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特許7367918塩化ビニル系重合体組成物、その製造方法及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】塩化ビニル系重合体組成物、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20231017BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20231017BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20231017BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20231017BHJP
   E06B 1/26 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L1/08
C08L31/04 S
C08L29/04 S
E06B1/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019136893
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021020988
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託期間:平成25年9月6日から平成32年2月29日まで、開発項目「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目2 木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】301018278
【氏名又は名称】大洋塩ビ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514168843
【氏名又は名称】地方独立行政法人京都市産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】榎本 真久
(72)【発明者】
【氏名】前場 敬
(72)【発明者】
【氏名】仙波 健
(72)【発明者】
【氏名】北川 和男
(72)【発明者】
【氏名】矢野 浩之
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176052(JP,A)
【文献】特開平09-228739(JP,A)
【文献】特開昭56-067307(JP,A)
【文献】特開2018-009095(JP,A)
【文献】特開2020-079531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
E06B 1/00-1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を含有してなる塩化ビニル系重合体組成物であって、前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーが下記(a)乃至(c)の条件を全て満たし、前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体が、ビニルエステル系モノマーとエチレンモノマーとの共重合体であり、前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーの含有量が、(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体の合計質量に対し、3質量%以上30質量%以下である塩化ビニル系重合体組成物。
(a)前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上、90.0%以下である。
(b)前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーが、セルロースナノファイバーを構成する糖鎖の水酸基の水素原子が、アセチル基で置換されており、その置換度が0.56以上、2.52以下である。
(c)前記(A)化学修飾セルロースナノファイバー及びセルロースナノファイバーのセルロースが、リグノセルロースである。
【請求項2】
前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体が下記(d)と(e)の条件を満たす請求項1記載の塩化ビニル系重合体組成物。
(d)前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルの含有率が3質量%以上、85質量%以下である。
(e)前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルのアセチル基が、鹸化反応によって水素原子に置換されており、その鹸化度が0%以上95%以下である。
【請求項3】
前記(B)塩化ビニル系重合体の全て若しくは一部が(D)エチレン酢酸ビニル系共重合体に塩化ビニルがグラフト重合してなる塩化ビニル系共重合体であり、前記(D)塩化ビニル系共重合体が下記(f)の条件を満たす請求項1又は2記載の塩化ビニル系重合体組成物。
(f)前記(D)塩化ビニル系共重合体を構成するエチレン酢酸ビニル系共重合体が前記(d)と(e)の条件を満たし、その含有率が0.3質量%以上、40質量%以下である。
【請求項4】
前記(B)塩化ビニル系重合体の全てもしくは一部が(E)塩化ビニルと酢酸ビニルが共重合してなる塩化ビニル系共重合体であり、前記(E)塩化ビニル系共重合体が下記(g)の条件を満たす請求項1又は2記載の塩化ビニル系重合体組成物。
(g)前記(E)塩化ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルの含有率が0.3質量%以上、30質量%以下である。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の塩化ビニル系重合体組成物の製造方法であって、下記(1)乃至(3)の工程を含み、
(1)解繊処理後に下記(a)乃至(c)の要件を満たす(A)化学修飾セルロースナノファイバーとなる(A1)化学修飾パルプ、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を選定する工程、
(a)(A)化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上、90.0%以下である。
(b)(A)化学修飾セルロースナノファイバーが、セルロースナノファイバーを構成する糖鎖の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されており、その置換度が0.56以上2.52以下である。
(c)(A)化学修飾セルロースナノファイバー及びセルロースナノファイバーのセルロースが、リグノセルロースである。
(2)前記工程(1)で選定された(A1)化学修飾パルプと(B)塩化ビニル系重合体と(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体とを、前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーの含有量が、(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体の合計質量に対し、3質量%以上30質量%以下であるように配合する工程、
(3)前記工程(2)で配合された(A1)化学修飾パルプと(B)塩化ビニル系重合体と(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体とを混練し、同時に(A1)化学修飾パルプを解繊し、(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を含有する塩化ビニル系重合体組成物を得る工程
前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体が、ビニルエステル系モノマーとエチレンモノマーとの共重合体であることを特徴とする塩化ビニル系重合体組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の塩化ビニル系重合体組成物を含んでなることを特徴とする窓枠材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系重合体組成物、その製造方法及びその用途に関し、詳細には、難燃性や高断熱性を維持し、優れた弾性率、耐熱性、及び、環境特性を有する成形品が得られる塩化ビニル系重合体組成物、その製造方法、及び、窓枠に代表される用途に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系重合体及びその組成物は、剛性、耐候性、難燃性等に優れ、又、安価で生産性が高い等の理由より、これまで、押出成形などにより、パイプ、窓枠、平板、シートなどの分野で広く用いられている。
【0003】
この中で、窓枠の用途等においては、高い断熱性能や防露性能の面で優れる一方、剛性が2000~3000MPa程度であることから、窓枠として要求される耐風圧性を得るために枠材の肉厚や外寸を大きく設計する、枠材内に金属製の補強材を挿入するなどにより材料コストがかかるため、断熱性能などの使用上の利点がある反面、経済面で市場要求に応え難い商品となっている。
【0004】
また、塩化ビニル系樹脂の耐熱性の上限温度は70~90℃程度であるため、外装用部材として用いる場合、太陽熱を原因とした変形を生じる場合がある。特に、窓枠の外装用部材は太陽光の照射を受けやすいため変形を生じやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は塩化ビニル系重合体特有の難燃性や高断熱性を維持し、優れた弾性率及び耐熱性を有する成形品が得られる塩化ビニル系重合体組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は以下の事項により特定される。
