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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】車両制御装置および車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/26 20060101AFI20231017BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231017BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20231017BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20231017BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231017BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231017BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231017BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20231017BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B60W10/26 900
B60L50/16
B60L1/00 L
B60L58/10
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W20/13
H02J7/00 P
H02J7/00 302B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019082546
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020179723
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】林 龍太朗
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103930(JP,A)
【文献】特開2003-153461(JP,A)
【文献】特開2002-345110(JP,A)
【文献】特開2015-030452(JP,A)
【文献】特開2016-172541(JP,A)
【文献】特開2017-119493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60L 1/00-58/40
B60K 6/20- 6/547
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行動力源としてモーターとエンジンとを有する車両本体と前記車両本体の荷室の温度を調整可能な温調装置とを有するハイブリッド車両に搭載される車両制御装置であって、
バッテリーから前記モーターへの供給電力と前記バッテリーから前記温調装置への供給電力とを制御する電力制御部と、
前記モーターへの供給電力と前記温調装置への供給電力との合計を前記バッテリーの出力として取得する出力取得部と、を備え、
前記電力制御部は、前記バッテリーの許容出力を保持し、前記モーターおよび前記温調装置の双方に電力を供給しているときに前記バッテリーの出力が前記許容出力に到達すると前記温調装置への供給電力を減少させるとともに
前記車両制御装置は、前記ハイブリッド車両の停車時に前記エンジンを停止させるアイドリングストップ機能を有し、
前記電力制御部は、前記エンジンの再始動の際に、前記エンジンの再始動の開始から通常所要時間だけ経過しても前記エンジンの再始動が完了していない場合に前記温調装置への供給電力を減少させる
車両制御装置。
【請求項2】
前記バッテリーの温度であるバッテリー温度を取得する温度取得部を有し、
前記電力制御部は、前記バッテリー温度ごとに前記許容出力が規定されたテーブルを保持し、前記バッテリー温度と前記テーブルとに基づいて前記許容出力を設定する
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
