(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】Fe系ナノ結晶粒合金及びこれを用いた電子部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231017BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20231017BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F17/04 F
(21)【出願番号】P 2018113608
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】10-2017-0127950
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン、サン キュン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ハン ウール
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、チャン リュル
(72)【発明者】
【氏名】チュン、ジョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ジェオン、ジョン スク
(72)【発明者】
【氏名】シム、チョル ミン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-255820(JP,A)
【文献】特開平03-008303(JP,A)
【文献】特許第2672306(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/122589(WO,A1)
【文献】特開2014-167953(JP,A)
【文献】特開2001-001113(JP,A)
【文献】特開2006-241569(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0018013(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C22C 45/02
H01F 1/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe
100-b-c-d-e-gNb
bB
cP
dCu
eSi
gの組成式で表され、かつb、c、d、e、gは、原子%で、それぞれ、2≦b≦3、9≦c≦11、1≦d≦2、0.5≦e≦1.5、9≦g≦11の含量条件を有し、
示差走査熱量(DSC)グラフにおける
結晶化ピークの1次ピークがバイモーダル形態である、
Fe系ナノ結晶粒合金。
【請求項2】
コイル部と、
前記コイル部をシールし、絶縁体と該絶縁体に分散された多数の磁性粒子を含むシール材と、を含み、
前記磁性粒子は、Fe
100-b-c-d-e-gNb
bB
cP
dCu
eSi
gの組成式で表され、かつb、c、d、e、gは、原子%で、それぞれ、2≦b≦3、9≦c≦11、1≦d≦2、0.5≦e≦1.5、9≦g≦11の含量条件を有するFe系ナノ結晶粒合金
からなり、
前記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおける
結晶化ピークの1次ピークがバイモーダル形態である、電子部品。
【請求項3】
前記多数の磁性粒子は、D
50が20μm以上である、請求項
2に記載の電子部品。
【請求項4】
Fe系ナノ結晶粒合金粉末を80%の割合で、1μmサイズのFe粉末を20%の割合で、バインダー2~3%とともに混合及び成形して測定したとき、前記Fe系ナノ結晶粒合金は、1.4T以上の飽和磁束密度を有する、請求項
2または3に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe系ナノ結晶粒合金及びこれを用いた電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、インダクタ、トランス、モータ磁心、無線電力伝送装置などの技術分野では、小型化及び高周波数特性が向上した軟磁性材料が開発されており、特に、Fe系ナノ結晶粒合金が注目されている。
【0003】
Fe系ナノ結晶粒合金は、透磁率が高く、既存のフェライトと対比して2倍以上の飽和磁束密度を有し、既存の金属に比べて高周波数で作動されるという長所がある。
【0004】
しかしながら、近年では、その性能に限界が見えつつあり、飽和磁束密度の向上のために、新たなナノ結晶粒合金組成の開発が進められている。特に、磁気誘導方式の無線電力送信装備の場合は、周辺金属物から受けたEMI/EMC影響の減少及び無線電力送信効率の向上のために、磁性体を使用している。
【0005】
このような磁性体としては、効率の向上及び装置の軽薄短小化、特に高速充電のために、高い飽和磁束密度を有する磁性体が用いられている。しかしながら、高飽和磁束密度を有する磁性体は、損失が高く、熱が発生するため、その適用には限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的のうちの一つは、高い飽和磁束密度を有しながらも、損失が低いFe系ナノ結晶粒合金及びこれを用いた電子部品を提供することである。かかるFe系ナノ結晶粒合金であると、粉末の形態であってもナノ結晶粒の生成が容易であり、飽和磁束密度などのような磁気的特性に優れている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための方法として、本発明は、一実施形態を通じて新規なFe系ナノ結晶粒合金を提案する。具体的には、(Fe(1-a)M1
