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7368079加熱用油脂組成物、加熱用油脂組成物の製造方法、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】加熱用油脂組成物、加熱用油脂組成物の製造方法、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20231017BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20231017BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A23D9/007
A23D9/013
A23D9/00 506
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018127658
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020005522
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆英
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-050560(JP,A)
【文献】特開2011-205924(JP,A)
【文献】特開2018-046771(JP,A)
【文献】特開2015-084720(JP,A)
【文献】特開2015-084719(JP,A)
【文献】特開2008-274147(JP,A)
【文献】特許第4798310(JP,B1)
【文献】特開2009-050234(JP,A)
【文献】特開2017-029086(JP,A)
【文献】特開2012-100649(JP,A)
【文献】にがり[online],https://www.seikatsu.city.nagoya.jp/files/anzen/file/nigari.pdf
【文献】Glenn Woods,オクタポールリアクションシステム搭載7500cx ICP-MSによる食用油中微量金属の直接測定,Agilent Technologiesアプリケーション,-,Agilent Technologies,2009年07月01日,-,https://www.chem-agilent.com/cimg/low_5989-9888JAJP.pdf
【文献】太田静行,フライ油の劣化防止剤,油化学,1988年,第37巻, 第5号,第331~343頁
【文献】Glenn Woods,オクタポールリアクションシステム搭載7500cx ICP-MS による食用油中微量金属の直接測定,Agilent Technologiesアプリケーション,-,Agilent Technologies,2009年07月01日,-,https://www.chem-agilent.com/cimg/low_5989-9888JAJP.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属含量が0.1~1.0質量ppmであり、
リン含量が0.1~15.0質量ppmであり、
前記リン含量がリン脂質由来のものである、
加熱用油脂組成物(但し、トコフェロールの油脂組成物中の含有量が800~2800質量ppmであるものを除く)。
【請求項2】
アルカリ金属含量が0.1~3.5質量ppmであり、
リン含量が0.1~15.0質量ppmであり、
前記リン含量がリン脂質由来のものである、
加熱用油脂組成物(但し、炭素数4~16の飽和脂肪酸のアルカリ金属石鹸を含有するもの、及び、アルカリ金属含量が0.1~1.0質量ppmにおいて、トコフェロールの油脂組成物中の含有量が800~2800質量ppmであるものを除く)。
【請求項3】
前記アルカリ金属がナトリウム又はカリウムである、請求項1又は2に記載の加熱用油脂組成物。
【請求項4】
前記加熱用油脂組成物が、乳化剤を0.01~10質量%含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の加熱用油脂組成物。
【請求項5】
油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン脂質由来であるリン化合物を添加する工程を含み、
添加後の加熱用油脂組成物中の、アルカリ金属含量が0.1~1.0質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなり、
前記リン含量がリン脂質由来のものである、
加熱用油脂組成物の製造方法(但し、トコフェロールを200~2000質量ppm添加するものを除く)。
【請求項6】
油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン脂質由来であるリン化合物を添加する工程を含み、
添加後の加熱用油脂組成物中の、アルカリ金属含量が0.1~3.5質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなり、
