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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】紡機のスピンドル装置
(51)【国際特許分類】
   D01H 7/22 20060101AFI20231017BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20231017BHJP
   F16C 19/54 20060101ALI20231017BHJP
   D01H 7/04 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
D01H7/22
F16C19/06
F16C19/54
D01H7/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018220178
(22)【出願日】2018-11-26
(65)【公開番号】P2020084367
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-02-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 智理
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】藤井 眞吾
【審判官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第958941(GB,A)
【文献】実開平2-131563(JP,U)
【文献】特開昭48-69934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00 - 17/02
F16C 19/00 - 19/56
F16C 35/00 - 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルシャフトと、
ボビン装着部と第1鍔部とを有し前記スピンドルシャフトに同軸状に固定されたスピンドル本体と、
前記スピンドルシャフトの中心軸方向で前記第1鍔部と対向する第2鍔部と胴部と第3鍔部とを一体に有する円筒形に形成され、前記第3鍔部の下面に第1クラッチ面を有するとともに、前記スピンドルシャフトの中心軸方向に移動可能な状態で前記スピンドル本体に取り付けられ、前記スピンドルシャフトおよび前記スピンドル本体と一体に回転するブッシュと、
前記第1クラッチ面に対向する第2クラッチ面を有するとともに、前記スピンドルシャフトの中心軸方向で前記ブッシュと隣り合わせに配置され、かつ、前記スピンドルシャフトにベアリングを介して回転自在に取り付けられたワーブと、
を備え、
前記ブッシュは、前記スピンドルシャフトの中心軸方向において前記ワーブよりも前記スピンドル本体側に配置され、
前記第1クラッチ面と前記第2クラッチ面とを接続した状態では、前記スピンドルシャフト、前記スピンドル本体および前記ブッシュが前記ワーブと一体に回転するように構成されている
ことを特徴とする紡機のスピンドル装置。
【請求項2】
動位置と非作動位置との間で移動可能なブレーキ機構をさらに備え、
前記ブレーキ機構は、前記作動位置に移動したときに、前記スピンドルシャフトの中心軸方向で前記第1鍔部と前記第2鍔部とをクランプすることにより、前記第1クラッチ面と前記第2クラッチ面とを分離させるクランプ部材を有する
請求項1に記載の紡機のスピンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機のスピンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機や撚糸機などの紡機に用いられるスピンドル装置に関して、たとえば、特許文献1には、スピンドルシャフトと、ケーシングと、バネと、ピストンと、ワーブと、クラッチ駆動軸と、クラッチディスクと、を備えた構成が記載されている。この構成においては、スピンドルシャフトにキーを用いてクラッチ駆動軸が取り付けられている。また、クラッチ駆動軸はベアリングの内輪に固定され、ピストンはベアリングの外輪に固定されている。
【0003】
上記特許文献1に記載されたスピンドル装置の構成では、ワーブの回転力をスピンドルシャフトに伝達する場合に、ケーシングに取り付けられたバネの力がスラスト荷重となって上記ベアリングの外輪に加わる。その場合、ベアリングの外輪に固定されたピストンは回転せず、ベアリングの内輪に固定されたクラッチ駆動軸は回転する。このため、ベアリングは、上述したスラスト荷重を内輪で受けながら、内輪と外輪が相対的に回転することになる。このため、ワーブの回転によってスピンドルシャフトを回転させる場合に、ベアリングに高い負荷がかかってしまう。
