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特許7367773故障診断装置、故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】故障診断装置、故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20231017BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20231017BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
G01M17/007 H
G05B23/02 302R
B60R16/02 650J
G05B23/02 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021562478
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020037952
(87)【国際公開番号】W WO2021111727
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019220333
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】坂田 正行
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-234113(JP,A)
【文献】特開2016-215787(JP,A)
【文献】特開2004-268633(JP,A)
【文献】特開2009-243428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
G05B 23/02
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障診断装置と、当該故障診断装置からの情報を受信する対象車両とを備える故障診断システムであって、
前記故障診断装置は、
所定の速度で稼働する車両の観測データを、前記車両の正常状態を示す観測データとして受け付ける入力手段と、
前記所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、車両の正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成手段と
生成された前記特徴マスタを前記対象車両に送信する第一送信手段と含み、
前記対象車両は、
受信した前記特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて、自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を含む
ことを特徴とする故障診断システム
【請求項2】
入力手段は、速度が0で稼働する車両の観測データの入力を受け付け、
生成手段は、前記観測データの時系列の特徴を、アイドリング中の車両の正常状態を示す特徴として抽出する
請求項1記載の故障診断システム
【請求項3】
入力手段は、高速道路を予め定めた速度以上で走行する車両の観測データの入力を受け付け、
生成手段は、前記観測データの時系列の特徴を、前記速度以上で稼働する車両の正常状態を示す特徴として抽出する
請求項1記載の故障診断システム
【請求項4】
生成手段は、寒冷地、高地、傾斜地の少なくともいずれかを含む特殊な環境のもとで取得された観測データの時系列の特徴を、当該特殊な環境における車両の正常状態を示す特徴として抽出する
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の故障診断システム
【請求項5】
生成手段は、時系列の観測データを複数のセグメントに分割して部分的な時系列の観測データを生成し、前記セグメントごとに観測データの特徴を抽出して特徴マスタを生成する
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の故障診断システム
【請求項6】
入力手段は、観測データを示すCANプロトコルで規定された通信データまたはOBDで取得されるデータとの入力を受け付ける
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の故障診断システム
【請求項7】
対象車両は、故障診断装置に自対象車両の観測データを送信する第二送信手段を含み、
制御手段は、アイドリング中の観測データを取得し、
前記第二送信手段は、取得された前記観測データを故障診断装置に送信し、
故障診断装置の入力手段は、前記対象車両から送信された観測データの入力を受け付ける
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の故障診断システム。
【請求項8】
生成手段は、車両の種類ごとに特徴マスタを生成し、
第一送信手段は、車両の種類ごとに生成された前記特徴マスタのうち対象車両の種類に対応する特徴マスタを、当該対象車両に対して送信する
請求項1から請求項7のうちのいずれか1項に記載の故障診断システム。
【請求項9】
生成手段は、車両の運転手ごとに特徴マスタを生成し、
第一送信手段は、車両の運転手ごとに生成された前記特徴マスタのうち対象車両の運転手に対応する特徴マスタを、当該対象車両に対して送信する
請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の故障診断システム。
【請求項10】
所定の速度で稼働する車両の観測データを、前記車両の正常状態を示す観測データとして受け付ける入力手段と、
前記所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、車両の正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成手段と、
対象車両であって、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて、自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を備える対象車両に対して、生成された前記特徴マスタを送信する第一送信手段とを備えた
ことを特徴とする故障診断装置。
【請求項11】
コンピュータが、所定の速度で稼働する車両の観測データを、前記車両の正常状態を示す観測データとして受け付け、
前記コンピュータが、前記所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、車両の正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成し、
前記コンピュータが、対象車両であって、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて、自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を備える対象車両に対して、生成された前記特徴マスタを送信する
ことを特徴とする故障診断方法。
【請求項12】
コンピュータに、
所定の速度で稼働する車両の観測データを、前記車両の正常状態を示す観測データとして受け付ける入力処理
前記所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、車両の正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成処理、および、
対象車両であって、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて、自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を備える対象車両に対して、生成された前記特徴マスタを送信する第一送信処理
