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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/08 20060101AFI20231017BHJP
   B60R 21/05 20060101ALI20231017BHJP
   B62D 1/11 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B60R21/08 A
B60R21/05
B60R21/08 B
B62D1/11
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019130316
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014203
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 征幸
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-516605(JP,A)
【文献】特開2005-145179(JP,A)
【文献】特開2010-202121(JP,A)
【文献】特開2004-034827(JP,A)
【文献】特開平10-264748(JP,A)
【文献】特開昭60-248453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00-21/38
B62D 1/00- 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭乗している乗員を保護する乗員保護装置であって、
前記車両に対して固定されたベース部と、
初期位置である第1の位置と、前記乗員に慣性力が作用した際の該乗員の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能な作用部であって、前記ベース部に接続された作用部と、
前記作用部を前記第1の位置から前記第2の位置に移動させる移動制御を実行する制御部と、
を、備え、
前記作用部は、前記第1の位置から前記2の位置に移動した後に該第1の位置に戻すことで繰り返し前記移動制御によって該第1の位置から該第2の位置に移動することが可能であり、
前記乗員保護装置は、前記作用部が前記第2の位置に移動した際に、該作用部に対する前記乗員への衝突衝撃を緩和する緩和手段を更に備え、
前記作用部は、前記第2の位置に移動した場合に前記乗員と対向する位置に取り付けられたエアバッグを有しており、
前記乗員保護装置は、前記エアバッグにガスを供給するガス発生器を更に備え、
前記制御部は、前記移動制御を実行する際に前記ガス発生器を作動させて前記エアバッグにガスを供給し、
前記制御部は、前記第2の位置における前記作用部と前記乗員との距離が所定距離未満であると判定した場合には、前記移動制御を実行する際に前記ガス発生器を作動させない、
乗員保護装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両の急減速又は前記乗員に前記慣性力が作用して該乗員が動いたことを示す情報を取得した場合に、前記移動制御を実行する、
請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記作用部は、前記第2の位置で前記乗員の体の一部を受け止めることで該乗員の動きを抑制し、
前記緩和手段は、前記作用部が前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員に対して
作用する前記慣性力に対する反力を軽減させる、
請求項1又は請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
車両に搭乗している乗員を保護する乗員保護装置であって、
前記車両に対して固定されたベース部と、
初期位置である第1の位置と、前記乗員に慣性力が作用した際の該乗員の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能な作用部であって、前記ベース部に接続された作用部と、
前記作用部を前記第1の位置から前記第2の位置に移動させる移動制御を実行する制御部と、
を、備え、
前記作用部は、前記第1の位置から前記第2の位置に移動した後に該第1の位置に戻すことで繰り返し前記移動制御によって該第1の位置から該第2の位置に移動することが可能であり、
前記乗員保護装置は、前記作用部が前記第2の位置に移動した際に、該作用部に対する前記乗員への衝突衝撃を緩和する緩和手段を更に備え、
前記作用部は、前記第2の位置で前記乗員の体の一部を受け止めることで該乗員の動きを抑制し、
前記緩和手段は、前記作用部が前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員に対して作用する前記慣性力に対する反力を軽減させ、
前記制御部は、前記車両の速度や前記乗員の体重、又は前記慣性力が作用した場合の前記作用部に向かう前記乗員の速度に応じて前記緩和手段による前記反力の調整を制御する
員保護装置。
【請求項5】
前記作用部は、弾性部材で形成され、前記第2の位置で前記乗員の体の一部を受け止める受止部を有し、
前記緩和手段は、前記受止部が前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員の運動エネルギーを吸収することで、前記反力を軽減させる、
請求項又は請求項に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
車両に搭乗している乗員を保護する乗員保護装置であって、
前記車両に対して固定されたベース部と、
初期位置である第1の位置と、前記乗員に慣性力が作用した際の該乗員の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能な作用部であって、前記ベース部に接続された作用部と、
前記作用部を前記第1の位置から前記第2の位置に移動させる移動制御を実行する制御部と、
を、備え、
前記作用部は、前記第1の位置から前記第2の位置に移動した後に該第1の位置に戻すことで繰り返し前記移動制御によって該第1の位置から該第2の位置に移動することが可能であり、
