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特許7367711燃料電池セルの製造方法および燃料電池セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】燃料電池セルの製造方法および燃料電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0286 20160101AFI20231017BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20231017BHJP
   H01M 8/0284 20160101ALI20231017BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231017BHJP
【FI】
H01M8/0286
H01M8/0273
H01M8/0284
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021023937
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126078
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新名 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 研二
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-168364(JP,A)
【文献】特開2021-9835(JP,A)
【文献】特開2016-126911(JP,A)
【文献】特開2019-117730(JP,A)
【文献】特開2020-198199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体と樹脂フレームとがシート状の熱可塑性接着剤を介して接着された燃料電池セルの製造方法であって、
前記熱可塑性接着剤として、前記膜電極接合体に対する接合性が前記樹脂フレームに対する接合性よりも良好な第1接合層と、前記樹脂フレームに対する接合性が前記膜電極接合体に対する接合性よりも良好な第2接合層と、を備えた2層接着シートを準備する準備工程と、
前記第1接合層を前記膜電極接合体に対向させ、前記第2接合層を前記樹脂フレームに対向させた状態で、前記2層接着シートを前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとの間に配置する配置工程と、
前記配置工程で前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとの間に配置された前記2層接着シートを加熱して可塑化させ、さらに可塑化した前記2層接着シートの温度を低下させて硬化させることで、前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとを前記熱可塑性接着剤を介して接着する接着工程と、
を有することを特徴とする燃料電池セルの製造方法。
【請求項2】
前記配置工程は、前記膜電極接合体の上に前記2層接着シートを載置する工程と、前記膜電極接合体の上に載置された前記2層接着シートの上に前記樹脂フレームを載置する工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項3】
前記第1接合層は、アミド基を含む熱可塑性樹脂によって構成され、
前記第2接合層は、オレフィン系の熱可塑性樹脂によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項4】
膜電極接合体と樹脂フレームとがシート状の熱可塑性接着剤を介して接着された燃料電池セルであって、
前記熱可塑性接着剤は、前記膜電極接合体に対する接合性が前記樹脂フレームに対する接合性よりも良好な第1接合層と、前記樹脂フレームに対する接合性が前記膜電極接合体に対する接合性よりも良好な第2接合層と、を備えた2層接着シートであり、
前記膜電極接合体と前記第1接合層とが接合され、前記樹脂フレームと前記第2接合層とが接合された状態で、前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとが前記2層接着シートを介して接着されていることを特徴とする燃料電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池セルの製造方法および燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から燃料電池セルの製造方法に関する発明が知られている(下記特許文献1)。特許文献1に記載された燃料電池セルの製造方法は、膜電極接合体に対してスクリーン印刷で接着剤を塗布する接着剤塗布工程を含む。