走行動力源としてモーターとエンジンとを有する車両本体と前記車両本体の荷室の温度を調整可能な温調装置とを有するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、バッテリーから前記モーターへの供給電力と前記バッテリーから前記温調装置への供給電力とを制御するとともに前記ハイブリッド車両の停車時に前記エンジンを停止させるアイドリングストップ機能を有する車両制御装置を備え、
前記車両制御装置は、
前記モーターへの供給電力と前記温調装置への供給電力との合計を前記バッテリーの出力として取得し、前記モーターおよび前記温調装置の双方に電力を供給しているときに前記バッテリーの出力が前記バッテリーの許容出力に到達すると前記温調装置への供給電力を減少させるとともに、前記エンジンの再始動の際に、前記エンジンの再始動の開始から通常所要時間だけ経過しても前記エンジンの再始動が完了していない場合に前記温調装置への供給電力を減少させる
車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行動力源としてモーターを有する車両本体と車両本体の荷室の温度を調整可能な温調装置を備えた車両を制御する車両制御装置および車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走行動力源としてモーターを有する架装車両の1つとして、車両の移動中も電力が供給されることで荷室の温度を調整可能な温調装置を車両本体に搭載した車両が知られている。こうした車両においては、例えば特許文献1のように、モーターおよび温調装置に対して共通のバッテリーから電力が供給されるとともに、モーターおよび温調装置に対する電力の供給が車両制御装置によって制御される。車両制御装置は、モーターおよび温調装置に対する電力の供給をバッテリーの許容出力以下となる範囲で制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-160613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した車両においては、車両の移動中も温調装置に電力が供給されるため、例えばクレーンなど車両の移動中に使用されることのない装置を搭載した架装車両に比べて、車両の移動中にバッテリーの出力が許容出力に到達する頻度が高い。バッテリーの出力が許容出力に到達すると、モーターへの供給電力の自由度が小さくなるため、車両本体の走行性能が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、走行動力源としてモーターを有する車両本体と車両本体の荷室の温度を調整可能な温調装置を備えた車両において、車両の移動中にバッテリーの出力が許容出力に到達したとしても車両本体の走行性能の低下を抑えることのできる車両制御装置および車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する車両制御装置は、走行動力源としてモーターを有する車両本体と前記車両本体の荷室の温度を調整可能な温調装置とを有する車両に搭載される車両制御装置であって、バッテリーから前記モーターへの供給電力と前記バッテリーから前記温調装置への供給電力とを制御する電力制御部と、前記モーターへの供給電力と前記温調装置への供給電力との合計を前記バッテリーの出力として取得する出力取得部と、を備え、前記電力制御部は、前記バッテリーの許容出力を保持し、前記モーターおよび前記温調装置の双方に電力を供給しているときに前記バッテリーの出力が前記許容出力に到達すると前記温調装置への供給電力を減少させる。
【0007】
上記課題を解決する車両制御方法は、走行動力源としてモーターを有する車両本体と前記車両本体の荷室の温度を調整可能な温調装置とを有する車両の制御方法であって、前記車両は、バッテリーから前記モーターへの供給電力と前記バッテリーから前記温調装置への供給電力とを制御する車両制御装置を備え、前記車両制御装置は、前記モーターへの供給電力と前記温調装置への供給電力との合計を前記バッテリーの出力として取得し、前記モーターおよび前記温調装置の双方に電力を供給しているときに前記バッテリーの出力が前記バッテリーの許容出力に到達すると前記温調装置への供給電力を減少させる。
【0008】
上記構成によれば、バッテリーの出力が許容出力に到達すると温調装置への供給電力が減少する。そのため、温調装置への供給電力の減少分だけモーターへの供給電力の自由度を高めることができる。その結果、走行中にバッテリーの出力が許容出力に到達したとしても車両本体の走行性能の低下を抑えることができる。
【0009】