前記乗員保護装置は、前記作用部が前記第2の位置に移動した際に、該作用部に対する前記乗員への衝突衝撃を緩和する緩和手段を更に備え、
前記作用部は、前記第2の位置で前記乗員の体の一部を受け止めることで該乗員の動きを抑制し、
前記緩和手段は、前記作用部が前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員に対して作用する前記慣性力に対する反力を軽減させ、
前記作用部は、ステアリングホイールであり、
前記乗員保護装置は、前記ステアリングホイールと前記ベース部を接続するステアリン
グシャフトを更に備え、
前記緩和手段は、前記ステアリングホイールが前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員の運動エネルギーを前記ステアリングシャフトに作用させる際にその抵抗力を調整することで、前記反力を軽減させる
員保護装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記車両に搭載されたセンサが検出した該車両の環境情報に基づいて該車両が障害物への衝突が予測されると判断された場合に、障害物への衝突前に前記移動制御を実行する、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭乗している乗員を保護する乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭乗している乗員を保護するための技術が知られている。例えば、特許文献1には、乗員がステアリングホイールに衝突した際に乗員に対して作用する反力を軽減させることで当該乗員を保護するエネルギー貯蔵装置が記載されている。このエネルギー貯蔵装置は、ステアリングシャフトの軸方向前側に力が加わった際に、当該力に抗する力の大きさを調整することによって乗員に対して作用する反力を軽減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第7188867号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両が急減速等して乗員に慣性力が作用した際に、ステアリングホイールやその他の車両内の構造物等に乗員が衝突する場合には慣性力によって乗員に加速度が生じ、乗員が初速度よりも大きい速度で構造物等に衝突してしまう虞がある。乗員が相対的に大きい速度で車両内の構造物に衝突すると、衝突の際に乗員に作用する反力も大きくなり、乗員を保護できない虞がある。
【0005】
本明細書では、上記した問題に鑑み、乗員を保護しつつ、繰り返し使用可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本明細書で開示する実施形態は、初期位置である第1の位置と、乗員に慣性力が作用した際の乗員の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能な作用部を採用した。このような作用部によって、乗員の動きを第2の位置で抑制することができ、乗員の拘束及び保護が可能となる。
【0007】
具体的には、本実施形態は、車両に搭乗している乗員を保護する乗員保護装置であって、前記車両に対して固定されたベース部と、初期位置である第1の位置と、前記乗員に慣性力が作用した際の該乗員の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能な作用部であって、前記ベース部に接続された作用部と、前記作用部を前記第1の位置から前記第2の位置に移動させる移動制御を実行する制御部と、を、備え、前記作用部は、前記第1の位置から前記2の位置に移動した後に該第1の位置に戻すことで繰り返し前記移動制御によって該第1の位置から該第2の位置に移動することが可能である。前記乗員保護装置は、前記作用部が前記第2の位置に移動した際に、該作用部に対する前記乗員への衝突衝撃を緩和する緩和手段を更に備える。
【0008】
本実施形態の乗員保護装置は、第2の位置に移動させた作用部により乗員に慣性力が作用した際の該乗員の動きを抑制する。これにより、乗員保護装置は、乗員が車両内の構造物に衝突するのを防ぎつつ、慣性力が作用した際の乗員の移動速度が相対的に小さい第2の位置で当該乗員の動きを抑制できるので、乗員を好適に保護できる。更に、乗員保護装置は、作用部が乗員の動きを抑制する際に、該作用部に対する前記乗員への衝突衝撃を緩和する緩和手段を備える。これにより、乗員保護装置は、乗員の作用部に対する衝突衝撃
を小さくすることができ、乗員をより確実に保護できる。
【0009】
上記の乗員保護装置において、前記制御部は、前記車両の急減速又は前記乗員に前記慣性力が作用して該乗員が動いたことを示す情報を取得した場合に、前記移動制御を実行してもよい。このように、制御部が、車両の急減速が検出された場合や、乗員に慣性力が作用して乗員が動いたことが検出された場合のいずれかで移動制御を実行することで、乗員保護装置は乗員を保護できる。
【0010】
上記の乗員保護装置において、前記作用部は、前記第2の位置に移動した場合に前記乗員と対向する位置に取り付けられたエアバッグを有してもよく、前記乗員保護装置は、前記エアバッグにガスを供給するガス発生器を更に備えてもよく、前記制御部は、前記移動制御を実行する際に前記ガス発生器を作動させて前記エアバッグにガスを供給してもよい。このように、制御部は、作用部の移動制御を実行する際にガス発生器を作動させてエアバッグを展開させてもよい。乗員保護装置によれば、作用部が乗員に第1の位置よりも接近した第2の位置でエアバッグを展開させることができるため、エアバッグの容量が小さくてよく、エアバッグ及びガス発生器を含むエアバッグ装置を小型化できる。
【0011】
上記の乗員保護装置において、前記制御部は、前記第2の位置における前記作用部と前記乗員との距離が所定距離未満であると判定した場合には、前記移動制御を実行する際に前記ガス発生器を作動させなくてもよい。これは、作用部と乗員との距離が所定距離未満である場合にはエアバッグを展開させると乗員にとって危険な場合も想定されるからである。乗員保護装置1このような場合にエアバッグを展開させないようにして乗員を適切に保護できる。