【0004】
そこで、たとえば、特許文献2には、スピンドルシャフトに糸管台を圧入により固定するとともに、糸管台にベアリングを介してワーブを回転自在に取り付けた構成を有するスピンドル装置が記載されている。このスピンドル装置においては、スピンドルシャフトに糸管台を介して円筒形留め金が取り付けられ、この円筒形留め金にクラッチブロックが上下動可能に取り付けられている。また、ワーブとクラッチブロックには、それぞれクラッチ面が設けられている。クラッチブロックのクラッチ面はスプリングの力によってワーブのクラッチ面に圧接し、この圧接状態のもとでワーブの回転が、クラッチブロック、円筒形留め金、および糸管台を介して、スピンドルシャフトに伝達される構成になっている。この構成においては、ベアリングの内輪に接触する糸管台および円筒形留め金と、ベアリングの外輪に接触するワーブとが、互いに一体となって回転するため、ベアリングの内輪と外輪が相対的に回転することがない。よって、ベアリングに加わる負荷を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平2-131563号公報
【文献】特開昭48-69934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のスピンドル装置においては、クラッチ断続操作のための部材として、ワーブの中空部の下側にクラッチブロックが設けられ、さらにそのクラッチブロックよりも下側に作動ブロックが設けられている。このため、クラッチブロックや作動ブロックがスピンドルレールの近くに配置され、これにともなうスペースの制約により、クラッチ断続操作のためのスペースを充分に確保できないという欠点があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、ベアリングに加わる負荷を低減し、かつ、クラッチ断続操作のためのスペースを充分に確保することができる、紡機のスピンドル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る紡機のスピンドル装置は、スピンドルシャフトと、ボビン装着部と第1鍔部とを有し前記スピンドルシャフトに同軸状に固定されたスピンドル本体と、前記スピンドルシャフトの中心軸方向で前記第1鍔部と対向する第2鍔部と胴部と第3鍔部とを一体に有する円筒形に形成され、前記第3鍔部の下面に第1クラッチ面を有するとともに、前記スピンドルシャフトの中心軸方向に移動可能な状態で前記スピンドル本体に取り付けられ、前記スピンドルシャフトおよび前記スピンドル本体と一体に回転するブッシュと、前記第1クラッチ面に対向する第2クラッチ面を有するとともに、前記スピンドルシャフトの中心軸方向で前記ブッシュと隣り合わせに配置され、かつ、前記スピンドルシャフトにベアリングを介して回転自在に取り付けられたワーブと、を備え、前記ブッシュは、前記スピンドルシャフトの中心軸方向において前記ワーブよりも前記スピンドル本体側に配置され、前記第1クラッチ面と前記第2クラッチ面とを接続した状態では、前記スピンドルシャフト、前記スピンドル本体および前記ブッシュが前記ワーブと一体に回転するように構成されている。
【0009】
また、本発明に係る紡機のスピンドル装置において、作動位置と非作動位置との間で移動可能なブレーキ機構をさらに備え、前記ブレーキ機構は、前記作動位置に移動したときに、前記スピンドルシャフトの中心軸方向で前記第1鍔部と前記第2鍔部とをクランプすることにより、前記第1クラッチ面と前記第2クラッチ面とを分離させるクランプ部材を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紡機のスピンドル装置において、ベアリングに加わる負荷を低減し、かつ、クラッチ断続操作のためのスペースを充分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係る紡機のスピンドル装置の構成を示す縦断面図である。
図2図1のピンドル装置の一部を示す側面図である。
図3図1のスピンドル装置をIII-III位置で断面した斜視図である。
図4】ブッシュを上方に移動した状態を示す側面図である。
図5図1のスピンドル装置が備えるブレーキ機構の構成を説明する斜視図である。
図6図5のブレーキ機構を作動位置に配置した状態を示す斜視図である。
図7図5のブレーキ機構を作動位置に配置した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る紡機のスピンドル装置の構成を示す縦断面図であり、図2は、図1のスピンドル装置の一部を示す側面図である。また、図3は、図1のスピンドル装置をIII-III位置で断面した斜視図である。
