IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】運転支援システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20231017BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20231017BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20231017BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/095
B60W40/02
G08G1/16 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020194495
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022083196
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 俊貴
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-086892(JP,A)
【文献】特開2017-187844(JP,A)
【文献】特開2014-088066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を支援する運転支援システムであって、
前記車両の運転環境を示す運転環境情報が格納される記憶装置と、
前記運転環境情報に基づいて、前記車両の前方の物標との衝突リスクを低減するためのリスク回避制御を実行するプロセッサと
を備え、
リスクポテンシャル場は、リスク値を位置の関数として表し、
障害物ポテンシャル場は、前記リスク値が前記物標の位置で最大となり前記物標から離れるにつれて小さくなる前記リスクポテンシャル場であり、
縦方向ポテンシャル場は、前記リスク値の谷がレーン長手方向に延在する前記リスクポテンシャル場であり、
前記リスク回避制御は、前記車両を減速する減速制御を含み、
前記減速制御のための前記リスクポテンシャル場は、少なくとも前記障害物ポテンシャル場を含み、
探索範囲は、前記物標の位置と前記物標から所定のギャップだけ離れた位置との間の範囲であり、
前記プロセッサは、
前記運転環境情報に基づいて、前記縦方向ポテンシャル場を用いることなく、前記物標毎に設定される前記障害物ポテンシャル場だけを重ね合わせることによって前記減速制御のための前記リスクポテンシャル場を設定し、
前記探索範囲の中から、前記減速制御のための前記リスクポテンシャル場の極小点を探索し、
前記極小点と前記物標との位置関係に基づいて前記減速制御を行う
ように構成され、
前記探索範囲の中に複数の極小点が存在する場合、前記プロセッサは、前記複数の極小点のうち前記物標に最も近いものを前記極小点として選択する
運転支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記物標と前記極小点との間の横距離である修正ギャップが前記所定のギャップよりも小さく、且つ、前記所定のギャップと前記修正ギャップとの間の差分が閾値より大きい場合、前記プロセッサは、前記減速制御を行う
運転支援システム。
【請求項3】
請求項2に記載の運転支援システムであって、
前記プロセッサは、前記所定のギャップと前記修正ギャップとの間の前記差分が大きくなるほど高くなるように目標減速度を設定し、前記目標減速度に従って前記減速制御を行う
運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転を支援する運転支援制御に関する。特に、本発明は、車両の前方の物標との衝突リスクを低減するためのリスク回避制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両の走行軌道を決定する走行軌道決定装置を開示している。走行軌道決定装置は、リスクポテンシャル領域とベネフィットポテンシャル領域を用いて、車両の走行軌道を決定する。リスクポテンシャル領域は、歩行者や他車両といった障害物が存在する可能性のある領域を表す。ベネフィットポテンシャル領域は、車両が走行すべき理想的な走行領域を表す。このベネフィットポテンシャル領域は、熟練ドライバの走行データに基づいて設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-203034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前方の物標との衝突リスクを低減するための「リスク回避制御」について考える。特に、リスクポテンシャル場に基づくリスク回避制御について考える。リスクポテンシャル場は、車両走行に関するリスク値を位置の関数として表す。
【0005】
リスク回避制御は、次のような減速制御を含む。まず、物標の近くの探索範囲の中で、リスクポテンシャル場の極小点(谷)が探索される。その極小点と物標との位置関係に基づいて、減速制御が行われる。ここで、探索範囲の中に複数の極小点が見つかる可能性がある。複数の極小点の中から不適切なものが選択されると、極小点と物標との位置関係も不適切となり、その結果、不適切な減速制御が行われることになる。車両の乗員は、不適切なリスク回避制御に対して違和感を抱く。
【0006】
本発明の1つの目的は、リスクポテンシャル場に基づくリスク回避制御に対する違和感を抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点は、車両の運転を支援する運転支援システムに関連する。
運転支援システムは、
車両の運転環境を示す運転環境情報が格納される記憶装置と、
運転環境情報に基づいて、車両の前方の物標との衝突リスクを低減するためのリスク回避制御を実行するプロセッサと
を備える。
リスクポテンシャル場は、リスク値を位置の関数として表す。
障害物ポテンシャル場は、リスク値が物標の位置で最大となり物標から離れるにつれて小さくなるリスクポテンシャル場である。
リスク回避制御は、車両を減速する減速制御を含む。
減速制御のためのリスクポテンシャル場は、少なくとも障害物ポテンシャル場を含む。
探索範囲は、物標の位置と物標から所定のギャップだけ離れた位置との間の範囲である。
プロセッサは、
運転環境情報に基づいて減速制御のためのリスクポテンシャル場を設定し、
探索範囲の中から、減速制御のためのリスクポテンシャル場の極小点を探索し、
極小点と物標との位置関係に基づいて減速制御を行う
ように構成される。
探索範囲の中に複数の極小点が存在する場合、プロセッサは、複数の極小点のうち物標に最も近いものを極小点として選択する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リスク回避制御の減速制御には、障害物ポテンシャル場を含むリスクポテンシャル場が適用される。障害物ポテンシャル場は、リスク値が物標の位置で最大となり物標から離れるにつれて小さくなるリスクポテンシャル場である。探索範囲は、物標の位置と物標から所定のギャップだけ離れた位置との間の範囲である。その探索範囲の中で、リスクポテンシャル場の極小点(谷)が探索される。そして、その極小点と物標との位置関係に基づいて、減速制御が行われる。探索範囲の中に複数の極小点が存在する場合、物標に最も近いものが選択される。その結果、極小点と物標との位置関係として妥当なものが得られ、減速制御が適切に行われることになる。すなわち、リスクポテンシャル場に基づくリスク回避制御(減速制御)に対する違和感や不安感を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る運転支援システムの概要を説明するための概念図である。
図2】本発明の実施の形態に係るリスク回避制御の例を説明するための概念図である。
