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特許7368249熱硬化型バインダー組成物及び無機繊維製品
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  • 特許-熱硬化型バインダー組成物及び無機繊維製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】熱硬化型バインダー組成物及び無機繊維製品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20231017BHJP
   C08G 8/00 20060101ALI20231017BHJP
   C08G 8/06 20060101ALI20231017BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20231017BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20231017BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20231017BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20231017BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20231017BHJP
   D04H 1/587 20120101ALI20231017BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08G8/00 E
C08G8/06
C08L61/06
C08K7/04
C08K9/04
C04B38/00 303Z
D04H1/4209
D04H1/587
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020012372
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021116393
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 裕昭
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165859(JP,A)
【文献】特開2016-060913(JP,A)
【文献】特開2018-053214(JP,A)
【文献】特開2014-173085(JP,A)
【文献】特開昭61-241348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00-8/38
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
D04H 1/4209
D04H 1/587
C08J 5/04
C04B 38/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非還元糖と、フェノール類と、水と、アンモニウムイオンと、前記アンモニウムイオンと塩を形成し得る陰イオンとを含み、還元糖を含まず、
前記非還元糖が、ショ糖であり、
前記陰イオンが、リン酸イオン及びフェノールスルホン酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
pHが7~10である、熱硬化型バインダー組成物。
【請求項2】
前記非還元糖と前記フェノール類との合計に対する前記陰イオンの割合が4~20質量%である、請求項1に記載の熱硬化型バインダー組成物。
【請求項3】
前記非還元糖と前記フェノール類との合計に対する前記フェノール類の割合が0.1~20質量%である、請求項1又は2に記載の熱硬化型バインダー組成物。
【請求項4】
ホルムアルデヒドを含む原料が配合されていない、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
【請求項5】
前記フェノール類が、25質量%アンモニア水溶液に可溶である、請求項1~のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
【請求項6】
前記フェノール類が、レソルシノール及びタンニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
【請求項7】
無機繊維がバインダーで結合されてなる成形体を備える無機繊維製品であって、
前記バインダーが、請求項1~のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物の硬化物である、無機繊維製品。
【請求項8】
前記無機繊維が、グラスウール又はロックウールである、請求項に記載の無機繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型バインダー組成物及びこれを用いた無機繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウール、ロックウール、セラミック繊維等の無機繊維をバインダーで結合することにより成形した無機繊維製品が、断熱材、吸音材、その他各種成型品(自動車の屋根、ボンネットのライナー等)に用いられる。無機繊維製品は、一般的に、無機繊維に熱硬化性バインダーを付着させ、集積して目的の無機繊維製品の形状の集積体とした後、加熱し、熱硬化性バインダーを硬化することにより製造される。熱硬化性バインダーとしては、フェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られるフェノール樹脂を主成分としたもの(以下、「フェノール樹脂系バインダー」とも記す。)が、比較的安価で、機械的強度等の性能に優れた製品が得られることから汎用される。
