IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NLTテクノロジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光造形装置及び造形方法 図1
  • 特許-光造形装置及び造形方法 図2
  • 特許-光造形装置及び造形方法 図3
  • 特許-光造形装置及び造形方法 図4
  • 特許-光造形装置及び造形方法 図5
  • 特許-光造形装置及び造形方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】光造形装置及び造形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/286 20170101AFI20231017BHJP
   B29C 64/129 20170101ALI20231017BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20231017BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231017BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231017BHJP
【FI】
B29C64/286
B29C64/129
B33Y50/02
B33Y10/00
B33Y30/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019201028
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021074900
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】溝口 親明
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-232383(JP,A)
【文献】特開2000-238137(JP,A)
【文献】特開2004-188604(JP,A)
【文献】特開平04-267132(JP,A)
【文献】特開2011-102966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
G02F 1/13
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の光硬化樹脂を硬化させる光を出射する光源部と、
前記液状の光硬化樹脂を硬化させる光を、三次元造形物の形状に基づくパターンに変調し、該変調された光を前記液状の光硬化樹脂に照射する光変調部と、を備え、
前記光変調部は、前記液状の光硬化樹脂を硬化させる光を前記パターンに変調し、直線偏光として出射する液晶素子と、前記液晶素子から出射された前記直線偏光に位相差を与えて出射する位相差素子とを有する、
光造形装置。
【請求項2】
前記光変調部は、円偏光又は楕円偏光を前記液状の光硬化樹脂に照射する、
請求項1に記載の光造形装置。
【請求項3】
前記位相差素子は、前記光源部が出射した光のうちの最大の強度を有する波長において、1/4波長分の位相差を与える、
請求項1又は2に記載の光造形装置。
【請求項4】
前記液状の光硬化樹脂を硬化させる光を透過させる底部を有し、前記液状の光硬化樹脂を保持する樹脂槽を備え、
前記光変調部は、前記樹脂槽の前記底部を介して、前記変調された光を前記液状の光硬化樹脂に照射する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の光造形装置。
【請求項5】
前記光変調部は、前記液状の光硬化樹脂の流れの方向に対して振動方向が回転する、前記液状の光硬化樹脂を硬化させる光を、前記液状の光硬化樹脂に照射する、
請求項1に記載の光造形装置。
【請求項6】
光源からの光を変調する液晶素子から出射された直線偏光に位相差を与えて、前記位相差を与えられた光を照射することにより、液状の光硬化樹脂を硬化させる工程と、
硬化した光硬化樹脂を、前記位相差を与えられた光が照射される方向に移動させる工程と、を含む、
三次元造形物の造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光造形装置及び造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物の断面形状に基づいて光硬化性樹脂に光を照射することにより、三次元造形物を造形する技術が知られている。例えば、特許文献1は、液晶シャッタによって、光を光硬化性樹脂に選択的に照射して、三次元造形物を造形する方法を開示している。
【0003】
特許文献1の造形方法では、光を光硬化性樹脂に液晶シャッタによって選択的に照射して、一層分の光硬化性樹脂を硬化させた後、硬化した光硬化性樹脂を液晶シャッタから遠ざかる方向に移動させる。そして、光を硬化した光硬化性樹脂の上に流入した光硬化性樹脂に液晶シャッタによって選択的に照射して、次の一層分の光硬化性樹脂を硬化させる。
