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特許7368181摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システム
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20231017BHJP
   B60C 23/02 20060101ALI20231017BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B60C19/00 H
B60C19/00 B
B60C23/02
G01M17/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019196285
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021070341
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】石坂 信吉
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158722(JP,A)
【文献】特開2017-156295(JP,A)
【文献】特開2008-082914(JP,A)
【文献】特開2019-011048(JP,A)
【文献】特開2015-219150(JP,A)
【文献】特開2021-067517(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0113495(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111959205(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112572067(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0366618(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0285712(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
B60C23/02
G01M17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得するタイヤ情報取得部と、
前記タイヤ情報取得部によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤへの負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出するタイヤ過酷度算出部と、
タイヤに対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤ過酷度を入力して前記演算モデルによりタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、を備え
前記タイヤ過酷度算出部は、前記空気圧データにおける正勾配および負勾配の変化点の数を前記タイヤ過酷度として算出することを特徴とする摩耗量推定システム。
【請求項2】
車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得するタイヤ情報取得部と、
前記タイヤ情報取得部によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤへの負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出するタイヤ過酷度算出部と、
タイヤに対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤ過酷度を入力して前記演算モデルによりタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、を備え、
前記タイヤ過酷度算出部は、前記空気圧データにおける正勾配ベクトルの大きさを前記タイヤ過酷度として算出することを特徴とする摩耗量推定システム。
【請求項3】
車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得するタイヤ情報取得部と、
前記タイヤ情報取得部によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤへの負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出するタイヤ過酷度算出部と、
タイヤに対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤ過酷度を入力して前記演算モデルによりタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、を備え、
前記タイヤ過酷度算出部は、前記空気圧データおよび前記温度データが、タイヤの空気圧および温度の設定値を超えている回数を前記タイヤ過酷度として算出することを特徴とする摩耗量推定システム。
【請求項4】
車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得するタイヤ情報取得部と、
前記タイヤ情報取得部によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤへの負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出するタイヤ過酷度算出部と、
タイヤに対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤ過酷度を入力して前記演算モデルによりタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
前記タイヤで計測される摩耗量と前記摩耗量算出部により算出された摩耗量とを比較し、前記演算モデルを更新する演算モデル更新部と、を備え
