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特許7367586導電ペースト、導電膜、積層体及び電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】導電ペースト、導電膜、積層体及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20231017BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20231017BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20231017BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B5/14 Z
H05K1/09 A
H05K1/02 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020061720
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021097026
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019225624
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中里 睦
(72)【発明者】
【氏名】大庭 一敏
(72)【発明者】
【氏名】松田 雪恵
(72)【発明者】
【氏名】水野 雄貴
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/5204(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/114339(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 5/14
H05K 1/09
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール基を有するエラストマー(A)と、銀粒子又は銀被覆粒子(B)とを含有する導電ペーストであって、
前記エラストマー(A)の固形分中のチオール基濃度が、0.001~0.250mmol/gであることを特徴とする導電ペースト。
【請求項2】
前記エラストマー(A)の数平均分子量が、10,000~500,000であることを特徴とする請求項1記載の導電ペースト。
【請求項3】
前記エラストマー(A)が、末端領域にチオール基を有するエラストマー(A1)であることを特徴とする請求項1又は2記載の導電ペースト。
【請求項4】
前記エラストマー(A)が、ガラス転移温度を20℃以上の温度領域及び20℃未満の温度領域にそれぞれ1つ以上有することを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の導電ペースト。
【請求項5】
銀粒子又は銀被覆粒子(B)が、連鎖状銀粉であって、タップ密度が2.0g/cm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の導電ペースト。
【請求項6】
導電ペーストが、さらに沸点が180℃以上270℃以下の溶剤を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の導電ペースト。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか記載の導電ペーストから形成されることを特徴とする導電膜。
【請求項8】
基材上に、請求項7記載の導電膜を備える積層体。
【請求項9】
前記基材が、伸縮性を有する基材であることを特徴とする請求項8記載の積層体。
【請求項10】
請求項7記載の導電膜を有する電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿熱性が高く、伸縮可能な電極や配線に好適な導電膜を作製するための導電ペーストに関する。さらに、前記導電ペーストから形成されてなる導電膜、積層体及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業分野において導電材料が用いられており、これらの材料の更なる高機能化に関して種々の提案がなされている。特に近年は、フレキシブル性や伸縮性を備える導電膜の開発が進み、アクチュエータ用途やウェアラブルセンサー用途へ向けた提案がなされている。
特許文献1には、低コストで高い耐久性を有する、伸縮性導電皮膜を得るための導電性ペーストが開示されている。表面処理が施されていない銀被覆粒子を用い、さらに特定の添加材を組み合わせることにより、被膜伸長時に高い導電性が得られることが開示されている。
特許文献2には、ブロック共重合体と、特定の銀粉とを組み合わせることによって、著しく伸縮性が向上した導電体を得ることができる導電性組成物が開示されている。
特許文献3には、塗布又は印刷可能であり、さらに伸縮可能で、しかも高導電率の導電性膜を実現することができる優れた導電性ペーストが開示されている。この導電性ペーストによって形成された導電性膜は、有効な導電性のネットワークを形成するために高導電性であり、また導電材料(金属ナノワイヤ)の高いアスペクト比に起因して、伸長時にも導電性ネットワークが破断しないために、伸長時でもその高導電性を保持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/159374号
【文献】国際公開第2017/026130号
【文献】特許第6319085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体センシング等のヘルスケア機器、ウェアラブル機器、並びにロボティックス等の分野の進展に伴い、伸縮性に優れた導電材料が求められている。これら用途では、従来求められていた導電性のみならず、加工時又は/及び使用時に曲面部や可動部に追随可能な伸縮性が求められる。
【0005】
また、曲面部や可動部に導電材料を用いると、繰り返し伸縮に伴う樹脂の構造破壊によって、樹脂自身にクラックが発生しやすいという問題がある。特に、導電材料の場合には導電材を添加する場合がほとんどであり、伸長収縮の変形時に樹脂から導電材が剥離して樹脂中に空隙(ボイド)が発生し、そこを起点としてクラックが生じやすくなる。その結果、伸縮を重ねるごとに導電性が低下してしまう問題がある。
さらにヘルスケア機器、ウェアラブル機器、並びにロボティックス等の分野において、高温高湿等過酷な環境下でも機器が作動し続ける必要があるが、高温高湿環境下では塗膜構造が変化しやすく、導電性を低下してしまう問題もある。
