(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】バクテリオファージ溶解素によるバイオフィルムの防止、破壊および処置
(51)【国際特許分類】
A61K 38/46 20060101AFI20231017BHJP
A61K 31/431 20060101ALI20231017BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20231017BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20231017BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20231017BHJP
A61K 38/14 20060101ALI20231017BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231017BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231017BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61K38/46 ZNA
A61K31/431
A61K31/5377
A61K31/7048
A61K38/12
A61K38/14
A61K45/00
A61P31/04
A61P43/00 121
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022130371
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2020134278の分割
【原出願日】2013-05-09
【審査請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2012-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514284475
【氏名又は名称】コントラフェクト コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド シューフ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート シー. ノウィンスキー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ウィッテキンド
(72)【発明者】
【氏名】ババル カーン
(72)【発明者】
【氏名】ジミー ロトロ
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-526920(JP,A)
【文献】特表2010-536354(JP,A)
【文献】特表2011-518543(JP,A)
【文献】SCHMITZ J,Expanding The Horizons Of Enzybiotic Identification,Graduate School Student Theses,The Rockefeller University,Paper138,2011年,p.49-51,217-220,251,252,264,375
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2011年,Vol.77,p.8272-8279
【文献】Gilmer D.B.et al.,Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology,2011年,Vol. 111,Presentation Number 1514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ球菌および/または連鎖球菌を含むグラム陽性菌のバイオフィルムの防止、破壊、または根絶に使用するための組成物であって、
溶解酵素を含み、
前記溶解酵素が、
配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも
90%の同一性を有し、前記バイオフィルム内のブドウ球菌および/または連鎖球菌に結合するのに有効なそのバリアントを含むPlySs2結合ドメインと、
触媒ドメインと
を含
み、
前記防止、破壊、または根絶が、前記バイオフィルム内のブドウ球菌および/または連鎖球菌の殺滅、増殖阻害、および/または菌数の減少を含む、組成物。
【請求項2】
被験体におけるグラム陽性菌のバイオフィルム感染症の処置または予防に使用するための薬学的組成物であって、
前記バイオフィルムが、ブドウ球菌および/または連鎖球菌を含み、
前記薬学的組成物が、溶解酵素を含み、
前記溶解酵素が、
配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも
90%の同一性を有し、前記バイオフィルム内のブドウ球菌および/または連鎖球菌に結合するのに有効なそのバリアントを含むPlySs2結合ドメインと、
触媒ドメインと
を含
み、
前記処置または予防が、前記バイオフィルム内のブドウ球菌および/または連鎖球菌の殺滅、増殖阻害、および/または菌数の減少を含む、薬学的組成物。
【請求項3】
前記溶解酵素が、キメラ溶解酵素である、請求項1または2に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項4】
前記グラム陽性菌のバイオフィルム感染症が、心内膜炎、骨髄炎、または置換関節の感染症を含む、請求項2または3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記グラム陽性菌のバイオフィルム感染症が、骨髄炎を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記グラム陽性菌のバイオフィルム感染症が、置換関節の感染症を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記グラム陽性菌のバイオフィルム感染症が、心内膜炎を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記バイオフィルムが
組織および/または医療用デバイス上にある、請求項2~7のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項9】
前記医療用デバイスが、カテーテル、バルブ、補綴デバイス、薬物のポンプ、ステント、または整形材料である、請求項8に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項10】
前記医療用デバイスが、心臓または心臓血管に埋め込まれる、請求項8または9に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項11】
前記医療用デバイスがステントである、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項12】
前記バイオフィルムが、損傷組織または心臓血管内にある、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項13】
1または複数の抗生物質をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項14】
1または複数の抗生物質が、前記薬学的組成物の前、後、又は同時に前記被験体に投与される、請求項2~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記1または複数の抗生物質が、グリコペプチド類、セファロスポリン類、マクロライド類、および/またはペニシリン類を含む、請求項13または14に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項16】
前記1または複数の抗生物質がペニシリン類を含み、該ペニシリン類が、オキサシリン、アンピシリン、および/またはクロキサシリンを含む、請求項13または14に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項17】
前記1または複数の抗生物質がグリコペプチド類を含み、該グリコペプチド類が、バンコマイシンおよび/またはテイコプラニンを含む、請求項13または14に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項18】
前記1または複数の抗生物質がダプトマイシン、バンコマイシン、および/またはリネゾリドを含む、請求項13または14に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項19】
前記1または複数の抗生物質がマクロライド類を含み、該マクロライド類が、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、および/またはロキシスロマイシンを含む、請求項13または14に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項20】
前記溶解酵素の触媒ドメインが、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項1~
19のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項21】
前記溶解酵素の触媒ドメインが、配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項1~
20のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項22】
前記バイオフィルムが、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・シムランス(Staphylococcus simulans)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・エクイ・ズーエピデミカス(Streptococcus equi zooepidemicus)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サンギニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、G群ストレプトコッカス(Streptococcus)、E群ストレプトコッカス(Streptococcus)、およびストレプトコッカス・ニューモニア(Streptococcus pneumonia)から選択される1または複数のブドウ球菌および/または連鎖球菌を含む、請求項1~
21のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項23】
前記ブドウ球菌および/または連鎖球菌が、抗生物質耐性菌、および/または抗生物質に対する感性が変更された菌を含む、請求項1~
22のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項24】
前記抗生物質耐性菌が、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(MRSA)、バンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(VRSA)、ダプトマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(DRSA)、および/または、リネゾリド耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(LRSA)を含み、前記抗生物質に対する感性が変更された菌が、バンコマイシン中間感性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(VISA)を含む、請求項
23に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項25】
前記使用がバイオフィルムの形成の防止を含む、請求項1~
24のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項26】
前記使用がバイオフィルムの破壊または根絶を含む、請求項1~
24のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項27】
前記触媒ドメインがCHAPドメインを含む、請求項3~
26のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項28】
前記キメラ溶解酵素のCHAPドメインが、ブドウ球菌および/または連鎖球菌
を標的とする溶解素からのCHAPドメインを含む、請求項
27に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項29】
静脈内投与に適合されている、請求項1~
28のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項30】
複数回用量での投与用に製剤化されている、請求項1~
29のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項31】
単回用量での投与用に製剤化されている、請求項1~
29のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項32】
前記使用がin vitroまたはex vivoで行われる、請求項1、3、8~13、
および15~
28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
前記溶解酵素が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有し、ブドウ球菌および/または連鎖球菌を殺滅するのに有効なそのバリアントを含む、請求項1、2、4~
26、および
29~
32のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項34】
前記溶解酵素が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも99.5%の同一性を有し、ブドウ球菌および/または連鎖球菌を殺滅するのに有効なそのバリアントを含む溶解素ポリペプチドである、請求項1、2、4~
26、および
29~
33のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項35】
前記溶解酵素が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含み、1個のアミノ酸残基が、前記溶解酵素配列のN末端またはC末
端で付加または欠失しており、ブドウ球菌および/または連鎖球菌を殺滅するのに有効である、請求項1、2、4~
26、および
29~
34のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【請求項36】
前記溶解酵素が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含み、1個のアミノ酸残基が、前記溶解酵素配列のN末端で欠失しており、ブドウ球菌および/または連鎖球菌を殺滅するのに有効である、請求項1、2、4~26、および29~34のいずれか一項に記載の組成物または薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して、溶解素、特に、薬物耐性Staphylococcus aureusを含むブドウ球菌を殺滅する能力を有する溶解素、特に、溶解素PlySs2を用いた、細菌バイオフィルムの防止、制御、破壊および処置に関する。本発明は、細菌バイオフィルム(複数可)およびバイオフィルム形成を調整するための組成物および方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多種多様の疾病および他の状態に対して使用する抗生物質が増えるにつれ、薬物耐性菌が発生することが、医療における大きな問題である。より多くの抗生物質を使用することおよび耐性を示す細菌の数のせいで、処置時間が長くなる。さらに、広域の非特異的抗生物質が、現在、頻繁に使用されているが、そのうちのいくつかは、患者に有害作用を及ぼす。この使用の増加に関連する問題は、多くの抗生物質が、粘液内層(mucus lining)を容易に透過しないということである。
【0003】
グラム陽性菌は、ポリペプチドおよび多糖を含む細胞壁に囲まれている。グラム陽性菌としては、Actinomyces属、Bacillus属、Listeria属、Lactococcus属、Staphylococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Mycobacterium属、Corynebacterium属およびClostridium属が挙げられるがこれらに限定されない。医学的に関連性のある種としては、Streptococcus pyogenes、Streptococcus pneumoniae、Staphylococcus aureusおよびEnterococcus faecalisが挙げられる。Bacillus種は、胞子形成性であり、炭疽および胃腸炎の原因となる。胞子形成性のClostridium種は、ボツリヌス、破傷風、ガス壊疽および偽膜性大腸炎に関与する。Corynebacterium種は、ジフテリアの原因となり、Listeria種は、髄膜炎の原因となる。
【0004】
新規抗菌療法アプローチには、酵素ベースの抗生物質(「エンザイバイオティクス(enzybiotics)」)、例えば、バクテリオファージ溶解素が含まれる。ファージは、これらの溶解素を使用して、それらの細菌宿主の細胞壁を消化し、低浸透圧性溶解によってウイルス子孫を放出する。精製された組換え溶解素を外部からグラム陽性菌に加えたときも、同様の結果を生じる。溶解素がグラム陽性病原体に対して高致死活性であることにより、それらは治療薬として開発するための魅力的な候補になる(Fischetti,V.A.(2008)Curr Opinion Microbiol 11:393-400;Nelson,D.L.ら(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98:4107-4112)。バクテリオファージ溶解素は、当初、病原性連鎖球菌の鼻咽頭保因を根絶するために提案された(Loeffler,J.M.ら(2001)Science 294:2170-2172;Nelson,D.ら(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98:4107-4112)。溶解素は、宿主溶解をウイルス構築の完成と連携させるために二本鎖DNA(dsDNA)ファージが使用する溶解機構の一部である(Wang,I.N.ら(2000)Annu Rev Microbiol 54:799-825)。溶解素は、細菌細胞壁(bacterial wall)内の結合を壊し、ペプチドグリカンの完全性に不可欠な共有結合を迅速に加水分解し、細菌の溶解およびそれに伴う子孫ファージの放出を引き起こ
す、ペプチドグリカン加水分解酵素である。
【0005】
溶解素ファミリーのメンバーは、触媒ドメインが特異性ドメインまたは結合ドメインに融合されているモジュール構造を示す(Lopez,R.ら(1997)Microb Drug Resist 3:199-211)。溶解素は、細菌ゲノム内のウイルスプロファージ配列からクローニングされ得、処置のために使用され得る(Beres,S.B.ら(2007)PLoS ONE 2(8):1-14)。溶解素は、外部から加えられると、グラム陽性細胞壁の結合に到達することができる(Fischetti,V.A.(2008)Curr Opinion Microbiol 11:393-400)。バクテリオファージ溶解酵素は、被験体における様々なタイプの感染の評価および様々な投与経路による特異的処置において有用と立証された。例えば、米国特許第5,604,109号(Fischettiら)は、半精製されたC群連鎖球菌ファージ関連溶解素酵素による酵素消化を介した臨床検体中のA群連鎖球菌の迅速な検出に関する。この酵素の働きは、さらなる研究の基礎となり、疾患を処置する方法に至った。FischettiおよびLoomisの特許(米国特許第5,985,271号、同第6,017,528号および同第6,056,955号)には、C1バクテリオファージに感染したC群連鎖球菌によって産生される溶解素酵素の使用が開示されている。米国特許第6,248,324号(FischettiおよびLoomis)には、皮膚組織への局所的適用に適したキャリア中での溶解酵素の使用による皮膚科学的感染症に対する組成物が開示されている。米国特許第6,254,866号(FischettiおよびLoomis)には、感染している細菌に特異的な溶解酵素を投与する工程を含む、消化管の細菌感染症を処置するための方法が開示されている。その消化管に少なくとも1つの溶解酵素を送達するためのキャリアは、坐剤浣腸、シロップ剤または腸溶性丸剤からなる群より選択される。米国特許第6,264,945号(FischettiおよびLoomis)には、その細菌に特異的なバクテリオファージに感染した細菌によって産生される少なくとも1つの溶解酵素および患者にその溶解酵素を送達するための適切なキャリアの非経口導入(筋肉内、皮下または静脈内)による、細菌感染症を処置するための方法および組成物が開示されている。
【0006】
ファージ関連溶解酵素は、様々なバクテリオファージから同定され、クローニングされており、それらの各々が、特定の菌株の殺滅において有効であると示されている。米国特許第7,402,309号、同第7,638,600号および公開PCT出願WO2008/018854は、Bacillus anthracis感染症の処置または減少のための抗菌剤として有用な別々のファージ関連溶解酵素を提供している。米国特許第7,569,223号には、Streptococcus pneumoniaeに対する溶解酵素が記載されている。米国特許第7,582291号には、Enterococcus(バンコマイシン耐性菌株を含む、E.faecalisおよびE.faecium)に対して有用な溶解素が記載されている。US2008/0221035には、B群連鎖球菌の殺滅において非常に有効な変異体Ply GBSの溶解素が記載されている。WO2010/002959には、Staphylococcus aureusを含むブドウ球菌に対する活性を有するClySと表示されるキメラ溶解素が詳述されている。ClySは、ブドウ球菌に特異的であり、連鎖球菌および他のグラム陽性菌には不活性である。
【0007】
溶解素は、その迅速、強力かつ特異的な細胞壁分解特性および殺菌特性に基づいて、露出したペプチドグリカン細胞壁を細胞の外側から攻撃することによってグラム陽性病原体と闘う抗微生物治療法として提案されている(Fenton,Mら(2010)Bioengineered Bugs 1:9-16;Nelson,Dら(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98:4107-4112)。単剤としての様々な溶解素の効能は、咽頭炎(Nelson,Dら(2001)Proc Natl
Acad Sci USA 98:4107-4112)、肺炎(Witzenrath,Mら(2009)Crit Care Med 37:642-649)、中耳炎(McCullers,J.A.ら(2007)PLOS pathogens 3:0001-0003)、膿瘍(Pastagia,Mら、Antimicrobial agents and chemotherapy 55:738-744)、菌血症(Loeffler,J.M.ら(2003)Infection and Immunity 71:6199-6204)、心内膜炎(Entenza,J.M.ら(2005)Antimicrobial agents and chemotherapy 49:4789-4792)および髄膜炎(Grandgirard,Dら(2008)J Infect Dis 197:1519-1522)のげっ歯類モデルにおいて実証されている。さらに、溶解素は、一般に、その細菌宿主種に特異的であって、胃腸管ホメオスタシスにとって有益であり得るヒト共生細菌を含む非標的生物を溶解しない(Blaser,M.(2011)Nature 476:393-394;Willing,B.P.ら(2011)Nature reviews.Microbiology 9:233-243)。
