(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】誘電体薄膜形成用液状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20231017BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20231017BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20231017BHJP
C04B 35/47 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C01G23/00 C
H01B3/12 303
C04B35/468 200
C04B35/47
(21)【出願番号】P 2022081080
(22)【出願日】2022-05-17
(62)【分割の表示】P 2018011181の分割
【原出願日】2018-01-26
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼内 直人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-073830(JP,A)
【文献】特開2005-075715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
H01B 3/00
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BST誘電体薄膜を形成するための誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法において、
バリウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機バリウム化合物を調製する工程と、
ストロンチウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機ストロンチウム化合物を調製する工程と、
前記有機バリウム化合物と前記有機ストロンチウム化合物とを混合し減圧蒸留して有機バリウムストロンチウム化合物を調製する工程と、
前記有機バリウムストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより誘電体薄膜形成用液状組成物を得る工程と
を含む誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法であって、
前記減圧蒸留を0.015MPa~0.02MPaの絶対圧力で130℃~170℃の温度に1時間~5時間保持して行うことを特徴とする誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法。
【請求項2】
BST誘電体薄膜を形成するための誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法において、
バリウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機バリウム化合物を調製する工程と、
前記有機バリウム化合物を減圧蒸留する工程と、
ストロンチウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機ストロンチウム化合物を調製する工程と、
前記有機ストロンチウム化合物を減圧蒸留する工程と、
前記減圧蒸留した有機バリウム化合物と前記減圧蒸留した有機ストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより誘電体薄膜形成用液状組成物を得る工程と
を含む誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法であって、
前記減圧蒸留を0.015MPa~0.02MPaの絶対圧力で130℃~170℃の温度に1時間~5時間保持して行うことを特徴とする誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法により製造された誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項4】
前記液状組成物が減圧蒸留された有機バリウムストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとの混合物由来であり、かつ前記液状組成物中の水分の含有割合が0.08質量%~0.5質量%であり、前記液状組成物の調製直後の粘度を100%とするとき、前記液状組成物を調製してから1月経過後の粘度の変化率が-10%~+10%の範囲内である請求項3記載の誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項5】
前記液状組成物が、一般式:Ba
1-x
Sr
x
Ti
y
O
3
(0.2<x<0.6、0.9<y<1.1)で示される請求項3記載の誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項6】
