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特許7367687磁気特性の測定方法およびその測定装置、ならびに磁気記録媒体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】磁気特性の測定方法およびその測定装置、ならびに磁気記録媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
G11B5/84 C
G11B5/84 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020548464
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036123
(87)【国際公開番号】W WO2020059662
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018174246
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】小野 明史
(72)【発明者】
【氏名】今井 泰徳
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-014659(JP,A)
【文献】特開昭62-093676(JP,A)
【文献】特開昭61-255534(JP,A)
【文献】特開昭58-215730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、前記第3の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第3の反射光の偏光状態の測定値が、前記第1の反射光の偏光状態の測定値と前記第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように前記第3の磁界の強度を調整し、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を得ることと
を含む磁気特性の測定方法。
【請求項2】
前記磁気記録媒体は、前記第1の磁界、前記第2の磁界および前記第3の磁界の方向に対して直する方向に連続移動される請求項1に記載の磁気特性の測定方法。
【請求項3】
前記第3の磁界の強度調整に用いられる前記第1の反射光の偏光状態の測定値、前記第2の反射光の偏光状態の測定値および前記第3の反射光の偏光状態の測定値は、連続移動する前記磁気記録媒体の同一位置で取得される請求項1に記載の磁気特性の測定方法。
【請求項4】
前記第1の偏光、前記第2の偏光および前記第3の偏光はそれぞれ、前記磁気記録媒体の面にて複数回反射される請求項1に記載の磁気特性の測定方法。
【請求項5】
前記第1の反射光の偏光状態、前記第2の反射光の偏光状態、前記第3の反射光の偏光状態がそれぞれ、前記第1の反射光の偏光軸角度、前記第2の反射光の偏光軸角度、前記第3の反射光の偏光軸角度である請求項1に記載の磁気特性の測定方法。
【請求項6】
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定する第1の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定する第2の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、前記第3の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定する第3の測定部と、
前記第3の反射光の偏光状態の測定値が、前記第1の反射光の偏光状態の測定値と前記第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように前記第3の測定部を制御し前記第3の磁界の強度を調整し、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を得る制御部と
を備える磁気特性の測定装置。
【請求項7】
前記第1の磁界、前記第2の磁界および前記第3の磁界の方向に対して直する方向に前記磁気記録媒体を連続移動させる搬送部をさらに備える請求項6に記載の磁気特性の測定装置。
【請求項8】
前記制御部は、連続移動する前記磁気記録媒体の同一位置で取得された前記第1の反射光の偏光状態の測定値、前記第2の反射光の偏光状態の測定値および前記第3の反射光の偏光状態の測定値を用いて、前記第3の磁界の強度調整を行う請求項6に記載の磁気特性の測定装置。
【請求項9】
前記磁気記録媒体の面に対向して設けられた反射部をさらに備え、
前記第1の偏光、前記第2の偏光および前記第3の偏光は、前記磁気記録媒体の面と前記反射部との間で繰り返し反射される請求項6に記載の磁気特性の測定装置。
【請求項10】
前記第3の測定部は、前記第3の磁界の強度を測定する磁界測定部を備え、
前記制御部は、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を前記磁界測定部により測定する請求項6に記載の磁気特性の測定装置。
【請求項11】
前記第3の測定部は、連続移動する前記磁気記録媒体に前記第3の磁界を印加する磁界発生部を備え、
前記制御部は、前記磁界発生部に供給する電流値を制御することにより、前記第3の磁界の強度を調整し、
前記制御部は、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときに前記磁界発生部に供給された電流値を磁界の強度に変換することにより、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を算出する請求項6に記載の磁気特性の測定装置。
【請求項12】
前記第1の反射光の偏光状態、前記第2の反射光の偏光状態、前記第3の反射光の偏光状態がそれぞれ、前記第1の反射光の偏光軸角度、前記第2の反射光の偏光軸角度、前記第3の反射光の偏光軸角度である請求項6に記載の磁気特性の測定装置。
【請求項13】
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、前記第3の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第3の反射光の偏光状態の測定値が、前記第1の反射光の偏光状態の測定値と前記第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように前記第3の磁界の強度を調整し、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を保磁力として得ることと
得られた前記保磁力に基づき、連続移動する前記磁気記録媒体の成膜条件を調整することと
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第1の反射光および前記第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値Aと前記第1の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA10(=A-A)に対する、前記中間値Aと前記第3の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA20(=A-A)の比(ΔA20/ΔA10)を算出することと
を含む磁気特性の測定方法。
【請求項15】
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定する第1の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定する第2の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定する第3の測定部と、
前記第1の反射光および前記第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値Aと前記第1の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA10(=A-A)に対する、前記中間値Aと前記第3の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA20(=A-A)の比(ΔA20/ΔA10)を算出する演算部と
を備える磁気特性の測定装置。
【請求項16】
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第1の反射光および前記第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値Aと前記第1の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA10(=A-A)に対する、前記中間値Aと前記第3の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA20(=A-A)の比(ΔA20/ΔA10)を算出することにより角形比を得ることと、
得られた前記角形比に基づき、連続移動する前記磁気記録媒体の成膜条件を調整することと
