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特許7367981上皮オルガノイド培養方法及び上皮オルガノイド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】上皮オルガノイド培養方法及び上皮オルガノイド
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20231017BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20231017BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20231017BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20231017BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/36
A61L27/38
A61L27/38 120
A61L27/38 300
A61P1/00
A61P43/00 107
C12N5/074
C12N5/09
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020043375
(22)【出願日】2020-03-12
(62)【分割の表示】P 2018518240の分割
【原出願日】2017-05-10
(65)【公開番号】P2020110164
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-03-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2016099995
(32)【優先日】2016-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人日本医療研究開発機構、平成27年度 次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム「「がん幹細胞を標的とした根治療法の開発」(大腸がん幹細胞を標的とした創薬スクリーニング)」に係る委託研究 および 平成27年度 再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患・組織別実用化研究拠点(拠点B)「培養腸上皮幹細胞を用いた炎症性腸疾患に対する粘膜再生治療の開発拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】股野 麻未
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】天野 貴子
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516562(JP,A)
【文献】特表2016-506736(JP,A)
【文献】特開2016-23140(JP,A)
【文献】特表2013-502412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDream3)
PubMed
BIOSIS/EMBASE/CAPLUS/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮腫瘍細胞、又は上皮腫瘍細胞を含む組織の培養方法であって、
細胞外マトリクスを調製する細胞外マトリクス調製工程と、
前記細胞外マトリクス上に上皮腫瘍細胞、又は上皮腫瘍細胞を含む組織を接着させる接着工程と、
前記接着工程後に、上皮オルガノイド培養用細胞培養培地を添加し、酸素濃度0.5%以上5%以下である低酸素下で、前記上皮腫瘍細胞、又は前記上皮腫瘍細胞を含む組織を培養し、上皮オルガノイドを形成させるオルガノイド形成工程と、を備え、
前記上皮オルガノイド培養用細胞培養培地が、Wntアゴニスト、分裂促進増殖因子、BMP阻害剤、TGF-β阻害剤、及びp38阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、上皮オルガノイド培養方法。
【請求項2】
皮腫瘍細胞、又は上皮腫瘍細胞を含む組織の培養方法であって、
細胞外マトリクスを調製する細胞外マトリクス調製工程と、
前記細胞外マトリクス上に上皮腫瘍細胞、又は上皮腫瘍細胞を含む組織を接着させる接着工程と、
前記接着工程後に、上皮オルガノイド培養用細胞培養培地を添加し、酸素濃度0.5%以上5%以下である低酸素下で、前記上皮腫瘍細胞、又は前記上皮腫瘍細胞を含む組織を培養し、上皮オルガノイドを形成させるオルガノイド形成工程と、を備え、
前記上皮オルガノイド培養用細胞培養培地が、インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも二種、及び下記i)~iii)の成分のうち少なくとも一種を含み、EGF及びp38阻害剤を実質的に含まない、上皮オルガノイド培養方法。
i)Wntアゴニスト
ii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤
iii)形質転換増殖因子-β(transforming growth factor-β;TGF-β)阻害剤
【請求項3】
前記上皮オルガノイド培養用細胞培養培地が、IGF1及びFGF2を含む、請求項2に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項4】
前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質、R-スポンジン、及びGSK-3β阻害剤からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1~のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項5】
前記Wntタンパク質がその安定化物質アファミンとの複合体を形成している請求項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項6】
前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質及びR-スポンジンである請求項又はに記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項7】
前記Wntタンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、及びWnt16からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項8】
前記R-スポンジンが、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、及びR-スポンジン4からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項9】
前記BMP阻害剤が、ノギン、グレムリン、コーディン、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質、フォリスタチン、フォリスタチンドメインを含むフォリスタチン関連タンパク質、DAN、DANシステインノットドメインを含むDAN様タンパク質、スクレロスチン/SOST、及びα-2マクログロブリンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1~のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項10】
前記TGF-β阻害剤が、A83-01、SB-431542、SB-505124、SB-525334、SD-208、LY-36494、及びSJN-2511からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1~のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項11】
前記TGF-β阻害剤が、A83-01である請求項10に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項12】
前記BMP阻害剤がノギンである請求項1~11のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項13】
前記上皮オルガノイド培養用細胞培養培地が、無血清培地である請求項1~12のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の上皮オルガノイド培養方法で製造された上皮オルガノイド。
【請求項15】
請求項13に記載の上皮オルガノイド培養方法で製造された再生医療オルガノイド製剤。
【請求項16】
請求項14に記載の上皮オルガノイドを使用する、薬物応答スクリーニング方法。
【請求項17】
請求項14に記載の上皮オルガノイドを使用する、毒物アッセイ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノイド培養用細胞培養培地、培養方法、及びオルガノイドに関する。
本願は、2016年5月18日に、日本に出願された特願2016-099995号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
腸管は人体の中でも最も外界と接する面積の広い臓器であり、消化吸収など生命の維持に欠かせない機能を有している。腸管機能の大部分はその内層を覆う腸管上皮により担われている。腸管上皮は3系統の分化細胞(粘液産生細胞、吸収上皮細胞、内分泌細胞)からなる絨毛と主に未分化増殖細胞からなる陰窩の2つのコンパートメントにより構成されている。小腸陰窩では抗菌ペプチドを産生するパネート(Paneth)細胞が陰窩底部に存在する。最近、分子遺伝学的な細胞系譜解析により、パネート細胞に挟まれたLgr5陽性細胞(「CBC(Crypt base columnar)細胞」とも呼ばれる。)が腸管上皮幹細胞であることが明らかとなった。Lgr5陽性腸管上皮幹細胞は、一過性増殖細胞(Transit amplifying cells)と呼ばれる前駆細胞を生み出すが、これらの前駆細胞は永続的な自己複製能力はなく、また、分化能も1~3系統に制限される。一過性増殖細胞は陰窩内で2~4回の分裂とともに分化していき、絨毛では終末分化を遂げる。これらの分化細胞は絨毛の頂点で剥離し、アポトーシスにより死滅する。腸管上皮は新陳代謝の速い組織であり、陰窩の幹細胞から絨毛の頂点まで4~5日で移動する。Paneth細胞は他の分化細胞と異なり、分化とともに陰窩底部に移動し、2ヶ月と長い細胞寿命を有する。
【0003】
腸管上皮幹細胞の自己複製機序はいくつかの遺伝子改変マウスの結果からWnt(ウィント)シグナルと骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein;BMP)シグナルによって制御されていることが知られている。Wntシグナルの抑制分子であるAPC(Adenomatous polyposis coli)の腸管上皮特異的ノックアウトマウスでは、腸管上皮細胞の過増殖と腺腫形成を示す。また、BMPの阻害タンパクであるノギン(Noggin)を腸管上皮細胞に過剰発現させたマウスでは、異所性の陰窩形成が観察され、BMPシグナルは腸管上皮幹細胞に対して抑制的に働いていることが示唆された。実際、Wntシグナルは陰窩底部に活性が高く、管腔側に低くなる勾配が認められる。一方、BMPシグナルはWntシグナルとは逆の勾配を示すことが知られている。
【0004】
また、腸管上皮細胞の長期培養は長らく不可能であった。これは、腸管上皮幹細胞の維持に必要な増殖因子が不明であったためと考えられる。近年、腸管上皮幹細胞を、細胞外マトリクス上に接着し、BMP阻害剤、分裂促進増殖因子及びWntアゴニストが添加された、動物又はヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の存在下で培養することにより、長期間の腸管上皮幹細胞維持に成功している(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5458112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の培養方法で用いられる細胞培養培地のうち、上皮増殖因子(Epidermal Growth Factor;EGF)の刺激により、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)の発現が低下することが問題であった。これに対し、p38阻害剤を添加することにより、EGFRの発現を維持することが可能であった。しかしながら、p38阻害剤を含む培地、培養方法では、分化抑制又は細胞死を引き起こすことがあり、一部のヒトの組織、腫瘍組織の培養が不可能であった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を、長期間培養することができるオルガノイド培養用細胞培養培地を提供する。
