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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20231017BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/00 N
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019128640
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2021013937
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 良夫
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-261576(JP,A)
【文献】再公表特許第2008/087984(JP,A1)
【文献】国際公開第2018/185973(WO,A1)
【文献】特開2003-010989(JP,A)
【文献】特開2016-199411(JP,A)
【文献】特開2005-021949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザ光を照射する1以上のレーザ照射部と、
前記レーザ光により加熱された前記対象物の温度を測定する温度測定部と、
前記対象物からの輻射光を透過する透過波長帯域と、前記レーザ光を遮断する遮断波長帯域と、を有する波長選択部と、
を備え、
前記温度測定部は、
前記輻射光に含まれる第1波長の光の強度である第1強度と、
前記輻射光に含まれ、前記第1波長と異なる第2波長の光の強度である第2強度と、
に基づいて、前記対象物の温度を測定
前記透過波長帯域は、前記遮断波長帯域よりも波長が小さい第1透過波長帯域と、前記遮断波長帯域よりも波長が大きい第2透過波長帯域と、を含み、
前記第1波長は、前記第1透過波長帯域に含まれ、
前記第2波長は、前記第2透過波長帯域に含まれる、
レーザ加工装置。
【請求項2】
対象物にレーザ光を照射する1以上のレーザ照射部と、
前記レーザ光により加熱された前記対象物の温度を測定する温度測定部と、
を備え、
前記温度測定部は、
前記対象物からの輻射光に含まれる第1波長の光の強度である第1強度と、
前記対象物からの輻射光に含まれ、前記第1波長と異なる第2波長の光の強度である第2強度と、
に基づいて、前記対象物の温度を測定し、
前記対象物は、原料棒と、結晶棒とを有し、
前記原料棒と前記結晶棒とは、前記原料棒の軸方向の端部と、前記結晶棒の軸方向の端部とが、予め定められた間隔で対向するように配置され、
前記レーザ照射部は、前記原料棒の前記端部と、前記結晶棒の前記端部とに前記レーザ光を照射し、
溶融移動浮遊帯域法により、成長させる結晶とは異なる成分のフラックス材料を用いて前記結晶を成長させる場合において、前記原料棒の前記端部と前記結晶棒の前記端部とが溶融した溶融帯の温度に基づいて、前記溶融帯におけるフラックス濃度の偏りを判定し、
前記フラックス濃度の前記偏りは、前記原料棒と前記結晶棒とが前記間隔で対向する方向に交差する方向における偏りである、
レーザ加工装置。
【請求項3】
前記溶融帯における前記フラックス濃度の前記偏りに基づいて、溶融移動浮遊帯域法により、前記結晶を成長させる時間を推定する、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記温度測定部は、前記溶融帯の組成と、前記原料棒と前記結晶棒とが溶融する温度との関係を算出し、算出した前記関係に基づいて前記溶融帯の温度を決定する、請求項2または3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記輻射光を透過する透過波長帯域と、前記レーザ光を遮断する遮断波長帯域と、を有する波長選択部をさらに備え、
前記第1波長および前記第2波長は、前記透過波長帯域に含まれる、
請求項2から4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記透過波長帯域は、前記遮断波長帯域よりも波長が小さい第1透過波長帯域と、前記遮断波長帯域よりも波長が大きい第2透過波長帯域と、を含み、
前記第1波長は、前記第1透過波長帯域に含まれ、
前記第2波長は、前記第2透過波長帯域に含まれる、
請求項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記遮断波長帯域における、前記レーザ光の光学密度は4以上であり、
前記透過波長帯域における、前記第1波長の前記輻射光の透過率、および、前記第2波長の前記輻射光の透過率は、30%以上である、
請求項1、5および6のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記波長選択部は、複数種類の誘電体が積層された積層膜、または、前記レーザ光の偏光方向に直交する方向に配置された偏光素子である、請求項1および5から7のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記温度測定部は、前記第1強度と前記第2強度との比に基づいて、前記対象物の前記温度を測定する、請求項1から8のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記温度測定部は、
前記第1波長の光に感度を有する第1センサと、
前記第2波長の光に感度を有する第2センサと、
を有する、請求項1からのいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
前記輻射光を前記第1センサおよび前記第2センサに集光するレンズをさらに備える、請求項10に記載のレーザ加工装置。
【請求項12】
前記温度測定部は、前記対象物の種類に基づいて、前記第1センサの感度と前記第2センサの感度とを校正する、請求項10または11に記載のレーザ加工装置。
【請求項13】
前記温度測定部は、前記対象物の種類に基づいて、前記対象物の前記温度を補正する、請求項1から12のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項14】
前記温度測定部は、前記第1強度と前記対象物の温度との第1の関係、および、前記第2強度と前記対象物の温度との第2の関係を、前記対象物の種類ごとに予め記憶した記憶部をさらに有し、
前記温度測定部は、前記記憶部に記憶された前記第1の関係および前記第2の関係の少なくとも一方に基づいて、前記対象物の前記温度を補正する、
請求項13に記載のレーザ加工装置。
【請求項15】
前記温度測定部は、前記対象物における、前記レーザ光が照射される領域の少なくとも一部の領域の温度を測定する、請求項1から14のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項16】
前記温度測定部は、前記レーザ光が照射される前記領域において、前記少なくとも一部の領域の位置を変更可能である、請求項15に記載のレーザ加工装置。
【請求項17】
前記レーザ光の出力を制御する出力制御部をさらに備え、
前記出力制御部は、前記温度測定部により測定された前記対象物の前記温度の変化に応じて、前記レーザ光の出力を制御する、
請求項1から16のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項18】
前記出力制御部は、PID制御方式で前記レーザ光の出力を制御する、請求項17に記載のレーザ加工装置。
【請求項19】
前記出力制御部は、
前記温度測定部により測定された前記対象物の前記温度が、予め定められた温度以下となるように前記レーザ光の出力を制御し、