【0012】
上記の乗員保護装置において、前記作用部は、前記第2の位置で前記乗員の体の一部を受け止めることで該乗員の動きを抑制してもよく、前記緩和手段は、前記作用部が前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員に対して作用する前記慣性力に対する反力を軽減させてもよい。ここで、作用部が受け止める乗員の体の一部として頭部が挙げられるが、乗員保護装置がこれに限られず、作用部は乗員の胸部、腹部、腕部、脚部等を受け止めるように配置されていてもよい。
【0013】
上記の乗員保護装置において、前記制御部は、前記車両の速度や前記乗員の体重、又は前記慣性力が作用した場合の前記作用部に向かう前記乗員の速度に応じて前記緩和手段による前記反力の調整を制御してもよい。
【0014】
上記の乗員保護装置において、前記作用部は、弾性部材で形成され、前記第2の位置で前記乗員の体の一部を受け止める受止部を有してもよく、前記緩和手段は、前記受止部が前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員の運動エネルギーを吸収することで、前記反力を軽減させてもよい。
【0015】
上記の乗員保護装置において、前記作用部は、ステアリングホイールであってもよく、、前記乗員保護装置は、前記ステアリングホイールと前記ベース部を接続するステアリングシャフトを更に備えていてもよく、前記緩和手段は、前記ステアリングホイールが前記乗員の体の一部を受け止める際に、該乗員の運動エネルギーを前記ステアリングシャフトに作用させる際にその抵抗力を調整することで、前記反力を軽減させてもよい。
【0016】
上記の乗員保護装置において、前記制御部は、前記車両に搭載されたセンサが検出した該車両の環境情報に基づいて該車両が障害物への衝突が予測されると判断された場合に、障害物への衝突前に前記移動制御を実行してもよい。このように、乗員保護装置は、車両が障害物に衝突することが予測された場合に移動制御を実行してもよい。これにより、乗員保護装置は、車両の衝突や急減速によって乗員に慣性力が作用する前に移動制御を実行することができるので、乗員が慣性力によって動き始める前に作用部を第2の位置に移動させておくことができる。これにより、乗員保護装置は、乗員の初速度が相対的に小さいうちに作用部で乗員の動きを抑制できるので、乗員が作用部から受ける反力を相対的に小さくすることができ、以て乗員を好適に保護できる。
【発明の効果】
【0017】
本明細書に開示の実施形態によれば、乗員を保護しつつ、繰り返し使用可能とできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態に係る乗員保護装置を示す第1の図である。
図2】第1の実施形態に係る乗員保護装置を示す第2の図である。
図3】第1の実施形態に係る乗員保護装置を示す第3の図である。
図4】乗員保護装置のブロック図である。
図5】乗員保護装置の制御部が実行する処理に関するフローチャートである。
図6】第2の実施形態に係る乗員保護装置を示す第1の図である。
図7】第2の実施形態に係る乗員保護装置を示す第2の図である。
図8】第2の実施形態の変形例2-1に係る乗員保護装置を示す図である。
図9】第2の実施形態の変形例2-2に係る乗員保護装置を示す図である。
図10】第3の実施形態に係る乗員保護装置を示す図である。
図11】第4の実施形態に係る乗員保護装置を示す第1の図である。
図12】第4の実施形態に係る乗員保護装置を示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る乗員保護装置について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施形態の構成に限定されるものではない。
【0020】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る乗員保護装置について説明する。当該乗員保護装置は、自動車等の車両に搭乗している乗員を保護するために車両に搭載される。なお、以下では、当該乗員に対して相対的に車両の前側を「前」や「前側」や「前方」と称し、相対的に車両の後側を「後」や「後側」や「後方」と称し、後側から前側に向かって相対的に左側を「左」や「左側」や「左方」と称し、後側から前側に向かって相対的に右側を「右」や「右側」や「右方」と称する。
【0021】
図1(a)は、車両の上方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図であり、図1(b)は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図である。図1(a)及び図1(b)において乗員200は、車両内に設けられたシート201に着席した状態で車両に搭乗している。なお、シート201は、着席した乗員200が車両の前方を向くように車両内に配置されている。また、シート201は、乗員200の下腹部を拘束するシートベルト202を有している。乗員200は、シートベルト202によって自己の下腹部がシート201に対して拘束されている。なお、シートベルト202は、乗員の下腹部だけでなく、乗員の上半身を拘束する構成でもよい。
【0022】
図1(a)に示すように、乗員保護装置1は、車両に対して固定されたベース部2を備える。ベース部2は、車両を構成する構造物(例えば、ボディやフレーム)に対して固定されている。本実施形態では、ベース部2は、車両のボディの天井部に対して固定され、車両の前後方向に延伸する一対の左側ベース2a及び右側ベース2bを有する。左側ベース2a及び右側ベース2bは一般的な成人の肩幅程度の間隔(約40cm)を設けて対向
配置されている。
【0023】