を実行させるための故障診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の故障を診断する故障診断装置、故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般的な車両には、発生した故障の内容を把握する仕組みが備わっている。具体的には、車両に故障が発生するとDTC(Diagnostic Trouble Code )が出力され、出力されたDTCを読み解くことで、車両に発生した要因(故障個所や不具合内容)を調べることが可能になる。
【0003】
一方、車両が故障した後で対応するのではなく、事前に故障の予兆を検出し、車両が故障する前に修理を行えることが好ましい。この点に関し、例えば、特許文献1には、車両が故障する時期を予測する車両故障診断装置が記載されている。特許文献1に記載された装置は、車両制御系が故障するまでの過程を時系列にあらわした故障パターンを保持し、車両の車両制御系で過去において実際に用いられた学習値の履歴と故障パターンとを比較して車両制御系の故障時期を予測する。
【0004】
また、特許文献2には、車両の種別を問わず故障診断を精度よく行う故障診断装置が記載されている。特許文献2に記載された故障診断装置は、各車両の正常時に、その車両に搭載されたセンサによって得られる正常データを取得する。そして、上記故障診断装置は、複数種別の車両から得られた複数の正常データの分布を解析し、複数の正常データの分布に基づいて、これらの正常データの分布が近づくような補正値を、車両の種別ごとに生成する。
【0005】
なお、非特許文献1には、時系列データから特徴を抽出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-53016号公報
【文献】特開2015-158421号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Dongjin Song, Ning Xia, Wei Cheng, Haifeng Chen, Dacheng Tao, "Deep r-th Root Rank Supervised Joint Binary Embedding for Multivariate Time Series Retrieval", KDD '18 Proceedings of the 24th ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery & Data Mining, pp.2229-2238, August, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
人間が感じ取ることのできる車両の異音や異臭は、故障の予兆とも言える。そのため、このような異音や異臭を検知できるようなセンサを車両に導入することで、何らかの故障の予兆を検知することは可能である。しかし、必ずしもこのような事象を検知するためのセンサが一般的な車両に備わっているわけではなく、故障を検知するために想定される全てのセンサを車両に搭載することは現実的ではない。そのため、特別なセンサ等を導入することなく、一般的な車両において収集可能な情報から、車両の故障を診断するための情報を生成できることが好ましい。
【0009】
また、特許文献1に記載された車両故障診断装置では、経過年月との関係から故障パターンを生成し、その故障パターンに基づいて故障を予測する。しかし、特許文献1に記載された装置は、経年劣化等による故障の予測ができたとしても、日常において発生し得る故障の予兆まで検知することはできない。
【0010】
また、特許文献2に記載された故障診断装置は、各車両が正常であるときに得られた運転シーンごとのセンサデータ(正常データ)の存在を前提とする。例えば、工場などのように環境変化が少ない状況では、各装置の正常データを取得できる可能性は高い。しかし、車両の場合、一概に正常な状態と言っても、その判断は難しく、走行場所などの走行シーンや、天候などの走行環境による影響を受けやすいため、正常な状態と言えるデータを取得しにくいという問題がある。
【0011】
そこで、本発明では、車両の正常状態の診断に利用可能な情報を生成できる故障診断装置、故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による故障診断装置は、所定の速度で稼働する車両の観測データを、車両の正常状態を示す観測データとして受け付ける入力手段と、所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、車両の正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成手段と、対象車両であって、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて、自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を備える対象車両に対して、生成された特徴マスタを送信する第一送信手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明による故障診断システムは、故障診断装置と、その故障診断装置からの情報を受信する対象車両とを備える故障診断システムであって、故障診断装置が、所定の速度で稼働する車両の観測データを、車両の正常状態を示す観測データとして受け付ける入力手段と、所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、車両の正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成手段と、生成された特徴マスタを対象車両に送信する第一送信手段を含み、対象車両が、受信した特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明による故障診断方法は、コンピュータが、所定の速度で稼働する車両の観測データを、車両の正常状態を示す観測データとして受け付け、コンピュータが、所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成し、コンピュータが、対象車両であって、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて、自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を備える対象車両に対して、生成された特徴マスタを送信することを特徴とする。
【0015】
本発明による故障診断プログラムは、コンピュータに、所定の速度で稼働する車両の観測データを、車両の正常状態を示す観測データとして受け付ける入力処理、所定の速度で稼働する車両の観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成処理、および、対象車両であって、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性に基づいて、自対象車両の故障の予兆を検知する制御手段を備える対象車両に対して、生成された特徴マスタを送信する第一送信処理を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両の正常状態の診断に利用可能な情報を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明による故障診断装置の一実施形態の構成例を示すブロック図である。
図2】故障診断装置の動作例を示すフローチャートである。
図3】本発明による故障診断システムの一実施形態の構成例を示すブロック図である。
図4】故障の予兆を検知する処理の例を示す説明図である。
図5】故障診断システムの動作例を示すフローチャートである。
図6】本発明による故障診断装置の概要を示すブロック図である。
図7】本発明による故障診断システムの概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0019】
実施形態1.