【0008】
微生物は、種々の環境における重要な生存戦略として、表面に付着したバイオフィルムコミュニティーを形成する傾向がある。バイオフィルムは、微生物細胞、ならびに多糖類、核酸およびタンパク質を含む広範囲の自己産生した細胞外の重合体物質からなる(Flemming HCら(2007)J Bacteriol 189:7945-7947)。バイオフィルムは、天然の環境および産業の水環境、組織、ならびに医療用の材料およびデバイスに見出される(Costerton JWら(1994)J Bacteriol 176:2137-2142)。バイオフィルムは、単一の菌株によって形成され得るが、ほとんどの天然のバイオフィルムは、複数の細菌種によって形成されている(Yang Lら(2011)Int J Oral Sci 3:74-81)。バイオフィルム集団に抗生物質を適用しても、その独特の生理機能および物理的なマトリックスバリアに起因して、無効であることが多い。
【0009】
ブドウ球菌は、生物医学的埋め込み物(implant)または損傷組織および健常組織に接着する、細胞外マトリックスに包まれた固着性のコミュニティーであるバイオフィルムを形成することが多い。バイオフィルムに関連する感染症は、処置しにくく、バイオフィルム内の固着性の細菌は、その浮遊している対応物よりも1,000~1,500倍、抗生物質に対して耐性であると推定されている。このバイオフィルムの抗生物質耐性のせいで、しばしば、従来の抗生物質治療は失敗し、感染したデバイスを取り出す必要が生じる。リゾスタフィンは、バイオフィルム内のS.aureusを殺滅することが示されており、また、インビトロにおいて、プラスチック表面上およびガラス表面上のS.aureusバイオフィルムの細胞外マトリックスを破壊した(Wu,JAら(2003)Antimicrob Agents and Chemoth 47(11):3407-3414)。このS.aureusバイオフィルムの破壊は、リゾスタフィン感性(sensitive)S.aureusに特異的であり、リゾスタフィン耐性S.aureusのバイオフィルムは、影響されなかった。高濃度のオキサシリン(400μg/ml)、バンコマイシン(800μg/ml)およびクリンダマイシン(800μg/ml)は、24時間後でさえも、確立されたS.aureusバイオフィルムに対して影響を及ぼさなかった。リゾスタフィンは、S.epidermidisバイオフィルムも破壊したが、しかしながら、より高い濃度が必要だった。ブドウ球菌のバイオフィルムを除去するためのファージ溶解素の適用が、種々雑多な結果とともに報告されている。バクテリオファージ溶解素SAL-2は、S.aureusバイオフィルムを除去すると報告された(Son JSら(2010)Appl Microbiol Biotechnol 86(5):1439-1449)が、2つの類似のファージ溶解素phi11およびphi12の場合、phi11は、ブドウ球菌のバイオフィルムを加水分解したが、phi
12は、不活性だった(Sass P and Bierbaum G(2007)Appl Environ Microbiol 73(1):347-352)。様々な酵素の組み合わせが、細菌バイオフィルムの除去および消毒のために様々な系において研究されている(Johansen Cら(1997)Appl Environ Microbiol 63:3724-3728)。しかしながら、このプロセスは、最低2つの酵素または作用物質を必要とし、1つの酵素または作用物質は、バイオフィルムの接着性細菌の除去用であり、第2の酵素または作用物質は、殺菌活性を有するものである。
【0010】
現行の従来の抗菌剤に関連する不十分な点および問題から、さらなる特異的な細菌用の薬剤(bacterial agent)および治療様式、ならびに細菌バイオフィルムの有効なおよび効率的な処置、制御および防止のための、特に、耐性獲得のリスクなしで、より広域性の薬剤に対するニーズがなおも当該分野に存在することは明らかである。現在までに、複数の異なる種の病原性のグラム陽性菌および臨床的に関与性のグラム陽性菌に対して溶解活性を明らかに示す、容易に製造可能であり、安定であり、かつ耐性のリスクが全くないかまたは限られている溶解素が、バイオフィルムに対して有効であると示されていないことは、注目すべきことである。したがって、新しい抗菌アプローチ、特に、新しい様式を介して働くか、またはバイオフィルム内の病原菌を殺滅する新しい手段を提供する新しい抗菌アプローチに対する商業的ニーズが存在する。
本明細書中の参考文献の引用は、それらが本発明に対する先行技術であることを認めるものとして解釈されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第5,985,271号明細書
【文献】米国特許第6,017,528号明細書
【文献】米国特許第6,056,955号明細書
【文献】米国特許第6,248,324号明細書
【文献】米国特許第6,254,866号明細書
【文献】米国特許第6,264,945号明細書
【文献】米国特許第7,402,309号明細書
【文献】米国特許第7,638,600号明細書
【文献】国際公開第2008/018854号
【文献】米国特許第7,569,223号明細書
【文献】米国特許第7,582291号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0221035号明細書
【文献】国際公開第2010/002959号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
本発明によると、細菌バイオフィルムの防止、破壊および処置のための組成物および方法が提供される。その最も広範な態様において、本発明は、バイオフィルムの防止、破壊および処置における、複数の細菌、特に、Staphylococcus、Streptococcus、特に、Streptococcus pyogenes(A群連鎖球菌)およびStreptococcus agalactiae(B群連鎖球菌)の菌株を含む、特にグラム陽性菌に対して広範な殺滅活性を有する溶解素の使用および適用を提供する。本発明の溶解素および組成物は、EnterococcusおよびListeriaの菌株ならびにそれらの適用可能なバイオフィルムの殺滅において有用かつ適用可能である。本発明は、バイオフィルム内の細菌を効果的かつ効率的に殺滅することができるバクテリオファージ溶解素を利用して細菌バイオフィルムを除菌するため、分散させるため
および除去するための方法を提供する。したがって、本発明は、細菌バイオフィルムの処置、除菌および/または除染、ならびにバイオフィルム(複数可)の分散後の感染症の防止を企図し、ここで、1つまたは複数のグラム陽性菌、特に、Staphylococcus、Streptococcus、EnterococcusおよびListeria菌のうちの1つまたは複数が、存在すると疑われるかまたは存在する。
【0013】
本発明によると、Streptococcus suis菌に由来するバクテリオファージ溶解素が、本発明の方法および適用において利用される。本発明において有用な溶解素ポリペプチド(複数可)、特に、本明細書中および
図5(配列番号1)に提供されるようなPlySs2溶解素は、複数の細菌、特に、Staphylococcus、Streptococcus、EnterococcusおよびListeria菌株を含むグラム陽性菌に対して広範な殺滅活性を明らかに示すという点において独特である。1つのそのような態様において、PlySs2溶解素は、本明細書中で実証されるように、バイオフィルム内のStaphylococcus aureus菌株および菌を殺滅することができる。PlySs2は、Staphylococcus aureus(例えば、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)、バンコマイシン耐性Staphylococcus aureus(VRSA)、ダプトマイシン耐性Staphylococcus aureus(DRSA)およびリネゾリド耐性Staphylococcus aureus(LRSA))を含む抗生物質耐性菌に対して有効である。PlySs2は、バンコマイシン中間感性Staphylococcus aureus(VISA)などの抗生物質に対する感性が変更されている細菌に対して有効である。
【0014】
本発明のある態様において、バイオフィルム内のグラム陽性菌を殺滅する方法が提供され、その方法は、バイオフィルム内のS.aureusを含むグラム陽性菌を殺滅するのに有効な量の単離された溶解素ポリペプチドを含む組成物とそのバイオフィルムとを接触させる工程を含み、その単離された溶解素ポリペプチドは、PlySs2溶解素ポリペプチドまたはグラム陽性菌を殺滅するのに有効なそのバリアントを含む。したがって、バイオフィルム内のグラム陽性菌を殺滅する方法が提供され、その方法は、バイオフィルム内のグラム陽性菌を殺滅するのに有効な量の単離された溶解素ポリペプチドを含む組成物とバイオフィルムとを接触させる工程を含み、その単離された溶解素ポリペプチドは、
図5もしくは配列番号1に提供されているアミノ酸配列、または
図5もしくは配列番号1のポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性、85%の同一性、90%の同一性、95%の同一性または99%の同一性を有し、バイオフィルム内のグラム陽性菌を殺滅するのに有効である、そのバリアントを含む。
【0015】
本発明のある態様において、細菌を除染してかつ放出して、次に、抗生物質に感受性にするするためにバイオフィルム内のグラム陽性菌を分散させる方法が提供され、その方法は、バイオフィルム内のS.aureusを含むグラム陽性菌を分散させるのに有効な量の単離された溶解素ポリペプチドを含む組成物とバイオフィルムとを接触させる工程を含み、その単離された溶解素ポリペプチドは、
図5もしくは配列番号1に示されているようなもの、またはグラム陽性菌を殺滅するのに有効なそのバリアントを含むPlySs2溶解素ポリペプチドを含む。
【0016】
上記方法のある態様において、それらの方法は、特に、ヒトによるまたはヒトにおける使用が意図された、溶液、材料またはデバイスを滅菌するためまたは除染するために、インビトロまたはエキソビボで行われる。
【0017】
本発明は、バイオフィルム内のグラム陽性菌の集団を減少させる方法を提供し、その方法は、バイオフィルム内のグラム陽性菌の少なくとも一部を殺滅するかまたは放出するの
に有効な量の単離されたポリペプチドを含む組成物とバイオフィルムとを接触させる工程を含み、単離されたポリペプチドは、
図5のアミノ酸配列(配列番号1)、または
図5のポリペプチド(配列番号1)に対して少なくとも80%の同一性を有し、それらのグラム陽性菌を殺滅するのに有効である、そのバリアントを含む。
【0018】
本発明はさらに、ヒトにおいてバイオフィルムが関わるかまたはバイオフィルムを含む抗生物質耐性Staphylococcus aureus感染を分散させるためまたは処置するための方法を提供し、その方法は、抗生物質耐性Staphylococcus
aureusのバイオフィルム感染を有するヒトに、
図5のアミノ酸配列(配列番号1)、または
図5のポリペプチド(配列番号1)に対して少なくとも80%の同一性、85%の同一性、90%の同一性もしくは95%の同一性を有し、そのバイオフィルムを分散させるのに有効であり、かつその中のおよび/もしくはそこから放出されるStaphylococcus aureusを殺滅するのに有効である、そのバリアントを含む単離されたポリペプチドを含む有効量の組成物を投与する工程を含み、それによって、そのヒトにおけるStaphylococcus aureusの数は減少し、バイオフィルムおよび付随の感染は、制御される。
【0019】
本発明の方法は、ヒトにおいて1種もしくは複数種のStaphylococcusまたはStreptococcusの細菌を含むグラム陽性菌のバイオフィルムを防止するため、分散させるため、または処置するための方法も含み、その方法は、細菌バイオフィルムを有するかまたは有すると疑われるかまたはそのリスクがある被験体に、
図5のアミノ酸配列(配列番号1)、または
図5のポリペプチド(配列番号1)に対して少なくとも80%の同一性、85%の同一性、90%の同一性もしくは95%の同一性を有し、グラム陽性菌を殺滅するのに有効である、そのバリアントを含む単離されたポリペプチドを含む有効量の組成物を投与する工程を含み、それによって、そのヒトにおけるグラム陽性菌の数が減少し、そのバイオフィルムの汚染または感染が制御される。その方法のある態様において、EnterococcusまたはListeriaの細菌の1つまたは複数を含む(comprising)または含む(including)バイオフィルムが、効率的に防止されるか、分散されるか、または処置される。この方法の特定の態様において、被験体は、Staphylococcus(例えば、Staphylococcus aureus)、Streptococcus(特に、A群連鎖球菌またはB群連鎖球菌、例えば、それぞれStreptococcus pyogenesまたはStreptococcus agalactiae)の細菌の1つまたは1つもしくは複数に曝されているか、またはそのリスクがある。Listeria(例えば、L.monocytogenes)またはEnterococcus(例えば、E.faecalis)などの代替の細菌もまた関わり得、本発明の方法および組成物によって対処され得るか、防止され得るか、分散され得るか、または処置され得る。被験体は、ヒトであり得る。被験体は、成人、小児、乳児または胎児であり得る。
【0020】
そのような上記の1つの方法または複数の方法のいずれかにおいて、感受性(susceptible)であるか、殺滅されるか、分散されるか、または処置されるバイオフィルム細菌は、Staphylococcus aureus、Listeria monocytogenes、Staphylococcus simulans、Streptococcus suis、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus equi、Streptococcus equi zoo、Streptococcus agalactiae(GBS)、Streptococcus pyogenes(GAS)、Streptococcus sanguinis、Streptococcus gordonii、Streptococcus dysgalactiae、G群Streptococcus、E群Streptococcus、Enterococcus faecalisおよびStreptoco
ccus pneumoniaから選択され得る。
【0021】
本発明のいずれかの方法によると、感受性細菌またはバイオフィルム細菌は、抗生物質耐性菌であり得る。細菌は、抗生物質耐性であり得る(メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)、バンコマイシン耐性Staphylococcus aureus(VRSA)、ダプトマイシン耐性Staphylococcus
aureus(DRSA)またはリネゾリド耐性Staphylococcus aureus(LRSA)を含む)。その細菌は、変更された抗生物質感性を有し得る(例えば、バンコマイシン中間感性Staphylococcus aureus(VISA)など)。感受性細菌は、特に、ヒトに対して臨床的に関与性の細菌または病原菌であり得る。その方法(複数可)の態様において、溶解素ポリペプチド(複数可)は、Staphylococcus、Streptococcus、EnterococcusおよびListeria菌株を殺滅するのに有効である。
【0022】
抗微生物薬で医療用埋め込み物をコーティングすることにより、その埋め込み物にブドウ球菌のバイオフィルムが初めて接着するのが効率的に防止され得ることが示されている。生物医学的材料を溶解素でコーティングすることによってもまた、ブドウ球菌を含む細菌が早い段階でその埋め込み物に接着するのが防止され、ゆえにバイオフィルム形成の回避に成功することが証明され得る。ゆえに、本発明は、PlySs2溶解素を含む本発明の溶解素を投与するかまたはそれでコーティングすることによって、デバイス、埋め込み物、分離膜(例えば、パーベーパレーション膜、透析膜、逆浸透膜、限外濾過膜および精密濾過膜)の表面上のバイオフィルムの増殖を減少させるためまたは防止するための方法も提供する。
【0023】
有用な溶解素(複数可)および/または1つもしくは複数のさらなる有効かつ有用な溶解素などを含む活性で好適な代替の溶解素(複数可)が、本発明の方法および組成物に従って利用され得る。本明細書中に提供される方法および使用のさらなる態様または実施形態において、ブドウ球菌特異的溶解素ClySは、本明細書中において、単独でまたは本明細書中に提供されるおよび記載されるようなPlySs2溶解素と併用して使用される。
【0024】
本発明は特定の実施形態において例えば以下の項目を提供する:
(項目1)
グラム陽性菌のバイオフィルムの防止、破壊または処置のための方法であって、該方法は、ブドウ球菌を殺滅することができる溶解素ポリペプチドを含む組成物とバイオフィルムとを接触させる工程を含み、ここで、該バイオフィルムは、効果的に防止されるか、分散されるか、または処置される、方法。
(項目2)
前記溶解素ポリペプチドが、PlySs2である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記溶解素ポリペプチドが、
図5に示されているようなアミノ酸配列(配列番号1)、または
図5のポリペプチド(配列番号1)に対して少なくとも80%の同一性を有し、前記バイオフィルム内の前記グラム陽性菌を殺滅するのに有効である、そのバリアントを含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記組成物が、1つまたは複数の抗生物質をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記抗生物質が、ダプトマイシン、バンコマイシンおよびリネゾリドから選択される、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記バイオフィルムを1つまたは複数の抗生物質と接触させる工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
グラム陽性菌のバイオフィルム形成を防止するまたは減少させる方法であって、該方法は、ブドウ球菌を殺滅することができる溶解素ポリペプチドを含む組成物と医療用デバイス、カテーテルまたは埋め込み物を接触させる工程を含み、ここで、該溶解素は、PlySs2である、方法。
(項目8)
前記溶解素ポリペプチドが、
図5に示されているようなアミノ酸配列(配列番号1)、または
図5のポリペプチド(配列番号1)に対して少なくとも80%の同一性を有し、前記医療用デバイス、カテーテルもしくは埋め込み物における細菌バイオフィルムの形成もしくは細菌の付着および増殖を防止するかまたは減少させるのに有効である、そのバリアントを含む、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記組成物が、抗生物質をさらに含む、項目7に記載の方法。
(項目10)
前記抗生物質が、ダプトマイシン、バンコマイシンおよびリネゾリドまたは関連化合物から選択される、項目9に記載の方法。
(項目11)
図5に示されているようなアミノ酸配列(配列番号1)、または
図5のポリペプチド(配列番号1)に対して少なくとも80%の同一性を有し、グラム陽性菌のバイオフィルム内のグラム陽性菌を殺滅するのに有効である、そのバリアントを含む溶解素ポリペプチドを含む、該バイオフィルムの防止、破壊または処置において使用するための組成物。
(項目12)
1つまたは複数の抗生物質をさらに含む、項目11に記載の組成物。
(項目13)
前記抗生物質が、ダプトマイシン、バンコマイシンおよびリネゾリドまたは関連化合物から選択される、項目12に記載の組成物。
(項目14)
図5に示されているようなアミノ酸配列(配列番号1)、または
図5のポリペプチド(配列番号1)に対して少なくとも80%の同一性を有し、ブドウ球菌もしくは連鎖球菌を殺滅するのに有効である、そのバリアントを含む溶解素ポリペプチドを含む、該連鎖球菌またはブドウ球菌のバイオフィルムの防止、破壊または処置のための組成物。
(項目15)
1つまたは複数の抗生物質をさらに含む、項目14に記載の組成物。
他の目的および利点は、以下の例証的な図面を参照して進められる以下の記載の精査から当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、4時間までの示されている時間にわたって、示されている量のダプトマイシン、バンコマイシン、PlySs2溶解素またはリネゾリドで処理されたBAA-42 MRSAのバイオフィルムを示している。各抗生物質について1000×MICの抗生物質ダプトマイシン、バンコマイシンおよびリネゾリドを加えた。1×MICのPlySs2を加えた。処理後、バイオフィルムをクリスタルバイオレットで可視化する。
【0026】
【
図2】
図2は、6時間までの示されている時間にわたって、示されている量のダプトマイシン、バンコマイシン、PlySs2溶解素またはリネゾリドで処理されたBAA-42 MRSAのバイオフィルムを示している。処理後、バイオフィルムをクリスタルバイオレットで可視化する。
【0027】
【
図3】
図3は、24時間までの示されている時間にわたって、示されている量のダプトマイシン、バンコマイシン、PlySs2溶解素またはリネゾリドで処理されたBAA-42 MRSAのバイオフィルムを示している。処理後、バイオフィルムをクリスタルバイオレットで可視化する。
【0028】
【
図4】
図4は、示されている投与量のPlySs2溶解素またはダプトマイシンで0.5時間、1時間、4時間および24時間処理された、24ウェルディッシュ内のBAA-42 MRSAのバイオフィルムを示している。処理後、バイオフィルムをクリスタルバイオレットで可視化する。
【0029】
【
図5】
図5は、溶解素PlySs2のアミノ酸配列(配列番号1)およびコード核酸配列(配列番号2)を提供している。PlySs2溶解素のN末端のCHAPドメインおよびC末端のSH-3ドメインは網掛けされており、CHAPドメインは、LNN...から始まり、...YITで終わり(配列番号3)、SH-3ドメインは、RSY...から始まり、...VATで終わる(配列番号4)。PDB 2K3A(Rossi Pら(2009)Proteins 74:515-519)に対する相同性によって同定されたCHAPドメインの活性部位残基(Cys
26、His
102、Glu
118およびAsn
120)に下線が引かれている。
【0030】
【
図6】
図6は、クリスタルバイオレット染色によって評価された、MRSAバイオフィルムに対するPlySs2および抗生物質の活性の24時間の経時的解析を提供している。抗生物質ダプトマイシン(DAP)、バンコマイシン(VAN)およびリネゾリド(LZD)を各抗生物質について1000×MICで加えた。1×MICのPlySs2を加えた。
【0031】
【
図7】
図7は、MRSAバイオフィルムに対するPlySs2および抗生物質の活性の24時間の経時的解析において保持されていたバイオフィルムの指標として保持されていた色素の定量を示している。各抗生物質について1000×MICの抗生物質ダプトマイシン(DAP)、バンコマイシン(VAN)およびリネゾリド(LZD)を加えた。1×MICのPlySs2を加えた。
【0032】
【
図8】
図8は、クリスタルバイオレット染色によって評価された、MRSAバイオフィルムに対するMIC未満の濃度のPlySs2の24時間の時間経過を培地のみと比べて示している。PlySs2を0.1×MICおよび0.01×MICレベルでMRSA菌株BAA-42バイオフィルムに加えた。