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気特性の測定方法およびその測定装置、ならびに磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクや磁気テープに代表される磁気記録媒体において、保磁力や飽和磁化、残留磁化等の磁気特性を測定するには、振動磁気測定法(VSM法)が用いられる。この方法は、業界標準と言えるほど広く用いられているが、測定試料を一定サイズに加工し、測定機にセットしなければならない破壊測定法であり、生産ラインの中で素早く測定結果を得ることはできない。これに対し、磁気カー効果を用いた非接触の測定手法(例えば特許文献1、2参照)が知られており、測定試料に対して非破壊かつ非接触での測定が可能である。例えば、測定試料を静止させた状態で、印加する外部磁界を連続的に変化させながら、磁気カー効果による偏光状態変化を捉えることで、保磁力や角形比等を間接的に測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-310446号公報
【文献】特開昭61-005461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、磁気テープ等の磁気記録媒体を連続移動させながら生産するような工程では、測定部を静止させたまま、印加する外部磁界を連続的に変化させて、同一箇所を測定することは困難である。したがって、生産を続けながら素早く保磁力等の磁気特性を測定することができず、工程への迅速なフィードバックができなかった。
【0005】
本開示の目的は、連続移動する磁気記録媒体の磁気特性を測定することができる磁気特性の測定方法およびその測定装置、ならびに磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、第1の開示は、
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第1の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体に、第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第2の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体に、第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、第3の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
第3の反射光の偏光状態の測定値が、第1の反射光の偏光状態の測定値と第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように第3の磁界の強度を調整し、第3の反射光の偏光状態の測定値が中間値に等しくなったときの第3の磁界の強度を得ることと
を含む磁気特性の測定方法である。
【0007】
第2の開示は、
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第1の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定する第1の測定部と、
連続移動する磁気記録媒体に、第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第2の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定する第2の測定部と、
連続移動する磁気記録媒体に、第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、第3の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定する第3の測定部と、
第3の反射光の偏光状態の測定値が、第1の反射光の偏光状態の測定値と第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように第3の測定部を制御し第3の磁界の強度を調整し、第3の反射光の偏光状態の測定値が中間値に等しくなったときの第3の磁界の強度を得る制御部と
を備える磁気特性の測定装置である。
【0008】
第3の開示は、
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第1の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体に、第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第2の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体に、第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、第3の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
第3の反射光の偏光状態の測定値が、第1の反射光の偏光状態の測定値と第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように第3の磁界の強度を調整し、第3の反射光の偏光状態の測定値が中間値に等しくなったときの第3の磁界の強度を保磁力として得ることと
得られた保磁力に基づき、連続移動する磁気記録媒体の成膜条件を調整することと
を含む磁気記録媒体の製造方法である。
【0009】
第4の開示は、
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第1の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体に、第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第2の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
第1の反射光および第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値A0と第1の反射光の偏光状態の測定値A1との差分ΔA10(=A1-A0)に対する、中間値A0と第3の反射光の偏光状態の測定値A2との差分ΔA20(=A2-A0)の比(ΔA20/ΔA10)を算出することと
を含む磁気特性の測定方法である。
【0010】
第5の開示は、
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第1の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定する第1の測定部と、
連続移動する磁気記録媒体に、第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第2の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定する第2の測定部と、
連続移動する磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定する第3の測定部と、
第1の反射光および第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値A0と第1の反射光の偏光状態の測定値A1との差分ΔA10(=A1-A0)に対する、中間値A0と第3の反射光の偏光状態の測定値A2との差分ΔA20(=A2-A0)の比(ΔA20/ΔA10)を算出する演算部と
を備える磁気特性の測定装置である。
【0011】
第6の開示は、
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第1の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体に、第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、第2の磁界が印加されている磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
第1の反射光および第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値A0と第1の反射光の偏光状態の測定値A1との差分ΔA10(=A1-A0)に対する、中間値A0と第3の反射光の偏光状態の測定値A2との差分ΔA20(=A2-A0)の比(ΔA20/ΔA10)を算出することにより角形比を得ることと、
得られた角形比に基づき、連続移動する磁気記録媒体の成膜条件を調整することと
を含む磁気記録媒体の製造方法である。
【0012】
本開示において、第1の反射光、第2の反射光および第3の反射光の偏光状態は、例えば、第1の反射光、第2の反射光および第3の反射光の偏光軸角度(カー回転角)、楕円率または反射強度等である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、連続移動する磁気記録媒体の磁気特性を測定することができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果またはそれらと異質な効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】磁気テープの構成を示す断面図である。
