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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】硫化検出抵抗器
(51)【国際特許分類】
   H01C 1/034 20060101AFI20231017BHJP
   H01C 13/00 20060101ALI20231017BHJP
   H01C 13/02 20060101ALI20231017BHJP
   H01C 7/00 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 17/04 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01C1/034
H01C13/00 J
H01C13/02 B
H01C7/00 110
G01N27/12 B
G01N27/12 M
G01N17/04
G01N27/00 L
G01N27/04 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019234072
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103724
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 太郎
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-523252(JP,A)
【文献】特開平03-158748(JP,A)
【文献】特開2009-250611(JP,A)
【文献】特開2001-091299(JP,A)
【文献】特開2014-153089(JP,A)
【文献】特開2017-003285(JP,A)
【文献】特開平10-300699(JP,A)
【文献】特開2012-132718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 1/034
H01C 13/00
H01C 13/02
H01C 7/00
G01N 27/12
G01N 17/04
G01N 27/00
G01N 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における相対向する両端部に形成された一対の表電極と、前記一対の表電極間に並列に配置された複数の硫化検出導体と、前記一対の表電極の少なくとも一方と前記複数の硫化検出導体との間に接続された複数の抵抗体と、前記複数の抵抗体の全体および前記複数の硫化検出導体の一部を覆う硫化ガス非透過性の保護膜とを備え、
前記複数の硫化検出導体は前記保護膜から露出する硫化検出部を有しており、これら硫化検出部を硫化速度調整層で選択的に被覆することにより、前記複数の硫化検出部の累積的な硫化量によって断線するタイミングがそれぞれ異なるように設定されていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記硫化速度調整層は、前記硫化検出部の硫化速度を促進させるシリコン樹脂からなることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項3】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記硫化速度調整層は前記硫化検出部の硫化速度を遅延させる硫化ガス透過性の樹脂からなることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項4】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記保護膜は並列配置された前記複数の硫化検出部の間に介在する隔離部を有していることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項5】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記抵抗体と前記保護膜との間にガラス材料からなるプリコート層が介在されており、前記プリコート層の一端部が前記保護膜から突出して前記硫化検出部を規定していることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項6】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記複数の硫化検出導体は互いの材料組成と膜厚の少なくとも一方を相違していることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食環境の累積的な硫化量を検出するための硫化検出抵抗器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にチップ抵抗器等の電子部品の内部電極としては、比抵抗の低いAg(銀)系の電極材料が使用されているが、銀は硫化ガスに晒されると硫化銀となり、硫化銀は絶縁物であることから、電子部品が断線してしまうという不具合が発生してしまう。そこで近年では、AgにPd(パラジウム)やAu(金)を添加して硫化しにくい電極を形成したり、電極を硫化ガスが到達しにくい構造にする等の硫化対策が講じられている。