【0003】
しかし、フェノール樹脂系バインダーは、無機繊維製品等の製造工程でホルムアルデヒドが放散しやすい問題がある。その原因としては、フェノール樹脂の製造に際して原料として用いられたホルムアルデヒドが未反応のまま残留していること、フェノール樹脂系バインダーの熱硬化時にホルムアルデヒドが発生すること等が挙げられる。
そこで、ホルムアルデヒドを含む原料を使用していない、いわゆるノンホルムアルデヒドタイプのバインダーが検討されている。
特許文献1には、糖質とアンモニウム塩とフェノール類とを含有する熱硬化性バインダーが提案されている(特許文献1)。この熱硬化性バインダーは、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能(熱硬化後の常態強度等)を発揮し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-173085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の熱硬化性バインダーは、pH4付近の酸性のものが多い。pH8付近の熱硬化性バインダーも記載されているが、本発明者らの検討によれば、この熱硬化性バインダーは、製造後、保存中に経時でpHが低下して酸性となる。そのため、これらの熱硬化性バインダーは、無機繊維製品の製造設備を構成する金属(鉄等)を腐食させるおそれがある。
【0006】
本発明の一態様は、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮し、かつ金属を腐食しにくい熱硬化型バインダー組成物、及びこれを用いた無機繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]非還元糖と、フェノール類と、水と、アンモニウムイオンと、前記アンモニウムイオンと塩を形成し得る陰イオンとを含み、
pHが7~10である、熱硬化型バインダー組成物。
[2]前記非還元糖と前記フェノール類との合計に対する前記陰イオンの割合が4~20質量%である、前記[1]の熱硬化型バインダー組成物。
[3]前記非還元糖と前記フェノール類との合計に対する前記フェノール類の割合が0.1~20質量%である、前記[1]又は[2]の熱硬化型バインダー組成物。
[4]ホルムアルデヒドを含む原料が配合されていない、前記[1]~[3]のいずれかの熱硬化型バインダー組成物。
[5]前記非還元糖が、ショ糖及びトレハロースからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、前記[1]~[4]のいずれかの熱硬化型バインダー組成物。
[6]前記陰イオンが、リン酸イオン及びフェノールスルホン酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、前記[1]~[5]のいずれかの熱硬化型バインダー組成物。
[7]前記フェノール類が、25質量%アンモニア水溶液に可溶である、前記[1]~[6]のいずれかの熱硬化型バインダー組成物。
[8]前記フェノール類が、レソルシノール及びタンニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、前記[1]~[7]のいずれかの熱硬化型バインダー組成物。
[9]無機繊維がバインダーで結合されてなる成形体を備える無機繊維製品であって、
前記バインダーが、前記[1]~[8]のいずれかの熱硬化型バインダー組成物の硬化物である、無機繊維製品。
[10]前記無機繊維が、グラスウール又はロックウールである、前記[9]の無機繊維製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮し、かつ金属を腐食しにくい熱硬化型バインダー組成物、及びこれを用いた無機繊維製品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】試験例1の結果を示すグラフである。
図2】試験例7の結果(バインダー組成物におけるタンニン比率と引張強度との関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<熱硬化型バインダー組成物>
本発明の一態様に係る熱硬化型バインダー組成物(以下、単に「バインダー組成物」ともいう。)は、非還元糖と、フェノール類と、水と、アンモニウムイオン(NH )と、前記アンモニウムイオンと塩を形成し得る陰イオンとを含む。
また、本態様のバインダー組成物のpHは7~10である。
【0011】
[非還元糖]
非還元糖は、還元糖以外の糖質である。非還元糖としては、特に限定するものではないが、ショ糖(スクロース)、トレハロース、ラフィノース等が挙げられる。これらの非還元糖はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
非還元糖としては、アルカリ条件下での安定性の点から、ショ糖及びトレハロースからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、熱硬化しやすさの点から、ショ糖が特に好ましい。