図3】本発明の実施の形態に係る車両及び運転支援システムの構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施の形態における運転環境情報の例を示すブロック図である。
図5】本発明の実施の形態に係る障害物ポテンシャル場を説明するための概念図である。
図6】本発明の実施の形態に係る車両中心ポテンシャル場を説明するための概念図である。
図7】比較例において用いられるレーン中心ポテンシャル場を説明するための概念図である。
図8】リスクポテンシャル場に基づく操舵制御の概要を説明するための概念図である。
図9】本発明の実施の形態に係る操舵制御の概要を説明するためのブロック図である。
図10】本発明の実施の形態に係る操舵制御の一例を説明するための概念図である。
図11】本発明の実施の形態に係る操舵制御に関連する処理を示すフローチャートである。
図12図11中のステップS120における処理例を示すフローチャートである。
図13】物標までの余裕時間を説明するための概念図である。
図14】本発明の実施の形態に係る操舵制御を説明するための概念図である。
図15】本発明の実施の形態に係る操舵制御を説明するための概念図である。
図16】本発明の実施の形態に係る複数の第1最小点候補の例を説明するための概念図である。
図17】本発明の実施の形態に係る複数の第1最小点候補の中から適切な第1最小点を選択する手法を説明するための概念図である。
図18】本発明の実施の形態に係る減速制御の概要を説明するための概念図である。
図19】本発明の実施の形態に係る減速制御において用いられる抑制量を説明するための概念図である。
図20】本発明の実施の形態に係る減速制御の概要を説明するためのブロック図である。
図21】本発明の実施の形態に係る減速制御の一例を説明するための概念図である。
図22】本発明の実施の形態に係る減速制御に関連する処理を示すフローチャートである。
図23図22中のステップS220における処理例を示すフローチャートである。
図24】本発明の実施の形態に係る減速制御を説明するための概念図である。
図25】本発明の実施の形態に係る複数の極小点候補の中から適切な極小点を選択する手法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
1.運転支援システム
1-1.概要
図1は、本実施の形態に係る運転支援システム10の概要を説明するための概念図である。運転支援システム10は、車両1の運転を支援する「運転支援制御」を実行する。運転支援制御は、自動運転制御に含まれていてもよい。典型的には、運転支援システム10は、車両1に搭載されている。あるいは、運転支援システム10の少なくとも一部は、車両1の外部の外部装置に配置され、リモートで運転支援制御を行ってもよい。つまり、運転支援システム10は、車両1と外部装置とに分散的に配置されてもよい。
【0012】
運転支援制御は、車両1の前方のリスクを事前に回避する「リスク回避制御」を含む。より詳細には、運転支援システム10は、車両1の前方の物標5を認識する。そして、運転支援システム10は、物標5との衝突リスクを事前に低減(回避)するためにリスク回避制御を実行する。そのようなリスク回避制御は、車両1を操舵する操舵制御と車両1を減速する減速制御とのうち少なくとも一方を含む。
【0013】
例えば、図1において、車両1は、車道2の中のレーンLAを走行している。車道2に隣接する路側領域3(路肩、路側帯、歩道、等)には、歩行者5Aが存在している。その歩行者5Aは、レーンLAに進入してくるかもしれない。従って、路側領域3に存在する歩行者5Aは、車両1にとってリスクである。運転支援システム10は、歩行者5Aとの衝突リスクを低減するために、必要に応じてリスク回避制御を実行する。例えば、運転支援システム10は、歩行者5Aから離れる方向へ車両1を自動的に操舵する。図1において、トラジェクトリTR0は、リスク回避制御が実行されない場合の車両1のトラジェクトリを表している。一方、トラジェクトリTR1は、リスク回避制御が実行される場合の車両1のトラジェクトリを表している。
【0014】
歩行者5Aは、自転車あるいは二輪車に置き換えられてもよい。また、路側領域3だけでなく、車道2に存在する歩行者、自転車、二輪車、先行車両、等もリスク回避制御の対象となる。
【0015】
図2は、リスク回避制御の他の例を説明するための概念図である。リスク回避制御の対象は、上述の歩行者5Aのような“顕在リスク”に限られず、“潜在リスク”も含み得る。例えば、図2において、車両1の前方の路側領域3に駐車車両5Bが存在している。駐車車両5Bの先の領域は死角であり、その死角から歩行者5Cが飛び出してくるかもしれない。従って、車両1の前方の駐車車両5Bは、車両1にとってリスクであり、リスク回避制御の対象となる。例えば、運転支援システム10は、駐車車両5Bから離れる方向へ車両1を自動的に操舵する。
【0016】
このように、リスク回避制御の対象である物標5は、車両1の前方の歩行者、自転車、二輪車、他車両のうち少なくとも1つを含む。
【0017】
ここで、座標系及び方向について定義する。車両座標系(X,Y)は、車両1に固定された相対座標系であり、車両1の移動と共に変化する。X方向は、車両1の前方向(進行方向)である。Y方向は、車両1の横方向である。X方向とY方向は、互いに直交している。LX方向(レーン長手方向)は、レーンLAの延在方向である。LY方向(レーン幅方向)は、レーンLAの幅方向である。LX方向とLY方向は、互いに直交している。縦距離は、X方向あるいはLX方向における距離である。横距離は、Y方向あるいはLY方向における距離である。
【0018】
1-2.構成例
図3は、本実施の形態に係る車両1及び運転支援システム10の構成例を概略的に示すブロック図である。特に、図3は、リスク回避制御に関連する構成例を示している。車両1は、センサ群20と走行装置30を備えている。
【0019】
センサ群20は、位置センサ21、車両状態センサ22、及び認識センサ23を含んでいる。位置センサ21は、絶対座標系における車両1の位置及び方位を検出する。位置センサ21としては、GPS(Global Positioning System)センサが例示される。車両状態センサ22は、車両1の状態を検出する。車両状態センサ22としては、車速センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、操舵角センサ、等が例示される。認識センサ23は、車両1の周囲の状況を認識(検出)する。認識センサ23としては、カメラ、レーダ、ライダー(LIDAR: Laser Imaging Detection and Ranging)、等が例示される。
【0020】
走行装置30は、操舵装置31、駆動装置32、及び制動装置33を含んでいる。操舵装置31は、車両1の車輪を転舵する。例えば、操舵装置31は、パワーステアリング(EPS: Electric Power Steering)装置を含んでいる。駆動装置32は、駆動力を発生させる動力源である。駆動装置32としては、エンジン、電動機、インホイールモータ、等が例示される。制動装置33は、制動力を発生させる。
【0021】
運転支援システム10は、少なくとも制御装置100を含んでいる。運転支援システム10は、センサ群20を含んでいてもよい。運転支援システム10は、走行装置30を含んでいてもよい。
【0022】
制御装置100は、車両1を制御する。典型的には、制御装置100は、車両1に搭載されるマイクロコンピュータである。制御装置100は、ECU(Electronic Control Unit)とも呼ばれる。あるいは、制御装置100は、車両1の外部の情報処理装置であってもよい。その場合、制御装置100は、車両1と通信を行い、車両1をリモートで制御する。
【0023】
