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特許7368075エアジェット織機における緯入れ制御方法
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  • 特許-エアジェット織機における緯入れ制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】エアジェット織機における緯入れ制御方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 47/30 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
D03D47/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018090159
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196557
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-08-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】濱口 真崇
(72)【発明者】
【氏名】奥田 泰治郎
(72)【発明者】
【氏名】メーダー カーステン
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】▲高▼橋 杏子
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-117853(JP,A)
【文献】特開2017-145537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 47/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯入れに使用する緯糸を係止可能な係止ピンと、緯入れ用のノズルと、を有し、前記係止ピンの開放により前記緯糸の係止状態を解除するとともに、前記係止状態が解除された前記緯糸を前記緯入れ用のノズルからのエア噴射によって緯入れするエアジェット織機における緯入れ制御方法であって、
緯入れする前の緯糸の状態を検出するステップと、
前記検出した緯糸の状態に基づいて、該緯糸を所定の緯入れ条件としてのノズル開放時間またはノズル空気圧力に従って緯入れしたときに該緯糸が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングを予測するステップと、
前記予測した緯糸到達タイミングと目標とする緯糸到達タイミングとのずれに応じて前記係止ピンの開放タイミングのみを変更し、変更後の開放タイミングに従って前記係止ピンを開放させることにより、前記ノズル開放時間または前記ノズル空気圧力を変更することなく前記緯糸を緯入れするステップと、
を含むエアジェット織機における緯入れ制御方法。
【請求項2】
前記予測した緯糸到達タイミングと前記目標とする緯糸到達タイミングとのずれ量と同じ量だけ前記係止ピンの開放タイミングを逆側にずらすように変更する
請求項1に記載のエアジェット織機における緯入れ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアジェット織機における緯入れ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮エアを利用して緯糸を緯入れするエアジェット織機に関して、たとえば特許文献1には、緯入れする前の緯糸の状態に基づくフィードフォワード制御によって緯入れを制御する技術が記載されている。同文献に記載の技術では、緯入れする前の緯糸の状態をセンサによって検出するとともに、検出した緯糸の状態に基づいて、ノズル空気圧力またはノズル開放時間を計算し、緯入れを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2014-500914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアジェット織機においては、緯入れ用のノズルからのエア噴射によって緯糸を所定の位置に到達させている。その際、エア噴射によって搬送される緯糸が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングが遅すぎたり早すぎたりすると、緯入れミスが発生しやすくなる。このため、フィードフォワード制御では、実際の緯入れに先立って予測した緯糸到達タイミングが目標とする緯糸到達タイミングからずれている場合に、そのずれを緯入れ条件の変更によって修正する必要がある。特許文献1に記載の技術では、フィードフォワード制御のための制御パラメータとして、ノズル空気圧力またはノズル開放時間を計算している。
【0005】