上記構成の車両制御装置は、前記バッテリーの温度であるバッテリー温度を取得する温度取得部を有し、前記電力制御部は、前記バッテリー温度ごとに前記許容出力が規定されたテーブルを保持し、前記バッテリー温度と前記テーブルとに基づいて前記許容出力を設定してもよい。
【0010】
上記構成によれば、バッテリー温度に応じて許容出力が設定されるため、バッテリーの出力をバッテリー温度に応じた許容出力以下に保持しつつ走行性能の低下を抑えることができる。
【0011】
上記構成の車両制御装置において、前記車両は、走行動力源として前記モーターとエンジンとを有するハイブリッド車両であり、前記車両制御装置は、前記車両の停車時に前記エンジンを停止させるアイドリングストップ機能を有し、前記電力制御部は、前記エンジンの再始動の際に前記温調装置への供給電力を減少させてもよい。
【0012】
上記構成によれば、エンジンの再始動時に温調装置への供給電力が減少することでモーターへの供給電力の自由度を高めることができる。その結果、エンジンの再始動に対するモーターのアシスト量をより確実に確保することができる。
【0013】
上記構成の車両制御装置において、前記電力制御部は、前記エンジンの再始動の開始から通常所要時間だけ経過したときに前記エンジンの再始動が完了していない場合に前記温調装置への供給電力を減少させてもよい。
【0014】
上記構成によれば、エンジンの再始動を開始してから通常所要時間だけ経過してもエンジンの再始動が完了していない場合にだけ温調装置への供給電力が小さくなる。その結果、エンジンの再始動に対するモーターのアシスト量を確保しつつ、温調装置の温調性能が保持されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】車両制御装置の一実施形態を搭載した冷凍車両の概略構成を示す図。
図2】冷凍車両の電気的な構成の一例を示すブロック図。
図3】許容出力テーブルの一例を模式的に示す図。
図4】選択処理の一例を示すフローチャート。
図5】始動処理の一例を示すフローチャート。
図6】(a)比較例におけるバッテリー出力と冷凍車両の走行動力との関係の一例を示す図、(b)実施例におけるバッテリー出力と冷凍車両の走行動力との関係の一例を示す図。
図7】(a)通常所要時間だけ経過する前にエンジンの再始動が完了した場合のバッテリー出力と冷凍機への供給電力の推移の一例を示す図、(b)通常所要時間だけ経過する前にエンジンの再始動が完了しなかった場合のバッテリー出力と冷凍機への供給電力の推移の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図7を参照して車両制御装置および車両制御方法の一実施形態を説明する。
図1に示すように、車両10は、荷台を有する車両本体11と荷台の内部空間である荷室の温度を調整する温調装置として荷室の低温状態に保持する冷凍機60とを有する冷凍車両である。車両本体11は、走行動力源としてエンジン12とモータージェネレーター(以下、M/Gという)13とを備えたハイブリッド車両である。
【0017】
エンジン12の回転軸14とM/G13の回転軸15とは、クラッチ16で断接可能に接続されている。M/G13は、トランスミッション17および駆動軸18などを介して駆動輪19に接続されている。
【0018】
エンジン12は、例えばディーゼルエンジンやガソリンエンジン、ガスエンジンであって、燃料と空気との混合気を燃焼させることにより回転軸14を回転させる。
M/G13は、バッテリー20にインバーター21を介して電気的に接続されている。バッテリー20は、M/G13および冷凍機60のエネルギー源である。バッテリー20は、充放電可能な二次電池であり、互いに電気的に接続された複数のセルで構成されている。M/G13は、バッテリー20に蓄電された電力がインバーター21を介して供給されることで回転軸15および駆動軸18を回転させてエンジン12をアシストするモーターとして機能する。M/G13がモーターとして機能する際に発生させるモータートルクは、トランスミッション17および駆動軸18を介して駆動輪19に伝達される。また、M/G13は、例えばアクセルオフ時における回転軸15の回転を利用して発電した電力をインバーター21を介してバッテリー20に蓄電するジェネレーターとして機能する。
【0019】
トランスミッション17は、M/G13の回転軸15が有するトルクを変速し、その変速したトルクを駆動軸18を介して駆動輪19に伝達する。トランスミッション17は、複数の変速比を設定可能に構成されている。
【0020】
