(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】捨石構造物及びその築造方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/12 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
E02B3/12
(21)【出願番号】P 2020037822
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】神田 泰成
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131891(JP,A)
【文献】特開昭49-001035(JP,A)
【文献】特開2004-176436(JP,A)
【文献】特開平11-247154(JP,A)
【文献】特開昭49-023426(JP,A)
【文献】特開昭64-039408(JP,A)
【文献】特開2007-016444(JP,A)
【文献】特開2017-178253(JP,A)
【文献】特開2016-084630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捨石護岸または捨石堤の延設方向に沿って備えられる、多数の捨石を積層してなる捨石構造物であって、
該捨石構造物は、その岸沖方向に沿う完成断面構造において、
その外形が全体として略台形状を呈しており、
予め算出した、前記捨石構造物に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値より深い位置に、捨石を多数積層して岸沖方向に沿って延びる基礎部と、
該基礎部上であって、岸沖方向に沿う略中央の一範囲に捨石を多数積層してなるコア部と、
該コア部をその天端から沖側法面及び岸側法面に沿って覆い被せる網体と、
該網体を含む前記コア部の周りに捨石を多数積層してなる一対の周辺部と、
を備え、
前記網体は、水の通過は許容しつつ捨石の通過は規制するように構成されていることを特徴とする捨石構造物。
【請求項2】
前記水深の閾値は、入射波の有義波高(m)に0.8~1.5の範囲内の所定値を掛けたものであることを特徴とする請求項
1に記載の捨石構造物。
【請求項3】
前記網体の岸沖方向両端部をその位置に拘束するための、網状の籠内に多数の捨石を詰め込んだ蛇籠を備えることを特徴とする請求項1
または2に記載の捨石構造物。
【請求項4】
捨石護岸または捨石堤の延設方向に沿って備えられる、多数の捨石を積層してなる捨石構造物の築造方法であって、
岸沖方向に沿う完成断面構造において、
予め算出した、前記捨石構造物に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値よりも深い位置に、捨石を多数積層して岸沖方向に沿って延びる基礎部を築造する基礎部築造ステップと、
前記基礎部上であって、岸沖方向に沿う一範囲に捨石を多数積層してなるコア部を築造するコア部築造ステップと、
前記コア部の天端から岸側の面及び沖側の面に沿って、水の通過は許容しつつ捨石の通過は規制する網体を覆い被せる網体被覆ステップと、
前記網体を含むコア部の周りに捨石を多数積層してなる周辺部を築造して、岸沖方向に沿う完成断面構造を完成させる完成築造ステップと、
を含むことを特徴とする捨石構造物の築造方法。
【請求項5】
前記網体被覆ステップと前記完成築造ステップとの間に、
前記網体の岸沖方向両端部を、網状の籠内に多数の捨石を詰め込んだ蛇籠によりその位置にそれぞれ拘束する網体拘束ステップを備えることを特徴とする請求項
4に記載の捨石構造物の築造方法。
【請求項6】
前記網体拘束ステップにおいて、前記蛇籠の上面が前記水深の閾値と略一致する位置、またはそれよりも深い位置に配置され、当該水深の閾値は、入射波の有義波高(m)に0.8~1.5の範囲内の所定値を掛けたものであることを特徴とする請求項
5に記載の捨石構造物の築造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、捨石護岸または捨石堤の延設方向に沿って備えられた、捨石を積層してなる捨石構造物及びその築造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海域あるいは水域に建設される埋立地(人工島)の外郭をなす護岸は、その構造形式から捨石式、セル式、矢板式、ケーソン式などの重量式があり、施工条件に応じて選択し、組み合わせて施工される。また、港湾や漁港などに建設される防波堤にも、捨石式の傾斜堤に代表される捨石堤、ケーソン式の直立堤、捨石マウンド上にケーソンが立設される混成堤などがあり、種々の条件に応じてその構造が選択される。