制御装置100は、プロセッサ110及び記憶装置120を備えている。プロセッサ110は、各種処理を実行する。記憶装置120には、各種情報が格納される。記憶装置120としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、等が例示される。プロセッサ110がコンピュータプログラムである制御プログラムを実行することにより、プロセッサ110(制御装置100)による各種処理が実現される。制御プログラムは、記憶装置120に格納されている、あるいは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されている。
【0024】
1-3.情報取得処理
プロセッサ110(制御装置100)は、車両1の運転環境を示す運転環境情報200を取得する「情報取得処理」を実行する。運転環境情報200は、車両1に搭載されたセンサ群20による検出結果に基づいて取得される。取得された運転環境情報200は、記憶装置120に格納される。
【0025】
図4は、運転環境情報200の例を示すブロック図である。運転環境情報200は、車両位置情報210、車両状態情報220、周辺状況情報230、地図情報260、等を含んでいる。
【0026】
車両位置情報210は、絶対座標系における車両1の位置及び方位を示す情報である。プロセッサ110は、位置センサ21による検出結果から車両位置情報210を取得する。
【0027】
車両状態情報220は、車両1の状態を示す情報である。車両1の状態としては、車速、ヨーレート、横加速度、操舵角、等が例示される。プロセッサ110は、車両状態センサ22による検出結果から車両状態情報220を取得する。
【0028】
周辺状況情報230は、車両1の周囲の状況を示す情報である。周辺状況情報230は、認識センサ23によって得られた情報を含む。例えば、周辺状況情報230は、カメラによって撮像された車両1の周囲の状況を示す画像情報を含む。他の例として、周辺状況情報230は、レーダやライダーによって計測された計測情報を含む。更に、周辺状況情報230は、道路構成情報240及び物標情報250を含んでいる。
【0029】
道路構成情報240は、車両1の周囲の道路構成に関する情報である。車両1の周囲の道路構成は、区画線(白線)及び道路端物体を含む。道路端物体は、道路の端を示す立体的な障害物である。道路端物体としては、縁石、ガードレール、壁、中央分離帯、等が例示される。道路構成情報240は、区画線や道路端物体の位置(車両1に対する相対位置)を少なくとも示す。
【0030】
例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって、区画線を識別し、その区画線の相対位置を算出することができる。画像解析手法としては、セマンティックセグメンテーション(Semantic Segmentation)やエッジ検出が例示される。同様に、画像情報を解析することによって、道路端物体を識別し、その道路端物体の相対位置を算出することができる。あるいは、レーダ計測情報から道路端物体の相対位置を取得することもできる。
【0031】
物標情報250は、車両1の周囲の物標5に関する情報である。物標5としては、歩行者、自転車、二輪車、他車両(先行車両、駐車車両)、等が例示される。物標情報250は、車両1に対する物標の相対位置及び相対速度を示す。例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって、物標5を識別し、その物標5の相対位置を算出することができる。また、レーダ計測情報に基づいて、物標5を識別し、その物標5の相対位置と相対速度を取得することもできる。物標情報250は、物標5の移動方向や移動速度を含んでいてもよい。物標5の移動方向や移動速度は、物標5の位置を追跡することによって算出することができる。物標情報250は、物標5の種類(歩行者、自転車、二輪車、他車両、等)を示していてもよい。
【0032】
地図情報260は、レーン配置、道路形状、等を示す。制御装置100は、地図データベースから、必要なエリアの地図情報260を取得する。地図データベースは、車両1に搭載されている所定の記憶装置に格納されていてもよいし、車両1の外部の管理サーバに格納されていてもよい。後者の場合、プロセッサ110は、管理サーバと通信を行い、必要な地図情報260を取得する。
【0033】
1-4.車両走行制御
プロセッサ110(制御装置100)は、車両1の走行を制御する「車両走行制御」を実行する。車両走行制御は、車両1の操舵を制御する操舵制御、車両1の加速を制御する加速制御、及び車両1の減速を制御する減速制御を含む。プロセッサ110は、走行装置30を制御することによって車両走行制御を実行する。具体的には、プロセッサ110は、操舵装置31を制御することによって操舵制御を実行する。また、プロセッサ110は、駆動装置32を制御することによって加速制御を実行する。また、制御装置100は、制動装置33を制御することによって減速制御を実行する。
【0034】
1-5.リスク回避制御
プロセッサ110(制御装置100)は、車両1の運転を支援する運転支援制御を実行する。運転支援制御は、リスク回避制御を含む。リスク回避制御は、車両1の前方の物標5との衝突リスクを低減(回避)するための車両走行制御であり、操舵制御及び減速制御の少なくとも一方を含んでいる。プロセッサ110は、上述の運転環境情報200に基づいて、リスク回避制御を実行する。
【0035】
以下、本実施の形態に係るリスク回避制御について更に詳しく説明する。
【0036】
2.リスクポテンシャル場
車両走行に関するリスクを表す値として、「リスク値R(リスクポテンシャル)」を導入する。リスク値Rは、位置毎に定義される。リスク値Rが高い位置は、車両1が避けるべき位置である。「リスクポテンシャル場U」は、リスク値Rを位置の関数として表す。言い換えれば、リスクポテンシャル場Uは、リスク値Rの分布を示す。
【0037】
尚、“位置”は、車両座標系(X,Y)における位置であってもよいし、絶対座標系(緯度、経度)における位置であってもよい。車両位置情報210に基づいて、絶対座標系と車両座標系との間の座標変換が可能である。以下の説明では、車両座標系における位置と絶対座標系における位置は等価なものとして扱われる。
【0038】
本実施の形態に係るリスク回避制御(操舵制御、減速制御)は、リスクポテンシャル場Uに基づいて実行される。以下、リスクポテンシャル場Uの構成要素を説明する。
【0039】
2-1.障害物ポテンシャル場
図5は、障害物ポテンシャル場Uoを説明するための概念図である。障害物ポテンシャル場Uoは、車両1が物標5に近づかないためのリスクポテンシャル場Uである。従って、障害物ポテンシャル場Uoで示されるリスク値Rは、物標5の位置で最大となり、物標5から離れるにつれて小さくなる。
【0040】
より詳細には、障害物ポテンシャル場Uoは、リスク値Rの2次元分布を示す。図5には、2つの主軸方向のそれぞれに沿った分布のプロファイルが示されている。2つの主軸方向は、LX方向(レーン長手方向)とLY方向(レーン幅方向)である。他の例として、2つの主軸方向は、X方向とY方向であってもよい。物標位置PTは、物標5の位置である。各主軸方向において、リスク値Rは、物標位置PTで最大となり、物標位置PTから離れるにつれて小さくなる。つまり、リスク値Rの分布は、山形状を有する。
【0041】
障害物ポテンシャル関数foは、障害物ポテンシャル場Uoのリスク値Rの分布を示す分布関数である。例えば、障害物ポテンシャル関数foは、ガウス関数である。その場合、分布は、ガウス分布(正規分布)で表される。分布パラメータσx、σyは、それぞれ、2つの主軸方向における分布の拡がり度合いを示すパラメータである。分布がガウス分布である場合、分布パラメータσx、σyは標準偏差である。
【0042】
分布パラメータσx、σyは、物標5の種類毎に異なっていてもよい。例えば、物標5が歩行者である場合の分布パラメータσx、σyは、物標5が他車両である場合よりも大きい。
【0043】
分布パラメータσx、σyは、車両1の車速に応じて変動してもよい。例えば、車速が高くなるにつれて、分布パラメータσx、σyは大きくなる。この場合、分布パラメータσx、σyは、マップで与えられる。
