(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231017BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20231017BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20231017BHJP
H01G 4/32 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B27/32 Z
B32B15/085 Z
H01G4/32 511L
(21)【出願番号】P 2021553723
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020040827
(87)【国際公開番号】W WO2021085606
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019197910
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳満 勝久
(72)【発明者】
【氏名】奥山 佳宗
(72)【発明者】
【氏名】冨永 剛史
(72)【発明者】
【氏名】藤城 義和
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/175331(WO,A1)
【文献】特開2016-195250(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044758(WO,A1)
【文献】米国特許第5015851(US,A)
【文献】特開2002-307550(JP,A)
【文献】特開2006-184874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 55/00-55/30
B32B 1/00-43/00
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、
120℃での陽電子消滅寿命測定により求められる自由体積V
F(120)が0.250nm
3以下であり、
前記120℃での陽電子消滅寿命測定により導かれる陽電子寿命スペクトルを3つの成分にピーク分離して、各ピークにおける消滅寿命時間(ns)をτ
1、τ
2及びτ
3(τ
1<τ
2<τ
3)とし、τ
1、τ
2及びτ
3に対応するピーク強度割合(%)をそれぞれI
1(120)(%)、I
2(120)(%)及びI
3(120)(%)(I
1(120)+I
2(120)+I
3(120)=100%)とした場合に、V
F(120)×I
3(120)×1/100で表される相対自由体積が0.0430nm
3以下である、コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
片面又は両面に金属膜が形成されている、請求項1に記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを備える、コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ用途に使用される二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、耐電圧性及び低い誘電損失特性等の優れた電気特性、並びに高い耐湿性を有する。これらの特性を生かして、電子及び電気機器において、例えば、高電圧コンデンサ、各種スイッチング電源、コンバータ及びインバータ等のフィルタ用コンデンサ及び平滑用コンデンサ等のコンデンサ用誘電体フィルムとして好ましく利用されている。また、ポリプロピレンフィルムは、近年需要が高まっている電気自動車及びハイブリッド自動車等の駆動モーターを制御するインバータ電源機器用コンデンサとしても利用され始めている。
【0003】
上記の中でも特に自動車用途においては、最近のSiC系パワーモジュールの拡大に伴い、デバイス内の冷却がより簡素化される傾向にある。このような冷却の簡素化により、自動車等に備え付けられるコンデンサの温度上昇が起こりやすくなるので、かかるコンデンサに対しては従来にも増して、高温下においても性能低下を起こしにくくするための技術開発が望まれている。この観点から、高温下においてもコンデンサの耐電圧性及び耐久性等を向上させるための方法が種々検討されている。
【0004】
コンデンサの耐久性及び耐熱性を向上させるための方法として、コンデンサに用いられるポリプロピレンフィルムを改良することも有効な方法であるとされている。例えば、特許文献1には、広角X線回折で測定される結晶子サイズを特定の範囲に制御したポリプロピレンフィルムを提案している。斯かるポリプロピレンフィルムは、コンデンサにおける寿命試験の絶縁抵抗値の低下率を小さくすることができるので、長期間の使用に耐え得る信頼性を有するコンデンサの作製に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のポリプロピレンフィルムでは、高温下、例えば、120℃雰囲気下における耐電圧性、耐久性及び信頼性については、近年のコンデンサ要求に見合うものではなく、依然として耐電圧性及び耐久性がさらに向上したポリプロピレンフィルムの開発が望まれていた。従って、高温下におけるコンデンサの耐電圧性、耐久性及び信頼性を向上させるべく、高温下(例えば、120℃雰囲気下)において漏れ電流を抑制でき、耐電圧性にも優れ、しかも、絶縁欠陥の発生を抑制できるポリプロピレンフィルムの開発が急務である。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下であっても、漏れ電流が抑制され、耐電圧性にも優れ、しかも、絶縁欠陥の発生が抑制されるコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム及びコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、コンデンサ用途において従来は注目されていなかったポリプロピレンフィルムの非晶領域の特性に着目し、この非晶領域の特性がポリプロピレンフィルムの電気特性と密接な関連性を有しているという、これまで認識されていなかった知見にたどり着いた。従来、コンデンサ用ポリプロピレンフィルムにおいては、主として結晶領域を制御してフィルムの電気特性の向上を図ることが行われてきたが、実際の電流の経路であると考えられている非晶領域と電気特性の関係については充分に検討されていなかった。そこで、本発明者らは、ポリプロピレンフィルムの非晶領域の構造を適切に制御したことにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
項1
コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、
120℃での陽電子消滅寿命測定により求められる自由体積VF(120)が0.250nm3以下であり、
前記120℃での陽電子消滅寿命測定により導かれる陽電子寿命スペクトルを3つの成分にピーク分離して、各ピークにおける消滅寿命時間(ns)をτ1、τ2及びτ3(τ1<τ2<τ3)とし、τ1、τ2及びτ3に対応するピーク強度割合(%)をそれぞれI1(120)(%)、I2(120)(%)及びI3(120)(%)(I1(120)+I2(120)+I3(120)=100%)とした場合に、VF(120)×I3(120)×1/100で表される相対自由体積が0.0430nm3以下である、コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項2
片面又は両面に金属膜が形成されている、項1に記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項3
項1又は2に記載のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを備える、コンデンサ。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下であっても、漏れ電流が抑制され、耐電圧性にも優れ、しかも、絶縁欠陥の発生が抑制される。従って、本発明に係るコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、コンデンサに対し、高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下においても優れた耐電圧性、耐久性及び信頼性をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】5000V
DCにおける累積の絶縁破壊点数密度を測定するために使用する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
1.コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルム
本発明のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、120℃での陽電子消滅寿命測定により求められる自由体積VF(120)が0.250nm3以下であり、相対自由体積VF(120)×I3(120)×1/100が0.0430nm3以下である。ここで、相対自由体積VF(120)×I3(120)×1/100とは、前記120℃での陽電子消滅寿命測定により導かれる陽電子寿命スペクトルを3つの成分にピーク分離して、各ピークにおける消滅寿命時間(ns)をτ1、τ2及びτ3(τ1<τ2<τ3)とし、τ1、τ2及びτ3に対応するピーク強度割合(%)をそれぞれI1(120)(%)、I2(120)(%)及びI3(120)(%)(I1(120)+I2(120)+I3(120)=100%)とした場合において、前記自由体積VF(120)と前記I3との積を100で除した値(VF(120)×I3(120)×1/100)を意味する。以下、本発明に係るコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを単に「本発明のポリプロピレンフィルム」と表記する。
