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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】車両用プレビュー制振制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 23/00 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
B60G23/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020170064
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061856
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 浩貴
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226270(JP,A)
【文献】特開2009-257812(JP,A)
【文献】特開2016-111501(JP,A)
【文献】特開2016-190621(JP,A)
【文献】特開2013-205196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0294161(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014001691(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行中に車輪の位置及び前記車輪の前方の位置の少なくとも一方の路面の上下変位に関連する路面変位関連情報を検出する路面変位関連情報検出装置と、前記路面変位関連情報検出装置を制御する第一の制御ユニットと、を備えた車載制御装置と、
プレビュー参照データベースを記憶する記憶装置と、前記記憶装置を制御する第二の制御ユニットと、を備えたプレビュー参照データベース制御装置と、
を備え、
前記第一の制御ユニットは、前記路面変位関連情報検出装置により検出された路面変位関連情報と該路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報とを紐づけて前記第二の制御ユニットへ送信するよう構成され、
前記第二の制御ユニットは、前記車両又は他車から送信される検出された路面変位関連情報に基づいて路面の上下変位に関連する路面変位関連値を演算し、該路面変位関連値とそれに対応する位置情報とが紐づけられたデータのセットをプレビュー参照データベースの一部として前記記憶装置に記憶するよう構成され、
更に、前記第一の制御ユニットは、前記プレビュー参照データベースの前記路面変位関連値及び前記位置情報を使用して前記車両のばね上の振動を低減するプレビュー制振制御を行うよう構成された、
車両用プレビュー制振制御装置において、
前記第一及び第二の制御ユニットの少なくとも一方は、前記路面変位関連情報検出装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し前記車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、前記地点の路面変位関連値と同一であると仮定するよう構成され、
前記第二の制御ユニットは、前記所定の隣接領域について、仮定された路面変位関連値の低周波成分を抽出処理し、抽出処理後の仮定された路面変位関連値と前記所定の隣接領域の位置を特定可能な位置情報とが紐づけられた仮定のデータのセットを、前記プレビュー参照データベースの一部として前記記憶装置に記憶するよう構成された、
車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、前記第二の制御ユニットは、仮定のデータのセットを前記プレビュー参照データベースの一部として前記記憶装置に記憶する場合には、路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であることを示す識別情報と共に前記仮定のデータのセットをプレビュー参照データベースの一部として前記記憶装置に記憶するよう構成された、車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、前記第二の制御ユニットは、前記所定の隣接領域の位置について前記車両又は他車が走行する際に検出された路面変位関連情報に基づいて演算された路面変位関連値と位置情報とが紐づけられたデータのセットが前記記憶装置に既に記憶されていると判定したときには、前記仮定のデータのセットを前記記憶装置に記憶しないよう構成された、車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、前記第二の制御ユニットは、前記抽出処理により抽出する成分の周波数が低いほど、前記所定の隣接領域の前記車両の進行方向を横切る方向の大きさを大きくするよう構成された、車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか1項に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、
前記車両は、前記ばね上とばね下との間に作用する制御力を発生するよう構成された制御力発生装置を有し、
前記第一の制御ユニットは、前記車輪が通過すると予測される車輪通過予測位置を決定し、前記プレビュー参照データベースのうち前記車輪通過予測位置の路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値を通信により取得し、取得した路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値に基づいて、前記車輪が前記車輪通過予測位置を通過する際の前記ばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力を演算し、前記車輪が前記車輪通過予測位置を通過する際に前記制御力発生装置により発生される制御力が前記目標プレビュー制振制御力になるように前記制御力発生装置を制御するよう構成された、
車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、前記第二の制御ユニットは、前記プレビュー参照データベースにおける各道路の路面が複数の路面区画に予め区分された路面区画情報を記憶しており、演算した路面変位関連値に対応する位置情報として、前記路面区画を特定可能な位置情報を前記記憶装置に記憶するよう構成された、車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項7】
車両の走行中に車輪の位置及び前記車輪の前方の位置の少なくとも一方の路面の上下変位に関連する路面変位関連情報を検出する路面変位関連情報検出装置と、前記路面変位関連情報検出装置を制御する第一の制御ユニットと、を備えた車載制御装置と、
プレビュー参照データベースを記憶する記憶装置と、前記記憶装置を制御する第二の制御ユニットと、を備えたプレビュー参照データベース制御装置と、
を備え、
前記第一の制御ユニットは、前記路面変位関連情報検出装置により検出された路面変位関連情報と該路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報とを紐づけて前記第二の制御ユニットへ送信するよう構成され、
前記第二の制御ユニットは、前記車両又は他車から送信される検出された路面変位関連情報に基づいて路面の上下変位に関連する路面変位関連値を演算し、該路面変位関連値とそれに対応する位置情報とが紐づけられたデータのセットをプレビュー参照データベースの一部として前記記憶装置に記憶するよう構成され、
更に、前記第一の制御ユニットは、前記プレビュー参照データベースの前記路面変位関連値及び前記位置情報を使用して前記車両のばね上の振動を低減するプレビュー制振制御を行うよう構成された、
車両用プレビュー制振制御装置において、
前記第一及び第二の制御ユニットの少なくとも一方は、前記路面変位関連情報検出装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し前記車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、前記地点の路面変位関連値と同一であると仮定するよう構成され、
前記車両は、前記ばね上とばね下との間に作用する制御力を発生するよう構成された制御力発生装置を有し、
前記第一の制御ユニットは、前記車輪が通過すると予測される車輪通過予測位置を決定し、前記プレビュー参照データベースのうち前記車輪通過予測位置の路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値を通信により取得し、取得した路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値に基づいて、前記車輪が前記車輪通過予測位置を通過する際の前記ばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力を演算し、前記車輪が前記車輪通過予測位置を通過する際に前記制御力発生装置により発生される制御力が前記目標プレビュー制振制御力になるように前記制御力発生装置を制御するよう構成され、
更に、前記第一の制御ユニットは、仮定された路面変位関連値を通信により取得したときには、仮定された路面変位関連値の低周波成分を抽出処理し、抽出処理後の仮定された路面変位関連値に基づいて、前記車輪が前記車輪通過予測位置を通過する際の前記ばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力を演算するよう構成された
車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項8】
請求項に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、前記第一の制御ユニットは、前記抽出処理により抽出する成分の周波数が低いほど、前記所定の隣接領域の前記車両の進行方向を横切る方向の大きさを大きくするよう構成された、車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、前記第一の制御ユニットは、通信により取得した前記車輪通過予測位置の路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であると判定したときには、前記目標プレビュー制振制御力を低減するよう構成された、車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項10】
請求項7乃至の何れか1項に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、
前記車載制御装置は、前記目標プレビュー制振制御力以外の他の目標制振制御力を演算し、前記車輪が前記車輪通過予測位置を通過する際に前記制御力発生装置により発生される制御力が前記他の目標制振制御力になるように前記制御力発生装置を制御する他の制振制御を行うよう構成され、
前記第一の制御ユニットは、通信により取得した前記車輪通過予測位置の路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であると判定したときには、前記他の目標制振制御力を増大させるよう構成された、
車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項11】
請求項7乃至10の何れか1項に記載の車両用プレビュー制振制御装置において、前記第二の制御ユニットは、前記プレビュー参照データベースにおける各道路の路面が複数の路面区画に予め区分された路面区画情報を記憶しており、演算した路面変位関連値に対応する位置情報として、前記路面区画を特定可能な位置情報を前記記憶装置に記憶するよう構成された、車両用プレビュー制振制御装置。
