(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】磁気記録テープ及び磁気記録テープカートリッジ
(51)【国際特許分類】
G11B 5/73 20060101AFI20231017BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20231017BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20231017BHJP
G11B 23/107 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
G11B5/73
G11B5/735
G11B5/78
G11B23/107
(21)【出願番号】P 2020567397
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019047100
(87)【国際公開番号】W WO2020152994
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019007574
(32)【優先日】2019-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 知恵
(72)【発明者】
【氏名】立花 淳一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友恵
(72)【発明者】
【氏名】平塚 亮一
(72)【発明者】
【氏名】安宅 博人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和也
(72)【発明者】
【氏名】印牧 洋一
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 裕子
(72)【発明者】
【氏名】照井 輝
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-026573(JP,A)
【文献】特開2017-139042(JP,A)
【文献】特開2007-294079(JP,A)
【文献】特開2006-221782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/735
G11B 5/78
G11B 23/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、
前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物から形成された補強層が設けられており、且つ、
前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm
2以下である、
磁気記録テープ。
【請求項2】
前記補強層の厚みが500nm以下である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項3】
前記補強層のヤング率が70GPa以上である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項4】
前記補強層のヤング率が前記ベース層のヤング率の10倍以上である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項5】
前記補強層が、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項6】
前記蒸着膜層の厚みが350nm以下である、請求項5に記載の磁気記録テープ。
【請求項7】
前記補強層が、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層と金属スパッタ層とから形成されており、
前記ベース層と前記蒸着膜層との間に、前記金属スパッタ層が設けられている、
請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項8】
前記金属スパッタ層の厚みが25nm以下である、請求項7に記載の磁気記録テープ。
【請求項9】
前記蒸着膜層の厚みが10nm~200nmである、請求項7に記載の磁気記録テープ。
【請求項10】
磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、
前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物からなる補強層が設けられており、
前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数が70以下である
磁気記録テープ。
【請求項11】
前記磁性層のトラック密度が、テープ幅方向で1万本/inchインチ以上である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項12】
前記ベース層の厚みが3.6μm以下である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項13】
前記蒸着膜層が、電子ビーム蒸着法により形成されたものである、請求項5に記載の磁気記録テープ。
【請求項14】
前記磁気記録テープの全厚が5.6μm以下である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
【請求項15】
請求項1に記載の磁気記録テープがリールに巻き付けられた状態でケースに収容されている、磁気記録テープカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、磁気記録テープ及び磁気記録テープカートリッジに関する。より詳細には、本技術は、変形(寸法変化)が抑制された磁気記録テープ及び当該磁気記録テープが収容された磁気記録テープカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及、クラウドコンピューティング、並びに、ビッグデータの蓄積及び解析に伴い、長期にわたって記録されるべき情報の量が爆発的に増加している。このため、情報をデータとしてバックアップし又はアーカイブ化するために用いられる記録媒体は、さらなる高記録容量化が求められている。記録媒体のうち、「磁気記録テープ」(以下「テープ」ともいう)は、例えばコスト、省エネルギー、長寿命、信頼性、及び容量など種々の観点から改めて注目されている。
【0003】
磁気記録テープは、磁気層を備える長尺状のテープがリールに巻かれた状態でケース内に収容されている。磁気記録テープは、磁気抵抗型ヘッド(以下、磁気ヘッドともいう)を用いて、該テープが走行する方向に記録又は再生が行われる。2000年には、オープン規格のLTO(Linear Tape-Open)が登場し、その後、世代の更新が進んでいる。
【0004】
磁気記録テープの記録容量は、磁気記録テープの表面積(テープ長×テープ幅)とテープの単位面積当たりの記録密度に依存している。該記録密度は、テープ幅方向のトラック密度及び線記録密度(テープ長尺方向の記録密度)に依存している。すなわち、磁気記録テープの高記録容量化は、テープ長及び/又は記録密度(より特にはトラック密度及び/又は線記録密度)をいかに増加させることができるかにかかっている。なお、テープ幅は規格により定められうる。
【0005】
テープ長を増加させるために、テープを薄膜化することが考えられる。テープの薄膜化に関して、例えば下記特許文献1には、「一方の表面AのSRa値が2~20nm、他方の表面BのSRa値が2~50nmであり、長手方向のヤング率が6000MPa以上、幅方向のヤング率が6000MPa以上であるポリエステルフイルムの、少なくとも前記表面B上に非磁性金属層又は金属酸化物層を設け、前記表面A側に磁性層を設けて成る磁気記録媒体。」(請求項1)が開示されている。下記特許文献1には、当該磁気記録媒体が、薄膜化が可能であること、高温高湿下長時間保管してもデジタル記録信号が良好に再生できること、及び、ヘリカルスキャン方式によるデジタル記録に好適であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気記録テープの記録容量をさらに高めることが求められている。例えば、記録容量(記録面積)を増やすために、磁気記録テープをより薄くして(テープ全厚を低減して)、テープカートリッジ製品1つ当たりのテープ長を増加させることが考えられる。しかしながら、テープの薄膜化によって、トラック幅方向(テープ幅方向)の変形(伸び)が起こり易くなる。当該変形は、例えば、テープ走行の際にテープに負荷されるテンション又は湿度及び温度などの環境変化によりもたらされうる。テープの変形は、テープの走行性を不安定にし又は磁気ヘッドとテープとの間にスペーシングを生じさせ、これらはテープの記録再生特性を低下させうる。
【0008】
また、例えば前記トラック密度を高めると、磁気記録テープが高速走行する際にオフトラック現象がより発生しやすくなる。オフトラック現象は、磁気ヘッドが読み取るべきトラック位置に対象のトラックが存在しないこと、又は、磁気ヘッドが間違ったトラック位置を読み取ることをいう。テープの変形は、オフトラック現象を発生しやすくしうる。
【0009】
そこで、本技術は、磁気記録テープの寸法変化を抑制又は防止することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本技術は、磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物から形成された補強層が設けられており、且つ、前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下である、磁気記録テープを提供する。
前記補強層の厚みは、500nm以下であってよい。
前記補強層のヤング率は、70GPa以上であってよい。
前記補強層のヤング率が前記ベース層のヤング率の10倍以上でありうる。
本技術の一つの実施態様に従い、前記補強層が、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層であってよい。
前記蒸着膜層の厚みが350nm以下でありうる。
本技術の他の実施態様に従い、前記補強層が、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層と金属スパッタ層とから形成されており、前記ベース層と前記蒸着膜層との間に、前記金属スパッタ層が設けられていてよい。
前記金属スパッタ層の厚みは25nm以下でありうる。
前記蒸着膜層の厚みが10nm~200nmでありうる。
前記磁性層のトラック密度は、テープ幅方向で1万本/inchインチ以上でありうる。
前記ベース層の厚みは、3.6μm以下でありうる。
前記蒸着膜層は、電子ビーム蒸着法により形成されたものであってよい。
前記磁気記録テープの全厚は5.6μm以下でありうる。
本技術は、前記磁気記録テープがリールに巻き付けられた状態でケースに収容されている、磁気記録テープカートリッジも提供する。
【0011】
また、本技術は、磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物からなる補強層が設けられており、前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数が70以下である磁気記録テープも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本技術に従う磁気記録テープの層構造の例を示す図である。
【
図2】本技術に従う磁気記録テープの層構造の例を示す図である。
【
図3】ベース層の厚み及び補強層の厚みを説明するための図である。
【
図4】本技術に従う磁気記録テープの層構造の例を示す図である。
【
図5】本技術に従う磁気記録テープの層構造の例を示す図である。
【
図6】本技術に従う磁気記録テープの製造方法のフローの一例である。
【
図7】本技術に従うテープカートリッジの構成例を示す図である。
【
図8】補強層を形成するための真空成膜装置の一例の概略図である。
【
図9】本技術に従う磁気記録テープの層構造の例を示す図である。
【
図10】本技術に従う磁気記録テープの層構造の例を示す図である。
【
図11】本技術に従う磁気記録テープの製造方法のフローの一例である。
【
図12】ヤング率と黒色面積との関係を示す図である。
【
図13】ヤング率と黒色領域数の関係を示す図である。
【
図14】補強層画像を二値化処理した後の画像を示す図である。
【
図15】補強層画像を二値化処理した後の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態を示したものであり、本技術の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。例えば、本技術の技術的思想の範囲内で、各種の変形が可能である。例えば以下の実施形態において挙げる構成、方法、工程、形状、材料および数値は例であり、必要に応じてこれらと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値が用いられてよい。
【0014】
本技術の説明は以下の順序で行う。
1.本技術の第一の実施形態(磁気記録テープ)
(1)第一の実施形態の説明
(2)磁気記録テープを構成する層の構成例(塗布により磁性層が形成される磁気記録テープ)
(2-1)磁性層
(2-2)非磁性層
(2-3)ベース層
(2-4)補強層
(2-4-1)蒸着膜層から構成される補強層
(2-4-2)蒸着膜層及び金属スパッタ層から構成される補強層
(2-5)バック層
(3)本技術に従う磁気記録テープの製造方法の一例(塗布により磁性層が形成される磁気記録テープ)
(3-1)塗料調製工程
(3-2)補強層形成工程
(3-3)塗布工程
(3-4)配向工程
(3-5)カレンダー工程
(3-6)裁断工程
(3-7)組み込み工程
(4)磁気記録テープを構成する層の構成例(スパッタにより磁性層が形成される磁気記録テープ)
(4-1)潤滑剤層
(4-2)保護層
(4-3)磁性層
(4-4)中間層
(4-5)下地層
(4-6)シード層
(4-7)ベース層
(4-8)補強層
(4-9)バック層
(4-10)軟磁性裏打ち層
(5)本技術に従う磁気記録テープの製造方法の一例(スパッタにより磁性層が形成される磁気記録テープ)
(5-1)補強層形成工程
(5-2)スパッタ膜形成工程
(5-3)塗布工程
(5-4)裁断工程
(5-5)組み込み工程
2.本技術の第二の実施形態(磁気記録テープカートリッジ)
【0015】
1.本技術の第一の実施形態(磁気記録テープ)
【0016】
(1)第一の実施形態の説明
【0017】
磁気記録テープの寸法安定性を高めるために、金属材料(例えば金属又は金属酸化物)から形成された補強層を設けることが考えられる。本発明者らは、当該補強層のうちから、特に優れた寸法安定性向上効果をもたらす補強層を発見した。当該特に優れた寸法安定性向上効果をもたらす要因を特定するために複数の磁気記録テープの補強層を観察したところ、本発明者らは、前記補強層に存在するボイド(空隙)の面積が寸法安定性の向上効果と関係していることを見出した。さらに検討したところ、本発明者らは、前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下であることが、特に優れた寸法安定性向上効果をもたらすことを見出した。
【0018】
すなわち、本技術は、磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物から形成された補強層が設けられており、且つ、前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下である、磁気記録テープを提供する。
【0019】
また、本発明者らは、前記補強層が有するボイドの数も寸法安定性の向上効果に関係していることも見出した。さらに、本発明者らは、前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数が100以下であることが、特に優れた寸法安定性向上効果に寄与していることを見出した。
【0020】
すなわち、本技術は、磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物から形成された補強層が設けられており、且つ、前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数が100以下である、磁気記録テープも提供する。
【0021】
本技術に従う磁気記録テープは、上記で述べたとおり特定の補強層を有する。当該補強層によって、寸法変化(特にはテープ幅方向の寸法変化)の発生を抑制又は防止することができる。例えば、テープ走行時にテープに負荷されるテンションに起因する寸法変化、及び/又は、例えば温度及び/又は湿度などの環境変化に起因する寸法変化を、当該補強層によって抑制又は防止することができる。