また、本発明は、無血清で作製可能なヒト培養オルガノイドを提供する。
また、本発明は、これまで不可能であった組織から作製されたヒト培養オルガノイドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、EGF及びp38阻害剤を実質的に含まずに、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を、長期間培養することができるオルガノイド培養用細胞培養培地の組成を見出した。
また、本発明者らは、低酸素下で、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を培養することで、オルガノイドを形成可能であることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係るオルガノイド培養用細胞培養培地は、インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも二種、及び下記i)~iii)の成分のうち少なくとも一種を含む。
i)Wntアゴニスト
ii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤
iii)形質転換増殖因子-β(transforming growth factor-β;TGF-β)阻害剤
【0010】
上記第1態様に係るオルガノイド培養用細胞培養培地は、EGF及びp38阻害剤を実質的に含まなくていもよい。
上記第1態様に係るオルガノイド培養用細胞培養培地は、IGF1及びFGF2を含んでもよい。
【0011】
前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質、R-スポンジン、及びGSK-3β阻害剤からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
前記Wntタンパク質がその安定化物質アファミンとの複合体を形成していてもよい。
前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質及びR-スポンジンであってもよい。
前記Wntタンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、及びWnt16からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項4~6のいずれか一項に記載のオルガノイド培養用細胞培養培地。
前記R-スポンジンが、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、及びR-スポンジン4からなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0012】
前記BMP阻害剤が、ノギン、グレムリン、コーディン、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質、フォリスタチン、フォリスタチンドメインを含むフォリスタチン関連タンパク質、DAN、DANシステインノットドメインを含むDAN様タンパク質、スクレロスチン/SOST、及びα-2マクログロブリンからなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
前記BMP阻害剤がノギンであってもよい。
【0013】
前記TGF-β阻害剤が、A83-01、SB-431542、SB-505124、SB-525334、 SD-208、LY-36494、及びSJN-2511からなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
前記TGF-β阻害剤が、A83-01であってもよい。
【0014】
本発明の第2態様に係る培養方法は、上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織の培養方法であって、細胞外マトリクスを調製する細胞外マトリクス調製工程と、前記細胞外マトリクス上に上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を接着させる接着工程と、前記接着工程後に、上記第1態様に係るオルガノイド培養用細胞培養培地を添加し、前記上皮幹細胞、前記上皮細胞、前記上皮腫瘍細胞、又は前記それら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を培養し、オルガノイドを形成させるオルガノイド形成工程と、を備える培養方法である。
前記オルガノイド形成工程において、酸素濃度15%~0.1%である低酸素下で、前記上皮幹細胞、前記上皮細胞、前記上皮腫瘍細胞、又は前記それら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織で培養し、オルガノイドを形成させてもよい。
【0015】
本発明の第3態様に係る分化した細胞を含むオルガノイドは、上記第2態様に係る培養方法により、得られる。
上記第3態様に係る分化した細胞を含むオルガノイドは、再生医療用であってもよい。
【0016】
本発明の第4態様に係る培養方法は、上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織の培養方法であって、細胞外マトリクスを調製する細胞外マトリクス調製工程と、前記細胞外マトリクス上に上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を接着させる接着工程と、前記接着工程後に、オルガノイド培養用細胞培養培地を添加し、酸素濃度15%~0.1%である低酸素下で前記上皮幹細胞、前記上皮細胞、前記上皮腫瘍細胞、又は前記それら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を培養し、オルガノイドを形成させるオルガノイド形成工程と、を備え、前記オルガノイド培養用細胞培養培地が、Wntアゴニスト、分裂促進増殖因子、BMP阻害剤、TGF-β阻害剤、及びp38阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む培養方法である。
【0017】
前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質、R-スポンジン、及びGSK-3β阻害剤からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
前記Wntタンパク質がその安定化物質アファミンとの複合体を形成していてもよい。
前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質及びR-スポンジンであってもよい。
前記Wntタンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、及びWnt16からなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
前記R-スポンジンが、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、及びR-スポンジン4からなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0018】
前記BMP阻害剤が、ノギン、グレムリン、コーディン、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質、フォリスタチン、フォリスタチンドメインを含むフォリスタチン関連タンパク質、DAN、DANシステインノットドメインを含むDAN様タンパク質、スクレロスチン/SOST、及びα-2マクログロブリンからなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
前記BMP阻害剤がノギンであってもよい。
【0019】
前記TGF-β阻害剤が、A83-01、SB-431542、SB-505124、SB-525334、SD-208、LY-36494、及びSJN-2511からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
前記TGF-β阻害剤が、A83-01であってもよい。
【0020】
本発明の第5態様に係る分化した細胞を含むオルガノイドは、上記第4態様に係る培養方法により、得られる。
上記第5態様に係る分化した細胞を含むオルガノイドは、再生医療用であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
上記態様のオルガノイド培養用細胞培養培地によれば、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。また、前記細胞及び前記組織のうち少なくともいずれか一方から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1における各培地中の初代培養(Passage0)の培養開始から7日目のヒト上皮腫瘍細胞の培養オルガノイドを示す画像である。ここで、WはWn-3A、 Nはノギン、RはR-スポンジン1、AはA83-01である。
図2】実施例1における各培地中の初代培養(Passage0)の培養開始から7日目のヒト上皮腫瘍細胞のオルガノイドがウェル中に占める面積を定量化したグラフである。略号は図1と同じ。
図3】実施例2における各酸素濃度での初代培養(Passage0)の培養開始から7日目のヒト上皮腫瘍細胞の培養オルガノイドを示す画像である。
図4】55種類の大腸腫瘍から樹立したオルガノイドの最適培養条件を示す図である。
図5A】実施例3における各培地中の初代培養(Passage0)の培養開始から7日目のヒト腸管幹細胞の培養オルガノイドを示す画像である。
図5B】実施例3における各培地中の初代培養(Passage0)の培養開始から7日目のヒト腸管幹細胞のオルガノイドがウェル中に占める面積を定量化したグラフである。
図6】実施例4における各培地中の3回目の継代(Passage3)の培養開始から6日後(合計培養日数26日後)、4回目の継代(Passage4)の培養開始からの6日後(合計培養日数33日後)、及び6回目の継代(Passage6)の培養開始からの6日後(合計培養日数47日後)のヒト上皮腫瘍細胞のオルガノイドを示す画像である。
図7】本実施形態における異なる組成のオルガノイド培養用細胞培養培地でのオルガノイドの形成効率を評価した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<<オルガノイド培養用細胞培養培地>>
本発明の第1実施形態に係るオルガノイド培養用細胞培養培地は、IGF1、FGF2、及びEREGからなる群から選ばれる少なくとも二種、及び下記i)~iii)の成分のうち少なくとも一種を含む。
i)Wntアゴニスト
ii)BMP阻害剤
iii)TGF-β阻害剤
【0024】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地によれば、EGF及びp38阻害剤を実質的に含まず、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。
また、本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地によれば、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
また、本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地を用いて培養された上皮幹細胞は、長期間分化能を維持することができ、腫瘍発生頻度が極めて低い。
【0025】
本明細書において、上皮細胞とは上皮組織から取得した分化した上皮細胞及び上皮幹細胞を含む。「上皮幹細胞」とは、長期間の自己複製機能と上皮分化細胞への分化能をもつ細胞を意味し、上皮組織に由来する幹細胞を意味する。上皮組織としては、例えば、角膜、口腔粘膜、皮膚、結膜、膀胱、尿細管、腎臓、消化器官(食道、胃、十二指腸、小腸(空腸及び回腸を含む)、大腸(結腸を含む))、肝臓、膵臓、乳腺、唾液腺、涙腺、前立腺、毛根、気管、肺等を挙げられる。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、中でも、消化器官(食道、胃、十二指腸、小腸(空腸及び回腸を含む)、大腸(結腸を含む))、肝臓、膵臓に由来する上皮細胞の培養に用いられることが好ましい。
また、本明細書において、「上皮腫瘍細胞」とは、上述の上皮組織由来の細胞が腫瘍化したものを意味する。
【0026】
本明細書において、「オルガノイド」とは、細胞を制御した空間内に高密度に集積させることにより自己組織化した立体的な細胞組織体を意味する。
【0027】
本明細書において、「実質的に含まない」とは、特定成分を全く含まない、若しくは特定成分が有する機能を発揮しない程度の濃度しか含まないことを意味する。
よって、「EGF及びp38阻害剤を実質的に含まない」とは、EGF及びp38阻害剤を全く含まない、又はEGFによるEGFRの発現抑制、及びp38阻害剤による分化抑制及び細胞死が起きない程度の濃度しか含まないことを意味する。
