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特許7367705研磨剤の再生方法及び研磨剤リサイクル処理システム
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  • 特許-研磨剤の再生方法及び研磨剤リサイクル処理システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】研磨剤の再生方法及び研磨剤リサイクル処理システム
(51)【国際特許分類】
   B24B 57/02 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
B24B57/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020565684
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050487
(87)【国際公開番号】W WO2020145121
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019002337
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 啓介
(72)【発明者】
【氏名】薛 じん
(72)【発明者】
【氏名】月形 扶美子
(72)【発明者】
【氏名】前澤 明弘
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/017531(WO,A1)
【文献】特開2015-033735(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178280(WO,A1)
【文献】特開2011-040144(JP,A)
【文献】特表2005-515950(JP,A)
【文献】特開2003-193038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B57/00-57/04
B24B37/00-37/34
H01L21/304;21/463
C09G1/02
C09K3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨剤スラリーから、被研磨物の構成成分を除去し、研磨剤を回収・再生する研磨剤の再生方法であって、
前記被研磨物が、化学強化ガラスであり、
少なくとも、研磨加工工程、研磨剤スラリー供給工程、研磨剤スラリー回収工程、及び沈降分離濃縮工程をこの順で有し、
前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とすることを特徴とする研磨剤の再生方法。
【請求項2】
前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で水による希釈を行った後の研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.01~0.05質量%の範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載の研磨剤の再生方法。
【請求項3】
前記研磨剤スラリー供給工程において、KO濃度が0.1~1.0質量%の範囲内にある研磨剤スラリーを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の研磨剤の再生方法。
【請求項4】
前記沈降分離濃縮工程の後の研磨剤スラリーの比重を、前記研磨剤スラリー供給工程における水添加前の研磨剤スラリーの比重に合わせる比重調整工程を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の研磨剤の再生方法。
【請求項5】
前記比重調整工程後に、研磨剤の粒子径を調整する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の研磨剤の再生方法。
【請求項6】
前記研磨加工工程と沈降分離濃縮工程との間に、研磨剤スラリー中のKO濃度を自動的に測定するKO濃度測定部と、得られた前記KO濃度情報に応じて、希釈する水の添加量を自動的に添加する水添加部を有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の研磨剤の再生方法。
【請求項7】
研磨剤スラリーから、被研磨物の構成成分を除去し、研磨剤を回収・再生する研磨剤リサイクル処理システムであって、
前記被研磨物が、化学強化ガラスであり、
研磨加工工程部と
前記研磨加工工程部に研磨剤スラリーを供給するスラリー供給タンクを有する研磨剤スラリー供給工程部と、
加工済み研磨剤スラリーと洗浄水との混合液を貯蔵する回収混合液タンクを有する研磨剤スラリー回収工程部と、
前記混合液を透過液と研磨剤の濃縮液とに分離する分離タンクを有する沈降分離濃縮工程部とを有し、かつ、
前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とする水添加工程部を有することを特徴とする研磨剤リサイクル処理システム。
【請求項8】
前記水添加工程部で、水による希釈を行った後の研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.01~0.05質量%の範囲内とすることを特徴とする請求項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【請求項9】
前記研磨剤スラリー供給工程部において、KO濃度が0.1~1.0質量%の範囲内にある研磨剤スラリーを用いることを特徴とする請求項又は請求項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【請求項10】
前記沈降分離濃縮工程の後に、研磨剤スラリーの比重を、前記研磨剤スラリー供給工程における水添加前の研磨剤スラリーの比重に合わせる比重調整工程部を有することを特徴とする請求項から請求項までのいずれか一項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【請求項11】
前記比重調整工程部で得られた研磨剤の粒子径を調整する工程部を有することを特徴とする請求項10に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【請求項12】
前記研磨加工工程部と沈降分離濃縮工程部との間に、研磨剤スラリー中のKO濃度を自動的に測定するKO濃度測定部と、得られた前記KO濃度情報に応じて、希釈する水の添加量を自動的に添加する水添加部を有することを特徴とする請求項から請求項11までのいずれか一項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨剤の再生方法及び研磨剤リサイクル処理システムに関し、より詳しくは、化学強化ガラスの研磨に用い、加工済みの研磨剤スラリーからKOを含むガラス成分を効率的に除去し、被研磨物の効率的な分離と、研磨速度の安定性と研磨物の傷等による品質低下を防止する研磨剤の再生方法及び研磨剤リサイクル処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光学ガラスや水晶発振子を製造する際、仕上げ工程で精密研磨する研磨剤(研磨材ともいう。)としては、従来、ダイヤモンド、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、アルミナジルコニア、酸化ジルコニウム、酸化セリウム等に代表される高い硬度を有する微粒子が使用されている。
【0003】
これらの研磨剤は、硬度が高い微粒子であるため、光学レンズや半導体シリコン基板及び液晶画面のガラス板など、電子部品関係の光学研磨剤として多量に使用されている重要な資源であり、そのため、再利用を強く望まれている資源の一つである。また、光学研磨用の研磨剤は、希土類元素の微粒子を含んでいる場合が多く、資源の再利用化、又は無公害化への技術的対応が重要な問題となっている。
【0004】
また、これらの研磨剤は、通常、研磨工程で多量に使用する際、その廃液中には被研磨物の構成成分、例えば、光学ガラス屑等も共存しているが、通常では研磨剤と被研磨物とを効率的に分離することが困難であるため、上記のように、研磨剤廃液は、多くの場合、使用後に廃棄されているのが現状であり、環境負荷の面、資源の有効活用の面や廃棄コストの面からも問題を抱えている。
【0005】
一方、近年においては、スマートフォンの急速な普及に伴い、スマートフォン用のディスプレイガラスの生産量も大幅に増えている。また、スマートフォンは、近年、大画面化の傾向が強く、使用されるディスプレイガラス(カバーガラス)の面積も大きくなっている。
【0006】