しかしながら、ノズル開放時間を変えたときの緯糸到達タイミングの変化の仕方は、緯糸の種類(材質、番手)によって異なり、また同じ種類の緯糸でも緯入れに適用するノズル空気圧力ごとに異なる。その理由は、ノズル開放時間やノズル空気圧力は、いずれも、緯糸の搬送速度に影響を与える要素であり、たとえば、ノズル開放時間を変えたときに緯糸の搬送速度がどのように変化するかは、緯糸の種類やノズル空気圧力によって異なるからである。このため、特許文献1に記載された技術のようにノズル開放時間またはノズル空気圧力を制御パラメータとして、フィードフォワード制御により緯入れする場合は、該制御に用いられる計算値が緯糸の種類やノズル空気圧力によって異なるものとなる。したがって、特許文献1に記載の技術では、フィードフォワード制御の計算が煩雑になる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、フィードフォワード制御によって緯糸を緯入れするための計算を簡易化することができるエアジェット織機における緯入れ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、緯入れに使用する緯糸を係止可能な係止ピンと、緯入れ用のノズルと、を有し、前記係止ピンの開放により前記緯糸の係止状態を解除するとともに、前記係止状態が解除された前記緯糸を前記緯入れ用のノズルからのエア噴射によって緯入れするエアジェット織機における緯入れ制御方法であって、緯入れする前の緯糸の状態を検出するステップと、前記検出した緯糸の状態に基づいて、該緯糸を所定の緯入れ条件としてのノズル開放時間またはノズル空気圧力に従って緯入れしたときに該緯糸が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングを予測するステップと、前記予測した緯糸到達タイミングと目標とする緯糸到達タイミングとのずれに応じて前記係止ピンの開放タイミングのみを変更し、変更後の開放タイミングに従って前記係止ピンを開放させることにより、前記ノズル開放時間または前記ノズル空気圧力を変更することなく前記緯糸を緯入れするステップと、を含む。
【0008】
本発明のエアジェット織機における緯入れ制御方法では、前記予測した緯糸到達タイミングと前記目標とする緯糸到達タイミングとのずれ量と同じ量だけ前記係止ピンの開放タイミングを逆側にずらすように変更してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エアジェット織機においてフィードフォワード制御により緯糸を緯入れするための計算を簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ装置の構成例を示す概略図である。
図2】係止ピンの第1の動作状態を説明する図である。
図3】係止ピンの第2の動作状態を説明する図である。
図4】本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<エアジェット織機における緯入れ装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ装置の構成例を示す概略図である。
緯入れ装置1は、緯糸チーズ2と、緯糸状態検出装置3と、緯糸貯留装置4と、緯糸張力補正装置5と、メインノズル6と、タンデムノズル7と、サブノズル8と、筬打ち用の筬9と、緯糸フィーラ10と、を備えている。また、緯入れ装置1は、メインバルブ12と、タンデムバルブ14と、メインタンク16と、レギュレータ18と、サブバルブ22と、サブタンク23と、レギュレータ24と、制御装置31と、ファンクションパネル32と、を備えている。
【0013】
緯糸チーズ2は、緯入れに使用する緯糸11を緯糸貯留装置4に供給する給糸部として機能するものである。緯糸状態検出装置3は、緯糸チーズ2から供給される緯糸11の状態を検出するものである。緯糸状態検出装置3の検出結果である緯糸11の状態は、制御装置31に通知される。
【0014】
緯糸状態検出装置3は、緯糸搬送方向において、緯糸チーズ2と緯糸貯留装置4との間に配置されている。緯入れは、緯糸搬送方向において、緯糸貯留装置4よりも下流側で行われる。これに対し、緯糸状態検出装置3は、緯糸貯留装置4よりも上流側に配置されている。このため、緯糸状態検出装置3は、緯入れ前の緯糸11の状態を検出することになる。
【0015】
緯糸状態検出装置3が検出する緯糸11の状態には、少なくとも、緯糸の単位長さあたりの質量(以下、「緯糸質量」という。)が含まれる。この糸状態は、エアの噴射によって緯糸を飛走させて緯入れする際に緯糸の飛走に影響を与える。緯糸状態検出装置3としては、たとえば、特表2014-500914号公報に開示されている装置を挙げることができる。
【0016】
緯糸貯留装置4は、緯入れ前の緯糸を貯留するものである。緯糸貯留装置4は、測長ドラム15と、係止ピン17と、を有する。緯糸貯留装置4は、緯糸チーズ2から緯糸貯留装置4へと供給される緯糸11を測長ドラム15に巻き付けて貯留する。
【0017】