【0014】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、自由体積VF(120)及び相対自由体積VF(120)×I3(120)×1/100は、測定温度120℃における陽電子消滅寿命測定により計測することができる。本発明では、陽電子消滅寿命測定は、以下の手順で行うことができる。本発明のポリプロピレンフィルムの1cm角の切断片を30枚重ねて得られる積層体を2組用意する。このとき、積層体の厚みは0.1~3.0mmの範囲となることが好ましい。次いで、陽電子線源の両面を前記2組の積層体でポリプロピレンフィルムの厚み方向に挟み、全体をアルミニウム箔で包んでサンプルを作製する。ここで、前記陽電子線源は、2枚のカプトンフィルムに22Naを挟み込んで密閉した円板片とする。陽電子消滅寿命測定で使用するシンチレータはフッ化バリウムを、オシロスコープはテレダインレクロイジャパン社製「Wave Runner 62Xi」を、光電増倍管は浜松ホトニクス社製「H6610MOD」を、光電増倍管用高圧電源は林栄精器社製「RPH-033」を用いる。陽電子消滅寿命測定において、陽電子線源としては22Naを使用する。特に本発明のポリプロピレンフィルムの120℃での自由体積VF(120)及び相対自由体積VF(120)×I3(120)×1/100を測定する場合は、測定温度は120℃、測定時間は86400秒とする。
【0015】
上記陽電子消滅寿命測定によって、消滅寿命時間(X軸)とピーク強度(Y軸)との関係を示す陽電子寿命スペクトルが得られる。かかる陽電子寿命スペクトルについて、フィッティングソフト(PALSfit)を用いて陽電子寿命スペクトルを3つの成分にピーク分離してスペクトル解析を行う。このように分離した各ピークにおける消滅寿命時間(ns)をτ1、τ2及びτ3(τ1<τ2<τ3)とし、τ1、τ2及びτ3に対応するピーク強度割合(%)をそれぞれI1(120)(%)、I2(120)(%)及びI3(120)(%)(ただし、I1(120)+I2(120)+I3(120)=100%)とする。I3(120)は「第三成分のピーク強度」と称されるパラメータである。続いて、ポリプロピレンフィルムの非晶部分の自由体積を球形と近似して、高分子の自由体積評価に利用できるo-Psの寿命時間τ3から、下記式(1)で表されるNakanishi-Jeanの式を用いて、第3成分ピークの自由体積半径R3(nm)を算出し、次いで、下記式(2)を用いて、本発明のポリプロピレンフィルムの120℃での自由体積VF(120)(nm3)を求める。本発明のポリプロピレンフィルムの120℃での相対自由体積はI3(120)とVF(120)の積を100で除することにより(つまり、VF(120)×I3(120)×1/100(nm3))により求める。
【0016】
【0017】
上記のように求められる自由体積VF(120)は、高分子(本発明ではポリプロピレン)の非晶質部分に存在する空間であって、分子鎖が自由に動ける空間のことを意味する。上記陽電子消滅寿命測定で測定される自由体積VF(120)は、本発明のポリプロピレンフィルムの平均的な自由体積の大きさを反映したものである。また、上記陽電子消滅寿命測定で測定されるピーク強度I3(120)は、自由体積VF(120)の数密度の指標であり、通常、自由体積の数密度が増加するとピーク強度I3は増加する傾向にある。相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)は、その値が大きいほど、高分子の非晶質中に存在する自由体積の総量が大きいことを意味する。
【0018】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、120℃での自由体積VFの値が0.250nm3以下、かつ、相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)が0.0430nm3以下であることで、高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下であっても、漏れ電流が抑制され、耐電圧性にも優れ、しかも、絶縁欠陥の発生が抑制される。120℃での自由体積VF(120)の値が0.250nm3を超えると、及び/又は、相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)が0.0430nm3を超えると、非晶質部分の緻密性が十分でないことから、高電界領域において非晶質部分に微小電流が流れやすくなり、漏れ電流の増加及び耐電圧性の低下が起こり、絶縁欠陥も発生しやすくなる。
【0019】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、120℃での自由体積VF(120)の値は0.230nm3以下であることが好ましく、0.220nm3以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、120℃での自由体積VF(120)の下限値は特に限定されない。高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下において優れた耐電圧性、耐久性及び信頼性を有しやすい観点から、自由体積VF(120)は0.100nm3以上であることが好ましく、0.150nm3以上であることがより好ましく、0.180nm3以上であることが特に好ましい。
【0021】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、120℃での相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)の値は0.0428nm3以下であることが好ましく、0.0425nm3以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、120℃での相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)の下限値は特に限定されない。高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下において優れた耐電圧性、耐久性及び信頼性を有しやすい観点から、相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)は0.0100nm3以上であることが好ましく、0.0200nm3以上であることがより好ましく、0.0300nm3以上であることがさらに好ましく、0.03500以上であることが特に好ましい。
【0023】
自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)を所望の範囲に調節する手段は特に制限されない。特に本発明では、後記するように本発明のポリプロピレンフィルムの製造方法において、未延伸原反シートの成形時に使用する冷却ロールの温度(後記する金属ドラム温度)、未延伸原反シートを成形する際のドラフト比、未延伸原反シートの延伸倍率(後記する最大面積倍率)、Tダイ温度、及び、エアーナイフのエア温度を適切に制御することで、本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積を容易に所望の範囲に調節することができる。詳細は、後記「2.コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法」で述べる。
【0024】
本発明のポリプロピレンフィルムはポリプロピレン樹脂を含む。好ましくは、本発明のポリプロピレンフィルムの主成分がポリプロピレン樹脂であり、より好ましくはフィルムを構成する樹脂成分がポリプロピレン樹脂である。なお、上記「主成分」とは、ポリプロピレンフィルム中に固形分換算で50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上含むことをいう。
【0025】
ポリプロピレン樹脂の種類は特に制限されず、例えば、コンデンサ用のポリプロピレンフィルムを形成するために用いられているポリプロピレン樹脂を広く使用することができる。ポリプロピレン樹脂の具体例として、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等のプロピレンホモポリマー;プロピレンとエチレンとのコポリマー;長鎖分岐ポリプロピレン;超高分子量ポリプロピレン等が挙げられる。好ましいポリプロピレン樹脂はプロピレンホモポリマーであり、耐熱性が向上しやすいという観点から、アイソタクチックポリプロピレンがより好ましく、オレフィン重合用触媒の存在下でポリプロピレンを単独重合して得られるアイソタクチックポリプロピレンがさらに好ましい。特に本発明のポリプロピレンフィルムは、立体規則性が高いポリプロピレン樹脂を含むことにより、自由体積及び相対自由体積が前述の所望の値に調節されやすい。
【0026】
本発明のポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂は、1種単独であってもよいし、異なる2種以上であってもよい。本発明のポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂が異なる2種以上である場合、それらの種類は特に限定されず、種々のポリプロピレン樹脂を組み合わせることができる。例えば、アイソタクチックポリプロピレンと、長鎖分岐ポリプロピレンとの組み合わせが挙げられる。この場合、長鎖分岐ポリプロピレンの種類は特に限定されず、例えば、コンデンサ用のポリプロピレンフィルムに用いられている公知の長鎖分岐ポリプロピレンを広く適用することができる。
【0027】
ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、25万以上45万以下であることが好ましい。このようなポリプロピレン樹脂を用いると、二軸延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、未延伸原反シートの厚みの制御が容易となる。加えて、小型かつ高容量型のコンデンサ用に適した、極薄化された二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることも容易であり、また、後記するキャスト原反シート及び本発明のポリプロピレンフィルムの厚みのムラも発生しにくくなる。ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ポリプロピレンフィルムの厚みの均一性、力学特性、熱-機械特性等の観点から、27万以上であることがより好ましく、29万以上であることがさらに好ましい。ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ポリプロピレン樹脂の流動性及び極薄化されたポリプロピレンフィルムを得る際の延伸性の観点から、40万以下であることがより好ましい。