【0003】
しかし、このような硫化対策を電子部品に講じたとしても、当該電子部品が硫化ガス中に長期間晒された場合や高濃度の硫化ガスに晒された場合は、断線を完全に防ぐことが難しくなるため、未然に断線を検知して予期せぬタイミングでの故障発生を防止することが必要となる。
【0004】
そこで従来より、特許文献1に記載されているように、電子部品の累積的な硫化の度合いを検出して、電子部品が硫化断線する等して故障する前に危険性を検出可能とした硫化検出センサが提案されている。
【0005】
特許文献1に記載された硫化検出センサは、絶縁基板上にAgを主体とした硫化検出体を形成し、この硫化検出体を覆うように透明で硫化ガス透過性のある保護膜を形成すると共に、絶縁基板の両側端部に硫化検出体に接続する端面電極を形成した構成となっている。このように構成された硫化検出センサを他の電子部品と共にプリント基板上に実装した後、該プリント基板を硫化ガスを含む雰囲気で使用すると、時間経過に伴って他の電子部品が硫化されると共に、硫化ガスが硫化検出センサの保護膜を透過して硫化検出体に接するため、硫化ガスの濃度と経過時間に応じて硫化検出体の色が変化していく。これにより、硫化検出体の色の変化を保護膜を透して目視したり、硫化検出センサの上面に照射した光の硫化検出体からの反射光を検出したり、あるいは硫化検出体の抵抗値の変化を検出することにより、硫化の度合いを検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-250611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、硫化ガスによる硫化検出体の色の変化は微妙であるため、作業員の目視によって硫化の度合いを正確に検出することは困難であり、硫化検出体からの反射光に基づいて硫化の度合いを検出するとしても、検出するための大掛かりな設備が別途必要になるという課題がある。また、硫化検出体は比抵抗の低いAgを主体とした導電体であるため、累積的な硫化量に伴う硫化検出体の抵抗値変化は微量であり、さらにAgは温度特性(TCR)が非常に悪く、温度による抵抗値変化が大きいため、硫化検出体の抵抗値の変化に基づいて硫化の度合いを正確に検出することも困難となる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる硫化検出抵抗器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の硫化検出抵抗器は、直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における相対向する両端部に形成された一対の表電極と、前記一対の表電極間に並列に配置された複数の硫化検出導体と、前記一対の表電極の少なくとも一方と前記複数の硫化検出導体との間に接続された複数の抵抗体と、前記複数の抵抗体の全体および前記複数の硫化検出導体の一部を覆う硫化ガス非透過性の保護膜とを備え、前記複数の硫化検出導体は前記保護膜から露出する硫化検出部を有しており、これら硫化検出部を硫化速度調整層で選択的に被覆することにより、前記複数の硫化検出部の累積的な硫化量によって断線するタイミングがそれぞれ異なるように設定されていることを特徴としている。
【0010】
このように構成された硫化検出抵抗器では、直列に接続された抵抗体と硫化検出導体の組が、一対の表電極間に複数組並列に接続されており、これら抵抗体の全体と各硫化検出導体の一部が硫化ガス非透過性の保護膜によって覆われていると共に、保護膜から露出する各硫化検出導体の硫化検出部を硫化速度調整層で選択的に被覆することにより、各組の硫化検出導体が累積的な硫化量によって断線するタイミングを異にするように設定されているため、一対の表電極間の抵抗値変化が段階的に変化していき、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0011】
上記構成の硫化検出抵抗器において、硫化速度調整層が硫化検出部の硫化速度を促進させるシリコン樹脂であると、シリコン樹脂中に吸収された硫化成分によって下側の硫化検出部が早く硫化されるため、シリコン樹脂で覆われていない硫化検出部に比べると、累積的な硫化量によって断線するタイミングを早めることができる。
