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特許7368286シートクッション及びシートクッションを備える車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】シートクッション及びシートクッションを備える車両
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/68 20060101AFI20231017BHJP
   B60N 2/28 20060101ALI20231017BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20231017BHJP
【FI】
B60N2/68
B60N2/28
B60N2/90
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020047828
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021146846
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】桂川 博行
(72)【発明者】
【氏名】多治見 大樹
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172433(JP,A)
【文献】実開平5-18964(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0232877(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡材製のパッドを有するとともに、前記パッド内に配置されて前記パッドを補強する補強部材を有し、車両のフロアに取り付けられるシートクッション体と、
前記補強部材に一体に形成され、前記車両の前後方向における前記シートクッション体の後端から枠状に突出する突出部と、を有し、
前記突出部の内側に前記車両が備える掛止部が挿入されるシートクッションであって、
前記パッドの後端から前記突出部の枠内に向けて前記発泡材が注入されることによって前記パッドと一体成形され、前記発泡材によって前記突出部の枠内が埋められることで前記パッドの後端から前記突出部に沿って板状に突出し、かつ前記突出部が骨格として埋設される状態に前記突出部を覆う被覆部を有し、
前記被覆部は、当該被覆部における前記突出部の枠内に位置する部分に当該突出部の板厚方向に貫通する切り目を有し、
前記切り目は、前記突出部の突出方向に延びる第1スリットと、前記第1スリットの一方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第2スリットと、前記第1スリットの他方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第3スリットを有し、
前記第1スリットにおいて、前記左右方向に対向する縁同士の距離を前記第1スリットの開口幅とすると、前記第1スリットの開口幅は、前記掛止部の板厚よりも小さいことを特徴とするシートクッション。
【請求項2】
前記切り目は、前記突出部の枠内に予め設定された前記掛止部の挿入位置を含む位置に設けられる請求項1に記載のシートクッション。
【請求項3】
発泡材製のパッドを有するとともに、前記パッド内に配置されて前記パッドを補強する補強部材を有するシートクッション体と、
前記補強部材に一体に形成され、前記シートクッション体の後端から枠状に突出する突出部と、を有し、
前記シートクッション体がフロアに取り付けられるとともに、前記突出部の内側に掛止部が挿入されるシートクッションを備える車両であって、
前記シートクッションは、前記パッドの後端から前記突出部の枠内に向けて前記発泡材が注入されることによって前記パッドと一体成形される被覆部を有し、前記被覆部は、前記発泡材によって前記突出部の枠内が埋められることで前記パッドの後端から前記突出部に沿って板状に突出し、かつ前記突出部が骨格として埋設される状態に前記突出部を覆い、前記被覆部における前記突出部の枠内に位置する部分に当該突出部の板厚方向に貫通する切り目を有し、
前記切り目は、前記突出部の突出方向に延びる第1スリットと、前記第1スリットの一方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第2スリットと、前記第1スリットの他方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第3スリットを有し、