特許文献1の造形方法は、これらの工程を繰り返することにより、三次元造形物を造形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-232383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、液晶シャッタは直線偏光を出射する。一方、光硬化性樹脂に含まれる重合開始剤は、入射する直線偏光の振動方向(偏光方向)と重合開始剤の遷移モーメントとが平行である場合に、最も効率よく直線偏光を吸収し、光硬化性樹脂に含まれるモノマー、オリゴマー等に重合を開始させる。したがって、特許文献1の造形方法では、液晶シャッタから出射した直線偏光の振動方向と、硬化した光硬化性樹脂を移動させた後に流入する光硬化性樹脂の流れの方向との関係に依存して、硬化した光硬化性樹脂の密度にムラが生じるおそれがある。硬化した光硬化性樹脂の密度のムラは、三次元造形物に生じる歪み、クラック等の原因となる。また、特許文献1の造形方法では、直線偏光が光硬化性樹脂に照射されるので、光利用効率が低くなる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、硬化した光硬化樹脂の密度のムラを抑制できる光造形装置及び造形方法を提供することを目的とする。また、本発明は、光利用効率が高い造形装置及び造形方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る光造形装置は、
液状の光硬化樹脂を硬化させる光を出射する光源部と、
前記液状の光硬化樹脂を硬化させる光を、三次元造形物の形状に基づくパターンに変調し、該変調された光を前記液状の光硬化樹脂に照射する光変調部と、を備え、
前記光変調部は、前記液状の光硬化樹脂を硬化させる光を前記パターンに変調し、直線偏光として出射する液晶素子と、前記液晶素子から出射された前記直線偏光に位相差を与えて出射する位相差素子とを有する。
【0008】
本発明の第2の観点に係る造形方法は、
光源からの光を変調する液晶素子から出射された直線偏光に位相差を与えて、前記位相差を与えられた光を照射することにより、液状の光硬化樹脂を硬化させる工程と、
硬化した光硬化樹脂を、前記位相差を与えられた光が照射される方向に移動させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液晶素子が出射した直線偏光に位相差を与えるので、硬化した光硬化樹脂の密度のムラを抑制できる。
また、液晶素子が出射した直線偏光に位相差を与えるので、光利用効率を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る光造形装置の構成を示す図である。
図2】実施形態1に係る光造形装置を示す模式図である。
図3】実施形態1に係る液状の光硬化樹脂に照射される光の状態を示す模式図である。
図4】実施形態1に係る三次元造形物の造形方法を示すフローチャートである。
図5】実施形態2に係る光造形装置を示す模式図である。
図6】変形例に係る樹脂槽を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係る光造形装置について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
図1図4を参照して、本実施形態に係る光造形装置100を説明する。光造形装置100は、液状の光硬化樹脂RLから三次元造形物Obを造形する。
【0012】
光造形装置100は、図1図2に示すように、樹脂槽10と造形プレート20と移動部30と光源部40と光変調部50と制御部60とを、筐体5内に備える。樹脂槽10は、液状の光硬化樹脂RLを保持する。造形プレート20は、面20aに三次元造形物Obを造形される。移動部30は造形プレート20を移動させる。光源部40は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を出射する。光変調部50は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を三次元造形物Obの形状に基づくパターンに変調する。光変調部50は、液晶素子52と位相差素子54とを有する。制御部60は、光造形装置100の各部を制御する。
本明細書では、理解を容易にするため、図2における光造形装置100の右方向(紙面の右方向)を+X方向、上方向(紙面の上方向)を+Z方向、+X方向と+Z方向に垂直な方向(紙面の手前方向)を+Y方向として説明する。
【0013】
光造形装置100の樹脂槽10は、図2に示すように、液状の光硬化樹脂RLを保持する。樹脂槽10は、+Z方向の面が開口した箱形状の容器である。樹脂槽10は、底部12と壁部14とを有する。
【0014】
樹脂槽10の底部12は、光源部40から出射される液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を透過する。また、底部12は、液状の光硬化樹脂RLの硬化、すなわち液状の光硬化樹脂RLに含まれるモノマー、オリゴマー等の重合を阻害する気体(例えば、酸素)を透過する。底部12は、例えば、酸素を透過する多孔質フィルムから形成される。多孔質フィルムは、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene:ポリテトラフルオロエチレン)、PE(Poly Ethylene:ポリエチレン)等から構成される。樹脂槽10の壁部14は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を遮る。壁部14は、樹脂、金属等から形成される。
