(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20231017BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20231017BHJP
H01F 30/08 20060101ALI20231017BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20231017BHJP
H02J 50/70 20160101ALI20231017BHJP
【FI】
H02J50/12
H01F38/14
H01F30/08
H02J50/40
H02J50/70
(21)【出願番号】P 2020070329
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅史
(72)【発明者】
【氏名】八島 由樹
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-353050(JP,A)
【文献】特開2006-325350(JP,A)
【文献】特開2005-012991(JP,A)
【文献】特開2008-166625(JP,A)
【文献】国際公開第2012/101731(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/12
H01F 38/14
H01F 30/08
H02J 50/40
H02J 50/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コイルおよび第2コイルを含むコイルユニットと、
第1コンデンサおよび第1スイッチ回路を含み、前記第1コンデンサが前記第1コイルとともに第1共振回路を構成する1次側回路と、
第2コンデンサおよび第2スイッチ回路を含み、前記第2コンデンサが前記第2コイルとともに第2共振回路を構成する2次側回路と、
制御部と、を備え、
前記第1コイルおよび前記第2コイルは、一定距離で対面するように固定されており、
前記制御部は、前記コイルユニットが磁界共振により電力伝送を行うように、前記第1スイッチ回路および前記第2スイッチ回路を制御
し、
前記第1スイッチ回路は、第1ダイオードが逆並列接続された第1スイッチング素子を備え、
前記第2スイッチ回路は、第2ダイオードが逆並列接続された第2スイッチング素子を備え、
前記電力伝送には、前記1次側回路から前記2次側回路への順方向電力伝送と、前記2次側回路から前記1次側回路への逆方向電力伝送とが含まれ、
前記制御部は、
前記順方向電力伝送時に、前記第1スイッチング素子のオンオフ制御を行い、かつ前記第2ダイオードによる整流動作が行われるように前記第2スイッチング素子をオフ状態にして、前記2次側回路から出力される第1出力電力の電力値が第1目標電力値となるように、前記1次側回路に入力される第1入力電圧と前記2次側回路から出力される第1出力電圧との電圧差を制御する第1電圧差制御を行う一方、
前記逆方向電力伝送時に、前記第2スイッチング素子のオンオフ制御を行い、かつ前記第1ダイオードによる整流動作が行われるように前記第1スイッチング素子をオフ状態にして、前記1次側回路から出力される第2出力電力の電力値が第2目標電力値となるように、前記2次側回路に入力される第2入力電圧と前記1次側回路から出力される第2出力電圧との電圧差を制御する第2電圧差制御を行う
ことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記第1共振回路および前記第2共振回路は、いずれも並列共振回路であることを特徴とする請求項
1に記載の電源装置。
【請求項3】
放熱材および金属外装をさらに備え、
前記コイルユニット、前記1次側回路および前記2次側回路は、前記放熱材上に配置された状態で前記金属外装に収容されることを特徴とする請求項1
または2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記第1コイルおよび前記第2コイルは、いずれもコイル線材を二段巻きし内周部に巻線を形成しない平面コイルあるいはソレノイドコイルであることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記
第1コイルおよび前記第2コイルが平面コイルである請求項
4に記載の電源装置であって、
前記平面コイルは、コイル外径に対し60%以上の内径を有することを特徴とする電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、DC/DC(直流/直流)電圧変換を行う数キロワット出力の絶縁型電源装置として、位相シフト・フルブリッジ方式のDC/DCコンバータ、LLC方式のDC/DCコンバータ、DAB(デュアルアクティブ・ブリッジ)方式の双方向DC/DCコンバータ等が知られている。これらの電源装置では、スイッチング素子および高周波絶縁トランスが使用される。