【0003】
そこで、
図1に示すように、捨石式の護岸(以下、捨石護岸と称す)100は、概略、所定水域の底面上に、砂を敷設してなる敷砂層101が設けられ、該敷砂層101上に砂を盛ってなる盛砂層102が設けられる。また、該盛砂層102上に多数の捨石(例えば、重量10~200kg/個)を投入して積層してなる断面略台形状の捨石構造物103が上下方向に沿って2段設けられ、上側の捨石構造物103の沖側法面に、多数の被覆石(例えば、重量400~600kg/個)が当該法面を覆うように配置される被覆石部位104が設けられる。さらに、当該被覆石部位104の沖側法面には、多数の消波ブロックが当該部位104を覆うように配置される消波ブロック部位105が設けられ、下側の捨石構造物103の岸側法面から岸側には向かって盛砂層102が設けられ、上側の捨石構造物103の上端面に上部ブロック(上部コンクリートの打設含む)106が配置されて、捨石護岸100が築造される。そして、捨石護岸100の内側には土砂が投入、積層されて陸地が造成される。
【0004】
また、
図2に示すように、捨石堤200は、概略、所定水域の底面上に多数の捨石を投入して積層してなる断面略台形状の捨石構造物103が設けられ、捨石構造物103の沖側法面及び岸側法面から底面に至る範囲に、多数の被覆石が当該範囲を覆うように配置される被覆石部位104が設けられる。また、当該各被覆石部位104上には、多数の消波ブロックが当該部位104を覆うように配置される消波ブロック部位105が設けられ、捨石構造物103の上端面にコンクリートが打設される上部コンクリート打設部位107が設けられて、捨石堤200が築造される。
【0005】
しかしながら、上述したような、完成した捨石護岸100または捨石堤200においては、所要の設計波に対してその安定性が確保されているのに対して、被覆石(被覆石部位104)や消波ブロック(消波ブロック部位105)が設置される前段階における捨石構造物103(
図1の捨石護岸100においては上側の捨石構造物103)の施工中に、高波浪が来襲すると、捨石は重量が小さいために波力により飛散してしまい、捨石の散乱、流失により捨石構造物103の断面形状が変形するといった被災が発生してしまう。
【0006】
このような被災を防ぎ、捨石護岸100や捨石堤200の施工中における、捨石構造物103の安定性を確保するために、従来においては、台風等の接近が予測された場合等、特に、通常の捨石より重量の大きな石材、例えば被覆石、あるいは網状の袋材に捨石を詰めたものにより暫定的に捨石構造物103の表面を被覆する対策を講じるか、あるいはワイヤーまたはチェーン製の網体によって捨石構造物103の表面を覆うなどの対策が取られてきたが、いずれもその効果は限定的であり、根本的な解決に至っていない。
【0007】
そこで、特許文献1には、方形体状の鋼製籠内に所要塊の捨石を充填して法止用捨石籠体を形成せしめ、該捨石籠体を順次海底原地盤上に所要の法面勾配をもって積重せしめつつ、該積重捨石籠体の背後に順次捨石材を投入充填せしめて法面堤体状に構築せしめる護岸用捨石堤の構築方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の護岸用捨石堤の構築方法においても、施工中に、高波浪が来襲すると、捨石籠体の背後に積層された捨石材が飛散して、捨石籠体を超えるようにして流失してしまい、上述した問題を解決することはできない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高波浪が来襲しても、安定性を確保しつつ、岸沖方向に沿う断面形状の変形を抑制することができる捨石構造物及びその築造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した捨石構造物の発明は、捨石護岸または捨石堤の延設方向に沿って備えられる、多数の捨石を積層してなる捨石構造物であって、該捨石構造物は、その岸沖方向に沿う完成断面構造において、その外形が全体として略台形状を呈しており、予め算出した、前記捨石構造物に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値より深い位置に、捨石を多数積層して岸沖方向に沿って延びる基礎部と、該基礎部上であって、岸沖方向に沿う略中央の一範囲に捨石を多数積層してなるコア部と、該コア部をその天端から沖側法面及び岸側法面に沿って覆い被せる網体と、該網体を含む前記コア部の周りに捨石を多数積層してなる一対の周辺部と、を備え、前記網体は、水の通過は許容しつつ捨石の通過は規制するように構成されていることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、捨石護岸や捨石堤の施工中、捨石構造物に高波浪が来襲しても、網体により、コア部が保持されているために、波による、コア部における積層された多数の捨石の散乱、流失を抑制することができ、ひいては、捨石構造物の岸沖方向に沿う断面形状の変形を抑制することができる。