また、乗員保護装置1は、作用部3を備える。作用部3は、慣性力が作用した際の乗員200の動きを抑制するために設けられている。作用部3は、左側ベース2aに対して摺動可能に取り付けられた摺動部4aと、右側ベース2bを摺動可能に取り付けられた摺動部4bとを介してベース部2に接続されている。摺動部4aは、左側ベース2aに設けられた案内溝(不図示)に案内されて左側ベース2aに沿って図1(a)及び図1(b)に示す状態から前方向に摺動可能である。同様に、摺動部4bは、右側ベース2bに設けられた案内溝(不図示)に案内されて右側ベース2bに沿って図1(a)及び図1(b)に示す状態から前方向に摺動可能である。なお、左側ベース2a、右側ベース2bの後端部よりも摺動部4a、4bが摺動しないように、左側ベース2a、右側ベース2bの案内溝には止め部(不図示)が設けられている。摺動部4a、4bは、乗員保護装置1の作動前において、各後端部が左側ベース2a、右側ベース2bの後端と一致する位置で静止するように、弾性部材等で後方に付勢されている。
【0024】
作用部3は、摺動部4a、4bにヒンジ5を介して接続されており、ヒンジ5を中心として回動移動が可能である。図1(a)及び図1(b)に示す状態において、作用部3は、初期位置である第1の位置に位置している。第1の位置は、乗員保護装置1の作動前における作用部3の収納位置である。作用部3は、留め具(不図示)によってその前側端部が摺動部4a、4bに対して固定されており、作動前の状態において重力等により第2の位置(例えば、図2(a)及び図2(b)参照)に回動移動しないように第1の位置で固定されている。乗員保護装置1は、作動時において、例えばソレノイド等によって作用部3を第1の位置に固定する留め具を動かして当該留め具を作用部3から外すことで作用部3が第2の位置に移動できるようにする。
【0025】
また、作用部3は、第1の位置と、乗員200に慣性力が作用した際の乗員200の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能である。更に、作用部3は、第1の位置から第2の位置に移動した後に第1の位置に戻すことで繰り返し第1の位置から第2の位置に移動することが可能である。本実施形態では、作用部3が第1の位置と第2の位置とで往復移動可能なようにベース部2に接続されている。
【0026】
また、図1(b)に示すように、作用部3は、乗員200に慣性力が作用した際の乗員200を受け止める受止部3aと、受止部3aを摺動部4a、4bに接続する枠部3bを有する。受止部3aは、弾性部材で形成され、乗員の体の一部(本実施形態では頭部)を受け止める。受止部3aに用いられる弾性部材としては、例えば、網、布、樹脂等が挙げられる。なお、受止部3aには塑性変形する樹脂が用いられていてもよい。受止部3aは、その左右端側に配置された枠部3bに取り付けられており、左側の枠部3bが左側のヒンジ5を介して摺動部4aに接続されており、右側の枠部3b(不図示)が右側のヒンジ5を介して摺動部4bに接続されている。
【0027】
乗員保護装置1は、作用部3が第2の位置に移動した際に、作用部3に対する乗員200への衝突衝撃を緩和するダンパ装置6(「緩和手段」の一例)を更に備える。ダンパ装置6は、摺動部4a、4bよりも前側で左側ベース2a及び右側ベース2bの各々に固定されており、摺動部4a、4bが前方に摺動する際の運動エネルギーを吸収する。なお、ダンパ装置6は、摺動部4a、4bと左側ベース2a及び右側ベース2bの各間に介在する様に配置されていてもよい。ダンパ装置6は、乗員200に慣性力が作用し、乗員200が作用部3に衝突して作用部3及び摺動部4a、4bが前方に摺動させる乗員200の運動エネルギーを吸収することで、作用部3が乗員200の体の一部を受け止める際に、乗員200に対して作用する慣性力に対する反力を軽減させる。なお、緩和手段は、運動エネルギーを吸収することで当該反力を軽減させることができればよく、ばね等の弾性部
材が用いられてもよい。
【0028】
図2(a)及び図2(b)は、作用部3が第2の位置に移動した状態を示す模式図である。図2(a)は、車両の上方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図であり、図2(b)は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図である。
【0029】
乗員保護装置1は、車両の急減速又は乗員200に慣性力が作用して乗員200が動いたことを示す信号を検出した場合に、作用部3を第1の位置から第2の位置に移動させる移動制御を実行する。この移動制御の詳細については後述する。なお、図2(b)中、矢印arは、作用部3がヒンジ5を中心として第1の位置から第2の位置に回動移動したことを表してる。図2(a)及び図2(b)に示す状態において、作用部3は、乗員200に慣性力が作用した際の乗員200の動きを抑制するための第2の位置に位置している。本実施の形態において、第2の位置は、作用部3の受止部3aとシート201に着席している乗員200との間で所定の隙間が設けられている。なお、第2の位置は、受止部3aとシート201に着席している乗員200とが接する位置であってもよい。
【0030】
また、図2(b)に示すように、乗員保護装置1は、第2の位置に移動した作用部3を支える支持棒7を備えていてもよい。乗員保護装置1は、作用部3の左側の枠部3bと摺動部4aとを繋ぐ支持棒7と、作用部3の右側の枠部と摺動部4bとを繋ぐ支持棒(不図示)と、を備えている。
【0031】
図3(a)及び図3(b)は、乗員200に慣性力F1(図3(b)において図示省略)が作用した状態を示している。図3(a)は、車両の上方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図であり、図3(b)は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図である。
【0032】
図3(a)及び図3(b)において、作用部3の受止部3aは乗員200の頭部を受け止めている。本実施形態に係る乗員保護装置1は、乗員200に慣性力F1が作用する際に作用部3を第2の位置に移動させておくことで、乗員200の動きを抑制することができる。また、乗員200に慣性力F1が作用し、乗員200が受止部3aに衝突して作用部3及び摺動部4a、4bが前方に摺動している。ダンパ装置6は、受止部3aが乗員200の頭部を受け止める際に、乗員200の運動エネルギーを吸収することで、乗員200に対して作用する慣性力F1に対する反力を軽減させる。これにより、本実施形態に係る乗員保護装置1は、乗員を保護できる。
【0033】