【0003】
スイッチング素子として、近年、SiC(シリコン・カーバイド)やGaN(窒化ガリウム)等を用いた高周波対応のパワースイッチング素子が実用化されている。従来のシリコンを用いたIGBT(絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)では駆動周波数が数10キロヘルツ程度の動作が限界であったが、高周波対応のパワースイッチング素子では、スイッチング損失の低減を図ることができるため、100キロヘルツを超えた動作も可能となる。
【0004】
一方、高周波絶縁トランスは、電磁誘導により電力伝送を行う変圧器であり、コア材にはマンガン・亜鉛系フェライトやマンガン・ニッケル系フェライト、アモルファス材、ナノ結晶材等の高周波対応のコア材が使用されているが、一般的には100キロヘルツ程度の動作が材料特性および冷却も含めた実用上の限界である。
【0005】
すなわち、従来の電源装置では、高周波絶縁トランスがスイッチング素子の高速化(高周波化)に追いつけていないこと、言い換えれば、SiCやGaN等の高周波対応のパワースイッチング素子による高周波・低損失といった特性を活かせていないことが問題となる。
【0006】
また従来の電源装置では、高周波絶縁トランスは数キロワット用となるとサイズ・コスト・重量が増大すること、高周波絶縁トランスを高周波動作させると鉄損により効率が低下すること、および放熱のためのヒートシンク等の放熱材が大型化することも問題となる。
【0007】
特許文献1には、コア材のない空芯のトランス(空芯変圧器)を備えた電源装置が記載されている。この電源装置は、1次側が直列共振回路であり、2次側は全波整流回路(非共振回路)であるから、共振のQ値が小さい。さらに、空芯変圧器は結合係数も小さいため、特許文献1に記載の電源装置は伝送効率が低くなる。その結果、特許文献1に記載の電源装置は、数ワット程度の出力が限界となり、数キロワットの大電力を出力することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、小型で大電力を出力可能な電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る電源装置は、
第1コイルおよび第2コイルを含むコイルユニットと、
第1コンデンサおよび第1スイッチ回路を含み、前記第1コンデンサが前記第1コイルとともに第1共振回路を構成する1次側回路と、
第2コンデンサおよび第2スイッチ回路を含み、前記第2コンデンサが前記第2コイルとともに第2共振回路を構成する2次側回路と、
制御部と、を備え、
前記第1コイルおよび前記第2コイルは、一定距離で対面するように固定されており、
前記制御部は、前記コイルユニットが磁界共振により電力伝送を行うように、前記第1スイッチ回路および前記第2スイッチ回路を制御する
ことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、高周波絶縁トランスの代わりに、一定距離で対面するように固定された第1コイルおよび第2コイルを含むコイルユニットを備えるため、小型化が可能となる。さらに、この構成によれば、コイルユニットが磁界共振により電力伝送を行うため、例えば数キロワットの大電力を出力することが可能となる。
【0012】
上記電源装置において、
前記第1スイッチ回路は、第1ダイオードが逆並列接続された単一の第1スイッチング素子で構成され、
前記第2スイッチ回路は、第2ダイオードが逆並列接続された単一の第2スイッチング素子で構成されることが好ましい。
【0013】
上記電源装置において、
前記第1共振回路および前記第2共振回路は、いずれも並列共振回路であってもよい。
【0014】
上記電源装置は、
放熱材および金属外装をさらに備え、
前記コイルユニット、前記1次側回路および前記2次側回路は、前記放熱材上に配置された状態で前記金属外装に収容されるよう構成できる。
【0015】
上記電源装置において、
前記第1コイルおよび前記第2コイルは、いずれもコイル線材を二段巻きし内周部に巻線を形成しない平面コイルあるいはソレノイドコイルであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、小型で大電力を出力可能な電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明に係るコイルユニットの斜視図である。
【
図3】本発明に係るコイルユニットのボビンおよびコイルガイドを示す図である。