【0033】
【
図9】
図9Aおよび9Bは、DEPCカテーテル上に成長したMRSAに対するバイオフィルム根絶研究を示している。A:カテーテルバイオフィルムを、培地のみ、1×MIC ダプトマイシン、1000×MIC ダプトマイシンおよび1×MIC PlySs2で24時間処理した後、フラッシングし(flushing)、メチレンブルーで染色し、写真撮影した。B:処理の24時間後、2つ組のカテーテルサンプルを、溶解緩衝液で処理して残留バイオフィルムを除去し、細菌のCFUを、ルシフェラーゼ試薬を使用し、既知濃度の細菌に対して較正した相対発光量(relative light units)に基づいて推定した。
【0034】
【
図10】
図10は、緩衝液、または1×MIC、0.1×MIC、0.01×MIC、0.001×MIC、0.0001×MICおよび0.00001×MIC PlySs2の滴定したMICのPlySs2で4時間処理した後にメチレンブルーで染色するDEPCカテーテルのMRSAバイオフィルムの滴定解析を示している。
【0035】
【
図11】
図11は、緩衝液、または5000×MIC、1000×MIC、100×MIC、10×MICおよび1×MICの滴定したダプトマイシン(DAP)で4時間処理した後にメチレンブルーで染色するDEPCカテーテルのMRSAバイオフィルムの滴定解析を示している。
【0036】
【
図12】
図12AおよびBは、DEPCカテーテル内のMRSAバイオフィルムに対するPlySs2活性の経時的解析を示している。A:カテーテルを、1×MIC PlySs2(32μg/ml)で5分間、15分間、30分間、60分間、90分間、2時間、3時間、4時間および5時間処理した後、フラッシングし、メチレンブルーで処理し、写真撮影した。B:各時間の処理の後、2つ組のカテーテルサンプルを、溶解緩衝液で処理して残留バイオフィルムを取り出し、細菌のCFUを、ルシフェラーゼ試薬を使用し、既知濃度の細菌に対して較正した相対発光量に基づいて推定した。
【0037】
【
図13】
図13は、
図11および12に示された研究に従って、DEPCカテーテルのMRSAバイオフィルムを示されている薬物濃度で4時間処理した後の、そのカテーテル(cathether)のバイオフィルムのCFU数の滴定解析を示している。薬物処理後に残存している細菌のCFUを、ルシフェラーゼ試薬を使用し、既知濃度の細菌に対して較正した相対発光量に基づいて推定した。ジ(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP)カテーテルの管腔上にStaphylococcus aureus菌株ATCC BAA-42によって形成されたバイオフィルムを、示されている濃度のPlySs2またはダプトマイシン(DAP)で4時間処理した。乳酸加リンガー溶液のみをコントロールとして含めた。処理後、そのカテーテルから排出して洗浄し、コロニー形成単位(CFU)を、アデノシン三リン酸(ATP)放出に基づく方法(BacTiter-Glo
TM Microbial Cell Viability Assayキット)を使用して測定した。赤色の線は、処理されたカテーテルチューブにおいてバイオフィルムのおおよそ等価な減少をもたらした、5000×最小阻止濃度(MIC)のDAPの濃度および0.01×MICのPlySs2を示している。略語一覧:
*=検出閾値未満。
【0038】
【
図14】
図14は、S.aureusバイオフィルムに対する溶解素ClySの活性を示している。BAA-42 MRSAのバイオフィルムを、示されている濃度のClyS溶解素(1×MIC 32μg/ml、0.1×MIC 3.2μg/ml、0.01×MIC 0.32μg/mlおよび0.001×MIC 0.032μg/ml)または培地のみで24時間処理した。各ウェルを洗浄し、2%クリスタルバイオレットで染色した。
【0039】
【
図15】
図15は、様々な投与様式によってPlySs2溶解素で処置した、皮下カテーテル埋め込み物を有するマウスにおけるインビボでのバイオフィルム研究の結果を提供している。バイオフィルムをカテーテル上で増殖させ、そのカテーテルをマウスに埋め込み、そのマウスを処置する。カテーテルを取り出し、メチレンブルーで染色し、その染色を600nmにおける吸光度によって定量した。ネガティブコントロール(細菌なし)、PlySs2コントロール(細菌なしのモック(mock)処置)、ビヒクル処置、PlySs2腹腔内投与(IP)、PlySs2静脈内投与(IV)およびPlySs2皮下投与(SC)の各々に対するカテーテルの600nm/gのODをグラフで表している。
【0040】
【
図16】
図16は、PlySS2溶解素またはダプトマイシンで処置した、MRSAカテーテルバイオフィルムの管腔の内容物を評価し、PlySs2または抗生物質ダプトマイシンの処置による経時的な細菌生存能および管腔の滅菌について評価する、経時的研究を示している。
【0041】
【
図17】
図17は、Staphylococcal epidermidis菌株CFS313(NRS34,VISE菌株)の細菌バイオフィルムを用いたカテーテル研究の滴定解析を示している。緩衝液、または10×MIC、1×MIC(8μg/ml)、0.1×MIC、0.01×MIC、0.001×MICおよび0.0001×MIC PlySs2という滴定MICのPlySs2で4時間処理した後のメチレンブルーによるバイオフィルムの染色を示している。
【0042】
【
図18】
図18は、24ウェルプレートに接種され、直ちに緩衝液もしくは1×MIC(32μg/ml)のPlySs2、または0.0001×MICまでの記述されている希釈物と混和された、BAA-42 MRSA細菌のバイオフィルム防止アッセイを示している。そのプレートを6時間インキュベートし、PBSで洗浄し、クリスタルバイオレットで染色することにより、バイオフィルムの生成を調べ、写真撮影した。
【0043】
【
図19】
図19は、緩衝液、または10×MIC、1×MIC(16μg/ml)、0.1×MIC、0.01×MICおよび0.001×MIC PlySs2という滴定MICのPlySs2で4時間処理した後にメチレンブルーで染色するカテーテルのMRSA菌株CFS553(ATCC43300)バイオフィルムの滴定解析を示している。
【0044】
【
図20】
図20は、緩衝液、または10×MIC、1×MIC(32μg/ml)、0.1×MIC、0.01×MICおよび 0.001×MIC PlySs2という滴定MICのPlySs2で4時間処理した後にメチレンブルーで染色するカテーテルのMRSA菌株CFS992(JMI5381)バイオフィルムの滴定解析を示している。
【0045】
【
図21】
図21は、PlySs2で処理し、洗浄し、固定し、走査した、3日経過したカテーテルS.aureusバイオフィルムの走査型電子顕微鏡像(SEM)を示している。0分間、30秒間および15分間のPlySs2処理が示されている。5000×倍率。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
本発明によると、当該分野の技術範囲内の従来の分子生物学、微生物学および組換えDNAの技法が使用されることがある。そのような技法は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrookら、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”(1989);“Current Protocols in Molecular Biology”Volumes I-III[Ausubel,R.M.,ed.(1994)];“Cell Biology:A Laboratory Handbook”Volumes I-III[J.E.Celis,ed.(1994))];“Current Protocols in Immunology”Volumes I-III[Coligan,J.E.,ed.(1994)];“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait ed.1984);“Nucleic Acid Hybridization”[B.D.Hames & S.J.Higgins eds.(1985)];“Transcription And Translation”[B.D.Hames & S.J.Higgins,eds.(1984)];“Animal Cell Culture”[R.I.Freshney,ed.(1986)];“Immobilized Cells And Enzymes”[IRL Press,(1986)];B.Perbal,“A Practical Guide To Molecular Cloning”(1984)を参照のこと。
【0047】
ゆえに、以下の用語が本明細書中に現れた場合、それらは、以下に示される定義を有するものとする。
【0048】
用語「PlySs溶解素(複数可」、「PlySs2溶解素」、「PlySs2」および具体的に列挙されない任意の変化形は、本明細書中で交換可能に使用されてもよく、本願全体および特許請求の範囲全体で使用されるとき、単一または複数のタンパク質を含むタンパク質性材料のことを指し、本明細書中に記載され、
図5および配列番号1に提示されるアミノ酸配列データ、ならびに本明細書中および特許請求の範囲に示される活性のプロファイルを有するタンパク質にまで及ぶ。したがって、実質的に等価な活性または変更された活性を示すタンパク質が、同様に企図される。これらの改変は、例えば、部位特異的変異誘発によって得られる改変などの計画的なものであり得るか、または複合体もしくはその指定されたサブユニットの産生者である宿主内での変異によって得られる改変などの偶発的なものであり得る。また、用語「PlySs溶解素(複数可)」、「PlySs2溶解素」、「PlySs2」は、本明細書中に具体的に列挙されるタンパク質、ならびに実質的に相同なアナログ、フラグメントまたは短縮化物(truncation)および対立遺伝子バリエーションのすべてをそれらの範囲内に含むと意図される。PlySs2溶解素は、米国特許出願61/477,836およびPCT出願PCT/US2012/34456に記載されている。より最近の論文でGilmerらは、PlySs2溶解素を記載している(Gilmer DBら(2013)Antimicrob Agents Chemother Epub 2013 April 9[PMID 23571534])。
【0049】
用語「ClyS」、「ClyS溶解素」とは、Staphylococcus aureusを含むブドウ球菌に対する活性を有するキメラ溶解素ClySのことを指し、それは、WO2010/002959に詳述されており、Danielら(Daniel,Aら(2010)Antimicrobial Agents and Chemother 54(4):1603-1612)にも記載されている。例示的なClySアミノ酸配列は、配列番号5に提供されている。そのようなClySの例示的なアミノ酸配列は、配列番号5に提供されている。
【0050】
「溶解酵素」は、好適な条件下で、適切な期間の間に、1つまたは複数の細菌を殺滅する任意の細菌細胞壁溶解酵素を含む。溶解酵素の例としては、様々なアミダーゼ細胞壁溶解酵素が挙げられるがこれに限定されない。
【0051】
「バクテリオファージ溶解酵素」とは、バクテリオファージから抽出されるかもしくは単離される溶解酵素、または溶解酵素の機能を維持する類似のタンパク質構造を有する合成された溶解酵素のことを指す。
【0052】
溶解酵素は、細菌細胞のペプチドグリカンに存在する結合を特異的に切断して、細菌細胞壁を破壊することができる。細菌細胞壁ペプチドグリカンがほとんどの細菌の間で高度に保存されていること、およびほんのいくつかの結合の切断だけで細菌細胞壁が破壊され得ることも現在、自明のこととみなされている。バクテリオファージ溶解酵素は、アミダーゼであり得るが、他のタイプの酵素でもあり得る。これらの結合を切断する溶解酵素の例は、ムラミダーゼ、グルコサミニダーゼ、エンドペプチダーゼまたはN-アセチル-ムラモイル-L-アラニンアミダーゼである。Fischettiら(1974)は、C1連鎖球菌ファージ溶解素酵素がアミダーゼであることを報告した。Garciaら(1987,1990)は、S.pneumoniaeのCp-1ファージ由来のCpl溶解素がリゾチームであることを報告した。CaldenteyおよびBamford(1992)は、phi6 Pseudomonasファージ由来の溶解酵素が、メソ-ジアミノピメリン酸(melo-diaminopemilic acid)およびD-アラニンによって形成さ
れたペプチド架橋を開裂するエンドペプチダーゼであることを報告した。大腸菌T1およびT6ファージの溶解酵素は、リステリアファージ由来の溶解酵素(ply)と同様のアミダーゼである(Loessnerら、1996)。細菌細胞壁を切断することができる当該分野で公知の他の溶解酵素も存在する。
【0053】
「バクテリオファージによって遺伝的にコードされる溶解酵素」は、例えば、宿主細菌に対する少なくともいくらかの細胞壁溶解活性を有することによって、宿主細菌を殺滅することができるポリペプチドを含む。そのポリペプチドは、天然配列の溶解酵素およびそのバリアントを包含する配列を有し得る。そのポリペプチドは、バクテリオファージ(「ファージ」)などの種々の起源から単離され得るか、または組換え法もしくは合成法によって調製され得る。そのポリペプチドは、カルボキシル末端側にコリン結合部分を含み得、アミノ末端側における、細胞壁ペプチドグリカンを切断することができる酵素活性(例えば、ペプチドグリカン中のアミド結合に対して作用するアミダーゼ活性)を特徴とし得る。複数の酵素活性、例えば、2つの酵素ドメインを含む溶解酵素、例えば、PlyGBS溶解素が報告されている。
【0054】
「天然配列のファージ関連溶解酵素」は、細菌に由来する酵素と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。そのような天然配列の酵素は、単離され得るか、または組換え手段もしくは合成手段によって作製され得る。
【0055】
用語「天然配列の酵素」は、その酵素の天然に存在する形態(例えば、選択的スプライシングされた形態または変更された形態)および天然に存在するバリアントを包含する。本発明の1つの実施形態において、天然配列の酵素は、Streptococcus suisに特異的なバクテリオファージ由来の遺伝子によって遺伝的にコードされる、成熟ポリペプチドまたは完全長ポリペプチドである。当然のことながら、Lopezら、Microbial Drug Resistance 3:199-211(1997);Garciaら、Gene 86:81-88(1990);Garciaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:914-918(1988);Garciaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:914-918(1988);Garciaら、Streptococcal Genetics(J.J.Ferretti and Curtis eds.,1987);Lopezら、FEMS Microbiol.Lett.100:439-448(1992);Romeroら、J.Bacteriol.172:5064-5070(1990);Rondaら、Eur.J.Biochem.164:621-624(1987)およびSanchezら、Gene 61:13-19(1987)などの刊行物において認められているように、いくつかのバリアントが存在し得、公知である。これらの参考文献の各々の内容、特に、配列表、および配列相同性に関する記載を含むそれらの配列を比較する付属のテキストは、それらの全体が明確に参照により援用される。
【0056】
「バリアント配列の溶解酵素」は、溶解酵素のポリペプチド配列と異なるポリペプチド配列を特徴とするが機能活性を保持している溶解酵素を含む。その溶解酵素は、いくつかの実施形態において、
図5および配列番号1に提供されるようなその溶解酵素配列(複数可)と特定のアミノ酸配列同一性を有するPlySs2の場合のように、Streptococcus suisに特異的なバクテリオファージによって遺伝的にコードされ得る。例えば、いくつかの実施形態において、機能的に活性な溶解酵素は、細菌の細胞壁を破壊することによって、Streptococcus suis菌、ならびに表1、2および3に示されているような細菌を含む本明細書中に提供されるような他の感受性細菌を殺滅し得る。活性な溶解酵素は、
図5および配列番号1に提供されるような本明細書の溶解酵素配列(複数可)と60、65、70、75、80、85、90、95、97、98、99または99.5%のアミノ酸配列同一性を有し得る。そのようなファージ関連溶解酵
素バリアントは、例えば、
図5および配列番号1に提供されるような本明細書の溶解酵素配列(複数可)の配列のNまたはC末端において1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されているかまたは欠失されている溶解酵素ポリペプチドを含む。
【0057】
特定の態様において、ファージ関連溶解酵素は、天然のファージ関連溶解酵素配列と少なくとも約80%または85%のアミノ酸配列同一性、特に、少なくとも約90%(例えば、90%)のアミノ酸配列同一性を有する。最も詳細には、ファージ関連溶解酵素バリアントは、PlySs2溶解素について
図5および配列番号1に提供されるような、またはClySについて以前に記載されたような(WO2010/002959およびDanielら(Daniel,Aら(2010)Antimicrobial Agents
and Chemother 54(4):1603-1612)ならびに配列番号5に記載されているようなものを含む)、本明細書の天然のファージ関連溶解酵素の配列(複数可)と少なくとも約95%(例えば、95%)のアミノ酸配列同一性を有し得る。
【0058】
同定されたファージ関連溶解酵素配列に関する「パーセントアミノ酸配列同一性」は、該配列を同じ読み枠でアラインメントし、必要であればギャップを導入して、最大パーセント配列同一性を得た後、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮せずに、ファージ関連溶解酵素配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして本明細書中で定義される。
【0059】
本明細書中で同定されたファージ関連溶解酵素配列に関する「パーセント核酸配列同一性」は、該配列をアラインメントし、必要であればギャップを導入して、最大パーセント配列同一性を得た後の、ファージ関連溶解酵素配列中のヌクレオチドと同一である候補配列中のヌクレオチドのパーセンテージと定義される。
【0060】
2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の同一性パーセントを決定するために、それらの配列を最適な比較目的でアラインメントする(例えば、第1のヌクレオチド配列の配列にギャップが導入され得る)。次いで、対応するヌクレオチドまたはアミノ酸の位置におけるヌクレオチドまたはアミノ酸を比較する。第1の配列中の位置が、第2の配列中の対応する位置と同じヌクレオチドまたはアミノ酸によって占められているとき、それらの分子は、その位置において同一である。2つの配列の間の同一性パーセントは、それらの配列が共有する同一の位置の数の関数である(すなわち、%同一性=(同一の位置の数/位置の総数)×100)。
【0061】
2つの配列の間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。2つの配列を比較するために利用される数学的アルゴリズムの非限定的な例は、本発明のヌクレオチド配列と所望の同一性を有する配列を同定するために使用され得るNBLASTプログラムに組み込まれている、Karlinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873-5877(1993)のアルゴリズムである。比較目的でギャップが導入されたアラインメントを得るために、Altschulら、Nucleic Acids Res,25:3389-3402(1997)に記載されているようなGapped BLASTが利用され得る。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えば、NBLAST)のデフォルトのパラメータが使用され得る。National Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine,National Institutes of Healthによって提供されるプログラムを参照のこと。
【0062】
「ポリペプチド」は、直鎖状の様式でつながった複数のアミノ酸からなるポリマー分子を含む。ポリペプチドは、いくつかの実施形態において、天然に存在するポリヌクレオチ
ド配列によってコードされる分子に対応し得る。そのポリペプチドは、天然に存在するアミノ酸が類似の特性を有するもので置き換えられた保存的置換を含み得、ここで、そのような保存的置換は、そのポリペプチドの機能を変化させない。
【0063】
用語「変更された溶解酵素」は、シャフリングした(shuffled)および/またはキメラの溶解酵素を含む。
【0064】
特定のファージが感染する細菌に特異的なファージ溶解酵素は、問題の細菌の細胞壁を効果的および効率的に壊すことが見出されている。その溶解酵素は、タンパク分解性の酵素活性を欠いていると考えられ、ゆえに、細菌細胞壁の消化中に存在しても、哺乳動物のタンパク質および組織に対して非破壊性である。さらに、ファージ溶解酵素の作用は、抗生物質とは異なって、標的病原体(複数可)に特異的であることが見出されているので、正常な細菌叢は、本質的にインタクトなままである(参照により本明細書中に援用されるM.J.Loessner,G.Wendlinger,S.Scherer,Mol Microbiol 16,1231-41.(1995))。実際に、PlySs2溶解素は、独特の広範な細菌種および菌株の殺滅を示しつつ、本明細書中に記載されるような、大腸菌を含む正常な細菌叢を構成する細菌に対して比較的および特に不活性である。
【0065】
本発明において有用な溶解酵素またはポリペプチドは、感染の徴候を有する他の者に曝された者が病気になることを妨げるための予防的処置として、またはその感染によってすでに病気になった者に対する治療的処置として、特定のバクテリオファージに感染した後の細菌生物によって産生され得るか、または組換え的にもしくは合成的に産生され得るかもしくは調製され得る。溶解素ポリペプチド配列およびその溶解素ポリペプチドをコードする核酸は、本明細書中に記載され、言及されている限り、その溶解酵素(複数可)/ポリペプチドは、好ましくは、本明細書中に例証されるような方法を含む当該分野の標準的な方法を用いて、ファージゲノム由来の溶解酵素に対する遺伝子を単離し、その遺伝子をトランスファーベクターに入れ、上記トランスファーベクターを発現系にクローニングすることを介して、生成され得る。その溶解酵素またはポリペプチドは、短縮化された、キメラ、シャフリングした、または「天然」のものであり得、組み合わせであり得る。関連性のある米国特許第5,604,109号は、その全体が参照により本明細書に援用される。「変更された」溶解酵素は、いくつかの方法で生成され得る。好ましい実施形態において、ファージゲノム由来の、変更された溶解酵素用の遺伝子は、トランスファーベクターまたは移動可能なベクター、好ましくは、プラスミドに入れられ、そのプラスミドは、発現ベクターまたは発現系にクローニングされる。本発明の溶解素ポリペプチドまたは溶解素酵素を生成するための発現ベクターは、大腸菌、Bacillusまたは他のいくつかの好適な細菌に好適なものであり得る。そのベクター系は、無細胞発現系でもあり得る。遺伝子または遺伝子セットを発現させるこれらの方法のすべてが、当該分野で公知である。溶解酵素は、Streptococcus suisをStreptococcus