インバーター21は、M/G13をモーターとして機能させる場合、バッテリー20からの直流電圧を三相交流電圧に変換してM/G13に供給する。また、インバーター21は、M/G13をジェネレーターとして機能させる場合、M/G13からの三相交流電圧を直流電圧に変換してバッテリー20に供給し、バッテリー20を充電する。
【0021】
車両10は、アクセル開度センサー31、ブレーキ開度センサー32、エンジン回転数センサー33、車速センサー34、シフトポジションセンサー35、バッテリー出力センサー36、および、バッテリー温度センサー37を有している。
【0022】
アクセル開度センサー31は、ドライバーによるアクセルペダル41の操作量であるアクセル開度を検出する。ブレーキ開度センサー32は、ドライバーによるブレーキペダル42の操作量であるブレーキ開度を検出する。エンジン回転数センサー33は、エンジン12の回転軸14の回転数であるエンジン回転数を検出する。車速センサー34は、駆動軸18の回転数に基づく車速を検出する。シフトポジションセンサー35は、トランスミッション17についての操作を行うシフトレバー43の操作位置であるシフトポジションを検出する。バッテリー出力センサー36は、バッテリー20とインバーター21とを接続する電気回路44に設けられている。バッテリー出力センサー36は、バッテリー20の電圧とバッテリー20の充放電電流とを検出するとともにそれら電圧と充放電電流とに基づいてバッテリー出力Wを検出する。バッテリー温度センサー37は、バッテリー20の温度であるバッテリー温度Tを検出する。各センサー31~37は、検出した値を示す信号を図示されない車載ネットワークを介して、車両10を統括制御する制御装置である車両制御装置50に出力する。
【0023】
また、車両本体11は、ドライバーが操作可能なスイッチの1つとして、アイドリングストップ機能のオン/オフを切り替え可能なISスイッチ45を有している。ISスイッチ45は、ドライバーによってONとOFFとが切り替えられるたびにその操作信号を図示されない車載ネットワークを介して車両制御装置50に出力する。
【0024】
車両制御装置50は、プロセッサ、メモリ51、入力インターフェース、および、出力インターフェース等がバスを介して互いに接続されたマイクロコンピューター等で構成された1つ以上のECU(Electronic Control Unit)を中心に構成される。車両制御装置50は、取得部として各種センサー31~37およびISスイッチ45が出力した各種の情報を取得する。車両制御装置50は、その取得した各種の情報、および、メモリ51に格納された制御プログラムや各種データに基づいて各種の処理を実行することにより車両10を統括的に制御する。
【0025】
冷凍機60は、駆動状態(オン)と休止状態(オフ)とを有する。駆動状態にある冷凍機60は、荷室の温度を目標温度(例えば-18℃)に保持する。冷凍機60は、電気回路44におけるインバーター21とバッテリー出力センサー36との間から分岐した分岐回路61を通じてバッテリー20から電力が供給される。バッテリー出力センサー36は、M/G13への供給電力と冷凍機60への供給電力との合計をバッテリー出力Wとして検出する。冷凍機60は、バッテリー20から電力が供給されることで駆動する図示されないコンプレッサーを有している。冷凍機60は、図示されないコンプレッサーの他、凝縮器や蒸発器を有し、コンプレッサーに圧縮された冷媒が凝縮器で液化され、その液化された冷媒が蒸発器で蒸発する際に熱を奪うことを利用して荷室の温度を低下させる。
【0026】
図2に示すように、冷凍機60は、冷凍機ECU62と冷凍機インバーター63とを有している。冷凍機ECU62は、図示されない車載ネットワークを介して車両制御装置50と電気的に接続されている。冷凍機ECU62は、車両制御装置50から入力される制御信号に基づいて、冷凍機60を駆動状態と休止状態とに切り替える。冷凍機ECU62は、プロセッサ、メモリ、入力インターフェース、および、出力インターフェース等がバスを介して互いに接続されたマイクロコンピューター等で構成される。駆動状態にある冷凍機ECU62は、例えば、荷室の温度を取得するとともに、荷室の温度と目標温度との偏差に基づくフィードバック制御によって冷凍機インバーター63を制御することにより、図示されないコンプレッサーに対する供給電力を制御する。
【0027】
図2図7を参照して車両10の移動中における車両制御装置50の制御についてさらに詳しく説明する。ここでいう「車両の移動中」とは、現在位置から目的地まで到達するまでの車両10の移動を意味しており、通常の走行に加えて例えば信号や渋滞等による停車を含むものである。