【請求項12】
車両の走行中に車輪の位置及び前記車輪の前方の位置の少なくとも一方の路面の上下変位に関連する路面変位関連情報を検出する路面変位関連情報検出装置と、前記路面変位関連情報検出装置を制御する第一の制御ユニットと、を備えた車載制御装置と、
プレビュー参照データベースを記憶する記憶装置と、前記記憶装置を制御する第二の制御ユニットと、を備えたプレビュー参照データベース制御装置と、
を使用して前記車両のばね上の振動を低減する車両用プレビュー制振制御方法において、
前記路面変位関連情報検出装置により検出された路面変位関連情報と該路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報とを紐づけて前記第二の制御ユニットへ送信するステップと、
前記車両又は他車から送信される路面変位関連情報に基づいて路面の上下変位に関連する路面変位関連値を演算するステップと、
演算された路面変位関連値とそれに対応する位置情報とが紐づけられたデータのセットをプレビュー参照データベースの一部として前記記憶装置に記憶するステップと、
前記プレビュー参照データベースの前記路面変位関連情報及び前記位置情報を使用してプレビュー制振制御を行うステップと、
前記データのセットを前記記憶装置に記憶するステップ及び前記プレビュー制振制御を行うステップの少なくとも一方において、前記路面変位関連情報検出装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し前記車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、前記地点の路面変位関連値と同一であると仮定するステップと、を含み、
前記データのセットを前記記憶装置に記憶するステップ及び前記プレビュー制振制御を行うステップの少なくとも一方において、前記所定の隣接領域について、仮定された路面変位関連値の低周波成分を抽出処理し、抽出処理後の仮定された路面変位関連値と前記所定の隣接領域の位置を特定可能な位置情報とが紐づけられた仮定のデータのセットを使用するステップ、
を含む、車両用プレビュー制振制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のためのプレビュー制振制御装置及び方法に係る。
【背景技術】
【0002】
プレビュー制振制御は、制御の遅れを補償すべく、車両の前方の路面の上下変位などの路面情報に基づいて、ばね上とばね下との間に作用する力を制御することによりばね上の振動を低減する制御、即ち路面情報を先読みして制振力を制御する制御である。情報を先読みする手段として、路面情報をクラウドに保存してデータベースを構築し、車両の走行時にデータベースから通信により路面情報を取得することが知られている。この種のプレビュー制振制御の一例として、例えば下記の特許文献1に記載されているように、車載のカメラ、レーダーセンサなどのセンサにより路面情報を取得するプレビュー制振制御が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2018/0154723号明細書
【発明の概要】
【0004】
〔発明が解決しようとする課題〕
カメラ、レーダーセンサなどのセンサによれば、車両の進行方向を横切る比較的広い範囲について車両の前方の路面情報を取得することができる。車両の前方の路面情報はレーザーセンサによっても取得することができ、ばね下の加速度センサのような車両の上下方向の運動状態量を検出するセンサによれば、車輪の位置における路面情報としてばね下の上下変位やその微分値を取得することができる。
【0005】
レーザーセンサ及び車両の上下方向の運動状態量を検出するセンサによれば、カメラ、レーダーセンサなどのセンサに比して正確に路面情報を取得することができる。よって、レーザーセンサ又は運動状態量検出センサにより取得された路面情報を使用するプレビュー制振制御によれば、カメラ、レーダーセンサなどにより取得された路面情報を使用するプレビュー制振制御に比して、ばね上の振動を効果的に低減することができる。
【0006】
しかし、レーザーセンサ及び運動状態量検出センサにより路面情報を取得することができる横方向の範囲、即ち車両の進行方向を横切る方向の範囲は、カメラ、レーダーセンサなどのセンサに比して遥かに狭い。そのため、道路や車線の全幅に亘る路面情報が保存された有効なデータベースを構築するためには、多数の車両が同一の道路を様々な横方向位置にて走行し、レーザーセンサなどにより大量の路面情報を取得しなければならないという技術的問題がある。
【0007】
本発明の主要な課題は、上記技術的問題に鑑み、多数の車両が同一の道路を様々な横方向位置にて走行しなくても、有効な路面情報を先読みしてばね上を制振することができるプレビュー制振制御装置及び方法を提供することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0008】
本発明によれば、車両(V1)の走行中に車輪(11)の位置及び車輪の前方の位置の少なくとも一方の路面の上下変位に関連する路面変位関連情報を検出する路面変位関連情報検出装置(上下加速度センサ31、ストロークセンサ32)と、路面変位関連情報検出装置を制御する第一の制御ユニット(ECU30)と、を備えた車載制御装置(102)と、
プレビュー参照データベース(45)を記憶する記憶装置(44)と、記憶装置を制御する第二の制御ユニット(管理サーバ42)と、を備えたプレビュー参照データベース制御装置(104)と、
を備え、
第一の制御ユニット(30)は、路面変位関連情報検出装置により検出された路面変位関連情報と該路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報とを紐づけて第二の制御ユニット(42)へ送信するよう構成され、
第二の制御ユニット(42)は、車両又は他車から送信される検出された路面変位関連情報に基づいて路面の上下変位に関連する路面変位関連値(z)を演算し、該路面変位関連値とそれに対応する位置情報とが紐づけられたデータのセットをプレビュー参照データベース(45)の一部として記憶装置(44)に記憶するよう構成され、
更に、第一の制御ユニット(30)は、プレビュー参照データベースの路面変位関連値及び位置情報を使用して車両のばね上の振動を低減するプレビュー制振制御を行うよう構成された、
車両用プレビュー制振制御装置(100)(本発明の基本の構成)が提供される。
【0009】
上記本発明の基本の構成において、第一及び第二の制御ユニットの少なくとも一方は、路面変位関連情報取得装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、前記地点の路面変位関連値と同一であると仮定するよう構成され、第二の制御ユニット(42)は、所定の隣接領域について、仮定された路面変位関連値の低周波成分を抽出処理し、抽出処理後の仮定された路面変位関連値と所定の隣接領域の位置を特定可能な位置情報とが紐づけられた仮定のデータのセットを、プレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶するよう構成される(第一の構成)
【0010】
上記の構成によれば、路面変位関連情報検出装置により検出された路面変位関連情報と該路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報とが紐づけられて第二の制御ユニットへ送信される。また、車両又は他車から送信される検出された路面変位関連情報に基づいて路面の上下変位に関連する路面変位関連値が演算され、該路面変位関連値とそれに対応する位置情報とが紐づけられたデータのセットがプレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶される。更に、プレビュー参照データベースの路面変位関連値及び位置情報を使用して車両のばね上の振動を低減するプレビュー制振制御が行われる。
【0011】
よって、第一の制御ユニットは、記憶装置に記憶されたプレビュー参照データベースの路面変位関連値及び位置情報を先読みしてプレビュー制振制御を行うことにより、車両のばね上の振動を低減することができる。
【0012】
一般に、路面変位関連情報取得装置により路面変位関連情報が検出される地点の路面変位関連値及びそれに隣接する領域、特に車両の進行方向を横切る方向に位置する隣接領域の路面変位関連値は同一である可能性が高い。よって、路面変位関連情報が検出される地点に対し車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値は、前記地点の路面変位関連値と同一であるとみなされてよい。
【0013】
上記の構成によれば、路面変位関連情報取得装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、前記地点の路面変位関連値と同一であると仮定される。
【0014】
よって、路面変位関連情報検出装置により路面変位関連情報が検出された地点の路面変位関連値が特定されるだけでなく、所定の隣接領域の路面変位関連値も、検出された路面変位関連情報に基づいて演算された路面変位関連値であると特定される。従って、路面変位関連情報が検出された地点及び所定の隣接領域についてのデータのセットを使用してプレビュー制振制御を行うことができるので、多数の車両が同一の道路を様々な横方向位置にて走行しなくても、有効な路面変位関連値を先読みし、ばね上を制振することができる。
更に、所定の隣接領域について、仮定された路面変位関連値の低周波成分が抽出処理され、抽出処理後の仮定された路面変位関連値と所定の隣接領域の位置を特定可能な位置情報とが紐づけられた仮定のデータのセットが、プレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶される。よって、所定の隣接領域については、抽出処理後の仮定された路面変位関連値と所定の隣接領域の位置を特定可能な位置情報とが紐づけられた仮定のデータのセットをプレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶することができる。
一般に、路面変位関連値の周波数が高いほど、路面の平坦性が低く、互いに隣接する路面部位の路面変位関連値の間の相違量が大きい可能性が高くなる。換言すれば、路面変位関連値の周波数が高いほど、路面変位関連値が同一であると仮定することができる路面の範囲が狭くなる。しかし、路面変位関連値の低周波成分は路面の比較的広い範囲に亘り同一である。
上記の第一の構成によれば、仮定された路面変位関連値の低周波成分が抽出処理される。よって、仮定された路面変位関連値の低周波成分が抽出処理されない場合に比して、路面の平坦性が低い状況においても、所定の隣接領域について仮定されたばね下変位が、その領域の実際のばね下変位と大きく相違する虞を低減することができる。従って、仮定されたばね下変位と実際のばね下変位と大きく相違することに起因して不適切な制御力にてプレビュー制振制御が行われる虞を低減することができる。
【0017】
上記第一の構成の一つの態様においては、第二の制御ユニット(42)は、仮定のデータのセットをプレビュー参照データベース(45)の一部として記憶装置に記憶する場合には、路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であることを示す識別情報(フラグ66)と共に仮定のデータのセットをプレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶するよう構成される。
【0018】
上記態様によれば、仮定のデータのセットがプレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶される場合には、路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であることを示す識別情報と共に仮定のデータのセットがプレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶される。