【0015】
ここで、液状の光硬化樹脂RLについて説明する。液状の光硬化樹脂RLは、所定の波長の光を照射されることにより硬化する液状の樹脂である。本実施形態では、液状の光硬化樹脂RLは、光源部40から出射される光を照射されることにより、硬化する。液状の光硬化樹脂RLは、モノマー、オリゴマー、重合開始剤等を含む。重合開始剤は、光源部40から出射される光を吸収してラジカル、イオン等の活性種を発生し、モノマー、オリゴマー等に重合反応を開始させる。本実施形態では、液状の光硬化樹脂RLは液状のUV(Ultraviolet)硬化型樹脂である。
【0016】
光造形装置100の造形プレート20は、樹脂製又は金属製の平板である。造形プレート20は、図2に示すように、樹脂槽10の底部12に対して+Z側に配置されている。また、光造形装置100の初期状態では、造形プレート20は樹脂槽10内に位置している(造形プレート20の初期位置)。造形プレート20は、移動部30によって+Z方向と-Z方向に移動される。造形プレート20は、樹脂槽10の底部12に対向する面20aに三次元造形物Obを造形される。
【0017】
光造形装置100の移動部30は、造形プレート20を+Z方向と-Z方向とに移動させる。移動部30は、アーム32と移動機構34とを有する。移動部30のアーム32は、造形プレート20と移動機構34とを接続する。移動部30の移動機構34は、アーム32を介して、造形プレート20を+Z方向と-Z方向に移動させる。移動機構34は、モータ、ボールネジ、スライダ等(図示せず)を備えている。
【0018】
光造形装置100の光源部40は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を、液状の光硬化樹脂RL(+Z方向)に向けて出射する。本実施形態では、光源部40は、樹脂槽10に対して-Z側に配置される。光源部40は、図3に示すように、樹脂槽10側に位置する上面40aから非偏光のUV光L1を+Z方向へ出射する。光源部40は、反射シート、UV光を出射するLED(Light emitting diode)、拡散シート等を備えている。光源部40から出射される非偏光のUV光L1における最大の強度を有する波長は、例えば、405nmである。
【0019】
光造形装置100の光変調部50は、図2に示すように、樹脂槽10と光源部40との間に配置される。光変調部50は、光源部40から出射された液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を、三次元造形物Obの形状に基づくパターンに変調して、液状の光硬化樹脂RLに照射する。本実施形態では、光変調部50は、図3に示すように、樹脂槽10の底部12を介して、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を円偏光又は楕円偏光の状態で光硬化樹脂RLに照射する。光変調部50は、図1図2に示すように、液晶素子52と位相差素子54とを有する。
【0020】
光変調部50の液晶素子52は、光源部40から出射された液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を、三次元造形物Obの形状に基づくパターンに変調する。また、液晶素子52は、図3に示すように、変調された光L2を直線偏光として出射する。液晶素子52は、例えば、複数の液晶セルを有しアクティブマトリクス駆動されるTN(Twisted Nematic)型液晶素子である。液晶セルは、マトリクス状に配列され、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を透過又は遮蔽する。
【0021】
具体的には、液晶素子52は、三次元造形物Obの+Z方向に垂直な断面の形状を表す断面形状データに基づいて、光源部40から出射された液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を、三次元造形物Obの断面の形状に対応するパターンに変調する。液晶素子52は、光源部40から出射された液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を、三次元造形物Obの断面の形状に対応するパターンで、直線偏光として出射する。
【0022】
光変調部50の位相差素子54は、液晶素子52から出射された直線偏光に位相差を与える。また、位相差素子54は、図3に示すように、位相差を与えられた光L3を液状の光硬化樹脂RLに照射する。位相差素子54が直線偏光に位相差を与えるので、液状の光硬化樹脂RLに照射される光の振動方向は、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に対して回転する。したがって、光造形装置100は、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、光造形装置100は、重合開始剤の遷移モーメントの方向に依らずに光利用効率を高くできる。さらに、フィルムから形成されている底部12における、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光の干渉が抑えられるので、光造形装置100は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を液状の光硬化樹脂RLにより均一に照射できる。