しかしながら、大画面化によってスマートフォン自体が大型化してしまうと、本来の携帯性や操作性といった部分が失われてしまうという問題がある。一方、スマートフォン用のディスプレイガラスは落下時の衝撃によって割れやすいため、多くの場合、化学強化ガラスが使用されている。
【0007】
そこで、近年では、スマートフォン自体のコンパクト性を維持しながら、大画面化を実現するために、画面のフチまで表示画面として使用できるよう端面が曲面加工された、3Dガラスと呼ばれるガラスが開発されている。この3Dガラスは従来に比べ、面積分研磨量が増えるため、研磨に使用した研磨剤の再生の要望は益々高くなっている。
【0008】
しかしながら、研磨量の増加と共に循環使用している研磨剤スラリー中のガラス成分量も増加する傾向にあり、研磨剤再生回数を重ねると、回収研磨剤スラリーの品質も低下してくる。
【0009】
上記問題に対し、酸化セリウムを含有する研磨剤の使用済み研磨剤スラリーから、研磨した研磨剤成分を、マグネシウム塩等を用いて分離する研磨剤成分の再生方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
しかしながら、最近の研磨方法においては、研磨量の増加と共に循環使用している研磨剤スラリー中の研磨により生じたガラス研磨屑(以下、単に研磨屑ともいう。)の量も増加する傾向があり、スマートフォン用のディスプレイガラスに対する研磨方法では、研磨剤再生回数を重ねると、特許文献1で開示されている研磨剤成分の再生方法で調製した回収研磨剤スラリーでは、ガラス等の研磨屑と研磨剤とを効率よく分離できないケースが発生してきている。
【0011】
この問題に対応すべく、その原因について検討を重ねた結果、分離がうまくできていないケースでは、スマートフォン用のディスプレイガラスの研磨に使用した回収研磨剤スラリー中に、カリウム成分が多く存在していることが判明した。これは、スマートフォン用ディスプレイガラスは落下時の衝撃によってガラスが破損するケースが多く、この対応として化学強化ガラスが使用されている。しかしながら、3Dガラスとして端部が曲面加工されているため、落下時の衝撃応力が端部に集中しやすく、それに伴い破損する頻度も高くなるため、適用するガラスとして、従来のガラスに比べ化学強化成分(KO)を多く含んだ化学強化ガラスが求められており、この化学強化成分(KO)が、研磨剤スラリーの分離・再生工程に影響を与え、生産安定性を低下していると考えられる。
【0012】
特許文献1に開示されているようなガラスの研磨に使用した回収研磨剤スラリーの再生方法では、マグネシウム塩を添加した後、スラリー溶液のpHを調整することで、研磨剤と、研磨時に発生する研磨屑の分離を行っていたが、上記のようなKO成分が多い化学強化ガラスの研磨に用いた研磨剤スラリーの再生では、再生回数を重ねていくと、pHを調整しても沈降分離が難しくなり、ある一定回数以上再生を行うと、沈降分離剤を添加した際にスラリーがフロック状になってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第5370598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、化学強化ガラスの研磨に用い、加工済みの研磨剤スラリーからKOを含むガラス成分を効率的に除去し、研磨速度安定性と研磨屑等により発生する傷等による品質低下を防止する研磨剤の再生方法及び研磨剤リサイクル処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、研磨に用いた研磨剤スラリーから、研磨屑の構成成分を除去し、前記研磨剤を回収・再生する研磨剤の再生方法であって、研磨加工工程、研磨剤スラリー供給工程、研磨剤スラリー回収工程、及び沈降分離濃縮工程をこの順で有し、前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とすることにより、ガラス成分の効率的な分離と、研磨速度の維持と研磨物の傷等による品質低下を防止する研磨剤の再生方法を見出した。
【0016】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0017】
1.研磨剤スラリーから、被研磨物の構成成分を除去し、研磨剤を回収・再生する研磨剤の再生方法であって、
前記被研磨物が、化学強化ガラスであり、
少なくとも、研磨加工工程、研磨剤スラリー供給工程、研磨剤スラリー回収工程、及び沈降分離濃縮工程をこの順で有し、
前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とすることを特徴とする研磨剤の再生方法。
【0018】
2.前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で水による希釈を行った後の研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.01~0.05質量%の範囲内とすることを特徴とする第1項に記載の研磨剤の再生方法。
【0019】
3.前記研磨剤スラリー供給工程において、KO濃度が0.1~1.0質量%の範囲内にある研磨剤スラリーを用いることを特徴とする第1項又は第2項に記載の研磨剤の再生方法。
【0020】
4.前記沈降分離濃縮工程の後の研磨剤スラリーの比重を、前記研磨剤スラリー供給工程における水添加前の研磨剤スラリーの比重に合わせる比重調整工程を有することを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の研磨剤の再生方法。
【0021】
5.前記比重調整工程後に、研磨剤の粒子径を調整する工程を有することを特徴とする第4項に記載の研磨剤の再生方法。
【0022】
6.前記研磨加工工程と沈降分離濃縮工程との間に、研磨剤スラリー中のKO濃度を自動的に測定するKO濃度測定部と、得られた前記KO濃度情報に応じて、希釈する水の添加量を自動的に添加する水添加部を有することを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の研磨剤の再生方法。
【0024】
.研磨剤スラリーから、被研磨物の構成成分を除去し、研磨剤を回収・再生する研磨剤リサイクル処理システムであって、
前記被研磨物が、化学強化ガラスであり、
研磨加工工程部と
前記研磨加工工程部に研磨剤スラリーを供給するスラリー供給タンクを有する研磨剤スラリー供給工程部と、
加工済み研磨剤スラリーと洗浄水との混合液を貯蔵する回収混合液タンクを有する研磨剤スラリー回収工程部と、
前記混合液を透過液と研磨剤の濃縮液とに分離する分離タンクを有する沈降分離濃縮工程部とを有し、かつ、
前記研磨剤スラリー回収工程部又は前記沈降分離濃縮工程部で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とする水添加工程部を有することを特徴とする研磨剤リサイクル処理システム。
【0025】
.前記水添加工程部で、水による希釈を行った後の研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.01~0.05質量%の範囲内とすることを特徴とする第項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【0026】
.前記研磨剤スラリー供給工程部において、KO濃度が0.1~1.0質量%の範囲内にある研磨剤スラリーを用いることを特徴とする第項又は第項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【0027】
10.前記沈降分離濃縮工程の後に、研磨剤スラリーの比重を、前記研磨剤スラリー供給工程における水添加前の研磨剤スラリーの比重に合わせる比重調整工程部を有することを特徴とする第項から第項までのいずれか一項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【0028】
11.前記比重調整工程部で得られた研磨剤の粒子径を調整する工程部を有することを特徴とする第10項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【0029】
12.前記研磨加工工程部と沈降分離濃縮工程部との間に、研磨剤スラリー中のKO濃度を自動的に測定するKO濃度測定部と、得られた前記KO濃度情報に応じて、希釈する水の添加量を自動的に添加する水添加部を有することを特徴とする請求項から第11項までのいずれか一項に記載の研磨剤リサイクル処理システム。
【発明の効果】
【0030】
本発明の上記手段により、化学強化ガラスの研磨に用い、加工済みの研磨剤スラリーから化学強化ガラスに起因するガラス成分を効率的に除去し、研磨速度の維持と研磨屑等により発生する傷等による品質低下を防止する研磨剤の再生方法及び研磨剤リサイクル処理システムを提供することができる。