【0012】
[フェノール類]
フェノール類は、芳香族炭化水素核の水素原子をヒドロキシ基で置換した芳香族ヒドロキシ化合物である。フェノール類は、非還元糖と共に、硬化物の骨格を形成する。なお、フェノール樹脂は、フェノール類には包含されない。
フェノール類としては、植物原料由来系フェノール類、化石燃料系フェノール類等が挙げられる。
植物原料由来系フェノール類としては、フラボノイド系のタンニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、イソフラボン、フェノール酸系のクロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン、リグニン等のポリフェノール、カルダノール、カシューナッツシェルリキッド等が挙げられる。
化石燃料系フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、トリメチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ブチルクレゾール、フェニルフェノール、クミルフェノール、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、カテコール、レソルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール等が挙げられる。
これらのフェノール類はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、バインダー性能がより優れる点から、多価フェノール類(水酸基を2個以上有するフェノール類)が好ましい。
【0013】
フェノール類は、25質量%アンモニア水溶液に可溶であることが好ましい。フェノール類が25質量%アンモニア水溶液に可溶であれば、フェノール類がバインダー組成物に溶解して非還元糖と均一に混和しやすく、バインダー性能がより優れる。
「25質量%アンモニア水溶液に可溶である」とは、25質量%アンモニア水溶液への溶解度が20℃において2g/100mL以上であることを示す。
25質量%アンモニア水溶液に可溶なフェノール類としては、例えば、タンニン、フェノール、クレゾール、カテコール、レソルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール等が挙げられる。
【0014】
フェノール類としては、バインダー性能がより優れる点から、25質量%アンモニア水溶液に可溶な多価フェノール類がより好ましく、タンニン及びレソルシノールからなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、バインダー性能がより優れる点、安価で環境にも優しい点から、タンニンが特に好ましい。
【0015】
[陰イオン]
アンモニウムイオンと塩を形成可能な陰イオンは、本態様のバインダー組成物の硬化反応において酸触媒として機能する。硬化反応については後で詳しく説明する。
陰イオンとしては、アンモニウムイオンと塩を形成可能なものであればよく、無機酸陰イオン、有機酸陰イオン等が挙げられる。無機酸陰イオンとしては、硫酸イオン、リン酸イオン等が挙げられる。有機酸陰イオンとしては、フェノールスルホン酸イオン、クエン酸イオン等が挙げられる。これらの陰イオンはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
陰イオンとしては、実用性の点から、リン酸イオン及びフェノールスルホン酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、リン酸イオン、又はリン酸イオンとフェノールスルホン酸イオンとの混合物がより好ましい。
なお、リン酸イオンは、pH7~8の条件下では主にHPO 2-の状態で存在し、pH8~10の条件下では主にPO 3-の状態で存在する。
【0016】
[他の成分]
バインダー組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記した非還元糖、フェノール類、アンモニウムイオン及び陰イオン以外の他の成分をさらに含有してもよい。
他の成分としては、無機繊維製品等の製造に用いられる熱硬化型バインダー組成物に配合し得る成分として公知なもののなかから適宜選択して使用でき、例えば、非還元糖以外の糖質、アンモニウムイオン以外の塩基性化合物(有機アミン等)、界面活性剤、シランカップリング剤、撥水剤、発塵防止オイル、硬化調整剤、硬化促進剤、尿素、メラミン、フルフラール、フルフリルアルコール等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。これらの界面活性剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
シランカップリング剤としては、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、メタクリロイル基含有シランカップリング剤、アクリロイル基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤、イソシアネート基含有シランカップリング剤等が挙げられる。アミノ基含有シランカップリング剤としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等が挙げられる。エポキシ基含有シランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。ビニル基含有シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。メタクリロイル基含有シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。アクリロイル基含有シランカップリング剤としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ウレイド基含有シランカップリング剤としては、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