【0023】
本実施形態では、位相差素子54は、1/4波長分の位相差を与える1/4波長板であり、円偏光又は楕円偏光が液状の光硬化樹脂RLに照射される。位相差素子54は、例えば、光源部40が出射した光のうちの最大の強度を有する波長(405nm)において1/4波長分の位相差を与える。
【0024】
光造形装置100の制御部60は、移動部30と光源部40と光変調部50とを制御する。また、制御部60は、三次元造形物Obの三次元形状を表す三次元形状データから、三次元造形物Obの+Z方向に垂直な断面の形状を表す断面形状データを生成する。+Z方向に垂直な断面の形状を表す断面形状データは、+Z方向に沿って所定の間隔で生成される。
【0025】
制御部60は、図1に示すように、各種の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)62と、プログラムとデータとを記憶しているROM(Read Only Memory)64と、データを記憶するRAM(Random Access Memory)66と、各部の間の信号を入出力する入出力インタフェース68とを備える。制御部60の機能は、CPU62が、ROM64に記憶されたプログラムを実行することによって、実現される。入出力インタフェース68は、CPU62と、移動部30と光源部40と光変調部50と図示しない外部装置との信号を入出力する。
【0026】
次に、図4を参照して、三次元造形物Obの造形方法を説明する。本実施形態では、三次元造形物Obは、光造形装置100によって、層状の硬化した光硬化樹脂RSを所定の間隔で積層することにより造形される。
【0027】
図4は、三次元造形物Obの造形方法を示すフローチャートである。三次元造形物Obの造形方法は、液状の光硬化樹脂RLと断面形状データとを準備する工程(ステップS10)と、造形プレート20を初期位置に配置する工程(ステップS20)と、光源部40からの光を変調する液晶素子52から出射された直線偏光に位相差を与えて、位相差を与えたれた光L3を液状の光硬化樹脂RLに照射することにより、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる工程(ステップS30)と、硬化した光硬化樹脂RSを、位相差を与えられた光L3が照射される方向に移動させる工程(ステップS40)と、を含む。本実施形態では、ステップS30とステップS40は、硬化した光硬化樹脂RSの層数分繰り返される。
【0028】
ステップS10では、三次元造形物Obを造形するための液状の光硬化樹脂RLと、三次元造形物Obの+Z方向に垂直な断面の形状を表す断面形状データとを準備する。本実施形態では、液状の光硬化樹脂RLは、液状のUV硬化型樹脂である。液状の光硬化樹脂RLは、光造形装置100の樹脂槽10に保持される。断面形状データは、外部装置から入力された三次元造形物Obの三次元形状を表す三次元形状データから、+Z方向に沿って所定の間隔で、光造形装置100の制御部60により生成される。三次元形状データは、例えば、三次元造形物Obの三次元CAD(Computer-Aided Design)データである。
【0029】
ステップS20では、移動部30によって造形プレート20を移動させて、造形プレート20を初期位置に配置する。具体的には、造形プレート20は、液状の光硬化樹脂RL中で、三次元造形物Obを造形される面20aと樹脂槽10の底部12との間隔が硬化した光硬化樹脂RSの一層分の厚さ(所定の間隔)である位置に配置される。
【0030】
ステップS30では、光源部40からUV光を出射させ、1層目の断面形状データに基づいて出射されたUV光を液晶素子52より変調して直線偏光として出射させる。そして、位相差素子54が、液晶素子52から出射された直線偏光に位相差を与えて、位相差を与えられた光L3を樹脂槽10の底部12を介して液状の光硬化樹脂RLに照射する。これにより、液状の光硬化樹脂RLが硬化して、1層目の硬化した光硬化樹脂RSが形成される。
【0031】
本実施形態では、位相差素子54が直線偏光に位相差を与えるので、液状の光硬化樹脂RLに照射される光の振動方向は、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に対して回転する。したがって、本実施形態の造形方法は、造形プレート20の初期位置への移動に伴う液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに、液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、本実施形態の造形方法は、重合開始剤の遷移モーメントの方向に依らずに光利用効率を高くできる。
【0032】
さらに、本実施形態では、樹脂槽10の底部12が酸素を透過する多孔質フィルムから形成されているので、硬化した光硬化樹脂RSと底部12との間に液状の光硬化樹脂RLの層(重合を阻害された液状の光硬化樹脂RLの層)が形成される。したがって、硬化した光硬化樹脂RSが底部12に密着することを防げる。