図1は、本発明による故障診断装置の一実施形態の構成例を示すブロック図である。本実施形態の故障診断装置100は、記憶部10と、入力部20と、生成部30と、出力部40とを備えている。
【0020】
記憶部10は、故障診断装置100が処理を行うために必要な各種情報を記憶する。また、記憶部10は、後述する入力部20が受け付けた観測データを記憶してもよい。記憶部10は、例えば、磁気ディスク等により実現される。
【0021】
入力部20は、車両内の各デバイスで時系列に観測される観測データの入力を受け付ける。デバイスの例として、エンジンや水温センサ、バッテリーなどが挙げられる。一般に、車載ネットワークにおける電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit )の通信プロトコルとして、CAN(Controller Area Network )が利用されることも多い。そこで、入力部20は、観測データとしてCANプロトコルで規定された通信データの入力を受け付けてもよい。他にも、入力部20は、観測データとしてOBD(On-board diagnostics)で取得されるデータの入力を受け付けてもよい。OBDで取得されるデータとして、エンジンの回転数や速度、バッテリーの状態、水温などが挙げられる。
【0022】
なお、本実施形態では、入力部20は、観測データを取得する環境条件を考慮し、特に、所定の速度で稼働する車両の観測データの入力を受け付ける。一態様として、入力部20は、アイドリング中の(すなわち、速度=0で駆動する)車両の観測データの入力を受け付けてもよい。アイドリング中であれば、走行による車両の環境変化は少ないと考えられるため、アイドリング時の定常状態を正常状態とみなせるからである。
【0023】
また、他の一態様として、入力部20は、予め定めた速度(例えば、時速80km)以上で高速道路を走行する車両の観測データの入力を受け付けてもよい。高速道路を走行する場合、少なからず車両の環境変化は生じるが、一般道路を走行する場合と比較して、その変化は小さい。そのため、高速道路を走行する際に取得される観測データが示す状態を正常状態とみなせるからである。
【0024】
なお、観測データの態様は任意であり、後述する生成部30が処理を行うために必要な情報に応じて、各データの態様を予め定めておけばよい。
【0025】
生成部30は、入力された観測データの時系列の特徴を正常状態を示す特徴として抽出する。そして、生成部30は、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する。入力部20に入力される観測データは、車両の正常状態を示していると考えられるからである。なお、特徴マスタは、正常状態のパターンを表わすことから、特徴マスタのことをパターンファイルと言うことができる。
【0026】
例えば、速度が0で稼働する車両の観測データの入力を入力部20が受け付けた場合、生成部30は、観測データの時系列の特徴を、アイドリング中の車両の正常状態を示す特徴として抽出してもよい。また、例えば、高速道路を予め定めた速度以上で走行する車両の観測データの入力を入力部20が受け付けた場合、生成部30は、観測データの時系列の特徴を、その速度以上で稼働する車両の正常状態を示す特徴として抽出してもよい。
【0027】
生成部30が特徴マスタを生成する方法は任意である。なお、車両で取得される観測データとの比較に特徴マスタを用いることを考慮すると、観測データの特徴をコンパクトな形態で抽出できることが好ましい。そこで、生成部30は、時系列の観測データを複数のセグメントに分割して部分的な時系列の観測データを生成し、セグメントごとに共通する特徴を抽出して、その特徴を含む特徴マスタを生成してもよい。
【0028】
また、生成部30は、時系列に取得された観測データに対して、非特許文献1に記載されている、いわゆるモデルフリー分析を行ってもよい。モデルフリー分析は、時系列に取得されるセンサ値などの観測データについて現在と過去の類似性を照合する技術であり、現在の状態が過去のいつの状態と類似しているか判定する技術である。本実施形態では、モデルフリー分析により、収集された正常状態を示す観測データが現在取得される観測データと類似しているか否かが判定される。
【0029】
具体的には、生成部30は、時系列に取得された観測データを、ディープラーニングにより学習して、システムに応じた特徴抽出エンジンを生成してもよい。そして、生成部30は、生成した特徴抽出エンジンを用いて観測データから特徴を抽出し、抽出された特徴を正常状態とする特徴マスタを生成してもよい。