【
図4】本発明に係る第1コイルおよび第2コイルの断面図である。
【
図6】変形例に係るコイルユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電源装置の実施形態について説明する。
【0019】
[電源装置の構成]
図1に、本発明の一実施形態に係る電源装置1を示す。電源装置1は、絶縁型DC/DC電源装置であって、コイルユニット10と、1次側回路20と、2次側回路30と、制御部40と、金属外装50とを備える。電源装置1は、1次側回路20から2次側回路30への電力伝送(順方向電力伝送)と、2次側回路30から1次側回路20への電力伝送(逆方向電力伝送)とを行う。
【0020】
電源装置1は、第1入出力端T11、T12および第2入出力端T21、T22を備える。第1入出力端T11、T12は、例えば、AC/DC変換回路またはPFC(力率改善)回路に接続される。第2入出力端T21、T22は、例えば、直流負荷またはバッテリーに接続される。第1入出力端T11、T12と1次側回路20との間に、第1フィルタ回路(例えば、LCフィルタ回路)を設け、第2入出力端T21、T22と2次側回路30との間に、第2フィルタ回路(例えば、LCフィルタ回路)を設けてもよい。また、第2入出力端T21、T22の外側に昇降圧コンバータを設けて所望の電圧に調整してもよい。
【0021】
コイルユニット10は、一定距離Dで対面するように固定された第1コイルL1および第2コイルL2を含む。第1コイルL1および第2コイルL2は、いずれもコイル線材を二段巻きした平面コイルである。第1コイルL1および第2コイルL2の詳細な構成については、後述する。
【0022】
1次側回路20は、第1コンデンサC1と、本発明の「第1スイッチ回路」に相当する第1スイッチ手段SW1とを備える。第1コンデンサC1は、第1コイルL1に並列接続され、第1コイルL1とともに並列共振回路(本発明の「第1共振回路」に相当)を構成する。第1スイッチ手段SW1は、第1共振回路を共振動作させるための駆動素子となる。
【0023】
2次側回路30は、第2コンデンサC2と、本発明の「第2スイッチ回路」に相当する第2スイッチ手段SW2とを備える。第2コンデンサC2は、第2コイルL2に並列接続され、第2コイルL2とともに並列共振回路(本発明の「第2共振回路」に相当)を構成する。第2スイッチ手段SW2は、第2共振回路を共振動作させるための駆動素子となる。
【0024】
第1スイッチ手段SW1は、第1コンデンサC1および第1コイルL1に直列接続された第1スイッチング素子Q1と、第1スイッチング素子Q1に逆並列接続された第1ダイオードD1とを含む。第1ダイオードD1は、第1スイッチング素子Q1の内蔵(寄生)ダイオード、または第1スイッチング素子Q1とは独立したダイオードである。
【0025】
第2スイッチ手段SW2は、第2コンデンサC2および第2コイルL2に直列接続された第2スイッチング素子Q2と、第2スイッチング素子Q2に逆並列接続された第2ダイオードD2とを含む。第2ダイオードD2は、第2スイッチング素子Q2の内蔵(寄生)ダイオード、または第2スイッチング素子Q2とは独立したダイオードである。
【0026】
第1スイッチング素子Q1および第2スイッチング素子Q2は、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)等を用いた高周波対応のパワースイッチング素子であることが好ましいが、シリコンを用いたパワースイッチング素子でもよい。パワースイッチング素子としては、IGBT(絶縁ゲートトランジスタ)、MOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ)、またはバイポーラトランジスタが用いられる。
【0027】
第1コイルL1および1次側回路20は、単一の駆動素子(第1スイッチ手段SW1)で動作するシングルエンデッドコンバータである。同様に、第2コイルL2および2次側回路30は、単一の駆動素子(第2スイッチ手段SW2)で動作するシングルエンデッドコンバータである。このような構成によれば、コスト低減、実装スペースの小型化、制御の簡素化が可能となる。なお、第1スイッチ手段SW1および第2スイッチ手段SW2の許容電流容量が必要とする電流に満たない場合は、第1スイッチ手段SW1および第2スイッチ手段SW2をそれぞれ複数並列接続する場合も含むものとする。
【0028】
制御部40は、第1共振電圧検知回路41と、第2共振電圧検知回路42と、第1同期回路43と、第2同期回路44と、制御回路45とを備える。第1同期回路43は、第1スイッチ手段SW1の駆動回路(ゲートドライブ回路)を含み、第2同期回路44は、第2スイッチ手段SW2の駆動回路(ゲートドライブ回路)を含むものとする。
