(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、光学レンズ、及び光学レンズユニット
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20231017BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20231017BHJP
C08K 5/04 20060101ALI20231017BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K5/00
C08K5/04
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2020563227
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050233
(87)【国際公開番号】W WO2020137926
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2018245787
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】末松 三豪
(72)【発明者】
【氏名】茂木 篤志
(72)【発明者】
【氏名】石原 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】西森 克吏
(72)【発明者】
【氏名】池田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宣之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光輝
(72)【発明者】
【氏名】大島 健輔
(72)【発明者】
【氏名】神田 正大
(72)【発明者】
【氏名】村田(鈴木) 章子
(72)【発明者】
【氏名】緒方 龍展
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147847(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/078075(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K5、G02B1
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を有する樹脂と、
下記式(2)で表される構造を有するビナフタレン化合物及び/又はそのオリゴマー、
とを含
み、
前記オリゴマーの分子量(Mw)が、5000以下である、光学用樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、
Aは炭素数1~5のアルキレン基を示し、
pは0又は1を示し、
K
1は水素原子、又は、炭素数1~5のアルキル基を示し、
K
2は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は、炭素数6~20のアリール基を示し、
Zは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルカルボニル基、グリシジルオキシカルボニル基、シアノ基、又は、アミド基を示し、
qは0又は1を示す。)
【化2】
(式(2)中、
R
1~R
10は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~6のアルキル基、O、N、及び、Sから選択されるヘテロ環原子を含んでいても良い炭素数6~20のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は、炭素数7~17のアラルキル基を示し、ただし、前記アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、及び、アラルキル基は、シアノ基によって置換されていてもよく、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、及び、アラルキル基は、フェニル基によって置換されていてもよく、
Xは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数5~12のシクロアルキレン基、または炭素数6~20のアリーレン基であり、
a及びbは、それぞれ独立して1~10の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)中のAがエチレン基、pが1、K
1が水素原子又はメチル基、K
2が水素原子であり、Zが、下記式(3)で表されるいずれかの置換基より選択される、請求項1に記載の光学用樹脂組成物。
【化3】
【請求項3】
前記式(1)で表される構成単位を有する樹脂の質量Aと、前記式(2)で表されるビナフタレン化合物とそのオリゴマーとの合計質量Bとの割合が、A/B(質量比)=99/1~80/20である、請求項1又は2のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビナフタレン化合物が、下記式(4)又は下記式(5)で表される化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【化4】
(式(4)中のR
1~R
10、a及びbは、式(1)中のR
1~R
10、a及びbと同義である。)
【化5】
(式(5)中のR
1~R
10、a及びbは、式(1)中のR
1~R
10、a及びbと同義である。)
【請求項5】
前記ビナフタレン化合物が、下記式(2-1)~(2-5)で表される化合物の少なくともいずれかを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【化6】
【請求項6】
前記オリゴマーの分子量(Mw)が、
500~500
0である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂の分子量(Mw)が、10,000以上60,000以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項8】
