(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20231017BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20231017BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/064 Z
H01L21/78 B
(21)【出願番号】P 2019219470
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 翼
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-051011(JP,A)
【文献】特開2017-064745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する光源と、
前記光源から出力された前記レーザ光を変調するための変調パターンを表示する空間光変調器と、
前記空間光変調器により変調された前記レーザ光を対象物に集光する集光レンズと、
前記対象物に対する前記レーザ光の集光点の進行方向に応じて前記変調パターンを調整するように前記空間光変調器を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記集光点が、前記進行方向に凸となる弧状、又は、前記進行方向と反対方向に凸となる弧状となるように、前記変調パターンを調整する、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記集光点が前記対象物に対して第1方向に進行する第1の場合と、前記集光点が前記対象物に対して前記第1方向の反対の第2方向に進行する第2の場合とで、個別に、前記変調パターンを調整する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の場合に、前記集光点の形状が前記第1方向に凸となる弧状となるように前記変調パターンを調整すると共に、前記第2の場合に、前記集光点の形状が前記第2方向に凸となる弧状となるように前記変調パターンを調整する、
請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の場合に、前記集光点の形状が前記第2方向に凸となる弧状となるように前記変調パターンを調整すると共に、前記第2の場合に、前記集光点の形状が前記第1方向に凸となる弧状となるように前記変調パターンを調整する、
請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
情報を表示するための表示部と、
入力を受け付ける入力部と、
を備え、
前記表示部は、前記変調パターンを調整するためのパラメータの入力を促すための情報を表示し、
前記入力部は、前記パラメータの入力を受け付け、
前記制御部は、前記入力部が受け付けた前記パラメータに基づいて、前記変調パターンを調整する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記変調パターンは、前記レーザ光の球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、
前記パラメータは、前記集光レンズの瞳面の中心に対する前記球面収差補正パターンの中心の前記進行方向に沿ったオフセット量を含む、
請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記変調パターンは、前記レーザ光に対して正のコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、
前記パラメータは、前記コマ収差の大きさを含む、
請求項5又は6に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザダイシング装置が記載されている。このレーザダイシング装置は、ウェハを移動させるステージと、ウェハにレーザ光を照射するレーザヘッドと、各部の制御を行う制御部と、を備えている。レーザヘッドは、ウェハの内部に改質領域を形成するための加工用レーザ光を出射するレーザ光源と、加工用レーザ光の光路上に順に配置されたダイクロイックミラー及び集光レンズと、AF装置と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば上述したようなレーザダイシング装置において、レーザ光の集光点の形状(以下、「集光形状」という場合がある)が、改質領域からの亀裂の伸展量といった加工結果に影響を及ぼす。また、集光形状を一定に維持した場合には、ウェハといった対象物に対するレーザ光の集光点の進行方向(以下、「レーザ進行方向」という場合がある)が加工結果に影響を及ぼす。したがって、上記技術分野にあっては、レーザ進行方向に応じて集光形状が調整可能とされることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、レーザ光の集光点の進行方向に応じてレーザ光の集光形状を調整可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光を出力する光源と、光源から出力されたレーザ光を変調するための変調パターンを表示する空間光変調器と、空間光変調器により変調されたレーザ光を対象物に集光する集光レンズと、対象物に対するレーザ光の集光点の進行方向に応じて変調パターンを調整するように空間光変調器を制御する制御部と、を備える。
【0007】
このレーザ加工装置は、空間光変調器を備えている。したがって、制御部が、空間光変調器に表示する変調パターンを調整することにより、集光形状を調整できる。特に、このレーザ加工装置では、制御部が、レーザ進行方向に応じて変調パターンを調整して空間光変調器に表示させる。このように、このレーザ加工装置によれば、レーザ進行方向に応じて集光形状が調整可能である。
【0008】
ところで、集光形状は、上記のとおり空間光変調器に表示させる変調パターンの調整によって調整できる。したがって、所望の加工結果を得るためには、変調パターンの調整のマージンが十分に確保されることが望ましい。一方で、本発明者は、レーザ光の集光点をウェハに対して一方向に移動させて加工を行う場合と、レーザ光の集光点を反対方向に移動させて加工を行う場合とで、変調パターン(すなわち集光形状)を一括して(一定に維持しながら)調整しようとすると、調整のマージンがわずかであるとの問題を見出した。
【0009】
