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特許7368040構造物の表面処理方法、粉粒状製品の製造設備における付着物除去方法、および、粉粒状製品の製造方法
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  • 特許-構造物の表面処理方法、粉粒状製品の製造設備における付着物除去方法、および、粉粒状製品の製造方法 図1
  • 特許-構造物の表面処理方法、粉粒状製品の製造設備における付着物除去方法、および、粉粒状製品の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】構造物の表面処理方法、粉粒状製品の製造設備における付着物除去方法、および、粉粒状製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 5/02 20060101AFI20231017BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20231017BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20231017BHJP
   B24C 1/00 20060101ALI20231017BHJP
   B24C 5/02 20060101ALI20231017BHJP
   B24C 5/04 20060101ALI20231017BHJP
   B24C 7/00 20060101ALI20231017BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20231017BHJP
   C13B 50/00 20110101ALI20231017BHJP
【FI】
B08B5/02 A
A23L5/00 Z
B08B3/02 F
B24C1/00 C
B24C5/02 A
B24C5/04 A
B24C7/00 B
B24C11/00 Z
C13B50/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023516629
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2022046374
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2021205877
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022146888
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515148882
【氏名又は名称】株式会社グランドライン
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 悟
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/178361(WO,A1)
【文献】特開平09-276292(JP,A)
【文献】特開2003-145075(JP,A)
【文献】登録実用新案第3156139(JP,U)
【文献】特開2010-012405(JP,A)
【文献】特開2006-224260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 5/02
B08B 3/02
B24C 1/00
B24C 5/02
B24C 5/04
B24C 7/00
B24C 11/00
C13B 50/00
A23L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去することで前記部材を再生させる、構造物の表面処理方法であって、
前記汚損より硬度が高く前記部材と硬度が同一以下である物質を粉粒状とした第1粉粒状物を主成分として含むブラストメディアを用い、
気体を駆動流体として、前記ブラストメディアを前記部材の表面に吹き付けるノズルと 、前記ブラストメディアと前記気体との混合物を前記ノズルに送る中空管と、前記中空管から前記ノズルに供給する前記混合物の流量を調整する流量調整部と、を有するブラスト処理装置を用い、
更に、前記ノズルとして、前記中空管と接続される管状の基端部分と、当該基端部分から中間部分を経て当該中間部分の先に延伸する先端部分であって、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状の噴射口が形成されている先端部分と、を有する前記ノズルを用い、
前記部材の表面が露出している状態で前記混合物の流量を調整して当該混合物を当該部材の表面に吹き付けることにより、前記噴口から噴射させた帯状の前記混合物を前記汚損を除去する研掃具として機能させ、前記汚損を除去して当該表面の汚損の下層または周辺にあって、当該汚損とmm単位以下で隣接する堅牢な部分である当該部材の再生面を研削することなく露出させるとともに、当該再生面にμmレベルの微細な凹凸を形成する粗し処理を行う、
構造物の表面処理方法。
【請求項2】
前記部材は木材であり、
前記第1粉粒状物は、気乾比重が0.5より大きい植物系ブラストメディアを用いる、
請求項1に記載の構造物の表面処理方法。
【請求項3】
前記部材は、塗装された表面が劣化した塗装済み木材であり、
前記ブラストメディアは、
(A)気乾比重が0.5以下の植物系ブラストメディア、あるいは
(B)鉱物系メディア
から成る第2粉粒状物を副成分として含み、
前記部材の塗膜における活膜上の劣化層を前記汚損として除去し、当該劣化層の下の前記活膜を含む前記部材の木地を前記再生面として露出させる、
請求項2に記載の構造物の表面処理方法。
【請求項4】
前記部材が前記構造物を構成している状態で、前記混合物を当該部材の表面に噴霧する、
請求項1からのいずれかに記載の構造物の表面処理方法。
【請求項5】
構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去することで前記部材を再生させる、構造物の表面処理方法であって、
前記構造物は、生体内に取り込まれる粉粒状製品を製造する製造設備であって、
前記部材は、前記製造設備での前記粉粒状製品の製造過程で生じる粉粒状の付着物によって表面が汚損されており、
前記付着物と同種物質を粉粒状とした第1粉粒状物を主成分として含むブラストメディアを用い、
気体を駆動流体として、前記ブラストメディアを前記部材の表面に吹き付けるノズルと、前記ブラストメディアと前記気体との混合物を前記ノズルに送る中空管と、を有するブラスト処理装置を用い、
更に、前記ノズルとして、前記中空管と接続される管状の基端部分と、当該基端部分から中間部分を経て当該中間部分の先に延伸する先端部分であって、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状の噴射口が形成されている先端部分と、を有するノズルを用い、
前記混合物を当該部材の表面に吹き付けることにより、前記噴口から噴射させた帯状の前記混合物を、前記汚損を除去する研掃具として機能させ、前記汚損を除去して当該表面の汚損の下層または周辺にある当該部材の再生面を研削することなく露出させるとともに、当該再生面に微細な凹凸を形成する粗し処理を行う、
構造物の表面処理方法。
【請求項6】
前記粉粒状製品は砂糖であり、前記ブラストメディアの前記第1粉粒状物はグラニュー糖である、
請求項5に記載の構造物の表面処理方法。
【請求項7】
粉粒状製品を製造する製造設備に付着する粉粒状の付着物を除去する付着物除去方法であって、
前記付着物と同じ物質の粒状物をブラストメディアとして用い、前記ブラストメディアをノズルから噴射させ、前記粉粒状製品の製造設備に設けられ前記粉粒状の付着物が付着した部品に吹き付ける、
付着物除去方法。
【請求項8】
前記粉粒状の製品は砂糖であり、前記ブラストメディアとして用いる砂糖は、平均粒径が200μm以上500μm以下かつ変動係数が0.20%以上0.30%以下である、
請求項に記載の付着物除去方法。
【請求項9】
前記ノズルとして、第1方向の寸法よりも前記第1方向に直交する第2方向の寸法が小さい平坦形状の噴射口を有するものを用い、前記噴射口における前記第2方向の寸法は前記ブラストメディアの平均粒径の1.6倍以上4.0倍以下である、
請求項に記載の付着物除去方法。
【請求項10】
前記ブラストメディアを噴射させるためのガス圧は、前記ブラストメディアを前記ノズルへ送るべく収容するブラストメディアタンク内の圧力で、0.4MPa以上0.9MPa以下である、
請求項に記載の付着物除去方法。
【請求項11】
前記製造設備により製造される砂糖は上白糖であり、前記ブラストメディアとして用いられる粒状の砂糖はグラニュー糖である、
請求項に記載の付着物除去方法。
【請求項12】
前記粉粒状の製品は塩であり、前記ブラストメディアは粒状の塩である、
請求項に記載の付着物除去方法。
【請求項13】
粉粒状の製品を製造する粉粒状製品の製造方法であって、
