901に戻ってくる超音波の強さと、位置P902で送信された位置P902に戻ってくる超音波の強さとを比較すると、超音波の飛行距離が短い後者の方が大きくなるようにも考えられる。
【0104】
しかしながら、位置P902から矢印A911の方向に送信される超音波は、位置P901から矢印A921の方向に送信される超音波よりも、超音波の指向性の範囲から外れる。このような状況は、検出対象の物体が、距離検出装置200の設置位置未満の高さを有する壁Wのような物体である場合に発生する。
【0105】
したがって、超音波の飛行距離だけでなく指向性まで考慮すると、位置P901から送信されて位置P901に戻ってくる超音波の強さと、位置P902から送信された位置P902に戻ってくる超音波の強さとを比較すると、後者の方が小さいと言える。
【0106】
上記を踏まえると、検出対象の物体が、距離検出装置200の設置位置未満の高さを有する縁石Cのような物体である場合、物体までの距離と、当該物体までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、の時間の経過に応じた遷移は、時間の経過に応じて物体までの距離がある程度以下に小さくなるほど処理対象信号の値が小さくなるという第2の傾向を示すと言える。
【0107】
したがって、実施形態において、識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移が上記の第2の傾向を示す場合に、検出対象の物体を、所定未満の高さを有する上記の縁石Cのような物体として識別する。
【0108】
ここで、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移が第1の傾向を示すか第2の傾向を示すかの判定は、次の図10に示されるような、物体までの距離と処理対象信号の値との対応関係に関して予め決められた閾値に基づいて実行される。
【0109】
図10は、実施形態にかかる物体の識別に用いる閾値の例を示した例示的かつ模式的な図である。
【0110】
図10に示される例において、△でプロットされた複数の点は、検出対象の物体が壁Wである場合における物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移を表している。また、□でプロットされた複数の点は、検出対象の物体が縁石Cである場合における物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移を表している。
【0111】
実施形態では、△でプロットされた複数の点と、□でプロットされた複数の点とは、両者の間を通る一点鎖線L1010で示される閾値によって区別することが可能である。この一点鎖線L1010は、超音波の反射率がどのような物体であっても成立するように、実験などにより予め決められる。
【0112】
なお、図10に示される例において、一点鎖線L1010で示される閾値は、物体までの距離によらずに処理対象信号の値が一定となる区間を含んでいる。これは、物体までの距離がある程度以上大きくなると、たとえば送受信される方向などのような、物体との間での超音波の送受信の態様が、検出対象の物体の高さによらず実質的に一定とみなすことができるからである。実際に、図10に示される例において、△でプロットされた複数の点は、物体までの距離がある程度以上大きい区間において、処理対象信号の値が実質的に同一となっており、□でプロットされた複数の点も、物体までの距離がある程度以上大きい区間において、処理対象信号の値が実質的に同一となっている。
【0113】
上記を踏まえて、実施形態において、識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移と、上記の一点鎖線L1010のような閾値と、の比較結果に基づいて、当該遷移が第1の傾向を示すか第2の傾向を示すかを判定する。
【0114】
たとえば、識別処理部740は、物体までの距離に対する処理対象信号の値が上記の閾値を上回る値として遷移する場合に、当該遷移が第1の傾向を示すと判定し、物体までの距離に対する処理対象信号の値が上記の閾値を下回る値として遷移する場合に、当該遷移が第2の傾向を示すと判定する。
【0115】
ただし、超音波の送受信は、環境によって左右されやすいので、判定結果の精度を向上させるためには、上記の閾値を用いた比較を複数回実行した方が望ましい。したがって、実施形態において、識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移と閾値との複数回の比較結果に基づいて、当該遷移が第1の傾向を示すか第2の傾向を示すかを判定する。
【0116】
ところで、図10に示される例において、〇でプロットされた複数の点は、検出対象の物体が人である場合における物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移を表している。一般に、人は、距離検出装置200の設置位置以上の高さを有しているので、〇でプロットされた複数の点は、△でプロットされた複数の点と同様、第1の傾向を示している。