a)100-b-c-d-e-gM2
bBcPdCueM3
gの組成式で表され、ここで、M1はCo及びNiのうち少なくとも1種の元素であり、M2はNb、Mo、Zr、Ta、W、Hf、Ti、V、Cr、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M3はC、Si、Al、Ga、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素で、かつa、b、c、d、e、gは、原子%で、それぞれ、0≦a≦0.5、2≦b≦3、9≦c≦11、1≦d≦2、0.6≦e≦1.5、9≦g≦11の含量条件を有する。
【0008】
一実施例において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおける1次ピークがバイモーダル(bimodal)形態であることができる。
【0009】
一実施例において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、D50が20μm以上である多数の粒子形態であることができる。
【0010】
一実施例において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、母相が非晶質単相構造であることができる。
【0011】
一実施例において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、1.4T以上の飽和磁束密度を有することができる。
【0012】
一方、本発明の他の側面は、コイル部と、上記コイル部をシールし、絶縁体と該絶縁体に分散された多数の磁性粒子を含むシール材と、を含み、上記磁性粒子は、(Fe(1-a)M1
a)100-b-c-d-e-gM2
bBcPdCueM3
gの組成式で表され、ここで、M1はCo及びNiのうち少なくとも1種の元素であり、M2はNb、Mo、Zr、Ta、W、Hf、Ti、V、Cr、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M3はC、Si、Al、Ga、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素で、かつa、b、c、d、e、gは、原子%で、それぞれ、0≦a≦0.5、2≦b≦3、9≦c≦11、1≦d≦2、0.6≦e≦1.5、9≦g≦11の含量条件を有するFe系ナノ結晶粒合金を含む電子部品を提供する。
【0013】
一実施例において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおける1次ピークがバイモーダル形態であることができる。
【0014】
一実施例において、上記多数の磁性粒子は、D50が20μm以上であることができる。
【0015】
一実施例において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、母相が非晶質単相構造であることができる。
【0016】
一実施例において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、1.4T以上の飽和磁束密度を有することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によると、高い飽和磁束密度を有しながらも、損失が低いFe系ナノ結晶粒合金及びこれを用いた電子部品を実現することができる。かかるFe系ナノ結晶粒合金であると、粉末の形態であってもナノ結晶粒の生成が容易であり、飽和磁束密度などのような磁気的特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態によるコイル部品を示す概略的な斜視図である。
【
図3】
図2のコイル部品におけるシール材領域を拡大して示したものである。
【
図4】実施例による合金の示差走査熱量(DTA)グラフを示したものである。
【
図5】実施例による合金の母相の結晶性を分析して得られたXRDパターンを示したものである。
【
図6】比較例による合金の母相の結晶性を分析して得られたXRDパターンを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために拡大縮小表示(又は強調表示や簡略化表示)がされることがあり、図面上の同一の符号で示される要素は同一の要素である。
【0020】
なお、本発明を明確に説明すべく、図面において説明と関係ない部分は省略し、様々な層及び領域を明確に表現するために厚さを拡大して示し、同一思想の範囲内において機能が同一である構成要素に対しては同一の参照符号を用いて説明する。さらに、明細書全体において、ある構成要素を「含む」というのは、特に反対である記載がない限り、他の構成要素を除去するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0021】
本発明の一実施形態によるFe系ナノ結晶粒合金の使用が可能な例として、無線充電システムについて説明する。
図1は一般的な無線充電システムを概略的に示した外観斜視図であり、
図2は
図1の主要内部構成を分解して示した断面図である。
【0022】
電子部品
以下、本発明の一実施形態による電子部品について説明する。代表的な例としてコイル部品を選定したが、後述するFe系ナノ結晶粒合金は、コイル部品以外にも、他の電子部品、例えば、無線充電装置、フィルタなどにも適用されることができるのは明白である。
【0023】
図1は本発明の一実施形態のコイル部品の外形を概略的に示した斜視図である。また、