【0029】
第1共振電圧検知回路41は、第1コンデンサC1の両端電圧VR1を測定し、第1共振回路の共振電圧のゼロクロス点を検知する。ゼロクロス点を検知した第1共振電圧検知回路41は、第1同期回路43にゼロクロス信号を出力する。
【0030】
第2共振電圧検知回路42は、第2コンデンサC2の両端電圧VR2を測定し、第2共振回路の共振電圧のゼロクロス点を検知する。ゼロクロス点を検知した第2共振電圧検知回路42は、第2同期回路44にゼロクロス信号を出力する。
【0031】
第1同期回路43は、順方向電力伝送時において、第1共振回路の共振電圧に同期して(本実施形態では、ゼロクロス信号に同期して)第1スイッチング素子Q1を零電圧スイッチング動作でターンオンさせ、予め設定されたオン時間の経過後に第1スイッチング素子Q1をターンオフさせる。また第1同期回路43は、逆方向電力伝送時において、制御回路45の制御下で、第1ダイオードD1による整流動作が行われるように第1スイッチング素子Q1をオフ状態にする。
【0032】
第2同期回路44は、順方向電力伝送時において、制御回路45の制御下で、第2ダイオードD2による整流動作が行われるように第2スイッチング素子Q2をオフ状態にする。また第2同期回路44は、逆方向電力伝送時において、第2共振回路の共振電圧に同期して(本実施形態では、ゼロクロス信号に同期して)第2スイッチング素子Q2を零電圧スイッチング動作でターンオンさせ、予め設定されたオン時間の経過後に第2スイッチング素子Q2をターンオフさせる。
【0033】
制御回路45は、順方向電力伝送時に、1次側回路20に入力される第1入力電圧E1と2次側回路30から出力される第1出力電圧E2との電圧差(第1電圧差)を制御する第1電圧差制御を行う。
【0034】
制御回路45は、外部からの制御指令信号S1に応じて第1電圧差制御を開始する。第1電圧差制御を開始した制御回路45は、所定の周期で、第1検出手段X1(例えば、カレントトランス)の第1検出信号S2に基づいて、第1入力電圧E1の電圧値および/または第1入出力端T11、T12と1次側回路20との間を流れる第1入力電流の電流値を取得する。また制御回路45は、所定の周期で、2次側回路30から出力される出力電力に関する情報を取得する。出力電力に関する情報は、出力電力の電力値、第1出力電圧E2の電圧値および出力電力の電力値、または第1出力電圧E2の電圧値および第2入出力端T21、T22と2次側回路30との間を流れる第1出力電流の電流値である。
【0035】
制御回路45は、上記のように必要な情報を取得しつつ、出力電力の電力値が所定の目標電力値となるように、第1入出力端T11、T12に接続されたAC/DC変換回路またはPFC回路に電圧指令信号S3を出力して第1入力電圧E1を制御する。すなわち、制御回路45は、第1入力電圧E1を制御することによって第1電圧差を制御する。
【0036】
順方向電力伝送時において、制御回路45が第1電圧差制御を行い、第1同期回路43が第1スイッチング素子Q1のオンオフ制御を行うと、第1コイルL1および第1コンデンサC1に電流が流れる。それにより、一定距離離れた第2コイルL2および第2コンデンサC2に磁界共振(磁界共鳴、磁気共振、磁気共鳴と同義)による電流が流れる。その結果、1次側回路20から2次側回路30へ非接触(トランスレス)の電力伝送が行われる。
【0037】
また制御回路45は、逆方向電力伝送時に、2次側回路30に入力される第2入力電圧E2と1次側回路20から出力される第2出力電圧E1との電圧差(第2電圧差)を制御する第2電圧差制御を行う。
【0038】
制御回路45は、外部からの制御指令信号S1に応じて第2電圧差制御を開始する。第2電圧差制御を開始した制御回路45は、所定の周期で、第2検出手段X2(例えば、カレントトランス)の第2検出信号S4に基づいて、第2入力電圧E2の電圧値および/または第2入出力端T21、T22と2次側回路30との間を流れる第2入力電流の電流値を取得する。また制御回路45は、所定の周期で、1次側回路20から出力される出力電力に関する情報を取得する。出力電力に関する情報は、出力電力の電力値、第2出力電圧E1の電圧値および出力電力の電力値、または第2出力電圧E1の電圧値および第1入出力端T11、T12と1次側回路20との間を流れる第2出力電流の電流値である。
【0039】
制御回路45は、上記のように必要な情報を取得しつつ、出力電力の電力値が所定の目標電力値となるように、直流負荷またはバッテリーの制御装置に電圧指令信号S3を出力して第2入力電圧E2を制御する。すなわち、制御回路45は、第2入力電圧E2を制御することによって第2電圧差を制御する。制御回路45は、第1入出力端T11、T12に接続されたAC/DC変換回路またはPFC回路に電圧指令信号S3を出力して第2出力電圧E1を制御する(例えば、第2出力電圧E1を第2入力電圧E2よりも低下または上昇させる)ことにより、第2電圧差を制御してもよい。