本発明者は、上記問題の解決のために検討を進めることにより、ウェハに対するレーザ光の集光点の進行方向(レーザ進行方向)に応じて変調パターンを調整するようにすれば、変調パターンの調整のマージンが拡大されることを見出した。その結果、レーザ進行方向によらず、所望の加工結果を得ることが可能となるのである。本発明者は、当該知見に基づいてさらなる研究を進めた結果、次の発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、集光点が対象物に対して第1方向に進行する第1の場合と、集光点が対象物に対して第1方向の反対の第2方向に進行する第2の場合とで、個別に、変調パターンを調整してもよい。このように、レーザ進行方向が第1方向とその反対の第2方向とで、個別に変調パターンを調整することにより、変調パターンの調整のマージンが拡大される。
【0011】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第1の場合に集光点の形状が第1方向に凸となる弧状となるように変調パターンを調整すると共に、第2の場合に、集光点の形状が第2方向に凸となる弧状となるように変調パターンを調整してもよい。このように、レーザ光の集光形状が進行方向に凸となる弧状となるように変調パターンを調整することにより、レーザ光の集光点に形成される改質領域からの亀裂の進展量を増大させることができる。
【0012】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第1の場合に、集光点の形状が第2方向に凸となる弧状となるように変調パターンを調整すると共に、第2の場合に、集光点の形状が第1方向に凸となる弧状となるように変調パターンを調整してもよい。このように、レーザ光の集光形状が進行方向と反対に凸となる弧状となるように変調パターンを調整することにより、レーザ光の集光点に形成される形質領域からの亀裂の進展を抑えることができる。
【0013】
本発明に係るレーザ加工装置は、情報を表示するための表示部と、入力を受け付ける入力部と、を備え、表示部は、変調パターンを調整するためのパラメータの入力を促すための情報を表示し、入力部は、パラメータの入力を受け付け、制御部は、入力部が受け付けたパラメータに基づいて、変調パターンを調整してもよい。この場合、ユーザの入力に応じた変調パターンの調整が可能となる。
【0014】
本発明に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、レーザ光の球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、パラメータは、集光レンズの瞳面の中心に対する球面収差補正パターンの中心の進行方向に沿ったオフセット量を含んでもよい。このように、球面収差補正パターンのオフセット量をパラメータとして設定することにより、亀裂の伸展量が制御されるようにレーザ光の集光形状を調整できる(例えば、上記の弧状に調整できる)。
【0015】
本発明に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、レーザ光に対して正のコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、パラメータは、コマ収差の大きさを含んでもよい。このように、レーザ光に付与するコマ収差の大きさをパラメータとして設定しても、球面収差補正パターンのオフセット量をパラメータとする場合と同様に、亀裂の伸展量が制御されるようにレーザ光の集光形状を調整できる(例えば、上記の弧状に調整できる)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レーザ光の集光点の進行方向に応じてレーザ光の集光形状を調整可能なレーザ加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図3】
図2に示されるウェハの一部分の断面図である。
【
図4】
図1に示されたレーザ照射ユニットの構成を示す模式図である。
【
図5】
図4に示されたリレーレンズユニットを示す図である。
【
図6】
図4に示された空間光変調器の部分的な断面図である。
【
図7】集光形状の調整の一例を説明するための模式図である。
【
図9】球面収差補正パターンのオフセット量を複数段階で変化させたときの集光形状の変化を示す図である。
【
図10】球面収差補正パターンをオフセットさせた状態でのレーザ加工の様子を示す模式図である。
【
図11】球面収差補正パターンのオフセット量と加工結果との関係を示す表である。
【
図12】球面収差補正パターンのオフセット量と加工結果との関係を示す断面写真である。
【
図13】変調パターンと集光形状との関係を示す図である。
【
図14】情報を表示した状態の入力受付部を示す図である。
【
図15】情報を表示した状態の入力受付部を示す図である。
【
図16】レーザ加工の一例を示す模式的な平面図である。
【
図17】奇数階の走査が行われた場合の半導体基板の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
【0019】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、レーザ照射ユニット3と、駆動ユニット9と、制御部10と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成する装置である。
【0020】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能であり、Z方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0021】
レーザ照射ユニット3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0022】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0023】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0024】
駆動ユニット9は、レーザ照射ユニット3を支持している。駆動ユニット9は、レーザ照射ユニット3をZ方向に沿って移動させる。
【0025】