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、伸縮性に優れ、伸長時にクラックの発生を効果的に抑制でき、高温高湿環境下を経ても導電性を維持する導電ペースト、前記導電ペーストから形成されてなる導電膜、積層体及びこの導電膜を含む電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一の発明は、チオール基を有するエラストマー(A)と、銀粒子又は銀被覆粒子(B)とを含有する導電ペーストであって、前記エラストマー(A)の固形分中のチオール基濃度が、0.001~0.250mmol/gであることを特徴とする導電ペーストに関する。
【0008】
また、第二の発明は、前記エラストマー(A)の数平均分子量が、10,000~500,000であることを特徴とする第一の発明の導電ペーストに関する。
【0009】
また、第三の発明は、前記エラストマー(A)が、末端領域にチオール基を有するエラストマー(A1)であることを特徴とする第一又は第二の発明の導電ペーストに関する。
【0010】
また、第四の発明は、前記エラストマー(A)が、ガラス転移温度を20℃以上の温度領域及び20℃未満の温度領域にそれぞれ1つ以上有することを特徴とする第一から第三の発明のいずれかの発明の導電ペーストに関する。
【0011】
また、第五の発明は、銀粒子又は銀被覆粒子(B)が、連鎖状銀粉であって、タップ密度が2.0g/cm以下あることを特徴とする第一から第四の発明のいずれかの発明の導電ペーストに関する。
【0012】
また、第六の発明は、導電ペーストが、さらに沸点が180℃以上270℃以下の溶剤を含有することを特徴とする第一から第五の発明のいずれかの発明の導電ペーストに関する。
【0013】
また、第七の発明は、第一から第六の発明のいずれかの導電ペーストから形成されることを特徴とする導電膜に関する。
【0014】
また、第八の発明は、基材上に、第七の発明の導電膜を備える積層体に関する。
【0015】
また、第九の発明は、前記基材が、伸縮性を有する基材であることを特徴とする第八の積層体に関する。
【0016】
また、第十の発明は、第七記載の導電膜を有する電子デバイスに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、伸縮性に優れ、伸長時にクラックの発生を効果的に抑制でき、高温高湿環境下を経ても導電性を維持する導電ペースト、前記導電ペーストから形成されてなる導電膜、積層体及びこの導電膜を含む電子デバイスを提供できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した導電ペースト、導電膜、積層体及び電子デバイスの製造方法における実施形態の一例について詳細に説明する。本明細書において特定する数値は、実施形態又は実施例に開示した方法により求められる値である。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。また、本発明のフィルムは、シート、テープ及びラベルと同義である。また、特に言及しない限り、各種成分は、それぞれ独立に、単独又は2種類以上を併用できる。
【0019】
<導電ペースト>
本発明の導電性ペーストは、チオール基を有するエラストマー(A)と、銀粒子又は銀被覆粒子(B)とを含有し、前記チオール基を有するエラストマー(A)の固形分中のチオール基濃度は、0.001~0.250mmol/gである。さらに本発明の導電ペーストに溶剤を加えてもよい。銀粒子又は銀被覆粒子(B)がエラストマー(A)及び/又は溶剤(S)中の全体にわたり、分散されていることを特徴とする。
【0020】
<チオール基を有するエラストマー(A)>
本発明で使用するチオール基を有するエラストマー(A)は、エラストマー(A)の固形分中のチオール基濃度が、0.001~0.25mmol/gであれば、エラストマーの種類は特に限定されず、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)等の炭化水素系エラストマーやその水添エラストマー、シリコーンエラストマー、フッ素エラストマー、ウレタンエラストマー、アクリルエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリイミドエラストマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。又は2種以上のエラストマーを化学的に結合した複合エラストマーでもよい。
これらのなかでは、伸縮性の点からシリコーンエラストマー、ウレタンエラストマー、アクリルエラストマーが好ましく、さらに基材との密着性の点から、ウレタンエラストマー及びアクリルエラストマーが好ましい。
なお、ここで言うエラストマーとは、弾性の顕著な高分子物質のことであり、張力を受けるとエネルギーの散逸に伴う発熱等がなく迅速に伸長し、張力を除くと元の長さに戻る材料のことである。
【0021】
上記ウレタンエラストマー(A)は、少なくともポリオール成分とイソシアネート成分とが反応して得られる樹脂の末端イソシアネート基に対して、チオール基とアミノ基を有する化合物のアミノ基、又は、チオール基と水酸基を有する化合物の水酸基、を反応させることにより、合成することができる。
チオール基とアミノ基を有する化合物としては、例えば、システアミンやシステイン、11-アミノー1-ウンデカンチオール、8-アミノー1-オクタンチオール、6-アミノー1-ヘキサンチオール等が挙げられ、チオール基と水酸基を有する化合物としては、メルカプトエタノール、1-チオグリセロール、2-チオグリセロール等が挙げられる。
【0022】
ウレタンエラストマーとしては、例えば、オレフィン系ポリオールをポリオール成分とするオレフィン系ウレタンエラストマー、エステル系ポリオールをポリオール成分とするエステル系ウレタンエラストマー、エーテル系ポリオールをポリオール成分とするエーテル系ウレタンエラストマー、カーボネート系ポリオールをポリオール成分とするカーボネート系ウレタンエラストマー、ひまし油系ポリオールをポリオール成分とするひまし油系ウレタンエラストマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
また、上記ウレタンエラストマーは、2種以上の上記ポリオール成分を併用したものであってもよい。
【0023】
上記ポリオール成分としては、例えば、
エポール(出光興産社製)等のオレフィン系ポリオール;
ポリライトRX―4800等のポリライトシリーズ(DIC社製)や、P-1010やP-2050、F-2010等のクラレポリオールシリーズ(クラレ社製)等のエステル系ポリオール;
Pシリーズや、Gシリーズ、EDPシリーズ等のADEKAポリエーテル(ADEKA社製)や、PTGやPTG-Lシリーズ(保土谷化学工業社製)、プレミノールシリーズやプレミノールSシリーズ(旭硝子社製)等のエーテル系ポリオール;
ベネビオールシリーズ(三菱化学社製)や、クラレポリオールCシリーズ等のカーボネート系ポリオール;
