IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-内燃機関のオイル劣化判定装置 図1
  • 特許-内燃機関のオイル劣化判定装置 図2
  • 特許-内燃機関のオイル劣化判定装置 図3
  • 特許-内燃機関のオイル劣化判定装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】内燃機関のオイル劣化判定装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/10 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
F01M11/10 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020132428
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029200
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】杉本 仁己
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-508404(JP,A)
【文献】特許第5811183(JP,B2)
【文献】特開2013-044258(JP,A)
【文献】特開昭61-192996(JP,A)
【文献】特開2008-050972(JP,A)
【文献】特開昭61-207811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/10
F16N 1/00 - 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行距離の積算値を算出する走行距離積算値算出部と、
前記車両を駆動する内燃機関を潤滑するオイルに蓄積されるスラッジプリカーサの積算値を算出するスラッジプリカーサ積算値算出部と、
前記車両が使用される地域を表す使用地情報を取得する使用地情報取得部と、
記スラッジプリカーサの積算値が前記使用地情報に応じて設定される第1の判定閾値以上の場合、もしくは前記使用地情報に応じて補正された前記スラッジプリカーサの積算値が各使用地に共通の第2の判定閾値以上の場合、前記オイルが劣化していることを判定するオイル劣化判定部と、
を備える、内燃機関のオイル劣化判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のオイル劣化判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のオイルパンに蓄積されるスラッジプリカーサ量を推定し、このスラッジプリカーサの蓄積量が一定値以上となったときに、エンジンオイルが劣化したものと判断することが公知である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5811183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スラッジプリカーサ(スラッジ前駆体)は、燃料中のオレフィンやアロマティクス等の構造を有する炭化水素が燃焼室で燃焼した際に生成される。したがって、スラッジプリカーサの蓄積は、燃料中の炭化水素含有量に依存している。燃料中の炭化水素含有量などの燃料性状は車両の仕向地(国)によって異なるため、車両の運転条件(燃料噴射量やエンジン温度)が同じであっても、仕向地毎にスラッジプリカーサの蓄積量は異なる。この結果、仕向地毎にオイルの劣化速度は異なることになる。
【0005】
しかし、上記特許文献に記載された技術は、仕向地に応じて燃料性状が異なることを考慮していないため、車両が様々な仕向地で運転される場合、エンジンオイルの劣化を精度よく判定することができない問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、車両が使用される地域に応じてオイル劣化を精度よく判定することが可能な内燃機関のオイル劣化判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1) 車両の走行距離の積算値を算出する走行距離積算値算出部と、
前記車両を駆動する内燃機関を潤滑するオイルに蓄積されるスラッジプリカーサの積算値を算出するスラッジプリカーサ積算値算出部と、
前記車両が使用される地域を表す使用地情報を取得する使用地情報取得部と、
前記走行距離の積算値または前記スラッジプリカーサの積算値が前記使用地情報に応じて設定される第1の判定閾値以上の場合、もしくは前記使用地情報に応じて補正された前記走行距離の積算値または前記スラッジプリカーサの積算値が各使用地に共通の第2の判定閾値以上の場合、前記オイルが劣化していることを判定するオイル劣化判定部と、