制御部10は、ステージ2、レーザ照射ユニット3、及び駆動ユニット9の動作を制御する。制御部10は、処理部101と、記憶部102と、入力受付部(表示部、入力部)103と、を有している。処理部101は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部101では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部102は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部103は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。本実施形態では、入力受付部103は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
[対象物の構成]
【0026】
図2は、一実施形態のウェハの平面図である。
図3は、
図2に示されたウェハの一部分の断面図である。本実施形態の対象物11は、一例として
図2,3に示されるウェハ20である。ウェハ20は、半導体基板21と、機能素子層22と、を備えている。半導体基板21は、表面21a及び裏面21bを有している。一例として、裏面21bは、レーザ光L等の入射面となる第1表面であり、表面21aは、当該第1表面の反対側の第2表面である。半導体基板21は、例えば、シリコン基板である。機能素子層22は、半導体基板21の表面21aに形成されている。機能素子層22は、表面21aに沿って2次元に配列された複数の機能素子22aを含んでいる。
【0027】
機能素子22aは、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。機能素子22aは、複数の層がスタックされて3次元的に構成される場合もある。なお、半導体基板21には、結晶方位を示すノッチ21cが設けられているが、ノッチ21cの替わりにオリエンテーションフラットが設けられていてもよい。
【0028】
ウェハ20は、複数のライン15のそれぞれに沿って機能素子22aごとに切断される。複数のライン15は、ウェハ20の厚さ方向から見た場合に複数の機能素子22aのそれぞれの間を通っている。より具体的には、ライン15は、ウェハ20の厚さ方向から見た場合にストリート領域23の中心(幅方向における中心)を通っている。ストリート領域23は、機能素子層22において、隣り合う機能素子22aの間を通るように延在している。本実施形態では、複数の機能素子22aは、表面21aに沿ってマトリックス状に配列されており、複数のライン15は、格子状に設定されている。なお、ライン15は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。
[レーザ照射ユニットの構成]
【0029】
図4は、
図1に示されたレーザ照射ユニットの構成を示す模式図である。
図5は、
図4に示されたリレーレンズユニットを示す図である。
図6は、
図4に示された空間光変調器の部分的な断面図である。レーザ照射ユニット3は、光源31と、空間光変調器5と、集光レンズ33と、4fレンズユニット34と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、レーザ照射ユニット3は、光源31を有さず、レーザ照射ユニット3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。
【0030】
空間光変調器5は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。集光レンズ33は、空間光変調器5によって変調されたレーザ光Lを対象物11(半導体基板21)に向けて集光する。4fレンズユニット34は、空間光変調器5から集光レンズ33に向かうレーザ光Lの光路上に配列された一対のレンズ34A,34Bを有している。一対のレンズ34A,34Bは、空間光変調器5の変調面5aと集光レンズ33の入射瞳面(瞳面)33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器5の変調面5aでのレーザ光Lの像(空間光変調器5において変調されたレーザ光Lの像)が、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像(結像)される。なお、図中のFsはフーリエ面を示す。
【0031】
空間光変調器5は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器5は、半導体基板51上に、駆動回路層52、画素電極層53、反射膜54、配向膜55、液晶層56、配向膜57、透明導電膜58及び透明基板59がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0032】
半導体基板51は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層52は、半導体基板51上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層53は、半導体基板51の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極53aを含んでいる。各画素電極53aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極53aには、駆動回路層52によって電圧が印加される。
【0033】
反射膜54は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜55は、液晶層56における反射膜54側の表面に設けられており、配向膜57は、液晶層56における反射膜54とは反対側の表面に設けられている。各配向膜55,57は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜55,57における液晶層56との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜55,57は、液晶層56に含まれる液晶分子56aを一定方向に配列させる。
【0034】
透明導電膜58は、透明基板59における配向膜57側の表面に設けられており、液晶層56等を挟んで画素電極層53と向かい合っている。透明基板59は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜58は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板59及び透明導電膜58は、レーザ光Lを透過させる。
【0035】