図2】磁気テープの成膜装置の構成を示す概略図である。
図3】本開示の第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置の構成を示す概略図である。
図4】磁気テープの磁気特性の測定結果の一例を示すグラフである。
図5】本開示の第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図6】本開示の第2の実施形態に係る磁気特性の測定装置の構成を示す概略図である。
図7】本開示の第2の実施形態に係る磁気特性の測定装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図8】変形例に係る磁気特性の測定装置の構成を示す概略図である。
図9】変形例に係る磁気特性の測定装置の構成を示す概略図である。
図10】磁気テープの成膜装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施形態について以下の順序で説明する。
1 第1の実施形態(磁気特性の測定装置)
2 第2の実施形態(磁気特性の測定装置)
【0016】
<1 第1の実施形態>
[磁気テープの構成]
図1を参照して、第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置により磁気特性の測定が行われる磁気テープ10の構成について説明する。磁気テープ10は、垂直磁気記録方式の塗布型磁気テープであって、長尺状の基体11と、基体11の一方の面上に設けられた下地層(非磁性層)12と、下地層12上に設けられた磁性層(記録層)13と、基体11の他方の面上に設けられたバック層14とを備える。なお、下地層12およびバック層14は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。以下では、磁気テープ10の両面のうち、磁性層13が設けられた側の面を磁性面10S1といい、それとは反対となる、バック層14が設けられた側の面をバック面10S2という。
【0017】
磁性層13は、例えば、磁性粉、結着剤および導電性粒子を含む。磁性層13が、必要に応じて、潤滑剤、研磨剤、防錆剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。磁性粉は、磁気テープ10の厚み方向(垂直方向)に配向される。磁性粉としては、例えば、ε酸化鉄磁性粉、Co含有スピネルフェライト磁性粉または六方晶フェライト磁性粉(例えばバリウムフェライト磁性粉)等が用いられる。
【0018】
[磁気テープの成膜装置]
図2を参照して、上述の磁気テープ10の成膜に用いられる成膜装置20について説明する。ここでは、説明を容易にするために、基体11の一方の面上に磁性層13のみを成膜する場合について説明する。この成膜装置20は、ロールtoロール形態の成膜装置であり、ロール21、22と、成膜ヘッド23と、乾燥炉24と、磁気特性の測定装置30とを備える。
【0019】
この成膜装置20では、ロール状に巻かれたフィルム状の基体11が一方のロール21から巻き出され、他方のロール22により再びロール状に巻き取られる。一方のロール21から他方のロール22に向けて連続移動(連続走行)する基体11の走行経路には、成膜ヘッド23、乾燥炉24および磁気特性の測定装置30が、上流側から下流側に向かってこの順序で配置されている。乾燥炉24内には、塗料13aに含まれる磁性粉を垂直方向(基体11の厚み方向)に磁場配向させるための磁場配向装置が設けられていてもよい。
【0020】
上記の構成を有する成膜装置20では、成膜ヘッド23により、連続走行する基体11の一方の面に塗料13aが塗布された後、乾燥炉24により塗料(塗膜)13aが乾燥され、磁性層13が形成される。そして、磁気特性の測定装置30により、形成直後の磁性層13の磁気特性が測定される。
【0021】
生産性を維持したまま、成膜品質を安定化し、歩留りを向上させるためには、生産中の工程内で、品質として必要な磁気特性を連続的に測定し、成膜工程への的確かつ迅速なフィードバックを行うことが望まれる。この工程内での磁気特性の測定の実現には、(A)磁気テープ10を破壊せずに磁気特性を測定することと、(B)磁気テープ10が連続移動する状態で磁気特性を測定することが必要となる。
【0022】
第1の実施形態では、(A)磁気テープ10を破壊せずに磁気特性を測定することを可能にするために、磁気カー効果を利用して磁気テープ10の磁気特性を測定する。磁気カー効果とは、磁化された面に偏光を照射した場合、反射面の磁化状態に応じて、反射光の偏光状態(偏光軸の角度や楕円率)が変化する現象である。測定試料に外部磁界を印加し、その強度を連続的に変化させながら磁気カー効果による偏光状態を測定することで、磁気ヒステリシスに相当するデータが得られ、測定試料を破壊することなく保磁力や磁化等の磁気特性を代替測定することができる。
【0023】
(B)磁気テープ10が連続移動する状態で磁気特性を測定することを可能とするために、外部磁界を印加する電磁石と、磁気カー効果を用いて磁気テープ10の磁化状態を測定する、磁気カー効果を利用した検出部とを組み合わせた測定ユニットを3つ備える構成を採用する。
【0024】
[磁気特性の測定装置]
図3は、第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置30の構成を示す。磁気特性の測定装置30は、複数のガイドロール31と、負側飽和磁化測定部32と、正側飽和磁化測定部33と、磁化測定部34と、パーソナルコンピュータ(以下「PC」という。)35とを備える。負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33、磁化測定部34は、移動する磁気テープ10の搬送経路に、上流側から下流側に向かってこの順序で配置されている。
【0025】
本明細書では、磁気テープ10の厚み方向のうち、磁性面10S1からバック面10S2に向かう方向を第1の垂直方向10D1といい、それとは反対の方向を第2の垂直方向10D2という。また、磁気テープ10に対して第1の垂直方向10D1に外部磁界を印加して磁気飽和させたときの状態を“負側磁気飽和状態”といい、このときの磁化を“負側飽和磁化”という。一方、磁気テープ10に対して第2の垂直方向10D2に外部磁界を印加して磁気飽和させた状態を“正側磁気飽和状態”といい、このときの磁化を“正側飽和磁化”という。
【0026】
負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および磁化測定部34では、図4に示すようなヒステリシス(外部磁界強度に対する磁気テープ10の磁化状態に相当する電圧値の関係)を得ることができる構成を有している。但し、第1の実施形態では、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および磁化測定部34は、以下に説明するように、このようなヒステリシスループを得るような制御がなされるわけではない。なお、図4は、磁気テープ10を静止させたまま外部磁界を変化させた測定の例である。
【0027】
(ガイドロール)
複数のガイドロール31は、搬送部の一例であり、磁気テープ10の搬送経路に設けられている。複数のガイドロール31は、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および磁化測定部34それぞれにより印加される外部磁界の方向に対して直する方向(例えば水平方向)に磁気テープ10を連続移動(連続走行)する。複数のガイドロール31のうちの1つは、エンコーダ31aに接続されており、エンコーダ31aは、ガイドロール31の回転に応じてパルス信号をPC35に供給する。
【0028】
(負側飽和磁化測定部)
負側飽和磁化測定部32は、連続移動する磁気テープ10に対して第1の垂直方向10D1に外部磁界を印加し、磁気テープ10を負側に磁気飽和させると共に、外部磁界が印加されている磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、負側磁気飽和状態の影響を受けた反射光の偏光軸角度θ1(以下「負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1」という。)を測定する。なお、負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1は、負側磁気飽和状態の影響を受けた反射光の偏光状態の測定値の一例である。
【0029】
負側飽和磁化測定部32は、電磁石32aと、電源32bと、偏光検出部32cとを備える。電磁石32aは、磁界発生部の一例であり、磁気テープ10に対して第1の垂直方向10D1に外部磁界を印加する。具体的には、電磁石32aは、磁気テープ10を負極性側に磁気飽和させることが可能な強度の外部磁界を第1の垂直方向10D1に印加可能に構成されている。電源32bは、電磁石32aを駆動させるための電磁石用電源である。