【0028】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、IGF1、FGF2、及びエピレグリンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、前記3種類の因子のいずれを含有するかは培養する細胞又は組織の種類等に応じて適宜選択することができる。中でも、本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、IGF1及びエピレグリン、FGF2及びエピレグリン、IGF1及びFGF2を含むことが好ましく、IGF1及びFGF2を含むことがより好ましい。上記因子を含むことにより、EGF及びp38阻害剤を実質的に含まずとも、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。また、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地の構成成分について、以下に詳細を説明する。
【0029】
<細胞培養基本培地>
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地には、あらゆる無血清の細胞培養基本培地が含まれる。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、動物細胞用又はヒト細胞用であることが好ましい。
係る無血清の細胞培養基本培地としては、例えば、炭酸系の緩衝液でpH7.2以上pH7.6以下に緩衝化されている規定の合成培地等が挙げられる。より具体的には、グルタミン、インスリン、B27 supplement(Thermo Fisher)、N-Acetyl-L-cystein(和光純薬)、ペニシリン又はストレプトマイシン、及びトランスフェリンが補充されたアドバンスト-ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF-12混合培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12;DMEM/F12)が挙げられる。
また、アドバンスト-ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF-12混合培地に替えてRPMI1640培地(Roswell Park Memorial Institute 1640 medium)、DMEM/F12、並びに、アドバンストRPMI培地等も挙げられる。
上記本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum(FBS)又はfetal calf serum)等の不確定な成分を実質的に含まない。
また、上記オルガノイド培養用細胞培養培地に5%血清を含んでもよい。
【0030】
<Wntアゴニスト>
本明細書において、「Wntアゴニスト」とは、細胞内でT-cell factor(以下、TCFともいう。)/lymphoid enhancer factor(以下、LEFともいう。)介在性の転写を活性化する薬剤を意味する。よって、Wntアゴニストは、Wntファミリータンパク質に限定されず、Frizzled受容体ファミリーメンバーに結合して活性化するWntアゴニスト、細胞内β-カテニン分解の阻害剤、及びTCF/LEFの活性化物質を包含する。Wntアゴニストは、Wntタンパク質、R-スポンジン、及びGSK-3β阻害剤からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
Wntアゴニストは、該Wntアゴニストの非存在下でのWnt活性のレベルと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%、細胞においてWnt活性を刺激する。Wnt活性は、当業者にとって公知の方法を用いて、例えばpTOPFLASH及びpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、Wntの転写活性を測定することにより調べることができる(参考文献:Korinek et al.,1997.Science 275:1784-1787)。
【0031】
上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織の培養においては、Wntアゴニストが含まれることが好ましい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるWntアゴニストとしては、Wntタンパク質とアファミンとの複合体が含まれることがより好ましく、Wntタンパク質とアファミンとの複合体及びR-スポンジン(R-spondin)の両方が含まれることが更に好ましい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地において、Wntタンパク質とアファミンとの複合体及びR-スポンジンを含むことで、上皮幹細胞又は上皮細胞は、オルガノイドをより高効率で形成することができる。
【0032】
[Wntタンパク質]
Wntアゴニストの一種であるWntタンパク質としては、由来は特に限定されず、各種生物由来のWntタンパク質を用いることができる。中でも、哺乳動物由来のWntタンパク質であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ウサギ等が挙げられる。哺乳動物のWntタンパク質としては、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16等が挙げられる。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地において、Wntタンパク質は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
Wntタンパク質を製造する方法としては、例えば、Wntタンパク質発現細胞を用いて製造する方法等が挙げられる。Wntタンパク質発現細胞において、細胞の由来(生物種、培養形態等)は特に限定されず、Wntタンパク質を安定発現する細胞であればよく、Wntタンパク質を一過性に発現する細胞でもよい。Wntタンパク質発現細胞としては、例えば、マウスWnt3aを安定発現するL細胞(ATCC CRL-2647)、マウスWnt5aを安定発現するL細胞(ATCC CRL-2814)等が挙げられる。また、Wntタンパク質発現細胞は、公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができる。すなわち、所望のWntタンパク質をコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入することにより、Wntタンパク質発現細胞を作製することができる。所望のWntタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、GenBank等の公知のデータベースから取得することができる。
【0034】
Wntタンパク質発現細胞により発現されるWntタンパク質は、Wnt活性を有する限り、Wntタンパク質のフラグメントでもよく、Wntタンパク質のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含むものでもよい。Wntタンパク質のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列について、特に限定はなく、例えばアフィニティータグのアミノ酸配列等が挙げられる。また、Wntタンパク質のアミノ酸配列は、GenBank等の公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列と完全に一致している必要はなく、Wnt活性を有する限り、公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列であってもよい。
【0035】
GenBank等の公知のデータベースから取得できるWntタンパク質のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列等が挙げられる。
「1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法等により、欠失、置換若しくは付加できる程度の数(10個以下が好ましく、7個以下がより好ましく、6個以下がさらに好ましい。)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていることを意味する。
また、実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列との同一性が、少なくとも80%以上であり、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、さらに好ましくは少なくとも92%以上、特に好ましくは少なくとも95%以上、最も好ましくは少なくとも99%以上であるアミノ酸配列等が挙げられる。
【0036】
Wntタンパク質の活性は、例えば、TCFレポーターアッセイにより確認することができる。一般的に、TCFレポーターアッセイとは、Wntシグナルが細胞に入ると特異的に活性化される転写因子であるT-cell factor(TCF)の結合配列を持つルシフェラーゼ遺伝子を導入し、Wntタンパク質の活性の強さをルシフェラーゼの発光によって、簡便に評価する方法である(参考文献:Molenaar et al., Cell, 86, 391, 1996.)。TCFレポーターアッセイ以外の方法としては、Wntシグナルが入ると細胞内のβカテニンが安定化することを利用して、βカテニンの量をウエスタンブロッティグによって定量評価する方法(参考文献:Shibamoto et al., Gene to cells, 3, 659, 1998.)等が挙げられる。また、Wnt5a等のように、non-canonical pathwayを介して細胞にシグナルを与えるWntタンパク質については、細胞内アダプタータンパク質であるDvl2のリン酸化を評価することでWntタンパク質の活性を評価する方法(参考文献:Kikuchi et al., EMBO J., 29, 3470, 2010.)等を用いることができる。
【0037】
[R-スポンジン(R-spondin)]
Wntアゴニストの一種であるR-スポンジンとしては、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、及びR-スポンジン4からなるR-スポンジンファミリーが挙げられる。R-スポンジンファミリーは、分泌タンパク質であり、Wntシグナル伝達経路の活性化及び制御に関わることが知られている。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地において、R-スポンジンを複数種組み合わせて用いてもよい。
R-スポンジン活性を有する限り、R-スポンジンのフラグメントでもよく、R-スポンジンのアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含むものでもよい。
【0038】
[含有量]
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるWntタンパク質の濃度は、50ng/mL以上であることが好ましく、100ng/mL以上10μg/mL以下であることがより好ましく、200ng/mL以上1μg/mL以下であることがさらに好ましく、300ng/mL以上1μg/mL以下であることが特に好ましい。上皮幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとにWntアゴニストを培養培地に添加し、好ましくは4日ごとにオルガノイド培養用細胞培養培地を新鮮なものに交換する。
【0039】
[GSK-3β阻害剤]
公知のGSK-3β阻害剤は、CHIR-99021、 CHIR-98014(Sigma-Aldrich) リチウム(Sigma)、ケンパウロン(Biomol International, Leost, M. et al.(2000) Eur J Biochem 267, 5983-5994)、6-ブロモインジルビン-30-アセトキシム(Meyer, L et al .(2003) Chem. Biol. 10, 1255-1266)、SB 216763およびSB 415286(Sigma-Aldrich)、並びにGSK-3とaxinとの相互作用を阻止するFRATファミリーメンバー及びFRAT由来ペプチドを含む。概説は、参照により本明細書に組み入れられる、Meijer et al .(2004) Trends in Pharmacological Sciences 25, 471-480に示されている。GSK-3β阻害のレベルを決定するための方法およびアッセイは当業者に公知であり、例えば、Liao et al.(2004),Endocrinology, 145(6) 2941-2949に記載の方法およびアッセイを含む。