以上のように構成された空間光変調器5では、変調パターンを示す信号が制御部10から駆動回路層52に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極53aに印加され、各画素電極53aと透明導電膜58との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層56において、各画素電極53aに対応する領域ごとに液晶分子216aの配列方向が変化し、各画素電極53aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層56に変調パターンが表示された状態である。変調パターンは、レーザ光Lを変調するためのものである。
【0036】
すなわち、液晶層56に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板59及び透明導電膜58を介して液晶層56に入射し、反射膜54で反射されて、液晶層56から透明導電膜58及び透明基板59を介して外部に出射させられると、液晶層56に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器5によれば、液晶層56に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。なお、
図5に示された変調面5aは、例えば液晶層56である。
【0037】
本実施形態では、レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウェハ20にレーザ光Lを照射することにより、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の内部に2列の改質領域12a,12bを形成する。改質領域(第1改質領域)12aは、2列の改質領域12a,12bのうち表面21aに最も近い改質領域である。改質領域(第2改質領域)12bは、2列の改質領域12a,12bのうち、改質領域12aに最も近い改質領域であって、裏面21bに最も近い改質領域である。
【0038】
2列の改質領域12a,12bは、ウェハ20の厚さ方向(Z方向)において隣り合っている。2列の改質領域12a,12bは、半導体基板21に対して2つの集光点C1,C2がライン15に沿って相対的に移動させられることにより形成される。レーザ光Lは、例えば集光点C1に対して集光点C2が進行方向の後側且つレーザ光Lの入射側に位置するように、空間光変調器5によって変調される。
【0039】
レーザ照射ユニット3は、一例として、2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が半導体基板21の表面21aに至る条件で、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウェハ20にレーザ光Lを照射することができる。一例として、厚さ775μmの単結晶シリコン基板である半導体基板21に対し、表面21aから54μmの位置及び128μmの位置に2つの集光点C1,C2をそれぞれ合わせて、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウェハ20にレーザ光Lを照射する。
【0040】
このとき、レーザ光Lの波長は1099nm、パルス幅は700n秒、繰り返し周波数は120kHzである。また、集光点C1におけるレーザ光Lの出力は2.7W、集光点C2におけるレーザ光Lの出力は2.7Wであり、半導体基板21に対する2つの集光点C1,C2の相対的な移動速度は800mm/秒である。
【0041】
このような2列の改質領域12a,12b及び亀裂14の形成は、次のような場合に実施される。すなわち、後の工程において、半導体基板21の裏面21bを研削することにより半導体基板21を薄化すると共に亀裂14を裏面21bに露出させ、複数のライン15のそれぞれに沿ってウェハ20を複数の半導体デバイスに切断する場合である。
[集光形状の調整]
【0042】
上述したように、レーザ加工装置1では、光源31から出力されたレーザ光Lは、空間光変調器5に入射する。空間光変調器5には、変調パターンが表示される。このため、空間光変調器5に入射したレーザ光Lは、変調パターンにより変調された後に、4fレンズユニット34を介して集光レンズ33に入射し、対象物11に集光される。したがって、空間光変調器5に表示される変調パターンを調整することにより、レーザ光Lの集光点の形状(以下、「集光形状」という場合がある)を調整できる。以下、集光形状の調整の一例について説明する。
【0043】
図7は、集光形状の調整の一例を説明するための模式図である。
図7に示された例では、変調パターンをオフセットさせる。より具体的には、空間光変調器5には、波面の歪を補正するための歪補正パターン、レーザ光を分岐するためのグレーティングパターン、スリットパターン、非点収差パターン、コマ収差パターン、及び、球面収差補正パターン等の種々のパターンが表示される(これらが重畳されたパターンが表示される)。このうち、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、集光形状を調整可能である。
【0044】
図7の例では、変調面5aにおいて、球面収差補正パターンPsの中心Pcを、レーザ光Lの(ビームスポットの)中心Lcに対して、X方向の負側にオフセット量Ox1だけオフセットさせている。上述したように、変調面5aは、4fレンズユニット34によって、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像される。したがって、変調面5aにおけるオフセットは、入射瞳面33aでは、X方向の正側へのオフセットになる。すなわち、入射瞳面33aでは、球面収差補正パターンPsの中心Pcは、レーザ光Lの中心Lc、及び入射瞳面33aの中心(ここでは、中心Lcと一致している)からX方向の正側にオフセット量Ox2だけオフセットされる。
【0045】
これに対して、変調面5aにおいて、球面収差補正パターンPsの中心Pcを、レーザ光Lの中心Lcに対してX方向の正側にオフセットさせると、入射瞳面33aでは、球面収差補正パターンPsの中心Pcが、レーザ光Lの中心Lc、及び入射瞳面33aの中心からX方向の負側にオフセットされることとなる。このように、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、レーザ光Lの集光点C1(及び集光点C2)の形状が、オフセットがない場合と比較して変形される。
【0046】
図8は、集光形状(強度分布)の一例を示す図である。
図8の各図は、X方向及びZ方向を含む断面での集光形状を示す。