【0012】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、硫化速度調整層が硫化検出部の硫化速度を遅延させる硫化ガス透過性の樹脂(例えば、アクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂等)であると、かかる硫化ガス透過性樹脂によって下側の硫化検出部の硫化速度が遅くなるため、硫化ガス透過性樹脂で覆われていない硫化検出部に比べると、累積的な硫化量によって断線するタイミングを遅らせることができる。
【0013】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、保護膜が並列配置された複数の硫化検出部の間に介在する隔離部を有していると、複数の硫化検出部が互いに異なる硫化速度調整層で覆われていても、隣接する硫化速度調整層どうしの混ざり合いを隔壁部によって確実に防止することができる。
【0014】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、抵抗体と保護膜との間にガラス材料からなるプリコート層が介在されており、このプリコート層の一端部が保護膜から突出して硫化検出部を規定していると、樹脂材料からなる保護膜に印刷ダレ(樹脂流れ)が生じたとしても、かかる印刷ダレはプリコート層上で生じることになるため、プリコート層によって硫化検出部の大きさを精度良く設定することができる。
【0015】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、複数の硫化検出導体は一括形成された同一構成のものでも良いが、複数の硫化検出導体が互いの材料組成と膜厚の少なくとも一方を相違するものであっても良く、その場合、複数種類の硫化検出導体および硫化速度調整層を組み合わせることにより、各組の硫化検出導体が累積的な硫化量によって断線するタイミングのバリエーションを増やすことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することが可能な硫化検出抵抗器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図である。
図2図1のII-II線に沿う断面図である。
図3】該硫化検出抵抗器の製造工程を示す平面図である。
図4】該硫化検出抵抗器の製造工程を示す断面図である。
図5】該硫化検出抵抗器における累積硫化量と抵抗値の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明すると、図1は本発明の実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図、図2図1のII-II線に沿う断面図である。
【0019】
図1図2に示すように、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100は、直方体形状の絶縁基板1と、絶縁基板1の表面(主面)における長手方向両端部に対向して設けられた複数対(本実施形態では3対で計6つ)の表電極2と、対をなす表電極2間に設けられた複数(3つ)の硫化検出導体3と、各硫化検出導体3と対応する表電極2間に接続された複数(6つ)の抵抗体4と、各抵抗体4を覆うプリコート層5と、プリコート層5の全体および各硫化検出導体の一部を覆う保護膜6と、保護膜6から露出する各硫化検出導体3の硫化検出部3aを覆う複数(3つ)の硫化速度調整層7と、絶縁基板1の裏面における長手方向両端部に対向して設けられた複数対(本実施形態では3対)の裏電極8と、絶縁基板1の長手方向両端面に設けられた一対の端面電極9と、各端面電極9の表面に設けられた外部電極10と、によって主として構成されている。
【0020】
絶縁基板1は、後述する大判基板を縦横の分割溝に沿って分割して多数個取りされたものであり、大判基板の主成分はアルミナを主成分とするセラミックス基板である。
【0021】
複数の表電極2は銀を主成分とするAg系ペースト(例えばAg-Pd20%)をスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、これら表電極2は絶縁基板1の長辺に沿って所定間隔を存して形成されている。一対の裏電極8も銀を主成分とするAg系ペースト(例えばAg-Pd20%)をスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、これら裏電極8は絶縁基板1の表面側の表電極2と対応する位置に形成されている。なお、本実施形態に係る硫化検出抵抗器100では、絶縁基板1の相対向する両長辺に沿って3つの表電極2が分離状態で配列されているが、これら表電極2は必ずしも3つに分断せずに連続する1つの表電極2としても良く、裏電極8についても同様である。
【0022】
3つの硫化検出導体3は銀を主成分とするAgペーストまたはAg系ペースト(例えばAg-Pd0.5%)をスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、後述するように、これら硫化検出導体3は硫化ガスに反応して硫化する硫化検出部3aを有している。
【0023】