【0044】
ポテンシャル関数情報300(図3参照)は、障害物ポテンシャル関数fo及び分布パラメータσx、σyを示す。ポテンシャル関数情報300は、予め生成され、記憶装置120に格納される。
【0045】
プロセッサ110は、物標5に関する障害物ポテンシャル場Uoを設定する。物標5の位置及び種類は、物標情報250から得られる。レーンLAの配置は、道路構成情報240あるいは地図情報260から得られる。LX方向及びLY方向は、レーンLAの配置から得られる。車速は、車両状態情報220から得られる。従って、プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、物標5に関する障害物ポテンシャル場Uoを設定することができる。
【0046】
2-2.車両中心ポテンシャル場
図6は、車両中心ポテンシャル場Ueを説明するための概念図である。車両1が存在するレーンLAは、左右のレーン境界LB(区画線)の間に挟まれた領域である。レーンLA及びレーン境界LBは、LX方向(レーン長手方向)に延在している。車両中心ポテンシャル場Ueは、車両1がレーンLAに沿って走行するためのリスクポテンシャル場Uである。従って、車両中心ポテンシャル場Ueで示されるリスク値Rの“谷Ve”は、LX方向に延在する。
【0047】
より詳細には、車両中心ポテンシャル場Ueは、リスク値Rの2次元分布を示す。図6には、LY方向(レーン幅方向)に沿った分布のプロファイルが示されている。車両横位置PVは、LY方向における車両1の位置である。LY方向において、リスク値Rは、車両横位置PVで最小となり、車両横位置PVから離れるにつれて大きくなる。つまり、リスク値の分布は、U字形状を有する。リスク値Rの谷Veの位置は、車両横位置PVと一致する。谷Veは、車両1の位置からLX方向に延在する。すなわち、谷Veの位置は、固定されておらず、車両1の位置と連動して動的に変化する。
【0048】
車両中心ポテンシャル関数feは、車両中心ポテンシャル場Ueのリスク値Rの分布を示す分布関数である。例えば、車両中心ポテンシャル関数feは、二次曲線である。分布パラメータσeは、分布の拡がり度合いを示すパラメータである。ポテンシャル関数情報300(図3参照)は、更に、これら車両中心ポテンシャル関数fe及び分布パラメータσeを示す。
【0049】
プロセッサ110は、車両中心ポテンシャル場Ueを設定する。車両1の位置は、車両位置情報210から得られる。レーンLAの配置は、道路構成情報240あるいは地図情報260から得られる。LX方向及びLY方向は、レーンLAの配置から得られる。従って、プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、車両中心ポテンシャル場Ueを設定することができる。
【0050】
2-3.レーン中心ポテンシャル場
図7は、レーン中心ポテンシャル場Urを示している。レーン中心ポテンシャル場Urは、車両1がレーン中心LCに沿って走行するためのリスクポテンシャル場Uである。レーン中心ポテンシャル場Urで示されるリスク値Rの“谷Vr”も、LX方向に延在している。但し、その谷Vrの位置は、レーン中心位置PLC(レーン中心LCの位置)に固定されている。すなわち、レーン中心ポテンシャル場Urの谷Vrの位置は、レーンLAに固定されており、動的に変化しない。
【0051】
3.リスクポテンシャル場に基づく操舵制御
3-1.操舵制御の概要
図8は、リスクポテンシャル場Uに基づく操舵制御の概要を説明するための概念図である。全体としてのリスクポテンシャル場Uは、上述のリスクポテンシャル場Uの構成要素を重ね合わせる(足し合わせる)ことにより得られる。物標5が複数存在する場合、物標5毎に設定される障害物ポテンシャル場Uoが重ね合わされる。
【0052】
リスクポテンシャル場Uには、リスク値Rの“谷”が存在する。図8に示されるように、リスクポテンシャル場Uの谷は、物標5を回避しつつ、全体的にLX方向に延びるように位置している。車両1がリスクポテンシャル場Uの谷に追従するように操舵制御を行うことによって、物標5との衝突リスクを軽減しつつ、車両1を走行させることが可能となる。すなわち、リスク回避制御が実現される。
【0053】
3-2.第1リスクポテンシャル場に基づく操舵制御
図9は、本実施の形態に係る操舵制御の概要を説明するためのブロック図である。第1リスクポテンシャル場U1は、操舵制御のためのリスクポテンシャル場である。第1リスクポテンシャル場U1は、縦方向ポテンシャル場Uxと障害物ポテンシャル場Uo[i]の和であり、下記式(1)で表される。
【0054】
【数1】
【0055】
障害物ポテンシャル場Uo[i]は、物標5[i]に関する障害物ポテンシャル場Uoである(i=1~n)。ここで、nは、リスク回避制御の対象として着目されている物標5の総数であり、1以上の整数である。縦方向ポテンシャル場Uxは、車両中心ポテンシャル場Ue(図6参照)、あるいは、レーン中心ポテンシャル場Ur(図7参照)である。好ましくは、縦方向ポテンシャル場Uxは、車両中心ポテンシャル場Ueである。
【0056】
第1の谷V1は、第1リスクポテンシャル場U1で示されるリスク値Rの谷である。プロセッサ110は、車両1が第1の谷V1に追従するように操舵制御を行う。
【0057】
図10は、本実施の形態に係る操舵制御の一例を示している。第1の谷V1は、車両1の位置からLX方向に延び、その後、物標5から離れる方向にシフトする。車両1は、最初LX方向に走行し、その後、物標5から離れる方向に操舵される(トラジェクトリTR1)。車両1の横位置が変わると、第1の谷V1の横位置もそれに連動して変わる。その後、第1の谷V1はLX方向に延び、車両1はLX方向に走行する。車両1は、適切な横距離Dyで物標5の側方を通過する。
【0058】
尚、縦方向ポテンシャル場Uxがレーン中心ポテンシャル場Urである場合、そのレーン中心ポテンシャル場Urにより、車両1をレーン中心LCに引き付ける力が常に発生する。車両1をレーン中心LCに引き付ける力は、レーン逸脱を防止するためには好ましいが、物標回避とは本来無関係である。レーン中心ポテンシャル場Urが物標回避とは関係ない車両挙動を発生させるため、リスク回避制御としての操舵制御が不必要にあるいは過剰に行われる可能性がある。
【0059】
その意味では、縦方向ポテンシャル場Uxは車両中心ポテンシャル場Ueであることが好ましい。車両中心ポテンシャル場Ueの谷Veの位置は、固定されず、車両1の位置と連動して動的に変化する。そのような谷Veが第1の谷V1に反映されるため、不要な操舵制御あるいは過剰な操舵制御が抑制される。不要な操舵制御あるいは過剰な操舵制御が抑制されることは、リスク回避のために適切な車両挙動が実現されていることを意味する。従って、車両1の乗員が感じる違和感が抑制される。
【0060】
3-3.処理フロー
図11は、本実施の形態に係る操舵制御に関連する処理を示すフローチャートである。図11に示される処理フローは、一定サイクル毎に繰り返し実行される。
【0061】
3-3-1.ステップS110
ステップS110において、プロセッサ110は、上述の情報取得処理を実行する。すなわち、プロセッサ110は、センサ群20による検出結果に基づいて運転環境情報200を取得する。運転環境情報200は、記憶装置120に格納される。
【0062】
3-3-2.ステップS120
ステップS120において、プロセッサ110は、第1リスクポテンシャル場U1を設定する。第1リスクポテンシャル場U1は、縦方向ポテンシャル場Uxと障害物ポテンシャル場Uo[i]の和である(式(1)参照)。縦方向ポテンシャル場Uxは、例えば、車両中心ポテンシャル場Ueである。プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、車両中心ポテンシャル場Ueを設定する。また、プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、物標5[i]毎に障害物ポテンシャル場Uo[i]を設定する。そして、プロセッサ110は、車両中心ポテンシャル場Ueと障害物ポテンシャル場Uo[i]の和を第1リスクポテンシャル場U1として設定する。