図8の(a)は、入射瞳面33aでX方向の負側(すなわち、変調面5aでX方向の正側)に球面収差補正パターンPsをオフセットさせた場合の集光形状を示しており、
図8の(c)は、入射瞳面33aでX方向の正側(すなわち、変調面5aでX方向の負側)に球面収差補正パターンPsをオフセットさせた場合の集光形状を示している。
図8の(b)は、オフセットがない場合の集光形状である。
【0047】
図8に示されるように、球面収差補正パターンPsをX方向にオフセットさせることにより、集光形状が光軸中心Axに対して非対称となる。特に、
図8の(a)に示されるように、入射瞳面33aを基準として、X方向の負側に球面収差補正パターンPsをオフセットさせると、光軸中心Axに対してX方向の正側に偏った強度分布(X方向の負側に凸となる弧状の強度分布)となる。また、
図8の(c)に示されるように、入射瞳面33aを基準として、X方向の正側に球面収差補正パターンPsをオフセットさせると、光軸中心Axに対してX方向の負側に偏った強度分布(X方向の正側に凸となる弧状の強度分布)となる。
【0048】
図9は、球面収差補正パターンのオフセット量を複数段階で変化させたときの集光形状の変化を示す図である。
図9における「オフセット[pixel]SLM平面」は、変調面5aでのオフセット量を示しており、マイナスがX方向の負側を示している。上述したように、ここでは、変調面5aでの球面収差補正パターンPsをオフセット量の符号と、入射瞳面33aでの球面収差補正パターンPsをオフセット量の符号とが逆になっている。
【0049】
また、「BE(μm)」は、球面収差補正パターンPsの補正量であり、「Z[μm]」はZ方向におけるレーザ光Lの集光位置であり、「CP[μm]」は集光補正量である。
図9に示されるように、球面収差補正パターンPsの(中心Pcの)オフセット量を段階的に変化させることにより、集光形状を段階的に変化させることができる。なお、
図9における「(3次)コマ収差」は、各集光形状に対応する3次のコマ収差の大きさを示している。
【0050】
以上のように、球面収差補正パターンPsのオフセット量を調整して集光形状を調整することにより、例えば亀裂14の伸展量といった加工結果を制御することが可能である。
図10は、球面収差補正パターンをオフセットさせた状態でのレーザ加工の様子を示す模式図である。
図10の(a)は、レーザ光Lの集光点C1(図示しない集光点C2も同様)を半導体基板21(ウェハ20)に対してX正方向である第1方向D1に進行させて加工を行う第1の場合(以下、「往路加工」という場合がある)を示している。ここでは、ステージ2及び半導体基板21を第1方向D1の反対方向(X負方向)である第2方向に移動させることにより、集光点C1を相対的に第1方向D1に進行させている。
【0051】
図10の(b)は、レーザ光Lの集光点C1を半導体基板21に対してX負方向である第2方向D2に進行させて加工を行う第2の場合(以下、「復路加工」という場合がある)を示している。ここでは、ステージ2及び半導体基板21を第1方向D1に移動させることにより、集光点C1を相対的に第2方向D2に進行させている。なお、
図10では、集光点C1の形状が、集光点C1の進行方向に凸である弧状となるように、第1の場合と第2の場合とで個別に調整されている場合を図示している。すなわち、
図10の例は、第1の場合には第1方向D1に凸となる弧状となり、第2の場合には第2方向D2に凸となる弧状となるように個別に調整されている例である。一方で、第1の場合と第2の場合とで、集光形状を一定に維持しながら加工を行うと、次のような問題が生じる。なお、ここでは、集光形状を調整すること(或いは一定に維持すること)は、球面収差補正パターンPsのオフセット量を調整すること(或いは一定に維持すること)を意味する。
【0052】
図11の(a)は、第1の場合(往路加工)と第2の場合(復路加工)とで、集光形状を一定に維持しながら加工を行った場合の加工結果(亀裂の伸展量)を示している。ここでは、球面収差補正パターンPsのオフセット量(X-offset(pixel))を、往路加工と復路加工とで一定としつつ、+6.5から-6.5まで2ピクセル刻みで変化させている。加工結果のAは、亀裂14が半導体基板21の表面21aに到達している状態を示しており、望ましい加工結果の一例である。加工結果のBは、亀裂14が半導体基板21の表面21aに到達しているものの、改質領域12aと改質領域12bとの間に黒スジ(亀裂が繋がっていない領域)が発生している状態を示している。加工結果のCは、亀裂14が半導体基板21の表面21aに到達していない状態を示している。
【0053】
図11の(a)に示されるように、往路加工と復路加工とでオフセット量(集光形状)を一定とした場合には、往路加工と復路加工との両方でAの加工結果が得られるオフセット量が、「基準」(オフセット量が0である場合)のみである。換言すれば、往路加工と復路加工とでオフセット量(集光形状)を一定とした場合には、例えば他の加工結果の制御のためにオフセット量を調整しようとしても、調整のマージンがない(少なくとも±2.5未満となる)。
【0054】
これに対して、
図10に示されるように、往路加工と復路加工とで、個別に、オフセット量(集光形状)を調整した場合の加工結果を
図11の(b)及び
図12(
図12は断面写真である)に示す。
図11の(b)及び
図12に示されるように、この場合には、往路加工では、基準から-4.5のオフセット量の範囲でAの加工結果が得られており、復路加工では、基準から+4.5のオフセット量の範囲でAの加工結果が得られている。したがって、例えば他の加工結果の制御のためにオフセット量を調整しようとした場合には、往路加工及び復路加工のそれぞれについて、4.5のオフセット量の調整のマージンが得られることとなる。
【0055】
なお、以上の例では、集光形状の調整のために、球面収差補正パターンPsのオフセット量を調整している。しかしながら、空間光変調器5を用いた別の方法でも集光形状を調整することも可能である。
【0056】
図13の(a)は、上述したように球面収差補正パターンPsをオフセットさせた場合に得られる集光形状を示している。これに対して、
図13の(b)の「コマ」は、球面収差補正パターンPsのオフセット量を0としつつ、空間光変調器5にコマ収差パターンを表示させ、レーザ光Lに対して正のコマ収差を付与した場合に得られる集光形状を示している。
図13の(b)に示されるように、レーザ光Lに対して正のコマ収差を付与することによっても、球面収差補正パターンPsをオフセットさせた場合と同等の集光形状が得られる。これは、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることが、レーザ光Lにコマ収差を与えることと同義であるからであると考えられる。