を備える、内燃機関のオイル劣化判定装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両が使用される地域に応じてオイル劣化を精度よく判定することが可能な内燃機関のオイル劣化判定装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一つの実施形態による内燃機関のオイル劣化判定システムの構成を示す模式図である。
図2】制御装置のプロセッサの機能ブロックを示す模式図である。
図3】仕向地情報に応じて判定閾値を設定してオイル劣化を判定する処理を示すフローチャートである。
図4】仕向地情報に応じて積算値を補正してオイル劣化を判定する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る幾つかの実施形態について図を参照しながら説明する。しかしながら、これらの説明は、本発明の好ましい実施形態の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0012】
図1は、本発明の一つの実施形態による内燃機関のオイル劣化判定システム1000の構成を示す模式図である。このオイル劣化判定システム1000は、自動車などの車両に搭載される。オイル劣化判定システム1000は、内燃機関100と、制御装置(エンジンECU(Electronic Control Unit))200と、車両の車体(ボディ)に関わる各種制御を行うボディECU300と、各種センサ400と、表示装置500と、測位情報受信機600と、を有する。内燃機関100と、制御装置200と、ボディECU300と、各種センサ400と、表示装置500と、測位情報受信機600のそれぞれは、コントローラエリアネットワーク(Controller Area Network (CAN))、イーサネット(登録商標)(Ethernet(登録商標))といった規格に準拠した車内ネットワークを介して通信可能に接続される
【0013】
内燃機関100は、例えば前述した特許文献1に記載されたものと同様に構成されている。内燃機関100にはエンジンオイルが循環している。エンジンオイルは、内燃機関100に備えられたピストン、クランクシャフト、コネクティングロッド等の摺動部位に供給され、摺動部位の潤滑、冷却等に使用される。
【0014】
制御装置200は、内燃機関100を制御する。また、制御装置200は、オイル劣化判定装置の一態様であり、内燃機関100に循環しているオイルの劣化を判定する。
【0015】
ボディECU300は、車両の車体(ボディ)に関わる各種制御を行う。ボディECU300は、車両の仕向地の安全法規上の規制に対応して制御を切り換えるなど、車両を仕向地に応じた法規に対応させるため、仕向地情報を有している。
【0016】
各種センサ400は、内燃機関100の冷却水温を検出する水温センサ、内燃機関100の吸入空気量を検出するエアフロメーター、内燃機関100のクランクシャフトの回転角を検出するクランクポジションセンサ、スロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ、等を含む。
【0017】
表示装置500は、例えば液晶表示装置(LCD)等から構成され、車両内のメーターパネル、またはダッシュボードの近辺等に設けられ、オイルが劣化していることが判定されるとドライバに対して警告を表示する。
【0018】
測位情報受信機600は、車両の現在位置及び姿勢を表す測位情報を取得する。例えば、測位情報受信機600は、GPS(Global Positioning System)受信機とすることができる。測位情報受信機600は、測位情報を受信する度に、取得した測位情報を、車内ネットワークを介して制御装置200へ出力する。
【0019】
ところで、オイルが劣化している旨の警告が適切なタイミングでなされていないと、十分な潤滑性能が残存しているオイルが早期に交換されたり、劣化が進んだ後にオイルが交換されて内燃機関に損傷が生じるなどの弊害が生じる。
【0020】
オイルが劣化した際にはスラッジが発生する。スラッジは、スラッジプリカーサ同士が重合することで不熔解成分となり、この不熔解成分が凝集もしくは沈殿することで発生する。したがって、スラッジプリカーサに基づいて、適切なタイミングでオイル劣化を判定することが可能である。
【0021】
スラッジプリカーサは、燃料中のオレフィンやアロマティクス等の構造を有する炭化水素が燃焼室で燃焼した際に生成される。このため、スラッジプリカーサの生成は、燃料中の炭化水素含有量に依存する。炭化水素含有量などの燃料の性状は、車両の仕向地(国)に応じて、例えば仕向地における法規制や燃料の処理工程などの相違に応じて異なる。このため、車両の運転条件(燃料噴射量や冷却水温など)が同じであっても、生成されるスラッジプリカーサの量は仕向地毎に異なり、この結果、仕向地毎にオイルの劣化速度は異なることになる。
