(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】トランジスタの特性のシミュレーション方法、トランジスタを含む電子回路の特性のシミュレーション方法、および、トランジスタの特性のシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20231017BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01L29/78 624
(21)【出願番号】P 2020009620
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】520272868
【氏名又は名称】武漢天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】河内 玄士朗
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-045050(JP,A)
【文献】特開2010-171384(JP,A)
【文献】特開2008-028328(JP,A)
【文献】Yuhei Oodate et al.,Compact Modeling of the Transient Carrier Trap/Detrap Characteristics in Polysilicon TFTs,IEEE Transactions on Electron Devices,Vol. 62,No. 3,2015年,p. 862-868
【文献】Hiroyuki Ikeda et al.,Surface Potential-Based Polycrystalline-Silicon Thin-Film Transistors Compact Model by Nonequilibrium Approach,IEEE Transactions on Electron Devices,Vol. 60,No. 10,2013年,p. 3417-3423
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタの特性のシミュレーション方法であって、
前記トランジスタは、相互に離間するソース部およびドレイン部と、該ソース部と該ドレイン部との間に位置するチャネル部と、を含む半導体層と、前記半導体層のチャネル部に対向するゲート電極と、を含み、
過程a)前記チャネル部の内部を移動するキャリア電荷および前記チャネル部の捕獲準位に捕獲されるトラップ電荷を含む電荷と、前記チャネル部の内部の静電ポテンシャルと、の関係を表すポアソンの式、ならびに、前記ゲート電極と前記チャネル部とに蓄積される電荷に適用される電荷中性則、に基づいて、熱平衡状態における前記トラップ電荷の電荷量である熱平衡トラップ電荷量Q´
Tを求める過程と、
過程b)前記ゲート電極と前記半導体層との間に電圧を印加し
てから前記トラップ電荷の電荷量が前記熱平衡トラップ電荷量Q´
T
に達するまでに含まれる時刻の、過渡的な前記トラップ電荷の電荷量である過渡トラップ電荷量q
Tを求める過程であって、
該過渡トラップ電荷量q
Tの時間変化が、相互に異なる時定数を有する複数の指数関数を重ね合わせた関数で表されるとして、該過渡トラップ電荷量q
Tを求める過程と、
過程c)前記過渡トラップ電荷量q
Tに基づいて、前記キャリア電荷の電荷量であるキャリア電荷量q
Iを求める過程と、
過程d)前記キャリア電荷量q
Iに基づいて、前記ソース部と前記ドレイン部との間に流れるドレイン電流I
dを求める過程と、
を有する、トランジスタの特性のシミュレーション方法。
【請求項2】
前記過程b)は、
サブ過程b1)前記トラップ電荷を構成する単位電荷が前記捕獲準位に捕獲されるまでに要する時間を表す遅延時定数を確率変数とした、該単位電荷の確率分布に基づいて、前記複数の指数関数に含まれる時定数に対応するn個(nは2以上の整数)の遅延時定数τ
NQS
1~τ
NQS
nと、該遅延時定数τ
NQS
1~τ
NQS
n各々を有する該単位電荷の数量に対応する、前記トラップ電荷の電荷量Q
T
1~Q
T
nと、を決定するサブ過程と、
サブ過程b2)前記遅延時定数τ
NQS
1~τ
NQS
nと、前記トラップ電荷の電荷量Q
T
1~Q
T
nと、に基づいて、前記過渡トラップ電荷量q
Tを求めるサブ過程と、
を含む、請求項1に記載されるトランジスタの特性のシミュレーション方法。
【請求項3】
第i(iは1以上の整数)の時刻をt
iとし、時刻t
iよりも前の時刻をt
i-1とし、前記遅延時定数τ
NQS
1~τ
NQS
nのうちの第j(jは1以上n以下の整数)の遅延時定数をτ
NQS
jとし、前記トラップ電荷の電荷量Q
T
1~Q
T
nのうちの第jの電荷量をQ
T
jとしたときに、
前記サブ過程b2)において、次式により、前記時刻t
iにおける前記トラップ電荷の電荷量q
T(t
i)を求める、
【数1】
【数2】
【数3】
請求項2に記載されるトランジスタの特性のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記サブ過程b1)において、前記トラップ電荷を構成する単位電荷の確率分布は、正規対数分布、べき乗分布、レヴィ分布、または、パレート分布のいずれかに適合する、請求項2または3に記載されるトランジスタの特性のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記過程c)において、前記熱平衡トラップ電荷量Q´
Tから前記過渡トラップ電荷量q
Tを差し引いた、前記トラップ電荷の電荷増減量が、前記ゲート電極に帯電するゲート電荷の電荷増減量に相当するとして、前記キャリア電荷量q
Iを求める、請求項1~4のいずれかに記載されるトランジスタの特性のシミュレーション方法。
【請求項6】
トランジスタを含む電子回路の特性のシミュレーション方法であって、
前記トランジスタは、相互に離間するソース部およびドレイン部と、該ソース部と該ドレイン部との間に位置するチャネル部と、を含む半導体層と、前記半導体層のチャネル部に対向するゲート電極と、を含み、
過程a)前記チャネル部の内部を移動するキャリア電荷および前記チャネル部の捕獲準位に捕獲されるトラップ電荷を含む電荷と、前記チャネル部の内部の静電ポテンシャルと、の関係を表すポアソンの式、ならびに、前記ゲート電極と前記チャネル部とに蓄積される電荷に適用される電荷中性則、に基づいて、熱平衡状態における前記トラップ電荷の電荷量である熱平衡トラップ電荷量Q´
Tを求める過程と、
過程b)前記ゲート電極と前記半導体層との間に電圧を印加し
てから前記トラップ電荷の電荷量が前記熱平衡トラップ電荷量Q´
T
に達するまでに含まれる時刻の、過渡的な前記トラップ電荷の電荷量である過渡トラップ電荷量q
Tを求める過程であって、
該過渡トラップ電荷量q
Tの時間変化が、相互に異なる時定数を有する複数の指数関数を重ね合わせた関数で表されるとして、該過渡トラップ電荷量q
Tを求める過程と、
過程c)前記過渡トラップ電荷量q
Tに基づいて、前記キャリア電荷の電荷量であるキャリア電荷量q
Iを求める過程と、
過程d)前記キャリア電荷量q
Iに基づいて、前記ソース部と前記ドレイン部との間に流れるドレイン電流I
dを求める過程と、