前記第1スリットにおいて、前記左右方向に対向する縁同士の距離を前記第1スリットの開口幅とすると、前記第1スリットの開口幅は、前記掛止部の板厚よりも小さいことを特徴とするシートクッションを備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッション体と、シートクッション体から枠状に突出する突出部と、を有するシートクッション、及びシートクッションを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両としての自動車が備えるシートとしては、フロアに移動規制された状態で取り付けられるタイプのものがあり、例えば、リアシートが挙げられる。リアシートは、シートクッションと、シートバックを備える。シートクッションは、座部を形成する発泡材製のパッドと、パッド内に配置されてパッドを補強する補強部材を有する。また、シートクッションにおける車両前後方向の前部は、例えばフックによってフロアに対して移動規制された状態に取り付けられる。また、シートクッションは、車両前後方向におけるパッドの後端から突出する突出部を備える。この突出部に、車両が備える掛止部が掛止することで、例えば車両衝突時のリアシートの相対移動が規制されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1の車両用シートにおいて、シートクッションは、シートクッションを構成するパッド部材と、パッド部材の後端から略U状に突出する付属部材と、を有する。付属部材は、パッド部材から略U状に突出する突出部位と、パッド部材に埋設される埋設部位とを有する。突出部位には、パッド部材と同材質の樹脂層からなる緩衝部位が設けられ、緩衝部材は略U状である。
【0004】
そして、フロアに設けた取り付け部を付属部材の突出部位に対し係止可能に配置することで、例えば、車両衝突時において、突出部位に対する取り付け部の係止によって、リアシートの相対移動が規制されるようになっている。また、緩衝部位により、突出部位に対する取り付け部の接触が原因の異音の発生を抑制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6079247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1において、樹脂製の緩衝部位では、その成形時に欠肉が発生する場合がある。緩衝部位に欠肉が発生すると、欠肉した部分から突出部位が露出することになり、露出した突出部位に取り付け部が接触すると異音が発生してしまう。このため、緩衝部位に欠肉が発生した場合は、欠肉した部分に補修テープを貼るなどの補修作業が必要であった。
【0007】
本発明の目的は、欠肉した部分の補修作業を減らすことができるシートクッション及びシートクッションを備える車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するためのシートクッションは、発泡材製のパッドを有するとともに、前記パッド内に配置されて前記パッドを補強する補強部材を有し、車両のフロアに取り付けられるシートクッション体と、前記補強部材に一体に形成され、前記車両の前後方向における前記シートクッション体の後端から枠状に突出する突出部と、を有し、前記突出部の内側に前記車両が備える掛止部が挿入されるシートクッションであって、前記パッドの後端から前記突出部の枠内に向けて前記発泡材が注入されることによって前記パッドと一体成形され、前記発泡材によって前記突出部の枠内が埋められることで前記パッドの後端から前記突出部に沿って板状に突出し、かつ前記突出部が骨格として埋設される状態に前記突出部を覆う被覆部を有し、前記被覆部は、当該被覆部における前記突出部の枠内に位置する部分に当該突出部の板厚方向に貫通する切り目を有し、前記切り目は、前記突出部の突出方向に延びる第1スリットと、前記第1スリットの一方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第2スリットと、前記第1スリットの他方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第3スリットを有し、前記第1スリットにおいて、前記左右方向に対向する縁同士の距離を前記第1スリットの開口幅とすると、前記第1スリットの開口幅は、前記掛止部の板厚よりも小さいことを要旨とする。
【0009】
これによれば、例えば、突出部に沿って被覆部が形成され、被覆部が突出部に倣う枠状である場合を比較例とする。比較例と比べると、板状の被覆部の方が、発泡材の成形が行い易く、被覆部に欠肉が発生することを抑制でき、欠肉した部分の補修作業を減らすことができる。そして、被覆部には切れ目が設けられている。このため、突出部の枠内に掛止部を挿入するとき、切り目に沿って被覆部が撓む。その結果、突出部の枠内への掛止部の挿入が行いやすくなる。
【0010】
また、シートクッションについて、前記切り目は、前記突出部の枠内に予め設定された前記掛止部の挿入位置を含む位置に設けられていてもよい。