【0031】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0032】
ガラス研磨方法においては、スラリー供給工程でのSiO濃度を測定し、その測定結果を基に研磨剤再生処理を行うか否かを選択していたが、近年、化学強化ガラス(スマートフォン用のディスプレイガラス等)の研磨方法においては、SiO濃度を基準とする従来の研磨剤スラリーの再生方式だけではうまく研磨剤と研磨屑の分離を行うことができず、鋭意検討を進めた結果、化学強化ガラスに起因するKO濃度を規定してライフエンドを規定することが必要であると推測した。
【0033】
従来、ガラス研磨剤スラリーの再生方法においては、スラリー溶液のpHを調整することで、研磨剤とガラス成分である研磨屑との分離を行っていた。しかしながら、研磨で生じるKO成分が多い研磨屑を含むガラス研磨剤スラリーの再生では、再生回数を重ねていくと、pHを調整しても、両者の沈降分離が難しくなり、ある一定回数以上再生を行うと、沈降分離剤を添加した際にスラリーがフロック状になってしまう問題もあった。
【0034】
本発明者は、上記問題に対し鋭意検討を進めた結果、研磨剤と化学強化ガラス成分である研磨屑との分離を安定して行うために、回収研磨剤スラリー中の化学強化ガラスに起因するKOの含有量を低減させる必要があると考え、具体的には、回収研磨剤スラリー中のKO濃度を0.002~0.2質量%の範囲内に希釈することにより、再生回数を重ねても安定した両者の分離が可能であることを見いだした。
【0035】
さらに、研磨剤の再生方法においては、KO濃度の測定を行い、自動で測定した濃度に応じて希釈するようにシステムを構築することで、研磨剤スラリー再生の自動化が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の研磨剤の再生方法の工程フローの一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の研磨剤の再生方法は、研磨加工工程、研磨剤スラリー供給工程、研磨剤スラリー回収工程、及び沈降分離濃縮工程を有し、前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とすることを特徴とする。この特徴は、下記各実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0038】
本発明の実施形態としては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で水による希釈を行い、研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.01~0.05質量%の範囲内とすることが、より効率的に研磨剤と化学強化ガラス成分である研磨屑との分離を行うことができる点で好ましい。
【0039】
また、前記研磨剤スラリー供給工程において、KO濃度が0.1~1.0質量%の範囲内にある研磨剤スラリーを用いることが、より効率的に研磨剤と化学強化ガラス成分である研磨屑との分離を行うことができる点で好ましい。
【0040】
また、前記沈降分離濃縮工程の後に、研磨剤スラリーの比重を、前記研磨剤スラリー供給工程における水添加前の研磨剤スラリーの比重に調整する比重調整工程を有することが、研磨剤の再生をより効率よく行うことができる点で好ましい。
【0041】
また、比重調整工程後に、粒子径を調整する工程(以下、粒子径調製工程ともいう。)を有することが、粒径分布の狭い研磨剤粒子を含む研磨剤スラリーを得ることができる点で好ましい。
【0042】
また、研磨加工工程と沈降分離濃縮工程との間に、研磨剤スラリー中のKO濃度を自動的に測定するKO濃度測定部と、得られた前記KO濃度情報に応じて、希釈する水の添加量を自動的に添加する水添加部を有することが、研磨剤スラリー再生の自動化が可能な研磨剤の再生方法を実現することができる点で好ましい。
【0043】
また、研磨剤のリサイクル処理システムでは、研磨機を用いて研磨加工する研磨加工工程部と、前記研磨加工工程部に研磨剤スラリーを供給するスラリー供給タンクを有する研磨剤スラリー供給部と、加工済み研磨剤スラリーと洗浄水との混合液を貯蔵する回収混合液タンクを有する研磨剤スラリー回収工程部と、前記混合液を透過液と研磨剤の濃縮液とに分離する分離タンクを有する沈降分離濃縮工程部とを有し、前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とする水添加工程部を有することを特徴とする。
【0044】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0045】
本発明において、研磨剤スラリーとは、研磨加工工程に応じた下記各種研磨剤スラリーを含めて総称的に表現されたスラリーをいう。
【0046】
《研磨剤の再生方法》
本発明の研磨剤の再生方法は、研磨物の研磨に用いた研磨剤スラリーから、被研磨物の構成成分を除去し、前記研磨剤を回収・再生する研磨剤の再生方法であって、少なくとも、研磨加工工程、研磨剤スラリー供給工程、研磨剤スラリー回収工程、沈降分離濃縮工程をこの順で有し、前記研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程で、水による希釈を行った後の前記研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とすることを特徴とする。
【0047】
〔研磨剤の再生方法の基本的な工程〕
本発明の研磨剤の再生方法に適用する工程としては、研磨加工工程、研磨剤スラリー供給工程、研磨剤スラリー回収工程、沈降分離濃縮工程をこの順で有することを特徴とするが、更には、沈降分離濃縮工程の後に、研磨剤スラリーの比重を、前記研磨剤スラリー供給工程における水添加前の研磨剤スラリーの比重に調整する比重調整工程、比重調製工程で得られた研磨剤の粒子径を調整する研磨剤粒子径調整工程や、研磨加工工程と沈降分離濃縮工程との間に、研磨剤スラリー中のKO濃度を自動的に測定するKO濃度測定部と、得られた前記KO濃度情報に応じて、希釈する水の添加量を自動的に添加する水添加部を有することが好ましい態様である。
【0048】
図1は、本発明の研磨剤の再生方法に適用可能な研磨剤の再生工程のフローの一例を示す概略図である。
【0049】
図1に示す再生方法には、順に、研磨加工工程1、研磨剤スラリー供給工程20を含む研磨剤スラリー回収工程2、沈降分離濃縮工程3、比重調整工程4、研磨剤粒子径調整工程5、再生研磨剤スラリー調製工程6を示してあり、各工程は、それぞれ配管L1~L12により接続されている。
【0050】
〔KO成分の処理方法〕
本発明の研磨剤の再生方法及び本発明の研磨剤リサイクル処理システムについて、図1に従い詳細な構成を説明する。
【0051】
本発明の特徴は、図1に示すように、研磨剤スラリー供給工程20で、スラリー供給タンク21に貯留している研磨剤スラリー23中のKO濃度を、イオンメーターMで測定した後、測定したKO濃度情報に従って、回収混合タンク22や分離濃縮タンク32に、研磨剤スラリーに対し希釈水W1~W2を添加し、次いで、KOを含む希釈水を系外に排出することにより、回収研磨剤スラリー中のKO量を低減する方法である。本発明では、研磨剤スラリー回収工程2又は沈降分離濃縮工程3で水による希釈を行った工程の後の研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内とすることを特徴とする。KO濃度の測定は、前記と同様の方法で行うことができる。
【0052】
本発明においては、研磨剤スラリー中のKO濃度を、0.002~0.2質量%の範囲内となるように希釈を行うが、回収した研磨剤スラリーに対する希釈用の水の添加量(希釈倍率)は、上記で規定するKO濃度を得ることができれば特に制限はないが、研磨性能や研磨剤の再生工程を構成する調整容器等のサイズを考慮すると、希釈倍率としては5~100倍の範囲内であり、特に好ましくは5~50倍の範囲内である。
【0053】
はじめに、研磨剤スラリー供給工程20に配置されているスラリー供給タンク21に、研磨加工工程1で生じた研磨に用いた研磨剤スラリーを、配管L2を介して回収する。更に、新たな再生研磨剤スラリーが、配管L12を通じて再生研磨剤スラリー貯蔵タンク51から追加される。
【0054】
このような構成のスラリー供給タンク21中の研磨剤スラリー23について、イオンメーターMで、特に、化学強化ガラスの研磨過程で生じるKO濃度を測定する。
【0055】
本発明に適用が可能なKO濃度の測定方法としては、例えば、カリウムイオン電極「8202-10C」と卓上型イオンメーター「F74」(以上、いずれも堀場製作所社製)を組み合わせて測定を行うことにより、KO濃度に換算して求めることができる。その他の方法としては、コンパクトカリウムイオンメータ 「LAQUAtwin K-114」(堀場製作所社製)やオンライン・イオンクロマト装置(日機装社製)を使用して測定することにより求めることもできる。