【0040】
逆方向電力伝送時において、制御回路45が第2電圧差制御を行い、第2同期回路44が第2スイッチング素子Q2のオンオフ制御を行うと、第2コイルL2および第2コンデンサC2に電流が流れる。それにより、一定距離離れた第1コイルL1および第1コンデンサC1に磁界共振による電流が流れる。その結果、2次側回路30から1次側回路20へ非接触の電力伝送が行われる
【0041】
金属外装50は、その内部または外部に放熱材(例えば、ヒートシンク)を備える。コイルユニット10、1次側回路20、2次側回路30および制御部40は、適宜、必要に応じて放熱材(例えば、ヒートシンク)上に配置された状態で金属外装50内に収容される。特に、コイルユニット10を金属外装50内に収容することで、外部空間を電力伝送の伝送路に使用しないため、電波法の規制に該当せず、漏洩磁界および放射ノイズについても通常の電源装置と同様に制限することが可能となる。
【0042】
本実施形態に係る電源装置1は、高周波絶縁トランスの代わりに、一定距離Dで対面するように固定された第1コイルL1および第2コイルL2を含むコイルユニット10を備える。すなわち、電源装置1は、容積および重量が大きい高周波絶縁トランスを使用しないため、小型化が可能となる。さらに、本実施形態に係る電源装置1は、1次側回路20および2次側回路30が、単一の駆動素子で動作するシングルエンデッドコンバータであるため、ブリッジ型のコンバータに比べ小型、低コスト化が可能となる。
【0043】
本実施形態に係る電源装置1は、コイルユニット10が磁界共振により電力伝送を行うため、例えば数キロワットの大電力を出力することが可能となる。さらに、電源装置1では、コイルユニット10がコアを有しないことによる結合係数の低下を、コイルユニット10が磁界共振を行うことにより大きくなる共振のQ値で補うことができる。その結果、電源装置1は、高周波絶縁トランスを備える電源装置と同等もしくはそれ以上の高い伝送効率を得ることができる。
【0044】
[コイルユニットの構成]
コイルユニット10は、一定距離Dでコイル面同士が平行で、コイルの面に垂直な中心軸同士が同一線上で対面するように固定された第1コイルL1および第2コイルL2を含む。一定距離Dは、一般的な非接触電力伝送に比較し近距離で、第1コイルL1および第2コイルL2の結合係数が0.3~0.7程度の範囲内の値となるように設定される。例えば、第1コイルL1および第2コイルL2のコイル外径が120[mm]でアルファ巻き8ターン(8回巻き)の場合、一定距離Dは8~30[mm]程度の範囲内の値に設定される。この場合、コイルユニット10は、従来の数キロワット用の高周波絶縁トランスに比べると、容積は1/2程度、重量は1/2以下となる。
【0045】
なお、一方のコイルが電気自動車(受電装置)に設けられ、他方のコイルが給電装置に設けられるワイヤレス充電システムの場合、一方および他方のコイル間の距離は30[mm]以上(例えば、45[mm])離れ、コイル間の結合係数は0.1~0.3程度の範囲内の値となり、コイル外径は数100[mm]程度と大型となる。しかも、ワイヤレス充電システムでは、電気自動車の車高が変わるとコイル間の距離が変わり、給電のたびにコイルの中心位置同士の関係も変わるという問題がある。すなわち、コイル間距離が離れたり、中心位置からずれると、コイル間の結合係数が低下し、伝送効率が低下する。
【0046】
一方、コイルユニット10は、上述したように、一定距離Dでコイルの中心位置が一致した状態で固定して使用するために、コイル外径が120[mm]程度で数分の1と小型になり、結合係数も0.3~0.7程度と2~3倍高くなり、そのため効率も良くなり、かつ位置が固定であるため、最良の効率で使用することが可能で、結合係数の変化に伴う複雑な制御が不要となるという利点がある。
【0047】
図2に、コイルユニット10の斜視図を示す。コイルユニット10は、第1コイルL
1および第2コイルL
2と、これらを一定距離Dに固定する固定部材(図示略)とを備える。
【0048】
第1コイルL1は、シールド板11と、フェライト板12と、コイルシート13と、伝送コイル14と、ボビン15とを備える。第2コイルL2は、第1コイルL1と同一の構成である。第1コイルL1および第2コイルL2は、伝送コイル14同士が向き合うように一定距離Dに固定されている。なお、シールド板11、コイルシート13、ボビン15は省略することができる。
【0049】