JIS-B-7071に準拠した屈折率の値が、1.510~1.600である、請求項1~7のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項9】
JIS-B-7090に準拠したアッベ数の値が、35~50である、請求項1~8のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項10】
JIS-K-7210に準拠した、260℃、2.16kgの条件下でのMVRの値が8~30(cm
3/10分)である、請求項1~9のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項11】
レンズ用樹脂組成物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物を含む、光学レンズ。
【請求項14】
請求項13に記載の光学レンズを含む、光学レンズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、特に、レンズ等の光学部品に有用な光学用樹脂組成物に関する。また、本発明は、光学用樹脂組成物を用いた成形体、光学レンズ、光学レンズユニット等に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、デジタルスチルカメラ(DSC)、車載カメラ用レンズ、ビデオカメラ等の各種カメラの光学系に使用される光学レンズ等の光学部品の材料として、光学用樹脂が使用されている。このような用途に用いられる光学用樹脂には、高い屈折率、低いアッベ数、優れた耐熱性、透明性等を有することが必要とされる。
【0003】
そしてこのように、光学用途に用いられる樹脂の材料や樹脂として、例えば、所定の環状オレフィン系樹脂(非特許文献1)、フルオレン化合物を含有する光学用樹脂(特許文献1)、ポリカーボネート樹脂等が開発されてきた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2016/147847
【文献】WO2014/073496
【非特許文献】
【0005】
【文献】JSR TECHNICAL REVIEW No. 108/2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学レンズ等の光学部品を製造する際には、光学用樹脂を成形する工程が必要とされる。このため、光学用樹脂においては、背景技術の欄に記載した様々な性状が良好であることに加え、優れた成形性も要求される。従来の光学用樹脂においては、光学特性に加えて成形性までもが優れているとは限らなかった。
このため、高い屈折率等の良好な光学物性を保持しつつ、成形不良の問題も生じさせない成形性に優れた新たな光学用樹脂が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、レンズ等の光学部品に有用な、以下の光学用樹脂組成物などを提供する。
[1]下記式(1)で表される構成単位を有する樹脂と、
下記式(2)で表される構造を有するビナフタレン化合物及び/又はそのオリゴマー、
とを含む、光学用樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、
Aは炭素数1~5のアルキレン基を示し、
pは0又は1を示し、
K
1は水素原子、又は、炭素数1~5のアルキル基を示し、
K
2は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は、炭素数6~20のアリール基を示し、
Zは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルカルボニル基、グリシジルオキシカルボニル基、シアノ基、又は、アミド基を示し、
qは0又は1を示す。)
【化2】
(式(2)中、
R
1~R
10は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~6のアルキル基、O、N、及び、Sから選択されるヘテロ環原子を含んでいても良い炭素数6~20のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は、炭素数7~17のアラルキル基を示し、ただし、前記アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、及び、アラルキル基は、シアノ基によって置換されていてもよく、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、及び、アラルキル基は、フェニル基によって置換されていてもよく、
Xは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数5~12のシクロアルキレン基、または炭素数6~20のアリーレン基であり、
a及びbは、それぞれ独立して1~10の整数である。)
[2]前記式(1)中のAがエチレン基、pが1、K
1が水素原子又はメチル基、K
2が水素原子であり、Zが、下記式(3)で表されるいずれかの置換基より選択される、上記[1]に記載の光学用樹脂組成物。
【化3】
[3]前記式(1)で表される構成単位を有する樹脂の質量Aと、前記式(2)で表されるビナフタレン化合物とそのオリゴマーとの合計質量Bとの割合が、A/B(質量比)=99/1~80/20である、上記[1]又は[2]のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
[4]前記ビナフタレン化合物が、下記式(4)又は下記式(5)で表される化合物を含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【化4】
(式(4)中のR
1~R
10、a及びbは、式(1)中のR
1~R
10、a及びbと同義である。)
【化5】
(式(5)中のR
1~R
10、a及びbは、式(1)中のR
1~R
10、a及びbと同義である。)
