(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】表面仕上げ装置
(51)【国際特許分類】
B23D 79/02 20060101AFI20231017BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20231017BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20231017BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B23D79/02
B25J13/08 Z
B23Q17/09 A
B23Q17/24 C
B23Q17/24 A
(21)【出願番号】P 2019185272
(22)【出願日】2019-10-08
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 保
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-058285(JP,A)
【文献】特開平05-123921(JP,A)
【文献】特開2016-137551(JP,A)
【文献】特開2010-240809(JP,A)
【文献】特開平07-136843(JP,A)
【文献】特開昭59-076717(JP,A)
【文献】実開昭55-134135(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0259946(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0214143(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0275280(US,A1)
【文献】特開2018-144207(JP,A)
【文献】特開2017-131974(JP,A)
【文献】特開2013-141709(JP,A)
【文献】特開平08-187620(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2624087(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 79/02
B23Q 15/00-15/28
B23Q 17/00-23/00
B25J 1/00-21/02
G05B 1/00-7/04
G05B 19/18-19/416
G06N 10/00-99/00
B08B 1/00-1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームと、
前記アームの先端に取付けられたツールと、
前記ツールに加わる力を検出する力センサと、
金属製の部材において加工により形成された平面を撮像する視覚センサと、
前記平面の目標状態を示すデータを格納している記憶装置と、
前記視覚センサによって得られる未仕上げ撮像データと前記目標状態を示すデータとを少なくとも用いて、前記部材の前記平面上における複数の除去位置であって、互いに離間している複数の除去位置を決定する除去位置決定処理と、決定された前記複数の除去位置を順次前記ツールによって表面除去するために前記アームを制御するアーム制御処理と、を行う制御装置と、を備え、
前記視覚センサによって撮像される前記平面には、表面検査剤が塗られると共に、金属製の平坦面が擦り合わせられ、これにより前記平面に当該平面の状態に応じて表面検査剤が分布しており、
前記制御装置は、前記力センサの検出結果を用いて、前記表面除去を行う時に前記ツールに加わる力を制御
し、
前記制御装置は、前記ツールによる前記表面除去が行われた前記平面の状態の観察データに基づき、前記複数の除去位置の各々における前記ツールによる表面除去跡の状態の適否判断を行う、表面仕上げ装置。
【請求項2】
前記観察データは、前記表面除去が行われた後の前記平面を前記視覚センサ又は他の視覚センサによって撮像することによって得られる撮像データである、請求項
1に記載の表面仕上げ装置。
【請求項3】
少なくとも前記未仕上げ撮像データ、前記目標状態を示すデータ、および前記観察データを学習用データとして用いて、前記複数の除去位置の決定のための学習を行う学習部を備える、請求項
1又は2に記載の表面仕上げ装置。
【請求項4】
少なくとも前記未仕上げ撮像データおよび前記観察データを学習用データとして用いて、前記表面除去を行う時に前記ツールに加える力を最適化するための学習を行う学習部を備える、請求項