図2は
図1のI-I'線に沿った断面図である。
図3は
図2のコイル部品におけるシール材領域を拡大して示したものである。
【0024】
図1及び
図2を参照すると、本発明の一実施形態によるコイル部品100は、主に、コイル部103と、シール材101と、外部電極120、130と、を含む構造である。
【0025】
シール材101は、コイル部103をシールして保護し、
図3に示すように、多数の磁性粒子111を含むことができる。具体的には、磁性粒子111が樹脂などからなる絶縁体112に分散された形態であることができる。その場合、磁性粒子111はFe系ナノ結晶粒合金を含んで成ることができ、例えば、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金からなることができるが、Fe系ナノ結晶粒合金の組成については後述する。本実施形態で提案する組成のFe系ナノ結晶粒合金を用いると、粉末の形態で製造される場合であっても、ナノ結晶粒の大きさと相(phase)などが適宜制御され、インダクタとして使用されるのに適した磁気的特性を示した。
【0026】
コイル部103は、コイル部品100のコイルから発現される特性から、電子機器内で様々な機能を行う役割を果たす。例えば、コイル部品100は、パワーインダクタであることができ、この際、コイル部103は電気を磁場の形態で貯蔵し出力電圧を維持して電源を安定させる役割などを果たすことができる。この場合、コイル部103をなすコイルパターンは、支持部材102の両面上にそれぞれ積層された形態であってもよく、支持部材102を貫通する導電性ビアを介して電気的に連結されてもよい。コイル部103は螺旋(spiral)状に形成されてもよいが、このような螺旋状の最外側には、外部電極120、130との電気的な連結のために、シール材101の外部に露出する引き出し部Tを含むことができる。ここで、コイル部103をなすコイルパターンは、当該技術分野において使用されるめっき工程、例えば、パターンめっき、異方めっき、等方めっきなどの方法を用いて形成されてもよく、これらの工程のうち、複数の工程を用いて多層構造に形成されてもよい。
【0027】
コイル部103を支持する支持部材102は、ポリプロピレングリコール(PPG)基板、フェライト基板、又は金属系軟磁性基板などによって形成されることができる。その場合、支持部材102の中央領域には貫通孔が形成されることができ、該貫通孔には磁性材料が充填されてコア領域Cを形成することができるが、このようなコア領域Cはシール材101の一部を構成する。このように、磁性材料により充填された形態でコア領域Cを形成することによって、コイル部品100の性能を向上させることができる。
【0028】
外部電極120、130は、シール材101に形成され、引き出し部Tとそれぞれ接続される。外部電極120、130は、電気伝導性に優れた金属を含むペーストを使用して形成することができ、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、スズ(Sn)、又は銀(Ag)などの単独又はこれらの合金などを含む伝導性ペーストであることができる。また、外部電極120、130上にめっき層(図示せず)をさらに形成することができる。この場合、上記めっき層は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、及びスズ(Sn)からなる群から選択されたいずれか一つ以上を含むことができ、例えば、ニッケル(Ni)層とスズ(Sn)層が順次に形成されることができる。
【0029】
上述した本実施形態によると、磁性粒子111は、粉末の形態で製造される際に磁気的特性に優れたFe系ナノ結晶粒合金を含む。以下、上記合金に関する特徴について詳細に説明する。
【0030】
Fe系ナノ結晶粒合金
本発明の発明者らの研究によると、特定の組成のFe系ナノ結晶粒合金では、相対的に大粒径の粒子や厚さの大きい金属リボンの形態に製造する際に、母相の非晶質性が高いことが確認できた。また、Fe系ナノ結晶粒合金の非晶質性に大きな影響を及ぼす成分がリン(P)であることが確認された。ここで、相対的に大粒径の粒子とは、D50が約20μmである場合として定義され、例えば、磁性粒子111のD50が約20~40μmである場合に該当する。また、金属リボンの形態に製造される場合には、約20μm以上の厚さを有する場合に該当するが、直径や厚さの基準は絶対的なものではなく、状況によって変更されることができる。
【0031】
このように非晶質性の高い合金を熱処理すると、ナノ結晶粒の大きさを効果的に制御することができた。具体的には、本発明で提案するFe系ナノ結晶粒合金は、(Fe(1-a)M1
a)100-b-c-d-e-gM2
bBcPdCueM3
gの組成式で表され、ここで、M1はCo及びNiのうち少なくとも1種の元素であり、M2はNb、Mo、Zr、Ta、W、Hf、Ti、V、Cr、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M3はC、Si、Al、Ga、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素で、かつa、b、c、d、e、gは、原子%で、それぞれ、0≦a≦0.5、2≦b≦3、9≦c≦11、1≦d≦2、0.6≦e≦1.5、9≦g≦11の含量条件を有する。また、かかるFe系ナノ結晶粒合金を熱分析した結果、2つの1次ピークを有するバイモーダル特性が得られた。即ち、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおける1次ピークがバイモーダル形態であることができる。
【0032】