前記リン含量がリン脂質由来のものである、
加熱用油脂組成物の製造方法(但し、炭素数4~16の飽和脂肪酸のアルカリ金属石鹸を含有するもの、及び、アルカリ金属含量が0.1~1.0質量ppmにおいてトコフェロールを200~2000質量ppm添加するものを除く)。
【請求項7】
油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン脂質由来であるリン化合物を添加し、
添加後の油脂組成物の、アルカリ金属含量が0.1~1.0質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなり、
前記リン含量がリン脂質由来のものである、
油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法(但し、トコフェロールを200~2000質量ppm添加するものを除く)。
【請求項8】
油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン脂質由来であるリン化合物を添加し、
添加後の油脂組成物の、アルカリ金属含量が0.1~3.5質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなり、
前記リン含量がリン脂質由来のものである、
油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法(但し、炭素数4~16の飽和脂肪酸のアルカリ金属石鹸を含有するもの、及び、アルカリ金属含量が0.1~1.0質量ppmにおいてトコフェロールを200~2000質量ppm添加するものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱用油脂組成物、加熱用油脂組成物の製造方法、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパー、飲食店、レストラン等で使用される業務用の加熱用油脂組成物は、長時間にわたって大量のフライ調理品を高温で加熱調理するのに使用されることが多いため、劣化が早く進行し、フライ調理品の風味や外観にも悪影響を及ぼす。また、食品用の機械の潤滑油等には、食品汚染のリスク低減のために、食用油脂を用いることが望まれる。しかし、通常の食用油は、長期間、加熱を受けると劣化する。このため、短期間で廃棄・交換しなければならないが、経済面、環境面でも負担が大きいため、加熱用油脂組成物の劣化抑制技術が必要とされている。
【0003】
加熱用油脂組成物の加熱による劣化の指標の一つとして、油脂の加水分解や酸化などによって生成した遊離脂肪酸量を間接的に示す「酸価」が挙げられ、例えば、下記特許文献1では、ナトリウム、カリウムから選ばれる1以上の成分を油脂中に0.1~1μmol/g含有させることによって、加熱による油脂の酸価上昇を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2では、食用油脂にリン含量を0.1~10.0ppmとなるように添加することで、フライ時の着色と加熱臭を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4798310号公報
【文献】特許第4095111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加熱用油脂組成物において、さらに加熱調理に長期間使用することが求められており、より優れた酸価上昇抑制効果が求められている。また、Na等のアルカリ金属の添加量に応じて酸価上昇抑制効果が高くなるが、1ppm以下では十分でなく、一方、1ppmを超えると着色の問題が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、加熱による酸価上昇を抑制でき、着色も抑えることができる加熱用油脂組成物、加熱用油脂組成物の製造方法、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を達成するために、下記の[1]~[6]を提供する。上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0008】
[1] アルカリ金属含量が0.1~5.0質量ppmであり、リン含量が0.1~15.0質量ppmである、加熱用油脂組成物。
[2] 前記アルカリ金属がナトリウム又はカリウムである、[1]の加熱用油脂組成物。
[3] 前記リン含量がリン脂質由来である、請求項1又は2に記載の加熱用油脂組成物。
[4] 前記加熱用油脂組成物が、乳化剤を0.01~10質量%含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の加熱用油脂組成物。
[5] 油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン化合物を添加する工程を含み、添加後の加熱用油脂組成物中の、アルカリ金属含量が0.1~5.0質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなる、加熱用油脂組成物の製造方法。