撥水剤としては、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤、炭化水素系撥水剤等が挙げられる。これらの撥水剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
発塵防止オイルとしては、鉱物油ベースのオイルエマルション等が挙げられる。
硬化調整剤としては、水溶性の高沸点溶剤が好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン(ジグリセロールともいう。)、ポリグリセリン等が挙げられる。これらの硬化調整剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
硬化促進剤としては、リン酸化合物が好ましい。リン酸化合物としては、アルカリ金属の次亜リン酸塩、アルカリ金属の亜リン酸塩、アルカリ金属のポリリン酸塩、アルカリ金属のリン酸水素塩、アルキルリン酸塩等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩又はカリウム塩等が好ましく、例えば次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
本態様のバインダー組成物は、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮し得る。そのため、本態様のバインダー組成物は、ホルムアルデヒドを含む原料(例えばホルムアルデヒド、フェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られるフェノール樹脂)が配合されていないことが好ましい。バインダー組成物にホルムアルデヒドを含む原料が配合されていなければ、無機繊維製品の製造時における臭気の発生をより低減できる。
【0021】
[組成]
本態様のバインダー組成物において、非還元糖とフェノール類との合計の含有量は、バインダー組成物の固形分全体(100質量%)に対し、75~99質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましく、85~90質量%がさらに好ましい。非還元糖及びフェノール類は、硬化物の骨格を形成する成分である。非還元糖とフェノール類との合計の含有量の含有量が前記下限値以上であれば、バインダー性能が効率よく発揮され、得られる無機繊維製品の引張強度等の特性が良好である。一方、非還元糖とフェノール類との合計の含有量が前記上限値以下であれば、無機繊維製品の成形を行う際に、所定の成形条件内(温度、時間)で硬化を完了させ、要求される性能を発現させやすい。
【0022】
非還元糖とフェノール類との合計(100質量%)に対するフェノール類の割合は、0.1~20質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、2~15質量%がさらに好ましく、7.5~12.5質量%が特に好ましい。フェノール類の割合が前記範囲内であれば、バインダー性能がより優れ、得られる無機繊維製品の引張強度等の特性がより優れる。
【0023】
水の含有量は、バインダー組成物の固形分濃度に応じて設定される。
バインダー組成物の固形分濃度は、非還元糖やフェノール類の溶解性、バインダー組成物の使用形態等を考慮して適宜設定できるが、例えば、バインダー組成物の総質量に対し、30~70質量%であってよい。
【0024】
アンモニウムイオンは、バインダー組成物の硬化反応において非還元糖が加水分解の後生成する還元糖と反応する。また、バインダー組成物のpHを調整する。
アンモニウムイオンの含有量は、バインダー組成物のpHが7~10(さらには後述する好ましい範囲)となるように、陰イオンの種類及び含有量に応じて設定される。
例えば、陰イオンがリン酸イオンである場合、アンモニウムイオンの含有量は、リン酸イオンとアンモニウムイオンとの合計に対し、20~40質量%が好ましく、25~35質量%がより好ましい。
陰イオンがリン酸イオンとフェノールスルホン酸イオンとの混合物である場合、アンモニウムイオンの含有量は、リン酸イオンとフェノールスルホン酸イオンとアンモニウムイオンの合計に対し、10~30質量%が好ましく、15~25質量%がより好ましい。
【0025】
非還元糖とフェノール類との合計(100質量%)に対する陰イオンの割合は、4~20質量%が好ましく、5~17.5質量%がより好ましく、6~15質量%がさらに好ましい。陰イオンの割合が前記下限値以上であれば、無機繊維製品の成形を行う際に、所定の成形条件内(温度、時間)で硬化を完了させ、要求される性能を発現させやすい。一方、陰イオンの割合が前記上限値以下であれば、バインダー性能が効率よく発揮され、得られる無機繊維製品の引張強度等の特性が良好である。
【0026】
他の成分の含有量は、例えば、バインダーの固形分全体に対して0~10質量%であってよい。