【0028】
ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は特に制限されない。例えば、二軸延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、厚みムラのない極薄化されたプロピレンフィルムが得られやすいという点で、分子量分布の下限は3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、7以上であることがさらに好ましい。また、二軸延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、厚みムラのない極薄化されたプロピレンフィルムが得られやすいという点で、分子量分布の上限は12以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
【0029】
ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を用いて、以下の条件で測定できる。
装置:HLC-8321GPC/HT(検出器:示差屈折計(RI))(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel guardcolumnHHR(30)HT(7.5mmI.D.×7.5cm)を1本と、TSKgel GMHHR-H(20)HT(7.8mmI.D.×30cm)を3本使用(東ソー株式会社製)
溶離液:BHT(0.05%)を含む1,2,4-トリクロロベンゼンを使用(富士フィルム和光純薬製GPC用)
流速:1.0mL/分
検出条件:polarity-(-)
注入量:0.3mL
カラム温度:140℃
システム温度:40℃
試料濃度:1mg/mL
試料前処理:試料を秤量し、溶媒(0.1%のBHTを添加した1,2,4-トリクロロベンゼン)を加えて140℃で1時間振盪溶解させる。その後、0.5μmの焼結フィルタで加熱濾過する。
検量線は、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いた5次近似曲線の検量線を作成する。ただし,分子量はQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算する。得られた検量線およびSECクロマトグラムより、測定装置用の解析ソフトウェアを用いて数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得る。このMwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得ることができる。
【0030】
ポリプロピレン樹脂の、230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、延伸性等が良好になりやすい点で7g/10分以下であることが好ましく、6g/10分以下であることがより好ましい。また、本発明のポリプロピレンフィルムの厚みの精度を高める観点から、メルトフローレート(MFR)は0.3g/10分以上であることが好ましく、0.5g/10分以上であることがより好ましい。なお、前記MFRの測定方法は、JIS K 7210-1999に準拠する。
【0031】
ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分(HI)は、ポリプロピレン樹脂全量に対して95.0%以上であることが好ましく、97.0%以上であることがより好ましく、98.0%以上であることがさらに好ましい。また、ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分(HI)は、99.5%以下であることが好ましく、99.0%以下であることがより好ましい。ヘプタン不溶分が多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。ヘプタン不溶分(HI)が上記範囲であると、樹脂の結晶性が適度に向上するので高温下での耐電圧性が向上しやすく、また、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。特に、ヘプタン不溶分(HI)が上記範囲であると、本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積が所望の値に調節されやすい。ヘプタン不溶分(HI)を測定する方法は次の手順に従って行う。ポリプロピレン樹脂を10mm×35mm×0.3mmの大きさにプレス成形して約3gの測定用サンプルを作製する。次いで、測定用サンプルにヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行う。抽出前後の試料質量からヘプタン不溶分(%)を算出する。
【0032】
本発明のポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。また、本発明のポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂は、例えば、市販品等から入手することもできる。
【0033】
本発明のポリプロピレンフィルムは、添加剤を含むことができる。「添加剤」とは、一般的に、ポリプロピレン樹脂に使用される添加剤であって、本発明のポリプロピレンフィルムを得ることができる限り特に制限されることはない。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、塩素吸収剤や紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、着色剤等を挙げることができ、例えば、コンデンサ用のポリプロピレンフィルムに適用されている公知の添加剤を広く適用できる。
【0034】
本発明のポリプロピレンフィルムの灰分は、60質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、40質量ppm以下であることがさらに好ましく、30質量ppm以下が特に好ましい。ポリプロピレンフィルムの灰分が60質量ppm以下であると、電気絶縁性が低下する要因となる重合触媒残渣などの不純物が少ないので、フィルムの電気特性がより向上し、コンデンサ素子の電気特性をより向上させることができる。前記灰分は、小さければ小さいほど好ましく下限値は特に限定されないが、例えば0質量ppm以上や1質量ppm以上が好ましい。本発明のポリプロピレンフィルムの灰分の測定は下記の方法に従う。まず、試料約200gを秤量し、このうち約10g程度を白金皿へ入れて燃焼する操作を繰り返し、秤量した試料の全てを燃焼させる。燃焼させたすべての試料を電気炉によって800℃で40分間加熱することで灰化させる。このように得られる灰分残渣から灰分の割合(質量ppm)を求める。以上の操作を2回行い、その平均値を灰分(質量ppm)とする。
【0035】
本発明のポリプロピレンフィルムの定容積膨張法による乾式密度計で測定される結晶化度χcは、70.0%以上が好ましく、75.0%以上がより好ましく、79.0%以上が更に好ましく、80.0%以上が特に好ましい。また、本発明のポリプロピレンフィルムの結晶化度χcは、95.0%以下が好ましく、90.0%以下がより好ましい。本発明のポリプロピレンフィルムの結晶化度χcが上記範囲であると、本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積が所望の値に調節されやすく、高温下のフィルムの電気特性がより向上し、コンデンサ素子の電気特性をより向上させることができる。ポリプロピレンフィルムの結晶化度が大きいと、電圧印加時の電流の経路が少なくなる結果、耐電圧性能が向上する。
【0036】
本発明のポリプロピレンフィルムの結晶化度の測定は以下の手順に従う。本発明のポリプロピレンフィルムサンプルを幅10mmで切り出し、長さ方向にロール状に巻いて、直径12mm、高さ10mmのロール状サンプルを作製する。このときフィルム間に可能な限り隙間が生じないように注意する。ロール状サンプルの重量を測定した後、直径12mm、高さ12mmの試料セル内にロール状サンプルを入れ、測定装置の試料室にセットする。上記で測定したサンプル重量を装置に入力した後、測定を実施し、密度ρ(g/cm3)を得る。得られた密度ρと下記の式(3)より、ポリプロピレンフィルムの結晶化度χc(%)を算出する。
【0037】
【0038】
その他の測定条件は以下の通りとする。
測定装置:マイクロメリティックス乾式自動密度計 アキュピック II1340(株式会社島津製作所製)
測定天秤:分析天秤 XSE205DUV(メトラー・トレド株式会社製)
充填ガス:He(純度99.999%以上)
測定温度:23℃
【0039】
本発明のポリプロピレンフィルムは、コンデンサが高容量になりやすいという点で、例えば、1μm以上10μm以下の厚さを有することが好ましい。ポリプロピレンフィルムの厚さは、1.2μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましく、1.8μm以上であることが特に好ましい。また、ポリプロピレンフィルムの厚さは、8μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることがさらに好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。本発明のポリプロピレンフィルムの厚さは、外側マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製 高精度デジマチックマイクロメータ MDH-25MB)を用いて、JIS K 7130:1999 A法に準拠して測定される値である。
【0040】
本発明のポリプロピレンフィルムは、高温下(例えば、120℃)における自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)が特定の範囲であり、従来のポリプロピレンフィルムに比べて、自由体積及び相対自由体積が小さい。つまり、ポリプロピレンフィルム中の電流の経路となり得る非晶質構造の緻密性が高く、分子運動性が低くなり、その上、フィルム中の欠陥も少ない。
【0041】