1又は2に記載の表面仕上げ装置。
【請求項5】
少なくとも前記未仕上げ撮像データおよび前記観察データを学習用データとして用いて、前記表面除去を行う時の前記ツールの移動速度を最適化するための学習を行う学習部を備える、請求項
1又は2に記載の表面仕上げ装置。
【請求項6】
少なくとも前記表面除去跡の前記状態又は前記表面除去跡の前記状態の前記適否判断の結果と前記未仕上げ撮像データとを学習用データとして用いて、前記未仕上げ撮像データにあらわれる表面状態に対する前記ツールの適否に関する学習を行う学習部を備える、請求項1又は2に記載の表面仕上げ装置。
【請求項7】
複数のツールを保持しているツール保管部をさらに備え、
前記制御装置は、前記未仕上げ撮像データと前記目標状態を示すデータとを少なくとも用いて、前記アームの前記先端に取付けられるべきツールを決定するツール決定処理と、決定された前記ツールを前記アームの前記先端に取付けるために前記アームを制御するツール交換処理と、を行う、請求項1~6の何れかに記載の表面仕上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面仕上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボット又は加工機械のアームの先端にキサゲ工具を取り付け、アームを動作させることによって工作機械等のベッド用板状部材の上平面等にキサゲ加工を行うことが知られている。例えば特許文献1~4を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-137551号公報
【文献】特開2010-240809号公報
【文献】特開平07-136843号公報
【文献】特開平05-123921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにキサゲ加工を自動化する試みが行われている。しかし、キサゲ加工は、一例では、フライス加工、研磨加工等の機械を用いて精密加工された平面であって、10μm以下の凹凸で穏やかに波打っている平面の平面度を、機械を用いた加工の精度を超えて調整するものである。また、キサゲ加工は、経験に基づく特別な知識および技術を持った職人のみが適切に施すことができる特殊な加工である。一例では、各職人は、自分の経験に基づきカスタマイズされた特別なキサゲ工具を用いて、手に伝わる感覚を頼りに平面の複数個所を削り、また、経験と勘に基づき削る位置に応じてキサゲ工具に加える力、削る速度等を変化させる。また、職人は、平面の状態、大きさ、用途等に応じて、削る位置、キサゲ工具の種類、キサゲ工具に加える力、および削る速度等をその経験と勘に基づき変える。このような知識および技術を持った職人の高齢化が進んでおり、その後継者も育っていない。
【0005】
また、工作機械等のベッド用板状部材を複数製造する時、当該複数の板状部材の上平面の状態は互いに異なる。このため、キサゲ職人は製造された板状部材毎に削る位置を決定し、各々の位置に応じた力および速度でキサゲ加工を行っている。このように、キサゲ加工は特別な経験に基づく高度な技術を持つキサゲ職人によって行われており、これを精度良く実際に自動化することは非常に難しい。
【0006】
前述の事情に鑑み、ロボットによる高精度なキサゲ加工を可能とする表面仕上げ装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の表面仕上げ装置は、アームと、前記アームの先端に取付けられたツールと、前記ツールに加わる力を検出する力センサと、金属製の部材において加工により形成された平面を撮像する視覚センサと、前記平面の目標状態を示すデータを格納している記憶装置と、前記視覚センサによって得られる未仕上げ撮像データと前記目標状態を示すデータとを少なくとも用いて、前記部材の前記平面上における複数の除去位置であって、互いに離間している複数の除去位置を決定する除去位置決定処理と、決定された前記複数の除去位置を順次前記ツールによって表面除去するために前記アームを制御するアーム制御処理と、を行う制御装置と、を備え、前記視覚センサによって撮像される前記平面には、表面検査剤が塗られると共に、金属製の平坦面が擦り合わせられ、これにより前記平面に当該平面の状態に応じて表面検査剤が分布しており、前記制御装置は、前記力センサの検出結果を用いて、前記表面除去を行う時に前記ツールに加わる力を制御し、前記制御装置は、前記ツールによる前記表面除去が行われた前記平面の状態の観察データに基づき、前記複数の除去位置の各々における前記ツールによる表面除去跡の状態の適否判断を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態の表面仕上げ装置の斜視図である。