前記液状組成物を100質量%とするとき、前記液状組成物中のアルコールの含有割合が0.05質量%~0.15質量%である請求項3記載の誘電体薄膜形成用液状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BST(チタン酸バリウムストロンチウム)誘電体薄膜を形成するための液状組成物と、この液状組成物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機バリウム化合物、有機ストロンチウム化合物及びチタンアルコキシドを、モル比がBa:Sr:Ti=1-x:x:yとなるように有機溶媒中に溶解してなるBa1-xSrxTiyO3薄膜形成用組成物を支持体上に塗布して乾燥し、塗膜を形成した後、この塗膜が形成された支持体を焼成することにより、組成がBa1-xSrxTiyO3の誘電体薄膜を形成する誘電体薄膜の形成方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この誘電体薄膜の形成方法では、塗布から焼成までの工程は2~9回行い、初回の焼成後に形成される薄膜の厚さは20~80nmとし、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは20~200nm未満とする。また、初回から2~9回までのそれぞれの焼成は大気圧雰囲気下、昇温速度1~50℃/分で500~800℃の範囲内の所定の温度まで昇温させることにより行い、誘電体薄膜の総厚を100~600nmとし、誘電体薄膜の組成を示すx及びyの値は0.2<x<0.6、かつ0.9<y<1.1とする。
【0003】
このように構成された誘電体薄膜の形成方法では、誘電体薄膜の縦断面において柱状晶が膜厚方向を縦にして複数並んだ微細組織を有する誘電体薄膜を形成することができる。この結果、この誘電体薄膜を用いて形成される薄膜キャパシタ等において、非常に高いチューナビリティを発現させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-73960号公報(請求項1、段落[0014]、[0036])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の特許文献1の誘電体薄膜形成用組成物は、有機バリウム化合物として2-エチルヘキサン酸Baを用意し、有機ストロンチウム化合物として2-エチルヘキサン酸Srを用意し、チタンアルコキシドとしてチタンイソプロポキシドを用意して、これらをBa、Sr、Tiのモル比が45:55:100となるように酢酸イソアミルに溶解することにより調製される。
【0006】
しかし、上記従来の特許文献1には、誘電体薄膜形成用組成物の保存安定性については何も記載されておらず、誘電体薄膜形成用組成物を購入又は製造してから長期間保存しておくと、その品質が変化するおそれがあった。また、購入後又は製造後、品質が長期間にわたって変化しない誘電体薄膜形成用組成物の要望もあった。
【0007】
本発明の目的は、長期間保存しておいても品質が変化せず、保存安定性を向上できる、誘電体薄膜形成用液状組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願人らが、鋭意研究を重ねた結果、誘電体薄膜形成用液状組成物の保存安定性に水分量が影響していることが分かり、この水分量を減圧蒸留により制御したところ、誘電体薄膜形成用液状組成物の保存安定性が向上し、本発明をなすに至った。
【0013】
本発明の第1の観点は、BST誘電体薄膜を形成するための誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法において、バリウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機バリウム化合物を調製する工程と、ストロンチウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機ストロンチウム化合物を調製する工程と、有機バリウム化合物と有機ストロンチウム化合物とを混合し減圧蒸留して有機バリウムストロンチウム化合物を調製する工程と、有機バリウムストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより誘電体薄膜形成用液状組成物を得る工程とを含む誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法であって、上記減圧蒸留を0.015MPa~0.02MPaの絶対圧力で130℃~170℃の温度に1時間~5時間保持して行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の観点は、BST誘電体薄膜を形成するための誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法において、バリウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機バリウム化合物を調製する工程と、有機バリウム化合物を減圧蒸留する工程と、ストロンチウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機ストロンチウム化合物を調製する工程と、有機ストロンチウム化合物を減圧蒸留する工程と、上記減圧蒸留した有機バリウム化合物と上記減圧蒸留した有機ストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより誘電体薄膜形成用液状組成物を得る工程とを含む誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法であって、上記減圧蒸留を0.015MPa~0.02MPaの絶対圧力で130℃~170℃の温度に1時間~5時間保持して行うことを特徴とする。