【0019】
よって、記憶装置に記憶されているプレビュー参照データベースの路面変位関連値及び位置情報を使用してプレビュー制振制御を行う際に、路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であるか否かを識別情報によって判別することができる。
【0020】
更に、上記第一の構成の他の一つの態様においては、第二の制御ユニット(42)は、所定の隣接領域の位置について車両又は他車が走行する際に検出された路面変位関連情報に基づいて演算された路面変位関連値と位置情報とが紐づけられたデータのセットが記憶装置(44)に既に記憶されていると判定したときには、仮定のデータのセットを記憶装置に記憶しないよう構成される。
【0021】
上記態様によれば、所定の隣接領域の位置について車両又は他車が走行する際に検出された路面変位関連情報に基づいて演算された路面変位関連値と位置情報とが紐づけられたデータのセットが記憶装置に既に記憶されていると判定したときには、仮定のデータのセットは記憶装置に記憶されない。
【0022】
よって、検出された路面変位関連情報に基づいて演算された路面変位関連値と位置情報とが紐づけられ記憶装置に既に記憶されているデータのセットが、仮定のデータのセットによって上書きされて記憶されることを防止することができる。
【0026】
更に、上記第一の構成の他の一つの態様においては、第二の制御ユニットは、抽出処理により抽出する成分の周波数が低いほど、所定の隣接領域の車両の進行方向を横切る方向の大きさを大きくするよう構成される。
【0027】
後に説明するように、路面変位関連値が同一であると仮定することができる範囲は、路面変位関連値の波長が長いほど大きくてよく、路面変位関連値の波長はばね下変位の周波数が低いほど大きい。よって、路面変位関連値が同一であると仮定する隣接領域の車両の進行方向を横切る方向の大きさは、抽出処理により抽出される成分の周波数が低いほど大きくされてよい。
【0028】
上記態様によれば、抽出処理により抽出する成分の周波数が低いほど、所定の隣接領域の車両の進行方向を横切る方向の大きさが大きくされる。よって、路面の平坦性が高い状況においては、所定の隣接領域の上記方向の大きさを大きくし、これにより路面変位関連値が同一であると仮定する範囲を大きくすることができる。逆に、路面の平坦性が低い状況においては、所定の隣接領域の上記方向の大きさを小さくし、所定の隣接領域について仮定された路面変位関連値が、その領域の実際の路面変位関連値と大きく相違する虞を低減することができる。
【0029】
更に、上記第一の構成の他の一つの態様においては、車両(V1)は、ばね上とばね下との間に作用する制御力を発生するよう構成された制御力発生装置(アクティブアクチュエータ17)を有し、第一の制御ユニット(30)は、車輪(11)が通過すると予測される車輪通過予測位置を決定し、プレビュー参照データベースのうち車輪通過予測位置の路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値を通信により取得し、取得した路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値に基づいて、車輪が車輪通過予測位置を通過する際のばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力(Fct)を演算し、車輪が車輪通過予測位置を通過する際に制御力発生装置により発生される制御力が目標プレビュー制振制御力になるように制御力発生装置を制御するよう構成される。
【0030】
上記態様によれば、車輪が通過すると予測される車輪通過予測位置が決定され、プレビュー参照データベースのうち車輪通過予測位置の路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値が通信により取得される。取得された路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値に基づいて、車輪が車輪通過予測位置を通過する際のばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力が演算される。更に、車輪が車輪通過予測位置を通過する際に制御力発生装置により発生される制御力が目標プレビュー制振制御力になるように制御力発生装置が制御される。
【0031】
よって、プレビュー参照データベースのうち車輪通過予測位置の路面変位関連値が、仮定された路面変位関連値である場合にも、その仮定された路面変位関連値に基づいて目標プレビュー制振制御力を演算し、目標プレビュー制振制御力に基づいてプレビュー制振制御を行うことができる。
【0032】
また、本発明によれば、上記本発明の基本構成において、
第一及び第二の制御ユニットの少なくとも一方は、路面変位関連情報検出装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、地点の路面変位関連値と同一であると仮定するよう構成され、
車両(V1)は、ばね上とばね下との間に作用する制御力を発生するよう構成された制御力発生装置(アクティブアクチュエータ17)を有し、
第一の制御ユニット(30)は、車輪(11)が通過すると予測される車輪通過予測位置を決定し、プレビュー参照データベースのうち車輪通過予測位置の路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値を通信により取得し、取得した路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値に基づいて、車輪が車輪通過予測位置を通過する際のばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力(Fct)を演算し、車輪が車輪通過予測位置を通過する際に制御力発生装置により発生される制御力が目標プレビュー制振制御力になるように制御力発生装置を制御するよう構成され、
更に、第一の制御ユニット(30)は、仮定された路面変位関連値を通信により取得したときには、仮定された路面変位関連値の低周波成分を抽出処理し、抽出処理後の仮定された路面変位関連値に基づいて、車輪(11)が車輪通過予測位置を通過する際のばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力(Fct)を演算するよう構成される(第二の構成)
上記の第二の構成によれば、車輪が通過すると予測される車輪通過予測位置が決定され、プレビュー参照データベースのうち車輪通過予測位置の路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値が通信により取得される。取得された路面変位関連値又は仮定された路面変位関連値に基づいて、車輪が車輪通過予測位置を通過する際のばね上の振動を低減するための目標プレビュー制振制御力が演算される。更に、車輪が車輪通過予測位置を通過する際に制御力発生装置により発生される制御力が目標プレビュー制振制御力になるように制御力発生装置が制御される。
よって、プレビュー参照データベースのうち車輪通過予測位置の路面変位関連値が、仮定された路面変位関連値である場合にも、その仮定された路面変位関連値に基づいて目標プレビュー制振制御力を演算し、目標プレビュー制振制御力に基づいてプレビュー制振制御を行うことができる。
【0033】
更に、上記の第二の構成によれば、仮定された路面変位関連値が通信により取得されたときには、仮定された路面変位関連値の低周波成分が抽出処理される。よって、路面変位関連値の低周波成分が抽出処理されない場合に比して、路面の平坦性が低い状況においても、所定の隣接領域について仮定された路面変位関連値が、その領域の実際の路面変位関連値と大きく相違する虞を低減することができる。従って、仮定された路面変位関連値と実際の路面変位関連値とが大きく相違することに起因して不適切な制御力にてプレビュー制振制御が行われる虞を低減することができる。
【0034】
更に、上記の第二の構成の一つの態様においては、第一の制御ユニット(30)は、抽出処理により抽出する成分の周波数が低いほど、所定の隣接領域の車両(V1)の進行方向を横切る方向の大きさ(W)を大きくするよう構成される。
【0035】
上記態様によれば、抽出処理により抽出する成分の周波数が低いほど、所定の隣接領域の車両の進行方向を横切る方向の大きさが大きくされる。よって、路面の平坦性が高い状況においては、所定の隣接領域の上記方向の大きさを大きくし、これにより路面変位関連値が同一であると仮定する範囲を大きくすることができる。逆に、路面の平坦性が低い状況においては、所定の隣接領域の上記方向の大きさを小さくし、所定の隣接領域にについて仮定された路面変位関連値が、その領域の実際の路面変位関連値と大きく相違する虞を低減することができる。
【0036】
更に、上記の第二の構成の他の一つの態様においては、第一の制御ユニット(30)は、通信により取得した車輪通過予測位置の路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であると判定したときには、目標プレビュー制振制御力を低減するよう構成される。
【0037】
仮定された路面変位関連値の信頼性は検出値に基づく路面変位関連値の信頼性よりも低いので、仮定された路面変位関連値に基づいて演算される目標プレビュー制振制御力の信頼性は、検出値に基づく路面変位関連値に基づいて演算される目標プレビュー制振制御力の信頼性よりも低い。
【0038】
上記態様によれば、通信により取得した車輪通過予測位置の路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であると判定されたときには、目標プレビュー制振制御力が低減され、発生される制御力が低減される。よって、路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であるときにも目標プレビュー制振制御力が低減されない場合に比して、不適切な大きい制振制御力が発生される虞れを低減することができる。
【0039】
更に、上記の第二の構成の他の一つの態様においては、車載制御装置(102)は、目標プレビュー制振制御力以外の他の目標制振制御力を演算し、車輪が車輪通過予測位置を通過する際に制御力発生装置により発生される制御力が他の目標制振制御力になるように制御力発生装置を制御する他の制振制御を行うよう構成され、第一の制御ユニットは、通信により取得した車輪通過予測位置の路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であると判定したときには、他の目標制振制御力に基づいて発生される制御力を増大させるよう構成される。
【0040】
上記態様によれば、目標プレビュー制振制御以外の他の目標制振制御力が演算され、車輪が車輪通過予測位置を通過する際に制御力発生装置により発生される制御力が他の目標制振制御力になるように制御力発生装置を制御する他の制振制御が行われる。更に、通信により取得された車輪通過予測位置の路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であると判定されたときには、他の目標制振制御力に基づいて発生される制御力が増大される。
【0041】
よって、他の制振制御が行われない場合に比して、路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であるときにもばね上の振動を効果的に低減することができる。特に、路面変位関連値が仮定された路面変位関連値であるときに、目標プレビュー制振制御力に基づいて発生される制御力が低減される場合には、他の制振制御の制御力によって制振制御力が不足する虞れを他の制振制御の制御力によって低減することができる。
【0042】
更に、上記の第二の構成の他の一つの態様においては、第二の制御ユニット(42)は、プレビュー参照データベース(45)における各道路の路面が複数の路面区画(64)に予め区分された路面区画情報(68)を記憶しており、演算した路面変位関連値に対応する位置情報として、路面区画を特定可能な位置情報を記憶装置(44)に記憶するよう構成される。