【0013】
図1図3に示すように、スピンドル装置1は、スピンドル本体2と、スピンドルシャフト3と、ブッシュ4と、ワーブ5と、ボルスタ6と、を備えている。以降の説明では、スピンドルシャフト3の中心軸方向の一方を上側U、他方を下側Dとして、各部の位置関係を特定する。
【0014】
(スピンドル本体)
スピンドル本体2は、スピンドルシャフト3に同軸状に固定されている。スピンドル本体2は、ボビン導入部10と、ボビン装着部11と、軸孔12と、第1鍔部13と、スプライン軸部14と、を有している。ボビン導入部10は、ボビン7をボビン装着部11へと導く部分である。ボビン導入部10の外径は、ボビン7の内径よりも小さく設定されている。ボビン導入部10は、スピンドル本体2の上端部に位置している。ボビン装着部11は、第1鍔部13の位置から上側Uに突出して配置されている。ボビン装着部11は、ボビン7が着脱自在に装着される部分である。ボビン装着部11の外径は、ボビン7の内径よりも僅かに小さく設定されている。これにより、ボビン装着部11にボビン7を装着した状態では、ボビン7がスピンドル本体2と同軸状に配置される。
【0015】
軸孔12は、スピンドル本体2の中心軸上に形成されている。軸孔12は、スピンドル本体2のボビン装着部11からスプライン軸部14までを貫通するように形成されている。軸孔12の内径は、軸孔12に挿入されるスピンドルシャフト3の外径に対応して設定されている。第1鍔部13は、ボビン装着部11の外周面よりも径方向の外側に突出している。ボビン装着部11にボビン7を装着した状態では、ボビン7の下端部が第1鍔部13の上面に突き当たる。これにより、第1鍔部13は、ボビン装着部11に装着されるボビン7を受けるボビン受け台として機能する。スプライン軸部14は、第1鍔部13の位置から下側Dに突出して配置されている。このため、第1鍔部13の位置を基準にみると、ボビン導入部10およびボビン装着部11は上側Uに配置され、スプライン軸部14は下側Dに配置されている。スプライン軸部14の外周面には、円周方向に所定の角度間隔で複数の溝15が形成されている。各々の溝15は、スピンドル本体2およびスピンドルシャフト3の中心軸方向に沿う縦溝となっている。また、スプライン軸部14の下端部14aは、スプライン軸部14の下端部14aがボールベアリング26の内輪にのみ接触するように、テーパー形状に径が小さくなっている。ただし、スプライン軸部14の下端部14aには、テーパー形状に代えて段差などを設けてもよい。
【0016】
(スピンドルシャフト)
スピンドルシャフト3は、スピンドル本体2、ブッシュ4、ワーブ5、および、ボルスタ6と同軸状に配置されている。スピンドルシャフト3は、第1ローラーベアリング17および第2ローラーベアリング18によって回転自在に支持されている。スピンドルシャフト3は、ワーブ5およびボルスタ6を貫通するように配置されている。スピンドルシャフト3の上端部は、スピンドル本体2の軸孔12に圧入されている。これにより、スピンドル本体2とスピンドルシャフト3は、互いに一体に回転する構成になっている。一方、スピンドルシャフト3の下端部はボルスタ6の底部近傍に配置され、そこで第2ローラーベアリング18により回転自在に支持されている。なお、本実施の形態においては、スピンドル本体2とスピンドルシャフト3とを別体で構成しているが、これらを一体で構成することも可能である。
【0017】
(ブッシュ)
ブッシュ4は、スピンドルシャフト3の中心軸方向においてワーブ5よりもスピンドル本体2側に配置されている。具体的には、ブッシュ4は、スピンドル本体2のボビン装着部11とワーブ5との間に配置されている。ブッシュ4は、スピンドルシャフト3の中心軸方向に沿ってワーブ5と直列に並べて配置されるとともに、ワーブ5と共に外部に露出して配置されている。ブッシュ4は、スピンドル本体2のスプライン軸部14に取り付けられている。ブッシュ4は、後述する凸部24と溝15との噛み合いにより、スピンドルシャフト3の中心軸方向に移動可能に設けられている。ブッシュ4は、第2鍔部20と、胴部21と、第3鍔部22と、を一体に有する円筒形に形成されている。第2鍔部20
は、胴部21の外周面よりも径方向の外側に突出している。第2鍔部20の下面側には傾斜面20aが形成されている。第2鍔部20は、スピンドルシャフト3の中心軸方向において、スピンドル本体2の第1鍔部13と対向するように配置されている。第1鍔部13と第2鍔部20は、隙間G1を隔てて対向している。ブッシュ4は、上述した隙間G1の存在により、スピンドル本体2のスプライン軸部14に案内されてスピンドルシャフト3の中心軸方向に移動可能となっている。