【0030】
偏光検出部32cは、照射部32c1と、受光部32c2と、偏光軸角度検出回路32c3とを備える。照射部32c1は、電磁石32aにより印加された外部磁界内に位置する磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射する。受光部32c2は、磁性面10S1で反射された反射光を偏光ビームスプリッタやフォトディテクタ等を用いて電気信号に変換し、その信号を偏光軸角度検出回路32c3に供給する。偏光軸角度検出回路32c3は、受光部32c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光軸角度θ1を検出し、PC35に供給する。偏光軸角度検出回路32c3は、受光部32c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光状態を検出する偏光状態検出回路の一例である。
【0031】
(正側飽和磁化測定部)
正側飽和磁化測定部33は、連続移動する磁気テープ10に対して第2の垂直方向10D2に外部磁界を印加し、磁気テープ10を正側に磁気飽和させると共に、外部磁界が印加されている磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、正側磁気飽和状態の影響を受けた反射光の偏光軸角度θ2(以下「正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2」という。)を測定する。なお、正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2は、正側磁気飽和状態の影響を受けた反射光の偏光状態の測定値の一例である。
【0032】
正側飽和磁化測定部33は、電磁石33aと、電源33bと、偏光検出部33cとを備える。電磁石33aは、磁界発生部の一例であり、磁気テープ10に対して第2の垂直方向10D2に外部磁界を印加する。具体的には、電磁石33aは、磁気テープ10を正極性側に磁気飽和させることが可能な強度の外部磁界を第2の垂直方向10D2に印加可能に構成されている。電源33bは、電磁石33aを駆動させるための電磁石用電源である。
【0033】
偏光検出部33cは、照射部33c1と、受光部33c2と、偏光軸角度検出回路33c3とを備える。照射部33c1は、電磁石33aにより印加された外部磁界内に位置する磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射する。受光部33c2は、磁性面10S1で反射された反射光を偏光ビームスプリッタやフォトディテクタ等を用いて電気信号に変換し、その信号を偏光軸角度検出回路33c3に供給する。偏光軸角度検出回路33c3は、受光部33c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光軸角度θ2を検出し、PC35に供給する。偏光軸角度検出回路33c3は、受光部33c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光状態を検出する偏光状態検出回路の一例である。
【0034】
(磁化測定部)
磁化測定部34は、連続移動する磁気テープ10に対して第1の垂直方向10D1に外部磁界を印加し、磁気テープ10を消磁させると共に、外部磁界が印加されている磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、反射光の偏光軸角度θ3(以下「消磁状態の偏光軸角度θ3」という。)を測定する。なお、消磁状態の偏光軸角度θ3は、消磁状態の磁性面10S1で反射された反射光の偏光状態の測定値の一例である。
【0035】
磁化測定部34は、電磁石34aと、電源34bと、偏光検出部34cとを備える。電磁石34aは、磁界発生部の一例であり、磁気テープ10に対して第1の垂直方向10D1に外部磁界を印加し、正側飽和磁化測定部33で磁化された磁気テープ10を消磁する。電源33bは、電磁石34aを駆動させるための電磁石用電源である。
【0036】
偏光検出部34cは、照射部34c1と、受光部34c2と、偏光軸角度検出回路34c3とを備える。照射部34c1は、電磁石34aにより印加された外部磁界内に位置する磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射する。受光部34c2は、磁性面10S1で反射された反射光を偏光ビームスプリッタやフォトディテクタ等を用いて電気信号に変換し、その信号を偏光軸角度検出回路34c3に供給する。偏光軸角度検出回路34c3は、受光部34c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光軸角度θ3を検出し、PC35に供給する。偏光軸角度検出回路34c3は、受光部34c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光状態を検出する偏光状態検出回路の一例である。
【0037】
(PC)
PC35は、制御部の一例であり、磁気特性の測定装置30の全体を制御する。具体的には、PC35は、複数のガイドロール31、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および磁化測定部34を制御する。また、PC35は、磁気特性の測定装置30以外に、磁気テープ10の成膜装置20の全体も制御する。ここでは、PC35が、磁気特性の測定装置30および磁気テープ10の成膜装置20の両方を制御する場合について説明するが、磁気特性の測定装置30および磁気テープ10の成膜装置20が別々の制御装置で制御されてもよい。
【0038】
PC35は、パルスカウンタボード35aを備え、パルスカウンタボード35aは、エンコーダ31aから供給されるパルス信号をカウントし、連続移動する磁気テープ10の移動距離を算出する。PC35は、D/Aボード35bを備え、D/Aボード35bを介して電源32b、33b、34bを制御し、電磁石32a、33a、34aの出力磁界強度をそれぞれ調整する。PC35は、A/Dボード35cを備え、A/Dボード35cを介して偏光軸角度検出回路32c3、33c3、34c3からそれぞれ供給される負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1、正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2および消磁状態の偏光軸角度θ3を取り込む。PC35は、このデータ取込みの際に、パルスカウンタボード35aのカウント値に基づき、データと磁気テープ10上の測定位置とを関連付ける。
【0039】
PC35は、負側飽和磁化測定部32から供給される負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1と、正側飽和磁化測定部33から供給される正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2との中間値θ0(=(θ1+θ2)/2)を算出する。そして、磁化測定部34から供給される消磁状態の偏光軸角度θ3がこの中間値θ0に等しくなるように、D/Aボード35および電源34bを介して、電磁石34aの出力磁界強度を調整する、以下では、この制御を「消磁制御」と適宜称する。具体的には、D/Aボード35および電源34bを介して、電磁石34aに供給する電流値を制御することにより、電磁石34aの出力磁界強度を調整する。磁気テープ10は止まることなく連続的に移動しているため、PC35は、常に磁気テープ10の位置を管理しながら、上記の消磁制御をし続ける。
【0040】
PC35は、連続移動する磁気テープ10の同一位置で取得されたデータ(すなわち負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1、正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2および消磁状態の偏光軸角度θ3)を用いて、磁化測定部34における磁界の強度調整を行う。すなわち、PC35は、磁化測定部34に位置する磁気テープ10が、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33にそれぞれ位置していたときに取得されたデータ(すなわち負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1および正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2)に基づき、磁化測定部34における消磁制御を行う。磁気テープ10上の同じ位置のデータ同士で演算することにより、磁気テープ10上の位置違いに起因する偏光バラつき(膜厚、膜質が変動している場合はそのバラつきも含む)をキャンセルすることができる。これにより、連続移動する磁気テープ10であっても、従来の静止状態での測定の一部を代替できる結果が得られる。
【0041】
