(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】送液監視方法および検体測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/49 20060101AFI20231017BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20231017BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20231017BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
G01N21/49 Z
G01N37/00 101
G01N35/08 A
G01N35/00 D
(21)【出願番号】P 2019180011
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】成定 憲志
(72)【発明者】
【氏名】前川 泰範
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0207634(US,A1)
【文献】特開2011-137673(JP,A)
【文献】特開2003-004752(JP,A)
【文献】特開2008-003074(JP,A)
【文献】特開2012-185810(JP,A)
【文献】特開平06-094724(JP,A)
【文献】特開平07-181126(JP,A)
【文献】特開昭57-149949(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151240(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-G01N21/61
G01N33/48-G01N33/98
G01N35/00-G01N37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの液体保持部を有する流路中を移送され、検体測定装置で用いられる液体の移送状態を監視する方法であって、
第1の液体保持部に保持された液体を、前記第1の液体保持部に連結された第2の液体保持部に移送するステップと、
前記液体の移送が完了し、前記液体の流れが停止している状態において、前記第1の液体保持部および前記第2の液体保持部の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面に光を照射して得られる散乱光強度に関する情報を取得するステップと、
前記散乱光強度に関する情報に基づき、前記第2の液体保持部への送液を監視するステップと、を備える、送液監視方法。
【請求項2】
前記散乱光強度に関する情報は、光検出部が散乱光を検出し、前記光検出部に接続された制御部が、前記光検出部からの信号を解析することによって取得される、請求項
1に記載の送液監視方法。
【請求項3】
前記光検出部は撮像部を含み、
前記制御部が行う解析は、画像解析である、請求項
2に記載の送液監視方法。
【請求項4】
前記凹凸を有した内表面は、液体保持部の内底面である、請求項
3に記載の送液監視方法。
【請求項5】
前記散乱光強度に関する情報を取得するステップにおいて、凹凸を有した前記内底面に斜めから光を照射し、前記内底面の上方位置で前記撮像部により散乱光を検出する、請求項
4に記載の送液監視方法。
【請求項6】
前記画像解析が、
前記撮像部の撮像画像のうち、前記第1の液体保持部および前記第2の液体保持部の少なくとも一方を含む領域に対して局所的に行われる、請求項
3~
5のいずれか1項に記載の送液監視方法。
【請求項7】
前記画像解析が、散乱光強度が2値化閾値より小さい領域と、散乱光強度が前記2値化閾値以上の領域とに分ける2値化処理を含む、請求項
3~
6のいずれか1項に記載の送液監視方法。
【請求項8】
前記散乱光強度に関する情報は、2値化処理によって得られた、散乱光強度が2値化閾値以上となる領域の面積情報である、請求項
7に記載の送液監視方法。
【請求項9】
前記送液を監視するステップにおいて、散乱光強度が2値化閾値以上となる領域の面積値と、面積閾値とを比較し、比較結果に基づいて前記第2の液体保持部への送液異常の有無を判定する、請求項
8に記載の送液監視方法。
【請求項10】
前記画像解析が、前記散乱光が検出された領域内における散乱光強度のばらつきを示す指標値を算出する処理を含み、
前記散乱光強度に関する情報は、画像中の前記指標値の総和である、請求項
3~
9のいずれか1項に記載の送液監視方法。
【請求項11】
前記送液を監視するステップにおいて、前記指標値の総和と、前記総和の閾値とを比較し、比較結果に基づいて前記第2の液体保持部へ送液された液体の異常の有無を判定する、請求項
10に記載の送液監視方法。
【請求項12】
前記液体が血漿であり、前記液体の異常が、乳びである、請求項
11に記載の送液監視方法。
【請求項13】
前記散乱光強度に関する情報を取得するステップが、前記第2の液体保持部への前記液体の移送前と、前記液体の移送後とに行われる、請求項1~
12のいずれか1項に記載の送液監視方法。
【請求項14】
前記液体の移送の前後で取得された散乱光強度に関する情報を比較し、送液異常の有無を判定する、請求項
13に記載の送液監視方法。
【請求項15】
異常が判定された場合に、測定を中止する、測定中に使用者に通知する、もしく
は異常があった旨を
測定結果に併せて表示するステップをさらに備える、請求項
9、
11または
14のいずれか1項に記載の送液監視方法。
【請求項16】
前記画像解析が、散乱光強度と、前記散乱光強度の均一性とに基づいて、画像中における前記内表面の領域を抽出する処理を含み、
前記散乱光強度に関する情報は、抽出された前記内表面の領域から取得される、請求項
3~
11のいずれか1項に記載の送液監視方法。
【請求項17】
少なくとも2つの液体保持部を有する流路に液体を移送し、前記液体を用いて測定を行う検体測定装置であって、
第1の液体保持部に保持された液体に外力を付与して、前記第1の液体保持部に連結された第2の液体保持部に移送する送液部と、
前記第1の液体保持部および前記第2の液体保持部の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面に光を照射する照明部と、
前記内表面に照射された光の散乱光を検出する光検出部と、
前記液体の移送が完了し、前記液体の流れが停止している状態において、前記光検出部からの信号に基づいて散乱光強度に関する情報を取得し、前記散乱光強度に関する情報に基づき、前記液体保持部内の液体の有無を判定する制御を行う制御部と、
前記液体を用いた測定を行う測定部と、を備える、検体測定装置。
【請求項18】
前記制御部は、前記散乱光強度に関する情報に基づき液体の有無を判定することにより、前記第2の液体保持部への送液を監視する制御を行う、請求項
17に記載の検体測定装置。
【請求項19】
前記光検出部は撮像部を含み、
前記制御部は、画像解析により前記散乱光強度に関する情報を取得する、請求項
17または
18に記載の検体測定装置。
【請求項20】
前記照明部は、凹凸を有する内底面に斜めから光を照射し、
前記撮像部は、前記内底面の上方位置で散乱光を検出する、請求項
19に記載の検体測定装置。
【請求項21】
前記散乱光強度に関する情報は、2値化処理によって得られた、散乱光強度が2値化閾値以上となる領域の面積情報である、請求項
19または
20に記載の検体測定装置。
【請求項22】
前記制御部は、散乱光強度が2値化閾値以上となる領域の面積値と、面積閾値とを比較し、比較結果に基づいて前記第2の液体保持部への送液異常の有無を判定する、請求項
21に記載の検体測定装置。
【請求項23】
前記制御部は、前記散乱光が検出された領域内における散乱光強度のばらつきを示す指標値を算出するように構成され、
前記散乱光強度に関する情報は、画像中の前記指標値の総和である、請求項
19~
22のいずれか1項に記載の検体測定装置。
【請求項24】
前記制御部は、前記指標値の総和と、前記総和の閾値とを比較し、比較結果に基づいて前記第2の液体保持部へ送液された液体の異常の有無を判定する、請求項
23に記載の検体測定装置。
【請求項25】
前記制御部は、前記第2の液体保持部への前記液体の移送前と、前記液体の移送後とに散乱光強度に関する情報を取得し、
前記液体の移送の前後で取得された前記散乱光強度に関する情報を比較し、送液異常の有無を判定する、請求項
18~
24のいずれか1項に記載の検体測定装置。
【請求項26】
前記制御部は、異常が判定された場合に、測定を中止する、測定中に使用者に通知する、もしく
は異常があった旨を
測定結果に併せて表示部に表示するように構成されている、請求項
22、
24または
25のいずれか1項に記載の検体測定装置。
【請求項27】
前記制御部は、散乱光強度と、前記散乱光強度の均一性とに基づいて、画像中における前記内表面の領域を抽出する処理を実行し、抽出された前記内表面の領域から前記散乱光強度に関する情報を取得する、請求項
19~
24のいずれか1項に記載の検体測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路中を移送される液体の移送状態を監視する送液監視方法および検体測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、
図26に示すように、マイクロチップ901の流路を撮像するための撮像部902を備える検査装置900が開示されている。撮像部902は、レンズ903と照明部904を含み、マイクロチップ901の流路を流れる検体を光学的に検知している。これにより、マイクロチップ901の監視領域を通過する検体を画像処理して送液状態を解析している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、撮像部902により、マイクロチップ901の流路を流れる検体を撮像して送液状態を監視しているが、透明度の高い血漿や血清などの検体や試薬などの液体を撮像して監視することは困難である。
【0005】
流路を介して血漿や血清などの透明度の高い検体や試薬などの液体を移送する際に、液体の定量に失敗したり、所定の液体保持部への液体の移送に失敗するなどの移送不良が生じると、移送の目的を達成できない場合がある。そのため、光を透過する透明度の高い液体でも、液体の移送状態を監視できるようにすることが望まれている。
【0006】
この発明は、光を透過する透明度の高い検体や試薬などの液体でも、液体の移送状態を監視できるようにすることに向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明による送液監視方法は、
図1に示すように、少なくとも2つの液体保持部(20)を有する流路(10)中を移送され、検体測定装置で用いられる液体(30)の移送状態を監視する方法であって、第1の液体保持部(21)に保持された液体(30)を、第1の液体保持部(21)に連結された第2の液体保持部(22)に移送するステップと、液体(30)の
移送が完了し、液体(30)の流れが停止している状態において、第1の液体保持部(21)および第2の液体保持部(22)の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面(23)に光(91)を照射して得られる散乱光強度に関する情報(40)を取得するステップと、散乱光強度に関する情報(40)に基づき、第2の液体保持部(22)への送液を監視するステップと、を備える。
【0008】
この発明による送液監視方法では、上記のように、第1の液体保持部(21)および第2の液体保持部(22)の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面(23)に光(91)を照射して、散乱光強度に関する情報(40)を取得する。液体保持部(20)に液体(30)が存在せずに空気で満たされている場合、凹凸を有する内表面(23)では、照射された光(91)をランダムな方向に散乱させる。一方、液体保持部(20)に液体(30)が満たされている場合、内表面(23)の凹凸が液体(30)で覆われて屈折率の差が減少するので、光散乱が抑制される。このように、液体(30)の有無に応じて散乱光強度に関する情報(40)に差異が生じるので、取得された散乱光強度に関する情報(40)に基づいて、液体保持部(20)に液体(30)が送液されているか否か、液体(30)がどこまで送液されているか、といった状態を把握できる。これにより、光を透過する透明度の高い検体や試薬などの液体でも、液体の移送状態を監視できる。
【0009】
この発明による検体測定装置(100)は、
図1に示すように、少なくとも2つの液体保持部(20)を有する流路(10)に、液体(30)を移送し、液体(30)を用いて測定を行う検体測定装置(100)であって、第1の液体保持部(21)に保持された液体(30)に外力を付与して、第1の液体保持部(21)に連結された第2の液体保持部(22)に移送する送液部(110)と、第1の液体保持部(21)および第2の液体保持部(22)の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面(23)に光(91)を照射する照明部(120)と、内表面(23)に照射された光(91)の散乱光(92)を検出する光検出部(130)と、
液体(30)の移送が完了し、液体(30)の流れが停止している状態において、光検出部(130)からの信号に基づいて散乱光強度に関する情報(40)を取得し、散乱光強度に関する情報(40)に基づき、液体保持部(20)内の液体(30)の有無を判定する制御を行う制御部(140)と、検体(30)を測定する測定部(145)と、を備える。
【0010】