係止ピン17は、緯入れに使用する緯糸11を係止可能なピンである。係止ピン17は電磁ソレノイド19の駆動に従って動作する。電磁ソレノイド19の駆動は制御装置31によって制御される。係止ピン17の動作状態は、制御装置31が電磁ソレノイド19の駆動を制御することで切り替え可能に構成されている。係止ピン17の動作状態には、後述する第1の動作状態と第2の動作状態がある。
【0018】
第1の動作状態は、図2に示すように、電磁ソレノイド19の駆動によって係止ピン17を測長ドラム15の外周面に接近する方向に突出させることにより、緯糸11を係止ピン17によって係止した状態(以下、「係止状態」ともいう。)である。この係止状態においては、測長ドラム15に巻かれた緯糸11がタンデムノズル7側に送り出されないよう、係止ピン17により緯糸11を係止する。
【0019】
第2の動作状態は、図3に示すように、電磁ソレノイド19の駆動によって係止ピン17を測長ドラム15の外周面から離間する方向に退避させることにより、係止ピン17を開放し、これによって緯糸11の係止状態を解除した状態(以下、「解除状態」ともいう。)である。この解除状態においては、係止ピン17を開放する前に測長ドラム15に巻かれていた緯糸11が、係止ピン17の開放と同時にタンデムノズル7側に送り出される。
【0020】
測長ドラム15の近傍にはバルーンセンサ20が配置されている。バルーンセンサ20は、係止ピン17の開放によって測長ドラム15から送り出される緯糸11のバルーンを検出し、その検出結果を電気信号として制御装置31に出力するセンサである。
【0021】
緯糸張力補正装置5は、緯糸11に過大な張力が加わらないよう、緯糸11に加わる張力を補正する装置である。
【0022】
メインノズル6、タンデムノズル7およびサブノズル8は、それぞれ緯入れ用のノズルとして設けられたものである。メインノズル6は、タンデムノズル7よりも緯糸搬送方向の下流側に配置され、サブノズル8は、メインノズル6よりも緯糸搬送方向の下流側に配置されている。メインノズル6およびタンデムノズル7は、それぞれ1つずつ設けられ、サブノズル8は、複数設けられている。
【0023】
メインノズル6は、メインバルブ12を介してメインタンク16に接続され、タンデムバルブ14は、タンデムバルブ14を介してメインタンク16に接続されている。また、メインタンク16にはレギュレータ18が接続されている。レギュレータ18は、図示しないエアコンプレッサで生成された圧縮エアの圧力を調整するものである。メインタンク16は、レギュレータ18によって圧力が調整された圧縮エアを貯留するものである。メインタンク16に貯留された圧縮エアは、メインバルブ12を介してメインノズル6に供給されるとともに、タンデムバルブ14を介してタンデムノズル7に供給される。
【0024】
メインノズル6は、メインバルブ12の開閉状態に応じてエアを噴射または停止するものである。タンデムノズル7は、タンデムバルブ14の開閉状態に応じてエアを噴射または停止するものである。具体的には、メインノズル6は、メインバルブ12が開状態のときにエアを噴射し、メインバルブ12が閉状態のときにエアの噴射を停止する。同様に、タンデムノズル7は、タンデムバルブ14が開状態のときにエアを噴射し、タンデムバルブ14が閉状態のときにエアの噴射を停止する。メインバルブ12とタンデムバルブ14は、それぞれ制御装置31に電気的に接続されている。制御装置31は、メインバルブ12の開閉状態とタンデムバルブ14の開閉状態をそれぞれ個別に制御する。
【0025】
なお、メインノズル6やタンデムノズル7からのエア噴射によって緯糸11を緯入れする場合は、メインバルブ12やタンデムバルブ14をそれぞれ所定のタイミングで開状態とすることにより、各々のノズル6,7から圧縮エアが噴射される。また、1ピックの緯入れのために各々のノズル6,7から圧縮エアを噴射した後は、次のピックの緯入れまでの間、各々のノズル6,7からは弱いエアが流れ続ける。これにより、タンデムノズル7から筬9の手前までの糸経路では、次のピックで緯入れする予定の緯糸11の姿勢が水平に保持される。また、測長ドラム15に巻かれた緯糸11を係止ピン17で係止した状態で、電磁ソレノイド19の駆動により係止ピン17を開放すると、各々のノズル6,7から流れるエアによって緯糸11が下流側に送られる。このため、係止ピン17の開放タイミングと緯入れの開始タイミングは、実質的に同じタイミングになる。
【0026】
複数のサブノズル8は、緯糸搬送方向に所定の間隔をあけて配置されている。各々のサブノズル8は、メインノズル6とタンデムノズル7からのエア噴射によって送り出される緯糸11を、筬9の長手方向に沿って搬送する。筬9は、緯糸11が1ピック緯入れされるたびに1回ずつ筬打ち動作する。メインノズル6と筬9との間にはカッター21が配置されている。カッター21は、1本の緯糸11を緯入れするごと、すなわち1ピックごとに、緯糸11を切断する。カッター21の駆動は制御装置31によって制御される。
【0027】