複数の抵抗体4は酸化ルテニウム等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させたものであり、これら抵抗体4の抵抗値は全て同じ値に設定されている。抵抗体4の両端部は表電極2と硫化検出導体3に接続されており、1つの硫化検出導体3と2つの抵抗体4とで1組の直列回路部が構成され、このように直列回路部が一対の表電極2間に3組並列に接続されている。
【0024】
プリコート層5はガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させたものであり、各抵抗体4はプリコート層5によって覆われている。なお、必要に応じてプリコート層5の上から抵抗体4に図示せぬトリミング溝を形成することにより、抵抗体4の抵抗値調整を行うようにしている。プリコート層5は硫化検出導体3と抵抗体4との接続端部を覆う位置まで延びており、プリコート層5で覆われずに露出している硫化検出導体3の中央部分が硫化検出部3aとなっている。
【0025】
保護膜6は、硫化ガス非透過性の樹脂材料であるエポキシ系樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化させたものであり、この保護膜6によって各抵抗体4は覆われている。保護膜6には各硫化検出導体3の中央部分を露出させる3つの窓孔6aが形成されており、各窓孔6a内には硫化検出導体3の硫化検出部3aとプリコート層5の端部がそれぞれ露出している。保護膜6は隣接する窓孔6aの間に介在する隔離部6bを有しており、この隔離部6bは各窓孔6a内に露出する3つの硫化検出部3aを分離するように帯状に形成されている。
【0026】
保護膜6の各窓孔6a内に露出する3つの硫化検出部3aはそれぞれ硫化速度調整層7によって覆われており、これら3つの硫化速度調整層7は、硫化検出部3aの硫化速度を異ならせる異種の樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化させたものである。便宜上、図1の左側の硫化検出部3aを覆う硫化速度調整層に符号7Aを付して第1硫化速度調整層と呼び、中央の硫化検出部3aを覆う硫化速度調整層に符号7Bを付して第2硫化速度調整層と呼び、右側の硫化検出部3aを覆う硫化速度調整層に符号7Cを付して第3硫化速度調整層と呼ぶと、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100では、第1硫化速度調整層7Aとしてアクリル系の樹脂材料が用いられ、第2硫化速度調整層7Bとしてポリウレタン系の樹脂材料が用いられ、第3硫化速度調整層7Cとしてシリコン樹脂が用いられている。
【0027】
ここで、アクリル系樹脂とポリウレタン系樹脂は、いずれも下側の硫化検出部3aの硫化速度を遅延させる性質を有しているが、両者の硫化ガス透過率の違いにより、ポリウレタン系樹脂よりもアクリル系樹脂の方が硫化検出部3aの硫化速度を遅延させることができる。一方、シリコン樹脂は硫化ガス中の硫化成分を吸収して保留する性質があるため、吸収された硫化成分によって下側の硫化検出部3aの硫化速度を促進させることができる。したがって、本実施形態例の場合は、第3硫化速度調整層7C(シリコン樹脂)で覆われた硫化検出部3aが最も早く硫化され、その後に第2硫化速度調整層7B(ポリウレタン系樹脂)で覆われた硫化検出部3aが硫化され、最後に第1硫化速度調整層7A(アクリル系樹脂)で覆われた硫化検出部3aが硫化される。
【0028】
なお、各硫化速度調整層7(7A,7B,7C)の種類や組合せ等は本実施形態例に限定されず、例えば、硫化検出部3aの硫化速度を遅延させる樹脂として、アクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂の他にエポキシ系樹脂やエラストマ樹脂を用い、これら各硫化速度調整層7の硫化ガス透過率の違いにより、複数の硫化検出部3aの硫化速度を異ならせるようにしても良い。あるいは、1つの硫化検出部3aだけを硫化速度調整層7で覆わず、残りの硫化検出部3aを異種の硫化速度調整層7で覆うことにより、硫化速度調整層7で覆われていない硫化検出部3aの硫化速を基準として、硫化速度調整層7で覆われている残りの硫化検出部3aの硫化速を遅延/促進させるようにしても良い。
【0029】
一対の端面電極9は、絶縁基板1の端面にNi/Crをスパッタリングしたり、Ag系ペーストを塗布して加熱硬化させたものであり、これら端面電極9は、絶縁基板1の相対向する両長辺側に離間して配列された表電極2と裏電極8間をそれぞれ導通するように形成されている。したがって、電気的に見ると、絶縁基板1の表面における相対向する両端部に一対の表電極2が配置され、これら一対の表電極2間に硫化検出導体3と抵抗体4の直列回路部が3つ並列に接続されている状態になっている。
【0030】