【0028】
図2に示すように、車両制御装置50は、ISスイッチ45がON状態にあるときにアイドリングストップ機能を実行可能に構成されている。アイドリングストップ機能において、車両制御装置50は、例えば、アクセル開度、ブレーキ開度、車速、および、バッテリー20の充電率等について設定された停止条件が成立するとエンジン12を停止する。また車両制御装置50は、例えば、アクセル開度、ブレーキ開度、シフトレバー43の操作、バッテリー20の充電率等について設定された再始動条件が成立するとエンジン12を再始動させる。車両制御装置50は、アイドリングストップ機能によるエンジン12の状態に応じて、エンジン12の出力を制御するとともに、電力制御部としてM/G13の出力および冷凍機60のオンオフを制御する。なお、車両制御装置50は、バッテリー出力センサー36からの検出信号に基づくバッテリー20の充放電電流の積算値からバッテリー20の充電率を演算する。
【0029】
(エンジン12が駆動状態にあるとき)
車両制御装置50は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいてドライバーからの要求トルクを演算する。車両制御装置50は、各種センサーの検出値に基づいてエンジン指示トルクを演算し、その演算したエンジン指示トルクと要求トルクとに基づいてモーター指示トルクを設定する。
【0030】
車両制御装置50は、エンジン回転数およびエンジントルクごとにエンジン12の燃焼効率を示す最適マップをメモリ51に保持している。車両制御装置50は、要求トルクを上限値として、その時々のエンジン回転数においてエンジン12の燃焼効率が最も高いエンジントルク、あるいは、燃焼効率が最も高い値に近いエンジントルクをエンジン指示トルクとして演算する。車両制御装置50は、エンジン12の回転軸14に作用するトルクがエンジン指示トルクとなるように燃料噴射量や噴射タイミングなどを制御する。
【0031】
車両制御装置50は、バッテリー出力センサー36の検出信号に基づくバッテリー出力Wが許容出力W1に到達していない場合は、要求トルクからエンジン指示トルクを差し引いた値をモーター指示トルクとして演算する。車両制御装置50は、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達している場合は、前回のモーター指示トルクを上限値として今回のモーター指示トルクを演算する。車両制御装置50は、M/G13の回転軸15に作用するトルクがモーター指示トルクとなるようにインバーター21を制御する。
【0032】
図3に示すように、許容出力W1は、その時々にバッテリー20が出力可能な電力である。車両制御装置50は、バッテリー温度Tに応じたバッテリー20の許容出力W1が規定された許容出力テーブル52をメモリ51の所定領域に有している。許容出力テーブル52には、最低動作温度Tminと最高動作温度Tmaxとの間のバッテリー温度Tに応じて変化する値が許容出力W1として規定されている。具体的に、許容出力W1は、最低動作温度Tminに対応する許容出力W11からバッテリー温度Tの上昇とともに増加し、やがて最大許容出力W12に到達する。そして許容出力W1は、最大許容出力W12に保持されたのち、最高動作温度Tmaxにてほぼ0となるように変化する。車両制御装置50は、バッテリー温度センサー37から取得したバッテリー温度Tを許容出力テーブル52に適用してバッテリー温度Tに応じた許容出力W1を取得する。
【0033】
図4に示すように、エンジン12が駆動状態にあるとき、車両制御装置50は、冷凍機60の制御方法を選択する選択処理を繰り返し実行する。
選択処理において、車両制御装置50は、バッテリー温度センサー37の検出信号に基づいてバッテリー温度Tを取得する(ステップS101)。車両制御装置50は、取得したバッテリー温度Tを許容出力テーブル52に適用することにより、バッテリー温度Tに応じたバッテリー20の許容出力W1を取得する(ステップS102)。
【0034】
車両制御装置50は、バッテリー出力センサー36の検出信号に基づいてバッテリー出力Wを取得し、その取得したバッテリー出力WがステップS102で選択した許容出力W1に到達しているか否かを判断する(ステップS103)。バッテリー出力Wが許容出力W1に到達していない場合(ステップS103:YES)、車両制御装置50は、冷凍機60を駆動状態(オン)に制御する駆動信号を冷凍機ECU62に出力し(ステップS104)、一連の処理を一旦終了する。駆動信号が入力された冷凍機ECU62は、荷室の温度が目標温度となるように冷凍機インバーター63を駆動する。