を有する、電子回路の特性のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記電子回路は、前記トランジスタによって駆動される有機EL素子をさらに含む、請求項6に記載される電子回路の特性のシミュレーション方法。
【請求項8】
トランジスタの特性のシミュレーションプログラムであって、
前記トランジスタは、相互に離間するソース部およびドレイン部と、該ソース部と該ドレイン部との間に位置するチャネル部と、を含む半導体層と、前記半導体層のチャネル部に対向するゲート電極と、を含み、
前記トランジスタの特性をシミュレートするために、コンピュータを、
手段a)前記チャネル部の内部を移動するキャリア電荷および前記チャネル部の捕獲準位に捕獲されるトラップ電荷を含む電荷と、前記チャネル部の内部の静電ポテンシャルと、の関係を表すポアソンの式、ならびに、前記ゲート電極と前記チャネル部とに蓄積される電荷に適用される電荷中性則、に基づいて、熱平衡状態における前記トラップ電荷の電荷量である熱平衡トラップ電荷量Q´
Tを求める手段、
手段b)前記ゲート電極と前記半導体層との間に電圧を印加し
てから前記トラップ電荷の電荷量が前記熱平衡トラップ電荷量Q´
T
に達するまでに含まれる時刻の、過渡的な前記トラップ電荷の電荷量である過渡トラップ電荷量q
Tを求める手段であって、
該過渡トラップ電荷量q
Tの時間変化が、相互に異なる時定数を有する複数の指数関数を重ね合わせた関数で表されるとして、該過渡トラップ電荷量q
Tを求める手段、
手段c)前記過渡トラップ電荷量q
Tに基づいて、前記キャリア電荷の電荷量であるキャリア電荷量q
Iを求める手段、および、
手段d)前記キャリア電荷量q
Iに基づいて、前記ソース部と前記ドレイン部との間に流れるドレイン電流I
dを求める手段、
として機能させる、トランジスタの特性のシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランジスタの特性のシミュレーション方法、トランジスタを含む電子回路の特性のシミュレーション方法、および、トランジスタの特性のシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどのディスプレイデバイスは、一般に、ガラス基板、プラスティックフィルム基板等の上に半導体層を形成し、当該半導体層内または半導体層上にトランジスタを含む各種電子回路を形成することによって、作製される。ガラス基板、プラスティックフィルム基板等の上に、単結晶の半導体層を形成することは難しい。そのため、通常、ガラス基板、プラスティックフィルム基板等の上には、結晶欠陥を多く含む非単結晶(多結晶またはアモルファスなど)の半導体層を形成する。ディスプレイデバイスには、一般に、非単結晶の半導体層から形成される薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が多数搭載されている。
【0003】
電子回路の設計には、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)と称されるシミュレーションソフトウエアが広く用いられている。この回路シミュレータを用いて、トランジスタを含む電子回路の特性をシミュレートするためには、コンパクトモデルと呼ばれる、トランジスタのシミュレーションモデルが必要となる。
【0004】
単結晶の半導体層から形成されるMOS型FET(Metal―Oxide―Semiconductor type Feild Effect Transistor)用のコンパクトモデルとしては、たとえば、BSIM(Berkeley Short-Channel IGFET Model)、HiSIM(Hiroshima-Univ. STARC IGFET Model)などのモデルが利用されている。一方、非単結晶の半導体層から形成される薄膜トランジスタ用のコンパクトモデルとしては、たとえば、特許文献1および特許文献2、ならびに、非特許文献1が開示するモデルが知られている。
【0005】
しかし、これらの薄膜トランジスタ用コンパクトモデルには、チャネル内を自由に移動するキャリア電荷および結晶欠陥に起因する捕獲準位に捕獲されたトラップ電荷の時間遅れ効果(Non-Quasi-Static効果、以下NQS効果と称する)が反映されていない。NQS効果とは、トランジスタに電圧などの信号を入力してから、チャネル内の各種電荷の電荷量が熱平衡状態に達するまでに時間を要する(時間差が生じる)現象をいう。トラップ電荷の電荷量が熱平衡状態に達するまでの時間は、キャリア電荷の電荷量が熱平衡状態に達するまでの時間よりも著しく遅い。トラップ電荷の電荷量が熱平衡状態に達するまでの時間は、たとえば数秒から数十秒程度である。
【0006】
特許文献3には、キャリア電荷のNQS効果を反映したMOS型FET用コンパクトモデルが開示されている。特許文献3では、MOS型FETに電圧を印加してからキャリア電荷の電荷量が平衡状態に達するまで、キャリア電荷の電荷量は指数関数的に時間変化する(一次遅れ応答の時間依存性を有する)と仮定して、モデルを構築している。
【0007】
非特許文献2には、トラップ電荷のNQS効果を反映した薄膜トランジスタ用コンパクトモデルが開示されている。非特許文献2では、特許文献3に記載のモデルを応用して、薄膜トランジスタ用コンパクトモデルにトラップ電荷のNQS効果を取り込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-062441号公報
【文献】特開2013-080847号公報
【文献】特開2010-171384号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】IEEE Trans. Electron Devices, vol.36, No.12 pp. 2764-2769, 1989.
【文献】IEEE Trans. Electron Devices, vol.62, No.3 pp. 862-868, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
トラップ電荷のNQS効果を反映した、従来の薄膜トランジスタ用コンパクトモデルは、実測結果を良好に再現するとは言えない。具体的には、トラップ電荷の電荷量の、熱平衡状態に達するまでの過渡的な時間変化が、キャリア電荷のように、単純な指数関数として表せるとの仮定は、適当であるとは言えない。
【0011】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、実測結果をより良好に再現する、トランジスタの特性のシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の主な観点によると、トランジスタの特性のシミュレーション方法であって、前記トランジスタは、相互に離間するソース部およびドレイン部と、該ソース部と該ドレイン部との間に位置するチャネル部と、を含む半導体層と、前記半導体層のチャネル部に対向するゲート電極と、を含み、過程a)前記チャネル部の内部を移動するキャリア電荷および前記チャネル部の捕獲準位に捕獲されるトラップ電荷を含む電荷と、前記チャネル部の内部の静電ポテンシャルと、の関係を表すポアソンの式、ならびに、前記ゲート電極と前記チャネル部とに蓄積される電荷に適用される電荷中性則、に基づいて、熱平衡状態における前記トラップ電荷の電荷量である熱平衡トラップ電荷量Q´Tを求める過程と、過程b)前記ゲート電極と前記半導体層との間に電圧を印加してから前記トラップ電荷の電荷量が前記熱平衡トラップ電荷量Q´