URICシリーズ各種、POLYCASTORシリーズ等のひまし油系ポリオール等が挙げられる。
【0024】
イソシアネート成分としては、例えば、
1,3-及び1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-及び2,6-トリレンジイソシアネート(以下においてTDIと略記することがある。)、粗製TDI、2,4’-及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下においてMDIと略記することがある。)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(粗製MDI)、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート並びにトリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;
1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネート等の直鎖又は分岐脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート及びノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;
キシリレンジイソシアネート及びα,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ポリイソシアネート;
上記イソシアネート成分のウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、イソシアヌレート基及びオキサゾリドン基含有変性物等の変性物が挙げられる。
イソシアネート成分は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記アクリルエラストマーは、エチレン性不飽和単量体を熱重合開始剤により重合させて得られる重合体であるが、チオール基は、例えば以下2つの方法で導入することができる。
【0026】
1つ目は、イソシアネート基を含有するエチレン性不飽和単量体を重合して得られる重合体中のイソシアネート基に対して、チオール基とアミノ基を有する化合物のアミノ基、又は、チオール基と水酸基を有する化合物の水酸基、を反応させることにより、チオール基を含有するアクリルエラストマーを合成することができる。
【0027】
2つ目は、キサントゲン酸エステルを含有するエチレン性不飽和単量体を重合して得られる重合体中のキサントゲン酸エステル基に対して、アミンを作用させることによりチオール基を含有するアクリルエラストマーを合成することができる。
【0028】
イソシアネート基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート等が挙げられる。ここで(メタ)アクリレートとは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
チオール基とアミノ基を有する化合物及びチオール基と水酸基を有する化合物は、上述と同様の化合物を使用することができる。
【0029】
キサントゲン酸エステルを含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、O-エチル-S-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボジチオエート、O-エチル-S-アクリロイルオキシエチルカルボジチオエート等が挙げられる。ここで(メタ)アクリロイルとは、メタクリロイル又はアクリロイルを意味する。
【0030】
重合体中のキサントゲン酸エステル基に対して作用させるアミンとしては、例えば、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルアミン、フェネチルアミンが挙げられる。
【0031】
イソシアネート基を含有するエチレン性不飽和単量体又はキサントゲン酸エステルを含有するエチレン性不飽和単量体は、単独で重合してもよいし、その他のエチレン性不飽和単量体と共重合してもよい。
共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート類;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類;
グリシジル(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート等の複素環式(メタ)アクリレート類;
メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、イソブチル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド、及びt-オクチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等のN 置換型(メタ)アクリルアミド類;
N-メチレンアリルアミン、N-(2,2-ジメチルプロピリデン)アリルアミン、N-(2-フリルメチレン)アリルアミン、N-ベンジリデンアリルアミン、N-(4-メチルベンジリデン)アリルアミン、N-(4-クロロベンジリデン)アリルアミン等のN- アルキレンアリルアミン;
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;並びに、
片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレートオリゴマー、片末端メタクリロイル化ポリスチレンオリゴマー、及び片末端メタクリロイル化ポリエチレングリコール等の重合性オリゴマー等があげられる。
【0032】
更に、スチレン、α-メチルスチレン、p-ヒドロキシスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、インデン等のスチレン類、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類があげられる。
【0033】
重合の際、エチレン性不飽和単量体(f)100重量部に対して、任意に0.001~5重量部の重合開始剤を使用することができる。重合開始剤としては、アゾ系化合物及び有機過酸化物を用いることができる。
また、分子量分布やブロック共重合体を合成することを目的にリビング重合によりアクリルエラストマーを得てもよい。リビング重合としては、例えば、原子移動ラジカルリビング重合、可逆的付加開裂連鎖移動型リビング重合、有機テルル化合物を用いたリビング重合、ヨウ素化合物等の有機触媒を用いたリビングラジカル重合等が挙げられる。
リビング重合を用いることで一次構造が制御されたブロック共重合体や星型ポリマー、くし形ポリマー等を合成することができる。