また、予め算出した、捨石構造物に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値より深い位置に、捨石を多数積層して岸沖方向に沿って延びる基礎部を備えているので、確実に、網体により、コア部における、波による積層された多数の捨石の散乱、流失が予測される部位を保持することができる。その結果、コア部における、波による積層された多数の捨石の散乱、流失を抑制することができる。
【0013】
請求項2に記載した捨石構造物の発明は、請求項1に記載した発明において、前記水深の閾値は、入射波の有義波高(m)に0.8~1.5の範囲内の所定値を掛けたものであることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、予め、捨石構造物に対して波の影響を受ける水深の閾値を算出することができ、コア部において網体を被せる範囲を容易に特定することができる。
【0014】
請求項3に記載した捨石構造物の発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記網体の岸沖方向両端部をその位置に拘束するための、網状の籠内に多数の捨石を詰め込んだ蛇籠を備えることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、網体の位置ズレを確実に抑制することができ、ひいては確実に網体によりコア部を保持することができる。
【0015】
請求項4に記載した捨石構造物の築造方法に係る発明は、捨石護岸または捨石堤の延設方向に沿って備えられる、多数の捨石を積層してなる捨石構造物の築造方法であって、岸沖方向に沿う完成断面構造において、予め算出した、前記捨石構造物に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値よりも深い位置に、捨石を多数積層して岸沖方向に沿って延びる基礎部を築造する基礎部築造ステップと、前記基礎部上であって、岸沖方向に沿う一範囲に捨石を多数積層してなるコア部を築造するコア部築造ステップと、前記コア部の天端から岸側の面及び沖側の面に沿って、水の通過は許容しつつ捨石の通過は規制する網体を覆い被せる網体被覆ステップと、前記網体を含むコア部の周りに捨石を多数積層してなる周辺部を築造して、岸沖方向に沿う完成断面構造を完成させる完成築造ステップと、を含むことを特徴とするものである。
請求項4の発明では、特に、コア部築造ステップの後に網体被覆ステップを行い、これ以降、網体によりコア部を保持できるので、捨石構造物の施工中に高波浪が来襲しても、コア部における、波による多数の捨石の散乱、流失を抑制することができ、捨石構造物の施工中、その岸沖方向に沿う断面形状の変形を抑制することができる。
【0016】
請求項5に記載した捨石構造物の築造方法に係る発明は、請求項4に記載した発明において、前記網体被覆ステップと前記完成築造ステップとの間に、前記網体の岸沖方向両端部を、網状の籠内に多数の捨石を詰め込んだ蛇籠によりその位置にそれぞれ拘束する網体拘束ステップを備えることを特徴とするものである。
請求項5の発明では、網体拘束ステップにより網体の岸沖方向両端部をその位置に拘束することができるので、確実に網体によりコア部を保持することができる。
【0017】
請求項6に記載した捨石構造物の築造方法に係る発明は、請求項5に記載した発明において、前記網体拘束ステップにおいて、前記蛇籠の上面が前記水深の閾値と略一致する位置、またはそれよりも深い位置に配置され、当該水深の閾値は、入射波の有義波高(m)に0.8~1.5の範囲内の所定値を掛けたものであることを特徴とするものである。
請求項6の発明では、予め、捨石構造物に対して波の影響を受ける水深の閾値を算出することができ、網体を被せる範囲を容易に特定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る捨石構造物では、捨石護岸または捨石堤の施工中、捨石構造物に高波浪が来襲しても、捨石構造物の安定性を確保しつつ、捨石の散乱、流失を抑制することができ、ひいては、捨石構造物の岸沖方向に沿う断面形状の変形を抑制することができる。