[6] 油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン化合物を添加し、添加後の油脂組成物の、アルカリ金属含量が0.1~5.0質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなる、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸価上昇を抑制でき、着色も抑えることができる加熱用油脂組成物、加熱用油脂組成物の製造方法、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、油脂に特定量のアルカリ金属と、リンとを含有させることによって、業務用のフライ調理用油脂のような高温且つ長時間の過酷な使用条件下においても、加熱による、酸価上昇及び着色を抑制できることを見出した。この知見に基づき、本発明の加熱用油脂組成物、加熱用油脂組成物の製造方法、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法を完成するに至った。
以下に、本発明の加熱用油脂組成物、加熱用油脂組成物の製造方法、油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0011】
<加熱用油脂組成物>
本発明の加熱用油脂組成物は、アルカリ金属含量が0.1~5.0質量ppmであり、リン含量が0.1~15.0質量ppmである。
【0012】
(油脂)
本発明の加熱用油脂組成物は、通常の油脂を主成分として含む。通常の油脂は、動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。原料油脂そのものが20℃で固体であっても、他の原料油脂と併用して用いることによって、油脂全体として液状であれば好適に使用できる。特に、融点の低い液状油でありながら、酸化安定性も良好であるという利点を有することから、なたね油、なたね油と大豆油との混合物などを好適に使用することができる。
【0013】
本願で用いられる動植物油脂は、一般の油脂と同様、植物の種子若しくは果実、または動物性材料から搾油された粗油、あるいは分別した油脂、水素添加した反応油脂、エステル交換した反応油脂を出発原料として用い、順に、必要に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程を経て、さらに必要に応じて脱ろう工程を介した後、脱臭工程を経た精製により製造することができる。上記脱ガム工程、脱酸工程、および脱ろう工程は、採油される前の油糧原料に応じて変動し得る粗油の品質に応じて適宜選択される。
【0014】
本発明の加熱用油脂組成物において、上記の油脂は、アルカリ金属およびリン含量、さらに必要に応じて添加される他の添加剤を除く残部を構成するのが好ましい。
【0015】
(アルカリ金属)
本発明の加熱用油脂組成物は、加熱用油脂組成物中にアルカリ金属を0.1~5.0質量ppm含有する。アルカリ金属としては、特に限定されないが、ナトリウム及びカリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ナトリウムがより好ましい。アルカリ金属の含量は、多いほど加熱時の酸価上昇抑制効果が高く、アルカリ金属の含量が0.1~5.0質量ppmであれば、加熱用油脂組成物の加熱による酸価上昇を抑制することができる。加熱による酸価上昇抑制の点からは、アルカリ金属の含量は、0.1~4.0質量ppmであることが好ましく、0.2~3.5質量ppmであることがより好ましく、1.0~3.5質量ppmであることがさらに好ましい。一方、アルカリ金属の含量は、加熱による着色抑制の観点から、アルカリ金属の含量は、0.1~1.0質量ppmであることが好ましく、0.1~0.5質量ppmであることがより好ましく、0.1~0.2質量ppmであることがさらに好ましい。アルカリ金属の含量は、上記アルカリ金属を含有する成分を加熱用油脂組成物に含有させた状態で、原子吸光光度法(原子吸光光度計)、によって定量することができる。また、アルカリ金属の含量は、上記アルカリ金属を含有する成分を加熱用油脂組成物に含有させた状態で、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とする発光分光分析法(ICP発光分析装置)によっても定量することができる。
【0016】
これらアルカリ金属は、アルカリ金属を含有する成分として、加熱用油脂組成物中に含有することができる。アルカリ金属を含有する成分としては、食品添加物として使用可能な水溶性又は油溶性の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることができる。ナトリウム塩およびカリウム塩としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、L-グルタミン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、カゼインナトリウム、DL-酒石酸ナトリウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウムなどが挙げられる。より好ましくは、オレイン酸ナトリウムなどの脂肪酸ナトリウムである。