【
図2】本実施形態の表面仕上げ装置の要部側面図である。
【
図3】本実施形態の表面仕上げ装置のロボットの制御装置のブロック図である。
【
図4】本実施形態において表面除去される板状部材に金属製部材を擦り合わせている状態を示す図である。
【
図5】本実施形態において表面除去される板状部材の表面に関する未仕上げ撮像データの一例である。
【
図6】本実施形態のロボットの制御装置の処理の例を示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態において決定された除去位置の例を示す図である。
【
図8】本実施形態において表面除去された板状部材の表面に関する観察データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る表面仕上げ装置1が、図面を用いながら以下説明されている。
一実施形態の表面仕上げ装置1は、ロボット2と、ロボット2のアーム10を制御するための制御装置20とを備える。また、この表面仕上げ装置1は、ロボット2のアーム10の先端に取付けられた力センサ30と、ロボット2のアーム10の先端に力センサ30を介して取付けられたツール50と、視覚センサ60とを備える。
【0010】
本実施形態では、表面仕上げ装置1は、
図1に示されるような板状部材Pの厚さ方向一方の面である平面Sの複数個所に表面除去を行う。板状部材Pは例えば工作機械のベッドとして用いられるものである。板状部材Pの平面Sはフライス加工、研磨加工等によって完全な平面を目標に精密加工されたものである。しかし、そのような精密加工が行われた後でも、平面Sが10μm以下の凹凸で緩やかに波打っている場合が多く、平面Sの一部が僅かに傾斜している場合もある。当該凹凸および傾斜は工作機械の加工精度を向上するために無い方が好ましい。
【0011】
このため、従来は、平面Sのほぼ全面に表面検査剤を塗った後、
図4に示されるように平面Sに金属製部材における平坦面S
0を擦り合わせ、これにより平面S上における前記凹凸又は前記傾斜の有無を検査している。つまり、平坦面S
0との擦り合わせによって表面検査剤が除去された部分が他に対して突出している部分である。
【0012】
例えば、発見された前記凹凸又は前記傾斜に基づき、職人がノミ状の工具又は先端が平板状である工具を平面Sの複数の除去位置に押し当てると共に、各除去位置において職人が前記工具を数cm以下の距離、例えば2cm以下の距離だけ動かす。これにより、各除去位置が工具によって引っ掻かれ、各除去位置の表面除去が行われる。当該表面除去は、数μm、典型的には3μm以下の厚みを平面Sから除去するものである。当該表面除去によって、平面Sの前記波打っている状態が軽減又は無くなり、これは工作機械の加工精度を向上する上で好ましい。
【0013】
一方、ボールネジブラケットが取付けられる取付面、前記平面S等が完全に鏡面状の平面であり、その相手側部材との間に隙間が全く無くなると、平面Sおよび前記取付面と相手側部材との間に潤滑油が存在しなくなる。これは、焼き付き等の作動不良の原因になり好ましくない。当該作動不良を無くすために、職人がノミ状の工具又は先端が平板状である工具を例えば前記取付面の複数の除去位置に押し当てると共に、各除去位置において職人が前記工具を数cm以下の距離、例えば2cm以下の距離だけ動かす。当該表面除去は、数μm、典型的には3μm以下の厚みを平面Sから除去するものである。当該表面除去によって、前記取付面に油たまりとして機能する凹部が形成され、これは焼き付き等の動作不良の軽減又は防止に貢献する。
【0014】
本実施形態のツール50は、
図2に示されるように、力センサ30を介してロボット2のアーム10の先端部に固定された被固定部51と、被固定部51から延びている板状の延設部52と、延設部52の先端に固定された平板状の先端部53とを有する。一例では、被固定部51および延設部52は金属から成り、先端部53は工具鋼等の高硬度の鋼から成る。本実施形態では、ロボット2は、先端部53を板状部材Pの平面Sに押し当て、前記表面除去を行う。
視覚センサ60は本実施形態では二次元カメラであるが、三次元カメラを用いることも可能である。
【0015】
ロボット2のアーム10は、複数のアーム部材および複数の関節を備えている。また、アーム10は、複数の関節をそれぞれ駆動する複数のサーボモータ11を備えている(