また、上記特定の補強層によって、テープの寸法変化の発生を抑制又は防止しつつ、且つ、テープの厚みを減少させることができる。これにより、記録再生特性を維持し且つオフトラック現象の発生を抑制しつつ、1つの磁気記録テープカートリッジ内に収容されるテープ長を増加させることができる。これは、1つの磁気記録テープカートリッジ当たりの記録容量の増加をもたらす。
【0022】
本技術に従う磁気記録テープは、上記磁性層、ベース層、バック層、及び補強層に加えて、他の層を含んでいてよい。当該他の層は、磁気記録テープの種類に応じて適宜選択されてよい。
【0023】
例えば、塗布により磁性層が形成される磁気記録テープは、磁性層とベース層との間に非磁性層を含みうる。すなわち、本技術の一つの実施態様に従い、当該磁気記録テープは、磁性層、非磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有し、且つ、前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、前記補強層が設けられていてよい。すなわち、前記磁気記録テープは、磁性層、非磁性層、補強層、ベース層、及びバック層がこの順に積層されている積層構造、又は、磁性層、非磁性層、ベース層、補強層、及びバック層がこの順に積層されている積層構造を有しうる。この実施態様について、以下(2)及び(3)において、より詳細に説明する。
【0024】
また、スパッタリングにより磁性層が形成される磁気記録テープは、磁性層とベース層との間に、下地層及びシード層、又は、中間層、下地層、及びシード層を含みうる。すなわち、本技術の他の実施態様に従い、前記磁気記録テープは、磁性層、下地層、シード層、ベース層、及びバック層をこの順に有し、且つ、前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、上記補強層が設けられていてよい。すなわち、前記磁気記録テープは、磁性層、下地層、シード層、補強層、ベース層、及びバック層がこの順に積層されている積層構造、又は、磁性層、下地層、シード層、ベース層、補強層、及びバック層がこの順に積層されている積層構造を有しうる。この実施態様について、以下(4)及び(5)において、より詳細に説明する。
【0025】
(2)磁気記録テープを構成する層の構成例(塗布により磁性層が形成される磁気記録テープ)
【0026】
図1は、本技術に従う磁気記録テープの基本的な層構造の一例を示す図である。
図1に示される磁気記録テープT1(以下、「テープT1」ともいう)は、記録又は再生時のテープの速度が例えば4m/秒以上で高速走行されるものであってよい。すなわち、本技術の磁気記録テープT1は、4m/秒以上のテープ速度での記録又は再生のために用いられるものであってよい。このような高速走行が行われた場合、テープT1に加わるテンション(張力)が大きくなる。
【0027】
テープT1の全厚は、本技術が高記録容量化された磁気記録テープを対象としている観点から、好ましくは5.6μm以下、より好ましくは5.0μm以下、さらにより好ましくは4.8μ以下、特に好ましくは4.6μm以下であってよい。そして、該テープT1は、上から(記録又は再生時に磁気ヘッドに対向する側から)順に、磁性層1、非磁性層2、補強層A、ベース層3、及びバック層4を有する。すなわち、磁性層1の直下に非磁性層2があり、非磁性層2の直下に補強層Aがあり、補強層Aの直下にベース層3があり、且つ、ベース層3の直下にバック層4がある。テープT1は、計5層から構成されている層構造を有する。なお、これらの5層に加えて、必要に応じて他の層が設けられてもよい。例えば、磁性層1の上にさらに保護膜層及び/又は潤滑剤層が積層されてよい。また、磁性層1とベース層3との間に中間層が設けられてもよい。
以下で、各層についてより詳細に説明する。
本技術の説明において、層構造の上下方向は、
図1に示されるように、磁性層1側を「上」、バック層4側を「下」として説明する。
なお、以下のテープT1(
図1)についての説明のうち、テープT2と共通する構成については、テープT2(
図2)にも当てはまる。
【0028】
(2-1)磁性層
【0029】
磁性層1は、表層に位置し、信号記録層として機能する。磁性層1の厚みの好適な範囲は、20nm~100nmである。当該厚みの下限値である20nmは、磁性層1の塗布を均一に且つ安定的に行うことができる限界厚みである。当該厚みが、上限値100nmを超えることは、高記録密度テープのビット長の設定の観点から望ましくない。
【0030】
磁性層1の平均厚みは、以下のようにして求めることができる。まず、テープT1を、その主面に対して垂直に薄く加工して試料片を作製し、その試験片の断面を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により観察を行う。装置および観察条件は以下のとおりである。装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)、加速電圧:300kV、及び、倍率:100,000倍。
【0031】
次に、得られたTEM像を用い、テープT1の長手方向に少なくとも10点以上の位置で磁性層1の厚みを測定し、そして、得られた測定値を単純に平均(算術平均)して磁性層1の平均厚みが求められる。なお、測定位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0032】
磁性層1は、複数のサーボバンドと複数のデータバンドとを予め有していることが好ましい。複数のサーボバンドは、テープT1の幅方向に等間隔で設けられている。隣り合うサーボバンドの間には、データバンドが設けられている。サーボバンドには、磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が予め書き込まれている。データバンドには、ユーザデータが記録される。サーボバンドの数は、好ましくは5以上、より好ましくは5+4n(但し、nは正の整数である。)以上である。サーボバンドの数が5以上であると、テープT1の幅方向の寸法変化によるサーボ信号への影響を抑制し、オフトラックが少ない安定した記録再生特性を確保できる。
本技術において、磁性層1のトラック密度は、例えばテープ幅方向で1万本/inchインチ以上であってよい。当該トラック密度を有する磁気記録テープは、高い記録密度を有する。
【0033】
磁性層1は、磁性粉(粉状の磁性粒子)が少なくとも含まれており、この磁性粉が長手配向(面内配向)又は垂直配向されている。磁性層1に対して、磁気によって磁性を変化させることにより信号の記録が行われうる。当該記録は、公知の面内磁気記録方法(磁化の向きがテープ長手方向の方式)又は公知の垂直磁気記録方式(磁化の向きが垂直方向の方式)を用いて行われてよい。
磁性層1のテープ垂直方向の垂直配向度は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは65%以上である。また、磁性層1のテープ長手方向の配向度に対するテープ垂直方向の垂直配向度の比は、例えば1.5以上であり、好ましくは1.8以上であり、より好ましくは1.85以上である。前記数値範囲内の垂直配向度及び/又は前記数値範囲内の比を有する磁気記録テープは、信頼性がより高い。
【0034】
磁性層1の垂直方向の配向度は、以下のとおりに測定されてよい。
まず、テープT1から測定サンプルを切り出し、VSMを用いてテープT1の垂直方向(厚み方向)に、測定サンプル全体のM-Hループを測定する。次に、アセトンまたはエタノール等を用いて塗膜(非磁性層2、磁性層1、およびバック層3)を払拭し、ベース層3及び蒸着膜層Aのみを残してバックグラウンド補正用サンプルを得る。VSMを用いて、当該バックグラウンド補正用サンプルの垂直方向(テープの垂直方向)に、当該バックグラウンド補正用サンプルのM-Hループを測定する。その後、測定サンプル全体のM-Hループから当該バックグラウンド補正用サンプルのM-Hループを引き算して、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。得られたM-Hループの飽和磁化Ms(emu)および残留磁化Mr(emu)を以下の式1に代入して、垂直配向度S1(%)を計算する。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループをテープの垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
式1:垂直配向度S1(%)=(Mr/Ms)×100
また、長手方向の配向度は、測定サンプル全体のM-Hループの測定及びバックグラウンド補正用サンプルのM-Hループの測定がテープの長手方向(走行方向)に測定されること以外は、垂直配向度と同様にして測定される。
【0035】
前記面内磁気記録方式では、例えば、金属磁性粉を含む磁性層1に対して、テープ長手方向に磁気記録が行われる。前記垂直磁気記録方式では、例えばBaFe(バリウムフェライト)磁性粉などの磁性粉を含む磁性層1に対して、テープT1の垂直方向に磁気記録が行われる。なお、垂直磁気記録方式は、隣り合う磁性体が互いに磁気を強め合い、且つ、面内磁気記録方式と比べて、記録密度をより高めることができる。また、垂直磁気記録方式により磁気記録された磁性層は、磁力を保持する力である保磁力(Hc)も高い。いずれの方式においても、信号の記録は、磁気ヘッドから磁界が加えられることにより、磁性層1中の磁性粒子が磁化されることによって行われる。
【0036】
磁性層1の磁性粉をなす磁性粒子として、例えばイプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)、ガンマヘマタイト、マグネタイト、二酸化クロム、コバルト被着酸化鉄、六方晶フェライト、バリウムフェライト(BaFe)、Coフェライト、ストロンチウムフェライト、及びメタル(金属)などを挙げることができるが、これらに限定されない。なお、ε酸化鉄はGa及び/又はAlを含んでいてもよい。これらの磁性粒子については、例えば磁性層1の製造方法、テープの規格、及びテープの機能などの要因に基づいて当業者により適宜選択されてよい。
【0037】
磁性粒子の形状は、磁性粒子の結晶構造に依拠している。例えば、BaFeは六角板状でありうる。ε酸化鉄は球状でありうる。コバルトフェライトは立方状でありうる。メタルは紡錘状でありうる。磁性層1は、テープT1の製造工程においてこれらの磁性粒子が配向される。なお、BaFeは、例えば高温多湿環境でも抗磁力が落ちないなど、データ記録の信頼性が高い。そのため、BaFeは、本技術において好適な磁性材料の一つとなりうる。すなわち、本技術において、磁性層1に含まれる磁性粒子は、好ましくはBaFeでありうる。
【0038】
磁性粉は、例えば、ε酸化鉄を含有するナノ粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)の粉末であってもよい。ε酸化鉄粒子は微粒子でも高保磁力を有する。ε酸化鉄粒子に含まれるε酸化鉄は、テープT1の厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向していることが好ましい。
【0039】
ε酸化鉄粒子についてさらに詳しく説明する。ε酸化鉄粒子は、球状若しくは略球状を有し、又は、立方体状若しくは略立方体状を有しうる。ε酸化鉄粒子は上記形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、テープT1の厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制することができる。これにより、磁性粉の分散性を高め、より良好なSNR(Signal-to-Noise Ratio)を得ることができる。
【0040】
ε酸化鉄粒子は、コアシェル型構造を有しうる。具体的には、ε酸化鉄粒子は、コア部と、当該コア部の周囲に設けられた2層構造のシェル部とを備えていてよい。当該2層構造のシェル部は、当該コア部上に設けられた第1シェル部と、第1シェル部上に設けられた第2シェル部とを備える。当該コア部がε酸化鉄を含む。当該コア部に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe2O3結晶を主相とするε酸化鉄であることが好ましく、単相のε-Fe2O3からなるε酸化鉄であることがより好ましい。
【0041】
前記第1シェル部は、前記コア部の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、当該第1シェル部は、当該コア部の周囲を部分的に覆っていてもよいし、又は、当該コア部の周囲全体を覆っていてもよい。当該コア部と当該第1シェル部の交換結合を十分なものとすることによって磁気特性を向上させるために、当該第1シェル部は、当該コア部の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0042】
前記第1シェル部は、いわゆる軟磁性層であり、例えばα-Fe、Ni-Fe合金、又はFe-Si-Al合金などの軟磁性体を含みうる。α-Feは、コア部に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
前記第2シェル部は、酸化防止層として機能する酸化被膜でありうる。当該第2シェル部は、α酸化鉄、酸化アルミニウム、若しくは酸化ケイ素、又はこれらのうちの2以上の組み合わせを含みうる。α酸化鉄は、例えばFe3O4、Fe2O3、及びFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含む。前記第1シェル部がα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、当該第1シェル部に含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
【0043】
ε酸化鉄粒子が、上述のように第1シェル部を有することで、熱安定性を確保するためにコア部単体の保磁力(Hc)を大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)全体としての保磁力を、記録に適した保磁力(Hc)に調製できる。
【0044】
また、ε酸化鉄粒子が、上述のように第2シェル部を有することで、テープT1の製造工程およびその工程前において、ε酸化鉄粒子が空気中に暴露されて、粒子表面に錆び等が発生することにより、ε酸化鉄粒子の特性が低下することを抑制することができる。したがって、テープT1の特性劣化を抑制することができる。
【0045】
以上でε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部を有している場合について説明したが、ε酸化鉄粒子は単層構造のシェル部を有していてもよい。この場合、シェル部は、第1シェル部と同様の構成を有する。但し、ε酸化鉄粒子の特性劣化を抑制するために、上述したとおりε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部を有していることがより好ましい。
【0046】
ε酸化鉄粒子は、前記コアシェル構造に代えて添加剤を含んでいてもよく、又は、前記コアシェル構造を有し且つ添加剤を含んでいてもよい。ε酸化鉄粒子が当該添加剤を含む場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が当該添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体としての保磁力(Hc)を、記録に適した保磁力(Hc)に調整できるため、記録容易性を向上することができる。当該添加剤は、例えば鉄以外の金属元素であってよく、好ましくは3価の金属元素であり、より好ましくはAl、Ga、及びInのうちの少なくとも1種であり、さらにより好ましくはAl及びGaのうちの少なくとも1種でありうる。
【0047】
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-xMxO3結晶(但し、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、Ga、及びInのうちの少なくとも1種、さらにより好ましくはAl及びGaのうちの少なくとも1種である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0048】
磁性粉は、六方晶フェライトを含有するナノ粒子(以下「六方晶フェライト粒子」という。)の粉末でありうる。六方晶フェライト粒子は、例えば、六角板状又は略六角板状を有する。六方晶フェライトは、好ましくはBa、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種、より好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種を含む。
【0049】
六方晶フェライトは、具体的には、例えばバリウムフェライト又はストロンチウムフェライトであってもよい。バリウムフェライトは、Ba以外にSr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ストロンチウムフェライトは、Sr以外にBa、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0050】