複数のサブノズル8は、筬9の長手方向で隣り合う4つのサブノズル8を1つの組として、合計6組設けられている。なお、サブノズル8の組数は織幅によって異なる。各組のサブノズル8は、それぞれに対応する1つのサブバルブ22を介してサブタンク23に接続されている。また、サブタンク23にはレギュレータ24が接続されている。レギュレータ24は、図示しないエアコンプレッサで生成された圧縮エアの圧力を調整するものである。サブタンク23は、レギュレータ24によって圧力が調整された圧縮エアを貯留するものである。メインタンク16に貯留された圧縮エアは、各々のサブバルブ22を介して各組のサブノズル8に分配して供給される。
【0028】
各組のサブノズル8は、それぞれに対応するサブバルブ22の開閉状態に応じてエアを噴射または停止する。具体的には、各組のサブノズル8は、それぞれに対応するサブバルブ22が開状態のときにエアを噴射し、サブバルブ22が閉状態のときにエアの噴射を停止する。
【0029】
緯糸フィーラ10は、メインノズル6、タンデムノズル7およびサブノズル8からそれぞれエアを噴射して緯糸11を緯入れする際に、その緯糸11が予め設定された所定の位置に到達したか否かを検知するものである。所定の位置は、筬9の長手方向において、メインノズル6から遠い側となる緯入れ終端側に、織布の織幅に合わせて設定される。
【0030】
緯糸フィーラ10は、たとえば光学式センサによって構成される。緯糸フィーラ10は、緯入れ用のノズル6,7,8からのエア噴射によって筬9の長手方向に搬送される緯糸11の先端部が所定の位置に到達したときに検知信号を出力する。したがって、緯糸11が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングは、緯糸フィーラ10が検知信号を出力したタイミングとなる。
【0031】
制御装置31は、緯入れ装置1の動作を制御するものである。制御装置31は、たとえば、中央演算処理装置、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等によって構成される。制御装置31は、緯糸11の緯入れをフィードフォワード制御によって行う。制御装置31によるフィードフォワード制御の詳細については後段で詳しく説明する。
【0032】
ファンクションパネル32は、緯入れに必要な各種のデータの入出力装置として制御装置31に接続されている。ファンクションパネル32は、たとえば、図示しない表示装置と入力キーを備えている。表示装置には、緯糸11の緯入れを制御装置31がフィードフォワード制御によって行うための設定画面が表示される。緯入れに使用する緯糸11の種類(材質、番手)は、表示装置に設定画面を表示した状態のもとで、オペレータのキー操作により入力される。なお、ファンクションパネル32を用いて入力されるデータは、緯糸11の種類のみに限らず、他のデータ、たとえば織布の織幅などを指定するデータも含まれる。
【0033】
<エアジェット織機における緯入れ制御方法>
次に、本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ制御方法について図4のフローチャートを用いて説明する。なお、図4に示す緯入れ制御方法は1ピックごとに繰り返し適用されるものである。
【0034】
(ステップ1)
まず、ステップS1においては、緯入れする前の緯糸11の状態を検出する。
緯入れに使用する緯糸11は、緯糸チーズ2から緯糸貯留装置4へと供給され、この供給経路の途中で緯糸11の状態を緯糸状態検出装置3が検出する。緯糸状態検出装置3で検出された緯糸11の状態は制御装置31に通知される。これにより、制御装置31は、緯入れする前の緯糸11の状態を認識することができる。本実施形態では一例として、緯糸質量を緯糸状態検出装置3が検出し、この検出結果を制御装置31に出力するものとする。
【0035】
(ステップS2)
次に、ステップS2においては、先のステップS1で検出した緯糸11の状態に基づいて、その緯糸11を所定の緯入れ条件に従って緯入れしたときに、その緯糸11が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングを予測する。緯糸到達タイミングの予測は制御装置31が行う。
【0036】
制御装置31のメモリには、緯糸11の種類ごとに所定の緯入れ条件が予め登録されている。このため、制御装置31の中央演算処理装置は、緯入れに使用する緯糸11の種類に対応してメモリに登録されている緯入れ条件を読み出し、この緯入れ条件を適用して緯糸到達タイミングを予測する。緯入れ条件には、メインタンク16の圧力、サブタンク23の圧力、メインノズル6のエア噴射時間、タンデムノズル7のエア噴射時間、メインノズル6のエア噴射開始タイミング、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングなどが含まれる。このうち、メインタンク16の圧力やサブタンク23の圧力は、前述したノズル空気圧力に相当し、メインノズル6のエア噴射時間やタンデムノズル7のエア噴射時間は、前述したノズル開放時間に相当する。