【0035】
バッテリー出力Wが許容出力W1に到達している場合(ステップS103:NO)、車両制御装置50は、冷凍機60を休止状態(オフ)に制御する休止信号を冷凍機ECU62に出力し(ステップS105)、一連の処理を一旦終了する。
【0036】
休止信号が入力された冷凍機ECU62は、冷凍機インバーター63を制御してバッテリー20から冷凍機60への電力の供給を遮断し、冷凍機60を休止状態に制御する。これにより、バッテリー20から冷凍機60への供給電力の分だけバッテリー出力Wが低下するため、その低下した分だけM/G13に供給可能な電力量が増えることとなる。
【0037】
なお、休止信号が入力された冷凍機ECU62は、予め定めた一定時間だけ冷凍機60を休止状態に制御する構成であってもよい。この場合、一定時間は、予め行った実験の結果やシミュレーションの結果に基づいて、一定時間経過後に冷凍機60による荷室の温度制御が再開されたとしてもバッテリー出力Wが許容出力W1を上回る可能性が低い時間に設定されるとよい。また、車両制御装置50は、一定時間が経過するまで選択処理の実行を待機するとよい。こうした構成によれば、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達すると一定時間だけ冷凍機60が休止されるため、簡易な制御構成のもとでM/G13に対する供給電力の自由度を高めることができる。
【0038】
また、休止信号が入力された冷凍機ECU62は、車両制御装置50から駆動信号が入力されるまで冷凍機60を休止状態に制御する構成であってもよい。こうした場合、車両制御装置50は、バッテリー20の許容出力W1とバッテリー出力センサー36の検出信号に基づくバッテリー出力Wとの差分が所定の電力に到達したときに駆動信号を出力する構成であるとよい。所定の電力としては、例えば、冷凍機60の全開駆動に必要な電力が挙げられる。また、一時的な冷凍機60の停止が荷室の温度低下に与える影響は、荷室の温度が安定しているほど、すなわち冷凍機60による温調期間が長いほど限定的となる。そのため、所定の電力は、直前における温調期間が長いほど、すなわち再駆動時に荷室を目標温度に制御するうえで必要となる電力が小さいほど小さくなる構成であってもよい。こうした構成によれば、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達すると、再駆動時に必要とされる電力に応じて冷凍機60が休止されるため、冷凍機60の再駆動時に必要な電力量を考慮しつつ、M/G13に対する供給電力の自由度を高めることができる。
【0039】
(エンジン12が停止状態にあるとき)
エンジン12が停止状態にあるとき、車両制御装置50は、M/G13に対する電力の供給を遮断するとともに冷凍機60を駆動状態に制御する。
【0040】
(エンジン12の再始動時)
エンジン12の再始動時、車両制御装置50は、クラッチ16を接続状態に制御するとともにエンジン12の始動処理を実行する。
【0041】
図5に示すように、始動処理において、車両制御装置50は、バッテリー温度センサー37の検出信号に基づいてバッテリー温度Tを取得する(ステップS201)。車両制御装置50は、取得したバッテリー温度Tを許容出力テーブル52に適用することにより、バッテリー温度Tに応じたバッテリー20の許容出力W1を取得する(ステップS202)。そして車両制御装置50は、M/G13に対する電力の供給を開始し、バッテリー出力Wが許容出力W1以下となる範囲でM/G13に対する供給電力を制御する。
【0042】
次のステップS203において、車両制御装置50は、始動処理の開始から通常所要時間Aだけ経過したか否かを判断する。通常所要時間Aは、エンジン12の再始動が円滑に完了する場合に要する時間である。車両制御装置50は、メモリ51の所定領域に通常所要時間Aを保持している。車両制御装置50は、例えば、エンジン回転数がアイドリング回転数に到達したことを条件としてエンジン12の始動が完了したと判断する。
【0043】
車両制御装置50は、エンジン12の再始動の開始から通常所要時間だけ経過したときにエンジン12の再始動が完了していない場合(ステップS203:YES)、冷凍機60に休止信号を出力して冷凍機60を休止状態に制御する。その後、車両制御装置50は、エンジン12の再始動の完了を検知すると(ステップS205)、冷凍機60に駆動信号を出力して冷凍機60を駆動状態に制御し(ステップS206)、始動処理を終了する。