この発明による検体測定装置(100)では、上記の送液監視方法と同様に、液体保持部(20)における液体(30)の有無に応じて散乱光強度に関する情報(40)に差異が生じるので、制御部(140)が、取得した散乱光強度に関する情報(40)に基づいて、液体保持部(20)に液体(30)が送液されているか否か、液体(30)がどこまで送液されているか、といった状態を把握できる。これにより、光を透過する透明度の高い検体や試薬などの液体でも、液体の移送状態を監視できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光を透過する透明度の高い検体や試薬などの液体でも、液体の移送状態を監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の送液監視方法および検体測定装置を説明するための模式図である。
【
図2】送液監視方法を説明するためのフロー図である。
【
図3】液体がない状態の液体保持部を示す模式図である。
【
図4】液体がある状態の液体保持部を示す模式図である。
【
図5】
図3のA方向から見た液体保持部を示した模式図である。
【
図6】送液監視方法の一例を示したフロー図である。
【
図7】送液異常の有無の判定方法の第1の例を示したフロー図である。
【
図8】送液異常の有無の判定方法の第2の例を示したフロー図である。
【
図9】送液監視方法の別の一例を示したフロー図である。
【
図10】
図9における送液異常の有無の判定方法を示したフロー図である。
【
図11】検体測定装置の具体的な構成例を示した斜視図である。
【
図12】蓋を閉じた状態の検体測定装置を示した斜視図である。
【
図13】検体測定装置の内部構造を示した模式的な断面図である。
【
図15】検体測定装置による測定結果データの送信を説明する図である。
【
図16】流路が形成されたカートリッジを示す平面図である。
【
図17】カートリッジの各部と撮像部および測定部との位置関係を示した図である。
【
図18】送液監視において取得される接続部の撮像画像を示した図である。
【
図19】検体の異常を判定する方法を説明するための接続部の撮像画像を示した図である。
【
図20】検体測定装置の測定動作を説明するためのフロー図である。
【
図21】検体測定装置の送液監視処理を説明するためのフロー図である。
【
図24】変形例による送液監視処理を示したフロー図である。
【
図25】画像中における内表面の領域を抽出する処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(送液監視方法の概要)
図1~
図4を参照して、本実施形態による送液監視方法の概要について説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の送液監視方法は、少なくとも2つの液体保持部20を有する流路10中を移送される液体30の移送状態を監視する方法である。
【0016】
液体30は、検体測定装置で用いられる液体である。液体は、検体または試薬でありうる。液体30が検体である場合、液体30は、たとえば被検者であるヒトから採取された生体試料である。液体30は、血液、尿、体液その他の検体であり得る。血液検体は、全血、血清、血漿などでありうる。液体30は、主成分が液体であり、細胞などの固体成分を含み得る。液体30は、たとえば透明度の高い液体である。そのような液体の例としては、血清または血漿、尿、組織液などである。液体30は、検体測定に用いられる試薬でありうる。試薬は、たとえば標識試薬、酵素試薬、洗浄液、緩衝液などでありうる。
【0017】
流路10は、液体30を流通させることが可能な中空の空間部分である。流路10は、1つ以上の内面を有し、管状または溝状に形成される。内面は、流路10の断面形状に応じて、流路10の断面が円形であれば1つ、多角形であれば辺の数と同数、設けられ得る。
【0018】
液体保持部20は、所定量の液体30を収容できる容積を有する空間部分である。液体保持部20は、たとえば、内底面と、1つ以上の内側面とを有し、内部に液体30を溜められる空間である。液体保持部20は、内上面を有し外部から閉じられた空間であってもよい。液体保持部20は、第1の液体保持部21と、第2の液体保持部22と、を含む。第1の液体保持部21と、第2の液体保持部22とは、流路10内で流体的に連通している。
【0019】
本実施形態では、第1の液体保持部21と、第2の液体保持部22との少なくとも一方が、凹凸を有する内表面23を含む。第1の液体保持部21および第2の液体保持部22の両方が、凹凸を有する内表面23を有していてもよい。凹凸を有する内表面23は、言い換えると、粗面化された表面である。内表面23は、ランダムで微細な凹凸を含む面である。本明細書では、凹凸を有する内表面23は、光をランダムな方向に散乱させる面である。このような凹凸を有する内表面23は、たとえば、表面粗さが1.3μm以上、6.9μm以下である。表面粗さは、算術平均粗さである。
【0020】
凹凸を有する内表面23は、たとえば物体に中空の液体保持部20を形成する際に、エッチングなどにより形成される。凹凸を有する内表面23は、液体保持部20が形成された後に、粗面化処理により形成されてもよい。凹凸を有する内表面23は、液体保持部20の内底面、内側面および内部上面のいずれかの面であってもよいし、内面の全体でもよい。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の送液監視方法は、次のステップS1~S3を含む。
(S1)第1の液体保持部21に保持された液体30を、第1の液体保持部21に連結された第2の液体保持部22に移送する。
(S2)液体30の移送開始後、第1の液体保持部21および第2の液体保持部22の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面23に光91を照射して得られる散乱光強度に関する情報40を取得する。
(S3)散乱光強度に関する情報40に基づき、第2の液体保持部22への送液を監視する。
【0022】
ステップS1では、たとえば外力の作用により液体30が流路10中を移動する。外力は、たとえば、毛細管力である。外力は、たとえば、圧力である。圧力は、空気圧、水圧のいずれでもよい。外力は、たとえば遠心力である。
【0023】
ステップS2では、照明部120から凹凸を有する内表面23に光91が照射される。
図1では、第2の液体保持部22に凹凸を有する内表面23が形成され、第2の液体保持部22の内表面23に光91が照射される例を示している。第1の液体保持部21に凹凸を有する内表面23が形成され、第1の液体保持部21の内表面23に光91が照射されてもよいし、第1の液体保持部21および第2の液体保持部22の両方の内表面23に光91が照射されてもよい。
【0024】
凹凸を有する内表面23において光91が散乱され、ランダムな方向に向かう散乱光92が内表面23から発生する。内表面23からの散乱光92が、光検出部130によって検出される。照明部120は、たとえばLED(発光ダイオード)、レーザ光源、その他のランプ等の光源を含む。光検出部130は、たとえばフォトダイオードおよび光電子増倍管などの光センサ、イメージセンサなどを含む。光検出部130の信号により、散乱光強度に関する情報40が取得される。
【0025】
散乱光強度に関する情報40は、散乱光強度の大小を把握可能な情報である。散乱光強度に関する情報40は、散乱光強度そのものでありうる。散乱光強度に関する情報40は、光検出部130の信号を解析することによって取得され、散乱光強度の大小を表現することが可能な指標または指数であってもよい。
【0026】
ステップS3では、散乱光強度に関する情報40に基づき、送液の監視が行われる。送液の監視は、液体30の移動に関する情報収集を行うことである。送液の監視は、たとえば流路10中を移動する液体30を検出することを含む。送液の監視は、送液に関する望ましくない状況を発見することを含みうる。送液に関する望ましくない状況は、たとえば、液体30を定量送液する場合の空気の混入、流路10中の液体30の残留、などである。送液の監視は、たとえば、液体30に元々混入している空気の割合を監視することを含む。送液の監視は、たとえば、送液の途中で液体30に混入した空気の割合を監視することを含む。
【0027】
ステップS2、S3は、ステップS1における送液中、または送液の後に行いうる。送液の監視は、送液中のリアルタイムの監視だけでなく、送液前の情報と送液後の情報との比較によって、送液が適切に行われたことを事後的に把握可能であってもよい。
【0028】
送液の監視は、具体的には、散乱光強度に関する情報40の差異に基づいて実行できる。すなわち、
図3に示すように、液体保持部20に液体30が存在せずに空気で満たされている場合、凹凸を有する内表面23では、照射された光91によりランダムな方向の散乱光92が発生する。そのため、散乱光強度は、相対的に高いレベルで検出される。
【0029】
一方、
図4に示すように、液体保持部20に液体30が満たされている場合、内表面23の凹凸が液体30で覆われて屈折率の差が減少するので、光散乱が抑制される。つまり、内表面23を覆う液体30の表面で正反射したり、液体30の表面を透過しても内表面23で散乱されずに透過または吸収される光が増大し、その分、検出される散乱光の強度が低下する。そのため、散乱光強度は、相対的に低いレベルで検出される。この結果、流路10中で、液体30が存在する領域と、液体30が存在しない領域とを区別できる。ここでいう相対的に高いまたは低いとは、液体保持部20に液体30が存在しない場合と液体保持部20に液体30が満たされている場合とを比較した場合のレベルの高低のことである。
【0030】
なお、流路10が形成される物体は、樹脂材料、金属、ガラスその他の物質で構成され、空気の屈折率とは異なる屈折率を有する。液体30は、空気の屈折率とは異なる屈折率を有する。屈折率が異なっていればよいので、透明な液体30であっても散乱光強度に関する情報40の差異により送液が監視できる。
【0031】
たとえば、流路10を構成する物質は、COP(シクロオレフィンポリマー)であり、屈折率は約1.50である。液体30は、たとえば血漿であり、その屈折率は水と同等と考えてよいから、屈折率は約1.33である。空気の屈折率は、略1.00である。
【0032】
(本実施形態の送液監視方法の効果)
本実施形態による送液監視方法では、上記のように、第1の液体保持部21および第2の液体保持部22の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面23に光91を照射して、散乱光強度に関する情報40を取得する。このとき、上述の通り、液体30の有無に応じて散乱光強度に関する情報40に差異が生じるので、取得された散乱光強度に関する情報40に基づいて、液体保持部20に液体30が送液されているか否か、液体30がどこまで送液されているか、といった状態を把握できる。これにより、光を透過する透明度の高い検体や試薬などの液体30でも、液体30の移送状態を監視できる。
【0033】
(検体測定装置の概要)
図1を参照して、本実施形態による検体測定装置の概要について説明する。
【0034】
検体測定装置100は、少なくとも2つの液体保持部20を有する流路10に液体30を移送し、液体30を用いて測定を行う検体測定装置である。検体測定装置100は、本実施形態の送液監視方法を実行することにより、液体30の移送を監視することが可能である。
【0035】
検体測定装置100は、送液部110と、照明部120と、光検出部130と、制御部140と、測定部145と、を備える。
【0036】
送液部110は、第1の液体保持部21に保持された液体30に外力を付与して、第1の液体保持部21に連結された第2の液体保持部22に移送する。送液部110が液体30に付与する外力は、たとえば圧力または遠心力である。送液部110は、たとえばポンプを含み、液体30に空気圧または水圧を付与する。送液部110は、たとえばターンテーブルを含み、流路10が形成された物体を回転軸周りに回転させる。第1の液体保持部21内の液体30は、遠心力によって、第2の液体保持部22へ向けて移動される。また、たとえば送液部110は、遠心力によって、第1の液体保持部21に液体30を移送する。すると、第1の液体保持部21に収容された液体30が、毛細管現象によって第2の液体保持部22に移送される。なお、流路10が形成された物体は、液体30を収容する容器、検体測定装置100内の流体回路の一部、などでありうる。
【0037】
照明部120は、第1の液体保持部21および第2の液体保持部22の少なくとも一方の、凹凸を有する内表面23に光91を照射する。
【0038】
光検出部130は、内表面23に照射された光91の散乱光92を検出する。光検出部130は、検出光量に応じた信号を制御部140に出力する。
【0039】
制御部140は、光検出部130からの信号に基づいて散乱光強度に関する情報40を取得し、散乱光強度に関する情報40に基づき、液体保持部20内の液体30の有無を判定する制御を行う。制御部140は、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(field-programmable gate array)などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの記憶部とを含むコンピュータである。制御部140は、記憶部に記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより、液体30の有無を判定する制御を実行する。
【0040】
測定部145は、液体30を用いた測定を行うように構成されている。測定手法は、特に限定されない。液体30は、測定に供される検体、または検体と混合される試薬でありうる。試薬は、検体中の被検物質と反応して、被検物質を直接または間接的に測定可能な変化を生じさせる。たとえば、試薬は、被検物質の量に応じて発光する。発光は、たとえば化学発光または蛍光である。試薬は、たとえば被検物質と特異的に結合する標識物質を含む。標識物質は、たとえば、測定部145により測定可能な信号を生じる。信号を検出することにより、測定項目に応じた被検物質の有無、被検物質の量または濃度、粒子状の被検物質であれば大きさや形状などが測定されうる。