【0034】
溶液重合の場合には、重合溶媒として、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、シクロヘキサノン、イソホロン等が用いられるが特にこれらに限定されるものではない。これらの重合溶媒は、2種類以上混合して用いてもよいが、最終用途で使用する溶剤であることが好ましい。
【0035】
本発明で使用するエラストマー(A)の数平均分子量Mnは、後述する実施例に記載の方法で求められる値である。Mnは、10,000~500,000が好ましい。この範囲とすることにより、エラストマー(A)を例えばフィルムに成型した場合、伸縮性と強度を両立することができる。Mnの好ましい範囲は10,000~400,000であり、より好ましい範囲は30,000~300,000である。
【0036】
本発明で使用するエラストマー(A)は、ガラス転移温度Tgを、20℃以上の温度領域及び20℃未満の温度領域にそれぞれ1つ以上有することが、伸縮性に優れ、伸長時にクラックの発生を効果的に抑制できる点から好ましい。
より好ましくは、Tgが、60℃以上180℃以下と、-70℃以上0℃以下の温度領域に1つずつあることが好ましく、さらに好ましくは90℃以上180℃以下と、-60℃以上-30℃以下の温度領域に1つずつあることが好ましい。
【0037】
本発明で使用するエラストマーは、可塑剤、酸化防止剤、老化防止剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0038】
本発明で使用するエラストマー(A)の固形分中のチオール基濃度は0.001~0.250mmol/gである。チオール基濃度が0.001mmol/g未満であれば、湿熱耐性が得られず、0.250mmol/gより大きくなると、銀の分散性が悪化し、さらに臭気がひどい。さらに好ましくは、0.015~0.100mmol/gである。
【0039】
エラストマー(A)中のチオール基は、エラストマーの化学構造の末端領域にあることが好ましい。チオール基が末端領域にあることで、導電塗膜の伸縮性が向上することがある。ここでいう末端領域とは、末端の元素から30原子以内の領域であることを意味する。
【0040】
<銀粒子又は銀被覆粒子(B)>
次に、本発明で使用する銀粒子又は銀被覆粒子(B)を説明する。銀粒子又は銀被覆粒子(B)とは、銀からなる粒子状物質又は銀により被覆された導電粒子又は非導電粒子であればよい。
上記導電粒子としては、例えば、
金、白金、銅、パラジウム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫等の金属;黄銅、青銅、白銅、半田等の合金;
カーボン、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;
ITO、IZO等の導電性セラミックフィラー;
ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリン等の導電性高分子;が挙げられる。
上記非導電粒子としては、例えば、アクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチック粒子が挙げられ、ゴムのように変形可能な柔らかくても、硬くてもよい。
これら導電粒子又は非導電粒子に銀をコートしたりめっきすることにより、銀被覆粒子を得ることができる。
【0041】
本発明で使用する銀粒子又は銀被覆粒子(B)の形状は、特に限定されず、例えば、球状、連鎖・球状、フレーク(鱗片)状、樹枝(デンドライト)状、コイル状(螺旋形状、スパイラル形状含む)が挙げられる。樹枝状とは、棒状の主枝から分岐枝が2次元又は3次元方向に延びた形状をいう。導電性粒子の形状は、導電性粒子同士の接触しやすさの観点からフレーク状及び/又は球状粒子が連鎖状になっていることが好ましい。
【0042】
本発明で使用する銀粒子又は銀被覆粒子(B)のタップ密度は、2.0g/cm以下であることが好ましい。タップ密度が2.0g/cm以下であると、導電膜中の銀粉の占有体積が大きくなるので、銀粒子又は銀被覆粒子(B)同士の接触点が増え、より導通しやすくなる。
【0043】
本発明で使用する銀粒子又は銀被覆粒子(B)の平均粒子径D50は、例えば0.5~50μm程度とすることができる。導電性粒子同士の接触しやすさの観点からは、1~12μmが好ましく、フィルムの厚みを薄くする観点からは1~6μmが好ましい。
【0044】
本発明の導電性ペーストは、銀粒子又は銀被覆粒子(B)に加え、さらに導電性粒子を添加してもよく、例えば、金、白金、銅、パラジウム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫等の金属;
黄銅、青銅、白銅、半田等の合金;
カーボン、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;
ITO、IZO等の導電性セラミックフィラー;
ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリン等の導電性高分子;が挙げられる。
【0045】
銀粒子又は銀被覆粒子(B)、さらに加えてもよい導電性粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0046】
本発明で使用する導電ペーストは、所望の印刷方式に応じた印刷適性を付与するため、溶剤を含むことができる。
溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、シクロヘキサノン、イソホロンが挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。これらの溶剤は、2種類以上混合して用いてもよい。
中でもシルクスクリーン印刷に応じたペーストにするためには、印刷版のメッシュ内部で乾燥し、メッシュが塞がれてしまうことを抑制するため、沸点が180℃以上270℃以下の溶剤を使用することが好ましい。
【0047】
本発明の導電ペーストは、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、架橋剤、分散剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤等が挙げられる。
【0048】
架橋剤は、前記エラストマー(A)を架橋するために用いられ、例えば、前記エラストマー(A)が有するチオール基と架橋形成しうる反応性官能基を1分子中に2つ以上有するものの中から適宜選択して用いることができる。このような反応性官能基としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
架橋剤を用いる場合、エラストマー(A)100質量部に対して、0.05質量部以上、30質量部以下用いることが好ましく、1質量部以上、25質量部以下用いることがより好ましい。