請求項7から12のいずれかに記載の付着物の除去方法により、前記粉粒状の製品を製造する製造設備であって、前記粉粒状の付着物が付着する前記製造設備から前記付着物を除去して前記粉粒状製品を製造する粉粒状製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着物が付着したり劣化したりした部材表面の汚損を除去して部材を再生するための構造物の表面処理方法、および構造物の表面処理に用いるブラスト処理装置に関する。さらに、砂糖などの粉粒状の製品の製造設備で用いられる器具に付着した粉粒状の付着物体を清掃のために取り除く方法および装置、ならびに、当該方法および装置を用いた粉粒体製造方法および製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外の建造物等の構造物の部材表面は、風雨、粉塵、太陽光などに晒されることで劣化して汚損する。このように構造物の部材表面が汚損した場合、部材表面を再生するために汚損を除去する浄化が行われる。浄化方法としては、水などの流体を高圧かつ高速で部材表面に噴射するブラスト処理が知られている。また、ブラスト処理には、汚損部分を研磨する研磨材(ブラストメディア)を噴射するための駆動流体として、空気などの気体を用いる乾式ブラスト処理(例えば、特許文献1参照)と、水などの液体を用いる湿式ブラスト処理(例えば、特許文献2,3参照)とがある。
【0003】
また、屋内の構造物の部材表面が汚損する場合もある。例えば、工場の屋内に設置されている製造設備のような構造物のなかには、当該設備を稼働することでその設備を構成する部材表面に、製造物などが付着するものがある。
【0004】
具体的に例を挙げて説明すると、粉粒状の製品(粉粒体製品)を製造する設備の器具には、製造する粉粒体が付着する場合がある。粉粒体製品として砂糖を例に挙げて説明する。砂糖は大別すると精製糖および含蜜糖に分けられる。例えばこのうち精製糖の製造方法が特許文献4に開示されている。これによると、収穫されたサトウキビ又はてん菜から原糖(原料糖)が製造され、この原糖が工場内で洗糖、清浄、結晶化等されて砂糖に仕上げられる。仕上がった砂糖は製品に応じて異なるサイロ等に貯蔵される。
【0005】
ところで、製糖工場において、例えば仕上がった砂糖をサイロ等に貯蔵するとき、バケットおよびチェーンなどから成るエレベータや、振動コンベアにより、上下方向あるいは水平方向へ移送される。これらエレベータやコンベア等が有する駆動部品に、砂糖が付着する。しかしながら、駆動部品に砂糖が付着すると、駆動部品の摺動箇所にて砂糖が高圧で擦れて固着すると共に、固着した砂糖が更なる摩擦で加熱されて褐変反応により変色する。そして、この変色した砂糖が製品に混入するのは好ましくない。
【0006】
そこで従来、駆動部品に付着した砂糖を取り除くための除糖処理が定期的に行われている。具体的には、対象となる駆動部品を設備から取り外し、これを熱湯に浸すことで、付着した砂糖を溶融して除去している。一方、砂糖が溶融した溶液は、加熱して水分を蒸発させることで砂糖を析出させ、砂糖の精製に再利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】登録第7025770号公報
【文献】登録第6963261号公報
【文献】特開2018-075706号公報
【文献】特開2003-61700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した屋外構造物をブラスト処理により浄化する場合には次のような課題がある。すなわち、ブラスト処理により浄化を行う場合、対象物や目的に応じて処理条件を最適化する必要があり、この作業には複雑な検討を要する。例えば、ブラスト処理に用いられるブラストメディアには様々の種類があり、これを噴射するための駆動流体にも様々の種類と様々の噴射条件とがある。ブラストメディアの種類と、駆動流体の種類および噴射条件とは、互いの間に相関性があり、組み合わせの適性がある。また、ブラストメディアの種類や駆動流体の種類および噴射条件の選定にあたっては、浄化目的、現場環境、対象物の特性なども考慮しなければならない。このように、ブラスト処理の処理条件の最適解を得るには、本来、様々のパラメータを考慮する必要がある。
【0009】
しかしながら、このような様々のパラメータをすべて考慮して処理条件を決定するのは非常に煩瑣な作業となる。そのため、一般的には、ある程度の幅のパラメータに適用できるような、すなわち、汎用性のある処理条件が選ばれる。例えば、近い特性を有する複数種類の対象物に適用できるよう、汚損を除去する能力を若干高くした(あるいは、低くした)処理条件が選択される。ただし、このように汎用性のある処理条件を選択すると、対象物によっては、汚損除去能力が過剰であったり不足がちであったりするため、現場での作業性に影響する。
【0010】
また、寺社仏閣などの文化財のように、一般的に高価値であって扱いに注意の必要なデリケートな建造物(構造物)の部材表面をブラスト処理により浄化する場合は、対象物である部材やその周辺部分をなるべく傷めずに、また、歴史的価値がある刀傷や彫り痕など(以下、「処理痕」)を残しながら汚損を除去することが求められる場合もある。このような場合、従来のブラスト処理では部材表面に形成されている処理痕のよう微細な(例えばmm単位以下の)凹凸の表面の汚損を除去するような繊細な操作をすることが難しかった。すなわち、処理痕のような微細な凹凸に沿ってその表面の汚損を除去し、かつ、凹凸を消失させることなく部材表面に凹凸を残した状態で再生するというような繊細な処理ができるような操作をすることは困難であった。
【0011】
次に、屋内構造物の浄化について言及した除糖処理に関しては、次のような課題がある。すなわち、上記のような駆動部品の取り外しを要する除糖処理は大きな手間を要する。また、砂糖が溶融した溶液を加熱して砂糖を析出させる処理は、手間がかかると共に大きな消費エネルギーを必要とし、これに伴ってコスト高にもなっている。更に、上記のようにして除糖した場合、その直後は、駆動部品の摺動箇所にて部品同士が直接的に接触する。そうすると摺動箇所から金属粒子が欠け落ちて製品に混入する恐れがあるため、別途「まぶし」という処理(駆動部品の摺動箇所に粉粒状の砂糖を振りかける処理)を行う必要があり、これも従来の除糖処理の煩雑さを大きくする要因になっている。また、このような課題は精製糖に限らず、含蜜糖の製造器具の清掃においても同様である。更には、砂糖の製造工場だけでなく、塩の製造工場において部品に固着した塩を取り除く場合、その他、多種多様な粉粒体製品の製造工場の様々な工程においても同様の課題が存在する。
【0012】
そこで本開示では、上述した課題のうち少なくとも1つを解決することを目的とする。すなわち、構造物をブラスト処理により浄化する場合の処理条件を容易に決定することができる構造物の表面処理方法、およびブラスト処理装置を提供する。また、粉粒状の製品の製造設備で用いられる器具に付着した粉粒体を容易に取り除くことのできる付着物除去方法および装置、並びに、これらを組み込んだ粉粒状製品の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の第1の態様に係る構造物の表面処理方法は、構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去することで前記部材を再生させる、構造物の表面処理方法であって、前記部材と硬度が同一以下である物質を粉粒状とした第1粉粒状物を主成分として含むブラストメディアを用い、気体を駆動流体として前記ブラストメディアを前記部材の表面に吹き付けるノズルと、前記ブラストメディアと前記気体との混合物を前記ノズルに送る中空管と、前記中空管から前記ノズルに供給する前記混合物の流量を調整する流量調整部と、を有するブラスト処理装置を用い、更に、前記ノズルとして、前記中空管と接続される管状の基端部分と、当該基端部分から中間部分を経て当該中間部分の先に延伸する先端部分であって、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状の噴射口が形成されている先端部分と、を有する前記ノズルを用い、前記部材の表面が露出している状態で前記混合物の流量を調整して当該混合物を当該部材の表面に吹き付けることにより、前記噴出口から噴射させた帯状の前記混合物を前記汚損を除去する研掃具として機能させ、前記汚損を除去して当該表面の汚損の下層または周辺にある当該部材の再生面を研削することなく露出させるとともに、当該再生面に微細な凹凸を形成する粗し処理を行う。
【0014】
このように、再生対象の部材と硬度が同一以下の物質の粉粒状物のブラストメディアを使用することで、部材ごとに、使用すべきブラストメディアの選択肢を容易に絞り込むことができる。また、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状のスリットを噴射口とするノズルから、気体とブラストメディアとの混合物を噴射して対象物の部材に吹き付ける。噴出口は長辺が直線で短辺が曲線である角が丸められた長方形状(例えば、長円形状)であることが好ましい。このような噴射口から噴射された噴射物は、ブラストメディアが細い帯状を成してノズルの操作方向と同一方向に動くため、細長い動的な「研掃具」として機能する。このような「研掃具」は、ブラストメディアが処理痕のような微細な凹部にも到達して、対象部材にぶつかることで汚損を除去する。一方で、対象部材とぶつかった後にはブラストメディアの流速が低下したり粒径が小さくなったりすることで、対象部材の再生面の研削は回避される。
