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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20231017BHJP
   A61K 31/133 20060101ALI20231017BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20231017BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20231017BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/133
A61K31/194
A61K31/197
A61K31/706
A61P3/02
A61P25/18
A61P25/20
A61P25/24
A61P25/28
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019570931
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 GB2018051797
(87)【国際公開番号】W WO2019002858
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-04-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】1710316.9
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1715214.1
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1800244.4
(32)【優先日】2018-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1807733.9
(32)【優先日】2018-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517004595
【氏名又は名称】ミトコリン エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】MITOCHOLINE LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレーヴァ,ラリーサ
(72)【発明者】
【氏名】ポミトキン,イゴール アナトリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】スクラッチコヴァ,ガリーナ ノニーナ
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】前田 佳与子
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第3579423(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/214680(US,A1)
【文献】BMC Pharmacol.,2008年,Vol.8 No.1,doi:10.1186/1471-2210/8/1
【文献】BMC Neurosci.,2012年,Vol.13 No.110,URLは以下:[http://www.biomedcentral.com/1471-2202/13/110]
【文献】Neurobiol. Aging,2013年,Vol.34,p.1581-1588
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
REGISTRY/CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMedPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリンカチオン、二価コハク酸アニオン、及びニコチンアミド又はニコチンアミド誘導体を含む組成物:
ここで、
前記ニコチンアミド誘導体はニコチンアミドリボシドであり、
前記組成物中の前記コリンカチオン前記二価コハク酸塩アニオン、及び前記ニコチンアミド又は前記ニコチンアミド誘導体のモル比は、2:1:0.01~2:1:10であり、
前記組成物は哺乳動物の脳細胞におけるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、アデノシン三リン酸、及びホスホクレアチンのレベルを増加させるために相乗的に有効である。
【請求項2】
前記コリンカチオン及び前記二価コハク酸アニオンがジコリンコハク酸塩の形態で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が水溶液である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ニコチンアミド又は前記ニコチンアミド誘導体が10mg~4000mgの量で存在する、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記ジコリンコハク酸塩が10mg~1000mgの量で存在する、請求項2~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が栄養組成物である、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
クレアチン及びその前駆体をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の組成物: ここで、クレアチンの前駆体はグリシン又はアルギニンである。
【請求項8】
ヒトにおける脳エネルギー代謝の回復用、維持用、又は増強用の、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記ヒトが、加齢したヒト個体及び/又は心理的ストレス、疲労、不眠症又は精神的うつ病を有するか又はその影響を受けやすいヒト個体である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、飲料、食品、医療用飲料、又は医療用食品として製剤化される、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する1つ以上の症状又は状態を有するヒトの食事管理用の、請求項6~9のいずれかに記載の組成物:
ここで、前記1つ以上の症状又は状態は、精神集中の欠如、精神的強度及び耐久性の低下、頻繁な気分変動、精神的抑うつ、季節性感情障害(SAD)、不眠、疲労、低下した認知能力、学習、及び記憶から選択される。
【請求項12】
前記ヒトが、加齢したヒト個体又は心理的ストレスを有するか又はその影響を受けやすいヒト個体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、飲料、食品、医療用飲料、又は医療用食品として製剤化される、請求項11又は12に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリンカチオンとコハク酸アニオン(2-)及びニコチンアミドの組合せを含む組成物、特に食物組成物に関するものであり、ヒトにおける脳エネルギー代謝を維持及び増強するため、並びにヒト被験体における不均衡、損傷又は遅延した脳エネルギー代謝に関連する症状及び生理学的状態を予防及び治療するためのこれらの組成物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体細胞、特に脳の細胞は、ミトコンドリアにおけるアデノシン三リン酸(ATP)産生のために酸素を必要とする。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は、トリカルボン酸回路の基質とミトコンドリア複合体Iとの間で水素担体NADH/NAD+として働き、酸化的リン酸化の際のATP産生を支持する補酵素である(Hinkle PC.Biochim Biophys Acta.2005, 1706(1-2):1-11)。正常酸素状態(すなわち正常酸素供給)では、ミトコンドリア複合体IでのNADH酸化は総酸素消費量の約90%に寄与する(Lukyanova LD, Kirova YI. Front Neurosci. 2015 9:320)。