消磁制御を開始した直後は、上記の中間値θ0に正しく合わせきれない(すなわち消磁しきれない)場合があるが、消磁制御を連続的に行い続けることで、消磁状態を維持できるフィードバックが成立する。PC35は、消磁状態を維持できている状態における電磁石34aの印加磁界の強度を保磁力として取得する。具体的には、PC35は、消磁状態の偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しいか否かを判断し、消磁状態の偏光軸角度θ3が中間値θ0になったときに電磁石34aに供給されていた電流値を磁界強度に変換し、保磁力を取得する。PC35は、保磁力の測定結果を必要に応じてPC35の表示装置に表示するようにしてもよいし、外部機器に出力してもよい。
【0042】
[磁気特性の測定装置の動作]
以下、図5を参照して、上述の構成を有する磁気特性の測定装置30の動作について説明する。
【0043】
まず、作業者がPC35を用いて磁気テープ10の成膜開始の操作を実行すると、ステップS1において、PC35は、複数のガイドロール31を駆動し、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および磁化測定部34それぞれにより印加される外部磁界の方向に対して直する方向(例えば水平方向)に磁気テープ10を連続移動させる。
【0044】
次に、ステップS2において、PC35は、負側飽和磁化測定部32を制御して、連続移動する磁気テープ10に対して第1の垂直方向10D1に十分大きな外部磁界(例えば-15kOe等)を印加し、磁気テープ10を負側に磁気飽和させる。また、この外部磁界中に存在する磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、その反射光の偏光軸角度θ1(すなわち負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1)を測定し、PC35に供給する。
【0045】
次に、ステップS3において、PC35は、正側飽和磁化測定部33を制御して、連続移動する磁気テープ10に対して第2の垂直方向10D2に十分大きな外部磁界(例えば+15kOe等)を印加し、磁気テープ10を正側に磁気飽和させる。また、この外部磁界中に存在する磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、その反射光の偏光軸角度θ2(すなわち正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2)を測定し、PC35に供給する。
【0046】
次に、ステップS4において、PC35は、磁化測定部34を制御して、連続移動する磁気テープ10に対して第1の垂直方向10D1に外部磁界を印加し、磁気テープ10を消磁する。具体的には、D/Aボード35および電源34bを介して、電磁石34aに供給する電流値を制御することにより、磁気テープ10を消磁する。また、磁化測定部34で印加される外部磁界中に存在する磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、その反射光の偏光軸角度θ3(すなわち消磁状態の偏光軸角度θ3)を測定し、PC35に供給する。
【0047】
次に、ステップS5において、PC35は、ステップS2にて測定された偏光軸角度θ1とステップS3にて測定された偏光軸角度θ2の中間値θ0(=(θ1+θ2)/2)を算出する。そして、ステップS4にて測定された偏光軸角度θ3が、算出した中間値θ0に等しいか否かを判断する。このように偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しいか否かを判断することで、磁気テープ10の磁化がゼロであるか否かを判断することができる。
【0048】
ステップS4にて測定された偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しいと判断された場合には、ステップS6において、PC35は、上記のように等しいと判断されたときに電磁石34aに供給された電流値を磁界強度に変換し、保磁力を取得する。
【0049】
一方、ステップS6にてステップS5で測定された偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しくないと判断された場合には、ステップS7において、PC35は、ステップS4にて測定された偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しくなるように、磁化測定部34の磁界強度を調整する。具体的には、ステップS4にて測定された偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しくなるように、D/Aボード35および電源34bを介して、電磁石34aに供給する電流値を制御することにより、電磁石34aの出力磁界強度を調整する。
【0050】
なお、磁気テープ10は連続的に移動しているため、ステップS1~7の処理は切れ間なく継続して行われるようになっている。また、磁気テープ10の移動距離を把握できるように、エンコーダ31a等を使って磁気テープ10の位置を管理し、磁気テープ10上の同一位置で、ステップS2~S7の測定、比較および調整等が行われるようになっている。
【0051】
表1に、第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置30を用いて、保磁力が2.5[kOe]に設定された磁気テープ10の保磁力を繰返し10回測定したときの結果を示す。表1から、第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置30では、連続移動する磁気テープ10の保磁力を非破壊かつ非接触で精度良く測定可能であることがわかる。
【表1】
【0052】
[効果]
第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置30では、連続移動する磁気テープ10を静止させることなく、かつ磁気テープ10を破壊することもなく、磁気テープ10の保磁力(磁気特性)を測定することができる。
【0053】
ロールtoロール成膜工程において、走行成膜を中断することなく、かつ、磁気テープ10を破壊することなく、迅速に磁気テープ10の磁気特性を測定できるため、磁気特性の測定結果を素早く適切に成膜工程にフィードバックすることが可能となる。したがって、歩留りを向上することができる。また、磁気特性の測定結果のフィードバックにより、工程の規格値範囲よりもさらに狭い範囲内に特性が収まるように成膜条件を制御することで、不良の発生をさらに抑制することができる。
【0054】
<2 第2の実施形態>
[磁気特性の測定装置]
図6は、第2の実施形態に係る磁気特性の測定装置30Aの構成を示す。磁気特性の測定装置30Aは、磁化測定部34に代えて、残留磁化測定部36を備える点において、第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置30とは異なっている。
【0055】
(残留磁化測定部)
残留磁化測定部36は、外部磁界が印加されていない磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、反射光の偏光軸角度θ4(以下「残留磁化状態の偏光軸角度θ4」という。)を測定する。なお、残留磁化状態の偏光軸角度θ4は、残留磁化の影響を受けた反射光の偏光状態の測定値の一例である。
【0056】
残留磁化測定部36は、偏光検出部36cを備える。偏光検出部36cは、照射部36c1と、受光部36c2と、偏光軸角度検出回路36c3とを備える。照射部36c1は、電磁石により外部磁界が印加されていない磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射する。受光部36c2は、磁性面10S1で反射された反射光を偏光ビームスプリッタやフォトディテクタを用いて電気信号に変換し、その信号を偏光軸角度検出回路36c3に供給する。偏光軸角度検出回路36c3は、受光部36c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光軸角度θ4を検出し、PC35に供給する。偏光軸角度検出回路36c3は、受光部36c2から供給された信号に基づき、反射光の偏光状態を検出する偏光状態検出回路の一例である。
【0057】
(PC)
PC35は、演算部の一例であり、磁気特性の測定装置30Aの全体を制御する。具体的には、PC35は、複数のガイドロール31、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および残留磁化測定部36を制御する。PC35は、A/Dボード35cを介して偏光軸角度検出回路32c3、33c3、36c3からそれぞれ供給される負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1、正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2および残留磁化状態の偏光軸角度θ4を取り込む。PC35は、このデータ取込みの際に、パルスカウンタボード35aのカウント値に基づき、データと磁気テープ10上の測定位置とを関連付ける。
【0058】