この結果、本発明のポリプロピレンフィルムは、例えば、120℃において1000Vの電圧を印加したときであっても体積抵抗率が大きいので、高温かつ高電界領域の漏れ電流の発生が抑制される。これにより、本発明のポリプロピレンフィルムを適用したコンデンサは、長寿命化と信頼性の向上が期待される。例えば、本発明のポリプロピレンフィルムは、120℃、1000Vの電圧下において、体積抵抗率が、3.0×1014Ω・cm以上になり得る。本発明のポリプロピレンフィルムの120℃、1000Vの電圧下における体積抵抗率の上限は、例えば、1.0×1016Ω・cmである。体積抵抗率は高ければ高いほど好ましく、この場合、高温かつ高電界領域の漏れ電流の発生が抑制される。
【0042】
従来、フィルムの一般的な体積抵抗率の測定方法においては、測定値の精度として、桁数が信用のできる数値であり、桁数よりも詳細な数値(係数)については、誤差範囲とみなされている。なお、ポリプロピレンフィルムの体積抵抗率が3×1014Ω・cmである場合、体積抵抗率の桁数とは1014を指し、係数(詳細な数値)とは3を指す。これに対し、本発明では、120℃環境下において電位傾度143V/μmで1000Vの電圧を印加したときの体積抵抗率は、従来の桁数レベルよりも高い精度で得られる物性である。すなわち、本発明における体積抵抗率の精度は、桁数のみにとどまらず、係数にまでおよぶ。本発明における体積抵抗率の測定方法では、電位傾度を一定(本発明では、143V/μm)としている点が、精度向上の理由の1つである。
一般的に、オームの法則が成立する範囲内においては、どのような電圧で測定しても体積抵抗率は一定になる。しかしながら、オームの法則が成立しない領域(高電界領域)では、測定時の電圧に応じて体積抵抗率は、異なることになる。具体的には、測定時の電圧が高くなるほど(電位傾度が高くなるほど)、抵抗値は低くなることになる。
本発明では、電位傾度を一定として体積抵抗率を求めるため、たとえば、複数種類のフィルムの体積抵抗率を測定した場合に、従来方法では、同一桁数であるからほぼ同一の体積抵抗率であると評価されていたものについて、明確に異なる値を出すことが可能である。従来のような低い電位傾度(例えば100V/μm以下)では高電界領域の電気特性が正確に測定できないのに対し、本明細書の開示される体積抵抗率の測定方法は、上述のように精度が高いものである。
【0043】
また、本発明のポリプロピレンフィルムは、高温下での自由体積及び相対自由体積が小さいことで、例えば、120℃における直流の絶縁破壊強さが大きい。これにより、本発明のポリプロピレンフィルムを適用したコンデンサは、高温且つ高電圧印加時において耐電圧性能に優れる。例えば、本発明のポリプロピレンフィルムは、120℃での絶縁破壊強さが、500VDC/μm以上になり得る。本発明のポリプロピレンフィルムの120℃での絶縁破壊強さの上限は、例えば、700VDC/μmである。絶縁破壊強さは高ければ高いほど好ましく、この場合、高温かつ高電圧印加時おいて耐電圧性能が向上しやすい。
【0044】
また、本発明のポリプロピレンフィルムは、高温下での自由体積及び相対自由体積が小さいので緻密性が高く、例えば、絶縁欠陥の発生が抑制される。このため、本発明のポリプロピレンフィルムを適用したコンデンサにおいて、突発的に発生するショート破壊などの不良の低減が期待される。例えば、本発明のポリプロピレンフィルムは、1000VDCにおける絶縁欠陥個数が0.5個/10m2以下になり得る。本発明のポリプロピレンフィルムの1000VDCにおける絶縁欠陥個数の下限は、例えば、0.001(個/10m2)である。
【0045】
また、本発明のポリプロプレンフィルムは、高温下の自由体積及び相対自由体積が小さいので緻密性が高く、例えば、累積の絶縁破壊点数密度が低減される。このため、本発明のポリプロピレンフィルムを適用したコンデンサにおいて、貫通破壊の抑制や保安性の向上が期待される。例えば、本発明のポリプロピレンフィルムは、5000VDCにおける累積の絶縁破壊点数密度が1.0個/cm2以下になり得る。本発明のポリプロピレンフィルムの5000VDCにおける累積の絶縁破壊点数密度の下限は、例えば、0.001(個/cm2)である。
【0046】
斯かる5000VDCにおける累積の絶縁破壊点数密度の測定方法は、実施例の項で詳述する。この累積の絶縁破壊点数密度の測定方法では、絶縁破壊した箇所がセルフヒーリングするため、絶縁破壊のたびに絶縁破壊箇所が回復するので、電圧をかけ続けることができる。これにより、ポリプロピレンフィルムの最弱点箇所だけではなく、耐電圧的に弱い他の箇所も含めた耐電圧性能を評価することができるため、上記測定方法によれば、ポリプロピレンフィルムの絶縁欠陥をより高精度に評価することができる。
【0047】
以上のように、本発明のポリプロピレンフィルムは、高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下においても、優れた耐電圧性、耐久性及び信頼性を有する。従って、本発明のポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用として好適に使用することができる。本発明のポリプロピレンフィルムを用いて得られるコンデンサは、高温下において優れた耐電圧性を有し、突発的に発生するショート破壊が抑制されやすい。
【0048】
2.コンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法
本発明のポリプロピレンフィルムの製造方法は、120℃での自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)が前述の特定の値を有する限り、特に限定されない。自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)を所望の範囲に調節しやすいという点で、本発明のポリプロピレンフィルムは、未延伸原反シートを用いて製造することが好ましい。具体的に、本発明のポリプロピレンフィルムの製造方法は、未延伸原反シートを延伸処理する工程を備えることができる。以下、この製造方法を「製造方法A」と略記する。
【0049】
<未延伸原反シート>
製造方法Aで使用する未延伸原反シートを製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く適用することができる。例えば、前述したポリプロピレン樹脂を含む原料を押出成形することで、未延伸原反シートを得ることができる。未延伸原反シートを得るためのポリプロピレン樹脂は、例えば、ペレット形状とすることができ、具体的には、ポリプロピレン樹脂ペレット、ドライ混合されたポリプロピレン樹脂ペレット(及び/又は重合粉)あるいは、予め溶融混練して作製した混合ポリプロピレン樹脂ペレットを使用することができる。ポリプロピレン樹脂を含む原料に含まれるポリプロピレン樹脂は、1種単独であってもよいし、異なる2種以上であってもよい。ポリプロピレン樹脂を含む原料に含まれるポリプロピレン樹脂が異なる2種以上である場合、それらの種類は特に限定されず、種々のポリプロピレン樹脂を組み合わせることができる。例えば、アイソタクチックポリプロピレンと、長鎖分岐ポリプロピレンとの組み合わせが挙げられる。この場合、長鎖分岐ポリプロピレンの種類は特に限定されず、例えば、コンデンサ用のポリプロピレンフィルムに用いられている公知の長鎖分岐ポリプロピレンを広く適用することができる。なお、ポリプロピレン樹脂を含む原料は、その他成分を含むこともできる。ポリプロピレン樹脂以外の樹脂は、前述の「添加剤」が例示される。ポリプロピレン樹脂を含む原料の調製方法は特に限定されず、例えば、公知の混合手段を広く採用することができる。
【0050】
未延伸原反シートは、例えば、ポリプロピレン樹脂を押出機に供給して加熱溶融し、Tダイから溶融押出をし、金属ドラムで冷却及び固化させることで得られる。溶融したポリプロピレン樹脂を金属ドラムで冷却固化する際には、エアーナイフによるエアを樹脂に吹き付けることが好ましい。押出機によるポリプロピレン樹脂を溶融する際の温度(溶融温度)は、例えば、170℃以上320℃以下であり、好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは220℃以上250℃以下である。
【0051】
Tダイ温度は、Tダイと金属ドラム間の伸張による未延伸原反シートの微配向化が促進されやすい観点から、溶融温度よりも低いことが好ましい。これにより、得られる未延伸原反シートにおいて、非晶分子鎖が流れ方向に微配向しやすく、最終的に得られる本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積が所望の範囲に調節されやすい。具体的にTダイ温度は、210℃以上230℃以下であることが好ましく、215℃以上225℃以下であることがより好ましい。
【0052】
エアーナイフのエア温度は、Tダイと金属ドラム間の伸張による未延伸原反シートの微配向化が促進されやすい観点から、例えば、35℃以下にすることが好ましい。これにより、得られる未延伸原反シートにおいて、非晶分子鎖が流れ方向に微配向しやすく、最終的に得られる本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積が所望の範囲に調節されやすい。エアーナイフのエア温度は、15℃以上35℃以下であることが好ましく、20℃以上25℃以下であることがより好ましい。
【0053】
金属ドラムでの冷却にあたって、冷却温度(金属ドラム温度)は、0℃以上17℃以下とすることが好ましい。金属ドラム温度が17℃以下のように低温であると、Tダイと金属ドラム間の伸張による未延伸原反シートの微配向化が促進されやすい。そのため、得られる未延伸原反シートにおいて、非晶分子鎖が流れ方向に微配向しやすく、最終的に得られる本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積が所望の範囲に調節されやすい。金属ドラムで冷却するにあたっての冷却温度は、0℃以上17℃以下であることがより好ましく、0℃以上15℃以下であることがさらに好ましい。
【0054】
未延伸原反シートの製造において、金属ドラムの使用個数は1個又は2個以上とすることができる。
【0055】
未延伸原反シートの製造において、ドラフト比、つまり、押出速度に対する引出速度の比は、7.5以上10.0以下であることが好ましい。この場合、得られる未延伸原反シートにおいて、非晶分子鎖が流れ方向に微配向しやすく、最終的に得られる本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積が所望の範囲に調節されやすい。ドラフト比は、8.0以上9.5以下であることがさらに好ましい。ドラフト比とは、押出成形機のダイスリップ出口部での樹脂流速と、冷却成型ロール接触点での樹脂流速との比を意味する。具体的にドラフト比は、溶融樹脂の密度d(g/cm3)、ダイスリップ出口部の幅W(cm)、ダイスリップ出口部の平均スリット間隙t(cm)、樹脂吐出量Q(g/分)、冷却成形ロールの周速V(cm/分)として、下記式