【0003】
ニコチンアミド(CAS番号98-92-0)はNAD+/NADH及びビタミンB3の前駆体である。ニコチンアミドは食物中に見出され、栄養補助食品として使用される。ニコチンアミドは健康に必要な必須医薬品のリストに含まれている。(WHO Model List of Essential Medicines. World Health Organization, 2015).低酸素状態の2時間前に、新鮮な脳組織スライスをニコチンアミドとインキュベート(5mM)すると、総NAD(H)含量が有意に増加し、ニューロン回復が改善し、ATP含量が増強し、NADH過酸化が防止されることが実証されている(Pavan K Shetty PK, Galeffi F., Turner DA. Neurobiol Dis. 2014, 62:469-478)。
【0004】
コハク酸又はその塩(コハク酸塩)はミトコンドリア複合体IIの基質である。体の組織の酸素供給が不足している状態である低酸素状態では、コハク酸酸化が総酸素消費量の70~80%に寄与している可能性がある(Lukyanova LD, Kirova YI. Front Neurosci. 2015 9:320)。高い酸性度(pKa1=4.2及びpKa2=5.6)のために、フマル酸はpH 7.0~7.8の生理学的範囲で完全に解離し、ジカルボン酸アニオン(コハク酸塩)として体内に存在する。身体を横切るコハク酸輸送は、SLC13ファミリーの特異的なナトリウム共役ジカルボン酸-アニオントランスポーターによって媒介される。しかし、脳血管や脈絡叢にはジカルボン酸-アニオントランスポーターが認められなかったことから(Chen X et al., J Clin Invest 1999, 103(8):1159-68)、血液脳関門(BBB)を通過するコハク酸又はその塩の特異的な輸送系は存在しない。これに沿って、ジカルボン酸塩はin vivoでBBBを透過できないことが厳密に証明されている(Hassel B et al., J Neurochemistry 2002, 82:410-419)。BBBを通過する輸送能力が欠如しているため、経口投与されたコハク酸及びその塩は、一般に、中枢神経系(CNS)の障害の治療に有効ではない。
【0005】
コリン塩であるコハク酸 (2:1) (以下、DISU又はコリンコハク酸(2:1)塩)は、動物のCNS障害の治療及び認知機能の増強に驚くほど有効であることが実証されている、コハク酸の特徴的な塩である(US 7,666,90; US 8,673,977)。さらに、DISU塩は全脳ATP低下を遅延させることができ、特に全脳虚血時の脳エネルギー代謝に対して保護作用を有することが実証されている(Pomytkin I, Semenova N. Dokl Biochem Biophys 2005, 403:289-92)。DISUによる治療は、慢性脳低潅流モデルの動物において認知機能を温存することができた(Storozheva Z et al., BMC Pharmacol 2008, 8:1)。
【0006】
コリンは健全な代謝機能に必須の栄養素である。コリンは、神経系のニューロンの情報伝達に不可欠な神経伝達物質であるアセチルコリンの生合成に必要である。コリン欠乏は神経障害につながり(Zeisel SH et al、Nutr Rev.2009、67(11): 615-623)、コリンの経口投与は遂行能力が比較的低下した人の認知機能を高める(Knott V et al., Pharmacology, Biochemistry and Behavior 2015, 131:119-129)。コリンの適切な摂取量は、男性で550mg/日、女性で425mg/日である。de novoコリン合成はヒトの必要量を満たすのに十分ではなく、コリンは卵やエビのようなコリンに富んだ食物を含む食事や、たとえばコリン塩のような形態で、普通の食事に栄養を加えることによって得られなければならない。
【0007】
加齢により、30~70歳までに脳血流量が約28~50%減少することにより、生理的な脳低酸素症、すなわち脳の酸素供給不足が生じる(Ogoh S and Ainslie PN. J Appl Physiol 2009, 107:1370-80)。また、NAD+の利用可能性やNAD+/NADH酸化還元状態の異常は、加齢や加齢性代謝疾患や神経変性疾患と密接に関連している(Zhu X-H., et al Proc Natl Ac Sci USA 2014, 112:2876-2881)。いくつかの研究結果に基づき、複合体IIが加齢において重要な役割を果たすことが示唆されている(総説としては、Wojtovich AP., et al. Biochem Biophys Acta 2013, 1827(5): doi:10.1016/j.bbabio.2012.12.007を参照)。
【0008】
現在、世界のほぼすべての国が、国民の分布の高齢化へのシフトと、一般人口に対する環境的・心理的圧力の増大の影響に起因する巨大な社会経済的問題とを経験しているという事実を考慮すると、一般人口における精神的耐久性と脳の健康を高めるための抗加齢栄養剤とエネルギー促進栄養剤の両方として、安全で有効な薬剤の大きなニーズが存在する。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様において、本発明は、好ましくは本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチンアミド誘導体からなる組成物に関する。
【0010】
第2の態様において、本発明は、ヒトにおける脳エネルギー代謝の維持又は増強に使用するための、好ましくは本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチンアミド誘導体からなる組成物に関する。
【0011】
第3の態様において、本発明は、ヒトにおける認知、学習及び/又は記憶、精神的強度及び耐久性を増強するための、好ましくは本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチンアミド誘導体からなる組成物に関する。
【0012】
第4の態様において、本発明は、好ましくは本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチンアミド誘導体を含む、不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する1つ以上の症状又は状態の食事管理における使用のための組成物に関する。
【0013】
第5の態様において、本発明はヒトにおける不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する症状又は状態の食事管理のための、及びヒトにおける不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する症状又は状態の発生、発症、及び/又は再発の食事予防のための方法に関し、当該方法は、少なくとも1日1回、前記ヒトに、好ましくは本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチンアミド誘導体からなる組成物を含む組成物を投与することを含む。
【0014】
組成物中のコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチンアミド誘導体のモル比は、好ましくは約2:1:0.01~約2:1:10の範囲である。コリンカチオン及びコハク酸アニオン(2-)は同一の塩、特にコリンコハク酸 (2:1)塩、又は2つの異なる塩、例えば、重酒石酸コリン及びコハク酸二ナトリウム塩に由来し得る。1つの好ましい実施形態において、組成物は、栄養組成物又は栄養組成物の一部である。