【0015】
ここで、処理対象部材の表面には、劣化や汚れなどが付着した除去すべき部分(汚損)と再生面を成す堅牢な部分とがあり、汚損は堅牢な部分に比べて脆弱である。こうした汚損部分と堅牢な部分とはmm単位あるいはμm単位の距離で隣接するが、従来のブラスト処理では、処理痕のようにmm以下の単位の凹凸がある部材表面について、汚損を除去(研掃)しつつ再生面を成す堅牢な部分を削らないような繊細な処理を行うことは困難であった。本発明では、前述した混合物を前述した噴射口から噴射することで、噴射した帯状の混合物を微細な凹凸に合わせた研掃ができる研掃具として機能させる。
【0016】
この時、混合物をノズルに供給する流路に流量調整弁を設けるなどして混合物の流量を調整することで噴射条件(噴射量と噴射速度のうち何れか一方または両方)を制御すれば、ノズルから噴射される「研掃具」による研掃の強度を制御できる。そこで、噴射条件を調整して、汚損の下層や周辺にある堅牢な部分を削るほどの強度にならないようにしてブラスト処理を行う。このようにすれば、mm単位以下という微細な汚損部分を除去しつつ、堅牢な部分については、これを研削することなく露出させ部材を再生するための再生面とすることができる。
【0017】
ここで、露出された再生面には、ブラストメディア由来の微粒子がぶつかることで微小な(概ね数十~数百μm程度の径の)凹部が形成される。これにより、再生面にはμmレベルの微細な凹凸が形成される粗し処理が施されることになる。再生面がこのように粗し処理されることで、再生面に塗料などを塗布する場合、再生面に塗料などをより強固に密着または含浸させ部材表面の再生をより確実に行える。
【0018】
このように、本発明では処理対象の部材の表面をmm単位以下のような微細な汚損を除去しつつ、再生面を成す堅牢な部分を削り取らないような制御ができ、さらに、再生面に粗し処理を施すことができる。このため、処理痕のようなmm単位以下の微小な凹凸が形成されている部材表面の当該凹凸を保って汚損を除去できる。
【0019】
本発明に係る表面処理は、ノズルが部材表面を往復する回数を10往復以内、好ましくは7往復以内、さらに好ましくは5往復以内とするよう、噴射条件を調整して行うことが好ましい。部材表面をノズルが往復する回数が多くなると、使用するブラストメディアや動力の使用量が多くなる、表面処理に伴い発生する粉塵量が増えるといった問題があり、好ましくないためである。一方で、ノズルを部材表面に対して移動させる最小回数は1回(1往復の半分)以上であって特に限定されない。しかし、混合物の噴射条件を過度に強くして部材表面をノズルが往復する回数を少なくして汚損を除去しようとすると、研掃強度が強すぎて処理痕を消失させたり部材の再生面まで削ってしまったりするリスクが高まる。そのため、汚損の除去に必要なノズルの往復回数が1往復以上となるように、噴射条件を調整することが好ましい。
【0020】
第1の態様において、前記部材は木材であり、前記第1粉粒状物は、気乾比重が0.5より大きい植物系ブラストメディアを用いるものであってもよい。
【0021】
これにより、木材表面のブラスト処理に好適なブラストメディアの選択を容易に行える。また、好適には、用いるブラストメディアの主成分たる第1粉粒状物は丸みを帯びたものとするとよい。脆弱化した汚損部分は適切に除去しつつも、汚損部分の下にある母材(部材)の健全な部分については、丸みのある第1粒状物により傷みが生じるのが抑制されるためである。更に、ブラストメディアは、(A)気乾比重が0.5以下の植物系ブラストメディアあるいは(B)鉱物系メディアから成る第2粉粒状物を副成分として含んでもよい。前記部材が塗装され、塗料が劣化しているような場合、第2粉粒粒状物を含ませることで塗膜における活膜上の劣化層を除去し、当該劣化層の下の前記活膜を含む前記部材の木地を露出させやすくできる。
【0022】
本開示の表面処理方法では、ブラストメディアと駆動流体との混合物を細長い帯状の研掃具のように機能させて、部材の微細な凹凸や部材同士の隙間にも当てることができる。このため、構造物を構成した状態のままで、この構造物を構成する各部材に対してブラスト処理することができる。すなわち、このように構造物を構成した状態で凹凸や隙間がある構造物の各部材を処理することができ、他の部材に損傷が生じるのを抑制できる。従って、構造物を構成する部材のブラスト処理において、構造物を分解したり再組立てしたりする手間を省くことができる。
【0023】
本開示の別の態様に係る構造物の表面処理方法としては、構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去することで前記部材を再生させる、構造物の表面処理方法であって、前記構造物は、生体内に取り込まれる粉粒状製品を製造する製造設備であって、前記部材は、前記製造設備での前記粉粒状製品の製造過程で生じる粉粒状の付着物によって表面が汚損されており、前記付着物と同種物質から成る粉粒状物とした第1粉粒状物を主成分として含むブラストメディアを用い、気体を駆動流体として前記ブラストメディアを前記部材の表面に吹き付けるノズルと、前記ブラストメディアと前記気体との混合物を前記ノズルに送る中空管と、を有するブラスト処理装置を用い、更に、前記ノズルとして、前記中空管と接続される管状の基端部分と、当該基端部分から中間部分を経て当該中間部分の先に延伸する先端部分であって、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状の噴射口が形成されている先端部分と、を有するノズルを用い、前記混合物を当該部材の表面に吹き付けることにより、前記噴出口から噴射させた帯状の前記混合物を、前記汚損を除去する研掃具として機能させ、前記汚損を除去して当該表面の汚損の下層または周辺にある当該部材の再生面を研削することなく露出させるとともに、当該再生面に微細な凹凸を形成する粗し処理を行う、構造物の表面処理方法であってもよい。
【0024】
これにより、ブラストメディアとして付着物と同種物質を用いることで、同種物質がくっつきあう力(親和力)を利用して汚損を除去できる。また、製造設備に組み込まれたままで部品を清掃できるため、部品の取り外しが不要となる。また、製造している粉粒体(粉粒状製品)と同じ物質をブラストメディアとして用いるため、部品に固着している余計な粉粒体を除去すると共に、まぶし処理も行うことができる。なお、「まぶし処理」とは、例えば駆動部品の摺動箇所に粉粒体を振りかけて付着させる処理であり、粉粒状製品より粒径の小さい粉粒体を用いるのが好ましい。また、この「まぶし処理」は、再生面上に微細な凹凸を形成する上述の「粗し処理」の一例である。なお、本明細書においては部材の表面に微細な(例えばmm以下のような)凹凸を形成する処理を「粗し処理」と称する。粗し処理には、部材表面に微細な凹部を形成することで微細な凹凸を形成することと、粉粒状体を付着させることで微細な凹凸を形成することとが含まれるものとする。本明細書において、特に両者を区別する必要がある場合は、例えば、前者を「凹部形成による粗し処理」、後者を「粉粒状体の付着による粗し処理」と称する。
【0025】
前記態様において、ブラストメディアは部材より硬度が低いことが好ましい。ブラストメディアとして部材より硬度が低い物質を使用することによって、ブラストメディアと駆動流体(気体)との混合物を強めに噴射しても部材が削られる(研削される)ことを回避しつつ、付着物と同種物質であるブラストメディアの剥離力を利用して付着物という汚損を除去(研掃)することができる。特に、処理対象部材に大量の付着物が付着していてその表面が露出していないような場合は、混合物の流量を多くして混合物を噴出させてなる「研掃具」の研掃機能を強くすることが望まれる場合がある。このような場合において、ブラストメディアとして部材より硬度が低い物質を使用することによって、処理途中で対象部材の表面が露出してきた場合でも混合物の噴出条件を変更せずに表面処理を継続できる。ただし、中空管からノズルに供給する混合物の流量を調整する流量調整部を設けるとともに、処理途中で対象部材の表面が露出した状態になれば混合物の流量を調整(変更)して吹き付け(ブラスト)による表面処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本開示に係る構造物の表面処理方法、およびブラスト処理装置によれば、構造物をブラスト処理により浄化する場合の処理条件を容易に決定することができる。特に、本開示に係る構造物の表面処理方法、およびブラスト処理装置によれば、汚損を除去した後の再生面(例えば劣化木材の下層にある「木地」と呼ばれる健全な部分、劣化していない堅牢な冬目、汚損としての赤錆の下層に形成されている黒錆層など)は消失させたり研削したりせず、再生面を露出させることができる。