より具体的には、六方晶フェライトは、一般式MFe12O19で表される平均組成を有する。但し、Mは、例えばBa、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種の金属、好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種の金属である。Mは、Baと、Sr、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。また、Mは、Srと、Ba、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。上記一般式においてFeの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。
【0051】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以上40nm以下、さらにより好ましくは15nm以上30nm以下である。
【0052】
磁性粉は、Co含有スピネルフェライトを含有するナノ粒子(以下「コバルトフェライト粒子」という。)の粉末を使用してもよい。コバルトフェライト粒子は、一軸異方性を有することが好ましい。コバルトフェライト粒子は、例えば、立方体状またはほぼ立方体状を有している。Co含有スピネルフェライトが、Co以外にNi、Mn、Al、CuおよびZnのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0053】
Co含有スピネルフェライトは、例えば、以下の式(1)で表される平均組成を有する。
CoxMyFe2Oz ・・・(1)
(但し、式(1)中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、CuおよびZnのうちの少なくとも1種の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x、yは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)。磁性粉がコバルトフェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは23nm以下である。
【0054】
磁性粉の平均粒子サイズDは、以下のようにして求めることができる。まず、測定対象となるテープT1をFIB(Focused Ion Beam)法などにより加工して薄片を作製し、TEMにより薄片の断面観察を行う。次に、撮影したTEM写真から500個の磁性粉を無作為に選び出し、それぞれの粒子の最大粒子サイズdmaxを測定して、磁性粉の最大粒子サイズdmaxの粒度分布を求める。ここで、“最大粒子サイズdmax”とは、いわゆる最大フェレ径を意味し、具体的には、磁性粉の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のものをいう。その後、求めた最大粒子サイズdmaxの粒度分布から最大粒子サイズdmaxのメジアン径(50%径、D50)を求めて、これを磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)Dとする。
【0055】
磁性粉の平均アスペクト比は、好ましくは1以上2.5以下、より好ましくは1以上2.1以下、さらにより好ましくは1以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1以上2.5以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができると共に、磁性層1の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際には、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。すなわち、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
【0056】
磁性粉の平均アスペクト比は、以下のようにして求めることができる。まず、測定対象となるテープT1をFIB法等により加工して薄片を作製し、TEMにより薄片の断面観察を行う。次に、撮影したTEM写真から、水平方向に対して75度以上の角度で配向した磁性粉を50個無作為に選び出し、各磁性粉の最大板厚DAを測定する。続いて、測定した50個の磁性粉の最大板厚DAを単純に平均(算術平均)して平均最大板厚DAaveを求める。次に、テープT1の磁性層1の表面をTEMにより観察を行う。次に、撮影したTEM写真から50個の磁性粉を無作為に選び出し、各磁性粉の最大板径DBを測定する。ここで、最大板径DBとは、磁性粉の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。続いて、測定した50個の磁性粉の最大板径DBを単純に平均(算術平均)して平均最大板径DBaveを求める。次に、平均最大板厚DAave及び平均最大板径DBaveから磁性粉の平均アスペクト比(DBave/DAave)を求める。
【0057】
また、磁性層1には、磁性粉以外に、例えば磁性層1の強度及び/又は耐久性を高めるために、非磁性の添加剤が配合されてもよい。当該添加剤として、例えば結着剤及び/又は潤滑剤が磁性層1に含まれてよい。必要に応じて、当該添加剤として、分散剤、導電性粒子、研磨剤、及び防錆剤から選ばれる1つ又は2以上の組み合わせが磁性層1にさらに含まれてもよい。磁性層1には、潤滑剤を蓄えるための多数の孔部(図示せず。)を設けてもよい。多数の孔は、磁性層1の表面に垂直方向に延設されていることが好ましい。
【0058】
磁性層1は、磁性粉と必要に応じて添加剤とを含む磁性塗料を、磁性層1の下の層に塗布することによって形成されてよい。代替的には、磁性層1は、スパッタ法又は蒸着法によって形成されてもよい。
【0059】
磁性層1に配合される前記結着剤は、例えばポリウレタン系樹脂及び塩化ビニル系樹脂など樹脂を挙げることができ、好ましくは架橋反応性の構造を有する樹脂であることが好ましい。結着剤はこれらに限定されるものではなく、例えばテープT1に対して要求される物性などに応じて、その他の樹脂が結着剤として磁性層1に含まれてもよい。磁性層1に含まれる樹脂としては、磁気記録テープにおいて一般的に用いられる樹脂であってよい。
【0060】
前記結着剤として用いられる樹脂として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、及び合成ゴムが挙げられる。また、前記結着剤は、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂の例として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、及び尿素ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。
【0061】
上述した各結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、例えば-SO3M、-OSO3M、-COOM、又はP=O(OM)2などの極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、又は、例えばリチウム、カリウム、及びナトリウムなどのアルカリ金属である。さらに、極性官能基としては、-NR1R2又は-NR1R2R3+X-の末端基を有する側鎖型のもの、及び、>NR1R2+X-の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、及びR3は、互いに独立に水素原子又は炭化水素基であり、X-は、弗素、塩素、臭素、又はヨウ素であるハロゲン元素イオン、又は、無機若しくは有機イオンである。また、極性官能基としては、-OH、-SH、-CN、及びエポキシ基も挙げられる。
【0062】
磁性層1は、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、及び酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)から選ばれる1つ又は2以上の組み合わせをさらに含んでいてもよい。
【0063】
磁性層1の潤滑剤は、下記の一般式(2)で示される化合物及び/又は下記の一般式(3)で示される化合物を含むことが好ましい。潤滑剤がこれらの化合物を含むことで、磁性層1の表面の動摩擦係数を特に低減することができる。したがって、テープTの走行性をさらに向上することができる。
【0064】
CH3(CH2)nCOOH ・・・(2)
(但し、一般式(2)において、nは14以上22以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2)pCOO(CH2)qCH3 ・・・(3)
(但し、一般式(3)において、pは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、qは2以上5以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0065】
テープT1の動摩擦係数は、テープT1の安定走行との関係で重要な要素である。テープT1に加わる張力が1.2Nであるときの磁性層1の表面と磁気ヘッドHの間の動摩擦係数μAと、テープT1に加わる張力が0.4Nであるときの磁性層1の表面と磁気ヘッドHの間の動摩擦係数μBとの比率(μB/μA)が、好ましくは1.0以上で2.0以下であることが好ましい。当該比率がこの数値範囲内にあることによって、走行時の張力変動による動摩擦係数の変化を小さくできるためテープの走行を安定させることができる。
【0066】
テープT1に加わる張力が0.6であるときの磁性層1の表面と磁気ヘッドの間の動摩擦係数μAに関して、走行5回目の値μ5と1000回目の値μ1000との比率(μ1000/μ5)が、好ましくは1.0以上2.0以下、より好ましくは1.0以上1.7以下である。当該比率が上記数値範囲内であると、多数回走行による動摩擦係数の変化を小さくできるためテープの走行を安定させることができる。
【0067】
(2-2)非磁性層
磁性層1の直下に設けられる(すなわち磁性層1と接している)非磁性層2は、場合により、中間層又は下地層とも称される。非磁性層2は、例えば磁性層1に対する磁力の作用を該磁性層1に留めるため、磁性層1に求められる平坦性を確保するため、又は、磁性層1の配向特性を高めるために設けられる層である。また、非磁性層2は、磁性層1に添加される潤滑剤及び/又は非磁性層2自体に添加される潤滑剤を保持する役割も果たしうる。
【0068】
非磁性層2は、次に説明する「ベース層3」の上に、例えば、塗布によって形成することができる。この非磁性層2は、目的や必要に応じて複層構造としてもよい。この非磁性層2は、非磁性材料を使用することが重要である。その理由は、磁性層1以外の層が磁化してしまうとノイズの発生源となってしまうからである。
【0069】
この非磁性層2は、非磁性粉および結着剤を含む非磁性の層である。非磁性層2は、必要に応じて、結着剤、潤滑剤、導電性粒子、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。非磁性層2に使用する結着剤は、上述の磁性層1と同様である。
【0070】
非磁性粉は、例えば、無機粒子及び有機粒子から選ばれる少なくとも1種を含みうる。1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、又は、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、及び金属硫化物から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせを含む。より具体的には、無機粒子は、例えばオキシ水酸化鉄、ヘマタイト、酸化チタン、及びカーボンブラックから選ばれる1種又は2種以上でありうる。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、及び板状などの各種形状が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0071】
この非磁性層2の平均厚みは、好ましくは0.8μm以上2.0μm以下であり、より好ましくは0.6μm以上1.4μm以下である。非磁性層2の平均厚みは、磁性層1の平均厚みと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、非磁性層2の厚みに応じて適宜調製される。磁性層2の平均厚みが0.6μm未満であると、磁性層1や非磁性層2自体に配合される添加剤(例えば、潤滑剤)の保持機能が失われてしまい、一方、磁性層2の平均厚みが2.0μmを超えてしまうと、テープT1の全厚が過剰となってしまので、テープT1を薄くして高記録容量化を追求する流れに逆行する。
【0072】
(2-3)ベース層
次に、
図1に示されたベース層3は、テープT1の土台となる層としての機能を主に果たしている。ベース層3は、ベースフィルム層、基体、あるいは非磁性支持体とも称されることがある。ベース層3は、例えば非磁性層2及び磁性層1などの層を支持する非磁性の支持体として主に機能し、テープT1全体に剛性を付与している。ベース層3は、可撓性を備える長尺のフィルム状をなしている。
【0073】
ベース層3の平均厚みは、例えば4.5μm未満、より好ましくは4.2μm以下、より好ましくは3.6μm以下、さらにより好ましくは3.3μm以下である。本技術の一つの実施態様に従い、ベース層3の平均厚みは3.6μm以下である。ベース層3がより薄くなるとテープ全厚も薄くなるので、一つのカートリッジ製品内に記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。なお、ベース層3の下限の厚みは、例えばフィルムの製膜上の限界又はベース層3の機能などの観点から定められてよい。
【0074】
ベース層3の平均厚みは、以下のようにして求めることができる。まず、1/2インチ幅のテープT1を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルのベース層3以外の層を、例えばMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸などの溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitsutoyo社製レーザーホロゲージを用いて、サンプル(ベース層3)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、ベース層3の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0075】
ベース層3は、例えば、ポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、およびその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種を含む。ベース層3が上記材料のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、積層されていてもよい。ポリエステル類は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。ポリオレフィン類は、例えば、PE(ポリエチレン)およびPP(ポリプロピレン)のうちの少なくとも1種を含む。セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)およびCAP(セルロースアセテートプロピオネート)のうちの少なくとも1種を含む。ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)およびPVDC(ポリ塩化ビニリデン)のうちの少なくとも1種を含む。その他の高分子樹脂は、例えば、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)およびPU(ポリウレタン)のうちの少なくとも1種を含む。ベース層3は、好ましくはポリエステル系樹脂から形成されており、例えばPEN、PET、又はPBTから形成されていてよい。
【0076】
このベース層3の材料は、特に狭く限定はされないのであるが、磁気記録テープの規格によって定められる場合がある。例えば、LTO規格では、ベース層3の材料としてPENが指定されている。
【0077】
(2-4)補強層
【0078】
図1に示される補強層Aは、ベース層3の磁性層1側の面に設けられており、且つ、金属又は金属酸化物から形成されている。すなわち、補強層Aは、ベース層3の2つの面のうちのいずれかに接している。
【0079】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、テープT1は、補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下であるという構成を有する。当該構成によって、特に優れた寸法安定性向上効果がもたらされる。前記黒色面積は、より好ましくは280μm2以下、さらにより好ましくは260μm2以下、さらにより好ましくは240μm2以下でありうる。前記黒色面積はより小さいことが好ましく、前記黒色面積は例えば0μm2以上でありうる。