また、アルカリ金属は、脂肪酸のナトリウム石鹸あるいはカリウム石鹸を用いることができ、ナトリウム石鹸を含有する脱酸油や、アルカリ金属を含有する乳化剤等を用いることができる。アルカリ金属を含有する乳化剤は、金属塩を乳化剤中に溶解あるいは分散させるか、アルカリ触媒を用いて製造した乳化剤を用いることができる。アルカリ触媒を用いて製造した乳化剤としては、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが利用できる。乳化剤中のアルカリ金属の濃度は、10~50000質量ppmであることが好ましい。より好ましくは、50~2000質量ppmであり、より好ましくは60~1000質量ppmである。
【0017】
(リン)
本発明の加熱用油脂組成物は、加熱用油脂組成物中にリンを0.1~15.0質量ppm含有する。
リン含量は、リンを含有する加熱用油脂組成物を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とする発光分光分析法(ICP発光分析装置)により、定量することができる。
【0018】
加熱用油脂組成物中のリンは、アルカリ金属の含量が0.1~1.0質量ppmの範囲であれば、アルカリ金属との相乗効果により、加熱時の酸価上昇をより抑制することができる。加熱時の酸価上昇をより抑制する点から、リン含量は、0.1~15.0質量ppmである。リン含量は、0.2~15.0質量ppmであることが好ましく、0.8~15.0質量ppmであることがより好ましく、1.1~15.0質量ppmであることが最も好ましい。
さらに、加熱用油脂組成物中のリンは、アルカリ金属の含量が1.0~5.0質量ppmの範囲であれば、アルカリ金属による加熱時の着色を抑制することができる。加熱時の着色を抑制する点から、リン含量は、0.1~15.0質量ppmである。リン含量は、0.8~15.0質量ppmであることが好ましく、0.10.1~15.0質量ppmであることがより好ましい。
【0019】
本発明の加熱用油脂組成物中のリンとしては、有機系のリン化合物、無機系のリン化合物を用いることができる。有機系のリン化合物であるリン脂質が好ましい。リン脂質としては、卵黄レシチンあるいは植物由来のレシチンを用いることができ、植物由来のレシチンを用いることが好ましい。植物由来のレシチンの原料としては、大豆、菜種、コーン、ヒマワリ、サフラワー、ゴマ、アマニなどの油糧種子を圧搾および/または抽出して得られる原油、該原油に水または水蒸気を吹き込んで沈澱物としで得られる油滓、分離した該油滓を乾燥して得られる粗レシチン、該粗レシチンから溶剤分別等の公知の方法で中性油脂分を除去した混合レシチン、さらには該混合レシチンから特定のリン脂質を濃縮・分画した濃縮あるいは高純度レシチン等が利用できる。本発明においては、かかる原料を脱糖処理したレシチンが、着色の点から好ましい。脱糖レシチンを得るには、例えば、油滓の場合は、水分を含む油滓を必要に応じて濾過し夾雑物を除き、乾燥して粗レシチンとする。この粗レシチンは、通常トリグリセリドを主成分とする中性油脂や、前記した各種リン脂質、各種糖質成分などを含んでいる。次に上記の粗レシチンを例えばアセトンで処理し、アセトン不溶分として油脂(中性油)等を含まない混合レシチンを得る。該混合レシチンを含水(約30%以上が好ましい)エタノールで分別し、含水エタノール可溶区分(リン脂質成分をほとんど含まない糖質成分)を除去することで脱糖レシチンを得る。なお糖質成分はガラクトース、シュクロース、スタキオース、ラフィノース、マンノース、アラビノースなどの各種糖質が遊離および/またはホスファチドやその他の脂質成分と結合した状態あるいはグリコシドやステロールグリコシドとして存在する成分の混合物である。なお、前記のようにして含水アルコールで分別した際の含水アルコール不溶分、即ち大部分の糖質成分を除いたレシチンから、さらに無水アルコールにより分別して糖質成分を除去することもできる。また原油から本発明の成分を得るには、シリカゲルなどの吸着剤を用いてカラム処理などによって糖質成分を吸着除去することもできるが、無水アルコールを用いた脱糖レシチンがより好ましい。
【0020】
(その他の成分)
本発明の加熱用油脂組成物は、本発明の効果を損ねない程度に、必要に応じて、他の添加剤を含有する。例えば、前述のアルカリ金属、あるいはリンを含有する成分として、天然由来の乳化剤、あるいは合成の乳化剤を含有することができる。これらの乳化剤は、合計0.01~10質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましい。乳化剤としては、レシチン、脂肪酸モノグリセリド、有機酸脂肪酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート等が挙げられる。
【0021】