このスクリーン印刷で使用される印刷版は、上記膜電極接合体の内側を印刷する部分よりも上記膜電極接合体の外側を印刷する部分の方が、メッシュ径が小さくなるように形成されている(特許文献1、要約、請求項1、第0006段落等)。この従来の燃料電池スタックの製造方法によれば、膜電極接合体と3層シートとを接着剤で接着する際に接着剤が載置台に付着してしまうことを防止することができる(同第0009段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-149886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、接着剤の塗布斑や接着剤への気泡の混入など、上記従来の燃料電池セルの製造方法のような液状の接着剤を使用する場合に発生し得る不具合を回避するために、液状の接着剤に替えて、シート状の熱可塑性接着剤を使用することが考えられる。しかしながら、シート状の熱可塑性接着剤を介して接合される膜電極接合体と樹脂フレームとは、表面性状が異なっている。そのため、シート状の熱可塑性接着剤を使用する場合、膜電極接合体と、樹脂フレームの両者に対して必要な接合強度を確保することが困難であるという課題がある。
【0005】
本開示は、表面性状が異なる膜電極接合体と樹脂フレームの両者に対して必要な接合強度を確保することが可能な燃料電池セルの製造方法および燃料電池セルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、膜電極接合体と樹脂フレームとがシート状の熱可塑性接着剤を介して接着された燃料電池セルの製造方法であって、前記熱可塑性接着剤として、前記膜電極接合体に対する接合性が前記樹脂フレームに対する接合性よりも良好な第1接合層と、前記樹脂フレームに対する接合性が前記膜電極接合体に対する接合性よりも良好な第2接合層と、を備えた2層接着シートを準備する準備工程と、前記第1接合層を前記膜電極接合体に対向させ、前記第2接合層を前記樹脂フレームに対向させた状態で、前記2層接着シートを前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとの間に配置する配置工程と、前記配置工程で前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとの間に配置された前記2層接着シートを加熱して可塑化させ、さらに可塑化した前記2層接着シートの温度を低下させて硬化させることで、前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとを前記熱可塑性接着剤を介して接着する接着工程と、を有することを特徴とする燃料電池セルの製造方法である。
【0007】
上記態様の燃料電池セルの製造方法において、前記配置工程は、前記膜電極接合体の上に前記2層接着シートを載置する工程と、前記膜電極接合体の上に載置された前記2層接着シートの上に前記樹脂フレームを載置する工程と、を含んでもよい。
【0008】
上記態様の燃料電池セルの製造方法において、前記第1接合層は、アミド基を含む熱可塑性樹脂によって構成され、前記第2接合層は、オレフィン系の熱可塑性樹脂によって構成されていてもよい。
【0009】
また、本開示の一態様は、膜電極接合体と樹脂フレームとがシート状の熱可塑性接着剤を介して接着された燃料電池セルであって、前記熱可塑性接着剤は、前記膜電極接合体に対する接合性が前記樹脂フレームに対する接合性よりも良好な第1接合層と、前記樹脂フレームに対する接合性が前記膜電極接合体に対する接合性よりも良好な第2接合層と、を備えた2層接着シートであり、前記膜電極接合体と前記第1接合層とが接合され、前記樹脂フレームと前記第2接合層とが接合された状態で、前記膜電極接合体と前記樹脂フレームとが前記2層接着シートを介して接着されていることを特徴とする燃料電池セルである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の上記態様によれば、表面性状が異なる膜電極接合体と樹脂フレームの両者に対して必要な接合強度を確保することが可能な燃料電池セルの製造方法および燃料電池セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る燃料電池セルの一実施形態を示す概略的な平面図。
図2図1の燃料電池セルのセパレータを取り外した状態を示す平面図。
図3図1のIII-III線に沿う燃料電池セルの拡大断面図。
図4】本開示に係る燃料電池セルの製造方法の一実施形態を示すフロー図。
図5図4の燃料電池セルの製造方法における配置工程の詳細を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示に係る燃料電池セルの製造方法および燃料電池セルの実施形態を説明する。以下では、まず、本開示に係る燃料電池セルの実施形態を説明し、次に、その燃料電池セルの製造方法を説明する。
【0013】
(燃料電池セル)