また、本開示に係る粉粒状製品の製造設備における付着物除去方法によれば、当該製造設備で用いられる器具に付着した付着物を容易に取り除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、表面処理方法の工程例を示すフローチャートである。
図2図2は、原料糖から精製糖を製造する工程例を示すフローチャートである。
図3図3は、本実施の形態に係る除糖方法において用いることのできるエアーブラスト装置の構成を示す模式図である。
図4図4(A)は噴射ノズルの全体を示す平面図であり、図4(B)は噴射ノズルの側面図であり、図4(C)は噴射ノズルの噴射口近傍を拡大して示す斜視図である。
図5図5は、オペレータによる除糖作業の様子を示す模式図である。
図6図6(A)および図6(B)はライトが取り付けられた噴射ノズルの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施の形態1)
以下、本開示に係る構造物の表面処理方法およびブラスト処理装置について説明する。なお、以下に説明する方法は本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限られず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で構成の追加、削除、変更が可能である。
【0029】
本開示に係る表面処理方法は、構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去するにあたり、第1粉粒状物を主成分とするブラストメディアを用いる。この第1粉粒状物は、上記部材と硬度が同一以下のものであり、好ましくは環境中に飛散しても環境を汚染させない物質がよい。すなわち、図1のフローチャートに示すように、この表面処理方法は、処理対象部材の種類や状態に応じて、その硬度を考慮して、部材と硬度が同一以下の粉粒状物を選択する工程(ステップS10)と、その中から汚損または部材と同種の物質を選択する工程(ステップS20)と、ステップS10,S20を経て選択されたブラストメディアを所定条件により部材表面に噴射して汚損を除去する工程(ステップS30)とを備える。なお、ステップS10とS20は入れ替え可能または一方が省略されることがある。
【0030】
ここで、ステップS10で判断するブラストメディアであって、環境中に飛散しても環境を汚染しない物質とは、例えば、自然資源由来の物質であり、具体的には、植物系ブラストメディアと鉱物系ブラストメディアとが該当する。特に植物系ブラストメディアは生分解され、処理対象部材の種類に応じた硬度の選択や粒径および形状の調整が容易であり、好ましい。また、植物系ブラストメディアは、処理対象部材が木材の場合に好適に用いることができるほか、部材が土器や陶器などのセラミックスあるいはコンクリートや石材などの鉱物である場合、鉄や銅などの金属である場合、合成樹脂やゴムなどの高分子材である場合など、広範の種類の部材に用いることができる。除去対象が、付着物や汚れであるような場合は、ブラストメディアは、汚損と同種物質であって処理対象部材よりは硬度が低く、かつ、汚損より硬度が高い物質の粉粒状物を用いることが好ましい。ブラストメディアは2種以上を混合してもよく、好適には、植物系ブラストメディアを主成分とすると共に、主成分としたブラストメディアとは硬度が異なるブラストメディアを副成分として用いるとよい。
【0031】
また汚損が部材に付着した付着物であって、部材の表面が露出しないほどに部材を覆って付着している場合は、ステップS20にて汚損と同種のブラストメディアを選択するとよい。特に、構造物が人や動物の体内に摂取される粉粒状製品(以下、「体内摂取材」ともいう)の製造設備であって、その製造設備を構成する部材が、粉粒状製品の製造過程で生じる粉粒状の付着物(例えば、粉粒状製品またはこれと同一成分で粒径の異なる粉体など)により表面が汚損されている場合は、付着物と同一成分から成るブラストメディアを、「汚損と同種のブラストメディア」として選択するとよい。なお、上記「体内摂取材」とは、砂糖、塩、調味料、その他の食品、および、薬品などが例示される。また、付着物と同一成分とは、付着物が複数種類の成分の粉粒体の混合体である場合は、そのうち少なくとも1つの種類の粉粒体と同一成分であればよい。
【0032】
ステップS20では、ブラストメディアの選択範囲を汚損ではなく部材と同種物質としてもよい。すなわち、汚損または部材と同種物質をブラストメディアとして選択するようにしてもよい。ここで汚損または部材を、木材、セラミックスまたは石材、金属材、高分子材、および、体内摂取材などに分類した場合に、対応する分類に含まれる材料から成るブラストメディアが「同種」となる。なお、同一分類内において、さらに細分化した種類までの同一性は必須ではない(体内摂取材を除く)。例えば、汚損または部材がケヤキやヒノキなどの木材の場合、これと同種のブラストメディアとして、当該木材と同一のケヤキやヒノキから成るブラストメディアであってもよいが、これに限定されず、例えば対象部材が高硬度のマツやケヤキであれば、より硬度が低いスギを選択してもよい。植物系ブラストメディアは、植物種によって気乾比重に幅があり(特許文献2参照)、気乾比重が大きいと硬度が高い傾向がある。そこで、気乾比重を硬度の指標としてブラストメディアを決定してもよい。植物系ブラストメディアは、気乾比重が0.5より大きいものを第1粉粒状物とし、処理対象部材の種類や状態に応じて気乾比重が0.5以下のものを第2粉状物として混合するとよい。第1粉粒状物として好適な植物系ブラストメディアとしては例えば、胡桃、桃若しくはアプリコットの種子殻、または、トウモロコシの穂芯などが挙げられる。
【0033】
第1粉粒状物としては、構造物の部材近傍部分への損傷を抑制し、かつ、部材の健全な部分への損傷も抑制するため、処理対象部材と同一以下の硬度の物質がブラストメディアの主成分として選択される。一方で、汚損部分が変質して比較的硬くなっている場合などは汚損物質と同種物質で汚損物質よりも硬度が高いが部材よりは硬度が低い第1粉粒状物をブラストメディアの主成分として選択することができる。
【0034】
なお、ここでいう「比重」は、ステップS10,S20を経て選択された各ブラストメディアを実際にブラスト処理で使用する場合の状態(水分含有量等)を考慮して決定すればよい。ブラストメディアは、駆動流体として気体、好適には乾燥させるなどして除湿した空気と混合した混合物として対象部材に吹き付けることが好ましい。ブラストメディアが湿気を含むとノズルなどの内部に付着したり塊になったりして、鋭利な研掃具として機能するような帯状の噴射状態とするのに妨げになるためである。
【0035】
また、ブラストメディアの「主成分」とは、主成分以外の各副成分のブラストメディアと比べて、対象物に噴射される粒子数が多いことをいう。従って、一般的にはブラスト処理装置においてノズルから噴射されるべくブラストメディアタンクに貯留されるブラストメディアにおいて、ある第1種類の粉粒状物の数が、その他の第2種類や第3種類の粉粒状物のそれぞれ数より多いとき、第1種類の粉粒状物は主成分であり、第2種類や第3種類の粉粒状物は副成分である。そして、副成分として用いる粉粒状物の種類数にもよるが、主成分を成す第1粒状物が全ブラストメディアに占める割合は、典型的には30%以上100%以下である。
【0036】
このようなブラストメディアの主成分となる第1粒状物として、より具体的には次のものが例示される。すなわち、構造物を構成する部材が木材である場合は、気乾比重が0.5より大きい植物系ブラストメディアであり、より好適には、丸みを帯びた形状を成している植物系ブラストメディアが、主成分たる第1粒状物として好適である。
【0037】
ここで、植物系ブラストメディアの「気乾比重」については、当該ブラストメディアが木材である場合は、水分量がほぼ15重量%時の見掛け比重、すなわち、水分量がほぼ15重量%時での木材の重さとこの木材と同体積の水の重さとの比を用いることができる。また、当該ブラストメディアが木材以外の植物の場合は、水分量が5重量%以上10重量%以下であって実際にブラスト処理に使用するときの水分量での比を用いることができる。
【0038】
また、「丸みを帯びた」形状とは、顕微鏡などで拡大して見たときに、粉砕した直後の植物材料から成る粒状ブラストメディアに比べて明らかに角がとれていると認められる形状であれば該当する。このような丸みを帯びさせるための方法は特に限定されない。一例として、内面にブレード等の突起を有する金属製攪拌用タンブラーに、角を有する粒状ブラストメディアを入れ、回転軸を水平あるいは45度未満に傾斜させた状態で、60~100rpmの範囲の回転数により20~30分ほど回転攪拌させる方法が挙げられる。
【0039】
なお、上記植物系ブラストメディアとして、例えば、メジアン径の平均値が0.01mm以上2.5mm以下のものを用いることができ、より好ましくは0.02mm以上0.8mm以下のものが好適に用いられる。このような径のブラストメディアは、ミクロンメッシュを装着した振動ふるい機を用いて粒度を選別することで得られる。また、得られたブラストメディアの粒径は、例えば、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置を用いて計測することができる。