<1>(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を含有してなる塩化ビニル系重合体組成物であって、前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーが下記(a)乃至(c)の条件を全て満たし、前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体が、ビニルエステル系モノマーとエチレンモノマーとの共重合体であり、前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーの含有量が、(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体の合計質量に対し、3質量%以上30質量%以下である塩化ビニル系重合体組成物。
(a)前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上、90.0%以下である。
(b)前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーが、セルロースナノファイバーを構成する糖鎖の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されており、その置換度が0.56以上2.52以下である。
(c)前記(A)化学修飾セルロースナノファイバー及びセルロースナノファイバーのセルロースが、リグノセルロースである。
【0007】
<2>前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体が下記(d)と(e)の条件を満たす前記<1>記載の塩化ビニル系重合体組成物。
(d)前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルの含有率が3質量%以上、85質量%以下である。
(e)前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルのアセチル基が、鹸化反応によって水素原子に置換されており、その鹸化度が0%以上95%以下である。
【0008】
<3>前記(B)塩化ビニル系重合体の全てもしくは一部が(D)エチレン酢酸ビニル系共重合体に塩化ビニルがグラフト重合してなる塩化ビニル系共重合体であり、前記(D)塩化ビニル系共重合体が下記(f)の条件を満たす前記<1>又は<2>記載の塩化ビニル系重合体組成物。
(f)(D)塩化ビニル系共重合体を構成するエチレン酢酸ビニル系共重合体が前記(d)と(e)の条件を満たすエチレン酢酸ビニル系共重合体であり、その含有率が0.3質量%以上、40質量%以下である。
【0009】
<4>前記(B)塩化ビニル系重合体の全てもしくは一部が(E)塩化ビニルと酢酸ビニルが共重合してなる塩化ビニル系共重合体であり、前記(E)塩化ビニル系共重合体が下記(g)の条件を満たす前記<1>又は<2>記載の塩化ビニル系重合体組成物。
(g)(E)塩化ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルの含有率が0.3質量%以上、30質量%以下である。
【0010】
<5>前記<1>乃至<4>記載の塩化ビニル系重合体組成物の製造方法であって、下記(1)乃至(3)の工程を含み、
(1)解繊処理後に下記(a)乃至(c)の要件を満たす(A)化学修飾セルロースナノファイバーとなる(A1)化学修飾パルプ、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を選定する工程、
(a)(A)化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上、90.0%以下である。
(b)(A)化学修飾セルロースナノファイバーが、セルロースナノファイバーを構成する糖鎖の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されており、その置換度が0.56以上2.52以下である。
(c)(A)化学修飾セルロースナノファイバー及びセルロースナノファイバーのセルロースが、リグノセルロースである。
(2)前記工程(1)で選定された(A1)化学修飾パルプと(B)塩化ビニル系重合体と(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体とを、前記(A)化学修飾セルロースナノファイバーの含有量が、(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体の合計質量に対し、3質量%以上30質量%以下であるように配合する工程、
(3)前記工程(2)で配合された(A1)化学修飾パルプと(B)塩化ビニル系重合体と(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体とを混練し、同時に(A1)化学修飾パルプを解繊し、(A)化学修飾セルロースナノファイバー、(B)塩化ビニル系重合体及び(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を含有する塩化ビニル系重合体組成物を得る工程
前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体が、ビニルエステル系モノマーとエチレンモノマーとの共重合体であることを特徴とする塩化ビニル系重合体組成物の製造方法。
【0012】
>前記<1>乃至<4>に記載の塩化ビニル系重合体組成物を含んでなることを特徴とする窓枠材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩化ビニル系重合体特有の難燃性や高断熱性を維持し、優れた弾性率及び耐熱性を有する成形品が得られる塩化ビニル系重合体組成物及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の製造方法を説明する模式図である。
図2】実施例1の方法で製造した組成物から作製した試料中の繊維の偏光顕微鏡観察像である。
図3】実施例2の製造方法を説明する模式図である。
図4】実施例2の方法で製造した組成物から作製した試料中の繊維の偏光顕微鏡観察像である。
図5】実施例3の製造方法を説明する模式図である。
図6】実施例3の方法で製造した組成物から作製した試料中の繊維の偏光顕微鏡観察像である。
図7】実施例4の製造方法を説明する模式図である。
図8】実施例4の方法で製造した組成物から作製した試料中の繊維の偏光顕微鏡観察像である。
図9】実施例5の製造方法を説明する模式図である。
図10】実施例5の方法で製造した組成物から作製した試料中の繊維の偏光顕微鏡観察像である。
図11】実施例6の製造方法を説明する模式図である。
図12】実施例6の方法で製造した組成物から作製した試料中の繊維の偏光顕微鏡観察像である。
図13】実施例7の製造方法を説明する模式図である。
図14】実施例7の方法で製造した組成物から作製した試料中の繊維の偏光顕微鏡観察像である。
図15】比較例1の製造方法を説明する模式図である。
図16】比較例2の製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.用語及び略語の説明本明細書において使用する以下の用語は、それぞれ次の意味を有する。
【0016】
セルロース系繊維は、植物由来、微生物由来、藻類由来又は尾索動物亜門動物(ホヤ)由来の、セルロース及び/又はリグノセルロースを含有する繊維を意味する。
【0017】
リグノセルロースは、樹木細胞壁を構成する複合炭化水素高分子(天然高分子混合物)であり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロース及び芳香族高分子であるリグニンから構成されていることが知られている。本発明において、リグノセルロースとは、リグニン含有量の多少にかかわらず、また、セルロース、ヘミセルロース及び/又はリグニン間の化学結合の有無に拘わらず、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンから構成される物質を意味する。
【0018】
パルプは、木材、竹、稲わら、綿花等の植物全体若しくは植物の部分から植物由来のセルロース系繊維を分離したものであって、セルロース、ヘミセルロース及び/又はリグノセルロースを含む繊維集合体(植物由来パルプ)を意味する。また、微生物が産生するセルロースと微生物の菌体との混合物中から分離された微生物由来のセルロース繊維集合体(微生物由来パルプ)、藻類から分離されるセルロース繊維集合体(藻類由来パルプ)及び尾索動物亜門動物(ホヤ)藻類から分離されるセルロース繊維集合体(ホヤ由来パルプ)を意味する。
リグノパルプは、リグノセルロースを含むパルプを意味する。
【0019】
化学修飾セルロースナノファイバーは、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維と同義であり、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維(化学修飾MFC)は、化学修飾され、かつミクロフィブリル化されたセルロース系繊維を意味する。ここで、「化学修飾」は、セルロース系繊維を構成する糖鎖の水酸基の水素原子の代わりに置換基(化学修飾基)が導入されている(水酸基が化学修飾されている)ことを意味する。
【0020】
本明細書において、ミクロフィブリル化とは、それぞれの繊維の直径が全てナノオーダーになるという意味ではなく、繊維の直径がナノオーダーになるか、又は、繊維の内部若しくは表面に存在する繊維がナノオーダーになることを意味する。したがって、繊維の直径がナノオーダーに解繊された繊維、繊維の最も太い部分の直径がナノオーダー以上(例えば数μm~数十μm)であってもその表面がナノオーダーまで解繊されている繊維、及び、これら繊維が混在した繊維もミクロフィブリル化繊維と解釈する。