【0022】
より詳細には、スラッジプリカーサが生成される要因として、以下の3つが挙げられる。
1.スラッジプリカーサの元となる不溶解分子が多く発生する
2.スラッジの生成を促進するための酸性物質(硝酸、硫酸)のオイル中における濃度が高い
3.シリンダとピストンとの間を通過するブローバイガス量やオイルに希釈する燃料量が多い
【0023】
これら3つの要因は、いずれも燃料性状と関連している。第1の要因と燃料性状との関係については、燃料中にオレフィンやアロマティクス等の構造を有する炭化水素の組成割合(vol%)が大きいと、2重結合系の炭化水素がブローバイガス中に含まれる窒素酸化物と反応して不溶解分子になる。このため、炭化水素の組成割合が大きいほどスラッジプリカーサ量が多くなる。また、燃料の蒸留特性(例えば、130℃での燃料蒸発割合[%])に応じて、霧化しにくい燃料ほど、すなわち蒸発割合が小さい燃料ほど、燃焼時に発生する粒子状物質(PM:Particulate Matter)が多くなり、これら不熔解の粒子状物質がスラッジプリカーサの構成分子となる。
【0024】
第2の要因と燃料性状との関係については、原油に含まれる硫黄(S)の脱硫処理が不十分で、燃料中の硫黄濃度[ppm]が大きいと、凝縮水との反応により硫酸が生成される。硫酸や硝酸などの酸性物質はスラッジプリカーサ同士を結合して肥大化させ、スラッジプリカーサの生成を促進するため、硫黄の脱酸処理の程度に起因する燃料性状は、スラッジプリカーサの生成に影響を及ぼす。
【0025】
第3の要因と燃料性状との関係については、第2の要因と同様に、燃料中の硫黄濃度が大きいと、硫酸が生成されてピストンリングやオイルリングを腐食劣化さるため、ブローバイガス量が多くなり、またオイルへの燃料希釈量が多くなる。このため、硫黄の脱酸処理の程度に起因する燃料性状がスラッジプリカーサの生成に影響を及ぼす。また、第1の要因とも関連するが、不熔解成分が発生する反応は、エンジン内部で生じた水分とブローバイガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)との反応によって発生する酸性物質、特に硝酸によって促進される。
【0026】
以上のように、燃料性状のうち、特にオレフィンやアロマティクスの組成割合、蒸留特性、および硫黄濃度がスラッジプリカーサの生成に影響すると考えられる。そして、これらの燃料性状は車両の仕向地によって異なっている。燃料性状に応じてスラッジプリカーサの生成が異なると、オイル劣化速度も異なることになる。スラッジプリカーサが多く生成される粗悪な燃料は、オイルの劣化速度が速いため、車両のドライバに対してより高い頻度でオイル交換を促すことが好ましい。
【0027】
本実施形態では、制御装置200がボディECU300から仕向地情報(国識別番号)を取得し、仕向地に応じたオイル劣化判定を行う。これにより、オイル劣化判定の精度が向上される。また、制御装置200がボディECU300から仕向地情報を取得するので、制御装置200を仕向地毎に異ならせる必要がなく、制御装置200の品番数が増加することがないため、製造コストを抑えることができる。
【0028】
図1に示すように、制御装置200は、プロセッサ210と、メモリ220と、通信インターフェース230とを有する。プロセッサ210は、1個または複数個のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有する。プロセッサ210は、論理演算ユニット、数値演算ユニットあるいはグラフィック処理ユニットといった他の演算回路をさらに有していてもよい。メモリ220は、例えば、揮発性の半導体メモリ及び不揮発性の半導体メモリを有する。メモリ220には、オイル劣化判定に関わる情報などの各種情報が記憶されている。通信インターフェース230は、制御装置200を車内ネットワークに接続するためのインターフェース回路を有する。
【0029】
図2は、制御装置200のプロセッサ210の機能ブロックを示す模式図である。制御装置200のプロセッサ210は、走行距離積算値算出部211と、燃料噴射量決定部212と、スラッジプリカーサ積算値算出部213と、仕向地情報取得部214と、判定閾値設定部215と、積算値補正部216と、オイル劣化判定部217と、表示処理部218と、を有している。プロセッサ210が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ210上で動作するコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。つまり、プロセッサ210の機能ブロックは、プロセッサ210とこれを機能させるためのプログラム(ソフトウェア)から構成される。また、そのプログラムは、制御装置200が備えるメモリ220または外部から接続される記録媒体に記録されていてもよい。あるいは、プロセッサ210が有するこれらの各部は、プロセッサ210に設けられる専用の演算回路であってもよい。