【0049】
本発明の導電ペーストの製造方法は、前記エラストマー(A)と、銀粒子又は銀被覆粒子(B)と必要により用いられるその他の成分とを、溶剤中に混合又は分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合することにより製造することができる。
【0050】
<導電膜、積層体、電子デバイス>
本発明の導電膜は、上記本発明の導電ペーストから形成されるものであり、具体的には、基材上に該導電ペーストを塗布し、必要に応じて乾燥を行うことで形成することができる。
導電ペーストの塗布方法は特に制限されず、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、コーティング法等の印刷法が挙げられ、乾燥は、熱風オーブン及び赤外線ヒーター等公知の乾燥機を使用することができる。
【0051】
導電ペーストが塗布される基材としては特に制限されず、例えば、熱可塑性エラストマー、プラスチック、繊維、不織布、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロピレンゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、エチレンゴム、プロピレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エポキシゴム、ブタジエンゴム、天然ゴムが挙げられる。
【0052】
前記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエステル系、塩化ビニル系、スチレン系ブロックポリマー、アクリル系ブロックポリマーが挙げられる。
【0053】
前記プラスチックとしては、例えば、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリシクロオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート、ポリノルボルネン、ポリアリレート、ポリアクリル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアミド、およびポリイミドが挙げられる。
【0054】
基材は、導電膜の伸縮性を生かすために伸縮性基材を用いてもよい。伸縮性基材としては、例えば、伸縮性プラスチックフィルム、伸縮性繊維が挙げられ、伸縮性繊維はテキスタイル生地でもよい。
【0055】
また本発明における積層体は、基材上に該導電膜を備えるものであり、支持体に設けられた凹部に導電膜が埋設されている構成も含む。本明細書において、基材として伸縮性基材を用いた場合、積層体を伸縮性導体を言う場合がある。
【0056】
本発明の導電膜は、伸縮性に優れるため、例えば、伸縮性配線、伸縮性電極として好適である。また、導電膜は、伸縮性電磁波シールド層、伸縮性放熱層等のフィルム、並びに、所望の形状の導電性を有する成形体に利用可能である。
また本発明の積層体は、導電膜の基材と反対側(表側)に絶縁層(誘電層)を介してクロストークノイズを除去するためのシールド電極層が検出部を覆うように形成されていてもよい。また、最外層に電極層(表側電極層や裏側電極層、シールド電極層)を保護するためのオーバーコート層を備えていてもよい。
【0057】
本発明の電子デバイスは、導電膜を有する。伸縮性に優れる本発明の導電膜を用いることにより、導電部に屈曲性、可撓性、伸縮性を付与できる。このため、本発明の導電膜は、導電部に屈曲性、可撓性及び/又は伸縮性が求められる電子デバイス全般に好適に用いられ、例えば、身体やロボットに貼付するセンサー、衣服に内装するウェアラブルセンサー、生体情報取得デバイスに好適である。
【0058】
また、本発明の導電膜は、エレクトロニクス分野において、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル配線板、柔軟なトランスデューサ、屈曲性のあるモバイル機器への利用が好適である。また、電磁気で駆動するモータやアクチュエータ、圧電効果を利用したスピーカ、バイブレータ、超音波発生装置等に適用可能である。
【0059】
電子デバイスにおける導電膜は、導電性が要求される部材に制限無く利用できる。例えば、配線、電極、導電性接着剤、ビア、電磁波シールドフィルム、熱伝導性フィルムに用いられる。
【0060】
従来、電極を金属層により構成すると導電性は優れるものの、伸縮性がないため、その利用が限定されていた。一方、導電体として伸縮性導電膜を用いることにより、伸縮性を顕著に改善できる。更に、柔軟性を有しており人体の動きにもフィットしやすいという優位点がある。
【0061】
なお、電子デバイスにおいて、伸縮性、屈曲性又は/及び可撓性が求められる粘着層、保護層等を用いてもよい。
【実施例
【0062】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以降の説明において特に断りが無い場合には、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」を意味するものとする。また、溶剤以外は不揮発分換算値である。
【0063】
[数平均分子量(Mn)]
GPC(商品名:GPCV-2000、日本ウォーターズ社製、カラム:TSKgel、α-3000、移動相:10mMトリエチルアミン/ジメチルホルムアミド溶液)を用い、標準物質としてポリスチレン(分子量427,000、190,000、96,400、37,400、10,200、2,630、440、92)を使用して検量線を作成し、数平均分子量(Mn)を測定した。
【0064】
[ガラス転移温度の測定]
ガラス転移温度は、JIS K 7121(2012)プラスチックの転移温度測定方法に準拠して測定を行い、当該JIS 9.3記載の補外ガラス転移開始温度(Tig)により求められる温度でガラス転移温度を求めた。測定には、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製、DSC Q2000)を用いた。
【0065】
[チオール基濃度の測定]
乾燥固化した樹脂約1gを予め重量が精秤し、その樹脂が溶解した1.2wt%-ヨウ化カリウム水溶液を100ml、トルエン400ml、ピリジン600mlの混合液を、0.05Nヨウ素のトルエン溶液にて滴定を行った。溶液が黄色になった時点を終点として、以下計算式によりチオール基濃度を求めた。
チオール基濃度(mmol/g)=0.05×(滴定量)×(ヨウ素のトルエン溶液のファクター)/サンプル重量(g)
【0066】
[タップ密度の測定]
タップ密度とは、一定容器中に一定量の粉体を上下に加振しながら入れた後の体積当たりの質量のことであり、JIS Z 2512:2006法に基づいて測定した。具体的には、目盛り付きガラス容器(容量100ml)に、導電性微粒子(粉体量100g)を採取し、所定のタッピング装置にてタップストローク3mm、タップ回数100回/分の条件にてタップした。