【0063】
図12は、ステップS120における処理例を示すフローチャートである。
【0064】
ステップS121において、プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、車両中心ポテンシャル場Ueを設定する。そして、プロセッサ110は、その車両中心ポテンシャル場Ueを第1リスクポテンシャル場U1に追加する。
【0065】
ステップS122において、プロセッサ110は、物標情報250に基づいて、車両1の前方に物標5が存在するか否かを判定する。言い換えれば、プロセッサ110は、車両1の前方の領域において物標5が認識されているか否かを判定する。車両1の前方の物標5が認識された場合(ステップS122;Yes)、処理は、ステップS123に進む。それ以外の場合(ステップS122;No)、ステップS120は終了する。
【0066】
ステップS123において、プロセッサ110は、認識された物標5までの余裕時間Tが第1時間閾値Tth1未満であるか否かを判定する。
【0067】
図13を参照して、余裕時間Tについて説明する。トラジェクトリTR0は、リスク回避制御が実行されない場合の車両1のトラジェクトリを表している。車両1は、現在の車速でLX方向に走行すると仮定される。余裕時間Tは、その仮定の下で車両1が物標5に最も接近するまでの時間である。典型的には、車両1が物標5に最も接近するタイミングは、車両1が物標5の側方を通過するタイミングである。車両1の現在の車速は、車両状態情報220から得られる。物標5の位置は、物標情報250から得られる。レーンLAの配置及びLX方向は、道路構成情報240あるいは地図情報260から得られる。従って、プロセッサ110は、運転環境情報200に基づいて、余裕時間Tを算出することができる。
【0068】
余裕時間Tが第1時間閾値Tth1未満である場合(ステップS123;Yes)、処理は、ステップS124に進む。それ以外の場合(ステップS123;No)、ステップS120は終了する。
【0069】
ステップS124において、プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、認識された物標5に関する障害物ポテンシャル場Uoを設定する。そして、プロセッサ110は、その障害物ポテンシャル場Uoを第1リスクポテンシャル場U1に追加する。このように、車両1が物標5にある程度近づくと、その物標5に関する障害物ポテンシャル場Uoが第1リスクポテンシャル場U1に追加される。
【0070】
3-3-3.ステップS130
ステップS130において、プロセッサ110は、車両1の前方の位置に前方注視点PAを設定する。
【0071】
図14を参照して、前方注視点PAについて説明する。前方注視点PAは、車両1の進行方向(X方向)に沿って第1距離Sだけ車両1の前方の位置に設定される。車両1の進行方向は、車両位置情報210から得られる。第1距離Sは、一定値である。あるいは、第1距離Sは、車両1の車速に応じて変動してもよい。その場合、車速が高くなるにつれて第1距離Sは増加する。車速は、車両状態情報220から得られる。
【0072】
3-3-4.ステップS140
ステップS140において、プロセッサ110は、第1リスクポテンシャル場U1の最小点である「第1最小点PM1」を探索する。特に、プロセッサ110は、前方注視点PAの近傍の範囲において第1最小点PM1を探索する。
【0073】
より詳細には、プロセッサ110は、図14に示されるような第1探索範囲AS1を設定する。第1探索範囲AS1は、前方注視点PAからLY方向(レーン幅方向)に延在する範囲である。第1探索範囲AS1は、少なくともレーンLAのLY方向における範囲をカバーするように設定される。そして、プロセッサ110は、第1探索範囲AS1の中で第1最小点PM1を探索する。
【0074】
例えば、プロセッサ110は、第1探索範囲AS1の中に複数のチェック点PC1を設定する。プロセッサ110は、第1リスクポテンシャル場U1を参照して、各チェック点PC1でのリスク値Rを算出する。第1リスクポテンシャル場U1を構成するポテンシャル関数(fe、fo)に各チェック点PC1の位置を代入することによって、各チェック点PC1でのリスク値Rを算出することができる。そして、プロセッサ110は、リスク値Rが最小となるチェック点PC1を第1最小点PM1として決定する。
【0075】
このように、第1最小点PM1は、前方注視点PAの近傍の第1探索範囲AS1の中で探索される。レーンLAの全体にわたってリスク値Rを算出して第1最小点PM1を探索する必要はない。従って、第1最小点PM1の探索に要する計算負荷が大幅に削減される。
【0076】
3-3-5.ステップS150
ステップS150において、プロセッサ110は、第1偏差D1を算出する。第1偏差D1は、前方注視点PAと第1最小点PM1との間のLY方向における偏差である。
【0077】
3-3-6.ステップS160
ステップS160において、プロセッサ110は、第1偏差D1が減少するように操舵制御を行う。具体的には、プロセッサ110は、第1偏差D1を減少させるために必要な目標操舵角θtを算出する。典型的には、第1偏差D1が大きいほど、目標操舵角θtは大きくなる。第1偏差D1と目標操舵角θtとの対応関係を示す関数(例:マップ)は、予め生成される。プロセッサ110は、その関数を参照することによって、第1偏差D1に応じた目標操舵角θtを算出する。そして、プロセッサ110は、目標操舵角θtに従って操舵制御を行う。車両1の実操舵角は、車両状態情報220から得られる。プロセッサ110は、目標操舵角θtが実現されるように、操舵装置31を制御して車輪を転舵する。
【0078】
このようにして、車両1が第1最小点PM1に近づくように操舵制御が行われる。第1リスクポテンシャル場U1の第1の谷V1は、時間的に連続する第1最小点PM1の集合に相当する。車両1が第1最小点PM1に近づくように操舵制御を行うことによって、車両1を第1リスクポテンシャル場U1の第1の谷V1に追従させることが可能となる。すなわち、リスク回避制御が実現される。
【0079】
図15を参照して、本実施の形態において車線逸脱が防止される理由を説明する。上述の通り、前方注視点PAは、車両1の進行方向(X方向)の位置に設定される。タイミングtaにおいて、車両1の前方の第1最小点PM1は、物標5を避ける方向にシフトしている。このタイミングtaにおいて、前方注視点PAは、第1の谷V1の左側に位置する。第1偏差D1を減少させる操舵方向は、右方向である。従って、車両1は右旋回する。車両1が右旋回することにより、前方注視点PAも右旋回する。
【0080】
車両1が右旋回した後のタイミングtbにおいて、前方注視点PAは、第1の谷V1の右側に位置する。第1偏差D1を減少させる操舵方向は、左方向である。従って、車両1の進行方向を元に戻す復帰操舵力が発生する。これにより、車両1は、レーンLAを逸脱することなく、レーンLAに平行な走行状態に復帰する。このように、前方注視点PAが車両1の進行方向(X方向)の位置に設定されるため、車両1がレーンLAから逸脱することが防止される。
【0081】
3-4.複数の第1最小点候補が存在する場合の処理
上述の通り、操舵制御のための第1リスクポテンシャル場U1の第1最小点PM1は、第1探索範囲AS1の中で探索される。このとき、リスク値Rの有効桁数によっては、第1探索範囲AS1の中に第1最小点PM1の候補が複数見つかる可能性がある。第1探索範囲AS1の中の第1最小点PM1の候補を、以下、「第1最小点候補CM1」と呼ぶ。例えば、図16に示される例では、縦方向ポテンシャル場Uxと障害物ポテンシャル場Uo[i]の重ね合わせの結果、2つの第1最小点候補CM1が第1探索範囲AS1の中に存在する。
【0082】