一対の外部電極10はバリヤー層と外部接続層の2層構造からなり、そのうちバリヤー層は電解メッキによって形成されたNiメッキ層であり、外部接続層は電解メッキによって形成されたSnメッキ層である。これら外部電極10により、保護膜6から露出する表電極2の表面と、裏電極8および端面電極9の表面がそれぞれ被覆されている。
【0031】
次に、この硫化検出抵抗器100の製造工程について、図3図4を用いて説明する。なお、図3(a)~(g)はこの製造工程で用いられる大判基板を表面的に見た平面図、図4(a)~(g)は図3(a)~(g)の短手方向中心線に沿う1チップ相当分の断面図をそれぞれ示している。
【0032】
まず、絶縁基板1が多数個取りされる大判基板を準備する。この大判基板には予め1次分割溝と2次分割溝が格子状に設けられており、両分割溝によって区切られたマス目の1つ1つが1個分のチップ領域となる。図3には1個分のチップ領域に相当する大判基板20Aが代表して示されているが、実際は多数個分のチップ領域に相当する大判基板に対して以下に説明する各工程が一括して行われる。
【0033】
すなわち、図3(a)と図4(a)に示すように、この大判基板20Aの表面にAg系ペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、チップ領域の短手方向で対向する2つを1組とする複数組(3組で計6つ)の表電極2と、対をなす表電極2間に位置する3つの硫化検出導体3とを一括して形成する。なお、これと同時あるいは前後して、大判基板20Aの裏面にAg系ペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、各表電極2に対応する複数の裏電極8を形成する。
【0034】
次に、酸化ルテニウム等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、図3(b)と図4(b)に示すように、両端部が硫化検出導体3と表電極2に接続する6つの抵抗体4を形成する。
【0035】
次に、ガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、図3(c)と図4(c)に示すように、各抵抗体4を覆うプリコート層5を形成し、必要に応じてプリコート層5の上から抵抗体4に図示せぬトリミング溝を形成して抵抗値調整する。なお、プリコート層5は硫化検出導体3と抵抗体4との接続端部を覆う位置まで延びており、一対のプリコート層5から露出する硫化検出導体3の中央部分が硫化検出部3aとなる。すなわち、一対のプリコート層5によって硫化検出部3aの大きさ(面積)が規定されるが、ガラス材料からなるプリコート層5は樹脂からなる保護膜に比べて印刷ダレが生じにくいため、硫化検出部3aの大きさを精度良く規定することができる。また、後工程で形成される硫化速度調整層7と保護膜6との隙間から硫化ガスが入り込んだとしても、このようなプリコート層5によって硫化速度調整層7が直接硫化ガスに曝されなくなるため、予期しない断線を防止することができる。
【0036】
次に、各プリコート層5の上からエポキシ系樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化させることにより、図2(d)と図3(d)に示すように、各硫化検出導体3の一部と各抵抗体4の全体を覆う硫化ガス非透過性の保護膜6を形成する。この保護膜6には各硫化検出導体3の硫化検出部3aを露出させる3つの窓孔6aが形成されており、隣接する窓孔6aの間には帯状の隔離部6bが形成されている。各窓孔6aは硫化検出導体3上に重なるプリコート層5の端部よりも大きめに形成されており、樹脂材料からなる保護膜6に印刷ダレ(樹脂流れ)が発生したとしても、かかる印刷ダレはプリコート層5の端部上で生じることになる。したがって、保護膜6に生じる印刷ダレが硫化検出部3aに達することはなく、硫化検出部3aの大きさは印刷ダレを生じないプリコート層5によって精度良く設定される。なお、各表電極2と各抵抗体4の接続部も保護膜6によって覆われるが、この時点で各表電極2の残りの端部は保護膜6で覆われずに露出している。
【0037】
次に、アクリル系樹脂ペーストとポリウレタン系樹脂ペーストおよびシリコン樹脂ペーストを順不同でスクリーン印刷して加熱硬化させることにより、図3(e)と図4(e)に示すように、保護膜6の各窓孔6a内に露出する硫化検出部3aを個別に覆う3つの硫化速度調整層7(第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bおよび第3硫化速度調整層7C)を形成する。その際、保護膜6の隣接する窓孔6a間に隔離部6bが介在しているため、異種材料からなる硫化速度調整層7の樹脂ペーストどうしの混ざり合いが隔離部6bによって確実に防止される。なお、このように3種類の硫化速度調整層7を形成する場合、所定の樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化する工程が3回必要となるが、樹脂ペーストの加熱硬化温度は低く(約200℃)かつ加熱硬化時間も短い(約15分)ため、各硫化速度調整層7を容易に形成することができる。