【0043】
上記態様によれば、プレビュー参照データベースにおける各道路の路面が複数の路面区画に予め区分された路面区画情報が記憶されており、演算された路面変位関連値に対応する位置情報として、路面区画を特定可能な位置情報が記憶装置に記憶される。
【0044】
よって、各路面区画についてのデータのセットよりなるプレビュー参照データベースを記憶装置に記憶することができる。従って、路面変位関連情報が検出される各地点及び隣接領域の各地点についてのデータのセットが、プレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶される場合に比して、データのセットの数を低減し、記憶装置の記憶容量を低減することができる。
【0045】
更に、本発明によれば、車両(V1)の走行中に車輪(11)の位置及び車輪の前方の位置の少なくとも一方の路面の上下変位に関連する路面変位関連情報を検出する路面変位関連情報検出装置(上下加速度センサ31、ストロークセンサ32)と、路面変位関連情報検出装置を制御する第一の制御ユニット(ECU30)と、を備えた車載制御装置(102)と、プレビュー参照データベース(45)を記憶する記憶装置(44)と、記憶装置を制御する第二の制御ユニット(管理サーバ42)と、を備えたプレビュー参照データベース制御装置(104)と、を使用して車両のばね上の振動を低減する車両用プレビュー制振制御方法が提供される。
【0046】
車両用プレビュー制振制御方法は、路面変位関連情報検出装置により検出された路面変位関連情報と該路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報とを紐づけて第二の制御ユニットへ送信するステップと、車両又は他車から送信される路面変位関連情報に基づいて路面の上下変位に関連する路面変位関連値(z)を演算するステップと、演算された路面変位関連値とそれに対応する位置情報とが紐づけられたデータのセットをプレビュー参照データベースの一部として記憶装置に記憶するステップと、プレビュー参照データベースの路面変位関連情報及び位置情報を使用してプレビュー制振制御を行うステップと、データのセットを記憶装置に記憶するステップ及びプレビュー制振制御を行うステップの少なくとも一方において、路面変位関連情報検出装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、前記地点の路面変位関連値と同一であると仮定するステップと、を含み、データのセットを記憶装置に記憶するステップ及びプレビュー制振制御を行うステップの少なくとも一方において、所定の隣接領域について、仮定された路面変位関連値の低周波成分を抽出処理し、抽出処理後の仮定された路面変位関連値と所定の隣接領域の位置を特定可能な位置情報とが紐づけられた仮定のデータのセットを使用するステップ、を含む。
【0047】
よって、上記制御方法によれば、上記プレビュー制振制御装置と同様に、記憶装置に記憶されたプレビュー参照データベースの路面変位関連値及び位置情報を先読みしてプレビュー制振制御を行うことにより、車両のばね上の振動を低減することができる。
【0048】
更に、上記の制御方法によれば、路面変位関連情報が検出された地点及び所定の隣接領域についてのデータのセットを記憶装置に記憶することができる。よって、多数の車両が同一の道路を様々な横方向位置にて走行しなくても、有効な路面変位関連値を先読みし、ばね上を制振することができる。
更に、上記の制御方法によれば、所定の隣接領域について、仮定された路面変位関連値の低周波成分が抽出処理され、抽出処理後の仮定された路面変位関連値と所定の隣接領域の位置を特定可能な位置情報とが紐づけられた仮定のデータのセットが使用される。よって、仮定された路面変位関連値の低周波成分が抽出処理されない場合に比して、路面の平坦性が低い状況においても、所定の隣接領域について仮定されたばね下変位が、その領域の実際のばね下変位と大きく相違する虞を低減することができる。従って、仮定されたばね下変位と実際のばね下変位と大きく相違することに起因して不適切な制御力にてプレビュー制振制御が行われる虞を低減することができる。
【0049】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いられる名称及び/又は符号が括弧書きで添えられている。しかし、本発明の各構成要素は、括弧書きで添えられた名称及び/又は符号に対応する実施形態の構成要素に限定されるものではない。本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】実施形態にかかるプレビュー制振制御装置を示す概略構成図である。
図2】アクティブアクチュエータを含むサスペンションを示す図である。
図3】プレビュー参照データベースに記憶された路面区画情報の例を示す図である。
図4】第一の実施形態において、特定された路面区画に隣接する所定の隣接領域にある路面区画のばね下変位が、特定された路面区画のばね下変位と同一であると仮定する要領を示す図である。
図5】第一の実施形態のプレビュー参照データベース作成ルーチンを示すフローチャートである。
図6】第一の実施形態のプレビュー制振制御ルーチンを示すフローチャートである。
図7】第二の実施形態のプレビュー参照データベース作成ルーチンを示すフローチャートである。
図8】第二の実施形態のプレビュー制振制御ルーチンを示すフローチャートである。
図9】第二の実施形態において、検出値に基づくばね下変位に基づいて仮定のばね下変位を取得する要領を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
[第一の実施形態]
<構成>
第一の実施形態においては、プレビュー制振制御装置100は、図1に示すように、車両V1に搭載された車載装置102及び車外に設置されたプレビュー参照データベース制御装置104を含んでいる。
【0052】
車載装置102は、第一の制御ユニットとして機能するECU30、記憶装置30a、位置情報取得装置33及び無線通信装置34を含んでいる。更に、車載装置102は、車両V1の左前輪11FL、右前輪11FR、左後輪11RL及び右後輪11RLにそれぞれ対応して設けられたアクティブアクチュエータ17FL、17FR、17RL及び17RRを含んでいる。左前輪11FL、右前輪11FR、左後輪11RL及び右後輪11RLは、必要に応じて車輪11と呼称される。アクティブアクチュエータ17FL乃至17RRは、ばね上とばね下との間に作用する制御力を発生するよう構成された制御力発生装置として機能し、必要に応じてアクティブアクチュエータ17と呼称される。
【0053】
なお、制御力発生装置は、発生可能な制御力は制限されるが、アクティブスタビライザ装置、減衰力可変式のショックアブソーバなどであってもよい。更に、制御力を発生可能なサスペンションとして、車輪がインホイールモータを含むサスペンション、即ち車輪の前後力がサスペンションのジオメトリを利用して上下力に変換されるサスペンション、AVS(Adaptive Variable Suspension System)などであってもよい。
【0054】
図2に示すように、車両V1の各車輪11は、車輪支持部材12により回転可能に支持されている。車両V1は、各車輪11に対応してサスペンション13を備えており、サスペンション13は独立懸架式のサスペンションであることが好ましい。各サスペンション13は、対応する車輪を車体10から懸架しており、サスペンションアーム14、ショックアブソーバ15及びサスペンションスプリング16を含んでいる。
【0055】
サスペンションアーム14は、車輪支持部材12を車体10に連結している。なお、図2においては、サスペンションアーム14は、一つのサスペンション13に対して一つしか図示されていないが、サスペンションアーム14は一つのサスペンション13に対して複数設けられていてよい。
【0056】
図2においては、ショックアブソーバ15及びサスペンションスプリング16は、車体10とサスペンションアーム14との間に配設されているが、車体10と車輪支持部材12との間に配設されていてもよい。サスペンションスプリング16は、コイルスプリング以外のスプリングであってもよい。
【0057】
周知のように、車両V1の車体10及びショックアブソーバ15等の部材のうちサスペンションスプリング16よりも車体10の側の部分がばね上21である。これに対し、車両V1の車輪11及びショックアブソーバ15等の部材のうちサスペンションスプリング16より車輪11の側の部分がばね下22である。
【0058】
更に、アクティブアクチュエータ17は、ショックアブソーバ15及びサスペンションスプリング16に対して並列に、車体10とサスペンションアーム14との間に配設されている。アクティブアクチュエータ17は、ばね上21とばね下22との間に作用する制御力を発生するよう構成されており、制御力はアクティブアクチュエータ17がECU30によって制御されることにより制御される。
【0059】
ECU30は、マイクロコンピュータを含み、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、及びインターフェース(I/F)等を含んでいる。CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。
【0060】
ECU30は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶装置30aと接続されている。ECU30は、情報を記憶装置30aに記憶し(保存し)、記憶装置30aに記憶された(保存された)情報を読み出すことができる。なお、記憶装置30aは、本実施形態においてはハードディスクドライブであるが、ハードディスクドライブに限定されず、情報の読み書きが可能な周知の記憶装置又は記憶媒体であればよい。
【0061】
車載装置102には、左右の前輪11FL、11FRに対応してばね上の上下加速度センサ31FR、31FR及びストロークセンサ32FR、32FRが設けられている。これらの上下加速度センサ及びストロークセンサは車載のセンサであり、ECU30に接続されている。これらの上下加速度センサ及びストロークセンサは、車両V1の走行中に左右の前輪の位置の路面の上下変位に関連する路面変位関連情報を所定の時間毎に検出する路面変位関連情報検出装置として機能する。
【0062】
なお、「路面変位関連情報」は、車両のばね下の上下変位を表すばね下変位、ばね下変位の時間微分値であるばね下速度、路面の上下変位を表す路面変位及び路面変位の時間微分値である路面変位速度、又はこれらの演算の基礎とし得る物理量の少なくとも一つであってよい。更に、後述の「路面変位関連値」は、車両のばね下の上下変位を表すばね下変位及び路面の上下変位を表す路面変位の一方であってよい。よって、「路面変位関連情報」及び「路面変位関連値」は、具体的には路面の凹凸、非平坦性、横傾斜、縦傾斜などに関連する情報及び値である。
【0063】
左右の前輪の位置の路面変位関連情報を検出する路面変位関連情報検出装置は、ばね下22の上下加速度を検出する上下加速度センサであってもよい。更に、左右の前輪の前方の位置の路面変位関連情報を検出する路面変位関連情報検出装置として、レーザーセンサが採用さてもよい。
【0064】
上下加速度センサ31FR及び31FRは、車体10(ばね上)のそれぞれ左右の前輪に対応する部位に設けられている。上下加速度センサ31FR及び31FRは、それぞればね上20の対応する部位の上下加速度(ばね上加速度ddz2fl及びddz2fr)を検出し、それらの上下加速度を表す信号をECU30へ出力する。なお、上下加速度センサ31FR及び31FRは、これらを区別する必要がない場合、「上下加速度センサ31」と称呼される。同様に、ばね上加速度ddz2fl及びddz2frは、「ばね上加速度ddz2」と称呼される。
【0065】