これによれば、突出部の枠内に掛止部を挿入する際、掛止部は挿入位置を目標として挿入される場合が多い。このため、突出部の枠内に向けて掛止部が挿入されたとき、掛止部を切れ目に挿入しやすく、被覆部における切れ目に沿う縁に掛止部を当てやすくなる。その結果、切り目に掛止部が挿入されたとき、被覆部が撓みやすくなり、被覆部への掛止部の挿入がより一層行いやすくなる。
【0014】
上記問題点を解決するためのシートクッションを備える車両は、発泡材製のパッドを有するとともに、前記パッド内に配置されて前記パッドを補強する補強部材を有するシートクッション体と、前記補強部材に一体に形成され、前記シートクッション体の後端から枠状に突出する突出部と、を有し、前記シートクッション体がフロアに取り付けられるとともに、前記突出部の内側に掛止部が挿入されるシートクッションを備える車両であって、前記シートクッションは、前記パッドの後端から前記突出部の枠内に向けて前記発泡材が注入されることによって前記パッドと一体成形される被覆部を有し、前記被覆部は、前記発泡材によって前記突出部の枠内が埋められることで前記パッドの後端から前記突出部に沿って板状に突出し、かつ前記突出部が骨格として埋設される状態に前記突出部を覆い、前記被覆部における前記突出部の枠内に位置する部分に当該突出部の板厚方向に貫通する切り目を有し、前記切り目は、前記突出部の突出方向に延びる第1スリットと、前記第1スリットの一方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第2スリットと、前記第1スリットの他方の端部に繋がり、前記被覆部を上側から見た平面視において左右方向に延びる第3スリットを有し、前記第1スリットにおいて、前記左右方向に対向する縁同士の距離を前記第1スリットの開口幅とすると、前記第1スリットの開口幅は、前記掛止部の板厚よりも小さいことを要旨とする。
【0015】
これによれば、例えば、突出部に沿って被覆部が形成され、被覆部が枠状である場合を比較例とする。比較例と比べると、板状の被覆部の方が、発泡材の成形が行い易く、被覆部に欠肉が発生することを抑制でき、欠肉した部分の補修作業を減らすことができる。そして、被覆部には切れ目が設けられている。このため、突出部の枠内に掛止部を挿入するとき、切り目に沿って被覆部が撓む。その結果、突出部の枠内への掛止部の挿入が行いやすくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、欠肉した部分の補修作業を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の自動車のリアシートを示す側面図。
図2】リアシートを示す斜視図。
図3】アンカ設置部材を示す斜視図。
図4】シートクッションを示す平面図。
図5】シートクッションを示す断面図。
図6】補強部材及びワイヤ部を示す斜視図。
図7】掛止部が突出部の枠内に挿入された状態を示す図。
図8】被覆部を示す斜視図。
図9】被覆部成形部を示す模式図。
図10】比較例の被覆部を示す斜視図。
図11】別例の被覆部を示す斜視図。
図12】別例の被覆部を示す斜視図。
図13】別例の被覆部を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、シートクッション及びシートクッションを備える車両を具体化した一実施形態を図1図10にしたがって説明する。
なお、以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」とは、車両としての自動車の運転者が前方(前進方向)を向いた状態を基準とした場合の「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」のことをいう。
【0021】
図1に示すように、自動車は、フロア11と、フロア11に設置された図示しない左右一対の一列目のフロントシートと、フロア11に取り付けられる2列目のリアシート20と、フロア11の後端部に設置されたリアフロア12と、を備える。フロア11には、フロントシート及びリアシート20が設置される。自動車は、フロア11よりも後側にリアフロア12に向けて立ち上がる段差部13を備える。
【0022】
図2に示すように、リアシート20は、座部を含むシートクッション21と、背もたれを構成するシートバック22と、シートバック22の上端に着脱可能なヘッドレスト39とを備える。リアシート20は、シートクッション21が有するシートクッション体31の後端と、シートバック22の下端とが図示しないアームを介して回動可能に連結されている。リアシート20は、シートバック22を前傾又は後傾させずに背もたれとして機能させる着座位置と、シートバック22を前傾させた位置とを取り得る。よって、シートバック22は、シートクッション体31に対して傾動可能である。
【0023】