【0021】
以下、本発明の塩化ビニル系重合体組成物について詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル系重合体組成物は、(A)化学修飾セルロースナノファイバー(以下、「本件化学修飾MFC」ともいう)及び(B)塩化ビニル系重合体を含有してなり、必要に応じ(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を含有し、本件化学修飾MFCが、下記(a)乃至(c)の条件を全て満たすことを特徴とする。
(a)(A)化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上、90.0%以下である。
(b)(A)化学修飾セルロースナノファイバーが、セルロースナノファイバーを構成する糖鎖の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されており、その置換度が0.56以上2.52以下である。
(c)(A)化学修飾セルロースナノファイバー及びセルロースナノファイバーのセルロースが、リグノセルロースである。
【0022】
2.(A)化学修飾セルロースナノファイバー
本件化学修飾MFCの解繊原料となる(A1)化学修飾パルプ(以下、「本件解繊原料」という)について説明する。
【0023】
本件解繊原料は、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、アシル基(R-CO-)で置換された疎水化セルロース系繊維集合体である。
【0024】
本件解繊原料の調製には、植物由来、微生物由来、藻類由来、又は、尾索動物亜門動物(ホヤ)由来のセルロース系繊維集合体を使用することができる。このうちでも、植物由来セルロース系繊維集合体は、大量にしかも容易に入手可能なことから好ましい。
【0025】
植物由来セルロース系繊維集合体の原料として、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、古紙、編織布等が挙げられる。これらの中で、容易に入手可能なことから、木材由来のセルロース系繊維集合体(木材パルプともいう)が好ましい。
【0026】
木材パルプには、リグニンを含まないもの、及びリグニンを含むもの(即ち、リグノセルロース繊維集合体、又はリグノパルプともいう)が含まれる。これらはいずれも本件解繊原料の製造のために使用することができる。製造コストの点からは、リグノパルプが好ましい。
【0027】
木材パルプの原料となる木材としては、例えば、シトカスプルース、マツ(トドマツ、アカマツ等)、スギ、ヒノキ等の針葉樹、ユーカリ、アカシア等の広葉樹由来の木材が挙げられる。これらから得られる植物由来パルプが、本件解繊原料の製造に好ましく用いられる。
【0028】
木材パルプは、植物性原料を、機械パルプ化法、化学パルプ化法、機械パルプ化法と化学パルプ化法との組み合わせ等の方法により処理することにより得ることができる。このようなパルプとしては、クラフトパルプ、機械パルプ(MP)等が挙げられる。クラフトパルプとして、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)等が挙げられる。機械パルプとして、砕木パルプ(GP)、リファイナーGP(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。また、パルプとして、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等を使用することも可能である。パルプは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
木材パルプは、リグノセルロースを含み、主にセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成される。本明細書では、リグニンが完全には除去されずにパルプ中にリグニンが少量でも存在するパルプをリグノパルプと称するので、上記の各種パルプ化法で処理して得られ、パルプ中にたとえ少量でも検出し得るリグニンを含むものは、リグノパルプに含まれる。
【0030】
リグノパルプは、原料からの収率が大きいこと、工程数が少ないこと及び処理薬剤が少ないことから、本発明において有利に使用することができる。含有されるリグニン量は、クラーソン法で定量することができる。
【0031】
本発明では、木材パルプに対して、予めリファイナー若しくはヒーター又はこれらを組み合わせて使用して離解、叩解、解繊等の処理を施し、処理後のカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値(濾水度)が通常40mL~500mL、好ましくは40mL~300mL、さらに好ましくは40mL~200mLであるものを使用することができる。
【0032】
微生物由来のセルロース系繊維については、例えば、酢酸菌を培養した培養液から回収した菌体とセルロース繊維との混合物からタンパク質その他の夾雑物を除去して得た微生物由来のパルプより得ることができる。
【0033】
微生物由来のセルロース系繊維は通常、ナノレベルのセルロース繊維が網目状に交絡しており、これを、疎水性セルロース系繊維集合体の原料として使用することができる。
【0034】
本件解繊原料は、そのセルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、前記アシル基で置換されていることに特徴がある。
【0035】
本件解繊原料の一部の水酸基の水素原子の置換基として、アシル基を選定することにより、このような置換基で化学修飾された本件解繊原料は熱安定性が向上する。
【0036】
これは、本件解繊原料では、セルロース系繊維表面に元来存在する水酸基同士の水素結合が部分的に消失しているので、解繊処理中にミクロフィブリル化されやすくなるためと考えられる。
【0037】
そしてこの本件化学修飾MFCも、アシル基で化学修飾されることにより疎水化されているので、元来のセルロース系繊維よりも疎水性が高いことから塩化ビニル系樹脂と親和性が高く、樹脂中に均一に分散されやすくなる。よって、本件解繊原料を使用して製造される本件化学修飾MFCと塩化ビニル系重合体とを含む本発明の組成物からなる成形体は、優れた強度特性を有する。
【0038】
本件解繊原料は、前述のとおり、アシル基で置換されている。本件解繊原料を解繊することによって生成する、アシル基で化学修飾されかつミクロフィブリル化されたセルロース系繊維、即ち本件化学修飾MFCは、塩化ビニル系重合体組成物との親和性が高く、塩化ビニル系重合体組成物中に均一に分散することができる。
【0039】
本件解繊原料では、置換基としてアシル基を選定することによって、本件解繊原料の耐熱性を向上させることもできる。
【0040】
また、アシル基で修飾された本件解繊原料を調製する際に、その原料のパルプ中のセルロースの高い結晶性を保持することができるばかりか、この高い結晶性は、上記の本件解繊原料を解繊することによって生成する本件化学修飾MFCにおいても、42.7%以上、90.0%以下という高い結晶化度(前記要件(a))を保持することができる。なお、結晶化度は、広角X線回折等の各種分析方法等により分析することができる。
【0041】
前記一般式:(R-CO-)で表されるアシル基において、Rは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。
【0042】
前記炭素数1~4のアルキル基には、直鎖状アルキル基及び分岐鎖状アルキル基が含まれる。これら、直鎖状アルキル基として、メチル、エチル、n-プロピル、及びn-ブチルが挙げられ、分岐鎖状アルキル基として、イソプロピル、及びtert-ブチルが挙げられる。
【0043】
Rが炭素数1~4のアルキル基であるアシル基として、炭素数が2~5のアシル基が好ましい。このようなアシル基として、具体的には、アセチル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基及びピバロイル基が挙げられる。これらは、アシル化に使用されるアシル化剤が他のアシル化剤に比べて安価に入手可能な点で好ましい。これらの中でも、アセチル基がより好ましい。
【0044】
前記電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基としては、フェニル、トリル、エチルフェニル、メトキシフェニル、エトキシフェニル等が挙げられる。
【0045】
Rが電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基であるアシル基として、具体的に、ベンゾイル、4-メチルベンゾイル、4-エチルベンゾイル、4-メトキシベンゾイル、4-エトキシベンゾイル等が挙げられる。これらの芳香族アシル基の中で、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基、及び4-メチルベンゾイル基が、これらで修飾すると特に熱安定性が良好なセルロース系繊維が得られることから好ましく、他の芳香族アシル化剤と比べて安価に入手可能なアシル化剤で、セルロース系繊維に導入できる点で、ベンゾイル基がより好ましい。
【0046】
本件解繊原料における、アシル基による修飾程度(置換度、「DS」ともいう)は、セルロース系繊維集合体を構成するセルロース系高分子の1単位(繰り返し単位)に存在する水酸基の水素原子が、前記置換基で置換された程度で表される。
【0047】
セルロース繊維集合体が全てセルロースで構成されている場合(セルロースの場合)は、この繰り返し単位はグルコピラノース残基であり、この1単位あたりの水酸基数は3であるので、置換度の上限は3である。
【0048】
一方、セルロース系高分子がリグノセルロースの場合、リグノセルロースは、セルロースと共にヘミセルロースとリグニンとを含む。へミセルロースに含まれるキシランにおけるキシロース残基、及びアラビノガラクタンにおけるガラクトース残基の水酸基数は2であり、また、標準的なリグニン残基の水酸基数も2であり、これらの水酸基数は3より小さい。