前記対象物の前記温度が前記予め定められた温度を超えた場合に、前記レーザ光の出力を停止し、または、異常警報を発生する、
請求項17または18に記載のレーザ加工装置。
【請求項20】
前記対象物における溶融帯の映像を取得する溶融帯監視部をさらに備え、
前記出力制御部は、前記溶融帯監視部により取得された前記溶融帯の前記映像に基づいて、前記レーザ光の出力を制御する、
請求項17から19のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項21】
前記溶融帯監視部は、前記対象物の映像を取得するカメラと、前記対象物からの輻射光を減衰させる光学フィルタと、を有し、
前記光学フィルタは、2つの偏光子を含む、
請求項20に記載のレーザ加工装置。
【請求項22】
前記2つの偏光子の一方は、前記カメラに対して偏光軸を固定して配置された固定偏光子であり、
前記2つの偏光子の他方は、前記カメラに対する偏光軸の向きを回転させる機構を有する回転偏光子である、
請求項21に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱レーザ光を用いたレーザ加工装置が急速に普及している。(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2016-199411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
加熱レーザ光を用いたレーザ加工装置において、微少領域の加工部の温度を正確に非接触で計測することは大きな開発課題である。特許文献1に記載された放射温度計は、加熱された領域(被測定部位)からの輻射光強度を計測することにより、被測定部位の温度を非接触且つリアルタイムで計測できる。
【0004】
特許文献1に開示された方法は、加熱レーザ光の強度が弱い場合は被測定部位の温度を正確に計測しやすい。しかしながら、特許文献1に開示された方法においては、加熱レーザ光の強度が強い場合、被測定部位から反射した加熱レーザ光が無視できない強度となりやすい。このため、測定部は加熱部の輻射光と加熱レーザ光の反射光を同時に計測してしまう場合がある。このため、当該測定部は、強い加熱レーザ光の被測定部位からの反射光により、被測定部位の温度を誤った温度に測定してしまう場合がある。
【0005】
また、測定部と被測定部位との間に被測定部位から発生した蒸発物が存在すると、被測定部位から発生する輻射光強度が減少しやすい。特許文献1に開示された方法においては、この蒸発物の存在により輻射光の強度が減少すると、測定部は、被測定部位の温度が実際には低下していない場合であっても、被測定部位の温度を実際の温度よりも低く測定しやすい。このため、特許文献1に開示された方法においては、被測定部位の温度を正確に計測することが困難となる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、レーザ加工装置を提供する。レーザ加工装置は、対象物にレーザ光を照射する1以上のレーザ照射部と、レーザ光により加熱された前記対象物の温度を測定する温度測定部と、を備える。温度測定部は、対象物からの輻射光に含まれる第1波長の光の強度である第1強度と、対象物からの輻射光に含まれ、第1波長と異なる第2波長の光の強度である第2強度とに基づいて、対象物の温度を測定する。
【0007】
温度測定部は、第1強度と第2強度との比に基づいて、対象物の温度を測定してよい。
【0008】
レーザ加工装置は、輻射光を透過する透過波長帯域と、レーザ光を遮断する遮断波長帯域と、を有する波長選択部をさらに備えてよい。第1波長および第2波長は、透過波長帯域に含まれてよい。
【0009】
透過波長帯域は、遮断波長帯域よりも波長が小さい第1透過波長帯域と、遮断波長帯域よりも波長が大きい第2透過波長帯域と、を含んでよい。第1波長は、第1透過波長帯域に含まれてよい。第2波長は、第2透過波長帯域に含まれてよい。
【0010】
遮断波長帯域における、レーザ光の光学密度は4以上であてよい。透過波長帯域における、第1波長の輻射光の透過率、および、第2波長の輻射光の透過率は、30%以上であってよい。
【0011】
波長選択部は、複数種類の誘電体が積層された積層膜、または、レーザ光の偏光方向に直交する方向に配置された偏光素子であってよい。
【0012】
温度測定部は、第1波長の光に感度を有する第1センサと、第2波長の光に感度を有する第2センサと、を有してよい。
【0013】
温度測定部は、対象物の種類に基づいて、第1センサの感度と第2センサの感度とを校正してよい。
【0014】
温度測定部は、対象物の種類に基づいて、対象物の前記温度を補正してもよい。
【0015】
温度測定部は、第1強度と対象物の温度との第1の関係、および、第2強度と対象物の温度との第2の関係を、対象物の種類ごとに予め記憶した記憶部をさらに有してよい。温度測定部は、記憶部に記憶された第1の関係および第2の関係の少なくとも一方に基づいて、対象物の温度を補正してよい。
【0016】
温度測定部は、対象物における、レーザ光が照射される領域の少なくとも一部の領域の温度を測定してよい。
【0017】
温度測定部は、レーザ光が照射される領域において、少なくとも一部の領域の位置を変更可能であってよい。
【0018】
レーザ加工装置は、レーザ光の出力を制御する出力制御部をさらに備えてよい。出力制御部は、温度測定部により測定された対象物の温度の変化に応じて、レーザ光の出力を制御してよい。
【0019】
出力制御部は、PID制御方式でレーザ光の出力を制御してよい。
【0020】
出力制御部は、温度測定部により測定された対象物の温度が、予め定められた温度以下となるようにレーザ光の出力を制御してよい。出力制御部は、対象物の温度が予め定められた温度を超えた場合に、レーザ光の出力を停止し、または、異常警報を発生してよい。
【0021】
レーザ加工装置は、対象物における溶融帯の映像を取得する溶融帯監視部をさらに備えてよい。出力制御部は、溶融帯監視部により取得された溶融帯の映像に基づいて、レーザ光の出力を制御してよい。
【0022】
溶融帯監視部は、対象物の映像を取得するカメラと、対象物からの輻射光を減衰させる光学フィルタと、を有してよい。光学フィルタは、2つの偏光子を含んでよい。
【0023】
2つの偏光子の一方は、カメラに対して偏光軸を固定して配置された固定偏光子であってよい。2つの偏光子の他方は、カメラに対する偏光軸の向きを回転させる機構を有してよい。
【0024】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一つの実施形態に係るレーザ加工装置100の一例を示す斜視図である。
図2】レーザ光3のスペクトルを示す図である。
図3】レーザ加工装置100の上面の一例を示す図である。
図4図3における透過部10および光学系50を、XY面内において輻射光8の進行方向に対して垂直な方向から見た拡大図である。
図5】加熱された材料からの輻射光の波長と強度との関係を示す図である。
図6】黒体からの輻射光の波長と強度との関係を黒体の温度ごとに示す図である。
図7】黒体の温度Tと比Rとの関係を示す図である。
図8】波長選択部51における透過スペクトルの一例を示す図である。
図9図4における溶融帯4の拡大図である。
図10】溶融帯4の温度Tの経過時間依存性を示す図である。
図11】溶融帯監視部54の一例を示す図である。
図12図3における透過部10および光学系50を、XY面内において輻射光8の進行方向に対して垂直な方向から見た他の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