【0041】
標識物質は、化学発光物質、蛍光物質、または放射性同位体などを含む。また、試薬は、被検物質の量に応じて発色するものや、被検物質の量に応じて濁りを生じるものでもよい。測定部145は、発光の検出を行う場合、光電子増倍管、光電管、光ダイオードなどの光検出器を含む。測定部145は、放射線の検出を行う場合、たとえばシンチレーションカウンターなどの放射線検出器を含む。測定部145は、蛍光、発色または濁り検出を行う場合、光源および受光素子を含む。
【0042】
制御部140は、単にいずれかの液体保持部20における液体30の有無を判定するだけでもよい。制御部140は、散乱光強度に関する情報40に基づき液体30の有無を判定することにより、第2の液体保持部22への送液を監視する制御を行うように構成されていてもよい。これにより、検体測定において、第1の液体保持部21から第2の液体保持部22への送液が適正に行われているか否かを監視できる。
【0043】
この場合、制御部140は、
図2のステップS1において、送液部110を制御することにより、液体30を移送させる。制御部140は、ステップS2において、照明部120により内表面23へ光91を照射させる。光検出部130が散乱光92を検出する。制御部140は、光検出部130から信号を取得する。制御部140は、光検出部130から取得した信号に基づき、散乱光強度に関する情報40を取得する。ステップS3において、制御部140は、散乱光強度に関する情報40に基づき、第2の液体保持部22への送液を監視する。制御部140が行う送液の監視についての詳細は、上記送液監視方法と同様である。
【0044】
(本実施形態の検体測定装置の効果)
本実施形態による検体測定装置100では、上記の送液監視方法と同様に、液体保持部20における液体30の有無に応じて散乱光強度に関する情報40に差異が生じるので、制御部140が、取得した散乱光強度に関する情報40に基づいて、液体保持部20に液体30が送液されているか否か、液体30がどこまで送液されているか、といった状態を把握できる。これにより、光を透過する透明度の高い検体や試薬などの液体30でも、液体30の移送状態を監視できる。
【0045】
(光検出部および照明部の構成例)
次に、検体測定装置100における光検出部および照明部の構成例を説明する。
【0046】
図1に示した例では、散乱光強度に関する情報40は、光検出部130が散乱光92を検出し、光検出部130に接続された制御部140が、光検出部130からの信号を解析することによって取得される。
【0047】
これにより、液体保持部22から発生する散乱光92を検出し、検出した信号に基づき散乱光強度に関する情報40を取得できる。
【0048】
図3および
図4に示したように、光検出部130は、たとえばイメージセンサを有する撮像部131を含む。制御部140(
図1参照)は、光検出部130からの信号として、液体保持部20の撮像画像を取得して解析する。制御部140が行う解析は、画像解析である。制御部140は、画像解析により散乱光強度に関する情報40を取得する。
【0049】
これにより、液体保持部20が写る画像から散乱光強度に関する情報40を取得できる。単純な光強度を検出する場合と異なり、液体保持部20内の位置に応じた散乱光強度の分布などを解析できるので、液体30の監視に適した散乱光強度に関する情報40を取得できる。
【0050】
また、
図3および
図4において、凹凸を有した内表面23は、液体保持部20の内底面24である。ここで、液体は内底面24に沿って移動するので、内底面24に形成された凹凸が液体30によって確実に覆われる。そのため、液体30の有無に応じた散乱光強度の差異を確実に把握できる。また、液体保持部20にある程度の容積を確保する場合、内底面24が最も面積の大きい面になる。そのため、散乱光92を発生する面が大きくなるので、より容易に、散乱光強度に関する情報40を取得できる。
【0051】
図3および
図4の例では、散乱光強度に関する情報40を取得するステップS2(
図2参照)において、凹凸を有した内底面24に斜めから光91を照射し、内底面24の上方位置で撮像部131により散乱光92を検出する。すなわち、照明部120が、凹凸を有する内底面24に斜めから光91を照射し、撮像部131が、内底面24の上方位置で散乱光92を検出する。
【0052】
これにより、内底面24に照射し正反射した光を撮像部131が略検出せず、実質的に散乱光92のみを撮像部131が検出できる。そのため、散乱光強度に関する情報40を精度よく取得できる。このように、
図3および
図4の例では、照明部120は、撮像部131に対して暗視野照明として構成される。
【0053】
より具体的には、照明部120は、発生する光91が正反射して撮像部131に受光されないように、斜め方向から光91を照射する。撮像部131は、内底面24の真上に配置され、下向きに撮像する。照明部120の出射光軸93に対して正反射した反射光軸94が、撮像部131の受光部分の外部を通るように、照明部120の照射角度95が設定されている。これにより、正反射した光は撮像部131に略検出されず、実質的に散乱光92のみが撮像部131に検出される。
【0054】
また、
図3および
図4の例では、液体保持部20は、A方向に延びるように形成されている。この場合、照明部120は、液体保持部20の延びるA方向に沿った方向へ、光91を照射するように設けられていることが好ましい。
【0055】
たとえば
図5は、
図3の液体保持部20をA方向から見た模式図である。照明部120Aが、液体保持部20に対してA方向に沿った延長線の上方の位置から、液体保持部20の凹凸を有する内底面24に光91を照射する。
図5の破線は、光91の照射範囲を示している。
【0056】
この場合、液体保持部20の内側面25による影が生じることなく、内底面24の広い範囲に光91を照射して散乱光92を生じさせることができる。一方、
図5の照明部120Bは、液体保持部20に対してA方向と直交するB方向にずれた上方位置から、液体保持部20の内底面24に光を照射する。この場合、内底面24に向かう光の一部が液体保持部20の内側面25によって遮られるため、内底面24に対する光の照射範囲が狭くなる。このため、照明部120は、液体保持部20の延びるA方向に沿った方向へ、光を照射するように設けられていることが好ましい。
【0057】
なお、
図5では、液体保持部20は内底面24および一対の内側面25を有する溝を、透光性を有するカバー部材26によって覆うことにより、液体を収容可能な空間として形成されている。
【0058】
(送液監視の具体例)
次に、検体測定装置100において実施される本実施形態の送液監視方法の具体例を説明する。
【0059】
図6に示すように、ステップS11において、制御部140が、送液部110を制御することにより、第1の液体保持部21の液体30を第2の液体保持部22に移送させる。
【0060】
図2の散乱光強度に関する情報40を取得するステップS2は、詳細には、
図6のステップS12~S14を含む。
【0061】
ステップS12において、制御部140が、照明部120により第1の液体保持部21および/または第2の液体保持部22に光91を照射させる。
図6の例では、散乱光強度に関する情報40を取得するステップS12~S14において、液体30の移送が完了した後に、凹凸を有する内表面23に光91を照射する。
【0062】
これにより、移送完了後の液体保持部22に保持された液体30の状態を監視できる。そのため、たとえば移送完了後の液体保持部22における液体30の量や、液体30の保持位置などを確認できる。その結果、送液の定量性を監視したり、さらに送液処理の正確性を監視できる。
【0063】
ステップS13において、制御部140が、光検出部130により散乱光を検出させる。制御部140は、光検出部130から散乱光92の検出信号を取得する。
【0064】
ステップS14において、制御部140が、散乱光強度に関する情報40を取得する。散乱光92が撮像画像として検出される場合、撮像画像中の各画素の画素値が、散乱光強度を反映する。制御部140は、撮像画像のうち、第1の液体保持部21および/または第2の液体保持部22の内表面23が写る領域を画像処理することにより、内表面23における散乱光強度に関する情報40を抽出する。なお、内表面23に対する光検出部130の相対位置は既知であり、撮像画像中において内表面23が写る座標は既知である。ステップS12~S14により、
図2のステップS2が完了する。
【0065】
たとえば、画像解析は、第1の液体保持部21および第2の液体保持部22の少なくとも一方を含む領域に対して局所的に行われる。制御部140は、撮像画像から、第1の液体保持部21および第2の液体保持部22の少なくとも一方を含む領域だけを抽出して、散乱光強度に関する情報40を取得する。
【0066】
このように領域を限定することによって領域外からのノイズの影響を排除できる。また、解析に要する時間を短くできる。
【0067】
散乱光強度に関する情報40は、たとえば、内表面23が写る領域の画素値である。内表面23が写る領域は多数の画素によって構成されうる。その場合、散乱光強度に関する情報40は、内表面23が写る領域に含まれる画素群の画素値の代表値であってよい。代表値は、たとえば各画素値の合計値、平均値、中央値などでありうる。散乱光強度に関する情報40は、内表面23が写る領域の個々の画素の画素値であってもよい。この場合、散乱光強度に関する情報40は、内表面23が写る領域の画素数に相当する数の数値情報である。
【0068】
ステップS15において、制御部140は、ステップS14で取得した散乱光強度に関する情報40に基づき、第2の液体保持部22への送液異常の有無を判定する。すなわち、制御部140は、第1の液体保持部21から第2の液体保持部22への液体30の移送において、送液異常なし(すなわち、液体30が正常に移送された)か、送液異常ありか、を判定する。ステップS15は、
図2のステップS3に対応する。このように、送液を監視するステップは、送液異常の有無を判定するステップを含みうる。
【0069】
〈送液異常の有無を判定するステップ〉
送液異常の有無を判定するステップの一例を
図7に示す。
【0070】
図7のステップS21において、制御部140は、散乱光強度が閾値以下であるか否かを判定する。散乱光強度に関する情報40が画素値の代表値である場合、制御部140は、その代表値と閾値とを比較する。閾値は、液体保持部20に液体30が存在せずに空気で満たされている場合の相対的に高いレベルの散乱光強度と、液体保持部20に液体30が満たされている場合の相対的に低いレベルの散乱光強度と、の間の値に設定される。
【0071】
ステップS21において、散乱光強度が閾値以下である場合、制御部140は、ステップS22に処理を進め、「第2の液体保持部22への送液異常なし」と判定する。すなわち、検出された散乱光強度が、液体保持部20に液体30が満たされている場合の相対的に低いレベルの散乱光強度に該当したことから、異常なく第2の液体保持部22へ液体30が移送されたと判定できる。
【0072】
一方、ステップS21において、散乱光強度が閾値以下ではない(散乱光強度が閾値よりも高い)場合、制御部140は、ステップS23に処理を進め、「第2の液体保持部22への送液に異常あり」と判定する。すなわち、検出された散乱光強度が、液体保持部20に液体30が存在せずに空気で満たされている場合の相対的に高いレベルの散乱光強度に該当したことから、第2の液体保持部22へ正常に液体30が移送されずに、空気で満たされた領域が存在する、あるいは第2の液体保持部22の全体が空気で満たされたままであると判定できる。
【0073】
〈送液異常の有無を判定するステップの他の例〉
送液異常の有無を判定するステップの他の例を
図8に示す。
【0074】
この例では、送液異常の有無に加えて、移送される液体30の性状について判定が行われる。送液に際して、液体30の性状が、想定された状態とは相違することが考えられる。液体30の性状の相違とは、たとえば液体30に濁りが生じている、屈折率が異なっている、などの液体30の光学的特性が想定とは異なっていることである。たとえば、疾病等により、患者から採取された検体である液体30の性状が異常である、外部環境要因により液体30の化学的変化が生じる、などによって、液体30の性状が変化する。液体30の性状異常の具体例としては、たとえば液体30が血漿であり、性状異常が乳び、溶血、黄疸などである。
【0075】
液体30の性状が正常な場合と、液体30の性状が異常な場合とで、検出される散乱光強度に差異が生じうる。たとえば、液体30の性状が異常である場合に、散乱光強度が、液体保持部20が空気で満たされている場合の相対的に高いレベルの散乱光強度と、液体保持部20に正常な液体30が満たされている場合の相対的に低いレベルの散乱光強度と、の間の中間的なレベルになることがある。そこで、散乱光強度に関する情報40に基づいて、液体30の性状についての判定が行われる。
【0076】
送液異常および性状異常を識別するため、制御部140は、第1の閾値と第2の閾値とに基づいて判定を行う。第1の閾値は、相対的に低いレベルの散乱光強度と、中間的なレベルの散乱光強度と、の間の値に設定される。第2の閾値は、相対的に高いレベルの散乱光強度と、中間的なレベルの散乱光強度と、の間の値に設定される。
【0077】
図8のステップS31において、制御部140は、散乱光強度が第2の閾値よりも高いか否かを判定する。
【0078】
ステップS31において、散乱光強度が第2の閾値よりも高い場合、制御部140は、ステップS32に処理を進め、「第2の液体保持部22への送液異常あり」と判定する。すなわち、検出された散乱光強度が相対的に高いレベルの散乱光強度に該当したことから、
図7のステップS23と同様に送液異常であると判定できる。
【0079】
一方、ステップS31において、散乱光強度が第2の閾値以下である場合、制御部140は、ステップS33に処理を進め、散乱光強度が第1の閾値よりも高いか否かを判定する。