【0030】
プロセッサ210の走行距離積算値算出部211は、例えばクランクポジションセンサの検知情報、車輪の回転量を検出するセンサの検知情報などに基づいて車両の走行距離を計測し、その積算値Dを算出する。走行距離の積算値Dは、車両の走行に応じて更新され、制御装置200が備えるメモリ220などにバックアップデータとして記憶されている。走行距離の積算値Dは、オイル交換が完了すると、所定のツールなどを用いて初期化される。走行距離積算値算出部211は、初期化後に車両が走行した走行距離の積算値Dを算出する。
【0031】
プロセッサ210の燃料噴射量決定部212は、エアフロメーターから取得した吸入空気量およびクランクポジションセンサから取得したエンジン回転数に基づいて基本燃料噴射量を演算し、水温センサから取得した冷却水温、スロットルポジションセンサから取得したスロットル開度に応じて、基本燃料噴射量を補正する補正演算を行い、インジェクタから噴射する実燃料噴射量を決定する。
【0032】
プロセッサ210のスラッジプリカーサ積算値算出部213は、例えば前述した特許文献1に記載された手法を用い、内燃機関100の冷却水温とインジェクタから噴射された燃料噴射量とに基づいて、オイルに蓄積されるスラッジプリカーサの積算値Sを算出する。
【0033】
具体的には、スラッジプリカーサ積算値算出部213は、スラッジプリカーサの蓄積速度、すなわち、単位燃料当たりのスラッジプリカーサの蓄積量と、冷却水温とを関係付けたスラッジプリカーサ蓄積マップを参照し、水温センサから取得した冷却水温に対応する単位燃料当たりのスラッジプリカーサの蓄積量を取得する。なお、スラッジプリカーサ蓄積マップは、基準となる標準的な燃料性状の燃料に基づいて作成され、制御装置200が備えるメモリ220に予め記憶されている。
【0034】
スラッジプリカーサ積算値算出部213は、スラッジプリカーサ蓄積マップから取得した単位燃料当たりのスラッジプリカーサの蓄積量と、今回の検知時期と前回の検知時期との間の期間に噴射された合計燃料噴射量とに基づいて、スラッジプリカーサの蓄積量を算出する。そして、スラッジプリカーサ積算値算出部213は、期間毎に算出したスラッジプリカーサの蓄積量を積算することで、スラッジプリカーサの積算値Sを算出する。スラッジプリカーサの積算値Sは、その都度更新され、制御装置200が備えるメモリ220などにバックアップデータとして記憶されている。スラッジプリカーサの積算値Sは、走行距離の積算値と同様、オイル交換が完了すると、所定のツールなどを用いて初期化される。スラッジプリカーサ積算値算出部213は、初期化後に蓄積されたスラッジプリカーサの積算値Sを算出する。
【0035】
プロセッサ210の仕向地情報取得部214は、車両が使用される地域を表す使用地情報を取得する使用地情報取得部の一例である。仕向地情報取得部214は、ボディECU300から車両の仕向地情報を取得する。なお、仕向地情報取得部214は、車両が備えるボディECU300以外のECUが仕向地情報を有している場合は、ボディECU300以外のECUから仕向地情報を取得してもよい。また、仕向地情報取得部214は、制御装置200のメモリ220に仕向地情報が記憶されている場合は、メモリ220から仕向地情報を取得してもよい。
【0036】
仕向地情報は、車両が使用される地域を表す使用地情報の一例であり、使用地情報は国識別番号など仕向地を表す情報を含むより広い概念である。使用地情報は、測位情報受信機600から得られる車両の位置情報に基づいて書き換え可能とされていてもよい。例えば制御装置200のメモリ220等に使用地情報と車両の位置情報との対応関係を規定したテーブルが予め記憶されており、測位情報受信機600から得られる車両の位置情報をテーブルに当てはめることで、車両が使用される地域に応じて使用地情報を書き換えることが可能となる。このような手法によれば、車両がある仕向地(国)から別の仕向地(国)に移送された場合などにおいても、移送に応じて使用地情報が書き換えられるため、車両が使用される地域に応じたオイル劣化判定が可能となる。
【0037】