リアシート20は、シートバック22の下端の左右両側に凹部22aを備える。シートバック22の凹部22aとシートクッション体31の後端との間には、挿通口20aが区画され、各挿通口20aには、後述のアンカ部27が挿通されている。
【0024】
図1又は図3に示すように、フロア11のフロア面11aには、左右両側にアンカ設置部材24が設置されている。アンカ設置部材24は、一対の保持部材25と、一対の保持部材25に架設されたバー26と、バー26に連結された位置決め部材29と、を有する。アンカ設置部材24の一対の保持部材25は、それぞれ樹脂製である。アンカ設置部材24において、一対の保持部材25は左右方向に離間してフロア11に締結されている。
【0025】
バー26は、金属の丸棒を、所望する形状に成形して形成されている。バー26は、長手方向の両端部にアンカ部27を備えるとともに、一対のアンカ部27を繋ぐように左右方向へ直線状に延びる連結部28を備える。各アンカ部27は、アンカ設置部材24を上側から見た平面視で略U状である。一対のアンカ部27のうち、一方のアンカ部27は、一対の保持部材25のうちの一方の保持部材25に保持され、他方のアンカ部27は、他方の保持部材25に保持されている。そして、各アンカ部27の略U状に湾曲する部分がそれぞれ保持部材25の上端から突出している。
【0026】
連結部28は、一対の保持部材25に架け渡されている。連結部28は、フロア11のフロア面11aよりも上側に離れている。連結部28は、フロア11のフロア面11aよりも高い位置にある。各アンカ部27の略U状に湾曲する部分は、連結部28よりも前方及び上方に向けて突出している。
【0027】
位置決め部材29は、連結部28の下面に溶接される板状の取付片29aと、取付片29aからフロア11に向けて突出する掛止部29bと、を有する。掛止部29bは長四角板状である。上記したように、アンカ設置部材24は、フロア11に締結されている。このため、アンカ設置部材24の連結部28に溶接された位置決め部材29は、フロア11に固定されているといえ、掛止部29bは、車両に一体に設けられているといえる。
【0028】
各アンカ部27は、リアシート20の挿通口20aに挿通されている。リアシート20には、図1の2点鎖線に示すように、アンカ部27を用いてチャイルドシートCを取り付けることができるようになっている。
【0029】
図4又は図5に示すように、リアシート20のシートクッション21は、座部を構成するシートクッション体31を有する。また、シートクッション21は、シートクッション体31の後端から突出する枠状の突出部42と、シートクッション体31の後端から突出部42に沿って板状に突出し、突出部42が骨格として埋設される被覆部51と、を有する。
【0030】
シートクッション体31は、座部を構成するパッド32と、パッド32を覆うシートカバー36と、パッド32内に配置されてパッド32を補強する補強部材33と、を有する。パッド32は、パッド32の上側から見た平面視において、左右方向に長手が延びる略長方形状である。パッド32は、発泡材としてのポリウレタン、発泡ポリプロピレン等を用いて発泡成形することにより形成されている。
【0031】
パッド32は、パッド32前部の下端面から突出する係合部材35を備える。係合部材35は、パッド32の下面から下方へ突出する係合突部35aと、パッド32に埋設される抜止部35bとを有する。係合部材35は、抜止部35bがパッド32に埋設されることでパッド32から抜け出ない状態に一体化されている。
【0032】
補強部材33は、パッド32の外形に倣った略矩形の枠状部材である。補強部材33は、複数の金属ワイヤを溶接して形成されている。
図6に示すように、突出部42は、補強部材33に溶接されるワイヤ部41の一部である。つまり、突出部42は、補強部材33に一体に形成されている。ワイヤ部41は、金属ワイヤをU状に曲げるとともに、「U」の屈曲部付近を上方に向けて曲げて形成されている。ワイヤ部41は、パッド32の後端から略U状に突出する突出部42と、パッド32に埋設される部位で構成される埋設部43とを有する。突出部42は、パッド32の後端から後方に突出する第1部位42aと、第1部位42aから斜め上方に突出する第2部位42bとを有する。そして、パッド32の後端面と、突出部42とによって、上下方向に貫通する枠が画成されている。以下、パッド32の後端面からU状に突出した部分を突出部42の枠とする。
【0033】
図7に示すように、突出部42の枠内には、アンカ設置部材24に一体の掛止部29bが挿入される。突出部42の枠内に掛止部29bが挿入された状態で、リアシート20が前方へ移動したとき、掛止部29bに対し突出部42の第2部位42bが掛止するようになっている。そして、例えば、車両衝突時において、掛止部29bに対する突出部42の掛止によって、リアシート20の相対移動が規制されるようになっている。
【0034】