【0040】
<アファミン>
本明細書において、「アファミン」とは、アルブミンファミリーに属する糖タンパク質を意味し、血液又は体液中に存在することが知られている。細胞培養に用いる培地に通常添加される血清には、当該血清を採取した動物由来のアファミンが含まれている。血清中にはアファミン以外の不純物等を含むため、本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地においては、血清を用いずに、アファミンを単独で使用することが好ましい。
【0041】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるアファミンは、由来は特に限定されず、各種生物由来のアファミンを用いることができる。中でも、哺乳動物由来のアファミンであることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、上述の[Wntタンパク質]と同様のものが挙げられる。主な哺乳動物のアファミンのアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、GenBank等の公知のデータベースから取得することができる。例えば、GenBankにおいて、ヒトアファミンのアミノ酸配列はAAA21612、これをコードする遺伝子の塩基配列はL32140のアクセッション番号で登録されており、ウシアファミンのアミノ酸配列はDAA28569、これをコードする遺伝子の塩基配列はGJ060968のアクセッション番号で登録されている。
【0042】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるアファミンは、血清等に含まれる天然のアファミンを公知の方法で精製したものでもよく、組換えアファミンであってもよい。組換えアファミンは、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより製造することができる。組換えアファミンの製造方法としては、例えば、アファミンをコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入して組換えアファミンを発現させ、公知の精製方法を用いて精製することにより製造することができる。組換えアファミンは、アフィニティータグを付加したアファミンであってもよい。付加するアフィニティータグは特に限定されず、公知のアフィニティータグから適宜選択して用いることができる。アフィニティータグとしては、特異的抗体により認識されるアフィニティータグであることが好ましく、例えば、FLAGタブ、MYCタグ、HAタグ、V5タグ等が挙げられる。
【0043】
上述のWntタンパク質は、特定のセリン残基が脂肪酸(パルミトレイン酸)で修飾されているため、強い疎水性を有する。そのため、Wntタンパク質は、水溶液中では凝集又は変性しやすいため、精製及び保存が非常に難しいことが広く知られている。
一方、この特定のセリン残基の脂肪酸による修飾は、Wntタンパク質の生理活性に必須であり、Frizzled受容体ファミリーメンバーとの結合に関与することが報告されている。
また、水溶液中において、Wntタンパク質がアファミンと1対1で結合し複合体を形成し、高い生理活性を保ちながら、可溶化する知見もある(Active and water-soluble form of lipidated Wnt protein is maintained by A serum glycoprotein afamin/α-albumin. Mihara E, Hirai H, Yamamoto H, Tamura-Kawakami K, Matano M, Kikuchi A, Sato T, Takagi J. Elife. 2016 Feb 23;5.)。
係る知見に基づき、Wntタンパク質及びアファミンの両方を発現する細胞を培養する方法により、Wntタンパク質-アファミン複合体を製造してもよく、Wntタンパク質発現細胞とアファミン発現細胞を共培養する方法により、Wntタンパク質-アファミン複合体を製造してもよい。Wntタンパク質-アファミン複合体中のWntタンパク質の活性は、上述の[Wntタンパク質]と同様の方法を用いて、評価することができる。
【0044】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるアファミンの濃度は、特に限定されないが、50ng/mL以上10μg/mL以下であることが好ましく、100ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、300μg/mL以上1μg/mL以下であることがさらに好ましい。
【0045】
<インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factor1;IGF1)>
一般的に、「インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factor1;IGF1)」は、別名ソマトメジンCとも呼ばれ、主に、肝臓で成長ホルモン(GH)による刺激により分泌される因子である。人体の殆どの細胞(特に、筋肉、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚及び肺等の細胞)は、IGF1の影響を受けることが知られている。IGF1は、インスリン様効果に加え、細胞成長(特に、神経細胞)及び発達、並びに、細胞DNA合成を調節する機能を有する。
【0046】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるIGF1の濃度は、特に限定されないが、5ng/mL以上1μg/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上500ng/mL以下であることがさらに好ましい。
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるIGF1の濃度が上記範囲であることにより、実質的にEGF及びp38阻害剤を含まずとも、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。
また、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
また、幹細胞の培養中、2日ごとにIGF1を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0047】
<線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)>
一般的に、「線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)とは、塩基性の線維芽細胞増殖因子であって、線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor;FGFR)と結合し、血管内皮細胞の増殖促進と筒状構造への組織化、すなわち血管新生を促進する機能を有する。また、ヒトFGF2は低分子量型(LWL)と高分子量型(HWL)の2つのアイソフォームを持つことが知られている。LWLは主に細胞質に存在し、自己分泌(オートクリン)で作用し、一方、HWLは核内にあり、細胞内で作用するイントラクリン機構で活性を示す。
【0048】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるFGF2の濃度は、特に限定されないが、5ng/mL以上1μg/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上500ng/mL以下であることがさらに好ましい。
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるFGF2の濃度が上記範囲であることにより、実質的にEGF及びp38阻害剤を含まずとも、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。
また、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
また、幹細胞の培養中、2日ごとにFGF2を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0049】
<エピレグリン(Epiregulin;EREG)>
一般的に、「エピレグリン(Epiregulin;EREG)とは、チロシンキナーゼ(ErbB)ファミリー受容体(ErbB1~4)のうち、ErbB1及びErbB4に特異的に結合するEGF様成長因子である。ケラチン生成細胞、肝細胞、繊維芽細胞、及び血管内皮細胞の増殖を刺激することが知られている。また、EREGは、主に膀胱、肺、腎臓、大腸等のガン腫瘍、胎盤、及び末梢血白血球において発現している。
【0050】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるEREGの濃度は、特に限定されないが、5ng/mL以上1μg/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上500ng/mL以下であることがさらに好ましい。
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるEREGの濃度が上記範囲であることにより、EGF及びp38阻害剤を実質的に含まずとも、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。
また、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
また、幹細胞の培養中、2日ごとにEREGを培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0051】
<BMP阻害剤>
骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)は、二量体リガンドとして二種類の異なる受容体セリン/スレオニンキナーゼ、I型及びII型受容体からなる受容体複合体に結合する。II型受容体はI型受容体をリン酸化し、その結果、この受容体キナーゼが活性化される。このI型受容体は、続いて特異的な受容体基質(SMAD)をリン酸化し、その結果、シグナル伝達経路によって転写活性が導かれる。一般的に、BMP阻害剤は、例えば、BMP受容体へのBMP分子の結合を阻止又は阻害するものであって、BMP活性を中和する複合体を形成するためにBMP分子に結合する薬剤である。また、BMP阻害剤は、例えば、BMP受容体と結合し、BMP分子の受容体への結合を阻止又は阻害するものであって、アンタゴニスト又は逆アゴニストとして作用する薬剤である。
【0052】
BMP阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのBMP活性レベルと比較して、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは、90%以上の阻害活性を有する。BMP阻害活性は、当業者にとって公知の方法(参考文献:Zilberberg et al., BMC Cell Biol, 8:41, 2007.)を用いて、BMPの転写活性を測定することによって、評価することができる。
【0053】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるBMP阻害剤としては、天然のBMP結合タンパク質であることが好ましく、例えば、ノギン(Noggin)、グレムリン、コーディン(Chordin)、コーディンドメイン等のコーディン様タンパク質;ホリスタチン(Follistatin)、ホリスタチンドメイン等のホリスタチン関連タンパク質;DAN、DANシステイン-ノットドメイン等のDAN様タンパク質;スクレロスチン/SOST、デコリン、α-2マクログロブリン等が挙げられる。
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるBMP阻害剤としては、中でも、コーディン様タンパク質又はDAN様タンパク質が好ましく、コーディン様タンパク質がより好ましい。コーディン様タンパク質としては、ノギンが好ましい。コーディン様タンパク質やDAN様タンパク質は拡散性タンパク質であり、様々な親和度でBMP分子に結合し、シグナル伝達受容体へのBMP分子の接近を阻害することができる。上皮幹細胞を培養する場合において、これらのBMP阻害剤をオルガノイド培養用細胞培養培地に添加することにより、幹細胞の喪失を妨げることができる。
【0054】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるBMP阻害剤の濃度は、10ng/mL以上100ng/mL以下であることが好ましく、20ng/mL以上100ng/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上100ng/mL以下であることがさらに好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとにBMP阻害剤を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0055】