図1は、本開示に係る燃料電池セル1の一実施形態を示す概略的な平面図である。図2は、図1の燃料電池セル1のセパレータ5を取り外した状態を示す平面図である。図3は、図1のIII-III線に沿う燃料電池セル1の拡大断面図である。
【0014】
燃料電池セル1は、たとえば、膜電極ガス拡散層接合体(Membrane Electrode and Gas Diffusion Layer Assembly:以下、「MEGA」と略称する。)2と、樹脂フレーム3と、熱可塑性接着剤4と、カソード側セパレータ5と、アノード側セパレータ6とを備えている。図示を省略するが、複数の燃料電池セル1を積層させることで、燃料電池スタックが構成され、その燃料電池スタックを用いて燃料電池が製造される。
【0015】
MEGA2は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、「MEA」と略称する。)21と、カソード側ガス拡散層(Gas Diffusion Layer:以下、「GDL」と略称する)22と、アノード側GDL23とを含む。
【0016】
MEA21は、電解質膜21aと、カソード側触媒層21bと、アノード側触媒層21cとを含む。カソード側触媒層21bは、電解質膜21aの一方の面に接合され、アノード側触媒層21cは、電解質膜21aの他方の面に接合されている。
【0017】
電解質膜21aは、たとえば、パーフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマーなどの固体高分子材料である高分子電解質樹脂で形成され、イオン伝導性を有する高分子膜を電解質とするイオン交換膜である。電解質膜21aは、電子および気体の流通を阻止するとともに、プロトンをアノード側触媒層21cからカソード側触媒層21bに移動させる機能を有している。
【0018】
カソード側触媒層21bは、接着剤によりカソード側GDL22と接着されている。カソード側触媒層21bは、白金や白金合金などの触媒を担持した導電性の担体からなり、たとえば、触媒担持カーボン粒子などのカーボン粒子を、プロトン伝導性を有するアイオノマーで被覆して形成された電極触媒層からなる。
【0019】
アイオノマーは、電解質膜21aと同質のフッ素系樹脂などの固体高分子材料である高分子電解質樹脂からなる。アイオノマーは、イオン交換基を有することで、プロトン伝導性を有している。カソード側触媒層21bは、プロトンと電子と酸素から水を生成する機能を有している。
【0020】
アノード側触媒層21cは、カソード側触媒層21bと同様の材料で形成されているが、カソード側触媒層21bと異なり、水素ガス(H)をプロトンと電子に分解する機能を有している。アノード側触媒層21cは、カソード側触媒層21bよりも大きく形成されており、電解質膜21aを挟んで樹脂フレーム3と対向して積層される。また、アノード側触媒層21cは、電解質膜21aおよびカソード側触媒層21bを介してカソード側GDL22に対向して積層されている。
【0021】
カソード側GDL22は、ガス透過性および導電性を有する材料、例えば、カーボンペーパーなどの炭素繊維や黒鉛繊維などの多孔質の繊維基材で形成されている。カソード側GDL22は、カソード側触媒層21bの外側に接合されており、酸化剤ガスとしての空気を拡散させて均一にし、カソード側触媒層21bに行き渡らせる機能を有している。
【0022】
アノード側GDL23は、カソード側GDL22と同様に、ガス透過性および導電性を有する材料、たとえば、カーボンペーパーなどの炭素繊維や黒鉛繊維などの多孔質の繊維基材で形成されている。アノード側GDL23は、アノード側触媒層21cの外側に接合されており、燃料ガスとしての水素ガスを拡散させて均一にし、アノード側触媒層21cに行き渡らせる機能を有している。
【0023】
樹脂フレーム3は、たとえば、図2に示すように、矩形枠状に形成され、中央に矩形の開口部3aを有している。樹脂フレーム3は、たとえば、図3に示すように、コア材31と、コア材31の一方の面に形成された接着層32と、コア材31の他方の面に形成された接着層33と、を有する3層構造の3層シートである。
【0024】
コア材31の素材としては、たとえば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの熱可塑性の合成樹脂を使用することができる。接着層32,33は、たとえば、電解質膜21aよりも高い剛性、弾性、および粘性を有する。接着層32,33の素材としては、たとえば、ポリプロピレン(PP)やエポキシ樹脂からなる接着剤を使用することができる。
【0025】
樹脂フレーム3は、一方の接着層32を介してカソード側セパレータ5に接着され、もう一方の接着層33を介してアノード側セパレータ6に接着される。また、樹脂フレーム3は、熱可塑性接着剤4を介してMEGA2の端部に露出したMEA21に接着されている。樹脂フレーム3は、クロスリークや触媒電極同士の電気的短絡を防止する。クロスリークは、燃料極の水素ガス(H)や空気極の酸素ガス(O)などの微量のガスが、電解質膜21aを通過して漏洩する現象である。