シートクッション21は、掛止部29bに対する突出部42の接触を原因とする異音の発生を抑制するため、突出部42を覆う被覆部51を備える。図5に示すように、被覆部51は、パッド32に一体成形されている。つまり、被覆部51は、パッド32を成形装置を用いて成形すると同時に一体成形される。そして、被覆部51には、ワイヤ部41の突出部42が埋設されている。つまり、突出部42は、被覆部51の骨格を構成している。被覆部51は、突出部42の第1部位42aに沿ってパッド32の後端から後方へ板状に突出するとともに、第2部位42bに沿って斜め上方に板状に突出する形状である。
【0035】
被覆部51の板厚は、突出部42を構成する金属ワイヤの直径より厚い。このため、突出部42は、上下左右の全ての方向から突出部42を覆っており、金属ワイヤを周方向の全体に亘って覆っている。また、被覆部51は、左右方向に対向する金属ワイヤ同士の間のほぼ全体を埋めているとともに、前後方向に対向するパッド32の後端と金属ワイヤとの間のほぼ全体を埋めている。したがって、被覆部51は、中実であるとも言える。
【0036】
図8に示すように、被覆部51は、被覆部51における突出部42で囲まれる部分、すなわち、突出部42の枠内に、被覆部51を板厚方向に貫通する切り目53を有する。切り目53は、上下方向に延びる第1スリット53aと、第1スリット53aの上端に繋がり、左右方向に延びる第2スリット53bと、第1スリット53aの下端に繋がり、左右方向に延びる第3スリット53cとから構成される。そして、被覆部51を上側から見た平面視では、切り目53は横H状である。なお、第1スリット53aにおいて、左右方向に対向する縁同士の距離を開口幅とすると、第1スリット53aの開口幅は、掛止部29bの板厚よりも小さい。同様に、第2スリット53b及び第3スリット53cにおいて、前後方向に対向する縁同士の距離を開口幅とすると、第2スリット53b及び第3スリット53cの開口幅は、掛止部29bの板厚よりも小さい。
【0037】
被覆部51に切り目53が設けられることにより、被覆部51には、第1スリット53aを境にして左右に分かれる一対の可撓片54が形成されている。一方の可撓片54は、被覆部51における第1スリット53aと、第1スリット53aよりも左側に位置する第2スリット53b及び第3スリット53cによって囲まれる部分によって四角板状に形成されている。他方の可撓片54は、第1スリット53aと、第1スリット53aよりも右側に位置する第2スリット53b及び第3スリット53cによって囲まれる部分によって四角板状に形成されている。各可撓片54は、第1スリット53aに沿う縁を先端とし、第2スリット53b及び第3スリット53cの先端寄りを基端とし、この基端を撓み中心として撓む。
【0038】
図7に示すように、掛止部29bを突出部42の枠内に挿入するとき、掛止部29bの先端が可撓片54の先端付近に接触する。このとき、各可撓片54は、掛止部29bの挿入方向に沿って撓み変形する。
【0039】
上記したように第1スリット53aの開口幅は、掛止部29bの板厚よりも小さい。このため、第1スリット53aに掛止部29bが挿入されると、両方の可撓片54の先端に掛止部29bが接触し、両方の可撓片54が撓み変形し、掛止部29bが被覆部51に挿入しやすくなる。突出部42の枠内への掛止部29bの挿入を容易とするため、被覆部51に対する掛止部29bの挿入位置は、設計上、予め設定されている。本実施形態では、切り目53の第1スリット53aが、設計上の掛止部29bの挿入位置に含まれるように切り目53が形成されている。
【0040】
上記したように、被覆部51は、パッド32を成形するのと同時にパッド32に一体成形される。図示しないが、パッド32及び被覆部51の成形装置は、第1型と、第2型とを有する。成形装置は、第1型及び第2型の間に画成されるキャビティを有する。成形装置は、パッド32を成形するパッド成形部と、被覆部51を成形する被覆部成形部とから構成されている。また、成形装置のキャビティは、パッド成形部の内側に画成されるパッド用キャビティと、被覆部成形部の内側に画成される被覆部用キャビティと、から構成され、パッド用キャビティと、被覆部用キャビティとは連通している。
【0041】
図9に、成形装置において被覆部51を成形する被覆部成形部61のみを図示する。被覆部成形部61は、第1型62と第2型63によって構成されるとともに、被覆部成形部61の内側には被覆部用キャビティ64が画成されている。第1型62は、被覆部用キャビティ64内に向けて突出する第1突部62aを備え、第2型63は、被覆部用キャビティ64内に向けて突出する第2突部63aを備える。第1型62と第2型63によって型閉めされた状態では、第1突部62aと第2突部63aが合致して、被覆部用キャビティ64内に切り目53に対応したH状のスリット形成部65が形成されるようになっている。
【0042】