【0037】
ここで、制御装置31が予測する緯糸到達タイミングをTWpとすると、制御装置31は、緯糸状態検出装置3が検出した緯糸11の状態に基づいて、緯糸到達タイミングTWpを予測する。本実施形態では、緯糸状態検出装置3が緯糸質量を検出する。その場合、制御装置31は、緯糸質量に応じて緯糸到達タイミングTWpを予測する。以下、具体例を説明する。
【0038】
制御装置31は、緯糸状態検出装置3が検出した緯糸質量が基準質量よりも大きい場合は、目標とする緯糸到達タイミングTWrよりも緯糸到達タイミングTWpが遅くなると予測する。また、制御装置31は、緯糸状態検出装置3が検出した緯糸質量が基準質量よりも小さい場合は、目標とする緯糸到達タイミングTWrよりも緯糸到達タイミングTWpが早くなると予測する。このとき、目標とする緯糸到達タイミングTWrと、制御装置31が予測する緯糸到達タイミングTWpとの差は、緯糸質量と基準質量との差によって決まる。言い換えると、緯糸質量と基準質量との差が大きいほど、緯糸到達タイミングTWrと緯糸到達タイミングTWpとの差が大きくなる。
【0039】
なお、上述した緯糸の基準質量は、緯糸11の種類に応じて予め設定されるとともに、制御装置31のメモリ(たとえば、RAM)に予めデータとして記憶される。そして、緯糸到達タイミングTWpを予測するときに、制御装置31の中央演算処理装置がメモリから読み出して使用する。
【0040】
(ステップS3)
次に、ステップS3においては、先のステップS2で予測した緯糸到達タイミング(以下、「予測到達タイミング」ともいう。)TWpと、目標とする緯糸到達タイミング(以下、「目標到達タイミング」ともいう。)TWrとのずれを求める。ステップS3の処理は制御装置31が行う。目標到達タイミングTWrは、機台角度が0°~360°の範囲内において、特定の機台角度に対応するタイミングに設定される。制御装置31は、目標到達タイミングTWrを基準にして、予測到達タイミングTWpが、早い方または遅い方のどちら側に、どの程度の量だけずれているかを求める。また、制御装置31は、目標到達タイミングTWrと予測到達タイミングTWpをそれぞれ機台角度に対応するタイミングとして認識する。そして、予測到達タイミングTWpが機台角度=θaに対応し、目標到達タイミングTWrが機台角度=θbに対応する場合、制御装置31は、それらのタイミングTWp,TWrのずれを機台角度の差Δθ、すなわち「Δθ=θa-θb」の計算式によって認識する。
【0041】
これにより、たとえば、θa=235°、θb=240°である場合、制御装置31は、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれを、上記計算式によってΔθ=-5°と認識する。また、θa=243°、θb=240°である場合、制御装置31は、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれを、上記計算式によってΔθ=+3°と認識する。Δθが負の値である場合は、予測到達タイミングTWpが目標到達タイミングTWrよりも早い場合であり、Δθが正の値である場合は、予測到達タイミングTWpが目標到達タイミングTWrよりも遅い場合である。なお、本実施形態においては、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrを、それぞれ機台角度に対応するタイミングとして認識するとしたが、これに限らず、任意の機台角度の時点からの経過時間によって各タイミングTWp、TWrを認識してもかまわない。
【0042】
(ステップS4)
次に、ステップS4においては、先のステップS3で求めたタイミングのずれに応じて係止ピン17の開放タイミングを変更し、変更後の開放タイミングに従って係止ピン17を開放させることにより、緯糸11を緯入れする。ステップS4の処理において、係止ピン17の開放タイミングの変更は制御装置31が行い、係止ピン17の開放は制御装置31が電磁ソレノイド19を駆動することにより行う。また、緯糸11の緯入れは、緯入れ用のノズル6,7,8からのエア噴射によって行い、各ノズル6,7,8からのエア噴射は制御装置31が各バルブ12,14,22の開閉状態を制御することにより行う。なお、ステップS4で係止ピン17を開放するまでの間、緯入れ前の緯糸11は係止ピン17によって係止状態に維持される。
【0043】
ここで、緯糸到達タイミングTWpの予測に適用される緯入れ条件には、メインタンク16の圧力、サブタンク23の圧力、メインノズル6のエア噴射時間、タンデムノズル7のエア噴射時間、メインノズル6のエア噴射開始タイミング、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングなどが含まれる。ただし、各々の条件は、いずれも緯糸11の搬送速度に影響を与える。このため、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれに応じて、たとえば、メインノズル6のエア噴射時間を変更する場合は、この変更により、各種の緯糸11の搬送速度がどのように変化し、かつ、該搬送速度の変化によって緯糸到達タイミングがどのように変化するかを、複雑な計算によって求める必要がある。