【0049】
従って、リグノセルロース系繊維集合体(リグノパルプ)における置換度の上限は3より小さい。この置換度の上限は、リグノセルロース系繊維(リグノパルプ)が含有するヘミセルロースおよびリグニンの含量に依存して、2.7~2.8程度である。
【0050】
上記のように、本件解繊原料における、置換度は、セルロース系繊維集合中のヘミセルロース又はリグニンの含量に依存するものの、本件解繊原料においてもそれを解繊して得られる本件化学修飾MFCにおいても、そのアシル基による置換度(DS)は、0.56以上、2.52以下であり(前記(b)の要件)、0.6以上、1.5以下が好ましい。置換度(DS)は、より好ましくは0.65以上、1.2以下であり、さらに好ましくは0.7以上、1.2以下である。特に、アシル基がアセチル基である場合の置換度(DS)は、より好ましくは0.8以上、1.2以下である。上記範囲のDSを有する化学修飾MFCは、マトリックス(塩化ビニル系重合体組成物)中に均一に分散し、かつ、前記(a)の範囲の結晶化度を有するので、このような化学修飾MFCを含有する溶融混練組成物は、優れた物性を有する。
【0051】
置換度(DS)は、中和滴定法、FTIR、二次元NMR(1H及び13CNMR)等の各種分析方法等により分析することができる。
【0052】
3.本件解繊原料の製造方法
以下、本件解繊原料の製造方法について説明する。
【0053】
本件解繊原料は、セルロース系繊維の水酸基の一部を、前記一般式で表されるアシル基でアシル化することによって製造することができる。
【0054】
このアシル化の原料として、植物由来のセルロース系繊維集合体(パルプ)を使用する。
【0055】
パルプは、予めリファイナー若しくはヒーター又はこれらを組み合わせて使用してパルプを離解、叩解、解繊等の処理をして、処理後のカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値(濾水度)が40mL~500mL、好ましくは40mL~300mL、さらに好ましくは40mL~200mLのパルプを使用する。この程度のCSFのパルプを使用することにより、解繊処理工程でミクロフィブリル化しやすくなる。
【0056】
本件解繊原料を製造するための原材料として、木材由来のリグノセルロース系繊維集合体を使用することが好ましく、この場合、リグノパルプを使用することがより好ましい。リグノパルプは、リグニンを全く含まないパルプに比べて低コストであるため、本件解繊原料がフィブリル化された繊維を含有する樹脂複合体及びこれからなる本発明の成形体を低コストで製造することができる。なお、着色の少ない溶融混練組成物を得るためには、リグノパルプのリグニン含有率を、15質量%以下にすることが好ましく、7%程度以下にすることがさらに好ましく、5%以下程度にすることが最も好ましい。
【0057】
本件解繊原料の調製に使用されるセルロース系繊維集合体(パルプ、以下原料パルプということもある)の形状としては、綿状、紙状、シート状、不織布状等が挙げられる。紙状、シート状又は不織布状のものを用いた場合は、化学修飾後、切断、粉砕等の手段により綿状又は粉状として、あらかじめ樹脂と混合して解繊処理工程に供することが好ましい。
【0058】
アシル基で化学修飾された本件解繊原料の調製方法(アシル化反応)について説明する。
【0059】
原料パルプのアシル基によるアシル化は、公知の方法、例えば、アシル基を有するアシル化剤と、前記原料パルプとを溶媒中で攪拌しながら又は静置状態で反応させることにより行うことができる。
【0060】
アシル基を有するアシル化剤として、無水カルボン酸、カルボン酸クロリド等のカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸ビニルエステル等が挙げられる。これらの中で、反応系から副生成物を除去し易い点で、カルボン酸ビニルエステルが好ましい。
【0061】
アシル基による化学修飾においては、アシル化剤として、対応するカルボン酸ビニルエステル(ビニルカルボキシレート)を使用することにより、アシル化して得られる化学修飾セルロース系繊維の着色が少なくなり、ひいてはこれを複合化して作成される溶融混練組成物(複合体)の着色を少なくすることができる。
【0062】
もちろん、カルボン酸ビニルエステル以外のアシル化剤(例えば、カルボン酸クロリド、カルボン酸無水物)も使用することが可能である。この場合には、アシル化反応で副生する酸(塩酸、カルボン酸等)を反応中に捕捉するために有機塩基又は無機塩基を加えるのが好ましい。ただし、生成する塩がアシル化セルロース系繊維に混入し易く、これが原因で目的のアシル化セルロース系繊維が着色することもあるので、この場合には丁寧に精製することが必要となる。
【0063】
これらのアシル化剤のうちでも、アシル基が、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基及び4-メチルベンゾイル基からなる群から選ばれるアシル基を有するアシル化剤を用いると、熱安定性が特に良好な、アシル化ミクロフィブリル化セルロース系繊維を製造できるので好ましい。
【0064】
上記アシル基を有するアシル化剤の具体例として、酢酸ビニル、無水酢酸、ピバル酸ビニル、ピバル酸無水物、安息香酸ビニル、4-メトキシ安息香酸ビニル、4-メチル安息香酸ビニル等が挙げられる。
【0065】
これらの中で、アセチル基を有するアシル化剤(酢酸ビニル及び無水酢酸)が、製造コストの点から好ましい。
【0066】
アシル化反応は、溶媒中で、塩基の存在下に行うのが好ましい。
【0067】
溶媒として、アシル化剤とは反応せず、アシル化原料を膨潤させ易く、かつ、アシル化原料との反応後に反応系から容易に除去できる溶媒が好ましい。
【0068】
このような溶媒として、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジオキサン等の極性非プロトン性溶媒を挙げることができる。溶媒の使用量は、乾燥状態のアシル化原料1質量部に対して、20~200質量部程度である。
【0069】
但し、反応温度においてアシル化剤が液体であり、また反応により副生成する物質も液体である場合には、アシル化剤及び副生成物を溶媒として使用することもできる。この場合の溶媒の使用量は、アシル化原料1質量部に対して、0~3質量部程度である。例えば、アシル化剤として無水酢酸を用いてアシル化(すなわちアセチル化)する場合には、溶媒の使用量は、アシル化原料1質量部に対して、0(無溶媒)~3質量部程度である。
【0070】
塩基としては、ピリジン、ジメチルアニリン等のアミン類;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸のアルカリ金属塩;炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。塩基の使用量は、アシル化原料中の水酸基1モルに対して、0.1~1モル程度である。
【0071】
原料パルプに対するアシル化剤の使用量は、原料パルプの含水量、目的とするアシル化程度(置換度、DS)等により、適宜調整することができる。
【0072】
アシル化反応途中におけるアシル化程度(置換度、DS)は、反応混合物から、分析に必要な量を採取し、これから、未反応アシル化剤、アシル化副生成物などを、洗浄、抽出等により除いた後、FTIRスペクトルを測定し、あらかじめ作成しておいた検量線を使用して、定量することができる。したがって、目的とするDSになった時点で反応を止め、反応混合物に対して、ろ過、洗浄、抽出等の通常の精製操作に行うことにより、目的とするDSを有するアシル化セルロース系繊維集合体(アシル化パルプ)を得ることができる。
【0073】
アシル化剤の使用量は、原料パルプに存在する水酸基のモル数の0.5~2倍モル程度を使用する。原料パルプが含水状態である場合は、この水によって消費されるアシル化剤の量を勘案して、上記よりも多いアシル化剤を使用するのが好ましい。
【0074】
反応温度は、通常、10~120℃程度であり、好ましくは20~100℃程度である。
【0075】
反応時間は、木材由来の原料パルプをアシル化する場合は通常2~24時間程度であり、微細物由来の原料パルプをアシル化する場合は通常4~100時間程度である。
【0076】
4.(B)塩化ビニル系重合体
本発明における(B)塩化ビニル系重合体は、塩化ビニルの単独重合体又は、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体、さらには、塩化ビニル、必要により共重合可能な他のビニル系単量体、及び多官能性モノマーとの共重合による部分架橋された塩化ビニル系重合体などが挙げられる。
【0077】
塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体としては、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのα-モノオレフィン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン誘導体;n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド等のN-置換マレイミド;塩化ビニリデンなどのビニリデン類等のうち少なくとも1種以上と塩化ビニルとの共重合体が挙げられる。
【0078】
また塩化ビニルと多官能性モノマーとの共重合による部分架橋された塩化ビニル系重合体としては、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルアジペート、トリアリルシアヌレート等の多官能アリル化合物;エチレングリコールジビニルエーテル、オクタデカンジビニルエーテル等の多官能ビニルエーテル類;1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート類など塩化ビニルと共重合可能な多官能性モノマーのうち少なくとも1種以上と塩化ビニルの共重合体が挙げられ、部分的に架橋構造を有する塩化ビニル系重合体である。
【0079】