ドラフト比=dVWt/Q
により計算される。
【0056】
特に本発明では、未延伸原反シートの製造において、金属ドラムでの冷却にあたっての冷却温度(金属ドラム温度)及びドラフト比の両方を上述の範囲に調節することが好ましく、この場合、得られるポリプロピレンフィルムの自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)を所望の範囲により調節しやくなる。この場合において、さらにTダイ温及びエアーナイフのエア温度も上述の範囲に調節される場合は、得られるポリプロピレンフィルムの自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)を所望の範囲により調節しやくなる。
【0057】
上記のように金属ドラムで冷却及び固化することにより、製造方法Aで使用する未延伸原反シートを得ることができる。得られる未延伸原反シートの厚みは、たとえば、0.05mm以上2mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1mm以下であることがより好ましい。
【0058】
未延伸原反シートの120℃での自由体積と相対自由体積は特に限定されない。なお、ここでは本発明のポリプロピレンフィルムの120℃での自由体積VF(120)及び相対自由体積VF(120)×I3(120)×1/100と区別するため、未延伸原反シートの自由体積をV´F(120)、相対自由体積をV´F(120)×I´3(120)×1/100とする。未延伸原反シートのV´F(120)は、0.260nm3以下であることが好ましく、相対自由体積(V´F(120)×I´3(120)×1/100)は、0.0790nm3以下であることが好ましい。この場合、ポリプロピレンフィルムの自由体積VF及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)を所望の範囲により調節しやくなる。
【0059】
未延伸原反シートの自由体積及び相対自由体積は、本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積VF(120)及び相対自由体積(I3(120)×VF(120)×1/100)と同様の測定方法及び測定条件、並びに同様の計算方法で求めることができる。なお、未延伸原反シートの陽電子消滅寿命測定では、得られる陽電子寿命スペクトルについても3つの成分にピーク分離して、各ピークにおける消滅寿命時間(ns)をτ´1、τ´2及びτ´3(τ´1<τ´2<τ´3)とし、τ´1、τ´2及びτ´3に対応するピーク強度割合(%)をそれぞれI´1(120)(%)、I´(120)2(%)及びI´3(120)(%)(I´(120)1+I´(120)2+I´(120)3=100%)とする。
【0060】
未延伸原反シートの120℃での自由体積V´F(120)の値は、0.250nm3以下であることがより好ましく、0.232nm3以下であることがさらに好ましく、0.230nm3以下であることが特に好ましく、また、0.100nm3以上であることが好ましく、0.150nm3以上であることがより好ましく、0.180nm3以上であることがさらに好ましい。未延伸原反シートの120℃での相対自由体積(V´F(120)×I´3(120)×1/100)の値は、0.0785nm3以下であることが好ましく、0.0780nm3以下であることがより好ましく、0.0750nm3以下であることがさらに好ましく、0.0730nm3以下であることが特に好ましい。また、未延伸原反シートの120℃での相対自由体積(V´F(120)×I´3(120)×1/100)の値は、0.0100nm3以上であることが好ましく、0.0200nm3以上であることがより好ましく、0.0300nm3以上であることがさらに好ましい。
【0061】
未延伸原反シートの常温(20℃)での自由体積と相対自由体積は特に限定されない。なお、ここでは未延伸原反シートの120℃での自由体積V´F(120)及び相対自由体積V´F(120)×I´3(120)×1/100と区別するため、未延伸原反シートの常温(20℃)での自由体積をV´F(20)、相対自由体積をV´F(20)×I´3(20)×1/100とする。未延伸原反シートのV´F(20)は、0.200nm3以下であることが好ましく、また、相対自由体積(V´F(20)×I´3(20)×1/100)は、0.0300nm3以下であることが好ましい。この場合、ポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積を所望の範囲により調節しやくなる。
【0062】
未延伸原反シートのV´F(20)は、0.150nm3以下であることがより好ましく、0.130nm3以下であることがさらに好ましく、0.119nm3以下であることが特に好ましい。また、未延伸原反シートのV´F(20)は、0.0100nm3以上であることが好ましく、0.0500nm3以上であることがより好ましく、0.0800nm3以上であることがさらに好ましい。未延伸原反シートの相対自由体積(V´F(20)×I´3(20)×1/100)は、0.0290nm3以下であることがより好ましく、0.0280nm3以下であることがさらに好ましく、また、0.0050nm3以上であることが好ましく、0.0100nm3以上であることがより好ましく、0.0200nm3以上であることがさらに好ましい。
【0063】
未延伸原反シートの自由体積V´F(20)及び相対自由体積(V´F(20)×I´3(20)×1/100)は、測定温度を120℃から20℃に変更すること以外は、未延伸原反シートの120℃での自由体積V´F(120)及び相対自由体積(V´F(120)×I´3(120)×1/100)と同様の測定方法及び測定条件、並びに同様の計算方法で求めることができる。
【0064】
未延伸原反シートの定容積膨張法による乾式密度計で測定される結晶化度χ´cは特に限定されず、50.0%以上が好ましく、55.0%以上がより好ましく、60.0%以上が特に好ましい。また、未延伸原反シートの結晶化度χ´cは、95.0%以下が好ましく、90.0%以下がより好ましい。未延伸原反シートの結晶化度χ´cが上記範囲であると、適度な延伸性を有し、ポリプロピレンフィルムの結晶化度χcが所望の値に調節されやすい。未延伸原反シートの結晶化度χ´cは、サンプルを作製する方法以外は全て前述のポリプロピレンフィルムの結晶化度χcと同様の方法で測定することができる。未延伸原反シートの結晶化度χ´cを測定するためのサンプルは、未延伸原反シートを直径12mmで30枚切り出し、切断シートの相互間に可能な限り隙間が生じないように、厚み約10mmに積み重ねることで得ることができる。
【0065】
未延伸原反シートの120℃における誘電正接(tanδ)は、0.123以下が好ましく、0.120以下がより好ましく、0.115以下がさらに好ましく、また、0.030以上が好ましく、0.050以上がより好ましく、0.080以上がさらに好ましく、0.090以上が特に好ましい。未延伸原反シートの120℃の誘電正接(tanδ)が0.123以下であると、高温下における非晶域の分子鎖間結合が緩み分子運動性が抑制されるので、未延伸原反シート及びポリプロピレンフィルムの高温下の絶縁破壊強さが向上し、ポリプロピレンフィルムは高温且つ高電界領域における体積抵抗率が向上し、絶縁欠陥を抑制できる。
【0066】
未延伸原反シートの120℃における非晶成分の緩和時間T2H、Cは、0.430ミリ秒以下が好ましい。この場合、高温下における非晶域の分子鎖間結合が緩み分子運動性が抑制されるので、未延伸原反シート及びポリプロピレンフィルムの高温下の絶縁破壊強さが向上し、ポリプロピレンフィルムは高温且つ高電界領域における体積抵抗率が向上し、絶縁欠陥を抑制できる。未延伸原反シートの120℃における非晶成分の緩和時間T2H、Cは、0.400ミリ秒以下がより好ましく、0.350ミリ秒以下がさらに好ましく、0.330ミリ秒以下が特に好ましい。また、未延伸原反シートの120℃における非晶成分の緩和時間T2H、Cは、0.100ミリ秒以上がより好ましく、0.200ミリ秒以上がさらに好ましく、0.300ミリ秒以上が特に好ましい。
【0067】
<未延伸原反シートの延伸処理>
製造方法Aにおいて、未延伸原反シートを延伸処理するにあたっては、縦及び横に二軸に配向させる二軸延伸を採用する。この延伸方法としては、同時又は逐次の二軸延伸法が挙げられるが、本発明では逐次二軸延伸法が好ましい。延伸処理のために使用する装置も特に限定されず、公知の延伸処理装置を広く採用することができる。例えば、研究用小型延伸機を使用してもよいし、生産用設備を使用してもよい。生産用設備を使用する場合、例えば、ロールで縦延伸をし、テンター内で横延伸する方法でポリプロピレンフィルムを製造する。研究用小型延伸機を使用する場合、テンター内で縦延伸と横延伸をする方法でポリプロピレンフィルムを製造する。いずれの延伸処理装置を使用した場合であっても、本発明のポリプロピレンフィルムを得ることができる。また、研究用小型延伸機及び生産用設備のいずれを使用する場合であっても、製膜条件は同じである。以下、生産用設備を使用した場合を例に説明する。
【0068】
製造方法Aにおいて生産用設備を使用する場合、例えば、未延伸原反シートを158℃以上168℃以下(縦延伸温度)の温度範囲内に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向(MD方向)に4.5倍以上5.5倍以下(好ましくは4.8倍以上5.4倍以下)(縦延伸倍率)に延伸し、直ちに室温に冷却する。この場合、延伸速度は、例えば、500%/秒以上700%/秒以下とする。
【0069】
引き続き、上記延伸したフィルムをテンターに導いて、158℃以上168℃以下(横延伸温度)の温度範囲内に保ち、幅方向(TD方向)に9.0倍以上12.5倍以下(好ましくは10.0倍以上12.0倍以下)(横延伸倍率)に延伸した後、緩和処理及び熱固定を施して、巻き取る。この場合、延伸速度は、例えば、200%/秒以上500%/秒とする。幅方向への延伸後の緩和処理温度は、例えば、158℃以上168℃以下であり、緩和処理時間は、例えば、1秒以上10秒以下である。また、緩和処理後の横延伸倍率は、例えば、9.5~11.0倍である。