【0015】
好ましくは、組成物は1日以上の期間、1回以上の用量で毎日ヒトに投与される。
【0016】
ヒトは、老化したヒト個体及び/又は心理的ストレス、疲労、不眠又は精神的うつ病を有するか及びその影響を受けやすいヒト個体であり得る。
【0017】
ヒトにおける不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する1つ以上の症状は、1つ以上の症状から選択され、そして状態は精神集中の欠如、弱められた精神的強度及び耐久性、頻繁な気分変動、精神的抑うつ、季節性感情障害(SAD)、不眠、疲労、弱められた認知能力、学習、及び記憶から選択されることが出来る。
【0018】
第6の態様において、本発明はヒトにおけるコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチン誘導体の組み合わせの、以下のための使用に関する:
前記ヒトにおいて、
- 脳エネルギー代謝を回復、維持及び/又は増強するため;
- 精神的及び身体的耐久性を回復、維持及び/又は増強するため;
- 認知機能を維持及び/又は増強するため;
- 不均衡、損傷又は減少した脳エネルギー代謝に関連する状態又は症状を処置するため又はその発生又は再発のリスクを減少させるため;
- 不均衡、損傷又は減少した脳エネルギー代謝に関連する認知障害を処置するため又はその発症のリスクを減少させるため。
【0019】
ヒトは任意のヒト個体でよく、有利には、ヒトは老化したヒト個体及び/又は心理的ストレス、疲労、不眠又は精神的うつ病を有するか及びその影響を受けやすいヒト個体である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の明細書の本文を通して説明される全ての用語及び定義は、特に明記しない限り、本発明の全ての態様及び実施形態に関する。
【0021】
本発明は、エネルギー代謝、有利には、ヒトにおける脳エネルギー代謝を維持及び増強するために安全かつ有効である合成組成物に関する。組成物は適切な脳エネルギー代謝を支持又は再確立するために、及び健康なヒト個体及び疾患と診断された個体を含むヒトにおける身体的及び精神的耐久性を増強するのを助けるために、年齢制限なく、任意の食事及び/又は治療と組み合わせて使用され得る。本発明によれば、組成物はエネルギー代謝に関連する少なくとも3つの化合物を含み、好ましくは組成物は好ましくは約2:1:0.01~約2:1:10のモル比で、本質的にコリンカチオン及びコハク酸アニオン(2-)及びニコチンアミド(NAM)の3つの化合物からなり、有利にはコリンカチオン及びコハク酸アニオンはコリンコハク酸塩、好ましくはコリンコハク酸塩(2:1)塩(本明細書では「ジコリンコハク酸塩」又は「DISU」と互換的に呼ばれる)の形態で組成物中に存在する。本文脈における用語「(2:1)」はコリンコハク酸塩の単一分子が2つのコリンカチオン及び1つのコハク酸アニオン(2-)を含むことを意味する。いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の組成物中の代替NAMとしての、NAMの誘導体に関する。
【0022】
驚くべきことに、インビトロで哺乳動物脳細胞に外因的に添加された、本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミドからなる合成組成物は、細胞中のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)及びアデノシン三リン酸(ATP)の両方のレベルを増加させるために相乗的に有効であることが、本発明者らによって見出された。コリンカチオン及びコハク酸アニオン(2-)が、組成物中に存在するジコリンコハク酸塩(DISU)に由来する場合、脳細胞のミトコンドリアにおける特に増強されたNADH及びATPの産生が観察された。しかしながら、組成物のコリンカチオン及びコハク酸アニオンが、前記カチオン及びアニオンを含む他の塩に由来する場合にも、ATP及びNADHの産生の有意な増強が達成され得る。さらに、本発明者らは、DISU及びNAMを本質的に含む水性組成物で処置したヒト個体で以下の効果の少なくとも1つが観察されることを見出した: 季節性感情障害(SAD)の症状の減少、疲労の症状の減少、気分変動の頻度及び規模の減少、心理学的抑うつ及びストレス、並びに反対に、良好な気分及び健康感の普及の増加、より良好な精神集中、心の明瞭性及び耐久性。さらに、本発明の組成物、すなわち本質的にDISUとNAMとの組み合わせからなる飲料を2週間摂取した後に、ヒト個体の脳における細胞エネルギー貯蔵物であるホスホクレアチン(PCr)の量がインビボで持続的に増加することが記録されている。
【0023】
用語「本質的に」<特定の化合物>「からなる組成物」は、組成物の特定の化合物が、必須であり、かつ、組成物に関連する生物学的効果に関与する組成物の化合物のみであることを意味する。したがって、この用語は、効果に直接寄与しない他の化合物を排除しない。
【0024】
本文脈における用語「合成」は、人工組成物を意味する。本発明の合成組成物は、生体内に天然に存在する分子と構造的に同一である合成的に調製された分子、及び天然の構造的等価物を有さない人工分子の両方を含み得る。
【0025】
用語「約」は、0.01%~10%、例えば0.5%~5%の、示された値からの乖離を意味する。
【0026】
「コリンカチオン」とは、化学式C5H14NO+(CAS番号62-49-7)を有するカチオンを意味する。「コハク酸アニオン」という用語は化学式C4H4O4(CAS No.110-15-6)を持つコハク酸アニオン(2-)を意味し、「ジコリンコハク酸塩」、「コリンコハク酸(2:1)塩」及び「DISU」という用語は互換性があり、式(I)の分子を意味する:
【化1】
【0027】
用語「ニコチンアミド」又は「NAM」は、CAS番号98-92-0で同定される分子を意味する。
【0028】
「ニコチンアミドの誘導体」又は「NAM誘導体」という用語は合成プロセスによってNAMから誘導される分子を意味し、すなわち、NAMは誘導体、例えば、ニコチンアミドリボシド(CAS番号: 1341-23-7)又はニコチンアミドモノヌクレオチド(CAS番号: 1094-61-7)の合成のための開始分子である。
【0029】
上述のように、本発明の第1の態様は好ましくは本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びNAM又はNAM誘導体からなる組成物に関し、好ましくはコリンカチオン及びコハク酸アニオンはモル比2:1で存在し、好ましくは前記カチオン及びアニオンはコリンコハク酸(2:1)塩 (DISU)の形態で存在し、すなわちDISUは組成物の一部である。あるいは組成物のコリンカチオンがコリンの別の塩、例えば重酒石酸コリン(CAS番号87-67-2)に由来してもよく、コハク酸アニオンはコハク酸の別の塩、例えばコハク酸二ナトリウム塩(CAS番号6106-21-4)に由来してもよい。本質的に重酒石酸コリン、コハク酸二ナトリウム塩、及びNAMからなる組成物は、本発明のいくつかの実施形態において好ましい場合がある。上述のように、本発明の組成物中のコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びNAMのモル比は約2:1:0.01~約2:1:10の範囲で変化し得る。この範囲内の個々の化合物のモル比を有する組成物が相乗的に作用し、脳細胞中の主要なエネルギー分子ATP、NADH及びPCrの産生を増強する。さらに、これらの組成物はヒト個体における季節性感情障害(SAD)、気分変動、不眠症、疲労、弱められた精神集中及び耐久性、心理学的ストレス及び抑うつの症状の食事管理において効率的であり、この症状は、典型的には不均衡な又は弱められたエネルギー代謝に関連する。組成物中の化合物の比率のいくつかの好ましい実施形態は実施例に記載されているが、組成物が本明細書に記載されたエネルギー発生効果を全比率範囲にわたって有するので、例示された組成物は本発明の実施形態を限定するものではない。