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく方法により製造された誘電体薄膜形成用液状組成物である。
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、前記液状組成物が減圧蒸留された有機バリウムストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとの混合物由来であり、かつ前記液状組成物中の水分の含有割合が0.08質量%~0.5質量%であり、前記液状組成物の調製直後の粘度を100%とするとき、前記液状組成物を調製してから1月経過後の粘度の変化率が-10%~+10%の範囲内である誘電体薄膜形成用液状組成物である。
本発明の第5の観点は、第3の観点に基づく発明であって、前記液状組成物が、一般式:Ba
1-x
Sr
x
Ti
y
O
3
(0.2<x<0.6、0.9<y<1.1)で示される誘電体薄膜形成用液状組成物である。
本発明の第6の観点は、第3の観点に基づく発明であって、前記液状組成物を100質量%とするとき、前記液状組成物中のアルコールの含有割合が0.05質量%~0.15質量%である誘電体薄膜形成用液状組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の観点の誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法では、有機バリウム化合物と有機ストロンチウム化合物とを混合し減圧蒸留して有機バリウムストロンチウム化合物を調製し、上記減圧蒸留を0.015MPa~0.02MPaの絶対圧力で130℃~170℃の温度に1時間~5時間保持して行ったので、この減圧蒸留された有機バリウムストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより得られた誘電体薄膜形成用液状組成物には、極めて僅かな水分しか含まれない。この結果、液状組成物中の水分に起因する水酸化物や酸化物の生成を抑制できるので、液状組成物を長期間保存しておいても品質が変化せず、保存安定性を向上できる。
【0018】
本発明の第2の観点の誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法では、有機バリウム化合物と有機ストロンチウム化合物をそれぞれ別個に上記所定の条件で減圧蒸留したので、第4の観点の製造方法より工数が増えるけれども、上記減圧蒸留した有機バリウム化合物と上記減圧蒸留した有機ストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより得られた誘電体薄膜形成用液状組成物には、極めて僅かな水分しか含まれない。この結果、上記と同様に、液状組成物中の水分に起因する水酸化物や酸化物の生成を抑制できるので、液状組成物を長期間保存しておいても品質が変化せず、保存安定性を向上できる。
本発明の第4の観点の誘電体薄膜形成用液状組成物では、この液状組成物中の水分の含有割合が0.08質量%~0.5質量%であるので、液状組成物中の水分に起因する水酸化物や酸化物の生成が抑制される。この結果、液状組成物を長期間保存しておいても品質が変化せず、保存安定性を向上できる。
本発明の第5の観点の誘電体薄膜形成用液状組成物では、この液状組成物が一般式:Ba
1-x
Sr
x
Ti
y
O
3
(0.2<x<0.6、0.9<y<1.1)で示されるので、この液状組成物を用いて形成された誘電体薄膜の誘電損失を低減でき、チューナビリティの低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明第1実施形態の誘電体薄膜形成用液状組成物の製造手順を示すフローチャート図である。
【
図2】本発明第2実施形態の誘電体薄膜形成用液状組成物の製造手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
<第1の実施の形態>
図1に示すように、BST(チタン酸バリウムストロンチウム)誘電体薄膜を形成するための誘電体薄膜形成用液状組成物は、一般式:Ba
1-xSr
xTi
yO