図1は、本発明の一つの実施形態に係るレーザ加工装置100の一例を示す斜視図である。レーザ加工装置100は、1以上のレーザ照射部20と、温度測定部53とを備える。本例のレーザ加工装置100は、5つのレーザ照射部20(レーザ照射部20-1~レーザ照射部20-5)を備える。レーザ照射部20は、対象物14にレーザ光3を照射する。温度測定部53は、レーザ光3により加熱された対象物14の温度を測定する。温度測定部53における対象物14の温度測定の詳細については、後述する。
【0028】
本例のレーザ加工装置100は、光学台140およびファイバ30をさらに備える。光学台140は、板状の部材であってよい。本例のレーザ加工装置100は、5つのファイバ30(ファイバ30-1~ファイバ30-5)を備える。
【0029】
本明細書においては、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書においては、光学台140の板状の平面と平行な面をXY面とし、XY面に垂直な方向をZ軸とする。本明細書において、XY面内における所定の方向をX軸方向とし、XY面内においてX軸に直交する方向をY軸方向とする。
【0030】
5つのレーザ照射部20は、Z軸方向において同じ位置に配置されてよい。言い換えると、5つのレーザ照射部20は同一のXY面内に配置されてよい。レーザ照射部20から照射されるレーザ光3の方向は、XY面と平行であってよい。5つのレーザ照射部20の位置決めに関しては、後述する。
【0031】
本明細書において、Z軸方向における対象物保持部11-1側を「上」、対象物保持部11-2側を「下」と称する。対象物保持部11-1および対象物保持部11-2については後述する。Z軸方向は、重力方向であってよい。XY面は、水平方向と平行であってよい。本明細書において上面視とは、レーザ加工装置100をZ軸方向に対象物保持部11-1から対象物保持部11-2の方向に見た場合を指す。
【0032】
本例のレーザ加工装置100は、レーザ電源110および半導体レーザ装置120をさらに備える。半導体レーザ装置120は、レーザ電源110からの電源電力により駆動する。半導体レーザ装置120は、レーザ光5を生成する。本例のレーザ光5の波長帯域は、赤外帯域である。レーザ光5の波長帯域は、可視帯域であってもよい。
【0033】
本例のレーザ加工装置100は、5つのレーザ電源110(レーザ電源110-1~レーザ電源110-5)および5つの半導体レーザ装置120(半導体レーザ装置120-1~半導体レーザ装置120-5)を備える。本例において、半導体レーザ装置120-1~半導体レーザ装置120-5は、それぞれレーザ電源110-1~レーザ電源110-5からの電源電力により駆動する。半導体レーザ装置120-1~半導体レーザ装置120-5は、それぞれレーザ光5-1~レーザ光5-5を生成する。半導体レーザ装置120-1~半導体レーザ装置120-5は、レーザ光5-1~レーザ光5-5をそれぞれファイバ30-1~ファイバ30-5に入射させる。半導体レーザ装置120-1~半導体レーザ装置120-5は、ファイバ30-1~ファイバ30-5を伝搬したレーザ光5-1~レーザ光5-5を、それぞれレーザ照射部20-1~レーザ照射部20-5に入射させる。
【0034】
本例のレーザ加工装置100は、透過部10および対象物保持部11をさらに備える。透過部10は、レーザ照射部20から照射されるレーザ光3を透過する材料で形成される。本例の透過部10は、二酸化珪素(SiO)からなるアモルファス構造の石英ガラスである。本例において、レーザ照射部20から照射されたレーザ光3は、透過部10を透過して対象物14に照射される。透過部10は、Z軸を中心軸とする円柱状であってよい。
【0035】
レーザ加工装置100は、透過部10の内部に対象物14の材料等に応じたガスを導入してよい。レーザ加工装置100は、透過部10の内部に酸化性ガスまたは還元性ガスを導入してよい。レーザ加工装置100は、透過部10の内部に導入された当該ガスの圧力を所定の圧力に調整してよい。レーザ加工装置100は、透過部10の内部を真空にしてもよい。
【0036】
本例のレーザ加工装置100は、2つの対象物保持部11(対象物保持部11-1および対象物保持部11-2)を備える。2つの対象物保持部11は、透過部10の内部に配置されてよい。対象物保持部11-2は、Z軸方向においてレーザ照射部20を基準に光学台140側に配置される対象物保持部11である。対象物保持部11-1は、Z軸方向においてレーザ照射部20を基準に光学台140とは反対側に配置される対象物保持部11である。言い換えると、対象物保持部11-1および対象物保持部11-2は、Z軸方向においてレーザ照射部20を挟んで配置される。
【0037】
対象物保持部11は、Z軸に平行な方向を中心軸とする円柱状であってよい。対象物保持部11-1の中心軸の位置と対象物保持部11-2の中心軸の位置は、XY面内において一致してよい。対象物保持部11-1および対象物保持部11-2は、透過部10の内部においてそれぞれ対象物14-1および対象物14-2を保持する。
【0038】
対象物14-1は、例えば原料棒16である。原料棒16は、円柱状に焼結された多結晶である。原料棒16の直径は、例えば2mm以上15mm以下である。対象物14-2は、例えば結晶棒18である。結晶棒18は、円柱状に形成された単結晶である。原料棒16は、結晶棒18と同じ材料で形成される。
【0039】
原料棒16の中心軸と結晶棒18の中心軸とは、XY面内において同じ位置に配置される。Z軸方向において、原料棒16の下側の先端と、結晶棒18の上側の先端とは、所定の間隔で対向して配置される。レーザ照射部20は、原料棒16の当該先端と、結晶棒18の当該先端とにレーザ光3を照射する。レーザ光3の照射により原料棒16の当該先端の温度と結晶棒18の当該先端の所定温度(例えば300℃)以上となると、原料棒16の当該先端と結晶棒18の当該先端は溶融する。これにより、Z軸方向における原料棒16の当該先端と、結晶棒18の当該先端との間には、溶融帯4が形成される。溶融帯4の温度は、例えば300℃以上2000℃以下である。
【0040】
本例における5つのレーザ照射部20は、XY面内において透過部10を中心に放射状に配置される。レーザ照射部20は、ファイバ30から入射されたレーザ光5の照射強度分布を整形する。レーザ照射部20は、当該レーザ光5の照射強度分布を、それぞれ略四角形状に整形してよい。レーザ照射部20は、照射強度分布が略四角形状に整形されたレーザ光3を出射する。レーザ光3の強度は、例えば200Wである。
【0041】
本例においては、5つのレーザ光3のZ軸方向における位置が原料棒16および結晶棒18の中心軸上に一致するように、5つのレーザ照射部20のZ軸方向における位置およびXY面内における方向が調整される。5つのレーザ照射部20の当該位置および当該方向が調整された後、レーザ光3の照射形状および強度分布が、それぞれ所望の照射形状および強度分布であることが、赤外センサ等で確認される。
【0042】
レーザ加工装置100は、対象物保持部11-1および対象物保持部11-2を、それぞれの中心軸を中心に一方の方向および他方の方向に回転させる。対象物保持部11-1に保持された原料棒16は、対象物保持部11-1の回転に伴い回転する。対象物保持部11-2に保持された結晶棒18は、対象物保持部11-2の回転に伴い回転する。図1に、対象物保持部11の回転方向が太い矢印にて示されている。本例において、レーザ加工装置100は対象物保持部11-1および対象物保持部11-2を、上面視で反時計回りおよび時計回りに、それぞれ回転させる。
【0043】
対象物保持部11は、10rpm以上60rpm以下で回転してよい。本例の対象物保持部11は、20rpmで回転する。対象物保持部11-1と対象物保持部11-2とは、同じ速さで回転してよく、異なる速さで回転してもよい。原料棒16と結晶棒18とが共に回転することにより、溶融帯4の温度の均一性が向上しやすくなる。