次に、上述した乗員保護装置1による作用部3の移動制御について、図4及び図5に基づいて説明する。図4は、乗員保護装置1のブロック図である。本実施形態において、乗員保護装置1が搭載された車両100は上述のシート201が4台配置されており、乗員保護装置1はシート201毎に配置されている。図4には4台の乗員保護装置1が示されており、そのうちの1台の乗員保護装置1について代表的にその機能部を示している。乗員保護装置1は、制御部10を有する。制御部10は、例えば、マイクロコンピュータによって構成されており、記憶手段(ROM(Read Only Memory)等であり不図示)に記憶されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)(不図示)によって実行させる
ことで各処理を実行する。
【0034】
更に、図4には、車両100に搭載されたセンサ101、位置情報取得部102、走行制御部103、走行駆動部104も示されている。先ず、これらの車両100に関連する構成について説明する。車両100は、その周囲をセンシングしながら自律走行として適切な方法で道路上を走行する自動運転が可能である。なお、車両100は、搭乗者による手動運転も勿論可能である。センサ101は、車両100の自律走行に必要な情報を取得
するために車両100の周囲のセンシングを行う手段であり、典型的にはステレオカメラ、レーザスキャナ、LIDAR、レーダなどを含んで構成される。センサ101が取得した情報は、走行制御部103に送信され、車両100の周囲に存在する障害物や歩行者や走行レーンの認識等のために走行制御部103によって利用される。本実施形態では、センサ101は、監視を行うための可視光カメラや赤外線カメラを含んでもよい。また、位置情報取得部102は、車両100の現在位置を取得する手段であり、典型的にはGPS受信器などを含んで構成される。位置情報取得部102が取得した情報も走行制御部103に送信され、例えば、車両100の現在位置を利用して車両100が目的地に到達するためのルートの算出や、当該目的地への到達に要する所要時間の算出等の所定処理に利用される。
【0035】
走行制御部103は、センサ101や位置情報取得部102から取得した情報に基づいて、車両100の制御を行うコンピュータである。走行制御部103は、例えば、マイクロコンピュータによって構成されており、記憶手段(ROM(Read Only Memory)等であり不図示)に記憶されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)(不図示)に
よって実行させることで上記した各種処理を行うための機能が実現される。
【0036】
走行制御部103による各種処理の具体例として、車両100の走行計画の生成処理、センサ101が取得したデータに基づいた、自律走行に必要な車両100の周囲の所定データの検出処理、走行計画、所定データ、位置情報取得部102が取得した車両100の位置情報に基づいた、自律的な走行を制御するための制御指令の生成処理等が例示できる。走行計画の生成処理とは、出発地から目的地に到達するための走行経路を決定する処理である。また、所定データの検出処理は、例えば、車線の数や位置、車両100の周囲に存在する他の車両の数や位置、車両100の周囲に存在する障害物(例えば歩行者、自転車、構造物、建築物など)の数や位置、道路の構造、道路標識などを検出する処理である。また、上記制御指令は、後述の走行駆動部104へ送信される。車両100を自律走行させるための制御指令の生成方法については、公知の方法を採用することができる。
【0037】
走行駆動部104は、走行制御部103が生成した制御指令に基づいて、車両100を走行させる手段である。走行駆動部104は、例えば、車輪を駆動するためのモータ、エンジンやインバータ、ブレーキ、ステアリング機構等を含んで構成され、制御指令に従ってモータやブレーキ等が駆動されることで、車両100の自律走行が実現される。
【0038】
次いで、図5に基づいて、移動制御の詳細について説明する。図5は、制御部10が行う処理に関するフローチャートである。なお、この処理は、制御部10により所定の間隔で繰り返し実行される。先ず、S101では、制御部10は、各種情報を取得する。各種情報は、走行制御部103から送信される。
【0039】
次に、S102では、制御部10は、移動制御が必要であるか否かを判定する。制御部10は、S101で取得した各種情報に、車両100が急減速されたことを示す情報が含まれていると判定すると、移動制御が必要であると判定する。
【0040】
制御部10は、S102で移動制御が必要であると判定すると、S103の処理を実行する。S103では、制御部10は移動制御を実行する。例えば、制御部10は、ソレノイドや、モータや、油圧装置やガス発生器等を含んで構成され作用部3を駆動させる駆動部を制御することによって移動制御を実行する。なお、乗員保護装置1は、これらの駆動部を備えておらず、作用部3を圧縮コイルバネ等で摺動部4a、4bから下方に向かって付勢されており、制御部10が、作用部3を摺動部4a、4bに対して固定する留め具をソレノイド等で動かして作用部3から外し、作用部3が第2の位置に移動させる移動制御を実行してもよい。
【0041】
本実施形態に係る乗員保護装置1は、急減速を感知すると作用部3を第2の位置に移動させる。乗員保護装置1は、乗員200に慣性力F1が作用した際に作用部3が第2の位置で乗員200の動きを抑制することできる。これにより、乗員保護装置1は、乗員200が車両100内の構造物に衝突するのを防ぐことができるので、乗員を保護できる。更に、乗員保護装置1は、作用部3が乗員200の動きを抑制する際に、ダンパ装置6によって乗員200の運動エネルギーを吸収することで、乗員200に対して作用する慣性力F1に対する反力を軽減させる。これにより、乗員保護装置1は、乗員への衝撃を緩和しながら作用部3で受け止めた乗員200をより確実に保護できる。
【0042】
ところで、乗員を保護する装置として一般的に用いられているエアバッグ装置は、一旦エアバッグを展開した後は交換をしなければならず、継続して利用することが不可能である。このため、車両への衝突衝撃が比較的小さく当該車両が修理によって再度走行可能である場合にはエアバッグ装置も交換する必要がある。一方、本実施形態に係る乗員保護装置1は、作用部3が第1の位置と第2の位置で往復移動可能であるので、作用部3を第2の位置に移動した後で作用部3を第1の位置に戻すことができるので、繰り返し使用可能である。このため、本実施形態に係る乗員保護装置1は、作動後も交換の必要がない。