<TGF-β阻害剤>
形質転換増殖因子-β(transforming growth factor-β;TGF-β)は、増殖因子の一種であり、腎臓、骨髄、血小板等ほぼすべての細胞で産生される。TGF-βには、5種類のサブタイプ(β1~β5)が存在する。また、TGF-βは、骨芽細胞の増殖、並びに、コラーゲンのような結合組織の合成及び増殖を促進し、上皮細胞の増殖や破骨細胞に対しては抑制的に作用することが知られている。一般的に、TGF-β阻害剤は、例えば、TGF-β受容体へのTGF-βの結合を阻止又は阻害するものであって、TGF-β活性を中和する複合体を形成するためにTGF-βに結合する薬剤である。また、TGF-β阻害剤は、例えば、TGF-β受容体と結合し、TGF-βの受容体への結合を阻止又は阻害するものであって、アンタゴニスト又は逆アゴニストとして作用する薬剤である。
【0056】
TGF-β阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのTGF-β活性レベルと比較して、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは、90%以上の阻害活性を有する。TGF-β阻害活性は、当業者にとって公知の方法で評価することができる。係る評価系としては、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を動かすヒトPAI-1プロモーター又はSmad結合部位を含むレポーター構築物を用いて細胞が安定にトランスフェクトされている細胞アッセイが挙げられる(参考文献:De Gouville et al., Br J Pharmacol, 145(2):166-177, 2005.)。
【0057】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるTGF-β阻害剤としては、例えば、A83-01(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1-フェニルチオカルバモイル-4-キノリン-4-イルピラゾール)、ALK5 Inhibitor I(3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)-1H-ピラゾール)、LDN193189(4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン)、SB431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-ピリジン‐2‐イル-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩水和物)、SD-208(2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル)ピリジン-4-イル-アミン)、SB-525334(6-[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン)、LY-364947(4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン)、LY2157299(4-[2-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル]-キノリン-6-カルボン酸アミド)、TGF-β RI Kinase Inhibitor II 616452(2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン)、TGF-β RI Kinase Inhibitor III 616453(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン, HCl)、TGF-β RI Kinase Inhibitor IX 616463(4-((4-((2,6-ジメチルピリジン-3-イル)オキシ)ピリジン-2-イル)アミノ)ベンゼンスルホンアミド)、TGF-β RI Kinase Inhibitor VII 616458(1-(2-((6,7-ジメトキシ-4-キノリル)オキシ)-(4,5-ジメチルフェニル)-1-エタノン)、TGF-β RI Kinase Inhibitor VIII 616459(6-(2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル)-キノキサリン)、AP12009(TGF-β2アンチセンス化合物“Trabedersen”)、Belagenpumatucel-L(TGF-β2アンチセンス遺伝子修飾同種異系腫瘍細胞ワクチン)、CAT-152(Glaucoma-lerdelimumab(抗-TGF-β-2モノクローナル抗体))、CAT-192(Metelimumab(TGFβ1を中和するヒトIgG4モノクローナル抗体)、GC-1008(抗-TGF-βモノクローナル抗体)等が挙げられる。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるTGF-β阻害剤としては、中でも、A83-01が好ましい。
【0058】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるTGF-β阻害剤の濃度は、100nM以上10μM以下であることが好ましく、500nM以上5μM以下であることがより好ましく、500nM以上2μM以下であることがさらに好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとにTGF-β阻害剤を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0059】
<その他成分>
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、Rock(Rho-キナーゼ)阻害剤を含んでいてもよい。Rock阻害剤としては、例えば、Y-27632((R)-(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩一水和物)、ファスジル(HA1077)(5-(1,4-ジアゼパン-1-イルスルホニル)イソキノリン)、H-1152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン二塩酸塩)等が挙げられる。Rock阻害剤として、Y-27632を用いる場合は、単細胞に分散された幹細胞の培養の最初の2日間に添加することが好ましい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるY-27632は、10μMであることが好ましい。
【0060】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、ガストリン(又はLeu15-ガストリン等の適切な代替物)が添加される。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるガストリン(又は適切な代替物)濃度は、例えば1ng/mL以上10μg/mLであってよく、例えば1ng/mL以上1μg/mL以下であってよく、例えば5ng/mL以上100ng/mL以下であってよい。
【0061】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種のアミノ酸を含んでもよい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるアミノ酸としては、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、及びその組み合わせ等が挙げられる。一般的に、細胞培養培地に含まれるL-グルタミンの濃度は0.05g/L以上1g/L以下(通常、0.1g/L以上0.75g/L以下)である。また、細胞培養培地に含まれるその他のアミノ酸は、0.001g/L以上1g/L(通常、0.01g/L以上0.15g/L以下)である。アミノ酸は合成由来でもよい。
【0062】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種のビタミンを含んでいてもよい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるビタミンとしては、例えば、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、D-パントテン酸カルシウム(ビタミンB5)、ピリドキサール/ピリドキサミン/ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カルシフェロール(ビタミンD2)、DL-αトコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)、メナジオン(ビタミンK)等が挙げられる。
【0063】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の無機塩を含んでいてもよい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれる無機塩は、細胞の浸透圧平衡の維持を助けるために、および膜電位の調節を助けるためのものである。無機塩の具体例としては、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛の塩が挙げられる。塩は、通常、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、及び重炭酸塩の形で用いられる。さらに具体的な塩には、CaCl、CuSO-5HO、Fe(NO)-9HO、FeSO-7HO、MgCl、MgSO、KCl、NaHCO、NaCl、NaHPO、NaHPO-HO、ZnSO-7HO等が挙げられる。
【0064】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の炭素エネルギー源となり得る糖を含んでいてもよい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれる糖としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、フルクトース等が挙げられる。中でも、糖としては、グルコースが好ましく、D-グルコース(デキストロース)が特に好ましい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれる糖の濃度は、1g/L以上10g/Lであることが好ましい。
【0065】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の微量元素を含んでいてもよい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれる微量元素としては、例えば、バリウム、ブロミウム、コバルト、ヨウ素、マンガン、クロム、銅、ニッケル、セレン、バナジウム、チタン、ゲルマニウム、モリブデン、ケイ素、鉄、フッ素、銀、ルビジウム、スズ、ジルコニウム、カドミウム、亜鉛、アルミニウム又はこれらのイオン等が挙げられる。
【0066】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の付加的な薬剤を含んでいてもよい。係る薬剤としては、幹細胞培養を改善することが報告されている栄養素又は増殖因子、例えば、コレステロール/トランスフェリン/アルブミン/インシュリン/プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸塩/他の因子等が挙げられる。
【0067】
<<上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞又はそれら細胞を含む組織を培養するための方法>>
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る培養方法は、上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織の培養方法であって、細胞外マトリクスを調製する細胞外マトリクス調製工程と、前記細胞外マトリクス上に上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれらの細胞を含む組織を接着させる接着工程と、前記接着工程後に、上述のオルガノイド培養用細胞培養培地を添加し、前記上皮幹細胞、前記上皮細胞、前記上皮腫瘍細胞、又は前記それらの細胞を含む組織を培養し、オルガノイドを形成させるオルガノイド形成工程と、を備える培養方法である。
【0068】
本実施形態の培養方法によれば、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。また、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