[5]前記ビナフタレン化合物が、下記式(2-1)~(2-5)で表される化合物の少なくともいずれかを含む、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
【化6】
[6]前記オリゴマーの分子量(Mw)が、5000以下である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
[7]前記樹脂の分子量(Mw)が、10,000以上60,000以下である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
[8]JIS-B-7071に準拠した屈折率の値が、1.510~1.600である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
[9]JIS-B-7090に準拠したアッベ数の値が、35~50である、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
[10]JIS-K-7210に準拠した、260℃、2.16kgの条件下でのMVRの値が8~30(cm
3/10分)である、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
[11]レンズ用樹脂組成物である、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物。
[12]上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物を含む、成形体。
[13]上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の光学用樹脂組成物を含む、光学レンズ。
[14]上記[13]に記載の光学レンズを含む、光学レンズユニット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好ましい態様に係るレンズ用樹脂組成物は、優れた光学特性を実現しつつ、従来の樹脂組成物に比べて特に成形性を改善することが可能である。このため、レンズ用樹脂組成物は、成形によって得られるレンズ等の成形体の表面欠陥、例えば流動痕の発生を防止できる。
さらに、本発明の好ましい態様に係るレンズ用樹脂組成物は、比較的安価な樹脂材料を用いて優れた成形性と光学特性とを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるレンズ用樹脂組成物は、上記式(1)で表され、脂肪族環状骨格を有する構成単位を含む樹脂と、上記式(2)で表される構造を有するビナフタレン化合物及び/又はそのオリゴマーとを含む。
以下、本発明に係るレンズ用樹脂組成物について詳細に説明する。
【0010】
1.脂肪族環状骨格(式(1)で表される構成単位)を有する樹脂
【0011】
本発明において用いられる樹脂は、式(1)で表される構成単位を有するものであり(以下、本発明において用いられる樹脂を式(1)の樹脂ともいう)、以下のように、脂肪族環状骨格を含む。
【化7】
式(1)において、Aは、炭素数1~5のアルキレン基を示し、好ましくは炭素数1~3のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数2のエチレン基を示す。
pは、0又は1を示し、好ましくは1である。
K
1は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を示し、好ましくは、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示し、より好ましくは、水素原子又は炭素数1あるいは2のアルキル基を示す。
K
2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、好ましくは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基を示し、より好ましくは、水素原子、炭素数1あるいは2のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基を示し、さらに好ましくは、水素原子、メチル基、又は、炭素数6~8のアリール基を示す。
Zは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルカルボニル基、グリシジルオキシカルボニル基、シアノ基、又は、アミド基を示し、好ましくは、いずれも炭素数が2~8である、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルカルボニル基、あるいはグリシジルオキシカルボニル基、炭素数が4~10のシクロアルキルオキシカルボニル基、又は、炭素数が1であるシアノ基を示す。
より好ましくは、Zは、いずれも炭素数が2~6である、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、あるいはヒドロキシアルキルカルボニル基、又は、炭素数が6~8のシクロアルキルオキシカルボニル基を示す。
qは、0又は1を示し、好ましくは0を示す。
【0012】
式(1)の樹脂の好ましい形態においては、式(1)中のAがエチレン基であり、pが1であり、K
1が、水素原子又はメチル基、より好ましくはメチル基であり、K
2が、水素原子であり、Zは、それぞれ独立して、下記式(3)で表されるいずれかの置換基より選択される。
【化8】
【0013】
また、式(1)の樹脂の好ましい具体例としては、下記式(1-1)で示される構成単位を含むポリマーが挙げられる。
【化9】
【0014】
式(1)の樹脂は、10,000以上60,000以下の分子量(Mw)を有することが好ましく、より好ましくは、20,000以上50,000以下の分子量(Mw)、さらに好ましくは、30,000以上50,000以下の分子量(Mw)を有する。