バインダー組成物が還元糖を含むと、経時でバインダー組成物のpHが低下するおそれがある。経時でのpH低下を抑制する観点から、還元糖の含有量は、バインダーの固形分全体に対して5質量%以下が好ましく、0質量%が特に好ましい。すなわち、本態様のバインダー組成物は、還元糖を含まないことが特に好ましい。
【0027】
非還元糖、フェノール類、アンモニウムイオン、陰イオン、他の成分それぞれの含有量は固形分量である。
「固形分」とは、水以外の成分の合計である。
「固形分濃度」とは、{(全体の質量-水の質量)/全体質量}×100(質量%)で算出される値である。
例えば非還元糖の場合、バインダー組成物の調製に際し、粉末状の非還元糖を用いた場合はその全てを固形分として取扱い、非還元糖水溶液を用いた場合は、それを固形分(非還元糖)と水分とに分けて取扱う。
【0028】
[pH]
本態様のバインダー組成物のpHは、7~10であり、7~9が好ましい。pHが前記下限値以上であれば、鉄等の金属が腐食しにくい。また、フェノール類が溶解しやすく、バインダー性能(引張強度等)がより優れる。pHが前記上限値以下であれば、バインダー組成物のゲル化時間を実用上十分に短くできる。
pHは、25℃における値である。
【0029】
[バインダー組成物の製造方法]
本態様のバインダー組成物は、非還元糖と、フェノール類と、水と、アンモニウムイオンと、陰イオンと、必要に応じて他の成分と、を混合することにより調製できる。
各成分は一括で混合してもよく、順次混合してもよい。
バインダー組成物の製造方法の一例を挙げると、まず、陰イオンに対応する酸(リン酸等)又はそのアンモニウム塩を水に溶解し、陰イオンを含む水溶液を得る。得られた水溶液にアンモニア水溶液を添加してpHを7~10に調整する。pHを調整した水溶液にフェノール類を溶解し、得られた溶液と非還元糖(粉末又は水溶液)とを混合する。必要に応じて水を添加して固形分濃度を調整する。こうしてバインダー組成物が得られる。
【0030】
本態様のバインダー組成物は、加熱により硬化する硬化性を有する。
本態様のバインダー組成物の熱硬化機構としては、カラメル化と類似した機構が考えられる。バインダー組成物を加熱すると、まず、非還元糖が加水分解して還元糖となり、その還元糖がアンモニウムイオンと反応してグルコシルアミンとなる。次いで、開環を伴って1-アミノ-1-デオキシ-2-ケトースを形成する。これは一般的にはアマドリ転移と言われるものである。引き続き、陰イオン(酸触媒)と加熱の影響で、脱水を伴いながら閉環し、ヒドロキシメチルフルフラール(以下、HMFという。)を生成する。HMFは熱的に不安定な化合物であり、生成したHMFは、連続的な加熱下のもと更に脱水を伴いながら他のHMFやフェノール類と反応する。この反応の進行に伴い硬化が進行し、やがて完結する。生じる硬化物は、カラメル様の構造の一部にフェノール類の骨格が導入された構造を有するものと推測される。
上記の反応で副生するのはおおむね水のみと考えられる。そのため、無機繊維製品の製造工程等で本態様のバインダー組成物を用いた場合、バインダー組成物の硬化時に発生するガスはおおむね水蒸気のみと考えられる。
【0031】
<無機繊維製品>
本発明の一態様に係る無機繊維製品は、無機繊維がバインダーで結合されてなる成形体を備える。このバインダーは、前記したバインダー組成物の硬化物である。
無機繊維としては、特に限定されず、例えばグラスウール、ロックウール、セラミック繊維等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。無機繊維としては、汎用性、断熱性能の点で、グラスウール又はロックウールが好ましい。
無機繊維製品は、前記成形体からなるものでもよく、前記成形体以外の他の部材をさらに備えるものであってもよい。該他の部材としては、例えば梱包のための表皮材等が挙げられる。
無機繊維製品は、例えば断熱材、吸音材、その他各種成型品(自動車の屋根、ボンネットのライナー等)等として利用できる。
【0032】
[無機繊維製品の製造方法]
無機繊維製品は、前記したバインダー組成物を用いて無機繊維を成形し、成形体を得る工程を有する製造方法により製造できる。
無機繊維製品の製造には、バインダーとして前記したバインダー組成物を用いる以外は、従来、無機繊維製品の製造に用いられている公知の方法が利用できる。
無機繊維製品の製造方法の一例として、無機繊維にバインダー組成物を付着させる工程(以下、付着工程)、前記バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、製造しようとする無機繊維製品に対応した形状の集積体とした後、前記集積体を加熱し、前記バインダー組成物を硬化させて成形体を得る工程(以下、成形工程)、を順次行う方法が挙げられる。以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0033】
(付着工程)
付着工程で使用する無機繊維としては、前記と同様のものが挙げられる。
無機繊維の繊維長や繊維径は、製造しようとする無機繊維製品に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、繊維径が3~10μmの範囲内のものが用いられる。
無機繊維は、市販のものを用いてもよく、公知の方法により製造したものをそのまま用いてもよい。無機繊維は、一般的には、原料(廃ガラス、玄武岩、鉄炉スラグ等)を繊維化することにより製造される。繊維化方法としては、火炎法、遠心法等が挙げられる。これらの各種方法による繊維化は、対応する繊維化装置を用いて実施できる。