【0030】
上記の効果を得るために、本明細書中に記載される目的のために使用される場合、組成物の必須化合物(すなわち、コリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びNAM又はNAM誘導体)は、いわゆる「有効量」で存在する。化合物の有効量は、使用の目的及び/又は方法、並びに必要とされる本発明に依存して変化し得る。これらの実施形態は、以下で論じられ、非限定的な実施例によって例示される。
【0031】
いくつかの実施形態において、コリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びNAMを含む本発明の組成物はクレアチン(CAS番号57-00-1)、又はクレアチン前駆体(例えば、アミノ酸グリシン及びアルギニン)をさらに含み得る。コリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びNAM又はNAM誘導体を含む組成物への他の有用な添加剤は、以下に議論される。
【0032】
本発明の組成物はヒトにおける適切なレベルの脳エネルギー代謝を維持し、確立し、又は再確立するために有利に使用され、「適切なレベルの脳エネルギー代謝」とは、正常な条件下で、認知、学習、記憶、精神的集中及び耐久性などに関連するプロセスを含む、正常な脳機能を維持するのに十分な量で、及び異常な条件下で、例えば、精神的課題の異常な過負荷又は複雑性によって特徴付けられる状況、又は増加した精神的及び/又は身体的耐久性及び/又は能力などを要求する状況において、脳プロセスによる増加したエネルギー消費を補償し得る量で、生物学的「エネルギー」分子NADH、ATP、及びPCrを産生することによってエネルギーを生成する脳細胞の動的能力を意味する。脳エネルギー代謝の適切なレベルは、ヒト個体ごとに異なり得る。また、個体の年齢、教育レベル、社会的又は健康状態、精神的又は身体的能力に依存し得る。適切な量は例えば、認知テスト(Cognitive Tests)及び能力妥当性テスト(Performance Validity Tests) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK305230/)を使用して、精神的能力に関する現行の基準に従って定義することができる。
【0033】
「脳エネルギー代謝の適切なレベルを確立/再確立/回復する」という表現は本文脈において、組成物が(例えば、疾患、年齢、環境的又は心理的因子に起因して)エネルギー枯渇及び弱体化した脳に対して、エネルギーの生成、すなわち、エネルギー供給分子NADH、ATP及びPCrの生成において、非凡な支持を提供することを意味する。ヒトにおける適切なレベルの脳エネルギー代謝を維持し、確立し、又は再確立するために、組成物は、任意の食事及び薬物との組み合わせで使用することが安全であるので、健康な個体及び医学的患者の両方によって、日常的な食事サプリメントとして使用され得る。一実施形態において、有利には、組成物は加齢したヒトにおける脳エネルギー代謝を維持又は増強するために使用され得る。本文脈における用語「加齢したヒト(aging human)」は一般に、14歳以上のヒト個体、好ましくは24~25歳を超えるヒト個体に関する。別の実施形態では、組成物が脳の老化(aging)の予防に有利に使用することができる。脳のエネルギー生成能力は、加齢と共に徐々に減少することがよく知られている。幼児及び小児を含む、より若い年齢のヒト個体による適切な脳エネルギー代謝を維持するために日常的に使用することで、本発明の組成物は、個体の寿命を通して変化しない脳の速度及び脳のエネルギー要求プロセスの複雑さを維持するための有利な能力を有するか、及び少なくとも、老化脳にエネルギーを持続的に供給し、老化脳が若い脳のレベルで実行することを可能にすることによって、エネルギー貯蔵物の枯渇に関連する脳老化の速度を減少させることができる。
【0034】
本発明の組成物は、栄養組成物として製剤化することができる。好ましくは、前記組成物が栄養補助食品として、好ましくは上記の適切なモル比で、有効量の本発明の組成物の必須成分を含む。
【0035】
「栄養補助食品」という用語は、医薬グレード及び標準化された栄養素を意味する。「栄養素」という用語は、本文脈において、ヒトの生命の維持に不可欠な栄養を提供する物質を意味する。本文脈における用語「栄養/栄養性/栄養の(nutritional)」は、組成物がヒト個体の食事補給のためのものであることを意味する。「栄養補助食品」という用語は、食事を補うことを意図した食事成分、例えば栄養素を含有する、経口摂取される製品を意味する。本発明の文脈における用語「ヒト」は、任意のヒト個体に関する。1つの好ましい実施形態では、ヒトは、24~25歳を超える、例えば30歳を超える、35~55歳の間、又は40~60歳の間などのヒト個体などの加齢したヒトである。別の好ましい実施形態において、ヒトは、心理的ストレス、疲労、不眠又は精神的うつ病を有するか、又はその影響を受けやすい個体である。1つの好ましい実施形態において、ヒトは、心理的ストレス、疲労、不眠又は精神的うつ病を有するか、又はその影響を受けやすい加齢した個体である。
【0036】
本発明の組成物中のコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びNAM(例えば、DISU及びNAM)の量は例の必要性、年齢、生理学的状態などに従って、及び投薬形態及び投与レジメンに依存して、特定の個体又は個体の群による使用のために調節され得る。例えば、組成物中のNAMの量は1食当たり10mg~4000mgの間、1日当たり1回以上の用量で変動し得て、例えば、1食当たり約25~2000mg、1日当たり数回の用量、又は1食当たり50~1000mg、1日当たり数回の用量である。この場合、NAMの1日用量は、具体的なヒト個体又はヒト個体の群の食事要求に依存する。いくつかの特定の要求に有用ないくつかの食事組成物は、本発明の非限定的な実施例に記載されている。しかしながら、組成物中の約4000mgのNAMの1日摂取量は、本明細書に記載される任意の目的のために安全かつ有効であると考えられる。1食あたりのDISUの量は、1食あたり10mg~1000mgで変動してもよく、1日当たり1回以上の用量として提供することができる。従って、本明細書中に記載される任意のものとして、何らかの負の生理学的効果を有さずに、所望の効果を達成するために、個体は、4000mgまでのNAM、又はNAM誘導体、及び1000mgまでのDISU、又はコリン及びコハク酸の他の塩に由来する対応する量のコリンカチオン及びコハク酸(2-)アニオンを含む組成物を、毎日摂取することが出来る。1つの好ましい実施形態において、本発明の栄養組成物は本質的にDISU及びNAMを含み、組成物中のコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミドのモル比は、それぞれ、約2:1:0.4である。別の好ましい実施形態において、組成物中のコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミドのモル比は、約2:1:1である。本文脈における用語「約」は、示された値から1~10%の乖離を意味する。好ましくは、摂取が少なくとも1週間の期間、及び、好ましくは2~4週間、1~12ヶ月以上のようなより、長い期間、継続する。組成物が栄養補助食品としてどれくらい長く摂取され得るかについては、実質的に制限はない。摂取は例えば、個人の生活、健康、個人の生理学的/精神的状態の季節的変動、又は年齢の変化に関連して、個人が必要であると感じたときに、ある期間の間、いつでも中断し、再開することができる。当業者の食事管理者は、受け入れられた規則及び規制に従って、食事組成物の前記成分の量を容易に決定することができる。
【0037】