式(1)の樹脂は、150℃以上180℃以下のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましく、より好ましくは、160℃以上170℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する。なお、ここでのガラス転移温度(Tg)は、JIS-K-7121に準拠した値である。
式(1)の樹脂のMVRの値は、5~40(cm3/10分)であることが好ましく、より好ましくは、10~25(cm3/10分)である。なお、ここでのMVRは、JIS-K-7210に準拠した、260℃、2.16kgの条件での値である。
また、式(1)の樹脂の屈折率の値は1.500~1.532であることが好ましく、1.520~1.530であることがより好ましい。
【0015】
式(1)の樹脂には、上記式(1)で表される構成単位の他、下記式(A-1)~(A-3)で示されるいずれかの構成単位が含まれていても良い。なお式(A-1)~(A-3)において、Raは、それぞれ独立して、置換基を有していても良く、分岐鎖を有していても良い、合計の炭素数が1~10であるアルキレン基である。Raは、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等であり、好ましくはエチレン基である。
【化10】
なおこのように、上記式(1)で表される構成単位の他にも構成単位を有する場合、これらの構成単位を含む式(1)の樹脂は、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体であるが、好ましくは、ランダム共重合体である。また、上記式(1)で表される構成単位の他にも構成単位を有する場合、式(1)の樹脂において、式(1)で表される構成単位が50モル%以上含まれることが好ましく、70モル%以上含まれることがより好ましく、90モル%以上含まれることが特に好ましい。
【0016】
2.ビナフタレン骨格(式(2)で表される構造)を含むビナフタレン化合物又はオリゴマー
【0017】
本発明において用いられるビナフタレン化合物及び/又はオリゴマーは、式(2)で表される構造を有するものであり(以下、本発明において用いられるビナフタレン化合物及び/又はオリゴマーを、式(2)の化合物又は式(2)のオリゴマーともいう)、以下のように、ビナフタレン骨格を含む。
【化11】
式(2)において、R
1~R
10は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~6のアルキル基、O、N、及び、Sから選択されるヘテロ環原子を含んでいても良い炭素数6~20のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は、炭素数7~17のアラルキル基を示す。
R
1~R
10は、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、ヘテロ環原子を含んでいても良い炭素数6~20のアリール基のいずれかであり、より好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、ヘテロ原子を含まない炭素数6~12のアリール基のいずれかであり、さらに好ましくは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、ヘテロ原子を含まない炭素数6~8のアリール基のいずれかである。
また、R
1~R
10が、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、又は、アラルキル基であるとき、これらはいずれも置換基を有していても良く、置換基として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、フェニル基等が挙げられる。また、アルキル基の置換基は、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキル基等のいずれかであっても良く、アリール基の置換基は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アラルキル基等のいずれかであっても良く、これらの置換基の炭素数は、上述のアルキル基、及び、アリール基の炭素数には含まれない。
Xは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数5~12のシクロアルキレン基、または炭素数6~20のアリーレン基であり、好ましくは、炭素数1~8のアルキレン基であり、より好ましくは、炭素数1~4のアルキレン基であり、特に好ましくは、炭素数2又は3のアルキレン基である。
a及びbは、それぞれ独立して1~10の整数である。a及びbは、それぞれ独立して、好ましくは、1~6の整数であり、より好ましくは1~4の整数であり、さらに好ましくは1又は2である。)
【0018】
式(2)のビナフタレン化合物として、同種のものを用いても、また、異なる種類のものを用いても良い。式(2)の化合物のオリゴマーについても同様であり、式(2)の化合物のいずれか一種のみのオリゴマーを用いても、複数の種類の式(2)の化合物のオリゴマーを用いてもよい。また、一種以上の式(2)の化合物と、一種以上の式(2)の化合物のオリゴマーとの混合物を用いても良い。
【0019】
式(2)のビナフタレン化合物の好ましい形態としては、式(4)又は(5)で表されるビナフタレン化合物が挙げられ、式(4)又は(5)で表されるビナフタレン化合物のオリゴマーもまた、好適に用いられる。
【化12】
【化13】
なお、式(4)及び(5)において、R
1~R
10、a、及びbは、上記式(1)中のR
1~R
10、a及びbと同義である。
【0020】
また、式(2)のビナフタレン化合物又はオリゴマーの好ましい具体例として、例えば、下記式(2-1)~(2-11)で示される化合物又はオリゴマーが挙げられる。これらの中でも、特に、下記式(2-1)~(2-7)で示される化合物又はオリゴマーが好ましい。
【化14】
【0021】
式(2)の化合物のオリゴマーは、例えば、式(2)の化合物の1~10量体の混合物であり、好ましくは2~5量体のいずれか、あるいはそれらの混合物である。