また、本発明に係る捨石構造物の築造方法では、捨石構造物の施工中、その安定性を確保することができるので、捨石構造物の作業性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る捨石構造物が採用される捨石護岸の岸沖方向に沿う概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る捨石構造物が採用される捨石堤の岸沖方向に沿う概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る捨石構造物の岸沖方向に沿う断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る捨石構造物に採用される網体の斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る捨石構造物に採用される蛇籠の斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る捨石構造物を築造する築造方法を段階的に示す、捨石構造物の岸沖方向に沿う断面図である。
【
図7】
図7は、
図6から引き続き、本発明の実施形態に係る捨石構造物を築造する築造方法を段階的に示す、捨石構造物の岸沖方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図7に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る捨石構造物1は、
図1及び
図2に示すように、特に、捨石護岸100または捨石堤200に適用される。本実施形態では、捨石護岸100に採用された捨石構造物1を説明する。捨石構造物1は、所定水域に多数の捨石を投入して積層することで、岸沖方向断面略台形状(
図3参照)で捨石護岸100の延設方向に沿って築造される。なお、捨石構造物1は、粒径200~600mm/個程度であり、重量10~200kg/個程度の捨石が多数積層されて築造される。なお、ここで言及する岸沖方向は、捨石護岸100が延設される方向と直交する方向であり、波が捨石護岸100に向かって押し寄せる方向(波浪方向)と同じ方向である。
【0021】
本発明の実施形態に係る捨石構造物1は、
図3に示すように、岸沖方向に沿う完成断面構造10おいて、その外形が全体として略台形状を呈している。具体的には、本実施形態に係る捨石構造物1は、岸沖方向に沿う完成断面構造10であって、予め算出した、捨石構造物1に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値Hより深い位置に、捨石を多数積層して岸沖方向に沿って延びる基礎部3と、該基礎部3上であって、岸沖方向に沿う略中央の一範囲に捨石を多数積層してなるコア部4と、該コア部4をその天端から沖側法面及び岸側法面に沿って覆い被せる網体5と、該網体5を含むコア部4の周りに捨石を多数積層してなる一対の周辺部6、6と、を備えている。なお、
図3及び
図7に示す太線が網体5を示している。
【0022】
基礎部3は、略台形状を呈しており、岸沖方向に沿う完成断面構造10の底端に位置付けられる。基礎部3の岸側法面及び沖側法面は、完成断面構造10の岸側法面及び沖側法面にそれぞれ略一致している。基礎部3は、捨石構造物1に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値Hより深い位置に配置される。要するに、基礎部3の天端が水深の閾値Hよりも深い位置に配置され、言い換えれば、基礎部3の天端の水深H1が水深の閾値Hより大きくなる。この水深の閾値Hは、予め算出されるものであって、入射波の有義波高(m)に0.8~1.5の範囲内、好ましくは、1.0~1.5の範囲内の所定値を掛けたものである。本実施形態では、この水深の閾値Hは、入射波の有義波高(m)に1.2を掛けて算出したものである。
【0023】
図3に示すように、コア部4は、基礎部3上であって、岸沖方向に沿う略中央の一範囲に築造される。コア部4は、略台形状を呈している。コア部4の天端は完成断面構造10の天端に略一致している。
図6も参照して、コア部4の天端幅W1は、完成断面構造10の天端幅Wよりも幅狭である。コア部4の岸側法面及び沖側法面の各勾配は、完成断面構造10の岸側法面及び沖側法面の各勾配とそれぞれ略一致している。コア部4には、その天端から岸側法面及び沖側法面に沿って網体5が覆い被さるように配置されている。
【0024】
図4も参照して、網体5(ネット)は、水の通過は許容しつつ捨石の通過は規制するように構成されている。網体5は、可撓性を有するものである。網体5に設けられた多数の開口部5aは、捨石が通過できない程度の大きさに設定される。例えば、捨石構造物1に採用される捨石が粒径200~600mm/個の場合、網体5の各開口部5aは、粒径200mmの捨石が通過できない程度の大きさに設定される。網体5は、金属、化学繊維や合成樹脂等で構成されており、所望の強度を有していれば、その材質について限定されることはない。
【0025】
