(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】印判用画像処理装置および印判加工機
(51)【国際特許分類】
B41K 1/50 20060101AFI20231017BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20231017BHJP
B41C 1/055 20060101ALI20231017BHJP
B41J 2/52 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B41K1/50 A
G06T1/00 340A
B41C1/055
B41J2/52
(21)【出願番号】P 2019159273
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 慎磨
(72)【発明者】
【氏名】渕上 亜紀子
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153191(JP,A)
【文献】特開2006-202049(JP,A)
【文献】特開2007-251473(JP,A)
【文献】特開2004-152127(JP,A)
【文献】特開2001-177723(JP,A)
【文献】特開2005-125549(JP,A)
【文献】特開平07-274194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/50
G06T 1/00
B41C 1/055
B41J 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された顔写真から顔画像を検出する顔画像検知手段と、背景画像を検出する背景画像検知手段と、これらの画像をグレースケール化する階調補正手段と、グレースケール化された顔画像、背景画像及び全体画像を記憶する補正画像記憶手段と、記憶された背景画像の階調から変換基準値を決定し、この変換基準値
と階調変換前の特定エリアの階調平均値の比である階調変換率を算出し、前記階調変換率に基づいて
前記グレースケール化された顔画像の
各画素の階調を変換し、次に
前記階調変換率を背景部分の各画素に適用して背景画像の階調を変換する階調変換手段と、階調変換された全体画像を記憶する変換画像記憶手段と、変換画像記憶手段に記憶された全体画像を2値化する2値化演算手段と、2値化された全体画像を記憶する2値化画像記憶手段とを備えたことを特徴とする印判用画像処理装置。
【請求項2】
変換画像記憶手段に記憶された全体画像の階調を、印影濃度を基準とする補正テーブルを用いて線形化する階調線形化手段と、線形化された画像を記憶する線形化画像記憶手段を備えた請求項1に記載の印判用画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人物写真からその印判を作成するために用いられる印判用画像処理装置および印判加工機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユーザが撮影した顔写真を基に印判を自動作成する装置が開発され、既に実用化されている。この装置を用いれば、ユーザは自分や友人の顔写真を入力し、オリジナルの印判を手軽に作成することができる。
【0003】
この印判は、インク吸蔵体となる多孔質材を、例えば特許文献1に示されるようなサーマルヘッドを備えた印判加工機を用いて熱加工処理して製造することができる。サーマルヘッドはライン状に配置された多数の発熱素子を備え、サーマルヘッドを移動させながら多孔質材の表面に接触させ、各発熱素子を選択的に発熱駆動して多孔質材を溶融固化させ、1ラインずつ印面を作成する。多孔質材の溶融固化された部位はインクが通過できないため捺印したときに白色となり、その他の部位にはインクが滲出するためインクの色に着色される。本明細書では説明を簡素化するため、インクを黒色として説明するが、インクの色は任意であることはいうまでもない。
【0004】
このように、印判の印面は2値化された微細な点の集合図形として構成されるが、顔写真を単純に2値化して印判としただけでは印面が粗く、見苦しくなる。そこで特許文献2には、元画像を256階調のグレースケールに変換し、変換値を補正したうえ、周知のドット分散型ディザマトリックスを利用してハーフトーンを表現した印面とする画像処理法が提案されている。
【0005】
しかし特許文献2の画像処理法は顔写真の印判に特定されたものではなく、一般的な元画像を対象としている。そのため顔写真を元画像とし、サーマルヘッドを用いた印判作成に特許文献2の画像処理法を適用した場合には、次の2つの問題があった。