【0038】
次に、大判基板20Aを一次分割溝に沿って短冊状基板20Bに1次分割した後、短冊状基板20Bの分割面にNi/Crをスパッタリングすることにより、図3(f)と図4(f)に示すように、短冊状基板20Bの相対向する両長辺側に離間して配列された表電極2と裏電極8間を接続する端面電極9を形成する。なお、短冊状基板20Bの分割面にNi/Crをスパッタリングする代わりに、Ag系ペーストを塗布して加熱硬化させることにより端面電極9を形成するようにしても良い。
【0039】
次に、短冊状基板20Bを二次分割溝に沿って複数のチップ状基板20Cに2次分割し、これらチップ状基板20Cに対して電解メッキを施してNiメッキ層とSnメッキ層を順次形成する。これにより、図3(g)と図4(g)に示すように、保護膜6から露出する表電極2の表面と、裏電極8および端面電極9の表面に外部電極10が形成され、図1,2に示す硫化検出抵抗器100が完成する。
【0040】
図5は、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100を硫化ガス雰囲気中に配置した場合における累積硫化量と抵抗値の関係を示す説明図である。図5に示すように、硫化検出抵抗器100が硫化ガスに晒される前の初期状態において、2つの抵抗体4と硫化検出導体3で構成される1組の直列回路部が一対の表電極2間に3組並列に接続された状態となっているため、各抵抗体4の抵抗値Rを例えば500Ωとすると、硫化検出抵抗器100の初期抵抗値はR0=(2×R/3)≒333Ωとなる。
【0041】
この硫化検出抵抗器100が硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、硫化検出導体3の硫化検出部3aを覆う3種類の硫化速度調整層7(第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bおよび第3硫化速度調整層7C)が硫化ガスに接触することにより、累積硫化量が増えていくことに伴って、各硫化検出部3aが段階的に硫化されていく。具体的には、シリコン樹脂からなる第3硫化速度調整層7Cが硫化ガス中の硫化成分を吸収して保留する性質を有しているため、まず、第3硫化速度調整層7Cで覆われた硫化検出導体3が断線し、第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bで覆われた残り2つの硫化検出導体3だけの導通となる。したがって、これら硫化検出導体3の両端に接続する4つ抵抗体4が一対の表電極2間に並列接続された状態となり、硫化検出抵抗器100の抵抗値はR1=(2×R/2)=500Ωとなる。
【0042】
このように第3硫化速度調整層7Cで覆われた硫化検出導体3が断線した後、さらに累積硫化量が増えていくと、残り2つの硫化検出導体3のうち、硫化速度の遅延量が小さい方の硫化検出導体3が断線する。具体的には、アクリル系樹脂からなる第1硫化速度調整層7Aの方がポリウレタン系樹脂からなる第2硫化速度調整層7Bよりも硫化検出部3aの硫化速度を大きく遅延させるため、第2硫化速度調整層7Bで覆われた硫化検出導体3が断線し、第1硫化速度調整層7Aで覆われた残り1つの硫化検出導体3だけの導通となる。したがって、第1硫化速度調整層7Aで覆われた硫化検出導体3の両端に接続する2つの抵抗体4のみが一対の表電極2間に接続された状態となり、硫化検出抵抗器100の抵抗値は2×R=1000Ω(1KΩ)となる。そして、さらに累積硫化量が増えて第1硫化速度調整層7Aで覆われた硫化検出導体3も断線すると、硫化検出抵抗器100の抵抗値はオープン状態となる。
【0043】
なお、このように硫化検出抵抗器100がオープン状態になることが不都合となる場合は、対となる表電極2間に並列接続された複数組の直列回路部(硫化検出導体3と抵抗体4)のうち、1組の直列回路部の硫化検出導体3を硫化ガス非透過性の保護膜で覆い、残り全ての直列回路部の硫化検出導体3を硫化速度調整層7で覆うようにすれば良い。このようにすると、硫化速度調整層7で覆われた全ての硫化検出導体3が段階的に断線した後も、硫化ガス非透過性の保護膜で覆われた残り1つの硫化検出導体3によって一対の表電極2間の導通状態を維持することができる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100では、直列接続した硫化検出導体3と抵抗体4を1組とし、この直列回路部を一対の表電極2間に複数組並列に接続した構造としており、これら抵抗体4の全体と各硫化検出導体3の一部が硫化ガス非透過性の保護膜6によって覆われていると共に、保護膜6の窓孔6aから露出する各硫化検出導体3の硫化検出部3aを硫化速度調整層7(第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bおよび第3硫化速度調整層7C)で選択的に被覆することにより、各組の硫化検出導体3が累積的な硫化量によって断線するタイミングを異にするように設定されているため、一対の表電極2間の抵抗値変化が段階的に変化していき、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0045】