suisに特異的なバクテリオファージに感染させることによっても作製され得、ここで、上記少なくとも1つの溶解酵素は、上記Streptococcus suisの細胞壁をもっぱら溶解し、他のもの、例えば、存在する天然または共生の細菌叢に対して多くとも最小効果しか有しない。(様々な共生ヒト腸細菌に対する溶解活性研究の結果を提供している表5を参照のこと)。
【0066】
「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、異種ポリペプチドに作動可能に連結された、本発明において有用なポリペプチドの全部または(好ましくは、生物学的に活性な)一部を含む。キメラタンパク質またはキメラペプチドは、例えば、2つ以上の活性部位を有する2つ以上のタンパク質を組み合わせることによって、生成される。キメラタンパク質およびキメラペプチドは、同じ分子または異なる分子に対して独立して作用し得るがゆえに、2つ以上の異なる細菌感染症を同時に処置する潜在能力を有する。キメラタ
ンパク質およびキメラペプチドは、細胞壁を2つ以上の位置において切断することによって、細菌感染症を処置するためにも使用され得、単一の溶解素分子またはキメラペプチドから潜在的により迅速または効果的な(または相乗的な)殺滅を提供する。
【0067】
DNA構築物またはペプチド構築物の「異種」領域は、より大きなDNA分子内のDNAまたはより大きなペプチド分子内のペプチドの同定可能なセグメントであって、天然には、そのより大きな分子と会合した状態で見出されない、セグメントである。したがって、異種領域が、哺乳動物遺伝子をコードするとき、その遺伝子は、通常、起源の生物のゲノムではその哺乳動物ゲノムDNAと隣接しないDNAに隣接している。異種コード配列の別の例は、そのコード配列自体が天然では見出されない構築物(例えば、ゲノムコード配列がイントロンを含むcDNA、または天然の遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列)である。対立遺伝子バリエーションまたは天然に存在する変異イベントは、本明細書中で定義されるようなDNAまたはペプチドの異種領域を生じさせない。
【0068】
用語「作動可能に連結された」は、本開示のポリペプチドと異種ポリペプチドとがインフレームで融合されていることを意味する。異種ポリペプチドは、本開示のポリペプチドのN末端またはC末端に融合され得る。キメラタンパク質は、化学合成または組換えDNA技術によって、酵素的に生成される。いくつかのキメラ溶解酵素が、生成されており、研究されている。有用な融合タンパク質の1つの例は、本開示のポリペプチドがGST配列のC末端に融合されたGST融合タンパク質である。そのようなキメラタンパク質は、本開示の組換えポリペプチドの精製を促進し得る。
【0069】
別の実施形態において、キメラタンパク質またはキメラペプチドは、そのN末端に異種のシグナル配列を含む。例えば、本開示のポリペプチドの天然のシグナル配列が、除去されて、別の公知のタンパク質由来のシグナル配列で置き換えられ得る。
【0070】
融合タンパク質は、異なる能力を有するかまたは追加の能力を提供するかまたは溶解素ポリペプチドに特色を付加するタンパク質またはポリペプチドと、溶解素ポリペプチドを組み合わせ得る。融合タンパク質は、本開示のポリペプチドの全部または一部が、免疫グロブリンタンパク質ファミリーのメンバーに由来する配列に融合されている、免疫グロブリン融合タンパク質であり得る。その免疫グロブリンは、抗体、例えば、感受性細菌または標的細菌の表面タンパク質またはエピトープに向けられた抗体であり得る。その免疫グロブリン融合タンパク質は、本開示のポリペプチドの同族リガンドのバイオアベイラビリティを変化させ得る。リガンド/レセプター相互作用の阻害は、細菌に関連する疾患および障害の処置と、細胞生存の調整(すなわち、促進または阻害)との両方にとって、治療的に有用であり得る。融合タンパク質は、特定の組織もしくは器官または表面(例えば、デバイス、プラスチック、膜)に対して溶解素を方向づけるまたは標的化する手段を含み得る。本開示のキメラタンパク質および融合タンパク質ならびにキメラペプチドおよび融合ペプチドは、標準的な組換えDNA法によって生成され得る。
【0071】
本明細書中に開示されるようなタンパク質またはペプチドおよびペプチドフラグメントの改変された形態または変更された形態は、化学的に合成されたもしくは組換えDNA法によって調製されたまたはその両方のタンパク質またはペプチドおよびペプチドフラグメントを含む。これらの技法としては、例えば、キメラ化およびシャフリングが挙げられる。本明細書中で使用されるとき、2つ以上の関係するファージタンパク質またはタンパク質ペプチドフラグメントに対するシャフリングしたタンパク質もしくはペプチド、遺伝子産物またはペプチドは、ランダムに切断され、より活性または特異的なタンパク質に再構成される。シャフリングしたオリゴヌクレオチド、ペプチドまたはペプチドフラグメント分子を選択するかまたはスクリーニングすることにより、所望の機能特性を有する分子が同定される。シャフリングを用いることにより、鋳型タンパク質よりも活性な、例えば、
最大10~100倍活性なタンパク質を作製することができる。鋳型タンパク質は、種々の様々な溶解素タンパク質の中から選択される。シャフリングしたタンパク質またはペプチドは、例えば、1つまたは複数の結合ドメインおよび1つまたは複数の触媒ドメインを構成する。そのタンパク質またはペプチドが、化学合成によって生成されるとき、それは、好ましくは、化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まず、すなわち、それは、そのタンパク質の合成に関与する化学前駆体または他の化学物質から分離される。したがって、タンパク質のそのような調製物は、目的のポリペプチド以外の化学前駆体または化合物を約30%、20%、10%、5%未満(乾燥重量基準)しか有しない。
【0072】
本発明は、本発明において有用なポリペプチドの他のバリアントにも関する。そのようなバリアントは、アゴニスト(模倣物)またはアンタゴニストとして機能し得る変更されたアミノ酸配列を有し得る。バリアントは、変異誘発、すなわち、不連続な点変異または短縮化によって、作製され得る。アゴニストは、そのタンパク質の天然に存在する形態の生物学的活性の実質的に同じ生物学的活性またはサブセットを保持し得る。タンパク質のアンタゴニストは、例えば、目的のタンパク質を含む細胞シグナル伝達カスケードの下流または上流のメンバーと競合的に結合することによって、そのタンパク質の天然に存在する形態の活性の1つまたは複数を阻害し得る。したがって、特異的な生物学的効果は、限られた機能のバリアントで処理することによって誘導され得る。そのタンパク質の天然に存在する形態の生物学的活性のサブセットを有するバリアントによる被験体の処置は、そのタンパク質の天然に存在する形態による処置と比べて少ない副作用を被験体にもたらし得る。アゴニスト(模倣物)またはアンタゴニストとして機能する本開示において有用なタンパク質のバリアントは、本開示のタンパク質の短縮化変異体などの変異体のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定され得る。1つの実施形態において、変化に富んだバリアントライブラリーは、核酸レベルでのコンビナトリアル変異誘発によって作製され、それは、変化に富んだ遺伝子ライブラリーによってコードされる。本開示のポリペプチドの潜在的なバリアントのライブラリーを縮重オリゴヌクレオチド配列から作製するために使用され得る種々の方法が存在する。本開示のポリペプチドのコード配列のフラグメントのライブラリーは、バリアント、活性なフラグメントまたは短縮化物をスクリーニングし、その後に選択するための、変化に富んだポリペプチド集団を作製するために使用され得る。点変異または短縮化によって作製されたコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングするため、および選択された特性を有する遺伝子産物についてcDNAライブラリーをスクリーニングするためのいくつかの技法が、当該分野で公知である。大きな遺伝子ライブラリーをスクリーニングするためのハイスループット解析に適用できる最も広く使用されている技法は、代表的には、複製可能な発現ベクターへの遺伝子ライブラリーのクローニング、得られたベクターのライブラリーによる適切な細胞の形質転換、およびある条件下でのコンビナトリアル遺伝子の発現を含み、その条件は、所望の活性の検出によって、遺伝子(その産物が検出される)をコードしているベクターの単離が促進される条件である。この文脈において、実施形態によるタンパク質(またはそのタンパク質をコードする核酸)の最も小さい部分は、溶解素タンパク質を生成するファージに特異的なものとして認識可能なエピトープである。したがって、標的またはレセプターに結合すると予想され得、いくつかの実施形態にとって有用な最小のポリペプチド、例えば、抗体(およびそのポリペプチドをコードする関連核酸)は、8、9、10、11、12、13、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、75、85または100アミノ酸長であり得る。8、9、10、11、12または15アミノ酸長もの短い小さい配列は、標的またはエピトープとして作用するのに十分な構造を確かに含むが、5、6または7アミノ酸長のより短い配列が、いくつかの条件において標的またはエピトープの構造を示し得、ある実施形態では価値があり得る。したがって、
図5および配列番号1に示されているものならびに配列番号3および4のドメイン配列を含む本明細書中に提供されるタンパク質(複数可)または溶解素ポリペプチドの最も小さい部分は、5、6、7、8、9、10、12、14または16アミノ酸長も
の小さいポリペプチドを含む。
【0073】
本明細書中に記載されるように、実施形態のタンパク質またはペプチドフラグメントの生物学的に活性な部分は、本開示の溶解素タンパク質のアミノ酸配列と十分に同一であるかまたはそれに由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、それは、溶解素タンパク質の完全長タンパク質よりも少ないアミノ酸を含み、対応する完全長タンパク質の少なくとも1つの活性を示す。代表的には、生物学的に活性な部分は、対応するタンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含む。本開示のタンパク質またはタンパク質フラグメントの生物学的に活性な部分は、例えば、10、25、50、100程度の(less or more)アミノ酸長であるポリペプチドであり得る。さらに、タンパク質の他の領域が欠失されているかまたは付加されている他の生物学的に活性な部分は、組換え法によって調製され得、実施形態のポリペプチドの天然の形態の機能活性の1つまたは複数について評価され得る。
【0074】
当業者によって認識されているように、そのような低分子タンパク質および/または核酸(またはより大きな分子のタンパク質領域および/もしくは核酸領域)と機能を共有する相同タンパク質および相同核酸が調製され得る。特に相同であり得る、より大きな分子のそのような小分子および短い領域が、実施形態として意図されている。好ましくは、そのような有益な領域の相同性は、
図5および配列番号1に示されているものならびに配列番号3および4のドメイン配列を含む本明細書中に提供される溶解素ポリペプチドと比べて、少なくとも50%、65%、75%、80%、85%、好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、98%または少なくとも99%である。これらのパーセント相同性の値は、保存的アミノ酸置換に起因する変更を含まない。
【0075】
2つのアミノ酸配列は、アミノ酸残基の少なくとも約70%(好ましくは、少なくとも約80%、少なくとも約85%、好ましくは、少なくとも約90または95%)が同一であるかまたは保存的置換を示すとき、「実質的に相同」である。比較可能な溶解素(例えば、比較可能なPlySs2溶解素または比較可能なClyS溶解素)の配列は、溶解素ポリペプチドのアミノ酸の1つまたは複数またはいくつかまたは最大10%または最大15%または最大20%が、類似のまたは保存的なアミノ酸置換で置換されるとき、実質的に相同であり、ここで、それらの比較可能な溶解素は、本明細書中に開示される溶解素(例えば、PlySs2溶解素および/またはClyS溶解素)の活性、抗菌効果および/または細菌特異性のプロファイルを有する。
【0076】
本明細書中に記載されるアミノ酸残基は、「L」異性体であることが好ましい。しかしながら、免疫グロブリン結合に関する所望の機能(fuctional)特性がそのポリペプチドによって保持される限り、「D」異性体である残基も、任意のL-アミノ酸残基の代わりに用いることができる。NH2とは、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基のことを指す。COOHとは、ポリペプチドのカルボキシ末端に存在する遊離カルボキシ基のことを指す。標準的なポリペプチド命名法であるJ.Biol.Chem.,243:3552-59(1969)に一致して、アミノ酸残基に対する省略形を以下の対応表に示す:
対応表
記号 アミノ酸
1文字 3文字
Y Tyr チロシン
G Gly グリシン
F Phe フェニルアラニン
M Met メチオニン
A Ala アラニン
S Ser セリン
I Ile イソロイシン
L Leu ロイシン
T Thr トレオニン
V Val バリン
P Pro プロリン
K Lys リジン
H His ヒスチジン
Q Gln グルタミン
E Glu グルタミン酸
W Trp トリプトファン
R Arg アルギニン
D Asp アスパラギン酸
N Asn アスパラギン
C Cys システイン
【0077】
特定のコドンが、異なるアミノ酸をコードするコドンに変更されるか、あるアミノ酸が別のアミノ酸の代わりに用いられるか、または1つもしくは複数のアミノ酸が欠失されるように、アミノ酸配列において、または本明細書中のポリペプチドおよび溶解素をコードする核酸配列において(
図5および配列番号1に示される溶解素配列において、または配列番号3もしくは4のドメイン配列において、あるいはそれらの活性なフラグメントまたは切断物において、を含む)変異が作製され得る。そのような変異は、通常、最も少ないアミノ酸またはヌクレオチドの変更を可能にすることによって、作製される。この種の置換変異は、非保存的様式で(例えば、特定のサイズまたは特徴を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸から別の分類に属するアミノ酸にコドンを変更することによって)または保存的様式で(例えば、特定のサイズまたは特徴を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸から同じ分類に属するアミノ酸にコドンを変更することによって)、生じるタンパク質においてアミノ酸を変化させることができる。そのような保存的変更は、通常、生じるタンパク質の構造および機能をそれほど変化させない。非保存的変更は、生じるタンパク質の構造、活性または機能を変化させる可能性が高い。本発明は、生じるタンパク質の活性または結合特性を有意に変化させない保存的変更を含む配列を含むと考えられるべきである。
【0078】
以下は、アミノ酸の様々な分類の一例である:
非極性のR基を有するアミノ酸
アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン
無電荷極性のR基を有するアミノ酸
グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン
荷電極性R基を有するアミノ酸(Ph6.0において負に帯電)
アスパラギン酸、グルタミン酸
塩基性アミノ酸(pH6.0において正に帯電)
リジン、アルギニン、ヒスチジン(pH6.0において)
【0079】
別の分類は、フェニル基を有するアミノ酸であり得る:
フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン
【0080】
別の分類は、分子量(すなわち、R基のサイズ)に従った分類であり得る:
グリシン 75 アラニン 89
セリン 105 プロリン 115
バリン 117 トレオニン 119
システイン 121 ロイシン 131
イソロイシン 131 アスパラギン 132
アスパラギン酸 133 グルタミン 146
リジン 146 グルタミン酸 147
メチオニン 149 ヒスチジン(pH6.0において) 155
フェニルアラニン 165 アルギニン 174
チロシン 181 トリプトファン 204
【0081】
特に好ましい置換は、以下である:
正電荷が維持され得るような、Argの代わりのLysおよびその逆;
負電荷が維持され得るような、Aspの代わりのGluおよびその逆;
遊離-OHが維持され得るような、Thrの代わりのSer;および
遊離NH2が維持され得るような、Asnの代わりのGln。
【0082】
例示的なおよび好ましい保存的アミノ酸置換としては、グルタミン酸(E)の代わりのグルタミン(Q)およびその逆;バリン(V)の代わりのロイシン(L)およびその逆;トレオニン(T)の代わりのセリン(S)およびその逆;バリン(V)の代わりのイソロイシン(I)およびその逆;グルタミン(Q)の代わりのリジン(K)およびその逆;メチオニン(M)の代わりのイソロイシン(I)およびその逆;アスパラギン(N)の代わりのセリン(S)およびその逆;メチオニン(M)の代わりのロイシン(L)およびその逆;グルタミン酸(E)の代わりのリジン(L)およびその逆;セリン(S)の代わりのアラニン(A)およびその逆;フェニルアラニン(F)の代わりのチロシン(Y)およびその逆;アスパラギン酸(D)の代わりのグルタミン酸(E)およびその逆;イソロイシン(I)の代わりのロイシン(L)およびその逆;アルギニン(R)の代わりのリジン(K)およびその逆のいずれかが挙げられる。
【0083】
アミノ酸の置換は、特定の好ましい特性を有するアミノ酸を置換するためにも導入され得る。例えば、Cysは、別のCysとのジスルフィド架橋のための潜在的な部位として導入され得る。Hisは、特定の「触媒」部位として導入され得る(すなわち、Hisは、酸または塩基として作用することができ、生化学的な触媒における最も一般的なアミノ酸である)。Proは、タンパク質の構造内にβ-ターンを誘導するその特定の平面構造を理由に、導入され得る。
【0084】
したがって、当業者は、本明細書中に提供されるPlySs2溶解素ポリペプチドの配列の精査ならびに他の溶解素ポリペプチドについての当業者の知識および入手可能な公的な情報に基づいて、溶解素ポリペプチド配列においてアミノ酸の変更または置換を行うことができる。アミノ酸の変更を行って、本明細書中に提供される溶解素(複数可)の配列中の1個または複数個、1個または数個、1個またはいくつか、1~5個、1~10個またはそのような他の数のアミノ酸を置き換えるかまたは置換することにより、それらの変異体またはバリアントが作製され得る。そのようなそれらの変異体またはバリアントは、ブドウ球菌、連鎖球菌、リステリア菌もしくは腸球菌を含む細菌を殺滅するための、および/または本明細書中に記載されるような、特に本明細書中に提供されるような溶解素(複数可)に匹敵する活性を有するための機能について予測され得るか、または機能もしくは能力について試験され得る。したがって、変更は、溶解素の配列に対して行われ得、配列中に変更を有する変異体またはバリアントは、本明細書中に記載されるおよび例証されるアッセイおよび方法(実施例中のものを含む)を用いて試験され得る。当業者は、本明細書の溶解素(複数可)のドメイン構造に基づいて、合理的な保存的置換もしくは非保存的置換を含む、置換もしくは置き換えに適した、1個または複数個のアミノ酸、1個もしくはいくつかのアミノ酸、および/または置換や置き換えに適さない1つまたは複数のア
ミノ酸を予測し得る。
【0085】
この点において、例示としてPlySs2溶解素に関して、PlySs2ポリペプチド溶解素は、多岐にわたるクラスのプロファージ溶解酵素であるが、その溶解素は、
図5に示されているように、N末端のCHAPドメイン(システイン-ヒスチジンアミドヒドロラーゼ/ペプチダーゼ)(配列番号3)およびC末端のSH3-タイプ5ドメイン(配列番号4)を含むことに注目する。それらのドメインは、別々の色の網掛け領域のアミノ酸配列中に示されており、ここで、CHAPドメインは、LNN...から始まる最初の網掛けアミノ酸配列領域に対応し、SH3-タイプ5ドメインは、RSY...から始まる2番目の網掛け領域に対応する。CHAPドメインは、以前に特徴付けられたいくつかの連鎖球菌およびブドウ球菌のファージ溶解素に含まれている。したがって、当業者は、PlySs2のCHAPドメインおよび/またはSH-3ドメインについての置換または置き換えを合理的に作製し得、試験し得る。Genbankデータベースとの配列の比較は、例えば、置換のためのアミノ酸を同定するために、CHAPおよび/もしくはSH-3ドメイン配列のいずれかもしくは両方、またはPlySs2溶解素の完全アミノ酸配列でなされ得る。
【0086】
PlySs2溶解素は、ブドウ球菌、連鎖球菌、リステリア菌または腸球菌を含むグラム陽性菌の数多くの異なる菌株および種を殺滅する活性および能力を示す。特におよび有意なことに、PlySs2は、Staphylococcus aureus、特に、抗生物質感性菌株および異なる抗生物質耐性菌株の両方を含むブドウ球菌の菌株の殺滅において活性である。PlySs2は、連鎖球菌の菌株の殺滅においても活性であり、A群およびB群連鎖球菌株に対して特に有効な殺滅を示す。細菌に対するPlySs2溶解素の能力は、単離された菌株をインビトロで使用する対数殺滅評価(log kill assessments)に基づいて下記の表1に示される。様々なグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌ならびに抗生物質耐性Staphylococcus aureus菌株に対するPlySs2の活性を、下記の表2および3に作表する。相対的な殺滅活性を提供する、それらの細菌に対するPlySs2のMIC範囲が記述されている。
表1
PlySs2による種々の細菌の増殖の低減(部分的な列挙)
【表1】
表2
感受性菌株および非感受性菌株
【表2】
表3
抗生物質耐性Staphylococcus aureusに対するPlySs2の活性
【表3】
【0087】
様々な文法上の形態での句「モノクローナル抗体」とは、特定の抗原と免疫反応することができるただ1つの種の抗体結合部位を有する抗体のことを指す。したがって、モノクローナル抗体は、代表的には、それと免疫反応する任意の抗原に対して単一の結合親和性を示す。ゆえに、モノクローナル抗体は、その各部位が異なる抗原に免疫特異的である、複数の抗体結合部位を有する抗体分子;例えば、二重特異性(キメラ)モノクローナル抗体を含んでもよい。
【0088】
用語「特異的」は、特異的結合対の1つのメンバーが、その特異的結合パートナー(複数可)以外の分子に対して有意な結合を示さない状況のことを指すために使用され得る。その用語は、例えば、抗原結合ドメインが、いくつかの抗原によって保持される特定のエピトープに特異的である場合にも当てはまり、その場合、その抗原結合ドメインを保持する特異的結合メンバーは、そのエピトープを保持する様々な抗原に結合することができる。
【0089】
用語「含む(comprise)」は、含む(include)の意味において広く使用され、換言すると、1つまたは複数の特長または成分の存在を可能にするものである。
【0090】
用語「~から本質的になる」とは、より大きな生成物に共有結合していない生成物、特に、定義された数の残基のペプチド配列のことを指す。しかしながら、本明細書の本発明のペプチドの場合、当業者は、ペプチドのNまたはC末端に対する軽微な改変(例えば、保護基などを付加する末端の化学修飾、例えば、C末端のアミド化)が、企図され得ることを認識する。
【0091】