【0080】
ステップS33において、散乱光強度が第1の閾値よりも高い場合、制御部140は、ステップS34に処理を進め、「第2の液体保持部22への送液異常なし、液体の性状に異常あり」と判定する。すなわち、検出された散乱光強度が第1の閾値と第2の閾値との間の中間的なレベルに該当したことから、液体30の性状が異常であると判定できる。また、散乱光強度が第2の閾値以下であることから、第2の液体保持部22へ正常に液体30が移送されていると判定できる。
【0081】
ステップS33において、散乱光強度が第1の閾値以下の場合、制御部140は、ステップS35に処理を進め、「第2の液体保持部22への送液に異常なし(液体の性状にも異常なし)」と判定する。すなわち、検出された散乱光強度が、相対的に低いレベルの散乱光強度に該当したことから、
図7のステップS22と同様に液体30が第2の液体保持部22へ異常なく移送されたと判定できる。そして、検出された散乱光強度が中間的なレベルよりもさらに低いレベルに該当したことから、液体30の性状が正常であると判定できる。
【0082】
〈送液の前後の状態を監視する例〉
次に、
図9に示す例では、散乱光強度に関する情報を取得するステップS43、S47が、第2の液体保持部22への液体30の移送前と、液体30の移送後とに行われる。
【0083】
これにより、液体30の移送の前後における散乱光強度に関する情報40をそれぞれ取得できる。そのため、送液によって第2の液体保持部22の状態がどのように変化したかを評価できる。
【0084】
図9に示すように、ステップS41において、制御部140が、照明部120を制御することにより、照明部120からの光を、移送前の第2の液体保持部22に照射させる。ステップS42において、制御部140が、光検出部130により散乱光を検出させる。ステップS43において、制御部140が、検出された散乱光を解析することにより、第1の散乱光強度に関する情報41を取得する。
【0085】
これらのステップS41~S43により、移送前の第1の散乱光強度に関する情報41が、第2の液体保持部22から取得される。
【0086】
ステップS44において、制御部140は、送液部110を制御することにより、外力により第1の液体保持部21の液体30を第2の液体保持部22に移送させる。
【0087】
ステップS45において、制御部140が、照明部120を制御することにより、照明部120からの光を、送液後の第2の液体保持部22に照射させる。ステップS46において、制御部140が、光検出部130により散乱光を検出させる。ステップS47において、制御部140が、検出された散乱光を解析することにより、第2の散乱光強度に関する情報42を取得する。
【0088】
これらのステップS45~S47により、送液後の第2の散乱光強度に関する情報42が、第2の液体保持部22から取得される。
【0089】
ステップS48において、制御部140は、ステップS43で取得した第1の散乱光強度に関する情報41と、ステップS47で取得した第2の散乱光強度に関する情報42と、に基づき、第2の液体保持部22への送液異常の有無を判定する。
【0090】
このように、
図9に示す例では、液体30の移送の前後で取得された散乱光強度に関する情報40を比較し、送液異常の有無を判定する。制御部140は、第2の液体保持部22への液体30の移送前と、液体30の移送後とに散乱光強度に関する情報40を取得し、液体30の移送の前後で取得された散乱光強度に関する情報40を比較し、送液異常の有無を判定する。
【0091】
これにより、送液異常の有無の判定を、液体30の移送前の第2の液体保持部22が空の状態を基準とすることができる。そのため、送液異常の有無の判定を精度よく行える。
【0092】
送液異常の有無を判定するステップの一例を
図10に示す。
図10のステップS51において、制御部140は、第1の散乱光強度が第2の散乱光強度よりも高いか否かを判定する。
【0093】
ステップS51において、第1の散乱光強度が第2の散乱光強度よりも高い場合、制御部140は、ステップS52に処理を進め、「第2の液体保持部22への送液に異常なし」と判定する。すなわち、移送前と比べて、送液後に検出された散乱光強度が低下していることから、第2の液体保持部22は、移送前の空気で満たされている状態から、送液後に液体30が満たされている状態に変化したと判定できる。
【0094】
一方、ステップS51において、第1の散乱光強度が第2の散乱光強度以下である場合、制御部140は、ステップS53に処理を進め、「第2の液体保持部22への送液に異常あり」と判定する。すなわち、移送前と比べて、送液後に検出された散乱光強度が同等かまたは上昇していることから、第2の液体保持部22は、移送前の空気で満たされている状態が送液後も変化しておらず液体30が移送されていないと判定できる。
【0095】
(検体測定装置の具体的構成例)
図11~
図15を参照して、検体測定装置100の具体的な構成例を示す。
図11~
図15に示す例では、検体測定装置100は、抗原抗体反応を利用して検体中の被検物質を検出し、検出結果に基づいて被検物質を測定する免疫測定装置である。検体測定装置100は、たとえばPoC(Point of Care)検査用の小型の測定装置であり、簡易的な操作で測定動作を実行できるように構成されている。
【0096】
検体測定装置100は、流路10が形成されたカートリッジ300を用いて測定を行う。カートリッジとは、検体中に含まれる被検物質の検出に必要な機能をまとめた交換可能な部品のことである。検体測定装置100は、測定動作の一部として、カートリッジ300内で、液体30の送液を行う。検体測定装置100は、カートリッジ300内の液体30の送液を監視する。
【0097】
カートリッジ300は、交換可能な消耗品である。つまり、カートリッジ300は、予め設定された回数だけ測定に使用されると、廃棄される。カートリッジ300の使用可能回数は、1回または数回である。測定項目によって、カートリッジ300内に収容する試薬の種類が異なる。測定項目毎に、複数種類のカートリッジ300のバリエーションがあり得る。カートリッジ300は、異なる複数の測定項目を測定可能であってもよい。
【0098】
カートリッジ300は、たとえば内部に空間が形成された平板形状を有する。
図11では、カートリッジ300が、円板形状を有するディスク型のカートリッジである例を示す。カートリッジ300は、液体30を収容可能な複数のチャンバを備えている。カートリッジ300は、
図1に示したような複数の液体保持部20を有する流路10を備える。液体保持部20に収容される液体30は、検体である。液体保持部20は、検体の測定項目に応じた試薬を収容してもよい。
【0099】
検体測定装置100は、カートリッジ300を収容可能な筐体150を備える。筐体150は、本体部151と蓋部152とを備える。蓋部152は、本体部151の上面部の略全面を覆うように設けられている。本体部151の上面部には、カートリッジ300が配置される配置部153が設けられている。蓋部152は、本体部151に対して回動し、
図11に示す配置部153を開放した状態と、
図12に示す配置部153を覆う状態とに、開閉可能に設けられている。
【0100】
配置部153にカートリッジ300をセットして、蓋部152を閉じると、制御部140が測定動作を開始させる。なお、ディスク型のカートリッジの設置方法としては、筐体150に形成された挿入口からカートリッジ300を挿入するスロットローディング方式や、筐体150の内外に移動するトレイにカートリッジ300を載置するトレイローディング方式を採用してもよい。
【0101】
〈測定装置の内部構造〉
図13を参照して、検体測定装置100の内部構造について説明する。
【0102】
配置部153には、カートリッジ300を下方から支持する支持部材154が配置されている。支持部材154は、たとえば、ターンテーブルにより構成される。支持部材154は、回転機構111の回転軸112の上端部に設けられている。
【0103】
蓋部152には、クランパ155が設けられている。クランパ155は、蓋部152が閉じられた状態で、支持部材154上に設置されたカートリッジ300の上面の中心部を回転可能に支持する。カートリッジ300は、支持部材154とクランパ155とに挟まれた状態で支持される。
【0104】
図13の例では、検体測定装置100は、筐体150内に、送液部110と、照明部120と、光検出部130と、制御部140と、測定部145とを含む。検体測定装置100は、筐体150内に、磁石駆動部161と、開栓部162と、ヒータ163および温度センサ164とを含む。
【0105】
送液部110は、回転機構111を含む。回転機構111は、回転軸112と、モータからなる駆動部113とを備える。回転機構111は、駆動部113を駆動させて、支持部材154に設置されたカートリッジ300を、回転軸112を中心に回転させる。回転機構111は、駆動部113の回転角度を検出するためのエンコーダ114と、回転角度の原点位置を検出する原点センサ115とを含む。原点センサ115による検出位置を基準として、エンコーダ114の検出角度に基づいて駆動部113が駆動されることにより、カートリッジ300を任意の回転位置に移動させることが可能である。
【0106】
図13の例では、送液部110は、カートリッジ300を、回転軸112を中心に回転させることにより、液体30の送液を行う。送液部110は、回転機構111により、測定処理の少なくとも一部を実行する。後述するように、回転機構111は、測定処理の一部として、回転により、カートリッジ300の内部で、血液検体の遠心分離、検体の移送、各反応チャンバ314~319(
図16参照)への試薬の移送、試薬と検体との攪拌、反応チャンバ314~319の間での磁性粒子の周方向への移送、などの処理を行う。
【0107】
磁石駆動部161は、磁石161aを備え、カートリッジ300の内部の磁性粒子を径方向に移動させる機能を有する。磁石駆動部161は、配置部153の下方に配置され、磁石161aを、径方向に移動させるように構成されている。また、磁石駆動部161は、磁石161aを、カートリッジ300に対して近接または離隔する方向に移動させるように構成されている。カートリッジ300に磁石161aを近づけることにより、カートリッジ300内の磁性粒子が集磁され、カートリッジ300から磁石161aを遠ざけることにより、磁性粒子の集磁が解除される。
【0108】
開栓部162は、配置部153に配置されたカートリッジ300の上方から、カートリッジ300に向けて進退可能なピン部材162aを突出させてカートリッジ300と当接させ、押圧によりカートリッジ300内の封止体350(
図16参照)を開栓する。開栓後、開栓部162は、ピン部材162aを、カートリッジ300から離隔して非接触となる退避位置へ移動させる。
【0109】
ヒータ163は、配置部153に配置されたカートリッジ300の直下の位置、および、カートリッジ300の直上の位置に、それぞれ設けられている。ヒータ163は、カートリッジ300内に収容された試料を所定の反応温度に加温して、検体と試薬との反応を促進させる。温度センサ164は、赤外線によりカートリッジ300の温度を検出する。
【0110】
測定部145は、本体部151に形成された開口を介して、配置部153に配置されたカートリッジ300と対向する位置に、受光部を備えている。これにより、測定部145は、反応チャンバ319(
図16参照)内から生じた光を受光部から検出する。測定部145は、検出位置146(
図17参照)に移動された被検物質に由来する光を測定する検出器145aを含む。検出器145aは、たとえば光電子増倍管、光電管、光ダイオードなどにより構成される。検出器145aにより、光子すなわちフォトンの受光に応じたパルス波形が出力される。測定部145は、内部に回路を備えており、検出器145aの出力信号に基づいて、一定間隔でフォトンを計数し、カウント値を出力する。
【0111】
光検出部130は、撮像部131により構成されている。撮像部131は、支持部材154上に設置されたカートリッジ300の上面に対向するように設けられている。撮像部131は、カートリッジ300の画像を取得する。撮像部131は、たとえば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどを含む。撮像部131は、たとえばカラー画像を取得する。撮像部131は、たとえば静止画像の形式で画像を取得する。
【0112】
照明部120は、たとえば発光ダイオードにより構成された光源を有する。照明部120は、撮像時の照明光を発生する。照明部120は、撮像部131に対して暗視野照明として構成されている。
【0113】
図13の構成例では、撮像部131および照明部120は、蓋部152に固定されている。撮像部131は、蓋部152に設けられた孔を介して、カートリッジ300の上面に直接的に対向する。また、照明部120は、蓋部152に設けられた孔を介して、カートリッジ300の上面に直接的に対向する。このため、撮像部131の撮像範囲132(
図17参照)は移動しない。カートリッジ300の監視対象である液体保持部20などの各部が、回転機構111の回転によって撮像範囲132内へ移動される。
【0114】
撮像部131は、筐体150内で移動可能に設けられていてもよい。撮像部131は、本体部151に設けられていてもよい。撮像部131の位置は、監視対象を撮像可能であれば特に限定されない。
【0115】
この他、
図13に示す検体測定装置100は、蓋部152を開く際のユーザの操作を受け付ける操作部171(
図12参照)、蓋部152の開閉を検知する検知部172、閉状態の蓋部152と係合して蓋部152をロックするロック機構173等を備える。蓋部152は図示しない付勢部材により開放される方向に付勢されている。閉状態の蓋部152のロックが解除されると、付勢力によって蓋部152が開かれる。
【0116】
図14は、検体測定装置100の制御的な構成を示す。
【0117】