本実施形態の培養方法における各工程について、以下に詳細に説明する。
【0069】
[細胞外マトリクス調製工程]
一般的に、「細胞外マトリクス(Extracellular Matrix;ECM)」とは、生物において細胞の外に存在する超分子構造を意味する。このECMは、上皮幹細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれらを含む組織が増殖するための足場となる。
ECMは、様々な多糖、水、エラスチン、及び糖タンパク質を含む。糖タンパク質としては、例えば、コラーゲン、エンタクチン(ナイドジェン)、フィブロネクチン、ラミニン等が挙げられる。
【0070】
ECMの調製方法としては、例えば、結合組織細胞を用いる方法等が挙げられる。より具体的には、ECM産生細胞、例えば、線維芽細胞を培養した後に、これらの細胞を取り出し、上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれらを含む組織を添加することによって、ECMを足場として用いることができる。
【0071】
ECM産生細胞としては、例えば、主にコラーゲン及びプロテオグリカンを産生する軟骨細胞、主にIV型コラーゲン、ラミニン、間質プロコラーゲン、及びフィブロネクチンを産生する線維芽細胞、主にコラーゲン(I型、III型、及びV型)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、及びテネイシン-Cを産生する結腸筋線維芽細胞等が挙げられる。または、市販のECMを用いてもよい。市販のECMとしては、例えば、細胞外マトリクスタンパク質(Invitrogen社製)、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞に由来する基底膜調製物(例えば、Matrigel(商標)(BD Biosciences社製))等挙げられる。ProNectin(SigmaZ378666)等の合成ECMを用いてもよい。また、天然ECM及び合成ECMの混合物を用いてもよい。
【0072】
幹細胞を培養するためにECMを使用する場合、幹細胞の長期生存及び未分化幹細胞の継続的存在を強化することができる。ECMの非存在下では、幹細胞培養物を長期間にわたって培養することができず、未分化幹細胞の継続的存在は観察されない。さらに、ECMが存在すると、ECMの非存在下では培養することができないオルガノイドを培養することができる。
【0073】
ECMは、通常、細胞が懸濁されたディッシュの底に沈んでいる。例えば、ECMが37℃で凝固するときに、上述のオルガノイド培養用細胞培養培地を加えて、ECMの中に拡散させて用いてもよい。培地中の細胞は、ECMの表面構造と相互作用することによって、例えば、インテグリンと相互作用することによってECMに固着することができる。
【0074】
ECMは培養容器等にコーティングして用いてもよい。ECMとして、フィブロネクチンを用いる場合、培養容器中にコーティングされる割合は、1μg/cm以上250μg/cm以下であることが好ましく、1μg/cm以上150μg/cm以下であることがより好ましく、8μg/cm以上125μg/cm以下であることがさらに好ましい。
【0075】
[接着工程]
続いて、上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を準備する。本実施形態の培養法において用いられる、上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞は上述の<<オルガノイド培養用細胞培養培地>>と同様のものが挙げられる。
【0076】
上皮組織から上皮細胞を単離する方法としては、当技術分野において公知の方法が挙げられる。例えば、キレート剤と単離組織とを恒温放置することによって、陰窩を単離することができる。この組織を洗浄した後、硝子スライドで上皮細胞層を粘膜下層から剥離し、細切する。この後、トリプシン又は、好ましくはEDTA及びEGTAのうち少なくともいずれか一方を含む液中で恒温放置し、例えば、ろ過及び遠心機の少なくともいずれか一方を用いて、未消化の組織断片と陰窩由来の単一細胞とを分離する。トリプシンの代わりに、その他のタンパク質分解酵素、例えばコラゲナーゼ及びディスパーゼIのうち少なくともいずれか一方を使用してもよい。膵臓及び胃の断片を単離するために同様の方法が使用される。
【0077】
上皮組織から幹細胞を単離する方法として、当技術分野において公知の方法が挙げられる。幹細胞は、その表面上でLgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方(Lgr5及びLgr6は大型のGタンパク質共役受容体(GPCR)スーパーファミリーに属する)を発現する。単離方法としては、上皮組織から細胞縣濁液を調製し、この細胞縣濁液を、Lgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方と結合する化学物質に接触させ、このLgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方と結合する化学物質を分離し、この結合化合物から幹細胞を単離する方法挙げられる。
【0078】
Lgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方と結合する化学物質としては、例えば、抗体、より具体的には、例えばLgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方を特異的に認識し、それに結合するモノクローナル抗体(例えば、マウス及びラットモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体等)が挙げられる。このような抗体を用いて、例えば磁性ビーズを活用して、又は蛍光活性化細胞ソーターを通じて、Lgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方を発現している幹細胞を単離することができる。
【0079】
上述の方法により単離された上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を、前記調製工程で得られた細胞マトリクス上に播種し、静置する。播種された細胞は、ECMの表面構造と相互作用することによって、例えば、インテグリンと相互作用することによってECMに接着することができる。
【0080】
[オルガノイド形成工程]
続いて、細胞播種後、細胞が乾かないうちに、上述のオルガノイド培養用細胞培養培地を添加し、培養する。培養温度は30℃以上40℃以下が好ましく、37℃程度がより好ましい。培養時間は用いる細胞によって適宜調整することができる。培養開始からから1~2週間程度後で、オルガノイドを形成させることができる。また、従来では2~3ヶ月しか細胞維持培養することができなかった細胞に対し、本実施形態の培養方法では、3ヶ月以上の長期間(好ましくは、10ヶ月程度)においても、細胞を維持培養することができる。本実施形態の培養方法を用いて、上皮幹細胞を培養した場合は、分化能を維持でき、腫瘍発生頻度を極めて低い状態に抑えることができる。
【0081】
また、オルガノイド形成工程において、低酸素下で培養を行ってもよい。低酸素下で培養を行うことにより、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
本実施形態における低酸素下とは、酸素濃度が、0.1%以上15%以下であることが好ましく、0.3%以上10%以下であることがより好ましく、0.5%以上5%以下であることがさらに好ましい。
【0082】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る培養方法は、上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織の培養方法であって、細胞外マトリクスを調製する細胞外マトリクス調製工程と、前記細胞外マトリクス上に上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を接着させる接着工程と、前記接着工程後に、オルガノイド培養用細胞培養培地を添加し、低酸素下で前記上皮幹細胞、前記上皮細胞、前記上皮腫瘍細胞又は前記それら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を培養し、オルガノイドを形成させるオルガノイド形成工程と、を備え、前記オルガノイド培養用細胞培養培地が、Wntタンパク質及びR-スポンジン(R-spondin)からなるWntアゴニスト、分裂促進増殖因子、骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、形質転換増殖因子-β(transforming growth factor-β;TGF-β)阻害剤、及びp38阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み酸素濃度が、0.1%以上15%以下であることが好ましく、0.3%以上10%以下であることがより好ましく、0.5%以上5%以下で培養する培養方法である。
【0083】
本実施形態の培養方法によれば、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。また、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【0084】
本実施形態の培養方法について、各工程については、上述の第一実施形態と同様である。
また、本実施形態の培養方法において使用するオルガノイド培養用細胞培養培地は、Wntタンパク質及びR-スポンジン(R-spondin)からなるWntアゴニスト、分裂促進増殖因子、BMP阻害剤、TGF-β阻害剤、及びp38阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
また、本実施形態の培養方法において、低酸素下及び正常酸素下(酸素濃度20%程度)にて、組成が異なる数種類のオルガノイド培養用細胞培養培地を準備し培養することにより、培養する細胞又は組織の種類に応じて、複数の条件の中から適した条件を選択することができ、高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【0085】
Wntアゴニスト、BMP阻害剤、及びTGF-β阻害剤については、上述の<<オルガノイド培養用細胞培養培地>>にて例示されたものと同様のものが挙げられる。また、使用するWntタンパク質は、アファミンとの複合体を形成していることが好ましい。本実施形態の培養方法において、Wntタンパク質とアファミンとの複合体及びR-スポンジンからなるWntアゴニストを含むオルガノイド培養用細胞培養培地を用いることで、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
また、本実施形態の培養方法において使用するオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるその他の構成成分について、詳細を以下に説明する。
【0086】
(分裂促進増殖因子)
本実施形態の培養方法において使用するオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれる分裂促進増殖因子としては、例えば、上皮増殖因子(Epidermal Growth Factor;EGF)、形質転換増殖因子-α(Transforming Growth Factor-α;TGF-α)、脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor;BDNF)、ケラチン生成細胞増殖因子(keratinocyte growth factor;KGF)等の増殖因子のファミリーが挙げられる。これらの分裂促進増殖因子は複数種類を組み合わせて用いてもよい。
EGFは、様々な培養外胚葉性細胞及び中胚葉性細胞に対する強力な分裂促進因子であり、一部の繊維芽細胞の、特異的細胞の分化に顕著な影響を有する。EGF前駆体は、タンパク質分解により切断されて、細胞を刺激する53-アミノ酸ペプチドホルモンを生成させる、膜結合分子として存在する。
前記オルガノイド培養用細胞培養培地に含まれる分裂促進増殖因子としては、中でも、EGFが好ましい。本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるEGFの濃度は、5ng/mL以上500ng/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上400ng/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以200ng/mL以下であることがさらに好ましい。