【0034】
無機繊維にバインダー組成物を付着させる方法としては、例えば、無機繊維に対し、スプレー装置等を用いてバインダー組成物を吹き付ける方法、無機繊維をバインダー組成物に含浸させる方法等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
無機繊維に付着させるバインダー組成物の量は、特に限定されないが、通常、無機繊維(100質量%)に対し、バインダー組成物の不揮発分として、0.5~20質量%の範囲内である。この量は、得られる成形体の物性(機械的強度等)に影響する。例えば無機繊維に付着させるバインダー組成物の量が多いほど、得られる成形体の機械的強度が高くなる傾向がある。
「不揮発分」とは、JIS K6910の5.6の規定に準じて測定される値を示す。
【0035】
(成形工程)
次に、バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、製造しようとする無機繊維製品に対応した形状の集積体とした後、前記集積体を加熱し、バインダー組成物を硬化させる。
成形工程は、公知の方法により実施できる。例えば、無機繊維製品として板状のものを製造する場合を例に挙げると、コンベア上に無機繊維を堆積し、この堆積物を、コンベアの上下方向から押圧して圧縮して集積体とし、この集積体を加熱炉(硬化炉)に送り、加熱してバインダー組成物を硬化させることにより板状の成形体が得られる。
無機繊維の使用量(コンベア上に堆積させる無機繊維の量)や圧縮条件は、製造しようとする無機繊維製品の厚さ、嵩密度等に応じて設定される。
集積体の加熱条件(加熱温度、加熱時間)は、集積体中のバインダー組成物が硬化する範囲内であれば特に限定されないが、加熱温度は、180~270℃の範囲内が好ましい。180℃未満であると、硬化が不充分となり機械的強度が不充分となるおそれがある。
270℃を超えると、バインダー組成物の分解と、それに伴う歩留りの低下及び機械的強度の低下を招くおそれがある。加熱時間は、集積体の大きさ、加熱温度等によって異なり、特に限定されない。
【0036】
得られた成形体は、そのまま無機繊維製品としてもよく、必要に応じてさらに、切断、表皮材による梱包等の処理を施してもよい。
【実施例
【0037】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例20は参考例である。
以下の各例において「部」、「%」は、それぞれ、特に限定のない場合は「質量部」、「質量%」を示す。
後述する各例で用いた測定方法及び使用材料を以下に示す。
【0038】
<pH>
pHは、JIS K6910の5.4の規定に準じて、測定温度25℃にて測定した。
【0039】
<ゲル化時間>
バインダー組成物のゲル化時間は、JIS K6910の5.14.1(ゲル化時間A法)の規定に準じて、測定温度150℃にて測定した。
【0040】
<引張強度>
引張強度は、以下の手順で測定した。
固形分濃度50%に調整したバインダー組成物18gにイオン交換水12gを添加し、固形分濃度30%のバインダー溶液を調製した。
90mm×25mmに裁断したガラスろ紙(ワットマン社製)にバインダー溶液を含浸させ、紙ウエス(日本製紙社製、キムタオル)上で余分のバインダー溶液を除去し、100℃の乾燥器で30分乾燥させた後、190℃で15分硬化させた。バインダー付着分は60±2%程度となる。
硬化させた試験片の両側をカットし90mm×20mmの試験片とした。この試験片の上下20mmを引張試験機のチャックにはさみ、ヘッドスピード5mm/minで引っ張り、その強度(N)を測定した。測定結果から下記式により引張強度を算出した。
引張強度(MPa)=測定値(N)/6(mm
上記式の右辺の分母は、試験片の断面積(20mm×0.3mm)である。
合計5つの試験片について引張強度を求め、その平均値を算出した。
【0041】
<使用材料>
ショ糖:粉末状、富士フイルム和光純薬社製、試薬、特級。
ショ糖水溶液:固形分濃度67%、上記ショ糖をイオン交換水に溶解して調製した。
異性化糖:液状、群栄化学工業社製、75FG、固形分濃度75%、糖質全体に対してグルコースを45%、フルクトースを42%の割合で含有。
トレハロース2水和物:粉末状、林原社製。
タンニン(1):粉末状、UCL Company Pty Ltd.,製、ミモサNT。
タンニン(2):粉末状、NTE Company Pty Ltd.,製、ボンタイト241。
タンニン(3):粉末状、UCL Company Pty Ltd.,製、MEパウダー。
タンニン(4):粉末状、TUPAPIN NTO。
タンニン(5):粉末状、Silvateam S.p.a.製、FINTAN 737。
レソルシノール:粉末状、住友化学社製。
リン酸三アンモニウム:富士フイルム和光純薬社製、試薬、特級。
リン酸二水素アンモニウム:富士フイルム和光純薬社製、試薬、特級。
85%リン酸水溶液:片倉コープアグリ社製。
65%フェノールスルホン酸水溶液:日本化学産業社製。
25%アンモニア水溶液:三菱化学社製。
【0042】
<試験例1>
この試験は、糖質がバインダー組成物のpHに与える影響を評価するために実施した。
【0043】
表1に示す組成のバインダー組成物(実施例1、比較例1)を下記の手順で調製した。表1に示す組成は、バインダー組成物100g当たりの各成分の質量(g)を示す。