前記タイヤ過酷度算出部は、前記空気圧データにおける正勾配および負勾配の変化点の数を前記タイヤ過酷度として算出することを特徴とする演算モデル生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤの摩耗量を推定する摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは走行状態や走行距離等に応じて摩耗が進行する。また昨今ではタイヤの圧力および温度を計測するセンサをタイヤに取り付け、計測した圧力および温度を表示する装置などが製品化されている。
【0003】
特許文献1には従来のタイヤ摩耗推定装置が記載されている。このタイヤ摩耗推定装置は、車両速度検出手段を有し、GPS受信器で受信した衛星からの信号に基づいて当該車両の位置データを算出し、位置データから車両速度Vを検出する。またタイヤ摩耗推定装置は、車輪速センサにより車輪回転速度を測定し、圧力センサで検知したタイヤ内圧に基づいて補正した車輪回転速度Vwに変換する。補正された車輪回転速度の車両速度に対する比である速度比R=(Vw /V)を算出し、速度比Rに基づいてタイヤの摩耗量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-143460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤ摩耗推定装置では、車両速度に対する車輪回転速度の比である速度比がタイヤ摩耗量の大きさと高い相関関係を持つとしている。本発明者は、例えば車両の発停車によってタイヤの空気圧および温度が上昇および下降し、タイヤ摩耗が進行することから、タイヤの空気圧および温度が及ぼすタイヤに対する過酷度の要因を取り入れることによってタイヤ摩耗量の推定精度を改善の余地があると考えた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤ摩耗量を精度良く推定することができる摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の摩耗量推定システムは、車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得するタイヤ情報取得部と、前記タイヤ情報取得部によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤへの負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出するタイヤ過酷度算出部と、タイヤに対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤ過酷度を入力して前記演算モデルによりタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は演算モデル生成システムである。演算モデル生成システムは、車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得するタイヤ情報取得部と、前記タイヤ情報取得部によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤへの負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出するタイヤ過酷度算出部と、タイヤに対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤ過酷度を入力して前記演算モデルによりタイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、タイヤで計測される摩耗量と前記摩耗量算出部により算出された摩耗量とを比較し、前記演算モデルを更新する演算モデル更新部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイヤ摩耗量を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る演算モデル生成システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】演算モデルの学習について説明するための模式図である。
図3】演算モデル生成システムによる演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。
図4】タイヤの空気圧データの時間変遷を示すグラフ。
図5】空気圧の正勾配ベクトルについての説明を含むタイヤの空気圧データのグラフである。
図6】タイヤの空気圧データおよび温度データをプロットしたグラフである。
図7】摩耗量推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図7を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る演算モデル生成システム100の機能構成を示すブロック図である。演算モデル生成システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20によって計測された空気圧および温度等のタイヤに関する物理量のデータをタイヤ情報取得部31で取得し、タイヤ過酷度算出部33aによってタイヤ過酷度を算出して演算モデル33bを生成する。タイヤ過酷度算出部33aが算出するタイヤ過酷度は、タイヤ10の摩耗進行に影響するタイヤ10への負荷の程度を示す指標である。さらに演算モデル33bは、タイヤ情報取得部31で取得される加速度データや、位置情報取得部32によって取得された位置情報に基づいて算出される走行距離、速度、旋回半径などを演算モデル33bの入力としてもよい。
【0013】
演算モデル生成システム100は、演算モデルとして例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用い、タイヤ10において実際に計測したタイヤ摩耗量を教師データとし、演算の実行と演算モデルの更新による学習を繰り返すことによって演算モデル33bの精度を高める。摩耗量推定装置30は、演算モデル33bに学習させた後、タイヤ摩耗量を推定する装置として機能する。
【0014】