【0018】
胴部21の内周部には、バネ収容部23が形成されている。バネ収容部23は、ブッシュ4の内周面の上側に形成されている。バネ収容部23には、付勢部材としてのバネ8が配置されている。バネ8は、後述する第1クラッチ面25を第2クラッチ面30に圧接させるための付勢力をブッシュ4に付与すべく、ブッシュ4を下方に付勢するものである。本実施の形態においては、一例として、バネ8が圧縮コイルバネによって構成されている。バネ8の上端部はスピンドル本体2の第1鍔部13の下面に接触し、バネ8の下端部はバネ収容部23の底面に接触している。また、胴部21の内周面には、円周方向に所定の角度間隔で複数の凸部24が形成されている。複数の凸部24は、上述した複数の溝15に対応してブッシュ4に形成されたものである。ブッシュ4は、複数の凸部24と複数の溝15を凹凸状に噛み合わせた状態でスピンドル本体2のスプライン軸部14に取り付けられている。このため、ブッシュ4は、スピンドル本体2およびスピンドルシャフト3と一体に回転する構成となっている。第3鍔部22は、胴部21の外周面よりも径方向の外側に突出している。第3鍔部22の下面は、第1クラッチ面25(図1参照)となっている。
【0019】
(ワーブ)
ワーブ5は、スピンドルシャフト3の中心軸方向でブッシュ4と隣り合わせに配置されている。また、ワーブ5は、スピンドルシャフト3にボールベアリング26を介して回転自在に取り付けられている。ボールベアリング26は、ワーブ5の姿勢を安定させるために上下方向に2つ並べて配置されている。ボールベアリング26の内輪はスピンドルシャフト3に圧入によって固定され、同外輪はワーブ5の内周面に圧入によって固定されている。また、ボールベアリング26の内輪には、スプライン軸部14の下端部14aが接触している。
【0020】
ワーブ5は、第4鍔部27と、ベルト巻き付き部28と、第5鍔部29とを一体に有する円筒形に形成されている。第4鍔部27は、ベルト巻き付き部28の外周面よりも径方向の外側に突出している。第4鍔部27は、スピンドルシャフト3の中心軸方向において、ブッシュ4の第3鍔部22と対向するように配置されている。また、第4鍔部27の上面は、第2クラッチ面30(図1参照)となっている。第2クラッチ面30は、スピンドルシャフト3の中心軸方向において、第3鍔部22の第1クラッチ面25と対向している。第1クラッチ面25および第2クラッチ面30は、ブッシュ4とワーブ5との間で回転力を伝達したり、回転力の伝達を遮断したりするためのクラッチ面となる。ワーブ5からブッシュ4へと回転力を伝達する場合は、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを接続した状態とする。また、ワーブ5からブッシュ4へと回転力を伝達しない場合は、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを分離した状態とする。
【0021】
ベルト巻き付き部28は、第4鍔部27と第5鍔部29との間に位置している。ベルト巻き付き部28の外周面には、スピンドル駆動用のベルト33が所定の角度(たとえば、90°)で巻き付けられている。ベルト33は、図示しないベルト駆動装置の駆動に従って走行するものである。ワーブ5は、ベルト33の走行に従って回転する。第5鍔部29は、ベルト巻き付き部28の外周面よりも径方向の外側に突出している。ワーブ5の内部には貫通孔31が設けられている。貫通孔31は、第4鍔部27、ベルト巻き付き部28および第5鍔部29を貫通するように形成されている。
【0022】
(ボルスタ)
ボルスタ6は、スピンドルレール40にナット41によって固定されている。スピンドルレール40には、ボルスタ6が挿入される挿入孔42が形成されている。ボルスタ6の外周面には部分的に雄ネジ(図示せず)が形成されており、この雄ネジにナット41が噛み合っている。ボルスタ6は、ボルスタ本体50と、突出部51と、フランジ部52と、を一体に有している。ボルスタ6の内部には軸孔53が形成されている。軸孔53にはスピンドルシャフト3が挿入されている。軸孔53の内径は、スピンドルシャフト3の外径よりも大きく設定されている。ボルスタ本体50の下端側は、スピンドルレール40の挿入孔42を通してスピンドルレール40の下面側に突出している。上述した第2ローラーベアリング18はボルスタ本体50の底部に配置されている。
【0023】