【0056】
上記イオンメーターMで測定したスラリー供給タンク21に貯蔵している研磨剤スラリー23中のKO濃度が0.05~1.0質量%の範囲内であると判定した場合、研磨剤スラリー回収工程2の研磨剤スラリー23を貯留している回収混合タンク22へ、所望の希釈水W1を研磨剤スラリー23に添加して、研磨剤スラリー23中のKO濃度を0.002~0.2質量%の範囲内とする。
【0057】
本発明では、研磨剤スラリー23への希釈水W2の添加は、沈降分離濃縮工程3に具備する分離濃縮タンク32へ所定量の希釈水W2を添加する方法であってもよい。
【0058】
上記方法で調製した希釈済みの研磨剤スラリー23に、添加剤タンク31より、無機塩、例えば、アルカリ土類金属塩を添加して、研磨剤成分のみを凝集・沈殿させて沈殿物33とし、被研磨物(ガラス成分)に由来する研磨屑である化学強化ガラス片は凝集させない状態の上澄み液34として分離させ、上澄み液34の所定量を、配管L6を通じて系外に排出35することにより、KO成分と不要な塩類を取り除くことができる。
【0059】
〔研磨剤の再生方法に適用する各工程の詳細〕
次いで、本発明の研磨剤の再生方法及び研磨剤のリサイクル処理システムに係る各工程(工程部ともいう)について、その詳細を説明する。
【0060】
(1)研磨加工工程
研磨加工工程1には、研磨装置12を具備し、被研磨物、例えば、化学強化ガラスを、研磨剤により研磨を行う。
【0061】
図1の研磨加工工程1で示すように、研磨機12の構成は、研磨布Pとしてスエード製の研磨布を貼付した研磨定盤Aを有しており、この研磨定盤Aは回転可能となっている。研磨時には、被研磨物保持部Cで保持されている被研磨物B(以下、化学強化ガラス基板、又は単にガラス基板ともいう。)を、押圧力Fの力で、研磨定盤Aに押し付けながら、研磨定盤Aを、一定の速度で回転させる。次いで、配管L3を介して、スラリー供給タンク21に貯留されている25℃の研磨剤スラリー23を研磨布Pに供給する。研磨済みの研磨剤スラリー11は、配管L2を通じて、再び、スラリー供給タンク21に送られ、この操作を繰り返して行う。また、研磨機12を洗浄するための洗浄水は、洗浄水タンク11に貯留されており、洗浄水噴射ノズルより、研磨部に吹き付けて洗浄を行う。
【0062】
(被研磨物:化学強化ガラス)
本発明の研磨剤の再生方法は、被研磨物Bとして化学強化ガラスを用いた研磨方法に適用することが、優れた効果を発現する。
【0063】
本発明でいう化学強化ガラスとは、イオン交換法等の化学処理によりガラスの表面を強化したガラスをいう。イオン交換法とは、例えば、ソーダライムシリケートガラス等のNa成分やLi成分を含有するフロートガラス板を、硝酸カリウム等の溶融塩中に浸漬させ、ガラス板の表面に存在する原子径の小さなNaイオン及び/又はLiイオンと、溶融塩中に存在する原子径の大きなKイオンとを置換してガラス板の表面層に圧縮応力層を形成して強度が高められたガラス板である。市販品の化学強化ガラスとしては、例えば、コーニングジャパン社製や日本板硝子社製の化学強化ガラス等を挙げることができる。
【0064】
化学強化ガラスの厚さとしては、その用途により異なるが、おおむね0.4~10.0mmの範囲内である。
【0065】
(研磨剤)
一般に、光学ガラスや半導体基板等の研磨剤の構成としては、ベンガラ(αFe)、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカ等の微粒子を水や油に分散させてスラリー状にしたものが用いられているが、本発明の研磨剤の再生方法としては、半導体基板の表面やガラスの研磨加工において、高精度に平坦性を維持しつつ、十分な加工速度を得るために、物理的な作用と化学的な作用の両方で研磨を行う、化学機械研磨(CMP)への適用が可能なダイヤモンド、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、アルミナジルコニア、酸化ジルコニウム及び酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種の回収に適用することが好ましい。
【0066】
本発明に係る研磨剤の構成成分として、ダイヤモンド系としては、例えば、合成ダイヤモンド(例えば、日本ミクロコーティング社製等)、天然ダイヤモンドが挙げられ、窒化ホウ素系としては、例えば、立方晶窒化ホウ素BN(例えば、昭和電工社製等)が挙げられる。窒化ホウ素系は、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有する。また、炭化ケイ素系としては、炭化ケイ素、緑色炭化ケイ素、黒色炭化ケイ素(例えば、Mipox社製等)等を挙げることができる。また、アルミナ系としては、アルミナのほかに、褐色アルミナ、白色アルミナ、淡紅色アルミナ、解砕型アルミナ、アルミナジルコニア系(例えば、サンゴバン社製)等を挙げることができる。また、酸化ジルコニウムとしては、例えば、第1稀元素化学工業社製の研磨剤用のBRシリーズ酸化ジルコニウム、中国HZ社製酸化ジルコニウムを挙げることができる。
【0067】
また、酸化セリウム(例えば、シーアイ化成社製、テクノライズ社製、和光純薬社製等)は、純粋な酸化セリウムよりは、バストネサイトと呼ばれる、希土類元素を多く含んだ鉱石を焼成した後、粉砕したものが多く利用されている。酸化セリウムが主成分ではあるが、その他成分として、ランタンやネオジウム、プラセオジウム等の希土類元素を含有し、酸化物以外にフッ化物等が含まれることもある。
【0068】
本発明に使用される研磨剤は、上記研磨剤を構成成分として、含有量が50質量%以上である場合に、効果が大きく好ましい。より好ましくは95~100質量%の範囲内であり、さらに好ましくは100質量%であることである。
【0069】
図1に示すガラス基板の研磨加工方法について、さらに詳細に説明する。
【0070】
研磨加工工程1では、研磨機12を有する研磨加工部と洗浄水タンク11を有する研磨部の洗浄部で、一つの研磨加工工程1を構成している。
【0071】
(1-1:研磨)
研磨パッドP(研磨布)と被研磨物B(例えば、化学強化ガラス基板)を接触させ、接触面に対して研磨剤スラリーを供給しながら、加圧条件下で研磨パッドPとガラス基板を相対運動させる。
【0072】
研磨パッドPは、連続研磨を行ったあとでは、パッドドレッシング又はパッドブラッシングを行うことができる。パッドドレッシングとは、パッドを物理的に削りつつ、表面を荒らすことで、パッド状態を一定に保つ処理のことである。それに対して、パッドブラッシングとは、パッドを削ることなく、パッドの凹凸に含まれる研磨屑などを除去するために行う処理のことである。
【0073】
また、1バッチの加工で複数の研磨機を用いて研磨を行っても良い。このような場合、前バッチに対する次バッチの1バッチあたりの加工時間の変化幅は10%以内であることが好ましい。この範囲内であると、複数の研磨期間における被研磨物の加工時間のばらつきを抑えることができる。ここで1バッチとは、1回の研磨処理単位のことをいい、例えば6枚のガラス基板を1バッチで研磨処理することができる。
【0074】
(1-2:洗浄)
研磨された直後のガラス基板B及び研磨機12には大量の研磨剤が付着している。そのため、研磨した後に研磨剤スラリーの代わりに洗浄水タンク11から水等を供給し、ガラス基板及び研磨機に付着した研磨剤の洗浄が行われる。
【0075】
(2)研磨剤スラリー供給工程
研磨剤スラリー供給工程20を構成するスラリー供給タンク21では、研磨機12から排出される加工済みの研磨剤スラリーを、配管L2を介して回収する。また、スラリー供給タンク21中の研磨剤スラリー23は、配管L3を介して、研磨機12に供給される。
【0076】
この研磨機12への研磨剤スラリー23の補給にともない、研磨剤スラリー供給工程20では、スラリー供給タンク21に対して新たな再生研磨剤スラリーを再生研磨剤スラリー貯蔵タンク51から配管L12を介して追加する。追加の方法は1バッチ毎に追加を行っても良いし、数バッチに追加を行っても良いが、溶媒に対して十分に分散された状態の研磨剤を供給することが望ましい。
【0077】
また、研磨剤スラリー供給工程20においては、スラリー供給タンク21内に貯留している研磨剤スラリー23中のKO濃度を測定するためのイオンメーターMが設けられている。
【0078】
(3)研磨剤スラリー回収工程
図1の2で示す研磨剤スラリー回収工程では、上記説明した研磨剤スラリー供給工程20を含む構成で示してある。研磨剤スラリー回収工程2は、スラリー供給タンク21に貯留している研磨剤スラリーを再生するために、配管L4を経由して回収混合液タンク22に送液する他に、研磨機12及び洗浄水タンク11からなる系から排出される加工済みの研磨剤スラリー及び洗浄水を、配管L1を経由して、回収混合液タンク22に回収する。