まず、イオン交換水9.2gに85%リン酸水溶液3.6gを溶解させた。そこに、pHを確認しながら(pHメータの電極を差し入れ、撹拌しながら実施)、25%アンモニア水溶液を添加し、最終的にpH9.0とした。次いで、タンニン(1)2.2gを添加し溶解させた。次いで、固形分濃度67%のショ糖水溶液64.5g(実施例1)又は固形分濃度75%の異性化糖57.6g(比較例1)を添加し均一に溶解させた。その後、最終的にバインダー組成物の総量が100gとなるようにイオン交換水を添加し、バインダー組成物を得た。得られたバインダー組成物のpH(初期pH)を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
得られたバインダー組成物を25℃で保管した。保管開始から1日後、3日後、7日後及び14日後にバインダー組成物のpHを測定した。測定結果を図1に示す。
図1に示すとおり、糖質が異性化糖(還元糖)である比較例1のバインダー組成物は、経時的にpHが低下した。これに対し、糖質がショ糖(非還元糖)である実施例1のバインダー組成物は、初期pHが維持されていた。
【0046】
<試験例2>
この試験は、pHと金属(鉄)腐食性との関係を評価するために実施した。
【0047】
(1)
表2に示す組成の溶液(比較例2~6)を下記の手順で調製した。表2に示す組成は、溶液50g当たりの各成分の質量(g)を示す。
ショ糖とリン酸二水素アンモニウム又はリン酸三アンモニウムと水とを表2に示す組成に従って混合し、溶液を得た。得られた溶液のpH(初期溶液pH)を表2に示す。
各溶液50gを蓋付きの透明広口瓶(ポリプロピレン製、容量200mL)に収容し、そこに鉄釘(長さ35mmの丸釘、アセトンで脱脂)を入れ、25℃で24時間静置した。その後、溶液中の鉄釘の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
○:変化無し。
×:黒錆又は赤錆が発生した。
なお、黒錆は、鉄の表面にできる酸化膜のことであり、化学式Feで表される。黒錆は、一般的な鉄に対して自然に発生することはない。
【0048】
【表2】
【0049】
<試験例3>
この試験は、試験例2と同様、pHと金属(鉄)腐食性との関係を評価するために実施した。
【0050】
リン酸二水素アンモニウムをイオン交換水に溶解して10%リン酸二水素アンモニウム水溶液を調製した。10%リン酸二水素アンモニウム水溶液に、表3に示すpHとなるように25%アンモニア水溶液を添加して溶液を得た。
各溶液50gを蓋付きの透明広口瓶(ポリプロピレン製、容量200mL)に収容し、そこに鉄釘(長さ35mmの丸釘、アセトンで脱脂)を入れ、25℃で24時間静置した。その後、溶液中の鉄釘の外観を目視で観察した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
試験例2~3の結果から、pHが7以上であれば、金属(鉄)を腐食させにくいと判断できる。
【0053】
<試験例4>
この試験は、pHとタンニン溶解性との関係を評価するために実施した。
【0054】
リン酸二水素アンモニウムをイオン交換水に溶解して10%リン酸二水素アンモニウム水溶液を調製した。10%リン酸二水素アンモニウム水溶液に、表4に示すpHとなるように25%アンモニア水溶液を添加して溶液を得た。
各溶液10gにタンニン(2)0.5gを添加し、よく撹拌した。1時間後に溶液を目視で観察し、タンニン(2)の溶解性を以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
○:完全に溶解した。
×:不溶分が有った。
【0055】
【表4】
【0056】
<試験例5>
この試験は、フェノール類の水又はアルカリ水への溶解性を評価するために実施した。
【0057】
水(イオン交換水)又はアルカリ水(25%アンモニア水溶液)の10gに、表5に示すフェノール類の0.5gを添加し、よく撹拌した。1時間後に溶液を目視で観察し、フェノール類の溶解性を試験例4と同様の基準で評価した。結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
<試験例6>
この試験は、pH及びフェノール類がバインダー特性に与える影響を評価するために実施した。
【0060】
表6に示す組成のバインダー組成物(比較例7~8、実施例2~7)を下記の手順で調製した。表6に示す組成は、バインダー組成物100g当たりの各成分の質量(g)を示す。
まず、イオン交換水9.2gに85%リン酸水溶液4.6gを溶解させた。そこに、pHを確認しながら(pHメータの電極を差し入れ、撹拌しながら実施)、25%アンモニア水溶液を添加し、最終的にpHを5.0(比較例7)又は9.0(比較例8、実施例2~7)とした。次いで、実施例2~7については、表6に示すフェノール類(タンニン(1)~(5)及びレソルシノールのいずれか)4.5gを添加し溶解させた。次いで、固形分濃度67%のショ糖水溶液67.9g(比較例7~8)又は61.3g(実施例2~7)を添加し均一に溶解させた。その後、最終的にバインダー組成物の総量が100gとなるようにイオン交換水を添加し、バインダー組成物を得た。
得られたバインダー組成物のpH(バインダーpH)を表6に示す。また、得られたバインダー組成物について、ゲル化時間、引張強度を評価した。結果を表6に示す。
【0061】
【表6】
【0062】
比較例7と比較例8との対比から、バインダーpHを7~10とすることで、引張強度が向上することがわかる。
比較例8と実施例2~7との対比から、バインダー組成物がフェノール類を含むことで、引張強度が向上するとともにゲル化時間が短くなることがわかる。
【0063】
<試験例7>