【0040】
また、本開示に係る表面処理方法は、上述した主成分に加え、第2粉粒状物を副成分として含んでいてもよい。ブラストメディアの副成分となる第2粉粒状物として、より具体的には次のものが例示される。すなわち、構造物を構成する部材が、塗装された表面が劣化した塗装済み木材の場合は、(A)気乾比重が0.5以下の植物系ブラストメディア、あるいは、(B)鉱物系メディア、から成る第2粉粒状物が副成分として好適である。この場合の表面処理方法では、上述した第1粉粒状物および第2粉粒状物を含むブラストメディアを用いて、部材の塗膜における活膜上の劣化層を汚損として除去し、当該劣化層の下の活膜を含む部材の木地を露出させる。
【0041】
なお、上記のうち鉱物系メディアとしては、例えば、石粉、砂、重曹、炭酸カルシウム、貝殻粉末、ガラス粉、陶磁器粉などの群から選択した一または複数の材料を用いて形成してもよい。なお、本開示において「鉱物系メディア」とは、典型的には天然に産する無機質結晶質物質から成るものをいうが、人工的に生成された無機質結晶質物質を含み、さらに、貝殻や歯のような生体鉱物、および、オパールのように非結晶であっても一般に鉱物に含めて考えられるものも含む。
【0042】
本開示に係る表面処理方法は、このようにしてブラストメディアを選択し(S10,S20)、次に、選択されたブラストメディアを、駆動流体を用いて、所定の条件により部材の表面に吹き付けて前記汚損を除去する(ステップS30)。ここで、ステップS30の「所定条件」について説明する。
【0043】
まず、この所定条件には、中空管、ノズル、および流量調整部を有するブラスト処理装置を用いること、が含まれる。より具体的には、このブラスト処理装置は、気体を駆動流体としてブラストメディアを部材の表面に吹き付けるノズルと、ブラストメディアと気体との混合物をノズルに送る中空管と、中空管からノズルに供給する混合物の流量を調整する流量調整部と、を有するものである。また、上述したノズルとして、中空管と接続される管状の基端部分と、当該基端部分から中間部分を経て当該中間部分の先に延伸する先端部分であって、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状の噴射口が形成されている先端部分と、を有するノズルを用いるのがよい。このようなブラスト処理装置の一例として、例えば、後述する図3および図4に開示するような構成のものが使用できる。
【0044】
また、上記所定条件には、上述したようなブラスト処理装置のノズルを用い、部材の表面が露出している状態で混合物の流量を調整して当該混合物を当該部材の表面に吹き付けること、が含まれる。さらに、この吹き付けにより、噴出口から噴射させた帯状の混合物を、汚損を除去する研掃具として機能させ、汚損を除去して当該表面の汚損の下層または周辺にある当該部材の再生面を研削することなく露出させるとともに、当該再生面に微細な凹凸を形成する粗し処理を行うこと、が含まれる。
【0045】
また、上記の表面処理方法は、部材が構造物を構成している状態でブラストメディアを部材の表面に噴霧するようにしてもよい。例えば、寺社の家屋において天井と鴨居の間に設けられる通風や採光のための欄間など、建築物を構成する部材であって彫刻等が施されている部材をブラスト処理する場合であっても、これを建築物から取り外すことなく、使用時の状態のままでブラスト処理できる。また例えば、構造物が製糖工場において砂糖を運搬するためのエレベータである場合に、エレベータを構成するバケットおよびチェーンなど分解することなく、エレベータを構成した状態のままでこれらをブラスト処理してもよい。
【0046】
以上に説明した表面処理方法によれば、一般にブラストメディアの種類を含む数多くのパラメータがある中で、対象物に適した処理条件を容易に選択することができる。なお、ステップS10,S20での選択後、汚損または部材の状態や作業環境等を考慮して、ブラストメディアや各種処理条件のさらなる好適化を行ってもよい。そして、このようにして決定された処理条件は対象とする部材の表面処理に好適であるため、従来のような汎用性の高い処理条件を用いる場合に比べて部材の健全部分や周囲部分を損傷する可能性が低くなる。ゆえに、構造物を構成した状態のままで対象部材をブラスト処理することもできる。また、汚損または部材と同種のブラストメディアを用いるため、上述したように製糖工場などでは部材を分解することなく、構造部を構成した状態のまま、ブラスト処理することができる。
【0047】
製糖工場や製塩工場などの体内摂取材の製造設備におけるブラスト処理については別途後述するが、上述した製糖工場の場合のように、製造する粉粒状製品が砂糖であってエレベータ等の構造物を構成する部材に付着した砂糖を除去する場合は、ブラストメディアの第1粉粒状物として、吸湿性が比較的低いグラニュー糖が好適に使用できる。
【0048】
(実施の形態2)
次に、上述した表面処理方法の具体例の一つである、粉粒状製品の製造設備に付着する付着物を除去するための本開示の実施の形態に係る付着物除去方法について図面を参照しつつ説明する。なお、以下に説明する方法は本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限られず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で構成の追加、削除、変更が可能である。また、以下では主として付着物除去方法として砂糖の製造設備の部品からの除糖方法を例にして説明するが、塩の製造設備の部品からの除塩方法を含め、体内摂取材から成る粉粒状製品の製造設備からの付着物除去方法についても同様の態様により行うことができる。
【0049】
<砂糖の製造工程>
はじめに精製糖の製造工程について説明する。図2は、原料糖から精製糖を製造する工程の一例を示すフローチャートである。図2に示すように、精製糖を製造するにあたって、各地でサトウキビ又はてん菜から製造された原料糖が集められて倉庫に貯蔵される(ステップS1)。倉庫に貯蔵された原料糖は、コンベア等により精製工場へ運びこまれる。工場では、洗糖工程(ステップS2)として、原料糖および糖液を攪拌した後にこれを結晶と不純物を含む蜜とに分離し、更に、得られた結晶を温水に溶かして糖液にする。
【0050】
次に、清浄工程(ステップS3)として、洗糖工程で得られた糖液に石灰乳および炭酸ガスを加えて反応させ、この反応過程で糖液中の不純物を凝集させる。この糖液をろ過することで黄褐色透明の糖液を得る。また、黄褐色透明の糖液をイオン交換樹脂に通して更に不純物を取り除き、得られた無色透明の糖液に紫外線を照射して殺菌し、これを濃縮する。
【0051】
次の結晶化工程(ステップS4)では、濃縮された糖液にシード(種糖)を加えて結晶化させる。そして、仕上げ工程(ステップS5)では、結晶化工程で製造された結晶と糖液との混合物(いわゆる、白下)を、分離機によって結晶と蜜とに分離し、取り出した結晶を乾燥および冷却して仕上げ、その後、製品の種類に応じて分けられたサイロ等に、温調状態で貯蔵する。最後の包装・出荷工程(ステップS6)では、このようにしてサイロ等に貯蔵された砂糖が、篩機にかけられて粒度が所定範囲に収められ、用途に応じた袋に包装されて出荷される。
【0052】
ここで、例えば仕上げ工程(ステップS5)にて仕上がった砂糖をサイロ等に貯蔵するとき、バケットおよびチェーンなどから成るエレベータおよび振動コンベアにより、砂糖は上下方向および水平方向へ移送される。これらエレベータやコンベア等が有する駆動部品に砂糖が付着すると、駆動部品の摺動箇所にて砂糖が高圧で擦れて固着する。
【0053】
本開示に係る付着物除去方法は、例えばこのような駆動部品に固着した付着物を除去するのに好適に適用される。ただし、本開示に係る付着物除去方法の適用対象はこれに限られず、塩その他の調味料や薬品など様々な粉粒体の製品製造工程で用いられる器具に対して用いられる。製糖を例に述べれば、含蜜糖の製造設備に用いられる器具を含む、あらゆる砂糖(精製糖および含蜜糖)の製造設備にて用いられる器具に付着した砂糖の除去に対し好適に用いることができる。また、駆動部品のみならず、他のあらゆる部品や、床および壁面などに付着した砂糖の除去にも用いることができる。
【0054】
<エアーブラスト装置>
図3は、本実施の形態に係る除糖方法において用いることのできる、付着物除去装置の一例であるエアーブラスト装置(ブラスト処理装置)の構成を示す模式図である。また、このブラスト処理装置は、除糖方法だけではく、図1を参照して説明した実施の形態1に係る構造物の表面処理方法においても用いることができる。なお、本実施の形態に係るエアーブラスト装置は、ブラストメディアの駆動流体として空気を使用するものを例示するが、他のガスを駆動流体としてもよい。図3に示すように、エアーブラスト装置1は、エアーコンプレッサー2、ブラストメディアタンク3、噴射ノズル4、および、これらを接続するホース5,6を備えている。このうちエアーコンプレッサー2、ブラストメディアタンク3、およびホース5,6は、ブラストメディアを噴射ノズル4へ供給するブラストメディア供給装置1Aを成す。
【0055】