乳化剤以外の添加剤としては、酸化防止剤、シリコーンオイル、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられる。
【0022】
<加熱用油脂組成物の製造方法>
本発明の加熱用油脂組成物の製造方法は、油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン化合物を添加する工程を含み、添加後の加熱油脂組成物中の、アルカリ金属含量が0.1~5.0質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなる。本発明の加熱用油脂組成物の製造方法で用いる油脂、アルカリ金属、リン化合物の詳細は、前述の<加熱用油脂組成物>で述べた通りである。アルカリ金属、リン化合物の添加は、同時に、あるいは別々に添加可能であり、また、順番も特に限定するものではない。なお、添加工程は、アルカリ金属あるいはリン化合物が除去されることを防ぐため、油脂の脱色工程の後が好ましく、油脂の脱臭工程の後がより好ましい。
【0023】
<油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法>
本発明の油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法は、油脂組成物中に、アルカリ金属及び/又はリン化合物を添加し、添加後の油脂組成物の、アルカリ金属含量が0.1~5.0質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなる。本発明の油脂組成物の加熱による劣化を抑制する方法で用いる油脂、アルカリ金属、リン化合物の詳細は、前述の<加熱用油脂組成物>で述べた通りである。
【0024】
本発明において、油脂組成物を加熱調理等の加熱に用いた場合、加熱前及び/又は加熱中に、油脂組成物の、アルカリ金属含量が0.1~5.0質量ppm、リン含量が0.1~15.0質量ppmとなるように添加する。特に、フライ時において、フライ食品によって、アルカリ金属及び/又はリン化合物の一部が付着除去されることもあり、その場合は、追加添加することで、油脂組成物の加熱による劣化を抑制することができる。
【実施例
【0025】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
下記表1に示す組成になるように、実施例および比較例のサンプル油を調製し、加熱試験を行った後、酸価、色調について評価を行った。サンプル油の調製の手順、加熱試験の手順、評価方法、結果を具体的に下記に示す。
【0026】
<サンプル油の調製>
油脂(キャノーラ油)、モノオレイン酸グリセロール(未蒸留品:ナトリウム含量 127質量ppm含有)、脱糖レシチン(リン含量 1.6質量%)をナトリウム及びリン含量が表1になるように添加した。
(アルカリ金属含量)
アルカリ金属(ナトリウム、カリウム)含量は、原子吸光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 Z2310)によって、測定した。
(リン含量)
リン含量は、ICP発光分析装置(株式会社島津製作所製 ICPS-8100)によって、測定した。
【0027】
<加熱試験>
200mLビーカーに、調製したサンプル油を入れ、185℃で3日間、各10時間(合計30時間)加熱した。加熱後の酸価、色調を測定し、結果を表1に示した。なお、表中の<>は、比較例1に対する増減割合(%)を示す。
【0028】
(酸価)
加熱したサンプル油の酸価を、基準油脂分析試験法「2.3.1-2013 酸価」(日本油脂化学会制定)に従って測定した。酸価は、油脂中に含まれる遊離脂肪酸の量を示すもので、サンプル油1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表わす。酸価の数値が小さいほど、遊離脂肪酸量が少なく、酸価の上昇が抑制されていることを意味する。
(色調:Y+10R値)
試験油(油脂組成物)の色調の濃淡を、ロビボンド比色計(The Tintometer Limited社製Lovibond PFX995)で1インチセルを使用して、黄の色度(Y値)、赤の色度(R値)を測定し、Y値+10×R値(以下、Y+10R)を算出して評価した。Y+10Rの数値が小さい程、色調が淡く、Y+10R数値が大きい程、色調が濃いことを意味する。
【0029】
【表1】
【0030】
比較例1,2,3に比べて実施例2-1~3、3-1~4は、リン含量が増えるにしたがって、酸価上昇が抑えられており、色調も抑えられている。
【0031】
一方、比較例4に比べて、実施例4-1~3は、色調が抑えられている。また、酸価上昇が抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、食品製造の分野において、あらゆる加熱調理用途に用いることができるが、特に高温且つ長時間の加熱や反復使用等の過酷な条件下で使用されることが多いフライ用油脂として利用することが可能である。また、離形油や炒め油等のその他の加熱用油脂組成物を要する全ての食品の製造においても利用可能である。さらに、種々の機械の潤滑油としても用いることが可能である。