(B)塩化ビニル系重合体の平均重合度は、600以上3000以下である。このような範囲とすることにより本件解繊原料との混合物の成形性のバランスを良好にすることができる。ここで(B)塩化ビニル系重合体の平均重合度が700以上2000以下の範囲であると、本件解繊原料との混合物の成形性のバランスがさらに良好となる。
【0080】
(B)塩化ビニル系重合体の製造方法については、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法などのいずれの方法でも良く、特に制限はないが、懸濁重合法が、残存モノマーが少なく、好ましい。
【0081】
(B)塩化ビニル系重合体の懸濁重合法はよく知られており、公知の方法を用いればよく、特に制限は無い。
【0082】
5.(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体
本発明における(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体は、ビニルエステル系モノマーとエチレンモノマーとの共重合体であり、下記(d)と(e)の条件を満たす。
(d)前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルの含有率が3質量%以上、85質量%以下である。
(e)前記(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルのアセチル基が、鹸化反応によって水素原子に置換されており、その鹸化度が0%以上95%以下である。
【0083】
ビニルエステル系モノマーには、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミスチリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、バーサテック酸ビニル等のビニルエステル系モノマーを挙げることができる。この中で、酢酸ビニルの単独重合体が好ましい。
【0084】
(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルの含有率は3質量%以上、85質量%以下であり、好ましくは15質量%以上、50質量%以下である。酢酸ビニルの含有率が3質量%以上であれば、本件解繊原料との相溶化性が向上し、85質量%以下であると、本発明の成形品の強度特性が向上する。
またエチレン酢酸ビニル系共重合体の鹸化度は0%以上、95%以下であり、好ましくは0%以上、90%以下である。鹸化度が95%以下であれば、本件解繊原料との相溶化性を発現できる。
本発明の成形品の強度特性の面から、(C)エチレン酢酸ビニル系共重合体の含有率が0.3質量%以上、40質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0085】
本発明における前記(B)塩化ビニル系重合体は、その全て若しくは一部(好ましくは10質量%以上、90質量%以下)が(D)エチレン酢酸ビニル系共重合体に塩化ビニルがグラフト重合してなる塩化ビニル系共重合体(以下、(D)塩化ビニル系共重合体ともいう)であると、本件解繊原料の解繊性、及び、本発明の成形品の強度特性の面から好ましい。
また本発明における前記(B)塩化ビニル系重合体は、その全て若しくは一部(好ましくは10質量%以上、90質量%以下)が(E)塩化ビニルと酢酸ビニルが共重合してなる塩化ビニル系共重合体(以下、(E)塩化ビニル系共重合体)であると、本件解繊原料の解繊性、本発明の成形品の強度特性の面から好ましい。
【0086】
6.(D)塩化ビニル系共重合体
本発明における(D)塩化ビニル系共重合体は、前記エチレン酢酸ビニル系共重合体(C)に塩化ビニルがグラフト重合してなるグラフト共重合体である。(D)塩化ビニル系共重合体は、特に制限はないが、用いられるエチレン酢酸ビニル系共重合体の種類および酢酸ビニル含量によって種々の性能を有するポリマーが得られる。
【0087】
本発明で用いる(D)塩化ビニル系共重合体は、本件解繊原料との相溶化性の面から、当該塩化ビニル系共重合体を構成するエチレン酢酸ビニル系共重合体が前記(d)と(e)の要件を満たすことが好ましく、本発明の成形品の強度特性の面から前記エチレン酢酸ビニル系共重合体の含有率が0.3質量%以上、40質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0088】
7.(E)塩化ビニル系共重合体
本発明における(E)塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニルモノマー、及び、酢酸ビニルモノマーを適当な割合で共重合して得ることができる。
本発明で用いる(E)塩化ビニル系共重合体は、本件解繊原料との相溶化性の面から、(E)塩化ビニル系共重合体を構成する酢酸ビニルの含有率が0.3質量%以上、30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0089】
8.解繊助剤
本発明における解繊助剤は、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式:R-CO-(式中、Rは炭素数1~4のアルキル基、又は、電子供与性の置換基を有してもよいフェニル基を示す。)で表されるアシル基で置換された本件解繊原料を解繊するために好ましく使用される解繊助剤であって、下記一般式(1):R1-CO-N(R2)-R3(式中、R1及びR3は、同一又は異なって、水素原子、若しくは炭素数1~4アルキル基を示すか、又はR1とR3とが一緒になって炭素数3~11のアルキレン基を示す。R2は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数2~4のアシル基を示す。)で表されるアミド化合物を主成分とする解繊助剤である。
【0090】
解繊助剤は、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、アシル基で置換された本件解繊原料の解繊処理において、本件解繊原料が、解繊原料と同一の置換基を有する本件化学修飾MFCに解繊されることを助長する。
【0091】
前記一般式(1):R1-CO-N(R2)-R3において、R1及びR3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基を示すか、又はR1とR3とが一緒になって炭素数3~11のアルキレン基を示す。
【0092】
前記R1及びR3における炭素数1~4のアルキル基として、直鎖状アルキル基(メチル、エチル、n-プロピル、及びn-ブチル)、及び分岐鎖状アルキル基(イソプロピル、及びtert-ブチル)が挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、及びn-プロピル基が好ましい。
【0093】
R1とR3とが一緒になって形成される炭素数3~11のアルキレン基としては、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、デカメチレン等が挙げられ、炭素数3~5及び炭素数9~11のアルキレン基が好ましい。特に炭素数3、5、10及び11のアルキレン基を有するアミド化合物(一般名ラクタム)が市場から容易に入手できることから、R1とR3とが一緒になって形成される炭素数3、5、10及び11のアルキレン基が好ましい。
【0094】
前記R2における炭素数1~3のアルキル基として、直鎖状アルキル基(メチル、エチル、及びn-プロピル)及び分岐鎖状アルキル基(イソプロピル)が挙げられる。これらのうち、メチル基が好ましい。
【0095】
前記R2における炭素数2~4のアシル基として、アセチル、プロピオニル等が挙げられる。これらのうち、アセチルが好ましい。
【0096】
前記一般式(1)で表されるアミド化合物として、具体的には、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、δ-バレロラクタム、N-メチル-δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、N-メチル-ε-カプロラクタム、N-アセチル-ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム及びラウロラクタム等が挙げられる。
【0097】
これらのアミド化合物のうち、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、N-メチル-ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム及びラウロラクタムが好ましい。
【0098】
より好ましいアミド化合物は、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム及びラウロラクタムであり、最も好ましいアミド化合物は、ε-カプロラクタムである。
【0099】
なお、上記のアミド化合物は、2種以上を混合し、本発明の解繊助剤として使用することもできる。
【0100】
上記の解繊助剤を本発明の塩化ビニル系重合体組成物に用いる場合、成形体の変色を抑制するために過塩素酸塩化合物を添加することが望ましい。
【0101】
過塩素酸化合物としては、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ストロンチウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸バリウム、過塩素酸アンモニウムなどが挙げられる。中でも過塩素酸バリウムが好適に用いられる。これらの過塩素酸塩類は無水物でも含水塩でもよく、ブチルジグリコール、ブチルジグリコールアジペート等のアルコール系およびエステル系の溶剤に溶かしたものおよびその脱水物でもよい。また、ハイドロタルサイトを過塩素酸で処理した過塩素酸含有ハイドロタルサイトでもよい。
【0102】
8.本件解繊原料の解繊方法、及び解繊された本件化学修飾MFCを含有する塩化ビニル系重合体組成物の製造方法
【0103】