3(0.2<x<0.6、0.9<y<1.1)で示される複合金属酸化物の薄膜を形成するための液状組成物である。この液状組成物中の水分の含有割合は、0.08質量%~0.5質量%、好ましくは0.08質量%~0.20質量%である。ここで、液状組成物中の水分の含有割合を0.08質量%~0.5質量%の範囲内に限定したのは、アスピレータを高性能化して長時間減圧状態に保持しても水分の含有割合を0.08質量%未満にすることが難しく、0.5質量%を超えると液状組成物の保存安定性が低下するからである。また、上記一般式中のx値が上記一般式を満たすように原料割合を調整する理由は、x値が0.2以下では誘電損失の増加が生じ、一方、0.6以上になるとチューナビリティの低下を生じるからである。更に、上記一般式中のy値が上記範囲になるように原料割合を調整する理由は、y値が0.9以下又は1.1以上になるとチューナビリティの低下を生じるからである。なお、「チューナビリティ(tunability)」とは、静電容量の可変性又は変化率をいう。
【0022】
一方、液状組成物の調製直後の粘度を100%とするとき、液状組成物を調製してから1月経過後の粘度の変化率は、-10%~+10%の範囲内であることが好ましく、-3%~+3%の範囲内であることが更に好ましい。また、液状組成物を100質量%とするとき、液状組成物中のアルコールの含有割合は、0.05質量%~0.15質量%であることが好ましく、0.8質量%~1.2質量%であることが更に好ましい。ここで、液状組成物を調製してから1月経過後の粘度の変化率を-10%~+10%の範囲内に限定したのは、-10%未満では成膜時に膜厚の均一性が低下する不具合があり、+10%を超えると成膜時に膜厚の均一性が低下する不具合があるからである。また、液状組成物中のアルコールの含有割合を0.05質量%~0.15質量%の範囲内に限定したのは、0.05質量%未満又は0.15質量%を超えると液状組成物の保存安定性が低下するからである。
【0023】
このように構成された誘電体薄膜形成用液状組成物では、液状組成物中の水分の含有割合が、この液状組成物を100質量%とするときに、0.08質量%~0.5質量%であるので、液状組成物中の水分に起因する水酸化物や酸化物の生成が抑制される。この結果、液状組成物を長期間保存しておいても品質が変化せず、保存安定性を向上できる。
【0024】
このように構成された誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法を説明する。先ず、バリウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機バリウム化合物を調製し、ストロンチウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機ストロンチウム化合物を調製する。バリウム化合物としては、炭酸バリウム、水酸化バリウム等が挙げられ、ストロンチウム化合粒としては、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられ、脂肪酸としては、エイコサン酸、ドコサン酸、2-エチルヘキサン酸、オレイン酸等が挙げられる。また、上記還流は、窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中で130℃~170℃の温度に1.0時間~5.0時間保持することにより行うことが好ましい。ここで、還流の温度を130℃~170℃の範囲内に限定し、還流の時間を1.0時間~5.0時間の範囲内に限定したのは、上記範囲外では液の相分離や金属の過重合等の合成不良が生じてしまうからである。更に、上記有機バリウム化合物の水分量は6.0質量%以下であることが好ましく、上記有機ストロンチウム化合物の水分量は6.0質量%以下であることが好ましい。有機バリウム化合物の水分量及び有機ストロンチウム化合物の水分量が6.0質量%を超えると水分が過剰になってしまうからである。有機バリウム化合物及び有機ストロンチウム化合物の水分量は、それぞれ4.0質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
次いで、有機バリウム化合物と有機ストロンチウム化合物とを混合し減圧蒸留して有機バリウムストロンチウム化合物を調製する。上記減圧蒸留は、0.015MPa~0.02MPa、好ましくは0.015MPa~0.018MPaの絶対圧力で、130℃~170℃、好ましくは140℃~160℃の温度に、1時間~5時間、好ましくは1.5時間~3時間保持して行う。ここで、減圧蒸留の絶対圧力を0.015MPa~0.02MPaの範囲内に限定したのは、0.015MPa未満では合成不良が生じ、0.02MPaを超えると水分が過剰になってしまうからである。また、減圧蒸留の温度を130℃~170℃の範囲内に限定したのは、130℃未満では水分が過剰になり、170℃を超えると合成不良が生じてしまうからである。更に、減圧蒸留の時間を1時間~5時間の範囲内に限定したのは、1時間未満では水分が過剰になり、5時間を超えると合成不良になってしまうからである。
【0026】