検体測定装置100は、制御部140を備える。制御部140は、たとえば、プロセッサとメモリを含む。プロセッサは、たとえば、CPU、MPUなどにより構成される。メモリは、たとえば、ROMおよびRAMなどにより構成される。制御部140は、検体測定装置100の各部から信号を受信し、検体測定装置100の各部を制御する。
【0118】
検体測定装置100は、記憶部141を備える。記憶部141には、撮像部131により撮像された監視対象の画像と、測定結果データ405(
図15参照)が少なくとも記憶される。記憶部141は、たとえば、フラッシュメモリ、ハードディスクなどにより構成される。
【0119】
制御部140は、撮像された画像を解析する。制御部140は、液体保持部20の画像に対する画像解析によって、散乱光強度に関する情報40を取得する。制御部140は、取得した散乱光強度に関する情報40に基づいて、送液を監視する。なお、制御部140は、検体測定装置100の各部の制御用のプロセッサと、画像処理用のプロセッサとを個別に含んでいてもよい。
【0120】
検体測定装置100は、通信部142を備える。通信部142は、外部機器への情報の送信および外部機器からの情報の受信が可能である。通信部142は、たとえば通信モジュール、外部接続用のインターフェースなどを含む。
図15に示すように、通信部142は、有線または無線通信により、検体測定装置100と通信が可能な端末500との通信、およびネットワークを介したサーバ600との通信が可能である。通信部142は、複数種類の通信方式での通信が可能であってよい。ネットワークへの接続は、たとえば有線LAN、無線LANなどによる。端末500との接続は、有線LAN、無線LANの他、Bluetooth(登録商標)や他のNFC(近距離無線通信)などによって行ってもよい。端末500との接続は、USBなどの外部接続用のインターフェースによって行ってもよい。サーバ600は、測定結果データ405を管理するサーバである。
【0121】
制御部140は、通信部142により、カートリッジ300を用いた測定結果データ405を、端末500およびサーバ600の少なくとも一方に送信可能である。ユーザは、ネットワークに接続可能な任意の装置によりサーバ600にアクセスすることにより、測定結果を閲覧できる。
【0122】
端末500は、たとえば、タブレット型端末や、スマートフォンなどの携帯情報端末、PC(パーソナルコンピュータ)などの情報端末を含む。端末500は、表示部510に測定結果データ405を表示させる。また、端末500は、表示部510に表示させたボタンなどのユーザーインターフェースを介して、ユーザの操作入力を受け付ける。入力操作は、タブレット型端末や、スマートフォンなどの携帯情報端末ではタッチパネルにより検知され、PCなどの端末ではマウス、キーボードその他の入力機器を介して検知される。
【0123】
検体測定装置100は、装置の状態を通知する通知部143(
図11参照)を備える。通知部143は、光の色、光の点灯、光の点滅、音の少なくともいずれかにより装置の状態を通知する。つまり、通知部143は、発光により通知を行うインジケータ、音により通知を行うスピーカーまたはブザーでありうる。なお装置の状態の通知は、通知部143だけでなく、通信部142を介した通信により、端末500の表示部510に表示させる態様でも行える。
【0124】
(カートリッジの構成例)
次に、
図16を参照して、カートリッジ300の具体的な構成例を説明する。
【0125】
図16の例では、カートリッジ300は、板状かつ円盤形状の基板301により構成されたディスク型のカートリッジである。カートリッジ300内の各部は、基板301に形成された貫通穴部と、基板301の両面において、貫通穴部を含む全面をそれぞれ覆う図示しないフィルムとが、貼り合わされることにより形成される。基板301に貼り合わされたフィルムは、透光性を有する部材により構成される。基板301は、ヒータ163によるカートリッジ300の温度調節が容易となるような厚みを有する。たとえば、基板301の厚みは、数mmとされ、具体的には約1.2mmとされる。
【0126】
基板301には、孔302と、流路10とが形成されている。孔302は、基板301の中心において基板301を貫通している。カートリッジ300は、孔302の中心が、回転軸112の中心に一致するように検体測定装置100に設置される。以下、孔302を中心とする円の径方向および周方向を、それぞれ「径方向」および「周方向」という。
【0127】
流路10は、9つのチャンバ310と、複数の通路330と、6つの収容部341と、1つの収容部342と、注入口343と、を含む。注入口343に液体30が注入される。液体30は、被検者から採取された全血の血液検体である。通路330は、通路331~通路336を含み、複数のチャンバ310、収容部341および342、注入口343を、流体的に接続するように構成されている。これらの通路330およびチャンバ310の一部または全部は、凹凸を有する内表面23を有している。また、流路10以外の基板301の表面は、平滑面とされている。ここでいう平滑面とは、凹凸を有する内表面23よりも、表面粗さが有意に小さいことを意味する。
【0128】
チャンバ310は、液体を収容可能な空間部である。9つのチャンバ310は、基板301の外周付近において周方向に並んでいる。複数のチャンバ310は、液体チャンバ311~313と、反応チャンバ314~319とを含む。
【0129】
液体チャンバ311は、供給された液体30を受け入れる。液体チャンバ311は、通路331を介して、注入口343に接続している。注入口343から注入された血液検体は、カートリッジ300の回転により発生する遠心力によって、通路331を介して液体チャンバ311に移送される。
【0130】
液体チャンバ312は、液体チャンバ311内で一定量を超えた余剰の液体30を受け入れる。液体チャンバ312は、液体チャンバ311よりも径方向外側に配置されており、通路332を介して液体チャンバ311に接続している。通路331から液体チャンバ311に流入する液体30は、遠心力によって、径方向外側から順に溜まっていき、貯留液量の増大に伴って径方向の液面位置が内側に移動する。液体チャンバ311内の液面位置が通路332に到達すると、それ以上の量の液体30が、遠心力の作用によって液体チャンバ312に移動される。そのため、一定量を超える量の液体30を予め注入することによって、液体チャンバ311内に貯留される液体30を一定量に定量できる。
【0131】
なお、カートリッジ300を回転させることにより、液体チャンバ311内の液体30に含まれる液体成分と固体成分とが遠心分離される。液体チャンバ311内の液体30は、遠心分離によって、液体成分である血漿と、固体成分である血球その他の非液体成分に分離される。分離処理後の液体30は、血漿である。液体チャンバ311で分離された血漿は、毛細管現象により、通路333に移動する。通路333は、反応チャンバ314の直前の接続部333bで通路幅が絞られており、血漿は、反応チャンバ314の直前まで通路333内を満たす。
【0132】
通路333は、液体チャンバ311から径方向内側に延びた後、屈曲部333aで折れ曲がり、径方向外側に延びて反応チャンバ314に接続している。血漿が通路333内を満たした状態で、回転により遠心力が加えられると、屈曲部333aを境に、反応チャンバ314側の領域内の血漿が反応チャンバ314に移送される。通路333の屈曲部333aから先端までの容積によって、反応チャンバ314に移送すべき所定量の血漿が定量される。
【0133】
液体チャンバ313は、反応チャンバ314への移送後の液体チャンバ311内の液体30が、再度反応チャンバ314へ移送されるのを抑制するために設けられている。液体チャンバ313は、液体チャンバ311よりも径方向外側に配置されており、通路334を介して液体チャンバ311に接続している。血漿が通路333を介して反応チャンバ314に送られるとき、通路334も液体30によって満たされる。通路334では、サイフォンの原理によって、液面位置が釣り合い位置に到達するまで液体チャンバ311から液体チャンバ313へ液体30が移送される。その結果、液体チャンバ311内の液量が減少するので、一旦血漿が反応チャンバ314へ移送された後は、液体チャンバ311内の液体30が反応チャンバ314へ移送されることが抑制される。
【0134】
図16において、略同一形状の6つの反応チャンバ314、315、316、317、318、319が、互いに隣り合うように周方向に並んで配列されており、それぞれ周方向に延びる通路335を介して接続されている。これら6つの反応チャンバ314~319間では、一方側(反応チャンバ314側)から他方側(反応チャンバ319側)に向けて、被検物質が通路330を介して1つずつ順番に移送されていく。
【0135】
反応チャンバ314~319には、それぞれ、対応する収容部341に収容された試薬が通路336を介して移送される。また、反応チャンバ314には、通路333を介して、被検物質を含む液体30が移送される。被検物質を含む液体30は、全血から遠心分離された血漿である。反応チャンバ314には、磁性粒子MPが封入されている。反応チャンバ314において、液体30に含まれる被検物質は、磁性粒子MPとの複合体とされる。そのため、反応チャンバ314以降は、カートリッジ300の回転と磁力の作用との組み合わせにより、磁性粒子MPと結合した被検物質が通路335および他のチャンバ310へ移送される。
【0136】
通路335は、径方向に延びた6つの径方向領域335aと、周方向に延びた1つの円弧状の周方向領域335bと、を備える。周方向領域335bは、6つの径方向領域335aと繋がっている。6つの径方向領域335aは、それぞれ反応チャンバ314~319に繋がっている。6つの収容部341は、径方向の通路336を介して通路335に繋がっている。6つの収容部341は、それぞれ対応する反応チャンバ314~319と径方向に並んで配置されている。収容部342は、主として径方向に延びる通路336を介して、反応チャンバ319に繋がっている。合計7つの収容部341、342がカートリッジ300の内周側に配置され、合計6つの反応チャンバ314~319がカートリッジ300の外周側に配置されている。
【0137】
収容部341、収容部342は、いずれも、試薬を収容し、径方向の内側の上面に封止体350を備える。封止体350は、検体測定装置100の開栓部162(
図13参照)によって上から押圧されることにより開栓可能に構成される。封止体350が開栓される前は、収容部341内の試薬は通路336に流れない。封止体350が開栓されると、収容部341内の試薬が通路336へ流通可能になる。試薬は、開栓後にカートリッジ300が回転されると、遠心力により対応する反応チャンバ314~319に移動する。
【0138】
なお、収容部341、収容部342は、いずれも、1回分の測定が可能な試薬を収容している。つまり、カートリッジ300は、被検物質に対する1回分の測定が可能な使い切りの測定用カートリッジである。
【0139】
測定処理は、カートリッジ300の回転によりチャンバ内で被検物質と試薬とを攪拌する処理を含む。すなわち、カートリッジ300の回転速度が変更され、加速と減速とが交互に繰り返される。加減速により、チャンバ310内で液体が周方向に前後するように移動され、試薬中に複合体が分散される。
【0140】
検体測定装置100は、チャンバ310において、磁性粒子MPに被検物質と標識物質を担持させ、磁性粒子MPを複数のチャンバに順次移送することにより、それぞれの反応チャンバ314~319で試薬と被検物質とを攪拌する。最終的に、被検物質と標識物質とを担持した磁性粒子が反応チャンバ319に移動され、検体測定装置100によって標識物質が検出されることにより、測定が行われる。
【0141】
なお、
図16の例における流路10は、基板301の略3分の1の領域にのみ形成されている。しかしながら、これに限らず、さらに2つの流路10が基板301の残りの3分の2の領域に形成され、基板301に流路10が3つ設けられてもよい。なお、1つの流路10が、基板301の3分の1の領域よりも大きい領域にわたって形成されてもよい。
【0142】
流路10が複数設けられる場合、各々の流路10では、同じ測定項目の測定処理が行われてもよいし、異なる測定項目についての測定処理が行われてもよい。
【0143】
また、チャンバ310および通路330の数および形状は、
図16に示したものに限られない。流路10の各部の構成は、流路10において実行される検体処理アッセイの内容に応じて決定されるものである。
【0144】
図16の構成例では、カートリッジ300に識別子400が設けられている。識別子400は、撮像により情報の読み取りが可能な情報記録媒体である。
図16では、識別子400は、二次元コードである。識別子400は、二次元コードが印字されたラベルを貼付するか、または、カートリッジ300の表面に二次元コードが直接印刷されることにより、カートリッジ300に設けられる。識別子400はバーコードであってもよい。
【0145】
制御部140は、撮像部131により識別子400の画像を取得することにより、識別子400に記録された情報を読み取る。読み取られた情報に基づき、制御部140が測定動作を制御する。識別子400は、カートリッジ300を用いて測定可能な測定項目を特定するための情報、カートリッジ300内に収容された試薬に関する情報、および、カートリッジ300を特定するための識別情報、の少なくともいずれかを含む。
【0146】
〈監視対象の撮像〉
図17に示すように、撮像部131の撮像範囲132は、カートリッジ300の回転による監視対象の円周状の移動経路上に配置されている。
【0147】
図17の構成例では、撮像範囲132には、9つのチャンバ310を移動させることができる。撮像部131は、9つのチャンバ310の各々を個別に撮像できる。撮像範囲132には、通路330の一部または全部を移動させることができる。撮像部131は、反応チャンバ314~319に接続する通路330を分割して撮像できる。たとえば撮像範囲132には、通路333と反応チャンバ314との接続部333bを移動させることができる。撮像部131は、通路333と反応チャンバ314との接続部333bを撮像できる。つまり、9つのチャンバ310の各々と、各通路330とが、監視対象となり得る。監視対象は、これらの各部うちいずれか1つでもよいし、複数でもよいし、全てでもよい。