T
に達するまでに含まれる時刻の、過渡的な前記トラップ電荷の電荷量である過渡トラップ電荷量qTを求める過程であって、該過渡トラップ電荷量qTの時間変化が、相互に異なる時定数を有する複数の指数関数を重ね合わせた関数で表されるとして、該過渡トラップ電荷量qTを求める過程と、過程c)前記過渡トラップ電荷量qTに基づいて、前記キャリア電荷の電荷量であるキャリア電荷量qIを求める過程と、過程d)前記キャリア電荷量qIに基づいて、前記ソース部と前記ドレイン部との間に流れるドレイン電流Idを求める過程と、を有する、トランジスタの特性のシミュレーション方法、が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、実測結果をより良好に再現する、トランジスタの特性のシミュレーション方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一般的なコンピュータの構成を示すブロック図である。
【
図2】回路シミュレータの処理フローを示すフローチャートである。
【
図3】上段は、シミュレーションモデルとなるトランジスタを示す断面図であり、下段は、トランジスタを構成する半導体層内の、静電ポテンシャル分布および電荷分布を示す模式図である。
【
図4】実施形態によるトランジスタの特性のシミュレーション方法のフローチャートである。
【
図6】トランジスタの過渡応答電流特性に関する実測結果およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図7】トランジスタのチャネル長を4μmとしたときの、ドレイン電流I
d―ゲート電圧V
g特性に関する実測結果およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】トランジスタのチャネル長を100μmとしたときの、ドレイン電流I
d―ゲート電圧V
g特性に関する実測結果およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図9】トランジスタのチャネル長を4μmとしたときの、ドレイン電流I
d―ドレイン電圧V
d特性に関する実測結果およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】トランジスタのチャネル長を100μmとしたときの、ドレイン電流I
d―ドレイン電圧V
d特性に関する実測結果およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図11】トランジスタのヒステリシス特性に関する実測結果およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図12】トランジスタのオーバーシュート特性およびアンダーシュート特性に関する実測結果およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図13】上段は、トランジスタに印加する電圧波形を示すグラフであり、中段は、トランジスタの履歴特性に関する実測結果を示すグラフであり、下段は、トランジスタの履歴特性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図14】ディスプレイデバイスに対応する等価回路図である。
【
図15】上段および下段は、それぞれ、ディスプレイデバイスを表す等価回路に入力されるVscanおよびVdataの電圧波形を示すグラフである。
【
図16】上段は、ディスプレイデバイスの等価回路の電気的特性に関する実測結果および、複数の時定数を用いたシミュレーション方法によるシミュレーション結果を示すグラフであり、下段は、上段のグラフの一部を拡大したグラフである。
【
図17】上段は、ディスプレイデバイスの等価回路の電気的特性に関する実測結果、および、単一の時定数を用いたシミュレーション方法によるシミュレーション結果を示すグラフであり、下段は、上段のグラフの一部を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態によるトランジスタの特性のシミュレーション方法を説明する。なお、以下のシミュレーション方法は、通常、ワークステーション、パーソナルコンピュータ等の一般的なコンピュータが読み取れるように、プログラムとして記述される。特に、回路シミュレータSPICEでコンパクトモデルとして利用できるように記述される。そして、記述されたプログラムをコンピュータ(特に、そのコンピュータに組み込まれた回路シミュレータSPICE)に実行させることにより、所望のトランジスタの特性、さらには当該トランジスタを含む電子回路の特性をシミュレートする。
【0016】
図1に、一般的なコンピュータの構成を簡易的に示す。コンピュータ90は、入力装置91、記憶装置(メモリ)92、中央処理装置(CPU,Central Processing Unit)93および出力装置94を含む。これらの装置は、バスライン(信号伝送路)で共通接続されている。
【0017】
入力装置91は、たとえば、キーボード、操作パネル、音声入力装置、種々のデータ読み取り装置などを含む。入力装置91により、シミュレーションに必要な基本情報、シミュレーションの対象となる回路図(回路網トポロジー)、コンパクトモデル(数理モデル式)などが入力される。
【0018】
記憶装置92は、たとえば、フラッシュメモリ、ハードディスクなどを含む。記憶装置92には、入力装置91により入力された各種情報、回路シミュレータに関するプログラムおよび以下に詳説するシミュレーション方法に対応するプログラム、プログラムにしたがって算出されたシミュレーション結果などが記憶される。
【0019】
中央処理装置93は、記憶装置92に記憶される各種プログラムにしたがって演算処理を行う。また、演算処理の結果に基づいて、各装置の制御を行う。
【0020】
出力装置94は、たとえば、モニタ、プリンタ、外部記憶装置などを含む。出力装置94は、たとえば、中央処理装置93の演算処理の結果(シミュレーション結果)を出力(表示)する。
【0021】
図2に、回路シミュレータ(SPICE)の処理フローを簡易的に示す。回路シミュレータ95は、
図1に示されるコンピュータ90上で起動される。
【0022】
回路シミュレータ95には、ネットリストと呼ばれる様々な回路素子を含む回路網トポロジー(たとえば後述する有機ELディスプレイの等価回路図)の情報96、が入力される。回路シミュレータ95は、キルヒホッフの法則に基づいて、その回路網トポロジーに対応する回路網方程式(非線形多次元連立方程式)を解く。すなわち、回路網を構成する回路素子の全端子(ノード)の電圧値および電流値を求める。
【0023】
トランジスタを含む電子回路の特性をシミュレートする場合には、トランジスタの端子電圧と端子電流との関係を表すコンパクトモデル(数理モデル式)97が、回路網方程式に取り込まれる。コンパクトモデル97に含まれるモデルパラメータは、トランジスタの実測結果に基づいて予め決定される。回路シミュレータ95は、コンパクトモデルが取り込まれた回路網方程式を解くことにより、トランジスタを含む電子回路の特性98(電流波形、電圧波形など)を出力する。
【0024】