【0079】
本発明では、スラリー供給タンク21中の研磨剤の構成成分の濃度が、研磨加工工程開始時の初期濃度以下になるよう制御しながら、スラリー供給タンク21に再生研磨剤スラリーを再生研磨剤スラリー貯蔵タンク51から供給する。
【0080】
本発明でいう加工済みの研磨剤スラリー(以下、研磨剤スラリーAともいう。)とは、研磨機12、洗浄水タンク11から構成される研磨加工工程1より配管L1を経由して系外に排出される研磨剤スラリーをいう。
【0081】
研磨加工工程1より回収した加工済みの研磨剤スラリーAと、スラリー供給タンク21より、配管L4を経由して供給される研磨剤スラリー(以下、研磨剤スラリーBともいう。)により構成される研磨剤スラリーは、回収混合液タンク22に回収された後、一定量を回収するまで貯蔵した後、本発明に係る研磨剤スラリー供給工程20で測定したKO濃度情報に従い、所定量の希釈水W1を添加し、例えば、初期研磨剤スラリー質量の5~50倍に希釈して、KO濃度を0.002~0.2質量%の範囲内とした希釈済み研磨剤スラリー24を調製する。この際、回収された研磨剤スラリーは、常時撹拌し、研磨剤粒子の凝集や沈降を防止し、安定した分散状態を維持することが好ましい。
【0082】
なお、本発明において、この希釈水添加によりKO濃度を0.002~0.2質量%の範囲内とする希釈済み研磨剤スラリー24の調製は、図1の3で示すような次工程である沈降分離濃縮工程3で行ってもよい。
【0083】
(研磨剤スラリー濃度の調整)
研磨剤スラリーの濃度調整は、スラリー供給タンク21に投入される、水、再生研磨剤スラリー、及び研磨加工工程から排出される加工済み研磨剤スラリーAの量を、配管L1を通して、その流量を制御することにより行うことができる。研磨機12への供給はスラリー供給タンク21から研磨機12の配管L3に設けられたポンプ(不図示)で行う。制御部では、流量計とポンプを有しており、工程間に研磨剤スラリーを供給するための循環ライン及びその他の添加物等を供給する配管により、その流量を制御する。
【0084】
(4)沈降分離濃縮工程
本発明では、回収混合液タンク22で調製した希釈水W1により希釈し、KO濃度が0.002~0.2質量%の範囲内に調整した希釈済み研磨剤スラリー24は、次工程である沈降分離濃縮工程3で処理する。
【0085】
なお、本発明においては、希釈水を添加して希釈済み研磨剤スラリーを調製する操作を、この沈降分離濃縮工程3で、沈降分離操作を行う前に行ってもよい。
【0086】
沈降分離濃縮工程3では、研磨剤スラリー回収工程2で回収された希釈済み研磨剤スラリー24を分離濃縮タンク32に配管L5を通して輸送した後、当該希釈済み研磨剤スラリー24に対し、添加剤タンク31より研磨剤の凝集剤、例えば、アルカリ土類金属塩を添加して、研磨剤粒子のみを沈降分離し、沈降物以外の上澄み液中に研磨操作により生じたKOを含むガラス成分や塩類を系外に排除して、研磨剤とKOを含むガラス成分を分離する。
【0087】
本発明における沈降分離濃縮工程3において、沈降分離する方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、研磨剤スラリー回収工程2で回収し、所定の希釈水を添加して調製した希釈済み研磨剤スラリー24に対して、特に、無機塩としてアルカリ土類金属塩を添加し、研磨剤のみを凝集させ、被研磨成分であるガラス成分を凝集させない状態で、該研磨剤を母液より沈降分離させて、濃縮物33とする。これにより、研磨剤成分のみを凝集沈殿させた後、KOを含むガラス成分をほとんど上澄み液34に存在させることで、研磨剤成分とガラス成分との分離を行うことができる工程である。
【0088】
沈降分離する方法は公知の方法を用いることができる。膜分離方法や、沈降方法を採用することができる。
【0089】
沈降分離のためには、上記のように無機塩としてアルカリ土類金属塩を添加し、研磨剤のみを凝集させ、被研磨成分であるガラス成分を凝集させない状態で、該研磨剤を母液より分離することが好ましい。
【0090】
固液分離操作は、強制的な分離手段は適用せずに、自然沈降による固液分離を行っても良い。このようにして母液を、被研磨物等を含む上澄み液34と、下部に沈殿した回収研磨剤を含む濃縮物33とに分離する。
【0091】
(アルカリ土類金属塩)
本発明において、研磨剤の凝集に用いる無機塩としては、アルカリ土類金属塩であることが好ましい態様である。
【0092】
本発明に適用可能なアルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩を挙げることができるが、更には、本発明においては、広義として周期律表の第2族に属する元素も、アルカリ土類金属であると定義する。したがって、ベリリウム塩、マグネシウム塩も本発明でいうアルカリ土類金属塩に属する。
【0093】
また、本発明に適用可能なアルカリ土類金属塩としては、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩等の形態であることが好ましい。
【0094】
本発明において、無機塩としては、アルカリ土類金属塩であることが好ましく、更に好ましくはマグネシウム塩である。
【0095】
また、本発明に適用可能なマグネシウム塩としては、電解質として機能するものであれば限定はないが、水への溶解性が高い点から、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどが好ましく、溶液のpH変化が小さく、沈降した研磨剤及び廃液の処理が容易である点から、塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウムが特に好ましい。
【0096】
(無機塩の添加方法)
次いで、本発明に係る無機塩の研磨剤スラリー(母液)に対する添加方法を説明する。
【0097】
a)無機塩の濃度
添加する無機塩は、粉体を希釈済み研磨剤スラリー24に直接供給しても良いし、水等の溶媒に溶解させてから希釈済み研磨剤スラリー24に添加してもよいが、希釈済み研磨剤スラリー24に添加した後に均一な状態になるように、溶媒に溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0098】
好ましい無機塩の濃度は、0.5~50質量%の濃度範囲の水溶液とすることである。系のpH変動を抑え、ガラス成分との分離を効率化するためには、10~40質量%の濃度範囲内であることがより好ましい。
【0099】
b)無機塩の添加温度
無機塩を添加する際の温度は、回収した研磨剤スラリーが凍結する温度以上であって、90℃までの範囲であれば適宜選択することができるが、ガラス成分との分離を効率的に行う観点からは、10~40℃の範囲内であることが好ましく、15~35℃の範囲内であることがより好ましい。
【0100】
c)無機塩の添加速度
無機塩の希釈済み研磨剤スラリー24に対する添加速度としては、回収した研磨剤スラリー中での無機塩濃度として、局部的に高濃度領域が発生することなく、均一になるように添加することが好ましい。1分間当たりの添加量が全添加量の20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0101】
d)無機塩添加時のpH値
本発明の研磨剤回収・再生方法においては、沈降分離濃縮工程3で無機塩を添加する際に、あらかじめ希釈済み研磨剤スラリー24のpH値を調整しないことが好ましい態様である。一般に、回収した研磨剤スラリーのpH値は、ガラス成分を含有しているためややアルカリ性を示し、8~10未満の範囲であり、あらかじめ回収した研磨剤スラリーのpH値を調整する必要はない。したがって、本発明においては、希釈済み研磨剤スラリー(24)の25℃換算のpH値が10.0未満の条件で分離濃縮を行うことが好ましい。
【0102】
本発明において、pH値は、25℃で、ラコムテスター卓上型pHメーター(アズワン(株)製 pH1500)を使用して測定した値を用いる。
【0103】
本発明においては、無機塩を添加し、その後該濃縮物を分離するまで無機塩添加時のpH値以下に維持することが好ましい。ここでいう無機塩添加時のpH値とは、無機塩の添加が終了した直後のpH値のことをいう。
【0104】
沈殿した凝集物を分離するまで、無機塩添加時のpH値以下を維持する。好ましくは25℃換算pH値として10未満を維持する。pH値として10未満とすることで、廃液に含まれるガラス成分の凝集を防ぐことができるため、回収の際の酸化セリウムの純度を高くすることができ好ましい。
【0105】
無機塩添加時のpH値の下限は、pH調整剤による純度低下や操作性などから、6.5以上であることが好ましい。
【0106】
e)無機塩添加後の撹拌