次に、有機バリウムストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより誘電体薄膜形成用液状組成物を得る。上記チタンアルコキシドとしては、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシド、チタンエトキシド等が挙げられ、脂肪酸エステルとしては、酢酸イソアミル、酢酸アミル、酢酸エチル等が挙げられる。また、上記チタンアルコキシドの水分量は0.05質量%以下であることが好ましい。ここで、チタンアルコキシドの水分量が0.05質量%を超えると水分が過剰になってしまうからである。更に、上記還流は、窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中で130℃~170℃の温度に1.0時間~5.0時間保持することにより行うことが好ましい。ここで、還流の温度を130℃~170℃の範囲内に限定し、還流の時間を1.0時間~5.0時間の範囲内に限定したのは、上記範囲外では液の相分離や金属の過重合等の合成不良が生じてしまうからである。
【0027】
このように構成された誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法では、有機バリウム化合物と有機ストロンチウム化合物とを混合し減圧蒸留して有機バリウムストロンチウム化合物を調製したので、この減圧蒸留された有機バリウムストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより得られた誘電体薄膜形成用液状組成物には、極めて僅かな水分しか含まれない。この結果、液状組成物中の水分に起因する水酸化物や酸化物の生成を抑制できるので、液状組成物を長期間保存しておいても品質が変化せず、保存安定性を向上できる。
【0028】
<第2の実施の形態>
図2は本発明の第2の実施の形態を示す。この実施の形態では、先ず、バリウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機バリウム化合物を調製し、この有機バリウム化合物を減圧蒸留する。また、ストロンチウム化合物と脂肪酸とを混合し還流して有機ストロンチウム化合物を調製し、この有機ストロンチウム化合物を減圧蒸留する。上記バリウム化合物、ストロンチウム化合物及び脂肪酸は、第1の実施の形態のものと同一である。また、還流の条件及び減圧蒸留の条件は、第1の実施の形態の条件と同一である。
【0029】
次に、上記減圧蒸留した有機バリウム化合物と上記減圧蒸留した有機ストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより誘電体薄膜形成用液状組成物を得る。上記チタン酸アルコキシド及び脂肪酸エステルは、第1の実施の形態のものと同一である。また、還流の条件は、第1の実施の形態の条件と同一である。
【0030】
このように構成された誘電体薄膜形成用液状組成物の製造方法では、有機バリウム化合物と有機ストロンチウム化合物をそれぞれ別個に第1の実施の形態の減圧蒸留の条件と同じ条件で減圧蒸留したので、第1の実施の形態の製造方法より工数が増えるけれども、上記減圧蒸留した有機バリウム化合物と上記減圧蒸留した有機ストロンチウム化合物とチタンアルコキシドとを混合しこの混合物を脂肪酸エステルに溶解して還流することにより得られた誘電体薄膜形成用液状組成物には、極めて僅かな水分しか含まれない。この結果、第1の実施の形態の製造方法と同様に、液状組成物中の水分に起因する水酸化物や酸化物の生成を抑制できるので、液状組成物を長期間保存しておいても品質が変化せず、保存安定性を向上できる。
【実施例】
【0031】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0032】
<実施例1>
図1に示すように、先ず、100mlの2-エチルヘキサン酸(純度99.8%)に、20gの炭酸バリウム(純度99.99%)を溶解し、150℃で3時間還流して、有機バリウム化合物を作製した。また、100mlの2-エチルヘキサン酸に、20gの炭酸ストロンチウム(純度99.96%)を溶解し、150℃で3時間還流して、有機ストロンチウム化合物を作製した。次に、Ba:Srがモル比で70:30となるように、上記有機バリウム化合物と有機ストロンチウム化合物とを混合し、0.015MPaの絶対圧力であって、150℃の温度に1時間保持する減圧蒸留を行うことにより、水分が大幅に除去された有機バリウムストロンチウム化合物を作製した。更に、Ba:Sr:Tiがモル比で70:30:100となるように、上記有機バリウムストロンチウム化合物とチタンイソプロポキシド(純度99.2%)とを混合し、この混合物を300mlの酢酸イソアミル(純度99.9%)に溶解した後に、150℃で1.5時間還流して、誘電体薄膜形成用液状組成物を得た。この誘電体薄膜形成用液状組成物を実施例1とした。なお、混合前に、有機バリウム化合物、有機ストロンチウム化合物及びチタンイソプロポキシド中の水分量をカールフィッシャー水分量計(HIRANUMA社製、平沼微量水分測定装置:AQ-7)によりそれぞれ測定した。
【0033】
<実施例2~36及び比較例1~8>
実施例2~36及び比較例1~8の誘電体薄膜形成用液状組成物は、表1及び表2に示すような製造条件で製造した。なお、表1及び表2に示した製造条件以外は、実施例1と同様の製造条件で誘電体薄膜形成用液状組成物を作製した。
【0034】
<比較試験1及び評価>