【0067】
<エラストマーの製造>
(エラストマー製造例1)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量1,000)783部とイソホロンジイソシアネート(IPDI)200部とを仕込み、徐々に昇温し、90℃にて6時間反応させた。その後50℃まで冷却した後、システアミン17部及びメチルイソブチルケトン(沸点116℃)333部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにメチルイソブチルケトンを添加することにより、数平均分子量が45,000、チオール基濃度が0.22mmol/g、ガラス転移温度が-55℃である末端領域にのみチオール基を有するエラストマー(A1)を得た。
【0068】
(エラストマー製造例2)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量1,000)692部とイソホロンジイソシアネート(IPDI)231部とを仕込み、徐々に昇温し、90℃にて6時間反応させた。その後50℃まで冷却した後、システアミン15部と、ジブチルアミン63部と、メチルイソブチルケトン(沸点116℃)333部とを添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにメチルイソブチルケトンを添加することにより、数平均分子量が9,300、チオール基濃度が0.19mmol/g、ガラス転移温度が-57℃である末端領域にのみチオール基を有するエラストマー(A2)を得た。
【0069】
(エラストマー製造例3)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量1,000)690部と、ブタノール11部と、イソホロンジイソシアネート(IPDI)97部と、IPDIのイソシアヌレート三量体194部と、シクロヘキサノン(沸点156℃)1000部とを仕込み、徐々に昇温し、90℃にて10時間反応させた。その後50℃まで冷却した後、システアミン11部及びシクロヘキサノン(沸点156℃)200部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにシクロヘキサノンを添加することにより、数平均分子量が50,000、チオール基濃度が0.11mmol/g、ガラス転移温度が-10℃である末端領域にのみチオール基を有するエラストマー(A3)を得た。
【0070】
(エラストマー製造例4)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ポリカーボネートジオールC2090(クラレ社製)854部と、1,4-ブタンジオール7部と、ジフェニルメタンジイソシアネート135部と、シクロヘキサノン1000部を仕込み、徐々に昇温し、90℃にて8時間反応させた。その後50℃まで冷却した後、システアミン4部及びシクロヘキサノン200部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにシクロヘキサノンを添加することにより、数平均分子量が40,000、チオール基濃度が0.05mmol/g、ガラス転移温度が30℃である末端領域にのみチオール基を有するエラストマー(A4)を得た。
【0071】
(エラストマー製造例5)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、アセトン(沸点56℃)2000部を仕込み、徐々に昇温し56℃にて還流を開始した。そこに、ブチルアクリレート(BA)837部と、メチルメタクリレート(MMA)127部と、2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)36部と、アゾイソブチロニトリル(AIBN)2部の混合液を約3時間かけて滴下した。滴下終了後1時間後にAIBN 1部を添加し、その後1時間ごとにAIBN 1部を3回添加し、アセトンの還流温度でさらに3時間反応を行った。その後50℃まで冷却した後、システアミン16部及びシクロヘキサノン300部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにシクロヘキサノンを添加することにより、数平均分子量が150,000、チオール基濃度が0.21mmol/g、ガラス転移温度が-40℃であるチオール基を有するエラストマー(A5)を得た。
【0072】
(エラストマー製造例6)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、アセトン(沸点56℃)2000部を仕込み、徐々に昇温し56℃にて還流を開始した。そこに、BA 837部と、MMA 144部と、MOI 12部と、AIBN 2部の混合液を約3時間かけて滴下した。滴下終了後1時間にAIBN 1部を添加し、その後1時間ごとにAIBN 1部を3回添加し、アセトンの還流温度でさらに3時間反応を行った。その後50℃まで冷却した後、システアミン5部及びシクロヘキサノン300部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにシクロヘキサノンを添加することにより、数平均分子量が140,000、チオール基濃度が0.07mmol/g、ガラス転移温度が-38℃であるチオール基を有するエラストマー(A6)を得た。
【0073】
(エラストマー製造例7)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、アセトン(沸点56℃)2000部を仕込み、徐々に昇温し56℃にて還流が開始した。そこに、BA 706部と、MMA 229部と、MOI 36部と、AIBN 2部の混合液を約3時間かけて滴下した。滴下終了後1時間にAIBN 1部を添加し、その後1時間ごとにAIBN 1部を3回添加し、アセトンの還流温度でさらに3時間反応を行った。その後50℃まで冷却した後、システアミン16部及びシクロヘキサノン300部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにシクロヘキサノンを添加することにより、数平均分子量が145,000、チオール基濃度が0.21mmol/g、ガラス転移温度が-20℃であるチオール基を有するエラストマー(A7)を得た。
【0074】
(エラストマー製造例8)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、RAFT開始剤としてメチル4-シアノ-4-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)ペンタノエートを1.6部と、AIBNを1部と、MMAを52部と、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)100部とを仕込み、80℃にて8時間反応させた。更に、AIBNを0.15部と、BAを146部と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点247℃)150部とを添加し、80℃で12時間反応させた。