エアーコンプレッサー2は、乾燥した圧縮空気を生成して吐出口2aから吐出するものであり、例えば三相200Vで数kwの出力を有するものが使用できる。空気を乾燥させるためのドライヤは、エアーコンプレッサー2に内蔵されていてもよいし、エアーコンプレッサー2とは別体で備えてもよい。例えば、エアーコンプレッサー2とブラストメディアタンク3との間に気体貯留タンク(図示せず)を設け、気体貯留タンクに圧縮空気を貯留して駆動流体(この場合は空気)を乾燥させてもよい。本態様ではエアーコンプレッサー2の吐出口2aには、ホース5の上流端が接続されており、ホース5の下流端はブラストメディアタンク3に接続されている。ホース5は、例えばフレキシブルチューブから成り、吐出口2aから吐出される圧縮空気の圧力に耐えられる所定の強度を有する。
【0056】
ブラストメディアタンク3は所定の内容積を有するタンク本体3aを有し、このタンク本体3aの上部には蓋3bにより開閉可能な開口が設けられている。ブラストメディアはこの開口を通じてタンク本体3aに導入される。また、タンク本体3aの側面上部には導入口3cが設けられ、前述のホース5の下流端はこの導入口3cに接続されている。タンク本体3aの底部には供給口3dが設けられており、この供給口3dにはホース6の上流端が接続され、ホース6の下流端には、駆動流体(乾燥させた空気)とブラストメディアとの混合物の流量を調整する流量調整部である操作具7bと中空管である管体7aとを有するバルブユニット7を介して、噴射ノズル4が接続されている。ホース6はホース5と同様に例えばフレキシブルチューブから成り、供給口3dから供給されるブラストメディアを含む空気(以下、「ブラストエア」と称する)の圧力に耐えられる所定の強度と、オペレータが作業しやすい可撓性(柔軟性)を有する。また、ブラストメディアタンク3は圧力計8を有している。圧力計8は、例えばタンク本体3aの側面上部に設けられており、タンク本体3aの内圧を計測して出力(表示)することができる。
【0057】
なお、ブラストメディアとして用いる粒状の砂糖(あるいは、後述する「塩」等)は湿気により凝集しやすいため、ブラストメディアタンク3のタンク本体3aにバイブレータや撹拌機を設けてもよい。これにより、タンク本体3a内のメディアに振動が加えられ、あるいは、メディアが攪拌されて、凝集が抑制される。その結果、個々の粒子状のメディア、あるいは、凝集したとしても比較的径が小さい状態メディアが、供給口3dから円滑に送り出される。このようなバイブレータまたは撹拌機としては、例えばホース5を介して通流するエアにより、ウェイトが偏心して設けられたタービンを回転させることで振動を発生させるタービン式バイブレータといった公知のものを採用できる。
【0058】
バルブユニット7は、ホース6の下流端と噴射ノズル4との間に介在し、管体7aと操作具7bとを有している。管体7aの一方の開口端にはホース6の下流端が接続され、他方の開口端には噴射ノズル4が接続され、ホース6から送られてくるブラストエアは管体7aを通じて噴射ノズル4へ送られる。管体7a内には管体7aの内部流路を開閉するバルブ(図示せず)が設けられており、オペレータが操作具7bを操作することでバルブが駆動する。バルブを駆動させることにより、管体7aの内部流路を開閉できると共に、全開と全閉との間で連続的に開度を調整して駆動流体とブラストメディアの混合物の噴射条件を調整することができる。
【0059】
噴射ノズル4は、いわゆる平ノズルであって、平坦形状の噴射口44を有している。図4(A)は噴射ノズル4の全体を示す平面図であり、図4(B)は噴射ノズル4の側面図であり、図4(C)は噴射ノズル4の噴射口44近傍を拡大して示す斜視図である。なお、噴射ノズル4の構成を説明するにあたり、方向の概念を、噴射ノズル4の長手方向(ブラストエアの通流方向)を前後方向、側面視方向を左右方向、これらの両方に直交する方向を上下方向とする。また、図4(A)および図4(B)において図中の破線は、噴射ノズル4の内部流路の輪郭を示している。
【0060】
図4(A)に示すように、噴射ノズル4は、バルブユニット7に接続される基端部分41と、この基端部分41から前方へ延びる中間部分42と、この中間部分42から更に前方へ延びる先端部分43とを有している。本実施の形態において、この噴射ノズル4は金属製であって、上述した基端部分41、中間部分42、および先端部分43は一体的に形成されている。
【0061】
基端部分41は円管状を成し、その内径はバルブユニット7の管体7aの内径と一致またはほぼ一致する。中間部分42は、基端部分41の前端から延びている部分であり、側面視したときに後端から前端へ向かって厚み寸法(高さ寸法)が徐々に小さくなる楔形状を成している。より具体的には、図4(B)に示すように、噴射ノズル4の中間部分42は側面視したときに上端42aおよび下端42bが斜辺を成して前端を頂点とする二等辺三角形状を成している。従って、側面視において、中間部分42の上端42aは基端部分41の上端41aに対して所定角度で交差し、中間部分42の下端42bも基端部分41の下端41bに対して同一の所定角度で交差している。
【0062】
先端部分43は、中間部分42の前端から更に延びている部分であり、側面視したときの上下方向の外寸(高さ寸法)H1は後端43aから前端43bにわたってほぼ一定になっている。一方、図4(A)に示すように、平面視したときの先端部分43の左右方向の外寸(幅寸法)は、後端43aの幅寸法W1aよりも前端43bの幅寸法W1bの方が大きく、かつ、後端43aから前端43bへ向うに従って、一定の割合で徐々に大きくなっている。すなわち、先端部分43は、扇形状あるいは平面視で後端43aを上底とし前端43bを下底とする等脚台形状を成している。同様に、噴射ノズル4の先端部分43の内径の幅寸法についても、後端43aの幅寸法W2aよりも前端43bの幅寸法W2bの方が大きく、かつ、後端43aから前端43bへ向かうに従って一定の割合で徐々に大きくなっているのが好ましい。
【0063】
図4(C)に示すように、先端部分43の前端43bには噴射口44が形成されている。この噴射口44は、左右方向(第1方向)の寸法(幅寸法)W2bよりも上下方向(第2方向)の寸法(高さ寸法)H2が小さい平坦形状の開口を成している。また、噴射口44の高さ寸法H2は、左右方向(幅方向)の何れの位置においてもほぼ同じ一定値になっている。
【0064】
<砂糖の除去作業>
次に、上述したようなエアーブラスト装置1を用いた除糖作業について説明する。図5は、オペレータによる除糖作業の様子を示す模式図である。この図5では、エレベータ100により砂糖が上方へ移送されている。エレベータ100は、バケットエレベータとも称されるもので、バケット101およびチェーン102を備えている。これらのバケット101およびチェーン102は、除糖対象たる駆動部品の例である。
【0065】
バケット101は上部に開口を有する所定容量の容器であって、ステンレス製あるいは合成樹脂製である。チェーン102は、ここではローラーチェーンを用いており、対を成す外プレート102a,102aの間、および、対を成す内プレート102b,102bの間を、ピンおよびブッシュが挿通されたローラ102cによって連結された構成となっている。このようなチェーン102はバケット101の左右において当該バケット101を懸架し、これを上方へ搬送する。
【0066】
工場において、エレベータ100により砂糖が移送される領域とオペレータOP等の作業員が作業する領域とは空間的に区分けされている。図5の場合、移送領域A1がエレベータ100の駆動する領域であり、作業領域A2がオペレータOPの作業する領域である。そして、これらの移送領域A1と作業領域A2とはドア103によって仕切られており、ドア103には開閉可能な窓104が設けられている。図5では一例として、開かれた窓104を通じて除糖作業を行う様子を示している。
【0067】
除糖作業を行うにあたり、エレベータ100による砂糖の移送は中断される。好ましくは、エレベータ100のバケット101に積載されていた砂糖は排出された状態とされる。 除糖作業において、オペレータOPは、ブラストメディアタンク3のタンク本体3aに、ブラストメディアである粒状の砂糖を所定量入れて蓋3bを閉じる。次に、エアーコンプレッサー2を駆動し、ブラストメディアタンク3のタンク本体3aの内圧が所定の圧力に達したことを圧力計8により確認する。この間、バルブユニット7の操作具7bは閉状態とされている。次に、図5に示すように、オペレータOPは自身の後方から伸びるホース6を右肩に掛け、左手でホース6の先端部を把持し、右手で噴射ノズル4を把持する。この状態で右手に把持する噴射ノズル4を除糖対象へ向け、バルブユニット7の操作具7bを閉状態から開状態へ操作する。これにより噴射ノズル4からブラストメディアである砂糖が噴射され、除糖対象に吹き付けられる。
【0068】
除糖作業中、エレベータ100は所定の一定速度で上方あるいは下方へ駆動させておいてもよい。この速度は砂糖製造時の移送速度と同じでもよいし、これより遅くても、あるいは速くてもよい。エレベータ100を駆動させながら砂糖を吹き付けることにより、除糖作業をスムースに進めることができると共に、駆動部品の摺動箇所にブラストメディア(砂糖)を吹き付けることができる。従って、摺動箇所に固着した砂糖を除去できると共に、この摺動箇所にブラストメディア(砂糖)を「まぶす」ことができる。