【0044】
レーザ加工装置100は、溶融帯4が所定温度に安定化した状態で対象物保持部11-1および対象物保持部11-2をZ軸方向における同一の方向に移動させる。本例においては、対象物保持部11-1および対象物保持部11-2をZ軸方向における上側から下側への方向に移動させる。これにより、レーザ加工装置100は、結晶棒18の上方に単結晶を成長させることができる。
【0045】
なお、本例のレーザ加工装置100は、単結晶化する原料を保持する坩堝を必要としないので、成長した単結晶には当該坩堝の材料からの不純物が含まれない。このため、本例のレーザ加工装置100は高融点化合物の単結晶を成長させることができる。
【0046】
図2は、レーザ光3のスペクトルを示す図である。従来、共焦点楕円体の内部にハロゲンランプの光を照射する浮遊溶融帯結晶作成方法が知られている。図2においては、この比較例のハロゲンランプの光のスペクトルが、比較例として合わせて示されている。ハロゲンランプの光のスペクトルは、波長約300nm~約3300nmの帯域にわたり広がっている。なお、レーザ光3のスペクトルも、実際には所定の帯域に広がっているが、ハロゲンランプのスペクトルと比較すると、当該所定の帯域の広がりは小さい。このため、図2においてレーザ光3のスペクトルは直線で示されている。
【0047】
レーザ光3のスペクトルにおける中心波長λLは、例えば975nmである。これに対して、図2に示されるとおり、比較例のハロゲンランプの光のスペクトルにおいて光の強度が最大値を示す波長は、1000nm(1μm)である。975nm~1μmの波長の光は、金属を溶融させるのに最適であることが知られている。このため、対象物14が金属である場合、レーザ光3のスペクトルにおける中心波長λLは、ハロゲンランプのスペクトルにおいて光の強度が最大値を示す波長に近い975nmであることが好ましい。なお、対象物14がセラミックである場合、セラミックを溶融させるためには、レーザ光3の中心波長λLは1μmよりも長波長であることが好ましい。しかしながら、レーザ光3が、中心波長λLが1μmの光であっても、セラミックにおける吸収率は30%以上であるので、対象物14がセラミックである場合においても、レーザ光3の波長は1μmであってもよい。
【0048】
また、一般にレーザ光はハロゲンランプの光よりも電気エネルギーを光エネルギーに変換する効率が高い。レーザ光における当該効率は、40%である場合がある。このため、省エネルギーの観点からは、対象物14を溶融させるための光は、レーザ光であることが好ましい。
【0049】
図3は、レーザ加工装置100の上面の一例を示す図である。本例において、5つのレーザ照射部20は上面視で透過部10を中心に放射状に配置される。透過部10の上面視における中心位置を位置Cとする。上述したように、5つのレーザ照射部20のZ軸方向における位置およびXY面内における方向は、当該5つのレーザ照射部20のそれぞれから照射される5つのレーザ光3が中心Cを通るように調整される。本例において、レーザ照射部20-1は、当該レーザ照射部20-1から照射されるレーザ光3の方向がY軸方向に平行になるように配置されている。本例のレーザ照射部20-1~レーザ照射部20-5は、順に時計回りに配置されている。なお、原料棒16の中心軸と結晶棒18の中心軸も、中心Cに配置される。
【0050】
5つのレーザ照射部20は、上面視で正五角形状に配置されてよい。言い換えると、2つの隣り合うレーザ照射部20(例えばレーザ照射部20-1とレーザ照射部20-2)のそれぞれから照射されるレーザ光3が中心Cにおいてなす角度は、72°であってよい。
【0051】
本例のレーザ加工装置100は、5つのダンパ40(ダンパ40-1~ダンパ40-5)をさらに備える。ダンパ40は、水冷機構を有する。ダンパ40は、レーザ光3の一部を吸収する。ダンパ40-1~ダンパ40-5は、透過部10を挟んでXY面内においてそれぞれレーザ照射部20-1~レーザ照射部20-5と対向する位置に配置される。即ち、ダンパ40-1~ダンパ40-5は、レーザ照射部20-1~レーザ照射部20-5からそれぞれ照射されたレーザ光3の一部を、それぞれ吸収する。ダンパ40がレーザ光3の一部を吸収することで、本例のレーザ加工装置100はレーザ光3によるレーザ加工装置100の損傷を抑制できる。
【0052】
本例のレーザ加工装置100は、溶融帯監視部54をさらに備える。溶融帯監視部54は、対象物14における溶融帯4を監視する。本例の溶融帯監視部54は、カメラ55と光学フィルタ56とを有する。カメラ55は、対象物14の映像を取得する。光学フィルタ56は、対象物14からの輻射光を減衰させる。
【0053】
光学フィルタ56は、偏光子57を含む。本例の光学フィルタ56は、2つの偏光子57(偏光子57-1および偏光子57-2)を含んでいる。
【0054】
対象物14にレーザ光3が照射されると、対象物14からは黒体輻射により輻射光が放射される。本例においては、原料棒16と結晶棒18とが溶融した溶融帯4から輻射光が放射される。この輻射光は、中心Cの位置から放射状に放射される。
【0055】
偏光子57は、溶融帯4からカメラ55への輻射光7の光路上に配置される。偏光子57-1および偏光子57-2は、輻射光7の光路上において溶融帯4側およびカメラ55側に、それぞれ配置される。溶融帯監視部54については、後述する。
【0056】
本例のレーザ加工装置100は、光学系50をさらに備える。温度測定部53は、光学系50に含まれる。光学系50は、波長選択部51およびレンズ52を有する。波長選択部51およびレンズ52は、溶融帯4から温度測定部53への輻射光8の光路上に配置される。温度測定部53は、溶融帯4からの輻射光8を受光することにより、溶融帯4の温度を測定する。本例において、波長選択部51およびレンズ52は輻射光8の光路上における溶融帯4側および温度測定部53側に、それぞれ配置される。
【0057】
本例のレーザ加工装置100は、出力制御部70をさらに備える。出力制御部70は、レーザ照射部20から照射されるレーザ光3の出力を制御する。出力制御部70は、温度測定部53により測定された対象物14の温度の変化に応じて、レーザ光3の出力を制御してよい。本例の出力制御部70は、レーザ電源110-1~レーザ電源110-5のそれぞれの出力を制御する。出力制御部70は、レーザ電源110-1~レーザ電源110-5のそれぞれの出力を独立に制御してよい。出力制御部70の詳細については、後述する。
【0058】
図4は、図3における透過部10および光学系50を、XY面内において輻射光8の進行方向に対して垂直な方向から見た拡大図である。輻射光8は溶融帯4から放射される。本例において、溶融帯4から放射された輻射光8は波長選択部51およびレンズ52を、この順に通過する。レンズ52は、輻射光8を集光する。本例の温度測定部53は、レンズ52により集光された輻射光8を受光する。
【0059】
対象物14(本例においては溶融帯4)における、レーザ光3が照射される領域を領域25とする。領域25は、Z軸方向において溶融帯4の上端から下端までの領域である。領域25の少なくとも一部の領域を領域26とする。領域26は、温度測定の対象である領域である。レンズ52は、領域26の温度を測定するために配置される。領域25および領域26の形状は、Z軸方向に垂直な方向から見て、例えば円状である。当該円状の領域25および領域26の大きさは、例えばそれぞれ直径6mmおよび直径1~2mmである。当該領域25のZ軸方向における幅は、例えば4mmである。また、上面視における領域25の大きさと原料棒16の大きさは等しくてよく、上面視における領域25の大きさと結晶棒18の大きさは等しくてよい。