複数の第1最小点候補CM1の中から不適切なものが第1最小点PM1として選択されると、不適切な操舵制御が行われることになる。車両1の乗員(典型的にはドライバ)は、不適切なリスク回避制御に対して違和感を抱く。違和感の少ないリスク回避制御を実現するためには、複数の第1最小点候補CM1の中から適切な第1最小点PM1を選択することが重要である。
【0083】
図17は、複数の第1最小点候補CM1の中から適切な第1最小点PM1を選択する手法を説明するための概念図である。図17には、今回サイクル(時刻t)の探索処理における複数の第1最小点候補CM1の一例が示されている。本例では、第1探索範囲AS1の中に3つの第1最小点候補CM1_a,CM1_b,CM1_cが存在している。
【0084】
また、図17には、過去(時刻t-3,t-2,t-1)の探索処理において決定された第1最小点PM1の履歴の例が示されている。特に、前サイクルにおける第1最小点PM1[t-1]を、「前回最小点」と呼ぶ。最手前物標5Nは、車両1の前方に存在する物標5のうち車両1に最も近いものである。つまり、最手前物標5Nは、直近のリスク回避制御の対象となる物標5である。第1操舵方向DSは、最手前物標5Nから離れる操舵方向である。
【0085】
まず、第1最小点候補CM1_aは、前回最小点PM1[t-1]から見て最手前物標5Nに近づく方向に存在している。仮に、第1最小点候補CM1_aが今回の第1最小点PM1[t]として選択されると、車両1が最手前物標5Nの方に近づくように操舵制御が行われてしまう。そのような操舵制御は不適切であり、車両1の乗員に違和感及び不安感をもたらす。
【0086】
第1最小点候補CM1_b,CM1_cは共に、前回最小点PM1[t-1]から見て、最手前物標5Nから離れる第1操舵方向DSに存在している。このうち、第1最小点候補CM1_bは前回最小点PM1[t-1]に近く、第1最小点候補CM1_cは前回最小点PM1[t-1]から遠い。仮に、第1最小点候補CM1_cが今回の第1最小点PM1[t]として選択されると、操舵制御が過剰に行われることになる。そのような過剰な操舵制御に対し、車両1の乗員は違和感を覚えるおそれがある。
【0087】
従って、プロセッサ110は、第1最小点候補CM1_bを今回の第1最小点PM1[t]として選択する。一般化すれば、プロセッサ110は、前回最小点PM1[t-1]から見て最手前物標5Nから離れる第1操舵方向DSに存在し、且つ、前回最小点PM1[t-1]に最も近い第1最小点候補CM1を、今回の第1最小点PM1[t]として選択する。これにより、不適切な操舵制御や過剰な操舵制御が抑制される。すなわち、第1リスクポテンシャル場U1に基づくリスク回避制御(操舵制御)に対する違和感を抑制することが可能となる。
【0088】
3-5.効果
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、リスク回避制御の操舵制御には第1リスクポテンシャル場U1が適用される。具体的には、第1リスクポテンシャル場U1の第1の谷V1に追従するように操舵制御が行われる。
【0089】
第1の谷V1は、時間的に連続する第1最小点PM1の集合である。第1最小点PM1は、前方注視点PAの近傍の第1探索範囲AS1の中で探索される。レーンLAの全体にわたってリスク値Rを算出して第1最小点PM1を探索する必要はない。従って、第1最小点PM1の探索に要する計算負荷が大幅に削減される。
【0090】
第1探索範囲AS1の中に複数の第1最小点候補CM1が存在する場合、前回最小点PM1[t-1]から見て最手前物標5Nから離れる第1操舵方向DSに存在し、且つ、前回最小点PM1[t-1]に最も近い第1最小点候補CM1が、今回の第1最小点PM1[t]として選択される。これにより、不適切な操舵制御や過剰な操舵制御が抑制される。すなわち、第1リスクポテンシャル場U1に基づくリスク回避制御(操舵制御)に対する違和感を抑制することが可能となる。
【0091】
第1リスクポテンシャル場U1は、車両1がレーンLAに沿って走行するための縦方向ポテンシャル場Uxを含んでいる。縦方向ポテンシャル場Uxは、車両中心ポテンシャル場Ueであることが好ましい。車両中心ポテンシャル場Ueの谷Veの位置は、固定されず、車両1の位置と連動して動的に変化する。そのような谷Veが第1最小点PM1に反映されるため、不要な操舵制御あるいは過剰な操舵制御が抑制される。不要な操舵制御あるいは過剰な操舵制御が抑制されることは、リスク回避のために適切な車両挙動が実現されていることを意味する。従って、車両1の乗員が感じる違和感が抑制される。
【0092】
また、本実施の形態によれば、第1リスクポテンシャル場U1から車両1の目標操舵角θt(トラジェクトリTR1)が一意に決まる。比較例として、複数種類の目標トラジェクトリを生成して、その中から最適な目標トラジェクトリを選択する手法を考える。この比較例の場合、評価関数を用いることによって各目標トラジェクトリを評価する必要があるため、計算負荷が増大する。特に、複数の物標5が存在する状況では、評価関数が複雑となり、計算負荷が著しく増大する。一方、本実施の形態によれば、そのような評価関数は不要であるため、計算負荷が軽減される。物標5の数が増えるほど、計算負荷の軽減効果はより顕著となる。
【0093】
4.リスクポテンシャル場に基づく減速制御
4-1.減速制御の概要
図18は、リスクポテンシャル場Uに基づく減速制御を説明するための概念図である。図18には、車両1の前方の2つの物標5[1]、5[2]が示されている。それら2つの物標5[1]、5[2]は、比較的近くに位置している。このような状況では、上述の操舵制御が作動したとしても、車両1は物標5[1]、5[2]の比較的近くを通過する。その結果、物標5[1]との衝突リスクが十分に軽減されず、車両1の乗員は不安感を覚えるおそれがある。
【0094】
そこで、図18で例示されるような状況においては、操舵制御に代えて、あるいは、操舵制御と共に、減速制御を行うことが考えられる。どのような状況で減速制御を行うか、また、どの程度の減速度で減速制御を行うかを判断する基準として、「抑制量」という概念を導入する。
【0095】
図19は、減速制御において用いられる抑制量を説明するための概念図である。
【0096】
まず、物標5[i]に関する単体ギャップGs[i]について説明する。単体ギャップGs[i]は、車両1と物標5[i]との間の横距離であって、車両1が物標5[i]の側方を通過する際に乗員が不安感を覚えないような横距離である。つまり、単体ギャップGs[i]は、目標横距離である。単体ギャップGs[i]は、物標5[i]毎に予め定められる。単体ギャップGs[i]は、物標5の種類毎に異なる所定値であってもよい。例えば、物標5が歩行者である場合の単体ギャップGs(例:3m)は、物標5が駐車車両である場合の単体ギャップGs(例:2m)よりも大きい。単体ギャップGs[i]は、障害物ポテンシャル場Uo[i]の分布パラメータσy(図5参照)に基づいて設定されてもよい。単体ギャップGs[i]の情報は、例えば、上述のポテンシャル関数情報300に含まれる。
【0097】
次に、物標5[i]に関する修正ギャップGm[i]について説明する。修正ギャップGm[i]は、物標5[i]とリスクポテンシャル場Uの谷との間の横距離である。物標5[i]の位置とリスクポテンシャル場Uに基づいて、修正ギャップGm[i]を算出することができる。
【0098】
物標5[i]に関する抑制量ΔG[i]は、単体ギャップGs[i]と修正ギャップGm[i]との間の差分である。つまり、抑制量ΔG[i]は、式:ΔG[i]=Gs[i]-Gm[i]で表される。
【0099】
修正ギャップGm[i]が単体ギャップGs[i]よりも小さい場合、それは、物標5[i]の近くに他の物標5[j]が存在しており、単体ギャップGs[i]が確保できないことを意味する。つまり、修正ギャップGm[i]が単体ギャップGs[i]よりも小さい状況は、図18で示されたような状況に相当する。そのような状況では、衝突リスク及び乗員の不安感を軽減するために、減速制御を行うことが好ましい。従って、抑制量ΔG[i]は、減速制御の必要性を表していると言える。