その後、50℃まで冷却した後、ジブチルアミン2部を添加することによりRAFT開始剤残基をチオール基へと変換することにより、数平均分子量が15,000、チオール基濃度が0.01mmol/g、ガラス転移温度が-57℃と102℃との2つである末端領域にのみチオール基を有するエラストマー(A8)を得た。
【0075】
(エラストマー製造例9)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)1000部を仕込み、徐々に80℃まで昇温した。そこに、BA 454部と、MMA 319部と、MOI 10部と、分子量6,000のポリスチレンマクロマー(東亜合成社製)212部と、AIBN 2部の混合液を約3時間かけて滴下した。滴下終了後1時間にAIBN 1部を添加し、その後1時間ごとにAIBN 1部を3回添加し、その後80℃で3時間反応させ、さらに110℃で2時間反応を行った。その後50℃まで冷却した後、システアミン5部及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート300部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを添加することにより、数平均分子量が80,000、チオール基濃度が0.06mmol/g、ガラス転移温度が-5℃と105℃との2つであるチオール基を有するエラストマー(A9)を得た。
【0076】
(エラストマー製造例10)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、酸変性ポリオレフィン(日本製紙社製、アウローレン550S)150部と、イソホロン(沸点215℃)679部と、メチルエチルケトン(MEK、沸点79℃)170部とを仕込み、70℃で2時間攪拌することにより酸変性ポリオレフィンを溶解させた。その後、50℃まで冷却した後システアミン2部と、MEK 10部とを添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにて酸無水物基に基づく1780cm-1のピークの消失を確認した。固形分が15%になるようにMEKを添加することにより、数平均分子量が86,000、チオール基濃度が0.09mmol/g、ガラス転移温度が5℃のチオール基を有するエラストマー(A10)を得た。
【0077】
(エラストマー製造例11)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、プリポール1009(クローダ社製ダイマー酸)408部と、アジピン酸25部と、プリアミン1074(クローダ社製ダイマージアミン)535部と、180℃にて12時間反応させた。その後、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート500部を添加した後100℃まで冷却し、IPDIを23部添加し、100℃にて3時間反応させた。更に50℃まで冷却した後、システアミン8部及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート500部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを添加することにより、数平均分子量が8,200、チオール基濃度が0.10mmol/g、ガラス転移温度が-15℃である末端領域にのみチオール基を有するエラストマー(A11)を得た。
【0078】
(エラストマー製造例12)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量1,000)783部とIPDI 200部とを仕込み、徐々に昇温し、90℃にて6時間反応させた。その後、固形分が30%になるようにメチルイソブチルケトンを添加することにより、数平均分子量が43,000、ガラス転移温度が-59℃であるチオール基を有さないエラストマー(A12)を得た。
【0079】
(エラストマー製造例13)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量1,000)581部と、ブタノール19部と、イソホロンジイソシアネート(IPDI)97部と、IPDIのイソシアヌレート三量体194部と、シクロヘキサノン1000部を仕込み、徐々に昇温し、90℃にて10時間反応させた。その後50℃まで冷却した後、システアミン25部及びシクロヘキサノン200部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにシクロヘキサノンを添加することにより、数平均分子量が43,000、チオール基濃度が0.36mmol/g、ガラス転移温度が-5℃である末端領域にのみチオール基を有するエラストマー(A13)を得た。
【0080】
(エラストマー製造例14)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、アセトン(沸点56℃)2000部を仕込み、徐々に昇温し56℃にて還流が開始した。そこに、ブチルアクリレート(BA)813部と、メチルメタクリレート(MMA)127部と、2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)60部と、アゾイソブチロニトリル(AIBN)2部の混合液を約3時間かけて滴下した。滴下終了後1時間にAIBN 1部を添加し、その後1時間ごとにAIBN 1部を3回添加し、アセトンの還流温度でさらに3時間反応を行った。その後50℃まで冷却した後、ブチルアミン28部及びシクロヘキサノン300部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにシクロヘキサノンを添加することにより、数平均分子量が146,000、ガラス転移温度が-35℃であるチオール基を有さないエラストマー(A14)を得た。
【0081】
(エラストマー製造例15)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート1000部を仕込み、徐々に80℃まで昇温した。そこに、BA 454部と、MMA 291部と、MOI 50部と、分子量6,000のポリスチレンマクロマー(東亜合成社製)212部と、AIBN 2部の混合液を約3時間かけて滴下した。滴下終了後1時間にAIBN 1部を添加し、その後1時間ごとにAIBN 1部を3回添加し、その後80℃で3時間反応させ、さらに110℃で2時間反応を行った。その後50℃まで冷却した後、システアミン25部及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート300部を添加し、50℃にて1時間反応させ、IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピークの消失を確認した。固形分が30%になるようにジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを添加することにより、数平均分子量が78,000、チオール基濃度が0.32mmol/g、ガラス転移温度が-7℃と102℃との2つであるチオール基を有するエラストマー(A15)を得た。