さらなる態様において、本発明は以下で使用するための、上記のいずれかの組成物に関する。すなわち、(i)ヒトにおける脳エネルギー代謝を回復、維持又は増強する際に使用するため;(ii)ヒトにおける集中、注意力、精神的強度及び耐久性、認知、学習及び/又は記憶を増強する際に使用するため;(iii)心理学的ストレス、精神集中の欠如、弱められた精神的強度及び耐久性、頻繁な気分変動、精神抑うつ、季節性感情障害(SAD)、不眠症、疲労の症状を治療及び/又は低減する際に使用するため;(iv)複雑な精神的作業、認知、学習、記憶、注意力、集中などを遂行することに関連するエネルギー要求プロセスに必要な、NADH、ATP及びPCrなどのエネルギー分子を生成する脳の能力の低下を伴う脳老化の開始を遅延させる際に使用するため。用語「精神的強度」は個体の思考を調節し、感情を制御し、状況にかかわらず生産的に振舞うヒト個体の能力を意味する。「精神的耐久性(mental endurance)」とは、日常生活において精神的強度を発揮し、あらゆる課題に効果的に対処する能力をいう。
【0038】
したがって、以下の目的のために、本明細書に記載のコリンカチオン、コハク酸アニオン(2-)、及びニコチンアミド又はニコチン誘導体の組み合わせをヒトに使用することは、有益かつ安全である:
前記ヒトにおいて、
- 脳エネルギー代謝を回復、維持及び/又は増強するため;
- 精神的及び身体的耐久性を回復、維持及び/又は増強するため;
- 認知機能を維持及び/又は増強するため;
- 不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する状態又は症状の発生又は再発を治療又はそのリスクを減少させるため;
- 前記ヒトにおける不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する認知障害を治療又はそのリスクを減少させるため;
ここで、この組み合わせが、広範囲の他の化合物(例えば、以下に記載されるような)を含む組成物の一部であるか、又はコリンカチオンを提供するコリンの塩、コハク酸(2-)アニオンを提供するコハク酸の塩、及び本明細書に記載されるようなニコチンアミン又はニコチンアミド誘導体を本質的に含む単独の組成物としてであるかにかかわらず、有益かつ安全である。
【0039】
本文脈における「認知障害」という用語は、記憶及び思考能力を含む、認知能力のわずかではあるが顕著かつ測定可能な低下を特徴とする「軽度の認知障害(MCI)」を意味する。MCI患者は、アルツハイマー病又は別の認知症を発症するリスクが高い。「回復する」という用語は、「再確立する」という用語と互換的に使用され、以前の状態に戻る、又は元の状態に戻ることを意味する。
【0040】
本発明はまた、不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝、精神集中の欠如、弱められた精神的強度及び耐久性、頻繁な気分変動、精神的抑うつ、季節性感情障害(SAD)、不眠、疲労、弱められた認知能力、学習、及び記憶に関連する症状及び状態の食事管理の方法に関する態様を含む。前記方法は、必要とするヒト個体に本発明の組成物を投与する工程を含む。本文脈における「食事管理」という用語は治療的介入の代わりに、又は予防的処置として、好ましくは食事又は医療専門家の監督下で、健康上の懸念を有する個体及びグループに栄養選択肢を提供する実践を意味する。有利には、本発明の組成物がヒトにおける不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する症状又は状態の一次及び/又は二次発症及び発生の食事予防に使用することができ、これには同じ症状又は状態の発生及び再発生のリスクを減少させること、並びに初めて発生したか又は再発生しようとしている症状又は状態の強度及び持続時間を減少させることが含まれる。用語「一次」は、症状又は状態が当該ヒトにおいて初めて起こることを意味し、用語「二次」は、症状又は状態が再発していることを意味する。したがって、ヒトにおける不均衡な、損傷した、又は減少した脳エネルギー代謝に関連する症状又は状態の発症、発生及び/又は再発の食事による予防のための方法であって、前記症状又は状態が本明細書に記載のいずれかであり得る方法は、本発明の態様の1つである。
【0041】
本文脈における用語「不均衡(な)、損傷(した)、又は減少(した)」は個体の脳エネルギー代謝が(上記のように)適切なレベルではなく、個体の疾患、生理学的又は精神学的状態、有害な環境因子によって弱められることを意味する。
【0042】
上述のように、いくつかの実施形態では、本発明は、組成物の必須化合物以外の栄養素を含む栄養組成物に関する。本発明の栄養組成物は、限定するものではないが、食品、飲料、栄養補助食品、機能性食品、及び医療用食品などの栄養製品の形態であってもよい。1つの好ましい実施形態において、本発明の組成物は、水性栄養組成物、例えば、飲物又は飲料である。
【0043】
本発明の実施において、本発明の組成物の化合物は、当技術分野で公知の任意の方法によって調製することができ、又は公知の商業的製造業者から得ることができる。例えば、ニコチンアミド又はその誘導体、重酒石酸コリン、コハク酸二ナトリウム塩は、Merckから得ることができる。DISUは、例えばWO2009/022933A1に記載されているように、コリン水酸化物(CAS番号123-41-1)とコハク酸(CAS番号110-15-6)との反応によって調製することができる。
【0044】
本明細書に記載の栄養組成物は、当技術分野で周知の手順によって調製することができ、いくつかの他の随意の成分を含有することができる。このような随意の成分は一般に、組成物の約0.0005重量%~約10.0重量%のレベルで個々に使用される。適切な随意の成分の例としては担体、ミネラル、炭水化物、脂質、ビタミン、補助因子、緩衝剤、香味料及び甘味料、無機塩、通常天然の飲料水に豊富であるカチオン及びアニオン、味覚修飾及び/又はマスキング剤、二酸化炭素、アミノ酸、有機酸、酸化防止剤、防腐剤、及び着色剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
栄養組成物は1つ以上の担体と組み合わせることができ、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハース、チューインガム、食品、飲料などの形態で使用することができる。
【0046】
担体として働くことができる成分の非排他的な例には、水; グルコース、ラクトース、及びスクロースなどの糖; セルロース、及びその誘導体; トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン; 粉末トラガカント; ゼラチン; タルク; カオバターなどの賦形剤; オリーブ油、落花生油、綿実油、トウモロコシ油、及び大豆油などの油; プロピレングリコールなどのグリコール; オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル; グリセリン、マンニトール、ソルビトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール; 寒天; 緩衝剤; 水; pH緩衝溶液; 並びに製剤に使用される他の非毒性適合性物質が含まれる。ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなどの浸潤剤、乳化剤及び潤滑剤、並びに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味料、香味料及び芳香剤、防腐剤及び酸化防止剤も組成物中に存在してよい。抗酸化剤の非限定的な例は、ビタミンE、アスコルビン酸、カロテノイド、アミノインドール、ビタミンA、尿酸、フラボノイド、ポリフェノール、ハーブ抗酸化剤、メラトニン、リポ酸、及びそれらの混合物である。
【0047】
天然飲料水中に通常は豊富に存在する有用な無機塩の非限定的な例は、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及びそれらの混合物である。