演算モデル生成システム100は、ある仕様のタイヤ10について、タイヤ10(ホイールを含む)を装着した車両の走行によって演算モデルの学習を実行することができる。タイヤの仕様には、例えばメーカー、商品名、タイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、静的剛性、動的剛性、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0015】
タイヤ10またはホイール15には、圧力センサ21、温度センサ22および加速度センサ23が配設されている。圧力センサ21および温度センサ22は、例えばタイヤ10のエアバルブへの装着やホイール15への固定によってに配設されており、それぞれタイヤ10の空気圧および温度を計測する。また圧力センサ21および温度センサ22は、タイヤ10のインナーライナー等に配設されていてもよい。
【0016】
加速度センサ23は、例えばタイヤ10またはホイール15に配設されており、タイヤ10で発生している加速度を計測する。尚、タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID等が取り付けられていてもよい。演算モデル生成システム100は、タイヤ過酷度に加えて、加速度等のタイヤで計測されるタイヤデータ、走行距離、速度、旋回半径などを演算モデル33bへ入力する要因として用いてもよい。
【0017】
摩耗量推定装置30は、タイヤ情報取得部31、位置情報取得部32、摩耗量算出部33、演算モデル更新部34およびを有する。摩耗量推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。摩耗量推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0018】
タイヤ情報取得部31は、無線通信等により圧力センサ21、温度センサ22および加速度センサ23からタイヤ10で計測された空気圧、温度、加速度および計測した時刻を含むタイヤデータを取得し、摩耗量算出部33へ出力する。位置情報取得部32は、GPS受信機等によって算出されるタイヤ10が装着された車両の位置、および算出した時刻を含む位置データを取得し、摩耗量算出部33へ出力する。
【0019】
摩耗量算出部33は、タイヤ過酷度算出部33aおよび演算モデル33bを有する。タイヤ過酷度算出部33aは、タイヤ情報取得部31から入力された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤ10への負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出する。タイヤ10の空気圧および温度は、ブレーキ回数、外気温の変化、高速走行、車両の発停車、タイヤのバーストおよびバースト予兆状態などによって上昇および下降し、タイヤ10の摩耗に影響しており、空気圧および温度が及ぼすタイヤ10に対する過酷度の要因を演算モデル33bへの入力として取り入れる。
【0020】
またタイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データにおける正勾配および負勾配の変化点の数をタイヤ過酷度として算出し、演算モデル33bへの入力とする。タイヤ過酷度算出部33aは、空気圧および温度の変化が頻繁に生じる場合にタイヤ10の摩耗量が促進されることを演算モデル33bに反映する。
【0021】
またタイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データにおける正勾配ベクトルの大きさをタイヤ過酷度として算出し、演算モデル33bへの入力とする。タイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データが正勾配をもって上昇している状態ではタイヤ10への負担が増大しており摩耗量が促進されることを演算モデル33bに反映する。
【0022】
またタイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データおよび温度データが、タイヤの空気圧および温度の設定値を超えている回数をタイヤ過酷度として算出し、演算モデル33bへの入力とする。タイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データおよび温度データが、タイヤの空気圧および温度の設定値以上となる状態では、タイヤ10への負担が増大しており摩耗量が促進されることを演算モデル33bに反映する。
【0023】
また、摩耗量算出部33は、位置情報取得部32から入力された位置データに基づいて、車両の走行距離、速度、および旋回半径を算出し、演算モデル33bへ入力するようにしてもよい。摩耗量算出部33は、位置情報取得部32から時々刻々に位置データを取得しており、走行開始から現在までの位置データに基づき走行距離を、位置データの時間変化に基づき速度および旋回半径を求めることができる。また、摩耗量算出部33は、車両側から取得する情報に基づいて車両の走行距離、速度および旋回半径を算出してもよい。摩耗量算出部33は、例えば車両のCANバスにおいて提供されるエンジン回転数、車速、車輪速、操舵角、スロットル開度等の情報に基づいて車両の走行距離、速度および旋回半径を算出することができる。
【0024】
図2は演算モデル33bの学習について説明するための模式図である。演算モデル33bへの入力データは、空気圧、温度、および加速度を含むタイヤデータ、並びにタイヤ過酷度算出部33aによって算出されるタイヤ過酷度である。また、位置データに基づき算出された走行距離、速度、および旋回半径を演算モデル33bへ入力するようにしてもよい。さらに演算モデル33bへの入力データとして、これらの他、気象データや、車両に搭載されたデジタルタコグラフのデータ、路面状況の情報を用いてもよい。気象データは、例えば走行地域の気温、降水量などを演算モデル33bへの入力データとして用いる。またデジタルタコグラフのデータは、例えば車重、速度データなどを演算モデル33bへの入力データとして用いる。また路面状況の情報は、例えば車両が走行している路面の凹凸、温度および乾湿等の状況を演算モデル33bへの入力データとして用いる。
【0025】
気象データは、例えば走行地域の気温、降水量などを演算モデル33bへの入力データとして用いる。またデジタルタコグラフのデータは、例えば車重、速度データなどを演算モデル33bへの入力データとして用いる。また路面状況の情報は、例えば車両が走行している路面の凹凸、温度および乾湿等の状況を演算モデル33bへの入力データとして用いる。