【0117】
しかしながら、一般に、人は、表面が柔らかいので、表面が硬いことが一般的である壁Wよりも超音波の反射率が小さい。したがって、〇でプロットされた複数の点は、全体として、△でプロットされた複数の点よりも、物体までの距離に対する処理対象信号の値が小さくなっている。
【0118】
このように、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移が示す傾向が同じであったとしても、当該遷移の具体的な態様は物体の種別に応じて異なる。
【0119】
したがって、実施形態では、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移の具体的な態様と物体の種別との対応関係を示すマップなどが予め設定されていれば、識別処理部740は、物体の高さだけでなく物体の種別まで識別することも可能である。
【0120】
図7に戻り、走行制御処理部750は、識別処理部740による識別結果に応じて、車両1の走行状態を制御する。走行制御処理部750は、車両1の加速機構を制御する加速システム、車両1の制動機構を制御する制動システム、車両1の操舵機構を制御する操舵システム、および車両1の変速機構を制御する変速システムなどを制御することで、車両1の走行状態を制御する。
【0121】
たとえば、駐車などの際に車両1が壁Wに向かって後退走行で移動する場合、車体2の後端部が壁Wに接触する前に車両1を停止させる必要がある。したがって、走行制御処理部750は、識別処理部740の識別結果に基づいて、車両1の進行方向に壁Wが存在することが確認された場合、車体2の後端部が壁Wに接触する手前まで車両1が移動を継続するように、車両1の走行制御システムを制御する。
【0122】
一方、車両1が縁石Cに向かって後退走行で移動する場合、車体2の後端部が縁石Cに接触することはないので、後輪3Rが接触するまで車両1を移動させることができる。したがって、走行制御処理部750は、識別処理部740の識別結果に基づいて、車両1の進行方向に縁石Cが存在することが確認された場合、車体2の後端部ではなく後輪3Rが縁石Cに接触する以前まで車両1が移動を継続するように、車両1の走行制御システムを制御する。
【0123】
以上の構成に基づき、実施形態にかかる物体検出システムは、次の図11に示されるような処理を実行する。図11に示される一連の処理は、たとえば所定の制御周期で繰り返し実行されうる。
【0124】
図11は、実施形態にかかる物体検出システムが実行する処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0125】
図11に示されるように、実施形態では、まず、S1101において、距離検出装置200の送波器411は、たとえばECU100の送信処理部710による制御のもとで、所定の識別情報が付与された送信波を送信する。
【0126】
そして、S1102において、距離検出装置200の受波器421は、S1101で送信された送信波に応じた受信波を受信する。そして、距離検出装置200の相関処理部424は、たとえばECU100の受信処理部720の制御のもとで、送信波と受信波との識別情報の類似度に応じた相関値の取得を開始する。
【0127】
そして、S1103において、距離検出装置200のCFAR処理部426は、CFAR処理を実行する。CFAR処理の結果として取得される差分信号の値は、閾値処理部427により、所定の閾値と比較される。
【0128】
そして、S1104において、距離検出装置200の検出処理部428は、物体が検出されたか否か、より具体的には、CFAR処理の結果として取得される差分信号の値が所定の閾値を超えたピークを迎えたか否か、を判定する。
【0129】
S1104において、物体が検出されていないと判定された場合、処理が終了する。しかしながら、S1104において、物体が検出されたと判定された場合、S1105に処理が進む。
【0130】
そして、S1105において、距離検出装置200の検出処理部428は、差分信号の値が所定の閾値を超えたピークを迎えるタイミングを、反射により戻ってきた送信波としての受信波の信号レベルがピークを迎えるタイミングとして特定し、TOF法により、物体までの距離を検出する。
【0131】
なお、S1105における物体までの距離の検出結果は、CFAR処理前の処理対象信号の値とともに、距離検出装置200からECU100へと通知される。前述した通り、図11に示される一連の処理は、所定の制御周期で繰り返し実行されうるので、物体までの距離と処理対象信号の値との対応関係は、複数回にわたって距離検出装置200からECU100へと通知されうる。
【0132】