【0080】
本技術の他の好ましい実施態様に従い、テープT1は、補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数が100以下であるという構成を有しうる。前記黒色領域の数は、より好ましくは80以下、さらにより好ましくは60以下、さらにより好ましくは50以下でありうる。前記黒色領域の数はより小さいことが好ましく、前記黒色領域の数は例えば0以上でありうる。
【0081】
本技術の特に好ましい実施態様に従い、テープT1は、補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下であり、且つ、当該画像中の黒色領域の数が100以下であるという構成を有しうる。
【0082】
前記黒色面積及び前記黒色領域の数の測定方法の概要は以下のとおりである。すなわち、まず補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を取得する(光学顕微鏡画像の取得工程)。次に当該取得された光学顕微鏡画像を2値化処理して画像を得、得られた画像から黒色面積又は黒色領域の数を測定する(2値化処理による黒色面積又は黒色領域数の測定工程)。以下で、当該測定方法の詳細を説明する。
【0083】
(光学顕微鏡画像の取得工程)
測定されるべき磁気記録テープT1の磁性層1及び非磁性層2を、有機溶剤を含浸した不織布ワイパー(例えばベンコット(商標)など)を用いて剥がす。これにより、補強層Aが露出する。
図1に示されるようにベース層3の磁性層A側の面に補強層Aが設けられている場合は、補強層Aが露出した当該テープを、露出した補強層Aが上になるようにスライドガラスに貼る(すなわち、最下層(バック層4)がスライドガラス面に接触するようにスライドガラスに貼る)。
図2に示されるようにベース層3のバック層4側の面に補強層Aが設けられている場合は、バック層4も上記と同様に有機溶剤を用いて剥がし、そしてバック層4が剥がされた面を上にしてスライドガラスにテープが貼られる(すなわち、ベース層3の磁性層1側の面がスライドガラス面に接触するようにスライドガラスに貼る)。当該スライドガラス上に貼り付けられた当該テープの補強層Aを、光学顕微鏡として以下の装置を用い、以下の観察条件下で観察する。当該観察は、当該テープを構成する層のうち補強層Aが対物レンズに最も近くなるように配置されて行われる。当該観察において、前記テープのうちから無作為に5か所を選択し、当該5か所の画像を以下の装置に付属する「MX80-DUV」ソフトウェアを起動させてControl Panelウィンドウを開き、ファイルを保存することによって、画像ファイルとして取得する。
装置:オリンパスMX80-DUV深紫外顕微鏡
対物レンズ:10x
磁気記録テープのサイズ:12.5mm×50mm
1画面の観察範囲:64×48μm
なお、以下「(4)磁気記録テープを構成する層の構成例(スパッタにより磁性層が形成される磁気記録テープ)」において説明するスパッタタイプの磁気記録テープの場合は、潤滑剤層L~シード層24は剥がさずに、バック層26を上記と同様に有機溶剤を用いて剥がし、そして、バック層26が剥がされた面を上にしてテープがスライドガラスに貼られる。そして、以上で述べたとおりに、補強層Aの表面が観察される(例えば
図9に示されるテープの場合は補強層Aが対物レンズに最も近くなるようにして観察され、
図10に示されるテープの場合はベース層25を通して補強層Aが観察される)。
【0084】
(2値化処理による黒色面積又は黒色領域数の測定工程)
前記取得工程において取得された前記5か所の画像の画像ファイルを、画像解析ソフトウェアImageJ(米国国立衛生研究所から入手可能)を用いて、以下のとおりに処理する。当該処理において、画像処理範囲は64×48μmと設定される。以下の各工程の括弧内には、当該ソフトウェアの具体的な操作手順が示されている。
工程1:画像ファイルを開く。(File→Open)
工程2:寸法を入力する。(Analyze→Set Scale)
寸法は以下のとおりに設定される。
Distance in pixels : 640
Known distance : 64
Pixel aspect ratio : 1.0
Unit of length : um
工程3:画像タイプを8ビットグレイスケール画像に変換する。(Image(画像メニュー)>Type(画像タイプ)>8bit)
工程4:ノイズを除去する。(Prosess(処理メニュー)>Smooth(スムージング))
工程5:二値化する。(Process(処理メニュー)>Binary(二値化)>Make Binary(画像を白黒に作製する))
工程6:解析する。(Analyze(解析メニュー)→Analyze Particles(粒子解析))
当該解析において閾値は以下のとおりに設定される。
Size (Pixel^2) :100-10000
Circularity:0.00-1.00
Show:Masks
当該閾値の設定後、Summarizeをチェックすることで、Summary画面が表示される。当該Summary画面において、Count(粒子数)、Total Area(面積の合計)、Average size(粒子数)、Area Function(粒子の占める面積の割合)、及びMean(平均)が表示される。
工程7:前記取得工程において取得された前記5か所の画像について、以上の工程1~6を行い、得られたTotal Area(面積の合計)の平均値(単純平均)又は得られたCount(粒子数)の平均値(単純平均)を算出する。これらの平均値が、本技術における「補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積」又は「補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数」である。
【0085】
補強層AをテープT1に設けることで、薄く形成されたテープT1の剛性を高めることができる。テープカートリッジ製品1巻あたりのテープの記録容量を高めるために、磁性層1のトラック幅をより細くしてトラック密度を高めること、及び、テープT1の厚みをより薄くしてテープカートリッジ製品1巻あたりのテープ長をより長くすることが考えられる。テープT1の厚みをより薄くした場合、テープ走行時にテープT1に加わるテンションの影響又は保管若しくは輸送時の環境条件の変化によって、テープ寸法の変化が生じ易くなる。特に、テープ幅方向の寸法変化、あるいは変形は、記録又は再生時に磁気ヘッドからの磁界がトラックから外れてしまう現象、いわゆる「オフトラック現象」を引き起こし易くする。補強層Aは、テープT1の寸法変化又は変形を抑制し、オフトラック現象の発生を防止し、ひいてはSNR(シグナルノイズ比)の低下を防止する役割を果たす。
【0086】
また、テープT1が補強層Aを備えていることによって、4m/秒以上のテープ走行速度でテープT1が高速走行されたときの引っ張りテンション(張力)が加わった場合におけるテープ幅方向の寸法変化又は変形を抑制でき、これによりオフトラック現象の発生を防止できる。また、テープT1が補強層Aを備えていることによって、テープ幅方向におけるトラック数が1万本/インチ以上である構成をテープT1が有する場合であっても、テープ幅方向の寸法変化又は変形を抑制でき、オフトラック現象の発生を防止することができる。
【0087】
補強層Aは、
図1に示されるとおり、ベース層3の磁性層1側の面に設けられていてよい。代替的には、補強層Aは、
図2に示されるとおり、ベース層3のバック層4側の面に設けられていてもよい。ベース層3のいずれかの面又は両面に補強層Aが積層されていることによって、テープT1が補強される。
【0088】
補強層Aのヤング率は、好ましくは70GPa以上であり、より好ましくは75GPa以上であり、さらにより好ましくは80GPa以上でありうる。補強層Aが、上記下限値以上のヤング率を有することによって、テープT1の強度及び寸法安定性がより高まる。前記ヤング率は、磁気記録テープT1の長手方向のヤング率である。前記ヤング率の算出方法は以下のとおりである。
まず、磁気記録テープT1の磁性層1、非磁性層2、及びバック層4を有機溶剤で除去して、ベース層3及び補強層Aのみから形成される積層物を得る。なお、磁気記録テープT1が他の層を含む場合は、当該他の層も除去される。前記積層物のテープ長手方向におけるヤング率を測定する。当該測定は、温度23℃且つ相対湿度60%の環境下において、引っ張り試験機(ミネベアミツミ株式会社製TCM-200CR)を用いて行われる。測定された前記積層物のヤング率及びベース層3のヤング率、並びに、積層物、ベース層3、及び補強層の厚みを用いて、以下の式2により、補強層Aのヤング率は算出される。なお、ベース層3のヤング率は、用いられるベース層3の材料に基づき予め定められていてよい。例えばベース層3として市販入手可能な材料(例えばPEN又はPETなど)を用いる場合、当該市販入手可の材料のヤング率は既知であることが多く、当該既知のヤング率が用いられてよい。
式2:E
M=(E
(M+B)×t
(M+B)-E
B×t
B)/t
M
(ここで、E
M:補強層Aのヤング率、t
M:補強層Aの厚み、E
B:ベース層3のヤング率、t
B:ベース層3の厚み、E
(M+B):(ベース層3+補強層A)のヤング率、t
(M+B):(ベース層+蒸着膜層)の厚み、である。)
上記式2は、補強層A及びベース層3をそれぞれバネであり且つ、前記積層物がこれら2つのバネの並列バネであるとの仮定に基づくものである。すなわち、これら2つのバネと当該並列バネとの間には以下の式3に表される関係が成立する。以下式3中の補強層Aの厚みt
M、ベース層3の厚みt
B、及び(ベース層3+補強層A)の厚みt
(M+B)は、
図3に示されるとおりの厚みである。以下の式3を変形して、上記式2になる。
式3:E
(M+B)×t
(M+B)=E
B×t
B+E
M×t
M
補強層Aのヤング率は、ベース層3の補強の観点から、ベース層3のヤング率の好ましくは10倍以上であり、より好ましくは11倍以上であり、さらにより好ましくは12倍以上でありうる。
【0089】
補強層Aによって、磁気記録テープT1は、温度、湿度、又は張力による寸法変化が生じにくくなり、すなわち磁気記録テープT1の寸法安定性(TDS:Transversal Dimensional stability)が向上する。寸法安定性の指標として、例えば、TDS(温度、湿度)とTDS(張力)とを合算して得られる合算TDS(ppm)が用いられてよい。なお、TDS(温度、湿度)は、温度及び湿度の変化に対する寸法安定性(TDS)を意味する。TDS(張力)は、張力に対する寸法安定性(TDS)を意味する。
本技術に従う磁気記録テープは、好ましくは合算TDSの値が350ppm以下であり、より好ましくは340ppm以下である。このような合算TDSを有する磁気記録テープは、優れた寸法安定性を有する。なお、合算TDSの具体的な求め方は、後述の実施例において説明する。
ヤング率とTDS(例えば合算TDS)との間には、相関関係があり、例えばヤング率が高いほど、TDSはより低くなる。本技術に従う磁気記録テープは、上記のとおり補強層Aによってより高いヤング率を有するため、より低いTDSを有する。
【0090】
補強層Aの厚みは、好ましくは600nm以下であり、より好ましくは500nm以下であり、さらにより好ましくは400nm以下、特に好ましくは350nm以下でありうる。補強層Aの厚みが上記上限値を超える場合、テープT1を薄くすることが困難になりうる。また、補強層Aの厚みが上記上限値を超える場合、補強層Aの形成における生産性が悪化しうる。
補強層Aは、補強層Aによって所望の剛性がもたらされることを条件として、可能な限り薄くてよい。補強層Aは、例えば50nm以上、好ましくは70nm以上、より好ましくは100nm以上、さらにより好ましくは120nm以上の厚みを有する。
【0091】
(2-4-1)蒸着膜層から構成される補強層
【0092】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、補強層は、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層であってよい。すなわち、補強層が、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層のみから構成される層であってよい。例えば
図1及び2に示される補強層Aが、当該蒸着膜層でありうる。
金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層によって、上記で述べた数値範囲内の黒色面積及び/又は黒色領域数を有する補強層を得ることができる。
【0093】
当該蒸着膜層は、金属又は金属酸化物から形成されている。例えば、前記金属又は金属酸化物の例として、コバルト(Co)、酸化コバルト(CoO)、アルミニウム(Al)、酸化アルミニウム(Al2O3)、銅(Cu)、酸化銅(CuO)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、二酸化ケイ素(SiO2)、チタン(Ti)、酸化チタン(TiO2)、ニッケルチタン(TiNi)、コバルトクロム(CoCr)、タングステン(W)、及びマンガン(Mn)を挙げることができる。前記蒸着膜層は、これらの金属材料のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせから形成されていてよい。本技術において、前記蒸着膜層は、補強層Aの効果のより効果的を奏するために、好ましくはCo、Al2O3、Si、Cu、及びCrからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせから形成されていてよく、より好ましくはCoから形成されていてよい。
【0094】
蒸着膜層から形成されている補強層Aは、前記金属又は金属酸化物を蒸発させてベース層3に堆積させることにより形成することができる。蒸着方法として、例えば誘導加熱蒸着法、抵抗加熱蒸着法、又は電子ビーム蒸着法などが採用されてよい。これらの蒸着方法のうち、電子ビーム蒸着法が特に好ましい。電子ビーム蒸着法によって、蒸発させることが難しい高融点の金属又は金属酸化物を蒸発させることが可能である。より高い融点を有する材料を用いることによって、より剛性の高い蒸着膜層を形成することができる。また、電子ビーム蒸着法による蒸着において、電子ビームの出力を瞬時に変更することができ且つ加熱の開始及び終了も瞬時に行うことができ、これらは、より精密な膜厚制御を可能とする。さらに、電子ビーム蒸着法は、効率よく成膜できるので、生産性にも優れている。
【0095】
補強層Aが、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層のみから形成される場合、当該蒸着膜層の厚みは、好ましくは350nm以下であり、より好ましくは345nm以下でありうる。補強層Aが、当該上限値を超える厚みを有する場合、前記黒色面積の値が大きくなることがあり、補強層Aによる寸法安定性向上が妨げられうる。
また、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層のみから形成される場合、当該蒸着膜層の厚みは、当該蒸着膜層によって所望の剛性がもたらされることを条件として、可能な限り薄くてよい。補強層Aは、例えば200nm以上、好ましくは210nm以上の厚みを有する。
【0096】
(2-4-2)蒸着膜層及び金属スパッタ層から構成される補強層
【0097】
本技術の他の好ましい実施態様に従い、補強層は、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層と金属スパッタ層とから形成されており、前記ベース層と前記蒸着膜層との間に、前記金属スパッタ層が設けられていてよい。
前記蒸着膜層と前記金属スパッタ層とから構成されている補強層によっても、上記で述べた数値範囲内の黒色面積及び/又は黒色領域数を有する補強層を得ることができる。こ前記金属スパッタ層を設けることによって、蒸着膜層の厚みをさらに小さくすることができ、これは補強層の厚みを小さくすること及び磁気記録テープの全厚を小さくすることにも貢献する。
【0098】
この実施態様に従う磁気記録テープの構造の例を
図4に示す。
図4に示されるとおり、磁気記録テープT3は、磁性層1、非磁性層2、補強層A、ベース層3、及びバック層4がこの順に積層されている。補強層Aは、非磁性層2とベース層3との間に配置されており、且つ、蒸着膜層A-1及び金属スパッタ層A-2から構成されている。すなわち、金属スパッタ層A-2は、蒸着膜層A-1とベース層3との間に設けられている。
代替的には
図5に示されるとおりの層構造が採用されてもよい。すなわち、磁気記録テープT4は、磁性層1、非磁性層2、ベース層3、補強層A、及びバック層4がこの順に積層されている。補強層Aは、ベース層3とバック層4との間に配置されており、且つ、金属スパッタ層A-2及び蒸着膜層A-1から構成されている。