【0006】
第1に、顔写真の背景の明度が高く白色に近い場合、サーマルヘッドは顔の周囲の広い部分を溶融固化させることとなる。このため多孔質体に多くの熱が加えられることとなり、その余熱によって顔付近の多孔質体の開口が僅かに閉じてしまい、顔画像にひずみが生ずることがある。
【0007】
第2に、顔写真では特に顔の表情を鮮明にすることが求められるが、背景の明度が高すぎたり低すぎる場合には、顔部分が白くなったり暗くなったりして、きれいな印面が得られないことがあった。
【0008】
このほか、特許文献3には印判用画像処理ではないが、基準色で構成された色票と単色の背景を被写体と同時に撮影し、この色票部分の画像データを基準として画像全体の画像データを補正し、色調を調整する画像処理法が記載されている。しかし基準色の色票と単色の背景を条件としており、一般ユーザが手軽に撮影した顔写真には適用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6399308号公報
【文献】特許第4122669号公報
【文献】特開平7-274194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、色票を用いることなく、鮮明な顔写真画像の印判を作成することができる印判用画像処理装置および印判加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するためになされた本発明の印判用画像処理装置は、入力された顔写真から顔画像を検出する顔画像検知手段と、背景画像を検出する背景画像検知手段と、これらの画像をグレースケール化する階調補正手段と、グレースケール化された顔画像、背景画像及び全体画像を記憶する補正画像記憶手段と、記憶された背景画像の階調から変換基準値を決定し、この変換基準値と階調変換前の特定エリアの階調平均値の比である階調変換率を算出し、前記階調変換率に基づいてグレースケール化された顔画像の各画素の階調を変換し、次に前記階調変換率を背景部分の各画素に適用して背景画像の階調を変換する階調変換手段と、階調変換された全体画像を記憶する変換画像記憶手段と、変換画像記憶手段に記憶された全体画像を2値化する2値化演算手段と、2値化された全体画像を記憶する2値化画像記憶手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
なお、変換画像記憶手段に記憶された全体画像の階調を、印影濃度を基準とする補正テーブルを用いて線形化する階調線形化手段と、線形化された画像を記憶する線形化画像記憶手段を更に備えることが好ましい。
【0013】
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、背景画像の階調から変換基準値を決定し、この変換基準値に基づいて全体画像の階調を変換するため、背景画像の明度にかかわらず、また色票を用いることなく、鮮明な顔写真画像の印判を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】人の目で見た
階調と濃度の関係を示すグラフである。
【
図5】
階調の線形化処理を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1に示すように、本発明の印判用画像処理装置は、演算部10と記憶部20とを備えている。演算部10には各種の演算手段が含まれており、記憶部10には各種の記憶手段やデータベースが含まれている。以下に
図2のフローを参照しつつ、各手段の機能を説明する。
【0017】
先ずスキャナその他の適宜の読込手段によって、
図3に示すような顔写真50が印判用画像処理装置に入力される(ST1)。顔写真50は一般的にカラー写真であり、顔画像51と背景画像52が含まれている。顔画像51及び背景画像52の明度は様々であり、
図3(A)のように背景画像52が顔画像51よりも明るい場合も、
図3(B)のように逆の場合もある。また顔画像51の肌の色も様々である。演算部10の顔画像検知手段11が入力された顔写真50から顔画像51を検出し、また背景画像検知手段12が背景画像を検出する(ST2)。
【0018】
顔写真50から顔画像51と背景画像52(顔画像以外)を分離するためには、まず、顔画像51を抽出する。顔画像51の抽出は、カラー写真のRGBの規則により人間の肌に近い色のみを抽出する方法が考えられる。具体的には、カラー画像中に分布する個々の色を赤(R)、緑(G)、青(B)の明度(0~255)で表した場合、R(赤)が最大値となるエリア、赤(R)が100以上となるエリア、赤(R)と緑(G)の差分が20~100となるエリア、緑(G)と青(B)の差分が100未満となるエリアを顔画像51と認定、抽出する。顔画像と認定したエリア以外を、背景画像52(顔画像以外)と認定、抽出することで、顔写真50から、顔画像51と背景画像52(顔画像以下)を分離することが出来る。なお、顔画像51を抽出する方法は、前記の方法に限らず、例えば顔写真から顔の輪郭部分だけを認定・抽出する方法など幾多の方法が考えられる。