この試験は、糖質とフェノール類との合計に対するフェノール類の割合がバインダー特性に与える影響を評価するために実施した。
【0064】
表7に示す組成のバインダー組成物(比較例9、実施例8~12)を下記の手順で調製した。表7に示す組成は、バインダー組成物100g当たりの各成分の質量(g)を示す。
まず、イオン交換水13.2gに85%リン酸水溶液5.5gを溶解させた。そこに、pHを確認しながら(pHメータの電極を差し入れ、撹拌しながら実施)、25%アンモニア水溶液を添加し、最終的にpHを8.0とした。次いで、実施例8~12については、タンニン(2)を表7に示す組成となるように添加し溶解させた。次いで、固形分濃度67%のショ糖水溶液を表7に示す組成となるように添加し均一に溶解させた。実施例8~12においてはショ糖(固形分)とタンニン(2)との合計が43.5gとなるようにした。その後、最終的にバインダー組成物の総量が100gとなるようにイオン交換水を添加し、バインダー組成物を得た。
得られたバインダー組成物のpH(バインダーpH)とタンニン比率(%)を表7に示す。タンニン比率は、ショ糖(固形分)とタンニン(2)との合計(100%)に対するタンニン(2)の割合である。また、得られたバインダー組成物について、ゲル化時間、引張強度を評価した。結果を表7に示す。また、図2に、比較例9、実施例8~12におけるタンニン比率(%)を横軸に、引張強度(MPa)を縦軸にとったグラフを示す。
【0065】
【表7】
【0066】
比較例9と実施例8~12との対比から、バインダー組成物がフェノール類を含むことで、引張強度が向上するとともにゲル化時間が短くなることがわかる。
【0067】
<試験例8>
この試験は、pH、フェノール類及び陰イオンがバインダー特性に与える影響を評価するために実施した。
【0068】
表8に示す組成のバインダー組成物(比較例10~11、実施例13~18)を下記の手順で調製した。表8に示す組成は、バインダー組成物100g当たりの各成分の質量(g)を示す。
まず、イオン交換水10.2gに85%リン酸水溶液2.2g、65%フェノールスルホン酸水溶液6.0gを溶解させた。そこに、pHを確認しながら(pHメータの電極を差し入れ、撹拌しながら実施)、25%アンモニア水溶液を添加し、最終的にpHを5.0(比較例10)又は9.0(比較例11、実施例13~18)とした。次いで、実施例13~18については、表8に示すフェノール類(タンニン(1)~(5)及びレソルシノールのいずれか)2.2gを添加し溶解させた。次いで、固形分濃度67%のショ糖水溶液64.9g(比較例10~11)又は61.6g(実施例13~18)を添加し均一に溶解させた。その後、最終的にバインダー組成物の総量が100gとなるようにイオン交換水を添加し、バインダー組成物を得た。
得られたバインダー組成物のpH(バインダーpH)を表8に示す。また、得られたバインダー組成物について、ゲル化時間、引張強度を評価した。結果を表8に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
上記結果から、陰イオンとしてリン酸イオンとフェノールスルホン酸イオンとを併用した場合でも、陰イオンとしてリン酸イオンのみを用いた試験例6と同様に、バインダーpHを7~10とすることで、引張強度が向上すること、バインダー組成物がフェノール類を含むことで、引張強度が向上するとともにゲル化時間が短くなることがわかる。
【0071】
<試験例9>
この試験は、pH、糖質及びフェノール類がバインダー特性に与える影響を評価するために実施した。
【0072】
表9に示す組成となるように各材料の添加量を変更した以外は実施例2と同様にしてバインダー組成物(実施例19、比較例12)を調製した。
固形分濃度67%のショ糖水溶液の代わりに粉末のトレハロース2水和物47.7g(無水物換算で43.2g)を用いた以外は実施例19と同様にしてバインダー組成物(実施例20)を調製した。
表9に示す組成となるように各材料の添加量を変更した以外は比較例7と同様にしてバインダー組成物(比較例13~14)を調製した。
85%リン酸水溶液の添加量は、実施例19~20、比較例12~14全て4.6gであった。
得られたバインダー組成物のpH(バインダーpH)を表9に示す。また、得られたバインダー組成物について、ゲル化時間、引張強度を評価した。結果を表9に示す。
【0073】
【表9】
【0074】
pHが異なる実施例19と比較例12とを対比すると、pHが7未満の比較例12よりも、pHが7以上の実施例19の方が引張強度に優れていた。実施例19のゲル化時間は、比較例12よりは少し長いものの、実用上充分な値であった。
タンニン(1)の有無で異なる比較例12と比較例13とを対比すると、pHは同程度であるが、タンニン(1)を含む比較例12の方が、引張強度に優れるとともにゲル化時間が短くなっていた。実施例19と比較例14との対比においても同様の傾向が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の熱硬化型バインダー組成物は、ホルムアルデヒドを含む原料を使用せずとも良好なバインダー性能を発揮し得る。また、金属を腐食しにくい。
【0076】
本発明の熱硬化型バインダー組成物は、無機繊維製品の製造用として有用である。ただし本発明のバインダー組成物の用途はこれに限定されるものではなく、従来、フェノール樹脂系バインダー等の熱硬化型バインダーが使用されている各種用途に使用できる。例えば鋳造用、摩擦材用、砥石用、ろ紙用、成形材料用、合板加工用、化粧板用、積層板用等が挙げられる。
図1
図2