用語「単離された」とは、本発明によれば、本発明の溶解素ポリペプチド(複数可)またはそのようなポリペプチドをコードする核酸が存在する状況のことを指す。ポリペプチドおよび核酸は、それらが天然に会合する材料(例えば、それらの天然の環境またはそれらが調製される環境(例えば、細胞培養)(そのような調製がインビトロまたはインビボにおいて実施される組換えDNA技術によるとき)においてそれらとともに見出される他のポリペプチドまたは核酸)を含まないかまたは実質的に含まない。ポリペプチドおよび核酸は、希釈剤またはアジュバントとともに製剤化され得、なおも実際的な目的のために単離され得、例えば、ポリペプチドは、通常、ポリマーもしくは粘膜接着剤(mucoadhesives)もしくは他のキャリアと混合されるか、または診断もしくは治療において使用されるとき、薬学的に許容され得るキャリアもしくは希釈剤と混合される。
【0092】
本発明において有用かつ適用可能なS.suis PlySs2溶解素ポリペプチド(複数可)をコードすることができる核酸が、本明細書中に提供される。この文脈における代表的な核酸配列は、
図5または配列番号1のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、特に、配列番号1のポリペプチドをコードすることができる配列番号2のポリヌクレオチド配列、ならびに配列番号2および/または
図5のDNA配列の相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列である。これらの配列および図に示される配列とハイブリダイズする核酸配列のさらなるバリアントもまた、本開示による溶解酵素の生成において使用するために企図される(得られる可能性がある天然のバリアントを含む)。ファージ関連溶解酵素をコードする多種多様の単離された核酸配列またはcDNA配列、およびそのような遺伝子配列とハイブリダイズする部分配列は、本発明の溶解素酵素(複数可)または溶解素ポリペプチド(複数可)の組換え生成にとって有用である。
【0093】
「レプリコン」は、インビボにおけるDNA複製の自律的単位として機能する;すなわち、それ自体の制御下において複製することができる、任意の遺伝的エレメント(例えば
、プラスミド、染色体、ウイルス)である。
【0094】
「ベクター」は、結合したセグメントの複製をもたらすように別のDNAセグメントが結合し得るレプリコン(例えば、プラスミド、ファージまたはコスミド)である。
【0095】
「DNA分子」とは、その一本鎖の形態または二本鎖のへリックスのいずれかでの、デオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミンまたはシトシン)の重合体のことを指す。この用語は、その分子の一次構造および二次構造のことだけを指し、それをいかなる特定の三次の形態にも限定しない。したがって、この用語は、とりわけ、線形のDNA分子(例えば、制限フラグメント)、ウイルス、プラスミドおよび染色体に見出される二本鎖DNAを含む。特定の二本鎖DNA分子の構造を記述する際、配列は、転写されないDNA鎖(すなわち、mRNAに相同な配列を有する鎖)に沿って5’から3’への方向で1つの配列だけを与えるという通常の慣習に従って本明細書中に記載され得る。
【0096】
「複製起点」とは、DNA合成に関与するDNA配列のことを指す。
【0097】
DNA「コード配列」は、適切な調節配列の制御下に置かれたとき、インビボにおいて転写され、ポリペプチドに翻訳される、二本鎖DNA配列である。コード配列の境界線は、5’(アミノ)末端における開始コドンおよび3’(カルボキシル)末端における翻訳終止コドンによって決定される。コード配列には、原核生物の配列、真核生物のmRNA由来のcDNA、真核生物(例えば、哺乳動物)のDNAのゲノムDNA配列、および合成のDNA配列までもが含まれ得るが、これらに限定されない。ポリアデニル化シグナルおよび転写終結配列は、通常、コード配列に対して3’に配置される。
【0098】
転写制御配列および翻訳制御配列は、宿主細胞においてコード配列の発現を提供するDNA調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなど)である。
【0099】
「プロモーター配列」は、細胞においてRNAポリメラーゼに結合することができ、下流の(3’方向の)コード配列の転写を開始することができる、DNA調節領域である。本発明を定義する目的のため、プロモーター配列は、その3’末端で転写開始部位と境界を接し、上流(5’方向)に伸びて、バックグラウンドより高い検出可能なレベルで転写を開始させるのに必要な最小数の塩基またはエレメントを含む。プロモーター配列の中には、転写開始部位(ヌクレアーゼS1を用いたマッピングによって慣習的に定義される)、ならびにRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が見出される。真核生物のプロモーターは、常にではないがしばしば、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含む。原核生物のプロモーターは、-10および-35のコンセンサス配列に加えてシャイン・ダルガノ配列を含む。
【0100】
「発現制御配列」は、別のDNA配列の転写および翻訳を制御し、調節するDNA配列である。RNAポリメラーゼが、コード配列をmRNAに転写し、次いでそれが、そのコード配列によってコードされるタンパク質に翻訳されるとき、そのコード配列は、細胞において転写制御配列および翻訳制御配列の「制御下」にある。
【0101】
「シグナル配列」は、コード配列の前に含まれ得る。この配列は、ポリペプチドを細胞表面に方向づけるようにまたはポリペプチドを培地中に分泌するように宿主細胞に伝える、そのポリペプチドに対してN末端のシグナルペプチドをコードし、このシグナルペプチドは、そのタンパク質が細胞を離れる前に宿主細胞によって削り取られる。シグナル配列は、原核生物および真核生物を起源とする種々のタンパク質と会合した状態で見出され得る。
【0102】
用語「オリゴヌクレオチド」は、本発明のプローブについて言及する際に本明細書中で使用されるとき、2つ以上、好ましくは、3つより多いリボヌクレオチドからなる分子として定義される。その正確なサイズは、多くの因子に依存し、言い換えればその因子は、そのオリゴヌクレオチドの最終的な機能および用途に依存する。
【0103】
本明細書中で使用されるとき、用語「制限エンドヌクレアーゼ」および「制限酵素」とは、細菌の酵素のことを指し、その各々は、特定のヌクレオチド配列において、または特定のヌクレオチド配列付近で、二本鎖DNAを切断する。
【0104】
外来性または異種DNAが、細胞の内部に導入されているとき、その細胞は、そのようなDNAによって「形質転換されている」。形質転換DNAは、細胞のゲノムを構成している染色体DNAに組み込まれて(共有結合的に連結されて)いてもよいし、そうでなくてもよい。原核生物、酵母および哺乳動物の細胞において、例えば、形質転換DNAは、プラスミドなどのエピソームエレメント上に維持され得る。真核細胞に関して、安定に形質転換された細胞は、形質転換DNAが、染色体複製を介して娘細胞に受け継がれるように染色体に組み込まれた細胞である。この安定性は、その真核細胞が、形質転換DNAを含む娘細胞の集団からなる細胞系またはクローンを確立する能力によって実証される。「クローン」は、有糸分裂による単一の細胞または共通の祖先に由来する細胞の集団である。「細胞系」は、多くの世代にわたってインビトロで安定して成長することができる初代細胞のクローンである。
【0105】
ヌクレオチドの少なくとも約75%(好ましくは、少なくとも約80%、最も好ましくは、少なくとも約90または95%)が、そのDNA配列の定義された長さにわたってマッチするとき、それらの2つのDNA配列は、「実質的に相同」である。実質的に相同な配列は、配列データバンクにおいて利用可能な標準的なソフトウェアを使用して、または例えば、特定の系について定義されるようなストリンジェントな条件下での、サザンハイブリダイゼーション実験において、それらの配列を比較することによって同定され得る。適切なハイブリダイゼーション条件の定義は、当該分野の技術範囲内である。例えば、Maniatisら、上掲;DNA Cloning,Vols.I & II,上掲;Nucleic Acid Hybridization,上掲を参照のこと。
【0106】
本明細書中に具体的に開示されるものの誘導体であり、溶解素ポリペプチド(複数可)の機能特性を有するタンパク質をなおもコードするがヌクレオチドの欠失、付加または置換によって開示されているものと異なる、DNA分子およびヌクレオチド配列が、本開示によって企図される。開示されるDNA分子に由来する小さいDNA分子も含まれる。そのような小さいDNA分子には、ハイブリダイゼーションプローブまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーとしての使用に適したオリゴヌクレオチドが含まれる。したがって、これらの小さいDNA分子は、少なくとも、Staphylococcus suisのバクテリオファージによって遺伝的にコードされる溶解酵素のセグメントを含み、PCRの目的のために、その遺伝子の少なくとも10~15ヌクレオチド配列、より好ましくは、15~30ヌクレオチド配列を含む。上に記載されたような開示されるDNA分子に由来するDNA分子およびヌクレオチド配列は、開示されるDNA配列またはそのフラグメントとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列としても定義され得る。
【0107】
本開示の好ましい実施形態において、ストリンジェントな条件は、25%超の配列バリエーション(「ミスマッチ」とも呼ばれる)を有するDNA分子がハイブリダイズしない条件として定義され得る。より好ましい実施形態において、ストリンジェントな条件は、15%超のミスマッチを有するDNA分子がハイブリダイズしない条件であり、より好ま
しくはなおも、ストリンジェントな条件は、10%超のミスマッチを有するDNA配列がハイブリダイズしない条件である。好ましくは、ストリンジェントな条件は、6%超のミスマッチを有するDNA配列がハイブリダイズしない条件である。
【0108】
遺伝暗号の縮重は、コードされるタンパク質のアミノ酸配列を維持する一方、DNA分子のヌクレオチド配列中の主要なバリエーションを可能にするので、その縮重は、実施形態の範囲をさらに広げる。したがって、遺伝子のヌクレオチド配列は、コードされるタンパク質のアミノ酸組成またはタンパク質の特徴に影響せずに、この位置において、これらの3つのコドンのうちのいずれかに変更され得る。特定のアミノ酸についての遺伝暗号およびヌクレオチドコドンにおけるバリエーションは、当業者に周知である。遺伝暗号の縮重に基づくと、バリアントDNA分子は、上に記載されたような標準的なDNA変異誘発法を使用して、またはDNA配列の合成によって、本明細書中に開示されるcDNA分子から得られ得る。遺伝暗号の縮重に基づく配列バリエーションのせいで、開示されるcDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしないDNA配列は、本明細書中において、本開示によって包含される。
【0109】
したがって、PlySs2およびPlySs1を含む本発明の溶解素をコードするDNA配列もまた、本発明の範囲内であると認識されるべきであり、その配列は、
図5または配列番号1に提供されるものと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするが、それに対して縮重であるか、または
図5および配列番号2に提供される例示的な核酸配列に対して縮重である。「~に対して縮重」とは、異なる3文字コドンを使用することにより、特定のアミノ酸が特定されることを意味する。特定の各アミノ酸をコードするために交換可能に使用され得るコドンは、当該分野で周知である。
【0110】
当業者は、本明細書に記載されるおよび当該分野で公知であるDNA変異誘発法が、Streptococcus suisのバクテリオファージ溶解素をコードするが、本明細書中に記載され、提供される溶解ポリペプチドの不可欠な特徴を維持する、多種多様のDNA分子を生成し得ることを認識する。新しく得られるタンパク質はまた、下記でさらに十分に記載されるように、溶解ポリペプチド(複数可)の特徴についてバリエーションを得るために選択され得る。そのような誘導体は、アミノ酸配列中に軽微な欠失、付加および置換を含むバリエーションを有する誘導体を含む。
【0111】
アミノ酸配列のバリエーションを導入するための部位は、予め決定され得る一方で、変異自体が予め決定される必要はない。アミノ酸置換は、代表的には、単一残基に由来するか、または1個または複数個、1個もしくは数個、1、2、3、4、5、6もしくは7個の残基に由来し得;挿入は、通常、およそ約1~10アミノ酸残基であり得;欠失は、約1~30残基の範囲であり得る。欠失または挿入は、単一の形態で存在し得るが、好ましくは、隣接した対で行われる(すなわち、2残基の欠失または2残基の挿入)。置換、欠失、挿入またはそれらの任意の組み合わせが組み合わされて、最終的な構築物に到達し得る。置換バリアントは、アミノ酸配列中の少なくとも1つの残基が除去され、異なる残基がその場所に挿入されたバリアントである。そのような置換は、タンパク質の特徴に対して有意な影響をもたらさないように、またはタンパク質の特徴の細かい調整が望まれるとき、行われ得る。タンパク質中の元のアミノ酸の代わりに用いられてもよく、かつ、保存的置換とみなされるアミノ酸は、上に記載されており、当業者によって認識される。
【0112】
当該分野で周知であるように、DNA配列は、適切な発現ベクター内の発現制御配列にそれらを作動可能に連結し、その発現ベクターを使用して、適切な単細胞宿主を形質転換することによって、発現され得る。当然のことながら、発現制御配列への本発明のDNA配列のそのような作動可能な連結は、すでにそのDNA配列の一部でない場合、そのDNA配列の上流への正確な読み枠での開始コドンATGの提供を含む。多種多様の宿主/発
現ベクターの組み合わせが、本発明のDNA配列を発現させる際に使用され得る。例えば、有用な発現ベクターは、染色体の、非染色体の、および合成のDNA配列のセグメントからなり得る。任意の多種多様の発現制御配列、すなわち、それに作動可能に連結されるDNA配列の発現を制御する配列が、これらのベクター内で使用されることにより、本発明のDNA配列が発現し得る。多種多様の単細胞宿主細胞もまた、本発明のDNA配列を発現させる際に有用である。これらの宿主には、周知の真核生物宿主および原核生物宿主(例えば、大腸菌、Pseudomonas、Bacillus、Streptomyces、酵母などの真菌の菌株、ならびに組織培養中の動物細胞、ヒト細胞および植物細胞)が含まれ得る。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく所望の発現を達成するために、過度の実験を行うことなく、適切なベクター、発現制御配列および宿主を選択することができる。
【0113】
本明細書中で使用され、当該分野において言及されるとき、バイオフィルムは、明確な構造を有する微生物の凝集塊である。バイオフィルムの形成には、自由に浮遊する微生物が表面に接着することが必要である。バイオフィルムは本質的に、各々がほんの1または2マイクロメートル長である微生物細胞が、数百マイクロメートルの高さであり得る塔状物などの入り組んだ構造を形成している集合体である。バイオフィルム内のチャネルは、生存可能なバイオフィルムコミュニティーを維持するために必要な栄養分、酸素、老廃物などを循環させる流体で満たされた導管として作用する。そのバイオフィルムまたは微生物(細菌、真菌または藻類)コミュニティーは、代表的には、微生物細胞によって産生される細胞外の生体高分子によって囲まれており、液体と表面との界面に接着する。バイオフィルムの被包特性は、その中の微生物を標準的な抗菌治療薬に対して高度に耐性にするいくつかの特性の1つである。バイオフィルム内で増殖する細菌は、例えば、抗生物質に対して高度に耐性であり、場合によっては、バイオフィルムの上部構造なしで同じ細菌が増殖するときよりも最大1,000倍耐性である。
【0114】
バイオフィルムで汚染された埋め込み物が検出される場合には、標準的な抗生物質治療は、無駄であり得、そのような状況下での唯一の頼みの綱は、汚染された埋め込み物を除去することであり得る。さらに、バイオフィルムは、数多くの慢性疾患に関わっている。例えば、嚢胞性線維症の患者は、抗生物質耐性バイオフィルムを生じることが多いPseudomonas感染症に悩まされる。自由に浮遊する微生物がそれ自体表面に接着すると、バイオフィルムの形成が起きる。バイオフィルムは、それらの細菌を保護するので、それらの細菌は、従来の抗菌処置に対してより耐性になることが多く、それらは重大な健康上のリスクになり、これは、毎年100万を超えるカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)の症例が報告されることによって証明されており、これらの多くの原因は、バイオフィルム関連細菌であり得る(Donlan,RM(2001)Emerg Infect Dis 7(2):277-281;Maki D and Tambyah P(2001)Emerg Infect Dis 7(2):342-347)。
【0115】
バイオフィルム形成を防止するために様々なアプローチが試みられており、そのアプローチは、化学的および力学的手段を使用して、タンパク質の吸着またはバイオフィルムの接着を阻害することを含む。化学的アプローチには、留置デバイスの抗微生物コーティングおよびポリマー改変が含まれる。抗生物質、殺生物剤およびイオンのコーティングは、バイオフィルム防止の化学的方法の例であり、未成熟なバイオフィルムの付着および拡大を干渉し得る。しかしながら、これらのコーティングは、短期間(約1週間)だけしか有効でなく、その後は、抗微生物剤の浸出によって、コーティングの有効性が低下する(Dror Nら(2009)Sensors 9(4):2538-2554)。いくつかのインビトロ研究から、感染の防止において、銀が、コーティングの形態と、ポリマーマトリックスに分散されたナノ粒子の両方の形態で有効であることが確認された。しかしながら、ヒト組織に対して潜在的な毒性作用がある銀をインビボで使用することに対する懸
念が残っており、銀のコーティングの使用は限られている。このことにもかかわらず、銀のコーティングは、カテーテルなどのデバイスに使用されている(Vasilev Kら(2009)Expert Rev Med Devices 6(5):553-567)。抗菌剤は、ポリマー改変を介して、長い可撓性の重合鎖を使用して、デバイス表面に固定化され得る。これらの鎖は、共有結合によってデバイス表面上に固定され、非浸出性の接触殺滅表面をもたらす。インビトロ研究から、抗微生物剤であるN-アルキルピリジニウムブロミドが、ポリ(4-ビニル-N-ヘキシルピリジン)に付着すると、そのポリマーは、99%超のS.epidermidis、大腸菌およびP.aeruginosa菌を不活性化できることが見出された(Jansen B and Kohnen W(1995)J Ind Microbiol 15(4):391-396)。
【0116】
バイオフィルムを防止する力学的アプローチは、カテーテルなどのデバイスの表面を変化させること(デバイス表面の疎水性を改変することを含む)、表面が滑らかな材料を使用してその物理的性質を変化させること、および表面電荷を変化させることを含む。重合鎖の疎水性および電荷は、いくつかの骨格化合物、および正に帯電したポリカチオンを含む抗微生物剤を使用することによって、制御され得る。別のアプローチでは、表面、この場合、カテーテルに広がる周期的な矩形パルスおよび矩形波を送達する畜電池式デバイスから低エネルギー表面弾性波を発生させ、表面への細菌の接着を防止する水平波をもたらす。この技法は、白色ウサギおよびモルモットにおいて試験され、バイオフィルム増殖を減少させた(Hazan,Zら(2006)Antimicrob Agents and Chemother 50(12):4144-152)。
【0117】
本発明によると、細菌バイオフィルムの防止、分散および処置のための方法および組成物が提供される。ブドウ球菌を含むバイオフィルムの防止、分散および処置のための方法および組成物が、特に提供される。特に、抗生物質耐性および/または抗生物質感性S.aureusを含む(including)または含む(comprising)Staphylococcus aureusを含むバイオフィルムの防止、分散および処置のための方法および組成物は、本発明の一態様である。本発明のある態様において、本発明の方法および組成物は、抗生物質耐性菌を含むブドウ球菌および連鎖球菌を殺滅することができる溶解素、特に、PlySs2溶解素を含む。
【0118】
特にPlySs2溶解素を含む本発明の方法および組成物は、バイオフィルムの防止または分散のために、化学的または力学的な手段、組成物またはアプローチと併用され得るか、またはそれらに組み込まれ得る。したがって、本明細書中の組成物は、特に、留置デバイスまたは留置カテーテルの中またはそれらの上でのバイオフィルムの増殖または確立を最小にする際に、抗生物質、殺生物剤およびイオンのコーティングと併用され得るか、またはそれに組み込まれ得る。例として、これらに限定されないが、留置デバイスまたはカテーテルを事前に滅菌するか、またはそれらを、バイオフィルムを含まない状態もしくは細菌の接着が減少した状態もしくはバイオフィルム形成のリスクが低下した状態で維持する際に、PlySs2を含む組成物が投与され得るか、あるいは別の方法で提供され得る。したがって、PlySs2を含む組成物は、留置デバイス、カテーテルなどを、フラッシングするか、または定期的に清浄して、バイオフィルムを含まない状態もしくは細菌の接着が減少した状態もしくはバイオフィルム形成のリスクが低下した状態で維持するために、溶液の形態で利用され得る。バイオフィルムが、疑われるか、明らかであるか、または実証されている場合、PlySs2を含む組成物は、バイオフィルムの分散、軽減、除去または処置を促進するか、惹起するか、またはもたらすために、投与することができるか、または別の方法で、バイオフィルムもしくはデバイス、領域、位置、部位と接触させ得る。したがって、例えば、患者が、体温上昇、またはデバイスもしくはカテーテルの周辺に関連する不快感、発赤、腫脹を示す場合、PlySs2を含む組成物を、その患者に投与するかまたはそのデバイスもしくはカテーテルと接触させることにより、形成中の
または形成された任意のバイオフィルムを分散させるか、防止するか、または処置することによって、関連する体温、不快感、発赤、腫脹を軽減、消散または処置し得る。
【0119】
本発明によると、溶解素、特に、PlySs2溶解素またはその活性なバリアントを含む組成物は、単回の用量もしくは投与で、または複数回の用量もしくは投与で、確立されたもしくは疑わしいバイオフィルム、またはバイオフィルムを有するデバイス、領域、位置、部位に、投与され得るかまたは別の方法で接触させ得る。溶解素は、1つまたは複数の抗生物質とともに、その前に、またはその後に、投与され得る。溶解素は、例えば、初回量で投与された後に(followied by)抗生物質が投与され得るか、または抗生物質とともに初回量で投与され得、その初回量の溶解素に、その次の用量の溶解素が続き得る。1つのそのような状況において、初回量の溶解素、特に、PlySs2は、バイオフィルムを分散させるのに役立ち得、そして、バイオフィルム内の細菌またはバイオフィルムの細菌またはバイオフィルム由来の細菌をさらに分散させるか、もしくはさらに殺滅するか、もしくは除菌するのに役立ち得るその次の用量の(バイオフィルムの最初の応答および分散に部分的に依存し得る、より少ないか、同じか、またはより多い量の)溶解素が続き得る。引き続いてまたは加えて、バイオフィルム内の細菌またはバイオフィルムの細菌またはバイオフィルム由来の細菌を分散させるか、またはさらに殺滅するか、または除菌するのにさらに役立つ用量の抗生物質も、投与され得る。
【0120】