図3参照)。各サーボモータ11として、回転モータ、直動モータ等の各種のサーボモータが用いられ得る。各サーボモータ11はその作動位置および作動速度を検出するための作動位置検出装置を有し、作動位置検出装置は一例としてエンコーダである。作動位置検出装置の検出値は制御装置20に送信される。
【0016】
力センサ30は、周知の6軸力センサである。力センサ30は、
図1に示されるように、アーム10の手首フランジ12に固定されている。また、力センサ30のZ軸の延びる方向は、アーム10の手首フランジ12の中心軸線CLが延びる方向と平行である。本実施形態では、力センサ30の中心軸線が手首フランジ12の中心軸線CLと一致している。以下の説明では、
図1に示されている力センサ30のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向を、単にX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向と称する場合がある。
【0017】
力センサ30は、ツール50に加わるZ軸方向の力、X軸方向の力、およびY軸方向の力を検出する。また、力センサ30は、ツール50に加わるZ軸周りのトルク、X軸周りのトルク、およびY軸周りのトルクも検出する。本実施形態では力センサ30として6軸センサを用いているが、3軸力センサ、2軸力センサ、1軸力センサ等を用いることも可能である。
【0018】
制御装置20は、
図3に示されるように、CPU等のプロセッサ21と、表示装置22と、不揮発性ストレージ、ROM、RAM等を有する記憶装置23と、キーボード、タッチパネル、操作盤等である入力装置24と、信号の送受信を行うための送受信部25とを備えている。入力装置24および送受信部25は入力部として機能する。制御装置20は力センサ30および各サーボモータ11に接続されている。
【0019】
本実施形態では、制御装置20はロボット2に設けられたロボット制御装置である。一方、制御装置20は、ロボット制御装置内又はロボット制御装置外に設けられ、上記の構成を有するコンピュータであってもよい。
【0020】
記憶装置23にはシステムプログラム23aが格納され、システムプログラム23aは制御装置20の基本機能を担っている。記憶装置23には動作プログラム23bも格納されている。動作プログラム23bはロボット2の基準座標系を基準に作成され、当該基準座標系においてアーム10の先端部に取付けられたツール50を複数の除去位置および姿勢に順次配置するためのものである。
【0021】
記憶装置23には表面除去プログラム23cも格納されている。表面除去プログラム23cは、各除去位置に配置されたツール50を力制御を用いながら所定の距離、例えば数cm以下の距離(本実施形態では2cm以下の距離)だけ押し、これにより、各除去位置において平面Sをツール50によって引っ掻くものである。
【0022】
記憶装置23には除去位置決定プログラム23dも格納されている。除去位置決定プログラム23dは、視覚センサ60の撮像データを画像処理し、処理後画像において前記複数の除去位置を決定するものである。
【0023】
記憶装置23には学習プログラム23eも格納されている。本実施形態では、学習プログラム23eに基づき作動する制御装置20が学習部として機能するが、学習プログラム23eに基づき他のコンピュータが学習部として機能してもよい。
制御装置20は、動作プログラム23b、表面除去プログラム23c、除去位置決定プログラム23d、および学習プログラム23eに基づいて、例えば以下の処理を行う(
図6)。
【0024】
先ず、板状部材Pが所定の載置部70上に載置又は固定されている状態で、制御装置20は除去位置決定プログラム23dに基づき視覚センサ60に撮像指令を送信する(ステップS1-1)。これにより、制御装置20は視覚センサ60によって得られた未仕上げ撮像データを受信する。本実施形態では、視覚センサ60の視野に板状部材Pの平面Sの全体が入っている。視覚センサ60の視野に板状部材Pの平面Sの一部だけが入っている場合は、制御装置20は、視覚センサ60を移動しながら板状部材Pの平面Sの全体を撮像する。この場合、視覚センサ60はロボット2のアーム10等の移動手段によって移動可能である。
【0025】
なお、視覚センサ60による撮像が行われる前に、平面Sには表面検査剤が塗られ、その後に平面Sに
図4に示されるように金属製部材における平坦面S
0が擦り合わせられている。当該作業は本実施形態では検査用処理と称する。前記擦り合わせによって、平面S上において他よりも突出している部分(高い部分)の表面検査剤が除去される。表面検査剤は一例では色付きの粉末であり、このような粉末は光明丹と呼ばれている。