【0043】
<変形例1-1>
次に、本実施形態における移動制御の変形例1-1について説明する。本変形例では、制御部10は、センサ101が検出した車両100の環境情報に基づいて車両100が障害物への衝突が予測されると判断された場合に、当該障害物への衝突前に移動制御を実行することに特徴を有する。本変形例の移動制御について図5を参照しつつ説明する。
【0044】
制御部10は、S101で取得した各情報にセンサ101が検出した車両100の環境情報に基づいて車両100が障害物への衝突が予測されると判断されたことを示す情報が含まれている場合にはS102で肯定判定を行い、S103で移動制御を実行する。環境情報は、車両100とその周囲に存在する障害物との衝突に関連する情報であり、例えば、車両100の走行や操舵に関する情報や、車両100に対する障害物の相対位置情報、相対速度情報、車両100と障害物との距離に関する情報等が挙げられる。例えば、車両100の速度と障害物までの離間距離より算出される、衝突までの時間が短くなるほど、衝突の可能性は高いと予測することができる。本変形例では、走行制御部103は、センサ101によって検出された環境情報としての車両100の速度情報や、障害物と車両100との離間距離等に基づいて、衝突予測を判断する。なお、この判断は、制御部10によって行われてもよい。
【0045】
本変形例に係る乗員保護装置1は、車両100が障害物に衝突することが予測された場合、すなわち衝突が発生する前の段階で移動制御を実行する。このため、乗員保護装置1は、車両100の衝突や急減速によって乗員200に慣性力F1が作用する前に移動制御を実行することができるので、乗員200が前方に動き始める前に作用部3を第2の位置に移動させておくことができる。これにより、乗員保護装置1は、乗員200の初速度が相対的に小さいうちに作用部3で乗員200の動きを抑制できるので、乗員200が作用部3から受ける反力を相対的に小さくすることができ、以て乗員200を好適に保護できる。例えば、衝突が回避できたとしても、本変形例の移動制御を実行することで、車両の急制動に対する乗員の保護は可能であり、作動後は作用部3を第1の位置に戻すことで乗員保護装置1を繰り返し使用可能となる。
【0046】
更に、車両100が急減速を感知する前に乗員保護装置1が作動して作用部3を第2の位置に移動させる場合において、車両100の障害物への衝突が回避されてたとしても、乗員保護装置1は繰り返し使用可能であるのでエアバッグ装置と異なり取り換える必要が
ない。
【0047】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る乗員保護装置1について説明する。図6は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図である。本実施形態に係る乗員保護装置1は、ステアリングホイール13が作用部であることに特徴を有している。本実施形態において、
シート201は運転席に配置されており、乗員200は車両の運転手である。なお、本実施形態に係る乗員保護装置1も上記第1の実施形態と同様に図4に示す制御部10を備える。
【0048】
図6に示すように、乗員保護装置1は、車両に対して固定されたステアリングコラム11(「ベース部」の一例)を備える。ステアリングコラム11は、車両を構成する構造物であるフレームに対して固定されている。ステアリングコラム11は、前後方向で後方側が高くなるように延伸しており、ステアリングシャフト12を内包している。ステアリングシャフト12の後側端部にはステアリングホイール13(「作用部」の一例)が固定されている。
【0049】
ステアリングシャフト12は、ステアリングコラム11内で摺動可能である。ステアリングホイール13はステアリングシャフト12が摺動することで第1の位置と第2の位置とで往復移動可能である。ステアリングホイール13は、慣性力が作用した際の乗員200の動きを抑制する。
【0050】
また、ステアリングホイール13は、初期位置である第1の位置と、乗員200に慣性力が作用した際の乗員200の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能である。図6に示す状態において、ステアリングホイール13は第1の位置に位置している。
【0051】
乗員保護装置1は、ステアリングホイール13が第2の位置に移動した際に、ステアリングホイール13に対する乗員200への衝突衝撃を緩和するダンパ装置6を更に備える。ダンパ装置6は、ステアリングコラム11の前側端部に固定されている。
【0052】
また、本実施形態において車両内の側面にはセンサ14、15が設けられている。センサ14、15は乗員200の所定位置と第1の位置でのステアリングホイール13との間で前後方向に所定の間隔を設けて配置されている。乗員200に慣性力が作用すると乗員200の上半身が前方に傾く。センサ14、15は乗員200のこの動きを検出する。
【0053】
図7は、乗員200に慣性力F1が作用した際に、ステアリングホイール13が第2の位置で乗員200の動きを抑制している状態を示す模式図である。図7は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示している。
【0054】
乗員保護装置1の制御部10は、センサ14、15によって検出された乗員200の前方への移動速度が所定値以上である場合には、慣性力が作用して乗員200が動いたことを示す情報を取得したので移動制御が必要であると判定し(図5におけるステップS102のYES)、ステアリングホイールを第2の位置に移動させる移動制御を実行する。例えば、制御部10は、ソレノイドや、モータや、油圧装置等を含んで構成された駆動部を制御することによってステアリングシャフト12を後方(乗員200側)に摺動させ、ステアリングホイール13を第2の位置に移動させる。これにより制御部10は移動制御を実行する。
【0055】
本実施形態に係る乗員保護装置1は、乗員200に慣性力F1が作用して乗員が移動したことが検出されるとステアリングホイール13を第2の位置に移動させ、乗員200の