また、被覆部用キャビティ64は、パッド用キャビティと連通するが、パッド用キャビティとの連通部が、被覆部用キャビティ64への材料の入口64aとなる。なお、材料とは、発泡前のポリウレタンや発泡ポリプロピレンのことである。被覆部用キャビティ64の入口64aは、被覆部成形部61における第1型62と第2型63が型閉めされて形成される。被覆部用キャビティ64の入口64aの開口面積は、被覆部51を板厚方向に切断した断面積と同じである。つまり、被覆部用キャビティ64の入口64aの形状は、被覆部51の断面形状と同じである。
【0043】
ここで、図10に、被覆部の比較例を示す。比較例の被覆部90は、ワイヤ部41の突出部42に沿うU状である。このため、比較例の被覆部90の内側には、実施形態の被覆部51の切り目53の開口幅よりも遙かに大きい空間Sが画成されている。このような比較例の被覆部90を被覆部成形部61で成形する場合、被覆部用キャビティ64内に配置された突出部42に沿って材料が注入されるように、被覆部用キャビティ64の入口90aは、図9の2点鎖線に示すように、突出部42を取り囲むように2箇所形成される。比較例の被覆部用キャビティ64の入口90aの開口面積は、比較例の被覆部90を板厚方向に切断した断面積と同じであり、実施形態の被覆部用キャビティ64の入口64aより小さい。このため、実施形態の被覆部用キャビティ64の入口64aは、比較例の被覆部用キャビティ64の入口90aに比べて広くなる。
【0044】
そして、シートクッション21を成形装置で製造する場合、成形装置のパッド成形部のパッド用キャビティ内に補強部材33が配置されるとともに、被覆部成形部61の被覆部用キャビティ64内にワイヤ部41の突出部42が配置されるように、型閉めする。そして、成形装置内に、発泡前の材料を注入し、パッド用キャビティに材料を充填するとともに、入口64aから被覆部用キャビティ64に材料を充填する。このとき、被覆部用キャビティ64の入口64aは、比較例と比べて広くなっているため、被覆部用キャビティ64に材料が充填されやすく、突出部42の周囲に材料が行き渡りやすい。
【0045】
その後、材料を発泡させることにより、パッド用キャビティ内において材料が発泡するとともに、補強部材33及びワイヤ部41の埋設部43が埋設されたパッド32が成形される。また、被覆部用キャビティ64内において材料が発泡するとともに、ワイヤ部41の突出部42が埋設された被覆部51が成形される。このとき、突出部42の周囲に材料が行き渡りやすいため、材料が発泡したときも、突出部42全体がポリウレタンフォームや発泡ポリプロピレンで覆われ、欠肉が発生しにくい。
【0046】
また、被覆部用キャビティ64内に形成されたスリット形成部65により、被覆部51に切り目53が形成される。その結果、シートクッション21が成形される。
図5に示すように、上記構成のリアシート20において、シートクッション体31は、シートカバー36で被覆された状態でフロア11に取り付けられている。シートクッション体31に一体の係合部材35の係合突部35aがフロア11に設けた係合凹部11bに係合している。係合突部35aと係合凹部11bとの係合により、シートクッション体31における車両前後方向の前部はフロア11に対して移動規制される。
【0047】
また、突出部42の枠内には、アンカ設置部材24に一体の位置決め部材29の掛止部29bが挿入されている。このため、例えば車両衝突時、掛止部29bに対する突出部42の掛止によって、リアシート20の相対移動が規制される。また、被覆部51により、掛止部29bに対する突出部42の直接接触が回避され、異音の発生が抑制される。
【0048】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)例えば、突出部42の金属ワイヤに沿って被覆部がU状に形成される比較例と比べると、板状の被覆部51の方が、材料の発泡による成形時に欠肉が発生することを抑制でき、欠肉した部分の補修作業を減らすことができる。
【0049】
(2)被覆部51を板状とすると、被覆部51を成形するための被覆部用キャビティ64への材料の入口64aは、突出部42の金属ワイヤに沿って被覆部がU状に形成される場合に比べると広くなる。このため、入口64aから被覆部用キャビティ64へ材料が充填されやすくなるとともに、発泡した材料も充填されやすく、欠肉の発生を抑制できる。
【0050】
(3)被覆部51には切り目53が設けられている。このため、突出部42の枠内に掛止部29bを挿入するとき、切り目53に沿って被覆部51を撓ませることができる。その結果、突出部42の枠内への掛止部29bの挿入が行いやすくなる。
【0051】