図3に、本実施形態で想定するトランジスタのシミュレーションモデルを示す。上段は、トランジスタの構造を概略的に示す断面図であり、下段は、当該トランジスタにゲート電圧を印加したときの、半導体層(チャネル部)内の静電ポテンシャル分布および電荷分布を示す模式図である。
【0025】
図3の上段に示すように、シミュレーション対象となるトランジスタ50として、半導体層30と、ゲート絶縁膜20と、ゲート電極10と、が積層したゲート絶縁型のTFTを想定する。半導体層30は、チャネル部31を、低抵抗のソース部32とドレイン部33とが挟む構造を有する。ゲート電極10は、半導体層30のチャネル部31に対向配置される。半導体層30(チャネル部31)とゲート電極10との間に、ゲート絶縁膜20が配置される。
【0026】
半導体層30は、結晶欠陥(捕獲準位)を多く含む非単結晶の半導体材料から構成される。また、トランジスタ50は、たとえばnチャネル型のTFTを構成する。なお、pチャネル型のTFTを想定する場合には、以下の電圧や電荷の極性を反転すればよい。
【0027】
半導体層30の厚み方向をx方向(x軸)と定義し、半導体層30とゲート絶縁膜20との界面の位置をx軸の原点に設定する。また、ソース部32、チャネル部31およびドレイン部33が並ぶ方向をy方向(y軸)と定義し、ソース部32とチャネル部31との境界の位置を原点に設定する。x軸およびy軸は相互に直交し、さらにそれらに直交する方向をz方向(z軸,不図示)と定義する。チャネル部31のy軸に沿う長さをLとし、z軸に沿う幅をWとする。
【0028】
図3の下段に示すように、ゲート電極10と半導体層30との間に電圧V
gを印加したとき、ゲート絶縁膜20に印加される電圧をV
ox、半導体層30(チャネル部31)に印加される電圧(半導体層内における静電ポテンシャルともいう)をφとする。なお、半導体層30の表面(ゲート絶縁膜20との界面)における静電ポテンシャルを、表面ポテンシャルφ
sとする。
【0029】
このとき、ゲート電極10に帯電するゲート電荷の電荷密度(単位体積当たりの電荷量)をQGとし、半導体層内に誘起されるキャリア電荷の電荷密度をQI,トラップ電荷の電荷密度をQTとする。また、ゲート絶縁膜20の電気容量(単位面積当たり)をCgとする。
【0030】
半導体層30は、通常、価電子帯および伝導帯を有するバンドギャップ構造を有する。価電子帯の頂上のエネルギーをEvとし、伝導帯の底のエネルギーをEcとする。
【0031】
以上のようなトランジスタについて、その電気的特性、特にソース部とドレイン部との間(チャネル部内)を流れる電流(ドレイン電流Idと呼ぶ)をシミュレートする。
【0032】
図4に、トランジスタの特性のシミュレーション方法の全体的なフローを示す。本実施形態によるシミュレーション方法は、主に、シミュレーションに必要な情報を準備する過程(S110)と、準備した情報を用いて、トラップ電荷の熱平衡状態における電荷量(熱平衡トラップ電荷量)Q´Tを求める過程(S120)と、当該電荷量Q´Tを用いて、トラップ電荷の
、熱平衡状態に達するまでの過渡的な電荷量(過渡トラップ電荷量)qTを求める過程(過程S130)と、当該電荷量qTを用いて、キャリア電荷の電荷量Q´Iおよびドレイン電流Idを求める過程(S140,S150)と、を有する。以下、各過程S110~S170を詳細に説明する。
【0033】
過程S110において、シミュレーションに必要な情報、たとえばモデルパラメータ、TFT素子情報、端子電圧情報などを準備する。モデルパラメータとは、キャリア電荷の移動度(表面キャリア移動度μd)、捕獲準位のエネルギー分布に関するパラメータT0,NTCなどのパラメータであり、TFTの実測結果に基づいて予めモデリングされるパラメータである。TFT素子情報とは、チャネル長Lやチャネル幅W、また、ゲート絶縁膜の厚みなどの情報である。端子電圧情報とは、ゲート電極やソース部、ドレイン部での電圧値(それぞれゲート電圧Vg、ソース電圧Vsおよびドレイン電圧Vdと呼ぶ)である。
【0034】
次に、熱平衡状態におけるトラップ電荷の電荷量(熱平衡トラップ電荷量)Q´Tを求める過程である過程S120について説明する。
【0035】
過程S120では、基本情報に基づいて、主に、熱平衡状態におけるトラップ電荷の電荷量(熱平衡トラップ電荷量)を算出する。具体的には、熱平衡トラップ電荷量を、トラップ電荷の面電荷密度Q´Tとして算出する。なお、熱平衡トラップ電荷量を、チャネル部全域の総トラップ電荷量として求めてもよい。
【0036】
以下に、熱平衡トラップ電荷量(面電荷密度)Q´Tの算出過程を詳説する。この算出過程は、半導体層の表面ポテンシャルを算出する過程と、当該表面ポテンシャルに基づいて、熱平衡トラップ電荷量(面電荷密度)Q´Tを算出する過程と、を含む。なお、この算出過程において、熱平衡状態におけるキャリア電荷の面電荷密度、ドレイン電流なども同時に算出することができる。
【0037】
[表面ポテンシャルの算出]
最初に、半導体層(チャネル部)の表面ポテンシャルを求める。表面ポテンシャルφsは、概略、ポアソンの式および電荷中性則に基づいて算出される。ポアソンの式とは、キャリア電荷およびトラップ電荷とチャネル部に誘起される静電ポテンシャルとの関係を表し、ここでは次の式(1)として表せる。
【0038】
【0039】
ここで、φ(x)は、半導体層内の厚み方向(x方向)における静電ポテンシャル、QT(x)およびQI(x)は、それぞれ、半導体層内の厚み方向(x方向)におけるトラップ電荷およびキャリア電荷の電荷密度、である。また、εは半導体層の誘電率である。
【0040】
電荷中性則とは、ゲート電極、ゲート絶縁膜、および、半導体層をキャパシタと見なしたとき、キャパシタに帯電する電荷が電気的に中性を保つ(正負で同じ電荷量が帯電する)とする物理法則であり、ここでは次の式(2)として表せる。
【0041】
【0042】
ここで、Cgはゲート絶縁膜の電気容量、Vgはゲート電圧、Vfbは半導体層のフラットバンド電圧、(dφs/dx)はゲート絶縁膜と半導体層との界面における、半導体層側の電界強度、である。
【0043】
上記式(1)におけるQT(x)およびQI(x)は、それぞれ次の式(3)および式(4)で与えられる。
【0044】
【0045】
【0046】
ここで、qは電気素量、kBはボルツマン定数、niは半導体層の真性キャリア密度、Tは温度、である。また、T0およびNTCは捕獲準位のエネルギー分布に関するモデルパラメータである。なお、トラップ電荷の電荷密度QT(x)を表す式は、上記式(3)に限定されるものではない。たとえばNTCおよびT0の値が異なる2つの指数関数の和で表される解析関数、静電ポテンシャルφ(x)に依存しない定数関数などで表現してもよい。
【0047】
上記式(3),(4)を代入した上記式(1)を積分することにより得られる(dφs/dx)を、上記式(2)に代入して、次の式(5)を得る。
【0048】
【0049】
ここで、F(φs)は次の式(6)で与えられる。
【0050】
【0051】
上記式(5),(6)が外部から与えるゲート電圧Vgと表面ポテンシャルΦsとの関係を表す基本方程式である。これらの方程式は、非線形方程式であり、解析的には解けない。そこで、たとえばニュートン・ラフソン法により数値的に解く。
【0052】