【0048】
有用なカチオンの非限定的な例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄、及びそれらの混合物である。
【0049】
有用なアニオンの非限定的な例は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びそれらの混合物である。
【0050】
適切な緩衝液の非排他的な例は、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、及びコハク酸緩衝液である。
【0051】
適切な香味料の非限定的な例は、合成香味油; 香味芳香剤及び天然油(例えば、シンナモン油、ウィンターグリーン油、ペパーミント油、クローブ油、ベイ油、アニス油、ユーカリ油、タイムオイル、スギ葉油、ナツメグ油、セージ油、シトラス果実油、苦いアーモンド油、及びヒマシ油); 植物抽出物、花、葉、果実、バニラ、チョコレート、モカ、コーヒー、リンゴ、西洋ナシ、ナシ、カンキツ(例えば、レモン、オレンジ、ブドウ、ライム、及びグレープフルーツ);マンゴー、イチゴ、ラズベリー、チェリー、プラム、パイナップル、及びアプリコット、並びにこれらの組み合わせである。
【0052】
適切な甘味料の非限定的な例は、天然及び合成甘味料である。天然甘味料の非限定的な例は、天然に存在する物質、スクロース、天然に存在する物質からの抽出物; 植物Stevia Rebaudiana Compositae Bertoni (例えば、ステビア、ステビオール、レバウジオシドA-F、及びデュルコシドA及びB)の抽出物; Thladiantha grosvenorii (例えば、モグロシドV及び関連するグリコシド)の抽出物; フィロデュルシン及びその誘導体; タウマチン及びその誘導体; モグロシド(例えば、モグロシドIV、モグロシドV、シアメノシド)のようなモグロシド; S. grosvenorii、S. siamensis、S. silomaradjae、S. sikkimensis、S. Africana、S. borneesis、及びS. taiwanianaを含むSiraitia属; 天然に存在するグリコシド; 並びに甘味特性を有する植物起源の活性化合物、並びにそれらの混合物である。合成甘味料の非限定的な例は、アスパルテームサッカリン、及びそれらの混合物である。
【0053】
適切な着色剤の非排他的な例は、食品に適した色素、例えばFD&C色素、天然着色剤、例えばブドウ皮抽出物、ビート赤色粉末、二酸化チタン、及びβ-カロチン、アナットー、カルミン、クロロフィル、パプリカ、及びそれらの混合物である。
【0054】
有用な有機酸の非限定的な例は、酢酸、酪酸、リンゴ酸、ピルビン酸、グルタミン酸、クエン酸、オメガ-3不飽和酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、アスパラギン酸、及びそれらの混合物である。
【0055】
有用なアミノ酸の非排他的な例は、グリシン、アルギニン、L-トリプトファン、L-リジン、メチオニン、スレオニン、レボカルニチン、及びL-カルニチンである。
【0056】
有用なビタミンの非限定的な例は、チアミン、リボフラビン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、葉酸、ピリドキシン、ビタミンB12、リポ酸、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンC、コリン、カルニチン; アルファ、ベータ、及びガンマカロチン; ビタミンK、及びそれらの混合物である。
【0057】
有用な補助因子の非限定的な例は、チアミンピロリン酸、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキサルリン酸、ビオチン、テトラヒドロ葉酸、補酵素A、補酵素B12、11-シス-レチナール、1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール及びそれらの混合物である。
【0058】
一実施形態では、本発明の栄養組成物が血液循環を増加させることができる化合物、例えば、イチョウ葉又は人参の抽出物を含むことができる。いくつかの実施形態では、本発明の組成物が抗酸化剤、例えばアスタキサンチン、レスベラトロール、フラボノイドを含むことができる。
【0059】
言及したように、栄養組成物は、食品の成分として使用することができる。
【0060】
食品の非限定的な例には、通常食品、栄養補助食品、飲料、及び医療用食品が含まれる。
【0061】
用語「医療用食品」は、医師の監督下で経腸的に消費又は投与されるように製剤化され、疾患、状態、又は障害の特定の食事管理を目的とする食品を指す。
【0062】
好ましくは、栄養組成物が少なくとも1日間、及び好ましくはより長い期間(上記のように)、ヒトに経口投与される。
【0063】
以下の非限定的な例は、本発明を例示するために提示される。したがって、実施例に記載された実施形態は、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0064】
実施例1: 本発明の栄養組成物の実施形態
【0065】
飲料1。この飲料は以下に示す量のNAMとDISUとを混合し、330mlの水に溶解させて、飲料を提供するべく調製される。
【表A】
この飲料(コリン:コハク酸塩:NAMのモル比は2:1:0.4)は、被験者に毎日、330ml/1食を、1食以上、経口投与した場合、被験者の脳エネルギー代謝の改善に有用であり、被験者が高い精神的耐久性及び持続的な健康感を維持するのを助ける。
【0066】
飲料2。飲料は以下に示す量のNAMをDISUと混合し、330mlの水に溶解することによって調製される。
【表B】
この飲料(コリン:コハク酸塩:NAMのモル比は2:1:2)は、被験者に毎日、1食あたり330ml、1回以上の食事で、経口投与される場合、脳低酸素症及び心理的ストレスを伴う疾患の食事管理に有用である。
【0067】
飲料3。飲料は以下に示す量のNAMをDISUと混合し、330mlの水に溶解することによって調製される。
【表C】
この飲料(コリン:コハク酸塩:NAMのモル比は2:1:1)は、被験者に毎日、1食あたり330mlを、1回以上の食事で、経口投与した場合、ホスホクレアチン対ATP比によって測定されるように、脳エネルギー貯蔵の改善に有用である。
【0068】
飲料4。飲料は以下に示す量のNAMをDISUと混合し、500mlの水に溶解することによって調製される。
【表D】
この飲料(コリン:コハク酸塩:NAMのモル比は2:1:1)は、被験者に毎日、1食当たり500ml、1回以上の食事で、経口投与される場合、健康な脳機能に必要な量まで脳エネルギーをバランスさせるのに有用である。
【0069】
飲料5。飲料は以下に示す量のNAMをDISUと混合し、330mlの水に溶解することによって調製される。
【表E】
この飲料(コリン:コハク酸塩:NAMのモル比は、約2:1:10)は、被験者に毎日、1食当たり330ml、1回以上の食事で、経口投与される場合、脳の健康な機能を増強するために有用である。
【0070】
飲料6。飲料は以下に示す量のNAMをDISUと混合し、330mlの水に溶解することによって調製される。
【表F】
この飲料(コリン:コハク酸塩:NAMのモル比は、約2:1:0.01)は、被験者に毎日、1食当たり330ml、1回以上の食事で、経口投与される場合、脳の健康な機能を増強するために有用である。
【0071】
飲料7。この飲料は、以下に示す量のNAMとDISUとを混合し、330mlの水に溶解させて、飲料を提供すべく調製される。
【表G】
この飲料(コリン:コハク酸塩:NAMのモル比は2:1:0.4)は、被験者に毎日、1食当たり330ml、1回以上の食事で、経口投与されるものであり、被験者における脳エネルギー代謝の改善に有用であり、被験者が高い精神的耐久性及び持続的な健康感を維持するのを助ける。
【0072】