【0057】
なお、正のコマ収差とは、Zernikeの多項式において、正の係数が与えられるコマ収差であり、主に、当該多項式の3次の項が影響するが、より高次の項(例えば5次の項)の影響も含まれる。また、変調面5aを基準として-5のオフセット量で球面収差補正パターンPsのオフセットした場合に対して、コマ収差(3次)をLv7とした場合が相当する。また、球面収差補正パターンPsのオフセット量と、コマ収差の大きさとは比例し、二次関数で増加する。さらに、球面収差補正パターンPsの補正量(BE[μm])とコマ収差の大きさとは比例し、二次関数で増加する。
【0058】
さらに、
図13の(b)の「Airy Beam」に示されるように、レーザ光Lをエアリービームとするための変調パターンでも、球面収差補正パターンPsをオフセットさせた場合と同等の集光形状が得られる。この変調パターンによれば、コマ収差と非点収差(3次)とが重畳されてレーザ光Lに付与される。以上のいずれの場合であっても、往路加工と復路加工とで、個別に、変調パターンを調整することにより、変調パターンの調整のマージンが拡大される。
[レーザ加工装置の実施形態]
【0059】
以上の知見に基づいて、本実施形態に係るレーザ加工装置1は、レーザ光Lの集光点C1の進行方向に応じてレーザ光Lの集光形状を調整可能とする。そのために、レーザ加工装置1では、制御部10が、入力受付部103の制御により、半導体基板21(ウェハ20)に対するレーザ光Lの集光点C1(集光点C2)の進行方向に応じて変調パターンが調整されるように、変調パターンのパラメータの入力をユーザに促すための情報を入力受付部103に表示させる。
【0060】
図14の(a)は、入力受付部103に表示される情報K1の一例である。情報K1では、変調パターンのパラメータとして、往路加工での球面収差補正パターンPsの(中心Pc)のオフセット量(LBAオフセット量)と、復路加工での球面収差補正パターンPsの(中心Pcの)オフセット量と、を表示している。
【0061】
つまり、ここでは、制御部10は、入力受付部103の制御により、半導体基板21のレーザ光Lの入射面(ここでは裏面21b)に交差する方向(ここではZ方向)からみたとき、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向(例えばX正方向)に進行する第1の場合(往路加工)と、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向の反対の第2方向(例えばX負方向)に進行する第2の場合(復路加工)とで、個別に、変調パターンが調整されるように、球面収差補正パターンPsのオフセット量(パラメータ)の入力をユーザに促すための情報を入力受付部103に表示させることとなる。
【0062】
ここでは、一例として、往路加工で-2.5、復路加工で+2.5のオフセット量が入力された例が示されている。これに対して、入力受付部103は、球面収差補正パターンPsのオフセット量のユーザからの入力を受け付ける。そして、制御部10は、入力受付部103が受け付けたオフセット量に基づいて、変調パターンを調整して空間光変調器5に表示させる。
【0063】
図14の(b)は、制御部10の空間光変調器5に対する指示値であって、空間光変調器5に表示させる球面収差補正パターンPsの中心Pcの変調面5aでのアドレスを示している。
図14の(b)に示される各値は、入力受付部103に表示されるものではない。上述したように、入力受付部103では、単に、球面収差補正パターンPsのオフセット量が入力される。これに対して、制御部10は、入力されたオフセット量を実現するための具体的なアドレスを空間光変調器5に出力する。
【0064】
一例として、制御部10は、集光レンズ33の入射瞳面33aの中心のX方向及びY方向のアドレス(X:-15.5、Y:-23.5)であるとき、往路加工では球面収差補正パターンPsの中心Pcの変調面5aでのアドレスを(X:-18.0、Y:-23.5)と指定し、復路加工では球面収差補正パターンPsの中心Pcの変調面5aでのアドレスを(X:-13.0、Y:-23.5)と指定する。これは、上記の例で、球面収差補正パターンPsのオフセット量が往路加工で-2.5、復路加工で+2.5であったためである。
【0065】
このように、空間光変調器5に表示される変調パターンは、球面収差補正パターンPsを含み、変調パターンのパラメータとしては、球面収差補正パターンPsのオフセット量が含まれる。
【0066】
一方、
図15の(a)は、入力受付部103に表示される別の情報K2の一例である。また、
図15の(b)は、制御部10の空間光変調器5に対する指示値であって、空間光変調器5に表示させるコマ収差パターンのコマ収差の大きさを示している。
図15の(a)に示されるように、ここでは、入力受付部103には、球面収差補正パターンPsのオフセット量に代えて、コマ収差の大きさの入力を促す情報が表示される。
【0067】
ここでは、コマ収差の大きさの入力を促すための情報として、入力受付部103に「コマパターン」と表示させることにより、ユーザに対してコマ収差パターンを調整するモードであることが認識され易いようにしてもよい。特に、ここでは、
図15の(b)に示される空間光変調器5に表示させるコマ収差パターンの実際の値(ここでは、+0.037及び-0.037)値に代えて、当該実際の値に対応しつつユーザが認識易い値(ここでは+37及び-2.5)を入力させるようにすることができる。なお、
図15の(b)に示される各値は、入力受付部103に表示されるものではない。
【0068】
一方、制御部10が空間光変調器5に表示されたコマ収差パターンを調整する場合であっても、上述したように入力受付部103に「コマパターン」と表示させずに、「往復路抑制パターン」と表示させてもよいし、「亀裂傾きX」と表示させてもよい(或いは他の表示であってもよい)。すなわち、ここでは、ユーザが加工結果を制御するに際して認識しやすい任意の表示を行うことができる。
【0069】
以上のように、空間光変調器5に表示される変調パターンは、コマ収差パターンを含み、変調パターンのパラメータとしては、コマ収差の大きさが含まれる。
【0070】
レーザ加工装置1は、以上のように、入力受付部103が受け付けたパラメータに基づいて変調パターンが空間光変調器5に表示された状態において、実際のレーザ加工を行う。レーザ加工装置1では、例えば