たとえば、チャネル部のソース部側端部(y=0,ゲート電圧=Vg,ソース電圧=0V)、および、ドレイン部側端部(y=L,ゲート電圧=Vg,ドレイン電圧=Vd)において、これらの方程式を解くことにより、ソース部側およびドレイン部側の端部での表面ポテンシャルφs0,φsLをそれぞれ求める。
【0053】
[熱平衡トラップ電荷量の算出]
まず、熱平衡状態におけるトラップ電荷(およびキャリア電荷)の電荷量の導出過程を説明する。
【0054】
TFTおよび単結晶MOSFETを含む、絶縁ゲート型FETのドレイン電流は、一般に、次の式(7)で与えられる。
【0055】
【0056】
ここで、Vcは、チャネル部の静電ポテンシャルであり、位置yの関数である。また、Q´I(Vc)は、半導体層(チャネル部)の深さ方向にキャリア電荷の電荷密度QI(x)を積分した、キャリア電荷の面電荷密度であり、次の式(8)で与えられる。
【0057】
【0058】
上記式(7),(8)により、ドレイン電流Idは次の式(9)により定式化される。
【0059】
【0060】
上記式(9)は、x方向およびy方向の2重積分を含み、解析的には解けない。ここで、キャリア電荷の電荷量(電荷密度)が、トラップ電荷の電荷量(電荷密度)に比べて無視できるほど小さいと近似して、次の式(10)を得る。
【0061】
【0062】
上記式(10)を上記式(8)に代入することにより、キャリア電荷およびトラップ電荷の面電荷密度Q´I,Q´Tは、次の式(11),(12)により定式化される。
【0063】
【0064】
【0065】
前述の過程で算出された表面ポテンシャルφsの値を、上記式(12)に代入することにより、熱平衡トラップ電荷量Q´Tを求める。
【0066】
[ドレイン電流の算出]
ここで、便宜のため、ドレイン電流Idの算出過程も説明する。
【0067】
前述の過程で求めたソース端およびドレイン端における表面ポテンシャルφs0,φsLを、上記式(11)に代入することにより、ソース端およびドレイン端におけるキャリア電荷の面電荷密度Q´ISおよびQ´IDは、それぞれ次の式(13),(14)により定式化される。
【0068】
【0069】
【0070】
ドレイン電流Idのy方向についての積分は、いわゆるUCCM(Unified Charge Control Model)の方法で解くことができる(詳細は次を参照。C. Galup-Montoro and M. C. Schneider, “MOSFET MODELING FOR CIRCUIT ANALYSIS AND DESIGN”, Singapore, World Scientific,2007.)。その結果、次の式(15)を得る。
【0071】
【0072】
ここで、nはスロープファクターと呼ばれ、次の式(16)で与えられる。
【0073】
【0074】
ここで、CTは、トラップ電荷の面電荷密度Q´Tを表面ポテンシャルφsに関して微分することにより求められ、次の式(17)で与えられる。
【0075】
【0076】
以上に説明した各種パラメータに関する関係式は、たとえば近似の方法によって変わってくるものであり、他の近似の方法を用いて各種パラメータに関する関係式を導出してもよい。また、他の物理的要因を加味して各種パラメータに関する関係式を導出してもかまわない。
【0077】
次に、熱平衡状態に達するまでの過渡的なトラップ電荷の電荷量(過渡トラップ電荷量)qTを求める過程である過程S130について説明する。
【0078】
過程S130では、算出した熱平衡トラップ電荷量(面電荷密度)Q´Tに基づいて、熱平衡状態に達するまでの過渡的なトラップ電荷の電荷量(過渡トラップ電荷量)を算出する。具体的には、過渡トラップ電荷量を、次の式(18)~(20)により、面電荷密度qTとして算出する。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
上記式(18)について説明する。
【0083】
トラップ電荷q
T
(t
i
)を構成する単位電荷q
T
j
(t
i
)が、それぞれ異なる遅延時定数τ
NQS
j
を有していると仮定する。遅延時定数τ
NQS
j
とは、トランジスタに電圧が印加されてから、単位電荷が捕獲準位に捕獲されるまでに要する時間(あるいは捕獲されている単位電荷が放出されるまでに要する時間)を表すパラメータである。
【0084】
トラップ電荷を構成する単位電荷の、遅延時定数τ
NQS
に関する確率分布(遅延時定数τを確率変数とし、単位電荷の数量を確率密度とする確率密度関数)が、たとえば次の式(21)に表される正規対数分布に適合すると仮定する。
【0085】
【0086】
ここで、NTはトラップ電荷を構成する単位電荷の数量、uは遅延時定数の対数log(τ
NQS
)である。また、μはこの分布の平均、σは標準偏差である。なお、トラップ電荷を構成する単位電荷は、遅延時定数τ
NQS
に関して、広範に分布していると仮定することが好ましく、正規対数分布のほかにも、ロングテールな分布、たとえば、べき乗分布、レヴィ分布、パレート分布などに従うと仮定してもよい。
【0087】
なお、トラップ電荷を構成する単位電荷はそれぞれ電気素量に対応した電荷量を有しているため、この分布を、遅延時定数τに関するトラップ電荷の電荷量分布とみなしてもよい。遅延時定数τに関するトラップ電荷の電荷量分布の全体(全面積)は、熱平衡トラップ電荷量Q´Tに相当する。
【0088】
上記式(21)によって与えられる確率分布関数は、遅延時定数τ
NQS
の連続関数である。計算コストを削減するため、この確率分布関数は、トラップ電荷を構成する単位電荷が、全体として、n個(nは2以上の整数)の代表的な遅延時定数τNQS
1~τNQS
nを有する離散関数に近似される。このとき、遅延時定数τNQS
1~τNQS
nを有する単位電荷の数量をそれぞれNT
1~NT
nとする。あるいは、遅延時定数τNQS
1~τNQS
nを有する単位電荷の、全体に対する割合(重み)をそれぞれP1~Pnとしてもよい。
【0089】
遅延時定数τNQS
1~τNQS
n各々を有する単位電荷の総電荷量をQT
1~QT
nとする。電荷量QT
1~QT
nは、それぞれ、電気素量q×単位電荷の数量NT
1~NT
nに対応し、さらには、熱平衡トラップ電荷量Q´T×重みP1~Pnに対応する。このことは、遅延時定数τNQS
1~τNQS
n各々を有する単位電荷の総電荷量QT
1~QT
nの総和が熱平衡トラップ電荷量Q´Tに等しいとする上記式(18)を表している。
【0090】
上記式(19)について説明する。tiおよびti-1は、それぞれ、第i(iは1以上の整数)の時刻、および、当該時刻tiより前の時刻を表す。また、τNQS
jは、遅延時定数τNQS
1~τNQS
nのうちの第j(jは1以上n以下の整数)の遅延時定数である。
【0091】
QT
jは、遅延時定数τNQS
jを有する単位電荷の総電荷量(熱平衡状態におけるトラップ電荷の電荷量の一部)である。qT
j(ti)およびqT
j(ti-1)は、それぞれ時刻ti,ti-1におけるトラップ電荷の過渡的な電荷量(NQS効果を反映した過渡的なトラップ電荷の電荷量の一部)である。
【0092】
この関係式は、特許文献3に記載のモデルを応用して導出される。この関係式は、トラップ電荷の過渡的な電荷量qT
jが、トラップ電荷の熱平衡状態における電荷量QT
jにむかって、遅延時定数τNQS
jに相当する時間遅れて収束していくことを表している。
【0093】
なお、時刻t0における電荷量qT
j(t0)を0とし、時刻t∞における電荷量qT