実施例1~36及び比較例1~8の誘電体薄膜形成用液状組成物に含まれる水分の含有割合及びアルコールの含有割合と、その液状組成物の粘度及び保存安定性をそれぞれ測定した。
(1) 液状組成物中の水分の含有割合
液状組成物中の水分の含有割合は、少量の液状組成物を取ってその質量を測り、その少量の液状組成物中の水分量をカールフィッシャー水分量計(HIRANUMA社製、平沼微量水分測定装置:AQ-7)により測定して算出した。カールフィッシャー法による水分測定法(電量滴定法)は、滴定セルにヨウ化物イオン・二酸化硫黄・アルコールを主成分とする電解液(カールフィッシャ試薬)が、メタノールの存在下で水と特異的に反応することを利用して、液状組成物中の水分が定量される。
(2) 作製直後の液状組成物中のアルコールの含有割合
作製直後の液状組成物中のアルコールの含有割合は、ガスクロマトグラフ質量分析計(SHIMADZU社製:GCMS-QP2010 Ultra,GC-2010Plus)により、注入口の温度を100℃に保持し、カラムオーブン内を10℃/分の速度で昇温し最高到達温度を320℃とした。
(3) 作製直後の液状組成物の粘度
作製直後の液状組成物の粘度は、東機産業社製のE型粘度計(RE-80L)を用い、温度20℃、ロータ回転速度が100rpmであるときの粘度を測定した。
【0035】
(4) 液状組成物の保存安定性
液状組成物の保存安定性は、一定期間経過後の液状組成物の粘度の変化率と、液状組成物中のパーティクル数によりそれぞれ評価した。
一定期間経過後の液状組成物の粘度は、液状組成物を作製してから1ヶ月間室温(23℃)で密封保存した後の液状組成物の粘度を、上記(3)と同様の方法で測定した。そして、一定期間経過後の液状組成物の粘度が、作製直後の液状組成物の粘度に対して変化した割合(変化率)を算出し、この変化率が-10%~+10%の範囲内の変化率であったときを「良」とし、-10%未満又は+10%を超える変化率であったときを「不良」とした。
また、液状組成物中のパーティクル数は、液状組成物を作製してから1ヶ月間室温で保存した後に1mlの液状組成物中のパーティクル数をレーザパーティクルカウンタ(RION社製、KS-42B)で測定し、粒径0.5μm以上のパーティクル数が50個以下であったときを「良」とし、50個を超えたときを「不良」とした。
これらの結果を表1及び表2に示した。なお、表1及び表2において、減圧蒸留の条件の時間の単位『H』は時間(Hour)を示し、保存安定性の『P』はパーティクル数を示す。
【0036】
【0037】
【0038】
表1及び表2から明らかなように、液状組成物中の水分量が0.70質量%と適切な範囲の水分量(0.08質量%~0.5質量%)より少ない比較例2及び9や、液状組成物中の水分量が1.0質量%~3.0質量%と適切な範囲の水分量(0.08質量%~0.5質量%)より多い比較例1、3~8及び10では、保存安定性の粘度がいずれも『不良』、即ち-10%未満又は+10%を超える変化率であり、保存安定性のパーティクルがいずれも『不良』、即ち粒径0.5μm以上のパーティクルが50個を超えていた。これらに対し、液状組成物中の水分量が0.08質量%~0.5質量%と適切な範囲内であった実施例1~37では、保存安定性の粘度がいずれも『良』、即ち-10%~+10%の範囲内の変化率であり、保存安定性のパーティクルがいずれも『良』、即ち粒径0.5μm以上のパーティクルが50個以下であった。
【0039】
一方、減圧蒸留の絶対圧力が0.03MPaと高すぎる条件、減圧蒸留の温度が100℃と低すぎる条件、又は減圧蒸留の時間が0.5時間と短すぎる条件のいずれか1又は2以上の条件を満たす比較例1~10では、上記のように、液状組成物中の水分量が0.70質量%と適切な範囲の水分量(0.08質量%~0.5質量%)より少なくなるか(比較例2及び9)、或いは液状組成物中の水分量が1.0質量%~3.0質量%と適切な範囲の水分量(0.08質量%~0.5質量%)より多くなるため(比較例1、3~8及び10)、保存安定性の粘度がいずれも『不良』、即ち-10%未満又は+10%を超える変化率であり、保存安定性のパーティクルがいずれも『不良』、即ち粒径0.5μm以上のパーティクルが50個を超えていた。これらに対し、減圧蒸留の絶対圧力が0.015MPa~0.02MPaと適切な範囲内の条件、減圧蒸留の温度が130℃~170℃と適切な範囲内の条件、及び減圧蒸留の時間が1時間~5時間と適切な範囲内の条件の全て満たす実施例1~36では、上記のように、液状組成物中の水分量が0.08質量%~0.5質量%と適切な範囲内であるため、(実施例1~36)、保存安定性の粘度がいずれも『良』、即ち-10%~+10%の範囲内の変化率であり、保存安定性のパーティクルがいずれも『良』、即ち粒径0.5μm以上のパーティクルが50個以下であった。なお、減圧蒸留時の温度が180℃と高すぎた比較例11や、減圧蒸留の時間が10時間と長すぎた比較例12は、合成不良になり、ゾルゲル液(液状組成物)を作製できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の誘電体薄膜形成用液状組成物は、キャパシタや強誘電体メモリ(FeRAM)、圧電素子等のデバイスの作製に利用することができる。