【0100】
本実施の形態によれば、抑制量ΔG[i]に基づいて、減速制御を行うか否かが判定される。具体的には、抑制量ΔG[i]が閾値Gthより大きい場合、減速制御が行われる。減速制御における目標減速度Atが、抑制量ΔG[i]に基づいて設定されてもよい。例えば、抑制量ΔG[i]が大きくなるほど、目標減速度At(絶対値)は高くなるように設定される。
【0101】
このように、リスクポテンシャル場Uに基づく減速制御では、抑制量ΔG[i]が判断基準として用いられる。減速制御を適切に行うためには、抑制量ΔG[i]を適切に算出することが必要である。
【0102】
4-2.第2リスクポテンシャル場に基づく減速制御
図20は、本実施の形態に係る減速制御の概要を説明するためのブロック図である。第2リスクポテンシャル場U2は、減速制御のためのリスクポテンシャル場である。第2リスクポテンシャル場U2は、少なくとも、物標5[i]毎に設定される障害物ポテンシャル場Uo[i]の和を含む。例えば、第2リスクポテンシャル場U2は、次の式(2)で表される。
【0103】
【数2】
【0104】
プロセッサ110は、第2リスクポテンシャル場U2に基づいて、修正ギャップGm[i]及び抑制量ΔG[i]を算出する。より詳細には、第2の谷V2は、第2リスクポテンシャル場U2で表されるリスク値Rの谷である。修正ギャップGm[i]は、物標5[i]と第2の谷V2との間の横距離である。抑制量ΔG[i]は、単体ギャップGs[i]と修正ギャップGm[i]との間の差分である。
【0105】
図21は、本実施の形態に係る減速制御の一例を示している。2つの物標5[1」、5[2]の位置関係は、既出の図18の場合と同じである。簡単のため、物標5[1]に関する障害物ポテンシャル場Uo[1]と物標5[2]に関する障害物ポテンシャル場Uo[2]は、同じ大きさを有するとする。また、物標5[1]に関する単体ギャップGs[1]と物標5[2]に関する単体ギャップGs[2]は、同じであるとする。第2リスクポテンシャル場U2は障害物ポテンシャル場Uo[i]だけを含んでいるため、第2リスクポテンシャル場U2の第2の谷V2の位置は、2つの物標5[1]、5[2]の中間点と一致する。従って、抑制量ΔG[1]、ΔG[2」は共に、物標5[1]、5[2]の近接状況を反映した妥当な値となる。言い換えれば、抑制量ΔG[1]、ΔG[2]の過大評価あるいは過小評価が抑制される。その結果、不要な減速制御あるいは過剰な減速制御が抑制される。
【0106】
変形例として、第2リスクポテンシャル場U2は、上記式(1)で表される第1リスクポテンシャル場U1と同じであってもよい。但し、この変形例の場合、抑制量ΔGが過剰となるおそれがある。抑制量ΔGが過剰である場合、減速制御が不必要に作動する、あるいは、減速制御における目標減速度Atが過剰となる。そのような不要な減速制御あるいは過剰な減速制御に対して、車両1の乗員(典型的にはドライバ)は違和感を覚えるおそれがある。その意味で、第2リスクポテンシャル場U2は、障害物ポテンシャル場Uo[i]だけを含んでいることが好ましい。
【0107】
尚、第2リスクポテンシャル場U2は、抑制量ΔG[i]の算出に用いられるだけであり、操舵制御に用いられるわけではないことに留意されたい。
【0108】
4-3.処理フロー
図22は、本実施の形態に係る減速制御に関連する処理を示すフローチャートである。図22に示される処理フローは、一定サイクル毎に繰り返し実行される。
【0109】
4-3-1.ステップS210
ステップS210において、プロセッサ110は、上述の情報取得処理を実行する。すなわち、プロセッサ110は、センサ群20による検出結果に基づいて運転環境情報200を取得する。運転環境情報200は、記憶装置120に格納される。尚、ステップS210は、図11中のステップS110と同じであってもよい。
【0110】
4-3-2.ステップS220
ステップS220において、プロセッサ110は、第2リスクポテンシャル場U2を設定する。第2リスクポテンシャル場U2は、障害物ポテンシャル場Uo[i]の和を含んでいる(式(2)参照)。プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、物標5[i]毎に障害物ポテンシャル場Uo[i]を設定する。そして、プロセッサ110は、物標5[i]に設定される障害物ポテンシャル場Uo[i]を重ね合わせることによって、第2リスクポテンシャル場U2を設定する。
【0111】
図23は、ステップS220における処理例を示すフローチャートである。
【0112】
ステップS221において、プロセッサ110は、物標情報250に基づいて、車両1の前方に物標5が存在するか否かを判定する。言い換えれば、プロセッサ110は、車両1の前方の領域において物標5が認識されているか否かを判定する。車両1の前方の物標5が認識された場合(ステップS221;Yes)、処理は、ステップS222に進む。それ以外の場合(ステップS221;No)、ステップS220は終了する。尚、ステップS221は、図12中のステップS122と同じであってもよい。
【0113】
ステップS222において、プロセッサ110は、認識された物標5までの余裕時間Tが第1時間閾値Tth1未満であるか否かを判定する。余裕時間Tが第1時間閾値Tth1未満である場合(ステップS222;Yes)、処理は、ステップS223に進む。それ以外の場合(ステップS222;No)、ステップS220は終了する。尚、ステップS222は、図12中のステップS123と同じであってもよい。
【0114】
ステップS223において、プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、認識された物標5に関する障害物ポテンシャル場Uoを設定する。そして、プロセッサ110は、その障害物ポテンシャル場Uoを第2リスクポテンシャル場U2に追加する。このように、車両1が物標5にある程度近づくと、その物標5に関する障害物ポテンシャル場Uoが第2リスクポテンシャル場U2に追加される。
【0115】
4-3-3.ステップS230
ステップS230において、プロセッサ110は、余裕時間Tが第2時間閾値Tth2未満であるか否かを判定する。第2時間閾値Tth2(例:4~5秒程度)は、上記の第1時間閾値Tth1よりも小さい。余裕時間Tが第2時間閾値Tth2未満である場合(ステップS230;Yes)、処理は、ステップS240に進む。それ以外の場合(ステップS230;No)、今回のサイクルにおける処理は終了する。尚、「余裕時間Tが第2時間閾値Tth2未満であること」は、減速制御の第1作動条件である。
【0116】
4-3-4.ステップS240
ステップS240において、プロセッサ110は、第2リスクポテンシャル場U2の極小点PM2を探索する。特に、プロセッサ110は、物標5[i]の近傍の範囲において極小点PM2を探索する。
【0117】
図24を参照して、極小点PM2の探索について説明する。プロセッサ110は、図24に示されるような第2探索範囲AS2を設定する。第2探索範囲AS2は、物標5[i]の位置と物標5[i]から単体ギャップGs[i]だけ離れた位置との間の範囲である。物標5[i]の位置は、物標情報250から得られる。単体ギャップGs[i]は、ポテンシャル関数情報300から得られる。プロセッサ110は、運転環境情報200とポテンシャル関数情報300に基づいて、第2探索範囲AS2を設定する。
【0118】
更に、プロセッサ110は、第2探索範囲AS2の中に複数のチェック点PC2を設定する。プロセッサ110は、第2リスクポテンシャル場U2を参照して、各チェック点PC2でのリスク値Rを算出する。第2リスクポテンシャル場U2を構成する障害物ポテンシャル関数foに各チェック点PC2の位置を代入することによって、各チェック点PC2でのリスク値Rを算出することができる。極小点PM2は、リスク値Rが極小となるチェック点PC2である。
【0119】