【0060】
領域26の位置は、レーザ光3の経路および光学系50の位置に基づいて決定されてよい。後述するように、結晶棒18の上方への単結晶の成長に伴い、溶融帯4のXY平面内における位置が移動する場合がある。この場合においても、領域26の位置は固定されていてよい。
【0061】
本例の温度測定部53は、ビームスプリッタ60、並びに第1センサ62および第2センサ64を有する。温度測定部53が受光した輻射光8を輻射光9とする。輻射光9は、ビームスプリッタ60により2つの輻射光9(輻射光9-1および輻射光9-2)に分割される。
【0062】
第1センサ62は、対象物14(本例においては溶融帯4)からの輻射光9-1に含まれる第1波長λ1の光に感度を有する。第2センサ64は、対象物14(本例においては溶融帯4)からの輻射光9-2に含まれる第2波長λ2の光に感度を有する。第1波長λ1と第2波長λ2とは、異なる。レンズ52は、輻射光8を第1センサ62および第2センサ64に集光する。
【0063】
図5は、黒体(加熱された材料)からの輻射光の波長と強度との関係を示す図である。黒体からの輻射光の波長と強度との関係は、下記に示されるマックス・プランク(Max Planck)の法則に従う。
【数1】
λ(T)は分光放射輝度(輻射光の強度)、λは輻射光の波長、cは光速度、hはプランク定数、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。図5には、黒体の絶対温度がTa、TbおよびTc(Ta<Tb<Tc)の場合における輻射光の波長と強度との関係を、それぞれ上記(1)式から算出した結果が示されている。
【0064】
黒体の温度がTa、TbおよびTcの場合における、当該黒体からの輻射光の強度の最大値を、それぞれIa、IbおよびIcとする。また、当該黒体からの輻射光の強度が最大値Ia、IbおよびIcを示す場合における波長を、それぞれλa、λbおよびλcとする。図5に示されるとおり、黒体からの輻射光の強度は所定の波長においてピークを示す。黒体の温度が高いほど、この輻射光の強度は大きい。また、黒体の温度が高いほど、輻射光の強度がピークを示す波長は小さい。即ち、Ia<Ib<Icであり、且つ、λa>λb>λcである。
【0065】
図6は、黒体からの輻射光の波長と強度との関係を黒体の温度ごとに示す図である。(a)~(e)は、それぞれ黒体の温度Tが絶対温度T1~T5(T1<T2<T3<T4<T5)の場合における輻射光の波長と強度との関係である。絶対温度T1~T5は、例えばそれぞれ300K、773K、1273K、1773Kおよび2273Kである。図6においては、第1センサ62が感度を有する第1波長λ1、および、第2センサ64が感度を有する第2波長λ2が、合わせて示されている。また、図6においてはレーザ照射部20から照射されるレーザ光3の中心波長λLが、合わせて示されている。
【0066】
図6に示されるとおり、黒体の温度Tが高いほど黒体からの輻射光の強度がピークを示す波長は小さい。言い換えると、黒体の温度Tが上昇するほど、黒体からの輻射光の強度がピークを示す波長は短波長側にシフトする。
【0067】
対象物14からの輻射光に含まれる、第1波長λ1の光の強度および第2波長λ2の光の強度を、それぞれ第1強度I1および第2強度I2とする。温度測定部53は、強度I1および強度I2に基づいて対象物14の温度を測定する。
【0068】
第1センサ62は、例えばSi(シリコン)センサである。第1センサ62がSi(シリコン)センサである場合、第1波長λ1は例えば0.9μmである。第2センサ64は、例えばInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)センサである。第2センサ64がInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)センサである場合、第2波長λ2は例えば1.55μmである。
【0069】
本例においては、第1センサ62(Si(シリコン)センサ)および第2センサ64(InGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)センサ)は、溶融帯4からの輻射光8に含まれる光の強度を測定する。溶融帯4の温度TがT3~T5それぞれの場合について、溶融帯4からの輻射光8の第1波長λ1における強度を、それぞれI1-3、I1-4およびI1-5とする。溶融帯4の温度TがT2~T5それぞれの場合について、溶融帯4からの輻射光8の第2波長λ2における強度を、それぞれI2-2、I2-3、I2-4およびI2-5とする。なお、溶融帯4の温度TがT1の場合、溶融帯4からの輻射光8は第1波長λ1および第2波長λ2において微弱であるので、当該輻射光8は観測されない。また、溶融帯4の温度TがT2の場合、溶融帯4からの輻射光8は第1波長λ1において微弱であるので、当該輻射光8は観測されない。
【0070】
溶融帯4からの輻射光8の強度がピークを示す波長は、溶融帯4の温度Tが上昇するほど短波長側にシフトする。このため、温度測定部53は第1強度I1および第2強度I2を測定することにより、溶融帯4の温度Tを測定できる。
【0071】
第1強度I1と第2強度I2との比を比R(=I1/I2)とする。図7は、黒体の温度Tと比Rとの関係を示す図である。図7に示されるとおり、比Rは温度Tに依存する。温度測定部53は、比Rに基づいて対象物14の温度Tを測定してもよい。
【0072】
レーザ光3で溶融帯4を加熱する場合、溶融帯4からは蒸発ガスが発生しやすい。この蒸発ガスは、透過部10の内壁に付着しやすい。透過部10の内壁に付着した当該蒸着ガスは、溶融帯4から放射され透過部10の外部に透過する輻射光8を減少させやすい。このため、透過部10の内壁に当該蒸着ガスが付着している場合、温度測定部53は、溶融帯4の温度Tを正確に測定しにくくなる。言い換えると、温度測定部53は、溶融帯4の温度Tを、実際の温度Tとは異なる温度に誤測定しやすくなる。
【0073】
透過部10の内壁に溶融帯4からの蒸発ガスが付着していることによる、第1波長λ1の光および第2波長λ2の光のそれぞれの減衰係数を、A1およびA2とする。透過部10の外部における、第1波長λ1における輻射光8の強度と、第2波長λ2における輻射光8の強度との比をηとする。ηは下式にて表される。
【数2】
【0074】
透過部10が石英の場合、溶融帯4からの蒸発ガスが内部に付着することによる輻射光8の減衰効果は、当該輻射光8の波長に余り依存しない。このため、透過部10が石英の場合、減衰係数A1とA2とは等しいとしてよい。A1=A2とすると、(2)式は以下のようになる。
【数3】
即ち、(2)式においてA1およびA2は相殺されるので、ηは比R(=I1/I2)に等しくなる。
【0075】
上述したとおり、比Rは黒体の温度Tに依存する。本例においては、比Rは対象物14(溶融帯4)の温度Tが増加するほど大きくなる。温度測定部53は比Rを測定することにより、対象物14(溶融帯4)における当該比Rに対応する温度Tを算出できる。このようにして、温度測定部53は比Rに基づいて対象物14の温度Tを測定できる。
【0076】
図8は、波長選択部51における透過スペクトルの一例を示す図である。図8は、波長選択部51に入射する輻射光8(図4参照)の波長と、当該輻射光8が波長選択部51を透過する透過率Trとの関係を示している。波長選択部51は、複数種類の誘電体が積層された積層膜、または、レーザ光3の偏光方向に直交する方向に配置された偏光素子であってよい。本例の波長選択部51は、石英ガラスにTaO(酸化タンタル)とSiO(酸化シリコン)とを交互に積層した多層膜である。
【0077】