【0148】
なお、監視対象以外にも、撮像範囲132には、識別子400を移動させることができる。識別子400は、流路10に対して所定の位置関係となるように、カートリッジ300の周方向の所定位置に予め設けられている。すなわち、識別子400の読取位置を基準として、各々の監視対象の相対回転角度が予め設定されている。制御部140は、原点センサ115により検出される原点位置を基準に、読取位置と、カートリッジ300の各部と読取位置との相対回転角度とに基づいて、カートリッジ300の回転位置制御を行う。識別子400は、情報を記録しておくのみならず、回転位置基準としても機能する。
【0149】
(送液監視の具体例)
次に、
図11~
図17に示した構成例における送液監視の具体例を説明する。
【0150】
制御部140は、カートリッジ300のいずれかのチャンバ310または通路330にある液体30を、別のチャンバまたは通路へ移送する場合に、移送元となるチャンバまたは通路を第1の液体保持部21とし、移送先となるチャンバまたは通路を第2の液体保持部22とする。そして、制御部140は、第1の液体保持部21から第2の液体保持部22への送液を監視する。
【0151】
監視対象の一例として、ここでは、
図16に示した液体チャンバ311から通路333への送液監視について説明する。つまり、液体チャンバ311が第1の液体保持部21であり、通路333が第2の液体保持部22である例を説明する。通路333は、凹凸を有する内底面24を有する。通路333に移送される液体30は透明な血漿である。
【0152】
〈送液の異常判定〉
図18は、通路333と反応チャンバ314との接続部333bの画像410を示す。上述の通り、通路333の屈曲部333aから接続部333bまでの容積によって、反応チャンバ314に移送すべき所定量の血漿が定量される。そのため、通路333では、接続部333bまで液体30が充填されている場合に、送液が正常に行われたことが確認できる。送液異常が生じる場合は、送液前に通路333に存在していた空気の残留によって、接続部333bにおいて液体30が充填されていない空気の領域が形成される場合である。そのため、制御部140は、接続部333bの画像410において、液体30が存在しない空気の領域の有無を解析することによって、送液異常の有無を判定する。
【0153】
具体的には、送液前の空気で満たされた状態の接続部333bの画像411では、凹凸を有する内底面24からの散乱光92(
図3参照)が検出されることから、内底面24の略全体で画素値が高レベルとなる。なお、暗視野照明(
図3、
図4参照)によって、カートリッジ300のうちで内底面24以外の凹凸がない部分からの正反射光はほとんど検出されない。そのため、画像411は、概ね散乱光が発生している箇所のみが光る画像として撮像される。
【0154】
送液後の液体30で満たされた状態の接続部333bの画像412では、光散乱が抑制されるため、内底面24の略全体で画素値が低レベルとなる。
図18の例では、暗視野照明によって、内底面24の部分も画像中の背景と同等のレベルまで画素値が抑制されている。
【0155】
制御部140は、画像解析を行って散乱光強度に関する情報40Aを取得する。
【0156】
画像解析は、散乱光強度が2値化閾値より小さい領域と、散乱光強度が2値化閾値以上の領域とに分ける2値化処理を含む。これにより、画像中のノイズを除去できるので、画像解析を精度よく行える。
【0157】
2値化閾値は、画像411の内底面24で検出される画素値の分布範囲と、画像412の内底面24で検出される画素値の分布範囲と、の間の値とされる。たとえば画素値が256階調で表現されるとして、2値化処理では、画像411、412のうちで2値化閾値より小さい画素値を有する画素の画素値が下限値(=0、黒)になり、2値化閾値以上の画素値を有する画素の画素値が上限値(=255、白)になる。
【0158】
図18では、画像411に対する2値化処理後の処理画像411aと、画像412に対する2値化処理後の処理画像412aと、を示す。画像411では散乱光が検出されている内底面24の全体で2値化閾値以上となるため、処理画像411aにおける内底面24は画素値が上限値(255、白)となる。画像412では散乱光が検出されている内底面24の全体で2値化閾値よりも小さい画素値となるため、処理画像412aにおける内底面24は画素値が下限値(黒)となる。
【0159】
散乱光強度に関する情報40Aは、2値化処理によって得られた、散乱光強度が2値化閾値以上となる領域の面積情報である。これにより、散乱光92が検出された領域の面積に基づいて、送液異常を監視できる。すなわち、液体30が存在する領域の大きさと、液体30が存在せず空気がある領域の大きさとを定量的に把握できる。
【0160】
具体的には、まず、制御部140は、処理画像411aおよび処理画像412aから、接続部333bが写る領域を抽出し、接続部333b以外の背景領域を除去する。画像中の接続部333bが写る領域は、設計情報から既知である。そして、制御部140は、処理画像411aおよび処理画像412aの抽出領域に含まれる高画素値(255)を有する画素の画素数を求める。求めた画素数が、散乱光強度が2値化閾値以上となる領域の面積を表す。
【0161】
図18には、処理画像411aに対する領域抽出処理後の抽出画像411bと、処理画像412aに対する抽出処理後の抽出画像412bと、を示す。
図18の例では、抽出画像411bにおける面積値は「5558」であり、接続部333bの略全体の面積に相当する。一方、抽出画像412bにおける面積値は「0」である。
【0162】
本実施形態では、制御部140は、液体30を監視するステップにおいて、散乱光強度が2値化閾値以上となる領域の面積値と、面積閾値とを比較し、比較結果に基づいて第2の液体保持部22への送液異常の有無を判定する。面積閾値は、抽出画像411bにおける面積値と抽出画像412bにおける面積値との間の値に設定される。
【0163】
これにより、散乱光92が検出された領域の面積値を面積閾値と比較することにより、送液異常の有無を判定できる。すなわち、液体30が存在せず空気がある領域の面積値と面積閾値との大小関係から、送液異常の有無を判定できる。
【0164】
制御部140は、散乱光強度に関する情報40Aとして取得した面積値が面積閾値以下となる場合に、「送液異常なし」と判定する。制御部140は、面積値が面積閾値よりも大きい場合に、「送液異常あり」と判定する。
【0165】
なお、
図18では便宜的に、接続部333bの全体が空気で満たされた状態と、接続部333bの全体が液体30で満たされた正常な送液後の状態と、を対比して説明しているが、送液異常が生じる場合で最も可能性が高いケースは、接続部333bのうちの一部は液体30で満たされ、先端部分において部分的に空気で満たされた領域が形成されるケースである。たとえば
図18の画像410中で先細りした先端側から半分程度が空気で満たされるようなケースである。
【0166】
そのため、実際には、送液異常の場合の面積値は、上記した「5558」よりも低値となる。面積閾値は、実際に想定される定量誤差の許容範囲を考慮した上で、正常に送液が行われた場合の面積値である「0」に近い所定値とされる。なお、ここで示した面積値(画素数)は、単なる例示に過ぎない。正常に送液が行われた場合の面積値と、送液異常の場合の面積値との間で、有意な差が生じることが重要である。
【0167】
〈液体の異常判定〉
次に、液体30の異常の有無の判定について説明する。
【0168】
制御部140は、第2の液体保持部22に送液された液体30の性状が正常か否かを判定する。
図19に示す例では、液体30が血漿であり、液体30の異常が、乳びである。これにより、血中の脂質含有量が高いために白濁した乳び血漿であるか否かを判定できる。これにより、測定に影響を及ぼす検体の異常の有無を監視できる。
【0169】
血漿は、通常、黄色味を帯びた透明な液体である。乳び血漿は、血中の脂質含有量が高いために白濁した血漿である。すなわち、血漿中の脂質は、タンパク質と結合して球状粒子となっており、この球状粒子が血漿中に分散することで、白色に懸濁する。乳び血漿は、免疫測定における測定精度を悪化させる要因になる。
【0170】
図19では、空気で満たされた状態の接続部333bの画像421と、乳び血漿で満たされた状態の接続部333bの画像422と、を示す。乳び血漿は、球状粒子の懸濁液と言えるため、乳び血漿内の球状粒子により光が多重散乱して散乱光92を生じさせる。これにより、乳び血漿で満たされた状態では、空気で満たされた状態と同様に散乱光強度が高いレベルになる可能性がある。
【0171】
そこで、制御部140は、画像解析により、液体30の異常の有無の判定するための散乱光強度に関する情報40Bを取得する。
【0172】
具体的には、画像解析は、散乱光92が検出された領域内における散乱光強度のばらつきを示す指標値を算出する処理を含む。制御部140は、散乱光92が検出された領域内における散乱光強度のばらつきを示す指標値を算出する。
【0173】
図19の拡大画像421aおよび422aは、それぞれ画像421および422の中に示した矩形領域を拡大したものである。拡大画像421aおよび422aを比較すると分かるように、空気で満たされた状態の拡大画像421aと乳び血漿で満たされた状態の拡大画像422aとでは、散乱光強度のばらつきが相違する。
【0174】
すなわち、空気で満たされた状態の液体保持部20では、凹凸を有する内底面24だけが光を散乱させるため、内底面24の凹凸に応じて散乱光強度がばらつく。これに対して、乳び血漿で満たされた状態の液体保持部20では、乳び血漿全体で、懸濁した球状粒子により多重散乱が生じるため、散乱光強度のばらつきが均一化される。その結果、液体保持部20の全体で散乱光強度が略均一になる。つまり、拡大画像421aと比べて、拡大画像422aでは散乱光強度のばらつきが有意に小さくなる。
【0175】
散乱光強度のばらつきを示す指標値を算出する処理は、たとえば、sobelフィルタ処理である。sobelフィルタは、注目画素を中心とした近傍画素の画素値を用いて、近傍画素の画素値の不均一具合を注目画素の画素値として算出するものである。sobelフィルタによれば、画像中の画素値のばらつきが大きい領域は、フィルタ処理により画素値が相対的に高いレベルになる。画像中の画素値のばらつきが小さい領域は、フィルタ処理により画素値が相対的に低いレベルになる。したがって、sobelフィルタ処理後の処理画像における各画素の画素値は、散乱光強度を示すものではなく、散乱光強度のばらつきの大小を示す指標値となる。
【0176】
図19において、拡大画像421aおよび422aに対するsobelフィルタ処理後の処理画像421bおよび422bを示す。拡大画像421aでは、散乱光強度のばらつきが大きいため、フィルタ処理後の処理画像421bでは、画素値が高い領域(白色の領域)が全体に分布している。一方、拡大画像422aでは、散乱光強度のばらつきが小さいため、フィルタ処理後の処理画像422bでは、画素値が低い領域(黒色の領域)のみで、画素値が高い領域(白色の領域)がない。このように、処理画像からは、散乱光強度のばらつきの程度が評価できる。
【0177】
散乱光強度に関する情報40Bは、画像中の指標値の総和である。これにより、散乱光強度のばらつきの程度を評価できる。散乱光強度のばらつきの程度に基づいて、検出された散乱光92が、凹凸を有する内表面23から発生したものか否かを客観的に評価できる。
【0178】
具体的には、制御部140は、sobelフィルタによる処理画像421bおよび処理画像422bから、接続部333bが写る領域を抽出し、接続部333b以外の背景領域を除去する。そして、制御部140は、処理画像421bおよび処理画像422bの抽出領域に含まれる画素値の総和を求める。
図19の例では、画像421のフィルタ処理後の画素値の総和は「63593」であり、画像422のフィルタ処理後の画素値の総和は「3726」である。抽出領域に含まれる画素値の総和は、抽出領域内で、散乱光強度のばらつきの大きい領域(処理画像の白色の領域)の面積に相当する。
【0179】
制御部140は、液体30を監視するステップにおいて、指標値の総和と、総和の閾値とを比較し、比較結果に基づいて第2の液体保持部22へ送液された液体30の異常の有無を判定する。指標値の総和の閾値は、処理画像421bにおける総和と処理画像422bにおける総和との間の値に設定される。
【0180】
これにより、液体30の送液異常の有無に加えて、液体30自体の異常の有無を判定できる。すなわち、散乱光強度のばらつきの指標値から、検出された散乱光92が、凹凸を有する内表面23から発生したものか、液体30内での多重散乱により発生したものか、を判断できる。そのため、多重散乱を生じさせている異常な成分が液体30内に含まれているか否かを判定できる。
【0181】
制御部140は、散乱光強度に関する情報40Bとして取得した指標値の総和が閾値以下となる場合に、「液体の異常あり」と判定する。制御部140は、指標値の総和が閾値よりも大きい場合に、「液体の異常なし」と判定する。
【0182】
制御部140は、上記散乱光強度に関する情報40Aおよび40Bを組み合わせて、送液を監視する。制御部140は、散乱光強度に関する情報40Aおよび散乱光強度に関する情報40Bに基づいて、(1)「送液異常なし、液体の異常なし」か、(2)「送液異常なし、液体の異常あり」か、(3)「送液異常あり」か、のいずれに該当するかを判定する。
【0183】
以上の説明では、通路333の接続部333bにおける送液監視の例を示したが、監視対象はこれに限られない。
【0184】