判定閾値設定部215は、走行距離積算値Dまたはスラッジプリカーサ積算値Sに基づいてオイル劣化を判定する際の判定閾値を、仕向地情報に応じて設定する。具体的には、判定閾値設定部215は、基準となる標準的な燃料性状の燃料に対応する走行距離積算値の判定閾値Aに対して、燃料の性状が粗悪な仕向地ほど小さな判定閾値A’を設定する。同様に、判定閾値設定部215は、基準となる標準的な燃料性状の燃料に対応するスラッジプリカーサ積算値の判定閾値Bに対して、燃料の性状が粗悪な仕向地ほど小さな判定閾値B’を設定する。一例として、基準となる標準的な燃料性状の燃料に対応する走行距離積算値の判定閾値Aは10000[km]であり、基準となる標準的な燃料性状の燃料に対応するスラッジプリカーサ積算値の判定閾値Bは20000[ppm]である。仕向地情報と判定閾値A’,B’との関係は、仕向地情報に応じた定数値として、あるいはテーブルまたはマップなどの形式で制御装置200のメモリ220に記憶されている。
【0038】
プロセッサ210の積算値補正部216は、仕向地情報に応じて、走行距離積算値Dまたはスラッジプリカーサ積算値Sを補正する。具体的には、積算値補正部216は、燃料の性状が粗悪な仕向地ほど、走行距離積算値Dまたはスラッジプリカーサ積算値Sが大きくなるように補正を行う。積算値補正部216は、仕向地情報と積算値との関係を予め定めたマップ、関数などに基づいて、走行距離積算値Dまたはスラッジプリカーサ積算値Sを補正する。また、積算値補正部216は、仕向地情報に応じてスラッジプリカーサ蓄積マップを補正することで、スラッジプリカーサ積算値Sを補正してもよい。スラッジプリカーサ蓄積マップを補正する方法として、例えば仕向地情報に応じた係数をスラッジプリカーサ蓄積マップのスラッジプリカーサ蓄積速度に乗算することが挙げられる。これらのマップ、関数、係数も制御装置200のメモリ220に記憶される。
【0039】
プロセッサ210のオイル劣化判定部217は、走行距離積算値Dまたはスラッジプリカーサ積算値Sに基づいてオイル劣化を判定する。具体的には、オイル劣化判定部217は、走行距離積算値算出部211が算出した走行距離積算値Dと判定閾値設定部215が仕向地情報に応じて設定した判定閾値A’とを比較する。また、オイル劣化判定部217は、スラッジプリカーサ積算値算出部213が算出したスラッジプリカーサ積算値Sと判定閾値設定部215が仕向地情報に応じて設定した判定閾値B’とを比較する。そして、オイル劣化判定部217は、走行距離積算値Dが判定閾値A’以上の場合、またはスラッジプリカーサ積算値Sが判定閾値B’以上の場合に、オイルが劣化しているものと判定する。
【0040】
また、オイル劣化判定部217は、走行距離積算値Dと仕向地情報に応じて設定された判定閾値A’とを比較する代わりに、積算値補正部216が仕向地情報に応じて補正した走行距離積算値D’と、基準となる標準的な燃料性状の燃料に応じた判定閾値Aとを比較する。また、オイル劣化判定部217は、スラッジプリカーサ積算値Sと仕向地情報に応じて設定された判定閾値B’とを比較する代わりに、積算値補正部216が仕向地情報に応じて補正したスラッジプリカーサ積算値S’と、基準となる標準的な燃料性状の燃料に応じた判定閾値Bとを比較する。そして、オイル劣化判定部217は、補正された走行距離積算値D’が判定閾値A以上の場合、または補正されたスラッジプリカーサ積算値S’が判定閾値B以上の場合に、オイルが劣化しているものと判定する。以上のように、判定閾値設定部215による仕向地情報に応じた判定閾値の設定と、積算値補正部216による仕向地情報に応じた積算値の補正は、双方が行われる必要はなく、いずれか一方のみが行われる。
【0041】
プロセッサ210の表示処理部218は、オイル劣化判定部217によりオイル劣化が判定された場合に、オイルが劣化していることを示す警告、オイル交換を促す警告などを表示装置500に表示する処理を行う。なお、表示装置500に警告を表示する代わりに、例えばウォーニングランプの点灯または点滅などにより警告が発せられてもよい。
【0042】
次に、図3及び図4のフローチャートに基づいて、制御装置200が行う処理について説明する。図3は、仕向地情報に応じて判定閾値を設定してオイル劣化を判定する処理を示すフローチャートである。また、図4は、仕向地情報に応じて積算値を補正してオイル劣化を判定する処理を示すフローチャートである。図3及び図4に示す処理は、制御装置200が所定の制御周期毎に行う。
【0043】
最初に、図3に基づいて、仕向地情報に応じて判定閾値を設定してオイル劣化を判定する処理について説明する。先ず、プロセッサ210の走行距離積算値算出部211が走行距離積算値D[km]を算出する(ステップS10)。次に、プロセッサ210のスラッジプリカーサ積算値算出部213がスラッジプリカーサ積算値S[ppm]を算出する(ステップS12)。
【0044】