実施例2: in vivoにおける虚血障害脳のエネルギー代謝に対するDISUの効果の評価
【0073】
雄ラットに10mg/kgのDISU (n=8)、10mg/kgのコハク酸二ナトリウム(n=8)、10mg/kgのコハク酸二カリウム(n=8)、10mg/kgの塩化コリン(n=8)、及び生理食塩水(対照、n=23)を7日間投与した。次に、全虚血を麻酔下での心停止によりラットに誘発し、全脳ATPレベルを生体内の31P NMRにより15分間測定した。結果は表3に、虚血発症15分後の脳内ATP濃度の平均値±標準誤差として、ベースラインに対するパーセント(100%で認められる)で示した。
【表1】
【0074】
表1のデータは、DISUが、対照と比較して、全般的な低酸素でのATP低下から脳を保護することを示しているが、DISU成分、コリン及びコハク酸は、個別に及び同じ用量で摂取されたが、有効ではなかった。特に、脳エネルギー代謝のDISU保護は有意であったが、他のコハク酸塩、コハク酸二ナトリウムは効果がなかった。また、別のコリン塩、塩化コリンは、脳エネルギー代謝の保護には効果がなかった。このように、DISUは、虚血状態における脳エネルギー代謝を保護する能力において、他のコリン及びコハク酸塩とは有意に異なっている。特に、DISUは正常酸素状態下での脳内ATP濃度(Pomytkin I、Semenova N。Dokl Biochem Biophys 2005、403:289-92)に影響を及ぼさなかった。
【0075】
実施例3: 本発明の組成物がin vitroでの脳細胞におけるATPの産生に及ぼす効果の評価
【0076】
材料及び方法Vaarmann A. et al., 2010 (Cell Calcium 2010, 48(2-3): 176-82)が記載したように、分娩後1~3日のマウス仔から皮質ニューロンとグリア細胞の混合初代培養を調製した。ATPの測定のために、14~21 DIVの細胞を、製造業者の指示に従い、リポフェクタミン2000を用いて、ATP感知プローブAT1.03 (Imamura Hら, PNAS 2009, 106(37):15651~15656に記載されているように)で24時間トランスフェクトした。実験では、細胞を50μMのDISU、20μMのNAM、ニコチン酸(ナイアシン)(20μM)、50μMのDISU及び20μMのNAMの組成物、50μMのDISU及び20μMのニコチン酸の組成物、又は何れも含まない(対照)に対して約5分間曝露した。次に、細胞中のATPレベルを共焦点顕微鏡を用いて測定した。別の一連の実験において、細胞を、コハク酸ナトリウム(50μM)、重酒石酸コリン(100μM)、又はそれらの組成物を含む参照化合物に曝露し、細胞中のATPレベルも比較のために得た。提示されたすべてのデータは、少なくとも5つのカバーグラスと2~3の異なる細胞標本から得られた。
【0077】
結果.細胞内のATP濃度の平均値として表2にデータを示す。非処理細胞(対照)のATPレベルの平均値は100%として示した。細胞中のATP量に対する処理の影響(ΔATP)は、次式により計算した: ΔATP=ATPtreat-ATPcontrol。ここで、ATPtreatは処理細胞中のATP量であり、ATPcontrolは対照細胞中のATP量である。
【表2】
【0078】
表2は以下を示す:
- DISUとNAMからなる組成物での処理は、対照と比較して228%の細胞内ATPレベルの有意な相乗的増加をもたらす(p<0.05)。組成物の影響(ΔATP=228%)は、個々の成分、DISU及びNAMの影響(ΔATP=142+14=156%)の合計よりもそれぞれ1.5倍大きかった。組成物の効果(ΔATP=228%)とDISU単独の効果(ΔATP=142%)の間には有意差がある(p<0.05)。したがって、本発明の組成物は、脳細胞におけるATP産生の改善に相乗的に有効である。
- DISUとニコチン酸の組成物で処理すると、細胞内ATP量は対照と比較して152.0%増加し(p<0.05)、組成物の効果(ΔATP=152%)とDISU単独の効果(ΔATP=142%)の間に有意差はない(p>0.05)。DISUとニコチン酸の個々の効果(ΔATP =142+1=143%)の合計は、組成物の効果(ΔATP=152%)の値と類似している。したがって、本組成物の化合物がATPの産生に及ぼす複合効果は非相乗的である。NAMとニコチン酸(ナイアシン)は、一般に類似の生物学的能力を有するビタミンB3ファミリーのメンバーと考えられているにもかかわらず、提示されたデータは、それらがDISUと組み合わされたときの脳細胞におけるATPの産生に対する効果が異なることを明確に示している。
- コハク酸ナトリウムとNAMと重酒石酸コリンの組成物による処理は、対照と比較して細胞内ATPレベルの146%の有意な相乗的増加をもたらした(p<0.05)。組成物の影響(ΔATP=146%)は、その個々の成分であるコハク酸ナトリウム、NAM、及び重酒石酸コリンの影響の合計(ΔATP=23+14+40=77%)の約1.8倍であった。このように、コハク酸ナトリウム、NAM、及び重酒石酸コリンの組成も、脳細胞のATP産生の改善に相乗的に有効であった。コハク酸塩とNAMを含む組成物中のコリンアニオンの存在がミトコンドリアにおけるATPの相乗的生成に重要であることを、データは示している。組成物「コハク酸ナトリウムとNAMと重酒石酸コリン」(ΔATP=146%)の効果と組成物「コハク酸ナトリウムとNAM」(ΔATP=42%)の効果の間には有意差がある(p<0.05)。従って、本質的にコハク酸アニオン、コリンカチオン、及びNAMを含む本発明の組成物は、脳細胞におけるATPの産生に相乗的に有効である。
- コハク酸アニオンとコリンカチオンの組合せの選択は、本発明の組成物の相乗効果のスケールのために重要である。脳細胞のATP産生に及ぼす効果において、組成物「DISUとNAM」と「コハク酸ナトリウムとNAMと重酒石酸コリン塩」の間に有意差がある(p<0.05)。組成物「DISU及びNAM」は、組成物においてコリンカチオン、コハク酸アニオン、及びNAMのモル濃度は同じであったにもかかわらず、「コハク酸ナトリウムとNAMと重酒石酸コリン」よりも約1.6倍有効であった。DISUはコリンアニオンとコハク酸カチオンの組合せについて、優れた代表例であることを示した。
- コハク酸ナトリウム及びNAMによる個別処理、又はその組成物による処理は、対照と比較して、それぞれ、細胞内ATP量の23%、31%、又は42%の非有意な増加をもたらす(p>0.05)。コハク酸ナトリウムとNAMの個々の効果の合計(ΔATP =23+31=54%)は、組成物の効果(ΔATP=42%)の値と比較して、類似しており、わずかに大きい。したがって、コハク酸ナトリウム及びNAMの組成物は、コハク酸アニオン、NAM、及びコリンカチオンを含む本発明の組成物とは明確に対照的である、脳細胞におけるATP産生に対して相乗的に効果的ではない。
【0079】
従って、我々は、本質的にコリンカチオン、コハク酸アニオン、及びNAMを約2:1:0.4のモル比で含む発明の組成物は、脳細胞におけるATP産生の増強に有効であると結論する。
【0080】
実施例4: インビトロでの脳細胞におけるNADHの産生に対する本発明の組成物の効果の評価
【0081】
NADHはミトコンドリアの電子伝達系の電子供与体である。ミトコンドリア中のNADHのレベルは、TCAサイクルにおけるこの分子の産生と複合体Iにおけるそれの消費とのバランスである。生細胞(組織)中のNADHの測定は、NADHの自己蛍光(励起360nm、発光~430nm)を用いて行うことができる。しかし、NADHのミトコンドリアシグナルは、NADPH自己蛍光あるいは細胞質NADHシグナルから分離できなかった(Bartalome F and Abramov AY Methods Mol Biol. 2015, 1264:263-70)。
【0082】
方法及び結果
【0083】