また、前記オルガノイド培養用細胞培養培地にKGFを含む場合においても、KGFと同様の含有量であることが好ましい。複数のKGF、例えばKGF1及びKGF2(FGF7及びFGF10としても知られている。)を使用する場合は、KGFの総含有量が上記範囲であることが好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとに分裂促進増殖因子を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0087】
(p38阻害剤)
本明細書において、「p38阻害剤」は、p38シグナル伝達を直接的又は間接的に負に調節する任意の阻害剤を意味する。一般的に、p38阻害剤は、例えば、p38に結合し、且つその活性を低減する。p38プロテインキナーゼは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)ファミリーの一部である。MAPKは、環境ストレス及び炎症サイトカイン等の細胞外刺激に応答し、遺伝子発現、有糸分裂、分化、増殖、及び細胞生存/アポトーシス等の様々な細胞活性を調節するセリン/スレオニン特異的プロテインキナーゼである。p38 MAPKは、α、β、β2、γ、及びδアイソフォームとして存在する。また、p38阻害剤は、例えば、少なくとも1つのp38アイソフォームに結合し、且つその活性を低減する薬剤でもある。
【0088】
p38阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのp38活性レベルと比較して、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは、90%以上の阻害活性を有する。p38阻害剤による阻害効果は、当業者にとって公知の方法で評価することできる。係る評価系としては、Thr180/Tyr182リン酸化のリン酸化部位特異的抗体検出方法、生化学的組換えキナーゼアッセイ、腫瘍壊死因子α(TNF-α)分泌アッセイ、p38阻害剤用のDiscoverRxハイスループットスクリーニングプラットフォーム、p38活性アッセイキット (例えば、Millipore社製, Sigma-Aldrich社製等)等が挙げられる。
【0089】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるp38阻害剤としては、例えば、SB-202190(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、SB-203580(4-[4-(4-フルオロフェニル)-2-[4-(メチルスルフィニル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン)、VX-702(6-(N-カルバモイル-2,6-ジフルオロアニリノ)-2-(2,4-ジフルオロフェニル)ピリジン-3-カルボキシアミド)、VX-745(5-(2,6-ジクロロフェニル)-2-[2,4-ジフルオロフェニル)チオ]-6H-ピリミド[1,6-b]ピリダジン-6-ワン)、PD-169316(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ニトロフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、RO-4402257(6-(2,4-ジフルオロフェノキシ)-2-{[3-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)プロピル]アミノ}-8-メチルピリド[2,3-D]ピリミジン-7(8h)-ワン)、BIRB-796(1-[5-tert-ブチル-2-(4-メチルフェニル)ピラゾール-3-イル]-3-[4-(2-モルフォリン-4-イレトキシ)ナフタレン-1-イル]ウレア)等が挙げられる。
【0090】
前記オルガノイド培養用細胞培養培地に含まれるp38阻害剤の濃度は、50nM以上100μM以下であることが好ましく、100nM以上50μM以下であることがより好ましく、100nM以上10μM以下であることがさらに好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとにp38阻害剤を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0091】
<<オルガノイド>>
本発明の第1実施形態に係るオルガノイドは、上述の培養方法により、得られる。
【0092】
本実施形態のオルガノイドは、再生医療、上皮細胞の基礎医学研究、薬物応答のスクリーニング、疾患由来上皮オルガノイドを用いた創薬研究等に応用することができる。
【0093】
<用途>
一実施形態において、本発明は、薬物応答のスクリーニング、毒性アッセイ、又は再生医療のための上述のオルガノイドの使用を提供する。
【0094】
薬物応答のスクリーニングにおいて、上述のオルガノイドを用いる場合、オルガノイドを例えば96ウェルプレート又は384ウェルプレート等のマルチウェルプレート中で培養する。分子のライブラリを使用して、このオルガノイドに影響を与える分子を同定する。ライブラリとしては、例えば、抗体断片ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich社製)、脂質ライブラリ(BioMol社製)、合成化合物ライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich社製)又は天然化合物ライブラリ(Specs、TimTec社製)等が挙げられる。さらに、遺伝子ライブラリを用いてもよい。遺伝子ライブラリとしては、例えば、cDNAライブラリ、アンチセンスライブラリ、siRNA、又はその他の非コードRNAライブラリ等が挙げられる。具体的な方法としては、ある一定の時間にわたり細胞を試験薬剤の複数の濃度に曝露し、曝露時間終了時に、培養物を評価する方法が挙げられる。また、本実施形態のオルガノイドは上皮腫瘍細胞を特異的に標的とするが、正常細胞からなるオルガノイドを標的としない薬物を同定するために使用することもできる。
【0095】
さらに、本実施形態のオルガノイドは、新規候補薬物又は既知若しくは新規栄養補助食品の毒性アッセイにおいてCaco-2細胞等の細胞株の使用に代わるものとなり得る。
さらに、本実施形態のオルガノイドは、現在のところ適切な組織培養又は動物モデルがないノロウイルスなどの病原体を培養するために使用することができる。
また、本実施形態のオルガノイドは、再生医療において、例えば、放射線照射後又は術後の腸上皮の修復において、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患に罹患している患者の腸上皮の修復において、又は短腸症候群に罹患している患者の腸上皮の修復において、有用である。さらに、本実施形態のオルガノイドは、小腸/結腸の遺伝性疾患の患者における腸上皮の修復において、有用である。また、本実施形態のオルガノイドは、再生医療において、例えば膵臓切除後の移植片又はその一部として、又はI型糖尿病及びII型糖尿病等の糖尿病の治療のために有用である。
【0096】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0097】
[実施例1]
(1)オルガノイド培養用細胞培養培地の調製
まず、市販のAdvanced DMEM/F-12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度1μg/mLとなるようにヒト組換えR-スポンジン1(R&D systems社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83-01(Tocris社製)を添加した。さらに、Wnt3aの終濃度300ng/mLとなるように血清含有培地で培養したW-Wnt3a/HEK由来の培養上清を添加した培地(以下、「WNRA培地」と称する。)を用意した。
さらに、終濃度500ng/mLとなるようにEpiregulin(Biolegend社製)、終濃度500ng/mLとなるようにIGF1(Biolegend社製)、又は終濃度50ng/mLとなるようにFGF2(peprotech社製)のうち少なくともいずれか1種類を添加し、構成成分が以下の組み合わせの培地となる培地を用意した。
・WNRA+Epiregulin培地
・WNRA+IGF1培地
・WNRA+Epiregulin+IGF1培地
・WNRA+Epiregulin+FGF2培地
・WNRA+IGF1+FGF2培地
また、コントロールとして、さらに終濃度50ng/mLとなるようにEGF(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)を添加した培地(以下、「WNRA+EGF培地」と称することがある。)を用意した。また、参考例として、さらに終濃度10μMとなるようにSB202190(Sigma Aldrich社製)を添加した培地(以下、「WNRAS+EGF培地」と称することがある。)を用意した。
【0098】
(2)大腸腫瘍由来の上皮腫瘍細胞の培養
慶應義塾大学医学部倫理委員会で承認された倫理研究計画にも基づき、説明と同意を得られた大腸腫瘍患者より、大腸腫瘍から少なくとも5cm以上離れた部分を正常粘膜として採取し、また、大腸腫瘍より病変組織を採取した。次いで、ヒト腫瘍組織由来の上皮腫瘍細胞を含む大腸腫瘍組織を、リベラーゼTHを用いて、上皮腫瘍細胞と残りの組織とに分けた。残りの組織については、トリプシンでさらにバラバラに分散した。次いで、上皮腫瘍細胞を、25μLのマトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)と共に、48ウェルプレートに播種した。上皮腫瘍細胞を播種したウェルに、(1)で調製したWNRA+EGF培地(従来の方法で用いられる培地)、WNRA+Epiregulin培地、WNRA+IGF1培地、WNRA+Epiregulin+IGF1培地、WNRA+Epiregulin+FGF2培地、又はWNRA+IGF1+FGF2培地を各250μLずつ添加し、37℃で酸素濃度20%にて培養した。培養から、2日毎に培地交換を行った。図1は、初代培養(Passage0)の培養開始から7日目の様子を示す画像である。図2は、各培地中の腸管幹細胞のオルガノイドがウェル中に占める面積を定量化したグラフである。
【0099】
図1及び図2から、WNRA+EGF培地と比較して、いずれの培地を用いてもオルガノイドの面積が大きくなっており、高効率で培養できることが確かめられた。特に、IGF1及びFGF2を含む培地である「WNRA+IGF1+FGF2培地」を用いた場合において、高効率でオルガノイドを培養できることが明らかとなった。
【0100】
[実施例2]
(1)オルガノイド培養用細胞培養培地の調製
まず、市販のAdvanced DMEM/F-12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度50ng/mLとなるようにEGF(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83-01(Tocris社製)を添加した培地(以下、「ENA培地」と称することがある。)を用意した。
【0101】
(2)大腸腫瘍由来の上皮腫瘍細胞の培養
実施例1の(2)と同様の方法を用いて、上皮腫瘍細胞を得た。次いで、上皮腫瘍細胞を、25μLのマトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)と共に、48ウェルプレートに播種した。上皮腫瘍細胞を播種したウェルに、(1)で調製したENA培地を250μL添加し、37℃で酸素濃度1%(以下、「低酸素培養」と称することがある。)、又は酸素濃度20%(以下、「正常酸素培養」と称することがある。)にて培養した。培養から、2日毎に培地交換を行った。図3は、初代培養(Passage0)の培養開始から7日目の培養オルガノイドを示す画像である。
【0102】
図3から、今回用いた上皮腫瘍細胞では、低酸素培養条件がオルガノイドの形成に必須であることが確かめられた。
【0103】
また、図4は、55種類の大腸腫瘍から樹立したオルガノイドの最適培養条件を示す図である。図4から、正常大腸上皮オルガノイドの培養では、オルガノイド培養用細胞培養培地に含まれる構成成分として、Wntタンパク質及びR-スポンジンからなるWntアゴニスト、EGF、p38阻害剤、ノギン、及びTGF-β阻害剤の全ての構成成分が必要であるのに対し、腫瘍細胞では、少ない構成成分での培養が可能であることが明らかとなった。
しかしながら、腫瘍化に伴い、一部の構成成分(特に、p38阻害剤)が培養効率を悪化させる場合があった(図4の斜線部参照。)。また、20%酸素条件(正常酸素条件)では、培養効率を悪化させ、一方、1%酸素条件(低酸素条件)では培養可能である場合があった(図4の横線部参照。)。ここで、大腸がんIV(M)は、転移した大腸がんである。
このため、単一の培養条件では全ての腫瘍が培養できず、予め以下に示す8つの培養条件を設定することにより、樹立効率が向上することが明らかとなった。以下において、WR(-)とは、Wntタンパク質及びR-スポンジンからなるWntアゴニストを含まないことを示し、WR(+)とは、Wntタンパク質及びR-スポンジンからなるWntアゴニストを含むことを示す。