【0070】
上記延伸処理によって、本発明のポリプロピレンフィルムが得られる。延伸後はフィルムを巻き取り、巻き取られたフィルムをエージング処理した後、所望の製品幅に断裁することができる。
【0071】
製造方法Aにおいて、未延伸原反シートを延伸処理した後の最大面積倍率は、50倍以上56倍以下とすることができる。この場合、未延伸原反シートにおいて流れ方向に微配向していた非晶分子鎖がフィルム面内で高配向となり、非晶質領域において緻密な構造が形成されやすい。これにより、ポリプロピレンフィルムの分子運動性が低くなる結果、自由体積及び相対自由体積が所望の範囲に調節されやすい。ここで、前記最大面積倍率とは、MD方向に延伸した後の縦延伸倍率(MD倍率)と、TD方向に延伸した後の横延伸倍率(TD倍率)との積を表す。ただし、横延伸倍率(TD倍率)は、横延伸工程の最大延伸倍率を意味する。
【0072】
製造方法Aにおいて、未延伸原反シートを延伸処理した後の最大面積倍率は、53倍以上であることがより好ましい。また、未延伸原反シートを延伸処理した後の最大面積倍率は、55倍以下であることがより好ましい。
【0073】
特に製造方法Aでは、前記Tダイ温度が特定の範囲であること、エアーナイフの前記エア温度が特定の範囲であること、前記最大面積倍率が特定の範囲であること、前述の未延伸原反シートの製造における金属ドラムでの冷却温度が特定の範囲であること、及びドラフト比が特定の範囲であること、のうちの少なくとも一つ以上、好ましくはすべてを兼ね備えることが好ましい。この場合、ポリプロピレンフィルムの120℃での自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)を所望の範囲に調節することが極めて容易になる。
【0074】
すなわち、本発明のポリプロピレンフィルムの製造方法では、下記の構成a)、構成b)及び構成c)、構成d)及び構成e)を少なくとも備えることが好ましい。
構成a)
未延伸原反シートの製造におけるTダイ温度が210℃以上230℃以下(好ましくは215℃以上225℃以下)であること、
構成b)
未延伸原反シートの製造におけるエアーナイフのエア温度が35℃以下(好ましくは15℃以上35℃以下、より好ましくは20℃以上25℃以下)であること、
構成c)
未延伸原反シートの製造における金属ドラムでの冷却温度が0℃以上17℃以下(好ましくは0℃以上15℃以下)であること、
構成d)
未延伸原反シートの製造におけるドラフト比が7.5以上10.0以下(好ましくは8.0以上9.5以下)であること、及び、
構成e)
未延伸原反シートを延伸処理した後の最大面積倍率が50倍以上56倍以下(好ましくは53倍以上55倍以下)であること
これらを兼ね備えることで、ポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積を所望の範囲に調節することが極めて容易になり、結果として、コンデンサに特に優れた耐電圧性、耐久性及び信頼性をもたらすことができる。
【0075】
製造方法Aで得られたポリプロピレンフィルムは、必要に応じて、表面に凹凸処理を施すこともできる。凹凸を与える方法としては、エンボス法、エッチング法等、公知の各種粗面化方法を採用することができ、中でも、不純物の混入等の必要がないβ晶を用いた粗面化法が好ましい。β晶の生成割合は、一般的には、キャスト温度(前述の金属ドラムによる冷却温度)及びキャストスピードを変更することによって制御することができる。また、縦延伸工程のロール温度によってβ晶の融解/転移割合を制御することができ、これらのβ晶生成とその融解/転移の二つのパラメータについて最適な製造条件を選択することによって微細な粗表面性を得ることができる。
【0076】
また、製造方法Aで得られたポリプロピレンフィルムには、必要に応じて、前述の緩和処理及び熱固定終了後に、オンラインもしくはオフラインにてコロナ放電処理を行うことができる。これにより、ポリプロピレンフィルムと後記する金属膜との接着性を高めることができる。コロナ放電処理は、例えば、公知の方法を広く採用できる。コロナ放電処理は、例えば、空気、炭酸ガス、窒素ガス、及びこれらの混合ガスのいずれの雰囲気下で行ってもよい。
【0077】
本発明の製造方法で得られるポリプロピレンフィルムは、高温下(例えば、120℃)における自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)が前述の特定の範囲となり、従来のポリプロピレンフィルムに比べて、自由体積及び相対自由体積が小さい。従って、本発明の製造方法で得られるポリプロピレンフィルムは、高温(例えば120℃)かつ高電圧環境下においても、優れた耐電圧性、耐久性及び信頼性を有する。
【0078】
3.コンデンサ用金属化フィルム
本発明のポリプロピレンフィルムは、片面又は両面に金属膜が形成されていてもよい。なお、本明細書において、片面又は両面に金属膜が形成されたポリプロピレンフィルムを「コンデンサ用金属化フィルム」と表記する。
【0079】
金属膜の種類は特に限定されず、例えば、通常コンデンサを製造するために使用される電極を用いることができる。具体的な電極としては、金属箔、少なくとも片面を金属化した紙及びプラスチックフィルム等を例示することができる。コンデンサの小型及び軽量化という観点から、金属膜は、本発明のポリプロピレンフィルムの片面又は両面に直接貼り合わされていることが好ましい。
【0080】
電極の種類は特に限定されず、例えば、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、及びニッケルなどの金属単体、それらの複数種の混合物、及びそれらの合金などを挙げることができる。環境面、経済性及びコンデンサ性能などを考慮し、電極は亜鉛及びアルミニウムで形成されていることが好ましい。
【0081】
本発明のポリプロピレンフィルムに金属膜を形成する方法として、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法を例示することができ、生産性及び経済性などの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法として、例えば、公知の方法を広く採用でき、例えば、るつぼ法式やワイヤー方式などを例示することができる。
【0082】
金属膜の抵抗(膜抵抗)は、コンデンサの電気特性の点から、1~100Ω/□程度が好ましい。特に、セルフヒーリング(自己修復)特性の点から、膜抵抗は5Ω/□以上であることがより好ましく、10Ω/□以上であることがさらに好ましい。また、コンデンサとしての安全性の点から、膜抵抗は50Ω/□以下であることがより好ましく、30Ω/□以下であることがさらに好ましい。膜抵抗は、例えば、当業者に既知の四端子法によって測定できる。膜抵抗の調節は、例えば、蒸発源の出力を調整して蒸発量を調整することで行うことができる。
【0083】
本発明のポリプロピレンフィルムの片面に金属膜を形成する場合、フィルムを巻回した際にコンデンサとなるように、フィルムの片方の端部から一定幅は蒸着せずに絶縁マージンが形成される。さらに、金属化ポリプロピレンフィルムとメタリコン電極との接合を強固にするため、絶縁マージンと逆の端部に、ヘビーエッジ構造を形成することも好ましい。ヘビーエッジの膜抵抗は通常1Ω/□以上8Ω/□以下程度であり、1Ω/□以上5Ω/□以下であることが好ましい。金属膜の厚さは特に限定されないが、1nm以上200nm以下が好ましい。
【0084】
形成する金属蒸着膜のマージンパターンには特に制限はないが、コンデンサの保安性等の特性を向上させる点からは、フィッシュネットパターン、Tマージンパターン等のいわゆる特殊マージンを含むパターンとすることが好ましい。特殊マージンを含むパターンで金属膜を本発明のポリプロピレンフィルムの片面に形成すると、得られるコンデンサの保安性が向上し、コンデンサの破壊、ショートの抑制等の点からも効果的であり、好ましい。
【0085】
マージンを形成する方法としては、蒸着時にテープによりマスキングを施すテープ法、オイルの塗布によりマスキングを施すオイル法等、公知の方法を何ら制限なく使用することができる。
【0086】
前記コンデンサ用金属化フィルムは、フィルムの長尺方向に沿って巻き付ける巻き付け加工を経て、後述の本発明のコンデンサに加工され得る。すなわち、前記コンデンサ用金属化フィルムを2枚1対として、金属膜とポリプロピレンフィルムとが交互に積層されるように重ね合わせて巻回する。その後、両端面に金属溶射によって一対のメタリコン電極を形成してフィルムコンデンサを作製する工程によりコンデンサが得られる。
【0087】
4.コンデンサ
本発明のコンデンサは、前述の本発明のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを備える。特には、本発明のコンデンサは、前記コンデンサ用金属化フィルムを備えることが好ましい。本発明のコンデンサのその他の構成は、本発明のポリプロピレンフィルムを備える限りは特に限定されない。例えば、本発明のポリプロピレンフィルムを備える限りは、その他の構成は公知のコンデンサと同様とすることができる。
【0088】
コンデンサを製造する工程では、フィルムの巻き付け加工が行われる。例えば、前記コンデンサ用金属化フィルムの金属膜と、本発明のポリプロピレンフィルムとが交互に積層されるように、さらには、絶縁マージン部が逆サイドとなるように、2枚1対の前記コンデンサ用金属化フィルムを重ね合わせて巻回する。この際、2枚1対のコンデンサ用金属化フィルムを1~2mmずらして積層することが好ましい。用いる巻回機は特に制限されず、例えば、株式会社皆藤製作所製の自動巻取機3KAW-N2型等を利用することができる。
【0089】
扁平型コンデンサを作製する場合、巻回後、通常、得られた巻回物に対してプレスが施される。プレスによってコンデンサの巻締まり・素子成形を促す。層間ギャップの制御・安定化を施す点から、与える圧力は、本発明のポリプロピレンフィルムの厚み等によってその最適値は変わり、例えば、2~20kg/cm2である。続いて、巻回物の両端面に金属を溶射してメタリコン電極を設けることによって、コンデンサを作製する。その後、さらに所定の熱処理が施すこともできる。例えば、コンデンサに対し、80~125℃の温度で1時間以上の真空下にて熱処理を施すこともできる(以下、「熱エージング」と称することがある)。
【0090】