波長選択部51は、輻射光8を透過する透過波長帯域22と、輻射光8を遮断する遮断波長帯域24とを有する。本例において、第1センサ62における第1波長λ1、および、第2センサ64における第2波長λ2は、透過波長帯域22に含まれる。
【0078】
本例の透過波長帯域22は、第1透過波長帯域22-1と第2透過波長帯域22-2とを含む。本例において、第1透過波長帯域22-1は遮断波長帯域24よりも波長が小さく、第2透過波長帯域22-2は遮断波長帯域24よりも波長が大きい。言い換えると、本例の遮断波長帯域24は、第1透過波長帯域22-1と第2透過波長帯域22-2とに挟まれている。第1波長λ1は第1透過波長帯域22-1に含まれてよく、第2波長λ2は第2透過波長帯域22-2に含まれてよい。
【0079】
レーザ光3の中心波長λLは、遮断波長帯域24に含まれてよい。波長選択部51に入力される光には、溶融帯4からの輻射光8のほか、溶融帯4に照射されたレーザ光3が溶融帯4で反射したレーザ光3が含まれる。このため、レーザ光3の中心波長λLが遮断波長帯域24に含まれることで、レーザ加工装置100は、溶融帯4で反射したレーザ光3の温度測定部53への侵入を遮断できる。これにより、レーザ加工装置100は温度測定部53が受光する光に含まれる輻射光8の割合を増加できる。このため、レーザ加工装置100は、溶融帯4の温度Tを正確に測定しやすくなる。
【0080】
波長選択部51に入力される、遮断波長帯域24における光の強度をIとする。当該光が波長選択部51を透過した後における透過光の強度をIとする。この場合において、波長選択部51の遮断波長帯域24における光学密度OD(Optical Density)は、下式にて表される。
【数4】
光学密度ODは(4)式から分かるとおり、ある物体に入射した光が当該物体を透過した場合に、当該物体に入射した光が当該物体を透過した後に、光の強度が弱まる程度を示す。
【0081】
遮断波長帯域24におけるレーザ光3の光学密度ODは4以上であることが好ましい。言い換えると、遮断波長帯域24におけるレーザ光3の透過率は、0.0001%以下であることが好ましい。遮断波長帯域24におけるレーザ光3の光学密度ODは4以上であることで、温度測定部53は、溶融帯4の温度Tを実際の温度Tとは異なる温度に誤測定しにくくなる。特に本例のように、温度測定部53がマックス・プランクの法則((1)式参照)に従う輻射光における複数の異なる波長の光の強度により、溶融帯4の温度Tを測定する場合、波長選択部51の遮断波長帯域24は狭いことが好ましく、波長選択部51の光学密度ODは大きいことが好ましい。
【0082】
透過波長帯域22における、第1波長λ1の輻射光8の透過率、および、第2波長λ2の輻射光8の透過率は、30%以上であることが好ましい。透過波長帯域22における、第1波長λ1の輻射光8の透過率、および、第2波長λ2の輻射光8の透過率が30%以上であることで、温度測定部53は溶融帯4の温度Tを正確に測定しやすくなる。
【0083】
図9は、図4における溶融帯4の拡大図である。単結晶には、結晶の方向性が存在する。このため、結晶棒18の上方への単結晶の成長に伴い、溶融帯4が偏芯する場合がある。溶融帯4が偏芯する場合とは、溶融帯4の位置がXY平面内において移動する場合を指す。
【0084】
領域26の位置が固定されている場合、溶融帯4における領域26の位置は、溶融帯4の移動に伴い変化する。領域26からの輻射光8の強度は、領域26が溶融帯4の中心に位置する場合と、領域26が溶融帯4の端に位置する場合とで異なる場合がある。また、溶融帯4の移動に伴い、領域26が溶融帯4の端に位置した場合、領域26の一部が溶融帯4の外部に逸脱する場合がある。この場合においては、領域26からの輻射光8の強度は、領域26が溶融帯4の中心に位置する場合と比較して、小さくなりやすい。このような場合においても、第1波長λ1の光および第2波長λ2の光のそれぞれの減衰係数は、輻射光8の波長に余り依存しない。このため、式(2)および式(3)と同様の原理により、温度測定部53は第1強度I1と第2強度I2との比R(=I1/I2)を測定できる。このため、温度測定部53は、溶融帯4の温度Tを正確に測定しやすい。
【0085】
レーザ光3で溶融帯4を加熱することにより溶融帯4から蒸発ガスが発生した場合、当該蒸発ガスの存在により輻射光8の強度が減衰する場合がある。この場合においても、この蒸発ガスの存在に基づく第1波長λ1の光および第2波長λ2の光のそれぞれの減衰係数は、輻射光8の波長に余り依存しない。このため、式(2)および式(3)と同様の原理により、温度測定部53は第1強度I1と第2強度I2との比R(=I1/I2)を測定できる。このため、温度測定部53は、溶融帯4の温度Tを正確に測定しやすい。
【0086】
図10は、溶融帯4の温度Tの経過時間依存性を示す図である。本例においては、出力制御部70(図3参照)は、溶融帯4の温度Tの変化に応じてレーザ電源110の電源電力を制御する。これにより、出力制御部70は半導体レーザ装置120が生成するレーザ光5(図1参照)の強度を制御する。図10の例においては、出力制御部70は時刻t0以降、溶融帯4の温度Tを1535℃に保つように制御している。図10より、本例においては、溶融帯4の温度Tは時刻t0以降、±1℃未満の精度にて保持されていることが分かる。
【0087】
以上述べたように、本例のレーザ加工装置100においては、温度測定部53は対象物14からの輻射光8に含まれる、第1波長λ1の光の第1強度I1と第2波長λ2の光の第2強度I2とに基づいて、対象物14の温度を測定する。このように、輻射光8に含まれる複数の波長の光のそれぞれの強度を用いることにより、温度測定部53は領域26の温度を±1℃未満の精度で所定の温度に保つことができる。
【0088】
図2の説明において上述した従来の浮遊溶融帯結晶作成方法においては、共焦点楕円体の内部にハロゲンランプの光を照射する。この従来の浮遊溶融帯結晶作成方法においては、共焦点楕円体が溶融帯を囲むので、当該溶融帯の温度を観察することが困難である。
【0089】
溶融帯4の状態は、単結晶の成長に伴い変化し得る。例えば、溶融帯4のXY面内における幅は、単結晶の成長に伴い減少しまたは増大する場合がある。例えば、溶融帯4のXY面内における位置が、XY面内において揺らぐ場合がある。また、例えば溶融帯4の温度Tが低下することにより、原料棒16および結晶棒18の中心軸を中心とする回転が不連続になる場合がある。このような現象は、溶融帯4の状態が安定する温度Tの領域の下限または上限において観測されやすい。本例においては、温度測定部53が溶融帯4の温度Tを±0.2℃以内の精度で検知できる。このため、本例のレーザ加工装置100は、溶融帯4の状態が不安定となる前に溶融帯4の状態を検知できる。
【0090】
領域26の大きさは、上述したように例えば直径1~2mmである。本例においては、温度測定部53は、輻射光8に含まれる複数の波長の光のそれぞれの強度を用いるので、領域26のように微小な領域であっても、その領域の温度を±1℃未満の精度で所定の温度に保つことができる。このため、レーザ加工装置100は溶融帯4を、結晶相図に示される所望の温度に正確に加熱できる。本例のレーザ加工装置100のこの特性は、特に溶媒移動浮遊帯域(TSFZ:Transfer Solevent Floating Zone)法により単結晶を育成する場合に有効である。TSFZ法については、後述する。
【0091】
出力制御部70は、レーザ光3の出力を自動制御してよい。出力制御部70は、PID(Proportional Integral Derivative)制御方式でレーザ光3の出力を制御してもよい。PID制御とは、P(比例制御)、I(積分制御)およびD(微分制御)の3つの要素に基づいて、対象を制御する制御方式である。PID制御方式でレーザ光3の出力を制御することで、出力制御部70は、レーザ光3の出力を精密に制御できる。