図5においても、金属スパッタ層A-2は、蒸着膜層A-1とベース層3との間に設けられている。
【0099】
金属スパッタ層A-2を、ベース層3と蒸着膜層A-1との間に設けることで、補強層Aをより薄くし且つ補強層A中に生じうるボイドの面積及び/又は数をより少なくすることができる。
【0100】
蒸着膜層A-1は、金属又は金属酸化物から形成されている。蒸着膜層A-1の材料は、上記「(2-4-1)」で述べたとおりの金属材料のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせから形成されていてよい。本技術において、蒸着膜層A-1は、補強層Aの効果をより効果的を奏するために、好ましくはCo、Al2O3、Si、Cu、及びCrからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせから形成されていてよく、より好ましくはCoから形成されていてよい。
【0101】
蒸着膜層A-1は、上記「(2-4-1)」において蒸着膜層について述べた方法のいずれかにより形成することができる。これらの蒸着方法のうち、電子ビーム蒸着法が特に好ましい。
【0102】
蒸着膜層A-1の厚みは、好ましくは10nm~200nmであり、より好ましくは50nm~190nmであり、さらにより好ましくは100nm~180nmでありうる。本実施態様では、前記金属スパッタ層を設けることで、蒸着膜層の厚みをこのように薄くすることができる。
【0103】
金属スパッタ層A-2は、金属材料から形成されている。当該金属材料は、好ましくはTi又はTi合金でありうる。Ti合金の例としてTiCrを挙げられる。Ti又はTi合金は、金属スパッタ層を平滑にするために適している。金属スパッタ層が平滑であることによって、補強層中のボイドの面積及び/又は数をより容易に減らすことができる。
【0104】
金属スパッタ層A-2は、スパッタリング法により形成することができる。スパッタリング法の例として、例えばマグネトロン方式又はイオンビーム方式のスパッタリング法が採用されてよいが、これらに限定されない。本技術において、金属スパッタ層A-2を形成するために、例えばDC(直流)マグネトロン方式のスパッタリング法が採用されてよい。
【0105】
金属スパッタ層A-2の厚みは、好ましくは25nm以下であり、より好ましくは23nm以下であり、さらにより好ましくは20nm以下でありうる。金属スパッタ層A-2の厚みはより厚くてもよいが、金属スパッタ層A-2による前記黒色面積又は前記黒色領域数の低減効果及び金属スパッタ層A-2の成膜プロセスのコストの観点から、上記上限値以下であることが好ましい。また、当該厚みが大きすぎる場合は、磁気記録テープの全厚が大きくなりうる。
金属スパッタ層A-2の厚みは、金属スパッタ層A-2による磁気記録テープの補強効果をもたらす限りにおいて、可能な限り薄くてもよい。金属スパッタ層A-2の厚みは、例えば1nm以上であり、より好ましくは2nm以上である。金属スパッタ層A-2は、上記下限値以上の厚みを有することで、前記補強効果をより効果的に発揮することができる。
【0106】
(2-5)バック層
図1に示されたバック層4は、例えば記録再生装置内でテープT1が高速走行する際に発生する摩擦を制御する役割又は巻き乱れを防止する役割などを担っている。すなわち、バック層4は、テープT1を高速で安定走行させるための役割を担っている。
【0107】
バック層4は、結着剤及び非磁性粉を含んでいてよい。バック層4は、必要に応じて潤滑剤、硬化剤、及び帯電防止剤のうちから選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。前記結着剤及び前記非磁性粉は、上述の非磁性層2に関して説明したものが、バック層4についても当てはまる。また、バック層4が前記帯電防止剤を含むことによって、このバック層4にゴミ又は埃が付着することを防止することができる。
【0108】
バック層4に含有され得る非磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粉が、2以上の粒度分布を有する非磁性粉を含んでいてもよい。
【0109】
バック層4の平均厚みは、好ましくは0.6μm以下である。バック層4の平均厚みが0.6μm以下であると、テープT1の平均厚みが小さい場合(例えば5.6μm以下である場合)でも、テープT1の記録再生装置内での走行安定性を保つことができる。バック層4の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、バック層4の平均厚みは、例えば0.2μm以上であってよい。0.2μm未満であると、テープT1の記録再生装置内での走行安定性に支障をきたす恐れが生じる。
【0110】
バック層4の平均厚みは、以下のようにして求められる。
まず、1/2インチ幅のテープTを準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitsutoyo社製レーザーホロゲージを用いて、サンプルの厚みを5点以上で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、テープT1の平均値tT[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0111】
続いて、サンプルのバック層4を、例えばMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸などの溶剤で除去する。その後、上記レーザーホロゲージを用いてサンプルの厚みを5点以上で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、バック層4を除去したテープTの平均値tB[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0112】
その後、以下の式4によりバック層4の平均厚みtb[μm]を求める。
式4:tb[μm]=tT[μm]-tB[μm]
【0113】
(3)本技術に従う磁気記録テープの製造方法の一例(塗布により磁性層が形成される磁気記録テープ)
【0114】
本技術に従う磁気記録テープの製造方法の例を、
図6を参照しながら説明する。
図6は、上記「(2)磁気記録テープを構成する層の構成例」において説明したテープT1の製造方法のフローを示している。
【0115】
当該製造方法の概要は以下のとおりである。まず、ベース層3を形成する基体上に塗布によって形成される磁性層1、非磁性層2、及びバック層4のそれぞれの層形成用塗料が調製される(ステップS101:塗料調製工程)。次に、ベース層3上に補強層Aが形成されて、ベース層3と補強層Aとからなる積層物が得られる(ステップS102:補強層形成工程)。
【0116】
前記3つの層形成用塗料が、テープT1の層構造を形成するように塗布される(ステップS103:塗布工程)。例えば、補強層Aの2つの面のうち露出している面(すなわち、補強層Aの2つの面のうちベース層と接していない面)に非磁性層形成用塗料を塗布し、そしてこれを乾燥して非磁性層2が形成される。続いて、非磁性層2に磁性層形成用塗料を塗布し、これを乾燥させ且つ磁性粉を配向して磁性層1が形成される。磁性層1の配向が終了したら、ベース層3の2つの面のうち蒸着膜層Aが積層されていない面に、バック層形成用塗料を塗布し、これを乾燥してバック層4が形成される。このようにして、計5層からなるテープT1が製造される。
【0117】
続いて、カレンダー工程、硬化工程、裁断工程、切断工程、及び組み込み工程が行われてテープカートリッジ製品(
図7参照)が製造される。当該テープカートリッジ製品は、検査工程が行われたのち、出荷されうる。
【0118】
上記「(2)磁気記録テープを構成する層の構成例」において説明したテープT2は、前記塗布工程が以下のとおりに行われること以外は、以上でテープT1について説明した製造方法と同じ方法で製造されてよい。
テープT2の製造方法における塗布工程は、前記3つの層形成用塗料が、テープT2の層構造を形成するように塗布される。例えば、ベース層3の2つの面のうち蒸着膜層Aが積層されていない面に非磁性層形成用塗料を塗布し、そしてこれを乾燥して非磁性層2が形成される。続いて、非磁性層2に磁性層形成用塗料を塗布し、これを乾燥させ且つ磁性粉を配向して磁性層1が形成される。磁性層1の配向が終了したら、補強層Aの2つの面のうち露出している面(すなわち、補強層Aの2つの面のうちベース層と接していない面)に、バック層形成用塗料を塗布し、これを乾燥してバック層4が形成される。このようにして、計5層からなるテープT2が製造される。
【0119】
以下で、
図6に示されるフロー中の各工程について、さらに詳しく説明する。また、前記層形成用塗料の組成の例についても以下に示す。
【0120】
(3-1)塗料調製工程
ステップS101において、非磁性粉、結着剤、及び潤滑剤を溶剤に混練及び/又は分散させることにより「非磁性層形成用塗料」が調製される。また、磁性粉、結着剤、及び潤滑剤を溶剤に混練及び/又は分散させることにより「磁性層形成用塗料」が調製される。また、結着剤及び非磁性粉を溶剤に混練及び/又は分散させることにより「バック層形成用塗料」が調製される。
【0121】
前述した磁性層形成用塗料、非磁性層形成用塗料、及びバック層形成用塗料を調製するために用いられる溶剤の例は以下に記載されている。また、これらの塗料には、必要に応じて、上記「(2)磁気記録テープを構成する層の構成例」において述べた他の添加剤が含まれていてもよい。
【0122】
前記塗料を調製するために用いられる溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;例えばメタノール、エタノール、及びプロパノールなどのアルコール系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、及びエチレングリコールアセテートなどのエステル系溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、及びジオキサンなどのエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、及びクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒を挙げることができるが、これらに限定されない。前記塗料を調製するために用いられる溶剤は、これらのうちのいずれか一つであってよく、又は、これらのうちの2種以上の混合物であってもよい。
【0123】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、及びロールニーダーなどの混練装置を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えばロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、及び超音波分散機などの分散装置を挙げることができるが、これらの装置に限定されるものではない。
【0124】
<磁性層形成用塗料の調製工程>
「磁性層形成用塗料」は、例えば以下のようにして調製することができる。まず、下記組成を有する第1組成物をエクストルーダで混練する。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記組成を有する第2組成物を加えて予備混合を行なう。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行って、磁性層形成用塗料が調製される。
【0125】
(第1組成物)
・バリウムフェライト(BaFe12O19)粒子の粉末(六角板状、アスペクト比2.8、粒子体積1950nm3):100質量部
・塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):10質量部(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
・酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al2O3、平均粒径0.2μm)
・カーボンブラック:2質量部(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
【0126】
(第2組成物)
・塩化ビニル系樹脂:1.1質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
・n-ブチルステアレート:2質量部
・メチルエチルケトン:121.3質量部
・トルエン:121.3質量部
・シクロヘキサノン:60.7質量部
【0127】
最後に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とが添加される。
【0128】
<非磁性層用塗料の調製工程>
「非磁性層用塗料」は、例えば、以下のようにして調製することができる。まず、下記組成を有する第3組成物をエクストルーダで混練する。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行う。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行って、非磁性層形成用塗料が調製される。
【0129】
(第3組成物)
・針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe2O3、平均長軸長0.15μm)
・塩化ビニル系樹脂:55.6質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
・カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0130】
(第4組成物)
・ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
・n-ブチルステアレート:2質量部
・メチルエチルケトン:108.2質量部
・トルエン:108.2質量部
・シクロヘキサノン:18.5質量部
【0131】
最後に、上述のようにして調製した非磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とが添加される。
【0132】
<バック層形成用塗料の調製工程>
バック層形成用塗料は、例えば、以下のようにして調製することができる。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製する。
・カーボンブラック粒子の粉末(平均粒径20nm):90質量部
・カーボンブラック粒子の粉末(平均粒径270nm):10質量部
・ポリエステルポリウレタン:100質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
・メチルエチルケトン:500質量部
・トルエン:400質量部
・シクロヘキサノン:100質量部
なお、カーボンブラック粒子の粉末(平均粒径20nm)を80質量部、同粉末(平均粒径270nm):20質量部としてもよい。
【0133】
以上のように、塗布によって形成する各層のそれぞれの塗料が、塗料調製工程において調製される。
【0134】
(3-2)補強層形成工程
【0135】
ステップS102の補強層形成工程において、ベース層上に補強層が形成される。例えば、ロールtoロール方式の真空成膜装置を用いて、補強層をベース層上に形成することができる。以下で、当該真空成膜装置の例を、
図8を参照しながら説明する。
図8は、真空成膜装置100の構成の概略を示す図である。真空成膜装置100は、真空槽101内に、冷却されながら回転する冷却キャン102を有する。真空槽101の内部は、排気口(図示せず)からの廃棄により真空状態が維持されている。真空槽101内には、供給ロール103と巻き取りロール104とが設けられている。ベース層3を形成する基体は、供給ロール103から順次送り出され、さらに上記冷却キャン102の周面を通過し、そして、巻取りロール104に巻取られる。
供給ロール103と冷却キャン102との間及び冷却キャン102と巻取りロール104との問にはそれぞれガイドロール105、106、107、及び108が配設されている。これらガイドロールによって、供給ロール103から冷却キャン102へ走行するベース層3及び冷却キャン102から巻取りロール104へ走行するベース層3に所定のテンションがかけられ、ベース層3が円滑に走行する。
【0136】
真空槽101内には、蒸着膜層形成エリア110及び金属スパッタ層形成エリア120が備えられている。
上記で述べたテープT1及びT2を製造する場合には、金属スパッタ層形成エリア120において金属スパッタ層の形成は行われないが、蒸着膜層形成エリア110において蒸着膜層の形成は行われる。これにより、蒸着膜層のみから構成された補強層が形成される。
また、上記で述べたテープT3及びT4を製造する場合には、金属スパッタ層形成エリア120において金属スパッタ層の形成が行われ、そして、当該金属スパッタ層の形成後に、蒸着膜層形成エリア110において当該金属スパッタ層上に蒸着膜層が形成される。これにより、蒸着膜層及び金属スパッタ層から構成された補強層が形成される。