【0026】
演算モデル33bは、例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル33bは、タイヤデータ、走行距離、速度、および旋回半径等を入力層のノードへ入力し、中間層への重みづけを設けた入力層からのパスによって演算を実行する。演算モデル33bは、中間層から出力層への重みづけを設けたパスによって更に演算を行い、出力層のノードからタイヤ摩耗量を出力する。ニューラルネットワーク等の学習モデルでは、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。
【0027】
演算モデル更新部34は、演算結果としてのタイヤ摩耗量と教師データとを比較して演算モデル33bを更新する。演算モデル更新部34は、摩耗量比較部34aおよび更新処理部34bを有する。摩耗量比較部34aは、演算モデル33bによって算出されたタイヤ摩耗量を、タイヤ計測装置40によって計測された教師データとしてのタイヤ摩耗量と比較し、誤差を更新処理部34bへ出力する。
【0028】
更新処理部34bは、演算モデル33bによって算出された摩耗量の誤差に基づいて、演算モデル上のパスの重みづけを更新する。演算モデル33bによるタイヤ摩耗量の演算、摩耗量比較部34aによる教師データとの比較、および更新処理部34bでの演算モデルの更新を繰り返すことによって、演算モデルの精度が高められる。
【0029】
タイヤ計測装置40は、タイヤ10のトレッドに設けられた溝の深さを直接計測する。作業者が計測器具やカメラ、目視等によって各溝の深さを計測し、タイヤ計測装置40は、作業者が入力する計測データを記憶するものであってもよい。また、タイヤ計測装置40は、機械的あるいは光学的な方法によって溝の深さを計測して記憶する専用の装置であってもよい。
【0030】
具体的には、タイヤ計測装置40は、例えば、タイヤの溝が4本あった場合に、幅方向の4か所で計測し、さらに同一溝の周方向、例えば120°間隔で、3か所計測する。これにより、タイヤの幅方向または周方向での偏摩耗データもタイヤ計測装置40に記憶される。なお、タイヤ計測装置40は、タイヤの摩耗で直径が変わるため、走行距離とタイヤの回転数・速度の情報から計算によって溝の深さを間接的に計測してもよい。加えて、溝の深さを直接計測するものに、走行距離とタイヤの回転数・速度から計算によって予測するもの、とを併用してもよい。
【0031】
次に演算モデル生成システム100の動作を説明する。図3は、演算モデル生成システム100による演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。摩耗量推定装置30は、タイヤ情報取得部31によって圧力センサ21、温度センサ22および加速度センサ23から、タイヤ10で計測された空気圧、温度および加速度を含むタイヤデータの取得を開始する(S1)。また、位置情報取得部32によって位置データの取得を開始する(S2)。タイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データおよび温度データに基づいてタイヤ過酷度を算出する(S3)。摩耗量推定装置30は、位置データに基づいて走行距離、速度および旋回半径を算出する(S4)。
【0032】
タイヤ過酷度算出部33aはデータを所定期間に亘って蓄積する(S5)。所定期間は例えば車両の1回の走行期間としてもよいし、数日または一週間などとするが、これらに限られるものではない。タイヤ過酷度算出部33aは、所定期間経過後、演算モデル33bへ各データを入力し、タイヤ摩耗量を推定する(S6)。摩耗量比較部34aは、演算モデル33bによって算出されたタイヤ摩耗量と、タイヤ計測装置40によって計測された教師データとしてのタイヤ摩耗量とを比較する(S7)。摩耗量比較部34aは、比較の結果として演算モデル33bによって算出されたタイヤ摩耗量とタイヤ計測装置40によって計測されたタイヤ摩耗量との誤差を更新処理部34bへ出力する。
【0033】
更新処理部34bは、摩耗量比較部34aから入力されたタイヤ摩耗量の誤差に基づいて演算モデルを更新し(S8)、処理を終了する。摩耗量推定装置30は、これらの処理を繰り返すことによって、演算モデルを更新し、タイヤ摩耗量の推定の精度が高められる。
【0034】
図4はタイヤ10の空気圧データの時間変遷を示すグラフであり、図5は空気圧の正勾配ベクトルについての説明を含むタイヤ10の空気圧データのグラフである。図4において丸印で囲んだ箇所では、タイヤ10の空気圧が正勾配から負勾配、また負勾配から正勾配に変化している。タイヤ過酷度算出部33aは、タイヤ10の空気圧データが正勾配から負勾配、また負勾配から正勾配に変化する変化点の数をタイヤ過酷度として算出する。また、タイヤ過酷度算出部33aは、図5に示すように空気圧データにおける正勾配ベクトルV1~V4等を求め、当該ベクトルの大きさをタイヤ過酷度として算出する。
【0035】
摩耗量推定装置30は、車両の走行時におけるタイヤ10の空気圧データおよび温度データから算出するタイヤ過酷度を演算モデル33bの入力とすることにより、タイヤ過酷度を考慮した演算モデル33bを構築し、演算モデル33bによってタイヤ摩耗量を精度良く推定することができる。摩耗量推定装置30は、タイヤ10の空気圧データが正勾配から負勾配、また負勾配から正勾配に変化する変化点の数をタイヤ過酷度として算出し演算モデル33bの入力として用いることで、タイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。また摩耗量推定装置30は、タイヤ10の空気圧データにおける正勾配ベクトルV1~V4等を求め、当該ベクトルの大きさをタイヤ過酷度として算出し演算モデル33bの入力として用いることで、タイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0036】