【0026】
熱可塑性接着剤4は、たとえば、MEA21と樹脂フレーム3との間に配置され、これらMEA21と樹脂フレーム3とを接着している。熱可塑性接着剤4は、たとえば、樹脂フレーム3の開口部3aの形状に対応する矩形枠状または額縁状に設けられている。図3に示すように、熱可塑性接着剤4の外縁部は、樹脂フレーム3の開口部3aの外側の領域に配置されており、熱可塑性接着剤4の内縁部は、樹脂フレーム3の開口部3aの内側の領域に配置されている。
【0027】
熱可塑性接着剤4は、MEGA2の外縁部に露出したMEA21を覆っている。より詳細には、MEGA2の外縁部は、樹脂フレーム3の開口部3aの内側に配置されるMEGA2の発電部の外側の部分である。MEGA2の外縁部では、カソード側GDL22が除去されてMEA21のカソード側触媒層21bが露出している。
【0028】
熱可塑性接着剤4は、たとえば、樹脂フレーム3の開口部3aの内側の領域であるMEGA2の発電部の内側から、その発電部の外側でカソード側ガス拡散層22が除去された部分であるMEGA2の外縁部まで延びている。これにより、熱可塑性接着剤4は、樹脂フレーム3の開口部3aの内側でMEGA2の外縁部に露出した膜電極接合体21のカソード側触媒層21bの表面全体を覆っている。
【0029】
熱可塑性接着剤4は、たとえば、第1接合層41と、第2接合層42と、を備えた2層構造の2層接着シートである。熱可塑性接着剤4は、たとえば、加熱されて可塑化する前の状態では、シート状に形成されている。熱可塑性接着剤4を、樹脂フレーム3と膜電極接合体21の間に配置した状態で加熱して可塑化させ、その後に温度を低下させて硬化させることで、樹脂フレーム3と膜電極接合体21とが熱可塑性接着剤4を介して加熱溶着される。
【0030】
熱可塑性接着剤4の第1接合層41は、MEA21に対する接合性が、樹脂フレーム3に対する接合性よりも良好である。より詳細には、第1接合層41は、たとえば、MEA21のカソード側触媒層21bに対する接合性が、樹脂フレーム3の接着層33に対する接合性よりも良好である。第1接合層41は、たとえば、スルホン基と結合しやすいアミド基を含む熱可塑性樹脂によって構成されている。より具体的には、第1接合層41は、たとえば、ポリアミド系(ナイロン系)の樹脂材料を主材としている。
【0031】
熱可塑性接着剤4の第2接合層42は、樹脂フレーム3に対する接合性が、膜電極接合体21に対する接合性よりも良好である。より詳細には、第2接合層42は、たとえば、樹脂フレーム3の接着層33に対する接合性が、MEA21のカソード側触媒層21bに対する接合性よりも良好である。第2接合層42は、たとえば、オレフィン系の熱可塑性樹脂によって構成されている。より具体的には、第2接合層42は、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂材料を主材としている。なお、第1接合層41と第2接合層42との接合方法は、特に限定されない。
【0032】
カソード側セパレータ5は、鉄鋼板、ステンレス鋼板およびアルミニウム板などの金属板で形成されている。カソード側セパレータ5は、カソード側GDL22および樹脂フレーム3に接着されており、カソード側GDL22の表面に沿って酸化剤ガスとしての空気を流す酸化剤ガス流路を形成している。カソード側セパレータ5の表面は、チタン(Ti)薄膜が形成され、チタン薄膜に炭素層が形成されている。
【0033】
アノード側セパレータ6は、カソード側セパレータ5と同様、鉄鋼板、ステンレス鋼板およびアルミニウム板などの金属板で形成されている。アノード側セパレータ6は、アノード側GDL23および樹脂フレーム3に接合されており、アノード側GDL23の表面に沿って燃料ガスとしての水素を流す燃料ガス流路を形成している。アノード側セパレータ6は、カソード側セパレータ5と同様に、表面にチタン(Ti)薄膜が形成され、チタン薄膜に炭素層が形成されている。
【0034】
(燃料電池セルの製造方法)
図4は、本開示に係る燃料電池セルの製造方法の一実施形態を示すフロー図である。本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mは、MEA21と樹脂フレーム3とがシート状の熱可塑性接着剤4を介して接着された燃料電池セル1の製造方法である。本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mは、準備工程P1と、配置工程P2と、接着工程P3とを有している。
【0035】
準備工程P1は、熱可塑性接着剤4として、2層構造の2層接着シートを準備する工程である。前述のように、2層接着シートである熱可塑性接着剤4は、膜電極接合体21に対する接合性が樹脂フレーム3に対する接合性よりも良好な第1接合層41と、樹脂フレーム3に対する接合性がMEA21に対する接合性よりも良好な第2接合層42と、を備えている。熱可塑性接着剤4の準備が完了して準備工程P1が終了すると、配置工程P2が実施される。