次に、プロセッサ210の仕向地情報取得部214がボディECU300から仕向地情報を取得する(ステップS14)。次に、プロセッサ210の判定閾値設定部215が、オイル劣化を判定するための判定閾値を仕向地情報に基づいて設定する(ステップS16)。より具体的には、ステップS16において、判定閾値設定部215は、走行距離積算値に基づいてオイル劣化を判定するための判定閾値A’[km]を仕向地情報に応じて設定するとともに、スラッジプリカーサ積算値に基づいてオイル劣化を判定するための判定閾値B’[ppm]を仕向地情報に応じて設定する。
【0045】
次に、プロセッサ210のオイル劣化判定部217が、走行距離積算値D[km]と判定閾値A’[km]を比較し、D≧A’であるか否かを判定する(ステップS18)。そして、D≧A’の場合、走行距離積算値D[km]が判定閾値A’[km]以上であるため、オイル劣化判定部217は、オイルが劣化していると判定する(ステップS20)。オイルが劣化していると判定されると、その旨の警告、またはオイル交換を促す警告などが表示装置500に表示される。
【0046】
また、ステップS18でD<A’の場合、オイル劣化判定部217は、スラッジプリカーサ積算値Sと判定閾値B’を比較し、S≧B’であるか否かを判定する(ステップS22)。そして、S≧B’の場合、スラッジプリカーサ積算値S[ppm]が判定閾値B’[ppm]以上であるため、オイル劣化判定部217は、オイルが劣化していると判定する(ステップS20)。
【0047】
一方、ステップS22でS<B’の場合、走行距離積算値D[km]が判定閾値A’[km]未満であり、且つスラッジプリカーサ積算値S[ppm]が判定閾値B’[ppm]未満であるため、オイル劣化判定部217は、オイルが劣化していないと判定する(ステップS24)。ステップS20,S24の後、本制御周期における処理は終了する。
【0048】
次に、図4に基づいて、仕向地情報に応じて積算値を補正してオイル劣化を判定する処理について説明する。図4において、ステップS10~ステップS14の処理は図3と同様である。ステップS14の後、プロセッサ210の積算値補正部216は、積算値を仕向地情報に応じて補正する(ステップS26)。より詳細には、ステップS26において、積算値補正部216は、仕向地情報に応じて走行距離積算値D[km]を補正するとともに、仕向地情報に応じてスラッジプリカーサ積算値S[ppm]を補正する。これにより、補正された走行距離積算値D’[km]と補正されたスラッジプリカーサ積算値S’[ppm]が得られる。
【0049】
次に、プロセッサ210のオイル劣化判定部217が、補正された走行距離積算値D’と判定閾値Aを比較し、D’≧Aであるか否かを判定する(ステップS28)。そして、D’≧Aの場合、補正された走行距離積算値D’[km]が判定閾値A[km]以上であるため、オイル劣化判定部217は、オイルが劣化していると判定する(ステップS20)。オイルが劣化していると判定されると、その旨の警告、またはオイル交換を促す警告などが表示装置500に表示される。
【0050】
また、ステップS28でD’<Aの場合、オイル劣化判定部217は、補正されたスラッジプリカーサ積算値S’と判定閾値Bを比較し、S’≧Bであるか否かを判定する(ステップS30)。そして、S’≧Bの場合、補正されたスラッジプリカーサ積算値S’[ppm]が判定閾値B[ppm]以上であるため、オイル劣化判定部217は、オイルが劣化していると判定する(ステップS20)。
【0051】
一方、ステップS30でS’<Bの場合、補正された走行距離積算値D’[km]が判定閾値A[km]未満であり、且つ補正されたスラッジプリカーサ積算値S’[ppm]が判定閾値B[ppm]未満であるため、オイル劣化判定部217は、オイルが劣化していないと判定する(ステップS24)。ステップS20,S24の後、本制御周期における処理は終了する。
【0052】
以上説明したように本実施形態によれば、走行距離積算値またはスラッジプリカーサ積算値に基づくオイル劣化判定の判定閾値が車両の仕向地に応じて変更されるため、仕向地の燃料の性状に適合したオイル劣化判定が可能となる。また、本実施形態によれば、車両の仕向地に応じて走行距離積算値またはスラッジプリカーサ積算値が補正されてオイル劣化判定の判定閾値と比較されるため、仕向地の燃料の性状に適合したオイル劣化判定が可能となる。したがって、オイル判定結果に基づいて、最適なタイミングでユーザーへオイル交換を促すことができる。
【符号の説明】
【0053】
100 内燃機関
200 制御装置
210 プロセッサ
211 走行距離積算値算出部
212 燃料噴射量決定部
213 スラッジプリカーサ積算値算出部
214 仕向地情報取得部
215 判定閾値設定部
216 積算値補正部
217 オイル劣化判定部
218 表示処理部
220 メモリ
230 通信インターフェース
300 ボディECU
400 各種センサ
500 表示装置
1000 オイル劣化判定システム
図1
図2
図3
図4