動きを抑制することができる。また、乗員200に慣性力F1が作用し、乗員200がステアリングホイール13に衝突してステアリングホイール13及びステアリングシャフト12が前方に摺動する。ダンパ装置6は、ステアリングシャフト12が前方に摺動する際の運動エネルギーを吸収する。ダンパ装置6は、ステアリングホイール13が乗員200の頭部又は胸部を受け止める際に、乗員200の運動エネルギーをステアリングシャフト12に作用させる際にその抵抗力を調整することで、前記反力を軽減させる。なお、抵抗力は、ステアリングシャフト12が摺動する際にステアリングシャフト12に作用する抵抗力である。これにより、本実施形態に係る乗員保護装置1は、乗員を保護できる。更に、ステアリングホイール13は、第1の位置から第2の位置に移動した後に第1の位置に戻すことで繰り返し第1の位置から第2の位置に移動することが可能である。本実施形態では、ステアリングホイール13が第1の位置と第2の位置とで往復移動可能なようにステアリングシャフト12がステアリングコラム11内に内包されている。このため、本実施形態に係る乗員保護装置1は、繰り返し使用可能である。
【0056】
<変形例2-1>
次に、本実施形態における移動制御の変形例2-1について図8に基づいて説明する。本変形例では、図8に示すようにシート201のシートバックにセンサ16が配置されている。乗員200に慣性力が作用すると乗員200の上半身が前方に傾く。センサ16は乗員200のこの動きを検出する。乗員保護装置1の制御部10は、センサ16によって乗員200の前方への動きが検出された場合には、慣性力が作用して乗員200が動いたことを示す情報を取得したので移動制御が必要であると判定し(図5におけるステップS102のYES)、ステアリングホイール13を第2の位置に移動させる移動制御を実行する。本変形例に係る乗員保護装置1は、乗員200に慣性力が作用して乗員が移動したことが検出されるとステアリングホイール13を第2の位置に移動させ、乗員200の動きを抑制し、以て乗員200を保護することができる。
【0057】
<変形例2-2>
次に、本実施形態における移動制御の変形例2-2について図9に基づいて説明する。本変形例では、図9に示すようにステアリングホイール13にセンサ17が配置されている。乗員200に慣性力が作用すると乗員200の上半身が前方に傾く。センサ17は乗員200のこの動きを検出する。乗員保護装置1の制御部10は、センサ17によって乗員200とステアリングホイール13との距離が急速に縮まったことが検出された場合には、慣性力が作用して乗員200が動いたことを示す情報を取得したので移動制御が必要であると判定し(図5におけるステップS102のYES)、ステアリングホイール13を第2の位置に移動させる移動制御を実行する。本変形例に係る乗員保護装置1は、乗員200に慣性力が作用して乗員が移動したことが検出されるとステアリングホイール13を第2の位置に移動させ、乗員200の動きを抑制し、以て乗員200を保護することができる。なお、第2の実施形態2や変形例2-1、2-2では、ステアリングホイール13に対する乗員の衝撃を緩和するため、ステアリングホイール13やホイールスポークに緩衝機能を持たせてもよい。
【0058】
<第3の実施形態>
第3の実施形態に係る乗員保護装置1について説明する。図10は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図である。本実施形態に係る乗員保護装置1は、エアバッグ18を備えることに特徴を有している。なお、図6及び図7に示した第2の実施形態の乗員保護装置1の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明は省略する。なお、本実施形態に係る乗員保護装置1も上記第1の実施形態と同様に図4に示す制御部10を備える。
【0059】
本実施形態に係る乗員保護装置1のステアリングホイール13は、第2の位置に移動し
た場合に乗員200と対向する位置に取り付けられたエアバッグ18を有する。また、乗員保護装置1は、エアバッグ18にガスを供給するガス発生器19を備える。乗員保護装置1の制御部10は、ステアリングホイール13の移動制御を実行する際にガス発生器を作動させてエアバッグ18にガスを供給する。これにより、エアバッグ18が展開される。本実施形態に係る乗員保護装置1によれば、作用部の一例であるステアリングホイール13が乗員200に接近した第2の位置でエアバッグ18を展開させることができるため、エアバッグ18の容量が小さくてよく、エアバッグ18及びガス発生器19を含むエアバッグ装置を小型化できる。また、ステアリングホイール13が乗員200の動きを抑制する際の乗員200への衝突衝撃をエアバッグ18により緩和できる。なお、エアバッグ装置には公知のものを用いることができる。
【0060】
なお、乗員保護装置1の制御部10は、第2の位置におけるステアリングホイール13と乗員200との距離が所定距離未満であると判定した場合には、上述の移動制御を実行する際にガス発生器19を作動させなくてもよい。ステアリングホイール13と乗員200との距離が所定距離未満であって例えば乗員200の頭部がステアリングホイール13と近接している場合にはエアバッグ18を展開させると乗員200にとって危険な場合も想定される。本実施形態に係る乗員保護装置1はこのような場合にエアバッグ18を展開させないようにして乗員200を適切に保護できる。なお、ステアリングホイール13と乗員200との距離は、例えば、図9に示すセンサ17によって検出することができる。
【0061】
<第4の実施形態>
第4の実施形態に係る乗員保護装置1について説明する。図11は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示す図である。本実施形態に係る乗員保護装置1は、ダッシュボード20の前面パネル23が作用部であることに特徴を有している。本実施形態において、シート201は助手席に配置されている。なお、本実施形態に係る乗員保護装置1も上記第1の実施形態と同様に図4に示す制御部10を備える。
【0062】