本発明に提供される方法および適用において有用な溶解酵素(複数可)/ポリペプチド(複数可)を含む治療用組成物または薬学的組成物、ならびに関連する使用方法が、本明細書中に提供される。治療用組成物または薬学的組成物は、1つまたは複数の溶解ポリペプチド(複数可)を含み得、他の成分(例えば、キャリア、ビヒクル、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ホリンタンパク質(複数可)、1つまたは複数の抗生物質、または好適な賦形剤、キャリアもしくはビヒクル)と必要に応じて組み合わされる、天然、トランケート型、キメラまたはシャフリングした溶解酵素を必要に応じて含み得る。本発明は、バイオフィルム内のグラム陽性菌の殺滅、軽減、除菌、予防または処置において使用するため、特に、バイオフィルムを分散させるため、防止するため、または処置するための、PlySs2を含む本発明の溶解素の治療用組成物または薬学的組成物を提供する。
【0121】
本発明の方法において使用される治療用組成物中に含められる酵素(複数可)またはポリペプチド(複数可)は、変更されていないファージ関連溶解酵素(複数可)、トランケート型の溶解ポリペプチド、バリアント溶解ポリペプチド(複数可)ならびにキメラおよび/またはシャフリングした溶解酵素のうちの1つまたは複数または任意の組み合わせであり得る。さらに、同じ細菌の処置のために、異なるファージによって遺伝的にコードされる異なる溶解ポリペプチド(複数可)が使用され得る。これらの溶解酵素は、「変更されていない」溶解酵素またはポリペプチド、トランケート型の溶解ポリペプチド(複数可)、バリアント溶解ポリペプチド(複数可)、ならびにキメラおよびシャフリングした溶解酵素の任意の組み合わせでもあり得る。Streptococcus、Staphylococcus、EnterococcusおよびListeriaを含むグラム陽性菌用の治療用組成物または薬学的組成物中の溶解酵素(複数可)/ポリペプチド(複数可)は、単独で、または抗生物質と併用して、または処置されるべき他の侵襲性細菌生物が存在する場合、標的化されている他の細菌に特異的な他のファージ関連溶解酵素と併用して、使用され得る。その溶解酵素、トランケート型酵素、バリアント酵素、キメラ酵素および/またはシャフリングした溶解酵素は、ホリンタンパク質(holin protein)とともに使用され得る。そのホリンタンパク質の量も変動し得る。様々な抗生物質が、酵素(複数可)またはポリペプチド(複数可)とともに、およびリゾスタフィンありまたはなしで、治療用組成物中に必要に応じて含められ得る。2つ以上の溶解酵素またはポリペプチドが、治療用組成物中に含められ得る。
【0122】
本発明の方法において使用される薬学的組成物は、化学合成またはDNA組換え法によって生成される1つまたは複数の変更された溶解酵素(そのアイソザイム、アナログまたはバリアントを含む)も含み得る。特に、変更された溶解タンパク質は、アミノ酸の置換、欠失、短縮化、キメラ化、シャフリングまたはそれらの組み合わせによって生成され得る。薬学的組成物は、1つまたは複数の天然の溶解タンパク質と1つまたは複数のトランケート型、バリアント、キメラまたはシャフリングした溶解タンパク質との組み合わせを含み得る。薬学的組成物は、1つまたは複数の補完的な作用物質および薬学的に許容され得るキャリアまたは希釈剤の任意選択の添加と組み合わせた、同じまたは異なる細菌種に由来する少なくとも1つの溶解タンパク質のペプチドまたはペプチドフラグメントも含み得る。
【0123】
本方法において有用な薬学的組成物は、1つもしくは複数の抗微生物剤および/または1つもしくは複数の従来の抗生物質、特に、本明細書中に提供されるようなものを含む補完的な作用物質を含み得る。細菌バイオフィルムの感染の処置または分散を加速させるために、治療薬は、溶解酵素の殺菌活性を増強し得る少なくとも1つの補完的な作用物質をさらに含み得る。抗微生物薬は、細胞壁合成の阻害、細胞膜の機能の阻害、ならびに/またはタンパク質およびDNAの合成を含む代謝機能の阻害によって、細菌細胞の構造または機能を干渉することによって、広く作用する。抗生物質は、細胞壁ペプチドグリカン生合成に影響するものおよびグラム陽性菌におけるDNA合成またはタンパク質合成に影響するものに広く下位分類され得る。ペニシリンおよびそのような抗生物質を含む細胞壁合成阻害剤は、堅い外側の細胞壁を破壊し、その結果、相対的に支えられていない細胞は膨張し、最終的には破裂する。補完的な作用物質は、溶解酵素の治療効果を相乗的に増強するのに有効である量の、抗生物質(例えば、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、マクロライドファミリーの他のメンバー、ペニシリン類、セファロスポリン類およびそれらの任意の組み合わせ)であり得る。実質的に他の任意の抗生物質が、変更されたおよび/または変更されていない溶解酵素とともに使用され得る。細胞壁ペプチドグリカン生合成に影響する抗生物質には:N-アセチルムラミン酸(NAM)およびN-アセチルグルコサミン(NAG)ペプチドサブユニットをペプチドグリカンマトリックスに組み込むことを妨げることによってペプチドグリカン合成を阻害するグリコペプチド類が含まれる。利用可能なグリコペプチド類としては、バンコマイシンおよびテイコプラニン;ペプチドグリカン架橋の形成を阻害することによって作用するペニシリン類が挙げられる。ペニシリン類の官能基であるβ-ラクタム部分は、細菌中でペプチドグリカン分子を連結するDD-トランスペプチダーゼに結合して、それを阻害する。加水分解酵素は、細胞壁を壊し続け、浸透圧に起因して、細胞溶解または細胞死をもたらす。一般的なペニシリン類には、オキサシリン、アンピシリンおよびクロキサシリン;ならびに原形質膜の外側にペプチドグリカン基本要素を有する分子であるC55-イソプレニルピロホスフェートの脱リン酸化に干渉するポリペプチドが含まれる。細胞壁に悪影響を及ぼすポリペプチドは、バシトラシンである。他の有用なおよび関与性の抗生物質としては、バンコマイシン、リネゾリドおよびダプトマイシンが挙げられる。
【0124】
同様に、他の溶解酵素が、他の細菌または細菌感染症を処置するためまたは分散させるためにキャリア中に含められ得る。薬学的組成物は、1つまたは複数の補完的な作用物質(複数可)および好適なキャリアまたは希釈剤の任意選択の添加と組み合わせた、少なくとも1つの溶解タンパク質、1つのホリンタンパク質、または少なくとも1つのホリンタンパク質および1つの溶解タンパク質のペプチドまたはペプチドフラグメント(その溶解タンパク質およびホリンタンパク質の各々は、同じまたは異なる細菌種に由来する)も含み得る。
【0125】
有効量の溶解ポリペプチド(複数可)または溶解ポリペプチド(複数可)のペプチドフラグメントをインビボで発現することができる核酸分子を、単独でまたは他の核酸分子と
組み合わせて含む組成物もまた、本方法において有用である。これらの核酸分子、ポリヌクレオチド、およびこれらの分子を有し、インビトロまたはインビボで発現するベクターを含む細胞培養物もまた提供される。
【0126】
本方法は、細菌を分散させるためもしくは除菌するため、または感受性グラム陽性菌が原因の疾病を処置するために、種々のキャリアと組み合わせる溶解ポリペプチド(複数可)を含む治療用組成物または薬学的組成物を利用し得る。そのキャリアは、少量の添加物(例えば、等張性および化学安定性を高める物質)を適切に含む。そのような材料は、使用される投与量および濃度ではレシピエントにとって無毒性であり、それらとしては、バッファ(例えば、リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸および他の有機酸またはそれらの塩);酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド、例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);グリシン;アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジンまたはアルギニン);単糖類、二糖類および他の炭水化物(セルロースもしくはその誘導体、グルコース、マンノース、トレハロースまたはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);対イオン(例えば、ナトリウム);非イオン性界面活性物質(例えば、ポリソルベート、ポロキサマーまたはポリエチレングリコール(PEG));および/または中性の塩が挙げられる。グリセリンまたはグリセロール(1,2,3-プロパントリオール)は、薬学的使用のために商業的に入手可能である。DMSOは、局所的に適用される多くの薬物の透過を高める注目すべき能力を有する非プロトン性溶媒である。特に、静脈内溶液が調製されるとき、キャリアビヒクルには、リンガー溶液、緩衝液およびデキストロース溶液も含まれ得る。
【0127】
溶解ポリペプチド(複数可)は、液体の形態で、または唾液などの体液と接すると可溶化される凍結乾燥状態で、これらの物質に加えられてもよい。そのポリペプチド(複数可)/酵素は、また、ミセルまたはリポソーム中に存在してよい。
【0128】
本発明において有用なおよび本発明において使用するための変更されたまたは変更されていない溶解酵素/ポリペプチド(複数可)の有効な投与速度または投与量は、その溶解酵素/ポリペプチド(複数可)が治療的に使用されるのかまたは予防的に使用されるのか、感染性細菌にレシピエントを曝す期間、個体のサイズおよび体重などに部分的に依存する。酵素/ポリペプチド(複数可)を含む組成物を使用するための期間もまた、その使用が予防目的であるか(ここで、その使用は、短期間にわたる、1時間ごとに、毎日または1週間ごとであり得る)、またはその使用が治療目的であるか(ここで、使用が、数時間、数日間もしくは数週間続けられ得、かつ/または毎日もしくはその日のうちに間隔を空けて続けられ得るような、組成物を使用するより集中的なレジメンが、必要であり得る)にも依存する。使用されるいずれの剤形も、最短時間にわたって最小数の単位を提供すべきである。「長期」放出キャリアまたは「緩徐」放出キャリア(例えば、ある特定の鼻スプレーまたは舐剤など)として分類されるキャリアは、より長い期間にわたるが、1mlあたりより低い濃度の活性な(酵素)単位を有し得るかまたは提供し得るのに対し、「短期」放出キャリアまたは「速」放性キャリア(例えば、含嗽剤など)は、より短い期間にわたるが、1mlあたりより高い濃度の活性な(酵素)単位を有し得るかまたは提供し得る。1mlあたりの活性な単位の量およびそれに曝す期間は、感染の性質、処置が予防的であるべきかまたは治療的であるべきか、および他の可変事項に依存する。上記よりもかなり高い単位/mlの投与量または低い単位/mlの投与量を有する必要があり得る状況も存在する。
【0129】
使用のための溶解酵素/ポリペプチド(複数可)は、その溶解酵素/ポリペプチド(複数可)の活性を可能にさせるpHを有する環境に存在するべきである。安定化バッファが
、溶解素酵素/ポリペプチド(複数可)の最適な活性を可能にさせ得る。そのバッファは、還元試薬(例えば、ジチオトレイトールまたはベータメルカプトエタノール(BME))を含み得る。その安定化バッファはまた、金属キレート試薬(例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩)であり得るかもしくはそれを含み得るか、あるいはリン酸バッファもしくはクエン酸-リン酸バッファまたは他の任意のバッファも含み得る。
【0130】
弱い界面活性物質が、溶解酵素/ポリペプチド(複数可)の治療効果を増強するのに有効な量で、本方法において使用するための治療用組成物または薬学的組成物に含められ得、組成物中で使用され得る。。好適な弱い界面活性物質としては、とりわけ、ポリオキシエチレンソルビタンと脂肪酸とのエステル(Tweenシリーズ)、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton-Xシリーズ)、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、n-デシル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-グルコピラノシド、および生物学的に存在する界面活性物質、例えば、脂肪酸、グリセリド、モノグリセリド、デオキシコレートおよびデオキシコレートのエステルが挙げられる。
【0131】
保存剤もまた、本発明において使用され得、好ましくは、全組成物の約0.05重量%~0.5重量%を構成し得る。保存剤の使用は、生成物が微生物で汚染された場合、その製剤が微生物の増殖を防止するかまたは減少させることを確実にする。本発明において有用ないくつかの保存剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、クロロキシレノール、安息香酸ナトリウム、DMDMヒダントイン、3-ヨード-2-プロピルブチルカルバメート、ソルビン酸カリウム、クロルヘキシジンジグルコネートまたはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0132】
本発明の方法および適用において使用される治療用組成物は、感受性グラム陽性菌とともに存在する任意のStaphylococcus aureus菌を処置するための酵素リゾスタフィンなどの他の酵素をさらに含み得る。Staphylococcus simulansの遺伝子産物であるリゾスタフィンは、細胞壁のポリグリシン架橋を酵素的に分解することによって、S.aureusに対して静菌効果および殺菌効果を発揮する(Browderら、Res.Comm.,19:393-400(1965))。その後、リゾスタフィンに対する遺伝子は、クローニングされ、配列決定された(Recseiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:1127-1131(1987)。治療用組成物は、ムタノリシン(mutanolysin)およびリゾチームも含み得る。
【0133】
本発明の方法にしたがう溶解酵素/ポリペプチド(複数可)を含む治療用組成物を適用する手段としては、直接的、間接的、キャリアおよび特別な手段または任意の組み合わせの手段が挙げられるが、これらに限定されない。溶解酵素/ポリペプチド(複数可)の直接的な適用は、ポリペプチドをバイオフィルム、感染または細菌集落形成の部位に直接接触させる任意の好適な手段による適用であり得る(例えば、鼻腔領域への適用(例えば、鼻スプレー)、皮膚(dermal)または皮膚(skin)への適用(例えば、局所的軟膏または製剤)、坐剤、タンポン適用など)。鼻への適用としては、例えば、鼻スプレー、点鼻剤、鼻用軟膏、鼻洗浄剤、鼻注射、鼻パッキング(nasal packings)、気管支スプレーおよび吸入器、あるいは咽頭用舐剤、うがい薬もしくは含嗽薬の使用によるか、または外鼻孔もしくは顔面に適用される軟膏の使用による間接的なもの、またはこれらおよび類似の適用方法の任意の組み合わせが挙げられる。溶解酵素が投与され得る形態としては、舐剤、トローチ剤、キャンディ、注入物質、チューインガム、錠剤、散剤、スプレー、液体、軟膏およびエアロゾルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0134】
溶解酵素の適用様式は、いくつかの異なるタイプおよびキャリアの組み合わせを含み、
それらとしては、水性液体、アルコールベースの液体、水溶性ゲル、ローション、軟膏、非水性液体基剤、鉱油基剤、鉱油とワセリンとの混和物、ラノリン、リポソーム、タンパク質キャリア(例えば、血清アルブミンまたはゼラチン)、粉末セルロースカーメル(carmel)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。治療薬を含むキャリアの送達様式としては、塗抹、噴霧、時間放出(time-release)パッチ、液体を吸収した布状物(wipe)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。溶解酵素は、そのまま、または他のキャリアのうちの1つの中に入った状態で、包帯に適用され得る。その包帯は、湿った状態または乾燥した状態(ここで、その酵素は、凍結乾燥された形態でその包帯に存在する)で販売されていてよい。この適用方法は、感染した皮膚を処置するために最も有効である。局所用組成物のキャリアは、ポリマー増粘剤、水、保存剤、活性な界面活性剤または乳化剤、酸化防止剤、日焼け止め剤、および溶媒または混合溶媒系を含む、半固体およびゲル様のビヒクルを含み得る。使用され得るポリマー増粘剤には、当業者に公知のもの、例えば、化粧品業界および製薬業界において頻繁に使用される親水性およびハイドロアルコール(hydroalcoholic)のゲル化剤が含まれる。他の好ましいゲル化ポリマーとしては、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースガム、MVE/MAデカジエンクロスポリマー、PVM/MA共重合体またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0135】
1つまたは複数のファージ酵素および他の補完的な作用物質とともにある期間にわたって投与されるためには、粘膜組織への接着を示す材料を有することが有益である場合がある。放出調節能力を有する材料が特に望ましく、徐放性粘膜接着剤の使用が、かなりの程度の注目を集めている。親水性材料と疎水性材料との組み合わせである粘膜接着剤に関する他のアプローチが公知である。ミセルおよび多重膜(multilamillar)ミセルもまた、酵素の放出を調節するために使用され得る。例えば、カテーテル、バルブ、補綴デバイス、薬物または化合物のポンプ、ステント、整形材料などの、特に、身体内に留置され、細菌が接着しやすいかまたはバイオフィルムが発生しやすい任意の材料または構成要素を含む、表面、例えば、臨床行為において利用されるプラスチック、膜、デバイスを標的化するかまたはそれに接着する能力を有する材料が、本発明において有用な溶解素(複数可)と併用されるか、混合されるか、または融合され得る。
【0136】
本発明の方法において使用される治療用組成物または薬学的組成物は、生物学的に活性な作用物質を調節放出するための、親水性の主鎖および疎水性のグラフト鎖を含むグラフト共重合体を含む重合体粘膜接着剤も含み得る。本願の組成物は、必要に応じて、他の重合体材料(例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリ-(ビニルピロリドン)およびカルボキシメチルセルロースナトリウム可塑剤)および他の薬学的に許容され得る賦形剤を、その組成物の粘膜接着性(mucoadhesivity)に悪影響を及ぼさない量で含み得る。
【0137】
本発明の溶解酵素/ポリペプチド(複数可)は、局所的、経口的または非経口的を含む任意の薬学的に適用され得るまたは許容され得る手段によって、本発明に従って使用するために投与され得る。例えば、溶解酵素/ポリペプチド(複数可)は、グラム陽性菌による感染症を処置するために筋肉内に、髄腔内に、真皮下に(subdermally)、皮下にまたは静脈内に投与され得る。非経口注射が、選択される投与様式である場合、好ましくは、等張製剤が使用される。通常、等張性のための添加物としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトールおよびラクトースが挙げられ得る。場合によっては、リン酸緩衝食塩水などの等張液が好ましい。安定剤には、ゼラチンおよびアルブミンが含まれる。製剤に、血管収縮剤が加えられ得る。本願による薬学的調製物(pharmaceutical preparation)は、滅菌された状態かつ発熱物質を含まない状態で、提供される。
【0138】
いずれの化合物の場合も、治療的に有効な用量は、最初に、細胞培養アッセイにおいて、または動物モデル、通常、マウス、ウサギ、イヌもしくはブタにおいて、推定され得る。動物モデルは、望ましい濃度範囲および投与経路を得るためにも使用される。次いで、そのような情報は、ヒトにおける有用な用量および投与経路を決定するために使用され得る。正確な投与量は、処置される患者を考慮して、個別の医師によって選択される。投与量および投与は、十分なレベルの活性な部分を提供するように、または所望の効果を維持するように、調整される。考慮され得るさらなる因子としては、疾患状態の重症度、患者の年齢、体重および性別;食事、所望の処置期間、投与方法、投与時間および投与頻度、薬物の組み合わせ(複数可)、反応感度、ならびに治療に対する寛容/応答が挙げられる。長時間作用性の薬学的組成物は、特定の製剤の半減期およびクリアランス速度に応じて、3~4日間ごとに、1週間ごとに、または2週間ごとに1回、投与され得る。
【0139】
投与される溶解酵素/ポリペプチド(複数可)の有効な投与速度または量および処置期間は、感染の深刻さ、患者、特に、ヒトの体重、感染性細菌にレシピエントが曝された期間、感染している皮膚または組織または表面の平方センチメートル数、感染の深さ、感染の深刻さ、および種々のいくつかの他の可変事項に部分的に依存する。組成物は、1日ま1週間、または1ヶ月に1回から数回、いずれかの場所に適用され得、数日間または数週間までなどの短期間にわたって、または何週間ももしくは数ヶ月間までなどの長期間にわたって、適用され得る。使用は、数日間または数週間または数か月にわたって続き得る。使用されるいずれの剤形も、最短時間にわたって最小数の単位を提供するべきである。有効量または有効な投与量の酵素を提供すると考えられる活性な単位の酵素の濃度は、適切に選択され得る。
【0140】
溶解素は、単回用量または複数回用量で、個々に、または1つもしくは複数の抗生物質などの別の作用物質との併用で、投与され得る。その溶解素は、必要に応じて、抗生物質などの別の作用物質とともに、同じ投与様式または異なる投与様式によって投与され得る。その溶解素は、併用でまたは個別に、1回、2回または複数回、1回以上、投与され得る。したがって、溶解素は、特に、応答および細菌の殺滅もしくは除菌、またはバイオフィルムの分散もしくはバイオフィルム内の細菌の殺滅に応じて、初回量に続いて、その次の単一用量もしくは複数用量で投与され得、抗生物質の投与(複数可)と併用または交替され得る。本発明の特定の態様において、溶解素、特に、PlySs2、または抗生物質と溶解素との組み合わせが、より長い期間にわたって投与され得、投与は、耐性のリスクなく、延長され得る。
【0141】
用語「作用物質」は、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、化学的化合物および小分子を含む任意の分子を意味する。特に、作用物質という用語は、被験化合物、添加されるさらなる化合物(複数可)または溶解素酵素化合物などの化合物を含む。
【0142】
用語「アゴニスト」とは、最も広い意味において、リガンドが結合するレセプターを刺激するリガンドのことを指す。
【0143】
用語「アッセイ」は、化合物の特定の特性を測定するために使用される任意のプロセスのことを意味する。「スクリーニングアッセイ」は、化合物のコレクションからその活性に基づいて化合物を特徴付けるかまたは選択するために使用されるプロセスのことを意味する。
【0144】
用語「防止する」または「防止」とは、疾患の発生の前に、疾患を引き起こす病原体に曝される可能性があるかまたはその疾患にかかりやすい可能性がある被験体における、疾患または障害を獲得するかまたは発症する(すなわち、発症すべきでない疾患の臨床徴候の少なくとも1つを引き起こす)リスクの低下のことを指す。
【0145】
用語「予防」は、用語「防止」に関係し、その中に包含され、その目的が疾患の処置または治癒ではなく防止である措置または手技のことを指す。予防的な措置の非限定的な例としては、ワクチンの投与;例えば、動かないことに起因して血栓症のリスクがある、入院患者への低分子量ヘパリンの投与;およびマラリアが蔓延しているかまたはマラリアにかかるリスクが高い地理的領域への訪問に先だったクロロキンなどの抗マラリア剤の投与が挙げられ得る。
【0146】
「治療有効量」は、医師または他の臨床医が探索している被験体の生物学的または医学的応答を誘発する、薬物、化合物、抗微生物薬、抗体、ポリペプチドまたは医薬品(pharmaceutical agent)の量を意味する。特に、グラム陽性菌の感染症およびグラム陽性菌の増殖に関して、用語「有効量」は、殺菌効果および/または静菌効果を有することを含む、グラム陽性菌の感染の量または程度の生物学的に重要な減少をもたらす化合物または作用物質の有効量を含むと意図される。句「治療有効量」は、感染性細菌の増殖もしくは量または病態の他の特性の臨床的に有意な変化(例えば、その存在および活性に伴い得るような、発熱または白血球数の増加)を、少なくとも約30パーセント、より好ましくは、少なくとも50パーセント、最も好ましくは、少なくとも90パーセント妨げる、好ましくは、減少させるのに十分な量を意味するために本明細書中で使用される。