j(t∞)をQT
jとする境界条件のもと、上記式(19)を積分すると、次の式(22)を得る。この関係式によれば、トラップ電荷の過渡的な電荷量qT
jは、時間の経過とともに指数関数的に減衰する(一次遅れ応答の時間依存性を有する)。
【0094】
【0095】
上記式(20)について説明する。過渡トラップ電荷量qTは、第1から第nのトラップ電荷の過渡的な電荷量qT
1~qT
nの総和である。
【0096】
上記式(22)によれば、第jのトラップ電荷の過渡的な電荷量qT
jの時間変化は、単一の時定数を有する指数関数で表せる。したがって、第1から第nのトラップ電荷の過渡的な電荷量qT
1~qT
nの総和である過渡トラップ電荷量qTの時間変化は、時定数τNQS
1~τNQS
nを有する複数の指数関数を重ね合わせた関数で表される。このように、複数の指数関数を重ね合わせることによって、現実のNQS効果(時間遅れ効果)をより正確に計算することが可能となる。
【0097】
QT
jやτNQS
jのモデルパラメータ、また、μやσの分布パラメータは、TFT素子の実測結果などから予めモデリングされる。また、トラップ電荷の分割数nは小さすぎると、シミュレーション結果と実測結果との乖離が大きくなり、大きすぎると計算処理の負荷が大きくなって、シミュレーション結果を算出するまでの時間が長くなる。本発明者の検討によれば、nは5~10程度が適当である。
【0098】
次に、熱平衡状態に達するまでの過渡的なキャリア電荷の電荷量(過渡キャリア電荷量)qIを求める過程である過程S140について説明する。
【0099】
過程S140では、熱平衡トラップ電荷量(面電荷密度)Q´T、および、過渡トラップ電荷量(面電荷密度)qT、に基づいて、キャリア電荷の電荷量(面電荷密度)qIを算出する。トラップ電荷は、ドレイン電流に直接寄与しない。したがって、トラップ電荷のNQS効果が、どのようにキャリア電荷、ないしはドレイン電流に影響を与えるのかを検討する必要がある。
【0100】
トラップ電荷のNQS効果が、キャリア電荷の増減に影響を与えると仮定する。つまり、熱平衡トラップ電荷量Q´Tから過渡トラップ電荷量qTを差し引いたトラップ電荷の電荷増減量が、キャリア電荷の電荷増減量に相当すると仮定する。この場合、上記式(11)に示される、熱平衡状態におけるキャリア電荷の電荷量Q´Iに、次の式(23)により表されるキャリア電荷の電荷増減量qI
NQSを加算することにより、NQS効果を反映した過渡キャリア電荷量(面電荷密度)qI1を算出することができる。
【0101】
【0102】
また、トラップ電荷のNQS効果が、ゲート電荷(ゲート電極に帯電される電荷)の増減に影響を与えると仮定してもよい。つまり、熱平衡トラップ電荷量Q´Tから過渡トラップ電荷量qTを差し引いたトラップ電荷の電荷増減量が、ゲート電荷の電荷増減量に相当すると仮定してもよい。この場合、実際のゲート電圧Vgに、次の式(24)により表されるゲート電圧変化量ΔVgが加算された、実効ゲート電圧Vg+ΔVgがゲート電極に印加されると仮定する。
【0103】
【0104】
ゲート電極に実効ゲート電圧Vg+ΔVgが印加されると仮定して、上記式(1)~(11)を解くことにより、NQS効果を反映したキャリア電荷の電荷量(面電荷密度)qI2を算出することができる。本発明者による検討によれば、キャリア電荷の電荷量qI2を用いたシミュレーション結果のほうが、キャリア電荷の電荷量qI1を用いたシミュレーション結果よりも、実測結果に近いことがわかっている。
【0105】
なお、より正確に、NQS効果を反映したキャリア電荷の電荷量(過渡キャリア電荷量)を算出する場合には、特許文献3に開示されるモデルを援用してもよい。特許文献3に開示されるモデルを援用して、キャリア電荷自体の移動に係る時間遅れを取り込むことにより、より正確にNQS効果を反映したキャリア電荷の電荷量を算出することができる。
【0106】
次に、ドレイン電流Idを求める過程である過程S150について説明する。
【0107】
過程S150では、過渡キャリア電荷量qI(NQS効果を反映したキャリア電荷の電荷量qI1,qI2)に基づいて、ドレイン電流Idを算出する。具体的には、キャリア電荷の、ソース端およびドレイン端の電荷量qIS,qIDに基づいて、上記式(15)により、ドレイン電流Idを算出する。
【0108】
過程S160では、トランジスタに電圧などの信号が入力されてから十分に時間が経過したか否かが判定される。たとえば、時刻t
i
において、過渡トラップ電荷量q
T
が、熱平衡トラップ電荷量Q´
T
に達し、安定しているか否かが判定される。時間が十分に経過している場合(電荷量q
T
が電荷量Q´
T
に達し、安定している場合)は、シミュレーションを終了する。また、時間が十分に経過していない場合(電荷量q
T
が電荷量Q´
T
に達していない場合)は、時刻t
i
よりも後の時刻t
i+1
に時間ステップを送り(過程S170)、過程S130~過程S150を再度実行する。
【0109】
以上、本実施形態によるシミュレーション方法により、トランジスタの電気的特性がシミュレートされる。次に、本実施形態のシミュレーション方法によるシミュレーション結果と実測結果とを比較する。まずは、実測したpチャネル型TFTの基本構造および製造方法を説明する。
【0110】
【0111】
基板42として、ガラス基板あるいは樹脂フィルムを用意する。用意した基板42には、電気絶縁性を有するアンダーコート膜44が形成されている。アンダーコート膜44は、シリコン酸化膜SiO2とシリコン窒化膜SiNとが積層した構造を有する。
【0112】
アンダーコート膜44の上に、多結晶シリコン(poly-Si)からなる半導体層30を、所望のパターンで形成する。まず、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、アンダーコート膜44上に、アモルファスシリコン膜を堆積する。当該アモルファスシリコン膜にエキシマレーザを照射して、アモルファスシリコン膜を結晶化させる。これにより、たとえば層厚がおよそ50nmである多結晶シリコン層が形成される。その後、既知のホトリソグラフィおよびエッチングプロセスにより、多結晶シリコン層を所望のパターンに成形して、半導体層30を得る。
【0113】
プラズマCVD法により、半導体層30の表面に、SiO2からなるゲート絶縁膜20を形成する。ゲート絶縁膜20の膜厚は約100nmである。
【0114】
ゲート絶縁膜20上に、チャネル部31に相対するようにゲート電極10を形成する。まず、スパッタリング法により、ゲート絶縁膜20上に、モリブデン膜を堆積する。その後、既知のホトリソグラフィおよびエッチングプロセスにより、モリブデン膜を所望のパターンに成形して、ゲート電極10を得る。ゲート電極10の厚みは、約100nmである。
【0115】
ゲート電極10をマスクとして、イオン注入法により、半導体層30に約1×1015cm-2のボロンを注入する。その後、約500°で熱処理(活性化)し、低抵抗のp型シリコン領域(ソース部32およびドレイン部33)を形成する。
【0116】
半導体層30は、互いに離間されて配置されたソース部32およびドレイン部33と、ソース部32およびドレイン部33の間に位置づけられるチャネル部31と、を含む。チャネル部31は、不純物がドープされておらず、I型の導電型を構成する。
【0117】