【0082】
(エラストマー製造例16)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、酸変性ポリオレフィン(日本製紙社製、アウローレン550S)150部と、イソホロン(沸点215℃)679部と、メチルエチルケトン(MEK、沸点79℃)170部とを仕込み、70℃で2時間攪拌することにより酸変性ポリオレフィンを溶解させた。その後、固形分が15%になるようにMEKを添加することにより数平均分子量が85,000、ガラス転移温度が5℃のチオール基を有さないエラストマー(A16)を得た。
【0083】
(エラストマー製造例17)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、チオコールLP-2(東レファインケミカル社製)150部と、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート350部とを仕込み、50℃で1時間攪拌することにより、固形分が30%、数平均分子量が4,000、チオール基濃度が0.50mmol/g、ガラス転移温度が-61℃のチオール基を有するエラストマー(A17)を得た。
【0084】
<導電ペーストの製造>
(実施例1)
固形分30%のエラストマー(A1)2.25部と、銀粒子又は銀被覆粒子(B1)2.7部とを十分混合することで実施例1の導電ペーストを得た。
【0085】
(実施例2~16及び比較例1~8)
表1に示された導電ペースト処方以外は、実施例1と同様にして、導電ペーストを得た。
【0086】
<導電ペーストの評価>
得られた導電ペーストを用いて以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0087】
(導電ペーストの保存安定性)
得られた導電ペーストを、40℃にて3日保管した後の流動性を確認した。
・流動性の評価基準:
+:流動性に変化がなく、40℃にて3日間保管後もスクリーン印刷が可能
NG:流動性が低下し、40℃にて3日間保管後はスクリーン印刷が不可能
【0088】
<導電膜を備える積層体の作製>
得られた導電ペーストを、以下の基材C1又は基材C2上に、スクリーン印刷で塗布し、80℃で30分間熱処理して、厚みが25μmの導電膜を備える積層体を作製した。
伸縮性基材C1:伸縮可能なウレタンフィルム(株式会社武田産業社製タフグレイスフィルム、厚み80μm)
基材C2:PETフィルム(東洋紡株式会社性コスモシャインA4100、厚み100μm)
【0089】
(臭気評価)
得られた積層体について、以下の基準で臭気を官能評価した。
++:無臭
+:わずかに臭気を感じる
NG:強烈な臭気を感じる
【0090】
(初期の体積抵抗率)
積層体を幅10mm、長さ140mmにカットして試験片を作製した。表面抵抗測定器(品番:ロレスタAP MCP-T400、プローブ:ASPプローブ(4探針プローブ、三菱化学社製)を用い、温度が25℃及び相対湿度が50%の雰囲気中で、JIS K7194に準拠して試験片の初期の体積抵抗率を測定し、以下の基準により評価した。
+++:2.0×10-4Ω・cm未満
++:2.0×10-4Ω・cm以上、9.9×10-4Ω・cm未満
+:9.9×10-4Ω・cm以上、9.9×10-3Ω・cm未満
NG:9.9×10-3Ω・cm以上
【0091】
(湿熱環境下での体積抵抗率の変化率)
積層体を用いて、85℃、相対湿度85%の湿熱環境下で10日経過後(湿熱後)の体積抵抗率を、初期と同様の方法で測定し、初期からの変化率を算出し、以下の基準により評価した。
[変化率(%)]
=[(初期の体積抵抗率)-(湿熱後の体積抵抗率)]÷[(初期の体積抵抗率)]
+++:変化率が20%以下
++:変化率が20%を超えて、50%以下
+:変化率が50%を超えて、100%以下
NG:変化率が100%を超える
【0092】
(伸縮試験後の体積抵抗率の変化率及び外観評価)
伸縮性基材C1を用いた積層体を20mm×60mmサイズに切り取りサンプルとし、その端部をテンシロン引張試験装置に固定して、25℃、相対湿度50%、速度4mm/sの速さで50%まで伸長し、その後2秒間保持し、そしてその後4mm/sの速さで除荷し、2秒間保持する伸縮サイクルを1000回繰り返した後に、初期と同様の方法で体積抵抗率を測定した。伸縮サイクル前後の体積抵抗率の変化率を以下の式により算出し、以下の基準により評価した。
[変化率(%)]=[(R1000)-(R0)]÷[(R0)]×100
(ここで、R1000は伸縮サイクル直後の体積抵抗率、R0は伸縮サイクル前の同積層体を用いた体積抵抗率を示す。)
+++:変化率が20%以下
++:変化率が20%を超えて、50%以下
+:変化率が50%を超えて、100%以下
NG:変化率が100%を超える
【0093】
また、上記1000回収縮後の積層体の外観について、試験前の状態と比較して以下の基準により評価した。
++:外観に変化が見られない
+:外観に一部クラック等の亀裂が僅かに生じている
NG:外観にひび割れやクラックが完全に生じている
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
表1、2で使用した銀粒子又は銀被覆粒子は、以下のとおりである。
銀粒子又は銀被覆粒子(B1):タップ密度1.4g/cmの連鎖状銀(福田金属箔粉工業株式会社社製、AgC-G)
銀粒子又は銀被覆粒子(B2):タップ密度3.3g/cmのフレーク状銀(福田金属箔粉工業株式会社社製、AgC-A)
銀粒子又は銀被覆粒子(B3):タップ密度1.1g/cmの箔状銀(福田金属箔粉工業株式会社製、Ag-XF301S)
銀粒子又は銀被覆粒子(B4):タップ密度3.3g/cmのフレーク粉(三井金属鉱業株式会社製、1000YP)
【0097】
表1に示すように、本発明の導電ペーストを用いて作成した実施例1~19の導電ペーストは保存安定性に優れ、該導電ペーストから形成された導電膜を備える積層体は導電性、伸縮性に優れ、高温高湿環境下を経ても抵抗値の上昇がなく、臭気もなかったのに対し、表2の比較例1~8はそのいずれかが不良であり、全てが良好となるものは得られなかった。このように実施例1~19の導電ペースト及びその導電ペーストから得られた導電膜、積層体は有用であることが分かった。