【0147】
任意の疾患または感染症を「処置する」またはそれらの「処置」という用語は、1つの実施形態において、その疾患または感染症を回復させること(すなわち、その疾患または感染性病原体もしくは感染性細菌の増殖を停止すること、またはそれらの臨床徴候の少なくとも1つの発現、程度もしくは重症度を減少させること)を指す。別の実施形態において、「処置する」または「処置」とは、被験体が識別できないかもしれない少なくとも1つの身体的パラメータの回復のことを指す。なおも別の実施形態において、「処置する」または「処置」とは、疾患または感染症を身体的に(例えば、可能な徴候の安定化)、生理的に(例えば、身体的パラメータの安定化)またはその両方で調整することを指す。さらなる実施形態において、「処置する」または「処置」は、疾患の進行の遅延または感染症の減少に関する。
【0148】
句「薬学的に許容され得る」とは、ヒトに投与されたとき、生理的に耐えられ、通常、アレルギー性反応または類似の有害反応(例えば、胃の不調、眩暈など)をもたらさない、分子実体および組成物のことを指す。
【0149】
本願および特許請求の範囲による、インビボで行われる処置方法または医学的および臨床的処置方法の文脈において、被験体、患者または個体という用語は、ヒトのことを指すと意図されていることに注意されたい。
【0150】
用語「グラム陽性菌(gram-positive bacteria)」、「グラム陽性菌(Gram-positive bacteria)」、「グラム陽性」および具体的に列挙されてない任意の変化形は、本明細書中で交換可能に使用され得、本願全体および請求項全体にわたって使用されるとき、公知であり、かつ/あるいはある特定の細胞壁および/もしくは細胞膜の特徴の存在によって、ならびに/またはグラム染色による染色によって同定され得るグラム陽性菌のことを指す。グラム陽性菌は、公知であり、容易に同定され得、Listeria属、Staphylococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Mycobacterium属、Corynebacterium属およびClostridium属から選択され得るがこれらに限定されず、認識されているまたは認識されていない任意およびすべてのその種または菌株を含む。本発明のある態様において、PlyS溶解素感性グラム陽性菌には、Lis
teria、Staphylococcus、StreptococcusおよびEnterococcusのうちの1つまたは複数から選択される細菌が含まれる。
【0151】
用語「殺菌性」とは、細菌細胞を殺滅できることを指す。
【0152】
用語「静菌性」とは、細菌細胞の増殖の阻害を含む、細菌の増殖を阻害できることを指す。
【0153】
句「薬学的に許容され得る」とは、ヒトに投与されたとき、生理的に耐えられ、通常、アレルギー性反応や類似の有害反応(例えば、胃の不調、眩暈など)をもたらさない、分子実体および組成物のことを指す。
【0154】
句「治療有効量」は、標的細胞塊のS期の活性または他の病態特性の臨床的に重要な変化(例えば、その存在および活性に伴い得るような、血圧上昇、発熱または白血球数の増加)を、少なくとも約30パーセント、より好ましくは、少なくとも50パーセント、最も好ましくは、少なくとも90パーセント防止する、好ましくは、減少させるのに十分な量を意味するために本明細書中で使用される。
【0155】
本発明は、細菌バイオフィルムの防止、分散、処置および/または除菌のため、ならびにバイオフィルム(複数可)の分散後の感染症の防止のための方法を提供し、ここで、1つまたは複数のグラム陽性菌、特に、Staphylococcus、Streptococcus、EnterococcusおよびListeria菌のうちの1つまたは複数が、疑われるかまたは存在し、その方法は、MRSAを含むS.aureus菌を殺滅する能力を有する溶解素、特に、PlySs2溶解素を投与する工程を含む。本発明は、デバイス、埋め込み物、分離膜(例えば、パーベーパレーション膜、透析膜、逆浸透膜、限外濾過膜および精密濾過膜)の表面上のバイオフィルムの増殖を減少させるためまたは防止するための方法を提供し、その方法は、MRSAを含むS.aureus菌を殺滅する能力を有する溶解素、特に、PlySs2溶解素を投与するかまたは利用する工程を含む。
【0156】
本発明は、PlySs2溶解素を含む組成物を投与することによる、カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)を処置するための方法を提供し、ここで、その感染症の原因は、バイオフィルム関連細菌にある。本発明は、カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)の処置において使用するためのPlySs2溶解素を含む組成物を提供し、ここで、その感染症の原因は、バイオフィルム関連細菌にある。それらの方法または組成物は、
図5もしくは配列番号1に提供されているようなポリペプチド、またはS.aureusを含むブドウ球菌および連鎖球菌を殺滅することができるそのバリアントを含むPlySs2溶解素を含む。それらの方法または組成物は、1つまたは複数の抗生物質をさらに含み得る。
【0157】
心臓における(例えば、大動脈弁もしくは他の弁または心臓もしくはその血管に埋め込まれたステントもしくはデバイスにおける)ブドウ球菌性心内膜炎を含む心内膜炎は、多くの心臓病患者にとって重大な臨床上の懸念であり、リスクであり、現実である。本発明は、ブドウ球菌性心内膜炎を含む心内膜炎を減少させるため、防止するため、分散させるためまたは処置するため、および心臓弁または血管ステントにおけるバイオフィルム(複数可)の防止または処置のための方法を提供する。これらの方法において、溶解素、特に、PlySs2溶解素または本明細書中に提供されるようなその活性なバリアントが、ブドウ球菌性心内膜炎または心臓弁もしくは血管ステントにおけるバイオフィルム(複数可)を防止するためまたは処置するために投与される。
【0158】
本発明は、本発明の例示として提供される以下の非限定的な実施例を参照することによ
り、よりよく理解され得る。以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をより十分に例証するために提示されるが、しかしながら、決して、本発明の広い範囲を限定すると解釈されるべきでない。
【実施例】
【0159】
実施例1
PlySs2溶解素は、Staphylococcus aureusのメチシリンおよびバンコマイシン耐性および感性の菌株(MRSA、MSSA、VRSAおよびVISA)を含む臨床的に重要なグラム陽性菌の様々な菌株を殺滅する能力を明らかに示す。PlySs2は、広範な種殺滅活性を有する点において独特の溶解素であり、複数の種の細菌、特に、グラム陽性菌、極めて様々な抗生物質感性および抗生物質耐性のStaphylococcus、ならびにまたA群およびB群連鎖球菌を含むStreptococcusを殺滅し得る。他のPlySs2感性細菌としては、EnterococcusおよびListeriaの菌株が挙げられる。PlySs2溶解素に対する、ブドウ球菌および連鎖球菌を含む様々な細菌の感性の作表を、表2および3を含む上記に提供する。
【0160】
さらなるMIC研究の作表を下記の表4に示す。
表4
S.aureus菌株に対するPlySs2および抗生物質の活性
*
【表4】
*MICは、ブロス微量希釈法を使用し、CLSI法(M07-A9)に従って80%増殖阻害を評価して、決定した。
*赤色/太字=薬物失敗(MIC値が、S.aureusにおいて、示されている薬物についてのEUCASTブレイクポイントより高い)
【0161】
著しいことにおよび独特なことに、上記の表に示されているような試験された数多くのStaphylococcusおよびStreptococcusの菌株ならびにその他のものを含む数多くの臨床的に重要な細菌に対して活性を示すにもかかわらず、PlySs2は、他の細菌、特に、天然または共生細菌叢に対しては、多くとも最小効果しか示さ
ない。下記の表5は、様々な共生ヒト腸細菌に対してPlySs2がほとんど溶解活性を示さないことを明らかに示している。
表5
PlySs2に対する腸細菌の感性
【表5】
【0162】
バイオフィルムの形成は、多くの細菌感染症の病原において鍵となる特徴である(31)。感染した組織(すなわち、心内膜炎における心臓弁または骨髄炎における骨)内または埋め込み物(すなわち、置換関節およびカテーテル)上には、S.aureusなどの細菌の病原体が、抗生物質および免疫系の作用から保護される、増殖および持続にとって好ましい環境を提供するバイオフィルムの中に存在する(32)。本明細書中に提供される研究は、1000×MIC濃度で使用された抗生物質が完全に不活性であることと比較して、たった1×MIC濃度のPlySs2溶解素の強力な抗バイオフィルム活性を実証する。この強力な溶解素の抗バイオフィルム活性は、バイオフィルムに対して有効な手段および組成物を提供し、溶解素が破壊したバイオフィルムへの抗生物質の接近を可能にすることによって抗生物質の作用を独特に補完し得る。
【0163】
PlySs2が迅速に細菌を殺滅すること、ならびに数多くの臨床的に重要な菌株および種に対する効果を考慮して、Staphylococcus aureusバイオフィルムに対するPlySs2溶解素の効能を、バイオフィルムアッセイを用いてインビトロにおいて試験した。
【0164】
メチシリン耐性S.aureus MRSA菌株ATCC BAA-42に対するPlySs2溶解素の最小阻止濃度は、16μg/mlと決定された。この値は、MICアッセイにおいて還元剤(例えば、DTTまたはBMS)の存在下で決定されたMICである。還元剤は、MIC値を決定する際のアッセイ間の(between and among assays)再現性を改善する目的で加えられる。バイオフィルム研究は、還元剤を加えずに行う。還元剤の非存在下のBAA-42に対するMIC値は、32μg/mlである。このMIC値は、上記に提供された表において記述されているような他のMRSA菌株の平均と一致する(表2および4を参照のこと)。MICは、複数の標準に従って、およびClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の文書M07-A9(Methods for dilutional antimicrobial sensitivity tests for bacteria that grow aerobically.Volume 32(Wayne[PA]:Clinical and Laboratory Standards Institute[US],2012)に記載されているように、ブロス微量希釈法を使用して決定した。
【0165】
Wuらによって記載された方法(Wu JAら(2003)Antimicrob A
gents and Chemother 47(11):3407-3414)の変法を用いて、バイオフィルムを生成した。簡潔には、1×10
6個のメチシリン耐性S.aureus(MRSA)菌株ATCC BAA-42の定常期細胞を、1%グルコースが補充された2mlのトリプシン-ダイズブロスに接種し、通気せずに37℃の24ウェル組織培養ディッシュにおいて18時間増殖させた。浮遊細胞(非接着性細菌)を1×PBSで洗浄することによって除去し、次いで、残存している細菌(固着性の細菌、すなわちバイオフィルム細菌)をPlySs2溶解素または様々な濃度の抗生物質(Sigma-Aldrichから入手したダプトマイシン、リネゾリドまたはバンコマイシン)で最大24時間処理した。様々な時点(0時間、2時間、4時間、最大24時間)において、ウェルを1×PBSで洗浄し、37℃で15分間風乾することによって固定し、1mlの1%クリスタルバイオレット溶液(Sigma-Aldrich)で染色することにより、残存しているバイオフィルムを可視化した。クリスタルバイオレットで染色されたバイオフィルムの光学濃度も決定して、より定量的な比較を行った。例示的な密度の研究を
図7に提供する。
【0166】
最初の研究では、BAA-42 MRSAのバイオフィルムを、ダプトマイシン、リネゾリドおよびバンコマイシンの各々について1000×MIC濃度(1000μg/ml)、およびPlySs2溶解素について1×MIC(32μg/ml)で処理した(還元剤を加えずに)。すべてのMIC値を、Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)文書M07-A9(Methods for dilutional antimicrobial sensitivity tests for bacteria that grow aerobically.Volume 32.Wayne[PA]:Clinical and Laboratory Standards Institute[US],2012)に記載されているブロス微量希釈法を使用して決定した。4時間まで処理されたMRSAバイオフィルムを
図1に示し、6時間まで処理されたMRSAバイオフィルムを
図2に示し、24時間まで処理されたMRSAバイオフィルムを
図3に示す。1×MIC 32μg/mlのPlySs2溶解素単独で処理したときは、そのバイオフィルムは2時間以内に取り除かれる(
図1、2および3)。1000μg/ml(1000×MIC)のダプトマイシン、バンコマイシンまたはリネゾリドで処理されたとき、バイオフィルムの変化は、4時間または6時間では視覚的には明らかでない(
図1および2)。これは、非常に高い用量(10000μg/ml)のバンコマイシンに対して最小感性のバイオフィルムを示した以前の報告(Weigel LMら(2007)Antimicrob Agents and Chemother 51(1):231-238)と一致する。
【0167】
より低い濃度のPlySs2溶解素およびダプトマイシンによる処理を、MRSA菌株
BAA-42のバイオフィルムに対して評価した。バイオフィルムを、より低いMIC未満の用量のPlySs2で、0.5時間、1時間、4時間および24時間処理した。上に記載されたように、BAA-42バイオフィルムを24ウェルディッシュに生成し、そのウェルをPlySs2溶解素またはダプトマイシン抗生物質で処理した(適切な培地コントロールとともに)。PlySs2の場合、MIC未満の用量の3.2μg/mL(1/10×MIC値)または0.32μg/mL(1/100×MIC値)のいずれかを使用した。ダプトマイシンの場合、1μg/mL(1×MIC値)または10μg/mL(10×MIC値)のいずれかを使用した。それらのウェルを、最長24時間までインキュベートし、洗浄し、固定し、染色した。結果を
図4に示す。1/100 MICのPlySs2溶解素でさえも、バイオフィルムの溶解が観察される。PlySs2溶解素3.2μg/ml(1/10×MIC)を用いた4時間後に有意な溶解が実証され、0.32μg/ml(1/100×MIC)を用いた4時間後でさえ、一部の溶解が観察される。最大10×MICのダプトマイシン濃度をを用いても、溶解は認められない。
【0168】
代替のブドウ球菌の溶解素、特に、ClyS溶解素をATCC BAA-42 MRSAバイオフィルムに対して使用して、同等のMIC研究を完了させた。このS.aureus菌株に対するClyS溶解素のMICは、32μg/mlである。ポリスチレン組織培養プレートに、1ウェル(0.2%グルコースを含むトリプシンダイズブロスが入っている)あたり5×10
5CFUのS.aureus菌株ATCC BAA-42を接種し、35℃で24時間インキュベートして、バイオフィルムを形成させた。得られたバイオフィルムを3回洗浄して、浮遊細胞を除去し、35℃において24時間、32μg/ml、3.2μg/ml、0.32μg/mlおよび0.032μg/mlの濃度のClyS溶解素(または培地のみ)で処理した。各ウェルを洗浄し、2%クリスタルバイオレットで染色した。クリスタルバイオレットは、接着性のバイオフィルム材料を染色する。様々な濃度のClySを使用した結果を
図14に示す。ClySは、32μg/ml(1×MIC)および3.2μg/ml(0.1×MIC)において、バイオフィルムを効果的に分散させる。染色されたバイオフィルムの減少が、0.32μg/mlでも観察され、0.032μg/mlではいくらか観察される。ブドウ球菌の溶解素ClySは、S.aureusバイオフィルムを分散させることおよび減少させることができる。
実施例2
【0169】
MIC未満の用量でのダプトマイシン+溶解素の組み合わせを、バイオフィルムにおいて評価する。PlySs2溶解素およびダプトマイシンは、浮遊性のS.aureus細胞に対して相乗的な致死効果を発揮することが見出されている(米国仮出願番号61/644,944および同第61/737,239)。一連の実験を行うことにより、この相乗効果がバイオフィルム内の細菌も標的化し得るかを調査した。ブロス微量希釈チェッカーボード法(Sopirala MMら(2010)Antimicob Agents
and Chemother 54(11):4678-4683)を適用して、96ウェルマイクロタイターディッシュにおいて増殖させたS.aureusバイオフィルムを成熟させる。細胞を0.2mlの懸濁液中で増殖させることを除いては上に記載された様式で増殖させたMRSA菌株ATCC BAA-42の18時間のバイオフィルムに対して、溶解素とダプトマイシンとのMIC未満の組み合わせの活性を調査する。バイオフィルムの形成後に、ウェルを1×PBSで洗浄し、PlySs2およびダプトマイシンの単独または一連の組み合わせで、通気せずに24時間処理する。次いで、そのバイオフィルムを、上記のとおり洗浄し、固定し、染色することにより、バイオフィルム形成を評価する。このようにして、MIC未満の薬物の組み合わせの効果は、同じMIC未満の濃度のいずれかの薬物単独の効果との比較によって評価する。
実施例3
インビトロでの混合バイオフィルム研究
【0170】
複数種のバイオフィルムを標的とするために、PlySs2溶解素をダプトマイシンとも組み合わせて使用する。バイオフィルムは、2種以上の細菌種を含むことが多い(Yang Lら(2011)FEMS Immunol and Med 62(3):339-347)。PlySs2溶解素およびダプトマイシンを使用して、PlySs2感性およびダプトマイシン感性のS.aureus菌株ATCC BAA-42、ならびにPlySs2耐性でダプトマイシン感性のEnterococcus faecalis菌株からなるバイオフィルムを標的とする。E.faecalis菌株は、浮遊性の形態ではダプトマイシンに感性であるが、それにもかかわらず、バイオフィルムの固着性のメンバーとしては、ダプトマイシンに耐性である。その腸球菌は、バイオフィルムから放出されるときだけ、ダプトマイシンに耐性になり得る。PlySs2がこの放出を媒介する(ひいては、E.faecalisをダプトマイシンに対して感性にする)能力を試験するために、以下の実験を行う。
【0171】
1×106個のブドウ球菌および1×106個の腸球菌という開始接種材料を使用して
(各々、単独でおよび一緒に)、上に記載されたように24ウェルディッシュにおいてバイオフィルムを生成する。バイオフィルムをPBSで洗浄し、PlySs2およびダプトマイシンの単独および併用で(一連のMIC未満の組み合わせを使用して)24時間処理する。処理後、バイオフィルムのウェルを、非接着性(生きている細菌と死んだ細菌の両方を含む)および接着性(バイオフィルムの形態)を含む2つの画分に分ける。非接着性の画分を、生存能を調べるためにプレーティングして、ブドウ球菌および腸球菌についての相対的なCFU数を決定する。得られたCFU数を、緩衝液コントロールで処理されたバイオフィルムについてのCFU数と比較する。同時に、残存しているバイオフィルムを、超音波処理によって破壊し、生存能を調べるためにプレーティングする。この様式では、PlySs2がバイオフィルムからのE.faecalisの放出を媒介し、ここで、E.faecalisがダプトマイシンによって殺滅され得るかを決定することができる。
【0172】
溶解素S抗生物質S、溶解素S抗生物質R、溶解素R抗生物質Sの組み合わせを有するバイオフィルムもまた、下記で述べられるように評価する。
I.Staphylococcus/Enterococcus混合バイオフィルム-上に記載されたように溶解素+抗生物質で処理。
II.S.aureus/S.epidermidis混合バイオフィルム、またはS.epidermidisのみのバイオフィルムを生成し、評価する。S.aureusおよびS.epidermidis菌から形成されたバイオフィルムを使用して、上記のように実験を行う。
III.Staph+Strep菌バイオフィルムの組み合わせ、PlySs2およびダプトマイシンまたは他の抗生物質で処理。
S.aureusとS.pyogenes(またはS.dysgalactiae)の両方から形成されるバイオフィルムを使用して、上記のように実験を行う。S.pyogenes(A群連鎖球菌属)とS.dysgalactiae(B群連鎖球菌)の両方が、PlySs2に感性であるので、これらの実験は、ダプトマイシンを使用しない。むしろ、ブドウ球菌および連鎖球菌からなる混合バイオフィルム内の細菌を破壊するおよび殺滅するPlySs2溶解素を単独で評価する。
実施例4
インビボのカテーテルベースのバイオフィルムモデル
【0173】
留置デバイスに関連するStaphylococcus aureus感染症は、細菌バイオフィルムが従来の抗生物質に対して不応性である性質に起因して、処置が非常に困難であり得、通常、カテーテルなどの感染したデバイスの除去を必要とする。一連の抗生物質を投与することができ、それにより、デバイスに付随する細菌のほとんどが排除されるように見えるかもしれないが、結局、数日以内に感染が再発する。これは、成長して、バイオフィルムを再生息させ(repopulating)、その感染をデバイス部位または他の箇所に再播種する(reseeding)、バイオフィルム内の残留存続生物であるブドウ球菌に起因すると考えられている(Darouiche RO(2004)N
Engl J Med 350:1422-1429)。ゆえに、バイオフィルム内のブドウ球菌を迅速に殺滅し、浮遊性の細菌に対して有効である処置は、非常に有益である。PlySs2溶解素は、上記の実施例において、インビトロで迅速かつ効果的にS.aureusバイオフィルムを取り除くと実証されている。この研究は、PlySs2溶解素が、マウスに埋め込まれたカテーテルに確立されたS.aureusバイオフィルムを根絶する能力をインビボで評価する。
【0174】
カテーテルベースのモデルを、側腹部の皮下、腹腔内、または大腿の筋肉内へと置いたカテーテルを使用して評価した(Zhu Yら(2007)Infect Immunol 75(9):4219-4226のから改変)。このカテーテルベースのマウスモデ
ルを用いることにより、バイオフィルムの生存能に対するPlySs2の影響をインビボで評価する。埋め込む前に、カテーテルチューブ(可塑剤としてDEHP[ジ(2-エチルヘキシル)フタレート]を含有する、PVC[ポリ塩化ビニル];CareFusion SmartSite輸液セット,#72023)のセグメント上にバイオフィルムをインビトロで成長させる。各2インチのカテーテルの管腔に、2×107CFUのS.aureusを含む0.25%グルコースが補充された200μlのTryptic Soy Broth(TSB)を接種し、バイオフィルムを37℃で72時間成長させる。あるいは、カテーテルを2mmのセグメントに切断し、0.25%グルコースが補充された1.0mlの接種TSB中に入れ、カテーテルセグメントを、3日間にわたって毎日、新鮮培地に継代した後、埋め込む。0.15mlの100mg/kgケタミンおよび10mg/kgキシラジン(Butler-Schein)の腹腔内注射によって、6~8週齢Balb/cマウスに麻酔を誘導する。カテーテルのセグメントを、マウスの各側腹部の皮下、あるいは腹腔内の空間もしくは大腿筋に埋め込む。5~10匹のマウスの群にバイオフィルムを埋め込んだ。埋め込みの1~24時間後に、マウスを適切な量のPlySs2、抗生物質もしくはビヒクル、またはPlySs2+抗生物質の組み合わせで処置する。各群からのすべてのマウスを、感染の1~4日後に人道的に屠殺した。バイオフィルム形成を定量するために、屠殺の直後に、感染したカテーテルを取り出し、滅菌PBS中で3回静かに洗浄して、非接着性細菌を除去し、続いて、5mlの滅菌PBSの中に入れる。そのカテーテルから超音波処理によって、接着性の細菌を取り出す。次いで、回収された細菌の数を、適切な選択培地での段階希釈およびプレートカウント法によって定量する。あるいは、洗浄したカテーテルを、メチレンブルー中で15分間インキュベーションすることによって染色し、5mlの滅菌PBS中で2回洗浄し、可視化した。次いで、室温の0.2mlの30%酢酸中で脱染し、600nmで読み取られた吸光度によって、メチレンブルー染色を定量し得る。残留バイオフィルムの塊の程度は、600nmの吸光度読み取り値をカテーテルセグメントの重量で除算した値(OD600/gm)として表現される。