図11に示すように、乗員保護装置1は、車両に対して固定された軸受け21(「ベース部」の一例)を備える。軸受け21は、車両を構成する構造物であるフレームに対して固定されている。軸受け21は、前後方向で後方側が高くなるように延伸しており、シャフト22を内包している。シャフト22の後側端部には前面パネル23(「作用部」の一例)が固定されている。
【0063】
シャフト22は、軸受け21内で摺動可能である。前面パネル23はシャフト22が摺動することで第1の位置と第2の位置とで往復移動可能である。前面パネル23は、慣性力が作用した際の乗員200の動きを抑制する。
【0064】
また、前面パネル23は、初期位置である第1の位置と、乗員200に慣性力が作用した際の乗員200の動きを抑制するための第2の位置とで往復移動可能である。図11に示す状態において、前面パネル23は第1の位置に位置している。
【0065】
乗員保護装置1は、シャフト22が第2の位置に移動した際に、前面パネル23に対する乗員200への衝突衝撃を緩和するダンパ装置6を更に備える。ダンパ装置6は、ステアリングコラムの前側端部に固定されている。
【0066】
図12は、乗員200に慣性力F1が作用した際に、前面パネル23が第2の位置で乗員200の動きを抑制している状態を示す模式図である。図12は、車両の左方から乗員保護装置1を見た状態を模式的に示している。なお、本実施形態に係る乗員保護装置1の制御部10による移動制御は、上述の第2の実施形態及び変形例2-1、2-2での移動制御と同様に実行可能である。
【0067】
本実施形態に係る乗員保護装置1は、乗員200に慣性力F1が作用して乗員が移動したことが検出されると前面パネル23を第2の位置に移動させ、乗員200の動きを抑制することができる。また、乗員200に慣性力F1が作用し、乗員200が前面パネル23に衝突して前面パネル23及びシャフト22が前方に摺動する。ダンパ装置6は、シャフト22が前方に摺動する際の運動エネルギーを吸収する。ダンパ装置6は、前面パネル23が乗員200の頭部を受け止める際に、乗員200の運動エネルギーをシャフト22に作用させる際にその抵抗力を調整することで、反力を軽減させる。なお、抵抗力は、シャフト22が摺動する際にシャフト22に作用する抵抗力である。これにより、本実施形態に係る乗員保護装置1は、乗員を保護できる。更に、前面パネル23は、第1の位置から第2の位置に移動した後に第1の位置に戻すことで繰り返し第1の位置から第2の位置に移動することが可能である。本実施形態では、前面パネル23が第1の位置と第2の位置とで往復移動可能なようにシャフト22が軸受け21内に内包されている。このため、本実施形態に係る乗員保護装置1は、繰り返し使用可能である。
【0068】
上記実施形態において、制御部10は、車両の速度や乗員200の体重、又は慣性力が作用した場合の作用部3に向かう乗員200の速度に応じてダンパ装置6による反力の調整を制御してもよい。なお、乗員の体重はシート201に配置される荷重センサにより検出可能である。例えば、車両の速度が相対的に大きい場合や、乗員200の体重が大きい場合には乗員200に作用する慣性力も大きくなるため、ダンパ装置6が軽減させる乗員200に作用する反力も大きくなる。例えば、減衰力を電磁コイルで調整できるダンパ装置6を用いることで、制御部10は、ダンパ装置6による反力調整の制御を行うことができる。
【0069】
また、上記第1の実施形態、第2の実施形態、及び第4の実施形態に係る乗員保護装置1は、図10に示すエアバッグ18を備えていてもよい。エアバッグ18が各実施形態における作用部に配置される。なお、ガス発生器19には、作動後に圧縮空気を再度注入したりガス発生剤を含むカードリッジを交換したりすることで繰り返し使用可能なものを用いてもよい。
【0070】
また、乗員保護装置1における緩和手段はダンパ装置6には限られない。例えば、緩和手段としてばね等の弾性部材や、リニアモータ等が用いられてもよい。また、作用部の第2の位置への駆動にガス発生器によるガスが用いられる場合には、ガス発生器作動後にガスを排出するオリフィスを設けておき、このオリフィスから排出されるガスの容量によって乗員に対して作用する反力を調整してもよい。なお、上記第1の実施形態においては、摺動部4a、4bが左側ベース2a、右側ベース2bを摺動する際に生じる摩擦力によって乗員200の運動エネルギーを摺動部4a、4b及び左側ベース2a、右側ベース2bに生じる熱に変換することで当該反力を調整してもよい。同様に、第2の実施形態及び第3の実施形態において、ステアリングシャフト12がステアリングコラム11内を摺動する際に生じる摩擦力によって乗員200の運動エネルギーをステアリングシャフト12及びステアリングコラム11に生じる熱に変換することで当該反力を調整してもよい。同様に、第4の実施形態において、シャフト22が軸受け21内を摺動する際に生じる摩擦力によって乗員200の運動エネルギーをシャフト22及び軸受け21に生じる熱に変換することで当該反力を調整してもよい。
【0071】
また、乗員保護装置1は、車両100の速度が所定速度未満である場合には上述の移動制御を実行しなくてもよい。車両100の速度が所定未満である場合には作用部3を第2の位置に移動させないほうが乗員100にとって安全な場合もあるためである。なお、制御部10は、車両100の速度を走行制御部103から取得することができる。
【0072】
なお、乗員保護装置1は、作用部3を第2の位置から第1の位置に移動させるためのモータを備えていてもよい。これにより、乗員保護装置1が作動した後に作用部3を第1の位置に戻す乗員200の負担を無くすことができる。
【0073】
なお、上記実施形態及び変形例に係る乗員保護装置1は、シートベルト202の使用有無に関わらず乗員200を保護できる。
【符号の説明】
【0074】
1 乗員保護装置
2 ベース部
3 作用部
4a、4b 摺動部
5 ヒンジ
6 ダンパ装置
10 制御部
11 ステアリングコラム
12 ステアリングシャフト
13 ステアリングホイール
14、15、16、17 センサ
18 エアバッグ
19 ガス発生器
20 ダッシュボード
21 軸受け
22 シャフト
23 前面パネル
100 車両
101 センサ
102 位置情報取得部
103 走行制御部
104 走行駆動部
200 乗員
201 シート
202 シートベルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12