【0137】
蒸着膜層形成エリア110内には、ルツボ111が設けられている。ルツボ111内には、蒸着膜層を形成する金属材料(金属又は金属酸化物)112が充填されている。ルツボ111内の金属材料112へと、電子銃(図示せず)から電子ビームを照射することによって、金属材料112から金属材料が加熱されて蒸発し、そして、冷却キャン102の周面を走行するベース層3上に蒸着膜層が形成される。
【0138】
金属スパッタ層形成エリア120内には、ターゲット121が設けられている。ターゲット121は、金属スパッタ層を形成する金属のみからなるターゲットでありうる。ターゲット121は、例えばカソード電極(図示せず)を構成するバッキングプレート(図示せず)により支持されていてよい。金属スパッタ層形成エリア120内にArガスを導入し、冷却キャン102をアノードとし且つ前記バッキングプレートをカソードとして電圧が印加される。当該電圧の印加によって、Arガスがプラズマ化し、そして、電離されたイオンがターゲット121に衝突する。当該衝突によって、ターゲット121から金属がはじき出される。当該はじき出された金属が、冷却キャン102の周面に沿って走行するベース層3に付着して、金属スパッタ層が形成される。
【0139】
(3-3)塗布工程
ステップS103において、前記非磁性層形成用塗料を、補強層Aの2つの面のうちベース層3に接していない面(すなわち露出している面)に塗布して乾燥させることにより、例えば平均厚み1.0μm~1.1μmの非磁性層2が形成される。続いて、この非磁性層2上に、前記磁性層形成用塗料を塗布して、例えば平均厚み40nm~100nmの磁性層1が形成される。そして、磁性層1を塗布により形成した後、この磁性層1について、下記「(3-4)配向工程」にて述べる配向処理を行ない、その直後に磁性層1を乾燥させる。そして、ベース層3の2つの面のうち露出している面(すなわち補強層Aと接していない面)に、前記バック層形成用塗料を塗布し、乾燥させて、バック層4が形成される。以上により、テープT1が形成される。
代替的には、ベース層3の2つの面のうち露出している面(すなわち補強層Aと接していない面)の直上に、上記と同様に非磁性層2及び磁性層1が形成されてよい。そして、補強層Aの2つの面のうちベース層3に接していない面(すなわち露出している面)の直上にバック層4が形成されてもよい。これにより、テープT2が形成される。
【0140】
(3-4)配向工程
ステップS104において、塗布形成された磁性層1を乾燥する前に、永久磁石を用いて、例えば、磁性層1中の磁性粉の磁場配向を行う。例えば、ソレノイドコイルにより、磁性層1中の磁性粉を垂直方向(即ち、テープ厚み方向)に磁場配向させる(垂直配向)。また、ソレノイドコイルにより、磁性粉をテープ走行方向(テープ長手方向)に磁場配向させるようにしてもよい。なお、磁性層1は、高記録密度化という点で、垂直配向が望ましいのであるが、場合によっては面内配向(長手配向)としてもよい。
配向度(角形比)は、例えばソレノイドコイルから出る磁界の強さ(例えば磁性粉の保磁力の2~3倍)を調整することにより、磁性層形成用塗料の固形分を調整することにより、若しくは、乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整することにより、又は、これらの調整の組み合わせにより、調整することができる。また、磁場中で磁性粉が配向するための時間を調整することによっても、配向度を調整することができる。例えば、配向度を高くするために、塗料中の磁性粉の分散状態をよくすることが好ましい。また、垂直方向の配向のために、配向器に入る前に事前に磁性粉を磁化させておく方法も有効であり、この方法が用いられてもよい。このような調整を行うことによって、垂直方向(磁気テープの厚み方向)及び/又は長手方向(磁気テープの長さ方向)における配向度を所望の値に設定することができる。
【0141】
(3-5)カレンダー工程
ステップS105において、カレンダー処理を行い、磁性層1の表面を平滑化する。このカレンダー工程は、一般にカレンダーと称される多段式のロール装置を用いて鏡面加工する工程である。対向する金属製ロールにテープT1又はT2を挟み込みながら、必要な温度と圧力をかけて、磁性層1の表面を平滑に仕上げる。
【0142】
(3-6)裁断工程
ステップS106において、上述のようにして得られた幅広の磁気記録テープT1又はT2を、例えば、テープの品種の規格に合わせたテープ幅に裁断する。例えば、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、所定のロールに巻き取る。これにより、目的のテープ幅を備える長尺状の磁気記録テープT1又はT2を得ることができる。この裁断工程で、必要な検査を行ってもよい。
【0143】
(3-7)組み込み工程
ステップS107において、所定の幅に裁断された磁気記録テープT(T1又はT2)を品種に合わせた所定の長さ切断し、
図7に示したようなカートリッジテープ5の形態とする。具体的には、カートリッジケース51内に設けられたリール52に所定長の磁気記録テープを巻き付けて収容する。
【0144】
組込工程後に、カートリッジテープ5は、例えば最終の製品検査工程を経て、梱包を行い出荷されうる。検査工程では、例えば電磁変換特性及び走行耐久性などの出荷前検査により、磁気記録テープの品質確認が行われうる。
【0145】
(4)磁気記録テープを構成する層の構成例(スパッタにより磁性層が形成される磁気記録テープ)
【0146】
図9は、本技術に従う磁気記録テープT5の層構造を示す断面図である。この磁気記録テープT5は、ベース層25の2つの面のうち、バック層26側の面に補強層Aが設けられている。ベース層25の他方の主面(磁性層側の面)上にシード層24が設けられ、この一層構造のシード層24の直上に二層構造の下地層23(23-1及び23-2)が積層されている。
テープ5は、上から順に潤滑剤層L、保護層P、磁性層21、中間層22、下地層23、シード層24、ベース層25、補強層A、及びバック層26を有する。潤滑剤層Lの直下に保護層Pがあり、保護層Pの直下に磁性層21があり、磁性層21の直下に中間層22があり、中間層22の直下に下地層23があり、下地層23の直下にシード層24があり、シード層24の直下にベース層25があり、ベース層25の直下に補強層Aがあり、且つ、補強層Aの直下にバック層26がある。以下では、各層の構成について説明する。また、本構成例の説明において、ベース層25を挟んで磁性層21側を上側、バック層26側を下側として扱うものとする。
【0147】
(4-1)潤滑剤層
図9に示される潤滑剤層Lは、潤滑剤が配合された層であり、走行時の磁気記録テープT5の摩擦を軽減する役割を主に果たす。潤滑剤層Lは、保護層Pの上層に積層される。
【0148】
潤滑剤層Lは、少なくとも1種の潤滑剤を含んでいる。潤滑剤層Lは、必要に応じて各種添加剤、例えば防錆剤をさらに含んでいてもよい。潤滑剤は、少なくとも2つのカルボキシル基と1つのエステル結合とを有し、下記の一般化学式(1)で表されるカルボン酸系化合物の少なくとも1種を含んでいる。潤滑剤は、下記の一般化学式(1)で表されるカルボン酸系化合物以外の種類の潤滑剤をさらに含んでいてもよい。
【0149】
【化1】
(式中、Rfは非置換若しくは置換の、また、飽和若しくは不飽和の、含フッ素炭化水
素基或いは炭化水素基、Esはエステル結合、Rは、なくてもよいが、非置換若しくは置換の、また、飽和若しくは不飽和の炭化水素基である。)
【0150】
上記カルボン酸系化合物は、下記の一般化学式(2)または一般化学式(3)で表されるものが好ましい。
【0151】
【化2】
(式中、Rfは、非置換若しくは置換の、また、飽和若しくは不飽和の、含フッ素炭化水素基或いは炭化水素基である。)
【0152】
【化3】
(式中、Rfは、非置換若しくは置換の、また、飽和若しくは不飽和の、含フッ素炭化水素基或いは炭化水素基である。)
【0153】
潤滑剤は、上記の一般化学式(2)および一般化学式(3)で表されるカルボン酸系化合物の一方または両方を含んでいることが好ましい。
【0154】
一般化学式(1)で示されるカルボン酸系化合物を含む潤滑剤を磁性層1または保護層Pなどに塗布すると、疎水性基である含フッ素炭化水素基又は炭化水素基Rf間の凝集力により潤滑作用が発現する。Rf基が含フッ素炭化水素基である場合には、総炭素数が6~50であり、且つフッ化炭化水素基の総炭素数が4~20であるのが好ましい。Rf基は、飽和又は不飽和、直鎖又は分岐鎖又は環状であってよいが、とくに飽和で直鎖であるのが好ましい。
【0155】
例えば、Rf基が炭化水素基である場合には、下記一般化学式(4)で表される基であることが望ましい。
【0156】
【化4】
(但し、一般化学式(4)において、lは、8~30、より望ましくは12~20の範囲から選ばれる整数である。)
【0157】
また、Rf基が含フッ素炭化水素基である場合には、下記一般化学式(5)で表される基であることが望ましい。
【0158】
【化5】
(但し、一般化学式(5)において、mとnは、それぞれ次の範囲から選ばれる整数で、m=2~20、n=3~18、より望ましくは、m=4~13、n=3~10である。)
【0159】
フッ化炭化水素基は、上記のように1箇所に集中していても、また下記一般化学式(6)のように分散していてもよく、-CF3や-CF2-ばかりでなく-CHF2や-CHF-等であってもよい。
【0160】
【化6】
(但し、一般化学式(6)において、n1+n2=n、m1+m2=mである。)
【0161】
一般化学式(4)、(5)および(6)において炭素数を上記のように限定したのは、アルキル基または含フッ素アルキル基を構成する炭素数(l、又は、mとnの和)が上記下限以上であると、その長さが適度の長さとなり、疎水性基間の凝集力が有効に発揮され、良好な潤滑作用が発現し、摩擦・摩耗耐久性が向上するからである。また、その炭素数が上記上限以下であると、上記カルボン酸系化合物からなる潤滑剤の、溶媒に対する溶解性が良好に保たれるからである。
【0162】
特に、Rf基は、フッ素原子を含有すると、摩擦係数の低減、さらには走行性の改善等に効果がある。但し、含フッ素炭化水素基とエステル結合との間に炭化水素基を設け、含フッ素炭化水素基とエステル結合との間を隔てて、エステル結合の安定性を確保して加水分解を防ぐのがよい。また、Rf基がフルオロアルキルエーテル基、又はパーフルオロポリエーテル基を有するものであるのもよい。R基は、なくてもよいが、ある場合には、比較的炭素数の少ない炭化水素鎖であるのがよい。また、Rf基又はR基は、構成元素として窒素、酸素、硫黄、リン、ハロゲンなどの元素を含み、既述した官能基に加えて、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、及びエステル結合等を更に有していてもよい。
【0163】
上記一般化学式(1)で示されるカルボン酸系化合物は、具体的には以下に示す化合物の少なくとも1種であることが好ましい。すなわち、潤滑剤は、以下に示す化合物を少なくとも1種含んでいることが好ましい。
CF3(CF2)7(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
C17H35COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)2OCOCH2CH(C18H37)COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CHF2(CF2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)2OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)6OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)11OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)6OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
C18H37OCOCH2CH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)4COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)4COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)3(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)9(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7(CH2)12COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)5(CH2)10COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7CH(C9H19)CH2CH=CH(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CF3(CF2)7CH(C6H13)(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
CH3(CH2)3(CH2CH2CH(CH2CH2(CF2)9CF3))2(CH2)7COOCH(COOH)CH2COOH
【0164】
上記一般化学式(1)で示されるカルボン酸系化合物は、環境への負荷の小さい非フッ素系溶剤に可溶であり、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤などの汎用溶剤を用いて、塗布、浸漬、噴霧などの操作を行えるという利点を備えている。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノンなどの溶媒を挙げることができる。
【0165】
以下で説明する保護層Pが炭素材料を含む場合には、潤滑剤として上記カルボン酸系化合物を保護層P上に塗布すると、保護層P上に潤滑剤分子の極性基部である2つのカルボキシル基と少なくとも1つのエステル結合基が吸着され、疎水性基間の凝集力により特に耐久性の良好な潤滑剤層Lを形成することができる。
【0166】
なお、潤滑剤は、上述のように磁気記録テープT5の表面に潤滑剤層Lとして保持されるのみならず、磁気記録テープTを構成する磁性層21および保護層Pなどの層に含まれ、保有されていてもよい。これは、潤滑剤を保護層Pに塗布した場合、保護層Pなどの層へ浸透しうるためである。潤滑剤層Lの厚みは、例えば0.1nm程度でありうる。なお、潤滑剤層は、以下で説明するバック層の表面に設けられていてもよく、例えば
図9及び
図10に示されるバック層26の下側の面に積層されうる。
【0167】
(4-2)保護層
【0168】
図9に示される保護層Pは、磁性層21を保護する役割を果たす層である。この保護層Pは、例えば、炭素材料又は二酸化ケイ素(SiO
2)を含む。この保護層Pの膜強度の観点からは炭素材料を含んでいることが好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:略称DLC)又はダイヤモンドなどを挙げることができる。
【0169】
(4-3)磁性層
【0170】
磁性層21は、磁性結晶粒子を含む層であり、磁気を用いて、信号を記録したり、あるいは再生をしたりする層として機能する。磁性層21は、記録密度を向上できる観点などから磁性結晶粒子が垂直配向されていることがより好ましい。さらに、この観点で、磁性層1は、Co系合金を含むグラニュラ構造を有する層であることが好ましい。
【0171】
グラニュラ構造を有する磁性層21は、Co系合金を含む強磁性結晶粒子と、この強磁性結晶粒子を取り巻くように存在する非磁性粒界(非磁性体)とから構成されている。より具体的には、グラニュラ構造の磁性層21は、Co系合金を含むカラム(柱状結晶)と、このカラムを取り囲み、それぞれのカラムを物理的に、かつ磁気的に分離する非磁性粒界とから構成されている。このようなグラニュラ構造によって、磁性層21は、それぞれのカラム状の磁性結晶粒子が磁気的に分離した構造を呈する。
【0172】
Co系合金は、後述の中間層22のRuと同じく六方晶最密充填(hcp)構造を有しており、そのc軸は膜面に対して垂直方向(磁気記録テープ厚み方向)に配向している。このように、磁性層21が直下層の中間層22と同じ六方晶最密充填構造を有することによって、磁性層21の配向特性がさらに高められている。Co系合金としては、少なくともCo、Cr及びPtを含有するCoCrPt系合金を採用することが好ましい。CoCrPt系合金は、特に狭く限定されるものではなく、さらに添加元素を含んでいてもよい。添加元素としては、例えば、Ni、Taなどから選択される一種以上の元素を挙げることができる。
【0173】
強磁性結晶粒子を取り巻く非磁性粒界は、非磁性金属材料を含んでいる。ここで、金属には半金属を含むものとする。非磁性金属材料としては、例えば、金属酸化物及び金属窒化物の内の少なくとも一つを採用することができ、上記グラニュラ構造をより安定に維持する観点からすると、金属酸化物を用いることが好ましい。