このように、極小点PM2は、物標5[i]の近傍の第2探索範囲AS2の中で探索される。レーンLAの全体にわたってリスク値Rを算出して極小点PM2を探索する必要はない。従って、極小点PM2の探索に要する計算負荷が大幅に削減される。
【0120】
4-3-5.ステップS250
ステップS250において、プロセッサ110は、第2探索範囲AS2の中に極小点PM2(つまり、第2の谷V2)が存在するか否かを判定する。第2探索範囲AS2の中に極小点PM2が存在しない場合(ステップS250;No)、それは、物標5[i]と他の物標5[j]との間に十分な距離が存在していることを意味する。この場合、プロセッサ110は、減速制御を行う必要はないと判断し、今回のサイクルにおける処理を終了する。
【0121】
一方、第2探索範囲AS2の中に極小点PM2が存在する場合(ステップS250;Yes)、それは、物標5[i]の近くに他の物標5[j]が存在しており、単体ギャップGs[i]が確保できないことを意味する。この場合、処理は、ステップS260に進む。尚、「第2探索範囲AS2の中に極小点PM2が存在すること」は、減速制御の第2の作動条件である。
【0122】
4-3-6.ステップS260
ステップS260において、プロセッサ110は、物標5[i]に関する抑制量ΔG[i]を算出する。具体的には、プロセッサ110は、物標5[i]と極小点PM2との間の横距離を修正ギャップGm[i]として算出する。そして、プロセッサ110は、単体ギャップGs[i]と修正ギャップGm[i]との間の差分を抑制量ΔG[i]として算出する。
【0123】
4-3-7.ステップS270
ステップS270において、プロセッサ110は、抑制量ΔG[i]が閾値Gthより大きいか否かを判定する。抑制量ΔG[i]が閾値Gthより大きい場合(ステップS270;Yes)、処理は、ステップS280に進む。それ以外の場合(ステップS270;No)、今回のサイクルにおける処理は終了する。「抑制量ΔG[i]が閾値Gthより大きいこと」は、減速制御の第3作動条件である。
【0124】
4-3-8.ステップS280
ステップS280において、プロセッサ110は、減速制御を行う。例えば、プロセッサ110は、抑制量ΔG[i]に基づいて目標減速度Atを設定する。その場合、抑制量ΔG[i]が大きくなるほど、目標減速度At(絶対値)は高くなるように設定される。抑制量ΔGと目標減速度Atとの対応関係を示す関数(例:マップ)は、予め生成される。プロセッサ110は、その関数を参照することによって、抑制量ΔG[i]に応じた目標減速度Atを算出する。
【0125】
そして、プロセッサ110は、目標減速度Atに従って減速制御を行う。車両1の速度は、車両状態情報220から得られる。プロセッサ110は、目標減速度Atが実現されるように、制動装置33を制御する。
【0126】
4-4.複数の極小点が存在する場合の処理
上述の通り、減速制御のための第2リスクポテンシャル場U2の第2の谷V2(極小点PM2)は、第2探索範囲AS2の中で探索される。このとき、第2探索範囲AS2の中に複数の極小点PM2が見つかる可能性がある。便宜上、第2探索範囲AS2の中の複数の極小点PM2を、「極小点候補CM2」と呼ぶ。
【0127】
複数の極小点候補CM2の中から不適切なものが極小点PM2として選択されると、抑制量ΔG[i]も不適切となり、その結果、不適切な減速制御が行われることになる。車両1の乗員(典型的にはドライバ)は、不適切なリスク回避制御に対して違和感を抱く。違和感の少ないリスク回避制御を実現するためには、複数の極小点候補CM2の中から適切な極小点PM2を選択することが重要である。
【0128】
図25は、複数の極小点候補CM2の中から適切な極小点PM2を選択する手法を説明するための概念図である。図25に示される例では、第2探索範囲AS2の中に2つの極小点候補CM2_a,CM2_bが存在している。物標5[i]は、減速制御の対象となる物標5である。極小点候補CM2_aは物標5[i]に近く、極小点候補CM2_bは物標5[i]から遠い。
【0129】
物標5[i]に近い極小点候補CM2_aが存在するにもかかわらず物標5[i]から遠い極小点候補CM2_bが極小点PM2として選択されると、修正ギャップGm[i]が大きくなり過ぎる。言い換えれば、抑制量ΔG[i]が過小評価される。抑制量ΔG[i]が過小評価されると、減速制御が十分に行われない。不十分な減速制御に対し、車両1の乗員は違和感や不安感を覚える。
【0130】
従って、プロセッサ110は、極小点候補CM2_aを極小点PM2として選択する。一般化すれば、プロセッサ110は、複数の極小点候補CM2のうち物標5[i]に最も近いものを極小点PM2として選択する。その結果、妥当な抑制量ΔG[i]が得られ、減速制御が適切に行われることになる。すなわち、第2リスクポテンシャル場U2に基づくリスク回避制御(減速制御)に対する違和感や不安感を抑制することが可能となる。
【0131】
4-5.効果
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、リスク回避制御の減速制御には第2リスクポテンシャル場U2が適用される。具体的には、第2リスクポテンシャル場U2の極小点PM2(第2の谷V2)が探索され、その極小点PM2と物標5[i]との位置関係に基づいて抑制量ΔG[i]が算出される。そして、その抑制量ΔG[i]が、減速制御を行うか否かの判断基準として用いられる。
【0132】
極小点PM2は、物標5[i]の近傍の第2探索範囲AS2の中で探索される。第2探索範囲AS2の中に極小点PM2が存在しない場合、減速制御を行う必要がないため、修正ギャップGm[i]や抑制量ΔG[i]の算出は行われない。これにより、計算負荷が軽減される。
【0133】
第2探索範囲AS2の中に複数の極小点候補CM2が存在する場合、複数の極小点候補CM2のうち物標5[i]に最も近いものが極小点PM2として選択される。その結果、妥当な抑制量ΔG[i]が得られ、減速制御が適切に行われることになる。すなわち、第2リスクポテンシャル場U2に基づくリスク回避制御(減速制御)に対する違和感や不安感を抑制することが可能となる。
【0134】
第2リスクポテンシャル場U2は障害物ポテンシャル場Uo[i]だけを含んでいることが好ましい。この場合、極小点PM2の位置は、物標5[i]の位置関係だけに基づいて定められる。そのような極小点PM2に基づいて抑制量ΔG[i]が算出されるため、物標5[i]の近接状況を反映した適切な抑制量ΔG[i]が得られる。その結果、不要な減速制御あるいは過剰な減速制御が抑制される。これにより、車両1の乗員が感じる違和感が抑制される。
【0135】
5.操舵制御と減速制御の組み合わせ
操舵制御と減速制御の組み合わせも可能である。操舵制御には第1リスクポテンシャル場U1が適用され、減速制御には第2リスクポテンシャル場U2が適用される。これにより、セクション3で説明された効果とセクション4で説明された効果の両方が得られる。
【符号の説明】
【0136】
1 車両
5 物標
10 運転支援システム
20 センサ群
30 走行装置
100 制御装置
110 プロセッサ
120 記憶装置
200 運転環境情報
210 車両位置情報
220 車両状態情報
230 周辺状況情報
240 道路構成情報
250 物標情報
260 地図情報
300 ポテンシャル関数情報
AS1 第1探索範囲
AS2 第2探索範囲
CM1 第1最小点候補
CM2 極小点候補
Gs 単体ギャップ
Gm 修正ギャップ
ΔG 抑制量
PA 前方注視点
PM1 第1最小点
PM2 極小点
PT 物標位置
PV 車両横位置
U リスクポテンシャル場
U1 第1リスクポテンシャル場
U2 第2リスクポテンシャル場
Ue 車両中心ポテンシャル場
Uo 障害物ポテンシャル場
Ur レーン中心ポテンシャル場
Ux 縦方向ポテンシャル場
V1 第1の谷
V2 第2の谷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25