【0044】
一方、車両制御装置50は、エンジン12の再始動の開始から通常所要時間だけ経過する前にエンジン12の再始動を検知した場合(ステップS203:NO)、そのまま始動処理を終了する。このとき、冷凍機60は、駆動状態に維持される。
【0045】
(作用)
図6および図7を参照して上述した車両制御装置50の作用について説明する。
図6(a)および図6(b)は、エンジン12が駆動状態にあるときのバッテリー出力W、冷凍機60への供給電力Wf、および、車両10の走行動力Pの推移の一例を示す図である。図6(a)は、上述した車両10において、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達した場合に冷凍機60の駆動状態を維持することを条件として行ったシミュレーションの結果の一例を示している。図6(b)は、上述した車両10において、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達した場合に冷凍機60を休止状態に制御することを条件として行ったシミュレーションの結果の一例を示している。なお、走行動力Pとは、エンジン12の出力とM/G13の出力との合計値である。
【0046】
図6(a)に示す場合では、走行動力Pが大きくなり、時刻t1においてバッテリー出力Wが許容出力W1に到達しても冷凍機60が駆動状態に維持されるため、モーター出力を増大させることができない。そのため、要求トルクを満足するために必要な必要動力P1まで走行動力Pを増大させることができず、走行性能が低下することとなる。
【0047】
一方、図6(b)に示す場合では、時刻t1においてバッテリー出力Wが許容出力W1に到達すると冷凍機60が休止状態に制御されるため、冷凍機60に供給されていた電力の分だけモーター出力を増大させることができる。そのため、要求トルクを満足するために必要動力P1まで走行動力Pを増大させることが可能となり、走行性能の低下を抑えることができる。その後、時刻t2において、走行動力Pが低下することにともなってバッテリー出力Wに余裕ができると冷凍機60が駆動状態に制御される。
【0048】
図7(a)および図7(b)は、エンジン12の再始動時におけるバッテリー出力Wと冷凍機60への供給電力Wfの推移の一例を示す図である。図7(a)はエンジン12の再始動が通常所要時間内に完了した場合の一例を示し、図7(b)は、エンジン12の再始動が通常所要時間だけ経過しても完了しなかった場合の一例を示している。
【0049】
図7(a)に示すように、時刻t6においてエンジン12の再始動が開始され、通常所要時間Aだけ経過する時刻t8よりも前にエンジン12の再始動に必要とされる必要出力W2までバッテリー出力Wが上昇する。これにより、時刻t8よりも前の時刻t7においてエンジン12の再始動の完了が検知される。この場合、冷凍機60は、休止状態に制御されることなく駆動状態に維持される。なお、バッテリー出力Wは、許容出力W1(>W2)まで上昇するように制御されてもよい。
【0050】
図7(b)に示すように、時刻t6においてエンジン12の再始動が開始され、通常所要時間Aだけ経過した時刻t8においてエンジン12の再始動が完了していない場合、冷凍機60が一旦休止状態に制御される。これにより、バッテリー出力Wについての自由度および応答性が高くなり、エンジン12の再始動に必要とされる必要出力W2までバッテリー出力Wが上昇するまでに要する時間が短縮される。その後、エンジン12の再始動の完了が時刻t9で検知されると、冷凍機60は駆動状態に制御される。
【0051】
本実施形態の効果について説明する。
(1)車両制御装置50は、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達すると冷凍機60への供給電力を減少させる。こうした構成によれば、冷凍機60への供給電力の減少分だけM/G13への供給電力の自由度が高められる。その結果、走行中にバッテリー出力Wが許容出力W1に到達したとしても車両10の走行性能の低下を抑えることができる。
【0052】
(2)車両制御装置50は、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達すると冷凍機60への供給電力を遮断する。こうした構成によれば、M/G13への供給電力の自由度がさらに高まるとともに、バッテリー出力Wの余力が大きくなることでバッテリー20の出力の応答性も高めることができる。