式(2)の化合物のオリゴマーの分子量(重量平均分子量:Mw)は、5000以下であることが好ましく、例えば、500~5000である。式(2)の化合物のオリゴマーの分子量(Mw)は、より好ましくは600~3000であり、さらに好ましくは、800~2000である。
【0022】
式(2)の化合物のオリゴマーは、100℃以上250℃以下のガラス転移温度(Tg)、又は、100℃以上250℃以下の融点を有することが好ましい。なお、ここでのガラス転移温度(Tg)は、JIS-K-7121に準拠した値である。
【0023】
式(2)の化合物又はオリゴマーには、上記式(2)で表される構造の他、若干量であれば、下記式(B)で示される構造(構成単位)が含まれていても良い。
上記式(2)で表される構成単位に加え、式(B)で示される構成単位が含まれる場合、式(2)の化合物又はオリゴマーにおいて、式(2)で表される構成単位が70モル%以上含まれることが好ましく、80モル%以上含まれることがより好ましく、90モル%以上含まれることが特に好ましい。
【化15】
なおこのように、上記式(2)で表される構成単位の他にも構成単位を有する場合、これらの構造(構成単位)を含む式(2)の化合物のオリゴマーは、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体であるが、好ましくは、ランダム共重合体である。
【0024】
3. 光学用樹脂組成物
【0025】
本発明の光学用樹脂組成物は、式(1)の樹脂と、式(2)の化合物又はオリゴマーとを含む。
光学用樹脂組成物において、式(1)の樹脂の質量Aと、式(2)の化合物又はオリゴマーの合計質量Bとの割合は、A/B(質量比)=99/1~80/20(A:B=99:1~80:20)であることが好ましい。
A/B(質量比)の値は、より好ましくは、97/3~82/18であり、さらに好ましくは、95/5~84/16であり、特に好ましくは、92/8~85/15である。
なお、式(1)の樹脂として複数の種類の混合物を用いた場合においては、式(1)の樹脂の質量Aは、複数の種類の式(1)の樹脂の合計質量である。
【0026】
[その他の成分]
光学用樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を配合してもよい。例えば、酸化防止剤、加工安定剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、離型剤、紫外線吸収剤、可聖剤、相溶化剤等の添加剤を混合しても良い。
添加剤の含有量は、光学用樹脂組成物の全質量を基準として、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0027】
式(2)のビナフタレン化合物に類似する分子構造を有する化合物として、フルオレン化合物が挙げられるが、光学用樹脂組成物において、フルオレン化合物は含まれないことが好ましい。これは、以下の実施例と比較例との結果から明らかであるように、フルオレン化合物を含む光学用樹脂組成物よりも、式(2)のビナフタレン化合物又はそのオリゴマーを含む光学用樹脂組成物の方が、成形性に優れているためである。
【0028】
[光学用樹脂組成物の性状]
光学用樹脂組成物においては、JIS-B-7071に準拠した屈折率の値が、1.510~1.600の範囲内であることが好ましい。光学用樹脂組成物の屈折率の値は、より好ましくは、1.512~1.580であり、さらに好ましくは、1.515~1.560であり、特に好ましくは、1.520~1.540である。
【0029】
光学用樹脂組成物においては、JIS-B-7090に準拠したアッベ数の値が、35~50の範囲内であることが好ましい。光学用樹脂組成物のアッベ数は、より好ましくは、36~49であり、さらに好ましくは、37~47であり、特に好ましくは、38~46である。
【0030】
光学用樹脂組成物においては、JIS-K-7210に準拠した、260℃、2.16kgの条件下でのMVRの値が8~30(cm3/10分)の範囲内の値であることが好ましい。光学用樹脂組成物のMVR値は、より好ましくは、10~26(cm3/10分)であり、さらに好ましくは、11~25(cm3/10分)であり、特に好ましくは、12~24(cm3/10分)である。
【0031】
4. 光学用樹脂組成物を含む成形体・光学レンズ等
【0032】
本発明の光学用樹脂組成物は、多種の成形体、特に、光学用部品の成形体に含まれ得る。また、光学用樹脂組成物は、光学用部品の成形体の材料として、有用である。例えば、本発明の光学用樹脂組成物は、光学レンズの材料として特に有用であり、本発明の光学用樹脂組成物を含む光学レンズは、優れた特徴を有する。
【0033】
すなわち、本発明の光学用樹脂組成物により、高度~中程度の屈折率と適度なアッベ数とを備えるレンズを、成形加工時に欠陥を生じさせずに製造することが可能となる。
そしてこのように優れた特徴を有する光学用樹脂組成物を用いて成形された光学レンズは、光学レンズユニットにおいて好適に用いられ得る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の効果を奏する限りにおいて実施形態を適宜、変更することができる。
【0035】
<ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)>
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、テトラヒドロフランを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。この検量線に基づいて、GPCのリテンションタイムから重量平均分子量(Mw)を算出した。
[測定条件]
装置;東ソー株式会社製、HLC-8320GPC
カラム;ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMPHZ-M×1本
分析カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M×3本
溶媒;テトラヒドロフラン
注入量;10μL
試料濃度;0.2w/v% テトラヒドロフラン溶液