【0026】
続いて、制御装置20は除去位置決定プログラム23dに基づき、得られた未仕上げ撮像データに必要に応じて画像処理を施し、処理後画像において表面検査剤の分布状態を検出する(ステップS1-2)。例えば、
図5に示されるように、板状部材Pの平面Sにおいて表面検査剤が存在していない範囲ARが検出される。なお、平面Sにおいて表面検査剤による色の濃度に応じて複数種類の範囲が検出されてもよい。この場合、平面Sにおいて、色が第1の色よりも薄い第1範囲、色が第1の色よりも濃い第2の色よりも薄い第2範囲等が検出される。なお、ステップS1-2において得られた分布状態を示す画像も、未仕上げ撮像データの一態様である。
【0027】
続いて、制御装置20は除去位置決定プログラム23dによって作動し、平面Sにおける前記範囲AR、第1範囲、第2範囲等の分布に基づき、
図7に示されるように表面除去を行うべき複数の除去位置RPを決定する(S1-3)。複数の除去位置RPは互いに離間している。また、この時、制御装置20は、各除去位置RPについて除去方向も
図7の矢印のように決定する。なお、除去方向が固定されている時は、制御装置20は除去方向の決定を行わない。
【0028】
なお、表面除去が行われた後の平面Sの状態を視覚センサ60又は他の視覚センサによって撮像することによって得られる複数の仕上げ後撮像データが、制御装置20の記憶装置23に格納されていてもよい。本実施形態では、複数の仕上げ後撮像データは同じ種類の板状部材Pの平面Sに関するものであるが、異なる種類の板状部材の平面に関するものであってもよく、他の部材の平面に関するものであってもよい。また、使用上問題無い状態になっている平面Sについてこれら複数の仕上げ後撮像データが格納されている。
【0029】
また、複数の板状部材Pを作成した場合、平面Sにおける前記範囲AR、第1範囲、第2範囲等の分布は複数の板状部材Pで互いに異なる。このため、複数の仕上げ後撮像データは、互いに表面除去の位置および数が異なる。
ステップS1-3を行う際に、制御装置20は、複数の仕上げ後撮像データ(目標状態を示すデータ)の中からステップS1-2で検出される表面検査剤の分布状態に適合した仕上げ後撮像データも用いて、表面除去を行うべき複数の除去位置RPを決定する。複数の仕上げ後撮像データがそれぞれ表面除去を行う前の表面検査剤の分布状態のデータを持っていてもよい。この場合、除去位置RPの決定がより正確に行われることになる。
【0030】
ステップS1-3を行う際に、目標状態を示すデータとして、操作者が入力装置24に目標を入力してもよい。一例では、操作者は、第1の目標として、表面除去の目的を入力する。また、第2の目標として、操作者は、表面除去の後の平面Sに前記検査用処理を行い、平面Sを視覚センサ60によって撮像した時に、前記範囲ARが平面Sにおいて占める範囲をパーセンテージで入力する。また、操作者は、第3の目標として、表面除去を重点的に行うべき範囲を入力する。例えば、
図5において平面Sの上半分、上下方向の中間部等の平面Sの一部の表面除去を重点的に行う時は、その一部の範囲を指定するための入力が行われる。第1の目標は、表面仕上げ装置1において表面除去の目的が決まっている場合は不要である。第1~第3の目標は記憶装置23に格納される。
【0031】
ステップS1-3を行う際に、制御装置20は、複数の仕上げ後撮像データ、第1の目標、第2の目標、および第3の目標のうち一つ又はその組合せを用いて、表面除去を行うべき複数の除去位置RPを決定してもよい。
【0032】
続いて、制御装置20は、表面除去プログラム23cに基づき、何れのツール50を使うべきか決定する(ステップS1-4)。表面仕上げ装置1はツール置き台、ツールカートリッジ等のツール保管部80を備えており、ツール保管部80には複数のツール50が保管されている。複数のツール50は互いに先端部53の形状、材質等が異なる。ステップS1-4の決定の時に、制御装置20は、例えば、複数の仕上げ後撮像データ、第1の目標、第2の目標、および第3の目標のうち一つ又はその組合せと、ステップS1-2において未仕上げ撮像データに基づき得られた表面検査剤の分布状態とを用いる。
【0033】
続いて、制御装置20は、表面除去プログラム23cに基づき、ステップS1-4において決定されたツール50をロボット2に装着するために、ロボット2のアーム10を制御する(ステップS1-5)。当該装着を行うために、本実施形態では、アーム10の手首フランジ12には公知のオートツールチェンジャーの雄部品が固定され、各ツール50の被固定部51にはオートツールチェンジャーの雌部品が固定されている。
【0034】