【0053】
(3)許容出力W1が一定値である場合、その値は、バッテリー温度Tに基づく許容出力のうちで最も小さい値に設定する必要がある。この点、車両制御装置50は、バッテリー温度Tに応じた許容出力W1を設定する。こうした構成によれば、冷凍機60が休止状態に制御される頻度が少なくなり、車両本体11の走行性能の低下を抑えつつ冷凍機60による温調性能の低下も抑えることができる。
【0054】
(4)車両制御装置50は、エンジン12の再始動時に冷凍機60への供給電力を減少可能に構成されている。こうした構成によれば、M/G13への供給電力についての自由度が高まることから、エンジン12の再始動に対するM/G13のアシスト量をより確実に確保することができる。
【0055】
(5)車両制御装置50は、エンジン12の始動から通常所要時間Aだけ経過したときにエンジン12の始動が完了していない場合に冷凍機60への供給電力を停止する。こうした構成によれば、バッテリー出力Wについての自由度および応答性が高くなり、エンジン12の再始動に必要とされる必要出力W2までバッテリー出力Wが上昇するまでに要する時間を短縮することができる。また、冷凍機60が過度に休止されることがなくなり、冷凍機60の温調性能が保持されやすくなる。
【0056】
(6)車両10の移動中、M/G13によるエンジン12のアシストが行われることでクラッチ16に対する機械的な負荷が低減される。その結果、機械的な負荷に起因するクラッチ16の劣化を抑えることができる。
【0057】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・車両制御装置50は、エンジン12の再始動時に冷凍機60を常に駆動状態に維持する構成であってもよい。こうした構成であっても、エンジン12の再始動に要する時間が長くなるだけでエンジン12が再始動できないということはない。
【0058】
・車両制御装置50は、エンジン12の再始動時に常に冷凍機60を休止状態に制御する構成であってもよい。
・車両制御装置50は、エンジン12の再始動時に冷凍機60を休止する構成に限らず、冷凍機60への供給電力を減少させる構成であってもよい。
【0059】
・車両制御装置50は、バッテリー20の許容出力W1を一定値として保持していてもよい。この場合の許容出力W1は、バッテリー20の許容出力のうちで最も小さい値に設定される。
【0060】
・車両制御装置50は、バッテリー出力Wが許容出力W1に到達した場合に冷凍機60を休止する構成に限らず、冷凍機60に対する供給電力を減少させる構成であればよい。
・冷凍機60の休止状態には、冷凍機60に僅かに電力が供給される構成が含まれていてもよい。
【0061】
・バッテリー20の許容出力W1は、バッテリー温度Tだけでなくバッテリー20の充電率に依存する値であってもよい。こうした構成において、メモリ51には、バッテリー温度Tおよびバッテリー20の充電率ごとに許容出力W1が規定された許容出力マップが格納される。この許容出力W1は、同じバッテリー温度Tであれば充電率が高くなるほど大きな値が許容出力W1として規定される。
【0062】
・車両は、走行動力源としてM/G13のみを有する電動車両であってもよい。
・温調装置は、荷室を一定の温度の保持できるものであればよい。そのため、温調装置は、冷凍機60に限らず、荷室の温度を例えば25℃程度に保持する空調機であってもよいし、荷室に貯留した液体を一定の温度に保持する温度調整機でもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…車両、11…車両本体、12…エンジン、13…モータージェネレーター、14,15…回転軸、16…クラッチ、17…トランスミッション、18…駆動軸、19…駆動輪、20…バッテリー、21…インバーター、31…アクセル開度センサー、32…ブレーキ開度センサー、33…エンジン回転数センサー、34…車速センサー、35…シフトポジションセンサー、36…バッテリー出力センサー、37…バッテリー温度センサー、41…アクセルペダル、42…ブレーキペダル、43…シフトレバー、44…電気回路、45…ISスイッチ、50…車両制御装置、51…メモリ、52…許容出力テーブル、60…冷凍機、61…分岐回路、62…冷凍機ECU、63…冷凍機インバーター。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7