皮質ニューロンとグリア細胞の混合培養は、記載(Vaarmannら、2010)に従い、分娩後1~3日のマウス仔から調製した。神経細胞はグリアと容易に区別できた: それらは明るい位相を呈し、平滑な丸い細胞体と明瞭な突起を持ち、グリア層の焦点面の直上に位置していた。細胞は14~21DIVで使用した。実験は37oCでHBSS溶液中で行った。
【0084】
NADHのミトコンドリアプールを推定するために、ミトコンドリア呼吸の最大活性化を脱共役剤FCCPによって誘導し(ミトコンドリアNADHは0とする)、続いてNaCNによる呼吸の阻害が引き起こされる(NADHは消費の阻害により最大となる)。このセットアップはいくつかの特性の評価を提供する: 即ち、TCAサイクルにおけるNADH産生速度(NaCN後のNADHシグナルの回復)、総ミトコンドリアプール、及び酸化還元指数。
【0085】
コハク酸ナトリウム(50μM)の一次ニューロン及び星状細胞への適用は、複合体I関連呼吸の活性化に対応するミトコンドリアNADHレベルの高速かつ有意な減少を誘導した(n=156細胞、N=3実験)。これは、引き続くNADH産生により補償される必要があるコハク酸の添加の典型的な効果である(Reeve et al., Cell Death Dis. 2015 Jul 16;6:e1820)。DISUは、コハク酸ナトリウムとは対照的に、ミトコンドリアNADHのわずかな初期減少を誘導し、続いてNADH自己蛍光の緩徐な恒常的増加を誘導した(インキュベート20分後に対照の123±6%まで)。コハク酸ナトリウムとの20分間のインキュベーション後に、NADH自己蛍光の顕著な増加は検出されなかった。
【0086】
NAM(20μM)とDISU(50μM)の組合せ(コリン:コハク酸:NAMのモル比は約2:1:0.4)を加えると、NADHの初期低下が減少するだけでなく、最初の低下の20分後に検出されたNADH自己蛍光が有意に増加した(対照の161±11%; n=132; N=3実験)。短期間(15~20分)のNAM(20μM)単独の適用は、ミトコンドリアNADHプールにおいて中程度の増加(対照の116±8%)のみを誘導した(N=3; n=68細胞)。
【0087】
従って、DISUとNAMの組合せは、組成の単一化合物よりも脳ミトコンドリアにおけるNADHの生成に対する有意に高い効果を有し、個々の化合物の効果は相乗的である
【0088】
以上の結果から、我々は、本質的にDISUとNAMを含む組成物は、脳細胞におけるNADHの生成に有効であると結論する。
【0089】
実施例5: DISUとNAMを含む飲料の摂取がヒト脳内のホスホクレアチンレベルに及ぼす影響のin vivoでの評価
【0090】
グアニジノアミノ酸クレアチンのリン酸化アナログであるホスホクレアチン(pCr)へのクレアチンキナーゼ触媒反応を介した変換により、ATPは脳内で強く緩衝される。ATPは酸化的リン酸化を介するよりも12倍速く、また、de novo経路の70倍以上速く、ホスホクレアチンから再合成される。ホスホクレアチン(pCr)は、細胞内のエネルギー消費反応の直接的エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を再利用するための脳内の予備("時間的エネルギー緩衝剤")として働く、高エネルギー基質である。(Wallimann T et al., Biochem J 1992, 281 (Pt 1):21-40; Valenzuela et al Brain Res Rev. 2007,56:198-213; Rae et al, Proc. R. Soc. Lond. B. 2003, 270:2147-2150) (Wallimann T et al.、Biochem J 1992、281 (Pt 1):21-40; Valenzuela et al Brain Res Rev.2007,56:198-213; Rae et al、Proc.医学会 ロンド B。2003、270:2147-2150)
【0091】
方法
【0092】
ボランティア(57歳の健常女性被験者)に、500mgのDISUと188mgのNAM(コリン:コハク酸:NAMのモル比は約2:1:1)を100mlの水中に含む飲料を、1日1回7日間連続で投与した。ボランティアは普通の食事を維持しており、トレール中に他の栄養補助食品を摂取しなかった。PCr及びATPの全脳レベルは、31P磁気共鳴スペクトロスコピー(31 P MRS)を用いて得た。31P MRSは、0日(飲料摂取直前)、7日及び16日(飲料摂取の後)に3テスラ(3T)で得た。31P MRSスペクトルにおけるpCr対γATPシグナルの比率(pCr/ATP)を、脳内のpCrレベルの尺度として用いた。毎回、3回の反復(n=3)で31P MRSスペクトルを記録し、pCr、ATPに関連するシグナルを評価し、pCr/ATP比を算出した。飲料摂取が脳内のpCr/ATP比に及ぼす影響(ΔpCr/ATP)を、次式により計算した: ΔpCr/ATP=100%(平均pCr/ATPday7/16-平均pCr/ATPday0)×100%/平均pCr/ATPday0。*t-Student検定における有意な群間平均差を示す(p<0.05)。
【0093】
結果
【0094】
31 P MRS測定の結果を表3に示す。データはpCr、ATP、pCr/ATP、及びΔpCr/ATPの平均±標準誤差(n=3)で示した。
【表3】
【0095】
表3に示したデータから分かるように、DISU及びNAMを含む飲料の摂取(コリン:コハク酸:NAMのモル比は約2:1:1)は、摂取の7日後に脳ホスホクレアチン(PCr)レベルの有意な増加をもたらし、これは摂取の16日目まで増加し続け、ベースライン値(0日目)と比較して、それぞれ7%及び13%増加する。ベースライン(0日目)に対する脳ATPレベルの有意な変化は、7日目(p=0.48)及び16日目(p=0.57)のどちらでも記録されず、脳における定常状態ATPレベルが安定していることを示した。
【0096】
従って、我々は、本発明の組成物は、いかなるヒト個体においても、特に精神活動が遅くなって減少した加齢個体においても、複雑な精神活動に必要な脳エネルギー代謝及びエネルギー備蓄を支持するのに有効であると結論する。
【0097】
実施例6: DISUとNAMを含む飲料の摂取の評価: ヒトトレール
【0098】
試験デザイン。
【0099】
合計20名の男女健康成人(21~63歳)を本研究に参加するために募集した。参加者を10名ずつ2群に無作為に割り付けた。第1群は飲料Aを摂取していた(後述の表4参照)。第2群は飲料B(プラセボ製剤)の投与を受けていた。プラセボ及び処置製品は500ml投与容器に入った瓶入り飲料であった。
【表4】
【0100】
参加者には試験質問票を配布し、記入させた(後述参照)。また、12週間の継続摂取のための1日1回の用量の被験飲料、及び試験質問票の写しの供給も受けた。参加者は18:00以前の日中に製品を摂取するように指示され、研究期間中に1日当たり250mgより多くのカフェインと2.5g未満のタウリンを摂取しないように注意を促された。参加者には、飲料の摂取開始後12週目の終わりに質問票(1)に記入するよう指示した。研究終了時(12週末)に参加者は質問紙を交付され、さらに飲料の一般的な体験についてインタビューを受けた(飲料評価質問票(2)を配布され記入した(後述参照))。
【0101】
試験の結果
【0102】
症状評価(アンケート1)。
【表H】
【0103】
飲料体験評価(アンケート2)
【表I】
【0104】
アンケート1のデータから、A群の被験者の身体状態は、評価されたすべての症状において「より悪いからより良い」への変化を経験したので、全般的に改善したと結論することができる。同時に、B群の被験者では、トレール中の症状にあまり変化が見られなかった。症状のほとんどは、全てではないが、一般的に、脳内のエネルギーの不足又は脳エネルギー代謝の不均衡と関連していることから、本発明の組成物は、脳エネルギー備蓄の枯渇、ひいては上記の症状の発現につながる、対処するために精神的エネルギーを要求する膨大な量の社会環境的刺激に毎日さらされている一般公衆の脳エネルギー代謝を健康なレベルに維持し、又は増強するのに有用であると結論できる。