図16に示されるように、種々のレーザ加工が可能である。
図16の(a)に示される例では、レーザ光Lの集光点C1(集光点C2)を半導体基板21(ウェハ20)の外縁に沿って周回移動させることにより、半導体基板21の外縁に沿って改質領域12a,12b及び亀裂14を形成する。
【0071】
これにより、改質領域12a,12b及び亀裂14を起点として、半導体基板21の外縁に沿った環状の領域を半導体基板21から切除することができる(トリミング加工が可能となる)。この場合には、例えばステージ2及びウェハ20をZ方向に平行な軸線を中心として回転させることにより、レーザ光Lの集光点C1を周回させることができる。この場合には、レーザ光Lの集光点C1の進行方向(レーザ進行方向)は、半導体基板21に対して例えばX正方向である第1方向D1のみとなる。
【0072】
したがって、この場合には、レーザ加工装置1は、以下の動作を行う。入力受付部103が、半導体基板21に対するレーザ光Lの集光点C1の進行方向である第1方向D1に応じて変調パターンが調整されるように、変調パターンのパラメータの入力を促すための情報を表示する。また、入力受付部103が、当該パラメータの入力を受け付け、制御部10は、入力受付部103が受け付けたパラメータに基づいて、変調パターンを調整して空間光変調器5に表示させる。
【0073】
一方、
図16の(b),(c)に示される例では、レーザ光Lの集光点C1をライン15のそれぞれに沿って半導体基板21に対して相対移動させることにより(走査することにより)、ライン15のそれぞれに沿って改質領域12a,12b及び亀裂14を形成する。これにより、改質領域12a,12b及び亀裂14を起点として、半導体基板21をライン15のそれぞれに沿って切断することができる(ダイシングできる)。
【0074】
これらの場合には、1つのライン15に対して、レーザ光Lの集光点C1のZ方向の位置を変更しつつ奇数回の走査が行われる場合と、偶数回の走査が行われる場合とがある。奇数回の走査が行われる場合には、
図16の(b)に示されるように、少なくとも、1つのライン15の走査と当該1つのラインに隣接する別のライン15に対する走査とにおいて、レーザ進行方向が異なることとなる。すなわち、この場合には、レーザ進行方向がX正方向である第1方向D1である第1の場合(往路加工)と、レーザ進行方向がX負方向である第2方向D2である第2の場合(復路加工)とが、少なくともライン15ごとに入れ替わる(奇数が3以上である場合には、1つのライン内でも入れ替わる)。
【0075】
一方、偶数回の走査が行われる場合には、
図16の(c)に示されるように、複数のライン15に渡ってレーザ進行方向が同一であり、1つのライン15内において第1の場合と第2の場合とが入れ替わることとなる。いずれの場合であっても、第1の場合と第2の場合とが混在することから、レーザ加工装置1は、以下の動作を行う。
【0076】
すなわち、入力受付部103が、半導体基板21のレーザ光Lの入射面(ここでは裏面21b)に交差する方向(Z方向)からみたとき、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向D1に進行する第1の場合と、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向D1の反対の第2方向D2に進行する第2の場合とで、個別に、変調パターンが調整されるように、パラメータの入力を促すための情報を表示する。また、入力受付部103は、パ当該パラメータの入力を受け付ける。そして、制御部10は、入力受付部103が受け付けたパラメータに基づいて、第1の場合と第2の場合とで、個別に、変調パターンを調整して空間光変調器5に表示させる。
【0077】
換言すれば、制御部10は、半導体基板21に対するレーザ光Lの集光点C1の進行方向に応じて変調パターンを調整するように空間光変調器5を制御する。より具体的には、制御部10は、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向D1に進行する第1の場合と、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向D1の反対の第2方向D2に進行する第2の場合とで、個別に、変調パターンを調整する。上述したように、制御部10は、球面収差補正パターンPsのオフセット量及び/又はコマ収差の大きさをパラメータとして、変調パターンを調整することができる。この場合、集光点C1の形状が第1方向D1又は第2方向に凸となるように制御される。
【0078】
したがって、制御部10は、第1の場合に、集光点C1の形状が第1方向D1に凸となる弧状となるように変調パターンを調整すると共に、第2の場合に、集光点C1の形状が第2方向D2に凸となる弧状となるように変調パターンを調整することができる。或いは、制御部10は、第1の場合に、集光点C1の形状が第2方向D2に凸となる弧状となるように変調パターンを調整すると共に、第2の場合に、集光点C1の形状が第1方向D1に凸となる弧状となるように変調パターンを調整することができる。
【0079】
図17は、奇数階の走査が行われた場合の半導体基板の断面を示す図である。ここでは、レーザ光Lの集光点を集光点C1のみとし(1焦点とし)、表面21a側から5回の走査(5パス加工)を行った。複数のライン15のうちのある1つのライン15では、1回目、3回目、及び、5回目の走査が、レーザ進行方向が第1方向D1である第1の場合(往路加工)に相当し、それぞれ、改質領域12a、改質領域12c、及び、改質領域12eが形成される。同様に、2回目及び4回目の走査が、レーザ進行方向が第2方向D2である第2の場合(復路加工)に相当し、改質領域12b及び改質領域12dが形成される。
【0080】
一方、複数のライン15のうちの上記の1つのライン15に隣接する別のライン15では、1回目、3回目、及び、5回目の走査が、レーザ進行方向が第2方向D2である第2の場合(復路加工)に相当し、それぞれ、改質領域12a、改質領域12c、及び、改質領域12eが形成される。同様に、2回目及び4回目の走査が、レーザ進行方向が第1方向D1である第1の場合(往路加工)に相当し、改質領域12b及び改質領域12dが形成される。
【0081】
このときのレーザ光Lの波長を1099nmとし、パルス幅は400n秒、繰り返し周波数は100kHzとした。また、集光点C1におけるレーザ光Lの出力を、1~4回目の走査では1.5Wとし、5回目の走査では1.3Wとした。さらに、半導体基板21に対する集光点C1の相対的な移動速度を、490mm/秒とした。
【0082】