網体5の岸沖方向両端部5b、5bは、捨石構造物1に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値Hより深い位置に配置されている。網体5の岸沖方向両端部5b、5bは、基礎部3の岸側端部及び沖側端部の天端上にそれぞれ配置される。網体5の岸沖方向両端部5b、5bは、基礎部3の岸側端部及び沖側端部の天端上に各蛇籠12によりそれぞれ拘束されている。
図5を参照して、蛇籠12は、籠内に多数の捨石を詰め込んだものである。籠は網状であって、金属、化学繊維や合成樹脂等で構成されており、所望の強度を有していれば、その材質について限定されることはない。
【0026】
基礎部3上であって、網体5を含むコア部4の周り、すなわち、コア部4の岸側法面及び沖側法面に沿って一対の周辺部6、6が築造される。周辺部6は略平行四辺形を呈している。岸側の周辺部6において、その岸側傾斜面が完成断面構造10の岸側法面に略一致する。一方、沖側の周辺部6において、その沖側傾斜面が完成断面構造10の沖側法面に略一致する。また、一対の周辺部6、6の天端が、コア部4の天端、すなわち完成断面構造10の天端にそれぞれ略一致する。そして、これら基礎部3、コア部4、網体5及び一対の周辺部6、6により、岸沖方向に沿う完成断面構造10が確立される。なお、岸沖方向に沿う捨石構造物1の完成断面構造10では、その天端の岸沖方向略中央部の一部位に網体5が露出する状態となる。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る捨石構造物1の築造方法を
図6及び
図7に基づいて説明する。
図6(a)には、捨石構造物1の岸沖方向に沿う完成断面構造10の外形形状(略台形状)が2点鎖線で示されている。そして、まず、岸沖方向に沿う完成断面構造10において、基礎部築造ステップを実施する。該基礎部築造ステップでは、
図6(b)に示すように、所定水域の底面に、捨石構造物1の岸沖方向に沿う完成断面構造10の底端を成すように、多数の捨石を投入して積層して、岸沖方向に延びる基礎部3を築造する。基礎部3は、捨石構造物1に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値Hより深い位置に築造される。基礎部3は、上述したように略台形状を呈している。また、基礎部3の岸側法面及び沖側法面を、完成断面構造10の岸側法面及び沖側法面にそれぞれ略一致させる。なお、本実施形態では、基礎部3の天端の水深H1は、水深の閾値Hに蛇籠12(
図7(b)参照)の高さ相当分を加えた水深となる。
【0028】
次に、コア部築造ステップを実施する。該コア部築造ステップでは、
図6(c)に示すように、基礎部3上であって、岸沖方向に沿って略中央の一範囲に捨石を多数積層してなるコア部4を築造する。このとき、コア部4は、上述したように、略台形状を呈し、その天端を完成断面構造10の天端と略一致させる。また、コア部4の岸側法面及び沖側法面の各勾配を、完成断面構造10の岸側法面及び沖側法面の各勾配にそれぞれ略一致させる。
【0029】
次に、網体被覆ステップを実施する。該網体被覆ステップでは、
図7(d)に示すように、コア部4の天端から岸側法面及び沖側法面に沿って網体5を覆い被せる。網体5の岸沖方向両端部5b、5bを、基礎部3の岸側端部及び沖側端部の天端上にそれぞれ配置する。網体5は、上述したように、水の通過は許容しつつ捨石の通過は規制するように構成されている。
【0030】
次に、網体拘束ステップを実施する。該網体拘束ステップでは、
図7(e)に示すように、網体5の岸沖方向両端部5b、5b上に、網状の籠内に多数の捨石を詰め込んだ蛇籠12をそれぞれ載せて拘束する。このとき、本実施形態では、各蛇籠12の上面が、水深の閾値Hと略一致する位置に配置されている。なお、各蛇籠12の上面が、水深の閾値Hよりも深い位置に配置されてもよい。
【0031】
次に、完成築造ステップを実施する。該完成築造ステップでは、
図7(f)に示すように、網体5を含むコア部4の周りに捨石を多数積層してなる一対の周辺部6、6を築造して、岸沖方向に沿う完成断面構造10として完成させる。すなわち、完成築造ステップでは、基礎部3上であって、網体5を含むコア部4の周り、すなわち網体5を含むコア部4の岸側法面及び沖側法面に沿って一対の周辺部6、6をそれぞれ築造する。このとき、岸側の周辺部6の岸側傾斜面を完成断面構造10の岸側法面に略一致させると共に、沖側の周辺部6の沖側傾斜面を完成断面構造10の沖側法面に略一致させる。また、一対の周辺部6、6の天端を、コア部4の天端、すなわち完成断面構造10の天端にそれぞれ略一致させる。これにより、本発明の実施形態に係る捨石構造物1が完成される。