PC35は、負側飽和磁化測定部32から供給される負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1と、正側飽和磁化測定部33から供給される正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2との中間値θ0(=(θ1+θ2)/2)を算出する。そして、負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1と中間値θ0との差分Δθ10(=θ1-θ0)と、残留磁化状態の偏光軸角度θ4と中間値θ0との差分Δθ40(=θ4-θ0)を算出する。算出にあたり、データと磁気テープ10上の測定位置が事前に関連付けられていることから、磁気テープ10上の同じ位置のデータ同士で演算し、磁気テープ10上の位置違いに起因する偏光バラつき(膜厚、膜質が変動している場合はそのバラつきも含む)をキャンセルするのが好ましい。
【0059】
差分Δθ10は、中間値θ0を基準とした負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1’(=θ1-θ0)を意味する。差分Δθ40は、中間値θ0を基準とした残留磁化状態の偏光軸角度θ4’(=θ4-θ0)を意味する。差分Δθ10は、負側磁気飽和状態の偏光状態測定値と正側磁気飽和状態の偏光状態測定値との中間値を基準とした負側磁気飽和状態の偏光状態測定値の一例である。差分Δθ40は、負側磁気飽和状態の偏光状態測定値と正側磁気飽和状態の偏光状態測定値との中間値を基準とした残留磁化状態の偏光状態測定値の一例である。
【0060】
PC35は、算出した差分Δθ10、Δθ40を用いて、差分Δθ10に対する差分Δθ40の比(Δθ40/Δθ10)を算出し、角形比を得る。なお、PC35は、連続移動する磁気テープ10の同一位置において取得されたデータ(すなわち負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1、正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2および残留磁化状態の偏光軸角度θ4)を用いて、上述の角形比の算出を行う。上述したように、PC35は、測定データと磁気テープ10上の測定位置とを関連付けて取り込み、記憶するため、磁気テープ10の同一位置における測定データを用いての角形比の算出が可能である。
【0061】
[磁気特性の測定方法]
以下、図7を参照して、上述の構成を有する磁気特性の測定装置30Aの動作について説明する。
【0062】
まず、作業者がPC35を用いて磁気テープ10の成膜開始の操作を実行すると、ステップS11において、PC35は、第1の実施形態におけるステップS1と同様に、磁気テープ10を連続移動させる。
【0063】
次に、ステップS12において、PC35は、第1の実施形態におけるステップS2と同様にして偏光軸角度θ1(すなわち負側磁気飽和状態の偏光軸角度θ1)を測定し、PC35に供給する。
【0064】
次に、ステップS13において、PC35は、第1の実施形態におけるステップS3と同様にして偏光軸角度θ2(すなわち正側磁気飽和状態の偏光軸角度θ2)を測定し、PC35に供給する。
【0065】
次に、ステップS14において、PC35は、電磁石により外部磁界が印加されていない、連続走行する磁気テープ10の磁性面10S1に偏光を照射し、その反射光の偏光軸角度θ4(すなわち残留磁化状態の偏光軸角度θ4)を測定し、PC35に供給する。
【0066】
次に、ステップS15において、PC35は、ステップS12にて測定された偏光軸角度θ1とステップS13にて測定された偏光軸角度θ2の中間値θ0(=(θ1+θ2)/2)を算出する。
【0067】
次に、ステップS16において、PC35は、ステップS12にて測定した偏光軸角度θ1と、ステップS15にて算出した中間値θ0との差分Δθ10=θ1-θ0を算出する。また、PC35は、ステップS14にて測定した偏光軸角度θ4と、ステップS15にて算出した中間値θ0との差分Δθ40=θ4-θ0を算出する。
【0068】
次に、ステップS17において、PC35は、ステップS16にて算出した差分Δθ10、Δθ40を用いて、差分Δθ10に対する差分Δθ40の比(Δθ40/Δθ10)を算出し、角形比を得る。
【0069】
なお、磁気テープ10は連続的に移動しているため、ステップS11~S17の処理は切れ間なく継続して行われるようになっている。また、磁気テープ10の移動距離を把握できるように、エンコーダ31a等を使って磁気テープ10の位置を管理し、磁気テープ10上の同一位置で、ステップS12~S14の測定が行われるようになっている。
【0070】
[効果]
第2の実施形態に係る磁気特性の測定装置30Aでは、連続移動する磁気テープ10を静止させることなく、かつ磁気テープ10を破壊することもなく、磁気テープ10の角形比(磁気特性)を測定することができる。
【0071】
[変形例]
以上、本開示の第1、第2の実施形態について具体的に説明したが、本開示は、上述の第1、第2の実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の第1、第2の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。また、上述の第1、第2の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0072】
上述の第1、第2の実施形態では、連続走行(連続移動)する磁気テープ10の磁気特性を測定する場合について説明したが、本開示は磁気テープ10の磁気特性の測定に限定されるものではなく、磁気テープ10以外の磁気記録媒体の磁気特性の測定にも適用可能である。例えば、連続回転する磁気ディスク(例えばハードディスク)の磁気特性の測定にも本開示は適用可能である。この場合、連続回転する磁気ディスクの磁気特性(例えば保磁力、角形比等)を非破壊かつ非接触で測定することができる。
【0073】
上述の第1、第2の実施形態では、電磁石32a、33a、34aのギャップ部に磁気テープ10を通過させる共に、これらのギャップ部を通過する磁気テープ10の磁性面10S1の偏光状態を測定する磁気特性の測定装置30、30Aについて説明したが、磁気特性の測定装置の構成はこれに限定されるものではない。例えば、図8に示すように、磁気テープ10の一方の面側(例えば磁性面10S1側)にのみ電磁石32a、33a、34aを設け、この電磁石32a、33a、34aにより外部磁界が印加されている磁気テープ10の磁性面10S1の偏光状態を測定するようにしてもよい。
【0074】
上述の第1、第2の実施形態では、磁気特性の測定装置30、30AをPC35で制御する場合について説明したが、PC35に代えて専用の制御装置等により磁気特性の測定装置30、30Aを制御してもよい。
【0075】
上述の第1の実施形態では、磁気特性の測定装置30により、磁気テープ10の保磁力を測定する方法について説明したが、以下のようにして、磁気特性の測定装置30により、磁気テープ10の飽和磁化を測定するようにしてもよい。すなわち、磁気テープ10の磁化量と、磁化による偏光軸角度の変化量との関係を予め調べ、換算係数を用意し、PC35の記憶部に予め記憶してくようにする。PC35は、負側飽和磁化測定部32と正側飽和磁化測定部33の2つの偏光軸角度を磁気テープ10上の同じ位置の測定値同士で比較し、その差分を上記の換算係数で磁化量に換算することで、飽和磁化量を得る。なお、負側、正側飽和磁化測定値の中間値を基準として、負側、または正側飽和磁化測定部の測定値までの差分を算出して換算に用いても良い。
【0076】
上述の第1の実施形態では、磁気テープ10の保磁力を測定する磁気特性の測定装置30の構成について説明したが、以下の構成とすることで、残留磁化を測定することも可能である。すなわち、図9に示すように、照射部32c1および受光部32c2を電磁石32aよりも磁気テープ10の搬送経路の下流側、かつ電磁石33aよりも磁気テープ10の搬送経路の上流側の位置に設ける。照射部33c1および受光部33c2を電磁石33aよりも磁気テープ10の搬送経路の下流側の位置に設ける。磁気テープ10の磁化量と磁化による偏光軸角度の変化量との関係を予め調べ、換算係数を用意し、PC35の記憶部に予め記憶しておくようにする。
【0077】
上述の構成を有する磁気特性の測定装置30は、以下のように動作する。まず、PC35は、電磁石32aにより磁気テープ10を負側に磁気飽和させた後、電磁石32aの磁界範囲を抜けた位置にて、偏光検出部32cにより偏光軸角度を測定する。続いて、さらにその下流側にて、電磁石33aにより磁気テープ10を正側に磁気飽和させた後、電磁石33aの磁界範囲を抜けた位置にて、偏光検出部33cにより偏光軸角度を測定する。その後、PC35は、偏光検出部32c、および偏光検出部33cで得られた2つの偏光軸角度を、磁気テープ10上の同じ位置の測定値同士で比較し、その差分を上記の換算係数で磁化量に換算することで、残留磁化量を得る。なお、偏光検出部32c、偏光検出部33cでの測定値の中間値を基準として、偏光検出部32c、または偏光検出部33cでの測定値までの差分を算出して換算に用いても良い。
【0078】