そして、S1106において、ECU100の識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との遷移に基づいて、物体を識別する。なお、物体の識別方法の例については、既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0133】
そして、S1107において、ECU100の走行制御処理部750は、S1106における識別結果に基づいて、車両1の走行状態を制御する。なお、車両1の走行状態の制御の態様の例についても、既に説明したため、ここでは説明を省略する。そして、処理が終了する。
【0134】
以上説明したように、実施形態にかかる物体検出システムは、送波器411と、受波器421と、CFAR処理部426と、検出処理部428と、識別処理部740と、を備えている。送波器411は、送信波を送信する。受波器421は、物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波を受信する。CFAR処理部426は、受信波に応じた処理対象信号をサンプリングし、ある検出タイミングで受信された受信波に応じた少なくとも1サンプル分の処理対象信号の値と、検出タイミングの前後に存在する所定の時間長の第1の期間および第2の期間のうち少なくとも一方において受信された受信波に応じた複数サンプル分の処理対象信号の値の平均値と、の差分に基づく差分信号を取得する。検出処理部428は、差分信号の値に基づいて、検出タイミングにおける物体までの距離を、時間の経過に応じて複数回検出する。識別処理部740は、物体までの距離と、当該物体までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、の時間の経過に応じた遷移に基づいて、物体を識別する。
【0135】
上述した物体検出システムによれば、差分信号の値に基づいて物体までの距離を検出することができるとともに、当該距離と処理対象信号の値との遷移に基づいて、物体を識別することができる。したがって、物体までの距離の検出結果とともに当該物体の識別結果を得ることができる。
【0136】
ここで、実施形態において、識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との遷移が、物体までの距離が所定以下に小さいほど処理対象信号の値が大きいという第1の傾向を示すか、または、物体までの距離が所定以下に小さいほど処理対象信号の値が小さいという第2の傾向を示すかに応じて、物体を識別する。このような構成によれば、物体までの距離と処理対象信号の値との遷移の傾向に基づいて、物体の識別を的確に実行することができる。
【0137】
より具体的に、実施形態において、識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との遷移と、物体までの距離と処理対象信号の値との対応関係に関して予め決められた閾値と、の比較結果に基づいて、当該遷移が第1の傾向を示すか第2の傾向を示すかを判定する。このような構成によれば、物体までの距離と処理対象信号の値との遷移の傾向に基づく物体の識別を、閾値を用いて簡単に実行することができる。
【0138】
また、実施形態において、識別処理部740は、上記の遷移と閾値との複数回の比較結果に基づいて、遷移が第1の傾向を示すか第2の傾向を示すかを判定する。このような構成によれば、たとえば遷移と閾値との複数回の1回の比較結果だけを考慮する場合に比べて、複数回の比較結果を考慮することで、物体の識別をより精度よく実行することができる。
【0139】
また、実施形態において、送波器411および受波器421は、車両1に搭載されている。そして、識別処理部740は、物体までの距離と処理対象信号の値との遷移が第1の傾向を示すかまたは第2の傾向を示すかに応じて、車両1の進行方向正面に設けられた物体の高さを識別する。このような構成によれば、検出された物体がたとえば壁W(図8参照)であるか縁石C(図9参照)であるかの識別のような、車両1の走行に関わる情報の識別を容易に実行することができる。
【0140】
なお、実施形態にかかる物体検出システムは、識別処理部740による識別結果に応じて車両1の走行状態を制御する走行制御処理部750も備えている。このような構成によれば、物体までの距離の検出結果とともに当該物体の識別結果を利用して、車両1の走行状態を適切に制御することができる。
【0141】
<変形例>
なお、上述した実施形態では、本開示の技術が、超音波の送受信によって物体までの距離を検出する構成に適用されている。しかしながら、本開示の技術は、音波、ミリ波、レーダ、および電磁波などのような、超音波以外の他の波動の送受信によって物体までの距離を検出する構成にも適用することが可能である。
【0142】
また、上述した実施形態では、物体を識別する機能としての識別処理部740がECU100に設けられた構成が例示されている。しかしながら、本開示の技術は、物体を識別する機能が距離検出装置200に設けられていてもよい。