また、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100では、硫化検出部3aを覆う複数種類の硫化速度調整層7のうち、第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bがアクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂等の硫化ガス透過性を有する樹脂材料で形成されており、これら第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bで覆われた硫化検出部3aの硫化速度が遅延されるため、第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bの硫化ガス透過率の違いに基づいて対応する硫化検出部3aの断線タイミングを変えたり、硫化速度調整層7で覆われていない硫化検出部3aに比べて断線タイミングを遅らせることができる。
【0046】
また、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100では、硫化検出部3aを覆う複数種類の硫化速度調整層7のうち、第3硫化速度調整層7Cが硫化検出部3aの硫化速度を促進させるシリコン樹脂で形成されており、シリコン樹脂中に吸収された硫化成分によって下側の硫化検出部3aが早く硫化されるため、第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bで覆われた硫化検出部3aや、硫化速度調整層7で覆われていない硫化検出部3aに比べて断線タイミングを早めることができる。
【0047】
また、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100では、保護膜6に並列配置された複数の硫化検出部3aを露出させ窓孔6aが形成されていると共に、隣接する窓孔6aの間に介在する帯状の隔離部6bが形成されているため、各窓孔6a内に露出する硫化検出部3aを個別に覆う硫化速度調整層7(第1硫化速度調整層7Aと第2硫化速度調整層7Bおよび第3硫化速度調整層7C)を形成する際に、異種材料からなる硫化速度調整層7の樹脂ペーストどうしの混ざり合いを隔離部6bによって確実に防止することができる。
【0048】
また、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器100では、抵抗体4と保護膜6との間にガラス材料からなるプリコート層5が介在されており、このプリコート層5の一端部が保護膜6から窓孔6a内に突出して硫化検出部3aを規定しているため、樹脂材料からなる保護膜6の印刷ダレ(樹脂流れ)によって硫化検出部3aの大きさがばらつくことはなく、硫化検出部3aの大きさを精度良く設定することができる。
【0049】
なお、一対の表電極2間に並列接続される硫化検出導体3と抵抗体4の直列回路部は、本実施形態例のような3組に限らず2組または4組以上であっても良い。また、上記実施形態例では、各組の硫化検出導体3の硫化検出部3aを全て硫化速度調整層7で覆うように構成されているが、必ずしも全ての硫化検出部3aを硫化速度調整層7を覆わなくても良く、例えば、2つの硫化検出部3aの一方をアクリル系樹脂やシリコン樹脂で形成された硫化速度調整層7で覆い、他方の硫化検出部3aを硫化速度調整層7で覆わずに外部に露出させるようにしても良い。また、上記実施形態例では、硫化検出導体3の両棚に2つの抵抗体4を接続して1組の直列回路部を構成しているが、一方側の抵抗体4を省略し、硫化検出導体3と1つの抵抗体4で1組の直列回路部を構成するようにしても良い。
【0050】
また、上記実施形態例では、複数の硫化検出導体3が同一工程で一括して形成されているため、各硫化検出導体3の材料組成や膜厚は全て同じでものとなっているが、複数の硫化検出導体3が互いの材料組成と膜厚の少なくとも一方を相違するものであっても良い。このようにすると、複数種類の硫化検出導体3がそれ自体で互いの硫化速度を異にするため、複数種類の硫化検出導体3と復習種類の硫化速度調整層7を組み合わせることにより、各組の硫化検出導体3における断線タイミングのバリエーションを増やすことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 絶縁基板
2 表電極
3 硫化検出導体
3a 硫化検出部
4 抵抗体
5 プリコート層
6 保護膜
6a 窓孔
6b 隔離部
7 硫化速度調整層
7A 第1硫化速度調整層
7B 第2硫化速度調整層
7C 第3硫化速度調整層
8 裏電極
9 端面電極
10 外部電極
100 硫化検出抵抗器
図1
図2
図3
図4
図5