突出部51は、フランジ部52の位置から上方に突出している。突出部51は、ワーブ5の貫通孔31に挿入されている。突出部51の上端部は、ボールベアリング26の近傍に配置されている。上述した第1ローラーベアリング17は、突出部51の上端部の内周側に取り付けられている。フランジ部52は、突出部51およびフランジ部52の外周面よりも径方向の外側に突出している。フランジ部52の下面とスピンドルレール40の上面との間にはシム55が挟み込まれている。ボルスタ6は、フランジ部52とナット41との間にスピンドルレール40を挟み込み、その状態でナット41を締め付けることにより、スピンドルレール40に固定されている。
【0024】
(ブレーキ機構)
本実施の形態に係るスピンドル装置1は、上述した構成に加えて、図5に示すようなブレーキ機構60を備えている。なお、図5においては、スピンドルレール40上に2つのスピンドル装置1が並べて配置され、一方のスピンドル装置1だけがブレーキ機構60を備えているが、実際にはすべてのスピンドル装置1がブレーキ機構60を備えた構成となる。また、スピンドル駆動用のベルト33は、たとえば、図5に示すように2つのスピンドル装置1を組として、同一の組に属するスピンドル装置1のワーブ5に巻き付けられる。
【0025】
ブレーキ機構60は、ワーブ5からブッシュ4への回転力の伝達を遮断し、かつ、スピンドル本体2、スピンドルシャフト3およびブッシュ4の回転を停止するための機構である。ブレーキ機構60は、作動位置と非作動位置との間で移動可能に設けられている。作動位置はブレーキ機構60によってスピンドルシャフト3の回転を停止させる、すなわちブレーキをかけるための位置であり、非作動位置はブレーキを解除するための位置である。図5は、ブレーキ機構60を非作動位置に配置した状態を示している。
【0026】
ブレーキ機構60は、バネ8の付勢力に抗してブッシュ4を上方に移動させることにより、ワーブ5からブッシュ4への回転力の伝達を遮断する。また、ブレーキ機構60は、スピンドル本体2やブッシュ4に接触することにより、スピンドルシャフト3やブッシュ4の回転を停止する。以下、ブレーキ機構60の構成について説明する。
【0027】
ブレーキ機構60は、一対のアーム部61と、操作用のレバー62と、一対のクランプ部材63とを備えている。一対のアーム部61は、ボルスタ6のフランジ部52を両側から挟むように配置されている。アーム部61の下側の端部61aにはピン(図示せず)が設けられており、このピンが、フランジ部52の外周面に形成された孔(図示せず)に嵌め込まれることにより、図5に示す軸Jを中心にアーム部61が回転自在に支持されている。レバー62は、一対のアーム部61の間に配置されている。レバー62は、一対のアーム部61にネジ止め、接着等によって固定される固定部62aと、固定部62aから延びる操作部62bとを一体に有している。
【0028】
クランプ部材63は、スピンドルシャフト3の中心軸方向で第1鍔部13と第2鍔部20とをクランプすることにより、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを分離させるものである。クランプ部材63は、アーム部61の上端部61bに配置されている。クランプ部材63には、第1当接部65と、第2当接部66と、嵌合溝67とが形成されている。第1当接部65は、ブレーキ機構60を作動位置に移動させたとき第1鍔部13の上面に当接する部分である。第2当接部66は、ブレーキ機構60を作動位置に移動させたときに第2鍔部20の下面に当接しつつブッシュ4を上方に移動させる部分である。第1当接部65と第2当接部66は、嵌合溝67を介して対向している。第1当接部65は山形状に形成され、第2当接部66は逆山形状に形成されている。
【0029】
次に、上記構成からなるスピンドル装置1の動作について説明する。ここでは、最初にスピンドル装置1の基本的な動作を説明し、その後で、ブレーキ機構60の動作を説明する。
【0030】
まず、図示しないベルト駆動装置の駆動によりベルト33が走行すると、ベルト33の走行方向および走行速度に従ってワーブ5が回転する。このとき、バネ8の付勢力によりブッシュ4の第1クラッチ面25をワーブ5の第2クラッチ面30に圧接させた状態では、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30との接続により、ワーブ5の回転力がブッシュ4へと伝達される。また、ベルト33の走行によってワーブ5が回転すると、ブッシュ4、スピンドル本体2およびスピンドルシャフト3が、ワーブ5と一体に回転する。したがって、スピンドル本体2のボビン装着部11に装着されるボビン7を、スピンドル本体2と共に回転させることができる。
【0031】