【0030】
また、生成部30は、車両の種類(車種)ごとに特徴マスタを生成してもよい。正常状態は車種ごとに異なることが考えられるからである。この場合、生成部30は、同種の車両ごとに観測データをグループ化し、グループ化された観測データに対して特徴マスタを生成すればよい。
【0031】
なお、本実施形態で生成される特徴マスタは、正常状態の特徴を示すため、想定されていない正常状態を示す特徴が観測された場合、その特徴が示す状態が正常状態と判断されない可能性が高い。そこで、生成部30は、すでに作成された特徴マスタに対し、正常状態を示す特徴を新たに追加した特徴マスタを生成してもよい。生成部30は、例えば、正常状態ではないと判断され得る特徴に対して、人手で正常状態と判断された特徴を、特徴マスタに追加してもよい。
【0032】
また、一般的な環境では正常状態ではないと想定される特徴が、特殊な環境では正常状態と判断される場合がある。例えば、寒冷地では、冷却水の温度の正常値が、一般的な環境よりも低くなることが想定される。そこで、生成部30は、特殊な環境のもとで取得された観測データの時系列の特徴を、その特殊な環境における車両の正常状態を示す特徴として抽出してもよい。そして、生成部30は、その特徴を新たに追加した特徴マスタを生成してもよい。特殊な環境として、寒冷地の他、例えば、高地、傾斜地などが挙げられる。
【0033】
さらに、運転手の個性により、特殊な操作が正常状態と判断される場合がある。例えば、アイドリング時の空ぶかしを通常状態として運転手が操作を行う場合、アイドリング時にエンジンの回転数が大きく上昇する。このような状態を正常状態として判断するため、生成部30は、個人の特性に応じて取得された観測データの時系列の特徴を、その個人特有の車両の正常状態を示す特徴として抽出してもよい。
【0034】
出力部40は、生成された特徴マスタを出力する。出力部40は、特徴マスタを車両に対して送信してもよい。
【0035】
入力部20と、生成部30と、出力部40とは、プログラム(故障診断プログラム)に従って動作するコンピュータのプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit))によって実現される。例えば、プログラムは、記憶部10に記憶され、プロセッサは、そのプログラムを読み込み、プログラムに従って、入力部20、生成部30、および、出力部40として動作してもよい。また、故障診断装置100の機能がSaaS(Software as a Service )形式で提供されてもよい。
【0036】
また、入力部20と、生成部30と、出力部40とは、それぞれが専用のハードウェアで実現されていてもよい。また、各装置の各構成要素の一部又は全部は、汎用または専用の回路(circuitry )、プロセッサ等やこれらの組合せによって実現されてもよい。これらは、単一のチップによって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各装置の各構成要素の一部又は全部は、上述した回路等とプログラムとの組合せによって実現されてもよい。
【0037】
また、故障診断装置100の各構成要素の一部又は全部が複数の情報処理装置や回路等により実現される場合には、複数の情報処理装置や回路等は、集中配置されてもよいし、分散配置されてもよい。例えば、情報処理装置や回路等は、クライアントサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム等、各々が通信ネットワークを介して接続される形態として実現されてもよい。
【0038】
次に、本実施形態の動作例を説明する。図2は、本実施形態の故障診断装置100の動作例を示すフローチャートである。
【0039】
入力部20は、所定の速度で稼働する車両の観測データの入力を受け付ける(ステップS11)。生成部30は、観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する(ステップS12)。出力部40は、生成した特徴マスタを出力する(ステップS13)。
【0040】
以上のように、本実施形態では、入力部20が、所定の速度で稼働する車両の観測データの入力を受け付け、生成部30が、観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する。よって、車両の正常状態の診断に利用可能な情報(すなわち、特徴マスタ)を生成できる。
【0041】
実施形態2.