【0019】
これらの画像は演算部10の階調補正手段13によりグレースケール化される(ST3)。グレースケール化は顔画像51と背景画像52の画素をその明度に応じて、階調0(純黒)から階調255(純白)までの256段階に変換することを意味する。グレースケール化された顔画像、背景画像及び全体画像は補正画像記憶手段21に記憶される(ST4)。
【0020】
次に、補正画像記憶手段21に記憶された背景画像の階調平均値から、表1に示す明るさ補正テーブルに基づいて変換基準値を決定する(ST5)。背景画像の階調平均値とは、背景画像と認定されたエリアに分布する階調範囲が0~255である個々の画素値の合計を求め、合計の値を分布している画素数で割った値である。表1中の変換基準値は顔部画素の目標階調平均値である。この実施形態では、背景画像52の明度が高い場合(階調平均値が160を超えた場合)には変換基準値として階調160を設定し、逆に背景画像52の明度が低い場合(階調平均値が140未満の場合)には変換基準値として階調180を設定する。なお、今回の補正テーブルでは、基準とする階調値を平均値としたが、これを中央値など他の基準値としても良いことは勿論である。
【0021】
【0022】
次に階調変換手段14が変換基準値に基づいて全体画像の階調を変換する。
図2に示すように、まず変換基準値に基づいてグレースケール化された顔画像の階調を変換し(ST6)、次に顔画像の変換に基づいて、
背景画像の階調を変換する(ST7)。この変換は各画素の階調を一律に平行移動させるのではなく、各画素の階調値と変換基準値との差に応じて変換率を変える方法で行うことが好ましい。この実施形態では、顔画像の階調を変換する為の変換基準値を、背景画素の階調平均値に基づいて決める。背景画素エリアの
階調平均値が200である場合、変換基準値は160である。
【0023】
続いて、階調変換率を算出する。階調変換率とは、変換基準値と階調変換前の特定エリアにおける階調平均値の比であり、下記式(1)で表される。階調変換前の特定エリアの階調平均値が、変換基準値よりも大きい場合、階調変換率は、マイナスの値を示す。
[(変換基準値-変換前・特定エリアの階調平均値)÷256]×100・・・式(1)
【0024】
例えば、前記のように背景画像エリアの階調平均値が200の場合において、階調変換前の顔部画素の階調平均値が160の場合は、階調変換率は0%であるが、階調変換前の顔部画素の階調平均値が150の場合は、階調変換率は3.9%、階調変換前の顔部画素の階調平均値が140の場合は、階調変換率は7.8%、階調変換前の顔部画素の階調平均値が130の場合は、階調変換率は11.7%となる。
【0025】
続いて、前記算出された階調変換率を顔部の各画素に割り当てて、顔部画像の階調を変換する。例えば、階調変換前の顔部画素の平均値が130であって、変換基準値が160の場合は、階調変換率が11.7%となり、顔部の各画素の階調値が、階調変換前の階調値から、それぞれ、11.7%増えるように調整され、階調変換後の顔部の階調平均値は、145となる。
【0026】
同様に求められた階調変換率に基づいて、背景部分(顔部以外)の階調が変換される。例えば、階調変換前の背景部分(顔部以外)の階調平均値が200であって、階調変換率が11.7%である場合は、背景部分(顔部以外)の各画素の階調値が、階調変換前の階調値から、それぞれ、11.7%増えるように調整され、階調変換後の背景部分(顔部以外)の階調平均値は223となる。このような一連の階調変換により、全体画像の階調が変換される。
なお、変換基準値の具体的な数値は、この例に限定されるものではなく、作成したい版下画像によって、適宜設定することができる。また、階調変換率を設けず、変換基準値を、階調変換による顔部画素の目標階調平均値としても良い。
【0027】
さらに、一つのレンジの背景の階調平均値に対して、変換基準値を2つ設け、顔部の階調変換と、背景部の階調変換の度合いを異ならせても良い。
【0028】