無機塩を添加した後、少なくとも10分以上撹拌を継続することが好ましく、より好ましくは30分以上である。無機塩を添加すると同時に研磨剤粒子の凝集が開始されるが、撹拌状態を維持することで凝集状態が系全体で均一となり濃縮物の粒度分布が狭くなり、その後の分離が容易となる。
【0107】
沈降分離濃縮工程3で、ガラス成分を含む上澄み液と回収した研磨剤粒子を含む濃縮物に分離した後、該濃縮物を回収する。
【0108】
〔濃縮工程〕
本発明の研磨剤の再生方法においては、上記沈降分離濃縮工程3で、希釈済み研磨剤スラリー24を、上澄み液34と濃縮物33とに分離した後、KO含有のガラス成分を含む上澄み液の所定量を系外に排出する濃縮処理を行う。
【0109】
この時の濃縮条件は、研磨剤スラリー回収工程又は前記沈降分離濃縮工程での水の添加量に応じて、研磨剤スラリーの比重を、水添加前の比重と同じとなる条件で、上澄み液34の排液による濃縮操作を行う。
【0110】
具体的な方法は、図1の沈降分離濃縮工程3で示すように、希釈済み研磨剤スラリー24を、上澄み液34と濃縮物33とに分離した後、デカンテーション法、例えば、釜を傾斜させて、上澄み液を排液する方法、又は、排液ハイプを分離した釜内の上澄み液34と濃縮物33の界面近くまで挿入し、上澄み液のみを、配管L6を介して釜外に排出35して、濃縮する方法等を挙げることができる。
【0111】
本発明においては、下部に沈降する濃縮物33に不純物(例えば、研磨したガラス粗粒子等)を極力混入させることなく、高純度の再生研磨剤を得る観点からからは、一次濃縮方法としては、自然沈降を適用することが好ましい。
【0112】
無機塩の添加により、回収研磨剤粒子は凝集し、この状態で上澄み液34と分離されていることから、濃縮物33は、回収スラリーと比較して比重が増加し、濃縮されていることとなる。この濃縮物33には、回収されたスラリー以上の濃度で回収研磨剤が含有されている。
【0113】
この時、上澄み液34を排液する操作としては、下記の方法を挙げることができる。
【0114】
1)排液後の濃縮物33と上澄み液34により構成される研磨剤スラリーの比重が、水添加前の研磨剤スラリー23と同じになるまで、上澄み液34を排液する方法、
2)上澄み液34をぎりぎりまで排液し、不純物(ガラス成分等)を排液した後、水添加前の研磨剤スラリー23と同じ比重となるように加水する方法。
【0115】
(4)比重調整工程
比重調整工程4は、上記2)項に記載した方法であり、濃縮物33を回収した後、図1の4で示すように、例えば、メンブランフィルター等で構成されている限外濾過装置37を用いて、再生研磨スラリー中に含まれる不要の塩類を系外に排出すると同時に、希釈水W3の添加量や、限外濾過装置37からの排水量36を制御しながら、沈降分離工程3の後の研磨剤スラリーの比重を、前記研磨剤スラリー供給工程20における水添加前の研磨剤スラリー21の比重に合わせる操作を行う。
【0116】
なお、研磨剤スラリーの比重は、市販の比重計、例えば、アドバンテック社製の振動式密度比重計、京都電子工業社製のポータブル密度比重計等を用い、25℃で測定して求めることができる。
【0117】
(5)研磨剤再生工程
(5-1)研磨剤粒子径調整工程
研磨剤粒子径調整工程5は、凝集した研磨剤に、添加剤タンク41により、分散剤等の各種添加剤を添加した後、研磨剤を再分散させて、所望の粒度分布にする工程で、未使用(研磨前)の研磨剤と近似の粒度分布レベルに調整する工程である。本発明では、沈降・分離・濃縮及び比重調整した研磨剤スラリーに対し、研磨剤粒子の粒子径制御処置を施すことが好ましい。
【0118】
上記方法で沈降・分離及び濃縮した研磨剤スラリーでは、研磨剤粒子が無機塩を介して凝集体(二次粒子)を形成しているため、独立した一次粒子に近い状態まで解きほぐすため、水及び分散剤を添加し、分散装置を用いて、所望の粒子径まで分散する。
【0119】
凝集した研磨剤粒子を再分散させる方法としては、例えば、a)水を添加し、処理液中の研磨剤に対する凝集作用を有する無機イオン濃度を低下させる方法、b)分散剤(金属分離剤ともいう)を添加することで、研磨剤に付着している金属イオン濃度を低下させる方法、c)分散機等を使用して、凝集した研磨剤粒子を強制的に解膠する方法が挙げられる。
【0120】
これらの方法は、それぞれ単独で使用しても良いし、組み合わせて使用しても良いが、少なくともb)を組み合わせる方法が好ましく、a)、b)及びc)を全て組み合わせて行う方法がより好ましい。
【0121】
水を添加する場合、その添加量は、濃縮した研磨剤スラリーの体積によって適宜選択され、一般的には濃縮したスラリーの5~50体積%であり、好ましくは10~40体積%である。
【0122】
(分散剤)
分散剤としては、公知の分散剤を用いることができる。添加量としては、再生研磨剤スラリーに対して0.01~5.0g/Lの範囲内であることができる。
【0123】
本発明においては、カルボキシ基を有するポリカルボン酸系高分子分散剤が好ましく挙げられ、特に、アクリル酸-マレイン酸の共重合体であることが好ましい。
【0124】
ガラス基板の研磨加工を継続すると、ポリケイ酸等、被研磨物の溶解に伴い加工中の研磨剤スラリーのpHが高くなりアルカリ側にシフトする。アルカリ側にシフトすると、被研磨物表面のヤケ(ガラスの外観が徐々に白く曇る現象)等の欠陥が生じ易くなる。この欠陥防止のため酸を添加しpHを調整すると、溶解しているポリケイ酸が固化しやすくなり、被研磨物の良品率を低下させる原因になりうる。
【0125】
アクリル酸-マレイン酸の共重合体を分散剤として用いることにより、このような現象を軽減させることができる。分散剤としての機能の他にマレイン酸の加水分解の平衡状態により、加工中の研磨剤スラリーのpH変動に対する緩衝効果が作用し、溶解しているポリケイ酸を固化させることなく安定に溶解した状態を保つことができるためであると考えられる。
【0126】
なお、マレイン酸-アクリル酸共重合体は、pH変動に対する緩衝効果を有し、分散機能を有する添加剤として有用であり、研磨剤粒子径調整工程5において分散剤として用いるだけでなく、添加剤として、別途スラリー供給タンク21又は再生研磨剤貯蔵タンク51に添加してもよい。
【0127】
スラリー供給タンク21中のpH値を安定に保つ観点からは、再生研磨剤含有液調製工程6における再生研磨剤貯蔵タンク51中の再生研磨スラリーが、マレイン酸-アクリル酸共重合体を、0.04~1.50g/Lの範囲内で含有していることが好ましい。
【0128】
また、図1の5で示す44は、分散機であり、例えば、超音波分散機、サンドミルやビーズミルなどの媒体撹拌型ミルが適用可能であり、特に、超音波分散機を用いることが好ましい。
【0129】
超音波分散機としては、例えば、(株)エスエムテー、(株)ギンセン、タイテック(株)、BRANSON社、Kinematica社、(株)日本精機製作所等から、様々な機器が市販されており、(株)エスエムテー UDU-1、UH-600MC、(株)ギンセン GSD600CVP、(株)日本精機製作所 RUS-600TCVP等を使用することができる。超音波の周波数は、特に限定されない。
【0130】
機械的撹拌及び超音波分散を同時並行的に行う循環方式の装置としては、(株)エスエムテー UDU-1、UH-600MC、(株)ギンセン GSD600RCVP、GSD1200RCVP、(株)日本精機製作所 RUS600-TCVP等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0131】
例えば、水を添加して、無機塩濃度を低下させた研磨剤分散液を貯留した後、撹拌機で撹拌しながら、添加容器より、分散剤(例えば、高分子分散剤。)を添加した後、ポンプにより、超音波分散機44で分散処理を施し、凝集した研磨剤粒子を解きほぐす。次いで、その下流側に設けた粒子径測定機45にて、分散後の研磨剤粒子の粒子径分布をモニターし、研磨剤分散液の粒子径分布が所望の粒子径分布プロファイルにすることができる。
【0132】
この工程で得られる粒度分布としては、粒子径分布の経時変動が少なく、1日経過後の平均粒子径変動が少ないものが望ましい。
【0133】
(5-2)再生研磨剤スラリー調製工程
再生研磨剤スラリー調製工程6では、所望の添加剤を加え、所定の濃度にして調製した再生研磨剤スラリー52を、再生研磨剤スラリー貯蔵タンク51に貯蔵し、配管L12を経由して、スラリー供給タンク21に送液される。
【0134】
本発明においては、再生研磨剤スラリー調製工程6で得られる最終的な再生研磨剤スラリー52は、98質量%以上の高純度の研磨剤を含有し、粒度分布の経時変動が小さく、回収した時の濃度より高く、無機塩の含有量としては、0.0005~0.08質量%の範囲内であることが好ましい。
【0135】
以上のようにして、高品位でかつ高純度の再生研磨剤を、再生研磨剤スラリーとして簡易な方法で得ることができる。
【実施例
【0136】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0137】