一方、図1および図2に示す状態から、バネ8の付勢力に対抗してブッシュ4を上方に移動させると、図4の状態になる。これにより、ブッシュ4を上方に移動する前に比べて、ボビン装着部11の第1鍔部13とブッシュ4の第2鍔部20との間の隙間G1が小さくなる。また、ブッシュ4の第3鍔部22とワーブ5の第4鍔部27との間には、ブッシュ4の移動によって隙間G2が生じ、この隙間G2の分だけ第3鍔部22の第1クラッチ面25と第4鍔部27の第2クラッチ面30とが分離する。このため、ワーブ5からブッシュ4への回転力の伝達が遮断される。よって、ベルト33の走行によりワーブ5を回転させたまま、スピンドル本体2、スピンドルシャフト3およびブッシュ4の回転を停止させることができる。
【0032】
一方、ブレーキ機構60は、次のように動作する。まず、ブレーキをかける前は、図5に示すように、ブレーキ機構60を非作動位置に待機させておく。具体的には、一対のクランプ部材63がスピンドル本体2やブッシュ4に接触しないよう、ブレーキ機構60を倒した状態にする。この状態では、上述したバネ8の付勢力によって第1クラッチ面25が第2クラッチ面30に押し付けられるため、ワーブ5の回転力がブッシュ4に伝達される。このため、ベルト33の走行によってワーブ5を回転させると、ブッシュ4、スピンドル本体2およびスピンドルシャフト3がワーブ5と一体に回転する。
【0033】
これに対して、ブレーキをかけるときは、図6および図7に示すように、ブレーキ機構60を作動位置に移動させる。具体的には、レバー62の操作部62bを操作者等が把持して、軸Jを中心に一対のアーム部61をB方向に回転させることにより、ブレーキ機構60を起立させた状態にする。このとき、一対のアーム部61が回転する途中で、クランプ部材63の嵌合溝67に第1鍔部13と第2鍔部20が嵌まり込む。また、クランプ部材63の第1当接部65は第1鍔部13の上面に当接し、第2当接部66は第2鍔部20の下面に当接する。これにより、第1鍔部13と第2鍔部20が、クランプ部材63によってクランプされる。その際、スピンドル本体2には、第1当接部65と第1鍔部13との当接によってブレーキ力が働く。一方、ブッシュ4は、第2当接部66と第2鍔部20との当接によって上方に押し上げられる。そうすると、第1クラッチ面25が第2クラッチ面30から分離する。このため、ワーブ5からブッシュ4への回転力の伝達が遮断される。また、ブッシュ4には、第2当接部66と第2鍔部20との当接によってブレーキ力が働く。したがって、ベルト33の走行によりワーブ5を回転させても、スピンドル本体2、スピンドルシャフト3およびブッシュ4の回転は停止する。
【0034】
<実施の形態の効果>
本実施の形態においては、バネ8の付勢力をブッシュ4に付与して第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを接続した際に、ワーブ5を介してボールベアリング26の外輪にスラスト荷重が加わる。ただし、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを接続した状態では、スピンドル本体2、スピンドルシャフト3およびブッシュ4がワーブ5と一体に回転する。このため、ベルト33の走行によってワーブ5を回転させ、その回転力をワーブ5からブッシュ4へと伝達する場合でも、ボールベアリング26の内輪と外輪が相対的に回転することがない。よって、ボールベアリング26に加わる負荷を低減することができる。また、スピンドルシャフト3の中心軸方向でみると、ブッシュ4はワーブ5よりもスピンドル本体2側に配置されている。このため、クラッチ断続操作のための部材であるブッシュ4を、スピンドルレール40から離れた位置に配置することができる。これにより、スピンドルレール40からブッシュ4までの広いスペースを、クラッチ断続操作のために利用することができる。よって、クラッチ断続操作のためのスペースを充分に確保することが可能となる。
【0035】
また、先述した特許文献2に記載のスピンドル装置では、ワーブの中空部の下側にクラッチブロックや作動ブロックが配置されているため、スピンドルシャフトをボルスタから引き抜くときに、部材どうしが干渉しやすくなる。このため、スピンドル装置のメンテナンスのために、ボルスタからスピンドルシャフトを引き抜くときに、部材どうしの干渉を避けながらスピンドルシャフトを慎重に引き抜く必要があり、メンテナンス作業が面倒になる。これに対し、本実施の形態に係るスピンドル装置1では、ブッシュ4をワーブ5よりもスピンドル装置1側に配置しているため、ワーブ5とボルスタ6との間に中間部材が介在しない。このため、スピンドル装置1のメンテナンスに際して、スピンドルシャフト3をボルスタ6から引き抜くときに、部材どうしが干渉しない。よって、スピンドル装置1のメンテナンス作業を簡単に行うことができる。
【0036】