本件化学修飾MFCを含有する塩化ビニル系重合体組成物は、下記(1)乃至(3)の工程を含む方法により好ましく製造される。
(1)解繊処理後に前記(a)乃至(c)の要件を満たす本件化学修飾MFCとなる本件解繊原料及び本件塩化ビニル組成物を選定する工程、
(2)前記工程(1)で選定された本件解繊原料と、塩化ビニル系重合体、必要に応じエチレン酢酸ビニル系共重合体等を含有する組成物(以下、本件塩化ビニル系組成物ともいう)を配合する工程、
(3)前記工程(2)で配合された本件解繊原料と本件塩化ビニル組成物系重合体とを混練し、同時に本件解繊原料を解繊し、ミクロフィブリル化して、本件化学修飾MFC及び本件塩化ビニル系組成物を含有する本発明の塩化ビニル系重合体組成物を得る工程。
【0104】
上記のミクロフィブリル化された本件化学修飾MFCと、本件塩化ビニル系組成物とを混合する前記(3)工程において、さらに解繊助剤を混合することが好ましい。解繊助剤を混合することによって、本件化学修飾MFC及び本件塩化ビニル系組成物との混合状態が改善され、本発明の組成物からなる成形体の強度特性が向上する。なお、解繊助剤は、解繊処理後に、本件化学修飾MFCと本件塩化ビニル系組成物との混合物から除去されてもされなくてもよい。
【0105】
解繊助剤としては、前記一般式(1):R1-CO-N(R2)-R3で表されるアミド化合物を主成分とする解繊助剤が好ましい。
【0106】
前記(3)工程において、本件化学修飾MFCと本件塩化ビニル系組成物との複合化は、溶融混練法で行うのが好ましい。
【0107】
溶融混練工程は、本件解繊原料と本件塩化ビニル系組成物とを溶融混練しながら、溶融された本件塩化ビニル系組成物中で本件解繊原料を本件化学修飾MFCに解繊して、本件化学修飾MFCと本件塩化ビニル系組成物とを含む組成物を製造する工程である。
【0108】
本発明の塩化ビニル系重合体組成物が解繊助剤以外の添加剤を含む場合には、溶融混練すべき原材料の混合工程又はこの溶融混練工程で添加して、本件解繊材料及び本件塩化ビニル系組成物とともに溶融混練することが好ましい。
【0109】
混練機には、一軸又は多軸混練機が好ましく使用できる。使用する一軸又は多軸混練機の回転数は大きくする方が、本件解繊原料が溶融混練工程中においてミクロフィブリル化し易くなるので好ましい。
【0110】
この溶融混練工程において、本件解繊原料は混練中のせん断応力及び解繊助剤の作用によって解繊され、ミクロフィブリル化し、生成した本件化学修飾MFCは繊維同士の凝集が抑制されて本件塩化ビニル系組成物中に良好に分散される。
【0111】
この混練工程において、繊維径が数十μm~数百μmの本件解繊原料が混練中に繊維径数十nm~数十μmの本件化学修飾MFCに解繊される。
【0112】
本件解繊原料は、本件塩化ビニル系組成物と溶融混練中に溶融混練機のせん断応力及び解繊助剤の作用により解繊しながら本件塩化ビニル系組成物と複合化することができる。このため、溶融混練法によれば、製造工程が簡単であり、製造費用の低コスト化を図ることができる。
【0113】
本発明の製造法で製造される本発明の塩化ビニル系重合体組成物における本件化学修飾MFCの含有割合は、本件化学修飾MFCと本件塩化ビニル系組成物の合計質量に対して、通常1質量%以上、40質量%以下程度であり、3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。本件化学修飾MFCの含有割合を上記範囲にすることにより、強度特性に優れた塩化ビニル系重合体組成物を得ることができる。
【0114】
本発明の製造法で製造される本発明の塩化ビニル系重合体組成物は、マスターバッチとして使用することもできる。マスターバッチとして使用する場合、本件化学修飾MFCの含有割合は、本件化学修飾MFCと本件塩化ビニル系組成物の合計質量に対して、10質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。
【0115】
本発明の製造法で製造される本発明の塩化ビニル系重合体組成物は、本件化学修飾MFCと本件塩化ビニル系組成物とが溶融混練された組成物である。溶融混練法は、樹脂又は樹脂前駆体溶液とセルロース系繊維はその不織布に含浸して複合体を製造する方法よりも生産性が高いので、本発明の製造法によって高い生産性で本件化学修飾MFCを含有する樹脂組成物を製造することができる。
【0116】
本発明の塩化ビニル系重合体組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で添加剤を含むことができる。添加剤として、例えば、相溶化剤、界面活性剤、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等の無機化合物、着色剤、可塑剤、難燃剤、加工助剤、耐衝撃改良剤、顔料、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0117】
9.成形体
本発明の製造方法で製造した塩化ビニル系重合体組成物を用いて、本発明の成形体を製造することができる。成形体を製造する際には、塩化ビニル系重合体組成物を、例えば、粉末状、シート状、板状、フィルム状等の各種形状に加工したものを成形材料として使用することができる。
【0118】
成形方法としては、射出成形、金型成形、押出成形等が挙げられる。成形体の形状としては、シート状、板状、フィルム状、立体構造等が挙げられる。用途に合わせて各種形状の成形体を、上記成型方法により製造することができる。
【0119】
本発明の製造方法で製造した塩化ビニル系重合体組成物を用いることにより、強度特性等に優れる成形体を得ることができる。
【0120】
本発明の製造方法で製造した塩化ビニル系重合体組成物から製造される成形体は、機械強度(引張り強度等)が要求される分野に使用することができる。
【0121】
具体的には、例えば、窓枠、雨樋、上下水道管、継手、排水桝、サイディング材等の建築材等;自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等として有効に使用することができる。中でも、窓枠材として特に有効に使用することができ、好ましい。
【実施例
【0122】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0123】
なお、実施例、及び、比較例において使用される略称の意味は、以下の通りである。
Ac:アセチル基
TUKP:トドマツ由来の未漂白クラフトパルプ
AcTUKP:TUKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されたTUKP
AcMFTUKP:TUKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
【0124】
実施例において、パルプ、化学修飾パルプ、化学修飾CNF、塩化ビニル系樹脂等の成分含量は質量部を示す。
【0125】
そして、含有する化学修飾された繊維の表示はその略称で記載(例えば、アセチル化されたトドマツ未漂白クラフトパルプはその略称AcTUKPで記載)されているが、その含有質量は未修飾繊維に換算して(すなわちAcTUKPの含有質量はTUKPに換算して)示している。
【0126】
以下の用語は、次の意味を有する。
・パス:二軸混練機に被混練物(試験材料)を供給し、混練機にかける回数を「パス」と呼ぶ。したがって、例えば、「1パス」は1回混練機にかけたことを意味し、「1パス目」は、最初に(1回目として)試験材料を混練にかけたことを意味し、「2パス目」は、1回混練機にかけた材料を次いで、2回目として混練機にかけたことを意味する。
・押出:混練機(押し出し機ともいう)に被処理物(試験材料)を供給し、混練処理を行うことを意味する。
【0127】
使用原材料
以下の実施例及び比較例において、原材料として以下のものを使用した。
(1)樹脂
・塩化ビニル(以下、「PVC」という):大洋塩ビ製、TH-1000、粉状
・酢酸ビニル(けん化度:0)含量26質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体を13質量%含有するエチレン酢酸ビニル共重合体に塩化ビニル87質量%がグラフト重合してなる塩化ビニル系共重合体(以下、「EVA-G-PVC」という):大洋塩ビ製、粉状
・エチレン酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」という):酢酸ビニル(けん化度:0)含量42質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体
・エチレン酢酸ビニル共重合体90%けん化物(以下、「EVOH」という):上記EVAの90%けん化物
・塩化ビニル―酢酸ビニル系共重合体(以下、「VCAC」という):塩化ビニル91.1質量%と酢酸ビニル8.9質量%が共重合してなる塩化ビニル系共重合体
(2)繊維
・AcTUKP:一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されたトドマツ由来の未漂白クラフトパルプ、DS=0.86、結晶化度=81.3%
(3)解繊助剤
・ε-カプロラクタム
(4)添加剤
・Ca-Zn系複合安定剤
・過塩素酸バリウム(以下、「過塩素酸塩」とも表記する)
【0128】
(試験方法及び使用機器)
(偏光顕微鏡による繊維含有組成物中の繊維の解繊状態及び分散状態の観察)
(a)観察用試料の作製
(1)繊維含有組成物より約2mm角の試験片を切り出した。
(2)スライドグラス上に試験片を乗せ、その上にカバーグラスを乗せた。
(3)190℃に加熱したプレス機で5分間、5MPaで加圧し、試験片を薄片化した。
(4)薄片化したサンプルを氷水に着けて急冷し、観察用試料を得た。
【0129】
(b)観察
得られた観察用試料について、観察装置(システム偏光顕微鏡 OLYMPUS BX51)で、クロスニコル、温度23℃、相対湿度50%で観察した。
【0130】
(成形品の作製方法)