【0036】
配置工程P2は、2層接着シートである熱可塑性接着剤4を、MEA21と樹脂フレーム3との間に配置する工程である。この配置工程P2において、熱可塑性接着剤4は、第1接合層41をMEA21に対向させ、第2接合層42を樹脂フレーム3に対向させた状態で、膜電極接合体21と樹脂フレーム3との間に配置される。
【0037】
図5は、図4の燃料電池セルの製造方法Mにおける配置工程P2の一例を示すフロー図である。配置工程P2は、たとえば、MEA21の上に2層接着シートである熱可塑性接着剤4を載置する工程P21と、MEA21の上に載置された2層接着シートである熱可塑性接着剤4の上に樹脂フレーム3を載置する工程P22と、を含む。これにより、MEA21と樹脂フレーム3との間に2層接着シートである熱可塑性接着剤4が配置される。配置工程P2の終了後は、接着工程P3が実施される。
【0038】
接着工程P3は、MEA21と樹脂フレーム3とを熱可塑性接着剤4を介して接着する工程である。この接着工程P3では、配置工程P2でMEA21と樹脂フレーム3との間に配置された2層接着シートである熱可塑性接着剤4を加熱して可塑化させ、さらに可塑化した2層接着シートの温度を低下させて硬化させる。これにより、MEA21と樹脂フレーム3とが、熱可塑性接着剤4を介して熱溶着されて接着される。
【0039】
その後、熱可塑性接着剤4を介して樹脂フレーム3が接着されたMEGA2のカソード側GDL22をカソード側セパレータ5に対向させ、MEGA2のアノード側GDL23をアノード側セパレータ6に対向させる。そして、MEGA2と、カソード側セパレータ5およびアノード側セパレータ6とを接合することで、燃料電池セル1が製造される。
【0040】
以下、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mおよび燃料電池セル1の作用を説明する。
【0041】
前記特許文献1に記載された従来の燃料電池セルの製造方法では、液状の接着剤を使用して、膜電極接合体と樹脂フレームとを接着している。しかしながら、液状の接着剤は、塗布斑や気泡の混入のおそれがある。また、接着剤に塗布斑が生じたり、気泡が混入したりすると、接着剤が部分的に欠損して、クロスリークや膜電極接合体の耐久性を低下させるおそれがある。
【0042】
このような課題を解決するために、液状の接着剤に替えて、シート状の熱可塑性接着剤を使用することが考えられる。しかしながら、シート状の熱可塑性接着剤を介して接合される膜電極接合体と樹脂フレームとは、表面性状が異なっている。そのため、シート状の熱可塑性接着剤を使用する場合、膜電極接合体と、樹脂フレームの両者に対して必要な接合強度を確保することが困難である。
【0043】
これに対し、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mは、前述のように、膜電極接合体21と樹脂フレーム3とがシート状の熱可塑性接着剤4を介して接着された燃料電池セル1の製造方法である。燃料電池セルの製造方法Mは、前述のように、準備工程P1と、配置工程P2と、接着工程P3を有している。準備工程P1は、熱可塑性接着剤4として、膜電極接合体21に対する接合性が樹脂フレーム3に対する接合性よりも良好な第1接合層41と、樹脂フレーム3に対する接合性が膜電極接合体21に対する接合性よりも良好な第2接合層42と、を備えた2層接着シートを準備する工程である。配置工程P2は、第1接合層41を膜電極接合体21に対向させ、第2接合層42を樹脂フレーム3に対向させた状態で、熱可塑性接着剤4を膜電極接合体21と樹脂フレーム3との間に配置する工程である。接着工程P3は、配置工程P2で膜電極接合体21と樹脂フレーム3との間に配置された熱可塑性接着剤4を加熱して可塑化させ、さらに可塑化した熱可塑性接着剤4の温度を低下させて硬化させることで、膜電極接合体21と樹脂フレーム3とを熱可塑性接着剤4を介して接着する工程である。
【0044】
本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mによれば、膜電極接合体21と樹脂フレーム3とを、シート状の熱可塑性接着剤4を介して熱溶着して接合することで、液状の接着剤を使用した場合に発生し得る接着剤の欠損を防止することができる。したがって、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mによれば、膜電極接合体21と樹脂フレーム3との接合に液状の接着剤を使用する場合よりも、クロスリークをより確実に防止して、膜電極接合体21の耐久性を向上させることができる。
【0045】