シールド板11は、例えば、アルミ板で構成される。シールド板11は、外部に漏洩する磁界を低減するために設けられる。シールド板11に、放熱部材(例えば、ヒートシンク)を接続してもよい。放熱部材を接続することで、熱伝導による伝送コイル14からの銅損発熱を、放熱部材を介して外部に効率よく拡散することができる。
【0050】
フェライト板12は、伝送コイル14より大きくし、磁束が外部に出ないように磁路を形成し、結合係数を向上させるために設けられ、シールド板11の内側に配置される。フェライト板12に放熱シートを貼り付けて、フェライト板12からの熱伝導率を高めてもよい。フェライト板12は、一枚板のものでも、中空のものでも、部分的に棒状のものを放射状に配置したものでも、フェライト板ブロックを敷き詰めたものでもよい。フェライト板12に代えて、アモルファス材、ナノ結晶材等の他の磁性体材料からなる部材を用いてもよい。フェライト板12を、伝送コイル14より大きくすることにより(例えば、フェライト板12の対角線の長さを伝送コイル14のコイル外径より大きくすることにより)、シールド板11を設けたことによる伝送コイル14のインダクタンスおよび結合係数の低下の影響を低減している。
【0051】
コイルシート13は、フェライト板12の内側に配置される。コイルシート13には、非磁性で絶縁性の部材が用いられる。コイルシート13に放熱性の高い材料(例えば、放熱シート)を設け、またはコイルシート13を放熱性の高い材料で構成することで、伝送コイル14からの発熱を外部に効率よく拡散してもよい。
【0052】
伝送コイル14は、渦巻状に巻回されたコイル線材で構成され、コイルシート13の内側に配置される。伝送コイル14のコイル線材は、高周波での表皮効果を低減するために、リッツ線または平角線を用いてもよい。なお、伝送コイル14の形状を円形としているが、必要とされるインダクタンスと0.3~0.7程度の範囲内の値になる結合係数とが得られるのであれば、任意の形状にすることができる。例えば、矩形状でコーナーが円弧状のものでもよいし、楕円形状または直線部分をその長軸方向に有するトラック形状のものでもよい。
【0053】
ただし、平面状のバルク(シート)コイルにおいては、コイル外周部に流れる誘導電流によって生じる磁界の影響(近接効果)で、コイル内周部のジュール損失による発熱が顕著になることが知られている。このような現象はリッツ線では通常問題にならないが、高周波で大きな共振電流がコイルに流れる磁界共振回路でかつ、小型の平面コイルの場合は特に問題になる。すなわち、リッツ線で構成された電気自動車用の大きなコイルの場合は問題にならないが、小型平面コイルである本実施形態のコイルユニット10の場合は、コイル外周部に流れる誘導電流によって生じる磁界の影響(近接効果)で、コイル内周部のジュール損失による発熱が顕著になる。このため、コイルユニット10では、ボビン15を用いて伝送コイル14にコイルの内周部(内径)を設け、コイル内周部にはコイル(巻線)を形成しないようにしている。この場合、伝送コイル14にコイル外径の60%以上の内径、例えばコイル外径の2/3程度の内径を設けることが好ましい。
【0054】
なお、電気自動車用のコイルの場合は、地上側が大きく車載側が小さく、その特性(線材、インダクタンス、抵抗値等)が異なるが、本実施形態の第1コイルL1および第2コイルL2の伝送コイル14は、一定距離Dでコイルの中心位置が一致した状態で、対面で固定して使用するため、同一サイズ、同一特性のものでよく、生産性に優れる。
【0055】
ボビン15は、伝送コイル14を巻きやすくするために設けられ、伝送コイル14の中心部に配置される。ボビン15には、
図3に示すような非磁性で絶縁性のコイルガイド16が設けられている。コイルガイド16は、伝送コイル14のコイル線材の巻き付けを容易にする上下面の溝、およびコイル線材が上下面間を通る切り欠き部16aを有する。
【0056】
図4に、第1コイルL
1および第2コイルL
2の中心線を通る面での断面図を示す。
図4に示すように、伝送コイル14の巻き方は、ボビン15に沿ってコイルガイド16の下側(コイルシート13に近い側)の1番から巻き始めて、コイルガイド16の上側(コイルシート13から遠い側)の2番、3番を巻いた後、コイルガイド16の下側の4番、5番の順で巻いていく巻き方である。伝送コイル14は、切り欠き部16aを経由して上側と下側とを移動する。
【0057】
この巻き方は、巻き順が連続する伝送コイル14を隣接して配置し、巻き順の離れた伝送コイル14を隣接させないように配置することで、巻き順の離れた伝送コイル14のコイル線材間の電圧差による絶縁破壊を生じにくくするものである。この巻き方により、伝送コイル14のコイル線材を絶縁被覆の薄いもので構成することができるので、伝送コイル14の小型化、軽量化、低コスト化を実現することができる。
【0058】