【0092】
例えば、単結晶の成長中に、何らかの原因により溶融帯4の液だれ等が発生し、溶融帯4が原料棒16と結晶棒18との間を外れて落下してしまう場合がある。また、地震が発生した場合に、同様に溶融帯4が落下してしまう場合がある。このような場合、温度測定部53は、溶融帯4が消失して温度Tが急激に低下したと判断する。出力制御部70は、温度測定部53によるこの判断に基づいて、レーザ光3の出力を増加させてよい。
【0093】
なお、単結晶成長の初期段階においては、溶融帯4の温度Tは不安定である場合がある。溶融帯4の温度Tが不安定な場合、温度測定部53により測定された溶融帯4の温度Tをモニターしながら、レーザ電源110の出力は手動で制御されてよい。溶融帯4の温度Tが安定した後に、出力制御部70は、レーザ光3の出力を自動制御してよい。
【0094】
出力制御部70は、温度測定部53により測定された対象物14の温度が、予め定められた温度以下となるようにレーザ光3の出力を制御してもよい。本例においては、温度測定部53により測定された溶融帯4の温度Tが予め定められた温度以下となるように、出力制御部70は、レーザ光3の出力を制御する。溶融帯4の温度Tが予め定められた温度を超えた場合、出力制御部70は、レーザ光3の出力を停止するか、または、異常警報を発生してよい。出力制御部70は、レーザ電源110(図1、2参照)の電源電力を停止することによりレーザ光3の出力を停止してよい。出力制御部70がレーザ光3の出力を停止するか、または、異常警報を発生することにより、レーザ加工装置100は溶融帯4の温度Tが過剰に上昇することを抑制できる。
【0095】
温度測定部53は、対象物14の種類に基づいて第1センサ62の感度と第2センサ64の感度とを校正してよい。対象物14が原料棒16および結晶棒18である場合、温度測定部53は、原料棒16および結晶棒18の種類に基づいて第1センサ62の感度と第2センサ64の感度とを校正する。原料棒16および結晶棒18の種類とは、例えば原料棒16および結晶棒18の材料である。温度測定部53により測定された溶融帯4の温度Tと、溶融帯4の実際の温度との間には、所定の誤差が存在する場合がある。この所定の誤差は、原料棒16および結晶棒18の材料の種類に依存しやすい。このため、温度測定部53はこの誤差を小さくするように、第1センサ62の感度と第2センサ64の感度とを校正してよい。
【0096】
温度測定部53は、対象物14の種類に基づいて対象物14の温度を補正してもよい。上述したように、温度測定部53により測定された溶融帯4の温度Tと、溶融帯4の実際の温度との間には、所定の誤差が存在する場合がある。温度測定部53は、この誤差を小さくするように溶融帯4の温度Tを補正してよい。
【0097】
出力制御部70(図3参照)が、溶融帯4の温度Tの変化に応じてレーザ電源110の電源電力を制御する場合、温度測定部53は、原料棒16および結晶棒18の温度が、原料棒16および結晶棒18の融点直前まで上昇したタイミングを判定できる。原料棒16および結晶棒18が溶融するためには所定の溶解熱が必要なので、出力制御部70がレーザ光3の強度を大きくしても、原料棒16および結晶棒18の温度が上昇しない温度領域が存在する。温度測定部53は、当該温度領域を把握できる。
【0098】
温度測定部53が、原料棒16および結晶棒18の温度が融点直前まで上昇したと判定した場合、出力制御部70は、より精密にレーザ電源110の電源電力を制御することによりレーザ光3の出力を精密に制御できる。これにより、温度測定部53は、新規材料や未知の材料の融点を正確に測定できる。これにより、本例のレーザ加工装置100は、原料棒16および結晶棒18の結晶相図の温度が不正確な場合であっても、原料棒16および結晶棒18を溶融して任意の温度で単結晶を育成できる。
【0099】
上述したとおり、単結晶育成方法の一つとして、溶媒移動浮遊帯域(TSFZ)法が知られている。TSFZ法は、成長させる結晶とは異なる成分のフラックス材料を用いる結晶育成方法である。TSFZ法においては、原料棒16および結晶棒18をフラックス材料に分解溶融させ、単結晶を育成する。TSFZ法により育成される結晶は、例えばYIG(YFe12)、CuO系高温超伝導材料、等が挙げられる。TSFZ法においては、単位時間あたり0.05mm~0.5mmの極低速度で結晶を成長させる必要がある。このため、TSFZ法においては、10cmの結晶を成長させるのに200~2000時間(約9日~約90日)を要する。
【0100】
本例の温度測定部53は、溶融帯4が安定して単結晶化する温度を測定できる。このため、本例のレーザ加工装置100は、溶融帯4のフラックス成分濃度を単結晶成長中に測定できる。例えば、温度測定部53が、溶融帯4の温度Tが上昇していると判定した場合、レーザ加工装置100は、溶融帯4のフラックス濃度が一方に偏っていると判定できる。レーザ加工装置100は、溶融帯4のフラックス濃度のこの偏りから、単結晶を成長させるのに継続可能な時間を推定できる。TSFZ法は、上述したとおり極低速度で結晶を成長させる必要があるので、温度測定部53が成長継続可能時間を推定可能であることは、TSFZ法のような長時間の成長時間を要する結晶成長法において、特に重要である。
【0101】
また、レーザ加工装置100は、溶融帯4のフラックス濃度の偏りに基づいてフラックス濃度を予め調整することもできる。温度測定部53は、フラックスを含む溶融帯の組成と溶融温度との関係を算出してよい。温度測定部53は、当該関係に基づいて溶融帯4の適切な温度を決定できる。出力制御部70は、温度測定部53により決定された当該温度に基づいて、レーザ電源110の電源電力を制御してよい。出力制御部70は、レーザ電源110の電源電力を制御することによりレーザ光3の強度を制御してよい。出力制御部70が、このようにレーザ光3の強度を制御することにより、レーザ加工装置100は、単結晶の成長が数日間におよぶ場合であっても、単結晶の成長を安定に保持できる。
【0102】
図11は、溶融帯監視部54の一例を示す図である。溶融帯監視部54は、対象物14における溶融帯4の映像を取得する。本例の溶融帯監視部54は、カメラ55と光学フィルタ56とを有する。カメラ55は、対象物14の映像を取得する。光学フィルタ56は、対象物14からの輻射光8を減衰させる。本例の光学フィルタ56は、2つの偏光子57(偏光子57-1および偏光子57-2)を含んでいる。
【0103】
本例において、偏光子57-1および偏光子57-2は、それぞれ固定偏光子および回転偏光子である。偏光子57-1は、カメラ55に対して偏光軸を固定して配置される。偏光子57-2は、カメラ55に対する偏光軸の向きを回転させる機構を有する。偏光子57-1の偏光軸のカメラ55に対する向きと、偏光子57-2の偏光軸のカメラ55に対する向きは、偏光子57-2の偏光軸の回転に伴い変化する。偏光子57-2のこの回転に伴い、偏光子57-1および偏光子57-2を透過する輻射光8の透過率は変化する。溶融帯監視部54は、偏光子57-2の偏光軸を回転させることにより、輻射光8の透過率を調整してよい。
【0104】
出力制御部70は、溶融帯監視部54により取得された溶融帯4の映像に基づいて、レーザ光3の出力を制御してよい。出力制御部70は、溶融帯監視部54により取得された溶融帯4の映像が予め定められた形状となるように、レーザ光3の出力を制御してもよい。
【0105】
図12は、図3における透過部10および光学系50を、XY面内において輻射光8の進行方向に対して垂直な方向から見た他の拡大図である。本例は、温度測定部53が記憶部66をさらに有する点で図4の例と異なる。
【0106】