【0175】
図15は、そのようなカテーテル研究の結果を提供しており、ここで、S.aureus(MRSA菌株ATCC BAA-42)バイオフィルムを3日間成長させたカテーテルを、マウスの皮下の空間に埋め込み、次いで、埋め込みの24時間後に処置した。各マウスに2つのカテーテルを埋め込み、以下の各条件について2匹のマウスを評価した:ネガティブコントロール(バイオフィルムなし、作用物質なし)、PlySs2コントロール(PlySs2剤で処理されたバイオフィルムなしのモック)、ビヒクルのみ、PlySs2腹腔内投与(IP)、PlySs2静脈内投与(IV)およびPlySs2皮下投与(SC)。PlySs2は、100μgの単回ボーラス(マウスにおける5mg/kgおよび約50μg/ml用量に対応する)として投与した。カテーテルを処置の6時間後に取り出し、メチレンブルーで染色した。各条件下の染色(600nmにおいて可視化された)の相対量を
図15に示す。IP、IVおよびSC投与の各々が、染色を減少させ、皮下ボーラスは、カテーテル内の染色を、コントロールレベルの近くまで除去した。
実施例5
【0176】
別の実験セットにおいて、マウスに埋め込まれた頚静脈カテーテルは、PlySs2溶解素で事前に滴注して、この前処理による、バイオフィルム感染からのマウスの保護を評価する。上に記載された頚静脈カテーテル動物モデルを使用して、頚静脈カテーテル処置されたマウスのカテーテルを、PBS中のPlySs2溶解素の滴注で24時間前処理し、その後にS.aureusをチャレンジする。コントロール動物には、PBSだけで前処理したカテーテルを与える。チャレンジの当日、チャレンジの2時間前に、すべてのカテーテルにPBSを流して、未結合の過剰の溶解素を除去し、次いで、上に記載されたように、尾静脈を介してマウスにS.aureusをチャレンジする。チャレンジされた動物を、細菌チャレンジ後の様々な日に屠殺し、カテーテルおよび器官を回収し、上に記載
されたように細菌を定量する。
実施例6
【0177】
ブドウ球菌性心内膜炎は、ラットの大動脈弁において実験的に誘発され得る、バイオフィルムに基づく感染症である(Entenza JMら(2005)IAI 73:990-998)。簡潔には、無菌の大動脈疣贅形成をラットにおいて生じさせ、溶解素を送達する注入ポンプを、記載されているように(Entenzaら)設置する。24時間後に105~107個のブドウ球菌をi.v.チャレンジすることによって心内膜炎を誘発させる。感染の24または48時間後のいずれかに、溶解素および/または抗生物質(例えば、ダプトマイシン、バンコマイシンまたはリネゾリド)を静脈内投与する。コントロールラットには、緩衝液だけを与える。72時間後までの感染後の様々な時点において、動物を屠殺し、血液および疣贅形成物の定量的な培養を行った。細菌の密度は、それぞれ組織の1mLまたは1グラムあたりのlog10CFUとして表現される。
実施例7
【0178】
PlySs2および標準的治療の抗生物質の相対的なバイオフィルム根絶活性を比較するために、PlySs2および抗生物質の活性の24時間の経時的解析をMRSAバイオフィルムにおいて行った。10
5個の細菌(MRSA菌株ATCC BAA-42)を、1ウェルあたり0.2%グルコースを含む0.5mlのトリプシン-ダイズブロス(TSB+)中に接種し、37℃で24時間インキュベートすることによって、バイオフィルムを24ウェルポリスチレンプレートにおいて生成した。評価される各処置の時点(0、0.5、1、2、4、6および24時間)に対して1枚のプレートを作製した。24時間後、培地を吸引し、ウェルを1×PBSで2回洗浄し、薬物処置を加え、処置時間を開始した。1mlのMHB2(または1mlあたり50μg CaCl
2が補充されたMHB2)中の示されている薬物濃度(ダプトマイシン、バンコマイシンまたはリネゾリドについては1000×MIC;PlySs2溶解素については1×MIC)を各ウェルに加え、示されている期間にわたってインキュベートした後、吸引し、1×PBSで2回洗浄し、15分間風乾した。ウェルを、1ml中の3%クリスタルバイオレット溶液で5分間染色し、次いで、吸引し、1×PBSで3回洗浄し、15分間風乾し、写真撮影した。すべての実験を2つ組で行った。結果を
図6および7に示す。ウェルのクリスタルバイオレット染色を
図6に示し、プレートのウェルに保持されている色素の定量を
図7に示す。1×MICのPlySs2は、2時間までにバイオフィルムを完全に取り除いたが、1000×MIC濃度のダプトマイシン、バンコマイシンおよびリネゾリドは、24時間にバイオフィルムのクリアランスを示さなかった。
【0179】
MIC未満の濃度のPlySs2がバイオフィルムを処置する能力を決定するために、24時間の経時的解析を行った。10
5個の細菌(MRSA菌株ATCC BAA-42)を、1ウェルあたり0.2%グルコースを含む0.5mlのトリプシン-ダイズブロス(TSB+)中に接種し、37℃で24時間インキュベートすることによって、バイオフィルムを24ウェルポリスチレンプレートにおいて生成した。評価される各処置の時点(30分、1時間、4時間、24時間)に対して1枚のプレートを作製した。24時間後、培地を吸引し、ウェルを1×PBSで2回洗浄し、PlySs2を加え、処置時間を開始した。1mlのMHB2中の示されているPlySs2濃度(0.1×MICおよび0.01×MIC)または培地のみを各ウェルに加え、示されている期間にわたってインキュベートした後、吸引し、1×PBSで2回洗浄し、15分間風乾した。ウェルを、1ml中の3%クリスタルバイオレット溶液で5分間染色し、次いで、吸引し、1×PBSで3回洗浄し、15分間風乾し、写真撮影した。すべての実験を2つ組で行った。結果を
図8に示す。0.1×MICのPlySs2は、4時間までにバイオフィルムを取り除いた。0.01×MICのPlySs2は、4時間で部分的なクリアランスをもたらし、完全なクリアランスは、24時間の時点までに観察された。
実施例8
【0180】
カテーテル上に成長したMRSAバイオフィルムに対するPlySs2とダプトマイシンの両方について、バイオフィルム根絶活性を評価した。105個の細菌(MRSA菌株ATCC BAA-42)を、1セグメントあたり0.2%グルコースを含む0.2mlのトリプシン-ダイズブロス(TSB+)中に接種し、37℃で72時間インキュベートすることによって、バイオフィルムをカテーテルチューブの2インチセグメント(可塑剤としてDEHP[ジ(2-エチルヘキシル)フタレート]を含有する、PVC[ポリ塩化ビニル];(CareFusion SmartSite輸液セット,#72023)において生成した。メチレンブルーでの染色またはCFUの定量のためすべてのサンプルを2つ組用意した。72時間後、培地を流し出し、セグメントを1mlの1×PBSで洗浄し、処理を加えた。0.2mlの乳酸加リンガー溶液中の示されている薬物濃度(ダプトマイシンについては1×MICおよび1000×MIC、PlySs2については1×MIC)を各セグメントに加え、24時間インキュベートした後、フラッシングし、1mlの1×PBSで洗浄した。次いで、2つ組のサンプルを以下のとおり調査した:バイオフィルムの根絶を評価するために、セグメントを、0.22ml中の0.02%メチレンブルー(水中)溶液で15分間染色した。次いで、セグメントをフラッシングし、dH2Oで3回洗浄し、15分間風乾し、写真撮影した。残留バイオフィルム内に保持されている生細胞の量を定量するために、2つ組のセグメントを0.22mlの溶解緩衝液(乳酸加リンガー溶液中の100μg/mlリゾスタフィン)で8分間処理した。次に、0.1mlのサンプルを取り出し、96ウェル一枚板(solid)白色ポリスチレンプレートに加え、0.1mlのPromega BacTiter-Glo Luciferin/Luciferase試薬と混合し、直ちに相対発光量(RLU)を測定し(キットの製造者の指示によって指定されるように)、予め作成しておいた、RLU値を既知濃度の細菌と相関させた検量線と比較した。この様式で、各バイオフィルムにおける細菌のCFUの推定値を決定した。
【0181】
結果を
図9に示す。相対的なバイオフィルム染色を
図9Aに示す。PlySs2は、1×MICにおいてカテーテルからバイオフィルムを完全に取り除いたが、ダプトマイシンは、1000×MICでさえも有意なバイオフィルムの除去をしなかった。
図9Bに認められるように、1×MICのPlySs2は、CFUを検出限界である100CFU/mlにまで下げたが、1×MICのダプトマイシンではCFUの減少は認められず、1000×MICダプトマイシンでは、1億CFU/mlから100万CFU/mlへの2log減少が観察された。
【0182】
カテーテルからバイオフィルムを根絶するために必要なPlySs2の最低量を決定するために、滴定実験を行った(
図10)。10
5個の細菌(MRSA菌株ATCC BAA-42)を、1セグメントあたり0.2%グルコースを含む0.2mlのトリプシン-ダイズブロス(TSB+)中に接種し、37℃で72時間インキュベートすることによって、バイオフィルムをDEHPカテーテルチューブの2cmセグメントに生成した。72時間後、培地を流し出し、セグメントを1mlの1×PBSで洗浄し、薬物処理を加えた。0.2mlの乳酸加リンガー溶液中の示されている薬物濃度(1×、0.1×、0.01×、0.001×、0.0001×および0.00001×MICの量のPlySs2)を各セグメントに加え、24時間インキュベートした後、フラッシングし、1mlの1×PBSで洗浄した。セグメントを、0.22ml中の0.02%メチレンブルー(水中)溶液で15分間染色した後、フラッシングし、dH2Oで3回洗浄し、15分間風乾し、写真撮影した。染色によって決定されたとおり、バイオフィルムを完全に根絶するために必要なPlySs2の量は、0.01×MIC(0.32μg/ml)だった(
図10)。ダプトマイシン(1×、10×、100×、1000×、5000×MICダプトマイシン)を用いて行われた同様の滴定解析は、5000×MIC(5mg/ml)もの高
いダプトマイシンの濃度でも、バイオフィルムは除去されないことを示した(
図11)。
【0183】
溶解素または抗生物質でバイオフィルム(biofiolm)を処理した後に残存しているCFUを定量するために、
図10および11において評価したとおり、2つ組のセグメントを0.22mlの溶解緩衝液(乳酸加リンガー溶液中の100μg/mlリゾスタフィン)で8分間処理した。次に、0.1mlのサンプルを取り出し、96ウェル一枚板白色ポリスチレンプレートに加え、0.1mlのPromega BacTiter-Glo Luciferin/Luciferase試薬と混合し、直ちに相対発光量(RLU)を測定し(キットの製造者の指示によって指定されるように)、予め作成しておいた、RLU値を既知濃度の細菌と相関させた検量線と比較した。この様式で、各バイオフィルムにおける細菌のCFUの推定値を決定した。この滴定解析から、メチレンブルー染色の結果が確かめられ、それを
図13に提供する。PlySs2は、バイオフィルム細菌を除去する点において、0.01×MIC濃度まで活性であるが、ダプトマイシンは、5000×MICの濃度まで完全に無効である。
【0184】
次いで、MRSAカテーテルバイオフィルムに対するPlySs2活性の経時的解析を行った(
図12)。10
5個の細菌(MRSA菌株ATCC BAA-42)を、1セグメントあたり0.2%グルコースを含む0.2mlのトリプシン-ダイズブロス(TSB+)中に接種し、37℃で72時間インキュベートすることによって、バイオフィルムをDEHPカテーテルチューブの2インチセグメントにおいて生成した。メチレンブルー染色およびCFU定量を適応させるために、示されている各時点(0分、5分、15分、30分、60分、90分、2時間、3時間、4時間、5時間)に対して2つのサンプルを用意した。72時間後、培地を流し出し、セグメントを1mlの1×PBSで洗浄し、処理を加えた。0.2mlの乳酸加リンガー溶液中のPlySs2(1×MIC濃度、すなわち32μg/mL)を各セグメントに加え、示されている時点にわたってインキュベートした後、フラッシングし、1mlの1×PBSで洗浄した。次いで、2つ組のサンプルを各時点において以下のとおり調査した:セグメントを、0.22ml中の0.02%メチレンブルー(水中)溶液で15分間染色した。次いで、セグメントをフラッシングし、dH2Oで3回洗浄し、15分間風乾し、写真撮影した。2つ組のセグメントを0.22mlの溶解緩衝液(乳酸加リンガー溶液中の100μg/mlリゾスタフィン)で8分間処理した。次に、0.1mlのサンプルを取り出し、96ウェル一枚板白色ポリスチレンプレートに加え、0.1mlのPromega BacTiter-Glo Luciferin/Luciferase試薬と混合し、直ちに相対発光量(RLU)を測定し(キットの製造者の指示によって指定されるように)、予め作成しておいた、RLU値を既知濃度の細菌と相関させた検量線と比較した。この様式で、各バイオフィルムにおける細菌のCFUの推定値を決定した。この経時的解析から、1×MIC PlySs2において、染色可能なバイオフィルムがカテーテルから経時的に漸進的除去されることが明らかになり、60分までに完全に除去された(
図12A)。CFU解析から、同様の漸進的な時間経過が明らかになり、CFU値は、60分までに検出限界(100CFU/ml)に達した(
図12B)。
実施例9
【0185】
シミュレートされたカテーテルの状況におけるPlySs2の安定性を決定するために、様々な濃度のPlySs2を37℃の乳酸加リンガー溶液中でインキュベートした。7日後に、1×105個のブドウ球菌を加え、4時間インキュベートし、次いで、プロテイナーゼKで処理して、残留PlySs2を取り出し、生存能を調べるために段階希釈およびプレーティングすることによって、PlySs2の溶解活性を評価した。各条件に対して得られたCFU値を1×105で除算することにより、%活性喪失を決定した。
【0186】
結果を下記の表6に作表する。37℃の乳酸加リンガー溶液中での7日間のインキュベ
ーションの後、10×および100×MIC濃度のPlySs2については、検出不可能な活性喪失が観察されたが、1×MICサンプルについては、58.3%喪失が決定された。
表6
乳酸加リンガー溶液中の37℃におけるPlySs2の安定性
【表6】
【0187】
上記のことは、PlySs2が、シミュレートされたカテーテルの状況において、少なくとも7日までは活性かつ安定であり、ブドウ球菌を効果的に殺滅し、それにより、例示的な標準ケアIVおよびフラッシュ溶液である乳酸加リンガー中で長期間にわたってインキュベートした後でさえ、細菌集落形成を防止し得ることを示している。
実施例10
【0188】
溶解素処理の後または溶解素処理すると、バイオフィルムから追い出され、カテーテルの管腔の液相に懸濁される細菌の生存能を評価するためにその管腔の無菌化を評価する経時的研究を行った。上に記載された
図12において、バイオフィルム(壁に対して接着性)が、失われ、1時間までに完全に分散されることが実証された。本研究において、生細胞を検出するCFU解析によって評価される、管腔内の細菌の無菌化(完全な殺滅)は、およそ6~24時間の間に生じる。バイオフィルムを、菌株ATCC BAA-42を用いて37℃で3日間形成した。バイオフィルムを1×PBSで洗浄し(浮遊細胞を除去するため)、乳酸加リンガー溶液(緩衝液コントロール)またはPlySs2溶解素(1×MIC濃度で)またはダプトマイシン(1×MIC濃度で)を含む乳酸加リンガー溶液のいずれかで、およびPlySs2溶解素(10×MIC濃度で)で処理した。バイオフィルムを最大24時間処理し、CFUを2分、15分、30分、1時間、2時間、6時間および24時間に評価した。各時点において、カテーテルの管腔の内容物を取り出し、生存能を調べるためにプレーティングした。
図16は、緩衝液のみに対する1×MIC(32μg/ml)、I×MICダプトマイシンおよび10×MIC(320μg/ml)のレベルの処理の結果を提供している。
実施例11
【0189】
Staphylococcus epidermidisバイオフィルムに対する有効性について溶解素を評価した。様々なS.epidermidis菌株のバイオフィルムを、ポリスチレン24ウェルマイクロタイタープレートにおいて生成し、PlySS2溶解素で処理することにより、各菌株に対するPlySs2の最小阻止濃度(MIC)およびバイオフィルム根絶濃度(BEC)を決定した。20個を超える異なるS.epidermidis菌株に対する結果を下記の表7に作表する。上記の実施例に記載され、言及されているように、ブロス微量希釈法について標準的なCLSI法を使用して、MIC(単位はマイクログラム/ml)を決定し、計算した。PlySs2のバイオフィルム根絶濃度(BEC)(単位はマイクログラム/ml)は、示されている菌株の24時間のバイオフィルムを完全に破壊する希釈範囲の最低濃度である。
【0190】
BECを決定するために、24時間のバイオフィルムを、24ウェルプレートにおいて成長させ、PBSで2回洗浄し、乳酸加リンガー溶液で調製したPlySs2(希釈範囲
)ありまたはなしで処理した。処理したプレートを37℃(周囲空気)で24時間インキュベートし、PBSで洗浄し、クリスタルバイオレット(CV)で15分間染色した。次に、そのCV染色を、各ウェルにおいて1mLの33%酢酸で可溶化し、200μLの可溶化したCVを使用して、吸光度(OD
600nm)を読み出した。ウェルの吸光度を溶解素なしのウェル(バイオフィルムコントロール)の吸光度で除算することによって、パーセントバイオフィルムを決定した。BECは、>75%のバイオフィルムの排除を示した値として決定された。
表7
【表7】
MIC=ブロス微量希釈法について標準的なCLSI法を使用して計算されたPlySs2の最小阻止濃度(単位はμg/ml)。naは、データが入手できないことを示す。
BEC=PlySs2のバイオフィルム根絶濃度(単位はμg/ml)は、示されている菌株の24時間のバイオフィルムを完全に破壊する希釈範囲の最低濃度である。
【0191】
これらの結果は、S.epidermidisバイオフィルムに対するPlySs2溶解素の強力な活性を実証している;著しいことに、強力な活性は、PlySs2のMICが高い菌株のepidermidisバイオフィルムにまで及び;著しいことに、強力な活性は、PlySs2のMICレベルが高い菌株にまで及ぶ。これらのデータは、Ply
Ss2が、広範囲のS.epidermidisバイオフィルムに対して活性であることを示している。
【0192】
カテーテル内のS.epidermidisバイオフィルムをPlySs2で処理し、S.aureusの研究について上に記載されたような方法を用いて同様に評価した。S.epidermidisは、前に記載したS.aureus菌株と同程度の頑強さでカテーテル上にバイオフィルムを生成することはないが、しかしながら、バイオフィルムの成長は生じたので、それは評価することができた。
【0193】
10×MICおよびそれ未満のPlySs2で処理されたカテーテル上のS.epidermidis(バンコマイシン中間感性S.epidermidis(VISE)菌株である菌株CFS313 NRS34)のバイオフィルム研究の結果を
図17に示す。S.epidermidisバイオフィルムは、0.1×MICまで下げたPlySs2濃度において破壊される。ここでのMICは、8μg/mlである。同様の結果および同等の活性レベルが、S.aureus菌株CFS218(MRSA菌株ATCC BAA-42)を用いたとき観察された。
実施例12
【0194】
バイオフィルム防止アッセイの結果を
図18に示す。S.aureus MRSA菌株BAA-42(5×10
5細菌/ml)を、24ウェルプレートの行の各ウェル中の2mlのTSB+0.2%グルコースに接種した。直ちに溶解素PlySs2(濃度1×MIC(32μg/ml)、0.1×MIC、0.01×MIC、0.001×MICおよび0.0001×MICで)を加え、次いで、周囲空気において37℃で6時間インキュベートした。ウェルをPBSで洗浄し、クリスタルバイオレットで染色し、写真撮影することにより、各条件下のバイオフィルムの発生を評価した。緩衝液コントロールも同時に評価した。この研究では、細菌および溶解素PlySs2(種々の濃度)を同時に加え、バイオフィルム形成を6時間進める。
図18において実証されるように、1×および0.1×MIC PlySs2とのプレインキュベーションによって、その後のバイオフィルム形成が効果的かつ完全に防止され得る。したがって、PlySs2は、成熟したバイオフィルムを根絶し得るだけでなく、新規のバイオフィルム形成も同様に防止し得る。
実施例13
【0195】
上に記載されたようなBAA-42 MRSAによって生成されるバイオフィルムに加えて、さらなるS.aureus菌株のバイオフィルムを、PlySs2溶解素に対する感受性について評価した。MRSA菌株CFS553(ATCC43300)(
図19)およびCFS992(JMI5381)の各々を、上に記載されたような方法を使用するカテーテル研究において評価した。各場合において、3日経過したバイオフィルムを洗浄し、示されているPlySS2濃度で4時間処理した。菌株ATCC4330に対する1×MICは、16μg/mlであり、菌株JMI5381に対する1×MICは、32μg/mlである。
図19および20に示されているように、これらの代替のMRSA菌株のバイオフィルムは、PlySs2に感受性であり、Plyss2は、10×MIC、1×MICおよび0.1×MICのレベルにおいて、カテーテルバイオフィルムを根絶させ、完全に分散させた。それらのバイオフィルムは、0.01×MIC PlySs2を使用したとき、各菌株において有意に減少した。
実施例14
バイオフィルムを、上記のようにカテーテルチューブ(可塑剤としてDEHPを含むPVC)上に生成し、走査型電子顕微鏡法(SEM)によってPlySs2感性について評価した。カテーテル表面上のMRSA菌株CFS218(MRSA菌株ATCC BAA-42)の3日経過したバイオフィルムを、乳酸加リンガー溶液中の1×MIC濃度(すなわち、32μg/ml)のPlySs2で30秒間または15分間のいずれかで処理し
た後、その処理物を洗浄し、残存しているバイオフィルムをグルタルアルデヒド(gluteraldehyde)で固定した。カテーテル表面上での固定の後、サンプルをさらに処理し、5000×倍率の走査型電子顕微鏡法によって解析した(
図21)。緩衝液のみ(すなわち、乳酸加リンガー溶液のみ)による処理をコントロールとして含める。
図21に示されているように、PlySs2処理は、MRSAバイオフィルムを迅速に減少させ(30秒以内)、15分までに、バイオフィルムをほぼ完全に除去する。
【0196】
【0197】
本発明は、その精神または必須の特徴から逸脱することなく、他の形態で具体化されてもよいし、他の方法で行われてもよい。ゆえに、本開示は、すべての態様において、例証するものであって、限定するものではないと見なされるべきであり、本発明の範囲は、添付の請求項によって示され、等価な意味および範囲に入るすべての変更が、その中に包含されると意図される。
【0198】
様々な参考文献が、本明細書全体にわたって引用されてきたが、それらの各々は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【配列表】