第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置30により、角形比を測定するようにしてもよい。すなわち、電磁石34aを未通電とし使用しない状態とし、第2の実施形態に係る磁気特性の測定装置30Aと同様の動作を行うようにすることで、角形比を測定するようにしてもよい。
【0079】
上述の第1の実施形態では、消磁状態の偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しくなったときに電磁石34aに供給されていた電流値を磁界強度に変換し、保磁力を得る例について説明したが、保磁力の測定方法はこれに限定されるものではない。例えば、磁化測定部34が、電磁石34aの磁界強度を測定するための磁界測定部(例えばホール素子等)を備え、消磁状態の偏光軸角度θ3が中間値θ0に等しくなったときの電磁石34aの磁界強度を磁界測定部で測定し、保磁力を得るようにしてもよい。
【0080】
上述の第1、第2の実施形態では、連続移動する磁気テープ10を負側磁気飽和状態とした後、正側磁気飽和状態とする例について説明したが、正側磁気飽和状態とした後、正側磁気飽和状態としてもよい。すなわち、負側飽和磁化測定部32と正側飽和磁化測定部33との配置位置を入れ替えてもよい。
【0081】
上述の第1、第2の実施形態では、垂直磁気記録方式の磁気テープ10の磁気特性を測定する場合について説明したが、水平磁気記録方式(面内磁気記録方式)の磁気テープ10の磁気特性を測定するようにしてもよい。この場合、電磁石32a、33a、34aは磁気テープ10の長手方向に外部磁界を印加することが可能に構成される。なお、電磁石32a、34aと電磁石33aとの磁界の印加方向は、第1、第2の実施形態と同様に逆方向である。
【0082】
上述の第1、第2の実施形態において、PC35が、磁気特性(保磁力、角形比等)の測定結果を成膜工程にフィードバックするようにしてもよい。すなわち、PC35は、磁気特性の測定結果に基づき、磁気テープ10の磁気特性が規定の範囲内になるように磁性層13等の成膜条件を調整するようにしてもよい。
【0083】
より具体的には、PC35は、磁気特性の測定装置30、30Aで測定した磁気特性の測定結果を、PC35の記憶部に記憶された規定の磁気特性とリアルタイムに比較し、規定の磁気特性の範囲に収まるように成膜工程にフィードバックする。すなわち、規定の磁気特性の範囲に収まるように磁性層13等の成膜条件を調整する。調整する成膜条件としては、例えば、塗料13aの吐出量(すなわち磁性層13の厚み)、塗料13aの乾燥条件および磁場配向時の磁場強度等のうちの少なくとも1種が挙げられる。具体的には例えば、磁場強度を調整し、塗料13aの塗布直後における磁性粉の配向状態を調整することで、角形比を変化させることができる。また、磁性層13の厚みを調整することで、飽和磁化量を調整することができる。
【0084】
上述の第1、第2の実施形態では、磁性層13等が塗布工程(ウエットプロセス)により作製される塗布型の磁気テープ10の磁気特性を測定する例について説明したが、磁性層等が真空薄膜の作製技術(ドライプロセス)により作製される真空薄膜型の磁気テープの磁気特性を測定するようにしてもよい。真空薄膜の作製方法としては、例えば、スパッタリング法または蒸着法等が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
図10は、スパッタリング法により磁性層得等を成膜する磁気テープの成膜装置40の構成を示す。この磁気テープの成膜装置40は、シード層、下地層および磁性層(記録層)の成膜に用いられる連続巻取式スパッタ装置であり、成膜室41と、金属キャン(回転体)であるドラム42と、カソード43a~43cと、供給リール44と、巻き取りリール45と、複数のガイドロール47a~47c、48a~48cと、磁気特性の測定装置49とを備える。成膜装置40は、例えばDC(直流)マグネトロンスパッタリング方式のスパッタ装置であるが、スパッタリング方式はこの方式に限定されるものではない。磁気特性の測定装置49は、第1の実施形態に係る磁気特性の測定装置30または第2の実施形態に係る磁気特性の測定装置30Aである。但し、制御部であるPC35は、磁気テープの成膜装置40の外部に配置され、成膜装置40を制御する制御部も兼ねている。
【0086】
ここでは、成膜装置40が3つのカソード43a~43cを備える例について説明するが、カソードの数はこれに限定されるものではなく、1、2または4以上であってもよい。また、ここでは磁性層以外のスパッタ層として、シード層および下地層を成膜する例について説明するが、シード層および下地層に代えて、またはシード層および下地層と共に、軟磁性裏打ち層(SUL層)および中間層等のうちの少なくとも1種の層を成膜するようにしてもよい。
【0087】
成膜室41は、排気口46を介して図示しない真空ポンプに接続され、この真空ポンプにより成膜室41内の雰囲気が所定の真空度に設定される。成膜室41の内部には、回転可能な構成を有するドラム42、供給リール44および巻き取りリール45が配置されている。成膜室41の内部には、供給リール44とドラム42との間における基体11の搬送をガイドするための複数のガイドロール47a~47cが設けられていると共に、ドラム42と巻き取りリール45との間における基体11の搬送をガイドするための複数のガイドロール48a~48cが設けられている。スパッタ時には、供給リール44から巻き出された基体11が、ガイドロール47a~47c、ドラム42およびガイドロール48a~48cを介して巻き取りリール45に巻き取られる。ドラム42は円柱状の形状を有し、長尺状の基体11はドラム42の円柱面状の周面に沿わせて搬送される。ドラム42には、図示しない冷却機構が設けられており、スパッタ時には、例えば-20℃程度に冷却される。成膜室41の内部には、ドラム42の周面に対向して複数のカソード43a~43cが配置されている。これらのカソード43a~43cにはそれぞれターゲットがセットされている。具体的には、カソード43a、43b、43cにはそれぞれ、シード層、下地層および磁性層を成膜するためのターゲットがセットされている。これらのカソード43a~43cにより複数の種類の膜、すなわちシード層、下地層および磁性層が同時に成膜される。
【0088】
上述の構成を有する成膜装置40では、シード層、下地層および磁性層をRoll to Roll法により連続成膜することができる。
【0089】
PC35は、磁気特性の測定装置49で測定した磁気特性の測定結果を、PC35の記憶部に記憶された規定の磁気特性(例えば保持力、角形比等)とリアルタイムに比較し、規定の磁気特性の範囲に収まるように成膜工程にフィードバックする。すなわち、規定の磁気特性の範囲に収まるよう磁性層13等の成膜条件を調整する。調整する成膜条件としては、例えば、スパッタ電力、フィルム走行速度、ガス導入量、導入ガス種類および真空度等のうちの少なくとも1種が挙げられる。具体的には例えば、成膜室41内の脱ガス状態を調整することで、保磁力および角形比を変化させることができる。なお、蒸着法により成膜する場合には、調整する成膜条件としては、例えば電子ビーム強度等が挙げられる。
【0090】
上述のように磁気テープの成膜装置40内に磁気特性の測定装置49を備え、目的とする磁気特性の範囲を工程の規格値範囲よりも狭く設定し、フィードバック制御を行うことで、工程規格値内に収まる製品を作り続けることが可能となる。
【0091】
上述の第1の実施形態において、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および磁化測定部34がそれぞれ、磁気テープ10の磁性面10S1に対向して設けられ、磁性面10S1で反射された偏光を磁性面10S1に向けて反射する反射ミラー(反射部)をさらに備えるようにしてもよい。この場合、磁性面10S1に入射した偏光は、磁性面10S1と反射ミラーとの間で繰り返し反射された後、すなわち磁気テープ10の磁性面10S1にて複数回反射された後、受光部32c2、33c2、34c2で受光される。これにより、磁気カー効果による偏光状態変化を累積させることできる。したがって、偏光状態の測定感度を向上させることができる。
【0092】
同様に、上述の第2の実施形態において、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33および残留磁化測定部36がそれぞれ、磁気テープ10の磁性面10S1に対向して設けられ、磁性面10S1で反射された偏光を磁性面10S1に向けて反射する反射ミラー(反射部)をさらに備えるようにしてもよい。
【0093】
上述の第1、第2の実施形態では、負側飽和磁化測定部32、正側飽和磁化測定部33、磁化測定部34および残留磁化測定部36が、反射光の偏光状態として偏光軸角度を測定する場合について説明したが、偏光軸角度に代えて楕円率または反射強度等を測定するようにしてもよい。この場合、偏光軸角度検出回路32c3、33c3、34c3、36c3に代えて楕円率測定回路または反射強度測定回路等が用いられる。
【0094】
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、前記第3の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第3の反射光の偏光状態の測定値が、前記第1の反射光の偏光状態の測定値と前記第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように前記第3の磁界の強度を調整し、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を得ることと