輻射光8に含まれる第1波長λ1の光の強度I1と対象物14の温度との関係を、第1の関係とする。輻射光8に含まれる第2波長λ2の光の強度I2と対象物14の温度との関係を、第2の関係とする。記憶部66は、当該第1の関係および当該第2の関係を、対象物14の種類ごとに予め記憶している。本例においては、記憶部66は強度I1と溶融帯4の温度Tとの第1の関係、および、強度I2と溶融帯4の温度Tとの第2の関係を、原料棒16および結晶棒18の種類ごとに予め記憶している。温度測定部53は、記憶部66に記憶された当該第1の関係および当該第2の関係の少なくとも一方に基づいて、溶融帯4の温度Tを補正してもよい。
【0107】
温度測定部53は、レーザ光3が照射される領域25において、領域26の位置を変更可能であってもよい。レーザ加工装置100は、第1波長λ1の第1強度I1および第2波長λ2の第2強度I2の少なくとも一方に基づいて光学系50の位置を調整することにより、領域26の位置を変更してよい。
【0108】
レーザ加工装置100は、領域26の中心の位置が溶融帯4のXY面内における中心の位置に一致するように、領域26の位置を調整してもよい。レーザ加工装置100が領域26の中心の位置をこのように調整することで、温度測定部53は、第1センサ62が受光する第1波長λ1の光の第1強度I1、および、第2センサ64が受光する第2波長λ2の光の第2強度I2を、それぞれ最大値に維持しやすくなる。
【0109】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0110】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
[項目1]
対象物にレーザ光を照射する1以上のレーザ照射部と、
前記レーザ光により加熱された前記対象物の温度を測定する温度測定部と、
を備え、
前記温度測定部は、
前記対象物からの輻射光に含まれる第1波長の光の強度である第1強度と、
前記対象物からの輻射光に含まれ、前記第1波長と異なる第2波長の光の強度である第2強度と、
に基づいて、前記対象物の温度を測定する、
レーザ加工装置。
[項目2]
前記温度測定部は、前記第1強度と前記第2強度との比に基づいて、前記対象物の前記温度を測定する、項目1に記載のレーザ加工装置。
[項目3]
前記輻射光を透過する透過波長帯域と、前記レーザ光を遮断する遮断波長帯域と、を有する波長選択部をさらに備え、
前記第1波長および前記第2波長は、前記透過波長帯域に含まれる、
項目1または2に記載のレーザ加工装置。
[項目4]
前記透過波長帯域は、前記遮断波長帯域よりも波長が小さい第1透過波長帯域と、前記遮断波長帯域よりも波長が大きい第2透過波長帯域と、を含み、
前記第1波長は、前記第1透過波長帯域に含まれ、
前記第2波長は、前記第2透過波長帯域に含まれる、
項目3に記載のレーザ加工装置。
[項目5]
前記遮断波長帯域における、前記レーザ光の光学密度は4以上であり、
前記透過波長帯域における、前記第1波長の前記輻射光の透過率、および、前記第2波長の前記輻射光の透過率は、30%以上である、
項目3または4に記載のレーザ加工装置。
[項目6]
前記波長選択部は、複数種類の誘電体が積層された積層膜、または、前記レーザ光の偏光方向に直交する方向に配置された偏光素子である、項目3から5のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
[項目7]
前記温度測定部は、
前記第1波長の光に感度を有する第1センサと、
前記第2波長の光に感度を有する第2センサと、
を有する、項目1から6のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
[項目8]
前記輻射光を前記第1センサおよび前記第2センサに集光するレンズをさらに備える、項目7に記載のレーザ加工装置。
[項目9]
前記温度測定部は、前記対象物の種類に基づいて、前記第1センサの感度と前記第2センサの感度とを校正する、項目7または8に記載のレーザ加工装置。
[項目10]
前記温度測定部は、前記対象物の種類に基づいて、前記対象物の前記温度を補正する、項目1から9のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
[項目11]
前記温度測定部は、前記第1強度と前記対象物の温度との第1の関係、および、前記第2強度と前記対象物の温度との第2の関係を、前記対象物の種類ごとに予め記憶した記憶部をさらに有し、
前記温度測定部は、前記記憶部に記憶された前記第1の関係および前記第2の関係の少なくとも一方に基づいて、前記対象物の前記温度を補正する、
項目10に記載のレーザ加工装置。
[項目12]
前記温度測定部は、前記対象物における、前記レーザ光が照射される領域の少なくとも一部の領域の温度を測定する、項目1から11のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
[項目13]
前記温度測定部は、前記レーザ光が照射される前記領域において、前記少なくとも一部の領域の位置を変更可能である、項目12に記載のレーザ加工装置。
[項目14]
前記レーザ光の出力を制御する出力制御部をさらに備え、
前記出力制御部は、前記温度測定部により測定された前記対象物の前記温度の変化に応じて、前記レーザ光の出力を制御する、
項目1から13のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
[項目15]
前記出力制御部は、PID制御方式で前記レーザ光の出力を制御する、項目14に記載のレーザ加工装置。
[項目16]
前記出力制御部は、
前記温度測定部により測定された前記対象物の前記温度が、予め定められた温度以下となるように前記レーザ光の出力を制御し、
前記対象物の前記温度が前記予め定められた温度を超えた場合に、前記レーザ光の出力を停止し、または、異常警報を発生する、
項目14または15に記載のレーザ加工装置。
[項目17]
前記対象物における溶融帯の映像を取得する溶融帯監視部をさらに備え、
前記出力制御部は、前記溶融帯監視部により取得された前記溶融帯の前記映像に基づいて、前記レーザ光の出力を制御する、
項目14から16のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
[項目18]
前記溶融帯監視部は、前記対象物の映像を取得するカメラと、前記対象物からの輻射光を減衰させる光学フィルタと、を有し、
前記光学フィルタは、2つの偏光子を含む、
項目17に記載のレーザ加工装置。
[項目19]
前記2つの偏光子の一方は、前記カメラに対して偏光軸を固定して配置された固定偏光子であり、
前記2つの偏光子の他方は、前記カメラに対する偏光軸の向きを回転させる機構を有する回転偏光子である、
項目18に記載のレーザ加工装置。
【符号の説明】
【0111】
3・・・レーザ光、4・・・溶融帯、5・・・レーザ光、7・・・輻射光、8・・・輻射光、9・・・輻射光、10・・・透過部、11・・・対象物保持部、14・・・対象物、16・・・原料棒、18・・・結晶棒、20・・・レーザ照射部、22・・・透過波長帯域、24・・・遮断波長帯域、25・・・領域、26・・・領域、30・・・ファイバ、40・・・ダンパ、50・・・光学系、51・・・波長選択部、52・・・レンズ、53・・・温度測定部、54・・・溶融帯監視部、55・・・カメラ、56・・・光学フィルタ、57・・・偏光子、60・・・ビームスプリッタ、62・・・第1センサ、64・・・第2センサ、66・・・記憶部、70・・・出力制御部、100・・・レーザ加工装置、110・・・レーザ電源、120・・・半導体レーザ装置、140・・・光学台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図12