さらに、ここでは、変調パターンのパラメータの調整として、球面収差補正パターンPsのオフセット量及びコマ収差の大きさを調整している。それぞれのパラメータは、以下のとおりである。
【0083】
1回目:往路加工では、オフセット量が-3.5でありコマ収差がLv3、復路加工では、オフセット量が+3.5でありコマ収差がLv-3。
2回目:往路加工では、オフセット量が-4.5でありコマ収差がLv3、復路加工では、オフセット量が+4.5であり、コマ収差がLv-3。
3回目:往路加工では、オフセット量が-25であり、コマ収差がLv3、復路加工では、オフセット量が+25であり、コマ収差がLv-3。
4回目:往路加工では、オフセット量が-25でありコマ収差がLv3、復路加工では、オフセット量が+25であり、コマ収差がLv-3。
5回目:往路加工では、オフセット量が-25でありコマ収差がLv3、復路加工では、オフセット量が+25であり、コマ収差がLv-3。
【0084】
これにより、改質領域12aから延びる亀裂14が表面21aに到達する加工結果が得られた。
【0085】
以上説明したように、レーザ加工装置1は、空間光変調器5を備えている。したがって、制御部10が、空間光変調器5に表示する変調パターンを調整することにより、集光形状を調整できる。特に、レーザ加工装置1では、制御部10が、レーザ進行方向に応じて変調パターンを調整して空間光変調器5に表示させる。このように、このレーザ加工装置1によれば、レーザ進行方向に応じて集光形状が調整可能である。
【0086】
また、レーザ加工装置1では、制御部10が、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向D1に進行する第1の場合と、集光点C1が半導体基板21に対して第1方向D1の反対の第2方向D2に進行する第2の場合とで、個別に、変調パターンを調整する。このように、レーザ進行方向が第1方向とその反対の第2方向とで、個別に変調パターンを調整することにより、変調パターンの調整のマージンが拡大される。
【0087】
また、レーザ加工装置1では、制御部10は、第1の場合に、集光点C1の形状が第1方向D1に凸となる弧状となるように変調パターンを調整すると共に、第2の場合に、集光点C1の形状が第2方向D2に凸となる弧状となるように変調パターンを調整してもよい。このように、レーザ光Lの集光形状が進行方向に凸となる弧状となるように変調パターンを調整することにより、レーザ光Lの集光点C1に形成される改質領域からの亀裂の進展量を増大させることができる。
【0088】
また、レーザ加工装置1では、制御部10は、第1の場合に、集光点C1の形状が第2方向D2に凸となる弧状となるように変調パターンを調整すると共に、第2の場合に、集光点C1の形状が第1方向D1に凸となる弧状となるように変調パターンを調整してもよい。このように、レーザ光Lの集光形状が進行方向と反対に凸となる弧状となるように変調パターンを調整することにより、レーザ光Lの集光点C1に形成される形質領域からの亀裂の進展を抑えることができる。
【0089】
また、レーザ加工装置1は、情報を表示すると共に入力を受け付ける入力受付部103を備えている。入力受付部103は、変調パターンを調整するためのパラメータの入力を促すための情報を表示すると共に、当該パラメータの入力を受け付ける。そして、制御部10は、入力受付部103が受け付けたパラメータに基づいて、変調パターンを調整する。このため、ユーザの入力に応じた変調パターンの調整が可能である。
【0090】
また、レーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lの球面収差を補正するための球面収差補正パターンPsを含む。そして、パラメータは、集光レンズ33の入射瞳面33aの中心に対する球面収差補正パターンPsの中心Pcの第1方向D1に沿ったオフセット量を含む。このように、球面収差補正パターンPsのオフセット量をパラメータとして設定することにより、亀裂14の伸展量が制御されるようにレーザ光Lの集光形状を調整できる。
【0091】
さらに、レーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lに対して正のコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含む。そして、パラメータは、コマ収差の大きさを含む。このように、レーザ光Lに付与するコマ収差の大きさをパラメータとして設定しても、球面収差補正パターンPsのオフセット量をパラメータとする場合と同様に、亀裂14の伸展量が制御されるようにレーザ光Lの集光形状を調整できる。
【0092】
以上の実施形態は、本発明の一態様を示すものである。したがって、本発明は、上述したレーザ加工装置1に限定されることなく、変形され得る。
【0093】
例えば、上記実施形態においては、加工結果のうち、亀裂14が半導体基板21の表面21a(入射面と反対側の面)に到達する場合を望ましい加工結果の一例として挙げた。これは、亀裂14の伸展量が大きい(積極的に亀裂14を伸ばす)ことが望ましい一例である。この場合には、上述したように、集光形状がレーザ進行方向に凸となる弧状となるように変調パターンのパラメータを調整する。これに対して、亀裂14の伸展量が小さい(積極的に亀裂14を伸ばさない)ことが望ましい場合もある。この場合には、集光形状がレーザ進行方向と反対方向に凸となる弧状となるように、変調パターンのパラメータを調整すればよい。
【0094】
また、上記実施形態においては、ユーザからのパラメータの入力を受け、制御部10が空間光変調器5に表示させる変調パターンを調整する例について説明した。しかし、ユーザからのパラメータの入力は必須でなく、制御部10が、レーザ光Lの集光点C1の進行方向に応じた変調パターンのパラメータを予め保持しており、当該パラメータに応じて変調パターンを調整してもよい。
【0095】
さらに、入力受付部103は、球面収差補正パターンPsのオフセット量、及び/又はコマ収差の大きさの入力を促すための情報を表示する(及び、入力を受け付ける)ことに代えて(或いは加えて)、レーザ光Lの集光点C1(集光点C2)の形状の弧状の度合いや、凸となる方向の選択等の入力を促すための情報を表示する(及び、入力を受け付ける)ように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1…レーザ加工装置、5…空間光変調器、10…制御部、31…光源、33…集光レンズ、33a…入射瞳面(瞳面)、103…入力受付部(表示部、入力部)、Ps…球面収差補正パターン。