ストロークセンサ32FR及び32FRは、それぞれ左右の前輪サスペンション13に設けられている。ストロークセンサ32FR及び32FRは、それぞれ対応するサスペンション13の上下方向のストロークHfl及びHfrを検出し、その上下ストロークを表す信号をECU30へ出力する。ストロークHfl及びHfrは、それぞれ左右の前輪の位置に対応する車体10(ばね上)と対応する車輪支持部材12(ばね下)との間の上下方向の相対変位である。なお、ストロークセンサ32FR及び32FRは、これらを区別する必要がない場合、「ストロークセンサ32」と称呼される。同様に、ストロークHfl及びHfrは、「ストロークH」と称呼される。
【0066】
更に、ECU30は、図1に示されているように、位置情報取得装置33及び無線通信装置34に接続されている。
【0067】
位置情報取得装置33は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機及び地図データベースを備えている。GNSS受信機は、車両V1の現時刻の位置(現在位置)を検出するための「人工衛星からの信号(例えば、GNSS信号)」を受信する。地図データベースには、道路地図情報等が記憶されている。位置情報取得装置33は、GNSS信号に基づいて車両V1の現在位置(例えば、緯度及び経度)を取得する装置であり、例えば、ナビゲーション装置である。
【0068】
無線通信装置34は、クラウド40に収容されたプレビュー参照データベース制御装置104とネットワークNを介して通信するための無線通信端末である。図1に示されているように、他車V2及びV3も車両V1の車載装置102と同様の車載装置を有し、それらの無線通信装置もネットワークNを介してプレビュー参照データベース制御装置104と通信可能である。なお、図1に示された本実施形態においては、他車はV2及びV3の2台であるが、3台以上の多数であってよい。
【0069】
制御装置104は、ネットワークに接続された管理サーバ42及び複数の記憶装置44A乃至44Nを備えており、管理サーバ42は第二の制御ユニットとして機能する。一つ又は複数の記憶装置44A乃至44Nは、これらを区別する必要がない場合、「記憶装置44」と称呼される。記憶装置44は、プレビュー制振制御装置100の車外の記憶装置として機能する。
【0070】
管理サーバ42は、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を備えたECUであってよい。管理サーバ42は、記憶装置44に記憶されたデータの検索及び読み出しを行うと共に、データを記憶装置44に書き込む。
【0071】
記憶装置44には、プレビュー制振制御用マップであるプレビュー参照データベース(以下、単に「データベース」という)45が記憶されている。データベース45には、車両V1又は他車V2又はV3が実際に走行したときに検出された路面変位関連情報に基づいて演算されたばね下変位z1が、路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報と紐付けられて登録されている。よって、データベース45は、路面変位関連情報に基づいて演算されたばね下変位z1と、路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報との組合せのデータである。ばね下変位z1の演算及び位置情報については、後に詳細に説明する。
【0072】
本実施形態においては、管理サーバ42は、各道路の情報を記憶すると共に、図3に示されているように、データベース45において各道路の路面領域を示す地図情報として、各道路60の路面62が複数の路面区画64に予め区分された路面区画情報68を記憶している。X方向は例えば方位の北の方向であり、Y方向はX方向に垂直な方向であってよい。各路面区画64のX方向及びY方向の位置は、それぞれ指標Xm(m=1、2、3・・・)及び指標Yn(n=1、2、3・・・)により表される。
【0073】
なお、図3において、実線にて示される帯状の領域は、道路60に対応する領域であり、点線は路面区画64を示す線である。路面区画64の大きさはデータベース(マップ)45の解像度に影響する。即ち、路面区画64の大きさが大きいほど、データベース45の解像度が低下し、逆に路面区画64の大きさが小さいほど、データベース45の解像度が向上する。各路面区画64の大きさ及び形状は、車輪のタイヤの接地領域の大きさ及び形状及び制御の容易性に則して決定されてよく、本実施形態の路面区画は一辺の長さが50~150mmの一定値(典型的には100mm)である正方形である。
【0074】
データベース45の初期状態においては、各路面区画64のばね下変位z1は、初期値(例えば0)に仮定されており、各路面区画64の仮定フラグ66がオンに設定されている。なお、仮定フラグ66がオンであることは、対応する路面区画64について記憶装置44に記憶されているばね下変位が、初期値又は仮定されたばね下変位であることを意味する。仮定されたばね下変位については後述する。よって、仮定フラグ66は、記憶装置44に記憶されているばね下変位が、初期値又は仮定されたばね下変位であるか否かを示す識別情報として機能する。
【0075】
本実施形態において、管理サーバ42が記憶装置44に記憶する位置情報は、路面区画64を特定可能な位置情報である。データベース45に登録される例えばばね下変位z1cに紐付けられる位置情報は、図1に示されているように、路面区画64を特定する「ZjXmYn」(Zjは各道路60の識別番号で、jは正の整数)と表記されてよい。
【0076】
更に、ECU30は、左前輪アクティブアクチュエータ17FL、右前輪アクティブアクチュエータ17FR、左後輪アクティブアクチュエータ17RL及び右後輪アクティブアクチュエータ17RRのそれぞれに駆動回路(図示せず)を介して接続されている。
【0077】
ECU30は、各車輪11の後述の通過予測位置のばね下変位z1に基づいて各車輪11のばね上の振動を低減するための目標制御力Fctを演算し、各車輪11が通過予測位置を通過するときにアクティブアクチュエータ17が発生する制御力Fcが目標制御力Fctになるようにアクティブアクチュエータ17を制御する。
【0078】
<プレビュー制振制御の概要>
次に、車載装置102のECU30が実行するプレビュー制振制御の概要について説明する。
【0079】
図には示されていないが、ばね上の質量をm2とし、ばね下変位、即ちばね下の上下方向の変位をz1とする。ばね上変位、即ち各車輪11の位置におけるばね上の上下方向の変位をz2とする。サスペンション13のスプリング(サスペンションスプリング16など)のばね定数(等価ばね定数)をKとし、サスペンション13のダンパ(ショックアブソーバ15など)の減衰係数(等価減衰係数)をCとする。アクチュエータ17が発生する制御力をFとする。
【0080】
更に、z1及びz2の時間微分値を、それぞれdz1及びdz2とし、z1及びz2の二階時間微分値を、それぞれddz1及びddz2とする。なお、z1及びz2については上方への変位が正であり、スプリング、ダンパ及びアクチュエータ17などが発生する力については上向きが正であるとする。
【0081】
車両V1のばね上20の上下方向の運動についての運動方程式は、下記の式(1)にて表わされる。
2ddz2=C(dz1-dz2)+K(z1-z2)-Fc・・・(1)
【0082】
式(1)における減衰係数Cは一定であると仮定する。しかし、実際の減衰係数はサスペンション13のストローク速度に応じて変化するので、例えばストロークHの時間微分値に応じて可変設定されてもよい。
【0083】
更に、制御力Fcによってばね上の振動が完全に打ち消された場合(即ち、ばね上加速度ddz2、ばね上速度dz2及びばね上変位z2がそれぞれゼロになる場合)、制御力Fcは、式(2)で表される。
Fc=Cdz1+Kz1・・・(2)
【0084】
従って、ばね上の振動を低減する制御力Fcは、制御ゲインをαとして、式(3)で表わすことができる。なお、制御ゲインαは、0より大きく且つ1以下の任意の定数である。
Fc=α(Cdz1+Kz1)・・・(3)
【0085】
更に、式(3)を式(1)に適用すると、式(1)は式(4)で表すことができる。
2ddz2=C(dz1-dz2)+K(z1-z2)-α(Cdz1+Kz1)・・・(4)
【0086】
この式(4)をラプラス変換して整理すると、式(4)は式(5)で表される。即ち、ばね下変位z1からばね上変位z2への伝達関数が式(5)で表される。なお、式(5)中の「s」はラプラス演算子である。
【0087】
【数1】
【0088】
式(5)によれば、αに応じて伝達関数の値は変化し、αが1である場合、伝達関数の値が最小になる。このことから、目標制御力Fctを式(3)に対応する下記の式(6)で表すことができる。なお、式(6)におけるゲインβ1はαCsに相当し、ゲインβ2はαKに相当する。
Fct=β×dz1+β×z1・・・(6)
【0089】
よって、車載装置102のECU30は、車輪11が後に通過する位置(通過予測位置)のばね下変位z1及びその時間微分値dz1をデータベース制御装置104から通信により予め取得し(先読みし)、ばね下変位z1を式(6)に適用することによって目標制御力Fctを演算する。そして、ECU30は、車輪11が通過予測位置を通過するタイミングで(即ち、式(6)に適用されたばね下変位z1が生じるタイミングで)、目標制御力Fctに対応する制御力Fcをアクチュエータ17に発生させる。このようにすれば、車輪11が通過予測位置を通過する際に生じるばね上の振動を低減することができる。
【0090】
以上がばね上の制振制御であり、この予め取得したばね下変位z1に基づくばね上の制振制御が、本実施形態及び後述の他の実施形態におけるプレビュー制振制御である。
【0091】
なお、上述の説明においては、ばね下の質量及びタイヤの弾性変形が無視され、路面変位z0及びばね下変位z1が同一である仮定されている。従って、ばね下変位z1に代えて路面変位z0を用いて、同様のプレビュー制振制御が実行されてもよい。
【0092】
下記の式(7)は、上記式(6)の微分項(β1×dz1)を省略して、目標制御力Fctを簡便に演算する式である。目標制御力Fctが式(7)に従って演算される場合にも、ばね上の振動を低減する制御力(=β2×z1)がアクチュエータ17により発生されるので、この制御力が発生されない場合に比べて、ばね上の振動を低減することができる。
Fct=β2×z1・・・(7)
【0093】
<第一の実施形態のデータベース作成ルーチン>
第一の実施形態においては、図5のフローチャートに示されたデータベースの作成ルーチンが所定の経過時間毎に実行されることにより、データベースが作成される。なお、ステップ510~530はECU30のCPUにより実行され、ステップ530~580は管理サーバ42のCPUにより実行される。更に、ステップ540~580がばね下変位z1fl及びz1frについて実行されてもよく、ばね下変位z1flについてステップ540~580が実行され、その後ばね下変位z1frについてステップ540~580が実行されてもよい。
【0094】
まず、ステップ510において、CPUは、上下加速度センサ31FR、31FRにより検出されたばね上加速度ddz2fl、ddz2fr及びストロークセンサ32FR、32FRにより検出されたストロークHfl、Hfrを取得する。これらの情報は、左右の前輪の位置の路面の上下変位に関連する路面変位関連情報である。
【0095】
ステップ520において、CPUは、位置情報取得装置33から車両V1の走行経路に基づく現在位置及び進行方向を取得し、それらに基づいて路面変位関連情報が取得された位置(車輪11の位置)を特定可能な位置情報を取得する。この場合、位置情報取得装置33は、自動運転に関する情報、GNSSに関する情報などに基づいて現在位置及び進行方向を特定する。現在位置及び進行方向の特定には、既存の種々の方法が採用されてよいので、現在位置及び進行方向の特定についての詳細な説明を省略する。車両V1の現在位置及び進行方向は、路面変位関連情報が取得された位置を特定可能な位置情報である。
【0096】