【0143】
また、上述した実施形態では、物体を識別する機能としての識別処理部740と車両1の走行状態を制御する機能としての走行制御処理部750とが単一のECU100に設けられた構成が例示されている。しかしながら、物体を識別する機能と、車両1の走行状態を制御する機能とは、別々のECUに設けられていてもよい。
【0144】
また、上述した実施形態では、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移を考慮する本開示の技術が、物体の高さを識別する構成が例示されている。しかしながら、本開示の技術は、次の図12に示されるように、車両1の進行方向に対する物体の位置の識別、より具体的には車両1の進行方向の正面に存在する物体であるか否かの識別にも利用することが可能である。
【0145】
図12は、変形例にかかる物体の識別を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0146】
図12に示される例において、車両1は、2つの物体X1およびX2に近づくように、矢印A1200の方向に後退する。このとき、車両1に設けられる距離検出装置200も、矢印A1200の方向に移動する。なお、図12に示される例において、ハッチングが付された領域Rは、距離検出装置200により送信される超音波の指向性の範囲を示している。
【0147】
物体X1は、距離検出装置200に対して車両1の進行方向の正面に存在している。したがって、物体X1は、距離検出装置200から車両1の進行方向を示す矢印A1200と同じ矢印A1211の方向に送信される送信波を反射する。そして、物体X1により反射された送信波は、矢印A1211とは逆向きの矢印A1212の方向に飛行することで、距離検出装置200により受信波として受信される。
【0148】
また、物体X2は、距離検出装置200に対して車両1の進行方向の正面からずれた位置に存在している。したがって、物体X2は、距離検出装置200から車両1の進行方向を示す矢印A1200とは異なる矢印A1221の方向に送信される送信波を反射する。そして、物体X2により反射された送信波は、矢印A1221とは逆向きの矢印A1222の方向に飛行することで、距離検出装置200により受信波として受信される。
【0149】
ここで、図12に示される例において、物体X1との間での超音波の送受信は、図8に示される壁Wとの間での超音波の送受信と同様に解釈することができる。このため、図12に示される例において、物体X1までの距離と、当該物体X1までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、の時間の経過に応じた遷移は、時間の経過に応じて物体X1までの距離がある程度以下に小さくなるほど処理対象信号の値が大きくなるという第1の傾向を示すことになる。
【0150】
したがって、変形例では、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移が第1の傾向を示すことに基づいて、検出対象の物体が、車両1の進行方向の正面に存在する上記の物体X1のような、車両1の走行の障害となる可能性が高い障害物であると識別されうる。
【0151】
一方、図12に示される例において、物体X2との間での超音波の送受信は、図9に示される縁石Cとの間での超音波の送受信と同様に解釈することができる。このため、図12に示される例において、物体X2までの距離と、当該物体X2までの距離が検出された検出タイミングにおける処理対象信号の値と、の時間の経過に応じた遷移は、物体X2までの距離がある程度以下に小さくなるほど処理対象信号の値が小さくなるという第2の傾向を示すことになる。
【0152】
したがって、変形例では、物体までの距離と処理対象信号の値との時間の経過に応じた遷移が第2の傾向を示すことに基づいて、検出対象の物体が、車両1の進行方向の正面からずれた位置に存在する上記の物体X2のような、車両1の走行の障害となる可能性が低い非障害物であると識別されうる。
【0153】
このように、本開示の技術は、車両1の進行方向に対する物体の高さの識別のみならず、物体の位置の識別にも利用することで、検出された物体がたとえば車両1の進行方向の正面に存在しているか車両1の進行方向からずれた位置に存在しているかの識別のような、車両1の走行に関わる情報の識別を容易に実行しうる。
【0154】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0155】
1 車両
100 ECU
200 距離検出装置
411 送波器(送信部)
421 受波器(受信部)
426 CFAR処理部(信号処理部)
428 検出処理部
740 識別処理部
750 走行制御処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12