次に、本発明の第二の実施形態を説明する。第二の実施形態では、第一の実施形態で生成される特徴マスタを用いて、車両における故障の予兆を検知する方法を説明する。本実施形態では、正常状態を示す観測データを収集し、収集された観測データから生成された特徴マスタを車両に配布する形態を想定する。
【0042】
図3は、本発明による故障診断システムの一実施形態の構成例を示すブロック図である。本実施形態の故障診断システム1は、故障診断装置110と、車両200とを備えている。
【0043】
故障診断装置110と車両200とは通信回線を介して相互に接続される。また、図3に示す例では、車両200が1台記載されているが、車両200の数は1台に限定されず、2台以上であってもよい。
【0044】
車両200は、記憶部210と、制御部220と、送信部230とを含む。なお、記憶部210と、制御部220と、送信部230とを含む装置を、車両200の制御を行う車両制御装置ということができる。
【0045】
記憶部210は、車両200が処理を行うために必要な各種情報を記憶する。具体的には、記憶部210は、自車両内で観測される観測データを記憶する。さらに、記憶部210は、故障診断装置110が生成した特徴マスタを記憶する。記憶部210は、例えば、磁気ディスクやSDメモリカード等により実現される。
【0046】
制御部220は、車両200において観測される観測データを取得して記憶部210に記憶する。例えば、速度が0で稼働する車両の観測データが特徴マスタの生成に用いられる場合、制御部220は、アイドリング中の観測データを取得してもよい。
【0047】
また、本実施形態の制御部220は、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自車両で取得される観測データの特徴との類似性を判断して、故障の予兆を検知する。具体的には、制御部220は、特徴マスタを生成するもとになった観測データが取得された環境条件と同じ環境条件で取得される観測データを、その特徴マスタと比較して、特徴マスタに含まれる特徴に類似しない特徴を示す観測データが発見された場合に、故障の予兆があると判断してもよい。
【0048】
例えば、環境条件として、時速が0の時に取得された観測データをもとに特徴マスタが生成されている場合、制御部220は、時速が0の時に取得される観測データと特徴マスタとを比較する。そして、特徴マスタに含まれる特徴に類似しない特徴を示す観測データが発見された場合に、制御部220は、故障の予兆があると判断してもよい。
【0049】
なお、制御部220が観測データの特徴を抽出する方法は、生成部30が観測データの特徴を抽出する方法と同様である。
【0050】
図4は、故障の予兆を検知する処理の例を示す説明図である。制御部220は、事前に作成された特徴マスタ51と、観測データであるCANデータ52とのパターンを比較し、一致した場合(または、一定の類似度を有する場合)、車両が正常状態であると判定してもよい。また、正常状態ではないと判定された場合、制御部220は、何らかのアラートを表示装置(図示せず)に出力してもよい。
【0051】
制御部220は、例えば、非特許文献1に記載された方法を用いて時系列データセットの類似性を判断してもよい。
【0052】
なお、図4では、特徴マスタが1つの場合を例示しているが、制御部220が比較対象とする特徴マスタは、1つに限定されない。1つの特徴マスタに複数の正常状態を示す特徴を含んでいてもよく、比較対象とする特徴マスタが複数存在してもよい。特徴マスタを複数にすることで、例えば、一般的に想定される正常状態と、特殊な環境での正常状態とをそれぞれ別に管理することも可能になる。
【0053】
送信部230は、自車両200で取得された観測データを故障診断装置110に送信する。なお、記憶部210に記憶された観測データが、人手で故障診断装置110に入力されてもよい。
【0054】
故障診断装置110は、記憶部10と、入力部20と、生成部30と、出力部41とを備えている。すなわち、本実施形態の故障診断装置110は、第一の実施形態の故障診断装置100と同様の構成を有する。ただし、本実施形態の出力部41は、第一の実施形態の出力部40と比較して、車両200に特徴マスタを送信する機能が追加されている。なお、入力部20は、車両200から送信された観測データの入力を受け付けてもよい。
【0055】
出力部41は、生成された特徴マスタを車両200に送信する。このとき、出力部41は、正常状態を示す観測データを取得した車両以外の他の車両に対して、生成された特徴マスタを送信してもよい。このように、観測データが収集された車両以外の車両200に特徴マスタを送信することで、他の車両200において故障の予兆を検知することが可能になる。
【0056】
また、生成部30が、車両の種類ごとに特徴マスタを生成している場合、出力部41は、同一の種類の車両に対して対応する特徴マスタを送信してもよい。正常状態を示す特徴は、同種の車両で観測される特徴と類似する可能性が高いため、これにより、故障の予兆を検知する精度を向上させることが可能になる。また、生成部30が、個人の特性に応じた特徴マスタを生成している場合、出力部41は、その個人が運転する車両に対して特徴を送信してもよい。