また、本実施の形態においては、スピンドル本体2の第1鍔部13とブッシュ4の第2鍔部20とをブレーキ機構60のクランプ部材63によってクランプするという簡易な機構によって、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを分離させ、ワーブ5からブッシュ4への回転力の伝達を遮断することができる。また、第1鍔部13と第2鍔部20とをクランプ部材63によってクランプすることにより、スピンドル本体2とブッシュ4の両方にブレーキ力を働かせ、それぞれの回転を停止させることができる。また、ブッシュ4が外部からアクセスしやすい位置に配置されるため、ブレーキ装置60のクランプ部材63によって第1鍔部13と第2鍔部20とを容易にクランプすることができる。このため、ブレーキ装置60を各錘のスピンドル装置1ごとに設置せず、ブレーキ装置60を工具とすることも容易である。具体的には、各錘のスピンドル装置1に対してブレーキ装置60を着脱可能に構成し、スピンドル本体2等の回転を停止する必要があるスピンドル装置1にブレーキ装置60を装着した後、ブレーキ装置60を非作動位置から作動位置へと移動させてもよい。これにより、すべてのスピンドル装置1にブレーキ装置60を設ける場合に比べてコストを低減することができる。なお、非作動位置と作動位置との間で移動可能なブレーキ装置60は、軸Jを中心に回転移動するものに限らず、たとえば、前後方向に直線移動するものであってもよい。
【0037】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0038】
たとえば、上記実施の形態においては、バネ8の付勢力をブッシュ4に付与することにより、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを接続する構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、たとえば、磁力を利用するマグネットカップリングによって第1クラッチ面25と第2クラッチ面30とを接続する構成を採用してもよい。マグネットカップリングを用いる場合は、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30との間に隙間を設け、この隙間の部分に働く磁力によってワーブ5からブッシュ4へと回転力を伝達する。また、ワーブ5からブッシュ4への回転力の伝達を遮断する場合は、上記実施の形態と同様にブッシュ4を上方に移動させることにより、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30との間の隙間を、磁力による動力伝達が困難な距離まで広げて、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30との接続を断つ。マグネットカップリングを用いた場合は、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30との接触による摩耗を避けることができる。
【0039】
また、上記実施の形態においては、一対のアーム部61にそれぞれクランプ部材63を設け、軸Jを中心に一対のアーム部61を回転させることにより、第1鍔部13と第2鍔部20とをクランプ部材63によってクランプする構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らない。たとえば図示はしないが、エアー駆動式の開閉チャックをクランプ部材とし、その開閉チャックの閉じ動作によって第1鍔部13と第2鍔部20とをクランプする構成を採用してもよい。
【0040】
また、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30を、それぞれ、高摩擦材料からなるクラッチパッド(図示せず)によって形成すれば、第1クラッチ面25と第2クラッチ面30との接触部分で滑りが発生しづらくなる。このため、バネ8によってブッシュ4を強く付勢しなくても、ワーブ5からブッシュ4へと確実に回転力を伝達することができる。また、第1クラッチ面25および第2クラッチ面30の少なくとも一方を、交換可能なクラッチパッドによって形成すれば、ブッシュ4やワーブ5の寿命、ひいてはスピンドル装置1全体の寿命を延ばすことができる。
【符号の説明】
【0041】
1 スピンドル装置、2 スピンドル本体、3 スピンドルシャフト、4 ブッシュ、5 ワーブ、13 第1鍔部、20 第2鍔部、25 第1クラッチ面、26 ボールベアリング(ベアリング)、30 第2クラッチ面、60 ブレーキ機構、63 クランプ部材。
図1
図2
図3
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図5
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図7