を含む磁気特性の測定方法。
(2)
前記磁気記録媒体は、前記第1の磁界、前記第2の磁界および前記第3の磁界の方向に対して直する方向に連続移動される(1)に記載の磁気特性の測定方法。
(3)
前記第3の磁界の強度調整に用いられる前記第1の反射光の偏光状態の測定値、前記第2の反射光の偏光状態の測定値および前記第3の反射光の偏光状態の測定値は、連続移動する前記磁気記録媒体の同一位置で取得される(1)または(2)に記載の磁気特性の測定方法。
(4)
前記第1の偏光、前記第2の偏光および前記第3の偏光はそれぞれ、前記磁気記録媒体の面にて複数回反射される(1)から(3)のいずれかに記載の磁気特性の測定方法。
(5)
前記第1の反射光の偏光状態、前記第2の反射光の偏光状態、前記第3の反射光の偏光状態がそれぞれ、前記第1の反射光の偏光軸角度、前記第2の反射光の偏光軸角度、前記第3の反射光の偏光軸角度である(1)から(4)のいずれかに記載の磁気特性の測定方法。
(6)
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定する第1の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定する第2の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、前記第3の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定する第3の測定部と、
前記第3の反射光の偏光状態の測定値が、前記第1の反射光の偏光状態の測定値と前記第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように前記第3の測定部を制御し前記第3の磁界の強度を調整し、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を得る制御部と
を備える磁気特性の測定装置。
(7)
前記第1の磁界、前記第2の磁界および前記第3の磁界の方向に対して直する方向に前記磁気記録媒体を連続移動させる搬送部をさらに備える(6)に記載の磁気特性の測定装置。
(8)
前記制御部は、連続移動する前記磁気記録媒体の同一位置で取得された前記第1の反射光の偏光状態の測定値、前記第2の反射光の偏光状態の測定値および前記第3の反射光の偏光状態の測定値を用いて、前記第3の磁界の強度調整を行う(6)または(7)に記載の磁気特性の測定装置。
(9)
前記磁気記録媒体の面に対向して設けられた反射部をさらに備え、
前記第1の偏光、前記第2の偏光および前記第3の偏光は、前記磁気記録媒体の面と前記反射部との間で繰り返し反射される(6)から(8)のいずれかに記載の磁気特性の測定装置。
(10)
前記第3の測定部は、前記第3の磁界の強度を測定する磁界測定部を備え、
前記制御部は、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を前記磁界測定部により測定する(6)から(9)のいずれかに記載の磁気特性の測定装置。
(11)
前記第3の測定部は、連続移動する前記磁気記録媒体に前記第3の磁界を印加する磁界発生部を備え、
前記制御部は、前記磁界発生部に供給する電流値を制御することにより、前記第3の磁界の強度を調整し、
前記制御部は、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときに前記磁界発生部に供給された電流値を磁界の強度に変換することにより、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を算出する(6)から(9)のいずれかに記載の磁気特性の測定装置。
(12)
前記第1の反射光の偏光状態、前記第2の反射光の偏光状態、前記第3の反射光の偏光状態がそれぞれ、前記第1の反射光の偏光軸角度、前記第2の反射光の偏光軸角度、前記第3の反射光の偏光軸角度である(6)から(11)のいずれかに記載の磁気特性の測定装置。
(13)
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第2の磁界とは逆向きの第3の磁界を印加すると共に、前記第3の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第3の偏光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第3の反射光の偏光状態の測定値が、前記第1の反射光の偏光状態の測定値と前記第2の反射光の偏光状態の測定値との中間値となるように前記第3の磁界の強度を調整し、前記第3の反射光の偏光状態の測定値が前記中間値に等しくなったときの前記第3の磁界の強度を保磁力として得ることと
得られた前記保磁力に基づき、連続移動する前記磁気記録媒体の成膜条件を調整することと
を含む磁気記録媒体の製造方法。
(14)
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第1の反射光および前記第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値Aと前記第1の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA10(=A-A)に対する、前記中間値Aと前記第3の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA20(=A-A)の比(ΔA20/ΔA10)を算出することと
を含む磁気特性の測定方法。
(15)
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定する第1の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定する第2の測定部と、
連続移動する前記磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定する第3の測定部と、
前記第1の反射光および前記第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値Aと前記第1の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA10(=A-A)に対する、前記中間値Aと前記第3の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA20(=A-A)の比(ΔA20/ΔA10)を算出する演算部と
を備える磁気特性の測定装置。
(16)
連続移動する磁気記録媒体に第1の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第1の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第1の偏光を照射し、反射された第1の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体に、前記第1の磁界とは逆向きの第2の磁界を印加し、前記磁気記録媒体を磁気飽和させると共に、前記第2の磁界が印加されている前記磁気記録媒体の面に第2の偏光を照射し、反射された第2の反射光の偏光状態を測定することと、
連続移動する前記磁気記録媒体の面に光を照射し、反射された第3の反射光の偏光状態を測定することと、
前記第1の反射光および前記第2の反射光の偏光状態の測定値の中間値Aと前記第1の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA10(=A-A)に対する、前記中間値Aと前記第3の反射光の偏光状態の測定値Aとの差分ΔA20(=A-A)の比(ΔA20/ΔA10)を算出することにより角形比を得ることと、
得られた前記角形比に基づき、連続移動する前記磁気記録媒体の成膜条件を調整することと
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【符号の説明】
【0095】
10 磁気テープ
10S1 磁性面
10S2 バック面
11 基体
12 下地層
13 磁性層
13a 塗料
14 バック層
20、40 成膜装置
21、22 ロール
23 成膜ヘッド
24 乾燥炉
30、30A 磁気特性の測定装置
31 ガイドロール(搬送部)
31a エンコーダ
32 正側飽和磁化測定部(第1の測定部)
33 負側飽和磁化測定部(第2の測定部)
34 磁化測定部(第3の測定部)
35 PC(制御部、演算部)
36 残留磁化測定部(第3の測定部)
32a、33a、34a 電磁石(磁界発生部)
32b、33b、34b 電源
32c、33c、34c、36c 偏光検出部
32c1、33c1、34c1、36c1 照射部
32c2、33c2、34c2、36c2 受光部
32c3、33c3、34c3、36c3 偏光軸角度検出回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10