【0033】
ステップS40では、移動部30によって、硬化した光硬化樹脂RS(造形プレート20)を、位相差を与えられた光L3が照射される方向(+Z方向)に硬化した光硬化樹脂RSの厚さ分移動させる。これにより、硬化した光硬化樹脂RSと樹脂槽10の底部12との間に、液状の光硬化樹脂RLが流入する。
【0034】
次に、ステップS30に戻り、2層目の断面形状データに基づいて、光源部40から出射されたUV光を液晶素子52より変調して直線偏光として出射させる。そして、位相差素子54が、液晶素子52から出射された直線偏光に位相差を与えて、位相差を与えられた光L3を液状の光硬化樹脂RLに照射する。これにより、2層目の硬化した光硬化樹脂RSが形成される。前回のステップS30と同様に、液状の光硬化樹脂RLに照射される光の振動方向は液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に対して回転する。したがって、本実施形態の造形方法は、ステップS40における造形プレート20の移動に伴う液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに、液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、本実施形態の造形方法は、光利用効率を高くできる。
【0035】
本実施形態では、ステップS30とステップS40とが交互に実施される。ステップS30とステップS40とが、三次元造形物Obの硬化した光硬化樹脂RSの層数分繰り返されると、三次元造形物Obの造形は終了する。以上により、光造形装置100は三次元造形物Obを造形できる。
【0036】
以上のように、光造形装置100は、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に対して振動方向が回転する光を、液状の光硬化樹脂RLに照射するので、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、光造形装置100は、重合開始剤の遷移モーメントの方向に依らずに光利用効率を高くできる。
さらに、本実施形態の三次元造形物Obの造形方法は、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制された三次元造形物Obを製造できる。
【0037】
<実施形態2>
実施形態1の光造形装置100は、樹脂槽10の底部12を介して、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を、液状の光硬化樹脂RLに照射しているが、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光は樹脂槽10の開口16から照射されてもよい。
【0038】
図5を参照して、本実施形態の光造形装置100について説明する。本実施形態の光造形装置100は、実施形態1の光造形装置100と同様に、樹脂槽10と造形プレート20と移動部30と光源部40と光変調部50と制御部60とを、備える。
【0039】
本実施形態の樹脂槽10は、実施形態1の樹脂槽10と同様に、液状の光硬化樹脂RLを保持する。本実施形態の樹脂槽10は、+Z方向の面が開口した箱形状の容器である。本実施形態では、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光が、樹脂槽10の開口16から液状の光硬化樹脂RLに照射される。本実施形態の樹脂槽10は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を遮る樹脂、金属等から、底部12と壁部14とを一体に形成される。
なお、本実施形態の液状の光硬化樹脂RLは、実施形態1と同様に、液状のUV硬化型樹脂である。
【0040】
本実施形態の造形プレート20は、実施形態1の造形プレート20と同様に、樹脂製又は金属製の平板である。また、本実施形態の造形プレート20は樹脂槽10内に位置している。造形プレート20は、移動部30によって+Z方向と-Z方向に移動される。本実施形態の造形プレート20は、図5に示すように、樹脂槽10の底部12と反対側の面20bに三次元造形物Obを造形される。
【0041】
本実施形態の移動部30は、実施形態1の移動部30と同様に、造形プレート20を+Z方向と-Z方向とに移動させる。本実施形態の移動部30の構成は、実施形態1の移動部30と同様である。
【0042】
本実施形態の光源部40は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を、液状の光硬化樹脂RL(-Z方向)に向けて出射する。本実施形態では、光源部40は樹脂槽10に対して+Z側に配置される。光源部40は、樹脂槽10側に位置する下面40bから非偏光のUV光L1を-Z方向へ出射する。
本実施形態の光源部40のその他の構成は、実施形態1の光源部40と同様である。
【0043】