また、以上の画像410の解析手法は、あくまでも一例である。画像解析は、どのような手法および判断基準によって行われてもよい。たとえば、散乱光強度のばらつきを示す指標値を算出する処理では、sobelフィルタに代えて、Prewittフィルタを用いてもよい。散乱光強度のばらつきの指標値としては、画像中の画素値の分散あるいは標準偏差であってもよい。散乱光強度に関する情報40Aとして、面積値ではなく、画素値の総和を取得してもよい。散乱光強度に関する情報40Bとして、指標値の総和ではなく、閾値以上の指標値を有する画素の数(すなわち、面積値)を取得してもよい。
【0185】
(検体測定装置の動作説明)
次に、
図20を参照して、検体測定装置100の動作について説明する。以下の説明において、検体測定装置100の構造については
図13を参照するものとする。カートリッジ300の構造については
図16および
図17を参照するものとする。
【0186】
まず、準備作業として、ユーザは、被検者から採取された血液検体をカートリッジ300の注入口343から注入する。ユーザは、液体チャンバ311が収容可能な所定量よりも多い量の検体を注入口343から注入する。カートリッジ300の測定項目の一例として、B型肝炎表面抗原(HBsAg)の測定例を示す。血液検体中の被検物質は、抗原を含む。として、抗原は、B型肝炎表面抗原(HBsAg)である。被検物質は、抗原、抗体、または、タンパク質のうち、1または複数であってもよい。測定項目は、前立腺特異抗原(PSA)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺ホルモン(FT4)などであってもよい。
【0187】
カートリッジ300の収容部341、342および反応チャンバ314には、あらかじめ所定の試薬が収容されている。具体的には、反応チャンバ314の径方向に位置する収容部341には、R1試薬が収容されている。反応チャンバ314内には、R2試薬が収容されている。反応チャンバ315の径方向に位置する収容部341には、R3試薬が収容されている。反応チャンバ316~318の径方向に位置する収容部341には、洗浄液が収容されている。反応チャンバ319の径方向に位置する収容部341には、R4試薬が収容されている。収容部342には、R5試薬が収容されている。
【0188】
図20のステップS61において、制御部140は、測定を開始するための初期動作を実行する。
【0189】
具体的には、制御部140は、蓋部152が閉じられたか否かを判断する。蓋部152が閉じられることにより、制御部140は、識別子400の読み取り動作を実行させる。制御部140は、回転機構111により、識別子400が撮像部131の撮像範囲132内に配置されるようにカートリッジ300を回転させる。制御部140は、照明部120および撮像部131により識別子400である二次元コードを撮影させる。制御部140は、撮影画像から、識別子400に記録された情報を取得する。また、制御部140は、原点センサ115により検出される原点位置と、識別子400の読取位置とに基づいて、各監視対象の回転位置を取得する。
【0190】
制御部140は、ステップS62以降、検体測定装置100による測定処理を開始させる。また、各ステップにおいて、制御部140は、監視対象のいずれかで測定処理の一部が実行された場合に、その監視対象を回転機構111によって撮像部131の撮像範囲132に位置付け、撮像部131に撮影させる。制御部140は、撮像部131の撮像画像に基づいて測定処理が正常に実行されたか否かを監視する。
【0191】
ステップS62において、制御部140は、検体である液体30を遠心分離する処理および遠心分離後の液体30を通路333に移送する処理を実施する。
【0192】
具体的には、
図21のステップS81において、制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を高速回転させ、遠心力により、液体30を通路331から液体チャンバ311に移動させる。このとき、所定量を超える余剰の液体30が、液体チャンバ312へ移動する。また、液体チャンバ311内では、遠心力により、液体30が血漿である液体成分と血球などの固体成分とに分離される。分離された血漿は、毛細管現象により通路333内に移動して通路333を満たす。
【0193】
ステップS82において、制御部140は、遠心分離後の監視対象の撮像を実施する。監視対象は、液体チャンバ311、液体チャンバ312、および、通路333の接続部333bである。液体チャンバ311を監視対象とする場合、通路331が第1の液体保持部21であり、液体チャンバ311が第2の液体保持部22である。液体チャンバ312を監視対象とする場合、液体チャンバ311が第1の液体保持部21であり、液体チャンバ312が第2の液体保持部22である。
図18および
図19に示したように、接続部333bを監視対象とする場合、液体チャンバ311が第1の液体保持部21であり、接続部333bが第2の液体保持部22である。
【0194】
制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を回転させて、第1の液体保持部21および/または第2の液体保持部22を撮像範囲132に移動させる。第1の液体保持部21および/または第2の液体保持部22は、撮像部131の真下に位置付けられる。制御部140は、照明部120から光を照射させる。制御部140は、撮像部131により内底面24の画像410を取得させる。ステップS83において、制御部140は、画像410に基づき、液体チャンバ311への送液異常の有無を判定する。
【0195】
図20のステップS63において、制御部140は、通路333の血漿と各収容部341の試薬とを移送する処理を実施する。
【0196】
具体的には、
図21のステップS81において、制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を回転させ、収容部341の封止体350を開栓部162の真下に位置付ける。制御部140は、開栓部162を駆動して収容部341の封止体350を開栓する。制御部140は、開栓動作を繰り返し行って、反応チャンバ314~319の径方向に位置する6個の収容部341の封止体350を開栓する。制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を回転させ、遠心力により、液体を移送する。すなわち、通路333の血漿が、通路333から反応チャンバ314に移送される。反応チャンバ314にR1試薬が送液される。反応チャンバ315にR3試薬が送液される。反応チャンバ316~318の各々に洗浄液が送液される。反応チャンバ319にR4試薬が送液される。
【0197】
ステップS82において、制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を回転させて、第1の液体保持部21および/または第2の液体保持部22を撮像範囲132に移動させ、撮像部131により画像410を取得させる。たとえば反応チャンバ314を監視対象とする場合、通路333が第1の液体保持部21であり、反応チャンバ314が第2の液体保持部22である。制御部140は、第1の液体保持部21である送液後の接続部333bの画像410を取得させる。送液後の接続部333bの画像410において、液体30が存在する領域の面積情報が許容範囲内になっていれば、通路333において定量された液体30の実質的に全量が反応チャンバ314に移送されたことが確認できる。このようにして、制御部140は、画像410に基づき、それぞれの第2の液体保持部22への送液異常の有無を判定する。
【0198】
液体の移送後、制御部140は、チャンバ310内の液体を攪拌する処理を実施する。すなわち、制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を回転させ、回転中に加速と減速とを繰り返す。これにより、反応チャンバ314において、血漿と、R1試薬と、R2試薬とが混合される。
【0199】
R1試薬は、被検物質と結合する捕捉物質を含む。捕捉物質は、たとえば、被検物質と結合する抗体を含む。抗体は、たとえば、ビオチン結合HBsモノクローナル抗体である。R2試薬は、磁性粒子を含む。磁性粒子は、たとえば、表面がアビジンでコーティングされたストレプトアビジン結合磁性粒子である。ステップS63が行われると、被検物質とR1試薬は、抗原抗体反応により結合する。そして、抗原-抗体反応体と磁性粒子との反応により、R1試薬の捕捉物質と結合した被検物質が、捕捉物質を介して磁性粒子と結合する。その結果、被検物質と磁性粒子とが結合した状態の複合体が生成される。
【0200】
次に、ステップS64において、制御部140は、反応チャンバ314内の複合体を、反応チャンバ314から反応チャンバ315へ移送する。
【0201】
複合体の移送の際、制御部140は、磁石駆動部161を駆動して、磁石161aをカートリッジ300に近付けて、反応チャンバ314内に広がる複合体を集める。制御部140は、磁石駆動部161の駆動による磁石161aの径方向移動と、回転機構111によるカートリッジ300の周方向移動とを組み合わせ、複合体を通路335に沿って移動させる。すなわち、制御部140は、反応チャンバ314内から、
図16の経路PT1の径方向内側移動、経路PT2の周方向移動、経路PT3の径方向外側移動の順で、反応チャンバ315まで複合体を移動させる。制御部140は、複合体の移動後、攪拌処理を行う。なお、反応チャンバ315~319の各々への複合体の移動は、同様の手法で実施されるので、詳細な説明は省略する。
【0202】
反応チャンバ315への複合体の移送により、反応チャンバ315において、反応チャンバ314で生成された複合体と、R3試薬とが混合される。ここで、R3試薬は、標識物質を含む。標識物質は、被検物質と特異的に結合する捕捉物質と、標識とを含む。たとえば、標識物質は、捕捉物質として抗体が用いられた標識抗体である。ステップS64の結果、被検物質と、捕捉抗体と、磁性粒子MPと、標識抗体とが結合した複合体が反応チャンバ315内で生成される。
【0203】
ステップS65において、制御部140は、反応チャンバ315内の複合体を、反応チャンバ315から反応チャンバ316へ移送する。これにより、反応チャンバ316において、反応チャンバ315で生成された複合体と、洗浄液とが反応チャンバ316内で混合される。ステップS65において、攪拌処理が行われると、反応チャンバ316内で複合体と未反応物質とが分離される。すなわち、反応チャンバ316では、洗浄により未反応物質が除去される。
【0204】
ステップS66において、制御部140は、反応チャンバ316内の複合体を、反応チャンバ316から反応チャンバ317へ移送する。これにより、反応チャンバ317においても、洗浄により未反応物質が除去される。
【0205】
ステップS67において、制御部140は、反応チャンバ317内の複合体を、反応チャンバ317から反応チャンバ318へ移送する。これにより、反応チャンバ318において、洗浄により未反応物質が除去される。
【0206】
ステップS68において、制御部140は、反応チャンバ318内の複合体を、反応チャンバ318から反応チャンバ319へ移送する。これにより、反応チャンバ319において、反応チャンバ314で生成された複合体とR4試薬とが混合される。ここで、R4試薬は、複合体を分散させるための試薬である。R4試薬は、たとえば緩衝液である。ステップS68において、攪拌処理が行われると、反応チャンバ314で生成された複合体が、反応チャンバ319内でR4試薬中に分散される。
【0207】
ステップS69において、制御部140は、R5試薬を反応チャンバ319に移送する。具体的には、制御部140は、ステップS63と同様にして、収容部342の封止体350を開栓させる。制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を回転させ、遠心力により、収容部342に収容されたR5試薬を反応チャンバ319に移送させる。反応チャンバ319において、ステップS68で生成された混合液に、さらにR5試薬が混合される。
【0208】
ここで、R5試薬は、複合体に結合された標識抗体との反応により光を生じる発光基質を含む。ステップS69において、測定試料が調製される。反応チャンバ319内の測定試料は、複合体に結合された標識物質と、発光基質とが反応することにより、化学発光する。
【0209】
ステップS70において、制御部140は、回転機構111によりカートリッジ300を回転させ、反応チャンバ319を検出器145aの真上の検出位置146に位置付ける。検出器145aは、反応チャンバ319から放射される光を検出する。
【0210】
ステップS71において、制御部140は、検出器145aにより検出した光に基づいて、免疫に関する測定処理を行う。測定部145は、フォトンを計数し、カウント値を出力する。制御部140は、測定部145から出力されたカウント値と、検量線とに基づいて、被検物質の有無および量などを測定し、測定結果を生成する。
【0211】
測定結果が得られると、制御部140は、ステップS72において、測定結果に、識別子400から読み取られた情報と、測定時の測定実施日時とを関連付けて、測定結果データ405として記憶部141に記録する。また、制御部140は、通信部142により、測定結果データ405を端末500およびサーバ600に送信する。
【0212】
以上により、検体測定装置100の測定動作が完了する。
【0213】
〈判定処理〉
次に、
図22を参照して、
図21のステップS83における判定処理を説明する。
【0214】
まず、ステップS91において、制御部140は、取得された画像410から、散乱光強度に関する情報40を取得する。解析の内容は、撮像する監視対象に応じて異なる。ここでは上記した接続部333bにおける送液監視を例に説明する。制御部140は、散乱光強度に関する情報40Aおよび散乱光強度に関する情報40Bを取得する。
【0215】