【0044】
これに対して、本実施形態においては、緯糸11の搬送速度に影響を与える上記の条件ではなく、緯糸11の搬送速度に影響を与えない条件である、係止ピン17の開放タイミングのみを変更することとした。具体的には、制御装置31は、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれ量と同じ量だけ係止ピン17の開放タイミングを逆側にずらすように変更する。係止ピン17の開放タイミングを逆側にずらすとは、目標到達タイミングTWrと予測到達タイミングTWpのずれの方向とは逆側に、係止ピン17の開放タイミングをずらすことを意味する。たとえば、目標到達タイミングTWrに対して予測到達タイミングTWpが早い方にずれている場合はそれと逆側となる遅い側に、また遅い方にずれている場合はそれと逆側となる早い側に、係止ピン17の開放タイミングをずらすように変更する。
【0045】
これにより、変更前の係止ピン17の開放タイミングを基準開放タイミングとすると、制御装置31は、実際の緯入れに適用する係止ピン17の開放タイミングを次のように変更する。たとえば、θa=235°、θb=240°である場合、制御装置31は、それらのずれ量に相当するΔθ=-5°と同じ量、すなわち機台角度で5°相当分だけ係止ピン17の開放タイミングを基準開放タイミングよりも遅い側にずらすように変更する。また、θa=243°、θb=240°である場合、制御装置31は、それらのずれ量に相当するΔθ=+3°と同じ量、すなわち機台角度で3°相当分だけ係止ピン17の開放タイミングを基準開放タイミングよりも早い側にずらすように変更する。これにより、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれが、係止ピン17の開放タイミングの変更によって打ち消される。
【0046】
制御装置31は、上述のように係止ピン17の開放タイミングを変更すると、変更後の係止ピン17の開放タイミングに合わせて電磁ソレノイド19を駆動することにより、係止ピン17を開放させる。これにより、係止ピン17の開放と同時に緯糸11の係止状態が解除される。このため、それまで測長ドラム15に巻かれていた緯糸11は、係止ピン17の開放と同時にタンデムノズル7側に送り出される。また、測長ドラム15から送り出された緯糸11は、緯入れ用のノズル6,7,8からのエア噴射によって筬9の長手方向に搬送されて緯入れされる。
【0047】
<実施形態の効果>
本発明の実施形態においては、緯糸11の状態に基づくフィードフォワード制御によって緯入れする際に、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれに応じて係止ピン17の開放タイミングを変更し、変更後の開放タイミングに従って係止ピン17を開放させる。この場合、係止ピン17の開放タイミングは、緯糸11の搬送速度に影響を与えない。また、係止ピン17の開放タイミングは、緯入れの開始タイミングを決定する要素となる。このため、係止ピン17の開放タイミングを変更すれば、緯糸11の搬送速度を変えることなく、緯糸到達タイミングのずれを補正することができる。これにより、緯糸11の種類が異なる場合でも、同じ計算式を適用して係止ピン17の開放タイミングを変更することができる。このため、フィードフォワード制御によって緯糸を緯入れするための計算を簡易化することができる。また、フィードフォワード制御に必要なデータ量を削減することもできる。
【0048】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0049】
たとえば、上記実施形態においては、緯糸状態検出装置3が検出する緯糸11の状態として、緯糸質量を挙げたが、本発明はこれに限らない。たとえば、緯糸の太さや毛羽立ちなど、緯糸の飛走に影響を与え得る他の糸状態があれば、これを緯糸状態検出装置3によって検出し、制御装置31による緯入れのフィードバック制御に適用してもよい。
【0050】
また、上記実施形態においては、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれ量と同じ量だけ係止ピン17の開放タイミングを変更するものとしたが、本発明はこれに限らない。たとえば、予測到達タイミングTWpと目標到達タイミングTWrとのずれ量に係数を乗算し、これによって得られた値に相当する量だけ係止ピン17の開放タイミングを変更してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 緯入れ装置、3 緯糸状態検出装置、6 メインノズル、7 タンデムノズル、8 サブノズル、11 緯糸、17 係止ピン、31 制御装置。
図1
図2
図3
図4