【0057】
制御部220と、送信部230とは、プログラム(制御プログラム)に従って動作するコンピュータのプロセッサによって実現される。また、入力部20と、生成部30と、出力部41とは、プログラム(故障診断プログラム)に従って動作するコンピュータのプロセッサによって実現される。
【0058】
次に、本実施形態の動作例を説明する。図5は、本実施形態の故障診断システム1の動作例を示すフローチャートである。故障診断装置110が特徴マスタを生成するまでの処理は、図2に例示するステップS11からステップS12までの処理と同様である。出力部41は、生成された特徴マスタを車両200に送信する(ステップS21)。
【0059】
車両200の制御部220は、故障診断装置110から受信した特徴マスタを車両200内の記憶部210に記憶する(ステップS22)。また、制御部220は、自車両における観測データを随時取得し(ステップS23)、特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、取得した観測データの特徴との類似性を判断する(ステップS24)。両者が類似しないと判断された場合(ステップS24におけるNo)、制御部220は、故障の予兆を検知した旨のアラートを出力する(ステップS25)。一方、両者が類似すると判断された場合(ステップS24におけるYes)、観測データを取得するステップS23以降の処理を繰り返す。
【0060】
以上のように、本実施形態では、第一の実施形態の構成に加え、出力部41が、生成された特徴マスタを車両200に送信し、車両200の制御部220が、受信した特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自車両で取得される観測データとの類似性を判断して、故障の予兆を検知する。よって、第一の実施形態の効果に加え、車両の故障の予兆をリアルタイムで判断することが可能になる。
【0061】
次に、本発明の概要を説明する。図6は、本発明による故障診断装置の概要を示すブロック図である。本発明による故障診断装置80(例えば、外観検査装置100)は、所定の速度で稼働する車両の観測データの入力を受け付ける入力部81(例えば、入力部20)と、観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成部82(例えば、生成部30)とを備えている。
【0062】
そのような構成により、車両の正常状態の診断に利用可能な情報を生成できる。
【0063】
具体的には、入力部81は、速度が0で稼働する(例えば、アイドリング状態の)車両の観測データの入力を受け付け、生成部82は、観測データの時系列の特徴を、アイドリング中の車両の正常状態を示す特徴として抽出してもよい。
【0064】
他にも、入力部81は、高速道路を予め定めた速度(例えば、時速80km)以上で走行する車両の観測データの入力を受け付け、生成部82は、観測データの時系列の特徴を、上記速度以上で稼働する車両の正常状態を示す特徴として抽出してもよい。
【0065】
また、生成部82は、特殊な環境のもと(例えば、寒冷地など)で取得された観測データの時系列の特徴を、その特殊な環境における車両の正常状態を示す特徴として抽出してもよい。
【0066】
図7は、本発明による故障診断システムの概要を示すブロック図である。本発明による故障診断システム70(例えば、故障診断システム1)は、上述する故障診断装置80と、故障診断装置80からの情報を受信する対象車両90(例えば、車両200)とを備えている。
【0067】
故障診断装置80は、さらに、生成された特徴マスタを対象車両90に送信する第一送信部83(例えば、出力部41)を含む。対象車両90は、受信した特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両90で取得される観測データの特徴との類似性を判断して、故障の予兆を検知する制御部91(例えば、制御部220)を含む。
【0068】
そのような構成によっても、収集された車両の故障データから、故障の予兆を診断するための情報を生成でき、さらに、車両の故障の予兆をリアルタイムで判断することが可能になる。
【0069】
また、対象車両90は、故障診断装置80に自対象車両90の観測データを送信する第二送信部(例えば、送信部230)を含んでいてもよい。また、制御部91は、アイドリング中の観測データを取得し、第二送信部は、取得された観測データを故障診断装置80に送信してもよい。そして、故障診断装置80の入力部81は、対象車両90から送信された観測データの入力を受け付けてもよい。
【0070】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0071】