ステップ530において、ECU30のCPUは、ステップ510及び520において取得した路面変位関連情報と位置情報とが紐づけられたデータのセットとして、無線通信装置34及びネットワークを介して管理サーバ42へ送信する。管理サーバ42のCPUは、受信した情報を図1には示されていない記憶装置に記憶する。
【0097】
なお、ECU30のCPUは、ステップ510及び520の完了毎に逐次行われてもよいが、ステップ510及び520において取得された情報が記憶装置30aなどに一時的に記憶され、一時的に記憶された一連の情報が所定の時間毎に管理サーバ42へ送信されることが好ましい。
【0098】
ステップ540において、CPUは、ステップ530において受信したばね上加速度ddz2fl、ddz2fr及びストロークHfl、Hfrに基づいて、オフラインのデータ処理によりそれぞれ左右の前輪に対応するばね下変位z1fl、z1frを演算する。ばね下変位は、当技術分野において公知の任意の要領にて演算されてよく、例えばオフラインフィルタ及び理想積分を使用して、ばね下変位の2階積分値とストロークとの差として演算されてよい。
【0099】
なお、ばね下変位z1は、左右の前輪に対応して設けられたばね下の上下加速度センサにより検出されるばね下の上下加速度を2階積分することにより演算されてもよい。また、ばね下変位z1は、各車輪の位置におけるばね上の上下加速度、サスペンションストローク、及びばね下の上下加速度の少なくも一つに基づいて、当技術分野において公知のオブザーバを用いて演算されてもよい。更に、ばね下変位z1は、レーザーセンサにより検出される左右の前輪の前方の位置の路面の上下変位に基づいて演算されてもよい。
【0100】
特に、本実施形態においては、ばね下変位z1は、各路面区画64について演算される。路面区画についてのばね下変位z1の演算要領を。図4を参照して説明する。
【0101】
図4において、太い実線70は、車輪11のタイヤの接地領域の中心(図示せず)の移動軌跡の一例に対応する直線を示している。なお、矢印Aは車輪11の移動方向を示しており、説明の便宜上、車輪11の移動方向は車両V1の進行方向と同一であるとする。
【0102】
太い実線70上の黒丸72は、ばね上の上下加速度センサ31FLなどのセンサにより検出値が検出された地点を示しており、検出値に基づくばね下変位はこれらの地点が属する路面区画のばね下変位として演算される。なお、データベース45において路面領域を示す路面区画情報68における黒72の位置は、ステップ530において受信されるデータのセットに含まれる検出値と、車両V1の位置及び進行方向に基づいて決定される車輪11の位置との同期をとることにより求められてよい。
【0103】
各センサの検出値は、センサのサンプリング周波数に応じた頻度で取得される。サンプリング周波数は一定であるので、検出値が取得される地点間の距離(即ち、図4の黒丸72の間隔)は、車速Vv1が大きくなるほど大きくなる。例えば、サンプリング周波数が100Hzであり、車速が時速100kmであるとすると、検出値が取得される地点間の距離は、約278mmとなり、路面区画64の辺及び対角線の長さよりも大きい。
【0104】
よって、車輪の移動方向に沿う黒丸72の数は、車輪の移動方向に沿う路面区画64の数よりも少ない。そこで、管理サーバ42のCPUは、検出値に基づいて相前後して演算された二つのばね下変位に対応する二つの地点、即ち互いに隣接する二つの黒丸72の間の領域について、ばね下変位を補完するリサンプリングを行う。即ち、二つの黒丸72の間に例えば10mm毎に推定のばね下変位が存在するよう、ステップ530において受信されるデータのセットに含まれる検出値がリサンプリングされ、リサンプリングされた検出値に基づいて補完ばね下変位が演算される。図4の白丸74は、補完ばね下変位に対応する地点を示している。
【0105】
なお、検出値のリサンプリングは、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよいので。検出値のリサンプリングについての説明を省略する。
【0106】
更に、管理サーバ42のCPUは、各路面区画64に属する補完ばね下変位及び検出値に基づくばね下変位の平均値又は補完ばね下変位の平均値を当該路面区画のばね下変位として演算する。よって、図4において太い実線70が通る全ての路面区画64について検出値に基づくばね下変位が求められる。
【0107】
ステップ550において、CPUは、ステップ530において受信した位置情報に基づいて路面変位関連情報が取得された位置に対応する路面区画を特定する。更に、CPUは、特定した路面区画とステップ540において演算されたばね下変位(検出値に基づくばね下変位)とが紐づけられたデータのセットをデータベースの一部として記憶装置44に記憶する。即ち、CPUは、特定した路面区画について、検出値に基づくばね下変位にてデータベースを更新する。
【0108】
なお、CPUは、特定した路面区画の仮定フラグがオンであるときには、仮定フラグをオフに切り替える。更に、特定した路面区画について検出値に基づくばね下変位が既に記憶されているときには、ステップ540において演算されたばね下変位が上書きにより記憶されてもよく、或いは既に記憶されているばね下変位と演算されたばね下変位との平均値が記憶されてもよい。
【0109】
ステップ560において、CPUは、ステップ550において特定した路面区画に隣接する所定の隣接領域にある路面区画のばね下変位が、特定した路面区画のばね下変位と同一であると仮定する。これにより、所定の隣接領域にある路面区画のばね下変位が、検出値に基づくばね下変位に基づいて演算される仮定のばね下変位に決定される。
【0110】
例えば、図4に示されているように、CPUは、上述のように特定した太い実線70上の黒丸72及び白丸74を、太い実線70の両側に太い実線に垂直な方向へ所定量移動してコピーする。図4において、破線76は太い実線70がコピーされた位置を示している。コピーされた黒丸72c及び白丸74cに対応する検出値に基づくばね下変位及び補完ばね下変位は、それぞれコピー元の黒丸72及び白丸74に対応する検出値に基づくばね下変位及び補完ばね下変位と同一である。なお、コピーに際し移動する方向は、車両V1の進行方向を横切る方向であればよく、太い実線70に垂直な方向でなくてもよい。
【0111】
更に、CPUは、太い実線70上の黒丸72及び白丸74について行われた上述のばね下変位の演算と同一の要領にて、各路面区画64についてコピーされた補完ばね下変位及び検出値に基づくばね下変位に基づいて仮定のばね下変位を演算する。よって、車輪が通過する路面区画64に隣接し且つ車輪が通過しない路面区画について、車輪が通過する路面区画64の検出値に基づくばね下変位に基づいて仮定のばね下変位が求められる。
【0112】
なお、本実施形態においては、隣接は車両V1の進行方向に垂直な方向の隣接であるが、隣接の方向は車両V1の進行方向を横切る方向であればよく、例えば車両V1の長手方向に垂直な方向、車線に対し垂直な方向であってもよい。また、所定の隣接領域78の車両V1の進行方向を横切る方向の幅Wは、車輪11のタイヤ(図示せず)の幅よりも大きく、車線を越えない範囲に設定される。更に、太い実線70の両側の幅Wは、互いに異なる値であってもよい。
【0113】
特に幅Wが大きい場合には、所定の隣接領域内の全ての路面区画64について仮定のばね下変位が演算されるよう、上述の検出値に基づくばね下変位及び補完ばね下変位のコピーは、太い実線70の両側において必要に応じて複数回行われてよい。
【0114】
前述のように、ばね下変位の周波数が高いほど、路面の平坦性が低く、互いに隣接する路面部位のばね下変位の間の相違量が大きい可能性が高くなる。換言すれば、ばね下変位の周波数が高いほど、ばね下変位が同一であると仮定することができる路面の範囲が狭くなる。よって、ステップ560において、所定の隣接領域のばね下変位の低周波成分を抽出する処理、例えばローバスフィルタ処理又は移動平均処理が行われ、抽出処理後のばね下変位が仮定のばね下変位z1aiとされてよい。
【0115】
低周波成分抽出処理によれば、低周波成分抽出処理が行われない場合に比して、路面の平坦性が低い状況においても、所定の隣接領域にある路面区画について仮定されたばね下変位が、その路面区画の実際のばね下変位と大きく相違する虞を低減することができる。従って、仮定されたばね下変位と実際のばね下変位とが大きく相違することに起因して不適切な制御力にてプレビュー制振制御が行われる虞を低減することができる。
【0116】
また、ばね下変位が同一であると仮定することができる範囲は、ばね下変位の波長が長いほど大きくてよく、ばね下変位の波長はばね下変位の周波数が低いほど大きい。よって、ばね下変位が同一であると仮定する隣接領域の幅Wは、抽出処理により抽出される成分の周波数に応じて、例えばローバスフィルタ処理のカットオフ周波数又は移動平均処理の平均する期間の長さに応じて変更されてよい。
【0117】
例えば、車速V1が36km/hであるときの周波数が1Hzのばね下変位の1波長は10mである。1波長のばね下変位のうち10分の1の範囲(この範囲に特別の根拠はない)が同一の値であるとすると、ばね下変位が同一であると仮定する隣接領域78の幅Wは、±0.5mの幅、即ち車輪の通過予測位置の両側の0.5mの幅が有効である。なお、+及び-は、それぞれ車輪に対し車両の横方向外側及び車両の横方向内側を意味する。
【0118】
また、車速V1が36km/hであるときの周波数が2Hzのばね下変位の1波長は5mである。ばね下変位が同一であると仮定する隣接領域78の幅Wは、±0.25mの幅、即ち車輪の通過予測位置の両側の0.25mの幅が有効である。よって、ばね下変位が同一であると仮定する隣接領域78の幅Wは、抽出処理により抽出される成分の周波数が低いほど大きくなるよう、可変設定されてよい。例えば、ローバスフィルタ処理のカットオフ周波数が低いほど、或いは移動平均処理の平均する期間の長さが長いほど、大きくなるよう、可変設定されてよい。
【0119】
上述の隣接領域78の幅Wの可変設定によれば、路面の平坦性が高い状況においては、隣接領域78の幅Wを大きくし、これによりばね下変位が同一であると仮定する範囲を大きくすることができる。逆に、路面の平坦性が低い状況においては、隣接領域78の幅Wを小さくし、所定の隣接領域にある路面区画について仮定されたばね下変位が、その路面区画の実際のばね下変位と大きく相違する虞を低減することができる。
【0120】
ステップ570において、CPUは、所定の隣接領域にある各路面区画について、仮定フラグがオンであるか否かを順次判別する。更に、CPUは、各判別において否定判別をすると、即ち検出値に基づくばね下変位を含むデータのセットが既に記憶されていると判別すると、データのセットを記憶することなく、図5に示されたルーチンによる制御を一旦終了する。
【0121】
これに対し、CPUは、肯定判別をすると、ステップ580において同一であると仮定されたばね下変位(仮定されたばね下変位)と路面区画とが紐づけられたデータのセットをデータベースの一部として記憶装置44に記憶する。即ち、CPUは、所定の隣接領域にある路面区画について、仮定されたばね下変位にてデータベースを更新する。
【0122】
<第一の実施形態のプレビュー制振制御ルーチン>
第一の実施形態においては、図6のフローチャートに示された制振制御ルーチンがECU30のCPUによって所定の経過時間毎に実行されることにより、プレビュー制振制御が実行される。なお、プレビュー制振制御は、例えば左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪の順に各車輪の位置について実行されてよい。
【0123】
まず、ステップ610において、CPUは、位置情報取得装置33から車両V1の位置に関する履歴情報を取得し、履歴情報に基づいて各車輪11の現在位置、車速Vv1及び車両V1の進行方向Tdを取得する。
【0124】
なお、ECU30のROMは、車両V1におけるGNSS受信機の搭載位置と各車輪11の位置との関係を記憶している。位置情報取得装置33から取得される車両V1の現在位置はGNSS受信機の搭載位置であり、CPUは、車両V1の現在位置、車両V1の進行方向Td及び上記位置関係に基づいて各車輪11の現在位置を特定する。更に、位置情報取得装置33が受信するGNSS信号は車両V1の移動速度に関する情報を含んでおり、CPUは、GNSS信号に基づいて車速Vv1を取得する。