さらに、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mによれば、前述のように、熱可塑性接着剤4として、膜電極接合体21に対する接合性が良好な第1接合層41と、樹脂フレーム3に対する接合性が良好な第2接合層42を備えた2層接着シートを用いている。これにより、熱可塑性接着剤4は、表面性状が異なる膜電極接合体21と樹脂フレーム3の両者に対して必要な接合強度を確保することが可能となる。したがって、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mによれば、熱可塑性接着剤4を膜電極接合体21と樹脂フレーム3の両者に対して密着接合させ、電気的絶縁性を有するシールを提供することができる。
【0046】
また、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mにおいて、配置工程P2は、膜電極接合体21の上に2層接着シートとしての熱可塑性接着剤4を載置する工程P21と、膜電極接合体21の上に載置された熱可塑性接着剤4の上に樹脂フレーム3を載置する工程P22と、を含む。このような構成により、熱可塑性接着剤4の第1接合層41を膜電極接合体21に対向させ、熱可塑性接着剤4の第2接合層42を樹脂フレーム3に対向させた状態で、熱可塑性接着剤4を膜電極接合体21と樹脂フレーム3との間に配置することが容易になる。
【0047】
また、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mにおいて、熱可塑性接着剤4の第1接合層41は、アミド基を含む熱可塑性樹脂によって構成され、熱可塑性接着剤4の第2接合層42は、オレフィン系の熱可塑性樹脂によって構成されている。このような構成により、熱可塑性接着剤4の第1接合層41を膜電極接合体21に対して強固に接合し、熱可塑性接着剤4の第2接合層42を樹脂フレーム3に対して強固に接合することが可能になる。したがって、本実施形態の燃料電池セルの製造方法Mによれば、樹脂フレーム3と膜電極接合体21とが剥離するのを防止することができる。
【0048】
また、本実施形態の燃料電池セル1は、膜電極接合体21と樹脂フレーム3とがシート状の熱可塑性接着剤4を介して接着されている。熱可塑性接着剤4は、膜電極接合体21に対する接合性が樹脂フレーム3に対する接合性よりも良好な第1接合層41と、樹脂フレーム3に対する接合性が膜電極接合体21に対する接合性よりも良好な第2接合層42と、を備えた2層接着シートである。燃料電池セル1は、膜電極接合体21と第1接合層41とが接合され、樹脂フレーム3と第2接合層42とが接合された状態で、膜電極接合体21と樹脂フレーム3とが2層接着シートとしての熱可塑性接着剤4を介して接着されている。
【0049】
本実施形態の燃料電池セル1によれば、膜電極接合体21と樹脂フレーム3とが、シート状の熱可塑性接着剤4を介して熱溶着により接合されるため、液状の接着剤を使用した場合に発生し得る接着剤の欠損を防止することができる。したがって、本実施形態の燃料電池セル1によれば、膜電極接合体21と樹脂フレーム3との接合に液状の接着剤を使用する場合よりも、クロスリークをより確実に防止して、膜電極接合体21の耐久性を向上させることができる。
【0050】
さらに、本実施形態の燃料電池セル1によれば、前述のように、熱可塑性接着剤4として、膜電極接合体21に対する接合性が良好な第1接合層41と、樹脂フレーム3に対する接合性が良好な第2接合層42を備えた2層接着シートを用いている。これにより、熱可塑性接着剤4は、表面性状が異なる膜電極接合体21と樹脂フレーム3の両者に対して必要な接合強度を確保することが可能となる。したがって、本実施形態の燃料電池セル1によれば、熱可塑性接着剤4を膜電極接合体21と樹脂フレーム3の両者に対して密着接合させ、電気的絶縁性を有するシールを提供することができる。
【0051】
また、本実施形態の燃料電池セル1は、MEGA2の外縁部において、膜電極接合体21のカソード側触媒層21bが露出し、その露出したカソード側触媒層21bが熱可塑性接着剤4によって覆われている。このように、より多くの水が生成されるカソード側触媒層21bが熱可塑性接着剤4によって覆われることで、アミド結合の加水分解が抑制され、膜電極接合体21の膨潤が抑制され、MEGA2の耐久性が向上する。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、表面性状が異なる膜電極接合体21と樹脂フレーム3の両者に対して必要な接合強度を確保することが可能な燃料電池セルの製造方法Mおよび燃料電池セル1を提供することができる。
【0053】
以上、図面を用いて本開示に係る燃料電池セルの製造方法および燃料電池セルの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
1 燃料電池セル
21 膜電極接合体(MEA)
3 樹脂フレーム
4 熱可塑性接着剤(2層接着シート)
41 第1接合層
42 第2接合層
M 燃料電池セルの製造方法
P1 準備工程
P2 配置工程
P21 2層接着シートを載置する工程
P22 樹脂フレームを載置する工程
P3 接着工程
図1
図2
図3
図4
図5