(4)切り目53の第1スリット53aは、突出部42の枠内に予め設定された掛止部29bの挿入位置を含む位置に設けられる。突出部42の枠内に掛止部29bを挿入する際、掛止部29bは挿入位置を目標として挿入される場合が多い。このため、掛止部29bを第1スリット53aに挿入しやすく、被覆部51における第1スリット53aに沿う、可撓片54の先端縁に掛止部29bを当てやすくなる。その結果、切り目53に掛止部29bが挿入されることで被覆部51が撓みやすくなり、被覆部51への掛止部29bの挿入がより一層行いやすくなる。
【0052】
(5)シートクッション体31の成形装置における被覆部成形部61は、スリット形成部65を備える。被覆部51を成形すると同時に、スリット形成部65により、被覆部51に切り目53を形成できる。例えば、切り目53の無い被覆部51を成形した後に、切り目53を形成する方法と比べると、後工程での切り目53の形成時に被覆部51が破れるなどの不具合が無くなる。
【0053】
(6)切り目53は、第1スリット53aと、第2スリット53bと、第3スリット53cとを組み合わせた略H状である。被覆部51には、切り目53によって囲まれる部分に可撓片54が形成される。このため、被覆部51に掛止部29bを押し当てたとき、可撓片54を基端側から撓ませることで、掛止部29bの挿入が行いやすい。
【0054】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
図11に示すように、被覆部51における突出部42の枠内に位置する部分には、被覆部51におけるその他の部分よりも板厚を薄くした溝52が設けられていてもよい。
【0055】
例えば、突出部42の金属ワイヤに沿って被覆部が形成され、被覆部が枠である場合を比較例とする。比較例と比べると、板状の被覆部51の方が欠肉が発生することを抑制でき、欠肉した部分の補修作業を減らすことができる。そして、被覆部51には薄肉な溝52が設けられている。このため、突出部42の枠内に掛止部29bを挿入するために被覆部51に掛止部29bが押し当てられたとき、溝52に沿って被覆部51が分断されるとともに、分断線に沿って被覆部51が撓む。その結果、突出部42の枠内への掛止部29bの挿入が行いやすくなる。
【0056】
図12に示すように、切り目53又は溝52は、被覆部51を上方から見た平面視T状であってもよい。例えば、T状の切り目53は、上下に延びる第1スリット53aと、第1スリット53aの上端に繋がって左右方向に延びる第2スリット53bと、から構成される。
【0057】
図13に示すように、切り目53又は溝52は、被覆部51を上方から見て一直線型であってもよい。例えば、一直線型の切り目53は、上下に延びるスリットから構成される。
【0058】
○ 切り目53又は溝52は、被覆部51を上方から見て斜めに延びる一直線型であってもよいし、X型であってもよい。要は、被覆部51に掛止部29bを当てたとき、被覆部51を撓ませて、掛止部29bの挿入を容易に行うことができるようになれば、溝52又は切り目53の形状は適宜変更してもよい。
【0059】
○ 被覆部51における溝52又は切り目53を形成する位置は、突出部42の枠内に予め設定された掛止部29bの挿入位置を含んでいなくてもよい。
○ シートクッション21を備えるシートは、フロア11に取り付けられる3列目のシートであってもよい。
【0060】
○ 突出部42の枠内に挿入される掛止部29bは、アンカ設置部材24以外に設けられていてもよい。例えば、車両に固定されたシートバック22の下端から突出していてもよいし、フロア11に締結された板状部材であってもよいし、段差部13から突出したフックであってもよい。
【0061】
○ 被覆部51の切り目53は、被覆部51の成形と同時に形成しなくてもよい。例えば、切り目53の無い被覆部51を成形した後に、被覆部51を切り込んで切り目53を形成してもよい。
【0062】
○ 突出部42が枠状であれば、突出部42の形状はU状以外でもよい。
○ 突出部42は、上下方向に貫通する枠を画成するが、左右方向に貫通する枠を画成するようにパッド32の後端から突出していてもよい。
【0063】
○ 車両は自動車以外にも産業車両や農業機械であってもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0064】
(1)前記切れ目は、上下に延びる第1スリットと、前記第1スリットの上端に繋がって左右方向に延びる第2スリットと、前記第1スリットの下端に繋がって左右方向に延びる第3スリットと、から構成される。
【0065】
(2)前記切れ目は、上下に延びる第1スリットと、前記第1スリットの上端に繋がって左右方向に延びる第2スリットと、から構成される。
(3)前記切れ目は、上下に延びるスリットから構成される。
【符号の説明】
【0066】
11…フロア、21…シートクッション、29b…掛止部、31…シートクッション体、32…パッド、33…補強部材、42…突出部、51…被覆部、52…溝、53…切り目。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13