【0125】
ステップ620において、CPUは、各車輪11の現在位置、車両V1の進行方向Td及び上記位置関係に基づいて、左右の前輪及び左右の後輪の移動予測進路を特定する。前輪及び後輪の移動予測進路は、それぞれ前輪11F及び後輪11Rが今後移動すると予測される進路である。
【0126】
ステップ630において、CPUは、左右の前輪及び左右の後輪の移動予測進路及び車速V1に基づいて、所定の時間後の左右の前輪の通過予測位置及び左右の後輪の通過予測位置を特定する。
【0127】
ステップ640において、CPUは、クラウド40のデータベース45から左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪の通過予測位置に対応する路面区画64のばね下変位z1ai(i=fl、fr、rl及びrr)を取得する。
【0128】
なお、ばね下変位z1aiの取得は、制御サイクル毎に逐次行われてもよく、また車輪毎に一連の通過予測位置に対応する路面区画64のばね下変位z1aiがまとめて取得され、ECU30のRAMに保存されてもよい。
【0129】
ステップ650において、CPUは、車輪の通過予測位置に対応する路面区画64の仮定フラグ66がオンであるか否かを判別する。更に、CPUは、否定判別をすると、即ち通過予測位置に対応する路面区画64のばね下変位が検出値に基づくばね下変位であると判別すると、ステップ660においてプレビュー制振制御のゲインGpvを標準値である1に設定する。これに対し、CPUは、肯定判別をすると、ステップ670においてプレビュー制振制御のゲインGpvを標準値よりも小さい正の値Gpva、例えば0.8に設定する。
【0130】
なお、プレビュー制振制御に加えてばね上の振動を低減するためのフィードバック制振制御が行われる場合には、ステップ670においてプレビュー制振制御のゲインGpvが低減されることなく、フィードバック制振制御のゲインが増大されてもよい。更に、ステップ670においてプレビュー制振制御のゲインGpvが低減されると共にフィードバック制振制御のゲインが増大されてもよい。換言すれば、プレビュー制振制御以外の他の制振制御も行われる車両の場合には、プレビュー制振制御量が低減されることなく、他の制振制御量が増大されてもよく、プレビュー制振制御量が低減されると共に他の制振制御量が増大されてもよい。
【0131】
なお、他の制振制御は、フィードバック制振制御に限定されない。例えば、他の制振制御は、レーザーセンサのようなプレビューセンサにより車輪の前方の位置の路面変位関連情報が取得され、路面変位関連情報に基づく路面変位関連値に基づいて制御力が制御される制振制御であってもよい。
【0132】
ステップ680において、CPUは、上記式(6)に対応する下記の式(8)により、ばね下変位z1ai及びその時間微分値dz1aiに基づいて、各車輪のアクティブアクチュエータ17FL~17RRの目標制御力Fcti(i=fl、fr、rl及びrr)を演算する。
Fcti=Gpv(β×dz1ai+β×z1ai)・・・(8)
【0133】
ステップ690において、CPUは、目標制御力Fctiを含む制御指令を各車輪のアクティブアクチュエータ17FL~17RRへ出力することにより、各アクティブアクチュエータが発生する制御力Fcが目標制御力Fctiになるように制御する。なお、各アクティブアクチュエータは、各車輪11が対応する通過予測位置を通過するタイミングで目標制御力Fctiに対応する制御力を出力する。
【0134】
なお、本発明の車両用プレビュー制振制御方法は、
路面変位関連情報検出装置により検出された路面変位関連情報と該路面変位関連情報が検出された位置を特定可能な位置情報とを紐づけて第二の制御ユニットへ送信するステップAと、
車両又は他車から送信される路面変位関連情報に基づいて路面の上下変位に関連する路面変位関連値を演算するステップBと、
演算された路面変位関連値とそれに対応する位置情報とが紐づけられたデータのセットをデータベースの一部として記憶装置に記憶するステップCと、
データベースの路面変位関連情報及び位置情報を使用してプレビュー制振制御を行うステップDと、
データのセットを記憶装置に記憶するステップ及びプレビュー制振制御を行うステップの少なくとも一方において、路面変位関連情報検出装置により路面変位関連情報が検出された地点に対し車両の進行方向を横切る方向に位置する所定の隣接領域の路面変位関連値が、前記地点の路面変位関連値と同一であると仮定するステップEと、
を含んでいる。
【0135】
第一の実施形態においては、ステップ510~530がステップAに対応し、ステップ540がステップBに対応する。ステップ550がステップCに対応し、ステップ610~690がステップDに対応する。更に、ステップ560がステップEに対応する。よって、これらのステップによって本発明の車両用プレビュー制振制御方法が実行される。
【0136】
[第二の実施形態]
<第二の実施形態のデータベース作成ルーチン>
第二の実施形態においては、データベース作成は、図7のフローチャートに示されたデータベース作成ルーチンが所定の経過時間毎に実行されることにより行われる。ステップ710~730は第一の実施形態のステップ510~530と同様にECU30のCPUにより実行され、ステップ730~750は第一の実施形態のステップ530~550と同様に管理サーバ42のCPUにより実行される。
【0137】
よって、第二の実施形態のデータベース作成ルーチンについての説明を省略する。なお、図7図5との比較から解るように、第二の実施形態においては、第一の実施形態のステップ560~580に対応するステップは実行されない。
【0138】
<第二の実施形態のプレビュー制振制御ルーチン>
第二の実施形態においては、図8のフローチャートに示された制振制御ルーチンがECU30のCPUによって所定の経過時間毎に実行されることにより、プレビュー制振制御が実行される。なお、本実施形態のプレビュー制振制御も、例えば左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪の順に各車輪の位置について実行されてよい。ステップ810~830は第一の実施形態のステップ610~630と同様に実行され、ステップ855及び875はそれぞれ第一の実施形態のステップ660及び670と同様に実行される。更に、ステップ880及び890はそれぞれ第一の実施形態のステップ680及び690と同様に実行される。
【0139】
CPUは、ステップ830を完了すると、ステップ840において、車輪の通過予測位置及びそれに隣接する領域の路面区画64のばね下変位z1i(i=fl、fr、rl及びrr)をデータベース45から取得する。更に、CPUは、車輪の通過予測位置に対応する路面区画64に検出値に基づくばね下変位z1aiのデータがあるか否かを判別する。
【0140】
CPUは、肯定判別をすると、ステップ850においてデータベース45から取得したばね下変位z1iのうち、車輪の通過予測位置に対応する路面区画64のばね下変位z1ai(i=fl、fr、rl及びrr)を取得する。更に、CPUは、ステップ855においてプレビュー制振制御のゲインGpvを標準値である1に設定する。
【0141】
これに対し、CPUは、否定判別をすると、即ち車輪の通過予測位置に対応する路面区画64に検出値に基づくばね下変位のデータがないと判別すると、ステップ860において車輪の通過予測位置に対応する路面区画64に隣接する路面区画に検出値に基づくばね下変位のデータがあるか否かを判別する。
【0142】
本実施形態においても、隣接は車両V1の進行方向に垂直な方向の隣接であるが、隣接の方向は車両V1の進行方向を横切る方向であればよく、例えば車両V1の長手方向に垂直な方向、車線に対し垂直な方向であってもよい。なお、隣接の範囲は第一の実施形態における隣接の範囲と異なっていてよい。
【0143】
CPUは、否定判別をすると、ステップ880及び890を実行することなく、換言すれば、プレビュー制振制御の制御力を制御することなく、図8のフローチャートに示された制振制御ルーチンを一旦終了する。なお、CPUは、否定判別をする場合には、フィードバック制振制御を行ってもよく、更にはプレビュー制振制御及びフィードバック制振制御以外の他の制振制御を行ってもよい。
【0144】
これに対し、CPUは、肯定判別をすると、ステップ870において車輪の通過予測位置のばね下変位は、隣接する路面区画領域(所定の隣接領域)のばね下変位と同一であると仮定し、その仮定のばね下変位z1aiを取得する。更に、CPUは、ステップ875においてプレビュー制振制御のゲインGpvを標準値よりも小さい正の値Gpva、例えば0.8に設定する。
【0145】
図9は仮定のばね下変位を取得する要領の一例を示している。図9において、太い実線80は、車輪11のタイヤの接地領域の中心(図示せず)の移動進路の一例に対応する直線を示している。太い実線80上の四角82は、車輪11のタイヤの接地領域の中心の通過予測位置を示している。これらの移動進路及び通過予測位置は、それぞれステップ820及び830において特定された車輪の予測移動進路及び車輪の通過予測位置に基づいて決定される。更に、図9において、符号84は所定の隣接領域を示している。太い実線80の両側の所定の隣接領域84の幅Wは互いに異なる値であってもよい。
【0146】
なお、矢印Bは車輪11の移動方向を示しており、説明の便宜上、車輪11の移動方向は車両V1の進行方向と同一であるとする。図9に示されているように、太い実線80が通る路面区画64の少なくとも一部については検出値に基づくばね下変位z1は記憶されておらず、フラグ66がオンであるが、所定の隣接領域84の路面区画64の少なくとも一部については検出値に基づくばね下変位z1が記憶され、フラグ66がオフであるとする。
【0147】
図9において破線の矢印にて示されているように、所定の隣接領域84の路面区画64の検出値に基づくばね下変位z1が、太い実線70が通る路面区画64のばね下変位としてコピーされる。そしてコピーされたばね下変位z1が、車輪の通過予測位置の路面区画64についての仮定のばね下変位z1aiとして記憶装置30aに記憶される。この場合、コピーされるべきばね下変位z1が複数であるときには、コピーされるばね下変位は、太い実線70に最も近い路面区画のばね下変位のみであってもよく、複数のばね下変位の平均値がコピーされてもよい。平均値は、太い実線70に近いほど重みが大きい重み平均値であってもよい。
【0148】
車輪の通過予測位置の路面区画(「制御対象の路面区画」という)について、検出値に基づくばね下変位z1が記憶されていないときには、図9において破線の矢印にて示されているように、当該制御対象の路面区画のばね下変位は、隣接領域の路面区画のばね下変位と同一であると仮定される。更に、制御対象の路面区画についてのプレビュー制振制御は、仮定されたばね下変位に基づいて演算される目標制御力に基づいて行われる。
【0149】
これに対し、制御対象の路面区画について、検出値に基づくばね下変位z1が記憶されているときには、図9において破線の矢印が示されていないように、ばね下変位の仮定は行われない。更に、制御対象の路面区画についてのプレビュー制振制御は、記憶されているばね下変位に基づいて演算される目標制御力に基づいて行われる。
【0150】
前述のように、ばね下変位の周波数が高いほど、ばね下変位が同一であると仮定することができる路面の範囲が狭くなる。よって、ステップ870において、所定の隣接領域のばね下変位の低周波成分を抽出する処理、例えばローバスフィルタ処理又は移動平均処理が行われ、抽出処理後のばね下変位が仮定のばね下変位z1aiとされてよい。
【0151】
第一の実施形態と同様に、低周波成分抽出処理によれば、低周波成分抽出処理が行われない場合に比して、路面の平坦性が低い状況においても、所定の隣接領域にある路面区画について仮定されたばね下変位が、その路面区画の実際のばね下変位と大きく相違する虞を低減することができる。従って、仮定されたばね下変位と実際のばね下変位と大きく相違することに起因して不適切な制御力にてプレビュー制振制御が行われる虞を低減することができる。