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を185℃の温度のロールで3分間混練し、ロール混練シートを作製した。得られたロール混練シートを、185℃にて、圧力15MPaの条件で20分間プレス成形し、成形品を作製した。
【0131】
(引張弾性率の測定方法)
JIS-K7161に準拠し、測定を実施した。
【0132】
(曲げ弾性率の測定方法)
JIS-K7171に準拠し、測定を実施した。
【0133】
(貯蔵弾性率の測定方法)
測定は温度範囲-100~200℃、昇温速度5℃/minにて行った。
【0134】
(熱伝導率の測定方法)
JIS-R1611に準拠し、測定を実施した。
【0135】
(ビカット軟化温度の測定方法)
旧JISK67601981に準拠し、測定を実施した。
【0136】
(難燃性の試験方法)
UL94垂直燃焼性試験(V-0,1,2)に準拠し、試験を実施した。
【0137】
(線膨張係数の測定方法)
走査範囲0~100℃で測定し、傾きは0~60℃で算出した。
【0138】
実施例1
AcTUKP、PVC及びEVAの混合物を二軸混練機で溶融混練した。その後、得られた混練物にPVCを加えて希釈混練して、AcTUKP、PVC及びEVAを含有する組成物を得た。
【0139】
以下、図1に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:溶融混練)
組成比がAcTUKP/PVC/EVA/安定剤=96.9/87/13/5の混合物を、シリンダー温度を175℃に加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより溶融混練を行った。
【0140】
なお、二軸混練機にかけた上記混合物の組成比の表記(AcTUKP/PVC/EVA/安定剤=96.9/87/13/5)における数値は、以下の意味を有する。
96.9:混合物の全質量中に占めるAcTUKPの質量割合を表記したものである。
87:混合物の全質量中のPVCの質量割合を表記したものである。
13:混合物の全質量中のEVAの質量割合を表記したものである。
5:混合物の全質量中の安定剤の質量割合を表記したものである。
【0141】
特に断りがない限り、混合物及び混練物の組成比の記載はこの表記方法に従うものとする。
【0142】
(2パス目:希釈押出)
上記1パス済の混練物にPVCを加えて、組成比がPVC/(上記1パス混練物)=75/25の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度175℃)し、実施例1のPVC系重合体組成物を得た。得られたPVC系重合体組成物の組成比はAcTUKP/PVC/EVA/安定剤=10.0/83.9/1.8/4.3であった。
【0143】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像を図2に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は20μm以下であり、繊維は千切れずに解けていた。また、輪郭が不明瞭な数十nm~数μmの繊維の集合体が白い靄として観察された。また数μmの繊維径の細い繊維も観察された。
【0144】
実施例2
1パス目の樹脂をEVA-G-PVCにしたこと、1パス目のシリンダー温度を185℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のPVC系重合体組成物を得た。
【0145】
以下、図3に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:溶融混練)
組成比がAcTUKP/EVA-G-PVC/安定剤=96.9/100/5の混合物を、シリンダー温度を175℃に加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより溶融混練を行った。
【0146】
(2パス目:希釈押出)
上記1パス済の混練物にPVCを加えて、組成比がPVC/(上記1パス混練物)=75/25の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度175℃)し、実施例2のPVC系重合体組成物を得た。得られたPVC系重合体組成物の組成比はAcTUKP/PVC/EVA-G-PVC/安定剤=10.0/71.8/13.9/4.3であった。
【0147】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像を図4に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は20μm以下であり、繊維は千切れずに解けていた。また、輪郭が不明瞭な数十nm~数μmの繊維の集合体が白い靄として観察された。
【0148】
実施例3
1パス目の樹脂をEVA-G-PVC及びEVOHとしたこと、1パス目のシリンダー温度を170℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のPVC系重合体組成物を得た。
【0149】
以下、図5に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:溶融混練)
組成比がAcTUKP/EVA-G-PVC/EVOH/安定剤=96.9/90/10/5の混合物を、シリンダー温度を170℃に加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより溶融混練を行った。
【0150】
(2パス目:希釈押出)
上記1パス済の混練物にPVCを加えて、組成比がPVC/(上記1パス混練物)=75/25の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度175℃)し、実施例3のPVC系重合体組成物を得た。得られたPVC系重合体組成物の組成比はAcTUKP/PVC/EVA-G-PVC/EVOH/安定剤=10.0/80.6/3.6/1.5/4.3であった。
【0151】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像を図6に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は20μm以下であり、繊維は千切れずに解けていた。また、輪郭が不明瞭な数十nm~数μmの繊維の集合体が白い靄として観察された。また数μmの繊維径の細い繊維も観察された。
【0152】
実施例4
1パス目の樹脂をPVC及びVCACとしたこと、1パス目のシリンダー温度を185℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4のPVC系重合体組成物を得た。
【0153】
以下、図7に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:溶融混練)
組成比がAcTUKP/PVC/VCAC/安定剤=96.9/38.7/61.3/5の混合物を、シリンダー温度を185℃に加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより溶融混練を行った。
【0154】
(2パス目:希釈押出)
上記1パス済の混練物にPVCを加えて、組成比がPVC/(上記1パス混練物)=75/25の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度175℃)することで実施例4のPVC系重合体組成物を得た。得られたPVC系重合体組成物の組成比はAcTUKP/PVC/VCAC/安定剤=10.0/77.1/8.6/4.3であった。
【0155】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像を図8に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は20μm以下であり、繊維はやや千切れていたものの、解けていた。また、繊維長は短いものの、数μmの繊維径の細い繊維も観察された。
【0156】
実施例5
AcTUKP、PVC、εカプロラクタム及び水の混合物を二軸混練機で混練し、脱水処理を行い、次いで(2パス目で)上記1パス混合物を溶融混練し、残存する水を排出した。その後、得られた混練物にPVCを加えて溶融混練して、AcTUKP及びPVCを含有する組成物を得た。
【0157】
以下、図9に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
組成比がAcTUKP/PVC/εカプロラクタム/水/安定剤=12.6/12.4/15/20/0.6の混合物を、シリンダー温度を80℃~130℃に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。
【0158】
(2パス目:溶融混練)
シリンダー温度を105℃に設定した二軸混練機に、上記1パス混合物を通すことによって混練押出を行った。残存する水及びεカプロラクタムを排出し、更に混練物について80℃の温水で2時間の洗浄を行った。洗浄後の混練物の組成比はAcTUKP/樹脂=38/62であった。
【0159】
(3パス目:希釈押出)
上記2パス済みの混合物にPVCを加えて、組成比がPVC/(上記2パス混練物)=66.7/33.3の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度175℃)し、実施例5のPVC系重合体組成物を得た。得られたPVC系重合体組成物の組成比はAcTUKP/PVC/安定剤=10.0/85.7/4.3であった。
【0160】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像を図10に示す。偏光顕微鏡画像によると太い繊維の繊維径は20μm以下であり、繊維は千切れずに解けていた。また、輪郭が不明瞭な数十nm~数μmの繊維の集合体が白い靄として観察された。
【0161】
実施例6
1パス目のPVCをEVA-G-PVCとしたこと、2パス目のシリンダー温度を95℃のしたこと及び過塩素酸塩を3パス目の前に添加したこと以外は実施例5と同様にして、実施例6のPVC系重合体組成物を得た。