本実施形態の光変調部50は、実施形態1の光変調部50と同様に、樹脂槽10と光源部40との間に配置される。光変調部50の構成は、位相差を与えられた光L3が樹脂槽10の開口16から液状の光硬化樹脂RLに照射することを除き、実施形態1の光変調部50と同様である。本実施形態においても、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に対して振動方向が回転する光が、液状の光硬化樹脂RLに照射される。したがって、本実施形態の光造形装置100は、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、本実施形態の光造形装置100は、重合開始剤の遷移モーメントの方向に依らずに光利用効率を高くできる。
【0044】
本実施形態の制御部60は、実施形態1の制御部60と同様に、移動部30と光源部40と光変調部50とを制御する。また、本実施形態の制御部60は、三次元造形物Obの三次元形状を表す三次元形状データから、三次元造形物Obの+Z方向に垂直な断面の形状を表す断面形状データを生成する。本実施形態の制御部60の構成は、断面形状データを-Z方向に沿って所定の間隔で生成することを除き、実施形態1の制御部60と同様である。
【0045】
次に、図4を参照して、本実施形態の三次元造形物Obの造形方法を説明する。本実施形態の三次元造形物Obの造形方法は、実施形態1の造形方法と同様に、液状の光硬化樹脂RLと断面形状データとを準備する工程(ステップS10)と、造形プレート20を初期位置に配置する工程(ステップS20)と、光源部40からの光を変調する液晶素子52から出射された直線偏光に位相差を与えて、位相差を与えたれた光L3を液状の光硬化樹脂RLに照射することにより、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる工程(ステップS30)と、硬化した光硬化樹脂RSを、位相差を与えられた光L3が照射される方向に移動させる工程(ステップS40)と、を含む。ステップS30とステップS40は、硬化した光硬化樹脂RSの層数分繰り返される。
【0046】
ステップS10では、実施形態1のステップS10と同様に、三次元造形物Obを造形するための液状の光硬化樹脂RLと三次元造形物Obの+Z方向に垂直な断面の形状を表す断面形状データとを準備する。本実施形態では、断面形状データが、外部装置から入力された三次元造形物Obの三次元形状を表す三次元形状データから、-Z方向に沿って所定の間隔で、光造形装置100の制御部60により生成される。その他は、実施形態1のステップS10と同様である。
【0047】
ステップS20では、実施形態1のステップS10と同様に、移動部30によって造形プレート20を移動させて、造形プレート20を初期位置に配置する。具体的には、造形プレート20は、液状の光硬化樹脂RL中で、三次元造形物Obを造形される面20bと液状の光硬化樹脂RLの液面との間隔が硬化した光硬化樹脂RSの一層分の厚さである位置に配置される。
【0048】
ステップS30では、光源部40からUV光を出射させ、1層目の断面形状データに基づいて出射されたUV光を液晶素子52より変調して直線偏光として出射させる。そして、位相差素子54が、液晶素子52から出射された直線偏光に位相差を与えて、位相差を与えられた光L3を樹脂槽10の開口16から液状の光硬化樹脂RLに照射する。これにより、1層目の硬化した光硬化樹脂RSが形成される。実施形態1のステップS30と同様に、液状の光硬化樹脂RLに照射される光の振動方向は液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に対して回転する。したがって、本実施形態の造形方法は、造形プレート20の初期位置への移動に伴う液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに、液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、本実施形態の造形方法は、光利用効率を高くできる。
【0049】
ステップS40では、移動部30によって、硬化した光硬化樹脂RS(造形プレート20)を、位相差を与えられた光L3が照射される方向(-Z方向)に硬化した光硬化樹脂RSの厚さ分移動させる。これにより、硬化した光硬化樹脂RSの上に液状の光硬化樹脂RLが流入する。
【0050】
ステップS30に戻り、実施形態1と同様に、2層目の断面形状データに基づいて2層目の硬化した光硬化樹脂RSを形成する。本工程においても、液状の光硬化樹脂RLに照射される光の振動方向は液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に対して回転する。したがって、本実施形態の造形方法は、ステップS40における造形プレート20の移動に伴う液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに、液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、本実施形態の造形方法は、光利用効率を高くできる。
【0051】
本実施形態においても、ステップS30とステップS40とが交互に実施される。ステップS30とステップS40とが、三次元造形物Obの硬化した光硬化樹脂RSの層数分繰り返されると、三次元造形物Obの造形は終了する。以上により、光造形装置100は三次元造形物Obを造形できる。