溶媒流速;0.35ml/min
測定温度;40℃
検出器;RI
【0036】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差熱走査熱量分析計(高感度型示差走査熱量計DSC7000X)により測定した。昇温、及び降下速度は10℃/分に設定し、示差走査熱量計(DSC)内で一度溶融、冷却固化した後、2回目の昇温過程(セカンドラン)でTgを測定した。
【0037】
<樹脂の流動性(MVR)>
東洋精機製作所株式会社製のメルトインデクサーを用いて、JIS-K-7210に準拠した方法で測定した。特に記載のない限り、260℃、2.16kgの条件でのMVR(cm3/10分)とした。
【0038】
<屈折率(nd)の測定>
詳細を後述する実施例で製造した樹脂組成物からなる厚さ0.1mmフィルムについて、アッベ屈折計を用い、JIS-K-7142に準拠した方法で測定した。
【0039】
<アッベ数(ν)>
実施例で製造した樹脂組成物からなる厚さ0.1mmフィルムについて、アッベ屈折計を用い、23℃下での波長486nm、589nm及び656nmの屈折率を測定した。
さらに、下記式を用いて測定した屈折率の値から、アッベ数νを算出した。
ν=(nD-1)/(nF-nC)
nD:波長589nmでの屈折率
nC:波長656nmでの屈折率
nF:波長486nmでの屈折率
【0040】
<成形流動痕の測定>
非球面形状の金型を使用して射出成型装置(ファナック株式会社製のFANUC ROBOSHOT S-2000i50B)によって、樹脂温度300℃、金型温度Tg-20℃(使用した樹脂のTgより20℃低い温度)で連続1万ショットの成形を行い、レンズを作製した。得られた成形体であるレンズの表面を目視観察し、成形体の流動痕の有無を確認した。
成形流動痕(目視) A:流動痕跡無し
成形流動痕(目視) B:流動痕跡ほとんど無し
成形流動痕(目視) C:流動痕跡若干あり
成形流動痕(目視) D:流動痕跡有り
【0041】
(実施例1)
式(1)で表される構成単位を有する樹脂として、下記式(1-1)で示される樹脂(ガラス転移温度(Tg)が164℃であり、分子量(Mw)は45,000)のペレット92質量部と、式(2)で表される化合物として、下記式(2-1)の2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’ジフェニル-1,1’-ビナフタレン(DP-BHBNA)8重量部とを用いた。これらの樹脂と化合物を、二軸押出機(IPT型35mm同方向二軸押出機、IPT-35、L/D=38)を用いて混練し、ストランドを押出し、カッターで切断して樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の外観は、無色透明であった。
【化16】
式(2-1)で示される化合物(DP-BHBNA);
2,2-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフタレン
【0042】
(実施例2~5)
式(2)で表される化合物として下記式(2-2)~(2-4)に示す化合物あるいはオリゴマーを用いた点、または、式(2-1)の化合物の含有量を変更した点以外は、実施例1と同様にして実施例2~5の樹脂組成物を得た。
【化17】
式(2-2)で示される化合物(BINOLE-2EO):
2,2-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン
式(2-3)で示される化合物(BINOLE-DC):
2,2-([1,1-ビナフタレン]-2,2-ジイルビス[オキシ])ジ酢酸
式(2-4)で示されるオリゴマー(BNE‐3PC):
2,2-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレンの3量体
【0043】
(式(2-4)で示されるオリゴマー(BNE‐3PC)の合成例)
実施例4で用いたオリゴマー(BNE‐3PC)は、以下のように合成した。
2,2-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン 1.000mol、ジフェニルカーボネート 1.750mol、及び、炭酸水素ナトリウム 1×10-6モルを、攪拌機および留出装置付きの1リットル反応器に入れ、窒素雰囲気下30分かけて200℃に加熱し撹拌した。その後、60分かけて反応系の温度と圧力を230℃、0.13kPaとし、引き続き同条件下で、ただし反応器内に窒素を導入した状態で30分間、撹拌を行い、オリゴマーを得た。得られたオリゴマー(BNE‐3PC)のMwは、1,415であった。
尚、式(2-4)における繰り返し数「3」(3量体)は、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)及びFD-MSにより公知の方法により算出した値である。
【0044】
(比較例)
また、比較例においては、式(2)で表される化合物の代わりに、下記式(B)で表されるフルオレン化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【化18】
【0045】
これらの実施例1~5、及び、比較例で得られた樹脂組成物の物性を表1に示す。
【0046】
【0047】
本発明の好ましい態様に係る光学用樹脂組成物は、優れた光学特性を実現しつつ、従来の樹脂組成物に比べて特に成形性を改善することができる。すなわち、光学用樹脂組成物によれば、十分な光学特性を有するレンズ等の成形体を、表面欠陥、例えば流動痕等の発生なしに製造できる。
一方、フルオレン化合物を用いた比較例においては、成形性に劣る結果が示された。
また、各実施例にて使用の化合物又はオリゴマーは、屈折率の高さなどの光学的特性に優れているものの通常は高価であり、これらの成分の含有量を抑えた態様によっても上述の優れた光学特性と成形性とが実現可能である本発明の光学用樹脂組成物は、成形体の製造コストの低減をも可能にする。
以上のように、本発明の好ましい態様に係るレンズ用樹脂組成物は、比較的安価な樹脂材料を用いて、優れた成形性と光学特性とを実現できる。