コンデンサに対して熱処理を施す工程において、熱処理の温度は、通常80℃以上、好ましくは90℃以上である。また、熱処理の温度は、通常130℃以下、好ましくは125℃以下である。コンデンサの熱処理により、前記コンデンサ用金属化フィルムに基づくコンデンサを構成するフィルム間の空隙が減少し、コロナ放電が抑制され、しかも金属化フィルムの内部構造が変化して結晶化が進む。その結果、コンデンサの耐電圧性が向上し得る。
【0091】
コンデンサに対して熱処理を施す方法としては、例えば、真空雰囲気下で、恒温槽を用いる方法、高周波誘導加熱を用いる方法等が挙げられ、恒温槽を用いる方法を採用することが好ましい。熱処理の時間は、機械的及び熱的安定性の観点から、1時間以上とすることが好ましく、10時間以上とすることがより好ましいく、熱シワや型付等の成形不良を防止する点で、20時間以下とすることがより好ましい。
【0092】
熱エージングしたコンデンサのメタリコン電極には、通常、リード線が溶接される。また、耐候性を付与し、とりわけ湿度劣化を防止するため、コンデンサをケースに封入してエポキシ樹脂でポッティングすることが好ましい。
【0093】
本発明のコンデンサは、120℃における自由体積VF(120)及び相対自由体積(VF(120)×I3(120)×1/100)が特定の範囲である本発明のポリプロピレンフィルムを備えるので、高温かつ高電圧環境下においても、優れた耐電圧性、耐久性及び信頼性を有する。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0095】
ポリプロピレンフィルム及び未延伸原反シートの各物性を、下記の方法で評価した。
【0096】
(陽電子消滅寿命測定)
ポリプロピレンフィルム及び未延伸原反シートの自由体積及び相対自由体積をそれぞれ、陽電子消滅寿命測定により以下の手順で計測した。
<ポリプロピレンフィルムの120℃での自由体積及び相対自由体積>
ポリプロピレンフィルムの1cm角の切断片を30枚重ねて得られる積層体を2組用意する。このとき、積層体の厚みは約1mmとなるようにした。次いで、陽電子線源の両面を前記2組の積層体でポリプロピレンフィルムの厚み方向に挟み、全体をアルミニウム箔で包んでサンプルを作製した。前記陽電子線源は、2枚のカプトンフィルムに22Naを挟み込んで密閉した円板片とした。陽電子消滅寿命測定で使用するシンチレータはフッ化バリウムを、オシロスコープはテレダインレクロイジャパン社製「Wave Runner 62Xi」を、光電増倍管は浜松ホトニクス社製「H6610MOD」を、光電増倍管用高圧電源は林栄精器社製「RPH-033」を用いた。陽電子線源としては22Naを使用した。測定温度は120℃、測定時間は86400秒とした。
【0097】
ポリプロピレンフィルムの120℃での自由体積及び相対自由体積は次の手順で求めた。上記120℃でのポリプロピレンフィルムの陽電子消滅寿命測定によって得られた陽電子寿命スペクトルについて、フィッティングソフト(PALSfit)を用いて陽電子寿命スペクトルを3つの成分にピーク分離し、分離した各ピークにおける消滅寿命時間(ns)をτ1、τ2及びτ3(τ1<τ2<τ3)とし、τ1、τ2及びτ3に対応するピーク強度割合(%)をそれぞれI1(120)(%)、I2(120)(%)及びI3(120)(%)(ただし、I1(120)+I2(120)+I3(120)=100%)とした。続いて、ポリプロピレンフィルムの非晶部分の自由体積を球形と近似して、高分子の自由体積評価に利用できるo-Psの寿命時間τ3から、下記式(1)(前述の式(1)と同じ)で表されるNakanishi-Jeanの式を用いて、第3成分ピークの自由体積半径R3(nm)を算出した。次いで、下記式(2)(前述の式(2)と同じ)を用いて、本発明のポリプロピレンフィルムの自由体積VF(120)(nm3)及び相対自由体積VF(120)×I3(120)×1/100(nm3)を求めた。
【0098】
【0099】
<未延伸原反シートの120℃での自由体積及び相対自由体積>
未延伸原反シートの自由体積及び相対自由体積の測定では、測定に使用する積層体を未延伸原反シートの1cm角の切断片を5枚重ねることで得るようにしたこと以外は、前記ポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積の測定方法と同様の方法で、陽電子寿命スペクトルを得た。得られた陽電子寿命スペクトルについて、フィッティングソフト(PALSfit)を用いて陽電子寿命スペクトルを3つの成分にピーク分離し、分離した各ピークにおける消滅寿命時間(ns)をτ´1、τ´2及びτ´3(τ´1<τ´2<τ´3)とし、τ´1、τ´2及びτ´3に対応するピーク強度割合(%)をそれぞれI´1(120)(%)、I´2(120)(%)及びI´3(120)(%)(ただし、I´1(120)+I´2(120)+I´3(120)=100%)とした。続いて、前記ポリプロピレンフィルムの自由体積及び相対自由体積の測定方法と同様、前記式(1)で表されるNakanishi-Jeanの式を用いて、第3成分ピークの自由体積半径R´3(nm)を算出し、次いで、前記式(2)を用いて、未延伸原反シートの自由体積V´F(120)(nm3)及び相対自由体積V´F(120)×I´3(120)×1/100(nm3)を求めた。ただし、前記式(1)において、τ3をτ´3と読み替え、VF(120)をV´F(120)(nm3)と読み替え、R3をR´3(nm)と読み替えた。
【0100】
<未延伸原反シートの常温(20℃)での自由体積及び相対自由体積>
測定温度を20℃に変更したこと以外は、前記未延伸原反シートの120℃での自由体積及び相対自由体積の測定方法と同様の方法で、未延伸原反シートの自由体積V´F(20)(nm3)及び相対自由体積V´F(20)×I´3(20)×1/100(nm3)を求めた。
【0101】
未延伸原反シートの20℃での自由体積V´F(20)と相対自由体積(I´3(20)×V´F(20)×1/100)は、未延伸原反シートの120℃での自由体積V´F(120)と相対自由体積(V´F(120)×I´3(120)×1/100)と同様の算出方法で求めた。
【0102】
(固体NMR測定)
固体NMR測定により、未延伸原反シートの120℃における非晶成分の緩和時間T2Hを測定した。測定装置はブルカー・オプティクス社製「Minispec mq20」を用いた。測定条件は、観測核を1H、パルスモードをSolid-Echo法、測定温度を120℃とした。測定により得られたスピン-スピン緩和(T2H)の自由誘導減衰(FID)より、3つの成分の緩和(緩和の速い成分A:結晶相、緩和の遅い成分C:非晶相、緩和の中間成分B:結晶-非晶相界面)を分離し、下記式(4)より各成分の緩和時間T2Hを算出し、非晶成分の緩和時間T2H、Cを求めた。
【0103】
【0104】
(動的粘弾性測定)
未延伸原反シートの120℃における誘電正接tanδを動的粘弾性(DMA)測定により求めた。測定装置は、UBM社製「Rheogel-E4000」を用いた。測定サンプルは、横方向3mm×縦方向30mmに切り出して作製した。測定条件は、温度周波数依存で自動静荷重、引張モードとし、測定温度は-150℃~150℃、昇温速度3℃/min、周波数は8Hz、チャック間距離20mmで測定を行った。
【0105】
(絶縁破壊強さ)
JIS C2151(2006)17.2.2(平板電極法)記載の電極構成にて、下記の試験条件により、ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊電圧(BDV)を16回測定した。なお、昇圧中に下記の上限基準値の漏れ電流を検知した時点での印加電圧をBDVとした。BDVを、フィルムの厚み(μm)で割り、16回の測定結果中の上位2点および下位2点を除いた12点の平均値を、ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊強さ(VDC/μm)とした。測定条件の詳細は下記の通りとした。
試験片:約150mm×150mm
試験片の状態調節:乾燥機内において雰囲気条件下で30分保持
電源:直流
雰囲気:空気中、120℃
試験機:菊水電子工業社製「DC耐電圧/絶縁抵抗試験機TOS9213AS」
電圧上昇速度:100V/s
電流検出応答速度:MID
上限基準値:5mA
【0106】
(体積抵抗率)
次の手順によりポリプロピレンフィルムの体積抵抗率を測定した。まず、120℃環境の恒温槽に、体積抵抗率測定用治具(以下、単に、治具ともいう)を配置した。治具の構成は下記の通りとした。また、治具には、直流電源、直流電流計を接続した。
<体積抵抗率測定用治具>
主電極(直径50mm)
対電極(直径85mm)
主電極を囲う環状のガード電極(外径80mm、内径70mm)
【0107】
各電極は、金メッキされた銅製で、試料と接する面には導電性ゴムを貼付した。使用した導電性ゴムは、信越シリコーン社製「EC-60BL(W300)」で、導電性ゴムの光沢のある面を、金メッキされた銅と接するように貼付した。次に、ポリプロピレンフィルム(以下、試料ともいう)を23℃、50%RHの環境に24時間置いた。その後、試料を恒温槽内の治具にセットした。具体的には、試料の一方の面に、主電極、及び、ガード電極を密着させ、他方の面に対電極を密着させ、荷重5kgfで試料と各電極を密着させ、その後、30分間静置した。
【0108】
次に、試料に電位傾度約143V/μm、1000Vの電圧を印加した。なお、電圧の印加にはKeithley社製の2290-10(直流電源)を用い、電流値の測定には、Keithley社製の2635B(直流電流計)を用いた。この電圧の印加後、1分経過時点での電流値を読み取り、下記式
体積抵抗率=[(有効電極面積)×(印加電圧)]/[(試料の厚さ)×(電流値)]
により体積抵抗率を算出した。ただし、電極の有効電極面積は、下記式
(有効電極面積)=π×[[[(主電極の直径)+(ガード電極の内径)]/2]/2]2
により求めた。体積抵抗率の具体的な測定手順は上記の通りであるが、その他、特に記載のない条件はJIS C 2139-3-1:2018に準拠して測定を実施した。
【0109】
(1000VDCにおける絶縁欠陥個数)
巻出し-巻取り機構をもつ絶縁欠陥検査装置を用いて、ポリプロピレンフィルムの絶縁欠陥個数(個/10m2)を測定した。高電圧電極とアースした金属ローラの間に、試験対象のポリプロピレンフィルムを通してフィルムを走行させ、その際に直流電圧を印加し、絶縁欠陥部で生じる放電の数を装置付帯のカウンターにて計測した。計測数を測定面積で除して、フィルムの絶縁欠陥個数(個/10m2)を算出した。測定条件は、下記の通りとした。