プラズマCVD法により、ゲート電極10を覆う層間絶縁膜21を形成する。層間絶縁膜21はSiO2からなり、その膜厚は約300nmである。
【0118】
ゲート絶縁膜20および層間絶縁膜21を貫通して、ソース部32およびドレイン部33にそれぞれ接続するソース電極11およびドレイン電極12を形成する。まず、既知のホトリソグラフィとエッチングプロセスにより、ゲート絶縁膜20および層間絶縁膜21に開口を形成する。その後、スパッタリング法により、ゲート絶縁膜20および層間絶縁膜21の開口を埋めるように、モリブデン層/アルミニウム層/モリブデン層からなる積層膜を形成する。当該積層膜を、既知のホトリソグラフィとエッチングプロセスにより、所定のパターンに成形して、ソース電極11およびドレイン電極12を得る。
【0119】
プラズマCVD法により、ソース電極11およびドレイン電極12を覆う保護絶縁膜22を堆積する。保護絶縁膜22はシリコン窒化膜(SiN)からなり、その膜厚は約250nmである。
【0120】
以上により、pチャネル型のTFTが完成する。なお、ディスプレイ等の製品においては、保護絶縁膜22上にさらに、画像表示のために必要な電極や、絶縁膜、さらに、発光素子等が形成される。しかし、ここではそれらの説明を省略する。
【0121】
本発明者は、pチャネル型TFTの、過渡応答電流特性(
図6)、直流電流(DC)特性(
図7~
図10)、ヒステリシス特性(
図11)、オーバーシュート特性およびアンダーシュート特性(
図12)、履歴特性(
図13)について、本実施形態シミュレーション方法によるシミュレーション結果と実測結果とを比較した。その結果、いずれの特性においても、シミュレーション結果は、実測結果に良好に適合していることが確認された。以下、シミュレーション結果と実測結果との比較検討について説明する。
【0122】
図6に、pチャネル型TFTの過渡応答電流特性を示す。
図6に示されるグラフの縦軸はドレイン電流I
dの対数に対応し、横軸は時間tの対数に対応する。
【0123】
グラフには、実測結果(Measuredとされるドット群で示される)ならびにシミュレーション結果(a)(破線で示される)および(b)(実線で示される)が示される。シミュレーション結果(a)は、単一の遅延時定数τNQS
1を用いてドレイン電流Idを算出したシミュレーション結果であり、シミュレーション結果(b)は、複数の遅延時定数τNQS
1~τNQS
7を用いてドレイン電流Idを算出したシミュレーション結果である。それらの結果は、ドレイン電圧Vdを-10Vに固定し、ゲート電圧Vgを0Vから-2Vに変化させた後の、ドレイン電流Idの時間変化を示している。
【0124】
実測結果によれば、ドレイン電流Idが時間tに関してべき乗の依存性(Id∝Id(0)t-α)を有している。これに対して、シミュレーション結果(a)は、ごくわずかな時間範囲でしか実測結果と一致していない。一方、シミュレーション結果(b)は、シミュレーション結果(a)よりも長い時間範囲で実測結果と一致している。シミュレーション結果(a),(b)の比較により、複数の遅延時定数を用いたシミュレーション結果が、現実のNQS効果(時間遅れ現象)をより正確に捉えていることがわかる。なお、遅延時定数以外のパラメータを調整することにより、シミュレーション結果をより実測結果に近づけることが可能である。
【0125】
図7~
図10に、pチャネル型TFTの直流電流(DC)特性を示す。
図7は、チャネル長Lを4μmとし、ドレイン電圧V
dを変化させたときのドレイン電流I
d―ゲート電圧V
g特性を示し、
図8は、チャネル長Lを100μmとし、ドレイン電圧V
dを変化させたときのドレイン電流I
d―ゲート電圧V
g特性を示す。また、
図9は、チャネル長Lを4μmとし、ゲート電圧V
gを変化させたときのドレイン電流I
d―ドレイン電圧V
d特性を示し、
図10は、チャネル長Lを100μmとし、ゲート電圧V
gを変化させたときのドレイン電流I
d―ドレイン電圧V
d特性を示す。
図7~
図10には、それぞれ実測結果(実線で示される)およびシミュレーション結果(破線で示される)が示されている。
【0126】
これらのグラフにより、シミュレーション結果が、広いチャネル長の範囲で、実測結果に適合していることが確認される。特に、ドレイン電流がゲート電圧Vgに対して指数的に増大するサブスレショルド領域において、実測結果を良好に再現していることが確認される。
【0127】
なお、サブスレショルド領域におけるドレイン電流Id(特にその立ち上がりの傾き)やオン領域におけるドレイン電流Idについて、シミュレーション結果を実測結果に近づけるためには、上記式(3)に示されるNTCおよびT0、上記式(5)に示されるVfbなどの数値設定が特に重要となる。本シミュレーションでは、NTCを4.3×1015,T0を1660,Vfbを-0.2に設定している。
【0128】
図11に、pチャネル型TFTのヒステリシス特性を示す。
図11に示されるグラフの縦軸はドレイン電流I
dに対応し、横軸はゲート電圧V
gに対応する。グラフには、実測結果(Measuredとされるドット群)とシミュレーション結果(実線)が示される。これらの結果は、ドレイン電圧V
dを-10Vに固定し、ゲート電圧V
gを+2.0Vから-6.0Vまで-0.1V/秒の立下り速度で変化させた後、さらにゲート電圧V
gを-6.0Vから+2.0Vまで+0.1V/秒の立上がり速度で変化させたときのヒステリシス特性を示している。
【0129】
ゲート電圧Vgを減少させる過程をForwardスイープ、増大させる過程をReverseスイープとする。Reverseスイープの特性カーブは、Forwardスイープの特性カーブに対して、ゲート電圧Vgのマイナス方向にシフトする。これは、poly-SiやアモルファスSiからなるTFTにおいて一般に観測される現象である。
【0130】
このグラフにより、シミュレーション結果が、実測結果を良好に再現していることが確認される。なお、ヒステリシス特性について、シミュレーション結果を実測結果に近づけるためには、上記式(21)に示されるμやσの数値設定が特に重要となる。本シミュレーションでは、μを3.7、σを1.0に設定している。
【0131】
図12に、pチャネル型TFTのオーバーシュート特性およびアンダーシュート特性を示す。
図12に示されるグラフの縦軸はドレイン電流I
dに対応し、横軸は時間tに対応する。グラフには、実測結果(実線)とシミュレーション結果(Simulationとされるドット群)が示される。これらの結果は、ドレイン電圧V
dを-10Vに固定し、ゲート電圧V
gを0Vから、-2.0V、-2.3V、-2.0V、と変化させたときの、ドレイン電流I
dの時間変化を示している。
【0132】
実測結果によれば、ゲート電圧Vgを0V(オフ電位)から-2.0V(中間電位)に変化させたときに、ドレイン電流Idのオーバーシュートが確認される。また、ゲート電圧Vgを-2.3V(オン電位)から-2.0V(中間電位)に変化させたときに、ドレイン電流Idのアンダーシュートが確認される。グラフにより、シミュレーション結果が、このような実測結果に良好に適合していることが確認される。
【0133】
なお、オーバーシュート特性およびアンダーシュート特性について、シミュレーション結果を実測結果に近づけるためには、上記式(21)に示されるμやσの数値設定が特に重要となる。本シミュレーションでは、