【0152】
また、前述のように、ばね下変位が同一であると仮定することができる範囲は、ばね下変位の波長が長いほど大きくてよく、ばね下変位の波長はばね下変位の周波数が低いほど大きい。よって、ばね下変位が同一であると仮定する隣接領域84の幅Wは、抽出処理により抽出される成分の周波数が低いほど大きくなるよう、可変設定されてよい。例えば、ローバスフィルタ処理のカットオフ周波数が低いほど、或いは移動平均処理の平均する期間の長さが長いほど、大きくなるよう、可変設定されてよい。
【0153】
上述の隣接領域84の幅Wの可変設定によれば、路面の平坦性が高い状況においては、隣接領域84の幅Wを大きくし、これによりばね下変位が同一であると仮定する範囲を大きくすることができる。逆に、路面の平坦性が低い状況においては、隣接領域78の幅Wを小さくし、所定の隣接領域にある路面区画について仮定されたばね下変位が、その路面区画の実際のばね下変位と大きく相違する虞を低減することができる。
【0154】
なお、プレビュー制振制御に加えてばね上の振動を低減するためのフィードバック制振制御が行われる場合には、ステップ875においてプレビュー制振制御のゲインGpvが低減されることなく、フィードバック制振制御のゲインが増大されてもよい。更に、ステップ875においてプレビュー制振制御のゲインGpvが低減されると共にフィードバック制振制御のゲインが増大されてもよい。換言すれば、プレビュー制振制御以外の他の制振制御も行われる車両の場合には、プレビュー制振制御量が低減されることなく、他の制振制御量が増大されてもよく、プレビュー制振制御量が低減されると共に他の制振制御量が増大されてもよい。
【0155】
前述のように、本発明の車両用プレビュー制振制御方法は、ステップA~Eを含んでいる。第二の実施形態においては、ステップ710~730がステップAに対応し、ステップ740がステップBに対応する。ステップ750がステップCに対応し、ステップ810~855及びステップ880~890がステップDに対応する。更に、ステップ860~875がステップEに対応する。よって、これらのステップによって本発明の車両用プレビュー制振制御方法が実行される。
【0156】
以上の説明より解るように、第一及び第二の実施形態によれば、記憶装置44に記憶されたデータベース45のばね下変位z1を通信により先読みしてプレビュー制振制御を行うことにより、車両のばね上の振動を低減することができる。特に、路面変位関連情報が検出された位置及び所定の隣接領域についてのデータのセットを使用してプレビュー制振制御を行うことができる。よって、多数の車両が同一の道路を様々な横方向位置にて走行しなくても、有効なばね下変位z1aiを先読みしてばね上を制振することができる。
【0157】
特に、第一の実施形態によれば、ばね下変位z1が仮定されたばね下変位である場合には、そのことを示す識別標識である仮定フラグ66がオンに設定される。よって、データベース45のばね下変位z1を使用してプレビュー制振制御を行う際に、ばね下変位が検出された路面変位関連情報に基づいて演算されたばね下変位であるか否かを仮定フラグ66によって判別することができる。
【0158】
また、第一の実施形態によれば、所定の隣接領域の位置について車両又は他車が走行する際に検出された路面変位関連情報に基づいて演算されたばね下変位z1と位置情報とが紐づけられたデータのセットが記憶装置44に既に記憶されているときには、仮定のデータのセットは記憶装置に記憶されない。よって、検出された路面変位関連情報に基づいて演算されたばね下変位と位置情報とが紐づけられ記憶装置に既に記憶されているデータのセットが、仮定のデータのセットによって上書きされて記憶されることを防止することができる。
【0159】
また、第一及び第二の実施形態によれば、車輪通過予測位置のばね下変位z1aiが仮定されたばね下変位である場合にも、その仮定されたばね下変位に基づいて目標プレビュー制振制御力を演算し、目標プレビュー制振制御力に基づいてプレビュー制振制御を行うことができる。
【0160】
また、第一及び第二の実施形態によれば、取得した車輪通過予測位置のばね下変位が仮定されたばね下変位であると判定されたときには、目標プレビュー制振制御力Fctiが低減されることにより、それに基づいて発生される制御力が低減される。よって、ばね下変位が仮定されたばね下変位であるときにも目標プレビュー制振制御力が低減されない場合に比して、不適切な大きい制振制御力が発生される虞れを低減することができる。
【0161】
また、第一及び第二の実施形態によれば、目標プレビュー制振制御以外の他の制振制御が行われない場合に比して、ばね下変位が仮定されたばね下変位であるときにもばね上の振動を効果的に低減することができる。特に、ばね下変位が仮定されたばね下変位であるときに、目標プレビュー制振制御力に基づいて発生される制御力が低減される場合には、制振制御力が不足する虞れを他の制振制御の制御力によって制振制御力が不足する虞れを低減することができる。
【0162】
また、第一及び第二の実施形態によれば、各路面区画64についてのデータのセットよりなるデータベース45を記憶装置44に記憶することができる。よって、例えば路面変位関連情報が検出される各地点及び隣接領域の各地点についてのデータのセットが、データベースの一部として記憶装置に記憶される場合に比して、データのセットの数を低減し、記憶装置の記憶容量を低減することができる。
【0163】
特に、第一の実施形態によれば、所定の隣接領域の位置についてのばね下変位の仮定は、データベース制御装置104において行われる。よって、所定の隣接領域の位置についてのばね下変位の仮定が各車両において行われる第二の実施形態に比して、各車両においてプレビュー制振制御を効率的に行うことができる。
【0164】
逆に、第二の実施形態によれば、第一の実施形態によってもデータのセットが道路の全幅に亘り記憶装置44に記憶されていない状況においても、プレビュー制振制御を実行する可能性を増大させることができる。換言すれば、車輪通過予測位置に検出値に基づくばね下変位がない状況においても、仮定されたばね下変位に基づいてプレビュー制振制御を実行する可能性を増大させることができる。
【0165】
[第一の変形例]
上述の第一の実施形態においては、記憶装置44に記憶されているばね下変位が、初期値又は仮定されたばね下変位であるか否かを示す識別標識として、仮定フラグ66が使用されている。本変形例においては、仮定フラグ66に代えて、「車輪11が各路面区画64を通過した回数PN」が使用される。回数PNが0であることは、車輪11が通過していないことを意味し、回数PNが1以上であることは、当該路面区画について検出値に基づくばね下変位z1が既に記憶装置44に記憶されていることを意味する。よって、回数PNによれば、仮定フラグ66のオンからオフへの切り替えが不要になる。
【0166】
なお、第一の実施形態において回数PNが採用される場合には、ステップ570及び650において、仮定フラグ66がオンであるか否かの判別に代えて、回数PNが0であるか否かの判別が行われる。
【0167】
[第二の変形例]
本変形例は、第一の実施形態の変形例である。本変形例のフローチャートは図示されていないが、データベース作成ルーチン及びプレビュー制振制御ルーチンは、ステップ560を除き、それぞれ図5及び図6のフローチャートに示されたルーチンと同一である。
【0168】
前述のように、第一の実施形態のステップ560においては、図4に示されているように、太い実線70上の黒丸72及び白丸74が太い実線70の両側に太い実線に垂直な方向へ所定量移動してコピーされる。更に、コピー後の黒丸72及び白丸74のばね下変位に基づいて、即ち各路面区画64についてコピーされた検出値に基づくばね下変位及び補完ばね下変位に基づいて各路面区画64の仮定のばね下変位が演算される。
【0169】
これに対し、本変形例のステップ560においては、ステップ550において演算された各路面区画64のばね下変位が、太い実線70に対し車両の進行方向を横切る方向に隣接する所定の隣接領域内の路面区画64のばね下変位とみなされる。即ち、検出値に基づくばね下変位が求められた路面区画64に隣接する所定の隣接領域内の路面区画64のばね下変位は、検出値に基づくばね下変位と同一であると仮定される。なお、同一であると仮定されるばね下変位が複数である場合には、複数のばね下変位の平均値が仮定のばね下変位として演算されてよい。平均値は、太い実線70に近いほど重みが大きい重み平均値であってもよい。
【0170】
本変形例によれば、所定の隣接領域内の各路面区画について、コピーされた検出値に基づくばね下変位及び補完ばね下変位に基づいて仮定のばね下変位を演算する必要がない。よって、第一の実施形態に比して簡便に所定の隣接領域内の各路面区画の仮定のばね下変位を求めることができる。
【0171】
以上においては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0172】
例えば、上述の各実施形態においては、路面変位関連情報に基づく路面変位関連値はばね下変位であるが、路面変位であってもよい。
【0173】
上述の各実施形態においては、データベース作成ルーチンの後半部分は、車外に設置されたデータベース制御装置104の管理サーバ42により実行される。しかし、データベース作成ルーチンの後半部分の少なくとも一部が、エッジの側、即ち車両において行われてもよい。データベース45は、クラウド40の記憶装置44に記憶されている必要はなく、記憶装置30aに記憶されていてもよい。
【0174】
また、上述の各実施形態においては、車載装置102からデータベース制御装置104へ車速Vv1の情報は送信されない。しかし、例えばGNSS受信機が取得する車両V1の現在位置に基づいて車速Vv1が取得され、車速Vv1の情報がデータのセットの一部として車載装置102からデータベース制御装置104へ送信されてもよい。また、その場合には、車速Vv1の情報がばね下変位及び位置情報と紐づけられてデータベース45の一部として記憶装置44に保存されてもよい。
【0175】
上述の各実施形態においては、アクティブアクチュエータ17の目標制御力Fctiは、上記式(6)に対応する上記式(8)により、ばね下変位z1ai及びその時間微分値dz1aiに基づいて演算される。しかし、目標制御力Fctiは、上記式(7)に対応する下記の式(9)により、ばね下変位z1aiに基づいて簡便に演算されてもよい。
Fcti=Gpv×β×z1ai・・・(9)
【0176】
上述の第一の実施形態においては、仮定フラグ66がオンであることは、対応する路面区画64について記憶装置44に記憶されているばね下変位が、初期値又は仮定されたばね下変位であることを意味する。しかし、記憶装置44に記憶されているばね下変位が仮定されたばね下変位であることを示すフラグは、ばね下変位が初期値であることを示すフラグとは別のフラグであってもよい。これらのフラグが使用される場合には、記憶装置44に記憶されているばね下変位が仮定されたばね下変位であるか初期値であるかを識別することができる。
【0177】
更に、上述の第一及び実施形態が組み合せて実施されてもよい。例えば、データベース作成ルーチンが図5のフローチャートに示されたルーチンに従って実行され、プレビュー制振制御ルーチンが図8のフローチャートに示されたルーチンに従って実行されてよい。
【符号の説明】
【0178】
V1…車両、11…車輪、13…サスペンション、17…アクティブアクチュエータ、30…電子制御装置、30a…記憶装置、31…上下加速度センサ、32…ストロークセンサ、40…クラウド、42…管理サーバ、44A~44N…記憶装置、45…プレビュー参照データベース、64…路面区画、68…地図情報、68…路面区画情報、100…プレビュー制振制御装置、102…車載装置、104…データベース制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9