続いて、制御装置20は、動作プログラム23bに基づき、ステップS1-3において決定された複数の除去位置RPに順次ツール50の先端を配置するために、アーム10を制御する(ステップS1-6)。この時、制御装置20は、力センサ30の検出結果を用いて、各除去位置RPにおいてツール50の先端が平面Sに接触したことを検出し、接触が検出された時にツール50が除去位置RPに配置されたと判断する。ステップS1-6において、制御装置20は、ツール50の先端を
図7に示された矢印の方向に向けるために、アーム10の先端部の姿勢を制御する。
【0035】
続いて、制御装置20は、表面除去プログラム23cに基づき、力センサ30の検出結果を用いてツール50に加わる力を制御しながら、ツール50をその先端が向かう方向に2cm以下の距離だけ移動させる(ステップS1-7)。ステップS1-7において、制御装置20が、ツール50を移動させる移動速度を制御してもよい。例えば、制御装置20は、ツール50の移動速度が所定の速度範囲に入るように制御する。
【0036】
制御装置20は、ステップS1-6およびS1-7を除去位置RPの数に応じた回数だけ繰り返したら(ステップS1-8)、制御装置20は、入力装置24への入力等に基づき、視覚センサ60に撮像指令を送信する(ステップS1-9)。入力装置24への前記入力が行われる前に、平面Sには前記検査用処理が行われている。
【0037】
また、制御装置20は、ステップS1-9によって得られた撮像データ(観察データ)に必要に応じて画像処理を施し、処理後画像において表面検査剤の分布状態を検出する(ステップS1-10)。ステップS1-10において得られた分布状態を示す画像も観察データの一例である。なお、ステップS1-10において得られた分布状態を示す画像は、次以降の表面除去において仕上げ後撮像データとして用いられる。ステップS1-10における制御装置20の処理は、ステップS1-2における処理と同様である。なお、ステップS1-10で得られた観察データを用いて、制御装置20は表面除去が行われた平面Sの平面度を評価することが可能となる。
【0038】
図8に表面除去が行われた平面Sの例が示されている。各除去位置RPにおいて表面除去を行うことによって形成された表面除去跡RMの中には表面検査剤が溜まりやすい。このため、ステップS1-10において、制御装置20は、表面除去跡RMの中の表面検査剤を無視して表面検査剤の分布状態を検出することもできる。
なお、
図8では、表面除去跡RMは互いに離れているが、表面除去跡RMが互いにオーバーラップしていてもよい。
【0039】
制御装置20は、ステップS1-2で得られた未仕上げ撮像データとしての表面検査剤の分布状態の画像と、ステップS1-10で得られた観察データとしての表面検査剤の分布状態の画像とを、両者を対応付けた状態で記憶装置23に保存する(ステップS1-11)。保存された観察データは、次以降の表面除去において、ステップS1-3の仕上げ後撮像データとして用いられる。
【0040】
制御装置20は、学習プログラム23eによって作動し、次の表面除去を行う際のステップS1-3の複数の除去位置RPの決定のための学習を行う(ステップS1-12)。この時、制御装置20は、記憶装置23に保存されている未仕上げ撮像データおよび観察データと、複数の仕上げ後撮像データ、第1の目標、第2の目標、および第3の目標のうち一つ又はその組合せとを用いる。複数の仕上げ後撮像データ、第1の目標、第2の目標、および第3の目標のうち一つ又はその組合せは、前述のように、目標状態を示すデータである。
【0041】
例えば、目標状態を示すデータに対して、観察データにおける表面検査剤の分布状態を評価する。例えば
図5の左下の小さな範囲ARは表面除去によって十分に広がったが、
図5の上および右下の大きな範囲ARが表面除去によって十分に広がらなかった場合、上および右下の大きな範囲ARに関する表面除去が不十分であったと評価される。当該評価がされる場合、制御装置20は、学習結果として、範囲ARが大きい場合に除去位置RPの数を増やすおよび/又は除去位置RPを配置する範囲を大きくする。当該学習結果を得る上で、範囲AR同士の離間距離も考慮され得る。その他、各範囲ARの形状、各範囲ARの位置、各範囲ARの周囲の表面検査剤の色の濃さ等も考慮され得る。
【0042】
なお、ステップS1-12において、制御装置20が単に観察データにおける表面検査剤の分布状態を評価してもよい。