【0174】
非磁性粒界に適する前記金属酸化物としては、Si、Cr、Cr、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、Y、B及びHfなどから選ばれる少なくとも一種以上の元素を含む金属酸化物が挙げられる。その具体例としては、SiO2、Cr2O3、CuO、Al2O3、TiO2、Ta2O5、ZrO2、B2O3又はHfO2などを挙げることができ、特に、SiO2、TiO2を含む金属酸化物が好ましい。
【0175】
非磁性粒界に適する上記金属窒化物としては、Si、Cr、Co、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、Y及びHfなどから選ばれる少なくとも一種以上の元素を含む金属窒化物が挙げられる。その具体例としては、SiN、TiN又はAlNなどを挙げることができる。
【0176】
さらに、強磁性結晶粒子に含まれるCoCrPt系合金と、非磁性粒界に含まれるSiO2とが、以下の式(5)に示す平均原子数比率を有していることが好ましい。反磁界の影響を抑制し、かつ、充分な再生出力を確保できる飽和磁化量Msを実現でき、これにより、記録再生特性のさらなる向上を実現できるからである。
(CoxPtyCr100-x-y)100-z-(SiO2)z・・・(5)
(但し、式(5)中において、x、y、zはそれぞれ、69≦x≦72、10≦y≦16、9≦z≦12の範囲内の値である。)
【0177】
上記平均原子数比率は、次のようにして求めることができる。磁気記録テープT5の保護層P(
図9参照。後述)側からイオンミリングしながら、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy、以下「AES」という。)による磁性層21の深さ方向分析(デプスファイル測定)を行い、膜厚方向におけるCo、Pt、Cr、Si及びOの平均原子数比率を求める。
【0178】
磁性層21の厚みの好適な範囲は、10nm~20nmである。下限厚みの10nmは、磁性粒子体積の低減による熱擾乱の影響という観点での限界厚みであり、上限厚みの20nmは、高記録密度磁気記録テープのビット長の設定の観点から、この厚みを超える厚みは弊害となる。
【0179】
磁性層21の平均厚みは、以下のようにして求めることができる。まず、磁気記録テープTを、その主面に対して垂直に薄く加工して試料片を作製し、その試験片の断面を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により観察を行う。装置および観察条件は、装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)、加速電圧:300kV、倍率:100,000倍である。次に、得られたTEM像を用い、磁気記録テープTの長手方向に少なくとも10点以上の位置で磁性層21の厚みを測定した後、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して磁性層21の平均厚みを求める。なお、測定位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0180】
(4-4)中間層
図9中に示される中間層22は、中間層22の直上に形成された磁性層21の配向特性を高める役割を主に果たす層である。この中間層22は、該中間層22と接している磁性層21の主成分と同様の結晶構造を有していることが好ましい。例えば、磁性層21がCo(コバルト)系合金を含んでいる場合には、該中間層22は、このCo系合金と同様の六方晶最密充填構造を有する材料を含み、その構造のc軸が膜面に対して垂直方向(磁気記録テープ厚み方向)に配向していることが好ましい。これにより、磁性層21の結晶配向特性を一層高め、かつ、中間層22と磁性層21との格子定数のマッチングを比較的良好にすることができる。
【0181】
中間層22で採用する六方晶最密充填構造の材料は、Ru(ルテニウム)単体又はその合金が好ましい。Ru合金としては、Ru-SiO
2、RuTiO
2、又はRu-ZrO
2などのRu合金酸化物を挙げることができる。しかしながら、Ru材料は希少金属であり、コスト視点では中間層22は可能な限り薄くすることが好ましく、6.0nm以下、より好ましくは5.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下の厚みが好ましい。あるいは、同コスト視点では、この中間層22を有さない層構造が採用されてよい。ベース層25の上に、後述する下地層23及びシード層24を設けているので、この中間層22の厚さを薄くした場合でも、あるいは、該中間層2が無い層構造が採用された場合でも、良好なSNRの磁気記録テープを得ることができる。例えば、中間層2が無い層構造を有する磁気記録テープは、
図9に示される潤滑剤層L、保護層P、磁性層21、下地層23、シード層24、ベース層25、補強層A、及びバック層26が、この順に積層されている層構造を有する磁気記録テープであってよく、又は、
図10に示される潤滑剤層L、保護層P、磁性層21、下地層23、シード層24、補強層A、ベース層25、及びバック層26が、この順に積層されている層構造を有する磁気記録テープであってよい。
【0182】
なお、中間層22が有する「濡れ性」を利用すると、中間層22の上に真空成膜にて形成される磁性層21を構成する材料が結晶化する時の拡散がし易くなり、結晶のカラムサイズを大きくすることができる。例えば、Ruを含有する中間層22に濡れ性を発揮させるためには、最低でも0.5nm以上の厚みが必要である。
【0183】
(4-5)下地層
図9に示されるテープT5において、上記中間層22の直下に、下地層23が設けられている。より具体的には、中間層22の下に、該上側下地層23-1、さらに該上側下地層23-1の直下に下側下地層23-2が設けられている。即ち、下地層23は、上側下地層23-1と下側下地層23-2からなる二層構造を備えている。
【0184】
下地層23を構成する上側下地層23-1及び下側下地層23-2の両方が、Co系合金で形成されている磁性層21と同様のCo系合金から形成することが好ましい。その理由は、下地層23にCo系合金を用いると、上述した磁性層21や中間層22と同じ六方晶最密充填(hcp)構造を有する結晶構造を備えることになり、そのc軸は膜面に対して垂直方向(磁気記録テープ厚み方向)に配向する。このように、下地層23が、磁性層21や中間層22と同じ六方晶最密充填構造を有することにより、磁性層21の配向特性をさらに高めることができる。
【0185】
ここで、下地層23を構成する上側下地層23-1は、以下の式(6)で示される平均原子数比率を有していることが好ましい。
【0186】
Co(100-y)Cry・・・(6)
(但し、37≦y≦45の範囲内である。)
【0187】
CoCr膜については、0≦y≦36ではhcp相、54≦y≦66ではσ相となる。CoCr膜がhcp相とσ相の共存状態で場合に、その上に成長する六方晶最密充填構造である金属膜において、良好な垂直方向へのc軸配向と孤立したカラム形状を有する膜が形成される。yが37未満であると、CoCr膜はhcp相のみとなるので、その上に成長する金属膜のカラムの孤立性が低下することから不適であり、一方、yが45を超えると、CoCr膜中のσ相の比率が増えることによりその上に成長する金属膜のc軸配向が低下するので不適である。
【0188】
上側下地層23-1は、以下の式(7)で表される平均原子数比率に示す範囲で、二酸化ケイ素を含有していてもよい。
【0189】
[Co(100-y)Cry](100-z)(SiO2)z・・・(7)
(但し、z≦30の範囲内である。)
【0190】
上記式(7)において、zが30を超える場合は、Co系合金の磁性柱状結晶(カラム)と、このカラムを取り囲み、それぞれのカラムを物理的に、かつ磁気的に分離している非磁性粒界が過剰となり、それぞれのカラム状の磁性結晶粒子が磁気的に過度に分離した構造を呈してしまうので、好ましくない。なお、この(7)式において、Z=0の場合は、式(6)が適用されることになる。
【0191】
この上側下地層23-1の厚みは、20~50nmの範囲が好ましい。同厚みが20nm未満である場合、グラニュラ形状の鍵であるカラム先頭部の山型形状が取りにくくなり、その上に成長する中間層の十分なグラニュラ性が確保できなくなる。また、同厚みが50nmを超える場合、カラムが粗大化することにより中間層のカラムサイズが大きくなることにより最終的に磁性層のカラムサイズが大きくなり記録再生特性のノイズが増大する。
【0192】
次に、上側下地層23-1の直下に設けられる下側下地層23-2についても、Co及びCrを少なくとも含む組成であって、かつ、上記式(6)、又は式(7)式と同じ平均原子数比率であることが好ましい。該下側下地層23-2の厚みの好適な範囲は、上記上側下地層23-1と同様である。
【0193】
下地層23に、上側下地層23-1と下側下地層23-2を設けて二層構造とすると、下側下地層23-2では結晶配向を高める成膜条件とし、上側下地層23-1をグラニュラ性の高い成膜条件とすることで、結晶配向およびグラニュラ性を同時に実現できるようになるので、この点で好ましい。
【0194】
下地層23は、上側下地層23-1のみからなる層であってもよい。この場合、以下で述べるシード層24は、下側シード層のみから形成されてよい。
【0195】
(4-6)シード層
図9に示されるシード層24は、下地層23の下層に位置し、かつ、ベース層25(後述)の一方の主面の直上に形成される層である。このシード層24は、後述する中間層22が薄く形成された場合、あるいは、該中間層22が設けられない層構成であっても、良好なSNR(シグナルノイズ比)を確保するために必要である。また、このシード層24は、ベース層25に対して下地層23以上の上層部、即ち、下地層23(23-1及び23-2)、中間層22、磁性層21を密着させる役割も果たす。
【0196】
このシード層24は、Ti(チタン)とO(酸素)の二つの原子を少なくとも含んでおり、次の式(8)で表される平均原子数比率を有することが好ましい。
【0197】
Ti(100-x)Ox・・・(8)
(但し、X≦10である。)
【0198】
あるいは、このシード層4は、Ti、Cr、Oの三つの原子を含んでおり、次の式(9)で表される平均原子数比率を有することが好ましい。シード層4にCrが含有すると、同様にCrを含有している下地層23(上側下地層23-1及び下側下地層23-2)及び磁性層21とのマッチングが良くなるので好ましい。
【0199】
(TiCr)(100-x)Ox・・・(9)
(但し、X≦10である。)
【0200】
上記式(8)、式(9)で表されるいずれの平均原子数比率であっても、両式においてXが10を超えるとシード層中にTiO2結晶が生成されるようになり、アモルファス膜としての機能が著しく低下するので好ましくない。
【0201】
シード層24に含有されるTiは、Co系合金と同様に六方晶最密充填構造を備えているので、磁性層21、中間層22、及び下地層23に結晶構造とのマッチングがよい。
【0202】
シード層24に酸素が含有されている。これは、後述するベース層25を構成するフィルムに由来又は起因する酸素がシード層24に入り込むからであり、この点、フィルムからなるベース層25を使用しないハードディスク(HDD)のシード層とは異なった原子構成となっている。なお、シード層24の全体の厚さは、5nm以上、30nm以下であることが好ましい。
【0203】
シード層24は二層構造であってもよい。例えば、下地層23に接する層(上側シード層)は、ニッケルタングステン(Ni
96W
6)で形成されうる。ベース層25(又は、
図10においては補強層A)に接する層(下側シード層)は、Ti、Cr、及びOを少なくとも含み、上記式(9)で示される平均原子数比率の組成を有していてよい。
上側シード41の厚みは、例えば5nm以上30nm以下の範囲内にあってよく、且つ、下側下地層42の厚みは、例えば2nm以上30nm以下の範囲内にあってよい。
【0204】
(4-7)ベース層
【0205】
図9中に示されたベース層25は、可撓性を有する長尺状の非磁性支持体であり、磁気記録テープの土台となる層としての機能を主に果たしている。ベース層5は、ベースフィルム層又は基体と称されることがあり、磁気記録テープT5全体に適正な剛性を付与するフィルム層である。
【0206】
上記「(2-3)ベース層」においてベース層3に関して述べた説明(例えば平均厚み及び材料に関する説明)が、ベース層25についても当てはまる。そのためベース層25についての説明は省略する。
【0207】
(4-8)補強層
【0208】
図9に示される補強層Aは、ベース層25の2つの面のうちバック層26側の面に設けられており、且つ、金属又は金属酸化物から形成されている。代替的には、補強層Aは、
図10に示されるとおり、ベース層25の2つの面のうち磁性層21側の面に設けられていてもよい。
【0209】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、テープT5は、補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下であるという構成を有する。当該構成によって、特に優れた寸法安定性向上効果がもたらされる。前記黒色面積は、より好ましくは280μm2以下、さらにより好ましくは260μm2以下、さらにより好ましくは240μm2以下でありうる。前記黒色面積はより小さいことが好ましく、前記黒色面積は例えば0μm2以上でありうる。
【0210】
本技術の他の好ましい実施態様に従い、テープT5は、補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数が100以下であるという構成を有しうる。前記黒色領域の数は、より好ましくは80以下、さらにより好ましくは60以下、さらにより好ましくは50以下でありうる。前記黒色領域の数はより小さいことが好ましく、前記黒色領域の数は例えば0以上でありうる。
【0211】
本技術の特に好ましい実施態様に従い、テープT5は、補強層Aの64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下であり、且つ、当該画像中の黒色領域の数が100以下であるという構成を有しうる。
【0212】
前記黒色面積及び前記黒色領域の数の測定は、上記「(2-4)補強層」において述べた測定方法と同様の方法により行われてよい。
【0213】
補強層Aは、
図9に示されるとおり、ベース層23のバック層26側の面に設けられていてよい。代替的には、
図10に示されるテープT6のように、補強層Aは、ベース層23の磁性層21側の面に設けられていてもよい。ベース層25のいずれかの面又は両面に補強層Aが積層されていることによって、テープT5が補強される。
【0214】
補強層Aによって、上記「(2-4)補強層」において述べた効果が奏される。
【0215】
補強層Aのヤング率も、上記「(2-4)補強層」において述べたとおりのものであってよい。当該ヤング率の測定も、上記「(2-4)補強層」において述べたように、ベース層23及び補強層Aのみから形成される積層物を用いて行われてよい。
テープT5についても、上記「(2-4)補強層」においてとおりの合算TDSを有しうる。
補強層Aの厚みについても、上記「(2-4)補強層」において述べたとおりのものであってよい。
【0216】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、補強層Aは、上記「(2-4-1)蒸着膜層から構成される補強層」において述べたとおり、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層であってよい。
本技術の他の好ましい実施態様に従い、補強層Aは、上記「(2-4-2)蒸着膜層及び金属スパッタ層から構成される補強層」において述べたとおり、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層と金属スパッタ層とから形成されており、前記ベース層と前記蒸着膜層との間に、前記金属スパッタ層が設けられていてよい。
前記蒸着膜層及び前記金属スパッタ層は、上記「(2-4-1)蒸着膜層から構成される補強層」及び「(2-4-2)蒸着膜層及び金属スパッタ層から構成される補強層」において述べたとおりであるので、これらについての説明は省略する。
【0217】
(4-9)バック層
【0218】
図9に示されているバック層26は、ベース層25の下側の主面に形成されている。上記「(2-5)バック層」においてバック層4について述べた説明が、バック層26についても当てはまる。そのため、バック層26についての説明は省略する。
【0219】
(4-10)軟磁性裏打ち層
【0220】
本技術に従う磁気記録テープは、さらに軟磁性裏打ち層(Soft magnetic underlayer、略称SUL)を含むものであってよい。
例えば
図9に示される層構造の場合は、当該軟磁性裏打ち層は、シード層24とベース層25との間に配置されうる。すなわち、