下記表は、本発明の実施例と比較例によって組成を変えながら熱分析した結果と、母相の結晶性を分析して示したものである。それぞれの組成を有する合金を粉末に製造し、粉末の粒度分布は、D50が20~40μmとなるように調整した。具体的には、本実験では粉末を約53μm以下に分級して、D50を30μm水準とした。
【0033】
下記表1と関連して、
図4は実施例による合金の示差走査熱量グラフを示す。また、
図5及び
図6のそれぞれは、実施例及び比較例による合金の母相の結晶性を分析して得られたXRDパターンを示す。
【0034】
【0035】
表1の結果から分かるように、比較例と実施例では、いずれも、熱分析時にバイモーダル形態の結晶化ピークが観察され、母相は非晶質特性を有していた。特に、実施例による合金組成では、母相が非晶質のみからなる一方で、結晶粒は観察されなかった。このような非晶質特性はPの含量によって変わることが確認できた。本発明者らの実験結果、上述した組成範囲においてPの含量を、原子%で1~2水準に調整した場合、母相の非晶質特性に優れており、これを熱処理することで微細な構造を有するナノ結晶粒が得られることが確認された。
【0036】
上記実験で得られた合金粉末を熱処理することでナノ結晶粒を析出させた。下記表は、熱処理後の特性(結晶粒の大きさ、透磁率、損失、Bs)を測定して示したものである。熱処理工程は、約550℃の不活性雰囲気下で1時間行った。そして、磁気的特性に対する実験では、熱処理された上記合金粉末は約80%の割合で、約1μmサイズのFe粉末は約20%の割合で、バインダー(約2~3%)とともに混合及び成形して製作した。
【0037】
【0038】
上記表2の結果から分かるように、比較例1、2では、Fe含量の増加によって高水準のBsが得られたが、損失が600kW/m3以上と、チップとして製作する際に効率が低減するという問題がある。これに対して、実施例では、損失が500kW/m3以下の水準であるため、高水準のBsと低水準の損失を同時に実現することができた。これは、実施例のようにPが約1~2原子%添加されると、母相が非晶質相で調製され、熱処理時に微細構造が均一に得られるためであると考えられ、比較例の場合は、母相に一部存在する結晶相によって熱処理時にナノ結晶粒の大きさが均一でないために損失が大きくなるものと考えられる。
【0039】
このように、表1及び表2の結果から、Pを特定の含量で添加した上記Fe系ナノ結晶粒合金の場合、20μm以上の大きさを有する粉末の形態であっても透磁率、Bs(約1.4T以上)、及びコア損失特性に優れていることが確認できた。以下、Fe系ナノ結晶粒合金をなす元素のうち、Fe以外の主要元素について説明する。
【0040】
ホウ素(Boron,B)は、非晶質を形成するための主要元素であり、非晶質相の形成を安定化させる元素である。Bは、Feなどがナノ結晶に結晶化される温度を増加させるが、磁気的特性を決定するFeなどと合金化されるエネルギーが高いために、ナノ結晶が形成される過程において合金化されないという特徴がある。よって、Fe系ナノ結晶粒合金にはBの添加が必要となる。しかしながら、B含量が過度に多くなると、ナノ結晶化ができなくなり、Bs(flux density)が低くなるという問題点がある。
【0041】
シリコン(Silicon,Si)は、Bと類似した機能を有し、非晶質を形成するための主要元素で、非晶質相の形成を安定化させる元素である。Siは、Bとは異なり、ナノ結晶が形成される温度でもFeのような強磁性体と合金化されて磁気的損失を減少させることもある一方で、ナノ結晶化時に発生する熱が多くなる。特に、Fe含量が高い組成では、ナノ結晶の大きさを制御し難いことが、本発明者らの研究結果から確認された。
【0042】
ニオブ(Niobium,Nb)は、ナノ結晶粒の大きさを制御する元素であり、Feなどのようなナノサイズに形成された結晶粒が、拡散によって成長しないように限定する役割を果たす。一般的にNb含量は約3at%と最適化されたが、本発明者らが行った実験では、Fe含量の増加によって既存のNb含量よりは低い状態でナノ結晶粒合金の形成を試みており、その結果、3at%よりも低い状態でもナノ結晶粒が形成され、特に、Fe含量が増加するにつれて、Nb含量も増加する必要があるという一般的な技術とは異なり、かえってFe含量が高く、ナノ結晶粒の結晶化エネルギーがバイモーダル形状に形成される組成範囲では、既存のNb含量よりも低いと、磁気的特性が向上したことが確認できた。一方、Nb含量が高いと、磁気的特性である透磁率が減少し、損失が増加したことが確認できた。
【0043】
リン(Phosphor,P)は、非晶質及びナノ結晶粒合金において非晶質性を向上させる元素であり、既存のSi及びBとともに準金属(metalloid)として知られている。しかしながら、FeはBに比べて強磁性元素であるが、PはFeとの結合エネルギーが高いため、Fe+P化合物の形成時に磁気的特性の劣化が大きくなる。このような問題から、非晶質及びナノ結晶粒合金においてPが制限的に使用されていたが、最近では、High Bs組成の開発に対する要求が高まり、P添加組成に対する研究も活発に行われている。
【0044】
一方、銅(Copper,Cu)は、ナノ結晶粒が形成されるための核生成エネルギーを低下させるシードの役割を果たすものであり、既存のナノ結晶粒を形成する場合との大きな有意差は認められなかった。
【0045】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
【符号の説明】
【0046】
100 コイル部品
101 シール材
102 支持部材
103 コイル部
111 磁性粒子
112 絶縁体
120、130 外部電極
C コア領域