【0069】
なお、除糖が完了した後は、エレベータ100を駆動して所定回数だけ周回させ、バケット101や各所に降り積もるなど残置したブラストメディア(砂糖)を、エレベータ100から振り落とす(廃棄する)。これにより、除糖作業後に製造される砂糖に、ブラストメディアとして用いた砂糖が混ざるのを防止できる。なお、残置した砂糖を廃棄するのに、ブラストメディアを含まない加圧空気の吹き付けを併用してもよい。
【0070】
ところで、工場内の湿気により、駆動部品に砂糖がより強固に付着することがあり、単調にブラストメディアを吹き付けても、固着した砂糖を十分に剥離できない場合がある。例えば、工場の稼働を停止して数日経過した状態で除糖しようとすると、このような事態が生じる可能性がある。この場合には、ブラストメディアの吹き付けに所定の変化を付与するのが好ましい。
【0071】
付与する変化としては、例えば、噴射ノズル4を所定の振幅かつ所定の周期で振動させつつブラストメディアを噴射させる態様が挙げられる。より具体的には、噴射ノズル4を上下方向あるいは左右方向などに、所定の角度範囲内で繰り返し往復させつつ、ブラストメディアを噴射させる。このような動作は、オペレータOPが噴射ノズル4を把持する手を動かして実現してもよいし、往復動機構といった機械的構成により実現してもよい。
【0072】
機械的に実現する場合は、噴射ノズル4の途中箇所を回転可能に支持すると共に、噴射ノズル4の後端にクランクを接続し、このクランクを電動モータ等で回転させる機構などが例示できる。あるいは、噴射ノズル4またはホース6の途中などに、所定周期の振動を発生させるバイブレータを装着することとしてもよい。バイブレータとしては、前述したタービン式バイブレータや、その他の公知の電動式バイブレータ等を採用できる。
【0073】
付与する変化のまた別の例として、噴射ノズル4からのブラストメディアの噴射を断続的なものにする態様が挙げられる。より具体的には、噴射ノズル4から噴射するブラストメディアの噴射濃度の濃淡を断続的に変化させる。このような態様は、噴射ノズル4へ供給されるブラストメディアの供給量を調整することによって実現できる。例えば、ブラストメディアタンク3の供給口3dあるいはホース6の途中など、タンク本体3aから噴射ノズル4に至る途中の何れかの箇所に、噴射ノズル4へ供給されるブラストメディア(およびエア)の流量を調整可能な流量調整弁を設ける。そして、この流量調整弁の開度の大小を時間の経過と共に繰り返し変化させる。これにより、ブラストメディアの噴射濃度の濃淡を断続的に変化させることができる。
【0074】
(他の実施の形態)
以下、上述した実施の形態1~2のうち一または複数に適用可能な技術について説明する。
【0075】
<除糖方法の諸元>
上述したようなエアーブラスト装置1を用いた除糖方法における好ましい各種諸元について説明する。
【0076】
ブラストメディアとして用いる砂糖は、平均粒径が200μm以上かつ500μm以下であり、かつ、変動係数が0.20%以上かつ0.30%以下であることが好ましい。なお、変動係数とは、標準偏差を平均値で除して100%を乗じた値であり、ここでは粒径のばらつきの度合いを示すものである。本実施の形態では、平均粒径が493μmであり変動係数が0.28%のグラニュー糖を用いている。ただし、ブラストメディアとして用いる砂糖は1種類に限らない。例えば、2種類以上の砂糖を混合してブラストメディアとして用いてもよい。この場合、除糖用として相対的に粒径の大きい砂糖と、まぶし用として相対的に粒径の小さい砂糖とを混合してブラストメディアとしてもよい。
【0077】
また、砂糖に限らない場合として、ブラストメディアに用いる粒状物は、製造設備に付着する粉粒体よりも、粒径および比重のうちどちらか一方が大きく、または、両方が大きいものを選択するのが好ましい。
【0078】
噴射ノズル4は、本開示に係る除糖方法で用いる場合に限らず、本開示に係る表面処理方法で用いる場合においても、噴射口44の高さ寸法(第2方向の寸法)H2が、ブラストメディアの平均粒径の1.6倍以上かつ4.0倍以下であることが好ましい。特に、メジアン径がμm単位の粉粒状のブラストメディアと気体との混合物を帯状に噴出させて気固混合の研掃具として機能させるため、噴射口は高さ寸法(長方形状の長辺同士の距離)が0.5mm以上1.5mm以下、好適には0.7mm以上1.0mmの細い略長方形状で、短辺は曲線、特に円弧状をなすスリットとすることが好ましい。本実施の形態では、高さ寸法H2を0.8mmとした噴射口44を採用している。また、噴射ノズル4の先端部分43の内径は、後端43aの幅寸法W2aよりも前端43bの幅寸法W2bの方が大きく、かつ、後端43aから前端43bへ向かうに従って一定の割合で徐々に大きくなっているのが好ましい。例えば、W2b/W2aの比率が1.1以上かつ1.5以下であることが好ましい。本実施の形態では、先端部分43の長さが150mmであって、後端43aの内径の幅寸法W2aは25mm、前端43bの内径の幅寸法W2bは35mmとなっている(W2b/W2a=1.4)。
【0079】
ブラストメディアを噴射させるためのガス圧は、ブラストメディアタンク3の内圧として、0.4MPa以上かつ0.9MPa以下であることが好ましい。
【0080】
実施の形態2に係る除糖方法は、精製糖および含蜜糖を含むあらゆる砂糖の製造設備に対して用いることができるが、特に上白糖の製造設備の駆動部品に対して好適に用いることができる。上白糖は、転化糖(単体の果糖を含む)を含むため吸湿性が高く、製造設備の各所に固着しやすく、従前はその除糖に大きな手間を要していた。従って、これに上述した除糖方法を適用することで、大きく手間やコストを削減することができるという特有の作用効果を奏することができる。
【0081】
以上に説明した各実施形態は一例であり、本発明の構成はこれに限定されない。例えば、除去対象とする粉粒状物の種類、ブラストメディアとして用いる粒状物の種類、噴射ノズル4の構成を含むエアーブラスト装置(付着物除去装置)1の構成、ブラストメディアを噴射するためのガス圧、などは上述した諸元に限られず、他の諸元を採用してもよい。例えば、付着物の種類や固着箇所やブラストの吹き付け角度(入角)などによって噴射口の断面が略長方形状でない噴射ノズルを用いてもよい。そのような噴射ノズルとしては、噴射口の内径としては例えば1.5mm以上10mm以下を適用できる。また、除糖対象については、エレベータやコンベアに限らず、製造設備の他の構成を対象に行ってもよく、駆動部品に限らなくてもよい。
【0082】
また、実施の形態2では砂糖の製造設備において部品から除糖する方法について具体的に説明したが、同様の態様を、塩の製造設備において部品から除塩する方法にも適用できる。その場合、ブラストメディアとしては粒状の塩を用いればよい。さらに、アミノ酸その他の物質を粉粒体とした調味料などの食品、化学物質を粉状体とした医薬その他の薬品の製造設備における付着物除去方法にも適用できる。また、製造過程での異物の混入、特に製造設備の摩耗に起因する製造設備由来の異物の混入の可能性があり、これを回避する必要性が高い粉粒状製品、例えば、人間を含む動物の体内に摂取される粉粒状製品の製造設備に、好適に用いることができる。
【0083】
実施の形態2によれば、付着物の除去に伴う設備の分解作業を不要とするほか、付着物除去のために使用する温水などの溶媒の使用をなくすまたは低減することで、粉粒体の製造過程で用いられる化学物質やエネルギー消費に伴う二酸化炭素の排出を低減できる。本開示は、付着物除去後に「まぶし処理」を要する場合に特に好適に用いられる。
【0084】
<ブラスト処理装置の変形例>
本開示に係る表面処理方法を実施した場合、すでに説明したように、構造物を構成する部材を取り外すことなく、構造物を構成した状態のままでブラスト処理することができる。一方で、そのような場合には、対象物が影にあるなどして目視による視認が難しい場合がある。そこでブラスト処理装置のノズルに、ブラストメディアが噴射されている状態の部材に光を照射するライトを設けてもよい。図6(A)および図6(B)は、ライトが取り付けられた噴射ノズル4の構成を示す模式図である。なお、図6(A)および図6(B)において、ライト50を除く噴射ノズル4の構成は、すでに図4を用いて説明した平ノズルの噴射ノズル4と同じである。
【0085】
図6(A)の場合、噴射ノズル4の平坦な先端部分43の幅方向(左右方向)の側方にライト50が設けられている。ライト50は円柱状の本体部51を有し、本体部51の軸心は噴射ノズル4の長手方向である前後方向とほぼ平行である。ライト50は本体部51の後部に設けられた支持部52を有し、この支持部52は、噴射ノズル4の先端部分43に対して本体部51を所定間隔だけ空けて支持する。支持部52には上下方向の貫通孔52aが形成されており、この貫通孔52aに通されたベルト53が噴射ノズル4の先端部43に巻回されることで、支持部52は先端部43に固定されている。
【0086】