図9に示される層構造において当該軟磁性裏打ち層が含まれる場合は、シード層24、当該軟磁性裏打ち層、ベース層25、及び補強層Aがこの順に積層されている。
また、例えば
図10に示される層構造の場合は、当該軟磁性裏打ち層は、シード層24と補強層Aとの間に配置されうる。すなわち、
図10に示される層構造において当該軟磁性裏打ち層が含まれる場合は、シード層24、軟磁性裏打ち層、補強層A、ベース層25がこの順に積層されている。
【0221】
当該軟磁性裏打ち層は、磁性層21に磁気記録を行う際に、垂直磁気ヘッドから発生する漏れ磁束を、磁性層21に効率よく引き込むために設けられる層である。当該軟磁性裏打ち層を設けることで、磁気ヘッドからの磁界強度を高めることができ、より高密度に磁気記録を行うことができる。なお、当該軟磁性裏打ち層を備えている磁気記録テープは「二層垂直磁気記録テープ」と称されうる。
【0222】
当該軟磁性裏打ち層は、アモルファス状態の軟磁性材料を含んでいる。当該軟磁性裏打ち層は、例えばCo系材料から形成されてよく、より具体的には例えばCoZrNb合金、CoZrTa、又はCoZrTaNbなどから形成されてよい。代替的には、当該軟磁性裏打ち層は、Fe系材料から形成されてよく、より具体的には例えばFeCoB、FeCoZr、又はFeCoTaなどから形成されてもよい。
【0223】
当該軟磁性裏打ち層は、例えば単層であってよく、より具体的には上記の材料から形成される単層であってよい。
代替的には、当該軟磁性裏打ち層は、複数層から形成されてよく、例えば薄い介在層が二つの軟磁性層により挟まれている三層構造であってもよい。この場合、当該軟磁性裏打ち層は、当該介在層を介した交換結合を利用して積極的に磁化を反平行にした構造を備える、Antiparallel Coupled SUL(APC-SUL)として構成されてよい。
【0224】
(5)本技術に従う磁気記録テープの製造方法の一例(スパッタにより磁性層が形成される磁気記録テープ)
【0225】
上記「(4)磁気記録テープを構成する層の構成例(スパッタにより磁性層が形成される磁気記録テープ)」において説明したテープT5の製造方法を、
図11を参照しながら以下に説明する。
【0226】
ステップS201において、ベース層25を形成する基体上に補強層Aが形成されて、ベース層25と補強層Aとからなる積層物が得られる。ステップS201は、ステップS102と同じであるので、その説明は省略する。
【0227】
ステップS202において、前記積層物の一方の主面に対して、シード層24、下地層23、中間層22、及び磁性層21を、この順にスパッタ成膜する(ステップS202:スパッタ膜形成工程)。スパッタ時の成膜室の雰囲気は、例えば、1×10-5Pa~5×10-5Pa程度に設定する。シード層24、下地層23、中間層22、磁性層21の膜厚及び特性(例えば、磁気特性)は、前記積層物を巻き取るテープライン速度、スパッタ時に導入するAr(アルゴン)ガスなどの圧力(スパッタガス圧)、及び投入電力などを調整することにより制御することができる。これら4つの層の成膜条件の例と以下に述べる。
【0228】
(シード層の成膜条件)
以下の成膜条件にて、ベース層25をなす長尺の高分子フィルムの表面上に、Ti(100-x)Ox(但し、x=2である。)からなるシード層が、膜厚10nmになるようにスパッタ成膜される。
成膜方法:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Tiターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.25Pa
投入電力:0.1W/mm2
【0229】
(下側下地層の成膜条件)
以下の成膜条件にて、前記シード層上に、Co(100-y)Cry(但し、y=40内である。)からなる下側下地層が、膜厚30nmになるようにスパッタ成膜される。
成膜方法:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:CoCrターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.2Pa
投入電力:0.13W/mm2
マスク:なし
【0230】
(上側下地層の成膜条件)
以下の成膜条件にて、前記下側下地層上に、Co(100-y)Cry(100-z)(SiO2)z(但し、y=40、z=0である。)からなる上側下地層を膜厚30nmになるようにスパッタ成膜した。
ターゲット:CoCrSiO2ターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:6Pa
投入電力:0.13W/mm2
マスク:なし
【0231】
(中間層の成膜条件)
以下の成膜条件にて、下地層上にRuからなる中間層が、膜厚2nmになるようにスパッタ成膜される。
成膜方法:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
【0232】
(磁性層の成膜条件)
以下の成膜条件にて、前記中間層上に(CoCrPt)-(SiO2)からなる磁性層が14nm成膜される。
成膜方法:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:(CoCrPt)-(SiO2)ターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.5Pa
【0233】
中間層22を設けない場合は、中間層22の成膜を行わないようにし、下地層23の直上に磁性層21が成膜される。シード層24が下側シード層及び上側シード層の二層構造を備える場合は、これら2つの層が順に成膜される。下地層3が下側下地層及び上側下地層を備える場合は、これら2つの層がこの順に成膜される。
【0234】
ステップS202において、さらに、配向された磁性層21上に保護層Pを成膜する。保護層Pの成膜方法としては、例えば、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:略称CVD)法、又は物理蒸着(Physical Vapor Depositin:略称PVD)法を用いることができる。保護層の成膜条件の例は以下のとおりである。
【0235】
(保護層の成膜条件)
以下の成膜条件にて、磁性層21上にカーボンからなる保護層が、膜厚5nmになるようにスパッタ成膜される。
成膜方法:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:カーボンターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.0Pa
【0236】
ステップS203において、バック層26形成用の塗料を、ベース層26の他方の主面上に塗工し、これを乾燥させてバック層26を形成する。当該塗料は、結着剤、無機粒子、及び潤滑剤などを溶剤に混錬及び/又は分散させることにより予め調製されていてよい。例えば、カーボンおよび炭酸カルシウムで構成される非磁性粉とポリウレタン系結着材とから構成されるバック層が、0.3μm厚で形成される。
【0237】
次に、潤滑剤をすでに成膜されている保護層Pの上に塗布し、潤滑剤層Lを形成する。潤滑剤の塗布方法としては、例えば、グラビアコーティング、ディップコーティングなどの各種塗布方法を採用することができ、特に限定されない。例えば、潤滑剤塗料は、汎用の溶剤に、カルボン酸パーフルオロアルキルエステル0.11質量%、およびフルオロアルキルジカルボン酸誘導体0.06質量%を混合して作製される。
【0238】
以上のとおりの製造方法によって、磁気記録テープT5を製造することができる。
なお、製造された磁気記録テープに対して、磁気記録テープのテープ幅方向における反りを調整するために、表面温度が150℃~230℃程度に熱せられた金属ロールに原反ロールを接触させて走行させるホットロール処理が施されてもよい。
【0239】
ステップS204において、上述のようにして得られた幅広の磁気記録テープT5を、例えば、磁気記録テープの品種の規格に合わせた磁気記録テープ幅に裁断する(裁断工程)。例えば、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、所定のロールに巻き取る。これにより、目的の磁気記録テープ幅を備える長尺状の磁気記録テープを得ることができる。この裁断工程で、必要な検査を行ってもよい。
【0240】
ステップS205において、次に、所定の幅に裁断された磁気記録テープを品種に合わせた所定の長さ切断し、
図7に示したようなカートリッジテープ5の形態とする。具体的には、カートリッジケース51内に設けられたリール52に所定長の磁気記録テープT5を巻き付けて収容する。
【0241】
カートリッジテープ5は、例えば最終の製品検査工程を経て、梱包を行い出荷されうる。検査工程では、例えば電磁変換特性及び走行耐久性などの出荷前検査により、磁気記録テープの品質確認が行われうる。
【0242】
2.本技術の第二の実施形態(磁気記録テープカートリッジ)
【0243】
本技術は、上記「1.本技術の第一の実施形態(磁気記録テープ)」において述べた磁気記録テープがリールに巻き付けられた状態でケースに収容されている磁気記録テープカートリッジも提供する。当該磁気記録テープカートリッジの構成の例は上記で説明したとおりであってよい。
当該カートリッジに収容されている磁気記録テープは、上記で述べたとおり寸法安定性に優れている。さらに、当該磁気記録テープの寸法変化を抑制又は防止しつつ、且つ、テープの厚みを減少させることができる。さらに、1つの磁気記録テープカートリッジ内に収容されるテープ長を増加させることができる。そのため、1つの磁気記録テープカートリッジ当たりの記録容量を高めることができる。
【実施例】
【0244】
補強層(
図1の符号A)を設けた磁気記録テープが作製された(以下の表1の実施例1~7及び比較例1~3)。これらの磁気記録テープの補強層の形成は、上記「(3-2)補強層形成工程」で説明した
図8を参照して説明した真空成膜装置を用いて行われた。これらの磁気記録テープのいずれについても、ベース層を形成する基体として、PENから形成されており且つ3.2μmの厚みを有するフィルムを用いた。これらの磁気記録テープのいずれについても、磁性層、非磁性層、及びバック層は、上記「(3-1)塗料調製工程」において述べた組成物を用いて製造された。これらの層は、いずれも塗料を塗布することにより塗布により形成され、
図1に示す層構造を有するものであった。
【0245】
実施例1~4並びに比較例1及び2の磁気記録テープの補強層は、Co蒸着膜層のみから構成される。
実施例5~7及び比較例3の磁気記録テープの補強層は、金属(Ti)スパッタ層及びCo蒸着膜層から構成される。
蒸着膜層は、蒸着膜層形成エリア110において形成された。電子ビーム発生源から加速出射させた電子ビームを坩堝内の金属材料(Co)に照射して、Coを加熱蒸発させた。加熱蒸発したCoが、冷却キャンに沿って走行するフィルムに蒸着されて、蒸着膜層が形成された。
図8に示される最大入射角θ
1の位置から最小入射角θ
2の位置までが、蒸着が行われる位置である。最大入射角と最小入射角とを調整することによって、蒸着膜層の膜厚が制御された。最大入射角は、冷却キャンの中心と蒸着開始点とを結ぶ線及び蒸着開始点と蒸着源とを結ぶ線により形成される角度である。最小入射角は、冷却キャンの中心と蒸着終了点とを結ぶ線及び蒸着終了点と蒸着源とを結ぶ線により形成される角度である。
金属スパッタ層は、金属スパッタ層形成エリア120にて形成された。金属スパッタ層形成エリア120内には、Tiターゲットが配置されたスパッタカソードがあり、これによりTiスパッタ層が形成された。
【0246】
製造された磁気記録テープのそれぞれについて、上記で述べた黒色面積及び黒色領域の数を、上記で述べた測定方法により測定した。また、製造された磁気記録テープそれぞれの補強層のテープ長手方向のヤング率も、上記で述べた測定方法により測定した。
測定結果を以下の表1に示す。また、補強層の厚み及び金属スパッタ層の厚みも以下の表1に示す。
図12に、ヤング率と黒色面積との関係を示す。
図13に、ヤング率と黒色領域数との関係を示す。さらに
図14及び15に、各実施例の磁気記録テープの画像に対して二値化処理を行った後の画像を示す。
【0247】
【0248】
以上の結果より、実施例1~7の磁気記録テープは、比較例1~3の磁気記録テープと比べてヤング率が高かった。実施例1~7の磁気記録テープの補強層の長手方向ヤング率は80GPa以上であった。
また、以上の結果より、前記黒色面積が小さいほど、長手方向ヤング率が高いことが分かる。例えば前記黒色面積が300μm2以下である場合に、特には240μm2以下である場合に、長手方向ヤング率が80GPa以上であることが分かる。また、前記黒色面積が少ないほど、長手方向ヤング率が高いことも分かる。例えば前記黒色領域数が70以下である場合に、特には50以下である場合に、長手方向ヤング率が80GPa以上であることが分かる。
上記「(2-4)補強層」において述べたとおり、ヤング率と合算TDSとの間には相関関係があり、ヤング率が高いほどTDSはより低くなる。例えば、本例で用いた3.2μmの厚みを有するPENベース層を含む磁気記録テープの合算TDSは350ppm以下であることが好ましく、当該合算TDSを350ppm以下とするためには補強層のヤング率が80GPa以上であることが好ましい。上記のとおり、実施例1~7の磁気記録テープの補強層の長手方向ヤング率は80GPa以上であるので、3.2μmの厚みを有するPENベース層を含む磁気記録テープの合算TDSを350ppm以下とすることができる。他の厚みを有するベース層又は他の材料から形成されているベース層に対して本技術に従う補強層を積層することによっても、より低い合算TDSを有する磁気記録テープを得ることができる。
これらの結果より、本技術に従う磁気記録テープは長手方向ヤング率が高いので、特に優れた寸法安定性を有することが分かる。例えば、本技術に従う磁気記録テープは、テープ走行時にテンションが加わった場合、又は、温度及び/若しくは湿度などの変化があった場合でも、テープ寸法の変化を抑制又は防止できる
【0249】
なお、本技術は、以下のような構成をとることもできる。
〔1〕磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、
前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物から形成された補強層が設けられており、且つ、
前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色面積が300μm2以下である、
磁気記録テープ。
〔2〕前記補強層の厚みが500nm以下である、〔1〕に記載の磁気記録テープ。
〔3〕前記補強層のヤング率が70GPa以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の磁気記録テープ。
〔4〕前記補強層のヤング率が前記ベース層のヤング率の10倍以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の磁気記録テープ。
〔5〕前記補強層が、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層である、〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載の磁気記録テープ。
〔6〕前記蒸着膜層の厚みが350nm以下である、〔5〕に記載の磁気記録テープ。
〔7〕前記補強層が、金属又は金属酸化物から形成された蒸着膜層と金属スパッタ層とから形成されており、
前記ベース層と前記蒸着膜層との間に、前記金属スパッタ層が設けられている、
〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載の磁気記録テープ。
〔8〕前記金属スパッタ層の厚みが25nm以下である、〔7〕に記載の磁気記録テープ。
〔9〕前記蒸着膜層の厚みが10nm~200nmである、〔7〕又は〔8〕に記載の磁気記録テープ。
〔10〕磁性層、ベース層、及びバック層をこの順に有する層構造を有し、
前記ベース層の前記磁性層側の面及び前記バック層側の面のいずれかに、金属又は金属酸化物からなる補強層が設けられており、
前記補強層の64μm×48μmの矩形領域の光学顕微鏡画像を2値化処理して得られる画像中の黒色領域の数が70以下である
磁気記録テープ。
〔11〕前記磁性層のトラック密度が、テープ幅方向で1万本/inchインチ以上である、〔1〕~〔9〕のいずれか一つに記載の磁気記録テープ。
〔12〕前記ベース層の厚みが3.6μm以下である、〔1〕~〔9〕及び〔11〕のいずれか一つに記載の磁気記録テープ。
〔13〕前記蒸着膜層が、電子ビーム蒸着法により形成されたものである、〔5〕に記載の磁気記録テープ。
〔14〕前記磁気記録テープの全厚が5.6μm以下である、〔1〕~〔9〕及び〔11〕のいずれか一つに記載の磁気記録テープ。
〔15〕〔1〕に記載の磁気記録テープがリールに巻き付けられた状態でケースに収容されている、磁気記録テープカートリッジ。
【符号の説明】
【0250】
T1 磁気記録テープ
1 磁性層
2 非磁性層
3 ベース層
A 補強層
4 バック層