このST5からST7の工程は、背景画像の明度が高い場合には顔画像の階調平均値を低めに設定して顔画像の階調を低めに変換し、全体画像の階調も低めに変換することを意味している。これにより背景画像の階調平均値も引き下げられ、背景の明度が低下することとなるので、サーマルヘッドの余熱による顔画像のひずみを避けることができる。逆に背景画像の明度が低い場合には顔画像の階調平均値を高めに変換し、それとともに背景画像の階調も引き上げられるので、全体の明度が高くなる。このようにして背景の明暗にかかわらず、鮮明な顔写真のデータが作成される。得られた画像は変換画像記憶手段23に記憶される。
【0029】
次にこの画像は、捺印用補正テーブル24を用いて
階調線形化手段15により線形化される(ST8)。
図4は横軸を
階調とし、縦軸を濃度としたグラフであり、理論的には
階調と濃度は比例するのでプロットは直線となるはずである。しかし人の目で見ると
階調と濃度は正比例するのではなく、
階調が255に近い領域ではほぼ白色に見え、濃度が0に近い領域ではすべて黒色に見える。
図4の矢印はこの変化を示している。このため
階調の両端部に付いては画像の
階調をそのまま用いると、白黒のコントラストが強くなりすぎる。そこで
図5に矢印で示すように、捺印用補正テーブル24を用いて
階調の両端部の値をシフトさせる。この補正によって、人の目で見た場合の
階調を線形化することができる。線形化された画像は線形化画像記憶手段25に記憶される。
【0030】
次にこの線形化された画像を2値化演算手段16が、2値化テーブル26を用いてハーフトーンを表現した2値化画像とする(ST9)。これは微小なドットを分散させると人の目にはグレーに見える網点印刷の原理を利用したもので、ドット分散型ディザマトリックスと呼ばれる周知の技術である。その原理を
図6に示した。この例では4×4のマトリクスに0から15の整数をランダムに配置し、これを16倍してディザマトリックスを作成する。そして画像も4×4の画素からなる微小なマトリクスに分割し、マトリクス中の各マスの
階調をディザマトリックス中の対応する位置の数値と比較して、画像の
階調が小さい場合にはそのマスを黒とし、画像の
階調が大きい場合にはそのマスを白とする。この演算を繰り返すことにより画像は微小なドットを分散させたハーフトーンの画像に変換される。このようにして得られた2値化された全体画像は2値化画像記憶手段27に記憶される。なお、画像をハーフトーンを表現した2値化画像とする方法はドット分散型ディザマトリックスを用いる方法に限定されるものではなく、周知の誤差拡散法などその他の方法を利用してもよい。
【0031】
図1に示されるように、本発明の印判用画像処理装置には印判加工機30が接続されている。印判加工機30は、ライン状に配置された多数の発熱素子31を備えたサーマルヘッド32と、その昇降制御手段33、発熱駆動制御手段34、これら全体の制御手段35、タッチパネル36、テンキー37等を備えている。
【0032】
本発明の印判用画像処理装置により得られた2値化された全体画像は2値化画像記憶手段27から印判加工機30に入力され、昇降制御手段33、発熱駆動制御手段34がサーマルヘッド32を多孔質材の表面に接触させた状態で移動させながら、各発熱素子31を選択的に発熱駆動して多孔質材を溶融固化させ、1ラインずつ印面を作成する。これによって鮮明な顔写真画像の多孔質印判40を作成することができる。この多孔質印判40にインクを含侵させれば、鮮明な顔写真のスタンプとして用いることができる。
【0033】
実施例に替えて、
図7に顔写真の元画像、
図8にST7までの処理を行った画像、
図9にST9までの処理を行った画像を示す。元画像は顔画像の
階調平均値が140、背景画像の
階調平均値が60であって顔部が暗くなっている。
図8では変換基準値を180とし、顔画像の
階調平均値を180、背景画像の
階調平均値も100に変換したので顔が明るくなっているが、コントラストが強い感がある。しかし
図9では顔画像が鮮明でコントラストも適度な良好な状態となっている。なお、各画像を印判加工機30に入力して多孔質印判40を製作しても、上記と同様の傾向となることが確認されている。
【0034】
以上に説明したように、本発明によれば、色票を用いることなく鮮明な顔写真画像の印判を作成することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 演算部
11 顔画像検知手段
12 背景画像検知手段
13 階調補正手段
14 階調変換手段
15 階調線形化手段
16 2値化演算手段
20 記憶部
21 補正画像記憶手段
22 明るさ補正テーブル
23 変換画像記憶手段
24 捺印用補正テーブル
27 2値化画像記憶手段
30 印判加工機
31 発熱素子
32 サーマルヘッド
33 昇降制御手段
34 発熱駆動制御手段
35 制御手段
36 タッチパネル
37 テンキー
40 多孔質印判
50 顔写真
51 顔画像
52 背景画像