伝送コイル14は、コイルガイド16を挟んで二層(二段組み)構造になっている平面コイルであるため、一層構造の平面コイルと比べて小型になる。それにもかかわらず、伝送コイル14は、必要とされるインダクタンスを得ることができ、結合係数が高く、伝送効率の良い小型コイルとなる。また、伝送コイル14は、高周波で大きな共振電流が流れる磁界共振回路にあっても外径が小型でありながら、コイル内周部の顕著な発熱が発生しないようにすることができる小型のコイルとなる。
【0059】
従来の数キロワット用の高周波絶縁トランスは、鉄損およびコイルの銅損による発熱が外部に伝達しにくい密閉立体構造であるため、放熱性が良くない。これに対して、コイルユニット10は、コアを有しないコアレス構造であるため、鉄損による発熱がない。さらに、コイルユニット10は、伝送コイル14が平面コイルであるため、コイルの銅損による発熱を外部に伝達しやすい。また、第1コイルL1と第2コイルL2とが一定距離D離れていることから、自然対流あるいは強制空冷によって、伝送コイル14からの発熱を外部に拡散することができる。
【0060】
コイルユニット10は、上記のとおりコアレス構造であるため、高周波絶縁トランスで課題であったコア材の高周波化による損失が生じない。このため、コイルユニット10を備える電源装置1は、第1スイッチング素子Q1および第2スイッチング素子Q2としてSiCやGaN等の高周波対応のパワースイッチング素子を用いた場合に、当該パワースイッチング素子による高周波・低損失といった特性を活かすことができる。その結果、本実施形態に係る電源装置1は、100[kHz]を超える駆動周波数での動作が可能となる。
【0061】
コイルユニット10は、数キロワット用の高周波絶縁トランスに比べて、容積が1/2程度、重量が1/2以下となる。このため、本実施形態に係る電源装置1は、小型化、軽量化、低コスト化を実現できる。
【0062】
コイルユニット10を小型化することで、伝送コイル14の抵抗値低下による損失低下(効率向上)と、伝送コイル14に用いられるリッツ線等高価なコイル線材料の低減による低コスト化を実現できる。
【0063】
コイルユニット10では、第1コイルL1および第2コイルL2間が一定距離Dで固定されていることから、結合係数の変化に伴う効率の低下がないため、制御回路45での特別な効率低下対策が不要となる。このため、制御回路45の制御時(例えば、第1電圧差制御時および第2電圧差制御時)における制御パラメータの調整が簡単になり、最も伝送効率の良い制御条件での動作が可能となる。
【0064】
本実施形態では、一定距離Dだけ離れた第1コイルL1および第2コイルL2を垂直に立てた状態で固定しているが、一定距離Dだけ離れた第1コイルL1および第2コイルL2を水平に寝かせた状態で固定してもよい。
【0065】
以上、本発明に係る電源装置の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0066】
[変形例]
本発明に係る電源装置は、第1コイルおよび第2コイルを含むコイルユニットと、第1コンデンサおよび第1スイッチ回路を含み、第1コンデンサが第1コイルとともに第1共振回路を構成する1次側回路と、第2コンデンサおよび第2スイッチ回路を含み、第2コンデンサが第2コイルとともに第2共振回路を構成する2次側回路と、制御部とを備え、第1コイルおよび第2コイルは、一定距離で対面するように固定されており、制御部は、コイルユニットが磁界共振により電力伝送を行うように、第1スイッチ回路および第2スイッチ回路を制御するのであれば適宜構成を変更できる。
【0067】
例えば、上記実施形態の制御部40は、第1電圧差制御および第2電圧差制御を含む入出力電圧の電圧差による制御を行ってもよいし、第1スイッチ手段SW1(または第1スイッチング素子Q1)のスイッチングと第2スイッチ手段SW2(または第2スイッチング素子Q2)のスイッチングとが所定の位相差を持つように制御する位相シフト制御を行ってもよい。
【0068】
上記実施形態の電源装置1は、双方向の電力伝送を行う電源装置であるが、本発明に係る電源装置は、片方向のみの電力伝送を行う電源装置であってもよい。また、電源装置1は1次側/2次側が並列共振/並列共振の回路構成であるが、本発明に係る電源装置は1次側/2次側が直列共振/直列共振の回路構成であってもよいし、1次側/2次側の少なくとも一方が直列共振と並列共振とを組み合わせた回路構成であってもよい。
【0069】
本発明の第1スイッチ回路は、複数のスイッチ手段を含むブリッジ型またはフルブリッジ型の回路構成であってもよい。同様に、本発明の第2スイッチ回路は、複数のスイッチ手段を含むブリッジ型またはフルブリッジ型の回路構成であってもよい。ただし、コスト低減、実装スペースの小型化、制御の簡素化の観点からは、上記実施形態のようなシングルエンデッドコンバータの構成が好ましい。