・高電圧電極とアースした金属ローラとの間隔:50μm
・フィルムがアースした金属ローラと接する抱き角度:120°
・高電圧電極の形状:厚さ4mmで金属ローラと同じ幅の金属板
・巻出し速度:20m/min
・直流電圧:1000V
・測定面積:500m2
・試験環境温度:20℃
【0110】
(5000V
DCにおける累積の絶縁破壊点数密度)
図1に示すように下部電極1及び上部電極2を用いて、両電極間に測定用のポリプロピレンフィルムS(280mm×150mm)を挟み込み、当該フィルムSの5000V
DCにおける累積の絶縁破壊点数密度を測定した。
【0111】
まず、真鍮板(320mm×250mm)、導電性ゴム(280mm×150mm)及びアルミニウム箔(280mm×150mm)をこの順に積層することで積層体10を形成した。この積層体10のアルミニウム箔側の面上に、中央部に四角形状(100mm×10mm)の切り抜き部分(以下、当該部分を「窓」または「窓部」と表記する)を有するポリプロピレンシート11(外形は280mm×150mm)を載置して、積層体10とポリプロピレンシート11を備える下部電極1を製作した。この場合、ポリプロピレンシート11の厚みは、測定対象であるポリプロピレンフィルムSの厚みよりも充分に厚ければよいので、本測定では22μmとした。
上記のよう製作した下部電極1のポリプロピレンシート11側の面上に、測定用のポリプロピレンフィルムSを載置した。このとき、測定用のポリプロピレンフィルムSは、窓部を通じて露出している下部電極1の積層体10(具体的には、積層体のアルミニウム箔)の全面に接するようにした。
【0112】
上部電極2は、下記の手順で製作した。まず、厚さ6μmの片面にアルミニウム蒸着面22を有するポリプロピレンフィルム21(280mm×150mm、全面ベタ蒸着)を、当該蒸着面22側が前記下部電極1に載置されたポリプロピレンフィルムSと接触するように載置すると共に、ポリプロピレンフィルム21の一端を折り返すことで、ポリプロピレンフィルム21端部に蒸着面22を露出させた。ただし、露出させた蒸着面22は、前記窓部と厚み方向で重ならないようにした。次いで、この前記露出させた蒸着面22上に、円柱の真鍮電極23(直径25mm、高さ65mm)を載置することで、片面にアルミニウム蒸着面22を有するポリプロピレンフィルム21と真鍮電極23とを備える上部電極2を製作した。このようにして上部電極2及び下部電極1の間にポリプロピレンフィルムSが挟み込まれた測定装置を組み立てた。なお、この測定装置において、測定対象であるポリプロピレンフィルム、真鍮板、導電性ゴム、アルミニウム箔及びポリプロピレンシートのサイズは前記窓のサイズよりも充分に大きければ良いので、本測定では上記サイズとした。
【0113】
次いで、上記測定装置において、下部電極1の真鍮板と上部電極2の真鍮電極23とを、直流電源により電気的に接続した。そして、20℃の環境下、3200VDCの電圧を1分間印加した後、測定用ポリプロピレンフィルムSの窓部内に配置された領域における絶縁破壊箇所の数を目視で数えた。ポリプロピレンフィルムSに絶縁破壊が起こると、絶縁破壊部分は、絶縁破壊していない部分に比べて白濁状に視認されるので、当該部分を絶縁破壊箇所として、その個数をカウントした。このカウントの後、3500VDCの電圧を1分間印加した後、同様に絶縁破壊箇所の数を目視で数えた。以下、電圧を300VDCずつ上昇させて各電圧で1分間印加したときの発生する絶縁破壊箇所の数を目視で数え、この操作を5000VDCまで行ってすべての印加を終了した。すべての印加が終了した後、5000VDCまでの印加で発生した累積の絶縁破壊点数を窓の面積(100mm×10mm=10cm2)で割ることで、累積の絶縁破壊点数(個/cm2)を算出した。測定されたポリプロピレンフィルムSを別の新たなポリプロピレンフィルムSに交換し、上記と同じ手順にて累積の絶縁破壊点数(個/cm2)を算出し、計5枚の試験フィルムの測定で得られた累積の絶縁破壊点数(個/cm2)の平均値をポリプロピレンフィルムの5000VDCにおける累積の絶縁破壊点数密度とした。
【0114】
上記下部電極1及び上部電極2を用いた測定により、測定フィルムの窓と重なり合っている(対向している)領域に正確に電圧を印加でき、しかも、沿面放電が防止されるので、より高い精度でポリプロピレンフィルムの5000VDCにおける累積の絶縁破壊点数密度を測定することができる。
【0115】
(実施例1)
後掲の表1に示す製造条件にて、下記の手順で未延伸原反シートを成形し、該未延伸原反シートを用いて、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
未延伸原反シートの成形
ポリプロピレン樹脂A(ボレアリス社製、「HC300BF」)を押出機へ供給し、230℃で溶融してTダイで押出した後(Tダイ温度=225℃、エア温度=20℃)、表面温度(キャスト温度)を15℃に保持した金属ドラムにドラフト比8.1で巻きつけて冷却、固化させた。これにより、厚さ350μmの未延伸原反シート(キャスト原反シート)を得た。
【0116】
ポリプロピレンフィルムの作製
得られた未延伸原反シートを、ブルックナー社製「バッチ式二軸延伸機KARO IV」を用いた二軸延伸により、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。具体的に、165℃で予熱した後、縦延伸温度165℃、延伸速度600%/秒で縦方向(MD方向)に5.1倍に延伸した。次いで、横方向(TD方向)に延伸する前に165℃で予熱した後、横延伸温度165℃、延伸速度300%/秒で横方向(TD方向)に10.6倍に延伸することで、最大面積倍率を54.1倍とした。さらにその後、緩和処理によって横方向(TD方向)を10倍へ緩和した。緩和処理の温度は165℃、緩和処理の時間は5秒とした。これにより、厚さが7μmであるポリプロピレンフィルムが得られた。
【0117】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂Aをポリプロピレン樹脂B(大韓油化社製、「S802M」)に変更したこと以外は、実施例1と同様の製造条件にて厚さ7μmのポリプロピレンフィルムを得た。
【0118】
(実施例3)
研究用小型延伸装置の代わりに生産設備(縦延伸-ロール方式、横延伸-テンター方式)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレンフィルムを得た。得られたポリプロピレンフィルム厚さは2.0μmであった。
【0119】
(実施例4)
研究用小型延伸装置の代わりに生産設備(縦延伸-ロール方式、横延伸-テンター方式)を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてポリプロピレンフィルムを得た。得られたポリプロピレンフィルム厚さは2.0μmであった。
【0120】
(実施例5)
製造条件を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様の製造条件にて厚さ7μmのポリプロピレンフィルムを得た。
【0121】
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂Aをポリプロピレン樹脂B(プライムポリマー社製、「RF1268B」)に変更し、製造条件を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様の製造条件にて厚さ7μmのポリプロピレンフィルムを得た。
【0122】
(比較例2)
研究用小型延伸装置の代わりに生産設備(縦延伸-ロール方式、横延伸-テンター方式)を用いたこと以外は、比較例1と同様にしてポリプロピレンフィルムを得た。得られたポリプロピレンフィルム厚さは2.0μmであった。
【0123】
(比較例3~8)
製造条件を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様の製造条件にて厚さ7μmのポリプロピレンフィルムを得た。
【0124】
表1にはポリプロピレンフィルムの製造条件を示している。
【表1】
表2には、実施例及び比較例で使用したポリプロピレン樹脂の物性を示している。
【0125】
【0126】
表3は、実施例1,2及び5並びに比較例1,3-8で得られた未延伸原反シートの諸物性を示している。
【0127】
【0128】
表4は、実施例1,2及び5並びに比較例1,3-8で得られたポリプロピレンフィルムの諸物性を示している。
【0129】
【0130】
表5は、実施例3,4及び比較例2で得られたポリプロピレンフィルムの1000VDCにおける絶縁欠陥個数を示している。
【0131】
【0132】
表3および表4における「・」は、掛け算「×」を意味する。
【0133】
以上の結果から、120℃での陽電子消滅寿命測定により求められる自由体積VFが0.250nm3以下であり、相対自由体積VF(120)×I3(120)×1/100が0.0430nm3以下であるポリプロピレンフィルムは、120℃かつ高電圧環境下であっても、漏れ電流が抑制され、耐電圧性にも優れ、しかも、絶縁欠陥の発生が抑制されることがわかった(表4、表5参照)。また、表3に示す実施例と比較例との対比からもわかるように、未延伸原反シート自体の自由体積と相対自由体積等の各種物性も、所望のポリプロピレンフィルムを得る上で重要であることがわかる。特に、前述の構成a)、構成b)、構成c)、構成d)及び構成e)を少なくとも一つ以上(好ましくはすべて)満たす製造条件を採用してポリプロピレンフィルムを製造することで、所望の自由体積及び相対自由体積を有しやすいことがわかる。
【0134】
実施例で得られたポリプロピレンフィルムは、自由体積及び相対自由体積が小さいので、電流の経路となる非晶質部分の緻密性が高く、分子運動性が低くなる。これにより、オームの法則が成立しない高電界領域であっても、フィルム中の非晶質部分を流れる微小電流が流れにくくなり、結果として体積抵抗率が向上したと考えられる。また、実施例で得られたポリプロピレンフィルムは、自由体積及び相対自由体積が小さく、非晶質部分の緻密性が高いことで、高温且つ高電圧印加時において飛躍的に急増する電流が抑制されやすくなる結果、フィルムの耐電圧性が向上したと考えられる。また、実施例で得られたポリプロピレンフィルムは、自由体積及び相対自由体積が小さく、非晶質部分の緻密性が高いことで、欠陥が少ない。この結果、欠陥を起点とした破壊や電流の急増が抑制され、絶縁欠陥個数が低減されたと考えられる。