【0052】
以上のように、本実施形態の光造形装置100は、液状の光硬化樹脂RLの流れの方向に依らずに液状の光硬化樹脂RLを硬化させ、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制できる。また、光造形装置100は、重合開始剤の遷移モーメントの方向に依らずに光利用効率を高くできる。さらに、本実施形態の三次元造形物Obの造形方法は、硬化した光硬化樹脂RSの密度のムラを抑制された三次元造形物Obを製造できる。
【0053】
<変形例>
以上、実施形態を説明したが、本発明は、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0054】
例えば、実施形態1の樹脂槽10の底部12は多孔質フィルムから形成されている。実施形態1の樹脂槽10の底部12は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を透過させるガラス、樹脂等から形成されてもよい。また、ガラス、樹脂等から形成された底部12は剥離処理(例えば、シリコンコーティング処理)を施されてもよい。これにより、底部12と硬化した光硬化樹脂RSとの密着を防ぐことができる。
【0055】
さらに、実施形態1の樹脂槽10は、図6に示すように、透過部18を底部12に有してもよい。この場合、底部12と壁部14は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を遮る樹脂、金属等から一体に形成される。透過部18は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を透過させる部材から形成される。位相差を与えられた光L3は、透過部18を介して液状の光硬化樹脂RLに照射される。
【0056】
液状の光硬化樹脂RLはUV硬化型樹脂に限られない。液状の光硬化樹脂RLは、例えば、可視光を照射されることにより硬化する液状の樹脂であってもよい。また、液状の光硬化樹脂RLは、重合禁止剤、金属微粒子、顔料等を含んでもよい。
【0057】
光源部40から出射される光はUV光に限られない。光源部40は液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を出射する。光源部40は、液状の光硬化樹脂RLに含まれる重合開始剤が活性種を発生させる波長に応じて、可視光を出射してもよい。
また、光源部40は、LEDに代えてランプを備えてもよい。さらに、光源部40は、出射される液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を平行光とするコリメータを備えることが、造形精度を向上させる観点から好ましい。
【0058】
液晶素子52はTN型液晶素子に限られない。液晶素子52は、VA(Vertical Alignment)型液晶素子、FFS(Fringe Field Switching)型液晶素子等であってもよい。また、液晶素子52は、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光の透過と遮蔽だけでなく、透過させる液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光の光量を変調してもよい。
【0059】
位相差素子54は液晶素子52に密着していることが好ましい。例えば、位相差素子54が液晶素子52の出射側の偏光層に積層され、位相差素子54と液晶素子が一体に形成されてもよい。これらにより、光利用効率を向上させることができる。また、液晶素子52から出射される光の拡がりを抑制できる。位相差素子54が与える位相差は、液状の光硬化樹脂RLに照射される光の強度をより均一にする観点から、光源部40が出射した光のうちの最大の強度を有する波長において、1/4波長分プラスマイナス10%以下が好ましい。
【0060】
さらに、実施形態1の光造形装置100では、位相差素子54は樹脂槽10の底部12に密着していることが好ましい。
【0061】
実施形態1、2では、光造形装置100は、層状の硬化した光硬化樹脂RSを順次に積層して三次元造形物Obを造形している。光造形装置100は、造形プレート20を連続的に移動しつつ、光変調部50によって、液状の光硬化樹脂RLを硬化させる光を液状の光硬化樹脂RLに連続的に照射して、三次元造形物Obを連続的に造形してもよい。
【0062】
以上、好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。
【符号の説明】
【0063】
5 筐体、10 樹脂槽、12 底部、14 壁部、16 開口、18 透過部、20 造形プレート、20a,20b 面、30 移動部、32 アーム、34 移動機構、40 光源部、40a 上面、40b 下面、50 光変調部、52 液晶素子、54 位相差素子、60 制御部、62 CPU、64 ROM、66 RAM、68 入出力インタフェース、100 光造形装置、RL 液状の光硬化樹脂、RS 硬化した光硬化樹脂、Ob 三次元造形物、L1 UV光、L2 変調された光、L3 位相差を与えられた光
図1
図2
図3
図4
図5
図6