・ENA/WR(-)培地、正常酸素培養
・ENA/WR(+)培地、正常酸素培養
・ENAS/WR(-)培地、正常酸素培養
・ENAS/WR(+)培地、正常酸素培養
・ENA/WR(-)培地、低酸素培養
・ENA/WR(+)培地、低酸素培養
・ENAS/WR(-)培地、低酸素培養
・ENAS/WR(+)培地、低酸素培養
【0104】
[実施例3]
(1)Wnt3a-アファミン複合体の調製
Wnt3a-アファミン複合体(以下、「WAfm」と称することがある。)は、ウシ胎児血清にウシアファミンが含まれることを利用し、Wnt3aのみを遺伝子導入した細胞を血清含有培地で培養し、分泌されるWnt3aがアファミンと自動的に安定な複合体を形成することを利用して調製した。すなわち、N末端にタグ配列を有するWnt3aを発現する細胞(W-Wnt3a/HEK)を、10%ウシ胎児血清を含む培地中でディッシュ又は多層フラスコ等で5~7日間培養し、培養上清を回収した。続いて、回収した培養上清は遠心分離し、フィルター(0.22μm)を通した。集めた培養上清のうち、220mLを使用した。続いて、回収した200mLの培養上清に3mLのP20.1抗体セファロースを加え、4℃で3時間回転混和した後、培地を空のカラムに通して、セファロースを集めた。なお、P20.1抗体はWnt3aのN末端のタグ配列を特異的に認識する抗体である。続いて、カラムに集めたセファロースを3mLのTris bufferd saline(20mM Tris-HCl、150mM NaCl、pH7.5)で洗浄し、洗浄操作を5回繰り返した。続いて、1回あたり3mLのペプチド溶液(0.2mg/mL PAR4-C8 peptide/TBS)を用いて溶出を行い、溶出液を回収した。溶出操作を10回繰り返して、Wnt3a-アファミン複合体を得た。Wnt3aの活性は、W-Wnt3a/HEKの細胞上清を用いたTCFレポーターアッセイにより確認し、市販のWnt3a(R&D systems社製)と比較して、10倍以上の高い活性を有することが確かめられた。
【0105】
(2)オルガノイド培養用細胞培養培地の調製
まず、市販のAdvanced DMEM/F-12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度1μg/mLとなるようにヒト組換えR-スポンジン1(R&D systems社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83-01(Tocris社製)を添加した。さらに、Wnt3aの終濃度300ng/mLとなるように血清含有培地で培養したW-Wnt3a/HEK由来の培養上清を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにIGF1(Biolegend社製)を添加し、終濃度50ng/mLとなるようにFGF2(peprotech社製)を添加した培地(以下、「WIFNRA培地」と称することがある。)を用意した。
また、市販のAdvanced DMEM/F-12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度1μg/mLとなるようにヒト組換えR-スポンジン1(R&D systems社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83-01(Tocris社製)を添加した。さらに、終濃度300ng/mLとなるように(1)で調製したWnt3a-アファミン複合体を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにIGF1(Biolegend社製)を添加し、終濃度50ng/mLとなるようにFGF2(peprotech社製)を添加した培地(以下、「WAfmIFNRA培地」と称することがある。)を用意した。
また、比較例1として、市販のAdvanced DMEM/F-12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度1μg/mLとなるようにヒト組換えR-スポンジン1(R&D systems社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83-01(Tocris社製)を添加した。さらに、Wnt3aの終濃度300ng/mLとなるように血清含有培地で培養したW-Wnt3a/HEK由来の培養上清を添加し、終濃度50ng/mLとなるようにEGF(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)を添加し、終濃度10μMとなるようにSB202190(Sigma Aldrich社製)を添加した培地(以下、「WENRAS培地」と称することがある。)を用意した。
また、比較例2として、市販のAdvanced DMEM/F-12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度1μg/mLとなるようにヒト組換えR-スポンジン1(R&D systems社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83-01(Tocris社製)を添加した。さらに、終濃度300ng/mLとなるように(1)で調製したWnt3a-アファミン複合体を添加し、終濃度50ng/mLとなるようにEGF(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)を添加し、終濃度10μMとなるようにSB202190(Sigma Aldrich社製)を添加した培地(以下、「WAfmENRAS培地」と称することがある。)を用意した。
【0106】
(3)腸管幹細胞の培養
慶應義塾大学医学部倫理委員会で承認された倫理研究計画にも基づき、説明と同意を得られた大腸腫瘍患者より、大腸腫瘍から少なくとも5cm以上離れた部分を正常粘膜として採取し、また,大腸腫瘍より病変部位を採取した。採取した組織はEDTA又はリベラーゼTHにより上皮細胞を抽出し、マトリゲル(登録商標)に包埋した。
上皮細胞(以下、「腸管幹細胞」と呼ぶ。)を含むマトリゲル(登録商標)は48ウェルプレートに播種し、培地とともに培養した。具体的には、下記の通りである。
培養した腸管幹細胞を、25μLのマトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)と共に、48ウェルプレートに播種した。(2)で調製した4種類の培地(「WIFNRA培地」、「WAfmIFNRA培地」、「WENRAS培地」、及び「WAfmENRAS培地」)を各ウェルに250μLずつ添加し、37℃で酸素濃度20%にて培養した。培養から、2日毎に培地交換を行った。図5Aは、初代培養(Passage0)の培養開始から7日目の様子を示す画像であり、図5Bは、各培地中の腸管幹細胞のオルガノイドがウェル中に占める面積を定量化したグラフである。図5A及び図5Bにおいて、「W」は血清を含むWnt3aを示し、「WAfm」は無血清のWnt3a-アファミン複合体を示す。
【0107】
図5A及び図5Bから、従来の培養条件である「WENRAS培地」を用いた場合では、腸管幹細胞の単一細胞からのオルガノイドの形成効率は悪く、十分な大きさまで生育しなかった。一方、「WIFNRA培地」を用いた場合では、より効率よく腸管幹細胞の単一細胞からのオルガノイドを形成させることが可能であった。さらに、従来の血清含Wnt3Aを、無血清のWnt3a-アファミン複合体に代替した場合、IGF1+FGF2による単一正常上皮細胞の培養効率は飛躍的に改善した。
よって、本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地が、正常上皮細胞のハイスループットスクリーニング等、単一細胞からのオルガノイドの形成効率の向上に極めて有効であることが明らかとなった。
【0108】
[実施例4]
(1)Wnt3a-アファミン複合体の調製
実施例3の(1)と同様の方法を用いて、Wnt3a-アファミン複合体を調製した。
【0109】
(2)オルガノイド培養用細胞培養培地の調製
実施例4の(2)と同様の方法を用いて、「WIFNRA培地」、「WAfmIFNRA培地」、及び「WENRAS培地」を調製した。また、比較例2として、市販のAdvanced DMEM/F-12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度1μg/mLとなるようにヒト組換えR-スポンジン1(R&D systems社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83-01(Tocris社製)を添加した。さらに終濃度300ng/mLとなるように(1)で調製したWnt3a-アファミン複合体を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにIGF1(Biolegend社製)を添加し、終濃度50ng/mLとなるようにFGF2(peprotech社製)を添加し、終濃度10μMとなるようにSB202190(Sigma Aldrich社製)を添加した培地(以下、「WAfmIFNRAS培地」と称することがある。)を用意した。
【0110】
(3)大腸腫瘍由来の上皮腫瘍細胞の培養
実施例1の(2)と同様の方法を用いて、上皮腫瘍細胞を得た。次いで、上皮腫瘍細胞を、25μLのマトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)と共に、48ウェルプレートに播種した。上皮腫瘍細胞を播種したウェルに、(2)で調製した「WIFNRA培地」、「WAfmIFNRA培地」、「WENRAS培地」、及び「WAfmIFNRAS培地」を各250μLずつ添加し、37℃で酸素濃度20%にて培養した。培養から、2日毎に培地交換を行った。図6は、3回目の継代(Passage3)の培養開始から6日後(合計培養日数26日後)、4回目の継代(Passage4)の培養開始からの6日後(合計培養日数33日後)、及び6回目の継代(Passage6)の培養開始からの6日後(合計培養日数47日後)の様子を示す画像である。図6において、「W」は血清を含むWnt3aを示し、「WAfm」は無血清のWnt3a-アファミン複合体を示す。
【0111】
図6から、今回使用した大腸腫瘍由来の上皮腫瘍細胞では、p38阻害剤であるSB202190に対し毒性を示し、SB202190存在下(「WENRAS培地」、及び「WAfmIFNRAS培地」)では、発育しなかった。一方、IGF1及びFGF2を含む培地(「WIFNRA培地」)による培養では、上皮腫瘍細胞によるオルガノイドの形成が見られた。
さらに、今回使用した大腸腫瘍由来の上皮腫瘍細胞では、Wntタンパク質及びR-スポンジンWntアゴニストが必須であり、Wnt3aを含む培地(「WIFNRA培地」)による培養では、Wnt3aに含まれる血清による増殖阻害が見られ、長期培養することができなかった。一方、無血清のWnt3a-アファミン複合体を含む培地(「WAfmIFNRA培地」)による培養では、長期培養することができた。
【0112】
また、図7は、本実施形態における異なる組成のオルガノイド培養用細胞培養培地でのオルガノイドの形成効率及び長期培養可否を評価した結果を示す表である。図7において、○は、オルガノイドを形成でき、1か月程度の長期培養が可能であることが示し、◎は、オルガノイドを効率よく形成ができ、1か月程度の長期培養が可能であることが示し、◎◎は、オルガノイドを更に効率よく形成ができ、3か月程度の長期培養が可能であることが示す。また、図7において、「Normoxia」とは、酸素濃度20%程度での正常酸素培養条件であることを示し、「Hypoxia」とは、酸素濃度1%程度での低酸素培養条件であることを示す。
【0113】
図7から、本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地又は培養方法によれば、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織について、細胞又は組織の種類を選ばず、オルガノイドを形成でき、さらに、長期培養することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地によれば、ヒトを含む哺乳動物由来の上皮幹細胞、上皮細胞、又は上皮腫瘍細胞、或いはそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織、又は従来では培養することができなかった組織を長期間培養することができる。
また、前記細胞及び前記組織のうち少なくともいずれか一方から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
また、本実施形態のオルガノイド培養用細胞培養培地を用いて培養された上皮幹細胞は、長期間分化能を維持することができ、腫瘍発生頻度が極めて低い。
さらに、本実施形態の培養方法により得られたオルガノイドは、再生医療、上皮細胞の基礎医学研究、薬物応答のスクリーニング、疾患由来上皮オルガノイドを用いた創薬研究等に応用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7