なお、制御装置20は、学習プログラム23eによって作動し、前記未仕上げ撮像データおよび前記観察データを用いて、表面除去を行う時に前記ツールに加わる力を最適化するための学習を行うこともできる。観察データにおいて、表面検査剤が表面除去跡RMの端部に多く溜まっている場合がある。このように表面除去跡RMの端部に表面検査剤が多く溜まる原因の一つは、当該端部に形成されている大きな段差である。当該段差は表面除去における削り取り量に関係している。
【0043】
このため、制御装置20は、前記最適化の一例として、前記未仕上げ撮像データおよび前記観察データを用いて、表面除去を行う時にツール50に加わる力を大きく又は小さくすることができる。
なお、前記ステップS1-12において、表面検査剤の溜まり量に基づき前記段差の大きさを推定し、当該推定結果を用いて各表面除去の跡(表面除去跡RM)の適否を判断することもできる。
【0044】
また、制御装置20は、学習プログラム23eによって作動し、前記未仕上げ撮像データおよび前記観察データを用いて、表面除去を行う時のツール50の移動速度を最適化するための学習を行うこともできる。前記段差が大きくなる原因の一つとして、ツール50の移動速度が遅いことが考えられる。このため、制御装置20は、前記最適化の一例として、前記未仕上げ撮像データおよび前記観察データを用いて、表面除去を行う時のツール50の移動を速く又は遅くすることができる。
【0045】
また、制御装置20は、学習プログラム23eによって作動し、前記未仕上げ撮像データおよび前記観察データを用いて、状況に応じた最適なツール50について学習することもできる。前記段差が大きくなる原因の一つとして、今回の表面除去に使用したツール50がその平面Sに適していない場合もある。例えば、前記段差が大きくなり過ぎる傾向がある場合もあり、表面除去跡RMが意図しない形状になっている場合もある。これらには、平面Sの加工粗さ等が影響している可能性がある。平面Sを加工する工具や研磨する工具の劣化等によって、平面Sの加工粗さは変化していく。また、平面Sの場所によって加工痕の延びる方向が異なる。これらの表面状態は未仕上げ撮像データにあらわれるので、制御装置20は、今回の未仕上げ撮像データにあらわれる表面状態に対してツール50が適していたか否かを学習できる。
【0046】
なお、操作者は観察データに関する情報を入力装置24から入力することができる。例えば、操作者はキサゲ加工の職人又はキサゲ加工について十分な経験および知識を有する者であり、キサゲ加工後の平面Sの状態を正確に評価することができる。操作者は、ステップS1-10で得られる観察データについて、合格又は不合格の判定、不合格である場合の理由等を入力装置24に入力する。制御装置20は、入力された観察データに関する情報を当該観察データと対応付けて記憶装置23に保存する。当該観察データに関する情報は学習用データの一例であり、除去位置RPの数や位置に関する学習、ツール50に加える力に関する学習、ツール50の移動速度に関する学習に用いられる。
なお、記憶装置23に格納されている前記複数の仕上げ後撮像データの中に、キサゲ加工の職人が加工した平面Sの仕上げ後撮像データが含まれていてもよい。
【0047】
本実施形態では、視覚センサ60によって得られる未仕上げ撮像データと第1の目標等の目標状態を示すデータとを用いて、平面S上における複数の除去位置RPが決定され、アーム10の先端のツール50によって複数の除去位置RPにおいて順次表面除去が行われる。また、力センサ30の検出結果を用いて、制御装置20は表面除去の時にツール50に加わる力を制御する。
【0048】
当該構成によって、自動的に表面除去を行う位置が決定されるので、キサゲ加工の職人等のように当該加工に精通した者が居なくても、表面除去を行う位置を決定することができる。また、ツール50に加わる力が制御されるので、例えば3μm以下の深さでの表面除去を正確に行うことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、観察データに基づき、表面除去を行った後の平面Sの適否判定および/又は表面除去跡RMの状態の適否判定が行われる。このため、キサゲ加工の職人等のように当該加工に精通した者が居なくても、表面除去後の平面Sが使用できるものか否かを判断することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、観察データは、表面除去が行われた後の平面Sを視覚センサ60又は他の視覚センサによって撮像することによって得られる撮像データである。前述のように、複数の板状部材Pの平面Sの状態は互いに異なっており、除去位置RPの分布や数も板状部材P毎に異なる。つまり、表面除去後の範囲ARの総面積が同一である2つの平面Sがあっても、2つの平面Sにあらわれる範囲ARの形状、数等は互いに異なる。このため、表面除去が行われた後の平面Sの撮像データを観察データとして用いることは、表面除去が行われた後の平面Sの状態を正確に判断することに繋がる。