図11に示すシミュレーションと同様に、μを3.7、σを1.0に設定している。
【0134】
図13に、pチャネル型TFTの履歴特性を示す。履歴特性とは、TFTのオーバーシュートの大きさが、ゲート電圧のオフ時間に依存する特性をいう。
【0135】
上段は、ゲート電圧の時間変化(ゲート電極に印加される電圧波形)を示す。中段は、実測結果によるドレイン電流の時間変化を示す。下段は、シミュレーション結果によるドレイン電流の時間変化を示す。
【0136】
上段に示すように、ケース(a)において、ゲート電極に-3.0Vの電圧を1秒間印加したのち、1秒間ゲート電圧をオフ(0V)する。ケース(b)において、ゲート電極に-3.0Vの電圧を1秒間印加したのち、0.1秒間ゲート電圧をオフする。ケース(c)において、ゲート電極に-3.0Vの電圧を1秒間印加したのち、0.01秒間ゲート電圧をオフする。
【0137】
中段に、ケース(a)~(c)における実測結果が示される。これにより、ゲート電圧のオフ時間が長いほど、ドレイン電流のオーバーシュートが大きくなるという特性、つまりTFTの履歴特性が確認される。
【0138】
下段に、ケース(a)~(c)におけるシミュレーション結果が示される。ゲート電圧のオフ時間が長いほど、ドレイン電流のオーバーシュートが大きい履歴特性が再現できている。物理的には、オフ時間が十分長くない場合、トラップ電荷が、オフ電圧(ゲート電圧=0V)で定まる熱平衡状態にまで戻れないため、上記式(23),(24)において、Q´T-qT(ti)が小さくなり、電流変動幅が小さくなると解釈できる。
【0139】
以上に示したように、本実施形態によるシミュレーション方法では、トラップ電荷の過渡的挙動を考慮しているため、TFTの過渡応答現象が高精度で再現できていることがわかった。このような特徴は、TFTを含む電子回路の過渡特性をシミュレートするために非常に有用である。
【0140】
たとえば有機ELディスプレイにおいて、表示面を構成する画素の駆動には一般にTFTが用いられる。
図12に示すTFTのオーバーシュート特性およびアンダーシュート特性は、それらのディスプレイの画質品質(残像など)に大きな影響を与える。本実施形態によるシミュレーション方法により、TFTのオーバーシュート特性およびアンダーシュート特性をより正確に予測することにより、当該ディスプレイの画質品質を事前に(設計段階で)、より高い精度で評価・検討することができる。
【0141】
次に、本実施形態によるシミュレーション方法(トランジスタのコンパクトモデル)を利用した、有機発光ダイオード(有機EL素子)を含む電子回路の特性のシミュレーションについて説明する。
【0142】
図14に、TFTを含む有機ELディスプレイの簡易的な等価回路を示す。この等価回路は、2つのpチャネル型薄膜トランジスタM1,M2と、キャパシタCstと、有機発光ダイオード素子OLEDと、を含む。トランジスタM1のドレインにデータ電圧Vdataが入力され、ゲートにスキャン電圧Vscanが入力される。トランジスタM1がオンされると、トランジスタM1のソースに接続されるキャパシタCstに電荷が保持される。トランジスタM1のソースには、トランジスタM2のゲートにも接続され、その電圧状態に応じて、有機発光ダイオード素子OLEDを流れる電流I
OLEDが制御される。VDDは+5V、VEEは-5Vとする。
【0143】
図15に、電圧Vscanおよび電圧Vdataの信号波形を示す。Vscanは、周期が16.7msであるパルス電圧波形を有する。Vdataは、時刻40sに電圧が6Vから2Vに変化するステップ電圧波形を有する。有機発光ダイオード素子OLEDを流れる電流I
OLEDは、時刻0s~40sではほぼ流れず、時刻40s以降から徐々に流れ始める。
【0144】
【0145】
図16の上段および下段は、広範な時間範囲における電流I
OLEDの時間変化、および、時刻40秒付近を拡大した電流I
OLEDの時間変化を示す。上段および下段には、それぞれ、過渡トラップ電荷量q
Tの算出において複数の遅延時定数を用いたシミュレーション結果(破線で示される)、および、実測結果(実線で示される)が示される。
【0146】
同様に、
図17の上段および下段は、広範な時間範囲における電流I
OLEDの時間変化、および、時刻40秒付近を拡大した電流I
OLEDの時間変化を示す。上段および下段には、それぞれ、過渡トラップ電荷量q
Tの算出において単一の遅延時定数を用いたシミュレーション結果(破線で示される)、および、実測結果(実線で示される)が示される。
【0147】
図16によれば、シミュレーション結果は、広い時間範囲で見ても、狭い時間範囲で見ても、実測結果に十分に近いと言える。一方で、
図17によれば、シミュレーション結果は、狭い時間範囲では実測結果に近いと言えるが、広い時間範囲では実測結果に十分に近いとは言えない。この結果を見ても、複数の遅延時定数を用いたシミュレーションが、現実のNQS効果(時間遅れ現象)をより正確に捉えていることがわかる。
【0148】
以上、実施形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施形態では、半導体層としてpoly-Si膜を用いたpチャネル型TFTのシミュレーション方法について説明したが、本シミュレーション方法をnチャネル型TFTに適用することも可能である。また、半導体層はpoly-Siに限定されるものではなく、たとえばアモルファスシリコン、微結晶シリコン、InGaZnOに代表されるような金属酸化物半導体、有機半導体など、半導体層内(チャネル内)に捕獲準位を有する半導体層に適用することが可能である。その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明である。
【符号の説明】
【0149】
10 ゲート電極、
11 ソース電極、
12 ドレイン電極、
20 ゲート絶縁膜、
21 層間絶縁膜、
22 保護絶縁膜、
30 半導体層、
31 チャネル部、
32 ソース部、
33 ドレイン部、
42 基板、
44 アンダーコート膜、
50 トランジスタ(シミュレーションモデル)、
90 コンピュータ、
91 入力装置、
92 記憶装置(メモリ)、
93 中央処理装置(CPU)、
94 出力装置、
95 回路シミュレータ、
96 回路網情報、
97 コンパクトモデル、
98 回路特性、
Cg ゲート絶縁膜の電気容量、
Cst キャパシタ、
Ec 伝導帯の底のエネルギー、
Ef フェルミエネルギー、
Ev 価電子帯の頂上のエネルギー、
Id ソース・ドレイン間電流(ドレイン電流)、
IOLED 有機発光ダイオード素子を流れる電流、
kB ボルツマン定数、
L チャネル長、
ni 半導体層の真性キャリア密度、
M1,M2 トランジスタ、
OLED 有機発光ダイオード素子、
QG ゲート電荷、
QI キャリア電荷(電荷密度)、
Q´I キャリア電荷の電荷量(面電荷密度)、
q 電気素量、
qT 過渡的なトラップ電荷の面電荷密度(過渡トラップ電荷量)、
QT トラップ電荷(電荷密度)、
T 温度、
u 遅延時定数τの対数、
Vfb フラットバンド電圧、
Vd ドレイン電圧、
Vg ゲート電圧、
Vs ソース電圧、
Vox ゲート絶縁膜にかかる電圧、
W チャネル幅、
ε 半導体層の誘電率、
φs 表面ポテンシャル、
μ 正規対数分布の平均、
μd 表面キャリアの移動度、
σ 正規対数分布の標準偏差、
τ 遅延時定数。