図6は、タイヤ10の空気圧データおよび温度データをプロットしたグラフである。タイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データおよび温度データが空気圧設定値Psおよび温度設定値Ts以上となる回数をタイヤ過酷度として算出する。摩耗量推定装置30は、算出したタイヤ過酷度を演算モデル33bの入力とすることで、タイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。また、演算モデル生成システム100は、タイヤ10の空気圧データおよび温度データのうち温度データに着目してタイヤ過酷度を算出するようにしてもよい。
【0037】
図7は、摩耗量推定システム110の機能構成を示すブロック図である。上述のように演算モデル生成システム100によってタイヤ摩耗量を推定する演算モデル33bが生成された後、演算モデル33bを備える摩耗量推定装置30を構成することができる。摩耗量推定システム110は、センサ20および摩耗量推定装置30を備え、演算モデル生成システム100によって生成された演算モデル33bを用いて、車両に装着されたタイヤ10の摩耗量を精度良く推定する。
【0038】
摩耗量推定装置30は、タイヤ情報取得部31、位置情報取得部32、摩耗量算出部33および報知部35を備え、車両に搭載して用いることができる。タイヤ情報取得部31および位置情報取得部32は、図1に基づき説明した構成および作用と同等であり、簡潔化のため説明を省略する。
【0039】
摩耗量算出部33は、演算モデル33bとして演算モデル生成システム100によって生成された演算モデルを使用する。摩耗量算出部33は、タイヤ情報取得部31および位置情報取得部32により取得した各データを所定期間蓄積した後、タイヤ摩耗量を算出してもよいし、取得したタイミングで時々刻々タイヤ摩耗量を算出するようにしてもよい。
【0040】
タイヤ過酷度算出部33aは、上述のとおり、タイヤ10の空気圧データおよび温度データに基づいてタイヤ過酷度を算出し、演算モデル33bへの入力とする。摩耗量推定システム110は、演算モデル33bを含む摩耗量の算出部分を通信ネットワークで接続された車両外部のサーバ装置等に設け、車両からタイヤ10の空気圧データおよび温度データ等の情報を該サーバ装置等へ送信し、摩耗量を推定するようにしてもよい。
【0041】
報知部35は、車両の運転者等の搭乗者に対して、現在のタイヤ摩耗量を知得させるべく、表示装置51による表示やスピーカ52による音声出力等によって、タイヤ摩耗量を報知する。また、報知部35は車両に搭載された車両制御装置53に対して現在のタイヤ摩耗量を報知するようにしてもよい。車両制御装置53では、現在のタイヤ摩耗量に基づいて自動運転や衝突回避などの車両制御を行うことができる。
【0042】
次に各実施形態に係る摩耗量推定システム110、および演算モデル生成システム100の特徴について説明する。
摩耗量推定システム110は、タイヤ情報取得部31、タイヤ過酷度算出部33a、および摩耗量算出部33を備える。タイヤ情報取得部31は、車両に装着されたタイヤ10の空気圧データおよび温度データを取得する。タイヤ過酷度算出部33aは、タイヤ情報取得部31によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤ10への負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出する。摩耗量算出部33は、タイヤ10に対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデル33bを有し、タイヤ過酷度を入力して演算モデル33bによりタイヤ10の摩耗量を算出する。これにより、摩耗量推定システム110は、タイヤ過酷度を考慮した演算モデル33bによってタイヤ摩耗量を精度良く推定することができる。
【0043】
またタイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データにおける正勾配および負勾配の変化点の数をタイヤ過酷度として算出する。これにより、摩耗量推定システム110はタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0044】
またタイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データにおける正勾配ベクトルの大きさをタイヤ過酷度として算出する。これにより、摩耗量推定システム110は、タイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0045】
またタイヤ過酷度算出部33aは、空気圧データおよび温度データが、タイヤ10の空気圧および温度の設定値以上となる回数をタイヤ過酷度として算出する。これにより、摩耗量推定システム110は、タイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0046】
演算モデル生成システム100は、タイヤ情報取得部31、タイヤ過酷度算出部33a、摩耗量算出部33および演算モデル更新部34を備える。タイヤ情報取得部31は、車両に装着されたタイヤの空気圧データおよび温度データを取得する。タイヤ過酷度算出部33aは、タイヤ情報取得部31によって取得された空気圧データおよび温度データのうち少なくともいずれか一方のデータからタイヤ10への負荷の程度を示すタイヤ過酷度を算出する。摩耗量算出部33は、タイヤ10に対する過酷度の情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデル33bを有し、タイヤ過酷度を入力して演算モデル33bによりタイヤ10の摩耗量を算出する。演算モデル更新部34は、タイヤ10で計測される摩耗量と摩耗量算出部33により算出された摩耗量とを比較し、演算モデル33bを更新する。これにより、演算モデル生成システム100は、タイヤ過酷度を考慮し、タイヤ摩耗量を精度良く推定することができる演算モデル33bを生成することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0048】
10 タイヤ、 31 タイヤ情報取得部、 33 摩耗量算出部、
33a タイヤ過酷度算出部、 33b 演算モデル、 34 演算モデル更新部、
100 演算モデル生成システム、 110 摩耗量推定システム。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7