実施例1
《再生研磨剤の調製》
〔再生研磨剤スラリー1の調製:比較例〕
図1で示した研磨剤の再生方法の工程に従って、再生研磨剤スラリー1を調製した。
【0138】
1)研磨加工工程及び研磨剤スラリー回収工程
図1で示す研磨加工工程1において、研磨機12を用い、上記研磨剤粒子を含む再生した研磨剤スラリー23を研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布Pで研磨した。研磨剤スラリー23は5L/minの流量で、配管L2、スラリー供給タンク21及び配管L3を循環供給させて、研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦの化学強化ガラス基板(コーニング社製)を使用し、研磨布Pは、スエード製の布を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm)とし、研磨試験機の回転速度は100min-1(rpm)に設定し、研磨剤スラリー23を循環させながら、化学強化ガラス基板を随時交換しながら連続研磨を行い、スラリー供給タンク21内に設置したイオンメーターMで、研磨剤スラリー23のKO濃度をモニターし、濃度が0.05質量%となった時点で研磨を完了した。この研磨加工条件を、研磨加工条件1という。次いで、研磨剤スラリー23の100Lを、配管L4を経由して、研磨剤スラリー回収工程2内に設置してあるスラリー供給タンク21に移送した。
【0139】
なお、KO濃度測定は、カリウムイオン電極「8202-10C」と卓上型イオンメーター「F74」(以上、いずれも堀場製作所社製)を組み合わせて測定を行うことにより、KO濃度に換算して求めた。
【0140】
再生研磨剤スラリー1の調製においては、希釈水W1による希釈は行わず、濃度が0.05質量%のKOを含む研磨剤スラリー23を、そのまま次工程である沈降分離濃縮工程3に配管L5を経由し移送した。
【0141】
2)沈降分離濃縮工程3
研磨剤スラリーを、沈降分離濃縮工程3に具備されている分離濃縮タンク32に移送した後、研磨剤スラリーの液温度を20±1℃の範囲内で制御し、酸化セリウムが沈降しない程度に撹拌しながら、硫酸マグネシウム10質量%水溶液2.5リットルを、添加剤タンクより10分間かけて添加した。塩化マグネシウムを添加した直後の25℃換算のpH値は8.60で、この条件を維持した。
【0142】
上記の状態で30分撹拌を継続した後、1.5時間静置し、自然沈降法により、上澄み液34と濃縮物33とを沈降・分離した。1.5時間後、排水ポンプを用いて上澄み液34を排出し、凝集物33を分離回収した。回収した研磨剤粒子を含む凝集物33は20リットルであった。
【0143】
3)比重調整工程4
再生研磨剤スラリー1の調製においては、比重調整工程4による比重の調整は行わなかった。
【0144】
4)研磨剤粒子径調整工程5
分離した濃縮物33を研磨剤分離液貯蔵タンク42に移し、水30リットルを添加した。さらに、分散剤として分散機能を有する添加剤であるマイティ21HP(花王(株)製)を、添加剤タンク41により300g添加し、30分撹拌した後、超音波分散機(44)を用いて、粒子径測定機45で研磨剤粒子の粒子径分布をモニターしながら濃縮物を分散して解きほぐし、所定の粒子径の研磨剤を含有する再生研磨剤を得た。
【0145】
5)再生研磨剤スラリー調製工程6
再生研磨剤を、再生研磨剤スラリー貯蔵タンク51に移し、濃度を調整して、再生酸化セリウムを含有する再生研磨剤スラリー60リットルを得た。酸化セリウム濃度は、10質量%で、粒度(D90<2.0μm)、マグネシウム含有量は0.01質量%であった。
【0146】
〔再生研磨剤スラリー2の調製〕
上記再生研磨剤スラリー1の調製において、2)研磨加工工程における研磨加工条件1を、下記の研磨加工条件2に変更した以外は同様にして、再生研磨剤スラリー2を調製した。
【0147】
(研磨加工工程における研磨加工条件2)
再生研磨剤スラリー1の調製に適用した条件に対し、研磨剤スラリーを循環させながら、化学強化ガラス基板を随時交換しながら連続研磨を行い、スラリー供給タンク21内に設置したイオンメーターMで、研磨剤スラリーのKO濃度をモニターし、濃度が1.0質量%となった時点で研磨を完了し、研磨剤スラリーを、配管L4を経由して、研磨剤スラリー回収工程2内に設置してあるスラリー供給タンク21に移送した。この研磨加工条件を、研磨加工条件2とする。
【0148】
〔再生研磨剤スラリー3の調製〕
上記再生研磨剤スラリー1の調製に用いた研磨剤スラリー回収工程において、下記の方法で希釈水W1による希釈水の添加を行い、次いで下記に記載の沈降分離濃縮工程による処理を行った以外は同様にして、再生研磨剤スラリー3を調製した。
【0149】
(研磨剤スラリー回収工程)
研磨加工工程で、KOが0.05質量%含む研磨剤スラリーの50Lを、配管L4を経由して、研磨剤スラリー回収工程2内に設置してあるスラリー供給タンク21に移送した。
【0150】
次いで、スラリー供給タンク21に、研磨剤スラリーを50倍に希釈するため、希釈水W1を添加して、総量が2500Lで、KO濃度が0.001質量%の希釈済み研磨剤スラリーを調製した。
【0151】
(沈降分離濃縮工程)
希釈済み研磨剤スラリーの2500Lを、沈降分離濃縮工程3に具備されている分離濃縮タンク32に移送した後、希釈済み研磨剤スラリーの液温度を20±1℃の範囲内で制御し、酸化セリウムが沈降しない程度に撹拌しながら、塩化マグネシウム10質量%水溶液2.5リットルを、添加剤タンク31より10分間かけて添加した。塩化マグネシウムを添加した直後の25℃換算のpH値は8.60で、この条件を維持した。
【0152】
上記の状態で30分撹拌を継続した後、1.5時間静置し、自然沈降法により、上澄み液34と濃縮物33とを沈降・分離した。1.5時間後、排水ポンプを用いて上澄み液を2410L排出し、凝集物を分離回収した。回収した研磨剤粒子を含む凝集物は10Lであった。
【0153】
〔再生研磨剤スラリー4の調製〕
上記再生研磨剤スラリー2の調製に用いた研磨剤スラリー回収工程において、下記の方法で希釈水W1による希釈水の添加を行い、次いで下記に記載の沈降分離濃縮工程による処理を行った以外は同様にして、再生研磨剤スラリー4を調製した。
【0154】
(研磨剤スラリー回収工程)
研磨加工工程で調製したKOを1.0質量%含む研磨剤スラリーの100Lを、配管L4を経由して、研磨剤スラリー回収工程2内に設置してあるスラリー供給タンク21に移送した。
【0155】
次いで、スラリー供給タンク21に、研磨剤スラリーを4倍に希釈するため、希釈水W1を300L添加して、総量が400Lの希釈済み研磨剤スラリーを調製した。
【0156】
(沈降分離濃縮工程)
希釈済み研磨剤スラリーの400Lを、沈降分離濃縮工程3に具備されている分離濃縮タンク32に移送した後、希釈済み研磨剤スラリーの液温度を20±1℃の範囲内で制御し、酸化セリウムが沈降しない程度に撹拌しながら、塩化マグネシウム10質量%水溶液2.5リットルを、添加剤タンク31より10分間かけて添加した。塩化マグネシウムを添加した直後の25℃換算のpH値は8.60で、この条件を維持した。
【0157】
上記の状態で30分撹拌を継続した後、1.5時間静置し、自然沈降法により、上澄み液34と濃縮物33とを沈降・分離した。1.5時間後、排水ポンプを用いて上澄み液を300L排出し、凝集物を分離回収した。回収した研磨剤粒子を含む凝集物は100Lであった。
【0158】
〔再生研磨剤スラリー5の調製〕
上記再生研磨剤スラリー3の調製において、研磨加工工程で調製した研磨剤スラリーのKOの濃度を0.1質量%とし、かつ、研磨剤スラリー回収工程における希釈後の研磨剤スラリーのKO濃度を0.002質量%に変更した以外は同様にして、再生研磨剤スラリー5を調製した。
【0159】
〔再生研磨剤スラリー6の調製〕
上記KO濃度が1.0質量%の研磨剤スラリーを用いた再生研磨剤スラリー4の調製において、研磨剤スラリー回収工程における希釈倍率を5倍とし、希釈後の研磨剤スラリーのKO濃度を0.20質量%に変更した以外は同様にして、再生研磨剤スラリー6を調製した。
【0160】
〔再生研磨剤スラリー7の調製〕
上記KO濃度が0.1質量%の研磨剤スラリーを用いた再生研磨剤スラリー5の調製において、研磨剤スラリー回収工程における希釈倍率を10倍とし、希釈後の研磨剤スラリーのKO濃度を0.01質量%に変更した以外は同様にして、再生研磨剤スラリー7を調製した。
【0161】
〔再生研磨剤スラリー8の調製〕
上記KO濃度が1.0質量%の研磨剤スラリーを用いた再生研磨剤スラリー4の調製において、研磨剤スラリー回収工程における希釈倍率を20倍とし、希釈後の研磨剤スラリーのKO濃度を0.05質量%に変更した以外は同様にして、再生研磨剤スラリー8を調製した。
【0162】
〔再生研磨剤スラリー9の調製〕