なお、観察データは、平面Sの表面形状を表面粗さ測定等によって測定して得られるデータであってもよい。
【0051】
また、本実施形態では、少なくとも未仕上げ撮像データ、目標状態を示すデータ、および観察データを学習用データとして用いて、複数の除去位置RPの決定のための学習を行う。例えば、観察データとして表面除去後の平面Sにおける表面検査剤の分布状態を用いると、学習において平面Sのどの部分において表面除去の過不足があるか判断することが可能となる。
【0052】
また、前述のように、複数の板状部材Pの平面Sの状態は互いに異なっており、除去位置RPの分布や数も板状部材P毎に異なる。このため、同じ場所に同じ表面除去を行っても、複数の板状部材Pの平面Sの平面度を均一にすることができない。また、キサゲ加工の職人は自身の持つ知識や感覚を正確に他人に伝えることができない。板状部材P毎に適用する技術や感覚が異なり、キサゲ加工用のツールが職人毎に異なることが、このような状況の原因の一つである。機械学習の学習用データとして表面除去後の平面Sにおける表面検査剤の分布状態を用いると、制御装置20は学習の繰り返しによってキサゲ加工の職人が持っている知識や感覚に対応するデータを得ることができる。これは、従来は機械の加工精度の限界を超えており職人の技術に頼らなければならなかった領域を、機械によって加工することを可能にするために、極めて有用である。
【0053】
また、本実施形態では、少なくとも未仕上げ撮像データおよび観察データを学習用データとして用いて、表面除去を行う時にツール50に加える力を最適化するための学習を行う。前述のように、キサゲ加工の職人は自身の持つ知識や感覚を正確に他人に伝えることができない。表面除去跡RMの適否は表面除去を行う箇所によって異なり、例えば、他よりもかなり高いところは深めに表面除去を行う必要があり、僅かに高いところは浅めに表面除去を行う必要がある。この加減は数値であらわすことが難しく、これが前記状況の原因の一つである。
【0054】
例えば、学習用データとして、未仕上げ撮像データと、表面除去後の平面Sにおける表面検査剤の分布状態とを用いると、制御装置20は学習の繰り返しによってキサゲ加工の職人が持っている知識や感覚に対応するデータを得ることができる。
【0055】
同様に、本実施形態では、少なくとも未仕上げ撮像データおよび観察データを学習用データとして用いて、表面除去を行う時のツール50の移動速度を最適化するための学習を行う。移動速度についても、ツール50に加える力と同様に、制御装置20は学習の繰り返しによってキサゲ加工の職人が持っている知識や感覚に対応するデータを得ることができる。
【0056】
本実施形態では、制御装置20は、未仕上げ撮像データと目標状態を示すデータとを少なくとも用いて、アーム10の先端に取付けられるべきツール50を決定する。ツール50の延設部52は比較的細長く、先端部53も比較的薄いので、表面除去を行っている時にツール50の一部が僅かに撓むことがある。当該撓みも表面除去を正確に行う上で必要な場合があり、当該撓みの特性はツール50毎に異なる。なお、その他の特性もツール50毎に異なる。
上記のように自動的にツール50が選択される構成は、キサゲ加工の職人等のように当該加工に精通した者が居なくても、表面除去を行う位置を決定することを可能にする。
【0057】
なお、前記学習を他のコンピュータが行ってもよい。例えば、複数の制御装置20に接続されているホストコンピュータに学習プログラム23eが格納されていてもよい。この場合、各制御装置20からホストコンピュータに未仕上げ撮像データ、観察データ、仕上げ後撮像データ、表面除去時のアーム10の動作に関するデータ等が送信され、ホストコンピュータは受信したデータを用いて上記学習を行う。
【0058】
また、ツール50がロボット2のアーム10に取付けられる代わりに、ツール50が加工機械のアームに取付けられていてもよい。この場合でも前述と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0059】
1 表面仕上げ装置
2 ロボット
10 アーム
11 サーボモータ
20 制御装置
23 記憶装置
23c 表面除去プログラム
23d 除去位置決定プログラム
23e 学習プログラム
30 力センサ
50 ツール
51 被固定部
52 延設部
53 先端部
60 視覚センサ
P 板状部材
S 平面