【0070】
図5(A)~(E)に、変形例に係るコイルユニット10の断面図を示す。第2コイルL
2は、第1コイルL
1と同一の構成であるため省略する。
【0071】
図5(A)の巻き方は、ボビン15に沿ってコイルガイド16の下側の1番から巻き始めて、コイルガイド16の上側の2番を巻いた後、下側の3番、上側の4番の順で交互に巻いていく巻き方である。この巻き方は、上記実施形態の巻き方と同様に、巻き順が連続する伝送コイル14を隣接して配置し、巻き順の離れた伝送コイル14を隣接させないように配置することで、巻き順の離れた伝送コイル14のコイル線材間の電圧差による絶縁破壊を生じにくくするものである。
【0072】
図5(B)の巻き方は、コイルガイド16のないボビン15に沿って、下側の1番、2番を巻き、上側の3番、4番を巻いた後、下側の5番、6番の順で巻いていく巻き方である。この巻き方は、上記実施形態の巻き方と比べると、巻き順が連続する伝送コイル14間がやや離れるが、下側を巻いた後に上側を巻くので巻きやすくなる。
【0073】
図5(C)の巻き方は、コイルガイド16のないボビン15に沿って、下側の1番を巻き、その上に2番を巻き、下側の3番、その上の4番と交互に巻いていく巻き方である。この巻き方は、単純である上、下側の伝送コイル14の上に上側の伝送コイル14を巻くので巻きやすくなる。
【0074】
図5(D)の巻き方は、二層のアルファ巻きであって、下側の一層目を外周から中心(ボビン15)に向かって巻き、上側の二層目を中心(ボビン15)から外周に向かって巻いていく巻き方である。この巻き方の場合、アルファ巻機を利用して効率的に伝送コイル14を作製することができる。アルファ巻きの自動機を用いて巻く場合は、断面が角形成型リッツ線を使用し、ボビン15なしで下側の一層目および上側の二層目を内側から外側に向かって巻いたものでもよい。
【0075】
図5(E)の巻き方は、二層のアルファ巻きであって、さらに一層目と二層目の間に非磁性の絶縁シート17を挟んだ巻き方である。
図5(D)の構成(アルファ巻き二層コイルのみの構成)は、同一層内のコイル線材間は巻き数が連続しているので耐圧的には問題ないが、別層間(一層-二層間)では巻き数が離れるので、絶縁破壊等の耐圧の問題が生じるおそれがある。これに対して、
図5(E)の構成は、絶縁シート17を挟んで絶縁耐圧の強化を図っているため、アルファ巻機を利用して効率的に伝送コイル14を作製することができ、かつ絶縁破壊を生じにくくすることができる。
【0076】
本発明の伝送コイルは、二層構造(二段構造)に限定されるものではなく、一層または三層以上の構造の平面コイルでもよい。コイルユニット10において要求されるコイルインダクタンスが所望のコイルサイズに収まる場合は一層構造でもよいが、収まらない場合は二層以上の構造とし、所望のサイズに収めることが望ましい。コイルユニット10をこのような小型コイルとすることにより、本発明に係る電源装置は、小型で高効率な電源となる。
【0077】
また、本発明の伝送コイルは、平面コイルに限定するものではなく、所望のインダクタンスと小型のコイルサイズであればよく、ソレノイドコイルでもよい。ソレノイドコイルの場合は、単巻きおよび多層巻きの場合でも、自動機の対応が容易であり量産性に優れ、高周波で大電流に対しても平面コイルであったような近接効果による内周部の発熱の問題もないという利点がある。
図6(A)および(B)に、伝送コイル14をソレノイドコイルで構成したコイルユニット(第1コイルL
1および第2コイルL
2)を示す。
【0078】
例えば
図6(A)に示すような、断面がトラック状の空芯単巻きコイルの場合は、コイル線材を巻くのが単純で簡単であり、形成されるコイルユニットも小型に構成することが可能で、ヒートシンクに接続しやすいという利点がある。
【0079】
また
図6(B)の空芯単巻きコイルのようにコイル断面が円形でコイル径に対し、コイル長さが短い場合も同様に、コイル成形が容易であり、体積も小型でインダクタンス値を大きく取れる利点がある。
【0080】
なお、周波数特性が空芯単巻きコイルに比べて劣化するが、使用上問題なければ、空芯2層巻きコイルを含む空芯多層巻きコイルでもよい。その場合は、コイル長を短くできる利点がある。
【符号の説明】
【0081】
1 電源装置
10 コイルユニット
11 シールド板
12 フェライト板
13 コイルシート
14 伝送コイル
15 ボビン
16 コイルガイド
16a 切り欠き部
17 絶縁シート
20 1次側回路
30 2次側回路
40 制御部
41 第1共振電圧検知回路
42 第2共振電圧検知回路
43 第1同期回路
44 第2同期回路
45 制御回路
50 金属外装