【0162】
以下、図11に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
組成比がAcTUKP/EVA-G-PVC/εカプロラクタム/水/安定剤=12.6/12.4/15/20/0.6の混合物を、シリンダー温度を80℃~130℃に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。
【0163】
(2パス目:溶融混練)
シリンダー温度を95℃に設定した二軸混練機に、上記1パス混合物を通すことにより混練押出を行った。残存する水及びεカプロラクタムを排出し、更に混練物について80℃の温水で2時間の洗浄を行った。洗浄後の混練物の組成比はAcTUKP/樹脂=50/50であった。
【0164】
(3パス目:希釈押出)
上記2パス済の混練物にPVC及び過塩素酸塩を加えて、組成比がPVC/(上記2パス混練物)/過塩素酸塩=75/25/0.87の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度175℃)し、樹脂組成物を得た。得られたPVC系重合体組成物の組成比はAcTUKP/PVC/EVA-G-PVC/安定剤及び過塩素酸塩=10.0/71.7/13.9/4.4であった。成形品の作製について、得られた組成物に過塩素酸塩をPVC系重合他組成物/過塩素酸塩=100/1.5で添加し、前記条件に従って成形品を作製した。
【0165】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像を図12に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は20μm以下であり、繊維は千切れずに解けていた。また、輪郭が不明瞭な数十nm~数μmの繊維の集合体が白い靄として観察された。また数μmの繊維径の細い繊維も観察された。
【0166】
実施例7
2パス後の操作について、PVCを加えシリンダー温度130℃で希釈混練を行い、その後80℃で温水洗浄したこと、過塩素酸塩を3パス前に添加しないこと以外は、実施例6と同様にして実施例7のPVC系重合体組成物を得た。
【0167】
以下、図13に記載の各工程について詳細に説明する。
(1パス目:脱水押出)
組成比がAcTUKP/EVA-G-PVC/εカプロラクタム/水/安定剤=12.6/12.4/15/20/0.6の混合物を、シリンダー温度を80℃~130℃に傾斜加熱し、ベントを設けた二軸混練機に通すことにより脱水押出を行った。
【0168】
(2パス目:溶融混練)
シリンダー温度を95℃に設定した二軸混練機に、上記1パス混合物を通すことにより混練押出を行った。残存する水及びεカプロラクタムを排出し、押出後の混練物の組成比はAcTUKP/樹脂(εカプロラクタムが残存)=30/70であった。
【0169】
(3パス目:希釈押出)
上記2パス済の混練物にPVCを加えて、組成比がPVC/(上記2パス混練物)=75/25の混合物とし、これを二軸混練機で溶融混練(シリンダー温度130℃)し、更に80℃の温水で2時間の洗浄を行うことで樹脂組成物を得た。得られたPVC系重合体組成物の組成比はAcTUKP/PVC/EVA-G-PVC/安定剤=10.0/71.8/13.9/4.3であった。成形品の作製について、得られた組成物に過塩素酸塩をPVC系重合他組成物/過塩素酸塩=100/1.5で添加し、前記条件に従って成形品を作製した。
【0170】
得られた組成物から、前記条件に従って顕微鏡観察用試料を作製し、試料中の繊維の状態を、前記の偏光顕微鏡により観察した。得られた偏光顕微鏡観察像を図14に示す。偏光顕微鏡観察像によると太い繊維の繊維径は10μm以下であり、繊維は千切れずに解けていた。また、輪郭が不明瞭な数十nm~数μmの繊維の集合体が白い靄として観察された。また数μmの繊維径の細い繊維も観察された。
【0171】
比較例1
PVC/安定剤=100/5の混合物について、二軸混練機で溶融押出(シリンダー温度175℃)を行った。工程を図15に示す。
【0172】
比較例2
PVC/EVA-G-PVC/安定剤=79.8/15.4/4.8の混合物について、二軸混練機で溶融押出(シリンダー温度175℃)を行った。工程を図16に示す。
【0173】
実施例1~7、及び比較例1~2について、得られた組成物から、前記条件に従って成形品を作製し、上記の方法で引張弾性率及び曲げ弾性率を測定した。但し、実施例6及び実施例7の成形品作製については、ロール混練前に過塩素酸塩を樹脂組成物/過塩素酸塩=100/1.5の組成比で加えた。結果を表1に示す。
【0174】
実施例1~4及び比較例1~2の引張弾性率、曲げ弾性率の結果を表1に示す。
【0175】
【表1】
【0176】
表1のデータから以下のことが分かった。
【0177】
実施例1の方法で作製した成形体の引張弾性率はPVCのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、39%高い値を示し、曲げ弾性率は46%高い値を示した。
【0178】
実施例2の方法で作製した成形体の引張弾性率はPVCのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、34%高い値を示し、曲げ弾性率は41%高い値を示した。
【0179】
実施例3の方法で作製した成形体の引張弾性率はPVCのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、38%高い値を示し、曲げ弾性率は46%高い値を示した。
【0180】
実施例4の方法で作製した成形体の引張弾性率はPVCのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、34%高い値を示し、曲げ弾性率は40%高い値を示した。
【0181】
実施例5の方法で作製した成形体の引張弾性率はPVCのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、48%高い値を示し、曲げ弾性率は47%高い値を示した。
【0182】
実施例6の方法で作製した成形体の引張弾性率はPVCのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、43%高い値を示し、曲げ弾性率は57%高い値を示した。
【0183】
実施例7の方法で作製した成形体の引張弾性率はPVCのみからなる成形体(比較例1)のそれに比べて、50%高い値を示し、曲げ弾性率は69%高い値を示した。
【0184】
実施例1、実施例3及び実施例4で成形体の引張弾性率、曲げ弾性率がともに高い値を示した。これはEVA、EVOH、VCACがそれぞれAcTUKPの解繊を促進し、PVC系重合体組成物中での繊維による補強効果をもたらしたためだとわかる。
【0185】
実施例2と比較例2とを比較すると、実施例2の方法(1パス目でEVA-G-PVCを使用)で製造した組成物からなる成形体では、比較例2の成形体に対して、引張弾性率が43%高い値を示し、曲げ弾性率が44%高い値を示した。これは繊維による補強効果を示しており、繊維の添加によりPVC系重合体組成物は高い剛性を持つことがわかる。
【0186】
実施例5においては、EVA-G-PVCを用いずにεカプロラクタムを添加してPVC系樹脂組成物を得た。εカプロラクタムには、セルロースを膨潤させて解繊性を向上させる解繊助剤の効果、解繊したAcTUKPが混練中に再凝集するのを抑制する凝集抑制剤の効果、及びPVCマトリクスによる希釈時の分散効果を促す分散剤の効果があると考えられる。そのため、εカプロラクタムの存在しない実施例2と比べて、成形体の引張弾性率が10%高い値を示し、曲げ弾性率が4%高い値を示した。
【0187】
上記より、解繊促進剤としてのεカプロラクタムの添加効果が大きいことがわかる。
【0188】
実施例6及び実施例7について、実施例2及び実施例5で繊維の解繊促進効果が認められたEVA-G-PVC及びεカプロラクタムを併用することで、成形体の引張弾性率、曲げ弾性率がともに高い値を示した。
【0189】
実施例6と実施例7を比較すると、2パス以降のεカプロラクタムの除去タイミングが異なる。実施例6では希釈混練を行う3パスの前に温水洗浄による除去を行い、実施例7では3パス後にεカプロラクタムを除去した。その結果、実施例7は実施例6よりも更に引張弾性率は5%高い値を示し、曲げ弾性率は8%高い値を示した。
【0190】
上記より、希釈混練時にもεカプロラクタムが存在することで繊維の解繊促進効果が持続することがわかる。
【0191】
(ビカット軟化温度、熱伝導率)
実施例2、実施例6、比較例1について、それぞれ成形体のビカット軟化温度及び熱伝導率の測定を行った。結果を表に示す。
【0192】
【表2】
【0193】
ビカット軟化温度について、実施例2(AcTUKP添加及びEVA-G-PVC使用)は比較例1(PVCのみ)と比べて20℃高いことがわかる。また、実施例6(実施例2に加えてεカプロラクタム添加)は比較例1と比べて32℃高いことがわかる。
【0194】
上記より、繊維による補強は高温での剛性を向上させることも確認された。またこの効果は、より繊維が解繊することで高まることがわかる。
【0195】
熱伝導率について、実施例2、実施例6、及び、比較例1全てにおいてほとんど変化していないことがわかる。このことから、PVC系樹脂組成物の高い断熱性は維持されることが確認された。
【0196】
(線膨張係数、難燃性)
実施例6及び比較例1について、それぞれ成形体の線膨張係数の測定及び難燃性試験を行った。結果を表に示す。
【0197】
【表3】
【0198】
線膨張係数について、実施例6は比較例1と比べて良好な線膨張係数を示しており、寸法安定性が向上していることがわかる。
【0199】
難燃性について、実施例6及び比較例1がともに最も燃えにくいV-0の指標となることから、繊維の添加によりPVCの自己消火性は無くならないことがわかる。
図1
図2
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図16