図6(B)の場合、噴射ノズル4の平坦な先端部分43の厚み方向(上下方向)の上方にライト50が設けられている。このライト50も図6(A)を参照して説明したライト50と同様の構成であり、本体部51、貫通孔52aを有する支持部52、および、ベルト53を備えている。そして、貫通孔52aに通されたベルト53が噴射ノズル4の先端部分43に巻回されることで、支持部52は先端部43に固定されている。
【0087】
図6(A)または図6(B)に示すライト50は何れも、噴射ノズル4に固定された状態で、噴射ノズル4の噴射口44から噴射されるブラストメディアの噴射方向と光軸とがほぼ平行を成している。このような構成により、ブラスト処理作業においてブラストメディアが噴射される部材を、ライト50からの光で照らすことができるため、汚損の除去状況を目視で確認しやすく、作業性が向上する。なお、図6(A)および図6(B)では噴射ノズル4の先端部43にライト50を取り付けた構成を例示したが、これに限られない。例えば、噴射ノズル4の基端部41に取り付けてもよい。
【0088】
また、ライト50は、本体部51と支持部52との間の接続箇所に角度調整機構を設けて、ライト50の光軸を任意に変更可能にしてもよい。角度調整機構としては、例えば摩擦を利用して任意の角度を保持可能な、各種のトルクヒンジやトルクボールジョイントなどを用いることができる。
【0089】
<付記>
以上の実施の形態の記載により、以下に示す各態様が開示される。
(第1の態様)
構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去することで前記部材を再生させる、構造物の表面処理方法であって、前記部材と硬度が同一以下である物質を粉粒状とした第1粉粒状物を主成分として含むブラストメディアを用い、気体を駆動流体として前記ブラストメディアを前記部材の表面に吹き付けるノズルと、前記ブラストメディアと前記気体との混合物を前記ノズルに送る中空管と、前記中空管から前記ノズルに供給する前記混合物の流量を調整する流量調整部と、を有するブラスト処理装置を用い、更に、前記ノズルとして、前記中空管と接続される管状の基端部分と、当該基端部分から中間部分を経て当該中間部分の先に延伸する先端部分であって、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状の噴射口が形成されている先端部分と、を有する前記ノズルを用い、前記部材の表面が露出している状態で前記混合物の流量を調整して当該混合物を当該部材の表面に吹き付けることにより、前記噴出口から噴射させた帯状の前記混合物を前記汚損を除去する研掃具として機能させ、前記汚損を除去して当該表面の汚損の下層または周辺にある当該部材の再生面を研削することなく露出させるとともに、当該再生面に微細な凹凸を形成する粗し処理を行う、構造物の表面処理方法。
(第2の態様)
前記部材は木材であり、前記第1粉粒状物は、気乾比重が0.5より大きい植物系ブラストメディアを用いる、第1の態様に記載の構造物の表面処理方法。
(第3の態様)
前記部材は、塗装された表面が劣化した塗装済み木材であり、前記ブラストメディアは、(A)気乾比重が0.5以下の植物系ブラストメディア、あるいは(B)鉱物系メディアから成る第2粉粒状物を副成分として含み、前記部材の塗膜における活膜上の劣化層を前記汚損として除去し、当該劣化層の下の前記活膜を含む前記部材の木地を前記再生面として露出させる、第1または第2の態様に記載の構造物の表面処理方法。
(第4の態様)
前記部材が前記構造物を構成している状態で、前記混合物を前記部材の表面に噴霧する、第1~第4の態様のいずれかに記載の構造物の表面処理方法。
(第5の態様)
構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去することで前記部材を再生させる、構造物の表面処理方法であって、前記構造物は、生体内に取り込まれる粉粒状製品を製造する製造設備であって、前記部材は、前記製造設備での前記粉粒状製品の製造過程で生じる粉粒状の付着物によって表面が汚損されており、前記付着物と同種物質を粉粒状とした第1粉粒状物を主成分として含むブラストメディアを用い、気体を駆動流体として前記ブラストメディアを前記部材の表面に吹き付けるノズルと、前記ブラストメディアと前記気体との混合物を前記ノズルに送る中空管と、を有するブラスト処理装置を用い、更に、前記ノズルとして、前記中空管と接続される管状の基端部分と、当該基端部分から中間部分を経て当該中間部分の先に延伸する先端部分であって、長辺同士の距離が0.5mm以上1.5mm以下の略長方形状の噴射口が形成されている先端部分と、を有するノズルを用い、前記混合物を当該部材の表面に吹き付けることにより、前記噴出口から噴射させた帯状の前記混合物を、前記汚損を除去する研掃具として機能させ、前記汚損を除去して当該表面の汚損の下層または周辺にある当該部材の再生面を研削することなく露出させるとともに、当該再生面に微細な凹凸を形成する粗し処理を行う、構造物の表面処理方法。
(第6の態様)
前記粉粒状製品は砂糖であり、前記ブラストメディアの前記第1粉粒状物はグラニュー糖である、第5の態様に記載の構造物の表面処理方法。
(第7の態様)
構造物を構成すると共に外部に露出した部材の表面の汚損を除去することで前記部材を再生させる、構造物の表面処理用のブラスト処理装置であって、前記部材と硬度が同一以下の物質を粉粒状としたブラストメディアを貯留するメディアタンクと、前記部材が前記構造物を構成した状態で、駆動流体を用いて前記ブラストメディアを前記部材に噴射するためのノズルと、前記ノズルに取り付けられて前記ブラストメディアが噴射されている状態での前記部材に光を照射するライトと、を備えるブラスト処理装置。
(第8の態様)
粉粒状製品を製造する製造設備に付着する粉粒状の付着物を除去する付着物除去方法であって、前記付着物と同じ物質の粒状物をブラストメディアとして用い、前記ブラストメディアをノズルから噴射させ、前記粉粒状製品の製造設備に設けられ前記粉粒状の付着物が付着した部品に吹き付ける、付着物除去方法。
(第9の態様)
前記粉粒状の製品は砂糖であり、前記ブラストメディアとして用いる砂糖は、平均粒径が200μm以上500μm以下かつ変動係数が0.20%以上0.30%以下である、第8の態様に記載の付着物除去方法。
(第10の態様)
前記ノズルとして、第1方向の寸法よりも前記第1方向に直交する第2方向の寸法が小さい平坦形状の噴射口を有するものを用い、前記噴射口における前記第2方向の寸法は前記ブラストメディアの平均粒径の1.6倍以上4.0倍以下である、第8または第9の態様に記載の付着物除去方法。
(第11の態様)
前記ブラストメディアを噴射させるためのガス圧は、前記ブラストメディアを前記ノズルへ送るべく収容するブラストメディアタンク内の圧力で、0.4MPa以上0.9MPa以下である、第8~第10の態様に記載の付着物除去方法。
(第12の態様)
前記製造設備により製造される砂糖は上白糖であり、前記ブラストメディアとして用いられる粒状の砂糖はグラニュー糖である、第9の態様に記載の付着物除去方法。
(第13の態様)
前記粉粒状の製品は塩であり、前記ブラストメディアは粒状の塩である、第8の態様に記載の付着物除去方法。
(第14の態様)
粉粒状製品を製造する製造設備に設けられ、当該製造設備に付着する粉粒状の付着物を除去する付着物除去装置であって、ブラストメディアを噴射するノズルと、前記ブラストメディアとして前記付着物と同じ物質の粒状物を前記ノズルに供給するブラストメディア供給装置と、前記ノズルから噴射される前記ブラストメディアの噴射状況を測定する測定装置と、を有する付着物除去装置。
(第15の態様)
粉粒状の製品を製造する粉粒状製品の製造方法であって、粉粒状製品を製造する製造設備と、第15の態様に記載の付着物除去装置とを備え、第8~第13の態様のいずれかに記載の付着物の除去方法により前記粉粒状の付着物が付着する前記製造設備から前記付着物を除去して前記粉粒状製品を製造する粉粒状製品の製造方法。
(第16の態様)
粉粒状製品を製造する粉粒状製品の製造設備であって、第14の態様に記載の付着物除去装置を備える粉粒状製品の製造設備。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、粉粒状製品の製造設備において固着した粉粒状の付着物を取り除く付着物除去方法および装置、ならびに、当該方法および装置を用いた粉粒体製造方法および製造設備に対して好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 エアーブラスト装置(付着物除去装置)
2 エアーコンプレッサー
3 ブラストメディアタンク
4 噴射ノズル
44 噴射口
【要約】
再生対象の部材と硬度が同一以下の物質を粉粒状とした第1粉粒状物を主成分として含むブラストメディアを用いる。このブラストメディアと気体との混合物を、流量を調整しながら略長方形状の噴射口を有するノズルから帯状に噴射させる。噴射した混合物を、汚損を除去する研掃具として機能させ、汚損を除去して対象部材の表面の汚損の下層または周辺にある再生面を研削することなく露出させるとともに、再生面に微細な凹凸を形成する粗し処理を行う。
図1
図2
図3
図4
図5
図6