ステップS92において、制御部140は、散乱光強度に関する情報40Aが面積閾値以下であるか否かを判定する。制御部140は、散乱光強度に関する情報40Aが面積閾値以下となる場合に、ステップS93に進み、「送液異常なし、液体の異常なし」と判定して、判定処理を終了する。制御部140は、散乱光強度に関する情報40Aが面積閾値よりも大きい場合に、処理をステップS94に進める。
【0216】
ステップS94において、制御部140は、散乱光強度に関する情報40Bが指標値の総和の閾値以下であるか否かを判定する。制御部140は、散乱光強度に関する情報40Bが閾値以下となる場合に、ステップS95に進み、「送液異常なし、液体の異常あり」と判定する。制御部140は、散乱光強度に関する情報40Bが閾値よりも大きい場合に、ステップS96に進み、「送液異常あり」と判定する。
【0217】
ステップS96で「送液異常あり」と判定された場合、ステップS97において、制御部140が、測定を中止する。制御部140は、処理動作を中断して、測定を中止する。また、制御部140は、通知部143によりエラーが発生したことをユーザに通知する。異常により測定が中止された場合、測定結果は生成されない。
【0218】
ステップS95で「送液異常なし、液体の異常あり」と判定された場合、制御部140は、ステップS98において、異常処理を実施する。異常処理の具体例(1)~(3)を
図23に示す。
【0219】
(1)制御部140は、測定を中止する。つまり、制御部140は、ステップS97と同様の処理を行う。この場合、測定結果は出力されない。
【0220】
(2)制御部140は、測定中に使用者に通知する。制御部140は、計測動作を継続させながら、液体30に異常が認められたことをユーザに通知する。制御部140は、たとえば通知部143によりユーザに異常を通知する。制御部140は、たとえば端末500の表示部510に異常が生じたことを表示させる。
【0221】
(3)制御部140は、測定結果に、異常があった旨を併せて表示部510に表示する処理を行う。たとえば血漿に乳びが認められた場合に、制御部140は、乳びが認められたことを示すフラグ情報を記録しておく。制御部140は、ステップS71において測定結果を取得したとき、フラグ情報が記録されている場合には、測定結果に乳びが認められたことを示す情報を含めた測定結果データ405を生成する。制御部140は、ステップS72において、生成した測定結果データ405を端末500に送信し、端末500の表示部510に表示させる。
【0222】
このように、制御部140は、異常が判定された場合(S95、S96)に、測定を中止する、測定中に使用者に通知する、もしくは測定結果に異常があった旨を併せて表示部510に表示するステップ(S97、S98)を実施する。これにより、送液に異常があった場合に、送液に異常があったことを使用者が把握できる。
【0223】
以上のようにして、ステップS83の判定処理が実施される。
【0224】
なお、上記測定動作において、化学発光とは、化学反応によるエネルギーを利用して発せられる光であり、たとえば、化学反応により分子が励起されて励起状態になり、そこから基底状態に戻る時に放出される光である。化学発光は、たとえば、酵素と基質との反応により生じさせたり、電気化学的刺激を標識物質に与えることにより生じさせたり、LOCI法(Luminescent Oxygen Channeling Immunoassay)に基づいて生じさせたり、生物発光に基づいて生じさせたりすることができる。第1実施形態では、いずれの化学発光が行われてもよい。所定波長の光が照射されると蛍光が励起される物質と被検物質とが結合して複合体が構成されてもよい。この場合、反応チャンバ319に光を照射するための光源が配置される。光検出器は、光源からの光によって複合体に結合した物質から励起された蛍光を検出する。
【0225】
なお、磁性粒子としては、磁性を有する材料を基材として含み、通常の免疫測定に用いられる粒子であればよい。たとえば、基材としてFe2O3および/またはFe3O4、コバルト、ニッケル、フィライト、マグネタイトなどを用いた磁性粒子が利用できる。磁性粒子は、被検物質と結合するための結合物質がコーティングされていてもよいし、磁性粒子と被検物質とを結合させるための捕捉物質を介して被検物質と結合してもよい。捕捉物質は、磁性粒子および被検物質と相互に結合する抗原または抗体などである。
【0226】
また、捕捉物質は、被検物質と特異的に結合すれば特に限定されない。たとえば、捕捉物質は、被検物質と抗原抗体反応により結合する。より具体的に、捕捉物質は抗体であるが、被検物質が抗体である場合、捕捉物質は、その抗体の抗原であってもよい。また、被検物質が核酸である場合、捕捉物質は、被検物質と相補的な核酸であってもよい。標識物質に含まれる標識としては、たとえば、酵素、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼなどが挙げられる。化学発光として、電気化学発光をする場合、標識としては、電気化学的刺激により発光する物質であれば特に限定されないが、たとえばルテニウム錯体が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリンなどが利用できる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが利用できる。
【0227】
また、標識が酵素である場合、酵素に対する発光基質は、用いる酵素に応じて適宜公知の発光基質を選択すればよい。たとえば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合の発光基質としては、CDP-Star(登録商標)、(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2-(5’-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質;p-ニトロフェニルホスフェート、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発光基質;4-メチルウムベリフェニル・ホスフェート(4MUP)などの蛍光基質;5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリンなどの発色基質などが利用できる。
【0228】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0229】
たとえば、
図18において、画像中の接続部333b(すなわち、内表面23)が写る領域が設計情報から既知であり、既知の情報に基づいて領域抽出処理を行って抽出画像411b、412bを得ることを示したが、本発明はこれに限られない。既知の情報によらず、画像中に写る内表面23の領域を検出するようにしてもよい。
【0230】
すなわち、
図24に示す変形例では、画像解析が、散乱光強度と、散乱光強度の均一性とに基づいて、画像430(
図25参照)中における内表面の領域440(
図25参照)を抽出する処理(ステップS102参照)を含む。そして、散乱光強度に関する情報40が、抽出された内表面の領域440から取得される。これにより、誤差要因によって液体保持部20の位置が設計値から僅かにずれる場合でも、実際の画像430中における内表面の領域440を取得できるので、高精度が画像解析が可能となる。また、実際の画像430では、内表面23以外の部位からの光によるノイズ441(
図25参照)の存在が懸念される。これに対しても、内表面の領域440の散乱光強度が内表面23の凹凸によってばらつく一方、そのようなノイズ441では散乱光強度のばらつきが有意に小さくなることから、散乱光強度の均一性に基づいて、ノイズ441が含まれていても内表面23の位置を適切に検出できる。
【0231】
具体的には、
図24のステップS101において、制御部140は、第2の液体保持部22への液体30の移送前に、撮像部131および照明部120により、内表面23の画像430(
図25参照)を取得する。このとき、画像430中における内表面23の位置は、カートリッジ300の形状誤差や、回転機構111による回転位置制御の誤差などにより、設計値から僅かにずれている可能性がある。
【0232】
ステップS102において、制御部140は、散乱光強度と、散乱光強度の均一性とに基づいて、画像430中における内表面の領域440を抽出する処理を実行する。
図25を参照して、内表面の領域440を抽出する処理の詳細を説明する。
【0233】
ここで、画像430中には、内表面23が形成された流路10の外部で基板301の表面反射によるノイズ441が含まれうる。
図25では、接続部333bの先端部付近の基板表面で、点線で囲んで示したノイズ441が検出されている例を示す。ノイズ441が存在すると、単純に散乱光強度だけに基づいて内表面23と基板表面とを区別することが難しい。
【0234】
そこで、
図25の例では、凹凸を有する内表面の領域440と、流路10の外部とを、散乱光強度の均一性によって識別する。散乱光強度の均一性とは、注目画素とその周辺画素との画素値の差が小さいことを意味する。ノイズ441が検出された基板表面は、凹凸を有する内表面23よりも表面粗さが小さい平滑面である。そのため、
図25に示すノイズ441の領域では、内表面の領域440と比べて、画素値が均一である。
【0235】
ここでは、散乱光強度の均一性を評価する指標の一例として、変動係数(CV;Coefficient of Variation)を採用する。制御部140は、ステップS111において、画像430に対してCVフィルタ処理を実行することにより、画像430中の画素毎に変動係数を取得する。変動係数は、注目画素とその周辺画素とからなる画素群における各画素値から算出される。注目画素の変動係数CVは、CV=(画素群の画素値の標準偏差)/(画素群の画素値の平均値)となる。CVフィルタ処理後の処理画像431では、個々の画素の画素値が、変動係数の値を表す。処理画像431では、画素値が高い程、散乱光強度が不均一であることを示し、画素値が低い程、散乱光強度が均一であることを示す。画像430の内、内表面の領域440では、散乱光強度のばらつきが大きいことから、処理画像431において画素値が高くなる。一方、ノイズ441の領域では、散乱光強度のばらつきが小さいことから、処理画像431において画素値が低くなる。
【0236】
制御部140は、CVフィルタによる処理画像431に対して、2値化処理を行うステップS112を実行する。2値化閾値は、内表面の領域440における画素値範囲と、ノイズ441の領域における画素値範囲との間に設定される。ステップS112により、内表面の領域440を含む高画素値の領域が白(=255、上限値)、ノイズ441の領域が黒(=0、下限値)となる2値化画像432が得られる。
【0237】
また、制御部140は、処理画像431とは別に、ステップS113において、画像430の2値化処理を行い、散乱光強度に基づく2値化画像433を取得する。ステップS113の2値化処理は、
図18に示した2値化処理と同様であるので、説明を省略する。2値化画像433では、単に散乱光強度に基づいて2値化処理を行っただけであるので、画像430にノイズ441が含まれる場合には、内表面の領域440のみならずノイズ441の領域も白(=255)となる。
【0238】
制御部140は、ステップS114において、散乱光強度に基づく2値化画像433と、変動係数に基づく2値化画像432と、に基づいて、内表面の領域440を抽出した領域画像434を取得する。具体的には、制御部140は、2値化画像433と2値化画像432との論理積(AND)を求める。これにより、2値化画像433と2値化画像432とで画素値が共通して白(=255)となる領域のみが、領域画像434において白(=255)となる。
【0239】
論理演算の結果、2値化画像433のみに存在するノイズ441の領域は除去され、2値化画像433と2値化画像432とで共通して存在する内表面の領域440(すなわち、流路10の内部)だけが白(=255)の画素値を有する領域として抽出される。なお、正確には、
図25の2値化画像433と2値化画像432とで論理積を演算すると、内表面の領域440の内側に点在する黒い領域が領域画像434においても残ることになる。制御部140は、モルフォロジー変換などの公知の補正処理を実行して点在する黒い領域を除去し、
図25に示す領域画像434を取得する。領域画像434の白い領域が、内表面の領域440となる。
【0240】
以上のステップS111~S114により、制御部140は、内表面の領域440を抽出する。制御部140は、抽出された内表面の領域440から散乱光強度に関する情報40を取得する。
【0241】
すなわち、
図24に示すように、内表面の領域440を抽出した後、ステップS103において、制御部140は、第1の液体保持部21の液体を第2の液体保持部22に移送させる処理を行う。ステップS104において、制御部140は、第2の液体保持部22への液体30の移送後に、撮像部131および照明部120により、第2の液体保持部22の画像410(
図18参照)を取得する。そして、ステップS105において、制御部140は、画像410の処理画像412aのうちから、ステップS102で取得した領域440により特定される範囲を抽出して抽出画像412b(
図18参照)を取得し、散乱光強度に関する情報40を取得する。ステップS106において、制御部140は、散乱光強度に関する情報40に基づき、第2の液体保持部22への送液を監視する。ステップS103~S106の処理は、既に説明した通りであるので詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0242】
10:流路、20:液体保持部、21:第1の液体保持部、22:第2の液体保持部、23:内表面、24:内底面、30:液体、40、40A、40B、41、42:散乱光強度に関する情報、91:光、92:散乱光、100:検体測定装置、110:送液部、120、120A、120B:照明部、130:光検出部、131:撮像部、140:制御部、145:測定部、410、411、412、421、422:画像、510:表示部