上記KO濃度が1.0質量%の研磨剤スラリーを用いた再生研磨剤スラリー4の調製において、研磨剤スラリー回収工程における希釈倍率を100倍とし、希釈後の研磨剤スラリーのKO濃度を0.01質量%に変更した以外は同様にして、再生研磨剤スラリー9を調製した。
【0163】
〔再生研磨剤スラリー10の調製〕
上記再生研磨剤スラリー7の調製において、研磨加工工程で調製した研磨剤スラリーのKOの濃度を0.5質量%とし、かつ、研磨剤スラリー回収工程における希釈後の研磨剤スラリーのKO濃度を0.05質量%に変更した以外は同様にして、再生研磨剤スラリー10を調製した。
【0164】
〔再生研磨剤スラリー11及び12調製〕
上記再生研磨剤スラリー7及び8の調製において、沈降分離濃縮工程3と研磨剤粒子径調整工程5との間に、比重調整工程4を設けた以外は同様にして、再生研磨剤スラリー11及び12を調製した。
【0165】
(比重調整工程)
沈降分離濃縮工程3で濃縮物33を回収した後、図1の4で示すように、メンブランフィルターで構成されている限外濾過装置37を用いて、再生研磨スラリー中に含まれる不要の塩類を系外に排出すると同時に、希釈水W3の添加量と、限外濾過装置37からの排水量36を制御しながら、沈降分離工程処理後の研磨剤スラリーの比重を、研磨剤スラリー供給工程20における水添加前の研磨剤スラリー21の比重に合わせる操作を行った。
【0166】
比重は、アドバンテック社製の振動式密度比重計を用い、25℃で測定した。
【0167】
《再生研磨剤スラリーの評価》
〔沈降分離濃縮工程における分離性の評価〕
各再生研磨剤スラリーの調製において、沈降分離濃縮工程3での上澄み液34と、沈降分離前の母液として、図1の23で示す研磨剤スラリー(母液)を用い、下記の方法に従って、上澄み液と研磨剤スラリー(母液)中のガラス成分(Si成分)量を、ICP発光分光プラズマ分析装置を用いて分析した。
【0168】
(研磨剤スラリー(母液)のサンプリング)
研磨剤スラリー(母液)としては、再生研磨剤スラリー1、3、4、7、8、11の評価では、母液として、研磨加工条件1で調製したKO濃度が0.05質量%の研磨剤スラリーを用いた。
【0169】
また、再生研磨剤スラリー2、5、6、9、10、12の評価では、母液として研磨加工条件2で調製したKO濃度が1.0質量%の研磨剤スラリーを用いた。
【0170】
(上澄み液の調製)
沈降分離濃縮工程3でサンプリングした上澄み液として、下記の濃度調整を行った。
【0171】
(1)再生研磨剤スラリー1及び2の調製では、研磨剤スラリー回収工程での希釈を行っていないため、沈降分離濃縮工程3でサンプリングした上澄み液をそのまま使用した。
【0172】
(2)研磨剤スラリー回収工程で希釈水により5倍に希釈した再生研磨剤スラリー3、5、7、9の調製では、沈降分離濃縮工程3でサンプリングした上澄み液を1/5まで濃縮した。
【0173】
(3)研磨剤スラリー回収工程で希釈水により50倍に希釈した再生研磨剤スラリー4、6、8、10の調製では、沈降分離濃縮工程3でサンプリングした上澄み液を1/50まで濃縮した。
【0174】
(4)研磨剤スラリー回収工程で希釈水により4倍に希釈した再生研磨剤スラリー11、12の調製では、沈降分離濃縮工程3でサンプリングした上澄み液を1/4まで濃縮した。
【0175】
(CP発光分光プラズマによる成分分析)
〈試料液Aの調製〉
(a)試料(研磨剤スラリー液(母液)及び上澄み液)を、スターラーなどで撹拌しながら1ml採取した
(b)原子吸光用フッ化水素酸を5ml加えた
(c)超音波分散してシリカを溶出させた
(d)室温で30分静置した
(e)超純水で、総量を50mlに仕上げた
以上の手順に従って調製した検体液を、試料液Aと称する。
【0176】
〈Si及びMgの定量〉
(a)各試料液Aをメンブレンフィルター(親水性PTFE)で濾過した
(b)濾液を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES、エスアイアイナノテクノロジー社製)で測定した
(c)Siを標準添加法の検量線法により定量した。
【0177】
(評価)
上記方法により求めた上澄み液中のSi濃度と研磨剤スラリー液(母液)中のSi濃度により、下記の基準に従って分離性の評価を行った。
【0178】
◎:上澄み液中のSi濃度が1200mg/L以上であり、上澄み液中のSi濃度/母液中のSi濃度の比率が85%以上
○:上澄み液中のSi濃度が1200mg/L以上であり、上澄み液中のSi濃度/母液中のSi濃度の比率が80%以上、85%未満
×:上澄み液中のSi濃度が1100mg/L以上、1200mg/L未満であり、上澄み液中のSi濃度/母液中のSi濃度の比率が75%以上、80%未満
××:上澄み液中のSi濃度が1100mg/L未満であり、上澄み液中のSi濃度/母液中のSi濃度の比率が75%未満
【0179】
〔研磨速度安定度の評価〕
図1に記載の研磨機を用い、上記調製した各再生研磨材スラリーを研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布で研磨した。研磨材スラリーを5L/minの流量で循環供給させて研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦの化学強化ガラス基板(コーニングジャパン社製)を使用し、研磨布は、スエード製の物を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm)とし、研磨試験機の回転速度は100min-1(rpm)に設定し、30分間研磨加工を行った。研磨前後の厚さをNikon社製のDigimicro(MF501)にて測定し、厚さ変位から1分間当たりの研磨量(μm)を算出して研磨速度(μm/分)を測定した。
【0180】
次いで、上記と同様の方法で100バッチ研磨加工を行い、100バッチ目の研磨速度を測定し、基準である1バッチ目の再生研磨材スラリーの研磨速度に対する100バッチ目での研磨速度の低下率を下記式に従って求め、下記の基準に従って研磨速度安定度の評価を行った。
【0181】
研磨速度の低下率={(1バッチ目の研磨速度-100バッチ目の研磨速度)/1バッチ目の研磨速度}×100(%)
◎:研磨速度の低下率が、10%未満である
○:研磨速度の低下率が、10%以上、20%未満である
△:研磨速度の低下率が、20%以上、30%未満である
×:研磨速度の低下率が、30%以上である
【0182】
〔研磨品質の評価〕
再生した研磨剤スラリーを用いて、上記研磨速度安定度の評価と同様の方法で連続300回の研磨加工を行い、100回目、200回目及び300回目の研磨加工品表面の傷の有無を目視で確認し、下記の評価ランクに従って、研磨品質の評価を行った。
【0183】
◎:300回目の研磨加工品でも傷の発生は認められない
○:250回目の研磨加工品では傷の発生は認められないが、300回目の研磨加工品ではごく弱い研磨傷が発生しているが、良好な品質である
△:100回目の研磨加工品では傷の発生は認められないが、250回目の研磨加工品では弱い研磨傷が発生しているが、実用上問題はない
×:100回目の研磨加工品でも明らかな傷の発生が認められる
以上により得られた結果を、表Iに示す。
【0184】
【表1】
表Iに記載の結果より明らかなように、ガラス基材として化学強化ガラスを用いた研磨剤の再生方法において、研磨処理後の回収した研磨剤スラリー中のKO濃度を測定し、それに応じて希釈として5~50倍の範囲内で行った後、沈降分離操作を行う本発明の研磨剤の再生方法は、比較例に対し、ガラス成分の分離性、研磨速度安定性に優れ、かつ、研磨後の研磨品質に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明の研磨剤の再生方法は、研磨速度安定性と研磨屑等により発生する傷等による品質低下を防止する研磨剤の再生方法であり、特に、化学強化ガラスの研磨に用い、加工済みの研磨剤スラリーからKOを含むガラス成分を効率的に除去する研磨剤の再生方法に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0186】
1 研磨加工工程
2 研磨剤スラリー回収工程
3 沈降分離濃縮工程
4 比重調整工程
5 研磨剤粒子径調整工程
6 再生研磨剤スラリー調製工程
11 洗浄水タンク
12 研磨機
20 研磨剤スラリー供給工程
21 スラリー供給タンク
22 回収混合液タンク
23 研磨剤スラリー
24 希釈済み研磨剤スラリー
31 添加剤タンク
32 分離・濃縮タンク
33 濃縮物
34 上澄み液
35 排出
36 排水量
37 限界濾過装置
41 添加剤タンク
42 研磨剤分離液貯蔵タンク
44 超音波分散機
45 粒子径測定器
51 再生研磨剤スラリー貯蔵タンク
A 研磨定盤
B 被研磨物(化学強化ガラス)
C 被研磨物保持部
F 押圧
L1~L12 配管
M イオンメーター
P 研磨布
W1、W2、W3 希釈水
図1