【0032】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る捨石構造物1では、その岸沖方向に沿う完成断面構造10において、その岸沖方向内側に設けられた、多数の捨石を積層して岸沖方向に沿って築造されるコア部4をその天端から岸側法面及び沖側法面に沿って覆い被せるように配置される網体5を備えており、該網体5は、水の通過は許容しつつ捨石の通過は規制するように構成されている。
これにより、捨石護岸100の施工中、捨石構造物1に高波浪が来襲しても、網体5により、コア部4が保持されているために、波による、コア部4の積層された多数の捨石の散乱、流失を抑制することができる。その結果、被覆石(
図1の被覆石部位104)や消波ブロック(
図1の消波ブロック部位105)が設置される前段階における、捨石構造物1の岸沖方向に沿う断面形状の変形を抑制することができる。要するに、捨石護岸100の施工中、捨石構造物1に高波浪が来襲しても、安定性を確保しつつ、岸沖方向に沿う断面形状の変形を抑制することができる。
【0033】
また、本発明の実施形態に係る捨石構造物1では、網体5の岸沖方向両端部5b、5bは、予め算出した、捨石構造物1に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値Hよりも深い位置に配置される。これにより、確実に、網体5により、コア部4の、波による積層された多数の捨石の散乱、流失が予測される部位を保持することができる。
【0034】
さらに、本発明の実施形態に係る捨石構造物1では、水深の閾値Hは、入射波の有義波高(m)に0.8~1.5の範囲内の所定値を掛けたものである。これにより、コア部4における、網体5を被せる範囲を容易に特定することができる。
【0035】
さらにまた、本発明の実施形態に係る捨石構造物1では、網体5の岸沖方向両端部5b、5bをその位置に拘束するための、網状の籠内に多数の捨石を詰め込んだ蛇籠12を備えている。これにより、網体5の位置ズレを確実に抑制することができる。その結果、確実に網体5によりコア部4を保持することができる。
【0036】
さらにまた、本発明の実施形態に係る捨石構造物の築造方法では、特に、コア部築造ステップの後に網体被覆ステップを行い、これ以降、網体5によりコア部4を保持することができる。その結果、捨石構造物1の施工中に高波浪が来襲しても、コア部4における、波による多数の捨石の散乱、流失を抑制することができる。これにより、捨石構造物1の施工中、その岸沖方向に沿う断面形状の変形を抑制することができ、捨石構造物の作業性が良好となる。
【0037】
なお、本実施形態に係る捨石構造物1では、網体5の岸沖方向両端部5b、5bを、基礎部3の岸側端部及び沖側端部の天端上に各蛇籠12によりそれぞれ拘束しており最良の形態であるが、網体5の岸沖方向両端部5b、5bを各蛇籠12ではなく、その上に多数の捨石を積層することでその位置に拘束してもよい。また、網体5の岸側の端部5bをその上に多数の捨石を積層することでその位置に拘束して、網体5の沖側の端部5bをその上に蛇籠12を載せることでその位置に拘束してもよい。これは、網体5の岸沖方向両端部5b、5bが、捨石構造物1に対して波からの影響が小さくなる水深の閾値Hより深い位置に配置されているので、この岸沖方向両端部5b、5bを多数の捨石により拘束しても、これらの捨石が散乱、流失することはほとんどなく、網体5の岸沖方向両端部5b、5bを十分に拘束することが可能であると考慮されるからである。
【0038】
また、本実施形態に係る捨石構造物1では、網体5の岸沖方向両端部5bを拘束するために蛇籠12を採用しているが、いわゆるフィルターユニットと称するものを採用してもよい。具体的に、フィルターユニットは、柔軟性を有する網状の袋体内に多数の捨石を詰め込んだものであり、蛇籠12と略同じ構成で同じ作用を奏することができる。さらに、本実施形態に係る捨石構造物1では、コア部4を、基礎部3上であって、岸沖方向に沿う略中央の一範囲に築造しているが、岸側または沖側に偏った位置に築造してもよい。
【0039】
さらにまた、本実施形態に係る捨石構造物1では、コア部4をその天端から岸側法面及び沖側法面に沿って網体5により覆い被せるように構成しているが、例えば、コア部4を上下方向に複数層、例えば、コア部第1層、コア部第2層、コア部第3層に分けて、上下に隣接するコア部層間、すなわち、コア部第1層とコア部第2層との間、コア部第2層とコア部第3層との間に網体5をそれぞれ介在させるように被せ、そのうえで、本実施形態のように、コア部4全体を網体5にて覆い被せるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 捨石構造物,3 基礎部,4 コア部,5 網体,5b 端部,6 周辺部,10完成断面構造,12 蛇籠,100 捨石護岸,200 捨石堤