(付記1)所定の速度で稼働する車両の観測データの入力を受け付ける入力部と、前記観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成部とを備えたことを特徴とする故障診断装置。
【0072】
(付記2)入力部は、速度が0で稼働する車両の観測データの入力を受け付け、生成部は、前記観測データの時系列の特徴を、アイドリング中の車両の正常状態を示す特徴として抽出する付記1記載の故障診断装置。
【0073】
(付記3)入力部は、高速道路を予め定めた速度以上で走行する車両の観測データの入力を受け付け、生成部は、前記観測データの時系列の特徴を、前記速度以上で稼働する車両の正常状態を示す特徴として抽出する付記1記載の故障診断装置。
【0074】
(付記4)生成部は、特殊な環境のもとで取得された観測データの時系列の特徴を、当該特殊な環境における車両の正常状態を示す特徴として抽出する付記1から付記3のうちのいずれか1つに記載の故障診断装置。
【0075】
(付記5)生成部は、時系列の観測データを複数のセグメントに分割して部分的な時系列の観測データを生成し、前記セグメントごとに観測データの特徴を抽出して特徴マスタを生成する付記1から付記4のうちのいずれか1つに記載の故障診断装置。
【0076】
(付記6)入力部は、観測データを示すCANプロトコルで規定された通信データまたはOBDで取得されるデータとの入力を受け付ける付記1から付記5のうちのいずれか1つに記載の故障診断装置。
【0077】
(付記7)付記1から付記6のうちのいずれか1つに記載の故障診断装置と、前記故障診断装置からの情報を受信する対象車両とを備え、前記故障診断装置は、生成された特徴マスタを前記対象車両に送信する第一送信部を含み、前記対象車両は、受信した特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で取得される観測データの特徴との類似性を判断して、故障の予兆を検知する制御部を含むことを特徴とする故障診断システム。
【0078】
(付記8)対象車両は、故障診断装置に自対象車両の観測データを送信する第二送信部を含み、制御部は、アイドリング中の観測データを取得し、前記第二送信部は、取得された前記観測データを故障診断装置に送信し、故障診断装置の入力部は、前記対象車両から送信された観測データの入力を受け付ける付記7記載の故障診断システム。
【0079】
(付記9)制御部は、特徴マスタを生成するもとになった観測データが取得された環境条件と同じ環境条件で取得される観測データを当該特徴マスタと比較し、前記特徴マスタに含まれる特徴に類似しない特徴を示す観測データが発見された場合に、故障の予兆があると判断する付記7または付記8記載の故障診断システム。
【0080】
(付記10)生成部は、車両の種類ごとに特徴マスタを生成し、送信部は、同一の種類の対象車両に対して対応する特徴マスタを送信する付記7から付記9のうちのいずれか1つに記載の故障診断システム。
【0081】
(付記11)コンピュータが、所定の速度で稼働する車両の観測データの入力を受け付け、前記コンピュータが、前記観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成することを特徴とする故障診断方法。
【0082】
(付記12)コンピュータが、速度が0で稼働する車両の観測データの入力を受け付け、前記コンピュータが、前記観測データの時系列の特徴を、アイドリング中の車両の正常状態を示す特徴として抽出する付記11記載の故障診断方法。
【0083】
(付記13)コンピュータが、生成された特徴マスタを対象車両に送信し、前記対象車両が、受信した特徴マスタに含まれる観測データの特徴と、自対象車両で随時取得される観測データの特徴との類似性を判断して、故障の予兆を検知する付記11または付記12記載の故障診断方法。
【0084】
(付記14)コンピュータに、所定の速度で稼働する車両の観測データの入力を受け付ける入力処理、および、前記観測データの時系列の特徴を、正常状態を示す特徴として抽出し、抽出された特徴をもとに車両の正常状態を示す特徴マスタを生成する生成処理を実行させるための故障診断プログラム。
【0085】
(付記15)コンピュータに、入力処理で、速度が0で稼働する車両の観測データの入力を受け付けさせ、生成処理で、前記観測データの時系列の特徴を、アイドリング中の車両の正常状態を示す特徴として抽出させる付記14記載の故障診断プログラム。
【0086】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0087】
この出願は、2019年12月5日に出願された日本特許出願2019-220333を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0088】
1 故障診断システム
10 記憶部
20 入力部
30 生成部
40,41 出力部
100,110 故障診断装置
200 車両
210 記憶部
220 制御部
230 送信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7